「ヤバイヤバイヤバイ!こいつら予想以上に手強いよ」
「弱音を吐いてる場合か!気持ちで負けはダメです」
「くっ、まさか二体のPTによってこんな苦しい戦いを・・・」
お、前振りですか?前振りですね。
こんな時だというのにヤレ!とおっしゃるのですね。
いいでしょう、ダイヤ渾身の「いつか言ってみたいセリフ」とくとご覧あれ!
「強いられているんだッ!(集中線)」
成し遂げたぜ。顔もバッチリ決めてやりました。
「何で?何で唐突に集中線つきで激高したの!?その濃い顔やめてよ!」
「あれ?お気に召しませんでした。そっちが振った癖に」
「たまにシロちゃんのことが本気でわからなくなるよ」
「それはお互い様です」
どんなピンチでもお約束をやってのけてこそ一流。
それが大人の余裕だと私は思うのです。
迫りくるアルトアイゼンとヴァイスリッター。
赤と白、二体のPTに私たちは大苦戦中。
アルトの執拗な突撃、愚直なまでの猪突猛進っぷりがすこぶる厄介だ。
ヴァイスはその機動力を生かした強力な移動砲台と化している。空飛ぶのズルい!
両機とも、ものすごく見覚えのある動きで攻撃してくるのが余計腹立たしい。
「戦闘データの引用元はさぞ野蛮な狂人に違いないです」
「そうだねーどこのバカだろうね」
「「・・・・」」
「「そうだよ!私たちだよ!」」
言ってて虚しくなった。
アルトとヴァイスの戦闘データ引用元は、ご存じの通り私たちですからね!
なんてこった!一生懸命収集したデータをパクられたばかりか、刺客として送り込まれるとは。
凹むわ~テンション下がるわ~。
「こういうときは、マサキさん(脳内妄想版)に慰めてもらうのが一番なのですが」
「右に同じ・・撃って来る、散開っ!」
クロちゃんの声でその場を飛びのく、上空からってのがキツイな。
ヴァイスのビームが私たち二人をまとめて薙ぎ払う軌道を描く。
それを躱した先にはアルトのステークがお出迎え・・・おおっと、うん、知ってた!
「やらせるか!」
「ひゅー!ブラックさん素敵~」
「それほどでもあるよ」
間一髪、クロちゃんがアルトを蹴り飛ばしその姿勢を崩す。
杭打ちの刑を逃れたことに感謝しつつ、私は浮遊するヴァイスに向けて覇気弾をぶっ放す。
避けんなボケ!素直に食らって落ちろってんだよ。
「まいったね。私たちより上手に連携してくる」
「恐るべきは機械ならではの正確性・・ちっ!周りのアンドロイドもめんどい」
Wシリーズと呼称される、アンドロイドどもの攻撃も地味にウザったい。
両腕の機関砲でこちらに射撃してくる。
威力は大したことないが、気を取られている間にアルトとヴァイスが来てしまう。
これの流れは非常にマズイ。気力が尽きるのが先か、体力が尽きるのが先か・・・
どちらかが途切れた瞬間、負けが確定してしまう。
「ひゃはははははっ!手も足も出ないようですね」
場違いな笑い声が戦場に響き渡る。
最高に耳障りで癇に障る声だ。耳が腐るからヤメテね。
「「超ウザいんですけど!!」」
「ん~?焦ってますね~。こいつは大変だぁ~このままじゃ操者との再会など夢のまた夢」
「あんの野郎」
「こんなにイラついたのは久しぶりですよ」
高みの見物を決め込んでいるアーチボルトの声が一々ムカつく。
私たちが苦しんでいる様が最高に楽しいらしい。
今気づいた。いつの間にか簡易テーブルと椅子が用意されている。
両隣に護衛のアンドロイドを数体侍らせ、足を組んだ状態で椅子に腰かけるクズ。
片手にはティーカップらしきものを持ち、香りを楽しみながら口に運んでいる。
あームカつく!こっちは切羽詰まっているのに、悔しいです。
その椅子とテーブル何処から持ってきた?優雅にお茶してんじゃねーよ!
特等席でスポーツ観戦気分ですか、この野郎。
「ルクスには感謝しないといけませんねぇ。これで僕の留飲も下がるってもんです」
別にお前を喜ばすために苦戦してる訳じゃない。
ルクスと一緒にくたばれ。
「さあ、もっと苦しめ!無様に足掻いて、最後には惨たらしく絶命しろ!」
「「絶対にNO!」」
「ボロクズになった自分たちの死体を操者に、あいつに披露するんだな。ひゃはははははははっ!」
「そんな醜態を」
「マサキさんに見せられるか!」
次にマサキさんと会う時は超感動の再会シーンだって決めている。
もう何十パターンもシミュレーションしている。最高の演出で忘れられない瞬間にするんだ。
こっちが死体だった場合は考えたくもない。
「威勢だけはいいガキどもだ。お前たち、こちらの損害を考慮する必要はない、早くそいつらを仕留めろ」
クズの指示でPTとアンドロイドの動きがより苛烈になる。
ガキか、確かにちょっと前まではガキでしたよ。
でも、いつまでも子供ではいられない。
体は大きくなったし、好きな人だっているんだ。
たくさん助けてもらった分、今度は私があの人を助けてあげられるように、一人前にならなくては!
「シロちゃん。クズは後回しでPTに集中」
「わかってます。雑音はスルーしておきましょう」
ああ、気に入らない。
クズの嘲笑と存在はウザったいが、それ以上に気になっていることがある。
ここに来てからずっと感じている視線・・・敵意というより同情や憐憫?
ここからの距離は遠い、だが確実にいる。そこから観察しているな。
そのピリピリくる熱視線やめてくれません?どこの誰だよてめぇ。
いけない集中集中、まずは数を減らさないと、定石通り行きますか。
「決めた、奴から落とす」
邪魔くさいアンドロイドに向けて射撃!覇気弾で牽制しつつ道を拓く。そら行け!
「おっけー!キタサンブラック突貫するよ」
ヴァイス目掛けて突っ込んでいくクロちゃん。そうだ、奴を・・・
そこへ割り込む機体アルトアイゼン、自身の相方を守らんと立ち塞がる。
「「やっぱり来たぁ!」」
完全な予定調和、その動きは読めてました。
だって、私が狙われたらクロちゃんだって庇ってくれる。くれますよね?
「そぉれ!」
私たちの狙いは最初からお前だよ、アルト!
クロちゃんの拳がヒット!ステークを上手にいなしてアルトの頭部を揺さぶる。
頼もしき親友は、そのまま体をずらして射線を空けてくれる。
ふふん。わかっているじゃないですか。
両手の平に覇気を集中、指から爪の先までに力を通す。
今回はこれでいってみる。
「はいそこ!」
覇気弾の連射!
一発の威力と精度を落とした分、弾数を上げた。
無数の弾丸をご馳走してやるよ!
よっしゃ命中!アルトの装甲に傷が入ったのを確認。
「今の乱射カッコイイね」
「マシンガン風にしてみました。来ますよ!」
「大丈夫、見えてるから」
ヴァイスが左腕のビームキャノンをばら撒いて来たので躱す。
おいおい、アンドロイドどもにガンガン当たっているがいいのか?そいつら一応味方だろ。
まあいい、ダメージを負ったアルトが動きを止め、連携が崩れた今がチャンス!
(どっち?)
(ヴァイスは無視!このままアルトを叩く!)
(おっけー)
定石通り装甲が薄いヴァイスを先に落としたい所だが、どうせ援護防御で邪魔をしてくるアルトを先に・・・
「コードATA発動」
「いっ!?」
何者かに足首を掴まれた?そう感じたと同時に爆発が起こり衝撃が体を襲う。
防御、辛うじて間に合ったけど少しもらった・・・痛む体で受け身を取りつつ態勢を立て直す。
今のは・・・またアンドロイドの自爆か?
ヴァイスの流れ弾を食らって倒れていた一体が自爆したのか。
まだ致命傷じゃなかっただろ、諦めんなよ。自爆は首もげてからにしろよ。
最初から自爆する気だった・・・こいつら最早ただの特攻兵器だ!
周囲を確認、とりあえず私の近くにアンドロイド(動く地雷)はいない。
クロちゃんの方は・・・・!?
「そこはマズい!離れろ」
「え!?ちょ」
クロちゃんが退避した先には、奴らが降りて来たトラックの一台が停車していた。
そのトレーラー部分の壁を突き破りアンドロイドの増援が出現。うへぇ、おかわり来ましたよ。
まだそんなにおったんかい!どんだけ持って来たんだ、積載量絶対オーバーしてるだろ。
反応が遅れたクロちゃんになりふり構わずしがみつくアンドロイドの群れ。
うわーゾンビ映画で見るシーンみたい、割といい奴から群がられて食われるんですよね。
「「「「コードATA発動」」」」
「しまっ!!」
「クロちゃん!!」
閃光、轟音、爆発!
クロちゃんに群がったアンドロイドがまとめて自爆した結果だ。
「ぐぁ・・っ」
「どけコラッ!!」
クロちゃんの下へ急行!よかった、まだ生きているな。ちょっと焦げてるけど。
マズいな、今のは結構なダメージだ。
更に群がろうとするアンドロイドを蹴り飛ばし、クロちゃんに肩を貸す。
「予定変更。全力で逃げます」
「賛成・・上手く行くといいけど・・痛っ」
「しっかり、マサキさんにまたブラッシングしてもらうんでしょ!」
「そうだ、あの至福の時をもう一度」
最悪クロちゃんだけでも・・・いや、バカな考えはやめよう。
私たちは絶対に生きてマサキさんに会うと誓ったのだから、こんな所で死ねない。
ああもう!ムカつくムカつく。
おい、ずっとこっちを見ているだけの暇人ども!いい加減援護ぐらいしろや!
マジでピンチなんです。助けてくださいお願いします。・・・ダメか、ダメっすか。
はーん、わかったぞー。お前ら私たちを助けるつもりはハナからないんだな。
こっちを見ているのではなく、正確にはロックオンしているんだ。結局敵かよ。
狙撃か、はたまた砲撃か「狙い撃つぜ」の準備万端ってか?ふざけんな!
お前らもそこのクズ同様、私らが四苦八苦しているのが楽しいか?
呪ってやるぞ、絶対化けて出てやるからな!いや、死なねーし!
「受け身ぐらいとってくださいよ!そいやっ」
「な、にして・・・のぉぉぉーーー!!」
許せブラック!負傷したクロちゃんを全力で投げ飛ばす。
採掘場を抜け木々の生い茂った森の中へぶっ飛んで行く相棒、紅い瞳から抗議と悲痛な叫びを感じ取ったが無視。
「( ´Д`)=3 フゥいったか・・・」
一息つく暇もない、背後から二体のPTと動く地雷軍団が来ている。
負傷者を抱えたまま逃げる隙など与えてくれなかった。
こうなっては仕方ありません。
覇気残量確認・・・むー心許ないですね。
ですが耐えてみせましょう。
「オラッ来いやぁ!」
「「・・・」」
うわっ!本当に来た。
嫌だな怖いなぁ・・・マサキさんに会いたいな。
覇気の防壁をフルパワーで展開しつつ身構える。
この感じ久しぶりだ、アルクオンと戦った時に感じたもの再び!
死期を悟るってやつですかね・・・冗談じゃない。
♦
戦場から離れた場所にいる、ファインモーションとその部下たち。
デバイスを顕現し標的を捉えたまま戦況を見守る。
あれは量産型のWシリーズ、過激派連中が裏社会に横流しでもしたか、後で締めておこう。
見慣れない二体のPT、赤いのはもしかしてゲシュペンストⅯk-Ⅲ?
2ndであの欠陥機が正式採用されたという話は聞いていない、恐らくルクスとその一味が持ち込んだ技術から造り上げたと推測。
それから、指示を出しているチンピラ小物臭がする男は・・・異常なほどムカつくな。
何故かわからないが、一目見て全身が拒絶反応を示すほど嫌いになった。
あの優しいマサキですら唾棄しそうな男だな。
そんな奴に好き放題やられて、クロシロちゃんも最高にムカついているだろう。
「まだか」
「まだだよ」
ダイヤちゃんが負傷したキタちゃんを逃がした。
そっか、自分がリンチされるのも覚悟の上なんだ。何だかんだで優しいよね。
ねえ、どうしたの?なんでオルゴナイトを使わないの?できないとは言わせないよ。
ああ、焦れったいな・・・早く、早く本性を現せ!
「ボス、今ならまだ作戦変更もアリだぜ」
「変更はしないよ。二人を助けるか判断するのは、見極めが終了した後」
世界の敵になる可能性を孕んだウマ娘たち、ファイン家頭首として慎重に対処しなければならない。
それは重々承知しているはずだった。
「見ているだけってのもキツイよな」
「・・そうだね」
「気が変わったならすぐに言えよ」
「いいから、シャカはキタサンブラックに集中」
「森の中へ入っちまった。ここからだと無理がある」
「どうせそのうち出てくる。気を抜かないで、いつでも撃てるように準備して」
「・・・ったくよぉ」
「何?言いたいことがあるなら言って」
「でかい口叩いた割にブルっちまってるな、そんなんでダチを撃ち殺せんのか?」
「うるさいな」
「毛が逆立ってウザい、目が血走って怖ぇ、なんだその汗は?多汗症かよ、覇気が乱れてんぞ、心拍数おかしくね?不整脈過ぎませんかね。ヘタレインモーが」
「余計なお世話だよ。私はやる時はやる子なの!黙って言うこと聞きなさい!」
「へーへー、頑張りまーす」
このインテリヤンキー、ここぞとばかりに言いたい放題だ。ヘタレインモーてなんだてめぇ!
あーあー気を遣われちゃった。お陰で少しだけ緊張が解れたよ。
でも礼は言わない、割と真面目に凹んだからね!もっとマイルドな言い方無かったの?
うう、私これでも頭首なのに。部下のみんなに示しがつかないな。
「ファ、ファイン様がヘタレていらっしゃるぞ」
「元気出してください頭首様」
「誰か!早くベビースターラーメンを」
「しまった!ドデカイ(チキン味)しか持ってねぇ!」
やめてー今慰められたら泣くから!お気持ちだけで十分です。
ベビースターラーメンドデカイ(チキン味)は後で没収します。
傷つき追い込まれている二人を見て胸が軋む、こんなんじゃダメ、落ち着け冷静になれ。
無意識に耳と尻尾が落ち着きなく揺れてしまう。情に流されるな、この期に及んで二人を「助けたい」なんて思うのはお門違いだ。
待て、もう少し、もう少しだけ、きっと二人はやってくれる。
二人は今日ここで内に秘めた獣を解き放つ。その結果次第では私が始末をつける。
もういいでしょ。さあ見せてよ二人の本当の姿を。
何を躊躇ってるの?こんな所で倒れるつもり?ねぇ二人とも・・・
「マサキに会えなくなってもいいの?」
♢
流石は血も涙もない殺戮マシーン、寄ってたかってのリンチにも一切の躊躇なし。
父様に「うちの娘、超絶可愛くて悶絶しそう!」とまで言わしめたこの私に、よくもまあやってくれたな。
ダイヤモンドはハンマーで叩くと割と簡単に砕けることをご存じですか?
サトノブランド製の私もその例に漏れないのですよ。だから、その辺りでやめてください!
現在進行形で私をボコボコにしているアルトとヴァイスの動きには心当たりがある。
二機の武装とスペックをフルに活用したコンビネーション。
それは「ランページゴースト」という名の合体攻撃。※命名・サトノドウゲン
それはまだマサキさんに出会う前のこと。後のアルトとヴァイスになる新武装の動作試験中。
私とクロちゃんの動きが妙に噛み合い「コンボが繋がった」状態になった。それをサトノ家の技術部が「これ無人機の戦術モーションに組み込んだら面白くね」とか言い出したので長時間データ収集に付き合わされたことがあった。あのときはに本当に疲れた、やっと終了したときには私とクロちゃんは疲労困憊でグッタリ。
そうして今、苦労して集めた成果物の成れの果てをご馳走されているわけです。
アルトのステークにクレイモア、ヴァイスのビームと実弾砲撃の嵐、トドメにゼロ距離でのぶっ放しと来たもんだ。
うーんお見事ですね、息ピッタリで感心しますよ。
メチャクチャ痛いし出血もしている、衝撃も凄い骨に響く。気にしたら負け、ここは敢えて鈍化になっておこう。覇気の防壁を削られた、これ以上はもたないな。二機のステークとランチャーがもうすぐそこに・・・
あ、これダメ・・・私死ん・・だ・・・?・・・ん、まだ?なんか遅い。
焦らすなよ~どうせなら一気にやっちゃってよ!
「これってランページゴースト?直撃をもらうのはちょっと怖いね~」
「は!?クロちゃん。何で」
「酷いやシロちゃん!急に投げ飛ばすなんて」
「いや、あなたどうして」
さっきぶん投げた奴がどうして目の前にいるんだ?
私は合体攻撃「ランページゴースト」を食らって木っ端微塵に爆散予定なのですが、どういうことなの。
見渡すと自分たちが緑色の結晶体に包まれていることに気付いた。これは円形の防壁?
私たちは円の内側に、敵は外側にいて入ってこれないようだ。
この結晶が守ってくれたのか・・・
「オルゴンクラウドで壁を造ったわ、間に合ったようで何より」
「今のは危なかったよ。私たちが助けなかったら間違いなく死んでいたよ」
聞き覚えのある声、クロちゃん意外にも誰かいる。
「女神様たちが助けてくれたよ。感謝感激」
「そのようですね。ありがとうございます、カティアさん、テニアさんも」
「気にしないで、大事な後継者に死なれたら困るもの」
「そうそう、後継者があまりに不甲斐ないから思わず出て来ちゃった」
「「すみませんでした!!」」
どうやら神の奇跡(チート)で都合よく救われたみたい。
無様を晒したのは本当なので二人揃って頭を下げる。
マサキさんも褒めてくださった完璧な角度のお辞儀を披露する。
「なんて清々しい謝罪だ。嫌味を言ったこっちが恥ずかしくなる」
「慣れないことするからよ。二人とも頭を上げて」
「いや本当に情けない姿をお見せして」
「申し訳ないです」
「もういいってば。それより、今のうちにやるべきことをやっちゃおうよ」
「そうね。不完全なラースエイレムがいつまでもつかわからないし」
結晶体越しに外の光景が透けて見える。
オルゴンクラウドに阻まれて態勢を崩すアルトとヴァイス、遠巻きに伺うアンドロイドたち。
こっちを見て驚愕の表情を浮かべたまま固まるアーチボルト。
「この状態、時間が止まっていると解釈していいのですか?」
「正確には引き延ばしてるわ、女神特権でラースエイレムを再現してみたの」
「か~な~り無茶したよ。こんなのもうこれが最初で最後だからね」
「「女神パワーすげぇぇぇ」」
ラースエイレムというのが時間停止の技もしくはそれを可能とする兵装の名前か。
時間操作とかもうチートですやん。
「助けて頂いて何ですが、神様がそんな簡単に力を振るっていいのですか?」
「あなたたちに関しては特例が認められているわ。上からも「今回は積極介入もやむなし!」と言われているの」
「前の世界はあの惨状だし、一連の事象も見過ごせない。神界もやっと重い腰を上げましたとさ」
「テニア、余計なことを言わない」
上に神界ときましたか、神様たちも大変なんだな。
なるほどなるほど、神様は私たちを贔屓して助力してくれるようだ。
「その顔「チート使えるのならお前らが全部なんとかしろよ、神だろ?」って思ったね」
「思ったよ」
「クロちゃん、バカ正直に無理を言ってはいけません。神様たちは直接手出し出来ない決まりのようなものに縛られているのでしょう」
「おお、私の後継は利発で助かるね」
「マサキさんや私たちにへの助力はセーフ。ルクスたちへのダイレクトアタックはアウトってこと?」
「その通りよ。困難や試練を乗り越え、世界をよい方向へ導くのは現世に生きている者が成すべきこと。私たちはそれを見守りながら、たまに背中を押したり、お節介を焼くだけ」
「そうそう、神だの高次元存在だの言われているけど、私らは所詮「過去を生きた者の残留思念」または「強き想いや願いの集合体」にすぎない、それが世界の均衡を保つシステムに雇われて機能しているだけ」
「シロちゃん・・・私、頭パーンってなりそう」
「頭脳労働は私がやるから無理すんな。女神様方!大変興味深いお話ですがその辺でご勘弁を」
「ごめんごめん、脱線したね」
クロちゃん、頭いい癖にめんどうになって思考放棄しましたね。
判明したこと。
ルクスを倒すのは私たちの仕事。手伝ってはくれるが、直接ボコってはくれない。
結論「神様も大変なんやで」
「よし、本題に入るよ。このままじゃ二人ともバットエンド一直線」
「違うわ、デッドエンドよ」
「「どっちも嫌っス」」
「デッドエンドを回避するにはどうすればいいかな?」
「真名ですね」
わかってる。
女神の真名を呼び、力の継承を完了する。
緑の結晶、オルゴナイトを使えるようにならないといけない。
「では、さっそくいってみよう!カティアの真名は何でしょうか?」
「え、私からなの。いいわ、ブラック答えてちょうだい」
クロちゃん頑張って!ロボっぽい名前だぞ、見事に当ててやれ。
「ジアース」
「ちょwバカww」
「ブッブーはずれー」
「あなたね・・・よりにもよって」
「え、メッチャ強いよ。ぼくらのは鬱になるけど名作だよ」
何故乗りたくないロボットランキング、トップ3入賞確定の機体を選んだのだろう。
一戦ごとにメインパイロットの命を消費する設定はエグいですよ。
私だったら、ファフナーとかは勘弁してほしいですね。
テニアさんが私を見つめてくる。「お前はわかってるよな」と目で訴えて来てます。
「次!ダイヤなら私の真名わかるよね?」
「ダイミダラー」
「なんで健全ロボなんだよ!?指ビームでぶっ飛ばすぞ!」
「あのOP勢いあって好きだよ」
「落ち着きなさいテニア、ハイエロ粒子が出てるわ」
「そんなもん出るか!」
「マサキさんなら、例えペンギンコマンドになっても愛する自信があります!」
「そ、そんなことになったら。マサキさんの前尻尾ガン見不可避!」
「メルアも言っていたけど、この子たち真性のアホだね」
「知らなかったの?私は最初から気づいていたわ」
これぐらいで呆れないでください。神様ならもっと寛容になった方がいいですよ。
こちとらマサキさんに関しては大真面目なんですから。
「おかしいな、継承者としての資質は十分だからとっくの昔に真名が脳裏に浮かび上がっているはずなのに」
「深層心理で拒絶しているのよ。オルゴナイトを使うのがそんなに怖いのかしら」
「そうなのですかクロちゃん?」
「よくわかんない。真名を考えていると、なんだかネガティブな気持ちになると言うか」
「私もです。胸の奥でこう誰かが囁くような」
聞き覚えのある誰かの声が何度も囁くのだ。
その声は絶望と諦観に満ちた重く暗い声だ。
「やめたほうがいい」「また繰り返すのか?」「無理だよ」「あんなことをしでかした癖に」
女神様たちの真名、私たちはもう既に知っている。
それなのに、その名にだけモザイクがかかったかのよう。
呼びたくても呼ぶことができない。
女神の後継になることは、結晶体・オルゴナイトの力を使う者になるということ。
知らない誰かの記憶が咎める。
再びあのような化物になるつもりか、冗談じゃない。
そうまでして力を望むのか?あんなことをしでかした私たちにその資格があるというのか?
嫌だ怖いよ。取り返しのつかない間違いを犯してしまうことが、化物になるのが怖い。
何のことだ。知らない、そんなの知らないはずなのに。
オルゴナイトを継承することで恐ろしいことが起きるという不安が拭えない。
そう例えば・・・全てを壊し、全てを殺す、化物になってしまうとか。
自惚れでなければ、きっとマサキさんは化物になった私たちですら許容してしまう。
その結果、化物の犯した罪を糾弾され非難を浴びる責め苦は操者にも向かうはず。
ダメだ、ダメだ、ダメだ!それだけは絶対にダメだ。
マサキさんを、あの優しい人をそんな目に合すことは許されない。
「思ったより重症だね。ベーオウルフたちの想念に影響されて踏ん切りがつかないみたいだ」
「いつまでもこうしていられないわ。ラースエイレムの展開時間も無限ではないし」
タイムリミットがあるんですね。
時間操作が終了すればアルトとヴァイスの手で再びフルボッコにされてしまう。
くっ、これも私たちの弱さが招いた結果か。
どうする、何か無いのか、リスクを恐れて立ち止まる弱い心に勇気を与えてくれる何かがあれば。
「会いたいよ。マサキさんがいてくれたら、絶対やる気が出るのに」
「ホントそれな。少しだけでいい、せめて声だけでも・・・アッーーーー!!」
「ハッテン場から響く嬌声かな?」
「やめなさい!何を言い出してるの、神の癖に腐ってるの?」
「この女神様たちもどうかしてるな」
そうだ声!ここへ来る前にミオさんから貰ったボイスデータがあるじゃありませんか。
スマホスマホ・・あった、大丈夫壊れてない。えーとこのアプリで再生出来そうだな。
「残念だけど、ここで悲しいお知らせ。ラースエイレム終了まであと少し」
「申し訳ないですが、後数分はもたせてください」
「いいわ、やってみましょう。何かやるつもりなら急いで」
「シロちゃん?こんな時にまでソシャゲはやめて」
「違う!今から最高にイカしたASMRを聞かせてやるからお静かに!」
「ほう、期待していいんだね。いいよ、私の聴覚を喜ばせて」
いざ再生じゃい!
ドキドキそしてワクワクする。数秒後、思いのほかクリアな音声が聞こえてくる。
『設定はこれでよしっと。はい、思いの丈をどうぞぶちまけちゃって』
『あ、もう録音してんのか。ちょっと待てよ、あーあーうん、ヴンンッゲフンゲフン!オヴェェ』
『むせすぎ!喉の奥から何をひり出そうとしてるんだよ』
『わりぃ、もう大丈夫だ。えー今日は○月〇日、ミオの思い付きで音声データを記録してみることにした』
『午後からはファイン家と合同でヴォルクルス教団を襲撃する予定なんだ。それまでの空き時間で最後のメッセージを残しておくのもいいかと思ってね』
『最後とか、縁起悪いこと言うなよ。これを遺言にするつもりはサラサラないぞ』
『まあまあ、これも何かの役に立つかもよ。マサキの声を聞いたら愛バたちもハッピーさ』
『そうかな、そうだといいな』
ああ・・・この声は、ずっと聞きたかったあの人の声だ。
『ええと、愛バに向けてのメッセージなんで、心当たりの無い方は再生を停止してくれると助かる』
『これまで散々恥を晒しておいて、今更恥ずかしがるんだ』
『ミオさん。人聞きの悪いことは言っちゃダメ』
少し赤くなって照れた表情が容易に想像できる。
私とクロちゃんの耳はもうこの音声に釘付けだ。
『一応自己紹介しておくぜ、俺の名はアンドウマサキ。昏睡状態から結晶体に変化した愛バを目覚めさせるために旅をしてここまで来た男だ』
『アシスタントのミオ・サスガだよ。この音声の記録と補完を担当するね』
『いろいろあったが今の所は元気だ。なあ、聞こえているか?そこにいるのか?』
聞こえています!ここにいます!全てあなたのおかげです。
『これを聞いているお前たちは、もう起きてくれているか?元気になってくれたか?』
『姿が見たい、声が聞きたい、また抱っこさせてほしい、一緒にいたい』
『泣くの早すぎ!頑張れ頑張れ~』
『うるせぇ。ああクソッ、会いたい』
『お前たちに会いてぇよ・・・クロ、シロ』
「「私も!!」」
私たちの叫びが重なる。この気持ちを今すぐに伝えたい!
震えるように絞り出した操者の悲痛なる願い、その思いに応えられないこの身のなんともどかしいことか。
「しっかり伝わってるよ。ずっと同じ気持ちだよ」
「絶対に生きて再会するんです。ええ、何が何でも絶対の絶対に!」
私たちチョロすぎ!いや、マサキさんに対してはチョロ娘でいいのです。
沈んでいた心に新たな火が灯る。
マサキさんの思いが私たちの心に火を灯してくれる。
誰にも消せない、何度でも燃え上がる。
『いろんな奴に会った、いろんなことを知った。それでも、お前たちへの想いは変わらない』
『約束する。この先何があろうとも必ずお前たちの下へ帰る。だから・・・』
『お願いだ・・また、元気な姿を見せてくれ。頼むよ』
「元気です!もうバカみたいに元気ですから」
「お陰様で、あれもこれも大きくなったよ。しっかり見て触って確かめてほしいな」
そうだ、操者との大切な約束は何があっても守る。守ってみせる。
『マサキ、大事なことを言わないと』
『ああ、実は女神様に会って力を貰ったんだ。嘘じゃないぞ』
三女神の一柱に会い、オルゴナイトを操るに至った経緯を話すマサキさん。
いずれ私たちの前にも女神が訪れ、継承者になるであろうことを説明してくれた。
『詳しいことは女神様に聞いてくれ。それで、結晶体・オルゴナイトのことだが』
『その、とある二人組がな・・力を暴走させて酷い結果になった事件があったんだ』
『その二人がお前たちに似ていて、心配なんだ』
マサキさんは優しいね、その二人は似ているんじゃない・・その二人こそ私たち。
『違う』
否定する声に驚く、聞いているこちらの心情を図ったかのようなタイミングだ。
『あいつらとお前たちは違う』
『バカか俺は、心配だなんて言うなよ。二人を信じるって決めたんだ。悪かったな二人とも』
『残念だが、あいつらにはいなかったからな。この世界では、今度こそは大丈夫だ、だって』
『お前たちには操者が、この俺がいる!』
操者の言葉に心が震える。
『何度でも言う。キタサンブラック、サトノダイヤモンド、お前たちには俺がいるぞ』
『どんなに離れていても、お前たちの傍には俺がいる』
『お前を信じろ!俺が信じるお前たちを信じろ!!』
マサキさん、カミナの兄貴みたいで素敵。
グレンラガン、見ていない人は人生損していると思うの。
『いいか忘れんな!信じろ!絶対に大丈夫だからな、きっと何とかなる。よっし、以上だ』
『そんなのでいいの?詳細を説明しないから何が何やら』
『いいんだよ。その時が来れば自ずとわかるはずさ、継承前に女神様が補足してくれんだろう』
『では本題をどうぞ』
『え、今ので言いたいことは言ったはず』
『増えたよね。増えていたよね。これから増えそうだよね。その事について弁明はないの?』
『・・・・』
『何か言え、この浮気者がぁぁぁ!』
『う、浮気じゃないのよ。ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃぃぃ』
『私に謝ってどうするの!クロシロちゃんに謝って!いつもみたいに土下座しなよ』
『ひぃ!か、堪忍しておくれ~。アルダンの件は知らなかったんです!ココはえっと、そのね・・』
『言い訳見苦しいわ、種馬がぁ!』
『すみませんでしたぁ!全部この俺がアンドウマサキが悪いです!だから種馬の称号はヤメテ』
『あれ?マサキたち何してるの』
『ココ!ミオさん、録音中止よ。はい、撤収!終わり終わり』
『はいはーい。後で編集しておくね・・・』
再生終了。
凄くいいセリフの後に謝罪するマサキさん、その情景が細部まで想像できる。
ほう、アルダンにココですか。それが増員の名前ですか、そうですか、へぇー。
お会いするのが楽しみですよ、ええ本当にね。(#^ω^)ピキピキ
「終わりです」
「そっか、マサキさん元気そうだったね」
「はい、私たちをずっと想ってくれています」
「信じろだって。うん、信じよう。信じてやってみせよう」
「ええ、操者の期待に応えてみせましょう」
心に灯る火が暖かい、全身に力が漲る。
アルトとヴァイスに苦戦していたさっきまでの自分とは、もうおさらばだ。
「お、覚悟完了したみたいだね」
「よかったわ。こっちもそろそろ限界だもの」
時間停止終了までもうすぐ、力を手にするのは今この瞬間しかない。
頷き合った私たちは女神様に向き直る。
「カティアさん。私もう大丈夫、いけるよ」
「そのようね」
「テニアさん。その力、ガッツリバッチリ頂きましょうか」
「うん。二人ともいい顔になったね」
女神様たちから光が溢れる。覇気を超える神気の輝きが辺りを満たす。
「「新たなる継承者たちよ。我らが真名を呼び、力を手にしてみせるがいい」」
うわ、偉そうな言い回し。神っぽい実に神っぽいです。
続いて、頭の中に例の声が響く、目の前のいるんだから直接口頭で言えばいいのに。
【力が欲しいか】
(うん)
(ええ、とっても)
【力が欲しいか】
(欲しいって言ってるじゃん)
(しつこいですよ)
【力が欲しいなら】
((欲しい))
((あの人と一緒にこの先も歩む力が欲しい!!))
【与えましょう】
【あげちゃうよ】
その瞬間、私たちの脳裏に女神の真名が浮かび上がる。
クロちゃんはカティアさんの、私にはテニアさんの真名がハッキリわかる。
今こそ告げる。
女神と呼ばれし古のウマ娘、原初の操者と共にあった超越者、騎神たちの祖。
その名は・・・
「力をちょうだい!クストウェル!!」
「その力貰います!べルゼルート!!」
ニッコリ微笑んだ女神様たちの姿が消えていく「正解」と呟きこちらを褒めてくれている。
もう行ってしまうのですね。ありがとうございます。どうか、これからも見守ってください。
私たちの体に変化が起こる。
覇気の粒子が止まらない、止めどなく溢れる光はやがて緑の結晶となり全身を覆い尽くす。
ああ、そうか・・・やっと真の意味で理解した。
この姿になったことでようやくわかったよ。自分たちの正体が何なのか。
ラースエイレムの効果が切れ、時間が正常に流れ出す。
追い詰めたはずのウマ娘たちがいた場所から、凄まじい衝撃と膨大な覇気が拡散される。
二体のPTとアンドロイドは堪らず距離をとる。
突然の異常事態に目を白黒させながらアーチボルトは叫ぶ。
「一体何が・・・あ、あれは・・何だ?」
その場所には、先程まで狩りの得物にすぎないウマ娘が二人いたはずだった。
「何なんだぁぁぁぁあの化物はぁぁぁぁぁっ!!」
今そこにいるのは、全身を緑の結晶体に覆われた二体の異形だった。
「「アアァァ・・・ウオォォォォォォォォォッッ!!!!」」
別の世界、もう一人の自分、世界を滅ぼした破壊獣、これが私たちの本性。
新たなベーオウルフとルシファーが誕生した瞬間だった。