旅の始まり。
「またか、またやるのか」
「すまないね。グランヴェールがつけた傷が今になって響くとは」
「おい、目標地点まであと少しだ覚悟を決めろ」
「わかった!わかりましたよ!飛べばいいんでしょ飛べば!」
故郷のラ・ギアスを後にしてしばらく。
順調に航行を続けていたヒリュウに突然のトラブル。
どうやらグラさんの攻撃は外部装甲を焦がしただけでは飽き足らず、強大すぎる覇気が内部の機器をいくつか破損させていたみたいだ。
それで海に突っ込む事になったのだが、俺を途中で降ろすらしい。
正確に言えば着陸できる場所を探してる場合じゃないので、お前だけここから飛び降りろだ。
「今回はパラシュート絶対持っていくからな」
「もう時間が無いぞ。準備はいいか小僧」
「全然良くありませんが!パパさん、ビアン博士お世話になりました!」
「ああ、君の帰りを娘達と待っているよ」
「ほら!さっさと行け!GOGOGOGO!!!」
「うるせぇ!行くぞ!アイ・キャン・フラーイ!」
さようならヒリュウまた逢う日まで。
スカイダイビング2回目。
今回はクロシロもいないし体の自由はきく、パラシュートもバッチリだ。
ちょっとは余裕があるかもな、おーもう大地が見えてきた。
パラシュートを開くタイミングっていつなんだろう?
確か早すぎても遅すぎてもダメだったような・・・もうちょっとだけ待つか。
・・・・も、もういいかな。ヤベェ緊張する。これかこれを引っ張れば。
ふん!あれ?ふんふんふんふんぬわぁああああ・・・・。
おい、いい加減にしろよ。開かねぇよ!パラシュート不発ってどういう事だよ。
まったくヒリュウは安全管理がなっとらん!
今すぐ装備の点検その他について徹底的に見直すべきだ!
「むやみに覇気を開放するなって言われても、な!」
全身のコーティングを開始、耐久性をあげる。
しまったパラシュートがあると思っていたから突っ込む場所を考慮していなかった。
ええと、あそこでいいや。後は衝撃に備えよー。
て・・・待て待て待て!誰かいるぞ、こんな山奥に!
このままじゃちょうどあの人?に衝突する!空中での進路変更なんて習ってねえよ!
気づけ!気づいてくれ!ダメか。
今日の天気は晴れときどき俺ですけど何か?言ってる場合か。
距離が迫る、はい時間切れ!
「初日で使うとはな・・・シルフィードアクセル!!!」
1日1回が限度のアクセル(風)を早速使用してしまった。
片足から疾風を発生させて無理やり位置をずらす。
衝突するはずだった人間を飛び越えて地面に突っ込む。
地面にキスする直前、その人物と目が合った気がした。
「あわ・・・あわわ・・・」
「ぐへぇ・・・大地の味がする。ぺっぺっ!あ~なんとかなった」
「人?・・・は!そ、そうだ大丈夫ですか!生きてますか」
「そっちこそな。お騒がせしてすまない、どうも怪しい者です」
「正直だべこの人!その見るからに怪しいあなたはいったい・・・」
「俺か?俺は愛バを救うため旅の第一歩を踏み出した男だ」
「へぇーそんなんですか。へぇー」
「あ、信じてないね。その目やめなさい興奮するから」
「変な人・・・でも地面に激突してこんなに元気って普通じゃない」
「えーとお嬢さん。この辺に人が集まる所はないかな?」
「ここは集落からも離れた山奥ですよ。近くにあるのは私とお母ちゃんの家だけです」
「そうか・・・なあ良ければ君の家に案内し・・・」
「・・・あげません」
「はい?」
「案内してあげません!!!」
目を見開いて「あげません!」と言い放つと同時に脱兎のごとく駆けだす少女。
そう少女・・・風になびく耳と尻尾、気づくのが遅れた。
第一ウマ娘発見!
「待てこら!逃がすか!」
「ちょ、ついて来ないで下さい!」
「こんな山奥に人間を放置して逃げるとか、とんでもない奴だな!」
「こんな山奥で子供を追いかけ回すあなたの方が、とんでもないです!!」
うっそだろ?この子速い!
覇気を制限しているとは言え、メジロ家の使用人を撒いた俺の足でもやっとだ。
「なんでそんなに速いんですか!?本当に人間ですか!」
「こっちのセリフじゃ!お前騎神か?級位を吐け!」
「きしん?何ですかそれ」
「知らねぇのかよ!じゃあ他のウマ娘に比べてどうだ?お前かなり強いだろ」
「・・・いませんよ」
「あ゛なんだって?」
「私の周りにウマ娘はいません。だから比べようがないんです」
「そ、そうか・・・ウマ娘じゃなくてボッチ娘だったか」
「今バカにしましたね。いいんです!私にはお母ちゃんや集落の皆がいるから」
「わかったわかったから、そろそろ止まれ!疲れてきた・・・げほ、うおぇ」
「仕方ないですね。大丈夫ですか?幼女追跡男さん」
「変な名前をつけるな!あ~空から落ちて急に走ったからマジしんどい」
「あの~もしかして、私にぶつからないように避けてくれました?」
「今頃気づいたか!感謝しろよ!ボッチ娘」
「ボッチて言うな!空から落ちてきたあなたも悪いですからね」
なんだ・・・この撃てば響くような感覚は。
まるであいつらがいるみたいだ。
初日なのにもうクロとシロが恋しくなるじゃねぇかよ。
「え、なに泣きそうになってるんですか?情緒不安定?」
「はぁ?泣いてねぇわ!とりあえずこの山に放置されると困るんだ。助けてください!」
「はぁ~仕方無いですね。こっちですよ、ついてきてください」
「あ、ありがとう。感謝する・・・えーと」
「人に名前を聞くときは、まずどうするんでしたっけ?」
「俺の名前はアンドウマサキだ。コンゴトモヨロシク」
「はい、よくできました。マサキさんでいいですね」
「おうよ。で君の名は?」
「ただの田舎ボッチ娘ですが何か?」
「意外と根に持つタイプだったか。ごめんなさい!許して!この通りです!」
「そんな簡単に土下座しないでくださいよ!ああもう!」
「私の名前はスぺシャルウィークです!ほら、もう立ってください」
これが旅の始まり・・・。
記念すべきENドレイン第1号となるウマ娘との出会いだった。
「スペシャルウィークか・・・スぺスぺスぺ・・・・」
「あ、なんか嫌な予感がします」
「なあ、ペスって呼んでいい?」
「ほら来た!ぺスって・・・そんな弱そうな犬みたいな名前」
「じゃあペスト」
「黒死病は絶対にヤメロ!!!なんでネズミが媒介する伝染病の名前つけんるですか!!!」
「博識なのね。冗談だよ、特別週間さん?」
「マジで張り倒しますよ。スぺです。スぺ!皆そう呼びますから」
「ペスとあんまり変わらないじゃん」
「北海道の山は寒いですよ、気を付けて野宿してくださいね。じゃあ私はこれで」
「すみません!調子乗ってました!どうかお助け下さい!スぺ様!」
「はぁ~ホント何なのこの人」
怒られちゃった。
何かこのやり取りがたまらなく懐かしくて調子に乗ってしまった。
本当に懐かしい、つい最近の事なのにな。あいつらと過ごした時間はそれほど濃かった。
森をかき分けながら進む事しばらく。
一見の民家にたどり着いた。古いけどよく手入れの行き届いた暖かみのある住まい。
「ただいまーお母ちゃん。今帰ったよー」
「お帰り・・・その男は誰だい?」
「初めまして。私の名はアンドウマサキ。空から落ちて来て娘さんを追いかけ回した男です」
「スぺ!危ないから家に入ってな。それから警察に連絡だ」
「もう!正直に言ったのにこれだよ!」
「お母ちゃん。その人頭は残念だけど困っているみたいだから、話だけでも聞いてあげて」
「・・・妙な真似したら叩き出すよ」
「望む所です。その時は尻を思いっきりぶっ叩く権利をあげます!」
「「大丈夫かこいつ?」」
スぺのお宅訪問。
ほほ~う綺麗に片付いていますな。妙に落ち着くわ~この家。
「お茶入れますね。えーと急須はこれかな」
「ちょっと人の家でなに勝手にお茶入れてるんですか。あ、茶葉はそこの戸棚です」
「お母さんも飲むでしょ。まあ座って待ってなさいな」
「ここまで堂々とされると逆に清々しいね」
3人分お茶を入れてちゃぶ台に置く。
お茶を飲みながら俺がどうして空から落ちて来たのか事情を説明した。
「へぇー愛バとやらを救うための旅に出たのかい。へぇー」
「娘さんと同じリアクションどうも。本当なんですって!」
「ウマ娘のええと覇気?が必要なんですね」
「そう!だから騎神・・・強いウマ娘を探して協力してもらいたいんです」
「そうは言ってもねぇ。騎神の知り合いなんていないよ」
「集落にウマ娘はいないんですよね?」
「ああそうさ。ここいらで探すよりもう少し都会に出た方がいい」
「そっかぁ。・・・わかりました。あの最寄りで駅などがあれば教えてくれませんか?」
「ここからだとかなり距離があるよ。それでもいいのかい」
「大丈夫です。脚力には自信があるんで」
駅までの道を聞くことができた。
よし!早速出発だ!
「ありがとうございます。では俺は行きます!お邪魔しましたぁー」
「あ・・・行っちゃった」
「変わった奴だね。スぺ、あんまり変なもの拾ってきちゃダメだよ」
「はーい」
数時間後
「あ」
「あ」
「なぜだ・・・俺は駅に向かったはず。どうして戻ってきてしまったんだ?教えてくれスぺ!」
「知りませんよ!なんで・・・というか何があったんです?服がボロボロですけど」
「ああ、聞いてくれ。確かに駅に向かったのに、森の中をずっと彷徨うわ、熊に遭遇するわ、崖から落ちるわ、とにかく大変だったんだ」
「ほぼ一本道なのになんで迷うんですか。おや・・・血の臭いがしますね」
「熊が余りにしつこいから、思わず殺っちゃったぞ」
「なんてこと・・・死体の場所を教えて下さい。やった!熊鍋なんて久しぶり!」
「逞しい!ところでスぺさん、お母さまは?」
「お母ちゃんは集落の会合へ行ったので留守ですよ」
「ええー、もう一回道聞こうと思ったのに」
「地図ありますか?私が教えてあげますよ」
「スぺ、お前は出来る奴だと思っていたぜ。お願いします」
「はいはい。よく聞いてくださいね。えーと現在位置がここですから・・・」
スぺに懇切丁寧に教えてもらって再出発、今度こそ!
スぺの奴「もう戻ってくるなよ」みたいな顔してたな。
数時間後
「あ」
「あ」
「なんでだぁあああああああ!!!」
「叫びたいのは私ですよ!わざとやってるでしょ!ねぇ!そうなんでしょ!」
「何が悲しゅうて数時間森を彷徨って元の場所に戻る遊びを2回もやるんだよ!わざとじゃねーよ!」
「マサキさん、あなた方向音痴ですね。重度のいや末期の!」
「べべべ、別にほ、方向音痴なんかじゃありませんのことよ」
「嘘下手すぎ!そうだスマホあるなら地図アプリでナビしてもらえば」
「フッ、とっくの昔に試したさ。それでも無理なんだよ!ちなみに今は人生の方向音痴でもある」
「もうやだ、今すぐ病院に行ってください!頭の!」
「辿り着ければな」
「うるせぇよ!もう一回教えます。ラストチャンスですからね」
「ありがとう!なぁ熊どうした?」
「もう解体済みですよ。あなたが死体の場所を覚えていれば、もっと早く完了してました」
「あの、服に血が飛び散ってかなりグロい絵面になってますよ」
「生き物を解体したんですよ?血がつくのは当たり前でしょ」
「こ、これが山育ちか・・・」ゴクリ
俺も田舎に住んでいたがここまでワイルドな子は初めて見た。
血が付着した衣服を着ていても、生まれ持った容姿でちょっと綺麗というかカッコよく見える。
ふむ。戦場を駆け抜ける殺戮幼女か・・・クロとシロも似合いそうな・・・ていかんいかん。
ダメだ隙あらばあいつらの事を考えてしまう。
せっかくスぺが道を教えてくれるのに頭に入らない。
「聞いてるんですか?やる気がないなら永遠に森を彷徨ってくださいね」
「す、すみません。どうか見捨てないで」
「待ちな!」
「お、お母さま・・・」
「今日はもう止めておくんだね。もうすっかり夜だし、泊まっていきな。明日車で送って行ってやるよ」
「ありがたい申し出ですが。いいんですか?こんなヤバい男を泊めるなんて!」
「自分で言ってりゃ世話ないね。どうせ道を教えた所で数時間後また戻って来るんだろ」
「・・・てへっ」
「スぺ、アンタの部屋に泊めてやりな。布団は用意してやるから」
「お母ちゃん!なに血迷っているの!娘が襲われてもいいの!」
「わかっておくれよスぺ。お母ちゃんだってこの男に襲われたくないの」
「う~ん失礼な親子だな~」
「だからってこの人と同じ部屋で寝る意味がわからない!」
「あんたはウマ娘、とっても強い子だ。いざとなれば自分の身は守れる。私はか弱い人間なんだよ」
「天国のお母ちゃん1号に報告してやる!2号は私を生贄にしたって」
「頑張るんだよスぺ。信じているからね」
「ねぇ風呂沸かしてもいい?早く入りたいんだけど」
「もう疲れた。好きにしてください」
お泊り決定。
お世話になる身なので家事のお手伝いはしっかりやる。
お風呂を洗って沸かす、夕飯の調理を手伝う。スぺの部屋に布団を持ち込む。
テレビを見て和んでいると一番風呂に入っていいとお声がかかったので遠慮なく入る。
ふぃー、思ったより大きめの風呂だな、あ~今日の疲れが取れていく~・・・。
「いいお湯でしたわ~」
「前を隠せ前を!羞恥心をどこに忘れてきたんですか」
「大自然に囲まれて少々解放的になっています。ご理解ください」
「理解できるか!着替えは無いんですか?」
「そこのでかいカバンの中だよ。ちょっと通りますよ」
「私は今何を見せられているんだろう。お母ちゃん・・・ガン見しすぎだよ」
カバンから下着を取り出して履く。もうパンいちでもいいじゃない。ダメ?
スぺが俺の首をチラチラ見ている。お母さまは俺の"うまだっち"をガン見していた。
「その傷なんですか?毒虫にでも噛まれたんですか?」
「毒虫はヒドイ!これはな、とってもカワイイ生き物に噛まれた記念なんだよ」
「カワイイ生き物?ダイオウグソクムシに噛まれたんですか、本当に変わっていますね」
「カワイイ生き物のチョイスが・・・いやよく見たらグソクムシ可愛いかも」
その日の夕食は謎の獣肉がメインのジビエ料理だった。
少々癖があるが美味い。こんなの食って育ったらそりゃワイルドになるわ。
驚いたのはスぺの食事量だ・・・山盛りのご飯、リアルで初めて見た。
確かにウマ娘は健啖家が多いがこいつは余りにも・・・。
じっと見つめる俺におかずを取られると思ったスぺが「あげません!」と叫んだ。
持ちネタなのかな。
夕食後スぺが入浴中にお母さまとトークタイム。
お母さまの本名は禁足事項なのだとか。察しろ!!!
「失礼ですが、スぺはあなたの実子では無いのでは?」
「わかるのかい。そうさあの子は私の親友の忘れ形見だよ」
「やっぱり。スぺの覇気とあなたの覇気でも質が違いすぎる」
「あの子の本当の親は騎神だったのさ。私は操者でもないただの人間」
「スぺを騎神にするつもりは無いんですか?」
「正直、あの子に危険な真似はして欲しくなくてね。だがいい機会かも知れない」
「いい機会?」
「アンタがここに現れたのも何かの縁だろう。親友との約束を果たす時がきたのかもね」
「どんな約束か聞いてもいいですか?」
「スぺを立派なウマ娘に育ててくれってさ。騎神じゃなくてもそれは出来ると思っていたが、血は争えないね。あの子はとっても強い、本当ならこんな山奥にいて良い逸材じゃないんだよ」
今まで他のウマ娘と関わっていない癖に、あの身のこなし。
我流や人間のお母さまとの訓練のみでアレならどんだけ才能を秘めているのやら。
夕食中にウマウタ―でスキャンしたら級位の欄に『烈』が点滅。
少なくとも烈級の実力はある。覇気も奥底に眠っているだけでかなりの・・・おや。
「そうだ!これはチャンスだ!お母さま、娘さんの覇気を頂きたいのですが」
「あの子が許可すればいいんじゃないのかい。そうだアンタ、スぺに教えてやってくれよ」
「教える?いや俺に教えらえる様な事は無いですよ!まだまだ修行中の身ですし」
「スぺはわたしの我儘で騎神や覇気についての情報をほとんど知らない。少しでいいんだアンタから教えてやって欲しい」
「俺もつい最近まで無知な一般人でした。そんな奴でよければ」
「ああそれでかまわないよ。そうだな駅まで送るのは3日後でどうだい。それまでの宿は提供しよう」
「交渉成立です。よろしくお願いします」
「二人とも・・・いつの間に仲良くなったの」
「お、スぺ上がったかい。いいか今日からこの人はアンタの先生だよ」
「は?意味がわからない」
「騎神になるんだよスぺ」
「どうも先生になったマサキです」
「ああ、私の平和な日常が崩れ去って行く」
お母さまの許可を頂いたのでちょっとだけ滞在する事に。
今夜からスぺの部屋で寝泊まりします。
「変な事したら問答無用で反撃しますからね。私、熊ぐらいなら楽勝ですから」
「フッ、それが脅しになっていると思っている内は、まだまだだな」
「はいはい。一応信じてますからね、田舎娘の信頼を裏切る鬼畜でない事を願います」
「何から教えたらいいかな。今まで教えてもらうばっかだから難しいな」
「明日からにしません?自慢じゃないですけど私あんまり頭よくないです」
「俺もだ、だから悩んでいる。う~んどうしたら」
「もう寝ましょうよ。今日は空から落ちて来た妙な人間を拾ったせいで疲れているんです」
「マジでごめん!うん寝よう。おやすみ~」
「おやすみなさい。いびきかかないでくださいよ」
「へーい」
旅の1日目はこんな感じ。
夢の中でならあいつらに会ってもいいよな。
緊張して眠れない。
だって今日知り合ったばかりの男がすぐ隣で寝ているんだよ。
いったいお母ちゃんは何を考えているの。
ああダメだ。喉が渇いて来た、何が飲みに行こう。
寝る前にあまり水分を取るのはどうかと思ったが今日ぐらいはいいだろ。
マサキを起こさないようにそぉーと布団から抜け出す。
よしよし!起きて来ないでよめんどくさいから。
「・・・・クロ、シロ」
不意に聞こえた呟き、何だ寝言か。
「!?」
初めて見る男の寝顔、そこに一滴の涙が流れるのを見てしまった。
泣いてる、なんで?悲しい夢でも見たの。
なにか自分が見てはいけない物を見てしまった気がして、そっとその場を離れた。
「おや、眠れないのかいスぺ」
「うん。隣にあの人がいるからね」
「そうか。あいつはもう寝たのかい」
「もうグッスリだよ。初対面の女の子の部屋で爆睡してる」
「あはは。良かったじゃないか襲われる心配はなさそうだね」
「お母ちゃん。何であの人を私に関わらせようとするの」
「・・・似てるんだよアンタの実親に」
「ちょっとやめてよね。どこがどう似てるの、怒るよ」
「姿強いて言えばあの目だ。あれは大切な何かのために自分を犠牲にできる奴の目だよ」
「天国のお母ちゃんがそうだったの」
「ああ、病弱な癖に騎神になってのもそう。周囲の反対を押し切ってアンタを産んだのもそうだよ」
「そうなんだ・・・あの人にもあるんだね。大切なもの」
「誰にだってあるさ、さあもう寝な。明日も早いよ」
冷蔵庫から取り出した麦茶を一杯だけ飲んで部屋に戻ろうとする。
ふと気になったので聞いてみた。
「あの人ね・・・寝ながら泣いてたの、なんでなのかな」
「さぁね。夢の中で大切な何かを思い出したのかもね」
その涙は嬉しいから?それとも悲しいから?
出来の悪い頭で考えても答えは出なかった。