帰宅中に二人のウマ娘が仲間になった。
今更ながら、自分が取り返しのつかない選択をしたのではと、心配になってくる。
いやいや、人助けをしているだけだ。
だから、大丈夫大丈夫……大丈夫だよね!逮捕されたりしないよね?ねぇ!
地下道から出ると雨の勢いは弱まっていた。
今がチャンス!本格的に降る前に家までダッシュじゃ!
「と思ったけど、急用を思い出したからコンビ二に寄らせてくれ」
「そんなこと言って、逃げ出すつもりじゃないでしょうね?」
「逃げる気なら無言でダッシュしてるわ。本当に急用なんだよ」
「どんな用なのか教えてほしいな」
「大がしたい」
「ダイ?大冒険でもするの」
「物凄くウンコがしたい!家までもちそうにない!言わせんな恥ずかしい!」
「「一刻も早く行ってください!!」」
最寄りのコンビニまでレッツらゴー!
やる気のなさそうな店員に一言断りを入れてからトイレに籠る。
待っている間、ウマ娘たちは店内で時間を潰しているそうだ。
さて、本当の用事を済ませよう。
スマホを手に取りある人物へと電話をかける。
幸い相手は数コールで応答した。
「あなたから電話してくるとは、何かありましたか?」
「すまん、厄介事だ」
「こんな時間にわざわざ私を頼ってくる、トラブルの内容は‥‥‥ウマ娘絡みですね」
「察しが良くて助かるよ。シュウ」
通話相手の男の名前は、白川愁(シラカワシュウ)
実家のお隣に住んでいた幼馴染で、年上の兄貴分的存在。
今も昔も、困った事があればまずこの男に相談するのが一番だ。
「トラブルの内容を詳しく聞かせて下さい」
「実はだな・・・」
シュウは熱狂的なウマ娘信奉者であり、各種団体の代表理事を務めるウマ娘ガチ勢だ。
俺がウマ娘好きになったのも、ウマ娘への愛を熱弁するシュウの影響を受けたことが大きい。
もちろん『うまぴょい』について教えてくれたのもシュウだ。
兄であり師匠でもある彼を、なんだかんだで尊敬している。
「な、なんですってーーー!美少女ウマ娘二名を絶賛お持ち帰り中ですと!‥‥‥うらやまけしからん!!」
「言うと思った。それで、そいつら家出して来たとか抜かすんだ」
「ほう?さらに詳しく」
シュウはイケメン、高学歴、高収入、複数の企業経営者であり、あらゆる学問に精通する天才科学者でもある。あるのだが。
その高スペックをウマ娘への愛に使つことを生きがいとしてる節がある。
ハイスペックなウマ娘推し活お兄さんだ!
ウマ娘が絡むと途端な奇行へ走るので、残念なイケメンともっぱら評判である。
故郷のド田舎にいた頃は、自身が運営するウマ娘ファンクラブを宗教団体に昇華させようとしたり『うまぴょい』布教活動などで多くの女性陣(俺の母さんや村中のウマ娘を含む)を敵に回し度々教育的指導(リンチ)を受けていた。
ボロボロにされた翌日には「まあ、私にとってはご褒美みたいな物です。フフッ」と半裸でピンピンしていた。
なんて凄い漢だ。少年だった俺はその時、心底そう思った。
「とりあえず、ウマ娘好きの同志たちに情報提供を呼び掛けてみます」
「助かる」
「それにしても、ふーむ」
「何か気になる事でも?」
「いえ、ウマ娘の子供が二人も行方不明になっているにしては、少々静かすぎではと思いまして」
「どういう事だ」
「
「つまり?」
「あなたと一緒にいるその二人、身分の高い家の子ではないかと」
「まじかー」
「まじです」
「ヤバいかな?」
「ヤバいですね」
しばし沈黙する俺とシュウ。
あいつらやっぱり厄介な存在だった。
「ともかく、相手を下手に刺激しないように」
「もうリアルファイトした後ですけどね!」
「手遅れでしたか。ならば、これからの紳士的対応で挽回してください」
「紳士ねぇ」
「権力者の娘を怒らせた場合、身の安全は保障しかねます」
「サイアク」
「自暴自棄にならず乗り切って下さい、何か進展があれば連絡します。ご武運を」
「了解。サンキューな」
通話を終えてトイレから出る。
店内に二人は見当たらない、商品を物色するのに飽きたのか外で俺を待っているようだ。
トイレ借りただけなのもアレなので、いくつか商品を購入してから店を出る。
「おまたせ」
「ほら、ちゃんと来た。ここで待っていて正解」
「何の話だ?」
「いえ。トイレタイムが長いので、下水道から逃走を図ったのかと」
「せめて窓からと言え!」
汚物と一緒に流されて下水道へ、そこから華麗なる逃走をする俺!
できるわけないだろ!仮にできたとしても、実行してたまるか!
「アホなこと言ってないで、コレ使え」
「ほぇ?」
「これは?」
今しがたコンビニで購入したタオルを二人に投げてやる。
この雨の中、顔面から転んだと言っていたのを思い出したから買っておいた。
頭と顔ぐらい拭けよ。女の子なんだから、そういうの気にしなさい。
「お、お金、お金払います!」
「そんなのいい、早く拭け」
「えっと、あ、ありがとう////」
「どういたしまして」
「本当にありがとうございます‥‥‥優しい人////」
二人が顔を拭くのを待ってから、家へ向けて歩き出す。
濡れている身体と衣服は、家へ到着するまで我慢してもらおう。
コンビニで買った無地のタオルを大事そうにしている二人。
使い終わったので回収しようとしたが「これはもう私たちのものです!」と拒否された。
まあ、いいけどさぁ。タオルもらって嬉しいお年頃なのかい?
こいつらが良家出身?
シュウとの会話を思い出し二人の顔を見る。
目が合うと何故か嬉しそうな顔をする二人。なにわろとんねん。
「そうだ!自己紹介まだだったね」
「そうでした。ちゃんと名前を呼んで欲しいです」
「・・・・」
「じゃあまず私から、私はねキ」
「必要ない」
名前を言いかけた黒髪を遮る。
「えー、なんで?」
「お名前は結構でございます」
「ショック!丁寧に断られた!」
「傷付きました。理由を説明してください」
「お前達とは今だけの、一時的な付き合いだ。明日中には必ず親元に帰ってもらう」
「「・・・・」」
「俺はお前たちの事情に深入りするつもりはない。だから、名前も知りたくない」
今から家に連れ帰ろうとしているのに、何言ってんだとコイツと思いますよね。
ワイトもそう思います。
「後腐れのない関係の方がお互い都合がいいだろ?分かってくれるな」
個人情報は大事よ。見ず知らずの他人に教えちゃダメぜったい!
シュウの推測が当たっていた場合、こいつらの実家に目を付けられるのもダメぜったい!!!
「でも…‥‥」
「それだとフェアじゃないです」
フェアじゃない?何その発言すげー嫌な予感がする。
「私たちだけお兄さんのことを知っているのは、ズルいかなって」
「住所、氏名、年齢、生年月日、本籍もバッチリ確認済みです」
変だな、暑くもないのに汗かいてきちゃった。
「君たち大人をからかうのはよしなさい。そんな嘘には騙され…‥‥」
「嘘じゃないもん」
「信用されてませんね、私は悲しいですよ‥‥‥マサキさん」
変だな、今度は寒くもないのに震えてきちゃた。
「マサキさん。いい名前だね」
「・・・・・」
「あれ?反応がない。読み方合ってますよね、安藤正樹(アンドウマサキ)さん」
「・・・い」
「「い??」」
「いやぁああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
自分の本名が聞こえた瞬間、俺は本気の悲鳴を上げた。