愛バ会議からしばらく経過したある日。
シュッ、シュッ、シュッ・・・・
目的地へと順調に航行中の機内に木材を削る音が響く。
その音は熟練の職人を感じさせる規則的なリズムと哀愁に満ちていた。
音の出所では、彫刻刀を手にしたウマ娘が一心不乱に仏像を彫っている。
既に出来上がった物が山積みになっているが手を止める素振りはない。
木彫りの仏像は穏やかなアルカイックスマイルを浮かべているが、製作者の目は死んでいた。
虚ろな目をしたまま作業を繰り返す彼女に対して、周りの従者たちは声をかけることができない。
とりあえず、刺激しないよう遠巻きにしながらヒソヒソ話を行う従者たち。
(う、また仏像の数が増えてる)
(だんだんクオリティが上がってきてますな)
(やっとご帰還なされたと思ったらあの調子だ。一体何があった)
(情報によるとファイン家頭首になにかされたようだ)
(おいたわしや、やはり操者様の不在がこたえているのでしょうか)
(あんなお姿見ていられません!マサキ様には一刻も早く戻ってもらわねば)
「あらら、まだあの状態だったか」
「「「「ブラック様!」」」」
「様はやめてね」
「お許しが出たぞ皆の者!楽にいこうぜ」
「キタちゃーん、アレなんとかしてよ~。仏像の顔が妙にリアルで怖いよ~」
「お嬢を何とかできるのは同じお嬢のお前だけだ。行ってこい13番!先輩命令だ」
「しっかし、アレコレでかくなったもんだ。何度見てもエロ・・ゲッフン!あーあー、素敵やん」
「成長した記念の写真集はいつ発売ですか?え、発売予定は無いですと!そんなバカな!」
「ちょっと思いっきりビンタしてくれませんか?「このブタ!」ていいながら蔑んだ目で!」
「親しき中にも礼儀ありって言葉知ってる?」
「「「「今更ですな!」」」」
「あーこのノリはサトノ家だなぁ。帰って来たって感じするよ」
従者部隊の皆は入隊当初から私を可愛がってくれた人たちばかりだ。
だから必要以上に畏まられると困る。フランク過ぎても困るけど。
サボっていた皆を追い払って相棒の下へ向かう。
積み上げられた木彫りの仏像と木屑の山に埋もれつつある彼女に踏み込めるのは私だけだ。
「シロ、いつまでそうしてるつもり?」
「・・・・」
「シロってば!」
「シロ・・・遥か昔、そんなウマ娘がいたような気がします。最高に強くて可愛い無敵の・・・そうダイヤモンドのように輝いたウマ娘が」
「自画自賛!シロはあなたのことでしょうが、いい加減この仏像片付けてよ。邪魔だから」
「人違いですよ。私はどこにでもいる、セカンドはおろかサードキッスまでインモーに奪われた哀れな負けウマです」
「そんな奴どこにでもおらんぞww」
愛バ会議の後、時折こうして仏像を量産するという奇行に走るシロであった。
仏様のご尊顔がどことなくマサキさんに似ているのは気のせいじゃないのだろう。
「ブラックお嬢、ファイン様より通信が入っています」
「了解、モニターに映してくれる」
備え付けのモニターにココの姿が映る。
今日もラーメン食ったなコイツ。鳴門がデコにくっついてるんだけど、どうしてそうなった?
ギャグなの?天然なの?
「サトノ家の皆様ごきげんよう。いかがお過ごしかな?」
「今日も今日とてお掃除に邁進しているよ。そっちはどう?」
「準備は佳境に入った感じかな。必ず成功させてみせるよ。ん?シロちゃんはいないの」
「ああシロは・・・」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!!」
「「何事!?」」
モニターを見てココの姿を確認したシロが発狂していた。
後退りしながら彫刻刀を振り回している。
「マズいぞ。ダイヤ様が発作を起こした」
「寄るな来るな!チュー魔人!来たら刺すぞ!ほ、本気だぞぉぉぉ!!」
「うわぁwすっごい反応www」
「笑い事じゃないよ。ココがやりすぎたのが悪いんだからね」
「クロちゃんだって「やれ!」て言った癖に」
「言ったけど、隠居した彫刻家に成り下がるとは想定外だよ」
「や、やめチューはもう嫌!いやなの!いや、いやだって言ってんだろうがぁ!ブッ〇すぞーーー!」
「大変!無差別攻撃モードに入った。お気を確かに!」
「暴れないでください!おい、そっちを押さえろ」
「落ち着いてダイヤ様!落ちつ・・痛っ!下剋上したろうかこのサトイモ!!」
背後で部下に取り押さえられたシロは鎮静剤代わりのお菓子を与えられている。
カントリーマアム(チョコまみれ)を口にねじ込まれた所でやっと大人しくなったようだ。
美味しいよねアレ。
「お勉強は進んでる?トレセンの編入試験もうすぐでしょ」
「問題ないよ。合格したらすぐ連絡するからね。アル姉は?」
「今日はラ・ギアスで修練中。この間、サイさんたち天級にご挨拶に行ったよ。もう大歓迎されてね」
「サイママたち超いい人だったでしょう。「娘ができて嬉しいわ」て可愛がってくれるし大好き」
「そうそう。私もすっかり甘えちゃってさ、天級騎神は戦闘力も包容力も抜群だったよ。流石マサキの保護者」
近況報告を兼ねて会話が弾む。
愛バ会議を通して私たちの絆は確かに深まっていた。
恋敵ではあるが、プライベートでも頻繁に連絡するぐらいには仲良しだ。
ココはマサキさんサルベージ計画の最終調整で忙しく、アル姉も義実家で牙を研いでいる。
負けたくない、カッコ悪い姿を見せられない友と書いてライバルたちがいる。
私は恵まれていると心底思う。
(本気で遊べる友達増えちゃった。これもマサキさんのお陰だね)
最後に「お互い頑張ろう」と言って通信を終了する。
「お嬢、もうすぐ到着しますぜ。準備をしてくださいよ」
「はいはーい。思ったより早かったね。大丈夫シロ、もう行ける?」
「モッキュモッキュ」咀嚼音
「あーあ、一袋全部食べちゃった。太るぞ~」
「これからカロリーを消費する予定なのでいいんです!」
「仏像どうする?」
「従者部隊の皆に配ってください。もう父様の部屋には入らないので」
「ジージにあげたらメッチャ喜んでいたよ「こいつを彫った奴はただもんじゃねぇ!」だって」
「ほう、見る目のあるお爺様ですね」
ご心配おかけしました。何とか正気に戻ったダイヤことシロです。
チュー魔人の毒牙にかかった私はPTSDを発症してしまいました。
精神を安定させるために仏像を彫り続けること幾星霜。妙な悟りを開く一歩手前まで来てましたが、こうして現世に帰ってきました。
この病を治すにはマサキさんにアレやらコレやらズキューンバキューンしてもらうしかないですね。
「はぁ~体が疼いてしょうがないです。早いとこマサキさんに抱いてほしい。もちろん"うまぴょい"的な意味でね!」
「処女がww何かww言ってるwww」
「お前もだろうが!!」
「体が疼くってのは、わからないでもないかな。私たち欲求不満なんだよね~」
そうそう欲求不満なんですよ。
成長した体に手に入れた力の両方を持て余している。
マサキさんが不在の今、解消する方法はただ一つ。お仕事に勤しむことです。
「ムラムラとモヤモヤをぶつける相手はいっぱいいるよ。今日も頑張ろうー」
「はーいはいはい。で、今日のお掃除対象は?」
「デモンとDC崩れのチンピラだよ」
ほーん、このセット最近多いですね。
なぜだかデモンとDCが共同戦線を張ったような動きをするパターンが増えている。
まるでデモンの司令塔がDCを攻撃対象から外しているような、考えすぎか。
ルクスの件もあるし油断は禁物。あらゆる事態を想定して動かねば。
「お嬢、先行部隊からの報告です。DCの奴らアレを使ったようで、無人機どもが暴走中です」
「あー、またですか。一般ピープルの避難を急いでください、先行部隊は無理せず私たちの到着を待つように」
「ゴミは一か所にまとめてくれると尚よしだよ。さあ現場に急げ~」
「了解!全速全身だ!」
♦
「これで~100ッ匹目!」
「キシャァァァァ!」
「うげ、なんか飛び散った。フラッシュ~こっち終わったよ」
「ご苦労様、この辺りはもういいでしょう。他のメンバーが戻り次第、移動しますよ」
人面植物のような妖機人(キモイ)の頭部を潰したスマートファルコン。
断末魔と共に飛散した体液っぽい何かを躱しつつ殲滅完了を告げる。
傍に控えて戦況を分析していたエイシンフラッシュは相棒を労いつつ、次の行動に考えを巡らせる。
サトノ家従者部隊はとある市街地でDCのテロ活動が行われるとの情報を得た後、即座に行動を開始した。
DCはデモンの群れを誘導し市街地に解き放つことを画策していたが、先行した部隊によって全て処理され事なきを得ていた。
「テロにデモンも使うなんて面倒くさいなぁ」
「数頼みのデモンならまだマシですよ。DC兵の中には手強い奴らもいますから」
「デバイス持ってる連中でしょ「踏み込みが足りん!」とか言ってくる偉そうなの」
「私のチャクラムシューターを"切り払い"した手練れもいましたよ」
あれがエリート兵という奴らなのだろう。
同僚たちからも「誘導兵器を切り払われたムカつく!」といった報告が上がっている。
とある電波ジャック事件以降、デバイスはあっという間に戦場の要となった。
従来のPTやAMと違い、輸送や装着の手間が無く整備性と生産性にも優れている。
騎神は元より、グレードを落とせば低級の覇気しか持たない人間でも使える。
そんな手のひらサイズの便利兵装に人気が出ない訳がなかった。
「強力なデバイスは使い手を選ぶってのが唯一の救いかな」
「それでも、低級デバイスの使用者が烈級騎神並みの力を発揮する。由々しき事態です」
「本当だよね、真面目に修練して強くなれよって感じ」
DCの一般兵(弱気)量産型の簡易低級デバイス使いが烈級騎神並み。
エリート兵(強気)中級~上級デバイス使いが轟級騎神並み。
人間はデバイスという装置を使うことで、種族と練度の差を埋めてしまう。
ウマ娘にコンプレックスを抱くDCのような連中には天の恵みだ。
それと同時期にウマ娘間のみでの契約方法が確立され、それ専用のデバイスも造られた。
これにはUC的思想を持つ連中が飛びつき、瞬く間に普及した。
『これでもう、ウマ娘どもにでかい顔されなくて済む。ざまあみろ!』
『元より人間、操者など不要!我々は下等種族に縛られる弱者ではない、強者だ!』
そんな声が上げる奴らが増えてきている。
「まあまあ、仲良くやろうよ」と思ってる人たちからすればどっちもどっちだ。
元々燻っていた火種に油を注いだような結果になったデバイス、その誕生から普及までのスピードが早すぎる。
当然の進歩で単なる技術革新と言えばそうなのだが、この一連の流れにキナ臭いものを感じている者は多いだろう。
それを仕組んだ奴に心当たりがあり過ぎるのも嫌な感じだ。
「デモンはともかく、DCはルクスと通じているよね」
「確証はないですが、十中八九間違いないでしょう。我々とメジロ家で散々追い込み瓦解寸前だった組織が盛り返した原因は、ルクスが手を回したとしか考えられません」
捉えたDC兵の持つデバイスには粗悪品や最低限の安全基準に満たない物もあった。
資金や物資を融通する見返りに、新兵器の試験運用をしていると思えば辻褄は合う。
「あーあー、こちらユニコーン1、バンシィ6番応答せよ」
「はい、こちらバンシィ6。状況報告をお願いします」
フラッシュの装着しているインカムに通信が入る。自分のチームとは反対の方向へ展開した別動隊からだ。
因みにユニコーンやバンシィというのは作戦行動中のコードネーム(頭首の思いつき)
数字はそのまま従者部隊のナンバーがあてられている。
「デモンの掃討は終わったぜ。これから逃げた連中を追撃する」
「了解しました。こちらも今終わった所です。現在位置からだと7分18秒後に合流可能です」
「了解だ。このまま行けば楽・・・ちっ、あいつらぁ!すまん、問題発生だ」
「はい、そんな気がしていました」
「デモンは囮だ、DCの奴ら"Lウィルス"を使いやがった」
「面倒なことを」
ジェスチャーで皆を集めろとファルコンに指示しながら、DCの愚かさに頭を抱える。
ルクスがバラまいた技術の中にはコンピューターウイルスに該当するものがあった。
そのウイルスは強固な防壁を潜り抜けAIに誤作動と暴走を引き起こす。
感染する対象は戦闘用AI限定という代物で、無人機のAMやPTを無差別テロの実行犯に仕立て上げる。
従者部隊の仕事にトラブルは付き物だが、こういう嫌な展開には慣れたりしない。
焦るな、落ち着いていつものようにすればいい。
罪のない誰かが傷つく、そんな暴挙を許せるものか。
「部隊を分けていたのは俺たちだけじゃなかったか。仕方ない、追撃は諦める。人命救助が最優先だ」
「はい、こちらも避難誘導と感染体の排除を」
「その必要はありません」
突如、凛とした声が通信に割り込んで来た。
展開中の部隊員全員に届くようにオープンチャンネルだ。
声の主は緊急事態に慌てた様子もなく、さも当然のように指示を出す。
「ユニコーン1のチームはそのまま、逃走した連中を追撃してください」
「コードネーム?カッコイイね」
「バンシィ6及び7とその他は市民の救援活動に専念」
「えーと、こちらフェネクス13なんちゃって」
「邪魔すんな!・・感染体とウイルスを使った下郎は私が直々に始末します」
「私もいるよ~」
「そういうわけで、後ちょっと頑張りましょう。やるぞ、おー!」
「おー!」
「返事はどうした?」
「「「「「イエス、ユア・ハイネス!!」」」」」
「よろしい」
与えられた指示に従い行動を開始する部隊員たちは、ふと上空を見上げた
姿は見えないがそこにサトノ家が誇るステルス輸送機が来ている。
我らのプリンセスが到着したのだ。
「聞きましたね。急ぎますよみんな!」
「「「はい!」」」
「あの、ファルコンさん」
「んー何かな。新入りちゃん」
「本当に行かなくていいのでしょうか?感染体たちにエリート兵は流石に」
「う~んこの初々しい感じ、まさに新入りだね~」
「心配無用ですよ。自分の任務に集中しなさい」
「フラッシュさん、納得できません。あの方々はまだ子供なんですよ!」
「子供は時に大人より残酷ですよ。勘違いしないでください、あなたのために行くなと言っているのです」
「それはどういう?」
「アレ見ちゃうとさ、ショック受けちゃう子もいてね。自信喪失からの退職届コンボはもう勘弁してほしい」
「映像記録なら基地のアーカイブにありますから自己責任で閲覧してください」
「トイレ行ってからにした方がいいよ。ショック耐性が無いとゲロするか漏らすかだから」
「余計な事をいわない。時間が惜しい、さあ、行きますよ」
「・・・・はい」
心優しく真面目で忠誠心もある新人だ。将来有望だがサトノ家ではそれだけじゃ生き残れない。
アレを見て「無理ついていけません」というのが普通の反応。
「超かっけー!一生ついていきます!」というのがサトノらしい反応だ。
「因みに私はゲロ吐いちゃった。フラッシュは?」
「はっ!情けないですね。私は少し意識が飛んだだけです」
「ダッサッw気絶してんじゃねーか」
「スマートじゃない、ゲロファルコンよりマシです」
「「「「ゲロファルコンwww」」」」
「コラ!みんな笑っちゃダメーーー!」ヽ(`Д´)ノプンプン
♦
「よーし全員止まれ!ここまで来ればもう大丈夫だろう。ここで作戦の成功を見届けるぞ」
「へへ、やってやったぞ。あの世で反省するんだな!ウマ娘などに媚びへつらう愚民どもが」
「デモンを利用するなんて正気を疑ったが、蓋を開けて見ればどうということもない」
「デバイスの調子もいい。あの鉄仮面と手を結んでよかったな」
「極めつけは例のウイルスだ。街中の無人機が狂っていく様子は愉快だったぜ」
ユニコーン1に追われている部隊とは別、今回のテロを画策し本命のウイルスを使った主犯たち。
一仕事を終えたとばかりに気を緩め、自分たちの成果を見物する態勢に入った。
街のいたるところから火の手と煙が上がり、悲鳴や怒号が響き渡る。
一つの街がなすすべもなく壊れて行く様、それをやり遂げたことに罪悪感は微塵もない。
この街の存在をDCは嫌悪していた。
住民のほとんどが人間とウマ娘の融和派で、かつてのアースクレイドルを思い起こさせる未来型モデルタウン。
人に似た化物とそれを愛する裏切り者どもの住む街、テロの標的となるのは随分前から決まっていた。
「他の奴らはどうなった?」
「無事に逃げているといいがな、まあ、どうでもいい。所詮あいつらは捨て駒だ」
「ひでぇwwでも仕方ないw」
「ふん。我らDCの志を理解せず、ただ暴れたいだけの半端者には丁度いい役目だ」
「そういえば、デモンの姿が見えないッスね。まさか全部やられちゃったんですかい?」
「バカを言うな。アレだけの大群がこの短時間でどうにかなるかよ、大方統制を失って方々に散ったんだろう」
「相手はやけに少なかったしな。メジロ家も質が落ちたもんだ」
嘲笑がこだまする。長い間辛酸を舐めさせられた相手に一矢報いたのは気分がいい。
「おい警戒を怠るな。まだ作戦は終わってないぞ」
「何ピリピリしてんだよ、もう終わったも同然だろう。今更何を警戒しろってんだよwwメジロ家もここまでは来ねぇよ」
「メジロではない、今回遭遇したのはサトノ家だ」
「サトノ?メジロじゃなくてサトノwwwあーあーそれでかぁ、どうりで弱っちいと思ったんだww」
「そういえば戦闘服の色が黒だったな。メジロの色違いで劣化版なんてわかんねぇよ」
「お前たち・・・サトノはヤバイって噂を知らないのか?」
「アレだろファイン家と手を組んだってヤツだろ、だからどうしたって話だ。ファイン家って何ww」
「後継者が順調に育っているメジロは怖いが、サトノとファインはなぁ」
DCのエリート部隊、血気盛んな若い連中はサトノ家とファイン家を完全に見下していた。
少数でデモンを殲滅した従者部隊がいたこと。人命を優先したため戦闘には消極的だったことには気づいていない。
しかし、部隊の大半を占める者は思想はどうあれ、そこそこの猛者で構成されている。
彼らは仇敵である御三家を相手に隙を見せてはいけないことを熟知していた。
「2年以上前のことだ、サトノが操者手に入れたという噂が立った。それからだ、あの家は前にもまして妙な動きをみせるようになった」
「急に活動規模を縮小したんだよな、なんでも次期頭首が病になったとかで」
「サトノだけじゃない、あの頃は御三家全体がおかしかった。まるで、そう、俺たちに構っている場合じゃないって感じだったな」
「同時期にあれ、何だったかな、都市伝説?が流行ったよな。修羅がどうとか」
「それ知ってるわ。人間にもウマ娘にも平等に襲い掛かるド変態が日本各地に出没したんだろ。俺の盟友たちがそいつにやられたらしい」
「ああ、DCとUC双方にケンカを売って悉くを壊滅、テスラ研とトレセン学園にも出たらしい。でだ、そのド変態の正体はサトノ家の操者だったんだとよ」
「バカらしい都市伝説だ。人間一人が起こした事件にしてはあまりに誇張し過ぎ、現実味ゼロだ」
「一応聞くが、そのハッタリやろうはどうなった?」
「ルクスが始末したらしい」
「かぁーつまんねぇオチだな。というよりその変態が実在していたことがビックリだ」
笑い声が大きくなる。若造たちは仲間が笑い話をしてくれたぐらいに考えていた。
話をした本人も本題前の軽いジョークのつもりだった。
その全てが誇張でもハッタリでもなく、ある男がやらかした真実だと知る者はここにいなかった。
「変態のことは忘れろ。落ち目だと思われたサトノが再び動き出した時、今度こそ奴らは化物を連れて来た」
「どうせまたハッタリだろ?」
「だったらどんなによかったか。友軍が全滅する前に送って来たライブ映像、半殺し状態で横たわる者たちに底冷えする目線を向けるウマ娘。それが、ゾッとするほど綺麗で恐ろしくて・・・俺は確かに見たんだ!あの女が雷を纏って動く度に仲間がダース単位で吹き飛ぶのを、アレはただのウマ娘じゃない」
「・・・"雷帝"だ」
「らいてい?」
「サトノ家の雷帝。単騎で潰した組織は片手じゃ足りない、雷の如きスピードとパワーで敵対する者を蹂躙する超級騎神」
「マジか、そんなヤバイのがいるのか」
「雷を出すってのも比喩じゃねぇ、雷帝の覇気は正真正銘の雷撃となって暴れ狂う」
「今回の奴に出会わなかったのは運がいい、接敵したら俺たちはここにはいない」
先程までとは打って変わって重苦しい空気が場を支配する。俺たちは運がよかっただけなのか?
「でもよ。その雷帝って奴にだけ気を付ければいいんじゃね」
「そうだ、デバイスと新兵器にルクスの力添えがありゃあ、超級騎神一人ぐら目じゃないぜ」
「最近、もっとヤバイのが増えたと言ったらどうする?」
「お、おい、やめろよ。なんだか寒気がして来た」
「姿を見てまともでいられた奴の方が稀だ。見つかった場合の対処法は「逃げるか」「諦めるか」だ」
「その、見たことがあるのか?」
「いや、だが特徴だけは何故か口コミで伝わっている。大抵の場合は二人組で、一人は黒髪に鮮血の様な紅い眼持を持つ戦闘狂。もう一人は、ひし形のメッシュが入った長髪で触手を出してくるらしい」
「二人?いや待て、触手ってなんだよ。ウマ娘の話だよな、バイオハザードのクリーチャーの話してないか?」
「怖すぎる、これからはそんな奴らを相手にしないといけないのか」
「狼狽えるな諸君!こんなこともあろうかと備えはバッチリだ」
リーダー格の男が指を鳴らすとその傍らに異形の存在が現れる。
顔が無く、魚に似た装飾が施された矛を持つ古代中国の武人。
それはかつて、超機人と邂逅した際にマサキが戦った妖機人の上位個体。
「なっ!人型のデモンだと」
「鋳人(いじん)というらしい、ルクスからのサービス品だとさ。ただのデモンではない、こちらの命令に忠実で戦闘力は折り紙付きだ」
「確かに、こいつの覇気なら超級にも対抗できそうだ」
切り札である鋳人を前に沸き立つDC兵たち。
大儀の下で作戦を遂行できたことを誇らしく思い、不安要素が完全に払拭された安堵からか、今度こそ全員の緊張は解れていった。
だが忘れてはいけない、最悪の出来事とは最悪のタイミングでやって来るのだ。
例えばそう、安心感で満たされホッと一息ついた時などに。
「あぁぁぁぁ着地点ズレたぁぁぁミスったぁぁぁ!マサキさぁぁぁぁん!あい・して・まーーーす!」
・・・気のせいだろう、気のせいのはずだ。
上空から落下する、ドップラー効果を含みながら大絶叫をあげる物体など知らない。
知りたくない!
ドォゴッッッ!と鈍い激突音が聞こえた気がした。
ここから数百メートル離れた林へ何かが突っ込んだ音だろう。
もしアレが生物だとしら生きてはいないはず。そのはずなんだ!
「おい」
「嫌っス」
「まだ何も言ってないだろ。いいからちょっと見て来い」
「放っておこうぜ。アレはたぶんフライングヒューマノイドって奴さ」
「飛んでなかったぞ、何か叫びながら自由落下していたぞ」
「くっ!と、とりあえずデバイスを起動して警戒態勢。なにこっちには鋳人がいるだ、どんな奴が相手だろうと負ける要素がない!」
その時だった。
「アァァァイ・キャァァァーーーン・フラァァァーーーーーイッッ!!」
また何か聞こえるぞ。
「またかよ!」
「はっ!そうか、上から来るぞ気を付けろっ!」
「まさか人間だと!?違う、アレはウマ娘。敵だ!騎神が振って来るぞーーー!」
「撃て!撃ちまくれ!空中で始末してやる」
実弾、ビーム、ミサイルの対空砲火が青空に向けて放たれる。
一直線に落下してくる何者かは抵抗することもなくその砲撃に身を晒す。
「しゃーっ!命中したぜ、呆気なかったな」
「何がしたかったんだ?」
「サトノ家のやることは本当にわからん」
上空咲いた爆炎の花からボロボロになった体が落ちて・・・は?
無傷だと!?それどころか加速して突っ込んで来ていないか?
テスラドライブを装備しているようには見えない。
だったらアレは何だ?手足にある緑の輝きから猛烈な勢いで覇気が噴出している!
ブースター代わりのつもりか!
そして足の輝きは強く大きくなっていく、緑の宝石?
片足をこちらに向けて更なる加速を仕掛ける騎神、マズイと思った時には遅すぎた。
「やばコレ止まりそうにない、ああもういっちゃえ!オ・ル・ゴ・ン・キィィィッッーーークッッッ!!」
「総員退避ぃぃぃーーー!!」
「「「「う、うわぁぁぁぁぁぁぁーーーー!!!」」」」
流星となった騎神の蹴りが着弾する。
大地を震わせ緑の結晶片と衝撃波を散らせながら超威力が炸裂した。
立ち昇った土煙が晴れた時、DC兵は見た。
たった今、自分たちを滅ぼしかけた存在が立っているのを。
「あ、あ、あし、し、痺れた、今のは効いたぁ~。でも、うん、着地成功!」
着地だと?思いっきりキックって言っていたじゃねーか。
あれほどの威力をぶつけて足がちょっと痺れたで済んでいるのもおかしい。
「い、生きているか」
「ああ何とか、それよりアレは」
「うお、こっちに気付いたぞ!」
赤い瞳がこちらを捉えた。それだけで動けない、蛇に睨まれた蛙とは今の状態か。
「ねぇ!あなたたちDC?」
「・・・・」
「聞こえないの?それとも喋れない?何とか言いなさい」
サトノ家制の黒い戦闘服を身に纏ったウマ娘。
近接戦闘を好む者に人気のノースリーブとハーフパンツスタイル。
黒髪に紅い瞳・・・奴だ。
「キ、キタサンブラック!?」
「おー私のこと知ってる人がいるんだね。そうだよ大正解」
「初めて見た、あれがサトノ家の――」
「「「黒い阿修羅!!」」」
「え!あしゅら。そんな風に呼ばれてるの?やだカッコイイからもっと言って!」
腹グロ、世紀王、ブラックサン、黒い太陽、狂戦士、とか言われた事はあるけど阿修羅ときたか。
いいじゃないの、気に入ったよ。考案者にはシロ手製の仏像を100体プレゼントしちゃう。
「に、に、逃げた方が」
「バカこっちには鋳人がいるんだ。何も問題ない」
「いじん?」
「お前を倒す秘密兵器だ。さあ、鋳人!その黒い絶望を葬り去れ!」
「絶望ってw」
「・・・あれ?どうした」
「どこに行ったんだ」
「おーい、まさかと思うけどさ。いじんってのコレのこと?」
「「「「・・・うそ・・だろ」」」」
着地の瞬間、何か踏んだと思ったんだよね。
自分の足元で消し炭状になっている何かを拾い上げようとして失敗。
あらら、どんどん風化していく。
近くに転がっていた槍っぽい得物もポッキリ折れて崩れ去っていった。
何だったの?
「我らの切り札が、何も出来ずに消えた・・だと」
「はは、お、俺は夢でも見てるのか?なあ、夢だと言ってよバーニィィィーーー!」
「バーニィさんなめんなよ!ミンチより酷いことになるぞ」
「もう駄目だぁ、お終いだぁ」
「え、戦わないの?つまんないなぁ」
膝をついて戦意喪失していくDC兵を一瞥してため息。
あーこんなんじゃストレス解消にならないよ。
「どうしたもんかねシロ・・・シロ?あれシロはどこ行ったの」
先に飛び降りたはずのシロがいない。
飛び出すタイミングが少々早かった気がしたのだが、まさか着地に失敗したのか!
もう!いちいち笑わせてくれるんだらww
「そうか、惜しいウマを亡くした。マサキさんとは私が責任もって添い遂げるから、安心して成仏してね」
「成仏なんかしませんよ!」
「あ、生きていた。もう、どこで遊んでいたの!?」
「ちょっと着地点をミスりましてね。地面に私型の穴が空いてしまいました」
「ギャグ漫画の奴か!超見てぇ!」
若干、土に汚れたシロだが何とか生還したようだ。
よく見ると木の枝や葉っぱがくっついてる・・雑木林に突っ込んだのかww。
「もう一人来たぞ」
「黒い阿修羅の相棒、そんなまさか・・・」
「詰んだコレマジで詰んだ」
「あ、あ、あわわわわわわっわ」
「黒い阿修羅ですと?」
「ふっふーん。いいでしょ私の二つ名だって」
「ほうほう、クロにあって私に無い訳ありませんよね。DCの皆さーん成敗される前に私の二つ名も教えてくれぃ!」
うーん、純真無垢な○○とか、才色兼備な○○、白い○○、でしょうか。マサキさんの妻でも可です!
さあ恥ずかしがらず、言ってごらんなさい。
「く、く、く、く」
「く?」
「「「「く、クレイジーダイヤモンドが出たぞぉぉぉーーーー!!!」」」」
「あはははははははははははwwwwあはははははははははwwwひゃははははははははwww」
「どうせそんな事だろうと思ったわ!お―おー笑え笑えぃ!この"狂った金剛石"を笑うがいいさ!」
地面をゴロゴロ転がりながら、クロが腹を抱えて笑う。
予想道理で面白くねーんだよクソがっ!
バラバラに分解した後、父様のグラサンと再構成してやろうか?
マダオのグラサンとして生きるがいい!ドラァ!ってな。
「終わった。短い夢だったな・・・俺、生きていたらDCやめて田舎に帰るよ」
「本当は二次元の彼女がいるんだ。死にたくない」
「悪いことって良くないよね。うん、生まれ変わったらウマ娘に転生しようそうしよう」
「い、嫌だぁ!生きたままピーーーー!されるぐらいなら死んだ方がマシだ」
「いや、お母さん」
「楽に死ねるといいな、もうどうでもいい、どうせみんないなくなる」
DC兵が勝手に絶望していく。
いい歳した大人がガタガタ震えちゃって情けない。
こんなに可愛いダイヤちゃんにその反応はなんですか!失礼極まりない。
「それにしても悪名高すぎません。私、何かやっちゃいました?」
「ココと一緒に始めた情報操作は大成功。後で成功報告しなきゃ」
「おいコラ、今なんて言った」
「シロが血も涙もない極悪非道の拷問マニアだって広めちゃった。皆が怖がってくれたら、お仕事も楽になるとおもって・・・思いのほか上手くいって大満足!」
「お前らは私をどれだけ貶めたら気が済むんだ」
「良かれと思って」テヘッ
「マサキさんに言いつけてやるんだからぁ!お尻ペンペンしてもらえ!」
「それ、ご褒美じゃね」
真の敵はやはりクロとココだった。うん、わかってましたよ。
アル姉さんは何とか味方につけたいです。三対一は流石に泣きますよ?