夢を見ていた。
俺がアンドウマサキとなった日の夢。
【十数年前】
「喜べマサキ、お前の引き取り先が決まったぞ!」
「おー」
「何だ反応薄いな、お前の家族になってくれる人たちがいるんだぞ」
「お世話になりました」
「はっはっは!気が早いな、迎えが来るのは一週間後だ」
とある町にある施設、身寄りのない子供たちを育てていた孤児院は閉園が決まっていた。
施設の老朽化に加えて昨今の財政難による補助金の打ち切り、さらに園長自身も老朽化したためだ。
血のつながらない兄弟姉妹たちはそれぞれの進路や引き取り先を見つけ、俺が最後の一人だった。
「ふー、これでやっと肩の荷がおりたわい」
「おつかれさま園長、よき余生を」
「余生て・・・。そうだな、最近流行りのレースとやらでものんびり見物するかのう」
「で、新しく暮らす所は大丈夫?いじめ、虐待、育児放棄は勘弁だよ!訴えて勝つよ」
「安心せい、お前が行く所はなんと・・・・あの・・・・有名な・・・・」
「溜めるのやめてはよいえ」
「メジロ家じゃよ、メ・ジ・ロ・家!聞いた事ぐらいあるじゃろ」
「マジかよ!勝ち組ルート入ったコレ」
メジロ家 多くの優秀な人財を世に送り出す名門中の名門
政財界に強い影響力を持ち、様々な分野でその名を轟かせる、まさに名家である。
一族にはウマ娘も多く競技レースやメディア部門への進出も破竹の勢いで結果を残している。
「あーそっか、ウマ娘・・・うーやっぱりいるよね・・・」
「何じゃ?まだ怖いのかウマ娘が」
「そりゃ怖いよ、何度も襲撃されたんだから・・・」
「メジロ家にはその事も話してある。向こうはお前さんを丁重に扱うことを誓ってくれたぞ」
「じゃあ安心なのかな・・・」
「ウマ娘に慣れるリハビリだと思って行って来い。あんなに可愛い娘たちを怖がるなんて、人生損するぞ」
「だよねー、わかってるんだけどねー」
ウマ娘が嫌いなんじゃない、むしろ大好き、でもそれ以上に怖いのだ。
俺は物心つく頃から何故かウマ娘に絡まれる事が多かった。
大人のウマ娘には何度も誘拐されそうになった、目の前で急に暴れ出す者もいた。
子供のウマ娘は俺と取り合って体を引っ張る、脱臼しました。
そんなことが相次いだので、園長たちは俺をウマ娘から守るため苦労していた。
懲りずにウマ娘の誘いにホイホイついて行く、俺にも原因があったが・・・。
あの時の我を忘れたような目をしたウマ娘・・・恐怖の対象になるのは当然だった。
いや、好きなのよ。基本カワイイし耳と尻尾もええやん。
メジロ家へ行くことが決まってから数日。
園長との別れを惜しみつつ荷造り、元々私物が少ないので直ぐに終わった。
施設の取り壊しも決まり、本日の園長は工事関係者との打ち合わせで留守にしていた。
子供一人残して不用心だと思ったが、自分がメジロ家へもらわれる事は周知の事実である。
俺に何かあればメジロ家を敵に回す事になるので、まあ安全だろうとの事。
「今日は風が騒がしいな」
縁側に座り日光浴。特に何をするわけでもなくボーっと庭を眺めて、キザったらしいセリフを言ってみる。
もうすぐここも無くなるのかー。今までお世話になりました。
そんな事を考えていると・・・爽やかな風が吹いた。
「御免くださーい、誰かいませんかー」
玄関先に人の姿、お客さんかな?
訪問者は女性だったので一応警戒する。
園長たちとの約束、女を見たら耳と尻尾を確認しろ。ウマ耳と尻尾があれば距離をとり隠れるか逃げろ。
ウマ耳と尻尾は・・・うん、無いみたいだ。
近づいて声をかける。
「何かご用ですか?園長は留守だよ」
俺に気づいた女性がこちらを向く。うわっ・・・・思わず声が出そうになる。
その女性がメチャクチャ美人だったからだ。こんな美人が実在していいのか・・・。
「そう、大人はいないのね。うーん、どうしよう」
「お姉さん、すっごいお綺麗ですね!」
「?ああ、ありがとう・・・て、あら・・・あらあらあら」
お姉さんが俺に近づいて来る、この人ただ美人なだけじゃなく仕草や雰囲気がとても可愛らしい。
「ごめん、ちょっと動かないでね~」
「照れる////]
俺の顔を両手で挟み見つめてくる。
その後、俺の周囲をぐるっと回り何かをチェック。
頭を撫でたり、体を触ったり、匂いを嗅いだり・・・やだホント照れちゃう。
「妙な気配を感じて来てみたら・・・あなただったのね。この覇気・・・よく今まで無事で」
「?」
「自覚なしか、いずれは対処すべきなんだろうけど・・・」
何かを呟きながら考え事を始めるお姉さん。本当に綺麗な人。
太陽の光を反射して輝く白銀の長い髪、何処か無邪気さを感じさせる翡翠色の瞳。
すらりと伸びた手足に日焼けなど縁のない白い肌、ジーンズにシャツの活動的な服装も似合っている。
年は10代後半?女子高生と言う奴だろうか。
ちょっとした表情や仕草すらも人に好感を与える、魅力溢れる女性。
「ねぇ、もし良かったら私とお話しない?あなたのことが知りたいな」
「おはなし、いいよー」
園長が帰って来るまでお姉さんとお話する事にした。美人の誘いは罠でも乗れ!
初対面の人に無警戒すぎだと思うが、この人は信用してもいいと俺は確信していた。
いろいろな話をする。
お姉さんはどんなにくだらない事でも真剣に聞いてくれた。
気づけば自分の事をたくさん話した。
孤児である事、ここがもうすぐ無くなる事、ウマ娘が怖い事、引き取り先が決まっている事。
「へー、メジロ家がねぇ」
「うん。今から期待と不安でドキドキ」
「将来有望な操者候補を今のうちに確保という訳か・・・メジロのばば様が考えそうな事ね」
俺の話を聞きながら、何かを思案するお姉さん。
「マサキという名前は園長さんが付けてくれたのね、いい名前ね」
「わりと気に入っている。お姉さんは何て名前?」
「私?えーと、とりあえず安藤(アンドウ)で」
「アンドウさんだね。了解!」
何か今適当に考えたような名前しかも名字のみ、本名は知られたくないのかな?
「ウマ娘の事嫌い?」
「好きだよ、でもちょっと怖い」
「話によると大分酷い目にあってるのに、それでもウマ娘の事を好きだと言ってくれるの?」
「うーんと、たぶん向こうも何か事情があったんだよ。それか俺が何か気に障る事しちゃったのかも」
「あなたは何も悪くない。自分より他人を心配できるその心はとても尊いわ」
「怖がってばかりじゃダメなんだけど、あーメジロ家の皆と仲良くできるかな・・・」
「・・・・」
楽しい時はあっという間。
園長が帰って来た、だいぶ時間が経過したようだ。
残念だけどこの辺でお開きかな。
「ねぇ、ウマ娘の事好き?」
「うん大好き!」
「ウマ娘が今後もあなたに迷惑をかけたとしても?また怖い目にあうかもよ?」
「その時は・・・そんな時が来ても大丈夫なように強くなる頑張る!」
「ウマ娘はとっても強いよ、人間じゃかて・・・・」
「知ってる!それでも強くなる。怖いのも治して、仲良くなって・・・いつか結婚するんだ!」
「結婚したいんだ・・・・ぷっ、あははははは!そうかそうか・・・そう言ってくれるんだね」
「笑われた!不愉快だわ・・・」
「ごめんごめん。いや~、こういう子がいるなら世の中まだまだ捨てたもんじゃないわね」
俺の頭を何度も撫でるアンドウさん。
笑われたのは心外だが、バカにしたわけじゃないみたい。
そうして俺の目をジッと見る、澄んだ翡翠の瞳に吸い込まれそう。
「よし決めた!あなたの事、気に入ったわ。今日はありがとう」
「あ、どういたしまして」
「それじゃあまたね」
帰り際に園長と少し会話してアンドウさんは帰って行った。
またねと言われたが、たぶんもう会うことはないだろう。
最後にここでの良い思い出が増えたなと思った一日だった。
もしも次があるならば是非本名を知りたい。
数日後、今日はいよいよ俺が旅立つ日。
園長はちょっと泣いていた、もらい泣きしそうになった。
園長と今までの住居に感謝を述べて出発、メジロ家との待ち合わせは近くの公園。
ついて来られるとまた泣きそうになるので、園長とは施設の玄関まででお別れ。
行ってきます。
公園にはウマ娘の始祖である三女神像があり、待ち合わせ場所の目印とした。
黒塗りの高級車や黒服の登場を期待したが見当たらない。
三女神の前には誰も・・・いた、一人女性が佇んでいる。
え、なんで・・・あの人が。
「あ、来た来た!時間ぴったりね」
「アンドウさん?なんでここに?」
「あなたを迎えに来たのよ」
「メジロ家の人だったの」
「いいえ。でも園長さんとメジロ家にはちゃんと話をつけてきたから大丈夫よ」
「ええー、園長・・・サプライズなの」
「えーとマサキは私の事・・・嫌?」
「そんな事あり得ない、アンドウさん好きだよ」
「良かった。今からあなたは安藤正樹(アンドウマサキ)よ!はい決定~」
「アンドウマサキ」
「そうよ。そして私は安藤佐為(アンドウサイ)よろしくね」
アンドウマサキ・・・それが俺の名前。
アンドウサイ・・・この人サイって言うんだ、もしかして囲碁が得意だったりしない?
「それじゃあ行こうか。今から一緒に暮らす所は田舎だけど、とっても良い所よ」
「田舎でスローライフか~いいね」
「ウマ娘もいっぱいいるわよ、強くなって皆と仲良くなりましょうね」
「頑張るよ。でも不安もある」
「何?心配事、言ってみて。家族に遠慮しちゃだめよ」
家族・・・この人が家族・・・嬉しい。
「今までウマ娘の事を避けてきたから、ちゃんと意思疎通ができるか不安」
「そんな、大丈夫よ何とかなるわ」
「どうしよう・・・キョドたり、ドモったりして「あいつキモくね」とか言われたら凹む。コミュ障が憎い」
「心配しすぎよ・・・・だって、ほら・・・」
風が吹き抜けた。
「もう私とちゃんとコミュニケーション取れてるんだから大丈夫」
「・・・ウマ耳・・・尻尾・・・ウマ娘」
いつの間にか耳と尻尾をはやしたサイさん。
髪と同じ美しい白銀の毛並み、耳と尻尾がこの人の正体を現している。
「普段は覇気のコントロールも兼ねて隠しているんだけど、特別よ」
「・・・・ふつくしい」
「ありがとう。どう?私は怖いかな?」
「全然、凄い・・・ウマ娘が俺の家族に・・・感動した!泣いていい?」
「これくらいで泣かないでよ。今から一緒にたくさん笑ったり泣いたりしましょうね」
「うん。もちろんさぁ」
「この調子でどんどん他のウマ娘とも仲良くなれるはずよ」
「希望がわいた」
家族ができた、ウマ娘と仲良くなれた。
一挙両得なサイさん。
「そうそう家族になるんだから、真名もちゃんと教えないとね」
「しんめい?」
「本当の名前よ。堅苦しいから普段はサイで通しているわ」
「おしえておしえて」
「コホン・・・よく聞いて覚えてね」
この日、告げられた名前と、とびきりの笑顔を俺は生涯忘れない。
「私の名前は・・・"サイバスター"・・・今日からあなたのお母さんになるウマ娘よ」