俺と愛バのマイソロジー   作:青紫

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ぱずる

 テスラ・ライヒ研究所日本支部。

 主要な建造物から離れた場所に位置する特別収容隔離施設。

 ここで1人のウマ娘のが暮らしている。

 一通りの家具家電がそろったこじんまりとした部屋。

 女の子らしい小物類などはなく、ゲーム機、コミック、雑誌、パソコン等の娯楽アイテムがきちんと整理整頓されている。

 部屋の主である少女はこの部屋にはミスマッチの天蓋付き高級ベッドの上に転がっていた。

 

「いけない、もうこんな時間」

 

 備え付けのデジタル時計の時刻は深夜に差し掛かろうとしていた。

 少女は読んでいた本を閉じる。

 窓の無い部屋、ここにいると時間の感覚が麻痺してしまう。

 

「おや、まだ起きていたのかいお姫様」

 

 部屋の各所に設置してある監視カメラとスピーカ。

 スピーカーから女性研究員の声が響く。

 

「ええ、面白いマンガを一気読みしていましたから」

「ゴールデンカムイか、ラッコ鍋回でカフェがコーヒーを吹いていたな」

「リスの脳みそってどんな味がするんでしょうか、気になります」

「チチタプを用意するのはちょっと無理かな。他にリクエストはあるかい」

「台湾唐揚げ、ダージーパイが食べたいです」

「それなら用意できる。最近、食堂に腕のいいコックが入ったからね」

「ダメ元で言ったリクエストが通りました。今から楽しみです」

「すまないね、こんなところにいつまでも閉じ込めてしまって」

「私が望んだことですから。強化ガラス製のスケルトンハウスじゃないだけマシですよ」

「不定期で起こる君の覇気暴走、テスラ研の技術をもってしても制御困難だ。しかし、希望が見つかったよ」

「それは妹たちが話してくれたあの方のことでしょうか」

「騎神の覇気を集めて旅する奇妙な男。彼は不思議な力で人間もウマ娘も関係なく覇気のやり取りが可能らしい。しかもその精度が桁外れだと聞いている」

「大変愉快な方と伺っております。生きているうちにお会いしたいものです」

「彼はこちらに向かっているそうだよ」

「まあ、それはそれは」

 

 彼が自分を救ってくれるのかはわからない。

 それでも、残された時間を有意義にしてくれる存在なら大歓迎だ。

 

「安全装置は機能していますか?」

「ちゃんと機能している問題ないよ」

「なら安心ですね。シロガネの二の舞は嫌ですから」

「達観しているね。君の潔さはどこからくるのか知りたいものだ」

「諦めてはいません。自害していないのがその証拠、私はまだ生きていたいんです」

「ならば結構。もう休みたまえ、自堕落な生活も過ぎれば毒となるからね」

「わかりました。おやすみなさいタキオン教授」

「ああ、おやすみアルダン君」

 

 

 テスラ・ライヒ研究所に到着した。

 世界中に支部があるオーバーテクノロジーの総合研究機関、その日本支部。

 研究部門は多岐にわたり、天才たちがひしめく魔境。

 あのビアン博士が設立したんだからさもありなん。シュウもここに出入りしているし。

 

「押し付ける形になってしまい、申し訳ございません」

「急なお仕事が入ったなら仕方ないですよ」

「お嬢様のこと、何卒よろしくお願い致します」

「ご期待に沿えるよう頑張ってみます」

 

 ウォルターさんが乗った車が研究所敷地内から出ていくのを見送る。

 1人になってしまった。俺が来る話はしてあるので問題ないらしいが。

 さすが世界有数の研究所だな広いわー敷地面積どんだけだよ。

 

 何棟かある建物のうち一番大きくて目立つやつに決めた。とりあえずあそこに入ってみよう。

 機密情報の漏洩防止のためか厳重な警備をしている。

 受付で話をして、まずは荷物のチェックを受ける。リング状の機械に通される俺のカバン。

 警報ブザーがなった。

 

「危険物の持ち込みは禁止されています。手荷物を直接確認させてください」

「いいですよ」

「何ですかコレ?何かの残骸」

「もとは零式斬艦刀だったものです。とある人物から返却しといてくれと預かりました」

「斬艦刀?困りますよ、壊れてますけどこれは立派な凶器です」

「じゃあその辺のゴミ箱に捨てます。燃えないゴミでいいですか」

「良くないですよ。一旦お預かりしますので、あなたはそちらで身体検査を受けてください」

 

 素直に従って全身をスキャンするゲートをくぐる。

 また警報ブザーがなった。なんか警備員の見る目がキツくなった気がする。

 

「危険物なんて持ってませんよ」

「ちょっと失礼」

 

 手に持った探知機のような検査道具を俺の全身にかざしていく警備員。

 腕に装着された腕輪に反応して警報を鳴らす。

 それに反応しちゃうかー。

 

「あの、その腕輪はなんですか?異様な覇気が検出されるのですが」

「これは母からもらった大事なお守りです」

「外してもらっていいですか」

「無理です、外れないんです」

「そんな訳ないでしょ!早く外してください」

「だから無理だって・・・やめてください!いたた」

「なんだ本当に外れない。体に縫い付けているとか」

「呪われているのです。母は祝福と豪語しましたが」

「やっぱり怪しいですね!こちら正面ゲート、不審者を発見した応援を要請する」

「やめましょうよ。大事にしないで!」

 

 入口で揉めていると、影が俺たちの方に向かって来た。

 ゆらりと音もなく近づいて来たのは、黒いウマ娘だった。

 

「騒がしいですね、どうしました?」

「あ、カフェさん。怪し過ぎる男がいたものでして」

「門前払いする気か?メジロ家とサトノ家、さらに母さんたちがブチギレるぞ!親の七光りとコネが俺の最強武器です」

「メジロ家とサトノ家はともかく、母さんたちってなんだ!」

「SCPオブジェクトクラスKeter(ケテル)なママさんたちです」

「ふざけるな!まとめて収容してやろうか!」

「絶対無理www」

「舐めやがって、黙らせてやる」

「黙るのはあなたたちです。Dクラス職員になりたいのですか」

「それだけはやめてください!」

「この人の事は私が責任を持ちます。あなたたちは持ち場に戻りなさい」

「「は、はいっ」」

 

 ほえ~警備員がビビッて逃げちゃったよ。若いのに大したものね。

 

「・・・アンドウマサキさん?」

「そうです。助かったよ、えーと」

「マンハッタンカフェです。カフェとお呼びください」

 

 カフェと名乗ったウマ娘。

 白衣を着ているから研究者なのだろうか、彼女からは微かにコーヒーのいい匂いがする。

 闇に溶け込んでしましそうな黒い毛並み。頭頂部のアホ毛が色違いでカワイイ。

 影を纏った不思議な雰囲気の子だな。金色の瞳は見えてはいけないものすら捉えそう。

 

「メジロ家から俺のことを聞いているの?」

「いいえ、あの子が教えてくれましたから」

「あの子?」

「お気になさらず。私、その・・・見える人なんで」

「え?・・・あー、そういう感じのキャラですか」

「フフッ、お姉さん・・・鼻血出し過ぎなんですね」

「何で知ってる!誰から聞いた!」

「あなたの実のご両親」

「マジで!そこにおったんかい!無事姉さんと会えました、超ありがとうって伝えて!」

「見ていらしたようですよ・・・あ、今向こう側へお帰りになりました」

「成仏してください!カフェさんや、アンタ本物だな」

「すんなり受け入れてくれる人は稀です。大抵は気味悪がられますから」

「是非お友達になって!その個性は面白い」

「変わってますね。私で良ければ・・・」

 

 幽霊見える子が友達とか凄くね?皆に自慢しよう。

 ここに来た目的と経緯をカフェに話す。

 覇気を集めていること、ここの騎神にも協力してほしいこと、メジロ家のお嬢様のこと。

 

「マサキさんのご用件については私の同僚が詳しいはず・・・つきました。カフェです、お客様ですよ」

「待っていたよ、そちらが新しいモルモット君かな」

「初対面の相手をげっ歯類呼ばわり・・・その耳をドラえもんとお揃いにしてやろか!」

「モルモットではないです。こちらがアンドウマサキさんですよ」

「知っているとも、よく来てくれたね。私はアグネスタキオン、ここで自由な研究者ライフを満喫しているウマ娘さ」

 

 散らかった研究室の主、ダボダボの白衣を着た怪しい目つきのウマ娘。

 無造作に切り揃えられた茶色の毛並み。

 目を見ればわかる、こいつ研究のためなら何をしてもいいと思っているタイプだ。

 ビアン博士の同類 マッドですよマッド!

 アグネス?・・・デジタルの親戚か?変態科学者決定!

 

「俺のことはシュウやメジロ家から聞いているな」

「もちろんだとも。覇気の提供は私とそこのカフェがするよ、見返りとして君のデータを取らせてほしい、ビアン博士との約束でもあるからね」

「俺を研究したいってか?望む所よ、1回本格的に自分を調べてほしかった」

「協力的で嬉しいね。君たちは本当に素晴らしいよ!私の脳細胞が徹底的に調査しろとうるさいぐらいだ」

「君たち・・・ね。俺の愛バのことも知ってるな」

「結晶体についてはシュウとビアン博士に任せるよ。私は君自身の研究とお姫様の件に集中するさ」

「そうだった。会わせてくれるか、そのお姫様に」

「案内しよう。カフェ留守を頼むよ」

「はい。行ってらっしゃい」

 

 タキオンに続いて進む。

 別の研究棟に向かうのか主要施設からどんどん離れていく。

 

「随分遠くまで行くんだな」

「気休めだが物理的距離をとっている。いざという時の被害が少ないと思ってね」

「物騒なことを、そんなに危ない奴か」

「姫自身は大人しくて可愛らしいウマ娘だよ。問題は覇気の方だ」

「姫ね・・・」

「メジロ家からやって来た呪われたお姫様だよ」

 

 その呪いを解除するのが仕事なんです。

 しばらく歩くと到着した。隔離施設・・・warningっていっぱい書かれてるよ。

 何重にもロックされた扉を開けて中に入る。一見普通の倉庫だが中央に四角い立方体がある。

 

「ここで姫が暮らしている」

「窓の無い部屋、というよりシェルターに近いな」

「守っているのは内側ではなく外側だけどね」

「ちょっと会うのが怖くなってきた」

「姫が首に巻いているチョーカーには細工がしてある。頭を吹き飛ばすシンプルな小型爆弾だ」

「酷い扱いだ」

「姫自身が望んだことさ。研究所が丸ごと吹き飛ぶか、姫1人の頭が吹き飛ぶか。考える余地もない」

 

 もしもの時は頭パーンの覚悟完了したウマ娘か・・・屈強な体格の漢女(おとめ)かもしれない。

 メジロ家のお嬢様ならきっとカワイイよね!とか安易に考えてたわ。

 今度こそゴリ娘来ちゃったらどうすんだ。

 

「起きているかい姫」

「姫はやめてください。タキオンさん」

 

 部屋の入口付近に取り付けられたコンソールにマイクとスピーカーがある。

 そこから中にいるであろう姫の声がする。

 声を聞く限りゴリラではなさそうだ。

 

「お客さんだよ。入室を許可してくれないか」

「外からのやり取りではいけませんか?」

「直接会って話がしたいそうだ」

「その方は私に接近する危険性を認識されていますか」

「もちろんだ。君がちょっと暴れたぐらいじゃビクともしない人間さ」

「人間?わざわざ私に会いに来る人間」

「お待ちかねの人物だよ。ロックを解除する、入るのは彼1人だけだ」

「え、ちょっとお待ちになって。どうしましょう、何も準備していない」

 

 部屋の中からドタバタと焦った音がする。

 突然の来客であるある。ラフ過ぎる部屋着と散らかった部屋に慌てるんだよな。

 タキオンは構わずコンソールを操作、ガコンと重たい金属音がして扉が開く。

 

「君が入ったらまたロックする。中の様子は見ているから安心したまえ」

「行ってくる」

 

 慎重に入室します。

 焦らずゆっくり、ちょっとづつ・・・洗面所、トイレ、風呂場、冷蔵庫、電子レンジ、キッチンはないか。

 1人暮らしのワンルームマンションだこれ。あのドアと開けると遂にご対面ですか。

 ゴリラはやめてゴリラはやめて!

 

「お邪魔しま~す」

「は、はい。いらっしゃいませ」

「よっしゃ!ゴリラ回避!さらに~単発お嬢様ガチャ大当たりを引いた!!!」

「ガチャ?」

「何でもないですよSSRさん。ウォルターさんから依頼されたものです!アンドウマサキと言います」

「メジロアルダンと申します」

「やってくれたなメジロ家・・・ホントめっちゃカワイイですね!」

「あ、ありがとうございます////」

「操者やっています。俺の愛バたちもくっそカワイイです」

「まあ、それは良かったですね」」

「仲良くお話しするのを希望します」

「私もです。さあ、こちらへどうぞ」

 

 天蓋付きのベッドに腰かけるのは美しいウマ娘。隣をポンポンと叩いて座るように促してくる。

 さすがメジロブランドは期待を裏切らない!

 透き通るような青みがかった毛並み。日に当たっていないのか美白すぎる肌。

 儚さと、優しさと、思慮深さをもった深窓の令嬢。これがお嬢様の完成形だと言われても納得。

 着ているのはフード付きのもこもこパジャマ(ウマ耳用の穴あり)なんだこの格好は俺を萌え殺す気か?

 何を着ても似合うのズルい!それにお嬢様オーラが隠しきれてませんよ。

  

 隣に座って向かい合う。なんかベッドの上で男女がこうしていると・・・ムラムラします。

 

「首に巻いているそれ、爆弾ってマジ?」

「はい、私だけを殺してくれる安全装置です」

「どうしてそうなってしまったのか話してくれるか」

「その前に・・・私が怖くありませんか?」

「全然」

「またいつ覇気が暴走するかわかりません」

「なんとかする」

「度胸がおありなのですね。それともただの楽天家なのかしら」

「ビビりランキング上位の怖がりだと自負している。まあ、身内にヤバい人たちいるから平気だ、最近1人増えたし」

「わかりました。お話させていただきます」

 

【メジロアルダン】

 

 メジロアルダンそれが私の名前。

 メジロ家の未来を担う者として周囲の期待を一身に背負って生まれたのがこの私。

 恵まれた容姿と明晰な頭脳、高い覇気係数には皆が満足した。

 優しい心と品格を兼ね備えていると褒められもした。

 でも、私には欠陥があった。

 覇気の制御ができない、不安定な癖に強力すぎる覇気は度々問題を起こした。

 急に暴れ出す力は周囲の物を壊し、私自身の体も傷つけた。

 たくさん物を壊したその度に屋敷を何度も移った、たくさんの人に迷惑をかけた。

 欠陥品の私を見捨てなかった一族皆には本当に感謝している。

 

 10歳を過ぎた頃には覇気が落ち着いてきた、いや慣れたと言った方が正しい。

 上がった下がったり、いつ来るかわからない波を受け流すことができるようになった。

 私の覇気は狂っている、それが当たり前だと思う事にした。

 体を鍛えるのはやめた、人と接するのも極力控えた、部屋にお気に入りのものは置かない。

 壊してしまうのは私だけでいい・・・。

 

 親戚に妹みたいな子たちがいる。

 マックイーン、パーマー、ライアン、ドーベル。

 欠陥品の私よりも遥かに優秀な完成品。これでメジロ家も安泰、私は最初からいらなかった。

 

 どこで自分の存在を知ったのか、彼女たちは私に会いに来るようになった。

 使用人が迂闊にも私の名を漏らしたのだと言う、それでわざわざ探したというから驚いた。

 私の危険性を知って尚、慕ってくれる可愛い妹分たち。

 彼女たちのおかげで私の生活は充実した。両親や使用人たちも我がことのように喜んでくれた。

 

 最近よく笑うようになったと言われた。

 外出する頻度も増えたし、少し明るくなったかなと自分でも思う。

 だから勘違いをしていた、自分が正常になったなんてことはなかったのに。

 

 ある日、メジロ家の執事長ウォルターに連れられて機動部隊第7支部の視察に行った。

 ウォルターは幼い頃から私を気遣ってくれる優しい人。

 仕事の合間を縫ってよく私を外に誘ってくれた。今日は彼の古巣でもある機動部隊基地。

 見慣れない施設はどれも新鮮で楽しかった、起動部隊の方たちも気さくな人ばかり。

 軍事基地とは思えないほど綺麗な建物、私の視察に合わせて掃除したのかしら。

 それでも隠しきれていない傷や汚れはある。

 大きな爪で引っ掻いたような壁の傷、赤黒い何かのシミ、猛獣が暴れ回ったような傷だらけの部屋。

 

「先程から目にするアレらは何ですか?」

「以前ここには暴君と呼ばれる殺戮ゴリラがおりました。この基地の見苦しい傷は全てそいつの仕業です」

「そんな個性的な人材がメジロ家に、是非お会いしたいわ」

「お嬢様の頼みでもそれはオススメいたしません、脳筋がうつります」

「残念です」

 

 スペースノア級万能戦闘母艦の壱番艦シロガネ。

 DC戦争初期、冥の騎神の襲撃により艦首を丸ごとえぐり取られるように破壊された。

 後に修復され現在は、弐番艦のハガネと共にメジロ家の権威と力の象徴たる戦艦である。

 

 視察の最後に基地内ドックに停泊しているシロガネの艦内を案内してもらう。

 私が騎神を目指していたなら、この艦で生活することもあったのだろうか。

 艦内研究室で凄いものを見つけた。黒いロボット?

 ガッチリとした大きな体、日本とを模した刀を背負い、全身を包む赤いマントがオシャレだ。

 モデルにしたのは忍者か、ホログラム式のコンソールに表示された名前は。

 

「ダイナミック・・・ゼネラル・・・ガーディアン?」

「人類の守護者、ダブルG3号機"ジンライ"ですな。シロガネに回されていたとは」

「この忍者ロボさんは動くのでしょうか?」

「起動テストは済んでいるようです。実戦配備のため待機しているのでしょう」

「ロボットさん。あなたは人を守るために生まれたのよ、お仕事頑張ってくださいね」

 

 黒いロボット、ジンライの冷たい体躯に触れて声をかける。

 意思のないはずの瞳が「任せろ」とでも言いたげな顔をしていた。

 

 シロガネ艦橋中央の休憩室。

 軽食を取りに行っているウォルターを待つ間、手持無沙汰になって行きかう人々をボーっと見ていた。

 そんな時、白衣を着た研究者が紙の資料を床にぶちまける場面に遭遇した。

 

「ああ!ちょ、もうヤダ私ったら」

「大丈夫ですか?お手伝いします」

 

 慌てて資料を拾う彼女を手伝う。メガネをかけたほんわかした雰囲気の女性だ。

 全て拾い終えるとペコペコと頭を下げてお礼を言ってくる。

 

「あ、ありがとう。本当に助かっちゃたわ、私った昔からドジで」

「お気になさらず。困った時はお互い様ですから」

「あなた優しくてとってもいい子ね」

「えっと・・・」

 

 自然な動きで頭を撫でられてしまった。 

 両親以外でこんな風にされた経験がなかったので焦ったが、悪い気はしなかった。

 「またね」と言ってその場を去って行く女性研究員。

 その後すぐウォルターが戻って来た。

 

「何かありましたかお嬢様?」

「ちょっと人助けをしただけです」

「さようでございましたか。こちらに軽食をご用意いたしました、どうぞお召し上がりください」

「これがファストフード?実物を初めて見ました」

 

 ハンバーガーを食べたことがないと言ったらビックリされるのだそうだ。

 妹たちにも1回は経験した方がいいと言われたのでチャレンジしてみる。

 ハンバーガーを手に取り口に運ぼうとして・・・そのまま握りつぶしてしまった。

 

「あ」

「お嬢様!?」

 

 体いうことを利かない。手に自然と力が入る。

 これは、マズい。しばらく安静だったから完全に油断した。

 覇気が体の中で激しく脈打っている、暴発寸前だ。

 その場にうずくまり、必死に抑え込もうとするが焼け石に水状態。

 脂汗が額に浮かぶ、ダメ!やめて!ここには人がたくさんいるの。

 私の暴走は意識を失って気が付いたら病院のベッドがいつものパターン。

 覚えていないがめちゃくちゃに暴れ回るらしい、その姿は狂った獣のようだとか。

 このままではいつ正気を失うかわからない。

 

「ウォルター!艦内の皆さんを避難させて!1人残らず!」

「かしこまりました」

 

 こういう時の判断が早いのもウォルターを信頼している理由だ。

 

「基地にいる機動部隊は武装状態で待機。暴走した私が艦内を出た場合は構わず攻撃しなさい」

「他にご用命は?」

「さっそくですがジンライの起動を!彼に私を止めてもらいます!」

 

 避難民を連れて走り去るウォルター。

 無人となった休憩室、自身の体を抱くようにして耐える。

 艦内放送が総員に避難を呼びかける。

 まだか・・・お願い早く来て・・・これ以上は。

 どれくらい経ったのだろう、5分か10分か?もう無理だ。

 体から覇気が溢れ出す、これは過去最高に狂った量と密度、どれほどの被害が出るのか。

 

 意識が薄れてい直前にそれは来てくれた。

 壁をぶち抜き現れたのは黒い体に赤いマント背負った日本刀。

 間に合ってくれた。

 ごめんなさい。あなたの最初の敵に私はなってしまった。

 

「ターゲット発見、任務達成条件を再確認」

 

 喋れるのね・・・優秀なAIを搭載しているみたいで好都合だ。

 

「命令ですジンライ!この艦内から私を出さないで!暴走が収まるまで私の動きを止めなさい!」

「了解」

「人命に被害が及ぶと判断した場合、迷わず私を殺しなさい!」

「了解、任務ターゲットの無力化。人命を最優先」

 

 それでいい。最後になるかもしれないのでちゃんと名乗っておこうかな。

 

「お願いしますよ・・・メジロ家元頭首候補、メジロアルダン」

「ダイナミックゼネラルガーディアン3号機ジンライ、参る」

 

 私の意識がハッキリしていたのはここまで。後はずっとぼんやりしている。

 シロガネの艦内はどこもかしこも酷いありさま、動力炉に致命的な損傷を負ったようで艦は轟沈認定。

 ウォルターに聞いた話と艦内カメラの映像からわかったことは。

 ジンライは最期まで己の任務を全うしたということだ。

 私を殺すチャンスは何度もあったはずなのになぜそうしなかった。

 人命にターゲットの命をカウントしたのではないかと後で聞いた。

 機械である彼が何を考えていたかはわからない、私を救おうとしてくれたの?

 発見された私は彼のマントにくるまれていた。

 その周辺にはバラバラに引き裂かれた黒い体躯が散らばっていた。

 私が彼を引き裂いた。

 

 被害は戦艦シロガネとダブルGジンライのみ。

 人的被害は私が軽傷を負っただけ。

 もしシロガネが航行中だったら、ジンライがいなかったら、家族が妹たちがいたら、誰かを殺してしまったら。

 目覚めてからずっと考え震えた、自分が心底怖くなった。

 

 そうして私はここに来た。

 テスラ研なら私を治してくれるかも、それが叶わないならどうか私を。

 

 あれから両親の面会すら断っている。

 そんな中、妹の1人が無茶を言って押しかけて来た。

 マックイーン、この子は見かけによらず大胆なことをしでかす。

 私の現状と首に巻いたチョーカーを見ると悲しそうな顔をしたが、すぐに話題を変えた。

 何でもハガネに乗った際、とても面白い人間に会ったと興奮気味に話していた。

 人間のしかも男性の話をするなんて妹も大きくなったものだと思った。

 下着姿で現れたこと、妹たち全員から気に入られ頭を撫でた、マックイーンを人質にして脱出。

 あまりに破天荒な話だけど・・・本当に楽しそう・・・なんて羨ましいのだろう。

 

「アルダンもその場にいれば良かったですのに」

「殿方にお会いするのは緊張しますわ。本当に愉快な人ですのね」

「ええ、根拠はありませんが、あの方でしたら・・・きっとあなたを救ってくれる、なんて思ってしまいます」

「お会いしたいですね」

「会えます」

「断言したわね」

「あの方があなたを見逃すはずありませんもの」

 

 この子がここまで信用する人間か・・・どんな人だろう。

 筋肉モリモリ、マッチョマンの変態だったらどうしよう。

 

【マサキ】

 

「マッチョをご所望でしたか」

「そこは話していないのですが」

「察しました」

「素敵な感性をお持ちですのね」

「今暴走したらどうなる?またバーサーク状態?」

「シミュレーションによると、次に暴走するようなことがあれば溢れ出た覇気が全て壊してしまうと」

「爆弾か」

 

 事情はわかった。

 

「大変だったな。とにかく今は会えて嬉しいよ」

「私もあなたにお会いしたかったです。ウォルターやマックイーンに感謝ですね」

「ジンライか・・・マジかっけーな。黄金の魂を持ったロボだ」

「彼の遺体はここに運び込まれています。さぞかし無念だったでしょう」

「そんなことはない。ちゃんと任務完遂できて満足だろう」

「そうだといいのですが、もっと活躍させてあげたかったです」

 

 話を聞いてちょっと引っかかる部分があった。

 

「シロガネで暴走する前に頭を撫でられたって言ったな」

「はい。ほんわかした雰囲気の女性研究員さんにです」

「その人はアルダンがお嬢様って知らなかったと?」

「そうみたいでしたね」

「執事を連れた明らかにお嬢様風の子、周りの人間もずっと敬語の子供相手にいきなり頭を撫でるか?俺じゃあるまいし」

「あまりに自然な動きでしたので、警戒する暇もありませんでした」

「末端の研究員でもそこはメジロ家の戦艦内だぞ、視察に来たお嬢様のことを知らないなんてミスありえるか」

 

 疑えば疑うほど怪しい。

 タイミングが良すぎる。ウォルターさんが離れる瞬間を待っていたみたいじゃないか。

 

「その研究員・・・怪しい」

「やっぱりそうなでしょうか」

「ウォルターさんの見解は」

「その女性については調査中とのことです。シロガネの搭乗員に該当する人物はおりませんでした」

「もうそいつが何かやったで決定じゃん」

 

 あーやだやだ。人を不幸にして何か企んでるバカの気配がする。

 俺も話をしないと。

 

「今度は俺の話を聞いてくれ。愛バたちが・・・かくかくしかじか」

「まあ!愛バが昏睡状態から無機物にクラスチェンジしたのですか」

「そうなんたよ。その状態異常を回復させるために覇気を集めている、お願いします覇気をください!」

「こんな私の覇気で良ければいくらでも」

「いいのか?暴走については今の所何もしてやれないのに」

「私に会いに来てくださった、それだけで嬉しいのです」

 

 なんとかしてやりたい。俺に何ができる?

 とりあえずドレインをやっときますか。

 

「覇気を先にいただくよ。俺も頭撫でる方式なんだが、大丈夫かな?」

「優しくしてくださいね」

「頑張る」

 

 アルダンの頭に触れる。高貴なお嬢様の撫で心地は最高です。

 よし、このままドレインを・・・?

 ちょっと待て、今までにない感覚がある。もうちょっと探ってみるか。

 

「ごめん。このままもうちょっと調べていいか?」

「お任せします」

「異常があったらすぐ言うんだぞ」

 

 アルダンの覇気中枢がおかしい。

 イメージとしては立体パズルがバラバラで完成していない状態。

 それどころか全然違うピースを無理やりはめ込んだ形跡がある。

 これは・・・直せるか?

 間違ったピースを俺の覇気で外す・・・成功。

 外した途端消滅しやがった、これはアルダンの覇気じゃない、俺のでもない。

 脳裏に浮かんだのはアルダンの頭を撫でたという女研究員。

 細工したな、この子を故意に暴走させたな。許せん!

 

「マ、マサキさん!ダメ!」

「何?ちょ・・うおっ!」

 

 偽のピースを外したと思ったらアルダンの覇気が激しく脈打ちだした。

 ヤバい!これが暴走ってヤツか。

 やられたな、パズルを完成させようとすると起爆する仕掛けかよ。

 

「離れて!逃げてください!部屋から出て」

「嫌だね!おいていけるか!」

 

 部屋の様子をずっと見ていたのだろうタキオンの声がスピーカーから聞こえる。

 

「モルモット君すぐにそこから退避だ。姫の暴走がこのまま進むようなら処理しなければならない」

「待て!今パズルをやってんの!集中させて!」

「今回の暴走は今までの比ではない。このままでは研究所の敷地面積が全て更地になってしまう」

「待と言ってるだろうが」

「もういいですから逃げて」

「あー、先にもらうよ!」

「え、何を・・・きゃっ!」

 

 バーストモード起動。

 この状態でドレインするのは初めて、あっという間に部屋中が光の粒子で埋め尽くされる。

 優しくしてやりたいが今は非常時だ我慢してくれよ。

 吸い取るぞ!クロシロ!今送ってやるからな、食らいつくせ!

 暴走して溢れる覇気を吸収する。おお、凄い量だな。

 落ち着いてきたぞ、バーストモードはまだ継続してと。

 

「タキオン!アルダンの覇気はどうなった」

「信じられない、一旦落ち着いたよ。だがすぐにでも暴走しそうだ」

「アルダンは大丈夫か?」

「何をしたんですか、あなたは一体」

「このままパズルを完成させる!覇気の数値は見えているか?ヤバそうなら俺ごとやれ!どうせこの部屋にも自爆装置ぐらいあるんだろ!」

「パズル?何のことかわからないが、こうなっては君にかけるしかない。姫を頼む」

 

 パズル再開・・・のんびりしている時間はないぞ。

 まずは邪魔な偽ピースを全部外す。その度に覇気が暴走しかける。

 ドレインとパズルの繰り返し・・・焦るなよ、大丈夫なんとかなる。

 アクション映画で見たことがある。時限爆弾の解体しているみたいだ。

 

「なんで?どうしてそこまで」

「人生こういうこともある」

「私のせいで・・・ごめんなさいごめんなさい」

「謝らなくていい、好きでやってることだから。泣くな!泣かないでー!」

 

 偽ピース全部とれた!

 後はパズルを完成せれば・・・。

 

「頼みがある!体を支えてくれないか?」

「えっと、こうでしょうか」

「もっと密着して!全力で抱きついて、そう!ああいい感じに当たってます」

「こんなときに何を!マサキさん、あなた・・・震えていますか?」

「言っただろ、俺はビビりなんだよ。死の千年パズルやらされてるんだぞ!まさにデスゲーム!」

「一緒に死んでくれますか?」

「そうならないように必死だ!何かやる気の上がることを言ってくれ!」

「生き残ったら私を好きにしていいです」

「うっひょー!マジで!・・・ゲフンゲフン!光栄だけど遠慮します、愛バとメジロ家に申し訳ないですから」

「モルモット君の覇気出力が上昇した。こうかはばつぐんだ」

「黙ってろ!変態科学者!」

 

 アルダンも満更でもない顔をするな!

 怒られるわ!違うんだクロシロこれはただのジョークですよ。

 

 こいつはここで、こっちのはそこ。

 もうちょっとだ、頑張れ俺。

 

「マサキさん。また来そうです」

「さっきから何度も吸っているが大丈夫か?干からびたりしないでくれよ」

「気にせずどんどん吸ってください。ミイラになっても恨んだりしません」

 

 目の前で美少女がミイラになるとか超嫌なんですけど。

 

「まだ出力が上がる!?ただのモルモットではないな君は」

「マサキさんの覇気が変わった、何でしょうこれは電気?」

「あー雷が出ちゃったか、頑張るとそうなるんだよね。大丈夫?ビリビリしてない?」

「平気です。不思議、触れても全然痛くない。それどころか私を包んで守ってくれている」

「覇気が属性を持っただと!それではまるで天級騎神」

 

 姉さんと旧校舎ダンジョンで決闘して以来できるようになった。

 覇気開放の第2段階。溢れる覇気の形状が半分ぐらい雷へと変化する。

 覇気噴出口は腕と脚の他、背中の肩甲骨辺りからも出るようになる。 

 自由に飛べはしないけど雷の翼が生えたみたいだ。

 

「モルモット君!いやカピバラに昇格だ!必ず生還したまえ、君を調査できないなどあってはならない!」

「げっ歯類から離れろ」

「怖いくらい綺麗・・・」

 

 見苦しい姿で悪いなアルダン、俺は体から雷出しちゃう系のカピバラだ。

 ドレインと並行してパズルを完成させる。

 これが最後のピース!はまったぞ、やりました!

 これで覇気中枢は正常に機能するはず・・・ておいおいおいおい!

 全ての回路が正常に繋がったことでアルダン本来の覇気が溢れてくる。

 これ暴走しとるのと変わらん!むしろもっと酷い。

 

「マサキさん!」

「心配するな。経験上、1回出してスッキリした方がいい」

「でも!そんなことしたら」

「構わず全部出してしまえ。その覇気、俺と愛バたちが食らってやる」

「あなたを信じます」

 

 もう撫でるぐらいじゃ間に合わんな。

 そもそもドレインする際にリラックスしてもらえばいいだけで、体が接触していれば可能なんだよ。

 

「お嬢様、お願いがあります」

「急にかしこまってどうされたのです。何でも言ってください」

「抱きしめてもいいですか?」

「はい。喜んで」

 

「今更ですね」と微笑んだアルダンを抱きしめる。

 彼女の覇気が爆発したのに合わせて全力のENドレイン!間に合ったよな・・・。

 

 この日、テスラ研日本支部全体が地震ではない揺れを観測した。

 一瞬の出来事だったので気づいたものは少なかったが、データには謎の振動が発生した証拠がハッキリ残った。

 

 特別収容隔離施設に駆け付けたタキオンとカフェ。

 彼女たちが見たものは、内側から超常の力で破壊された部屋の残骸と。

 気を失った男を優しく抱きとめる美しいウマ娘の姿だった。

 

「大丈夫かい姫?」

「私・・・救われてしましました」

「そうだね」

「今日会ったばかりなのに、研究所の人たちがどんなに頑張ってもダメだったのに、こんなにアッサリ」

「危機一髪でしたよ。全然アッサリではありません」

 

 どれほどの偉業をやってのけたのか、わかってないだろうこのカピバラは。

 姫にもたれかかったまま、だらしない顔でグースカ寝ている。

 

「メディカルチェックをしよう。君が本当に救われたのか確認したい」

「アルダンさん、代わります。マサキさんをこちらへ」

 

 カフェがマサキを受け取ろうとするのを姫が制する。

 

「もう少し・・・このままでいさせてください」

 

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