いやぁ・・・アルクオンは強敵でしたね。
【シュウ】マサキがクロシロと合流後
「ただいま戻りました、マスター」
「お帰りなさい。あーあー、ずぶ濡れじゃないですか」
「はい。夜の海水浴は無謀であると理解しました」
「足も痛めているようですね。ちょっと待ってくださいよっと」
帰還してきた愛バ、ブルボンにタオルを渡す。
こんなこともあろうかと、備えあれば患いなしだ。
負傷した足に手を当てて、覇気によるヒーリングを行う。
愛バへの覇気の補給と、ケガの治療は操者の基本スキルだ。
「戦闘が開始された模様です、私は加勢しなくていいのでしょうか」
「あなたは十分に戦いました。後はマサキたちに任せましょう」
「了解。マスターと共に待機して戦況を見守ります」
今日がマサキの初陣。先ずはお手並み拝見と思っていたのだが・・・。
・・・は?まてまてまて、いったい何をしてる。我が目を疑う光景が展開される。
遠目でもわかる、なんだあの戦い方は!
操者は後方に位置し、戦況を分析して作戦指示を出しながら、覇気の供給とサポートに徹する。
騎神は前に出て操者を守り、指示を忠実に遂行しながら戦う。これが普通。
だがあの三人は違う・・・。
操者が一番前に出ようとする、騎神へ攻撃が行かないように受け止める。騎神はそれを止めない。
覇気を湯水のように垂れ流し、必滅の一撃を連続で繰り出す。
羅刹機でなければ最初の一撃で終わっていただろう。
そもそも対騎神用兵器と素手で殴り合いをしている人間・・・訳がわからない。
作戦も何もあったもんじゃない、あれはアドリブだ。
その場の勢いと流れで決めたやり方を、瞬時に全員が共有する。
覇気の供給と回復はしていない・・・違う、常にやっているだと!本人は気づいてないし。
戦いながら範囲内の騎神を複数同時にサポート、ありえない。
二人の騎神もおかしい。
見た感じ10歳前後、あの年であれだけの技量と度胸をもつ騎神はそういない。
操者の凶暴すぎる覇気を受け入れる優れた資質、並みの騎神はあの覇気に耐えられない。
操者に二人で抱きついた時は、気でも狂ったのかと思った。
そのふざけた行動すらも、理にかなった結果をはじき出す。
密着することで自身の回復を早め、操者を守りつつ、連携攻撃を可能とした。
全て考えての行動?・・・いや、ただ甘えたいだけか・・・戦闘中にやるな。
操者を守りながら、任せられる所は任せる。完全に自分たちと同等の戦力として組み込む。
各々が自身の判断でメチャクチャな攻撃をする。
まるで三人で戦果を競い合うような戦い。
それが見事に噛み合い絶大な威力を生み出す。
相手は堪ったものではないだろう、気づいた時には奇行種たちによって、追い詰められているのだから。
アホだ!アホすぎる。
あまりにも異常、あまりにも規格外・・・だがしかし。
「強いですね。私と三人で戦った時の何倍もいい動きです」
「水を得た魚・・・操者を得た騎神ですか」
あの三人は強い、それは紛れもない事実である。
これが契約直後のチームだと言うのだから恐ろしい。
しばらくして戦況に変化が訪れる。
「覇気の収束を確認。アルクオン、憧れの自爆シーケンスに入りました。」
「そんなものに憧れないように、自爆なんて許可しませんよ」
「了解。マスターに大切にされていると認識。ボンさん思わずニッコリです」
「ボンさん?」
「あだ名をつけていただきました。気に入っております」
「人の愛バに何やっているんですか、マサキ」
「ボンさんの継続使用許可を申請します。それともマスターがつけてくださいますか?」
「私がですか?・・・"もりそば"か"うおのめ"なんてどうで・・・」
「ボンさんでお願いします!以降新たな呼称を付与することは断固拒否します!」
「被せ気味に即答されてしまいました・・・ションボリです」
ネーミングセンスが終わっていた。
向こうでは、マサキが自爆しそうなアルクオンに組みつかれて。
おや、流石にピンチですか?
「危険度上昇中。非常にマズい状況だと判断します。よろしいのですか?」
「ええ、我々はこのまま観戦します」
「マサキさんはマスターのご友人、兄弟も同然だと伺ったのですが」
「そうです大事な家族ですよ。しかし、手は出しません」
「理由を求めます。なぜですか?」
「この程度の試練をクリアできないようでは、来たるべき激動の時代を生き残れませんよ」
「無理なら一層の事ここで果てろと?・・・鬼ですかアンタは」
「アンタって・・・まあ見ていなさい、私の弟分は伊達じゃありませんから」
覇気を送り込み内部崩壊を狙ったマサキ。
成功したようだ、アルクオンが崩れ落ちる。
勝った、三対一とはいえ人間が羅刹機に・・・。
「戦闘終了を確認。お見事ですね」
「理論上可能とはいえ過剰供給で内部崩壊させるとは・・・底が見えませんね」
マサキの勝利を見届けて、一安心する。
今回の事件を関係各所に報告しなければ、事後処理が大変ですね。
母たちにも連絡を取らないと・・・。
今後の方針を検討している最中・・・それは起こった。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!」
獣の咆哮が響き渡った。
覇気の爆発が起こる、空が大地が光に埋め尽くされた。
「超特大の覇気を確認!総量計測不能!・・・信じられません」
「まったく、本当にあなたと言う人は・・・」
「教えて下さいマスター、彼は何なのですか?」
「間違いなく人間ですよ、ちょっと変わってますが」
「ちょっと?」
天に立ち昇る光の柱を見ながら呟く。
「その光はあなたに更なる困難をもたらす危うい力です。ですが、人とウマ娘の未来を照らす希望の光でもあります」
「全てはあなた次第です。・・・それにしても」
ああ・・・。
「なんと美しい・・・」
覇気を感じられる者は、皆揃ってある予兆を感じた。それは新たな時代の幕開け。
この日、日本いや世界中のウマ娘の尻尾が数分間ピーンとなった。
【同時刻・日本各所】
マサキが盛大なクシャミ(覇気全力開放)をした時。
力の強弱に関わらず操者とウマ娘たちは皆戦慄した。
中でも特に強い反応を示した者たちがいる。
既に騎神である者、力を自覚してない者、己の使命を知らぬ者、どうでもいい者・・・・。
反応は様々、焦燥、恐怖、不安、歓喜、困惑・・・。
「お母ちゃ~ん!い、今なんか凄いのが・・・」
「いったい何?・・・この景色の果てはどんなに・・・」
「え、おばあ様はこの狂った覇気の持ち主をご存じなのですか?」
「何だよ今の!う~カイチョ~、ボク怖いよ~」
「覇気に悪意は感じない。せっかく思いついたギャグは忘れてしまったがな!」
「お、お、おう?な~んか面白れぇ奴がいるな」
「誰?・・・お兄様?」
「日本に戻ったかいがありました~。ふぅ、お茶が美味しい」
「とっても、とぉ~ってもイイ覇気デース」
「どんな策や仕掛けも通じそうにないな~。それにしても大物だ」
「私は1番になるの・・・なによ、怖くなんかないってば!」
「くぅ~すっげぇイカした覇気じゃねえか!燃えるぜ」
「わかっちゃった!この人バビューンて飛んでいっちゃう」
「あらあら、甘やかしてあげたいですね~」
「随分イキのいいモルモットがいるな」
「腹が減った」「お兄ちゃん?」「がんどうじだぁぁあああ!」「顔でかいからや!」「別に」
「ワォ!」「マッスル!」「バクシーン!」「チョベリグね」「タイマンしてぇ」
「主演は譲らないよ」「この渇き・・・こいつなら」「やる気が下がった」「ファンの気配」
「わ~凄い凄い」「シラオキ様お救いください」「あ~庶民の私にはキッツイなコレ」
「お~ほっほっ、ゲホッ!ゴホッ!・・・ゲフンゲフン!一流の覇気?」
「驚愕ッ!この覇気はいったい・・・」
「ようこそ!お待ちしておりました。未来を紡ぐ新たな操者の誕生を歓迎いたします」
【シュウ】
覇気の流失が収まった後。
サトノ家のものであろう多数の車両が現れ、マサキたち三人と羅刹機の残骸を回収していった。
「ふむ、今夜はこれにて一件落着ですね。帰りましょうか」
「はい。バッドステータス「空腹」を感知。晩御飯を所望します」
「はいはい。何が食べたいですか?」
「マスターの手料理なら何でも来いです」
「いいですよ。あなたも手伝ってくださいね」
「私は玉子焼きしか作れませんが善処します」
「昨日のあれは玉子焼きでしたか・・・ダークマターかと思いました」
最近、一緒に暮らし始めた愛バとの関係はすこぶる良好だ。
「あの三人を見て、マスターと初めて会った日の事を思い出しました」
「真っ昼間から行き倒れを発見するとは、思ってもみませんでしたよ」
「その節は本当にありがとうございました。前日の過食が原因で消化不良を起こしていましたもので」
「いくらウマ娘でも食べ過ぎはいけませんよ」
「了解。マスターに優しく介抱して頂いたメモリーは永久保存です。忘れません」
「私も覚えていますよ。出会って5分のウマ娘に、ゲロぶっかけられた超レア体験を!」
「それは忘れてください!!!」
ゲロはともかく、自分たちの出会いはよくある話だ。
出会って、何度か一緒に行動して、仲良くなって、契約して今に至る。
まあ、詳しく語ると本当に濃ゆいイベントだらけだった気がする。
多かれ少なかれ、人間とウマ娘の日常はドタバタするものだと思う。
マサキも僅か2日でこのありさま、今後も楽しく苦労するだろう。
「マサキたちを見て思いついた事があります」
「なんでしょうか?」
「ブルボン、あなたさえよければ、もう一人騎神と契約したいのですが?」
「バッドステータス「憤怒」。浮気宣言ですか?」
「気を悪くしないでください。あ、私の関節はその方向にはむり・・・それいじょうはいけない」
「明確な理由の説明をお願いします。返答次第では「暴走」もやむを得ません」
「マサキが覇気を開放できたのは、契約によって封印の扉が解除されたのではないかと」
「それで」
「私も体の奥でずっと何か・・・つっかえている気がするんですよ」
「それで」
「あなたと契約した時、私の覇気封印の扉が半分だけ開いたと仮定します」
「それで」
「もう半分を開けて全力を出すための鍵、もう一人の騎神が必要です。理解しましたか?」
「つまり私だけでは満足できないので、もう一人女を囲いたいと・・・」
「だいたいあってます」
「・・・戦力強化のためなら仕方ありません」
「わかってくれましたか。そろそろアームロックを解除してください!」
「騎神追加の件、了解しました。ですが条件があります」
「条件?」
「候補は私の検索にヒットするそれなりの力をもつ者に限定、契約時には私も立ち会います」
「いいでしょう。他には」
「私とのスキンシップを増加する事と、実家に来て父に会ってください」
「あなたの御父上にですか・・・ただの挨拶ですよね?深い意味はないですよね」
「はい。結婚を前提にお付き合いしていると、宣言してくださるだけで結構です」
「おや?変ですね、愛バが嫁にクラスチェンジしそうです」
「こういう事は早い方が良いと、お義母様もおっしゃってましたよ」
「お義母様?・・・まさか私の母に会ったんですか!」
「はい。先日、ご実家に挨拶して参りました。とても可愛らしい方ですね」
「フフッ、異常なスピードで外堀が埋まって行く、怖いですね」
「連絡先も交換済み毎日マスターの話題で盛り上がってます。嫁姑問題はクリアですね」
ブルボンの行動力と母の間違った包容力に頭を抱える。
「その話はやめましょう。騎神候補の件ですが」
「検索条件を指定してください、ご希望をどうぞ」
二人目の騎神・・・どんな娘がいいでしょうか?趣味全開でも許してくれますか?
うーんと、そうですね。
「自己肯定感が低く自信喪失気味。健気な頑張り屋さんで、守ってあげたくなるような儚さと可憐さを備える。本気になった時は誰よりも男前!カッコカワイイの融合。自分の事を兄と慕ってくれる妹属性。この条件でお願いします」
「細かすぎる条件に引きましたが・・・データベース検索開始・・・一名ヒットしました」
「!?自分で言っておいてなんですが、いるんですか!そんなあざと・・・夢みたいな娘が」
「実在しております。マスターが好きな二次元の存在ではありません」
「言ってみるもんですね。年甲斐もなくワクワクしてきました」
「私をないがしろにすると、マスター特攻モード「ヤンデレ」を発動しますので、注意してください」
「そんなことしませんよ、まだ死にたくないですし」
「ところで、マスターはメカクレ女子はお好きですか?」
「フフッ、大好物ですよ!それが何か?」
「いえ、騎神候補には期待していいですよ。是非彼女のお兄様になってあげてください」
そうして二人は家路に着く。
二人にもう一人の仲間が加わるのは、そう遠くない未来。
ちなみにダークマターを食した二人はお腹を壊した。
【サイとネオ】
シュウが帰宅した頃。
とある村の邸宅の玄関扉をガンガン叩く女性がいた。
「ネオ~、ネオってばぁ~開けてよぉ~」
「こんな時間に何よ、いくら田舎でも近所迷惑よ」
「ちょっと、晩酌に付き合ってよ~。今夜は一人でいたくない」
「サイさん・・・あなた酔ってるわね。もう弱いくせに何やってるのよ」
「うるさいな。私っだって飲みたくなる事もあるのよ・・・ゔぇっぷ」
「ちょっと!ここで吐かないでよ!あー世話が焼ける」
少し前に大規模な覇気の放出を確認した。
おそらく、いや確実にマサキだ。
あの覇気量は封印が解除された結果。つまりマサキが誰かと契約した証だった。
いつかこんな日が来るのはわかっていたが、大事な一人息子を取られた気がして荒れているのだろう。
「うう~マサキ・・・マサキがぁ~」
「はいはい。ゲロ吐いて少しは楽になったでしょ?マサ君にそんな醜態見せられないわよ」
「なによ、随分余裕じゃない。シュウだっていつかは契約するのよ、その時アンタ平静でいられる?」
「どうするも何も、この間シュウ君の愛バが挨拶に来たわよ」
「うそ!そんな楽しそうなイベントに何で呼ばないのよ、薄情者!」
「私たち二人で出迎えたりしたら、向こうが卒倒するかと思って配慮したのよ」
「で、どんな子だった」
「ちょっと表情が硬いけど、とってもいい子よ。今じゃ頻繁に連絡取り合ってるわ」
「なんだもっとドロドロした嫁姑戦争見たかったのに」
「そんな事しないわよ。私を何だと思ってるの」
「20年前、人間とウマ娘の連合軍を恐怖のどん底に陥れた、最凶最悪の騎神かしら」
「そうだけど!そうなんだけど!もう・・・黒歴史やめてよ」
「あ~どんな子と契約したんだろう・・・礼儀を知らないクソガキだったらマジで潰す!」
「今からケンカ腰でどうするの、大丈夫マサ君が選んだならきっといい子よ」
「だといいけど・・・マサキはロリコンの気があるから若い子だと予測するわ」
「愛息子をロリコン呼ばわり・・・まあブルボンちゃんも中学生ぐらいだったし」
「ならマサキの愛バは小学生それも良家のお嬢様ね!」
「・・・・」
「・・・・」
「サイさんのカンはよく当たるのよね・・・ロリコンでも暖かく見守りましょうね」
「中学生だって十分ロリコンじゃないの!何自分の息子はセーフみたいな顔してるの!」
こうして夜が更けていく。
息子たちの成長を喜び、親離れしていくことに少しの寂しさを感じた。
夜空を見上げて思う。
私たちは母として何が会っても子供たちの味方になると、たとえロリコンでも。
「シュウ君、マサ君・・・二人ともしっかりね。あなた達の行く先に幸多からん事を」
「行きなさい二人とも。他の誰でもない自分のために、新しい時代はすぐそこよ」