俺と愛バのマイソロジー   作:青紫

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おまつりさわぎ

 クズを断罪した。

 

 

 とあるメジロ家所有の高層ビル、その地下に秘密裏に造られた施設がある。

 ここは重要な犯罪者の拘留と取り調べを行う場所。

 

 無機質な部屋の中では現在取り調べの真っ最中だ。

 ベテランと若手コンビの職員二名が凶悪犯と質疑応答を繰り返している。

 質問に答えている男は異様な風貌だった。

 

 頭はチリチリで側頭部の毛がゴッソリ抜けており、サザエさんを彷彿とさせる妙な髪形。

 過度のストレスを受けたのか白髪だらけ。

 顔はゲッソリと痩せこけており虚ろな目をしている。

 まるで生気を感じられない、廃人寸前だ。

 たまに体が大きくビクンッと痙攣し、常時何かに怯えながら小刻みに震えている。

 

 質問には素直に答え、過去の犯罪歴や手口など洗いざらい吐き出した。

 そうしなければ、死ぬより恐ろしい目にあうとブツブツ呟きながら。

 

「本当にアレがあのアーチボルドなのか?」

「生体データは一致している。かなりの変貌を遂げているが間違いない、我が仇敵アーチボルド・グリムズだ」

 

 取調室の様子をマジックミラー越しに見る男たち。

 メジロ家、現教導隊指揮官カイ・キタムラとレーツェル・ファインシュメッカーの二人だ。

 

「全身打撲、頭髪の変化及び特定部位の毛根死滅、精神にもかなりのダメージを負っている」

「毛根?ああ、あの妙な髪形か」

「一番不可解なのは覇気中枢がズタボロに破壊されているこだ」

「覇気の使用は二度と不可能、体力気力共に後期高齢者並みに落ちている」

 

 覇気とは生命エネルギーと感情エネルギーにその他諸々が合わさったもの。

 体力と気力を修練によって高める事で覇気が強化されます。

 覇気中枢とは覇気を生成、貯蔵する目に見えない器官。いわば第二の心臓。

 そこを破壊されたアーチボルドが廃人化するのは当然の結果だった。

 

「どうやったのかまるで見当もつかん。熟練の治療師や高位操者でもこんな真似は不可能だとさ」

「他者の覇気をここまで弄れる人物は限られている・・・フフッ、そうか」

「奴を廃人にした人物に心当たりがあるようだな」

「どうやら、また先を越されてしまったようだ」

 

 一週間前、ウマ娘の女児誘拐事件があった。

 実行犯はチンピラ崩れの小物だったが、背後に重要指名手配犯アーチボルドの影が見えたためメジロ家の起動部隊が出動した。

 

 取引場所である山間部は複雑な地形であり捜索は難航するかに思えたが、善意の協力者である謎のウマ娘の誘導で事なきを得た部隊は速やかに現場へ到着。気が付くと協力者は忽然と姿を消していた。

 

 ログハウス内で被害者の女児二名を発見し保護。

 スナック菓子を食べながらくつろいでいたので、皆、首を傾げるはめになった。

 

「あら、遅かったのね」

「もう終わっちまったよ」

 

 ケガも無く妙に落ち着いているのが気にかかったが、一応病院に搬送。

 後の事情聴取では、アサキムと言う人物が助けてくれたと述べた。

 

「超カッコイイんだぜ!バカだけど」

「ありえないほど強かったわ、ロリコンだけど」

 

 バカでロリコンだがメッチャ強い、漆黒のダークヒーローがいたのだと。

 それ以上は特に何も語らず。

 現在、女児二名は心的外傷も無く今も元気に日常生活を満喫している。

 

 ログハウス周辺の木に気絶し白目をむいた半裸のチンピラたちが吊るされていた。

 なぜか全員亀甲縛りだった、わけがわからないよ。

 森の中では戦闘用アンドロイドの残骸を多数発見。

 損傷が酷く、力任せに体を引き千切ったものや首を一撃で飛ばされたように思える。

 戦闘が行われたと思われる広場は広範囲の砲撃を行ったのか広範囲が荒れており。

 その中心でアーチボルドらしき物体は発見された。

 

 パンイチ、サザエさんヘッド、涙と鼻水と自身の吐瀉物まみれの姿。

 更に油性マジックで背中に大きく「成敗ッ!!!」と書いてあった。

 何度も痙攣し、誰かに許しを請うようにうわ言を繰り返す元アーチボルド。

 

「ゆるして・・・やめ・・・あ、アサキム・・・あくま・・・ひぃ」

 

 周囲はジュースとラーメンとゲロの臭いが立ち込めていたという。

 

 以上が報告書の内容。まるで意味がわからんぞ!

 

 取り調べが終わった、アーチボルドは後日、凶悪犯用の専用施設に移送される予定。

 あの様子では二度と悪事を働くことはできないだろう、同情はしないが本当に哀れな。

 

「アサキム、一体何者なんだ」

「ただのヒーローだよ」

「ヒーローか、でも良かったのか?ずっと奴を追っていたんだろう」

「自らの手で奴を裁いてやりたかったのが本音だ。しかし、私ではあそこまで出来なかっただろう」

「殺してはいないが、地獄にはしっかり落としたって所か」

「アーチボルドを殺さずに地獄送りにしてくれた。アサキムには心から感謝している」

「あー、そのなんだ。カトライアの事は」

「彼女とはそんな関係ではないよ。たまに連絡は取っているがね」

 

 レーツェルは懐から写真を取り出す。

 優しそうな男性と黒猫を抱いた美しいウマ娘。幸せな夫婦の写真だった。

 

「この通り、今はとても幸せだと報告してくれた」

 

 エルザム・V・ブランシュタインがメジロ家機動部隊に入る以前の事。

 士官学校に通う彼にはウマ娘の学友がいた、それがカトライア。

 いつの日か契約を結び共に世界を守っていこうと、将来を語り合った仲だった。

 

 忘れもしないあの日、エルザムが特別実習で学校を留守にしている間それは起こった。

 軍の士官学生を狙った爆破テロ事件。

 多数の負傷者を出し、カトライアはその時重傷を負い、騎神になるのを断念した。

 多くの教官や友人、そして相棒になるはずだった人の未来を奪った犯人をエルザムは酷く憎んだ。

 後に、このテロ事件の主犯はアーチボルドだったことが判明。

 エルザムは仇としてずっと奴を追い続けていた。

 

 彼女と別れる前に交わした言葉を今も覚えている。

 

「エル、私はあなたの愛バにはなれなかった。でもね、あなたを必要としてくれる子は必ずいるわ」

「カトライア・・・私は」

「あなただけのトロンべを見つけてあげて・・・約束よ」

 

 写真の男性と結婚したと連絡が来たときは自分の事のように嬉しかった。 

 事件の暗い過去を引きずらず、前を向き幸せになろうと努力している彼女を尊敬した。

 過去に縛られていたのは私だけか・・・。

 ちなみに写真に写る黒猫の名前もトロンべらしい。

 

「元カノに未練タラタラか」

「やかましい!そのチョビ髭をバーナーで炙られたいのか!」

「キャラが崩れてるぞ」

「失礼した。今は愛バがいる身、そして更なる美食とトロンべの追求に余念がない」

「お前・・・まだ他にも契約するつもりか?」

「知らないのか?最近は一対一よりも複数人での契約が主流だ」

「お前の覇気ならば問題ないか、好きにしたらいい」

「後一人ぐらいならいけそうと判断している。フフッ、待っていてくれ新たなトロンべよ」

 

 こいつ黒髪ウマ娘フェチなだけじゃねーかとカイは思う。

 淡い緑髪のカトライアは例外だったらしい。

 もう少し興味本位で聞いてみる。

 

「黒髪以外の条件は何だ?」

「確かな戦闘力と思慮深さ、後は何かしらの調理技術だな」

「今の子は、コーヒー淹れるのが上手いってだけで契約したんじゃなかったのか」

「次はそうだな、パティシエの心得がある者がいい。ドイツ菓子など作れたら最高だ」

「無茶苦茶言うな、そんな騎神いると思うか?」

「いるさ、確実にな」

 

 アーチボルドが捕まった件は、後でカトライアにも報告しておくか。

 奴に苦しまされた被害者たちもこれでうかばれてほしいものだ。

 アサキム、トロンべの弟よ、今度改めて礼を言わせてほしい。

 

 ケーキ作りが得意なトロンべ募集中なのでよろしく。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「くしゅん!」

「珍しいねフラッシュ、風邪でもひいた?」

「違います。何故か今、悪寒がしたので」

「お腹出して寝てるからだよー」

「それはあなたでしょファルコン!」

「盛った男どもに噂されてるんじゃないの?この無自覚童貞殺し!」

「ど!?別に殺してません!人をエロスの権化みたいに言わないでください!」

「お嬢様の操者と一線越えてもいいって思った癖に」

「お前もだろうが!流石底辺地下アイドル、体を使った営業は得意分野ですね」

「ウマドルだって言ってるだろ!もう怒った!アダルト業界にフラッシュの履歴書送ってやるー!」

「その時はお前も道連れだ。アイドル崩れの風俗嬢はガンガン指名されるぞ、良かったね」

「なんだとー!」

「なんですか!」

「あの、お二人とも頭首様の御前ですよ」

 

 くしゃみをきっかけにケンカを始めた二人に戸惑うウマ娘。

 サトノ家、ヒリュウ改の作戦会議室では30名程の従者部隊員と頭首サトノドウゲンたちがいた。

 作戦会議室といっても内部はサークルの部室を広くしたような雑多な空間だ。

 大型モニターにホワイトボードと大き目のテーブル、人数分の椅子。

 ぬいぐるみやフィギュア、各自が持ち寄った大小様々な私物が陳列されている。

 テーブルの上にはお気に入りの飲み物と菓子類が広がっており、皆でそれをつまんでいる。

 

「いいのいいの、うちはこれが日常だから。諦めて早く慣れてね新人君」

「はい。フフッ、あの人が言ってた通りです」

「期待してるよ~ルーキー」

「よっ!期待の新人!」

「なんでも聞いてくれよ、カワイイ子は大歓迎」

「今度一緒にお出かけしようね」

「付き合ってほしいっス!」

「身の程を知れ」

「(´・ω・`)ショボーン」

 

 新人と呼ばれたウマ娘に周囲から声がかかる。どれも好意的なものであり歓迎の意を示している。

 

「ちょっと皆さん!新人とはいえ実力と階級は彼女が上なんですから、それなりの敬意を払ってですね」

「だったらあなたもだね~6番のフラッシュさん」

「何か言いました?私より下の7番ファルコンさん」

「あ・え・て・下にいてあげてるんだよ、わかってる?」

「そのまま最下層まで落ちてしまえ」

「あ?」(ウマドル舐めんなよコラ)

「お?」(完璧に組まれた殺害計画実行してやろうか?)

「どっちが勝つと思う?」

「フラッシュに冷蔵庫のプリンかける」

「それ俺のじゃん」

「ファルコンに私の限定ブロマイドをかけるわ」

「お嬢様たちが写った分(頭首検閲済み)はもう持ってるよ・・・まさか!マサキ様の!」

「盗撮じゃないか!お嬢様に殺されるぞ!」

「今すぐ言い値で買います!!おいくらですか?」

「新人君!?」

「あら、ルーキーはマサキ様のファンか」

「うんうん。これならすぐに仲良くなるね」

 

 しばらく騒がしいやり取りの後、ドウゲンは新人に声をかける。

 

「何度も聞いたけど、本当にほんとぉーにいいんだね?」

「はい、どうかここで働かせてください」

「見かけによらず大胆だよね。君の立場でここへ来るのはかなりの勇気が必要だっただろうに」

「多少、肩身の狭い思いをすると覚悟していましたが、まったくの杞憂でした」

「うちのメンバーは変わったもの、面白いもの大好きだからね。君の入隊はお祭り騒ぎだよ」

「私の真名を聞いても「おろしれー」「良く裏切った!」「しゅき」等、皆さん笑顔で迎えてくださいました」

「娘たちが結晶化しても「流石お嬢様!輝いておられる」と斜め上の賛辞を真面目に贈っちゃう連中だから」

 

 変人の巣窟でごめんねと、頭首自らが言ってしまう変わった組織。

 入隊試験を終えた私を見て、なぜか三点倒立で「感動した!」と叫んだ頭首様も大概だと思うけど。

 後、別に実家を裏切ったつもりはないのです。

 妹分たちと争うだなんて・・・・・・あら、それはそれで楽しそうだわ。

 

 パンパンと手を叩いて皆の注目を一旦集めるドウゲン。

 

「はいはい、お静かに~。もう知ってると思うけど改めまして、本日より新しい仲間が増えるよ」

「やったねたえちゃん!」

「おい、バカやめろ!」

「ここにいないメンバーたちにも周知させること。いいね」

「「「「かしこまり!」」」」」

 

 了解の声が響き、新人の紹介は続く。

 

「入隊試験を歴代一位の成績で通過、覇気係数はなんと超級だ!」

「すっげ」

「流石っス」

「これがあの家の秘蔵っ子」

「向こうの頭首と話はついてる、本人の意思も固い、ここでの評判も良し、妻も推薦してるよ!」

「公認キター!」

「これで勝つる」

「奥様の推しなら仕方ない」

「それに、なによりも・・・カワイイィィィーーーー!!!」

「「「「それな!!!!」」」」

「お褒め頂き光栄です////」

「照れながら微笑むのが余計に尊い」

「何人か昇天したぞ」

「揉めに揉めた配属先は・・・シングルナンバーに決定しました!」

「おお!」

「妥当だな」

「自分、部下に立候補していいっスか」

「ええー!私が先だよ」

「何番?欠番だらけで選び放題だろ」

「シングルナンバーの再編成も今後どんどんやっていくよ。いい人材がいたら即スカウト!ハロワにも求人載せちゃったぞ」

 

 「ハロワで募集すんなよ」と思ったがありかもな。

 求人サイトからサトノ家に就職した者が結構いるので、昨今では普通なのかも。

 

「では最初のお仕事、自己紹介いってみよう!ナンバーと真名を高らかに宣言しちゃいなさい!」

「はい!」

 

 テンション高めのドウゲン、その横に一人のウマ娘が並ぶ。

 サトノ家従者部隊の黒い戦闘服(趣味でカスタム可)そのインナーのみをラフに着こなした姿。

 白磁のように透き通った肌、青みがかった美しい毛並み。

 所作のひとつひとつに気品が溢れ、お嬢様たちとは違った高貴さを感じる。

 それでいて、隠しきれない極大の覇気をその体に秘めた実力者。

 

 期待を込めた視線を受けて一礼、軽く微笑んでから告げる。

 

「本日よりお世話になります」

 

 少し緊張する、いけない、ちょっとだけ尻尾が放電しちゃった。

 

「サトノ家従者部隊0番、超級騎神"メジロアルダン"と申します。皆さん仲良くしてくださいね」

 

 よし!ちゃんと噛まずに言えました。

 

「0番キマシタワー!!!」

「幻のシングルナンバーがついに登場!」

「0ってことは忍んでない忍者になるつもりなの」

「全身凶器の暴れん坊忍者募集!って来るわけねーだろそんな奴・・・それが今来たぁーーー!」

「「メジロの暴君みたいな子が欲しいな~」て頭首様の思いつきで生まれたからな」

「あんなカワイイのにリーサルウェポンなんだ・・・しゅき!」

「実家を敵に回す心意気に惚れました。結婚してください!」

「とりあえず踏んでくれます?あ、尻をぶっ叩いてくれてもいいですぞ」 

 

 写真を撮る者、手を叩いて笑う者、感涙する者、求婚する者、ただのドM。

 とにかく歓迎されてるみたいだ。頭首様もこれで良しと頷いている。

 

 ここからまた始めよう、新しい私を。

 

 マサキさん、喜んでくれますか?褒めてくれますか?バカだって笑いますか。

 あなたに救われたこの命、あなたの帰る場所を守るために使わせてください。

 どうかご無事で、また会える日を心から楽しみにしております。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ああああああああああああ」

「マサキがバグった」

「どうせ禁断症状だろ」

「何の?」

「ロリの」

「納得した」

「納得するなよ!ウオッカとスカーレットがどうなったか心配なだけじゃ!」

「無事保護されたの見たじゃねーか」

「俺が恋しくて泣いてたらどうしよう」

「ねーよ」

「自意識過剰」

「だって、クロとシロを思い出しちゃったんだもんよー!背格好が似てたんじゃよー」

「ロリの禁断症状、治し方検索っと」

「新しいロリをあてがうしかないぞ」

「クローーーシローーー愛してるぞーーー!!!」

 

 海沿いの国道を軽快に走行するサイドカー付きのバイク。

 運転ゴルシ、俺はサイドカーで吼えてます。

 ヘルメット越しに愛バへの愛を叫ぶ俺をウザそうにあしらうゴルシとミオ。

 

 クズへの制裁が終わった後、ログハウスに戻りウオッカたちとお別れした。

 俺のことは一応ナイショってことにしてもらった。

 最後にデレた二人をしっかりハグさせていただきました。やっぱロリ最高!

 結局、ゴルシが山で狩って来たのは毒キノコだったのでリリース。

 アーチボルドに食わせればよかったかもな。

 

 下山してからは海を目指してみた、超適当www。

 

「ここいらで一気に覇気を吸収したい」

「贅沢~」

「祭りだ」

「どうした急に?発作か?いつものゴルシか?」

「祭りの匂いがするんだよ・・・いるぜ、そして来るぜ」

「ミオ」

「もう少し先の町で確かにお祭りやってるね。へぇー商店街主催で割と人気があるみたい」

「人が集まる、その中に強い覇気を持った奴らがいるかも」

「決まったな!行くぞ!思う存分ハジケてやろぜ!」

「「ひゃっはぁーーー!!!」」

 

 のりこめーってことでお祭り会場に突撃した俺たちだった。

 

「はい、これお釣りです。熱いから気を付けてください、ありがとうございましたー」

「マサキ!こっち手伝ってくれ」

「あいよー」

「らっしゃい!列に並んでお待ちください。割り込みした奴は禿げます」

 

 ゴルシ特製やきそばを販売する俺たち。

 メイン調理はゴルシ、調理補助と売り子は俺。

 店頭に設置されたマネキンにヘルメットを被せてあるので、そこから元気のいい客引きを行うミオ。

 

 なぜこんなことをしているかと言うと。

 お祭り会場に到着した俺は騎神を発見、覇気提供の交渉をした。

 向こうが提示した条件はお祭りの出店を手伝うこと。人で不足で猫の手も借りたい状況だったらしい。

 手伝いの見返りとして覇気をもらえる。

 更に知り合いのウマ娘たちに声をかけてくれるとのこと。やったね。

 

 屋台の一つを任された俺たちはゴルシのやきそばを販売。

 あっという間に大人気、飛ぶように売れていくので忙しいが気分がいい。

 本日の売上一位はもらったな。

 

「いや~大盛況ですな。君たちにまかせて正解だったね」

「ネイチャさんちっす」

「「チース!!」」

「元気だねぇ」

 

 俺たちをお祭りに巻き込んだ張本人、ウマ娘のナイスネイチャが様子を見に来てくれた。

 下町育ちの庶民派、茶色い毛並みのウマ娘。

 両肩にかかるぐらいの束ねた髪をもふもふしたいです。

 わかるぞ、この子は家事スキル高くていい嫁さんになりそうだと。

 ご近所のご老人たちに愛された、商店街のアイドルです。

 

「代わろっか?休憩まだでしょ」

「待ってくれ、今やっとゾーンに入った所だ!今ある分を全部売り尽くしてみせる!」

「フッ、マサキの腕がメキメキ上達していくのがわかるぜ。免許皆伝の日も近いな」

「残り10食だよー!今買わないと一生後悔するぞ!是非食べってってねー」

「あはは、何だこの迫力」

 

 10分後。

 

「しゃあーーー!完売した!ありがとうございましたぁ!」

「「ありがとうございました!!」」

 

 凄まじい勢いと迫力、店員の意味不明な言動、なにより箸が止まらないほどの美味さが客を呼び続けた。

 1日分の材料を半日で使い切った、追加の物資が届くまでしばらく休憩をもらったよ。

 ゴルシは他の店を手伝って来ると言って消えていった。パワフルな奴め。

 俺とミオは祭りを見物中。

 

「おお、マサキじゃないか!」

「よおダブルジェット」

「ツインターボ!なんで間違えるかなー」

「一回外すのが様式美だと思って」

 

 元気いっぱいのウマ娘が突っ込んで来る。

 こらこら急に走ると危ないぞっと、小さな体をひょいっと抱え上げる。

 抱っこ検定があったら初段ぐらいは余裕だと思う今日この頃。

 

 鮮やかな青い毛並み、先端が薄っすら色違いでとてもキレイ。

 オッドアイにぐるぐるお目目、歯がギザギザなのはなんでだろう?可愛いから許す。

 

「他のみんなはどうした」

「いるよー、おーい二人ともこっちだぞー」

 

 ターボに呼ばれ更に二人のウマ娘が近づいてくる。

 

「ターボさん、単独先行は危険です。また迷子になったらどうするんですか」

「ぐすっ・・・あ・・・マサキさん、どうもです」

 

 やれやれと言った感じでターボを注意するメガネをかけたウマ娘はイクノディクタス。

 薄茶色の毛並み、長い三つ編みと丸眼鏡が特徴的なウマ娘。

 生真面目を絵に描いたような子でネイチャを含む四人のまとめ役兼参謀ポジション。

 

 なぜか鼻血を出して泣いているのはマチカネタンホイザ。

 肩耳が貫通した帽子を被り、ゆるふわな茶色の毛並みを持ったウマ娘。

 不幸体質なのか、転んだりぶつかったりしてしょっちゅう鼻血を出す子。

 鼻血か・・・姉さんを思い出いちゃった。

 それとマチカネだと、フクキタルの親戚かなんかか?この子にお守り売ってやれよ。

 

「すみませんマサキさん。ご迷惑では?」

「そんなことないぞ」

「そうだぞイクノ、マサキはターボと遊びたいんだ」

「そういうことにしとくか、ちょっと降ろすぞターボ」

「うん」

 

 鼻血出してる子を放置できません。姉さんは自分でなんとかして。

 

「今度はどうしたんだよ。あーあーもう」

「ずみばぜん~、人混みに流されてマッチョなおじ様の肘鉄がモロに」

 

 どういう状況だそれ。きっとおじさんも気づかなかっただろう。

 血を拭き取ってから覇気でヒーリングをするか。

 ちょっと摘まむぞ我慢して。

 

「えい、えい、むん!」

「ふぎゅ!」

「「持ちネタパクられてるwww」」

「リスペクトしただけだ」

 

 絶妙な力加減で鼻を摘まみ覇気で止血とヒーリングを施す。

 「えい、えい、むん!」はタンホイザがたまに呟く掛け声。可愛いから使ってみた。

 待つこと数秒、これでよしっと。

 

「あ、止まった。さっすがマサキさん、ありがとうございます」

「どういたしまして。気を付けろよ、流石にもげた鼻は治せそうにない」

「怖っ!不吉なこと言わないでくださいよ」

「常日頃から顔面への攻撃に注意しておくことを推奨します」

「いっそのこと鼻を鋼鉄製に改造したらいいと、ターボは思うぞ」

「「それだ!」」

「してたまるか」

 

 その後、休憩時間の終了まで祭りを一緒に楽しんだ。みんないい子たちなのよ。

 ネイチャもそうだがこの子たちの覇気は既にいただいております。超ありがてぇ!

 さあ、午後からも頑張りますか。

 

 何日か経っていよいよお祭り最終日。

 

「信じられねぇ」

「うそだろ」

「困ったね」

 

 噂は聞いていた。

 たった一人で屋台の材料を全て食い尽くす魔物が出ると。

 それが今日、俺たちの屋台に現れた。

 

「美味いな、ああ、本当に美味い。おかわりだ」

 

 調理の手を止めることは出来ない、周囲の見物客も圧倒される食欲。

 急いで追加オーダーに応えるが、作ったそばから消費される。

 

「ついに来たね。彼女が」

「知っているのかネイチャ!」

「オグリキャップ、数多の飲食店を出禁になった暴食の魔王」

 

 魔王と呼ばれたウマ娘により、空になった容器がどんどん積み上がる。

 この食べっぷり、北海道の野生児スぺよりも上だ。

 

 灰がかった銀の毛並み、性格は常にマイペースかつ天然が入ってる感じがする。

 周りの喧騒を全く気にせずにもきゅもきゅ食事を続ける様は、威風堂々。

 燃費はともかく、こいつ強いな。覇気の質が強者のそれだわ。

 

「おったおった!ってまーた食い散らかしとんのか、ほんまええ加減にせぇよ」

「あらあら、オグリちゃんは今日も食欲旺盛ね~」

「タマ、クリークも。食べるか?ここの焼きそばはとても美味だぞ」

 

 オグリの連れであろう二人のウマ娘がやって来た。

 一瞬、視線が合う。ほう、この二人もなかなかの覇気をお持ちですな。

 

「うちらの連れがえらいすんません。お代はきっちり払わせますんで、心配せんといてや」

「こう見えても騎神なんですよ~。オグリちゃんは高給取りなので食べた分ぐらいは出せます」

「食費で殆ど消え去る運命だぞ」

「わかっとんなら自重せいや!」

 

 年齢関係なく烈級騎神以上なら騎神専用のバイトをする資格が与えられる。

 ちょっとした警備や探偵の真似事、警察や軍からの協力要請がメイン。

 絵のモデル、レンタル愛バ、野良レース出場といった変わり種もある。

 自身の実力と級位を加味していろんな仕事ができる社会なのです。

 ファンタジーもので冒険者がギルドでクエストを受ける感じを想像してくだされ。

 お小遣い稼ぎをするもよし、自身の修練を兼ねるのよし、名を売るために活躍するもよし。

 危険な任務は自己責任!ちゃんと契約書に「死んでも文句言うな」って書いてあるから恐ろしい。

 

 強い覇気を持つ人間や操者限定の仕事もあるらしいぞ、へぇー。

 

「三人とも烈級以上か」

「うちとクリークは烈、オグリは轟や」

「最近は指名も増えて大忙しですからね。今日は久しぶりにのお休みです」

 

 簡単にお互い自己紹介した。タマモクロスとスーパークリークか。

 

 タマモクロス

 関西弁を話す小柄なウマ娘。この子も銀の綺麗な毛並み。

 周囲への気配りとツッコミを忘れない面倒見のいい苦労人。

 小さい体で頑張ってる子を見ると応援したくなります。

 

 スーパークリーク

 おっとりした性格、艶のある茶色の毛並み。

 年下だよな・・・なんだこの溢れ出る母性は!バブっていいのかな。

 スタイルもいい、おぱーいがパネェっス。油断すると赤ちゃんにされそう。

 

「ちょっと失礼」

「ん?なんだ、ああ、なるほど覇気を調べてるのか」

 

 オグリの食欲は覇気の異常かもしれないのでチェックしてみる。

 頭に手を置いて集中、残念!特に異常なし。これはただの食いしん坊だったぜ。

 あれ、その方がヤバくね。

 

「まだ食べたいか?」

「うん」

「お腹いっぱいになったら覇気を分けてくれないか?」

「いいぞ」

「よし、約束だぞ」

「うん。おかわり」

 

 覇気のドレインを約束させた。

 

「ちょっといいの!あんな安請け合いして」

「お腹いっぱいって、あいつ底があるのか不明だぞ」

「兄さん、それは無謀っちゅーヤツや」

「どうしましょう~」

 

 ミオ、ゴルシ、タマ、クリーク、それに周囲の人達にも心配されてしまった。

 

「わかってる。だけどあの顔を見ろよ」

「じーーー」( ᯣ _ ᯣ )

「は!もう食い終わってこっちを見てる!」

「なんて物欲しそうな顔なんだ」

「俺はオグリを満足させてやりたい」

「本気なんやな」

「今日は祭りの最終日だ、最後にあの胃袋ブラックホールに勝ちたい!」

「まあ、素敵」

「俺一人じゃ無理だ、頼むみんな協力してくれ!」

 

 綺麗すぎるお辞儀、本心からの誠実な気持ち、よく通る声と慈しみに溢れた覇気。

 マサキの願いはミオたちだけでなく周囲全ての人々に伝わった。

 

「へっ、若造にそこまで言われたらやるしかないか」

「腕が鳴るわい、わしの封印を解く日が来るとはな」

「ああ、皆やってやろうぜ!」

「そうよやりましょう。だって楽しそうじゃないの」

「俺もやるぜ」

「私も」

「フッ、私を忘れてもらっちゃ困るよ」

 

 自分の店を放置して協力を申し出る人、謎の風格をお持ちの爺さん、異様に覇気が強いおばさん。

 お客さんなのに手伝いをしたいと言ってくれる人。

 ざわ・・・ざわ・・・してきたの。

 

「あーあー皆に火をつけちゃったね」

「ネイチャは強制参加な」

「あはは、逃げればよかったかな」

「ターボもやるぞ」

「微力ながらお手伝いします」

「今日は鼻血出さないよ」

 

 ネイチャと愉快な仲間たちも参戦。

 

「ミオ、ゴルシ、俺を勝たせてくれ」

「今更だな」

「私の分析力でカバーしてあげるよ」

「ちょいまち!兄さんたちだけにええ格好させへんで」

「私達もお手伝いします~」

 

 揃ったな・・・。

 

「すまない、誰かおかわりをくれないか?」

「やるぞみんな!奴の胃袋を満タンにしてやろうぜ!!!」

 

 おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「もう無理がはっ!」

「タンホイザーーー!!!」

「ダメだ鼻血ブーだ。衛生兵ーー!!!」

「クッソ、これで何人目だよ」

「とにかく作るしかねぇ、手を止めたら負けるぞ」

「材料、材料はまだか!こっちはもう空だぞ」

「ここまで来たんだ、あと少し粘れば・・・」

 

「すまない、おかわりはまだか?」

 

「終わりだ・・・」

「勝てない」

「倒す手段はない」

「アカン、既に半数が過労でダウンしてもうてる」

「底の見えないオグリちゃんに絶望して戦意喪失してる方も多いです」

「これが暴食の魔王ベルゼブブの異名を持つウマ娘」

「あの質量はどこへ消えるんだ?本当にブラックホールなのか」

 

 みんなの気持ちがひとつになってからしばらく経過。

 死屍累々のお祭り会場になりました。

 余りの忙しさで半数以上の人がダウン。調理のやり過ぎで人が倒れるってどういうことだよ!

 だというのに、奴のペースが全く落ちない。質量保存の法則はいずこへ。

 俺は間違ったのか?皆を巻き込んで・・・これでお終いなのか。

 

「マサキ!オグリのお腹を見て」

「・・・はっ!アレは」

 

 見えた!勝利までの道筋が。

 ここまでの犠牲は無駄じゃなかった。

 

「腹が、ボテ腹になってるーーー!!!」

「「「「なん・・・だと・・・」」」」

 

 まるで変化がないように見えた奴の腹が膨らんでいるのだ。

 これは限界が近づいているのでは。

 

「ようベルゼブブ!腹の具合は大丈夫か?無理してんじゃないのか、ん?」

「オグリキャップだぞ。そうだな、もう少しいけそうだ」

「聞いたか皆!もう少しだとよ!」

 

 今まで、おかわりと特盛しか言わなかった奴が「もう少し」と言ったな。

 奴の少しがバカげた量なのは百も承知。

 だが、ここしかない!みんなもそれをわかっているので気力を持ち直す。

 

「へへ、ゴルシ様ともあろうものが。焼きそば作りで腱鞘炎になるとは」

「無理すんなと言ってやりたいが、ここが正念場だ頼む」

「任せろ、腕がもげても調理してやるよ」

「あんな奴生かしておいたら町の食糧が食い尽くされてしまう」

「ここで仕留めるぞ」

「ターボまだやれるよ」

「向こうも消耗している、この好機を逃してはダメです」

「ふぃーとんでもないことになったね」

「鼻血止まった。寝てる場合じゃないよね」

「まだやれる」

「諦めない」

 

 倒れていた奴らが復活する。

 勝利は目前、折れかけた心に再び火が灯る。

 

「よーし!もうひと踏ん張りじゃー!」

「「「「えい、えい、むん!!!!」」」」

「ちょ、わたしの!」

 

 みんな大好き「えい、えい、むん!」

 むん!の所で筋肉を膨張させムキムキになった爺さんがいたが無視。

 若返った婆さんもいたが無視。ヤバいなこの商店街www。

 

「なあクリーク」

「なんですタマちゃん」

「こいつら全員アホやな」

「今頃気づいたんですか?」

「そしてうちらもアホの一味や」

「そうですね~アホの子が集まるときっと楽しいですよ」

「せやな」

 

 盛り上がる俺たちをよそに。

 暴食の魔王は特に気にした様子もなくあの言葉を口にする。

 

「おかわり」

 

 温度差酷いな。

 

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