俺と愛バのマイソロジー   作:青紫

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せんたく

 母さんに「ダメ!」と言われて、クロシロは動かなくなった。

 

 頭を下げたまま固まっている二人。

 

「母さん・・・酷いじゃないの・・・」

「今のは許す流れじゃろう」

「いびり?嫁いびり!もう開始しちゃうのね、引くわー!」

「ちゃんとした理由があるのよ。話を聞いて」

「同居は絶望的か、冠婚葬祭以外の帰省は遠慮するわ。俺はエネ夫にはならん」

「姑の意地悪から奥さんを守ろうとするマサ君。いい男になったわね」

「リアルな将来設計立てとるんじゃな。立派じゃぞ」

「あれ?私、息子に見限られたクソババアになってる」

 

 石化が解けた二人が発言する。

 

「あ、あの私達まだ全然未熟者ですけど。いっぱい努力しますから」

「マサキさんを好きな気持ちは本物です。どうかお許し下さい」

「お前達・・・母さん、あの優しいあなたは、どこへいってしまったんですか」

「息子の幸せを喜べない鬼畜。ああはなるまい」

「失望しました。サイさんのファンやめます」

「ヤベェぞ味方が一人もいねぇ!やめてよ!悪者にしないでよ!」

 

 俺たちから責められた母さんが体育座りでいじけ始めたので、悪ノリ終了。

 

「ダメな理由を話してくれ。婚約は置いといて、愛バとして認めないって事か」

「今のあなた達はとても不安定な状態にあるの。このまま症状が改善されなければ、契約解除も視野に入れた方がいいわ」

「急な契約解除は難しいし、良くないって聞いたんだが」

「ここに天級が三人おる。わしらの力で無理に引き剥がす事も一応できる」

「もちろんリスクはあるわ。解除後のリスクより契約続行のリスクが上と言いたいのね」

「二人の事が嫌いじゃないの。むしろ息子を選んでくれて感謝してる。でも、この先何が起こるかわからない以上、あなた達を認める訳にはいかない」

「そうね。最悪命にかかわるかも知れないし」

「残念じゃが・・・こればっかりはのう」

「命が・・・俺のせいで・・・二人が」

「どうする?早い方がいいかもしれない。決めなさい、今ここで契約解除するか。ビアン博士の到着を待って僅かな希望にかけるかを」

「二人の命には代えられない。契約を解除して・・・」

「「待って!!」」

 

 俺の声を遮るように叫ぶ二人。その表情は真剣かつ必死だ。

 

「それだけは嫌!お願いだから、解除するなんて言わないで!!」

「お願いします!やっと出会えたんです、ずっと待っていたんです。この人しかいないんです!!」

「わかっているのか?お前ら死ぬかも知れないんだぞ!・・・そんなの俺は絶対に嫌だ!」

「十分理解してるよ。でもね、契約解除して生き残っても、死んでいるのと変わらない」

「あなたとの契約には命をかける価値がある。たとえ死んだとしても後悔しません」

「なんで、なんでそんな事言うんだよ!いいじゃないか、契約ぐらい。そうだ、一旦解除して落ち着いたらまた契約し直せばいい」

「それは無理」

「無理?なんで」

「一度契約を解除した人間とウマ娘は、互いの覇気を受け付けなくなるのじゃよ」

「近くにいるだけで体に不調をきたすようになって、酷い時はお互いを認識できなくなるの」

「認識できなるなるとは・・・」

「名前も素性も知らない赤の他人になるって事よ。愛バからモブウマ娘Aになるみたいに」

「これは自己防衛の一種ではないかと考えられているの。自身に害を及ぼす覇気の持ち主を遠ざけるため、記憶を改ざんすらしてしまう体の防衛システム。まだ研究不足だってシュウ君は言ってたかしら」

「お主達は、噛みついて契約したんじゃろ?おそらく解除後の後遺症は酷くなるぞ」

「・・・でも死ぬよりはいい・・・だったら俺は」

 

 二人が俺に縋りついて来る。

 やめろ、そんな顔をするな。俺だって辛いんだ・・・。

 

「嫌だ。いやだいやだいやだ!捨てないで、離さないで、一緒にいてよ!!」

「あなたを忘れるのも、忘れられるのも耐えられません。そうなるぐらいなら・・・死んだほうがマシです」

「でも・・・ああ、くそっ・・・どうしたら」

「ここまで抵抗されては無理じゃろ」

「解除には契約者全員の同意が不可欠でしょ、サイさん」

「わかったわよ。でも本当に危険だと判断したら、無理にでも解除させるわ。覚えておいて」

 

 契約解除は保留となった。

 小さく震えながらしがみついてくる愛バを、俺はただ撫でつづけた。

 

「話はとりあえずこれでお終いね。お腹空いたでしょ、何食べたい?」

「私も手伝うわ。今日は腕を振るっちゃうわよー」

「にんじんのフルコースはやめてくれんかのう。肉が食いたい気分じゃ」

「え?ウマ娘の癖に、にんじん苦手なんですか。珍しい」

「極たまーにいるのよね。人間だってカレー嫌いな人いるじゃない」

「でもこの世界でにんじん嫌いって、結構致命的な気がする」

「別に嫌いではない。ただ、この世から消えて欲しい野菜№1なだけじゃ」

「超嫌いじゃん・・・」

 

 母さん達が料理の準備を始める。

 クロシロは・・・うーん、耳がペタンとしてる。

 元気だしてよ。ずっとこのままでいるわけにもいかないでしょ。

 

「体は大丈夫か、辛いようならまだ寝てろよ」

「・・・一緒にいていい?」

「・・・あの・・・また抱っこしてください」

「わかった・・・でも、その前にトイレに行かせて・・・」

「・・・締まりませんね」

 

 生理現象には勝てなかったよ。

 ずっと行くタイミングがなかったから、ものすごく出したいです(大)。

 ふースッキリした。手を洗って部屋に戻る。

 

「母さん、俺も何か手伝おうか?」

「こっちはいいから、二人についててあげなさいな」

「じゃあ少しこの辺を散歩して来るよ」

「夕飯までには帰ってくるのよ~」

「わしもブラブラしてこようかのう」

「アンタは庭の掃除よ」

「気を付けてねマサ君」

 

 クロシロを抱っこして外に出る。ふぃーこの空気、変わってないな。

 まだ本調子ではない二人を連れて久しぶりの故郷を歩く。

 

「相変わらずド田舎だな。畑と川と山・・・」

「良い所だね。空気が澄んでる気がする」

「なんか虫が多そうですね。カブトムシが簡単に取れそう」

「いるぜ。運が良けりゃ蛍だって見る事ができるぞ」

「マジで。自然豊か~」

「?・・・なんでしょう不自然にえぐれた山の地形・・・まさか」

「そのまさかだ。たまにな母さん達がな・・・察して」

「あれは何?畑に変な穴がある」

「こっちにも妙なものがありますよ。動物園の檻?と看板ですか」

 

 古ぼけた看板には「エサを与えないで下さい。お仕置き中です」とある。

 

「それらは全てとある男のために用意されたものだ」

「いったいこの村に何があったの?気になる」

「閉鎖された村で起こる不可解な事件と民間伝承。伝記ホラーサスペンス始まった」

「そんな大した話じゃねえよ。ひぐらしは鳴きません!」

 

 懐かしい、母さんの目を盗んで何度か脱獄を手伝ったこともあったな。

 もういい加減、檻は片付けましょうや。シュウの他にここに入る奴いないだろ。

 

「おお、川だー!綺麗だね。橋の上から飛び込んでみたい」

「釣りやキャンプも楽しめそうですね」

「いつかやろうぜ。泳ぐのも釣りもキャンプも全部な」

 

 いつか・・・か。

 

「ヒリュウはどこに停泊したんだか。まあ人が住んでいない土地なら一山超えた先にあるか」

「ステルスモードで待機していれば、簡単には見つけられないよ」

「逃げる隠れるふざけるはサトノ家の得意とする所です」

「母さん達がいるから、戦艦程度じゃここの住民は動じないぞ」

 

 道中何度か村民とすれ違う。

 

「まあ、カワイイ子ね。お子さんかしら」

「違います。でも大切な存在です」

「大事にしてあげなさい。きっと素敵な美人になるわよ」

「ですよねー。今もこんなにカワイイですから」

「「・・・・////」」

 

 何照れてんのよ。こっちまで恥ずかしくなるでしょ。

 後、人見知りしなくてもいいのよ。ボンさんやグラさんには普通だったじゃない。

 知らない人が近づくと俺の服をギュッと掴んで緊張する二人。大丈夫大丈夫よ。

 ここに住む者は訳ありのウマ娘が多く、他人の事情には深入りしないのが暗黙の了解だ。 

 俺が幼女二人を抱っこして出歩いても逮捕される事はない。ないよね?

 

「あの建物は何?やたら未来的な造り、警備員までいるよ」

「あの武装ただの警備員じゃないですね。何を想定して配置されているんでしょう」

「あれは大昔からある遺跡らしい。母さんには絶対に近づくなと厳命されている」

「何があるんだろう?あの建物見てると尻尾が逆立つよ」

「噂では異世界への"門"があるらしいぞ。嘘くせ―よな」

「中に入った事は無いのですか?」

「無いな。母さんとネオさんシュウに、ビアン博士はたまに様子を見に行っているらしい」

「隠されると余計気になりますね」

「触らぬ神に祟りなしだよ」

 

 村の散歩コースをゆっくり歩いて行く。

 小さい頃から走り回った道だ。本当に変わらない。

 おや、向こうから車が近づいて来るぞ。

 

「マサキ君!ブラックにダイヤも目が覚めたのか良かった」

「パパ、心配かけてごめんね」

「すっかり元気とはいきませんが、今はなんとか起きていられます」

「そうか無理はしないでくれよ。私はこのままサイさんのお宅に行くがどうする」

「もう少し散歩して帰ります。二人ともそれでいいか?」

「うん。パパ、先に行ってて」

「天級が三人もいる魔窟です。くれぐれも失礼の無いように」

「わかっている。この時のためサングラスを新調した」

「それより、髭を剃ってくださいよ」

「いつもと違いがわかんない」

 

 実家へ向かうパパさんの車を見送って、散歩を再開。

 山の中腹にある神社に行ってみようかな。

 長い階段を登る。自分の足で歩くと言う二人に断りをいれてどんどん登って行く。

 到着したのは古くてこじんまりとしているが、掃除の行き届いた綺麗な境内だった。

 村民が持ち回りで手入れしているのだろう。

 

「手水で手を洗って参拝するぞ。一旦降ろすからな」

「割と信心深いんですね」

「日本人なら当然だ。たまにしか行かないからこそ、本気で参拝するのが礼儀だろ」

「初詣も疎かにしちゃう私は悪い子かな」

「回数や日時は関係ない、ようは気持ちの問題だ。行きたくなったら行くで丁度いいと思うぞ」

 

 手順に従って参拝を行う。

 コラやめなさい!そんなに鳴らさなくてもいいから、鈴が落ちて顔面直撃する天罰が下るぞ。

 やだ、現金が3円しかない!キャッシュレスに頼り過ぎた。賽銭は1人1円づつね。

 神様、二人と会わせてくれてありがとうございます。

 願い事は・・・クロとシロが元気になりますように・・・。

 

「何をお願いしたんですか?」

「それ聞いちゃう?うまぴょい計画の成就を願っておいた」

「うそが下手すぎだね」

「そういうお前達は何を願ったんだ?」

「マサキさんの健康と幸せです」

「私も・・・何が起きても元気でいて欲しいから」

「バカだな。自分の事をお願いしろよ。この神社はご利益あるぞ、俺の願いは叶ったからな」

 

 小さい頃はよくこの神社でお願いしたものだ。

 ウマ娘と仲良くなれますように、いつか最高のパートナーになってくれる奴と会えますように。

 叶ったわ。でもまだこれからなんだよ、ホント頼むぜ神様。

 帰り道の下り階段でこけそうになって焦った。三人で顔面に傷を負う所だったぞ。縁起悪いわ!!

 

 散歩を終えて家に帰った頃には日が暮れていた。

 

「その節は大変ご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした!」

「いえ、こちらもずっとあなたを誤解していたようだ。頭を上げてください」

「何度目の謝罪じゃコレ?もうええじゃろ、見飽きたわい」

「おかえりなさい。もうすぐご飯だからね」

「どしたの?ネオさんとパパさんの土下座合戦?」

「まあいろいろあるのよ」

「懐かしいですな。"グランワームソード"でしたか、あれが私の股間数センチの所に突き刺さった時のタマヒュンは忘れられません」

「あの・・・本当はまだ怒ってますよね・・・ごめんなさい!!」

「パパ、何があったか知らないけど許してあげて」

「父の股間に何かあったら私の存在が無かった・・・これは怖い!」

「シロ、真面目に考察しない方がいいぞ」

 

 皆で夕飯を頂く。今日は特別にパパさんのネコ缶は免除だ。

 落ち着くわー。久しぶりに母さんのご飯を食べてすごく落ち着いた。

 沖縄にハマっているのか?ゴーヤチャンプルーやラフテーが並ぶ食卓、美味いからいいけど。

 ネオさんが用意したのは、なぜか一本うどんだった。これは京都名物だったか・・・。

 美味っ!統一感の無い料理を平らげて満足しました。

 

 クロシロは夕食後、風呂に入ってすぐ寝てしまった。

 今日のお風呂はクロシロだけで入ってもらった。さすがにね・・・母さんの前では恥ずかしいし!

 パパさんはヒリュウに戻るらしい進展があればすぐこちらに来るとの事。

 娘が心配ではあるが頭首の仕事は忙しいんだろうな。

 眠る二人の傍に布団を敷いて俺も眠りにつく、ビアン博士やシュウが何か打開策を授けてくれる事を願うしかない。

 

 結局、ビアン博士がうちを訪れたのはそれから2日後だった。

 なんでもDC残党に家を襲撃されたらしい。リューネが返り討ちにして警察に引き渡したそうだが。

 到着したビアン博士は余計な時間を食ったと、大層お怒りだった。

 

「ご無沙汰ね。博士」

「ふん。貴様もなサイバスター」

「わしもおるぞ」

「博士。相変わらず悪人面ね」

「天級がこれだけ揃って二人の子供を救えんとはな」

「面目ない」

「耳が痛いわね」

「小僧と患者はどこだ」

「こっちよ」

 

 クロシロが起きている時間がだんだん少なくなってきている。

 今日はまだ目覚めていない・・・。

 

「博士!来てくれてありがとうございます」

「これが小僧の騎神か・・・ペドフィリアめ」

「小僧はやめてくださいよ。ペドもやめろ!!せめてロリで!!」

「お前は正確に言えばアリスコンプレックス、アリコンだ!!」

「ア、アリコン?」

 

 性的興奮を覚える年齢によって呼び方が変わる

 

 12歳~15歳 中学生 ~小学生高学年 ロリコン(ロリータコンプレックス)

 12歳~7歳 小学生高学年 ~低学年 アリコン(アリスコンプレックス)

 7歳~ 小学生低学年~幼女 ハイコン(ハイジコンプレックス)

 ~0歳 幼女~赤ん坊 ベビコン(ベビーコンプレックス)

 

 ペドフィリアは医学用語で複数の13歳以下の幼児・小児に対して継続的に強い性的衝動を覚える。

 ヤベェ奴!!!

 

「わかったか。この小児性愛者!!」

「メッチャ詳しいじゃん・・・流石博士。クソみたいな知識の披露ありがとう」

「患者を診る。邪魔だから向こうへ行ってろ」

「二人に変な事しないでくださいよ」

「お前と一緒にするな!いいから出ていけ」

 

 追い出されちゃった・・・。

 博士は結構な大荷物だった。何度か呼ばれて機器類を部屋に運ぶ、これは準備が大変だったろうな。

 客間は複数の医療機器らしき機械が置かれ、ちょっとした病院さながらになった。

 博士の診察を待つ・・・まだかな・・・まだかな。

 

「こーら、落ち着きなさい。大丈夫、博士はマジもんの天才だから」

「わかってるよ。でも・・・ううー心配だ・・・」

 

 しばらくして博士が部屋から出てくる。

 

「どうでしたか、何かわかりましたか?」

「結論から言おう、このまま何もしなければあの二人は死ぬ」

 

 天才と呼ばれる男の発言は俺を絶望の淵に立たせた。

 

「原因はわかっているだろう?お前の覇気が二人を蝕んでいる」

「・・・やっぱり」

「契約自体はなんとか完了したようだが、あの二人はまだ子供。如何に潜在能力に優れていようとも、お前の異常な覇気を受け止めきれずにいる」

「俺のせいか」

「二人で契約したのは幸運だったな。単独で契約などした日には即、壊れていたぞ」

「危なかった・・・」

「助ける方法は2つ、1つは契約を解除して他人になる事だ。命は助かる」

「もう1つは?」

「騎神二人の内どちらか一方に全覇気を移植して、力の受け皿を数倍以上に強化する方法だ」

「・・・魂継(タマツギ)」

「タマツギ?なんだそれ」

「騎神が自身の力を別の騎神や人間に継承する秘術よ」

「引退する者や自分の死期を悟った者が、子や仲間に後を託す最後の願い」

「そうか、それを行えば確かに・・・じゃがこれは」

「それじゃあ。誰か引退を考えている騎神を探してくればいいのか?」

「そうではない。助けるにはお前の覇気に蝕まれてもなお抵抗を続ける。近しい存在が必要だ」

「・・・何が言いたい」

「もう理解しているだろう。それとも理解したくないのか?」

「・・・俺は」

「現状で魂継を行えば、継承されなかった方は確実に死に至るだろう」

「・・・・」

「選べ!お前の騎神、二人の内どちらを生かして、どちらを殺すかを」

 

 ビアン博士の言葉は今度こそ俺を絶望の渦のなかへ叩き落とした。

 

 

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