「ヤベっ、降ってきた」
帰宅中突然の雨、そんな日に限って傘がないあるある。
降水確率10%で降るのやめてくれませんかね。
雨を避けるため、帰宅ルートを変更する。
いつもは通らない地下道を選択した。
「ここ、不気味だから苦手なんだよな」
点滅する切れかけた蛍光灯、意味不明な落書き、生ぬるい風、なんか臭うし。
全てがその何というか、出そうじゃんアレが。
別にビビッてねーし。
若干小走りになりながら家路を急ぐと、前方から何かが接近して来るのに気が付いた。
二人の子供?
衣服の感じから両方とも、小さな女の子だ。
大きいスーツケースをガラコロと、音を立てながら牽引している。
うわーますます雰囲気出してきたー。
双子のアレ?ホラー映画でよく見ますよねー。
べっ、別に恐くねーし。
近づくにつれ女の子たちの全貌が露になる。
ちょいちょいちょい、なんで二人ともずぶ濡れなの!俯いて無言ヤメロ!なんか喋れ!
来てるこっち来てる!
いや、別にビビッてねー...嘘ですビビッてます。助けてー母さん!
なんかドキドキしてきたわ、これが恋?
いきなり飛びかかって来たら、マジでどうしようと心配していたが。
何事もなくあっさり横を通過しようとする二人。
へへっ、脅かしやがって。
ホッと一安心すると同時、すれ違いざまに二人の顔をチラ見で確認。
俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。
「なあ、大丈夫か?」
よせばいいのに、声をかけてしまった。
ピタっと二人の足が止まる。
そして振り返る。
「大丈夫って」
「私達の事、ですか」
「いや、お前ら以外誰がいるんだよ」
思わず声をかけた理由は二人の状態・・・これはヒドイ。
全身ずぶ濡れの衣服だけでなく、顔やあちこちに泥がついて汚れている。
目元が少し腫れていることから、泣いてたのかもしれない。
おまけに転んだのか、膝や手にスリ傷があり出血した跡がある。何故か鼻も赤い。
二人が持つスーツケースは、少女の体には不釣り合いで大きい。
こんな重そうなの、よく運べたな。
「もう一回聞くぞ、大丈夫か?」
再び問いかける。
しばし沈黙。
すると髪の長い方の女子がプルプル震えながら呟く。
「...じゃない]
「ん?何だって」
「大丈夫じゃないです!!」
いきなり叫ばれてビックリする。
ええー、最近の子ってば、こんなにもキレやすいの?怖っ!
「見てわからないんですか!?こんなに濡れて泥だらけで、ケガもしているんですよ!大丈夫な訳ないじゃないですか!!」
「ちょっと、ダイヤちゃん落ち着いて」
「落ち着ける訳ないです!家出初日に迷子からの集中豪雨!滑って転んでご覧のありさまですよ!!!」
「ダイヤちゃん、顔から行ってたもんね」
「そうだよ顔面からですよ!あー!まだ痛ったいし!私じゃなかったら確実に鼻もげてた!」
「その時、服を引っ張って私も道連れにしたよね」
「顔面無事だったからいいじゃない!ホントごめんなさい許して!」
ロングヘア―の方がキレながらまくし立て、黒髪の方がなんとか落ち着かせようとしている。
うるせえ!マジうるせぇ!
なんだか元気そうじゃん。早まったかなと少し後悔する。
「大体、都会の人は冷たいです。こんなに悲惨な状態の女児二人を放置とか、見て見ぬふりしてサイテーですよ!」
「泣き出したダイヤちゃんが震脚で地面割ったりするから、皆ドン引きしてただけじゃ」
「家出は無謀でしたかね・・・」
「"今日は家出するにはいい日だ"とか言い出して、私を巻き込んだのダイヤちゃんだよね」
「キタちゃんだって"わー家出なんて初めて楽しそー"てノリノリだった癖に」
「記憶にないな!」
「あ、コイツ!?」
責任を押し付けあってケンカを始める二人。
俺を置いてけぼり、もう帰ってもいいよね。
「二人とも元気そうで安心したぜ。じゃあな、気を付けて帰れよ」
よし早く帰ろう。帰って忘れよう。
「待ってよ!」
「待って下さい!」
瞬間、風が駆け抜けた。
先程まで後ろで言い合いをしていた二人が、今俺の正面にいる。
な、瞬間移動だと!?いや違う、物凄い速度で俺の正面に回り込んだのだ。
「お兄さん、心配して声をかけてくれたんだよね」
「あなたは優しい人なんですね。私にはわかります」
「そんなあなたに、大事な大事なお願いがあるよ」
「重要事項を説明します。ちゃんと聞いて下さいね」
あー聞きたくない。
「「いくよ、せーの」」
せーのじゃねえよ。
「「どうか私達を誘拐してください!!!」」
ハモんなや、息ぴったりか!あらやだ、二人ともお辞儀の角度超キレイ。
瞬間移動と見間違うほどの、爆発的な脚力。
子供の体躯で大型スーツケースを苦も無く持てる膂力。
頭のおかしい言動、垣間見える凶暴性。
下げた頭にはピコピコ動く獣の耳がついている。
ファサファサと無意識に揺れるしっぽも確認した。
そして何より、この俺がわざわざ声をかけてしまった事。
ここから導き出される結論は・・・。
「もしもし?警察ですか?不審者二名と遭遇して困って・・・ちょ、お前ら離せ、やめっ、やめろーー!!!」
俺のスマホを奪い通報を阻止しようと、飛びかかってくる二人。
こいつら人間じゃねぇ!!!
人々はその存在を「ウマ娘」と呼んだ。
これが俺たちのファーストコンタクト。