俺と愛バのマイソロジー   作:きさまち

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 いろいろあったが記念撮影したマサキとその仲間たち。

 顔合わせを済ませた後、本日のメインイベントであるマサキVSキリュウインの決闘が始まる頃にはもう一度集まる約束をしてから一時解散と相成った。

 それぞれが思い思いの場所へ向かい、賑やかな祭りの喧騒へと溶け込んでいく。

 

 〇

 

「それではサイバスター様、私共はこれにて」

「はーい、お疲れ。仕事ばっかしていないで少しは祭りを楽しむことをお勧めするわ」

「お心遣い痛み入ります」

 

 深々と礼をして退出して行くお偉方の群れを手を振って見送る。

 彼らは名立たる企業の重役やら国の重鎮とやらで、とにかく権力と金を持っている連中だ。

 そんな彼らには興味がないので詳細を覚える気は毛頭ない。

 最後の一人が退出したのを確認してから姿勢を崩し天井を見上げて長い息を吐いた。

 

「あ~だるっ……やぁっと終わったぁ…」

 

 羨望と畏怖と下心ありありの奴らから代わる代わるのご機嫌取りには何年経っても慣れはしない。

 勝手知ったるラ・ギアス民だともう少しこちらに配慮してくれるのだけど・・・

 まあ、これも大きな力を持ってしまったが故の責任だ。

 有名税ってことで我慢しましょう。

 

 苦手な環境に身を置いたせいで凝り固まってしまった首をグキグキッと鳴らす。

 トレセン学園、来客用の応接室兼会議室で『づれたぁ~』と唸っているのは、

 この世のものとは思えないほど美しい女性であった。

 彼女の動きにあわせ揺れる長い髪は艶やかな銀の輝きを放っている。

 天級騎神サイバスター。

 マサキの母親であり、生きる伝説と称えられる最強の騎神だ。

 

「マサキ~…フェイルとは何でも無いの、予想外の事態に驚いて固まっただけで深い意味はないのよぉ~」

 

 サイは伸びをしたかと思えば長机に額を打ち付け懺悔の独り言を呟いている。

 見られたくない姿を愛息子に目撃された挙句、義理娘たちから散々詰められたせいで彼女の精神はボロボロだった。

 本来ではネオに押し付けるつもりだった、お偉方への挨拶と短い懇親を理由に子供たちから逃げてしまった自分が情けない。

 お祭り中は家族仲良く過ごす予定だったのが台無しだ。

 失望したような息子の顔を思い出す度に胸が苦しくなる。

 サイバスター、体は頑丈でも心はよわよわのアラフォー女性である。

 

「泣きそう、いい歳こいて泣きそう。聞き耳立てているみんな、私が目から液体噴射しても気にしないで。天級特有の病だから(大嘘)……マサキ…母さん最近、年のせいか涙もろいの」

 

 机に伏したまま弱々しい声を上げる最強の騎神(笑)。

 サイの言葉は部屋の後片付けをしている駿川たづなの耳にもしっかり届いていたが、彼女は特に反応しなかった。

 面倒くさかったからである。邪魔なので早く何処かに行っほしいというのが正直な気持ちだ。

 未だ室内に残っている他の面々もサイのことを気にしつつも『触らぬ神に祟りなし』の精神を貫いていた。

 皆プロである。往々にして当てはまる『偉い人=変人』式をよく理解しており、この手の人物は放置こそが最善策だとよく理解していた。

 

「お疲れですね。サイバスター様」

 

 優しい男の声と共に隣席に何者かが腰を下ろした気配がする。

 声に覚えがあったサイは伏したまま返答を返す。

 

「やめてよ、のりピー。お堅いのはもう勘弁して」

「では、昔のようにサイ先輩と呼ばせていただきます」 

 

 隣りに座った男の名はキリュウインノリアキ。

 DC戦争をサイバスターと共に戦い抜き、彼女から『のりピー』というアダ名を付けられた男だ。

 キリュウイン家頭首にしてマサキの決闘相手、キリュウインアオイの実父でもある。

 

「ドウゲン君は?」

「シュガハ……奥さんを待たせているらしく、元気よく走り去って行きました」 

「いいわねぇ、幸せそうで。しかも再婚同士」

「人生何が起こるかわかりません。子供たちが決闘する事態に陥ったり」

「……そうね」

「息子の前で一回り以上年下の男に公開告白未遂されたり」

「本当にそうね!!」

 

 やっぱり知ってやがったな、ちくしょうめ!

 噴水広場には多くの人間がいたのだ。

 あのシーンの目撃者はマサキたちだけで済むはずもなく、耳聡い連中に私の醜態は知れ渡ってしまったらしい。

 やっぱアカシックぶっぱすべきだったかもと、ちょっとだけ後悔する。

 MAP兵器のサイフラッシュに記憶を消す追加効果があれば良かったなぁ。

 

「年甲斐もなくみっともない場面を目撃され、息子とその嫁たちに幻滅されたおばちゃんですが何か?」

「そんなに卑屈にならなくても、個人的には応援させていただきますよ」

「余計な真似しないでくれる?フェイルとはマジで何でもないから」

 

 もーマジでやめて。

 ばば様も『やっと身を固める決心をしましたかw』なんて言いやがって、あの妖怪ババアめ。

 ていうか、なんでばば様いるの?聞いてないわよ。メジロ家って案外暇なの?

 死神執事がいつもの代理だと思ったら、ババア本人が来ているなんてサプライズいらねぇんだよ。

 

 ちょっくら喉を潤したい。気分転換にカフェインも欲しいわ。

 

「ミノルちゃん。コーヒー二人分よろしく」

「コーヒーメーカーが見えないんですか?飲みたければ自分でお願いします」

 

 ちょうど視界に入ったミノルちゃんにコーヒーを注文したのだが、すげなく断られる。

 部屋の壁際にネスカフェゴールドブレンドバリスタが設置され『セルフサービス』と書かれているのは知っているわよ。

 ボタンがごちゃごちゃして苦手だから頼んだのに、自分でやれって冷たいわね。

 もう!傷心の私を少しは労わってくれてもいいじない?

 

「ミノルちゃんの淹れたヤツがの~み~た~い~」

「チッ、若い男からの告られ未遂で浮かれてんじゃねーぞ」

「すいませんでした!」

 

 舌打ちと共に、ザックリバッサリ傷口を広げられた。

 さすが次期天級候補と言われる女よ!愛刀のみならず言葉の切れ味抜群かい。

 お仕事の邪魔してごめんね。怖いからにらまないで、メンタル弱ってる今の私には厳しいわよ。

 コーヒーは結局のりピーに淹れてもらった。アンタ昔から紳士よね~。

 うぉ!なんか泡立ってるぞ!?カフェラテもできるの?バリスタさんすげぇな!

 新型のコーヒーメーカーに感動しながら、カフェラテをチビチビ飲んでいると、のりピーが姿勢を正して話し出した。

 彼が何を言うのかは大体予想が付く。子供たちの決闘についてしかないだろう。

 

「娘の浅慮からこのような事態になってしまい、申し訳ありません」

「謝らなくていいってば。マサキも最後には納得して受けたみたいだし」

 

 マサキたちから決闘するに至った事の経緯は聞いている。

 まあ、相手がのりピーの娘だとは思わなかったけど。

 アオイちゃんだっけ?血の気が多い子って割と好きよ。

 ミノルちゃんみたいなね!……チラッ……うん、ガン無視ミノルちゃんだ。

 

「息子自慢できる、いい機会だと思うことにするわ」

 

 マサキの母親になると決めた時、一波乱どころじゃない騒ぎがあった。

 私に伴侶をあてがって自陣に取り込もうとしていた奴らはさぞ驚いたに違いない。

 養子だと!?

 欲しいのは夫じゃなくてそっちかぁ!てな具合にね。

 当時の私たち親子を庇って矢面に立ってくれたのは、メジロ家のばば様だった。

 外部からの接触を可能な限り防いでくれた、あの妖怪には今でも頭が上がらない。

 『子供が欲しかったら言って下されば』『是非ともうちの子を教育していただきたい』

 こんな台詞は本当に飽きる程聞いた。

 後継を育てたいわけではないし、ましてや見ず知らずの子とままごとをする気も趣味もない。

 私はマサキがいい。マサキの母親になりたいのだ。

 どうしてそれがわからんのかね?

 

 何年もずーっとマサキに関して何事かを言って来る輩は大勢いた。

 御三家やファンクラブの人たちがブロックしてくれているけど、防ぎ切れなかった分は私の耳にも入って来る。

 少なくなったとはいえ今でもそれはあるのだ。

 最近流行っている陰謀論は『私がマサキを傀儡にして御三家を動かし日本を牛耳ろうとしている!』だったかな?

 何の力も持たない子を養子にしたのはこの為だったのか!なんて言い出す奴らまでいる始末……ホント、失礼しちゃうわね。

 

 『マサキに力が無いとかwちゃんちゃらおかしいww』と回答してやったら、

 『だったら力を見せてろ』と来たもんだ。

 養子とはいえサイバスターの息子だというのなら、それ相応の武を誇って然るべきなんだってさ。

 

 『まさか、御三家と結託して無力な一般人を過大評価させている?』

 『サイバスター様ともあろう方が、その様な恥ずべき行為をなさるはずが…』

 

 先程、退出していったお偉方にはそんな感じのことをかなり遠回しに言われた。

 私も含めた全天級がラ・ギアスの外に出て来たもんだから、あの人たちも何かと焦っちゃってるのかもねー。

 政治や権力闘争には興味ないって言ってるのに……

 

 今日の決闘で皆はマサキを品定めする腹積もりだ。

 御三家とそれに準ずる家の者、日本を支える企業や団体の重鎮たち、治安局や軍部にギルドの関係者、その他いろいろな勢力の思惑が蠢いている。

 

 アンドウマサキとは、一体何者か?

 この男は利用価値があるのか?取るに足らない存在なのか?

 それとも、全く予想だにしない別の何かなのか?

 サイバスターの息子であり、御三家令嬢を愛バにしたヤバい奴。

 ロリコンだの、マザコンだの、シスコンだの、人間ではないなどと大小問わず様々な噂が飛び交っている、とにかく変な奴らしい。

 信憑性不確かな噂と謎多き男、アンドウマサキの真実を皆が知りたいのだ。

 

「どいつもこいつも、うちの子に興味津々で困っちゃう」

「……大丈夫でしょうか?」

「あらら、娘じゃなくてマサキを心配してくれてんの?」

「マサキ君には我が家の手練れが封絶紋を施しました。しかも、本人の希望で私自ら術を強固に重ね掛けまでしたのです。覇気が出せるだけでも奇跡ですが、今の状態では本来の実力は発揮できないでしょう。最悪の場合、アオイがマサキ君をフルボッコに……いえ、もちろんそんなことにならないよう準備は━━」

「お節介は止めておきなさいな」

 

 早口で捲し立てようとしたのりピーを制止する。

 マサキが不利になった場合、決闘の途中でストップをかける準備でもしていたのかな?

 今日は来賓も多いし決闘の勝敗が有耶無耶になれば誰も納得しないだろう。

 何よりマサキ本人が一番納得しないだろうな。

 のりピーの気遣いは要らぬ心配ってやつよ。

 これまで何度もピンチを潜り抜けて来たんだから、今回も何とかするでしょ。

 なんたって、私の息子だもんね。

 

「そろそろ行くわ、アンタは娘の心配だけしてなさい」

「サイ先輩」

 

 冷めてしまったカフェラテを飲み切り、心配性のりピーの肩に手をかけ席を立つ。

 この後はネオたちと合流して屋台を片っ端から冷やかすものいいだろう。

 

「まあ、見てなさい。うちの子……すごいから。いやホントマジですげぇから」

 

 『うわっ親バカ』みたいな顔をするのりピー。

 やや離れた場所でウンウンと大きく頷いている姉バカもいたよ。

 

 〇

 

 応接室兼会議室を出たサイは気のむくままに校舎を歩いていた。

 ネオたちとの合流は別に急ぎではない。

 久しぶりの母校を散策してみるのもいいかなと思った故の行動だ。

 

「だいぶ変わったわね。昔の面影ほぼないわ」

 

 まず敷地面積の広さが違う。

 サイが在学中の倍以上になっているし、校舎や建物の数も大きさも当時とは比較にならない。

 唯一昔と変わらないのはザムジード、今はミオと名乗っている人外モンスターを発見した旧校舎ぐらいか。

 その地下ダンジョンもどんどん拡張しているらしく……マサキはもうすぐ地下100階とか言っていたが本当だろうか?

 懐かしさを感じるポイントの少ない母校だなと思っていると、スマホにメッセージが入った。

 

 『今どこ?』『終わったのなら集合じゃ』『なんか買って』

 

 ネオたち腐れ縁からのメッセージだ。

 タカリ根性丸出しの最年長がウザい。

 

 『今行く』と短く返答して、予め決めていた合流地点へ行くことにする。

 

 ふと前方を見るとトレセン制服に身を包んだウマ娘がこちらへ向かって来ていた。

 両手に食材らしき荷物を持っているところを見るに、屋台の補充物資を運んでいる最中なのだろう。

 学生は私を見て軽く会釈、こっちも会釈を返し無言のまますれ違……ふと思い出した。

 背格好も纏う雰囲気も以前とは大分異なっているけど、知っている。

 私は確かにこの子を知っている。

 

「なんだ。ちゃんといるんじゃない」

 

 別に反応を期待していたわけではない独り言が口から零れた。

 しかし、彼女の耳にはしっかり届いたようで足を止めて振り返る。

 その顔には完璧なまでの笑顔が張り付いていてるが、どこか冷たい印象を感じた。

 

「どなたかとお間違えではないですか?」

「ああ、そういうスタンスなのね。理解したわ」

「おっしゃっている意味がわかりません。急いでいますので失礼します」

「あーはいはい。邪魔して悪かったわね」

 

 一礼して何事もなかったように移動を再開する彼女。

 その背中には、あなたと話す気はないという拒絶の意思を感じた。

 いいんだけどね。

 あ、そうだ。これだけ言っておかないと。

 

「私のア(・)レ(・)大事にしてよね」

 

 恐らくアレを持っているであろう彼女は今度こそ振り返ることなく去って行った。

 なんか・・・ビックリするぐらい、いろいろでっかくなってたな!

 娘になる子たちといい、最近の子ってばみんな発育良すぎよ。

 

 

 〇

 

 トレセン学園の搬入出ゲートは慌ただしく絶賛稼働中であった。

 聖蹄祭の催しで使う物資の受け渡しと仕分けが朝からひっきりなしに行われている。

 日本有数の教育機関を支える裏方たちは本日も大忙しだ。

 荷下ろしを終えたトラックを見送った作業員は今しがた受け取ったコンテナを所定の場所に移動させている。

 二本のマニュピレーターを備えた二足歩行の作業機械は重量物運搬用のAM(アーマードモジュール)だ。

 人型フォークリフトと呼ばれるそのAMに乗り込んだ作業員はコンテナを慎重に運び所定の場所へと置いた。

 

「でけぇな。一体何が入ってるんだか」

「祭りを盛り上げる舞台装置らしいぞ。花火とかじゃねーの?」

「さっすがトレセン。やることが一々派手だ」

 

 AMから降りて他の作業員たちと軽く雑談を交えていると話題は自然と聖蹄祭の事になる。

 休憩時間には裏方たちも祭りに繰り出すつもりなのだ。

 

『君たちが運営の一助を担っている、素晴らしき学園の晴れ舞台を楽しんでくれ』

 

 理事長のお言葉は、全教職員から全従業員に至るまで届いている。

 愛らしくも優しい理事長は学園内外の人望厚くファンも多い。

 その理事長が楽しめと言うのだ。

 裏方である自分たちも聖蹄祭を存分に満喫しなければ無作法というもの!

 

「そういや、決闘ってのがあるんだよな?」

「俺、絶対見に行くぜ!キリュウイン教官を応援しないとな」

「ハッ、お前の応援なんざなくてもアオイちゃんが勝つに決まってんだろう」

「当然だな。キリュウイン家の武勇は伊達ではない」

「ハァハァ…アオイさん…‥‥しゅき」

 

 決闘の話になると皆が口々にキリュウイン教官を褒めちぎる。

 しかし、それに反論する者も少なからずいた。

 

「お前ら、マサキ教官なめてんじゃねーぞ!」

「そうよ!あんなにいい男なのよ。生徒たちからの人気がそれを証明しているわ」

「人当たりはいいし、よく差し入れもくれる。ケガをしたときは本当に新味になって治療してくれたじゃないか、忘れたのかよ」

「あんなに世話になっておきながら……薄情な奴らめ」 

「わ、わかってるけどよぉ。ヤンロン教官ならともかく、養護教官のマサキさんじゃ」

 

 マサキ派とキリュウイン派が揉め出したところで現場責任者からの檄が飛ぶ。

 話を打ち切った作業員たちは蜘蛛の子を散らすように仕事へと戻って行った。

 残されたのは先程搬入された大型コンテナのみ。

 同型のコンテナがひしめく作業場では中身の詳細を気にする者はいなかった。

 

 聖蹄祭の搬入物資に偽装したコンテナの中で、

 人の気配が無くなったことを感知したソ(・)レ(・)は警戒レベルを引き下げた。

 トレセン学園への潜入は問題なく成功した。

 あとは命令が下るまでの時をただ静かに待つのみ。

 自分が何者で何をなすべきかは理解している。

 ある男と戦い、その力量を推し測ることが自分の与えられた役割だ。

 

「アンドウ…マサキ……」

 

 かつての自分、矮小なる人の子らに恐れられ疎まれ『凶』とまで謳われた我が身。

 それを完膚なきまで徹底的に打ちのめした女の子供・・・

 我に屈辱と絶望を刻み付けた精霊種の息子!

 憎い、憎い、憎い、ニクイ、ニクイ、ニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイニクイ!!

 この身に渦巻くのは母子共々八つ裂きにしても足りないぐらいの憎悪だ。

 しかし、それをしてはいけない。

 それは主の望む事ではないからだ。

 我が身を救ってくれた主の命こそ存在意義そのもの。

 主の期待に応えるため我は生まれ変わった。与えられた命を忠実に遂行することこそが最優先。

 

 それに、考えても見ろ。

 主は我の気を慮って絶好の機会を与えてくれたではないか。

 力試しの結果『価値なし』となったなら、アンドウマサキの処遇は如何様にしても構わないと主は仰せになったのだ。

 四肢をもごうが、形が無くなるまで削ろうが、刻んで砕いて潰しても!何をしてもいいのだ。

 それをあの憎き女に存分に見せつけてやれるのだ!

 奴の嘆きを想像しただけで気分が高揚する。

 嗚呼・・・主はなんと懐の深いお方なのか、御身の期待に必ずや応えてみせましょう。

 証明してやろう、アンドウマサキな、主の御前に立つ資格なき塵芥(ちりあくた)だと!

 

「潰ス……マサキ……潰ス」

 

 憐れなりアンドウマサキ。

 恨むなら自身と母を恨め。

 これは復讐だ。全てはお前たち母子が招いた結果なのだ。

 

「…サイ…バスター」

 

 仄暗い激情を内包したままソレは時を待つ。

 やがて訪れるであろう歓喜の時を夢見て・・・

 

 〇

 

「ついに手に入れました!その名もウマウターGX」

「ふーん。あっそ」

「リアクション薄いですよ、ミーク」

 

 キリュウインアオイは興奮していた。

 マサキとの決闘が決まってから何だかんだで出番が無く、久しぶりの登場だからではない。

 世紀の天才科学者といわれるビアン・ゾルダーク博士に発注していた品物が、ようやく手に入ったからだ。

 "ウマウタ―GX"それは一見何処にでもあるような眼鏡である。

 しかし、この眼鏡には頭脳は大人な少年探偵が使う道具ばりの機能がある。

 

「これはウマ娘の覇気を読み取って対象の心の声を文章化できるアイテムなのです」

「そんなアホな」

「そんなアホを実現させるのがビアン博士という人です」

 

 ハッピーミークは呆れた。何やってるんだろう私の操者。

 先程、このウマウタ―GXをわざわざ届けてくれた人はビアン博士の娘だという活力にあふれた金髪巨乳だった。

 学園に愛バがいるらしく、聖蹄祭を見物するついでに親から押し付けられた眼鏡を届けてくれたのだそうだ。

 かなり腕が立ちそうな人間だったけど、あの人もマサキ教官の知り合いなんだろうなーと、ミークは思う。

 ウマ娘の心を覗く道具・・・作る方もアレだが使う方はもっとアレだな。

 うん。有り体に言って私の操者サイテー。

 

「で、どんな犯罪行為に及ぶつもり?切腹する?たづなさん呼んで介錯してもらう?」

「は、犯罪なんてしませんよ!切腹とたづなさんは勘弁して!」

「軽々しく人の秘密を暴くなんてプライバシーの侵害だよ。このゲスが」

「ゲスで結構!それでも私はやらなくては、彼女たちの本音を聞かないと」

「うわっ。まーたキタちゃんたちに絡むつもりだよ。マジしつけぇ」

 

 ウマウタ―を装着して『どう?似合います?』とか言ってるアオイのアホ面がムカつく。

 決闘当日に何を言いだすかと思ったら、キタちゃんたち四人の本心を知りたいとか抜かしおった。

 いや、何度も何度も聞いたよね?

 アオイのことはゾウリムシよりも興味がないって、マサキ教官を心から愛してるって宣言されたよね。

 ここに至ってもアオイはキタちゃんたちがマサキ教官に弱みを握られ、嫌々愛バになっていると思っているらしい。

 アホだ。この女マジでアホだ。そろそろ私は別の操者を探すべきなのかもしれない。

 

「別の操者を探すべきだなんて!考え直してミークッ!!捨てないでぇー――!!」

「見てんじゃねーよ、カス!」

 

 こいつ、さっそく私の心を覗きやがった。

 ああもう!ウマウタ―GXの性能が証明されてしまったじゃないか。

 ビアン博士、何てものを作ってくれやがったのですかね!

 

 気は進まないが仕方がない。

 操者がやりたいと言うなら愛バは付き従うのみだ。

 別に、ちょっと面白そうとか私もウマウタ―使ってみたいとか思ってないしー。

 

「フフ、ちゃんとミークの分も用意してありますよ」

「仕方ねぇなぁ。共犯になってやんよ」

 

 ウマウタ―GX

 愛バを救う旅に出たマサキがビアン博士から餞別にもらったウマウタ―の改良発展型である。

 相手の覇気を読み取りおおよその級位を判定するだけだった物が、読心すら可能になったとは誰も思うまい。

 登場するのは今回限りの一発アイテムなので、気にしたら負けなのだ。

 

 ウマウタ―を装着したアオイとミークはマサキの愛バ4人を探すべく移動する。

 目的の4人はすぐに見つかった。

 校舎棟1階の大教室に行列が出来ていたからだ。

 そこは御三家令嬢たちに一目でも拝謁したいという多数の要望により設置されたスペースである。

 限られた僅かな時間であるものの、噂の令嬢たちに会えるという事で長蛇の列が形成されている様は目立つ。

 並んでいる人々の性別も年齢層も様々で、自分の番を今か今かと待ちわびている様子。

 入室が許された者はやや緊張気味に進み、退出していく者は目がハートになっていたり、興奮冷めやらぬ様子でため息をついていたりだ。

 

 列に並ぶことを断念したアオイたちは持ち前の技量、隠形術と歩法を駆使して人波をすり抜け中の様子が丁度伺える窓の貼りつくことに成功する。

 あたかも最初からその場所にいたかのような二人に周囲から抗議の声が上がることはない。

 悪用厳禁ではあるが、人の気を逸らしたり認識をずらすといったテクニックを二人は当然のようにマスターしているのだ。

 

 教室の左側にはメジロ家のブースが出来ている。

 メジロマックイーンを始め、パーマー、ドーベル、ライアン、ブライトたちが訪れた人々に愛想を振りまいている。

 こういうのは慣れっこと言った熟練の応対を見せる彼女たち。

 笑顔で挨拶し、握手に応じ、一言二言交わしながら、時にはプレゼントを受け取り、着実に列を捌いていく。

 見事な手腕である。

 

「これ握手会だ!」

「日本の未来を担う御三家、その令嬢ともなれば並みのアイドルなど比較にならないほど人気があって当然です」

 

 アオイの言う通りだ。

 握手会の会場を用意するだけの価値が彼女たちにはある。いろんな意味で。

 そう言えば、アオイもキリュウイン家の令嬢なんだよなあ。でも握手会はしたことない。

 普段、同じ学び舎にいると感覚が麻痺しているが、彼女たちは別格のウマ娘なのだと様々と見せつけられる。

 そんな子たちが同期であったり先輩後輩だったりするのは、何だかミークとしても鼻が高い。

 

「目標はあっち」

「いましたね……てっ!?なんですかあの熱気は」

 

 教室の右側にはサトノ家とファイン家の合同ブースが出来ている。

 サトノ家入りしたアルダンはこちら側についたようだ。

 メジロアルダン、ファインモーション、キタサンブラック、サトノダイヤモンドが来客たちの応対をしていた。

 何やらメジロ側とは様子と言うか客層が若干おかしい気がする。

 なんか、おっさん?というか中高年の男性が異様に多いような?

 サトノ、ファインのブースでは4人の令嬢に尊敬と畏怖と崇拝の念が集っているのがありありと解る。

 

 酒造メーカーの役員や老舗の酒蔵職人から高級ボトルが山のようにプレゼントされ、それを笑顔で受け取りながら感謝の言葉を口にするアルダン。

 

 頑固親父らしき男にアドバイスを授けたかと思えばものすごく感謝され、某カップ麺メーカーからは新商品を是非食べくれと渡されているファイン。

 

 どう見てもカタギではない強面に『お嬢!』と野太い声で挨拶されているキタサンは『怖い!散れ!シッシッ!』と悪人面たちを追い払っている。

 

 ダイヤはサブカルに骨の髄まで浸かっていそうな男たちとマニアックな話で盛り上がったかと思えば、IQの高そうな研究者風の人と難解な数式や図面を見比べ小型の記録媒体をもらったり・・・

 

 まあ、なんだ。それぞれファンの傾向が違うってことだろうなと思うことにした。

 会いに来てくれた子供や同年代の女子には女学生らしくキャピキャピ応対して、やや下心のある男たちのハートを撃ち抜きつつも本気で相手にはしないテクニックもさすがである。

 そんな若い気に当てられたオヤジたちはホッコリしながら列を乱すことなく順番を待っている。

 統制とれてんなぁ。アレも一種のカリスマ性なのかね?

 

「アオイ、ホントにやるの?」

「今更怖気づきませんよ。ミークも覚悟を決めなさい」

 

 ウマウタ―を装着したミークとアオイは目標に狙いを定めて、眼鏡フレームの小さなボタンを押す。

 傍から見ればずれた眼鏡クイッ!しているようにしか見えない仕草だ。

 視界に入れたウマ娘の付近に吹き出しの様なというか、吹き出しそのものが出現した。

 覇気の分析が終わり次第、この吹き出しにリアルタイムで心の声が表示されるらしい。

 

「最初はアルダンからだね。私ともよく遊んでくれる、みんなから頼りにされるお姉さん」

「清楚にして可憐な姫君のアルダンさん!清らかな彼女の心根は一点の曇りもなく澄んでいることでしょう」

「そ、そうかな?結構ハッチャケるときもあったりするよ」

「時にはハッチャケも必要なのです。そんな彼女をマサキ教官が手籠めにして…ぐぬぬぬ」

 

 ピロリン!とウマウタ―から装着者にのみ聞こえる音がした。

 対象の覇気解析が終わったのだ。

 これで心の声が表示される。

 

 今アルダンは年下の子供たちと握手していた。

 柔らかな微笑みは聖母の如し、美人で面倒見のよいお姉さんの理想形がそこにあった。

 その彼女が今考えていることとは・・・

 

《酒飲みてぇ・・・(´Д`)》

 

 ん?

 アオイとミークは固まった。

 そしてウマウタ―のスイッチを操作、再起動を試みる。

 機械の誤作動だな。きっと今のは何かの間違いだろう。

 あのアルダンが子供たちと触れ合っている最中に酒が飲みたいなどとアコール中毒的思考をするはずがない。

 再起動完了。

 気を取り直してもう一度ウマウタ―をアルダンに向ける。

 

《あー飲みたい飲みたい飲みたい。お酒お酒お酒!!》

 

 ・・・うん。

 ウマウタ―は壊れてないね。

 壊れてるのはアルダンの方みたいだね。

 一応、アオイとミークは互いのウマウタ―を交換してみるが表示された文章は変わりはなかった。

 

《くっ、手が震えて…せめて握手会が終わるまではもってください、私の体!》

 

 おいおいおい、アル中の症状が出てるじゃねーか!

 学園に通う前に病院へ通え!

 

《ふぅ…精神を落ち着けないと。こういう時は飲酒よりやりたい事を考えるのです》

 

 その調子だ。頑張れアル中。

 手の震えを子供に感ずかれるのだけは避けてくれよ。

 

《マサキさんに抱かれたい///》

 

 バカか?

 幼い子供たちに微笑みを向けている裏で何考えているんだよ!

 肝臓だけでなく脳もやられてんの?

 

《あ、間違えました。私ってばもう…》

 

 良かった。間違いだったか。

 真っ昼間から抱かれたいとか、ドスケベ思考はさすがにないないw

 

《マサキさんを抱きたい!!》

 

 一緒じゃい!

 受けが攻めに転じただけじゃボケ!

 間違ってるのはお前の存在だわ。

 

《むっ!今、凄いことを思いつきました》

 

《お酒を飲みながらマサキさんを抱いたら最高ですね!!》

 

 最悪な飲み方をひらめくな!

 キメぴょいはやめてよ!

 

《『酒より俺に酔わせてやるよ』なんて言われたら////》

 

《キャー(≧∇≦)ー♡》

 

《初めてお会いした時からずっとあなたに泥酔中です!!》

 

『キャー』じゃないが!

 悲鳴を上げたいのはこっちだわ!

 

 ・・・酒とエロスの爛れた妄想が延々と続いている。

 終わる気配がない。

 

 眩暈を覚えたアオイとミークは、そっとアルダンを視界の隅に追いやるのだった。

 

「清楚?」

「こ、これもマサキ教官が悪い影響を与えただけですね!ええ、そうに決まってますよ」

「うまぴょいドランカー、アルダン」

「やめなさい、ミーク。変な称号を作っちゃダメ」

 

 ウマウタ―、これは私たちの想像以上に厄介な代物なのかもしれない。

 心を読まれる側より、心を読んでしまった側がダメージを受けるなんてビアン博士も想定しなかった欠陥だ。

 

 アルダンのことは忘れよう。

 あれは清楚の皮を被ったドスケベアル中娘だったよ。

 

 ・・・・・

 

「次はファイン。もう何が起きるか解った」

「ファインさんのゆるふわな雰囲気は場を和ませてくれます。それでいて気品ある佇まい。どこかの王族の血を引いているという噂もありますし、きっと彼女の心は気高さと慈愛に満ちていることでしょう」

「あの子、特定の飲食物にドハマりしているよ?常軌を逸するぐらい」

「誰にだって好物ぐらいありますよ。そんなに目くじら立てることでもないでしょ」

 

 ファインは自身のファンと思しき同年代の女子と会話中だ。

 初対面の相手ともキャッキャウフフしながら、今時の女子トークを繰り広げている。

 さっき屋台で買った映え重視のスイーツがとても美味しかったとか、どこそこのお菓子が好きとか、そんな甘ーい話をしているっぽい。

 

 そんな彼女にウマウタ―をの標準を合わせる。

 果たして何を考えているのやら・・・

 

《ラーメン食いてぇ!!( ゚Д゚)》

 

 そうだろうな!お前はそういう奴だよ。

 アオイはともかくミークは驚かない。

 友人であるファインのことをミークは少なからず理解していた。

 甘い物の話をしている最中でも、脳内を油まみれのラーメンで埋め尽くすぐらいはやってのける女だと知っていた。

 

《足りない足りない足りない。麺が、麺が足りないよぉー!メンメンメンメン!》

 

 アルコール中毒の次はラーメン中毒患者かよ。

 お前も病院に行け!

 

《ミスった。こんなことなら朝食の濃厚つけ麺を油そば鬼盛にしておけば》

 

 朝から重てぇんだよ!

 つけ麺を油そぼに変更したからといって、朝食がヘビーなことに変わりないだろ。

 

《こういう時はラーメン食べるより優先したいことを考えよう》

 

 ちょっと待てこの流れ、まさか・・・

 

《マサキと子作りしたい!!》

 

 お前もかよぉ!?

 こいつもドスケベじゃねーか。

 

《そうだ!》

 

《ラーメン食べながらマサキと子作りするの!すごく名案じゃない?》

 

 どんな変態プレイだよ!

 熱々の丼ぶり持ったままどんな行為に及ぶつもりだよ。

 

《ほら、食欲と性欲を同時に満たす的な感じでね。正に天才の発想!》

 

 バカの発想だよ!思いついた時点でダメなやつだよ!

 何でもかんでもマルチタスクにすればいいってもんじゃない。

 

《『ラーメンよりもっといいもん食わせてやる』なんて言われちゃうかも////》

 

《(∩>ω<∩〃)キャーーーー》

 

《もう////マサキのバリカタでお腹いっぱいだよ♡》

 

 だから『キャー』じゃないが!

 麺で例えるのやめろや!妄想が下品すぎるわ。

 

 ・・・麺とエロスの爛れた妄想が延々と続いている。

 終わる気配がない。

 

 胸やけしそうになったアオイとミークは、そっとファインから視線を逸らすのであった。

 

「気高い?慈愛?」

「いや、こ、これもマサキ教官に何かされたせいです。そ、そうに決まって、ますよね?」

「ラーメン大好きファインさん。でも、子作りはもっと好きです!」

「やめなさい、ミーク!似たような薄い本が存在しそうだからやめなさい」

 

 またしてもダメージを受けてしまった。

 これが心を覗こうとした罪人への罰だというのか。

 ビアン博士がウマウタ―の量産に踏み切らなかった理由が分かった気がする。

 とりあえず、ラーメン類はしばらく食べたくない。

 

 ファインのことは忘れよう。

 あれは高カロリーな麺と子作りに夢中な変人だったよ。

 

 ・・・・・

 

「キタちゃんか。いい子なのは間違いない。交友関係も広いし」

「友人が多くいつも明るく元気いっぱいなキタさん。眩しいです!彼女は正に太陽の子とでも言うべき存在。その心もきっと穢れない輝きを宿していることでしょう」

「たまに目が笑ってない時があるんだよなあ。あと、敵味方の判定が異様に早い」

「誰にだって気分の浮き沈みはありますよ。判断が早い!のはよいことです」

 

 キタちゃんのいる場所は何だか騒がしい。

 質の悪いファンが彼女にしつこく粘着しているようだ。

 キタちゃんは、イケメンホスト風のチャラ男集団にナンパというか口説かれてしまっているっぽい。

 チャラ男たちは口説くのに必死なのか、周りの強面黒服と握手会の警備兵たちが青筋を浮かべているのにまるで気付いていない。

 愚かなる彼らが今も無事なのは、当時者のキタちゃんが『手を出さないでね』と制止をかけているためだ。

 チャラ男を相手にしても嫌な顔ひとつせず笑顔で接し、問題が起こらないように大人の対応をしている彼女は立派だと思う。

 年若い身でありながら高潔な人格を備え、太陽のように暖かく人々を照らしてくれる。

 キタちゃんが周りに好かれる理由の一端を垣間見た。

 

 さてさて、そんな彼女はの心はどんな感じなのかな・・・

 

《こいつ殴りてぇ・・・(´ω`#)》

 

 ですよねー。

 調子に乗ったチャラ男のボディタッチ躱しながら、キタちゃんは笑顔のままブチギレていた。

 これはチャラ男が全面的に悪い。死ぬわアイツ。

 

《あーもう!腹立つなぁ。下手に出てれば調子に乗って、ムキ―!!》

 

《やるか?殺(や)っちまうか?》

 

《今ここにいる全員殴り倒して『ごめん蚊がいたw』で何とかなるかな?》

 

 なるわけないいだろ!

 チャラ男ひとり殴るためのアリバイ作りが『全員等しく殴打!』ってどういうこと!?

 このウマ娘、暴力の悪魔かよ?

 

《落ち着け私!こんな所で暴れたらマサキさんが悲し……いや、褒めてくれるかもしれない!》

 

 ちょっとー!マサキ教官ンンン。

 愛バの教育間違えてますよー。この子甘やかしたらダメだってば。

 

《こういう時はもっと楽しいことを考えよう。例えばそう・・・》

 

《マサキさんと交尾したい!!》

 

 交尾言うな!結局そこに行き着くんかい!

 

《このチャラ男を痛めつけながらマサキさんと・・・すっごく興奮するね!!》

 

 もうヤダぁ!

 マニアックも変態性も限界突破したキチガイの所業!!

 何なのソレ?どういう状況なの?それって3Pになるの?

 

《それで『今日は朝まで俺と寝技の特訓だ!』って言われるの////》

 

《(∩>ω<∩〃)キャーーーー》

 

《強くなりたいから喰らっちゃうね!!!》

 

 おーいチャラ男どこに行った?

 あいつ最初から必要ねーじゃん。

 何なんのこの子?思考回路が範馬勇次郎より怖いよ。

 

 ・・・破壊衝動と性衝動の爛れた妄想が延々と続いている。

 終わる気配がない。

 

 頭痛を感じたアオイとミークは、そっとキタサンを見ないようにするのであった。

 

「太陽の子?血に飢えた真っ黒な太陽なんだけど?ブラックサンだよ!」

「いやいや!こ、これもマサキ教官の不純な覇気に染まった影響だからして」

「アオイ…あの狂戦士を制御できるの?」

「ミーク……太陽に近づけば火傷ではすみませんよ」

 

 できないんかい!

 それでよくマサキ教官から愛バを奪う宣言したな。

 運よく殴打を免れたチャラ男は教室を出た瞬間に黒服に回収されていった。

 ご愁傷様です。

 

 キタちゃんのことはもう忘れよう。

 あれは暴力と交尾にしか興味のない戦闘民族だったよ。

 

 ・・・・・・

 

「もうやめよう?私のメンタルそろそろ限界……」

「いえ、ここまで来たら最後までやりましょう」

「いい加減学習しようよ。わかってる?次アレだよ?アレ!」

「か、覚悟はできてます」

 

 マジでやるの?震えてるじゃんかよ。

 だが、アオイの最後までやり遂げたいという気持ちも解る。

 そして、私自身の怖いもの見たさがあるんだよな。

 問題のラストターゲット。

 

「ダイヤちゃん……もう、ヤバい予感しかない」

「彼女には数々の逸話がありますが、実際に会ってみると非の打ち所がないウマ娘ですよ。名前通り宝石のように美しい心の持ち主なのでしょう」

「ねぇ?なんでそんなに前向きなの?現実から逃げて楽しいの?」

「に、に、逃げてません。ほら、これで最後なんですからやりますよ」

 

 夢を見るのは諦めたほうがいい。

 『ヤバい』で検索したら『もしかしてサトノダイヤモンド?』と出るウマ娘に期待なんかしちゃダメだよ。

 ダイヤは身なりの良い初老の男性から"めっちゃ足の速い青ハリネズミ?のぬいぐるみ"もらってはしゃいでいる最中だった。

 その可愛らしい様子に周りの人々は『ぽ~////』となって立ちつくし見惚れている。

 誰もが目を奪われていく完璧で究極のウマ娘!だとでも思っているのかな。

 何も知らないってある意味幸せだよね。

 

 ミークとアオイは覚悟を決めウマウタ―を操作してダイヤを見る。

 目標をセンターに入れてスイッチ!

 果たしてその心は・・・・・・

 

【・・・さ・・いも】

 

 んん?

 

【サト・・・モ】

 

 何かおかしい。

 吹き出しが歪み文字が霞んで見える。

 あれ、何も表示されなくなった。

 電源が落ちた?それとも今度こそ故障してしまったのか?

 

「覇気の読み取りに時間がかかっているのですかね?」

「情報量が多いから文章化に手間取っているのかも?。もう少し待ってみよう」

「なるほど。ダイヤさんの複雑な乙女心にウマウタ―が苦戦していると」

「乙女心て……うぅ、なんだか悪寒がしてきた」

 

 ここで中止しなかったことを二人は後悔することになる。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

さといもさといもさといもさといもさといもさといもさといもさといもさといもさといも

里芋里芋里芋里芋里芋里芋里芋里芋里芋里芋里芋里芋里芋里芋里芋里芋里芋里芋里芋里芋

サトイモサトイモサトイモサトイモサトイモサトイモサトイモサトイモサトイモサトイモ

さといもさといもさといもさといもさといもさといもさといもさといもさといも

里芋里芋里芋里芋里芋里芋里芋里芋里芋里芋里芋里芋里芋里芋里芋里芋里芋里芋

サトイモサトイモサトイモサトイモサトイモサトイモサトイモサトイモサトイモ

さといもさといもさといもさといもさといもさといもさといもさといもさといもさといもさといもさといもさといもさといもさといも

里芋里芋里芋里芋里芋里芋里芋里芋里芋里芋里芋里芋里芋里芋里芋里芋里芋里芋里芋里芋里芋里芋里芋里芋里芋里芋里芋里芋里芋里芋

サトイモサトイモサトイモサトイモサトイモサトイモサトイモサトイモサトイモサトイモサトイモサトイモサトイモサトイモサトイモ

SATO☆IMO★SATO☆IMO★SATO☆IMO★SATO☆IMO★!!

 

 飛び込んで来たのはウマウタ―越しの視界を埋め尽くす赤!赤!赤!赤い文字の大津波。

 『さといも』と読める文字たちは吹き出しなど意に介さず好き勝手に湧き出て増殖していく。

 見たも者の精神を削り発狂させる呪いの血文字群!

 

「きゃぁぁぁ―――――!!!!」

「うぎゃぁぁ―――――!!!!」

 

 ミークとアオイは溜まらず絶叫した。

 突然の叫びに周囲から迷惑そうな注目が集まるが『なんだ熱心なファンか』と勝手に納得され事情を尋ねて来る者はいなかった。

 憧れの御三家ウマ娘を目にして騒いでいる奴らは他にも大勢いるので、二人もそれと同列に扱われたのだろう。

 厄介オタクのレッテルを貼られてしまったが、怪文書にショックを受けた二人はそれどころではない。

 視覚情報として侵入してきた『さといも』に喉だけでなく体中が悲鳴を上げている。

 

 こ、これが…こんなものが……このカオス極まったサトイモ地獄が奴の心の声、だと?

 意外!?でもないけど、これは酷い。

 少しでも気を抜くと魂まで持って行かれそう。

 著しい精神の疲弊から肉体の不調まで感じる。

 差し当ってはトイレに駆け込んでゲロをぶちまけたい気分だ。

 そんな二人のことなどつゆ知らず、地獄の発生源であるダイヤはファンの手を握って可愛らしく愛想を振りまいている。

 アイドル的ウマ娘の正体がクレイジーなサトイモ娘だと知らないファンが哀れで泣けて来た。

 

「はぁはぁ…今のは一体?…‥‥生きてますか、ミーク?」

「な、なんとか。血文字は終わったみたいだけど…」

「吹き出しが復活しましたよ!続きがあるみたいです」

「正直もう何も見たくない」

 

 これ以上何が来るというのか?

 半ばヤケクソ気味に二人はダイヤとその吹き出しに注目した。

 

《Sparking!(スパーキング!)(゚∀゚)》

 

 さっそく意味がわからん!!

 

《したいよぉ・・・スパーキング!してぇよ・・・》

 

 だからスパーキングって何だよ。

 

《スパーキングとは程よく茹でた里芋を相手の顔面にブチ当てることで日頃の感謝を伝える日本古来より続く伝統的な礼儀作法である》

 

 まさかの回答が来たよ。

 疑問が解消されるどころか余計に意味不明になった。

 

《古事記にもそう書かれている》

 

 しれっと日本の歴史を改ざんするな。

 それともサトノ家ではスパーキングなる異常行動が日常的に行われているのか?

 ありえそうで怖い。

 

《クロにスパーキング!ココにスパーキング!アル姉さんにもスパーキング!!》

 

 こいつ真っ先に仲間を狙いやがった。

 どういう原理なのか、心の声と共にダイヤが仲間たちの顔面に里芋をブチ当てるイメージ映像がウマウタ―に表示されている。

 満面の笑みで芋を投擲するダイヤ、仲間の顔で盛大にはじけ飛ぶ里芋・・・想像以上にシュールで最低の光景だ。

 

《聖蹄祭に来てくれた人たちにも歓迎と喜びのスパーキング!》

 

 逃げ惑う人々を追いかけ回し、笑いながら里芋を執拗に投げつけるダイヤは狂人そのものだ。

 やめろバカ!ただのテロじゃねーか!

 これがイメージでよかった・・・トレセン学園始まって以来の地獄絵図は実現させてはならない。

 

《私自身にもセルフスパーキンッッ!!》

 

 器に山盛りされた里芋、そこに自分の顔面を勢いよく叩きつけるダイヤ。

 なんで自爆した!?何で?ねえ何でよーー!

 もういいから食べ物で遊ぶなや。

 

《なお飛び散った里芋は飢えたスぺ先輩たちが綺麗に食べ尽くしてくれます》

 

 先輩に何やらせる気?

 食品を無駄にしない配慮で炎上回避とでも思っているのか?

 スパーキングを実行した時点で炎上どころの騒ぎじゃ済まねーよ。

 

《マサキさんとヤりたい!!》

 

 急にどうした!?

 スパーキングもう飽きちゃったの?

 何で4人とも発情してんだよ!

 どいつもこいつも"抱きたい"だの"子作り"だの"交尾"だの"ヤりたい"だのと。

 "うまぴょい"という便利ワードがあるんだから使いなさいよ!

 

《マサキさんとスパーキングしながら一晩中ヤりまくるSparking!な夜を過ごしたい!》

 

 特殊過ぎるプレイはやめろと言っているだろうが!

 なんかもう、付き合わされるマサキ教官が不憫というか心配になってきた。

 

《『俺のスパーキングについて来れるか?』と背中で語るマサキさん////》 

 

《『そちらこそ芋の貯蔵は十分ですか』と返す私(可愛すぎ)!》

 

《いざ、尋常にSparking!(スパーキンッッ!)》

 

《ウヒョヒョヒョヒョ(゚∀゚)サイコーかよ!!》

 

 『ウヒョヒョ』じゃないが!

 もう悲鳴を上げる気力すら奪われてしまった。

 

 ・・・スパーキングとエロスのイカれた妄想が延々と続いている。

 終わる気配がない。

 

 吐き気を覚えたアオイとミークはダイヤをいないものとして扱うことにした、全力で。

 

 ダイヤ?そんな子知りませんね。

 あれは触れてはならない存在、スパーキングとマサキに夢中な狂人だったよ。

 

 ・・・・・・・・

 

 逃げるように握手会の会場から遠ざかり、へろへろと腰を降ろして地面に尻をついた二人。

 

「だから…やめようって、言ったのに……おぇ」

「ですが、これでハッキリしました。マサキ教官は愛バを支配化に置くため相当な無茶をしたのでしょう。その結果、彼女たちは精神に異常をきたしている!なんと惨(むご)いことを!」

「いや、だからそれ元から……ああもう、めんどくせぇな」

「私にはちゃんと伝わりましたよ。彼女たちの必死に助けを請う悲痛な叫びが」

「どうしてそうなる?全員マサキ教官とうまぴょいしたいって叫んでただけじゃん」

 

 どう転んでも自分に都合よい結論へと至る我が操者アオイ。

 これはこれで割と大物なのでは?と、ミークは呆れを通り越して感心してしまった。

 

「是が非でも決闘に勝利せねば!よーし、やってやりますよー」

「もう好きにして。死なない程度に頑張ってくれたら、それでいいよ」

 

 特に何の成果も得られずに終わったウマウタ―での読心。

 これ以上疲弊するのは決闘に差し支えるということで、ミークとアオイはヨロヨロと選手控室へと向かうのであった。

 余談であるが、ウマウタ―GXはダイヤの心の負荷(呪)に耐え切れず故障し二度と動くことはなかったという。

 

 〇

 

 心を覗かれたとは知らぬまま握手会を終えたマサキの愛バたち。

 4人はやっと一息付けたと余所行きの相貌を崩す。

 メジロ家側のブースでもそれは同様だったようで、令嬢たちはそれぞれ『お疲れさん』と同士たちを労う。

 

「毎度のことですが、有難いやら疲れるやらですね」

「ノブレスオブリージュですわよ、サトノさん。これも私どもに課せられた責務ですわ」

「マックイーンは真面目ですわね~。私、もうずっと眠くって……ふぁ」

「いや、ブライト先輩…終始立ったまま寝てたよ。理解あるファンの人たちに激写されっぱだったよ」

「そんなことより、決闘ですよ決闘!マサキさんの筋肉がどんな活躍を見せるか楽しみです」

「衆人環視の中、キリュウイン教官にラッキースケベのひとつでもかましてほしいわ。ネタにするから」

 

 御三家ウマ娘たちは険悪だとか、ギスギスっぷりが半端ないという噂もあるが、実際は普通に仲が良い。

 同じ学び舎に通い、社交界やクエストの作戦行動で一緒になることもあり自然と話す機会も多いのだ。

 マサキの関係者であることも大きな一因だと言える。

 

「メジロのみんなはマサキを応援してくれると思っていいのかな?」

「まあね。でも、"借りウマ狂争"だからさ……こればっかりは始まってみないとわかんないよ」

「もどかしいです。敵だとわかっていれば今ここで処理しますのに」

「アルダン姉さんが怖い!?」

「同じ姓(かばね)を持つ者に向ける殺気じゃありませんわ!?」

 

 メジロ家ウマ娘たちと軽く談笑して別れた後、マサキの愛バ四名は時計を確認して頷き合う。

 

「キリュウイン教官とミークさん、握手会にいらしてましたね。じっと見ているだけで接触はありませんでしたけど」

「変な眼鏡かけてた。何だったんだろうアレ?」

「敵情視察のつもりだったんじゃない?無駄なことを」

「まあまあ、いいじゃないですか。こちらも決闘前にご挨拶したいと思っていましたし」

 

 二ヤリという言葉がピッタリの邪悪な笑みを見せる。

 ダイヤのみならず他の三人も似たような面構えだ。

 借りウマ狂争では愛バは共に戦えない。

 だったら、それ以外のところで操者をアシストするのみ。

 

「負け確定の哀れなキリュウイン教官に差し入れを持っていこう作戦!」

「ファイン家特製の栄養ドリンク(強力下剤入り)」

「私はケーキを作って来ました(当然下剤入り!)」

「みんな里芋は持ったな!!行くぞォ!!」

「「「持ってないよ!?!?」」」

 

 決闘前に食した物で不幸にも腹を下してしまう可哀想なキリュウイン教官、ざまぁwwww。

 若干一名『スパーキング!』するつもりの奴がいるが、好きにやらせておこう。

 対戦相手への妨害工作は禁止されているが、そんなバレなきゃいいんだよ!!

 

「全ては愛するマサキさんのために!」

「「「マサキさんのために!!!」」」

 

 作戦目標、キリュウインアオイのお腹を壊してスパーキング!

 

「さあ行くぜい!総員進撃せよ!GO!GO!GO!」

「「「GO!GO!GO!」」」

 

 愛バの心はひとつだ。

 好きな男の為ならばキリュウインに下剤を盛るぐらいやってみせる。

 ついでにスパーキングもしてやろう!!

 

「どこへ行くのかしら?」

「そりゃあ、憎っきキリュウインのとこ…………ひょっ!?」

「「「げぇ!小姑が来たーーー!」」」

 

 仲間の慌てる声をBGMに白目で崩れ落ちる。

 ダイヤの顔にSparking!したのは里芋ではなく、たづな(小姑)の拳だった。

 全力のグーパンが顔にめり込む系ヒロインですが何か?

 

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