内通者は変態の知り合いだった。
ガッデスの救出に成功、ミオがスリープモードに移行して寂しい。
儀式を止めるため、洞窟神殿の奥を目指す。
「今宵、我らが悲願は達成される!偉大なるヴォルクルス様が現世に降臨なさるのだ!」
「「「「うぉぉぉー!!ヴォルクルス様バンザーイ!!」」」」
教団アジト洞窟神殿最奥、儀式の間にて。
集まった大勢の信徒を前に神官ルオゾールは高らかに宣言する。
熱狂する信徒たちが血走った目で歓声を上げている。
会場は異様な雰囲気と歪な覇気と霊気で溢れており、ここがまともな場所ではないのは一般人でも察せられる。
その様子を少し離れた位置から観察している、俺たちだった。
「隠形術って便利だな、この距離でも気づかれないなんて」
「そうでしょう、天級一の術士である師匠の隠形はそう簡単に見破れないわ」
「なんでアンタが威張るのよ」
「師匠の活躍を弟子が誇るのは当然ですから」
「私だけじゃ無理・・・マサキの覇気あっての技・・・この覇気マジやばくね」
ガッちゃん(アラフォー合法ロリ)をしっかり抱っこ中。
複数人に完璧な隠形をかけるみせる腕前はさすが天級、燃料として俺の覇気が役に立っているようで何よりだ。
彼女を抱っこしているのには術の発動と回復を兼ねた重大な意味がある。
誓って俺がしていたいからだけではない!
汚部屋住人だったとは思えない、サラサラで艶のある髪を撫でると気持ちよさそうな顔をするのがかわええ!
癒されるわ~見てるだけでどんどん元気になるわ~これが水の天級騎神の力。
「ロリにばっか構ってないで、ボスの機嫌をとってくれ」
「合流した途端にこれだよ!マサキのアホ、真性ロリコン!そんなに小さい子がいいのか!デレデレしちゃってさぁ」
「なに怒ってんだよココ。ガッデスはこの通り無事助け出したぞ」
「ちょっと目を離した隙にロリをお持ち帰りとか、これはダイヤちゃんたちが心配するのも無理はない」
「おいおい、よしてくれよ。ガッちゃんは母さんの友人、言わば知り合いのおばちゃん的存在だぞ。そんな人をやましい目で見るわけなかろう」
「おばちゃん・・・事実だけど・・・呼ばれたくない」
「ごめんよガッちゃん、そんなこと全然思ってないからね~」
「このペドがぁ!愛バ(予定)の私を放置して何しとんじゃ!」
「「「空気悪いなぁもう!!」」」
睨むなよココ、可愛い顔が台無しだぞ。
もちろんガッちゃんも可愛いよ!後で写真撮ろうね~。
はて?ゴルシたちがジト目を向けてくるが、さては近視だな。
儀式の邪魔をするため奥へ進んだ俺たちはココ&ゴルシのチームと無事合流。
ガッちゃんに高精度の隠形術をかけてもらい、教団のしょーもない集会現場を見学中。
巨大な祭壇の上に二つ・・・例のアレがある。
見たくなかった、事件が起こる所にはやはりコイツがあるわけで。
「はいはいクロスゲートですよね~、知ってた!」
「大きさは二つとも20メートルぐらい、標準サイズだね」
「あれで標準かよ」
ラ・ギアスにあるヤツはもうちょっと小さかったな、1stには輸送艦が潜れるほど巨大なヤツもあったはず。大きさはいろいろあるらしい。
「私から奪った覇気でゲートに干渉・・・ヴォルクルスがこんにちはする」
「それを何とかしないと、あの腹立つ顔の神官とやらをぶっ飛ばせばいいのか?」
「あいつ一人倒してもここの雑魚どもが黙っていないだろうな」
「下手に刺激すると玉砕覚悟で突っ込んでくるわ、狂信者って嫌ね」
「できれば殺したくない、こういう時は不殺側がめんどくさい」
どうしたもんか、ここの連中を全員殺さずに事を運ぶにはどうすれば。
悩んでいるうちに長い演説がクライマックスに入ったようだ。
「では皆さん、今こそ誓いを果すとき!ヴォルクルス様にその命を捧げるのです!」
ひょ?コイツら全員自分が生贄になるって知ってるのか。
神官の宣言を聞いても歓声は鳴りやまない。
神のために死ぬことが栄誉あることだと口々に叫びながら喜んでいる。
うわぁナチュラルに狂ってるなぁ~。
「仕方ねぇやるか、ガッちゃんミオを頼む。はい先輩、後よろしく」
「ええ、待っていたわこの時を!」
「今のテュッティ・・・なんか怖い」
ガッちゃんにミオが入ったカバンを持ってもらい、その上でガッちゃんを先輩に渡す。
師匠をしっかりと抱きとめたテュッティ先輩は凄く嬉しそうだった。
鼻息が荒いのが少々気になるが、今はいい。
「ココ、作戦はあるか?」
「私とゴルシとマサキであのワカメをムッコロス!テュッティとサフィはガッデスを護衛する。ね、簡単でしょ」
「「「「了解!!」」」」
「さあ、行くか」
「待って・・・様子がおかしい」
場の空気が変わった。
俺たちの近くにいた信徒の一人がバタリと崩れ落ちる。
なんだ?興奮し過ぎて気絶したのか。
それを皮切りに次々と人が倒れていく、一体何が・・・。
「動いちゃダメ・・・気づくのが遅れた・・・会場全体に私がいた牢屋と同一の術式設置してる」
「信徒から覇気を吸収してるのか、この人数をいっぺんにやるなんて」
強制的なENドレインが発動している。
これのためだけに信徒は集められた、邪神の餌になるために。
声も出さずに倒れていく人々、それを見てもなお、神を望む信徒たち。
これは異常事態ですよ。
それは祭壇上の神官ルオゾールと隠形で身を隠した俺たち以外の全員が倒れ伏すまで続いた。
静まり返る会場、信徒から集めた覇気はルオゾールの下へ集まったようだ。
「ふむ。これっぽっちですか、神への供物としてはいささか物足りませんね」
あまり関心がない様子で覇気の塊をゲートへと掲げる。
二つのゲートの内、黒い装飾が施された方に覇気が吸収されていく。
「さあもういいでしょう。邪魔する者はいません、姿を見せてはどうですか?」
「!?」
あの野郎、最初から気づいていやがった!
ルオゾールが見つめる先は俺たちの・・・反対方向だった。
「そこにいるのはわかっています。潔く出てきなさい」
大仰なポーズを決めるルオゾール。
うわwドヤ顔であらぬ方向を指差してるwwこいつ思ったよりポンコツじゃね。
ココが口パクで「バーカ」って言ってる。
「あのwwこっちですよwww」
「え、あ////さ、最初から気づいていましたとも!ええ、そうですあなたたちを試したのです」
「言い訳乙w恥ずかしいよね。俺もよくやるからわかる~」
「ウォッホン!よくここまで来ましたね。アンドウマサキとファイン家御一行様、ガッデスとサフィーネもそこにいるようですね。歓迎しますよ・・・ヴォルクルス様への生贄としてね」
「私が裏切ってるのに驚いてないようね、とっくの昔に気づいていたのかしら」
「ええ、あなたがヴォルクルス様よりもシラカワシュウを崇拝しているのは存じています。残念ですよ、あなたもシュウもその気になれば教団での地位が約束されたものを」
「ノーサンキューよ。シュウ様も私もこんな陰気な所で出世する気は毛頭ないわ」
キッパリと言い切るサフィーネが堂々としてカッコイイ。
ココが一歩前に出て会話を試みる。
「ごきげんよう、ルオ神官。しばらく見ない内にまた顔色が悪くなったね」
「これはこれは、ファインモーション殿下。わざわざご足労ありがとうございます」
「殿下なんて呼ばれてたのはずっと昔、ここではない世界のこと。それより聞きたいことがあるんだけど」
「私に答えられることならばなんなりと」
「敬虔な三女神教徒だったあなたが何故、ファイン家を裏切ったのかな?1stの民はあなたのこと尊敬したよ、私もあなたに教えてもらった女神様たちの話が大好きだったのに」
「女神、そのようなものを信仰していたのがそもそもの過ちです・・・1stが滅びゆく最中、私は祈りました。「どうか我らの世界をお救いください」と・・・何度も何度も何度も何度も何度もねえ!それなのに、救いは終ぞ訪れず故郷を捨てて逃げることになった。おわかりですか、三女神などそもそも存在しないのですよ」
「だから今度は邪神を信仰したの?尻軽すぎてウケるんですけどwww」
「"あの御方"が導いて下さった、新たな神を崇めろと!それこそがヴォルクルス様!1stのような悲劇を繰り返すわけにはいかない、世界は唯一絶対の神によって統治され、今度こそ何者にも侵されない楽園となるのですよ!!」
「盛り上がってるとこ悪いんだけど、三女神は実在するみたいだよ?」
「ハハハ・・・脳が麺でいっぱいの方はおかしな言動をしますな」
「やかましい!マサキが女神様に力をもらったのが証拠だよ」
「私がここにいる・・・牢屋を壊したあの力・・・女神が関わっていても不思議じゃない」
「アンドウマサキはサイバスターの子、他の天級とも親しい。おそらく何かしらの対策を取っていたのでしょう、それを女神の力と決めつけるのはいささか強引では?」
「ゲート絡みの術・・・私たちには効く・・・サイでも無理」
「女神がいようがいまいが、もはやどうでもいいのです。ヴォルクルス様の前では何者をも敵ではない」
こりゃダメだと言うように首を振って会話を終えるココとガッちゃん。
俺もこいつには聞きたいことがある。
「質問!」
「無駄に綺麗な挙手ですね、どうぞアンドウマサキ」
「アーチボルトと言うクズを知ってるな?」
「彼とは一時的なビジネスパートナーだっただけです。ああいう輩を利用した方が上手くいくこともあるのですよ」
「ふーん、まあいいや。じゃあ"あの御方"について教えてくれる?そいつだろ俺を"代役"とか言ってる奴、出来れば会って語り合いたいんだ、肉体言語でな」
「あ、あなたはここで死ぬのです。あの御方のことを知る必要はありません」
「結局答えないのかよ、マジでクソだなお前」
威嚇の意味を込めて覇気を飛ばしてみる。
すると、ビクッと肩を震わせたルオゾールがわずかに後退る。
「マサキ・・・それ悪い人以外にやっちゃダメ・・・常人なら多分漏らす」
「大げさな、ちょっと睨んだだけだろ」
「うわダッサwwガン飛ばされてビビってやんのww」
「笑いすぎだボス、マサキに敵意や殺気を向けられて平気でいられる奴はまずいないぞ」
「自分じゃわからん、そういうもんなのか?」
「そうだよ、ウマ娘は元より覇気が感じられる人類だったら間違いなくビビるね。高密度大質量の覇気が一斉に"殺す、出来るだけ長く苦しめて殺す"て囁くんだよ、マジで漏らすね」
「漏らされるとめんどくさいな」
「マサキの覇気はただでさえ感情やイメージが乗りやすい。例えば、自分の全身が食いちぎられた映像が脳に直接飛び込んで来るって言ったらわかるか?お前はそういうことをやっちゃってるわけよ。いい加減気づけ、アンドウマサキの覇気は怖いんだよ」
「なんかごめん」
「味方には最高に頼もしくて優しいから平気だよ、敵に回った奴らが不憫なだけ」
「悪い奴には存分にやっていいんだよな」
「うん・・・許可する」
ガッちゃんのお許しが出たので眼前の神官野郎を威嚇するのを継続。
平静を装っているがこいつビビってるのか、情けねえな。
「何という禍々しい覇気!その力で私を葬るおつもりか?」
「それはお前の返答しだいだ、今なら頭を丸坊主にするだけで許してやる」
「私が直々に刈ってあげるね♪嬉しいでしょ?泣き叫んで喜べよ」
「頭首ともあろう御方が私怨で動く、所詮は陰毛ですか・・・」
「あははは、見て見てマサキ。腐ったワカメが何か言ってるよ、目障りだから踏みつぶしてもいいよね」
やめろ、それ以上ココをキレさせんな!やめろぉーー!!
飛び出しそうなココを落ち着かせる、こういう時は耳を優しく触ってやるといいんだよな。
クロとシロで学習済みな撫でテクニックが役立つぜ。
「恐ろしいですね、弱者である私は神に縋るしかありません。こんな風にね!」
「あ、こらてめぇ!」
まずいゲートが起動した。
会話している間にも覇気の充填が完了したらしい。
ちっ、さっさとボコっておけばよかった。
二つあるゲートのうち祭壇の右側、ルオゾールの近くにある黒装飾のゲートが光を放ちだす。
ルオゾール・・・もうめんどいからワカメでいいよね。
「しまった、これどうやって止めたらいい?」
「止め方・・・知らない・・・」
「ガッちゃんでも無理か、ココ!?」
ゲートの起動で慌てる俺をよそに、ココは腰にマウントされたデバイスの武装を手にする。
折りたたまれたギミックが展開、現れたのは機械の長弓らしき物体。
弓?え、それ弓なの?弦がないぞ、それに矢はどこに・・・。
心配無用だった、持ち主の覇気に呼応して弦と矢が生まれ、一気に引き絞り発射!
「イリュージョンアロー!」
流れるような一連の動作、敵の体を貫かんと放たれた光の矢は一直線にワカメへと向かい直撃する。
「当たった?・・・んだよな・・・」
「間違いなく当てた、でも」
「効いてるよには見えないな」
直撃する瞬間、わずかにワカメの体がブレたような気がする。
なんだアレ、特殊な防御装置か?
ワカメの着ているローブの下から趣味の悪い手甲が見える。
「フフフ、私のデバイス咒霊機"ナグツァート"のアストラルシフトはいかがですかな」
「あす?何?」
「アストラルシフト・・・精霊界と現界の狭間に身を置くことで・・・展開中に無敵モードになる」
「解説ありがとうガッちゃん。説明されてもよくわからん!とにかくすげぇチートだな」
「余裕ぶっこいてたのはそのチートバリヤのおかげかよっ!」
ココの射撃と同時に接近していたゴルシの拳がワカメの顔面に直撃・・・しかしこれも効いてない。
「手応えがキモイ!スカッというかフェニャンって感じで!」
「俺がやる!」
「ちょ坊や!突っ込んでどうすんのよ」
「師匠、何か手はないのですか?」
「マサキのやりたいようにすればいい・・・あの子を信じるだけでいいの」
「え、でもそれじゃ」
ココが気にせず矢を連発する、狙ってるのは寸分たがわずワカメの眉間。殺す気満々だ。
「止まらないでゴルシ!キモバリヤが機能しなくなるまで攻めればいいの!」
「了解ボス!何時までもつか楽しみだなおい!」
「アストラルシフトに限界はありませんよ、どんどん攻撃してきなさい!全てが無意味だと知って絶望するがいい」
動きは封じているがダメージが入ってない。
俺の接近に気づいたワカメが紫色の火の玉を無数に発生させこちらに撃ち込む。
この程度で怯みません。
炎の衝撃と煙の中から飛び出す、ゼロ距離とった!
「よいしょっと!!」
「無駄ですぞ!」
うわぁ、本当にキモイ!フニャラピョン!って感触が拳に伝わった。
「おい、誰かKOS-MOS連れて来い。ヒルベルトエフェクト使える奴いないとヤベェぞコレ」
「フフフ、グノーシス呼ばわりですか。まあいいでしょう、己の無力を・・・」
「なーんてな!!」
油断してんじゃねーぞボケ。
「あびゃしぁぁぁ!!!」
「「「「メッチャいいのが入った!!!」」」」
ワカメのニヤケ面に俺の右ストレートがめり込む。
妙な叫び声を上げ、きりもみ状に吹っ飛び儀式用の小道具(髑髏とか気持ち悪いヤツ)が用意されたテーブルをなぎ倒した所でやっと停止する。
「よしっ!ざまぁ」
「さすがマサキ!好き!契約して!」
「やるじゃねぇか。で、どんなトリックだ」
「女神様を舐めたらアカンってことよ」
「本物のチートが味方でよかったぜ」
一発目はお試しのパンチ、二発目が本命のちょっと全力パンチ。
オルゴンクラウドを集中させた拳はアストラルシフトだろうが問答無用で貫通するようだ。
バスカーモードを発動しなくてもこれくらいは軽いね、結晶化はしてないから一応手加減している。
全力のフィンガークリーブなら脳みそ貫いてたぞ。
死んでないよね?・・・あ、汚ったないワカメが動いてる。
「う、ぐうぇぇ・・なぜだ・・・」
「覇気のガードをちゃんとしないからだ、アスなんちゃらを過信しすぎるからモロに入るのよ」
「なぜ無敵のアストラルシフトが破れる!やはりお前は危険だ!危険すぎる!」
「危険人物に危険呼ばわりされましても」
「危ない男って素敵・・・抱いて!」
「発情すんなボス」
ありゃりゃ顔がパンパンに腫れてるし、歯も何本か折れてますね。
もう降参したらいいのに。
その時、起動中のゲートに変化が訪れる。
異質な覇気が漏れ出し、あっという間に儀式の間全体を包み込む。
これが、破壊神ヴォルクルス様の覇気?想像していたよりもなんというか・・・なんだ・・・。
待て、この覇気・・・違う、似ているけど違う、これは・・・。
「うおおおぉ!遂に神が降臨なさるぅ!ようこそヴォルクルス様ーーー!残念でしたねぇ、後一歩で私を追い詰めたというのに、くくく・・・やはり私は神に選ばれたそ・・・ん・・ざ・・?」
「なんかヤベェぞ、ココ、ゴルシ離れるぞ・・・二人ともどうした?」
興奮していたワカメが口をあんぐりと開けたままゲートを見て固まった。なに?電池切れた?
ココとゴルシの様子もおかしい。
「マサキ・・・ボスたちを連れて逃げろ」
「はぁ?お前何を」
「に、逃げよう・・・逃げないと死んじゃう・・・いや」
「ココどうした、お前震えてるのか?」
ゴルシは臨戦態勢のまま俺とココを庇うように前に出る。
そしてココは、真っ青な顔をしたままガタガタ震えていた。
出会った時からどこか余裕のある雰囲気を纏っていたファイン家頭首はもはや見る影もない。
そこにいるのは、絶対的な恐怖に怯える一人の女の子だった。
「おいしっかりしろココ!どうしたって言うんだ」
「死ぬ、死んじゃう、マサキがみんなが・・・また・・・いや、もう見たくない」
「下がりなさい坊や!ガッデスが結界を張るわ、その手助けをしなさい」
「マサキ・・戻って・・・ちょっと・・・いや、かなりヤバイ・・・テュッティも手伝って」
「お任せください師匠!最大出力でもたせてみせます。マサキ早く戻って」
「クソっ!何が来るってんだ」
ゴルシと一緒に震えるココを引きずって後退する。ワカメは知らん!
ゲートの光がどんどん強くなる。
門の奥底からこちらに這い出てようとする何者かが放つ覇気は上昇し続ける。
振動する、ゲートのみならず儀式の間が、この洞窟神殿全体が震えている。
「こ、こんな・・こんなものを喚んだ覚えはないっ!!まさか、まさか、私はあの御方に!!」
ワカメが何か叫んでいるがよく聞こえない。
どうやら奴にも想定外のことが起きているようだ。
「来る・・・来るよ・・・あいつらが来る!!」
「来るってなに・・・が・・・」
取り乱したココが叫ぶ、もうどうすることもできない。
ここに乗り込んだ時点でゲートを確保するべきだった。後の祭り。
いつかこんな日が来るってわかっていたのかも知れない。
俺とあいつらには縁があるのだろう、切っても切れない縁が。
例えそれが、別世界の存在であっても。
あいつらが・・・俺の知らないあいつらが・・・来た。
「オオオォォォォォォォォォォォォォッッッ!!」
冗談抜きで全身の毛が逆立つ、俺に尻尾があったらピーンしたまま固まるわ。
紅い、紅い覇気の粒子がまき散らされる。
ワカメはその余波を受けビビりながら後退、俺たちはガッちゃんと先輩が張った結界内に退避して衝撃を受け流す。
やっぱりか、やっぱり来たんだな。
紅い結晶体で構成された体を持つ異形の存在がゲートより現れる。
ゴルシが見せてくれた1stの終わり。その原因となった滅びの象徴、破壊獣。
その名は・・・
「ベーオウルフ・・・ルシファー・・・そんなことって」
「あれが世界を滅ぼした元凶!?」
「ヴォルクルスじゃなかった・・・でもこれは・・・もっとピンチ」
「どうしたらいいの?いやアレはそもそも何なの?」
「くっ!マサキ、ここは私が・・・」
「待った・・・ゴルシよく見ろ」
覇気は確かに二体分、しかし出て来た異形はなぜか一体だ。
ゲートから出てすぐに活動するかと思えば、その動きは酷く緩慢でぎこちない。
全身が欠けている?ボロボロだ。
ゴルシの記憶で見た二体の形と違う、アレは崩れかけた二つの体を無理やりくっつけてなんとか維持しているという状態なのではないか。
紅い結晶体で作られた体は左右非対称。
右半身は大きなカギ爪を持ち刺々しいが、左半身の手に爪はなく足にのみバランスの悪い欠けた爪がある。
尻尾のような器官は三本、うち一本は力なく垂れ下がったままだ。
顔はのっぺりとして表情は乏しく、大きく裂けた口にはズラッと紅い牙が並ぶ。それも半数以上欠損しているが。
全身にダメージがあるのは一目瞭然、こうしている今も体が崩壊していっている。ひび割れも凄い。
唯一目が、その目に当たる部分に灯る紅い光が煌々と輝いている。
「あいつ死にかけなのか?それに二体が合体してやがる」
「アストラナガンがやったのか?いや、ゴルシの記憶ではあそこまでのダメージを与える前に消えていたぞ」
「推測だけど・・・ゲートを無理に越えたから・・・転移の負荷に体が耐え切れなかったのかも」
「2ndに転移するには数年の準備が必要だった、ベーオウルフたちにとっても今回の転移は急なことだったのか?」
「わからん。どうすんだ?話とかできんのかよアレ」
「バカ、下手に動いて刺激するな。放っておけばあのまま朽ちていくかも」
「ウウォォァ」
確かに、あのままではもたない。放っておけば・・・。
合体破壊獣、体はボロボロだがその眼光はいまだ強い光を宿している。紅い光。
その光があるものを捉えた時に俺は動き出していた。
「マサキ!なにやってんだ!」
「あっぶなっ!」
紅い獣が尻尾を振り下ろした、倒れている教団信徒たちの体へと。
奴の考えに気づいた俺はとっさにバスカーモードを発動!リニアアクセルも展開、獣の標的にされた人(三人)を乱暴に抱えて距離を離す。
獣は何が起きたか理解していない様子。
「ガッちゃん!」
「うん・・・他の人は既に外へ送った・・・転移術は疲れる」
「ご無理をなされて、その体では負担が」
「いい・・・私、これでも天級・・・頑張れる」
「し、師匠~」
小さくなっても母さんの同類、あれだけの人数を瞬時に転移させた。
儀式の間に到着してから既に術式を用意していたのか、なんという慧眼恐れ入る。
俺が何か言う前に倒れている全員と俺が助けた奴らをどこか別の場所に飛ばしたらしい。
GJだ、紅い獣にまともな餌をやるわけにはいかない。
「放置してハイおしまい!とはいないようだ。今、人間を食べようとしたぞ、それに現れてからずっと周囲の覇気を少しずつ吸収してる。回復しようとしてんじゃねーよ」
「やっぱバケモンだな、くたばる気はサラサラないってか。まあ、考えようによってはチャンスだ」
「だな、ちょうど弱ってるし。決着はつけた方がいい」
俺とゴルシの意見は合致する。
「「アイツはここで倒す!!」」
「ルォオオオオオオオオオオオ!!」
覇気の爆発!俺たちの意思を理解した獣が吠える、その度に超凶悪な覇気が衝撃となって洞窟中を揺らす。
あれるぇーー?アイツ弱ってるんだよね?・・・倒せるんだよね?
今のでナリタブライアン10人分ぐらいの覇気を感じたんですが・・・アカン。
「今の衝撃で通信が回復したわ!これでファイン家の別動隊に連絡できる」
「洞窟内には入っちゃだめ・・・信徒たちは外に出した・・・ここ私たちだけ」
「サフィと先輩たちは脱出してください。ガッちゃんにミオ、それとココを頼みます」
「ボス、いつまで呆けているんだ。さっさと退避しろ」
「・・・私・・・わた・・しは」
「戦えない奴は足手まといよ、邪魔者がいればそれだけ坊やたちの勝率が下がる」
「でも・・・」
入口でもらったバリアジャケットを脱ぎ、震えるココに羽織わせる。
母さんが言っていたな「女の子を元気づけられる男になりなさい」って。
気の利いたことを言えるほどの学は持っていないが、やるだけやってみる。
「あ・・これ」
「お前、俺の匂いが好きだって言ってくれたな」
「うん、マサキの匂いはとっても落ち着くの」
「ちょっと早いけどそれ返すわ、好きなだけハスハスして元気出せ。さあ、みんな行ってくれ」
紅い獣、ベーオウルフとルシファーが合体したものなので"ベーオルシファー"と呼称しよう。
あいつは空気読んで・・・うん、ないね。
俺たちを無視して二本の尻尾をアンテナのように広げ覇気を吸収中、あれが終わったらこっちに来る。
「ダメだよ、戦っちゃダメ!死んじゃうよ」
「ココ」
「もう嫌なの!あいつらに殺される人は見たくない、それがキミだなんて・・・私が好きになった人もだなんて絶対に嫌!」
「俺は死なない。クロとシロにまだ再会してない、アルダンとも話がしたい、母さんやシュウたち、今まで会った沢山の人たちと何度でもバカ騒ぎがしたい。だからこんな所で死ぬわけにはいかない」
「世界を滅ぼしたんだよ、無理だよ、勝てないよ・・・」
この子は本当に多くの死を見てきたのだろう。
戦友たちの死、世界の死、両親の死、自分自身の死、いっぱい泣いて傷ついてきたはずだ。
その死の象徴が目の前にいる。戦意喪失して当然だ、ココを情けない奴だなんて誰にも言わせない。
頭首としての重圧、生き残った者の使命、それに押しつぶされることなく今まで生きてくれた。
精一杯頑張った、そして俺に出会ってくれた。
自分ではなく"誰かが死んでしまう"ことを恐れて震えているこの優しい子を守らなくては。
「知ってるだろ?俺うまぴょい未経験なんだぜ、マジで死ねるか!」
「バカ・・・こんな時まで」
それにな・・・
「お前が操者にしたい男は、あんなのに負けるようなダセェ奴か?」
「ダサくない、最高にカッコイイ男だよ」
「だよな~。大丈夫、ちゃっちゃと片付けるからな。だから怖がらなくていい、お前が真に怖がるべきなのはクロとシロが起きた時だぞ・・・ホントに今から胃が痛い」
「あはは、そうだね。うん、本当にその通り」
顔を上げて立ち上がる、恐怖に震える心はもういない。
我ながらチョロいチョロ過ぎる。
好きな人にちょっと声をかけられた、それだけでもう負ける気がしない。
返却されたジャケットに袖を通す。やっぱ大きい、そして彼の匂いがする。こいつぁたまらん。
「情けない所見せたね。もう大丈夫!私もやるよ、1stの生き残りとしてけじめをつけさせてもらう」
「ビビりインモーはいらねぇぞ、私とマサキのコンビだけ十分だ」
「口の利き方に気を付けろ、コンビなのは私とマサキだよ。給料現金じゃなくて中華麺で支給してやろうか」
「そいつは勘弁だボス。やる気になってなによりだ、そういう訳でいいかマサキ」
「ああ、俺たち三人でやるぞ」
元気になったココ、最初からやる気のゴルシ、二人と拳を軽くぶつける。
それが合図、俺の仕事はここからだ。
回す、回す、覇気を回す。
接続、回路形成、対象・・・はは、なんだよ・・・ゴルシもそうだがココ・・・相性バッチリじゃないの!
粒子解放!二人の体から緑の粒子が溢れ出す。
「来た来た来たぁーーー!久しぶりだぜこの感じ!スーパーゴルシとは私のことよ」
「ああヤバ、これは本当に・・・こんなの味わったらもう、これでまだ契約してないなんて・・・」
「ココ、大丈夫か?最初だから少し抑えてるが」
「お、抑えてこれなんだ・・・はぁ、キミの前ではどんな操者も霞む、本当に見つけてよかった。私は間違ってなかった、キミこそが私たちのクローバー」
「ポエム?クローバーって何?」
「最上級の誉め言葉だよ!もう好きにして、契約して、うまぴょいして、子供は何人ほしいですか!」
「テンション高けぇなおいww」
「これぐらいでいい、上げていこう」
もう少し馴染ますか、二人の騎神が俺の覇気を受け取り戦闘準備中。
「じゃあ私たちは行くわ、気張りなさいよ坊や。シュウ様によい報告させてよね」
「おう、助かったぜ、後は頼む」
「マサキ、師匠を助けてくれてありがとう。戻ったら昔みたいにケーキを焼いてあげるわ」
「ははは、砂糖の分量はレシピ通りでお願いします!ホントたのんますよ!」
「ありがと・・・サイはいい子を育てた・・・負けないで、勝ったら私を養わせてあげる」
「母さんや愛バがなんて言うか、その件は後日相談ということで」
去って行く三人を見送る。
あ、四人だったな。ミオ・・・達者でな。
「オオォ・・・アアアァァァァッ!!」
準備完了ってか。
「直接対峙した経験者としての感想はどうだゴルシ?」
「かなり弱体化してる、生き物から直接覇気を吸収しない限り全盛期の力は出せねぇみたいだ」
「転移の負荷に加えて、無理な融合で神核もメチャクチャ。死にぞこない、ただのゾンビ、勝てない相手じゃないよ」
「さっき勝てないって言ってたよな」
「あれはその、ちょっと弱気になってたから、冷静な判断がですね」
「その辺にしといてやれゴルシ。今から俺たちで楽しい楽しい後片付けするんだからね!」
「へいへい、うっし、頼むぜソウルゲイン!因縁の相手だからな」
「お願いねアンジュルグ。いっぱい暴れちゃおう」
「デバイスかぁ、いいな~俺もほしいなぁ」
世界を滅ぼした獣の残骸を相手にした戦闘が始まる。
ココと組むのは初めてだが不安はない、ゴルシとの相性もいい。この二人は強い!
どうか、応援していてくれよなクロ、シロ。
「ファイン家頭首"気ままなお嬢"ファインモーション」
「ファイン家、遊撃部隊長"破天荒"ゴールドシップ」
「えーと、愛バが増えそうでテンパってるアンドウマサキ」
「「何だそりゃww」」
「俺のこと笑える?級位を名乗れよ、それと二つ名今考えただろう!!」
1stでは級位を名乗る文化がないらしい、しかも二つ名はその場の思いつきと勢いでOKらしい。
それでいいのか?
いいか、級位とか試験受けないともらえないし、そもそも試験受けてない奴もいっぱいいるし。
とにかくやることは決まってる。
ベーオルシファーを絶対に倒す。長旅ご苦労さん、ここがお前の墓場だ。
「オオオァァァッーーー!!!」
「「「かかってこいや!!!」」」
クロ「ジャケットずるい!」
シロ「羨ましくなんかないんだからね!」
アル「本当にいい匂いですよね、嗅いでると幸せ過ぎて・・・はぅ」
ココ「これはいいものだ、えへへ」
クロ「あー、あれってさあ」
シロ「知りません、あんなの知りませんってば」
アル「並行世界の自分ですか、ちょっとだけ興味あります」
ココ「キッチリとどめ刺すぞーーー!おーーー!!」
クロシロ「コイツにトドメ刺されるの嫌だな」
アル「どうせならマサキさんにやってほしいです」
ココ「そうだね「お前を殺す」ってイケメンボイスで囁いてほしい~」
クロシロアル「すっげぇわかる」