愛バたちのガチレズ疑惑も払拭され、マサキは平和な日常を謳歌していた。
トレセン学園職員室、
昼、午前の業務を片付け一息ついた職員たちはつかの間の休憩中、
愛バたちとの昼食を済ませた俺も、午後の予定を確認しつつ同僚たちと駄弁っている。
先日起こった"たづなさんご乱心事件"については学園中が知る所となった。
親しい人たちには事の経緯を説明して、同情と呆れの反応を頂戴している。
愛バが全裸になったり、姉が般若と化したり、空から変態が振ったりとかの、ややこしい部分はやんわり誤魔化しておいた。
「それで、温泉旅館はどうなったの?」
ミオがお気に入りの菓子をつまみながら尋ねてきた。
食べカスをボロボロこぼすのやめてよね。みっともない。
「次の連休に全員で行くことにした」
「結局、ハーレムルートに落ち着いたか。揉めたりしなかった?」
当然の如く揉めた。
事件のあった当日、帰宅してからも水面下で行われる愛バ間の熾烈な争いで胃がキリキリしたよ。
終いにはクロが『
紙屑と化したチケットを前に泣き崩れる四人が不憫だった。
俺と温泉に行きたいが為に一喜一憂する。
そんな可愛い愛バのために一芝居打つことにした。
『突然だがめっちゃ温泉行きたくなった。一緒に行ってくれるウマ娘、誰かいないかな~』チラッ
『『『『ここにいるッッ!!』』』』
そんなやり取りの末、みんな仲良く温泉旅館に泊まることが決定した。
いろいろ相談して、チケットの宿泊先よりグレードの高い宿を予約しちゃったぜ。
当然自腹になるが、こういう日のために貯蓄はしてある。
異世界から持ち帰った超技術(EOT)をシラカワ重工に売却したら、ちょっとした小金持ちになったのだ。
だからといって無計画な散財はしない。身の丈にあった生活で十分だ。
大切な愛バ四人との思い出づくり、ここは迷わず資金を投入するところでしょう!
「よかったじゃん。お土産よろしくね~」
「硫黄でいい?」
「せめて湯の花にしてよ」
「マサキなら採掘した物を直に持って来そうで、怖いな」
「ダメなん?」
「駄目だろ」
「硫黄は風呂釜を傷める。温泉気分に浸りたいなら素直に市販の入浴剤を使え」
「温泉かぁ。私もルナたちを誘ってみようかしら」
俺の話をきっかけにして旅行談義に花が咲く。
テュッティ先輩はガッちゃんと修行中にヨーロッパを旅した思い出、ヤンロンは父方の実家である中国に滞在していた頃の話、ゲンさんはベーリング海でカニ漁に参加した事があるらしい、ミオの大マゼラン星雲がどうたらの話はスケールがでかすぎて意味不明だった。
ゲンさんのは旅行ではなく過酷な労働だ。ミオの元アインスト経験談は人類には早すぎると思うの。
ともかく、俺も愛バも温泉旅館が今から楽しみでしょーがないのである。
かけがえのない彼女たちと、幸せな時を共有するのも操者の醍醐味だ。
「マサキ、余計なお世話かもしれないが、ひとつ忠告しておこう」
「改まって何?」
「愛バたちそれぞれに、二人だけの時間をちゃんと作ってやれ」
「お、おう」
真面目な顔のヤンロンに少しだけ気圧される。
「節操のないお前が何人女を囲もうとも、彼女たちにとって操者はお前ひとりだけだ。それを肝に銘じておくんだな」
ヤンロン、人聞きの悪い事を言う男!
この男が恋愛事情の話をするとは珍しい。何かあったの?
「ヤンロンったら、モテモテで苦労してるのよ」
「からかうな、テュッティ」
「ここ最近、グラスちゃんとエルちゃんが積極的になってね。この前リギルのみんなでお出かけしたときも、ずっとグロッキーだったわwww」
「我ながら不甲斐ない。母上で十分に理解していたつもりがこの様だ。女性というのは存外に力強く恐ろしい…」
「だよね。めっちゃわかる」
愛バたちのパワフルさに圧倒され困り果てるヤンロンが容易に想像できてしまった。
かまってオーラ全開で迫って来る二人に対処するのは大変だったろう。
お疲れ様でしたな!
「僕なりに努力したつもりだが、グラスとエルには悪い事をした」
「心配いらないわよ。二人とも楽しんでいたし、ヤンロンに甘えられて嬉しそうだったわ」
「そうだと、良いのだが」
複数の愛バを持つ身としては、決して他人事ではない。
彼方立てれば此方が立たぬ。日常でも愛バたちには寂しさや不満が募っている。
二人っきりを確保するための争いは、俺が思っている以上に真剣なんだろう。
どんなに忙しくても大変でも、一人づつ正面から向かい合う時間を作ってあげよう。
愛想つかされて泣きを見るのは絶対に御免被る。
NTR展開やガチレズルートに突入して、デジタルを喜ばせたくない。
『彼女たちにとって操者はお前ひとりだけだ』
一人の操者として、この言葉を深く心に刻み込んでおこう。
「わかった。二人っきりの時間もちゃんと確保できるよう努力する」
「そうしてやってくれ、僕の二の舞を踏むな」
この様子だと、グラスとエルの間でも操者を巡る争いが勃発している予感。
ヤンロンを労いつつ、時間があればグラスたちの愚痴も聞いてあげようかなと思った。
「僕は愛バ二人でこの様だ。マサキは、大変だと思うことはないか?」
「ま、退屈はしないよ。大変というならミオやテュッティ先輩の方が人数的にヤバいだろ?」
「私は一応同性だからさ、恋愛感情絡んでない分気楽だよ」
「ルナたちに愛情はそうね……姉妹や娘みたいな感じかしら」
「なるほど。愛は愛でも、家族愛というやつですか」
愛の形は人それぞれだね。
話題は移り、うちの愛バ自慢大会をしていると名前を呼ばれた。
職員室の入口からひょっこり顔を出して、手招きをしている生徒がいる。
「マサキ教官、ちょっといい?」
「お、ミークじゃないか」
白い毛並みのウマ娘、ハッピーミーク。
彼女はキリュウイン教官の愛バだ。
わざわざ職員室まで訪ねて来るなんて、急ぎの用かな?
ミオたちに『ちょっくら行って来る』と告げてミークの待つ廊下へ出た。
「先に謝っておくね。ごめんなさい」
「急にどうした?」
「マジで……ごめん…ごめん…」
「すごく深刻そう!?何があった?」
暗い表情で謝り続けるミーク。
重課金の末に爆死した人みたいだぞ。
「アオイが良くない事を企んでる」
「あ、やっぱキリュウイン教官か」
悲しいことに、俺はキリュウイン教官に嫌われている。
彼女は何かと理由を付けて叱責してくるのだ。
最近では言い掛かりとしか思えないような怒られ方をされている。
初対面で道を尋ねたときの、あの優しかった彼女は何処へ行ってしまったのか?
騒ぎが起こる度に原因が全部俺だと決めつけている節があるんだよな。
実際、学園で起こる事件の半数以上に俺もしくは愛バが関わっている点は本当に申し訳ないと思っているけど。
だからといって、この世全ての悪みたいな扱いをされるのは、正直いい気分ではない。
「普段は割とまともなんだけど、マサキ教官が絡むと
「確かに、その傾向はあるな」
キリュウインさん、真面目で仕事はできるし生徒たちからの評判も上々だ。
可愛らしい感じの美人さんで男ウケも良く、合コンやナンパは何度断っても頻繁に誘われるのだとか。
そんな彼女に毛嫌いされたアホな男が俺だよ!
気付かない内に何か怒らせるような事やったかな?
無意識に愛バと間違えておぱーい揉んだとか、してないよな?
「一方的な逆恨みだと思う。寝ぼけてパイ揉みはしてないから安心して」
「そっかぁ」
「逆にパイ揉みしないから怒っていたりして?」
「マジかぁ……欲求不満かぁ」
そういうのは彼氏さんとかにお願いして発散するといいよ。
それか、自分で揉んだらいいと思う。
「なんにせよ、お互い腹を割って話す必要があるな。今ならちょうど時間あるし」
「ホント迷惑かけてごめん」
「全然いいさ。ミークが悪いわけじゃないし、これ以上謝る必要ないからな」
「マサキ教官の優しさが沁みる。アオイにも見習ってほしい」
「大袈裟な。んで、キリュウイン教官は今どこに?」
「ん-と、多分こっち、フォローミー」
キリュウイン教官を探すため、ミークの後をついていく俺であった。
〇
私、キリュウインアオイは憤慨していた。
怒りの対象は手は言わずもがな、アンドウマサキという同僚の養護教官だ。
「今度という今度は我慢できません!」
私は理事長室の長机を平手で叩きながら訴えかける。
対する相手、理事長の反応は芳しくない。
腕組みをして目を閉じたままの理事長は『ぬ~ん』と唸ったままだ。
『ぬ~ん』て、なんだよ。
「聞いているのですか、理事長!」
「あ、すまない。ヘルシェイク矢野のことを考えていた」
「それ誰ですか!?」
「え、知らないの?地獄を揺さぶる…ヘルをシェイクする男、ヘルシェイク矢野を知らないの!?」
「知らないです。今は矢野よりアンドウ教官の件です」
「またか、キミもしつこいな」
学園の代表兼マスコットと呼ばれる理事長は『うんざり』という様子を隠しもせず、長いため息を零した。
その態度に若干イラッとしたが、我慢する。
せっかく、たづな(人斬り秘書)が不在の時間を選んで押しかけたのだ。
彼女が戻って来る前に理事長を説き伏せなければならない。
たづなは露骨なアンドウ教官贔屓なので、私の話を真面目に聞いてくれないからだ。
最近では会う度に愛刀に手をかけるようになった・・・ただの癖だと思いたい。
私を斬りたくてうずうずしているとは思いたくない。
「私は、アンドウマサキ教官の辞任を要求します!」
「無理ッ!話は終わりだ。解散ッ!」
「早い!早いですってば」
「止めるなキリュウイン君、私は理事長としての責務を、我が校のニンジン畑を荒らすモグラを退治しなくてはならんのだ」
「その責務今考えましたよね?面倒だから逃げるって、顔に書いてありますよ!」
「なあ、モグラって漢字で書くと『土竜』だぞ。なんか強そうだと思わないか?」
「モグラから離れてください。いいから席に戻って」
「ちっ」
「舌打ち!?」
「はぁ、致し方あるまい。すごく気が進まないけど一応聞いてやる、早くして」
「あ、ありがとうございます」イラッ
このチビッ子理事長、態度悪すぎない。
逃げようとした理事長をなんとか引き留めて話を続ける。
「以前から申し上げているように、彼はこの学園の教官に相応しくありません」
「ふーむ、その心は?」
「アンドウ教官は学園の風紀を著しく乱している。これはもう誰の目から見ても明らかな事実です」
さあ、ここからが勝負だ。
アンドウマサキが如何に悪辣非道な男であるか、理事長に全部暴露してやるんだから。
「卑猥な言動の数々、日常的に行われるセクハラ、人目も憚らずの淫行、それから━━」
アンドウマサキが関係したと思われる騒動は多い。
事件の中心人物として名が上がらない事の方が少ないくらいだ。
軽く調査しただけで、彼とその愛バたちの非常識かつ怪しい行動は盛沢山であった。
私は理事長にアンドウ教官の危険性を突き付ける。
「医務室に様々な生徒を連れ込みいかがわしい行為に及んでいる、はず!」
「はずって…ただの治療か、仲良く雑談しているだけじゃ」
「放課後になると愛バたちと旧校舎へしけこむんですよ。数時間後、衣服と呼吸が乱れた状態で出て来たのも確認しました。ああ!汚らわしい」
「張り込みまでしたのか、キミもつくづく暇だな」
「あの男の影響で頭が悪くなる生徒が続出しているんですよ。そんな人が授業までしているなんて信じられません。『賢さG』の騎神を量産してどうするんですか!」
「マサキ空間に飲まれた者のさだめだな」
「一週間も仕事をサボった上に、代理として謎の美女や幼女を出勤させるとか、本気でどうかしてます!」
「どっちも本人なんだよなあ」
理事長が遠い目をしている。
さすがにアンドウ教官のヤバさに気付いてくれたのだろう。
よーし、一気に畳み掛ける。
「これはつい最近の事ですが、なんと彼の愛バが野外露出している現場に遭遇した事もあるんですから!」
「ブッ!あいつら何をやっているんだ!!」
「露出プレイを強要された彼女が不憫で仕方なく、ショックのあまり私はその場で気絶したぐらいです」
「それ、露出魔に気絶させられただけでは?」
「理事長までミークと似たような事を仰らないで!『全裸で徘徊した挙句に教官を踏んずける』凶行に及ぶなんてこと、彼女の様な優等生がするわけがない」
「誰だ?確率四分の一だとして……全員やりかねんな!」
「彼女の名誉のため名を伏せますが"宝石の名を冠する子"とだけお伝えしましょう」
「あ…(察し)」
理事長は『D…なんて奴だ』と謎の呪文を呟いて天を仰いだ。
露出を強要された被害者の心中を察し、自分の無力感に苛まれる姿だ。
きっと、アンドウ教官を野放しにしていた事を悔いているのだろう。
彼女をあんな目にあわせた鬼畜操者には天罰が下るべきですよね。
まだまだ言いたい事はあるが、とりあえずこの辺で締めくくろう。
「どんな汚い手を使ったのか知りませんが、御三家の権威を笠に着てやりたい放題。こんな暴挙が許されていいんですか?」
ずる賢い手段で愛バたちを支配下におき、身内を人質にされた御三家に無理難題を吹っ掛けるとは、まったく度し難い。
そんな男、このキリュウインアオイが修正してやる!
「話はわかった。で、マサキ君を即刻クビにしろと言うんだな?」
「それだけではありませんよ。彼の不法行為を立証して操者の権限も剥奪します!捕らわれの身である御三家令嬢たちを救い出し、学園も元の正しい姿を取り戻すのです」
正義を執行し秩序を取り戻す。
これが操者であり教官でもある私の使命だ。
覚悟しなさいアンドウマサキ。あなたを蛮行もここまでです。
しかし、私の思惑とは裏腹に理事長は前もって決めていた答えを返した。
「却下だな」
「そうそう却下で……えぇ!?な、なんでですかぁ!」
短くも断固とした返答に私は情けない悲鳴を上げた。
〇
「私の話、聞いていました?アンドウマサキを放置することは学園の不利益にしかならないのですよ!」
「うむ。しっかりと聞いた上での判断だ」
「でしたら!」
「キミはマサキ君のことを大きく誤解しているな。私怨も多分に入っているようだし」
「な、何を?」
不敵な笑みを浮かべる理事長は子供を諭すような口調だ。
体格的には完全に立場が逆であるが、妙な迫力があって気圧されてしまう。
「マサキ君をクビにはしない。これは個人的感情ではなく、学園の利益を加味した上での決定だ」
「そんな!」
「いちいち興奮しなくていい。一旦落ち着いて座ってくれ」
「いや、私は」
「着席ッ!」
「は、はい!」
理事長の一喝に逆らえず着席してしまう。
これが、学園最強の騎神を愛バにした者のプレッシャーなのか。
キリュウイン家と並ぶ名門、秋川の名は伊達じゃない。
「再三にわたるキミの訴えを受けて、こちらも独自にマサキ君を調べていた」
なんだそれは、調べておきながら彼の蛮行を見逃しているって事?
「生徒たちへのアンケート実施、ご近所の評判や各方面の聞き取り、学園裏サイトや掲示板も隅々までチェックさせてもらった」
理事長は引き出しから厚みのある紙束を取り出し机の上にドンッと置いた。
1ページ目には『アンドウマサキ調査報告書』と書かれている。
「マサキ君をクビにしない理由の諸々がここに記されている」
「そんなにいっぱい」
「ここからは私のターンだ。キリュウイン教官、覚悟はいいか?」
「っ!受けて立ちます!」
理事長はアンドウ教官をクビしない理由を、ひとつひとつ丁寧に説明していった。
彼がこの学園にどんな影響を与え貢献していたのかが語られる。
それは、私が思い描いていた彼とは似て非なる人物像を表していた。
長いので要約するとこんな感じ。
・操者との契約件数が増加
前年比の3倍超の契約成立数は学園始まって以来の快挙である。
デバイスの登場以来、危ぶまれていた人とウマ娘の絆に光明が差したとも言える。
操者育成校との交流、ギルドからの斡旋、合コンや各種イベントも積極的に開催予定。
この結果は、マサキと愛バたちの仲睦まじい姿を見た生徒たちが、自らもパートナーを欲したのだと推測される。
マサキの人柄に触れて人間への偏見や男性恐怖症を克服した生徒たちもいるとか。
・授業が大変興味深い
何をやるか事前に決めていない適当っぷりだが、受講希望者は回を重ねるごとに増加傾向にある。
医療専門校の特別教育ですら困難なヒーリングを習得した生徒が多数いるとの報告。
他にも、集団戦術リンクやエクストリーム尻尾鬼等、他では味わえない授業体験ができると絶賛されている。
評判を聞きつけた他校からの出張授業依頼が殺到中。
・医務室が気軽に利用できるようになった
ちょっとした相談からお喋りやサボりもOK?
ネームドをはじめ入り浸る生徒も増えた。
マサキが不在でも大体誰かいる。
タキオンとかゴルシとか、高頻度でヤベェのがいる。
・養護教官として非常に優秀
高度なヒーリングによる回復力が異常。
骨折を5分以内に完治させた噂がある。目撃者多数。
カウンセリングは専門外だが、話をするだけで気分が軽くなると評判。聞き上手?
突発的な事故があっても、マサキがいれば何とかなるという安心感が凄い。
・御三家との強固な繋がり
いろいろ言われているが、マサキに強大なコネクションが存在するのは確か。
彼を間に挟めば御三家間のやり取りがスムーズに?
御三家うんぬんより、親類縁者が《この項目は削除されました》
・単純に強い
愛バたちの戦闘能力もさることながら、マサキ個人も相当な実力者。
戦闘系クエストではチーム"ああああ"は大変重宝されている。
ギルド側から名指しで依頼が来るほど。
・以下マサキに対するコメント
『ケガを秒で治してくれた。マジ感謝します』
『下手な病院よりマサキ教官、これ常識な』
『キタちゃんたちが素直に羨ましい』
『私も頑張って合コンに励みます』
『うへへ、彼氏ができました』
『授業すごく面白かったし為になった』
『偶にでいいんで、また遊んでください』
『御三家の人たちって近寄りがたいと思ってたけど、違うんだな』
『あの4人を手名付けている時点でヤバい』
『めっちゃいい匂い。吸わせてくれないかなあ』
『どうすればネームドになれるん?』
『正直セクハラされたい』
『男の人って苦手だけど、マサキ教官は別かな』
『マサキが関わるとみんな頭おか……面白くなる』
『学園に行くのが楽しみになった』
マサキを褒めちぎるような内容を理事長は読み上げていく。
にわかには信じがたい、本当にアンドウ教官の話なのか?
「そ、それは偏った意見を抜粋しただけで…」
「もちろん、キミのように彼をよく思わない者もいるだろう。しかぁし!マサキ君を支持する声が圧倒的多数だと理解してもらいたい」
「ぐぬぬぬ」
「近隣住民との関係も良好なようで主婦層を中心に人気者らしい。ほう『子供の安全パトロール』と称して幼稚園や公園などの見回りもしているらしいぞ、感心だな」
「それはただの趣味でしょ!ロリコンでしょ!」
「はっはっはっ、我が校の教官が犯罪者予備軍なわけないだろう……ない、ないはず、マジで勘弁してくれ」
「理事長も自信ないじゃないですか、やだー」
この流れはマズい。
焦った私はロリコン野郎の正当性を否定しにかかるが、理事長にその悉く反論されてしまう。
「今やマサキ君は学園の名物教官だ」
彼の評判で学園の名声もじわじわ上がっているのだと言う。
「彼は不利益どころか学園に大きな利益をもたらす存在」
来年度の入学希望者は更に増える見込みらしい。
アンドウ教官と懇意になりたい生徒や有力者の子供が殺到すると予想されるからだ。
何なのだ、あの男は一体なんだ!?
これでは私が思っているのとは真逆の『皆から愛されるいい奴』みたいじゃないか。
「以上だ。マサキ君をクビにしない理由、わかってくれたな」
立ち上がった理事長が厳かに告げる。
これは確認ではない『いい加減わかってくれ』と念を押されたのだ。
だけど、私は、私は・・・
「違う、おかしい、間違ってる。こんなの絶対に間違っている!」
「この女まだ折れないだと!?ホントめんどくせぇ」
ああそうか、そういうことか。
アンドウマサキの毒牙は既に理事長にも及んでいたのだ。
あの、人斬り秘書ですら手懐けているのだから当然というべきか。
そこに思い至らなかった自分が阿呆だ。
理事長は既に懐柔済み、ここで私が何を言っても無駄だった訳だ。
本当にやってくれる。
甘かった、説得などという生易しい手段を選択したのは間違いだ。
武門の生まれとして、初めから力を振るうべきだとようやく気付いた。
「学園を皆を救うには、あの男を直接を倒すしかない!いいでしょう、私も覚悟を決めます」
「うわ、何かまた雲行きが怪しく…たづな、早く帰って来てー!」
「待っていなさい。あなたは私がこの手で、必ず…」
私が拳を握りしめたとき、理事長室のドアがノックされた。
「理事長いますか?こちらにキリュウイン教官が来てな━━」
これ以上ないというタイミングで憎っくき男の声が聞こえた。
理事長の返事を待たず私はドアを開け放ち、敵の姿を捉える。
「うぉわっ!ビックリしたぁ。あ、キリュウイン教官?」
「……アンドウマサキ」
ドアが内側から開いたことに驚きの声を上げる男。
学園を生徒たちを狂わした諸悪の根源。
いつもヘラヘラして、チヤホヤされて、それが当然だって顔して・・・
ムカつくムカつくムカつく、本当にムカつく男だ。
あなたさえいなければ、彼女たちの操者は私だったのに!むきぃぃ―――!
ええい、お前なんてマサキと呼び捨てにしてやる。心の中でね!
私はマサキに指を突き付け宣言した。
「アンドウマサキ、あなたに決闘を申し込む!」
「………ほぇ?」
意味がわからないと言う顔で首を傾げるマサキ。
その間の抜けた顔もムカつく!
〇
意味がわからない。
キリュウイン教官が不穏な動きをしていると知らせを受け、ミークと共に彼女を探していたのだけど。
いきなり決闘を申し込まれた?なんでや?
因みに、ミークとは途中から別行動だ。彼女は今は『ああああ』基地に向かっているはず。
キリュウイン教官は理事長に話をつけるとか、俺の愛バを説得するとか呟いていたらしいので、どちらか二択だと踏んだのだが。
俺の方『理事長室に乗り込んで直談判』が正解だったようだ。
「決闘?誰が誰と?」
「私とあなたに決まっている」
「理事長、これはどういうことですか?」
「不明ッ!私にも何が何だか」
「私とあなたの深き因縁に決着を付けるため、勝負ですアンドウマサキ!」
「あの、医者を呼ぶべきでしょうか?」
「呼ぶとしたら精神科か脳外科だな」
俺と理事長は困惑する。
キリュウイン教官の脳内では一体何が起きているのか、全くの謎である。
「さあ、覚悟しなさい。私が勝ったらあなたの愛バをもらい受けます!」
「どうしてそうなる!?」
「マサキ君が勝った場合は?」
「心底嫌ですが、ミークの尻尾を触らせてあげてもいいですよ」
「……」(。´・ω・)?
「『何言ってんだこいつ』みたいな顔、やめてくれます?」
いや、本当に何を言っているんだ。
キリュウイン教官に勝たなくてもミークの尻尾には何度も触っている。
俺にブラッシングを頼んだこと、ミークは秘密にしていたらしいな。
「マサキ君、実はかくかくしかじか」
「な、なんだってぇぇーー!俺をクビにしろって本気で言ったんですか!どうして、そんな酷いです!」
「白々しい、あなたには懲戒になるだけの理由があるでしょう」
「誤解があります!話しましょう、ちゃんと話をすればわかって━━」
「その時期はもう過ぎたのです。あとは武をもって相対するのみ」
「そんな、理事長~」
「ううむ、参ったな。ここまでこじれては、もう殴り合い宇宙で解決した方が」
およそ教育機関のボスとは思えない発言をする理事長であった。
おちゃめな理事長も好きだけど、どうすんのよこれ?
キリュウイン教官をワンパンするのは容易いが、それで事態が解決するのだろうか?
『暴力振るわれたー』とか泣かれて余計にややこしくなる未来しか想像できない。
それに、武力ありの勝負となればうちの子たち(愛バ4人)が嬉々として参戦する。
最悪、キリュウインさんとミークは肉体的にも精神的にも破壊しつくされてしまう!
やばいよやばいよ。
「話は聞かせてもらったわ!」
「うわっ、ね…たづなさん!?」
「たづな、窓から入るなと何度言えば」
「くっ、このタイミングで来るなんて」
姉さんが颯爽と登場した。
慣れ親しんだ感じで、外から窓を開けて理事長室に入って来た。
しかも、青い顔をしたミークを小脇に抱えている。
途中で捕獲され、状況を洗いざらい喋ってしまったのだろう。
南無~。
「今戻りました。大体の状況はこの白い奴から聞いています」
「タス……ケ…テ」
「み、ミーク!無事?無事なの?返事をして、ミーク!」
「懲りずにまたマサキにちょっかい出したのね……えーと…
「キリュウインです!」
「そうだったわね。キリュウインウザイさん」
「アオイです。ア・オ・イ」
「あっそ。どうでもいいから覚えないわ」
姉さんはキリュウイン教官の名前を覚える気がないらしい。
傲岸不遜な姉様も素敵////
「『決闘』と抜かしたわね、その意味わかってる?」
「もちろんです」
「学園最高権力者の前で『決闘』すると言ったのよ?冗談では済まされないわ」
「覚悟の上です」
姉さんの圧にもキリュウインさんは怯まない。
それだけ本気という事か。
トレセン学園では話し合いで折り合いが付かなかった場合『決闘』というシステムを採用、そして推奨しているのだ。
『遺恨を残すぐらいなら戦って白黒つけましょう』と、何代か前の生徒会が制定していまったのだとか。
その伝統は今日まで受け継がれ、生徒間のみならず教職員の間でも有効に作用する。
前回の大きな決闘は、チームスピカが他チームと修練場の使用日時で揉めたヤツだ。
相手チームが無謀にも大食い対決を選んでしまい、スぺひとりで圧勝(蹂躙)していた。
「勝負は見世物にされ、勝敗の結果は学園中に広く流布されると聞きましたが?」
「その通りだ。卒業までずっと敗者の烙印は押され続けるのは、想像以上に過酷だぞ」
「誰だよ?こんな恐ろしくもふざけたシステムやろうとか言い出したのは」
「なんと!知らないのか?『決闘』システムの言い出しっぺはキミの━━」
「俺の何です?」
「い、いや、知らないならいい」
「えー気になる」
「因みに私じゃないわよ。そもそも学園のOGじゃないし」
姉さんではないとすると・・・まさかな。
いい笑顔で親指を立てる母さんと、その仲間たちが脳裏に浮かんだ。
もう!いろんなところに爪痕残し過ぎー!
「私は既に覚悟完了しています。全校生徒の前で勝負しても一向に構いません」
「俺は構うんですけど」
「逃げるんですか?不戦勝でもいいですけど、その場合は操者をやめてもらいます」
「だから、どうしてそうなるんですか」
「間違ってあなたの愛バになってしまった、不幸な子たちを解放するためです」
間違ってもないし、全力で幸せにするつもりだし。
「俺のことを『ぶち好きじゃけぇ』と言ってくれる、あいつらの気持ちはどうなるんですか?」
「なんで広島弁?」
「何となくでしょ」
「無理やり言わせたり、洗脳状態での告白を真に受けるなんて、虚しくないんですか?寂しい男ww」
む、無理やりなんかじゃないやい。ちゃんと本心から言ってくれてるもん。
はぁ~キリュウイン教官と話すの正直しんどい。
「いや、もうなんか、すごく疲れる」
「だろう!キリュウイン君の相手をするといつもそうだ」
「迷惑な女。マンチニールの実を食べたらいいのに」
俺と理事長はもうお手上げっス。
姉さんの冷たい視線を受けても平然としている、キリュウイン教官はある意味すごい。
マンチニールは本気でヤバい。
「あなたも教官の端くれなら、正々堂々と勝負を受けなさい。そして無様に負けなさい!」
「こいつ、決闘じゃなくてマサキを公開処刑したいのね」
「薄々そんな気はしてた」
「私の正義は揺らぎません。必ずや勝利を収め未来を掴み取る。青き清浄なる世界のために!」
「自分に酔ってるな」
「危険思想も混じってるから質が悪い」
ダメだこりゃ。
キリュウインさんは自分の絶対正義を信じて突き進んでいる。
もう、ブレーキ壊れちゃってるね。
絶対悪と認定した俺を倒すまで止まらないよね。
「諦めなさい、マサキ。こうなったらやるしかないの」
「たづなさん…」
「こういう奴はね、公衆の面前で痛い目見ないとわからないのよ」
「そうですね。アンドウ教官にはキツ目のお灸をすえてあげましょう」
「あ゛ぁ?」
「な、なんでたづなさんがキレるんですか?」
「やめてアオイ、たづなさん怒らせないで……私死んじゃう……吐きそう」
「ミーク君がヤバい!」
「たづなさん、ミークを渡してください。じゃないとゲロしちゃいますよ」
「あ、忘れてた。ほい」
「どうも、おーいしっかりしろ」
「うぅ……」
全然ハッピーじゃないミークを手渡された。
姉さんの強力無比な覇気に当てられてしまい、青い顔でぐったりしている。
口からゲロだけでなく魂まで出そうになっているのが哀れだ。
とりあえず、ヒーリング~。
「不埒な!そうやって私のミークまで毒牙に…最低です!」
「あ、じゃあここからはキリュウイン教官にバトンタッチで、ヒーリングは操者がしてあげるのが一番ですから」
「ミークの治療を途中放棄するなんて!本当に最低です!」
「「「めんどくさっ!」」」
俺が何をやってもやらなくても、全て悪いように捉えられてしまう。
姉さんが言うように、こうなったら『決闘』という荒療治で解決する他ないのか?
キリュウイン教官はやる気満々、姉さんと理事長も『もうやっちまいな!』と目で訴えてくる。
あとは俺次第だ。愛バたちには事後報告になってしまうが仕方ない。
俺は覚悟を決めた。
ミークの治療を終え、キリュウイン教官を真っ直ぐ見つめる。
「わかりました。『決闘』お受けいたします」
「うむ!よく言ったぞ、マサキ君」
「それでこそ、ね」
「フンッ、逃げなかったことだけは褒めてあげます」
俺とキリュウイン教官の間でバチバチと見えない火花が散った。
逃げも隠れもしない。やると決めたら勝つことだけを考えよう。
「理事長」
「あい分かった。トレセン学園理事長、秋川やよいの名において二人の決闘を承認する!!」
承認されてしまった。
ちょっとドキドキしてきたけど、もう後戻りできないぞ。
「日時や勝負方法について話し合わないとな」
「それなら、今月末に行われる『聖蹄祭』で大々的にやってしまうのはどう?」
「妙案ッ!教官同士のエキシビジョンマッチとしてイベントに組み込んでしまおう」
「いぃぃぇ!?何か話が大きくなってる。や、やめましょう。決闘は人目につかない場所でひっそりとやるべきだと、俺は思うな」
「私は望むところです。どちらが正しいか、より多くの人に判断してもらうべきです」
「えぇぇ…」(´Д`)
勝手に盛り上がる理事長と姉、闘志を燃やすキリュウイン教官、未だに意識不明のミーク。
あははは、もうどうにでもなーれ!
俺は混迷極まる理事長室からそっと退出するのであった。
決闘予定日はまだ先、今はそれよりもなすべき大事がある。
愛バと温泉旅館に泊まるのだよ。
非日常のゆったり空間で思う存分羽を伸ばそうじゃないか。
「美味いメシ!絶景!浴衣!混浴!露天風呂!きゃっほぉーー!」(≧▽≦)
チェックアウト時には『ゆうべはお楽しみでしたね』と言われたい!
決闘?ま、何とかなるっしょ。