決闘?
そんなことより温泉だ!!
だから行ってきた・・・・・・そして帰って来た。
「予定外の事態が相次いだけど、中々に有意義な時間だったな」
「そうですね。でも、まさか源泉が枯れていて、自分たちで温泉を掘ることになるとは思いませんでしたが」
「おまけに旅館が謎の武装勢力に占拠されているとかw笑うしかなかったよww」
「ぶっつけ温泉採掘にテロリストとの熱い銃撃戦。個人的には大満足でした♪」
「みんなで協力して新しい温泉を掘り当てた!すっごく面白かった」
突如として枯れてしまった源泉、はた迷惑なテロ集団『混浴解放戦線』の決起。
二つの大事件が重なり窮地に立たされた温泉街は
そんな事とはつゆ知らず、ワクワクしながら旅館を訪れた俺と愛バたち。
『なんじゃぁこりゃぁーー!?』と、叫んでしまったのも無理もない。
せっかくの休日を台無しにされた俺たちは手始めに、その怒りをテロリストにぶつけてやった。
戦いを目撃した地元住民に実力を買われ、温泉掘りとテロリストの掃除を同時進行で片付けたのだ。
そして見事、温泉は復活!テロに加担したアホどもは、サトノ家が手配した黒服に連行されて行った。
俺たちの奮戦で温泉街は元の活気を取り戻したのである。
めでたしめでたし。
と、いう事があったのだ。
「"ゆけむり温泉編"全部カット!」
「次のイベントが控えてます。致し方ありません」
「ココが重機を巧みに操縦する横で、シロがドリル尻尾で単身地中潜行するシュールな光景があったりしたのに、勿体ない」
「数時間地中で迷子になった私の苦労が語られないとは、残念無念」
「調子に乗って深く掘り過ぎた、シロちゃんが悪い」
「まあまあ、そのお陰で温泉を掘り当てられたことだし。結果オーライだ」
功労者である俺たちは街をあげて歓待されたのだ。
豪勢な食事はどれも美味しく、掘りたてのホヤホヤ温泉は中々に趣があって楽しめた。
最初こそドタバタしていたけど、全員しっかり身も心もリラックスできましたとさ。
〇
トレセン学園旧校舎ダンジョン
今日も俺たちは修練に明け暮れていた。
俺たちだけ入れる隠しダンジョンで、こっそり鍛えて世界最強てなわけだ。
愛バはバファリンではないので、無意味にチューはしません。
「もう終わり?ザコノダイヤモンドに改名したらw」
「私はスロースターターなんですよ!ここからの逆転劇に乞うご期待」
「マサキさんが見ておられます。負けられません」
「無用な心配じゃない?マサキが見てるのは
「「「なんだとぉ!」」」
「ちょ、三対一はやめてよ~」
広いボス部屋のエネミーを早々に片付けた愛バたちは、二組に分かれて模擬戦の真っ最中だった。
なぜか今はココ1人が集中攻撃を受けているが、急なルール変更でもしたのかな?
実戦さながらの激しい戦闘は苛烈の一言に尽きる。
もしこれを地上で行ったら、校舎は崩壊を免れず、理事長が卒倒して姉さんがブチギレる事だろう。
本当に、このダンジョンは修練に打って付けの場所だ。
人目に付かず広くて頑丈、壊れても時間経過で修復され、入る度に形を変えるダンジョン。
おまけにアインストもどきの敵性体まで出て来る(こいつらも時間経過で復活)
とにかく、鍛えるには至れり尽くせりの条件が揃っているのだ。
学生時代の母さんたちが、頻繁に利用していたというのも頷ける話だ。
何処のどなたが造ったかは知らないが、親子二代に渡り世話になってます。
模擬戦を眺めつつ、念入りなストレッチで体を解しておく。
「よし、そこまでだ。みんな集合~」
「「「「はい!」」」」
頃合いを見計らい、愛バ同士の戦いを一時中断させる。
「余力はまだ残っているか?」
「大丈夫、シロ程度には本気出さない」
「問題ありません。クロとか言うアホに無駄な体力を使いましたが、すでに回復済みです」
「まだやれます。ココさんの技巧は今日も勉強になりました」
「うん、こっちもやれるよ。アルのパワーには今日も肝が冷えた」
いけそうだな。バスカーモードを発動っと。
解放された覇気がボス部屋に満ち、部屋全体を揺るがした。
それだけで俺の意図は伝わったようだ。
愛バの目がギラギラしたものに変わっていく。
「俺とも手合わせしてくれるか?」
「やるやる!私いっちばーん!」
「タイマンでしょうか?」
「一対二で頼む。俺は一人で、お前たちは自由に二人組を作ってくれ」
「では、無難なクロシロとアルココで」
「頑張ろうね!勝ったら、そのままマサキを好き放題だ」
「「「そいつはいい!すごくいい!」」」じゅるり
ココの発言に涎を垂らすクロ、シロ、アル。
待て待て、そう簡単にやられないぞ。
時間が惜しいので早速開始。最初はクロとシロが相手だ。
二人と相対するのはこれが初めてではない。
大きくなった二人と再会してから、何度も模擬戦を重ねて来たんだ。
でも、その度に何だか懐かしい気分になる。
やっぱ、出会った頃を思い出すよな。
「あの頃とは違うよ。いっぱい強くなったからね」
「マサキさんを思う気持ちも、ずっと強くなってます」
「そいつは嬉しいね」
小さかった二人は、想像以上に強く美しく成長してくれた。
俺だって負けていられない。
「二人とも頑張ってください。さて、マサキさんの雄姿をバッチリ見届けなくては」
「マサキの体力削ってくれたら、あとは私とアルがやるから。適当なところで負けてね」
「外野め、好き勝手言いおってからに」
「年長組に出番を回してはマズいです」
持ち込んだアウトドアチェアに座ったアルとココ、二人はすっかり観戦モードだ。
二人の声援を聞きながら、俺は集中していく。
相手が愛バだからといって油断はしない。むしろ、愛バだからこそ気を引き締めるべきだ。
クロとシロの危険さは、操者の俺が一番よく理解している。
「アル、合図をくれ」
「承りました。では、両者ともいざ尋常に……始めっ!」
開始の合図と同時、俺たちは動き出す。
互いに相手を知り尽くした存在。正直かなりやりづらいが、それは向こうも同じだ。
だからこそ、工夫を凝らし趣向を凝らし、出し抜けたのなら最高に気分がいい。
圧倒してやろう、驚かせてやろう、俺は、お前たちの操者は、強いのだと、
お前たち隣に立つ権利を持つ男は、この俺なのだと証明してやるのだ。
「いくぞ、クロ!シロ!」
「うん。目一杯、楽しませてよね!」
「私の力、心行くまで堪能してください」
ぶつかる。
憎しみや怒りからではない、互いに想い合い、愛するからこその戦いだ。
激突の最中、自然と笑みが零れる。それはクロとシロも一緒だった。
本当に強くなったな。これからもっともっと強くなる、楽しみだ。
卓越した技巧を繰り出す二人の愛バに心からの賛辞を送ろう。
でも、負けない!
クロの拳を受け止め、シロの尻尾と蹴りの連打をいなして躱す。
まともに食らえばただでは済まない、必殺の威力と速度を持った攻撃が何度も俺を襲う。
ああ、最高だ。本当に俺の愛バは最高だ。
だから見せよう。
えい!えい!
「むん!」
俺もお前たちに、最高だと思ってもらいたいから。
「来るっ!?」
「お、お、おち、おち落ち着け、ビビるな私!」
バスカーモード・・・レベル2
覇気を結晶化させ、オルゴナイトの武装を出現させる。
様変わりした俺にクロとシロは少々慌てるが、すぐに冷静さを取り戻した。
さあ、ここからだ。
「こっちもいくよ!」
「自慢の尻尾を出しますよ!」
クロとシロもオルゴナイトを解禁する。
クロの両拳が、シロの尻尾が、緑の結晶に包まれた凶器へと変貌した。
戦いはオルゴナイトを使ったものへと移行、更に激しさを増していく。
「おおおっ!」
「「はあああっっ!!」」
俺は咆える、クロシロも咆える。
三人で猛り狂う。
操者と愛バの雄叫びは、ダンジョンに轟き響き渡っていく。
・・・・・・・・・・・
仲良く戦っているマサキ達を観戦中のアルとココ。
キャンプ用のテーブルと飲み物を注いだマグカップも出して優雅に
時折、こちらに飛んで来る流れ弾には、ご注意だ。
「クロちゃんの腕、シロちゃんは尻尾、アルのはどんな感じ?」
「私は脚に出ますよ。結晶は各々の適性部位に発現するみたいです。ココさんは?」
「なんかね、装備や持ち物に出るの。この間、食事中に箸がオルマテして焦ったw」
「麺じゃなくて良かったですね」
「プッ……オルゴンラーメン……これは売れない食べれないww」
「こ、ココさん。カップが!?」
「え?あ、ブフッ!!」(´゚ω゚):;.’:;ブッ
言ったそばから、自分のマグカップが結晶化して吹き出すココ。
自分に向けて放たれたコーヒー飛沫を、オルゴンクラウドで難なくガードするアル。
年長組の
・・・・・・マサキ奮戦中・・・・・・
な、何とか勝てた。
二回戦のアルとココを相手にしたところで俺の体力は尽きた。
正直かなり危なかった(゚Д゚;)
日に日に強くなっていく愛バたち、今後の成長にも期待大だ。
今日の修練はここまで。次回をお楽しみに。
ごめんだけど、帰りは誰かおんぶorだっこで運んで・・・
コラ!ケンカしないの!
〇
『
祭りの二日間、学園は外部からの客人を招く事になる。
昔は一般公開されていたらしいが、日本中から人々が殺到してトラブルが相次いだため中止。
現在は定員を設定しての抽選制になっている。
来場希望者はこの抽選に並々ならぬ熱意込めて応募、結果発表の日まで『お百度参り』する勢いで願掛けするのだとか。
例外的に、生徒と教職員は事前申し込みさえすれば、3名まで抽選なしで聖蹄祭に呼ぶことができるのだ。
遠方に住まう家族や友人を学園に招待する数少ない機会ということで、寮暮らしの生徒たちは誰を呼ぶのかウキウキしながら頭を悩ましていたりする。
俺はキリュウイン教官と決闘することになった。
そのことは瞬く間に学園中に知れ渡り、噂の的になっている。
しかも、決闘は今月末に開催される『聖蹄祭』で執り行うというのだから、盛り上がるなと言う方が無理である。
この手のイベントが好きな教職員も生徒も『祭りに楽しみが追加された』と、好意的に受け止めて、その時を心待ちにするようになった。
当事者の俺と愛バたちには毎日のように、応援やら冷やかしやらの言葉と視線が投げかけられる。
注目度は普段の5割増しだ。
周囲の期待感が否が応でも伝わって来るから、俺も何だかもソワソワしちゃう。
愛バたちは全員、決闘には非常に乗り気である。
いや、ホント心配になるぐらいノリノリだ。
ここ最近の修練にも一段と気合が入っていて、ちょっと怖いぐらい。
一例を挙げると、
チーム基地に人型サンドバックを設置して、頭部にキリュウイン教官の顔面アップ写真を貼り付ける。
それを四人が蹴る!殴る!
ちょっと横を通る度に、視界に入る度、意味もなく、とにかく蹴る!殴る!
『でぃやぁぁぁ!』
『やってやるぅ、やってやるぞぉ!』
『行くぜぇ!』
『落ぉちろってんだよ!』
久しぶりの状態異常"島田兵"に、愛バ全員が
サンドバックがボロクズになると、空かさず次の分を準備して設置する。
愛バ曰く、今、基地にあるのはキリュウイン28号らしい。
使用済みの1~27号までの骸は吊るしたり、磔にしたり、火刑に処されたりと、チーム基地周辺にて無残な姿を晒したままだ。
そのせいか、ここしばらく基地には俺たち以外誰も寄り付かない。
普通に不気味で怖いから仕方ないね。
幸いにも?ミークの写真は用意されてはいない。
最初からは標的はただ一人に絞られている。
うちの子たちは『決闘』=『キリュウイン教官をボコボコにできる絶好の機会』と考えているんだ!
このままでは決闘中に起きた不慮の事故で、キリュウイン教官が再起不能になってしまう。
よく言い聞かせ、よく見張っておかなければならない。
俺一人じゃ不安だ。姉さんやテュッティ先輩たちにも協力を要請しておくか・・・
〇
「遅刻遅刻~みんなごめん」
医務室の備品整理と、七色に発光するゲンさんの治療、逃げたタキオンの山狩りに参加したので、待ち合わせに遅れた。
おかげでランチタイムを過ぎてしまったじゃないか。
学園のカフェテリアには、愛バたちと何人かのネームドが仲良く駄弁っている最中だった。
俺に気付くと確保していた席へ案内してくれる。
「お疲れ様です。どうぞこちらへ」
「ありがと。ふぃー、アホの捕縛に手間取って疲れたぜ」
「それは大変でしたね」
「お昼まだでしょ、何か食べる?」
「うーん、と。今日のおススメは?」
「おススメは"鴨肉キーマカレーと極厚ベーコンポテサラ"です」
「お、美味そう。じゃあそれで頼む」
メニューを決めると、愛バが手早く注文してくれた。
俺が何もせずとも、お冷やおしぼりが用意されてありがたい。
甲斐甲斐しい愛バたちに感謝しつつ、運ばれてきた料理を頂く。
おぅ、期待通り美味しいじゃない。思わず顔がほころんでしまう。
そんな俺を嬉しそうに眺める愛バたち、そしてネームドたち。
「やだ、皆に見られてる。なんか恥ずかしい////」
「美味そうだな。一口くれよ」
ゴルシが不躾にそんな台詞を吐いた。
愛バにメンチを切られても、どこ吹く風なゴルシは面の皮が厚い。
「一口とか言ってがっつり食いそうだから、だーめ!」
「ケチくせぇ奴だ」
「ゴルシちゃん、邪魔しないで。ご飯を食べてご満悦のマサキを見て幸せに浸ってるんだから!」
「「「そうだそうだ」」」
「へーいへいへい。殺されないうちにやめとくぜ」
「ならば、私に一口ください」
「「「「スぺはもっとダメだろう!!」」」」
その場にいる全員がツッコんだ。
スぺの一口は一皿の間違いじゃないの?
ダメダメ、ここで甘やかしたら俺の分がなくなる。
『餌付けをするな』とミオにも言われているんだから。
「俺じゃなくてミオに食わしてもらえ、な?」
「ミオさん。最近、私には奢ってくれないんですよ。酷いです」
「スぺちゃん、忘れたの?遠征クエスト用に準備した食糧を、全部食べちゃって怒られたでしょ」
「出来心です。もう済んだ事です。許してくださいよ~」
「三日分の食糧だったんだよなあ」
「スぺ先輩の胃は化物ね」
チームスピカ、約一名の食いつくし系によりエンゲル係数激増。
これもいつものやり取りらしく、和やかな空気が流れた。
スぺの食欲に呆れつつも、俺は遅めの昼食を食べ終える。
ごちそうさまでした。
ちょうどそのとき、備え付け壁掛けテレビの映像が切り替わる。
「時間通りですわね」
「あ、会長が映った!音量上げて」
会議室のライブ映像らしく、生徒会長のシンボリルドルフと理事長の姿が映っている。
ブライアンとエアグル姐さんは、ここにいるからいいとして、
姉さんの姿は・・・見えないな?
あら、理事長とルルの顔を交互にズームしたりしなかったりと、カメラワークがめっちゃ不安定やんけ!?
恐らく不慣れな姉さんがカメラマンを買って出たのだろう。
頑張って姉さん。俺たちが画面酔いする前に手振れだけでもなんとかして!
俺の念が通じたのか、程なくしてカメラワークは安定した。
さすがお姉さまです。さすあね!
「……ん?もう映ってる。理事長、始めましょう」
「うむ。生徒並びに教職員の皆、ごきげんようだ!理事長である」
「みんな元気かな?生徒会長だよ~ん」
学園のいろんな場所で『ごきげんよー』とか『理事長きゃわわっ!』等の声が響く。
ルルの『だよーん』は見事に黙殺された。
エアグルーブのやる気が下がった。
カフェテリアに皆が集まったのは、この放送を見るためだ。
ここにいないキリュウイン教官たちも、どこかでこのライブ映像を見ている事だろう。
「来週に迫った『聖蹄祭』の準備で忙しいと思うが、少しばかり目と耳を傾けてもらいたい」
「例年とは違った催しが行われるのは皆知っての通り。そう……」
「「キリュウイン教官とマサキ教官の『決闘』だ!!」」
誰が叫んだのか『オオオオオ』と唸るような響きが聞こえる。
理事長とルルの言葉に学園が興奮と熱気で揺れているのだ。
俺は恥ずかしくて手で顔を覆う。
愛バが代わる代わる『よしよし』してくれなければ、
はぐれメタル並みのスピードで逃げ出していたところだ。
もう嫌、こんな大事になるなんて聞いてない。
「今日は二人が、何で勝負をするのかを、皆の見守る中で決めようと思う」
「私と理事長で『決闘』に相応しい競技を厳選しておいた。その一覧がこれだ」
ルルが示した先には円形のルーレットがあった。
円はカッティングされたピザのように等間隔で区切られ、更には色分けされていて、何やら文字が書かれている。
ふーん、これを回して種目を決めるのね。
どれどれ・・・
『ブリッツボール』『スーパー鉄球ファイト』『クィディッチ』その他いろいろ。
待てや。
これらのどこが決闘に相応しい競技なの?
ルールどころか実現不可能なヤツまで混ざっている。
嫌だなぁ、本当にこの中から選ぶつもりか・・・・・・え!?
俺の目は競技一覧のひとつに釘付けとなった。
何度か瞬きしても、目を擦っても、書いてある文字に変化がない。
見間違いであってほしかった。
『肝試し』・・・きも・・だめし・・・???
怖い場所へ行かせて、その人の恐怖に耐える力を試すことである。
もっぱら夏の夜に行なわれ霊的な恐怖に耐える、日本の伝統的なゲームの一種。
それが肝試し。
うん。絶対無理!!
「マジヤバイんだけどコレ、マジヤバイよ、どれくらいヤバイかっていうと、マジヤバイ」
「ショックでマサキさんの語彙力が低下した!?」
「何がヤバイのw?」
「なにがやばいかって、やばいんだよコレ、コレだよコレコレ、まじやばいからねコレ」
「あ、『激辛大食い対決』なんてのもある」
「もうヤダぁぁーー!!お化け怖い、辛いのも怖いぃぃ」(゚Д゚;)
「マサキさん、こんなに怯えてしまって…私、今すぐ理事長たちに抗議してきます!」
憤ったアルは、抗議のため会議室へ向かおうとして立ち上がる。
その横でクロたちが他の競技について話していた。
「ねえ『
「お酒の飲み比べの事ですよ」
「下戸のマサキにはこれもキツイね」
アルは何事もなかったように着席した。
愛バたちの間に白けた空気が漂う。
「アル姉さん。抗議しに行くのでは?」
「もう少し様子を見ることにします。きっと、理事長たちにも何か深いお考えがあるのでしょう」
「まあ、マサキの代わりにアルが飲み尽くせば勝てるけどさ」
「私を倒したければ酒蔵ごと持って来なさい!」キリッ
「この
飲み比べだった場合は自信たっぷりなアルに出てもらうとして、
本当にこの中から『決闘』の内容を選ぶのか?
俺に不利なヤツが当たった場合、かなり苦しい戦いを強いられる事になるぞ。
「さっそく決めていくぞ!ルーレットスタートッ!」
俺の不安をよそに状況は進行していく。
理事長の掛け声で競技の書かれた円盤が回転し始めた。
「頼んだぞ、生徒会長!」
「任されよう!」
ルルが意気揚々とダーツを構えた。
ダーツの刺さった箇所の競技で決まるという、シンプルな方法だ。
頼むぞ、ルル。『肝試し』だけはマジで当てないでくれ。
「キリュウイン教官、マサキ教官、私の一投が二人の命運を分ける事になるが、クレームは一切受け付けないからそのつもりで」
「うむ」
「愛バの皆も私を恨んだりしないでくれ。おや、今素晴らしいダジャレが浮かんでしまったぞ、どうしよう?」
「うむ。どうでもいいな」
「では、ダジャレを披露しつつダーツを投げようか。学園中に轟け!私の圧倒的ギャグセンス」
「はよなげろ」
「行くぞぉ!『サイダーを発見した人は天才だー!』」
ルルの『テン・サイダァァーー!!』という叫びと共にダーツが投擲された。
エアグルーブのやる気が下がった。そのうちエアグルーブは 考えるのをやめた。
今のダジャレ、俺は割と好きかも。腕を上げたな、ルル。
ルルの投げたダーツは小気味よい音を立て、ルーレットに突き刺さる。
貫通したり、ダーツがへしゃげてないところを見ると手加減はしていたようだ。
ルーレットの回転が段々と遅くなる・・・どれだ、どれに決まった・・・ゴクリッ。
回転が止まるとカメラがズームアップされ、ダーツの刺さった箇所の競技名が大きくテレビ画面に映された。
『
ん?聞いた事のない競技だな。かりうまって何?
「決定ッ!聖蹄祭で行われる決闘は『借りウマ狂争』に決定だぁーー!!」
「フフフッ、これ以上ない大当たりだね。決闘も私のダジャレも!」
理事長の元気な宣言に学園がまた揺れた。
驚きと興奮と歓声が学園中を満たしていく。
俺たちのいるカフェテリアも騒然となるが、当事者の俺はイマイチぴんと来ていない。
だって、競技の内容がわからないんだもん。
変だな。騒がしい周りと違い、やけに愛バたちが大人しいぞ。
『借りウマ狂争』と聞いて固まっていた彼女たちは、俯いたまま立ち上がり、
「「「「やらせはせん!やらせはせん!やらせはせんぞ!!」」」」
顔を上げたときはブチギレていた。
濃い顔やめて!いつもの可愛い顔が台無しだ。
こりゃマズい。
俺はプラズマビュートで愛バ4人を即座に拘束した。
事態を察したスピカメンバーや他のネームドにも手伝ってもらい、愛バたちを座席に無理やり押し戻す。
「そんなに興奮してどうした?」
「重課金したソシャゲがサービス終了でしたんだろ」
「それは悲しいな」
「違います!『借りウマ狂争』だなんて、あまりにもふざけてます」
「今度こそ断固抗議すべきです」
「こんな事なら決闘やらなくていいよ」
「これもキリュウインとかいう奴が悪いんだ」
めっちゃ怒ってるな。
『借りウマ狂争』とやらが余程気に入らないらしい。
愛バたちの反応から察するに、かなりの危険を伴うか、高度な技能を要求される競技なのだろう。
だが、決まってしまったものは仕方がない。
逆立ってしまった愛バたちの尻尾を手櫛で整えつつ、俺は言葉を紡ぐ。
「心配するな。どんな競技でも俺とお前たちが一緒なら負けやしない。そうだろ?」
操者と愛バの絆ってのを見せつけてやろうじゃないか。なあ?
「……一緒ならね」
「マサキさ~ん~」
抱き着いてくるクロとシロ、グリグリと額を擦り付けて来る仕草は大きくなっても変わらず可愛い。
おーよしよしヾ(・ω・`)甘えん坊さんだね~。
アルとココも何だか困った顔で俺を見ている。
「マサキさん『借りウマ狂争』が、何かご存知ですか?」
「全然知らね」
「だと思った!あのね、借りウマってのは……」
ココが何か言いかけたとき、画面の理事長たちも何事かを話し出す。
「知っての通り『借りウマ狂争』では、愛バの使用は一切禁止である!」
は?
今、何とおっしゃいました?
「つまり、愛バではない騎神を使役しての戦いとなる」
「『借りウマ』は学園の実力者を勝手にエントリーしておく、自薦他薦も大歓迎だ」
「キリュウイン君とマサキ君、どちらの操者に誰がレンタルされるかは、実際に戦う直前までわからない」
「普段あり得ない組み合わせが楽しみでもあるな」
愛バ使用不可だと……俺たちの絆、見せつけられないじゃん!?
「ハッピーミーク、キタサンブラック、サトノダイヤモンド、メジロアルダン、ファインモーション」
「この5名は『借りウマ狂争』中は隔離……ゴホンッ、応援席にて大人しくしているように」
「声援を送るぐらいなら許可しよう」
マジか。
こんなん愛バたちが怒るのも無理ないわ。
「こうなったら」
「やられる前にやりますか」
「準備はできています」
「早い方がいいね。決闘の言い出しっぺを片付ければ万事解決だ」
アカン。こやつら、実力行使する気満々である。
ネームドたちに愛バを制止する手助けを頼も・・・みんな~目を逸らしちゃダメよ。
いいの?俺と愛バが争ったらカフェテリアぶっ飛ぶよ?
みんなの憩いの場が消えるよ?
「言い忘れていたが、一応忠告しておく」
「今回の決定を不服として『決闘』を妨害、または関係者に危害を加えた者は、厳罰に処すのでそのつもりで」
理事長!ルル!さすがだ。
こっちの状況が見えているのでは?と、思うほどのナイスタイミング!
厳罰とまで言ったのだから、相当厳しいお仕置きが待っているんだろうな。
「ほら、今の聞いたでしょ。座りなさいな」
「く、くそぉ」
「先手を打たれました」
「ムカムカします。アルコールが足りません」
「イライラするなあ。麺が足りない」
ヘナヘナと力なく席に着く愛バたち。
生徒会や姉さんが動くとあっては、さすがの愛バたちも我慢するしかない。
しょげてしまった愛バたちを撫でていると、ゴルシが声をかけてきた。
「で、どうするんだ?」
「どうするも何も、やるしかないだろ」
「今の内にゴルシ様に媚のひとつでも売るべきじゃね?」
「じゃあさ、ボクは"はちみー特大サイズ"でいいよ」
「私はこの限定スイーツが……な、何でもありません///」
「お前らなぁ」
そっか、ネームドたちが『借りウマ』に選ばれる確率は非常に高い。
彼女たちのご機嫌取りをしておけってのも一理ある。
ただなあ、味方になるか敵になるか不明な奴に手あたり次第貢ぐのもなあ。
とりあえず、今まで通り仲良くやって行きたい。
「まあ、なんだ。一緒に戦う事になったらよろしく頼む。ホント頼むよ!」
紳士な俺のお願いにネームドたちは『しかたねぇな』と、苦笑いだ。
こういう地道な好感度稼ぎが後々響いて・・・てててて!
痛い痛いイタイ!
コラコラ!4人同時にお尻をつねるんじゃありません。
浮気じゃないのよ、お仕事の付き合いなのよ!
「もし敵になったら…すぐに終わらせてやるからな!さっさとやられろよ!」
とびきりの笑顔で告げると、ネームドたちが『うわぁ…』と、若干引いていた。
例え友人知人でも敵ならば、このマサキ容赦はせん!
あ、今の発言は正解みたいだ。
愛バの尻尾がファサファサして来る感触がこそばゆい。
「マサキさん」
「何だ?」
「命令して下さればキリュウインの首を━」
「ダメ!」耳ギュー
「あ、あ、こんな所で、みんな見てるのに///」
「シロばっかりズルい!私も」
物騒な事を言い出したシロ、やきもちで突っ込んで来たクロ、
二人の耳を触って精神を落ち着ける。
「私たちが参加できないとは、残念です。心配です」
「油断しないでよね、マサキ。まだ何か起こりそうな予感がする」
「十分気を付ける。お前たちも早まったりしないようにな」
「「……」」
「返事しなさい」
「「はーい…」」
その納得できてない感じ何?
本当に早まったりしないでよ!
アルとココの耳も目一杯お触りしておいた。
「なるようになる、か」
聖蹄祭まで、あと1週間だ。
〇
決闘が『借りウマ狂争』に決まったとき、
ハッピーミークは心から安堵していた。
「良かった……」
キタちゃん、ダイヤちゃん、アルダンさん、ファイン、
あの凶悪な四騎を直接相手しなくていい。
それだけでこんなにも心が休まるのか。
「殺されるのが私じゃなくて良かった・・・!!」
薄情な呟きをしてしまったが、それほどあの四騎は怖いと思ってくれていい。
で、殺されるかもしれない私の操者はと・・・
「ククク…まさか、キリュウイン家の十八番である『借りウマ狂争』で決闘とは、笑うなと言う方が難しいww」
なんか嬉しそうだな、放っておこう。
キリュウイン家では名家の頭首を招いた御前試合で『借りウマ狂争』を行う習わしがあるのだ。
当然、アオイも学生時代から経験済みであり、数度に渡る試合全てで好成績を修めている。
本人が誇るように、アオイのリンク能力は本物なのだ。
「勝利の女神は私に微笑みました。アンドウマサキ!首を洗って待っていなさい。アーッハッハッハッ」
だけどね。今回ばかりは相手が悪すぎるよ。
上には上がいると言うか、絶対に敵に回してはいけない人が、この世の中にはいるのだと、
アオイには理解してもらいたかった。もう、手遅れだけど。
高笑いをする操者を放置して、ミークはそっと部屋を抜け出す。
廊下を進み、階段の踊り場まで来たところでスマホを手にした。
目的の番号を確認してタップ。
「ん、私……頭首様に繋いでくれる?そう、大至急でお願い」
受付と軽く会話してから数コール。
スピーカーから穏やかな男の声が聞こえた。
「やあ、ミーク。私に直接なんて珍しいね、アオイがどうかしたのかい?」
「アオイはいつもどうかしてます。それより、かなりマズいご報告が」
「なんだか怖いなあ。どのくらいマズい?」
「キリュウイン家が取り潰しになるぐらいマズいです」
「聞こうか……」
ミークは説明した。
アオイが同僚教官に喧嘩を売ったことを、
それが大事になり、学園のお祭りで大々的な『決闘』にまで発展した事をだ。
「んー、あの子は思い込みの激しいところがあるからなあ」
「私の監督不行き届きです。申し訳ありません」
「いいさ。アオイが毛嫌いするからには、相手も特別なのだろう?」
「よくお分かりで」
「わかるさ。昔から、娘が執着する相手は不思議な魅力を持っているからね。キミみたいに」
「変人と言ってくれていいですよ。ですが、此度の相手は……ガチです。規格外っぷりが半端ないです」
「やれやれ、御三家絡みか」
「その通りです」
勘のいい頭首はアッサリと言い当てた。
ミークはアオイの揉めた相手が、御三家令嬢の操者なのだと伝えた。
並みの男であれば、この段階で泡を吹いて卒倒しているだろう。
しかし、キリュウイン家頭首は並みの男ではなかった。
相手が御三家でも不用意にへりくだったりしない。
それだけの力がキリュウイン家にはある。
「メジロ家かい?それともファイン?あー、サトノとだけは揉めたくないなあ」
「全部です」
「はい?」
「メジロ家の秘蔵の頭首候補、ファイン家の現頭首、サトノ家次期頭首の厄災、同じくサトノ家で北島組のお嬢」
「や、待って、待ってくれ。冗談はやめてくれないか、ミーク」
「冗談ならどれだけいいか」
「本気なのか?しかも、四騎まとめてだと!?」
「マジです。メジロ、ファイン、サトノのヤバいところ揃い踏みのフルコンプです」
「……ちょっと、コーヒー飲んでいい?」
「はい。一服して心を落ち着けて下さい」
キリュウイン家頭首、さすがに動揺する。
きっと、電話の向こうではコーヒーカップを持つ手が震えているだろう。
御三家をまとめて敵に回すという事は、日本在住の騎神その7割強を敵に回すと同義だからだ。
どう見積もっても勝ち目がない。
「もう、よろしいですか?」
「あ、ああ。しかし、参ったな…その相手、操者を懐柔できなければキリュウインは終わる……いや、まだ挽回のチャンスが…」
「頭首様は勘違いしておられます。真に警戒すべきは愛バではなく、操者の方です」
「わかっているとも。御三家フルコンプの操者など前代未聞だ、相当なやり手なのだろう。どこの家の者だ?」
「アオイが決闘する相手は"アンドウマサキ"という男です」
「アンドウ?知らない名だな……いや待て、マサキという言葉…一時期頻繁に聞いたような???」
御三家が秘匿しているのか、それとも妙な力が働いているのか、
キリュウイン家には、あの人の情報は伝わっていないようだ。
今日まで、諜報部門の育成を蔑ろにしてきた結果、キリュウイン家は割と脳筋の集団であった。
ミークは悩める頭首に更なる悪いニュースを告げなければならない。
「頭首様は天級騎神をご存知ですか?」
「急な話題転換かい?まあ、知っているよ。DC戦争で苦楽を共にした戦友だ」
「それは初耳です。仲がよろしかったのですか?」
「挨拶する程度にはね。彼女たちは全部隊の要であり、憧れであり、アイドルで、雲の上から降りて来た女神と言っても過言ではなかった。あの神々しいまでの強さと美しさは一度見たら忘れられない。一騎当千とは彼女たちのための言葉だよ。フフ、語ろうと思えば2時間はいけるな」
「サイバスター様のことは?」
「天級筆頭にして最強、誰もが知る生きる伝説、風の天級騎神。私に『のりピー』というあだ名をくださったのも━━」
「アンドウマサキは、サイバスター様の御子息です」
「……そうかそうか、御子息、息子さんがいたのかぁ……ははは……はは」
「血縁関係はないそうですが、かなり溺愛しているらしいですよ。息子のためなら、日本列島の形を変えてもいいそうです」
「…‥‥…」
しばし沈黙。
脳内の情報を整理する時間が必要だ。
「つまりだ。私の愛娘は相当な危機的状況にあるわけだ」
「アオイだけで済むなら御の字です。先程も言いましたが、冗談ではなく、キリュウイン家取り潰しは現実味のある話です」
「そうか……なるほどなるほど」
これは非常にマズい!
何がマズいって、追い込まれた頭首様がギャンブル的行動に出る気配を感じ取ったからだ。
頭首様、豪胆と言うか腹を括るのが早いんだよなあ。
「キリュウイン家始まって以来の大ピンチか。いやぁ、ゾクゾクするねw」
「どうしましょう?アオイを連れて国外逃亡した方がいいですか?」
「その必要はないよ。その彼、マサキ君が本気なら私もアオイもとっくに消されている。今も五体満足だという事は、彼とはまだ交渉の余地があるという証明だ」
「頭首様、楽しんでない?」
「これでもかなり焦ってるよ。ピンチはチャンスとか、微塵も思っていない」
「思ってますよね」
うわぁ……
この人、リスクを加味した上で、今の状況を最大限利用するつもりだよ。
『あわよくば御三家や天級との繋がりを得られる』
『ついでに一族の膿も出せたら得だよね』とか思っている気がする。
一歩間違えたら破滅だというのに、覚悟決まってんなぁ。
「ともかく、一度マサキ君と話がしたい。彼、どんなお菓子が好きかな?」
「直接お会いになるなら、愛バたちにはくれぐれも注意してください。怒らせたら、命の保証は出来かねます」
「デンジャラスなお姫様たちか。そっちも楽しみだ」
「どうなっても知りませんよ」
「あれ、もしかして『聖蹄祭』でサイ様たちに会えるんじゃね?メンズエステ予約するべきかな、どう思う?」
「報告終わり。アオイの愛バ兼お目付け役に戻ります」
通話を終えたミークはため息を零す。
この、勢い任せでヤバい方向に突き進む感じは親子だなと思う。
悪い人じゃないし尊敬もしているけど、疲れる。
部屋に戻ると、アオイは段ボール箱いっぱいのニンジンを抱えていた。
彼女の背後には積み上げられた同質の段ボール、そこにもニンジンが入っているのだろう
「どこに行っていたんですか、ミーク。さあ、あなたもこれを持って」
「ニンジン?こんなにいっぱいどうするの?」
「生徒たちに配るんですよ。誰が借りウマになるかわかりませんからね、今の内に好感度を上げておきます」
「ティッシュ配りならぬニンジン配り。姑息だけど何もしないよりマシか」
マサキさえ絡まなければ、生徒想いで、いい教官なんだよなあ。
私はアオイもマサキ教官も嫌いじゃない。
今回の決闘を機に、二人の関係が良くなってくれたらいいなと思う。
箱の中のニンジンを一口かじる。うん、これはよいニンジンだ。
「ちょ、ミークの分は別にとってありますから、それは食べないで」
「モグムグ……で、マサキ教官には勝てそう?」
「勝ちますよ。彼の愛バ四騎が封じられた今、負ける理由がありません」
そう簡単にいくかな。いかないだろうなあ。
マサキ教官はアオイが考えているような人じゃないよ。
あの人は、優しくて温かくっていい匂いがして、それで・・・
「……とっても怖い人だから」
「何か言いましたか、ミーク?」
「なんでもない……アオイ、死なないでね」
「突然なんですか!?不吉な!」
マサキの底知れなさに気付いていないとは、
アオイはある意味幸せだなと、ミークは思うのであった。