俺と愛バのマイソロジー   作:青紫

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黒の夢

 「起きろぉぉぉーーー!!!」

 

 誰だろう、私を呼ぶ声がする。

 この声知ってる、大好きな声、あの人の声だ・・・

 私、何をやっているんだろう、どうしてここにいるんだろう?

 理由、理由があるはずだ、こうなっている理由がきっと。

 

 整理しよう。

 自分のことをまず確定しよう。

 こんなフワフワした状態じゃ、考えもまとまらない。

 私、私は誰だっけ・・・

 

 これは必要なことだ、先に進むためにも必要なこと。

 行かなくちゃ、先に行かなくちゃ、少しでも先に・・・

 来てる、絶対に追いついて来る、本物のあの子はきっとすぐに来てしまう。

 負けたくない、あの子には負けたくない、あの子・・・てっ誰だっけ?

 

 落ち着け、落ち着け。

 思い出すんだ、あの子のことを、自分のことを、ここに来るまでの気持ちを。

 

 そうして記憶の海に沈んでいく・・・私が私になるために。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「おめぇにはでっけぇ奴がお似合いだな」

「急にどうしたの?認知症外来行く?」

「かっかっか、言うねぇ。今のはジジイの戯言だ、色気づいた頃に思い出してくれや」

「ジージが何を言っているのか、わかんないよ」

「いつかわかる日が来らぁ、そんで、今日は何して遊ぶよ」

「時代劇で見たアレ!め組ごっこ!火事で大騒ぎ中、人様の家の上でハッスルするの!」

「あいつらは火消し、今でいう消防士だ。人の命を守る立派な仕事だぞう」

 

 その昔、父方の祖父とこんな会話をした。

 祖父が言っている"でっけぇ"が何を意味するのかはわからなかったし、祖父と母以外の人物に何も希望しないし、期待もしない。

 大好きなママと祖父ことジージがいてくれる、それだけで満足、それ以上を満たしてくれる存在を望むなんて贅沢だ。

 ジージの言うでっけぇ奴は・・・私と遊んでくれるのかな?

 

 私、キタサンブラックは両親共に芸能人だった。

 母は真名シュガーハート(芸名サトウシン)、同じく芸能界の二世タレントで舞台俳優の父と電撃結婚の末に誕生したのが私。

 当時少しだけ話題になったんだけど、父の影が薄くて忘れ去られるのも早かった。

 

 祖父が超有名な大御所演歌歌手であり、父は完全に親の七光りで芸能界入り、大した覚悟も努力もなく舞台俳優になってしまったのだから仕方ない、芸能界はそんなに甘い世界じゃないってことだ。

 

 どういう経緯かは知らないが、当時アイドルだった母を祖父が大層気に入り、息子へ縁談の話を持ち込んだのがきっかけだったようだ、父と母は周りも羨む美男美女カップルで、付き合った当初は熱愛報道されたりと週刊誌を賑わせたりもした。

 

 そんなこんなで私が生まれて・・・それから父がおかしくなった。

 元々変な人だったの間違いか、釣った魚に餌をやらないと言うやつなのか、父は私が母のお腹にいる時には既にモラハラと浮気のオンパレードをかましてくれたらしい。

 それにキレた母は出産直後に父と離婚!もっとブチギレた祖父が父を勘当し、家から追い出した。

 その後、父の行方はわかっていない、知りたいとも思わない。

 顔も知らない男、生物学上の父なんてクソどうでもいい。

 

「黒、爺ちゃんの所で暮らすか?」

「ジージと一緒に?私、ここにいてもいいの」

「おうよ、遠慮することはねぇ。おめぇは俺っちの大事な孫娘だからな」

「ジージ超かっけぇ!」

「がっはっはっはっ!もっと褒めろ!」

 

 綺麗にホワイトニングされた歯をキラリと光らせ、豪快に笑う祖父が私は大好きだった。

 この人には本当に今も昔もお世話になっている。

 離婚後も母と私を気にかけ、仕事で忙しい母に代わって私の面倒をみてくれるようになった。

 それはジージの奥さんである祖母が亡くなった後も続いた、バーバも優しくて大好きだったよ。

 母方の祖父母?母は元々孤児で天涯孤独だよ、重くなるからこの話やめようね。

 

 私の名前、実は祖父の名前が少し混じってる。どこかはご想像にお任せ~。

 ブラックは祖父と母の好きな色、だから祖父は私を黒(クロ)と呼ぶ。

 あらら、父の希望が入ってませんね・・・浮気野郎に命名権なんてないんじゃよ!

 

 忙しい合間縫って母・・ママは愛情たっぷり育ててくれた。

 ジージは父がいない私が捻くれてしまわないように心配してくれていた。

 演歌に時代劇、ウマ娘のレース、いろんなジャンルのライブやコンサートにも連れて行ってもらったな。

 祖父と母の仕事関係と趣味が私の情操教育に使われた。

 お陰様で私はこんなに元気いっぱい、父は本当に要らなかったねwww

 

 さて、こんな感じで暮らしていたんだけど・・全てが順風満帆でもなかったの。

 

 ジージの家はとても大きい。

 ジージは芸能界を引退後に複数の企業経営に乗り出し見事に成功!長者番付トップ100に今もランクインしてるんじゃないかな。ウマ娘の教育機関とかにも出資している慈善家である。

 従業員、お弟子さん、親族、その他諸々が毎日ひっきりなしに出入りするのがジージの屋敷だった。

 ジージの孫である私はみんなに可愛がってもらった。

 でも、そんな私を疎ましく思う人たちもいるようで・・・めんどくさいなぁ。

 

 年に何回か親戚縁者一同がジージの家に集まることがある。

 うちは親族経営がほとんどなので、一族の頂点であるジージのご機嫌伺いにみんな必死なのだ。

 

「ブラックさん、お母様は?」

「今日はお仕事だから、遅くなるって」

「あらそうなの、やっぱり芸能人ね、子供を放置してやりたい放題なんてww」

「・・・そんなんじゃないよ」

 

 嫌味か貴様!うん、間違いなく嫌味だな。

 ジージとママの目の届かない所で一部の親族がチクチク悪口を言うようになった。

 ああウゼェ、ママが美人だからって僻むなよクソババア。

 

「おい、黒いの!お前ウマ娘なんだろ?なんかやってみろよ」

「なんかって何?」

「はぁ?それぐらい自分で考えろよ。ウマ娘ならなんでもできんだろ」

「まあまあ、ウマ娘だからって無茶言わないでよ。私ぐらいの騎神なら別だけど」

「中学生で烈級騎神なんて凄いよな!お前も見習えよ黒いのww」

 

 黒いのって言うなボケ!

 私を虐める親族、その子供たちもこの親にこの子ありなので私を虐めて来る。

 そして、そのガキの中に何人かウマ娘がいて、リーダー格の中坊がまぐれで烈級騎神の試験に受かったから天狗になっているのだ。

 私を下げ、リーダーを上げての恒例行事には飽き飽きした。

 

 何でこんな目にあっているのかと言うと、まず母のことが上げられる。

 母は美人で目立つおまけに芸能人、他人からの嫉妬や蔑みの対象になりやすく、娘の私にもそれは継承されている。

 父とジージのこともある。

 出産直後に父が勘当されたこと、今でも私たち母娘にジージが目をかけてくれることに、嫌な噂が立っている。

 私はジージーとママの子供で、父はスーケープゴートにされたのではと言う根も葉もない憶測がね。

 ジージが母を何かと気にかけ、私を猫可愛がりしているのは周知の事実なので、それを面白く思わない連中からしたらこの噂は最早真実なのだ。

 

 自分たちの大事なお金、その取り分が減るのが許せない!

 愛人とその娘にやってなるものか!ましてや、あの黒いのが次期後継者なんてあってはならない!

 あいつらの考えていることなんて、こんな感じだろうな・・・はぁ、クソつまんね。

 

「黒髪に紅い眼、なんて不吉なのかしら」

「一族にあんなウマ娘いたことがない、きっと、よくないことが起こる」

「お婆様が亡くなったのもあいつのせいだろ」

「母娘そろって疫病神だな。ホント気味の悪い子だよ」

 

 あのさぁ・・・内緒話なら私がいない所でやってくれませんかねぇ。

 言いたい放題か、私のウマイヤーが聞きたくないことまでバッチリ捉えて困ってるんですよ。

 バーバのお見舞いに顔も出さなかった奴らがふざけたことを抜かすなや。

 おめでたい奴らだ、バーバはお前らのこと大嫌いだって言ってたぞ。

 今頃きっと、天国で中指立てて変顔決めてるわ!

 

 遅いな・・・ママ、ジージ早く帰って来て・・・ストレスで胃炎になりそう。

 私の願いは叶わず、この日はジージもママも帰宅するまで時間がかかった。

 ママはともかく、ジージが御三家とかいう名門の所へ挨拶に出かけていたのが痛い!

 きっと、おもてなしを断りきれずに長引いているんだ。ジージが時計をチラチラ気にしている姿が目に浮かぶ。

 そうか、こいつら私を曇らせ隊の連中はそれも折込済みってわけか。

 ママとジージの不在を狙ってやりたい放題ってなわけですか、小賢しいな、死ねばいいのに。

 

 状況は悪くなる一方だ。

 計画的犯行なのか良識のある親族は、本日の集まりに呼ばれてすらいないようだ。

 顔見知りのお手伝いさんたちがなんとか私を逃がそうとしてくれるが、上手くいかない。

 ありがとう、でも、無理しないでね。

 あなたたちまで目を付けられたら大変なので、お気持ちだけで結構です。

 うげ、酒盛り始めやがった。それはジージが大切に保管していたお酒じゃね?調子に乗り過ぎだろ!

 酒が入ると益々知能指数が低下し、言動が狂ってくるので困ったものだ。

 畳張りの大広間を占拠しての大騒ぎ、ああもう、メチャクチャだよ。

 こういう時は、ジージの部屋に退避して嵐が過ぎ去るのを待つのが吉・・げっ、見つかった。

 

「おい!黒いのこっち来いよ」

「遠慮しとく、今からプチプチ梱包材を潰す作業で忙しいから」

「明らかに暇じゃねーか!いいから来い」

 

 プチプチを潰してストレス解消したいのは本当なのに・・・お前らのせいでな。

 宴会場の中央に引きずり出されてしまった。

 さっきからなんだこの男、えーと、名前知らね。触んなよ馴れ馴れしいな・・・息が臭い。

 リーダー格のウマ娘にいつもヘコヘコしてる三下だったか、似たようなのが何人もいるので区別がつかない。

 

 酒に酔った大人たちの余興として組手をやれとのことだった。

 相手はリーダー気取りのウマ娘、自称烈級騎神の子。

 

「お爺様の血を引いているなら、騎神になる覚悟はあるんでしょうね」

「やめようよ。お家でケンカしたら、後々大変だよ」

「ケンカ?これは私からの指導よ。烈級の私が直々に手解きしてあげるわ」

「要らない、勝負にならないのはわかってるから、面白くない」

「あいつビビってるぜww」

「おーい早くしろよー。酒が不味くなる」

 

 ニヤニヤと悪意たっぷりの笑みを浮かべ、私を取り囲むバカたちのバカの子たち。

 級位持ちが年下の級位無しと組手・・・相撲部屋のかわいがりかよ!マジやめろや。

 

「手加減してあげるからかかって来なさい。あ、手が滑ったらごめんねw」

「本当にやるの?後で文句言わない?」

「グダグダうるさいわね。いいからやるわよ!いずれは私がこの家を仕切るんだから、今の内から上下関係を叩き込んであげるわ」

 

 親に何か吹き込まれて育ってるな。救えない親子だ。

 

「それでも爺さんのお気に入りか~、あんなのに目をかけるなんて爺さんももうろくしたな」

「業界人ぶったアバズレの子なんでしょ、母親に似て媚びるのだけは上手いのね」

 

 あーもういいや。

 

「先手はそっちに譲ってあ・・・げふっ!」

「・・・・っ」

「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・へ???」」」」」

 

 私のことはいい、でも、ジージとママのことまでバカにするな。

 軽くジャンプ、自称烈級の頭を掴んでそのまま畳に押し付ける。

 我に返った相手はジタバタもがいているが、私の片手一本で顔面を上げられない。

 試験官は何処を見ていたんだ?こんな雑魚が騎神認定されたら世も末だ。

 

「審判いないの?カウント取るよ・・3・・2・・1・・ゼロ、私の勝ち。じゃあ、そういうことで」

 

 静まり返る宴会場。

 解放した頭の持ち主が涙目で半狂乱になり喚き散らすまで、時間が停止したようだった。

 さあ、ジージの部屋でゲームでもするか「風来のシレン」スイッチ版の続きでもやろう。

 

 立ち去ろうとした瞬間、自分の体が跳ね飛ばされたのを感じる。

 ・・・・あ・・へぇ・・そういうこと・・・やっちゃうんだ。

 誰がやったのかはわからない、酒を飲んでいた大人の一人が私を思いっきり蹴り飛ばしたんだ。

 いくらウマ娘でもまだ幼児だぞ!虐待で訴えてやるからな!

 ちょっと油断していたし、ここまでの暴挙に出てしまうほどのバカがいることに面喰った。

 防御が遅れた・・受け身取らなきゃ・・なんて無様、後で反省だぞ私。

 

「何てことしてくれたんだ!このクソガキ!」

「そうだ!お前ごときがうちの子によくも」

「わ、私にこんなことして・・ただで済むとは思わないで!」

「やっぱり不吉な子だわ。今ここでよく躾けるべきよ!!」

 

 うわぁ、酷い絵面だな~。どこか他人事のように感じていた。

 怒り狂った大人たち、酒に酔った者、ただ私を虐めたいガキ、騒ぎに乗じた者たちによる集団リンチ。 

 はい、幼児虐待に集団暴行、殺人未遂もつけとくね。

 いたた・・いた・・痛いって・・殴る、蹴る、踏まれる、待て待て耳と尻尾はやめろ!!

 急所は一応守らないと、覇気で体を覆って・・これで大丈夫そうかな。

 ああ、お手伝いさんが泣きながら止めに入ってくれてる・・・ごめんね、こんなことになって。

 それにしても醜い、醜いな・・なんて汚い顔をしているんだろうこいつらは・・・

 これが同じ人類か?悪い奴には人間もウマ娘も関係ないんだな~また一つお利口さんになったよ。

 

「ぜぇ・・ぜぇ・・どうだ!これでわかったか!お前は私たちに逆らってはいけないんだ」

「そうよ!あんたは大人しくみんなの玩具になってればいいのよ!」

「この世は弱肉強食なんだよ!」

「弱肉強食?」

「ああそうだ、弱い奴は強い奴に従う!この世の絶対ルールだ!よく覚えておけガキ!」

「おい、爺さんが帰るまでにこのガキをじ・・ありゅぇ・・」

 

 ゴキッ、バキッ、メリメリメリ・・・骨が砕け筋繊維のねじ切れる音が響く。

 私の胸倉を掴んでいた中年の腕を雑巾絞りのごとくねじってやったからだ。

 

「あ、あがががががががっっ~~~!!?」

「サンドバッグごっこ飽きた・・・今から私のターン」

 

 悶絶してのたうち回る男を見て後退するバカども。

 いち早く逃げ出そうとした名も知らないババアの正面に回り込み膝を砕いてやる。

 

「ぎぃぃぃええええっっっ!!」

「弱肉強食、いい言葉だよね。全員を黙らすには・・この場で一番強ければいいんだよね」

 

 身体のダメージを確認、打身と打撲が少々で問題なし。

 まずは逃げる奴から潰すか、体の大きい奴を優先してガキは後回し、とにかく全員に勝たなくちゃ。

 うん?どうして止まってるの?動いてもいいんだよ。

 なんで泣いてるの?震えてるの?顔色が真っ青だよ「ごめんなさい」「許して」「悪かった」???

 は?何を言ってるのかわかんないなぁ・・・私と遊びたいんだよね、やる気になってあげたよ。

 遊ぼうよ、そっちが先に誘ったんだろ?楽しめよ、思う存分相手してあげるからさぁ!

 

「はい、スタート。最後まで立っていた人が勝ちで」

 

 もっと早くこうすればよかった。

 どんな人とでも"話せばわかる"なんて認識が甘かった。

 純粋な暴力でしか分かり合えないことだってあるんだ。それがよくわかる出来事だった。

 

 やっちゃった・・・でも・・・最高にスカッとした。

 こいつら、いちいち豚みたいな悲鳴を上げる。それがおかしくってwww

 

 お手伝いさんから知らせを受け、急遽帰宅したジージが目にしたのは・・・赤い大広間。

 死屍累々、呻き声や微かな悲鳴を上げて倒れ伏す者どもを尻目に、ピンピンしている子供が一人。

 

「あ、お帰りジージ。遅かったね」

「黒・・・おめぇがやったのか」

「うん。ちょっと遊んだら、みんな壊れちゃった。豚の相手はつまんない」

 

 返り血に染まった体で笑顔を浮かべ、祖父を出迎える孫娘の姿がそこにあった。

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 ジージの屋敷で私が"遊んだ"ことはちょっとした事件になった。

 身内間で起こった事件ということで、警察沙汰にはならなかった。

 もしかして、ジージの口添えで私は罪を免れたのかも、感謝しなないとね。

 しかし、何台もの救急車が殺到したことで、ご近所から遠巻きにされる事態となってしまった。

 老若男女数十人が病院送りとなり、被害者は退院後も精神科への通院やフラッシュバックに悩まされる日々を送っているのだと後で聞いた。

 偉そうにふんぞり返っていた親族の多くは経営権を放棄して地方へ隠居したみたい。

 ジージの屋敷には二度と近づきたくないと言って、向こうから縁切りを懇願してきたらしい。

 そいつらの子供やあの烈級(笑)は今回の件がトラウマとなり引きこもり生活まっしぐらだそう、なんでも幼児のウマ娘を見るだけで発狂するようになったのだとか・・・情けないな、ざまぁ。

 

 ママにはいっぱい怒られた。それ以上に謝られた。

 「気づいてあげられなくてごめんね」と泣くママを見て私も泣いた。ママは悪くない。

 お仕事をちょっと減らす、絶対減らすと息巻いていたが大丈夫だろうか?

 

 ジージにも怒られた。

 

「ど阿呆、おめぇならもっと上手くやれたろうに」

「余裕があるようで無かったのかも、一斉に責められるって怖いね。テンパっちゃった」

「褒めるべきじゃねぇのはわかってる。だがよ、よくやった。幸い死人は出てねぇ、あの時、お前はよくやったと俺っちは思うぜ」

「先に殴らせてあげたから、一応正当防衛ってことで」

 

 大きな手でガシガシと頭を撫でられる。この武骨な手が私は大好きだ。

 ジージは今回の事件、責められるべきは自分だと親族中に宣言した。

 私をよく思わない連中の存在を知りながら放置していたこと、親族への説明不足で疑心暗鬼や余計な詮索を誘発したこと、全ては息子の不貞行為が原因であることを踏まえ各方面へ頭を下げた。

 私も一緒に謝罪行脚をしようと思ったのだが、私の姿を見ると皆が怯えるので却下となった。

 

 一方で私を虐待していた連中をジージは許さなかった。

 全ての罪を白日の下に晒し、私に対する罪状を追求、私から受けたゲガの治療費をジージが支払うことで、今回の事件は示談とすることで幕引きになるよう話をつけた。

 当然、屋敷への出入り禁止。もっとも前述したように向こうから縁切りを申し出て来たので結果オーライ。

 財産狙いの豚には今後も相応の罰が下るのだそうだ。

 

 困ったことに、私の暴れっぷりはそれはもう恐ろしかったらしく、顔見知りのお手伝いさんもすれ違うだけで「ひっ!」と悲鳴を上げてしまうようになった。

 だから嫌だったのに・・・怖がられてる、仕方なかったとは言え少しだけ悲しい・・・

 

 ずっと前から知っていた。

 私の中にはずっと燻っている何かがあるってことに、もっと、もっと、もっとちょうだい!

 こんなんじゃ足りない、熱狂、焦燥、危機感、陶酔、喜悦、興奮、激情、もっと感じさせてくれ。

 ここにいる!生きているんだって証を!最高の瞬間を!

 

 脳筋、戦闘狂、狂戦士、イカれていると罵られても仕方ない。

 オッス、オラサイヤ人のじゃなくてウマ娘www

 でも認めるしかない、これが、こんなどうしようもないウマ娘が私なんだって。

 一度そういうものだと認めてしまうとアレだな、なんかフッ切れた。

 

 そうだよ・・・私は遊びたいんだ。

 遊んでよ、戦ってよ、戦って、戦って、戦って、戦わせて、戦いたいんだよ。

 私と一緒に遊ぼうよ・・・ねぇ、誰かいないの?

 

 何処かにいないかな、私と遊んでくれる強い子は・・・簡単に壊れない頑丈な子は・・・

 ドン引きしながらも、なんだかんだで最後まで付き合ってくれる。そんな存在・・・・

 友達・・・ほしいなぁ。

 

 事件から半月経った頃、ジージとママ、それと良識ある親族の大人たちが集まり話し合いの席を設けた。

 議題はもちろん私の処遇についてだ。

 問題児を集めて修行(主に精神面)を行っている山寺へ預けてはどうか、なんて案も出たらしい。

 子供を集めて英才教育を施す怪しい集団か・・・さては山育ちだな!

 とあるメーカーの作品でやたらと強い"山育ち"に私も・・・ママによって却下されました。

 

 結局、ジージの家に迷惑をかけてしまったので、私とママは屋敷を出て二人暮らしすることになった。

 ジージは気にすんなと言ってくれたが、ご近所や親族の目、私を怖がり危険視する人たちに配慮した結果だ。

 ママはジージに頼り過ぎていたことを反省し「これからは母娘仲良く逞しく生きていくぞ☆」と張り切っていた。

 

「黒よぅ。おめぇはさっさと仲間を作っちまった方がいい」

 

 引っ越しの荷造りも早々に終わったある日の午後、盆栽の手入れをしながらジージがそんなことを言った。

 

「親しい人ならジージやママがいるよ。他は必要ない」

「かぁー!生意気言いおってからに、そんなんじゃ、好きな野郎ができた時に苦労すんぞ」

「パパは浮気男だったし、男の子は私を虐めてきた奴らぐらいしか知らない。私、男性不信になる条件整いすぎ、だから男の人は苦手・・」

 

 嫌いと言うより、何考えているかわかんないから怖いのかも。

 年が離れいれば割と大丈夫なんだけどな、5・・いや、10年ぐらい上ならしっくりくる。

 

「お、おう。でもよぅ、何かの拍子にコロッと好きになっちまうことだってあるんじゃね、こう・・一目惚れとかな」

「それジージとバーバの馴れ初めでしょ?耳にタコが出来るほど聞いたよ」

「タコぐらい我慢しろ、とにかくだ!おめぇは一人じゃ危なっかしい。俺っちやハートはそこんとこ心配してんのよ」

「私にはお目付け役が必要だってこと?窮屈なのは嫌」

「そんな堅苦しいもんじゃねぇ。おめぇが一緒にいたいと思う奴、そして、おめぇと一緒にいたいと思ってくれる奴が傍にいれば、ジジイも少しは安心できるってもんよ」

 

 確かに友達はほしいと思っていた。

 待っているだけじゃなく、こっちから探しに行くべきなのかもしれない。

 恋人はまだ早いかな、ジージ以外の男の人を好きになれる自信ない。

 

「友達・・・探してみようかな」

「お、その気になってくれたか!ダチ公はいいぞぉ、俺っちがやんちゃだった頃は毎日バカ騒ぎでよう。あれは・・」

 

 ジージの思い出語り(放置すると無限ループする)を聞きながら、私はまだ見ぬ友達に思いを馳せていた。

 筋肉モリモリマッチョのウマ娘がいいなぁ・・花山薫みたいなのに「まだやるかい」て言われてぇ!

 タフさは重要だよね。

 

「でっけぇ奴だぞ、でっけぇ奴を味方にしろ」

「またそれ?ガタイの大きさがそんなに大事なの」

「そうじゃねぇ、そいつの考えや懐の深さ、どんな苦難にも折れねぇ負けねぇ心意気。要は肝っ玉の大きさが大事なんだ。そこがしっかりしてる奴ってのが"でっけぇ"てことだ」

「肉体的な強さじゃなく、精神面の強さで人の価値を測れってことなんだね」

「小難しく言いよってからに、まあ合ってるからいいや。忘れんな、でっけぇ奴だぞ」

「はーいはいはい」

「へっ、孫に結構いい話ししちまったぜ。俺っちてばナイスジジイ(自画自賛)」

 

 妖怪ナイスジジイがキメ顔をしたので少しウザかった。

 でっけえ奴、でっけぇ奴ねぇ・・・花山薫は身も心もでっけぇ奴だ、ならもう花山薫でいいじゃん。

 いたらの話だけどね。

 

「黒、おめぇもでっけぇ女になるんだぞ。可愛い孫の成長が俺っちの生きがいだ」

「どこ見て言ってるのかな、このエロジジイ!!」

 

 幼児の胸を見ながらセクハラ発言しないでよ、台無しじゃんか。

 お仕置きだね。

 

「実の孫でも通報したら捕まるんだよ?反省してねジージ。」

「ギブギブギブッだ!海よりも深く反省した、それ以上はいけないぞぅ」

 

 アームロックを解除した後は、いつも以上に楽しく遊んだ。

 お弟子さんを呼んで相撲大会とかメッチャ面白かった。最終的に座布団を相手の顔にぶつけ合う乱闘騒ぎになったけど。ジージが一番ハッスルしていたなぁ。

 それにしても、お弟子さんたちは何の弟子なんだろう?演歌歌手?それにしては身のこなしが常人のそれじゃない気がするんだけど、私に護身術と制圧術を指南してくれた人もいたし。

 大きな家だといろいろあるんだろうなと納得しておこう。やぶ蛇になっても困るからね。

 

 私とママは二人暮らしを始めた。

 新しい住処はなんと、タワマン最上階だヒャッホー。

 思えばママは売れっ子芸能人、十二分にセレブでした。

 ママが忙しい時は、優しい家政婦さん(年齢不詳の美魔女)が来てくれるので家事については心配ない。

 私だって多少はできるんだよ、ホントだよ!ルンバを踏んで壊した?あれは事故だよ!

 ジージとは定期的に会うようにしているので寂しくない。今でもよき祖父と孫の関係である。

 最近、サーフィンを始めたとかで小麦色に日焼けしていた。本当に元気だな~。

 

 ジージの提案を受け入れて行動開始。

 友達100人でっきるかな~・・って100人もいらん!

 まずは強そうな奴がいそうな所を探ってみる。

 

「これで何度目かな☆ママもう疲れちゃったぞ☆」

「うーん、今回もダメだったよ」

「血気盛んなのはいいけど☆肝心の友達はできたのかい☆」

「ああ、そうだった。えーと・・・あはは、ごめんなさい」

 

 騎神の育成機関はトレセン学園が有名だが、民間にも多数の教育現場がある。

 いわゆる騎神予備校といったものから私塾や道場、やる気さえあれば幼い頃から修練を積むことは誰でも可能だ。

 ママと一緒にそういった施設を巡ってみたんだけど・・イマイチだな。

 期待外ればっかり、口だけの奴が多すぎるのも問題だ。

 

「いきなり師範に一騎打ちを挑むのはダメダメ☆」

「強い大人と戦えば現場の実力がわかるんだよ」

「勝負してくれないと無理やり襲い掛かるのもダメダメ☆」

「三回に一回は勝ってるもん、今日の所は雑魚すぎてつまんなかったなぁ」

「負けて痛い思いして出禁☆勝ってもドン引きされて出禁☆今更ながら娘の凶暴性に呆れてるぞ☆」

 

 そうなんだよなぁ、旨くいかないな。

 

 師範と勝負して負ける→やったぞ!ここはまとだ→躾がなっていない猛獣はいりません!

 その躾も込みでやってほしいんだけど・・・ダメ?ダメかぁ。

 将来有望だと思って面倒見てはくれないんだね、狭量すぎない?もういいよ!こっちから願い下げだ。

 

 師範と勝負して勝つ→レベルが低い、ここはダメ→看板はやるからもう帰ってくれ!

 道場破りじゃないってばよ。

 良い子のみんな~ここの先生たち全員自称騎神だから、経歴詐称しているから別の所に通った方がいいよ。

 

「年の近い子は、逃げ出す、泣き出す、酷い時は失神or失禁ww参った参ったww」

「人脈作りどんだけ下手くそなんだよ☆業界の荒波に揉まれたママの遺伝子は何処へいったんだ☆」

「お腹の中で因子継承の不具合が起きた、ママの責任」

「ちくしょう☆闘争心に極振りしちまったぜ☆しかぁし!超愛してるぜ我が娘よ☆」

「私も愛してるよママ」

「「あははははははwww」」

 

 私たち母娘は今日も絶好調だった。

 

 ご近所を飛び出して、隣町の道場へ遠征に行くようになった時、ある噂を聞いた。

 最近、謎の道場破りが頻発しており、どの施設も現役の騎神を配備して要警戒中なのだとか。

 現場には若い母娘を装って訪れ、実行犯は小さな黒髪のウマ娘らしい。

 怖っ!そんな危ない奴がいるんだ・・・日本の治安はどうなってるんだよ、まったくもう!

 私にはまったく関係ないけど道場へ行くのは、もうやめておこうかな・・・テヘ。

 

「メジロ家だ☆メジロ家に行くぞい☆」

「どうしたのママ?あ、遂に私を売り飛ばす算段がついたの!幼児虐待と人身売買だね、訴えて勝つよ」

「ちがーう☆メジロ家が若いウマ娘の従者を募集してるんだぞ☆お嬢様の付き人にでも考えているんだろ☆」

「へぇー、そこで働いてこいと?私まだ小学生なのに」

「御三家は実力主義で年齢不問だぞ☆メジロ家なら同年代の強い子はゴロゴロいるし、お小遣いも稼げて一石二鳥☆旨く行けばお嬢様とお友達にだってなれちゃう☆行かない理由がないね☆」

「しゃー!やったるぞー!メジロ家がなんぼのもんじゃい!」

 

 そんなこんなでやって来ました採用試験会場!って今日かよ!

 うわ、凄い行列と人込み・・これが全部ライバル、倍率いくつよ?ちょっと自信なくなってきた。

 

「本当にごめんねっ☆この埋め合わせはいつか必ず☆」

「いいから行って、急なお仕事なら仕方ないよ」

「財布とスマホ持ってるな☆変な人についていったらダメだぞ☆メジロ家にケンカを売るのだけはやめてくれい☆」

「わかってるってば、行ってらっしゃい」

 

 ママの車を見送って一人会場に取り残される。

 殆どの子は親子連れ、一人で来ているのは中学生ぐらいの子ばかりだ。

 まだかな、長いな、待ち時間が長すぎる!話し相手もいないので退屈でどうにかなりそう。

 まだ時間はあるよね、お腹空いたから何処かで何か食べてこようかな。

 試験会場はとある大学を貸し切りにして行われている。カフェテリアぐらい完備しているだろう、見学がてら散策を開始。広いな、ここでお兄さんお姉さんたちがヒャッハーなキャンパスライフを・・・ん?

 

「ここにも試験会場?"ウマ娘熱烈歓迎"だって、変なの」

 

 手作り感満載の看板(無駄に達筆)が空き教室前に置かれていたのが、なぜか妙に気になった。

 さっきまでいた場所に比べえらい寂れてる。空いているならみんなこっちに来ればいいのに・・・

 中を覗いてみる、サングラスをかけたおじさんが大きな欠伸をしている真っ最中だった。

 なぜ一人でここに?なんか何処かで見たような・・わかったエヴァだ!碇司令そっくりww

 あ、ヤベ、目が合った。

 

「おお、おおおおおお!?」

「えっと、ここは試験会場ですよね?私・・・」

「や、やった!ダメ元でやってみたら成功した!ククク、メジロのババアめ・・まさか頭首自ら試験会場に潜入!受験者を横取りするとは思うまい!ダイヤは呆れていたが、これでパパの面目は保たれた」

「あ、間違えました」

「待ってぇぇぇーーー!行かないでーーー!ちょっとだけでも話を」

「変な人についていったらダメって言われてるんで・・」

「身分なら証明する!ほらこれ免許証でいい?サトノ家頭首、サトノドウゲンだよ~怖くないよ~」

「サトノ家?用があるのはメジロ家なんだけど」

「これも何かの縁!そう、ご縁があったんだよ!ちょっとした偶然はもしかしたら必然、騙されたと思って試験受けてみない?」

「でも」

「メジロ家はアレだよ?規律にやかましくてウザったい、採用された所でその他大勢の戦闘員Aになるのがオチさ」

「ああ、それはなんかわかるかも」

「でしょ?確かにうちはメジロ家より弱小だけど、仕事は個人の裁量に任せることが多いし、アットホームでみんな仲がいいんだ。各種イベントやサプライズも盛りだくさん!楽しいこと請け合いだよ」

 

 アットホームって、ブラック企業が求人でよく言ってる。

 イベントも強制飲み会とかで、休日もウザい先輩や同僚に絡まれ碌に休めない、とかだったら嫌だな。

 サトノ家・・・御三家なんだよね。ここでもいいか、別にメジロ家にこだわってるわけじゃないし。

 嫌だったらバックれたらいい。

 

「わかった。試験を受けるよ」

「本当かい!自分で言うのもなんだが、こんな胡散臭いおじさんの言葉を信じるのかい?」

「私は大事なことを直感で決めるようにしてる。おじさんはいい人、それに、ご縁があったんでしょ」

「いいよいいよ!そういう感覚のサトノ家では超大事よ、ささ、座って座って」

 

 受験を決めた私を見て、パアッと顔を輝かせるおじさん。

 このおじさんジージの同類かも。顔は全然違うけど、私をただひたすらに慈しむような視線を感じる。

 会ったばかりだというのに、私は警戒を完全に解いてしまった。思ったより凄い人なのかも。

 

「改めて、おじさんの名前はサトノドウゲン、サトノ家頭首をしているシングルファーザーさ」

「残念、ゲンドウじゃないんだ」

「ははは、よく言われるよ。娘は「父様にはマダオがお似合いです」と言うけどね」

 

 娘がいるのか、頭首の娘、ご令嬢、強いのかな?

 マダオとはうまいこと言うもんだww少年漫画が好きだったら、お話してみたい。

 

「では、君のことを聞かせてくれるかな?なるべく詳しくお願いね」

「わかっ・・わかりました。私はキタサンブラックといいます。年齢は・・」

「口調はそのままでいいよ、楽にしてくれていいからね」

「は・・うん。じゃあ、そうするね。えっと、今はママと暮らしていて」

 

 敬語は苦手なので助かった。ジージから一通りの礼儀作法は学んでいるけどね。

 

「嘘!お母さん、あのサトウシンなの!だ、大ファンですって伝えて!!」

 

 よかったねママ。おじ・・頭首様、いつも応援してるってさ。

 

「そうか、北の親父の孫娘・・・あ、気にしないで続けて・・・(連絡しておかなきゃ)」

 

 ジージのこと知ってるみたい、歌手としてではなく、今のジージと何か繋がりがあるのかな。

 

「志望動機は「私より強い奴(同年代)に会いに行く」かい。うんうん、元気だね~」

「本気と書いてマジだよ」

「君のお眼鏡に叶う、強い子が現れたらどうするんだい?」

「もちろん勝負してもらう、それから・・友達になってくれたら嬉しい。強い子じゃないと私と遊んでくれないから」

「驚いた、ここまでピッタリの人材が来るとは・・少しいいかい?」

 

 席を立って近づいて来た頭首様は、私に断りを入れてから頭に触れる。

 大きな男の人の手だ、やっぱり大丈夫、触られても嫌じゃない。

 

「くすぐったいww」

「ふーむ。覇気の巡りは活発、神核の強度と安定性も抜群にいい。ファル子やフラッシュに会った時を思い出すなあ。恐らく才能はこの子の方が上」

「何してるの?」

「フフフ、昔取った杵柄だよ。頭首になる前のおじさんはギルド所属の敏腕治療師でね、触れた相手の覇気や神核の状態チェックは朝飯前さ」

「おお、激戦には必須のヒーラーさんだ!初めて見た!ザオリク!ザオリクやって見せて!」

「はっはっはっ、死者蘇生はさすがに無理だよ。ちょっとしたケガを治すぐらいは、今でもできるけどね」

「よくてベホイミぐらい?」

「ホイミ止まりかも・・・肩こりに腰痛、打身や捻挫なら任せて」

「湿布みたいwwwサロンパスおじさんwww」

「ダ、ダイヤと似たようなことを・・・インドメタシンとフェルビナクには負けないよ!」

 

 やばww鎮痛成分と張り合おうとしているwww

 サトノ家頭首はとても愉快なおじさんだ、私の好感度アップだよ。

 私のステータスを確認し、一通り話し終えた頃、頭首様は何処かへ電話していた。

 

「場所は○○大学の・・・うん、よろしく頼むよ。お待たせしたね、ええと、なんて呼べばいいかな?」

「好きに呼んでいいよ」

「では、ブラックで。お昼はまだだろう?ご一緒に如何かなブラック君」

「わーい、やった!チー牛!チーズ牛丼食べたい!」

「若い子はチーズトッピング好きだよね」

 

 学内併設のカフェテリア、本日限定でメジロ家の給仕係が出張料理人として馳せ参じていた。

 受験者とその保護者には色とりどりの料理が格安で提供され、美味しさボリュームともに大満足の料理に舌鼓を打っていた。

 牛丼は無かった残念!と思っていたら、ここの給仕はできる奴だった。

 じっくり焼いたステーキ肉をカットしてアツアツご飯が入った丼へ、それだけでご飯が進むタレを即興で作り上から回しかける。最後になんと!とろとろのラクレットチーズをたっぷりかけてくれた!うわぁぁ映える!

 裏メニュー、ブラックちゃんの無茶ぶり"とろとろチーズステーキ丼"の完成である。

 所望したものとは大分違ったがこれは美味い!頭首様も私もお肌けリアクションしそうになったわ!

 私たちの後にも「あれが食べたい」と注文する人がいたぐらいだしな。

 

「美味しかったね。メジロ家は食も侮れないなぁ」

「満足満足~。お金、本当によかったの?私ちゃんと持ってるよ」

「若者にご飯を奢ってドヤるのは大人の特権だよ。気にしなくていい」

「ゴチになります。このご恩はいつかお返しするね」

「しっかり者、それに律儀ないい子だ。お腹は大丈夫かな、今から実地試験を・・お、こっちだこっち」

 

 食後に学内グラウンドでまったり、手にはメジロ家特性のスムージー(野菜と果物たっぷり)。

 美味しいなコレ、ビタミン補給~。

 大排気量のアメリカンバイクが停車し、ライダースーツで全身を固めた人物がこちらにやって来る。

 ・・・訓練された者特有の足運び。誰だろう?軍人?

 ヘルメットを脱いで現れたのは端正な顔立ちの男性。青い髪に切れ長の目、軽そうに見えて芯はしっかりしてそうだ。

 

「非番なのに呼びつけて悪かったね。ちょっとこの子を見てほしいんだ」

「おやっさんの頼みなら喜んで。へぇーこの子が・・・なるほど、うちのお嬢には合ってるかもな」

「おじさん誰?」

「まだギリ20代だぜ。おじさんじゃなくてお兄さんな、おいたんでも可」

「おいたん何者?」

 

 この男、私が出会った人間の中では一番強い。

 

「サトノ家従者部隊のエリート、シングルナンバーのイルム君だよ」

「イルムガルト・カザハラだ。よろしくな、可愛い子ちゃん」

「チャラい!不誠実なおいたんは嫌い。でシングルナンバーとは?」

「1番~9番までの番号を与えられた精鋭たち、だったらよかったんだけど・・・」

「人手不足と実力不足で半数以上が欠番、人間の俺が入っちまってる時点で察してくれ」

 

 今なら私もシングルナンバーになれるのかな?

 

「お嬢ちゃんいくつ?名前は?」

「キタサンブラックだよ。年は〇歳」

「10年後暇?フリーだったら飯でもどう?」

「未来のナンパ予約。相変わらずだな君も」

「今から唾つけといて損ないですよ。この子、絶対にいい女になるって断言できる」

「わざわざナンパしに来たの?違うよね」

「ああ、もう始めていいかい、おやっさん?」

「うん。メジロ家の執事長と大学側には許可を取ってる。とりあえず10分ぐらいで」

「よーし、今からおいたんと遊んでもらうが・・へへ、準備万端ってやつか」

「嬉しいな、食後の運動がしたかったの」

 

 期待通りの展開に心が躍る。

 頑張らないと、これは実力テストってヤツだ。

 頭首様にいい所を見せて採用してもらう、その試験がこんなに私好みだなんて、ついてる!

 関節を解して覇気を練る、もう我慢できない。

 いいよね、いくよ、いっっくぞぉーーー!

 

「間地かで見ると凄まじいな。烈級ぐらいなら即合格しそう」

「うへぇ、その年で出していい覇気と殺気じゃねぇな」

 

 相手は格上!作戦ガンガンいこうぜでぶっちぎる!

 

「無所属、キタサンブラック!胸を借りるよ、おいたん!」

「サトノ家従者部隊1番、イルムガルト・カザハラ。惚れんなよ、お嬢ちゃん」

 

 ・・・危ない、数回打ち合っただけでもわかる強靭さには、惚れてもいいかと思っちゃった。

 攻撃、当たってるよね?全然効いてない!?覇気のシールド硬度が桁違いだ。

 年功序列なんてクソだと思っていたけど、しっかり時間をかけ修練された技巧にはまるで歯が立たない。

 単純な練度差で負ける。似非道場の師範などおいたんに比べたらゴミカスだ。

 よかった、私、全然弱いじゃん。まだまだ強くなれる、まだまだ強くなりたい。

 これだから楽しいんだ、羨ましいんだ、強いって凄くすごーくカッコイイし、キラキラしてる。

 

「どうかなブラック君は」

「今でも30番台には余裕で届くでしょう。おチビなの加味すれば将来的に超級騎神も夢ではないっスね」

「だよね!聞くまでもないが判定は?」

「文句なしの合格。これだけの逸材よく見つけたもんだ。メジロ家がちゃちゃ入れて来る前にずらかった方がいい」

「そうだね。さっそくうちの子として登録を、あ、親御さんにも説明・・・さ、さ、サトウシンと会える!!え、えらいこっちゃでぇぇぇーーー!!!」

「なぜ芸能人の名を?まあいいか、おーい、お嬢ちゃん生きてるか?」

「おいたん・・クソつよ・・いつかリベンジ・・・ガクッ」

「ありゃりゃ、気絶しちまったぜ」

 

 おいたんに完敗したものの試験は合格。

 私は晴れてサトノ家従者部隊員として雇われることになった。やったね!

 後日行われた最終面接と言う名の親子説明会。

 ママを見てテンパりまくる頭首様が凄く面白かった。

 帰り際にママと連絡先を交換していたのを見逃さない私、まずは友達からってヤツ?

 ママも満更ではない様子なのが意外だった。

 「娘が拒否しないってだけでポイント激高だぞ☆」とのこと。

 

 サトノ家でのお仕事が始まった。

 学生との両立なので時間の融通は利かせてもらった。ありがたいね。

 部隊員の先輩方に挨拶「可愛いぃぃぃ!」「小さい!」「ロリィィィ!」「踏んでくれ!」大歓迎された。

 ちょっとだけ身構えていたが、みんな驚くほどよくしてくれる。

 ジージの屋敷で会ったクソ親族とはえらい違いだ。本当に強い人、立派な人は他人にも優しくて当たり前なんだって理解した。

 ここには人間もウマ娘もたくさんいる。

 おいたんみたいに騎神より強い人間も、そんなに強くないウマ娘も、みんな自分ができることで一生懸命頑張っている。何よりみんな楽しそう。仕事内容は地味な裏方や、ちょっと変な案件が多いかな。

 メジロ家の下請けと、メジロ家ではやらない仕事もうちはやる。

 ゲートの捜索ってなんだろう?プラーナ地場の調査?新型ラーメンの開発協力・・何だこれ?

 

 まだ新人の私は先輩についていって仕事を見させてもらう。

 まずは空気に慣れてほしいんだそうな。それ以外は修練、修練、修練のトレーニング三昧!

 強い人が多いのでやりがいがある。最高の環境を手に入れたぞ。

 

 何か忘れてないかって?友達・・友達はまだ・・同僚や先輩はたくさんできたけど、年の近い子はうーん。

 ファル子さんとフラッシュさんはお姉さん的存在だしなぁ。

 

「ブラック君、ちょっといいかな」

「頭首様。ママとはその後どうですか?」

「この間はお洒落な店で食事を・・てゲフンッ!その話はいいから、お仕事をお願するよ」

「またラーメンの試食会ですか?フラッシュさんがカップヌードルの味を完全再現してたよ」

「そのデータはファイン家に送ったよ。君にしかできないお仕事があるんだけど、実はね・・」

 

 この仕事を受けたことが私の転機となった。

 長い付き合いになる、あの子との出会いが待っていたから。

 

「専属、私は今日からお嬢様の専属なんだ・・・よし、頑張る」

 

 頭首様の一人娘、その子の専属従者をやってほしいとのご依頼だった。

 お嬢様、サトノダイヤモンドの噂は同僚たちから度々聞いていた。

 なんでも超絶優秀なウマ娘で、サトノ家が待ち望んだ最終兵器なのだとか。

 私はその子を顔を知らない、だって写真や映像の一切合切を頭首様も同僚もグルになって見せてくれなかったから!こんなことある?なんで?って聞いたら「出会ってからのお楽しみ♪」だそうな。ちくしょう!

 本日がその記念すべき初顔合わせの日。

 「ここで待ってってね」と言われて通されたのは、サトノ屋敷のダイヤ様の自室。

 勝手に入っていいのかな?頭首様がいいって言ったから大丈夫だと思うけど。

 部屋はきちんと整理整頓されていて、お嬢様の几帳面な性格が伺える。

 しかしなぁ・・・こいつは・・・

 

「凄い、秘密基地だ」

 

 もっと女の子を前面に押し出した、ピンクでフリフリ、エレガントでシャラララーを想像していたが違った。

 大きな本棚には難しそうな書籍や辞典、漫画や妙に薄い本がギッシリ。

 壁や棚にディスプレイされた何かの骨格標本、フィギュアにモデルガンと刀剣類!?

 造りかけのピタゴラスイッチ?何をやっているんだろう。

 広い作業机に出しっぱなしの工具類、意味不明な設計図?電子機器の制御盤、積み上げられたプラモデル。

 隣にはパソコンデスク・・これただのパソコンじゃない、ワークステーションってやつかも。

 株取引でもやっているのか?モニターが複数あるし。

 壁に埋め込まれた大インチ画面のテレビに各種ゲーム機、あ、メガドライブ!?レトロゲーもやるんだ。

 他にも見ているだけでワクワクする物体が所せましと並んでいる。

 ベッドや姿見、クローゼットは必要最低限に抑えられ部屋の隅に追いやられている。

 ダンベルあるじゃん、ほほう30㎏か・・・勝ったな、うちには50㎏あるもん。

 

「趣味満載の部屋、私と気が合いそう」

 

 こういうの嫌いじゃないわ、むしろ好きだわ。いいなぁ私の部屋もこんな感じに模様替えしたい。

 はっ?誰かが近づいて来る。

 来た!扉の前に気配がある・・向こうもこちらに気づいた。

 ドキドキ、どんな子かな・・・花山薫期待していいッスかwww来い、来い、来い、薫っ!!!

 

「あ、やっと来た」

「へ?」

 

 部屋に入って来た人物は目をパチクリさせて固まる。

 私も呆気にとられたよ。だって、初めて見たお嬢様は・・・

 

 とんでもなく可愛くて綺麗な子だったから。

 

 薫じゃなかったぁぁぁーーー!!!それはもうええっちゅうねん!

 どうしよう、変な汗が出て来ちゃった。

 動揺を悟られてはいけない、しっかり目を見て会話しないと失礼だよね。

 う、本当に綺麗な子だな・・・うちのお嬢様マジお嬢様やんけ!眩しい!直視できない!

 

 私を見る琥珀色の瞳に吸い込まれそう。亜麻色の髪からは得も言われぬ気品と優雅さがにじみ出る。

 私もよく容姿を褒められるけど、この子の前じゃそれも霞む。

 幼さいながら整い過ぎた顔立ちは多くを魅了して止まないだろう。

 くあ、いい匂いしそう!というかしてる!

 

 おっと、覇気はどうかな・・・ウホッ!(゚∀゚)キマシタワーーー!!!

 やったぁ!やってくれたなサトノ家!いい仕事だよ頭首様!!!

 外見はともかく、中身は花山薫もワンパンできる猛者じゃねぇか!ヒャッホー!!

 さようなら薫、こんにちはダイヤモンド!待ってたよ、あなたに会えるのずっと待ってたんだよ!

 この子となら、絶対にいい友達になれる。ううん、なりたい!

 お、落ち着け、変な子だと思われちゃう。まずはしっかり挨拶して専属にしてもらわないと。

 ああ、早く遊びてぇ!!!ウズウズしちゃうわ。

 

「あなたがダイヤモンド?私はえっと、うん、キタって呼んでね」

「確かに私がダイヤモンドですが、キタ・・さんはここで何を?」

「頭首様から聞いてないの?私、今日から従者部隊入りしたんだ」

「え?あなたが従者部隊。冗談を言ってるわけではないみたいですね」

「うん、最年少の合格者だって。みんな褒めてくれたよ」

 

 当たり障りのない会話からスタートしたんだけど。

 結局、専属は認めてもらえなかった・・・だったら、実力行使しかないよね♪

 軽くジャブから、裏拳でいいか。

 あはっ!止めた止めたwww簡単に止められた!そうこなくっちゃ!

 

「なんの真似ですか!」

「いい反応だね、これなら退屈しなくて済みそう」

 

 そこから始まる大乱闘!もう止まらないよ!やったるでーーー!

 最初は回避に専念していたダイヤ様・・・ちゃん付けでいいよね。ダイヤちゃんもブチギレて反撃してくる。

 うはっ!こういうタイプは初めてだ。

 こちらの防御が薄い所を的確に狙ってくる、鋭くそれでいてしなやか、パワーは私が上だけど読みは完全に向こうが上。未来予測でもしてんのかっ!て言う位の動きでこちらを攻めて来る。

 ああ、もう最高!これこれ、こういうのでいいんだよ!

 これが、これこそが本物の強者。出会うべくして出会った友と書いてライバル!

 嬉しすぎて若干テンション高めでごめんね!

 

「逃がさないよ!」

「・・・バカがっ!」

「うわぁと!」

「ちっ、外した。ウゼェからはよくたばれや!」

 

 廊下を走り抜けた先のカーブから、包丁やアーミーナイフが飛び出して来たのをなんとか捌く。

 いつの間にこんなものを・・・その後もワイヤートラップや落とし穴、トラばさみまで用意されてる!!

 考えなしに逃げている訳ではない、ダイヤちゃんの何気ない一挙手一投足が相手を追い込む布石になっている。

 ここは相手のホームだったな。ルールも素手オンリーにしていないので何でもあり。

 こっちが不利なのは承知済み!全部完封してやる!

 手加減なし、頭も体もフルに使って挑んで来てくれる。それが最高に嬉しい。

 応えなきゃ、こっちも応えなきゃいけない!

 嫌そうな顔しないでよ、わかってるよ。気づいてる?ダイヤちゃん、ギラギラした目で笑ってるよ。

 言葉使いも乱暴だ。そっちが本性なんだね、うんうん、そっちの方が好きだな。

 

「ボケが、バラしてやるよ!」

「ぎっっっ・・・がぁ」

 

 服が破れて血が滴り出した頃、気づけば屋敷は爆破されたみたいな惨状になっていた。

 ごめんね頭首様・・・あ、おいたんに皆も来てる。

 酔っぱらってるなぁ。おいたん、禁酒1日で断念かよ!賭けてるの?勝ったら取り分は山分けにしてよ!

 

 それより今の一撃、なんか腕が・・上がらない!?プラーンてなってる!???

 

「ふぅ、成功した。右肩の関節を外した、痛いでしょ、もう降参しろ」

「あはは、ずっとこれを狙ってたんだ・・凄い、すごい、スゴイ!やっぱりダイヤちゃんは凄い!」

「当たり前だろうが、早く降参を」

「するわけない!まだ終わってないよ!今度は左を外して見せてよ!あははははははははは!」

「イカれてやがる。最悪完全分解するしか・・人体の不思議図鑑もっと熟読すべきだったか」

 

 本?本で読んだ知識のみでやったの?

 ぶっつけで関節外すってそんなことできるの?怖いな、ヤバイな、面白いなこの子。

 まだ遊ぼう、片腕だけでもやってみせるから。

 動き、鈍くなってるよ・・考え事が多くて頭が熱くなりすぎてるのがわかるよ。

 オーバーヒートしてるんだよね、演算と予測、行動に移すまでの電気信号の加速が脳に、全身にダメージを与え続けていたんだよね。

 どっちが先に潰れるか・・・勝負だよ親友!!!

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「改めまして、サトノ家従者部隊ダイヤ様専属、真名キタサンブラックだよ」

「サトノ家次期頭首、サトノダイヤモンドです。まあ、楽しくいきましょう」

「「コンゴトモヨロシク」」

 

 結局、負けちゃった。悔しい、悔しい、それ以上に清々しい。

 かけがえのないものを手に入れた喜びが全身を満たしている。

 親友でライバルで上司、守るべき対象で、倒すべき存在。

 追いついて、追い抜かれて、また追いかけて・・・ずっとイタチごっこしていたい。

 ジージとママに自慢してやろう。最高のダチができたよって。

 

 ありがとうサトノ家、ありがとう頭首様、ありがとうダイヤちゃん。

 私、これからも頑張るね。

 

 この後もいろいろあった。

 ママと頭首様が結婚して私はサトノ家のお嬢様入り、ダイヤちゃんの姉妹になったのだ。

 頭首様はパパと読んだら凄く喜んでくれた。私も嬉しい、ママも幸せそう、収まる所に収まった感じ。

 ダイヤちゃんもママのこと「お母さん」て呼べばいいのに、ダイヤちゃん風に言うなら母様かな。

 照れちゃってもう!無理強いはしないよ、いつか自然に呼べたらいいね。

 

 私たちの関係は良好、たまにケンカもするけど、それも本気でぶつかってる証拠だよね。

 学校も仕事中も休みの日も一緒。そんな私たちを両親がサトノ家のみんなが暖かく見守ってくれている。

 ジージに報告したら諸手を上げて喜んでくれた「でかした!さすが俺っちの孫」だって。

 「あとはいい男がいりゃあ文句ねぇな」って気が早いよ。

 

 ダイヤちゃん学校で大暴れwwサトイモ事変www笑わせてもらった。

 

 ファイン家のインモーにボコられた。

 強いな・・・この子にもいつか勝つぞ!修練に身が入るってもんよ。

 で、敗者への罰ゲーム?操者を見つけろだってさ・・・

 

 (*´Д`)はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?マジで言ってる?

 

 契約ってアレでしょ、ブラック知ってるよ。

 血を吸わないとダメなんだよね・・・うげ・・・絶対無理。

 ジージやパパの血でも無理、ヴァンパイアだとしても無理、無理無理無理だってば!!

 

 約束なので、操者候補の選定と、契約についての書物を読んでおく。

 ダイヤちゃんは書庫から古い文献まであさり始めた、厄介なこと言い始めそう。

 

「気に入った相手ならその全てが愛おしくなるそうですよ。知らんけど」

「何それ、ソースはどこよ。好きになった相手の血がほしいとか、怖いよ」

「最近は書面と皮膚接触での覇気循環で契約完了ですが、この噛みつき契約の方がハイリスクハイリターン!」

「だからそれを選ぶと・・ダイヤちゃんの病気が始まった」

「病気じゃねぇ!面白い方が好きなだけですよ、絶対こっちの方がいいですってば」

「「契約時、人間には死んだ方がマシ級の激痛が走ります」て書いてあるよ・・・こんなのやってくれる人いるわけないよ!」

「いいや、私はやるね!今の内に頸動脈を噛み千切る練習をしておかないと」

「噛み千切ったらアウトだろ」

 

 やれやれ、ダイヤちゃんの操者になる人は苦労するな。

 私?私は・・・どうなんだろう?その時になってみないとわからないよ。

 優しい人がいいな。それで、一緒に遊んでくれたら最高・・・高望みし過ぎか。

 まあ、ドン引きされて終了だろうな。最悪ダイヤちゃんだけでも操者に恵まれたらいいや。

 私は今のままで十分幸せだよ。

 

 そのはずだったのに・・・もっとほしい、もっと私を見て、もっと一緒にいたい。

 戦っている時より、遊んでいる時よりも、ずっと大事な感情が溢れて止まらなくなる人。

 

 そんなあの人に・・・出会ってしまった。

 

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