メジロ家の使者として天級騎神が住まう村、ラ・ギアスに到着した。
澄んだ空気、豊かな自然、ここならマサキものびのび育ったことだろう。
運転手にお礼を言って下車する。
目の前に広がるのは畑や田んぼ、そして田舎には似つかわしくない建造物の数々。
「なんといいますか、カオスな村ですね」
山奥の寂れた農村をイメージしていたが全然違った。
整備された広い道、現代風のデザイン住宅、有名私立にも劣らない設備の学校、大病院、ビルまである。
しっかり区分けされた別の土地では畑や田んぼ等、のどかな風景がが広がっている。
村の入り口から見て右側が都会、左側が田舎、ちぐはぐな風景が無理やり融合したかのようだ。
これはもう村ではないだろう。天級の住処は伊達じゃない。
「そしてこれですよ」
私でもよく注視しないとわからないほど薄めてあるが、確かにそこにある。
村全体を覆う超広域結界、村を出入りする者の覇気をチェックしているのだろう。
悪意のある者がこの網にかかった場合は考えるまでもない。
いいなコレ、教えてもらおうかな。
「大丈夫、私は使者として来たんだから」
身なりを正して深呼吸。いざ・・・結界をくぐっても特に何も起こらない。
これで私の覇気は感知されたはずなんだけど。許可されたってことでいいよね。
そこかしこから多くの覇気を感じる。
住民たちから感じる覇気は外界に住む一般人とは比べ物にならないほど高い。
さっきすれ違った老夫婦は無級の騎神ぐらいなら簡単に制圧できる力を秘めていた、何者だよ。
この村の異常性をはっきり認識する。
天級がいるはずなのに強大な覇気らしきものは一切感じない。
完璧な隠蔽、力を制御してこそ実力者だ。
はやる気持ちが歩く速度を上げる。しばらくして、見つけた・・・この家だ。
表札の名前は安藤(アンドウ)ここにマサキが。
インターホンを押す手が震える。どんな顔して会えばいいのか今もわからない。
姉だと名乗り出るつもりはない、ただ成長した弟を見て安心したい。
・・・反応がない、家の中から気配を感じない。留守なのかな。
「その家には今誰もいないわよ」
「!?」
「驚かせてごめんなさい。ちょっと気になったものだから」
背後から声をかけられて背筋がゾッとする。
振り向けば中高生ぐらいに見える小柄な女性がいた。
私がこの距離まで接近されて気が付かっただと・・・。
顔には見覚えがある。資料に添付されていた重要人物の写真。
「天級騎神ネオグランゾン様だとお見受けします。私はメジロ家の使者としてサイバスター様にお会いしたくて参上した者です」
「そうです私がネオグランゾンです!ネオって呼んでね」
「はやか・・・いえ、トキノミノルと申します。それでサイバスター様は?」
「マサ君を連れて遊びに行っちゃたわ」
「どこへ行ったかご存じでしょうか?」
「いつもの遊び場、修練場じゃないかしら。追いかけるの?場所はここから・・・」
この村では真名を名乗ることにしよう。弟には真名を知ってほしいし。
修練場の場所を丁寧に教えてもらった。
ネオグランゾン、危険度SSSの人物のはずが凄く親切な方だった。
「運悪く会えなかったらここに戻っておいで、私の家で待っているといいわ」
「ありがとうございます。ネオ様は聞いていた話と随分印象が違います」
「様はやめて~。うう、どうせ酷い事いっぱい言われているのね。若気の至り!自業自得!!」
「ではネオさんで、最凶がこんなに可愛らしいと知ったら世間は大騒ぎになりますね」
「よく言われる・・・私そんなに子供っぽいかな・・・シュウ君にも舐められてるし」
急に凹みだした。フォローした方がいいのかコレ。
サイバスターがいるであろう修練場に向かう。気を付けてね~と見送るネオさん。
超フレンドリー!
山を少し登って開けた場所に出る。
最初に感じたのは爽やかな風と覇気の残滓、ここで何度も修練をしたのだろう。
広がる草原、青い空、この場所はとても気分がいい。
中央にそびえる大木の根元に誰かがいる。その人物を見て思わず声が出た。
「あ・・・」
木にもたれかかるようにして眠っている少年がいる。
穏やかな寝顔、それは昔に見た両親がうたた寝しているときの顔にそっくりだった。
どちらかと言えば母に似ている。
いた・・・。すぐさま駆け寄りたい気持ちを抑えゆっくりと近づいていく。
こんなに近く、10年前に手放した、あの子がそこにいるんだ。
もうすぐ手が届く、吸い寄せられるようにその顔を触ろうとした。
「誰?うちの子になんか用?」
また背後をとられた!振り向かなくてもわかる背後にいるのは間違いない。
警告の意味を込めて覇気を向けられる。それだけでもう冷や汗が出てくる。
「うちの子に何かしてみろ、ぶち殺すぞ!」という意味ですね、わかります。
内心の動揺を抑え込み相手に向き直る。
天級騎神サイバスターがそこにいた。
「初めましてサイバスター様、私メジロ家より使者として参りました。トキノミノルと申します」
「メジロ家の?ああそうか、私が育児放棄してないか調査に来たのね」
「ぶっちゃけ言えばその通りです。気まぐれや遊びで引き取られた子供がいては一大事ですから」
「む。私なりに頑張ってお母さんしてるわよ、そりゃあたまには上手くいかない事もあるかもだけど」
「この子にも聞いてみないと詳細不明ですね。本音では嫌々ここにいるかもしれませんから」
「いちいち棘があるわね、ミノルちゃんだっけ、あなたマサキの何なの?」
「子供の身を案じるメジロ家の一職員です。他意はありません」
「本当にぃ~。随分とマサキにご執心みたいじゃない」
「・・・・」
「・・・・」
一触即発になりました。あれぇー?こんなはずでは・・・。
嫉妬なんでしょうか?サイバスター相手に何やってんだ私!やめとけ!殺されるぞ!
「う・・・ふわぁぁぁ・・・ん?・・・どしたの母さん・・・おお?おおおお!!」
マサキが起きてしまったようだ。
ああ、マサキあいたかっ・・・。
「美人でカワイイお姉さんキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!」
は?なんだこの子のテンションは。
私の全身を舐め回すような目で見ている。なんか思っていたのと違う。
「大変だ母さん!ついに俺は願望実現能力を獲得したみたいだ」
「落ち着きなさい!いつも以上に意味不明な言動はやめて」
「なあお姉さんや、あなたは俺が妄想の極致で現実世界に降臨させたんやろ!そうだと言ってくれ!」
「どんな教育をしているんですか?問題ありとして報告します」
「待って!この子、最初からこんな感じだから!私のせいじゃないから!」
「グヘヘ、あの胸も尻も俺のもんじゃー!」
カワイイ赤ん坊だったマサキは立派なエロガキに成長していた。なんてことだ!
「いや、ちょっと、纏わりつかないで、どこを触ろうとしてるんですか!」
「きゃー!母さん助けてー!あははははははは!!!」
「すみません!うちの子本当にバカですみません。そこまでよマサキ!このお姉ちゃんはあなたが具現化して生まれた存在ではないわ!」
「マジかー!うん知ってた!」
こんな再会になるとは、性格は誰に似たんだか。
もっとこう感動的なものを想像していたのに全部ぶっ飛んだ。
「初めましてお姉さん、俺はアンドウマサキ。そしてこちらは母のサイです。村で1番ヤバい親子とは俺達のことです」」
「ど、どうも」
「バカねマサキ、お姉さん引いてるじゃないの。1番ヤバいのはシラカワ親子よ」
「お姉さんのお名前は?」
「トキノミノル。メジロ家からあなたの様子を見てくるように言われて来ました」
「ミノル?ミノル・・・初めてあった気がしない、これは運命だね。もう一緒にお風呂入るしかない」
「本当にごめんね。マサキったらカワイイ子をみるとすぐ発情するの」
「あ、あはははは・・・マジでどうしてこうなった」
お父さんお母さん、マサキは元気だったよ。変な子になってしまったけど。
「とりあえず家に来るでしょ」
「ええ、是非ともお邪魔させていただきます」
「おお!お客様だ。俺が先導しますんで、ついてきてちょーだい」
「急に走ると危ないわよ」
「大丈夫でっうわったぁ!」
危ない!
注意されたそばから転倒しそうになるマサキの手を掴む。
「慣れた道だからといって油断しない方がいいですよ」
「ありがとう。ミノルさんを見たらなんかテンションが上がっちゃった」
「・・・危なっかしいので手を繋いであげます」
「マジでか!手汗が過剰に出ても離さないでください」
「そんなの気にしませんよ。ほら」
「失礼します・・・ん?んんん?」
「どうかしましたか?」
「おかしい、もっとドキドキムラムラするかと思ったのに、妙な安心感が勝る」
「そ、そうですか」
「実は男とかそういうオチはやめ・・・あだだだだだ!潰れる!俺の手が粉々になっちゃうのー!」
「しっかり握っておきますね。転んでケガでもしたら大変ですから」
「今まさに!複雑骨折の危機!あーー!!!」
「絶妙な力加減でマサキを折檻している。やるわねミノルちゃん」
3人で下山して先程の家に帰って来た。
タイミングよく隣の邸宅から誰かが出てくる。
ネオさんと、私と同年代ぐらいの人間の男。
「シュウーーー!」
「マサキ―――!」
私の手を離してマサキが男に駆け寄る。
「流派東方不敗は!」(拳を突きつける)
「王者の風よ!」(鉢巻を締める)
「全新!!」(猛烈なラッシュ)
「系裂!!」(それを裁く)
「「天破侠乱!!」」(ラッシュの打ち合い→拳が激突)
「「見よ!東方は紅く燃えている!!!!」」(背景が燃える)
急に殴り合ったかと思えば変なポーズを決めたバカ2人、ドヤ顔がくっそウザったい。
「腕を上げましたね」
「今のは過去最高に決まったな」
「シュウ君、Gガンダムごっこするなら私もまぜてよ」
「シュウ!ネオさん!修練場でお姉さんを拾った!」
拾ったって言うな。
「ミノルちゃん、どうやら無事に会えたようね」
「どれどれ・・・ほう、これはこれは。グッジョブですよマサキ」
「その反応!ミノルさんはウマ娘なのか」
「ええ、そうですが」
バカ2人がガッツポーズしている。
大体わかってきたマサキがバカになった一因はこの男だ。
「写真を何枚か撮らせてもらえませんか?耳と尻尾も出していただけると尚良し」
「拒否します。ネオさん、私を視姦中のこの男は?」
「どこに出しても恥ずかしい私の息子よ」
「シラカワシュウです。その汚物を見る視線、ご褒美ですか?」
「マサキ、この人とは遊んじゃダメ」
「ミノルさんの頼みでもそれは無理、シュウ超おもしれーもん」
「そっか、代わりに私が遊んであげようと思ったのに」
「シュウ、今までありがとう」
「マサキ!鮮やかすぎる裏切りに感服します」
「おーい、みんなーおやつにしましょう」
「「「はーい」」」
「凄い所で育ったな」
サイバスターとマサキの家、安藤さんのお宅訪問。
お茶菓子を持ち寄ってのまったりタイム。
マサキとシュウは葦毛か栗毛かで激しい討論を繰り広げている。放っておこう。
家族ぐるみの付き合いがあるらしく、シラカワ親子も我が家のごとくリラックス。
「それで、ミノルちゃんは今からどうするの?」
「しばらくこの村に滞在してお子さんの・・・マサキの様子を観察させていただきます」
「我が家に問題などあろうはずがないわ。ばば様にサイバスターは良き母親だと報告してね」
「サイさんが母親失格ならマサ君の親権はどうなるの?私立候補してもいい」
「アンタに親権やるぐらいなら、グラやザムにお願いするわよ!ガー子は論外!!!」
私の弟を天級が欲しがっている、少しだけ鼻が高い。
仲良く会話を続ける2人の天級騎神。
騎神の頂点、この人たちの力を皆が恐れ敬い、利用しようと企んだ。
しかし天級たちは良くも悪くも自分の生活にしか興味がない。
子を育て、家族との時間を大事にし、自らの幸福を追求する。
力を持つ者としての自覚がないなどと言う人もいるが、私にはその生き方がたまらなく眩しい。
強く生まれたから強く生きろというのは違うと思う。
自身が強かろうが弱かろうが、生き方はそれぞれが自分んで選んだ道をいけばいい。
私だって最初は騎神になるつもりはなかった、でも今の自分を後悔してはいない。
これは自分が決めた事だ、あの子を手放したのもそれが最良だと思ったから。
そのはずなのに・・・。
「サイバスター様」
「サイでいいってば、何?」
「今夜、お時間いただけないでしょうか?」
「・・・それで気がすむのなら、いいわ付き合ってあげる」
「2人とも戻らなかったらマサ君はうちの子ね」
「「それはない!!」」
「しょぼーん(´・ω・`)」
これは八つ当たりじゃなくてけじめだと思いたい。
夜、再び訪れた修練場。
私とサイさんの2人きり。
街灯などないので本来真っ暗なはずだが、手練場の周囲を光球がプカプカ浮いて照らしているので明るい。
サイさんが覇気で作り出した照明、なんでもありだな。
外部に余波が漏れないようにしっかり結界も張ったようだ。
「本当にやるのね?」
「はい。お願いします」
「何のために?」
「この先も生きていくために」
「じゃあしょうがないか」
「お手数をおかけします」
「いいのよ。最近は挑戦者もめっきり減って退屈していたからね」
「・・・いきます」
「お手柔らかにね」
ばば様、こうなる事も織り込み済みですか?
さあ、天級騎神!見せてよ!悪党が欲しがった、私の人生を狂わしたその力を!
まあ、結果はわかりますよね。
「ごめん刀折っちゃった」
「いえ・・・はぁはぁ・・・お気になされず・・・げほっ」
「いや~久しぶりにいいのもらった。痛たたたた」
「何を・・・おしゃるのやら・・・こっちは・・・満身創痍・・・」
「膂力だけならかなりいい線いってるわよ。こっちの障壁、貫通したじゃない」
「それを・・・やるのに・・・どれだけ・・・もう・・・無理」
「あ、気絶しちゃったか・・・この子が教導隊の暴君、次世代の騎神か」
仰向けに倒れ伏し気絶したミノルを見てサイバスターは思案する。
上着をボロボロにされた、刀を折ってからも戦意がまったく衰えないのは素直に感心した。
防御を貫通してまともに殴られたのは久しぶりだ。
彼女のような存在は今後も生まれるだろうか。
「あと10年ぐらいかな?その頃にはきちゃうかも、新しい子が」
できればその子たちはよき操者に恵まれますように。
一緒に笑って泣いてバカをやってくれる最高のパートナーが。
予想通り負けてちょっとだけ気絶していた。
師匠、シシオウブレード折れました。これで28本目です。
強かった、これで手加減マシマシなのだからもう笑うしかない。
私が天球の卵?どんだけ見る目がないんだよ!
私ごときが届く領域じゃないよ、宇宙の法則がみだれた結果、間違って生まれた人たちだよ。
「もう気は済んだ」
「はい、悪党が狙った力は決して制御できるものではないと確信しました」
「そう。聞いてもいい?」
「私で答えられることなら」
「昼間も聞いたけど、あなたとマサキの関係は何?」
「・・・・」
「全部吐いちゃいなさい。天級騎神からの勅命よ」
「そう言われては仕方ありません」
気が付くと全部喋っていた。
ウォルターさんやばば様以外は知らない私の過去、マサキの姉であること。
ずっと戦ってきた殺してきたこと。全部全部吐き出した。
サイさんはただ黙って聞いてくれた。ずっと誰かに聞いてほしかったのかもしれない。
「そう、大変だったわね」
「はい、大変でした」
「マサキに言った方がいい?」
「それはやめてください」
「いつかバレるわよ。あの子は変な所でカンがいいから」
「今はまだ混乱させたくない、それに・・・私、怖いです」
「拒絶されると思ってる?それはないと思うけどな」
「私はあの子を捨てました。あの子のためだと、自分といてはいけないと」
「最良の選択だったんでしょ」
「自分の事で余裕がなかった、あの子が邪魔だった。だから言い訳をしたんです」
「・・・・」
「それなのに、母親のあなたに嫉妬した。本当は私がそこにいたのにって・・・なんて醜いの」
マサキは今、幸せなのだろう。
私がいなくても立派に成長していく。
母親もこの通りいい人だ。とても良い環境で平和に暮らせている。
「サイさん・・・マサキといて幸せですか?」
「ええ、あの子がいないのなんて考えられないくらいよ」
「それを聞ければ十分です」
まだ体は痛いけど姿勢を正して向き直り、正座をして頭を下げる。
「天級騎神サイバスター、どうかこれからもマサキをよろしくお願いします」
実の姉として精一杯頭を下げる。10年前に園長さんにした時のように。
「マサキがバカなのはミノルちゃん、あなたに似たのね」
「え?ちょっと」
「いいからじっとしてなさい」
突然の事で頭が真っ白になる。
なぜ私はこの人に抱きしめられているのだろう。
どうして頭を撫でるのだろう。
お父さんをお母さん以外で私にこんな事をした人は初めてだった。
「あの、やめてください」
「泣いてもいいのよ」
「泣きませんよ、なんの真似ですか急に」
「はぁ~やっぱりバカだったわね」
「だから何を」
「ずっと頑張ってきたのね。たくさん無茶をしたんでしょ、その度にずっと耐えて我慢して、自分を殺してきた」
「・・・違う」
「ウォルターはこんなことしてくれないだろうし。メジロ家は何やってんだか」
「・・・・」
「ミノルちゃんはもっと泣くべきよ、苦しい、辛い、悲しい、助けてって叫んだ方がいい」
「泣いたって何もかわりません。叫んでも誰も来ません」
「あなたの過去が、周りが、なによりあなた自身がそれを許さなかった」
「・・・・」
「ありがとうミノルちゃん。あなたが頑張ってくれたから、マサキも私もとても幸せよ。あなたが戦った事で救われた人は確かにいるの。もう自分を許してもいい頃だと思う」
「そんなこと・・・言わないで・・・ください」
「今がチャンスよ!私以外誰もいないし、泣くぞ すぐ泣くぞ 絶対泣くぞ ほら泣くぞ」
「ジェクトやめろ!大っ嫌いだ!」
「それでいいのよ」
久しぶりに心の底から泣いた。
スッキリしたけどこれは私の黒歴史として封印。天級は精神攻撃も上手だった。
肩を貸してもらって帰宅。
やっと回復してきた所で風呂に入れとのこと。
全て身から出た錆なんだけど今日は肉体的にも精神的にも疲れた。
お風呂に入ってゆっくりしよう。
「あ・・・」
「ほえ・・・」
いないと思ったらここにいたのか。湯船につかっているマサキと目が合った。
「きゃぁぁぁあああああ!!!ち、痴女が出たぁー!てミノルさん!?」
「あ、ごめんなさい。失礼しますね」
「ちょっとぉー!なんで普通に入ってくるの?母さんー!ミノルさんが乱心したぁー!」
「近所迷惑よマサキ。静かにしなさい」
「この状況見て!おかしい!俺が入ってるの知ってたよね」
「まあまあ、せっかくなんで一緒に入りましょうよ」
「マサキも昼間、一緒に入るって言ってたじゃないの」
「言った、言いました!でも心の準備とかありましてね。不意打ちは卑怯です!」
「エロい癖に肝心なところでヘタレる。その程度でうまぴょいできると思うなよ!!!」
「痛い所を突かれた!!!」
「もういいですか?カゼひきたくないんですけど」
「どうぞ、俺上がりますんで」
「背中流してあげますよ」
「あの、離してくれます。背中はもう洗ったんで結構です」
「じゃあ私の背中を流してください」
「母さん!」
「ごゆっくり!」
「あの母さんが許可しただと・・・ミノルさんアンタはいったい」
「いいから入りましょう、ね」
「はい////」
気を利かせてくれたのか姉弟水入らずで入浴できました。
世間一般ではこの年で姉と風呂に入るのはアウトなのでしょうか?まあ良しとしましょう。
入浴中マサキはずっと般若心経を唱えていた。変な子だな。
「なんかすっごい罪悪感、いや禁忌を犯した背徳感か?地球のみんなすまない、俺、今日会ったお姉さんと風呂入っちまったよ」
「大げさなんですから。文句がある奴は私がマリアナ海溝に沈めるので問題ないです」
「ミノルさんならできそう・・・それより大丈夫?」
「何がですか?」
「ケガしてたから、母さんが何かした?」
「ちょっと稽古をつけてもらっただけですよ」
「母さん無茶するから適当な所で逃げた方がいいよ」
「フフッ今度はそうしますね」
村に滞在中はサイさんの所でお世話になった。
最初マサキは照れていたが、そのうち慣れて私によく懐いてくれた。
10年分の別れを取り戻すように弟と過ごす。
夢のような時間でした。
「お姉ちゃん!今日は何して遊ぶ?」
「そうね。お肉が食べたいから山で狩りでもしましょうか」
「この前、狩り過ぎたから山の生態系が落ち着くまで待ったほうがいいってシュウが言ってた」
「そうか・・・川で狩るか」
「ガチンコ漁だね!川の生態系\(^o^)/オワタ」
「とりゃあ!」
「はい、全然ダメ」
「ぐは!アカンで、この人スパルタや」
「覇気を封印するなんて、サイさん甘いですよ。せめて護身術ぐらいは覚えてもらわないと」
「お姉ちゃん?」
「あ、なんでもないです。さあどんどんいきましょう!」
「えー強くなる意味ってあるの?俺はどうせ人間だしウマ娘には勝てない」
「そんな事言わないで、人間だって強いに越したことはないのよ。勝てなくても負けないようにしないと」
「・・・耳と尻尾が見たい」
「え、うーん・・・・・・これでいい」
「やる気が出た。尻尾鬼しようよ」
「尻尾鬼かぁ、私、実は数回しかやったことがないの」
「ほほう。それなら俺でもいけますかね」
「できるものならやってみて」
「言ったな!その尻尾で書初めをしてやる!」
「あーあーなぜ俺はこんなに弱いのだろう、ガッカリしたでしょ?母さんはあんなに強いのにって」
「自棄になったらダメ。日々反省して積み重ねるしかないのよ」
「モチベーションが上がらん。あの母親と比較されるのホント勘弁して」
「その程度で凹んでいるのにはガッカリね」
「えーやだーお姉ちゃんもそんな事言うのかー」
「じゃあ私ガッカリさせないような、強い男になってね」
「・・・ご褒美」
「思いっきりハグしてあげる」
「それいつもやってるじゃん・・・俺からしてもいい?」
「強くなったらね」
「忘れんなよ、いつの日か必ず」
「ナニコレ?」
「ダークマターかな」
「どうして野菜炒めが暗黒物質に錬成されたんですかねぇ」
「さあ?普段料理しないし」
「ミノルちゃんの食生活が気になるわね」
「こんな事言ってますが母さんも最初は錬金術師だったね」
「私はダークマターなんて錬成してない!できたのはオリハルコンよ!」
「「それもどうかと思う」」
「・・・お姉ちゃんzzz」
「寝ちゃったか、今日もいっぱい遊んだもんね」
「ミノルちゃん鼻血拭いて」
「すみません。ここに来てから再発したみたいです」
「持病なの?」
「ええ、弟が愛し過ぎて姉力が溢れるのです」
「ちょっと何言ってんのかわかんない」
「写真撮らないと、ああ、もうストレージがマサキの写真でパンクしそう、フフフフ私の弟・・・」
「おっと末期のブラコンだったか」
お父さんお母さん見てますか?私、生きていてよかった。
「もう帰っちゃうの?」
「ええ、名残惜しいけどね」
「ミノルちゃん。家に来る気はない?」
「とても魅力的なお誘いですが、私は自分の道を行きますから」
「そう(定期的にマサキの写真や動画は送ってあげるわ☆)」
「はい(頼みましたよ)」
「お姉ちゃん」
「マサキ、元気でね。あなたが元気なら私はとっても嬉しいのだから」
「うん・・・よいしょ」
まだ私の方が身長は高い、その内に抜かされてしまうだろうけど。
ちょっと背伸びをしたマサキが私の頭に触れて撫でる。
「どうしたの急に?」
「いつも撫でてもらっていたからお返し~。よしよし、ミノルお姉ちゃんはいっぱい頑張った。これからはお姉ちゃんも幸せになるんだよ」
マサキには過去を話してはいないのに。
この子は私が訳ありだと見抜いていたようだ。
まるで、死んだ両親がこの子に乗り移ったかのように頭を撫でられる。
「マサキ!!!」
「お姉ちゃん!!!背骨がぁぁぁああああ!!!ジーグブリーカーやめてー!!!」
号泣した。ここに来てから泣いてばっかだ。
お父さんとお母さんの魂はちゃんとこの子にも受け継がれてる。
今理解した。きっと私はそのことを確認したくて会いに来たのだ。
「ううう、ぐず・・・ミノルちゃん。よがっだわねぇええええ」
「サイさん。鼻水がどえらい事に」
「もう2人ともティッシュ!ティッシュあるから使って」
「「ずみばぜん」」
「じゃあね、マサキ。いい男になるんだよ」
「うん!お姉ちゃん!今度会った時もお風呂ご一緒してねー」
10年前は泣いてお別れした。
今度は笑顔でお別れできた。
メジロ家に戻って報告した。
ばば様は何があったのかわかっているようでニヤニヤしていた。この妖怪め。
更なる恩義を感じたので仕事は継続して頑張った。
20歳になった。もう大人ですよ大人。
サイさんからはマサキの経過報告を今も受け取っている。毎月の楽しみですよ。
苦手だった料理もマシになってきた。
実験台にした同僚や部下には感謝しないと、原因不明の腹痛でチームが活動不能になった時は本当にすまんかった。
機動部隊および教導隊で十分な功績を上げた私は後続に席を譲る事にした。
早期退職になるのかな。同僚や部下たちには随分惜しまれたけど。
天下りで流れ着いた先は秋川家。ここは優秀な操者を輩出する銘家らしい。
礼儀作法や事務処理は苦手だったがなんとか克服。
秘書としての仕事を手に入れた。学園を運営しているのでそこの理事長つきとなった。
操者を生み出す家の者が騎神を生み出す学園を運営しているんだなぁ。
一応秘書なのだが有事の際には私の力を宛てにしているのかも、生徒の反乱とかやめてね。
サイさんとネオさんから教えてもらった広域結界の使用にも慣れた。
精度や範囲は劣化したものの学園の敷地ぐらいならなんとかなる。
秋川家で働くようになってから契約の申し込みをする者が増えた。
私と契約することで戦力とメジロ家の後ろ盾を手にしたいのが見え見えアウト―!
興味ないのでスルー。笑顔で躱すのは慣れている。
しつこい奴はちょっと殺気を向けて脅せば黙る。根性無しは去れ!
「発見ッ!お前が幻の騎神だな?」
「幻じゃないです。私は実在してます。お嬢さんはどなたですか?」
「うむ!私は秋川やよいだ。是非私と契約してほしい」
「お断りします」
「辛辣ッ!待ってくれ、覇気を見るだけでも」
理事長秘書として忙しくしていたある日。
不遜な態度の小さいのが話しかけてきた。
私と契約したいだと・・・ご冗談・・・いやまて・・・この子の覇気は。
「どうだ!落ちぶれぎみの秋川にしてはなかなかだろう」
「落ちぶれぎみwwwあなたは確かに大した覇気です、今後の伸びしろも十分ある」
「なら契約をお願いしたい!」
「どうして私を欲するか聞かせてください」
天級騎神や私の力を金や兵器としか考えていない奴に力は貸せない。
「傾聴ッ!私はこのトレセン学園を変えたい。世は正しい心と力をもった騎神を求めている。私はここの理事長になって世の礎となる騎神を育成するのだ」
「最終的にあなたが目指す世界は?」
「人間もウマ娘も誰もが当たり前の幸せを手にできる世界」
「理想論ですね。まるで現実が見えていない、所詮は子供の絵空事」
「その絵空事を叶えるには、世界の理不尽を叩き潰すお前の力が必要なのだ!頼む!」
とても綺麗な澄んだ目をしている。
世界が綺麗な事ばかりではないのを理解して尚それに抗うつもりか。
あーあーここら辺が潮時か、勧誘がウザくなってきたしちょうどいいか
それじゃあこの子に失礼だな。
あなた思いは私の心を揺さぶりましたよ。激甘な理想が特にいい。
恥ずかしげもなくそんなことを語るバカに付き合うのも悪くないと思ってしまった時点で負けだ。
「駿川たづなです。真名はトキノミノル」
「再び名乗ろう、秋川やよいだ」
後はそうだな、私をものにできる運と覚悟を見せてくれ。
「わかりました。いいでしょう、結びますその契約を」
「なんと!良かった。ではすぐに書類を用意する、覇気の循環は握手でいいか?」
「は?何を言ってるんですか。首を出せ首を」
「にょわー!ちょ、何をするー!」
「申し込んだのはそちらです。逃げる事は許しません」
「一体何を」
「今からあなたの首を噛みます。運が悪ければ激痛でショック死することもあるので、頑張りましょうね」
「ひぇ!そ、そんな方法聞いておらんぞ!待て!心の準備が」
「大丈夫、優しくしますから、どうせすぐ終わりますよ。えーとこの辺でいいのかな、初めてなんで動脈を噛み千切ったらごめんなさい」
「絶望ッ!いやー!し、死にたくない!離せー!」
「いただきまーす」
「あぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
秋川やよいという操者を得た、これで私も愛バですよ。
マサキはどんな大人になったのかな。
都会に出たという話はサイさんから聞いた。
毎月の楽しみが無くなって、今のあなたがどんな姿をしているかわからない。
私のことを覚えていなくてもいい、どこへ行っても元気なあなたでいてね。
もし次に会えたら、うんと甘やかしてあげようかな。
感情制御が上手くいかず、腹パンをお見舞いしたらどうしよう・・・。
まっさかぁーwwwそんな訳ないない。
・・・やっちまったorz