陸自はドールズフロントライン、海自は艦これとアズールレーン、空自はアッシュアームズ三つの世界でバラバラになりながらでも生き残る 作:ゴーストライターとかした、素人小説書き
この小説は、シリアスとギャグが少し入っています。
それが、いやな方は、上にある矢印ボタンでブラウザバックを推奨します。
この世界はアズールレーンと艦これが入っているため人物が分かりやすいようにアズールレーンはA 艦これはCと表記します。
それでも、大丈夫な方はご覧ください。
1-4 連合艦隊の危機
呉鎮守府南西沖。
水平線の上に、幾つもの艦影が並んでいた。
先頭を進むのは、長大な飛行甲板と二本の煙突を持つ航空母艦。
艦娘の赤城が、自らの艤装を実艦形態へ展開した姿だった。
その右舷後方には、赤と黒を基調とした飛行甲板を備える別の航空母艦が続く。
重桜のKAN-SEN、赤城。
同じ艦名を持ちながら、船体の構造も、艦載機の運用方式も異なる二隻が、連合艦隊の中核として航行していた。
その周囲には、艦娘とKAN-SENが展開した巡洋艦、駆逐艦が輪形陣を形成している。
さらに外周には、人間の乗員が運用する海防艦と哨戒艇が数隻。
通常艦艇の数は決して多くない。
速力でも火力でも、艦娘やKAN-SENが展開する艦艇には及ばない。
それでも通信中継、対潜警戒、漂流者の救助、物資輸送といった任務を担い、連合艦隊を支えていた。
艦隊は呉鎮守府へ向けて北東へ進んでいる。
先の防空戦で消耗した航空隊の補充と、損傷艦の本格的な修理を受けるためだった。
だが、その航海はすでに平穏なものではなくなっていた。
赤城の艦橋。
正面の窓から海面を見つめていた赤城が、右手で受話器を握る。
赤城(艦娘)「電探、まだ回復しませんか?」
「駄目です! 先ほどから同じです!」
電探員が表示器を確認しながら答える。
画面全体が白い雑音に覆われ、敵味方を示す反応はほとんど読み取れない。
無線機からも激しい雑音が流れている。
通信可能なのは、艦隊内の近距離回線だけだった。
「妨害電波、さらに強くなっています!」
「呉鎮守府との通信、応答ありません!」
赤城(艦娘)「短波、長波ともにですか?」
「どちらも通じません!」
赤城は受話器を置き、海図へ視線を落とした。
艦隊の現在位置。
呉までの距離。
最後に敵を確認した方角。
そのいずれも、赤い鉛筆で書き込まれている。
敵艦隊との接触は、二十分ほど前だった。
最初に発見されたのは、南西から接近する複数の航空機。
直掩隊が迎撃へ向かった直後、今度は艦隊の正面に深海棲艦の水上部隊が姿を現した。
さらに西側からは、セイレーンと思われる航空隊が接近している。
偶然、同じ海域へ現れたわけではない。
こちらの退路を塞ぎ、航空隊を分散させたうえで攻撃を仕掛けている。
明らかに、連携した動きだった。
艦橋の外で、対空砲が火を噴いた。
ドドドドドドッ――!
赤い曳光弾が空へ伸びる。
直後、船体の左舷近くで高い水柱が上がった。
ドォォォンッ!!
爆風が艦橋の窓を震わせる。
「敵艦爆、左舷上空!」
「二十五ミリ機銃、射撃継続!」
「直掩隊から入電! 敵高速機に阻まれ、爆撃機まで接近できないとのこと!」
赤城は艦橋の窓へ近づいた。
雲の切れ間から、黒い大型機が次々と降下してくる。
その上空では、銀灰色の高速機が艦戦隊を追い回していた。
呉を襲撃したものと同型。
プロペラを持たず、月光さえ容易に振り切ったセイレーンの高速機だった。
赤城(艦娘)「敵の数は?」
「大型爆撃機、確認できるだけで三十以上! 高速機は十二!」
赤城(艦娘)「水上部隊は?」
「正面に戦艦級一、空母級複数! 巡洋艦と駆逐艦級は識別できません!」
報告と同時に、艦隊右側から重い砲声が響いた。
ズドォォンッ!
海面の向こうで、深海棲艦の戦艦が主砲を発射した。
砲弾が大きな弧を描いて飛来する。
赤城(艦娘)「全艦、取舵! 針路を北へ!」
旗流信号が上がる。
艦隊を構成する艦艇が、次々と左へ舵を切った。
外周を進んでいた有人海防艦も、煙を吐きながら旋回を始める。
数秒後。
それまで艦隊がいた海面へ、大口径砲弾が落下した。
ドガァァァンッ!!
複数の水柱が立ち上がり、海防艦の小さな船体が激しく揺れる。
最後尾の一隻が回避に遅れた。
至近弾の爆圧を受け、上部構造物の一部が吹き飛ぶ。
「海防艦三号より入電! 舵機損傷、負傷者多数!」
赤城(艦娘)「救援へ向かえる艦は?」
「後衛は敵航空隊への対処で動けません!」
赤城が奥歯を噛み締める。
救援へ艦を回せば、輪形陣の一角が崩れる。
だが、損傷した有人艦艇を残せば、敵艦隊に追いつかれる。
その時、別の声が艦橋内の通信機から響いた。
赤城(KAN-SEN)『こちら重桜赤城。海防艦三号の救援へ駆逐艦二隻を回しますわ』
赤城(艦娘)「しかし、そちらも航空攻撃を受けているはずです」
赤城(KAN-SEN)『動ける艦を見捨てるつもりはありません。それに、私の子たちが敵機を引きつけている間なら、まだ動けます』
重桜の赤城が展開する航空母艦から、残存する艦載機が次々と発艦していく。
赤い飛行甲板を離れた機体が低空で加速し、海防艦へ接近する敵攻撃機へ向かう。
その間に、二隻の駆逐艦が艦隊後方へ離脱した。
赤城(艦娘)「……分かりました。救援をお願いします」
赤城(KAN-SEN)『承知しましたわ。ただし、このままでは長く持ちません』
赤城(艦娘)「分かっています」
こちらの艦載機は、呉防空戦で大きく消耗している。
補充用の機体も弾薬も、十分には積み込めていない。
対する敵は、こちらの帰投時刻と航路を把握したうえで、待ち伏せを仕掛けてきた。
敵航空隊の数。
正面に展開する水上部隊。
通信と電探を封じる妨害電波。
どれか一つだけなら、突破する方法はあった。
だが、すべてを同時に受け止められるほど、今の連合艦隊に余力は残されていない。
「旗艦、通信員より報告!」
艦橋後方から声が飛ぶ。
「非常用送信機を使えば、短い電文だけなら送信できる可能性があります!」
赤城(艦娘)「呉へ届きますか?」
「保証できません。敵の妨害が強すぎます」
赤城(艦娘)「それでも構いません。現在位置、敵戦力、損害状況を送ってください」
「了解!」
通信員が非常用送信機の周波数を調整する。
雑音の中へ、同じ電文を繰り返し送信する。
『呉鎮守府へ。こちら即応連合艦隊旗艦、赤城』
『南西海域にて、深海棲艦およびセイレーンの混成部隊と交戦中』
『敵の電波妨害により、通常通信不能』
『損傷艦多数。制空権、制海権ともに劣勢』
『至急、増援を要請する』
返答はない。
送信機から聞こえるのは、途切れることのない雑音だけだった。
通信員が出力を調整し、再び同じ電文を送る。
一度。
二度。
三度。
それでも、呉から応答は戻らなかった。
「……届いていません」
赤城(艦娘)「送信を続けてください」
「しかし、敵にこちらの位置を探知される可能性があります」
赤城(艦娘)「すでに敵は、私たちの位置を把握しています」
赤城は艦橋の正面へ向き直った。
赤城(艦娘)「今は、味方へ知らせることを優先します」
「了解……送信を継続します!」
非常用送信機が、再び救援要請を発した。
激しい妨害電波に呑み込まれた、微弱な信号。
呉鎮守府の通信設備では、雑音と区別することさえ難しい。
だが、その信号を捉えた存在がいた。
呉鎮守府、地下救護所。
寝台の上で眠っていた隼人の左耳へ、感情のない声が届いた。
アイ『渡邉隼人。起きてください』
隼人「……何だ」
アイ『南西方向より、反復送信されている救難信号を検出しました』
隼人の瞼が開く。
アイ『発信者は、即応連合艦隊旗艦――赤城と名乗っています』
隼人「信号の内容を再生しろ」
アイ『了解しました。雑音を除去し、復元可能な音声を抽出します』
左耳の端末から、激しい雑音が流れた。
その奥に、途切れた女性の声が混じっている。
赤城(艦娘)『……呉鎮守府へ……こちら、即応連合艦隊……旗艦、赤城……』
音声が雑音へ沈む。
数秒後、別の部分が再生された。
赤城(艦娘)『……深海棲艦、およびセイレーン……混成部隊と交戦中……』
赤城(艦娘)『……損傷艦多数……制空権、制海権ともに……劣勢……』
赤城(艦娘)『……至急、増援を……』
再生が終わる。
救難信号を送っている赤城は、先ほどまで呉の防空戦に参加していた艦娘の赤城だった。
敵爆撃機編隊を迎撃したあと、彼女たちは警戒艦隊へ戻っている。
航空隊の損耗も、艤装の損傷も回復していない。
その状態で、今度は水上部隊を伴う敵艦隊の待ち伏せを受けた。
隼人「受信時刻は?」
アイ『最初に信号を検出したのは、二分十七秒前です。現在も同一内容の送信が続いています』
隼人「発信方向は分かるか?」
アイ『《みらい》の方向探知装置から、呉鎮守府を基準として南西方向と推定。敵の電波妨害により、誤差が生じています』
隼人「距離は?」
アイ『単一地点で受信した信号強度のみでは、正確に算出できません』
アイは、分からないことを推測で補わなかった。
発信方向は分かる。
だが、艦隊がどの海域にいるのかは、最後に報告された位置と航路から割り出さなければならない。
隼人は毛布を退けた。
上半身を起こし、寝台から脚を下ろす。
左肩へ鈍い痛みが走った。
アイ『渡邉隼人。安静指示が継続しています』
隼人「救難信号を指揮所へ送れ」
アイ『《みらい》と通信端末の間では、音声情報のみを送受信できます。呉鎮守府の有線通信網へ直接接続することはできません』
隼人「なら、無線で防空指揮所を呼び出せ」
アイ『敵の電波妨害が継続しています。通信成立の保証はできません』
隼人「構わない。呼び続けろ」
アイ『了解』
隼人が立ち上がろうとした、その時。
軍医「何をしているのですか」
救護所の奥から、軍医が足早に近づいてきた。
防空戦が終わってから、まだ十分な時間は経っていない。
軍医の白衣には、負傷者の処置で付着した血と消毒液の染みが残っていた。
軍医「先ほど、装備を使ったばかりでしょう。今度こそ横になってください」
隼人「南西海域から救難信号が入った」
軍医「救難信号?」
隼人「即応連合艦隊が敵の混成部隊と交戦している。損傷艦多数。制空権と制海権の両方が劣勢だ」
軍医の表情が変わる。
だが、隼人の前から退こうとはしなかった。
軍医「それでも、あなたが救護所を出ていい理由にはなりません」
隼人「指揮所へ報告するだけだ」
軍医「報告なら、ここからできます」
軍医が壁際の電話機へ向かう。
受話器を上げ、交換手を呼び出した。
軍医「地下救護所です。至急、司令部へ接続してください」
隼人は寝台へ腰を下ろしたまま、左耳の端末へ意識を向ける。
雑音の中で、アイが防空指揮所の無線を呼び続けている。
アイ『こちら認識番号十五、《みらい》。呉防空指揮所、応答してください』
返答はない。
アイ『南西海域より救難信号を受信。即応連合艦隊が敵混成部隊と交戦中です』
再び同じ内容を送る。
数秒後。
雑音の中へ、微かな声が混じった。
大淀『……こちら……呉防空……繰り返して……』
隼人「アイ、送信出力を上げろ。音声通信のみ。周辺設備への干渉を監視しろ」
アイ『了解。通信出力を上昇します』
雑音が僅かに弱まる。
アイ『こちら認識番号十五、《みらい》。南西方向から反復送信されている救難信号を受信しました。発信者は、即応連合艦隊旗艦赤城と名乗っています』
大淀『……救難信号の内容を送ってください』
アイ『了解』
復元された赤城の声が、防空指揮所へ送られる。
途切れた音声。
損傷艦多数。
制空、制海ともに劣勢。
増援要請。
再生が終わると、無線の向こうで複数の声が飛び交った。
通信記録の確認。
艦隊の最終位置。
出撃可能な航空隊と艦艇の照会。
隼人は黙ってそのやり取りを聞いていた。
大淀『渡邉さん、聞こえていますか?』
隼人「聞こえている」
大淀『救難信号を受信できた理由は分かりますか?』
隼人「《みらい》は複数の周波数を同時に監視できる。そちらの受信機では妨害電波に埋もれていた信号を、アイが繰り返し送信される同一波形として識別した」
大淀『発信地点は特定できますか?』
隼人「方向だけだ。距離は分からない」
大淀『即応連合艦隊からの最後の定時報告は、四十分前です。その時点では、呉から南西へ約四十五キロの海域を北東へ航行していました』
隼人「速度と進路を維持していたなら、今はさらに近い」
大淀『ですが、敵と交戦している以上、同じ進路を保っているとは限りません』
隼人「そのとおりだ」
隼人は救護所の壁に掛けられた簡略海図へ目を向けた。
呉の南西。
幾つもの島と狭い水道。
沖へ出れば開けた海域になる。
敵が艦隊を待ち伏せしたのなら、退路と進路の双方を塞げる位置を選んでいる可能性が高い。
隼人「呉から航空偵察を出せるか?」
大淀『先ほどの防空戦で、稼働可能な偵察機も損傷しています。発進できる機体を確認していますが、すぐには出せません』
隼人「水上偵察機は?」
大淀『近距離哨戒へ出ている機体を呼び戻しています。しかし、敵高速機が残っているなら、交戦海域まで到達できる保証はありません』
航空戦力は消耗している。
水上部隊も、呉へ入港した損傷艦の救援と基地防空に割かれている。
増援を送りたくても、敵の正確な位置も規模も分からない。
見えない敵へ、残り少ない戦力を向かわせることはできなかった。
隼人は数秒だけ考えた。
隼人「《みらい》と一緒に回収された装備の中に、小型無人偵察機がある」
大淀『無人……偵察機?』
隼人「人間が乗らず、地上から操作する航空機だ。機体は小さいが、電動推進だから熱も音も少ない。敵艦隊の位置を確認するだけなら使える」
大淀『交戦海域まで届くのですか?』
隼人「艦隊の最終位置から大きく離れていなければ可能だ。ただし、帰還までの余裕は少ない」
アイ『補足します』
アイの声が通信へ割り込む。
アイ『保存されている小型無人偵察機の性能情報と、推定される気象条件を照合しました。即応連合艦隊の最終確認地点周辺まで到達可能です。ただし、敵の妨害電波によって遠隔操縦が不安定になる可能性があります』
大淀『妨害を受けた場合は?』
アイ『事前に設定された航路を自律飛行し、搭載された記録装置へ映像を保存します。通信が維持できる場合は、映像を《みらい》へ送信できます』
隼人「映像が届けば、味方と敵の位置を確認できる。通信が切れても、敵の妨害範囲を推定する材料にはなる」
無線の向こうで、大淀が誰かと相談している。
その間に、地下救護所の電話が司令部へつながった。
軍医が受話器を持ったまま、隼人へ視線を向ける。
軍医「大淀さんからです」
隼人「こちらの無線で話している」
軍医「なら、そのまま座っていてください」
隼人は立ち上がろうとしていた身体を戻した。
軍医は依然として、救護所から出すつもりがない。
大淀『渡邉さん』
隼人「聞いている」
大淀『小型無人偵察機の使用を許可します。ただし、目的は即応連合艦隊と敵部隊の位置確認に限定します』
隼人「了解した」
大淀『あなたは救護所に残ってください』
隼人「無人偵察機の組み立てと初期設定には、自分の確認が必要だ」
大淀『夕張さんと明石さんでは扱えませんか?』
隼人「機体を壊さず取り出すことはできる。だが、航路の設定と《みらい》との接続は、自分かアイが行う必要がある」
アイ『私は《みらい》に搭載されています。機体設定の一部は遠隔で実行できますが、飛行前の物理的な点検には人間の作業が必要です』
隼人「自分が装備を着る必要はない。技術班区画まで行き、設定が終われば座って操作する」
大淀はすぐには答えなかった。
代わりに、軍医が無線へ向かって声を上げた。
軍医「歩かせることには反対です! 渡邉さんは頭部を打撲し、左肩を縫合しています。先ほども二百五十キロ近い装備を動かしたばかりです!」
隼人「歩けないとは言われていない」
軍医「今から言います。歩かせません」
隼人「だが――」
軍医「車椅子なら許可します」
救護所が一瞬だけ静かになる。
隼人が軍医を見る。
軍医は真剣な表情を崩していなかった。
大淀『……渡邉さん』
隼人「何だ」
大淀『軍医の指示に従うことを条件に、技術班区画への移動を許可します』
隼人「分かった」
軍医「返事だけでは信用できません。装備の装着も禁止です」
隼人「偵察機を飛ばすだけだ」
軍医「兵器の使用が終わり次第、すぐに戻ってください」
隼人「ああ」
アイ『渡邉隼人が医療指示へ従うことを記録しました』
隼人「お前は記録しなくていい」
アイ『命令の意図を確認できません』
軍医が救護所の隅から車椅子を運んでくる。
隼人は不満そうに一度だけ息を吐いたが、拒まなかった。
自分で歩けることと、歩くべきかどうかは別の問題だ。
今必要なのは、意地を張ることではない。
敵と味方の位置を、一刻も早く確認することだった。
隼人が車椅子へ腰を下ろす。
衛生員が後ろへ回り、取っ手を握った。
隼人「技術班区画へ頼む」
「分かりました」
地下救護所の扉が開く。
隼人は左耳の端末へ指を添えた。
隼人「アイ。救難信号の監視を継続。発信方向に変化があれば、すぐ報告しろ」
アイ『了解しました』
隼人「それから、小型無人偵察機の自己診断を開始。電池残量、推進装置、通信装置、光学機器を確認しろ」
アイ『自己診断を開始します』
車椅子が、地上へ続く通路を進み始める。
救難信号は、まだ途切れていない。
しかし、赤城の声は先ほどよりも弱くなっていた。
通信状態が悪化しているのか。
送信設備が損傷し始めているのか。
あるいは、敵艦隊との距離がさらに縮まっているのか。
現時点では何も分からない。
だからこそ、確かめるための目が必要だった。
人間を乗せず。
敵へ攻撃もせず。
ただ戦場を見つけ、その情報を持ち帰る小さな航空機。
旧い時代の艦隊戦へ、二〇二一年の無人偵察機が投入されようとしていた。
技術班区画。
補強された作業台の上には、《みらい》とともに回収された装備が並べられていた。
変形した装甲部品。
弾薬箱。
小型通信機。
用途を確認できていない複数の器材。
その一角に、灰色の樹脂製ケースが置かれている。
夕張が左右の留め具を外した。
蓋を持ち上げる。
内部には、折り畳まれた主翼と細長い胴体、交換式の電池、操作端末が収められていた。
夕張(艦娘)「これが、小型無人偵察機……」
明石(KAN-SEN)「ずいぶん小さいにゃ。これで四十キロ以上も飛べるのかにゃ?」
車椅子に座る隼人が、ケースの中を確認する。
隼人「機体を軽くして、偵察に必要な機能だけを積んでいる。武器はない」
明石(KAN-SEN)「攻撃には使えないのかにゃ?」
隼人「使えない。搭載されているのは昼夜兼用の光学装置と通信中継器、それに位置と姿勢を測るための機器だけだ」
夕張が胴体を慎重に持ち上げた。
全長は人間の腕より少し長い程度。
機首下部には、小さな球形の光学装置が取り付けられている。
後部には電動式の推進装置。
翼端と機体表面には、目立つ国籍標識も灯火もなかった。
夕張(艦娘)「組み立て方を教えてください」
隼人「まず主翼を開いて、根元を胴体の固定部へ差し込む。無理に押すな。奥まで入れば固定具が自動で掛かる」
夕張が隼人の指示どおり、折り畳まれた主翼を広げる。
右側。
続いて左側。
根元を胴体へ差し込むと、小さな音を立てて固定された。
明石は尾翼と電池の状態を確認する。
明石(KAN-SEN)「外から見た限り、大きな損傷はないにゃ。墜落した時も、箱が衝撃を受け止めたみたいにゃ」
隼人「電池は?」
明石(KAN-SEN)「膨らみも液漏れもないにゃ」
隼人「接続する前に端子を見せてくれ」
明石が電池を持ち上げ、隼人の前へ向ける。
端子には汚れも腐食もない。
隼人が頷いた。
隼人「接続していい」
電池が機体下部へ差し込まれる。
夕張が固定具を閉じた。
機体表面に、小さな緑色の灯火が点いた。
アイ『小型無人偵察機との接続を確認しました』
作業台の隣に置かれている《みらい》から、アイの声が響く。
アイ『電源状態、正常。推進装置、正常。操舵機構、正常。光学装置、正常。通信装置、正常』
隼人「慣性航法装置は?」
アイ『自己診断上、異常ありません』
夕張(艦娘)「慣性航法?」
隼人「機体の動きと加速度から、自分がどこを飛んでいるのかを計算する装置だ」
夕張(艦娘)「地上から電波を送らなくても、設定した場所まで飛べるのですか?」
隼人「誤差は少しずつ大きくなる。だが、今回の距離なら使える。海岸線と島の形を光学装置で確認しながら補正させる」
アイ『この地域に対応する最新の地形情報は保存されていません。二〇二一年時点の海岸線および地形情報との照合になります』
隼人「山と島の位置が大きく変わっていなければ十分だ。港湾施設と人工物は航法基準から外せ」
アイ『了解しました』
隼人は操作端末を膝の上へ載せた。
画面上へ、呉周辺の地図が表示される。
ただし、保存されているのは二〇二一年の地理情報だった。
現在の港湾施設や道路とは一致していない。
隼人は現在位置から南西へ航路を引く。
即応連合艦隊が最後に確認された海域。
そこから北東へ向かう予想進路。
敵と接触した場合に取り得る回避針路。
幾つかの探索区域を設定する。
隼人「高度は最初、百五十メートル。島の上空は通さない。海岸線から離れたところで三百まで上げる」
アイ『敵航空機に発見される可能性を考慮しますか?』
隼人「ああ。交戦海域へ近づくまでは低く飛ばす。艦隊を捉えたら、映像を確保できる高度まで上昇させる」
夕張(艦娘)「通信は維持できますか?」
隼人「敵の妨害次第だ。《みらい》の指向性アンテナを偵察機へ向け続ければ、通常の無線よりは持つ」
明石(KAN-SEN)「それでも切られたら?」
隼人「最後に受け取った指示に従って自律飛行を続ける。撮影した映像も機体内へ保存される」
夕張(艦娘)「帰ってくれば、映像を確認できるのですね」
隼人「帰ってくればな」
端末へ、飛行可能時間と予想消費電力が表示される。
探索範囲を広げれば、それだけ帰還に使える電力が減る。
敵艦隊を捜して海上を飛び回る余裕はない。
可能性の高い場所へ、最短経路で向かわせる必要があった。
アイ『飛行経路を確認しました。現在の風向および風速を反映した場合、設定された探索区域への到達は可能です』
隼人「帰還余力は?」
アイ『探索区域での滞空時間を十分以内に制限すれば、帰還可能と推定します』
隼人「十分か」
アイ『探索範囲を縮小すれば延長できます』
隼人「いや、艦隊が予定航路から外れている可能性がある。範囲はこのままだ」
隼人は端末を操作し、航路を確定した。
続いて、偵察機の映像を《みらい》へ送るための通信経路を設定する。
現代の暗号方式を、呉の通信設備へ直接接続することはできない。
映像はまず《みらい》が受信する。
必要な情報だけを隼人たちが読み取り、電話で防空指揮所へ伝えることになる。
効率は悪い。
だが、互換性のない機器を無理に接続するより安全だった。
アイ『飛行前設定を完了しました』
隼人「大淀へ連絡。発進準備完了と伝えろ」
夕張(艦娘)「はい」
夕張が野戦電話の受話器を上げる。
夕張(艦娘)「こちら技術班。小型無人偵察機の発進準備が整いました」
大淀『こちら司令部。使用を許可します。即応連合艦隊の位置を確認後、敵部隊の規模と進路を報告してください』
夕張(艦娘)「了解しました」
大淀『それから、可能であれば艦隊との通信を回復できないか試してください。こちらからの返答が届いていません』
夕張が隼人を見る。
隼人「偵察機を中継局として使う。艦隊の近くまで到達すれば、妨害電波の中でも短距離通信なら成立する可能性がある」
大淀『送る内容は、こちらで準備します』
隼人「最初は短くしてくれ。長い文章は妨害で欠ける」
大淀『分かりました』
通話が切れる。
技術班の要員が区画前のコンクリート敷地を確認する。
無人偵察機は車輪を持たない。
発進には、機体を風上へ向けて投げ上げる必要があった。
夕張が機体を両手で持つ。
夕張(艦娘)「私が投げます」
隼人「機首を少し上へ。主翼を水平に保て。推進装置が回り始めても、すぐには離すな」
夕張(艦娘)「分かりました」
夕張が敷地の中央へ移動する。
隼人は車椅子に座ったまま、操作端末を構えた。
画面には、偵察機の機首から見た技術班区画が映っている。
夕張の手。
薄明の空。
空襲によって損傷した建物。
隼人「アイ。推進装置を始動」
アイ『了解』
機体後部のプロペラが、低い音を立てて回転を始めた。
回転数が上がる。
夕張の髪と衣服が、後方へ流れる風に揺れた。
アイ『推進出力、安定。操舵機構、応答正常。発進可能です』
隼人「夕張。三歩進んで、正面へ押し出すように投げろ」
夕張(艦娘)「はい」
夕張が機体を構える。
一歩。
二歩。
三歩。
両腕を正面へ伸ばした。
夕張(艦娘)「行きます!」
偵察機が手から離れる。
一度だけ高度を下げた。
直後、主翼が風を捉える。
機体は敷地へ落ちることなく、緩やかに上昇を始めた。
アイ『発進を確認。自律飛行へ移行します』
夕張が空を見上げる。
小さな灰色の機体は、技術班区画の上空で一度旋回した。
機首を南西へ向ける。
そのまま海岸線を越え、沖へ向かって飛び去っていった。
機体が肉眼で見えなくなっても、操作端末には映像と飛行情報が表示され続けている。
高度。
速度。
機首方位。
電池残量。
通信状態。
隼人は機体の姿勢を確認しながら、島影を避けるよう航路を微調整した。
呉鎮守府が後方へ遠ざかっていく。
眼下には、朝の光を反射する海面が広がっていた。
漂流する木片。
油の帯。
空襲で撃墜された航空機の残骸。
防空戦の痕跡が、湾の外側にまで残っている。
数分後。
アイ『敵の電波妨害を検出しました』
画面の映像へ、細かな乱れが走る。
隼人「強度は?」
アイ『微弱。飛行継続および映像伝送に影響はありません』
隼人「妨害源の方向を記録しろ」
アイ『記録を開始します』
偵察機が南西へ進むにつれ、映像の乱れは少しずつ強くなっていく。
敵の妨害範囲へ近づいている。
同時に、赤城から送られてくる救難信号も明瞭になり始めた。
赤城(艦娘)『……呉鎮守府へ……こちら即応連合艦隊……』
同じ内容を、繰り返し送っている。
まだ送信設備は生きている。
少なくとも、旗艦赤城は沈んでいない。
アイ『前方海域に複数の熱源を検出しました』
隼人「距離は?」
アイ『小型無人偵察機から約十一キロメートル。海面付近に複数。上空にも多数の反応があります』
隼人「高度を上げろ。三百五十」
アイ『了解』
偵察機が緩やかに上昇する。
高度が上がるにつれ、水平線の向こうに黒い煙が見え始めた。
一つではない。
幾つもの煙が、広い海域から立ち上っている。
さらに接近する。
映像が拡大された。
海面を進む航空母艦。
飛行甲板の一部から黒煙を上げている。
その周囲を、巡洋艦と駆逐艦が取り囲んでいた。
隊形は崩れている。
一隻の海防艦が航行不能となり、二隻の駆逐艦がその左右で敵航空機を迎撃している。
別の巡洋艦は船体を傾けながらも、艦隊の後方へ主砲を向けていた。
夕張(艦娘)「連合艦隊……」
明石(KAN-SEN)「あちこち傷ついているにゃ……」
偵察機の光学装置が、先頭を進む航空母艦へ向けられる。
艦橋脇に掲げられた旗。
艦影。
救難信号の発信方向。
すべてが一致した。
アイ『映像内の航空母艦を、即応連合艦隊旗艦赤城と仮識別します』
隼人「味方艦隊を確認。大淀へ報告」
夕張が受話器を取る。
夕張(艦娘)「こちら技術班! 小型無人偵察機が即応連合艦隊を発見しました! 旗艦赤城を確認! 艦隊は北東へ移動中です!」
大淀『現在位置を報告してください!』
アイが偵察機の航法情報と、呉からの飛行距離を照合する。
衛星測位は使えない。
それでも、機体が通過した島影と方位、速度、飛行時間から、おおよその位置は計算できる。
アイ『即応連合艦隊の推定位置を算出しました』
隼人が読み上げる。
夕張が、その内容を司令部へ復唱する。
海図上に、初めて現在の艦隊位置が書き込まれた。
大淀『敵艦隊は確認できますか?』
隼人「まだだ。偵察機を南へ回す」
隼人は端末を操作する。
偵察機が味方艦隊の東側を迂回し、さらに高度を上げた。
映像へ激しい乱れが走る。
アイ『妨害電波の強度が上昇しています』
隼人「映像を圧縮。画質を落として接続を維持しろ」
アイ『了解』
さらに十数分が経過した頃。
鮮明だった映像が粗くなる。
その代わり、完全に途切れることはなかった。
偵察機が艦隊の後方へ光学装置を向ける。
煙と雲の向こう。
海面上に、複数の黒い艦影が現れた。
横に広がる巨大な飛行甲板。
その周囲に配置された水上戦闘艦。
さらに上空では、艦載機と思われる反応が幾つもの編隊を形成している。
隼人「敵艦隊を確認した」
夕張(艦娘)「数は分かりますか?」
隼人「待て。今数えている」
光学装置が左から右へ動く。
一隻。
二隻。
三隻。
煙と妨害によって、一部の艦影が重なっている。
アイが船体の大きさ、熱源、進行方向を照合し、同一目標の重複を除外していく。
アイ『大型航空母艦級反応を複数確認。戦艦級反応一。巡洋艦級および駆逐艦級反応多数』
映像の中で、最も大きな航空母艦級の艦影から、強い電波が放射されている。
アイ『敵艦隊中央部から、広帯域の妨害電波を検出しました』
隼人「妨害源を特定できるか?」
アイ『複数の艦艇が同時に電波を放射しています。ただし、中央に位置する大型艦からの出力が最も強いと推定します』
敵は単に数で押しているのではない。
通信と電探を封じ。
航空隊を分断し。
水上部隊で退路を塞いでいる。
即応連合艦隊を確実に沈めるため、戦場全体を組み立てていた。
隼人「大淀。敵艦隊を確認した。空母級複数、戦艦級一。そのほかの護衛艦艇多数」
大淀『敵の正確な数は?』
隼人「妨害と煙で識別に時間が掛かる。だが、味方より多い。中央の大型艦が、妨害電波の主要な発信源である可能性が高い」
大淀『情報を海図へ記入します。偵察を継続してください』
隼人「その前に、赤城へ返事を送る」
隼人は操作端末の通信画面を開いた。
呉から敵艦隊まで、直接音声を通すことは難しい。
だが、無人偵察機は赤城の近くを飛んでいる。
呉から《みらい》へ。
《みらい》から偵察機へ。
偵察機から赤城へ。
複数の通信経路をつなげれば、短い電文を届けられる可能性があった。
隼人「大淀。赤城へ送る文章を」
大淀『送ります』
司令部から、短い電文が読み上げられる。
『即応連合艦隊へ』
『救難信号を受信した』
『現在位置および敵艦隊を確認』
『救援準備中』
『北東への航行を継続せよ』
隼人は内容を確認した。
隼人「アイ。偵察機を通信中継状態へ移行。赤城の非常用周波数へ送信しろ」
アイ『了解しました』
無人偵察機から、短い電文が送信される。
一度。
二度。
三度。
妨害電波の中へ、同じ内容を繰り返す。
しばらく返答はなかった。
隼人たちは操作端末と《みらい》を見つめたまま待つ。
やがて、激しい雑音の奥から声が返った。
赤城(艦娘)『……こちら……即応連合艦隊旗艦、赤城……』
音声が途切れる。
それでも、先ほどより明瞭だった。
赤城(艦娘)『……呉からの通信を受信しました……』
赤城(艦娘)『……救援に、感謝します……』
夕張が小さく息を吐いた。
明石の猫耳が、僅かに持ち上がる。
孤立していた連合艦隊へ、初めて呉からの返答が届いた。
救援部隊はまだ出ていない。
敵艦隊も健在。
戦況そのものが改善したわけではない。
それでも、連合艦隊は自分たちの救難信号が届いたことを知った。
呉が、自分たちを見つけたことを知った。
隼人は操作端末へ映る敵艦隊を見つめる。
隼人「次は、救援が到着するまで沈ませない方法を考える」
その直後。
アイ『警告』
操作端末上に、赤い表示が現れた。
アイ『敵高速航空機一機が進路を変更しました』
粗い映像の中。
敵艦隊の上空を旋回していた銀灰色の高速機が、編隊から離れていく。
その機首は、味方艦隊ではなく。
上空で通信を中継している、小型無人偵察機へ向けられていた。
隼人「敵機との距離は?」
アイ『約九・二キロメートル。速度、時速九百十キロメートル。小型無人偵察機へ接近中です』
夕張(艦娘)「九キロ……」
明石(KAN-SEN)「すぐに追いつかれるにゃ!」
小型無人偵察機の速度では、敵高速機から逃げ切ることはできない。
その一方で、高速機にとっても、低速で飛ぶ小さな無人機は狙いやすい標的ではなかった。
速度差が大きすぎる。
一度の攻撃で仕留められなければ、高速機は大きく旋回して戻らなければならない。
隼人「偵察機を降下させろ。高度五十」
アイ『現在の通信状態では、低高度へ移行した場合に映像伝送が切断される可能性があります』
隼人「常時送信を止める。必要な情報だけを短く送らせろ」
アイ『通信中継が停止します』
隼人「赤城への返事は届いた。今は機体を残す方が先だ」
アイ『了解。連続映像伝送を停止。記録装置による撮影は継続します』
操作端末へ映っていた映像が止まる。
代わりに、機体の高度、速度、方位だけが数秒おきに表示されるようになった。
小型無人偵察機が急速に高度を下げる。
三百五十。
二百。
百。
海面から五十メートル。
機体は波の上を這うように飛び始めた。
敵高速機も降下する。
アイ『敵機、距離五・八キロメートル』
隼人「偵察機の進路を味方艦隊から外せ。東へ十五度」
アイ『了解』
小型無人偵察機が緩やかに左へ針路を変える。
敵機を連合艦隊の上へ引き込めば、味方が機銃掃射へ巻き込まれる。
敵艦隊側へ向かわせれば、そのまま妨害電波の中心へ飛び込む。
味方と敵、双方から距離を取れる僅かな空間へ進ませる。
アイ『敵機、距離三・一キロメートル』
機体が小さいため、偵察機そのものを目視することはできない。
操作端末の上で、二つの記号が急速に接近していく。
アイ『敵機が射撃位置へ移行したと推定します』
隼人「偵察機、右へ最大旋回。高度二十」
アイ『了解』
小型無人偵察機が、右へ機体を傾ける。
主翼が海面へ触れそうな高度まで下がった。
直後。
偵察機の光学装置が自動的に記録した映像が、短い静止画として送られてきた。
画面の左上。
銀灰色の機体が、海面へ向けて急降下している。
その機首が光った。
偵察機の後方へ、複数の弾丸が着弾する。
海面から細い水柱が連続して立ち上がった。
一発。
二発。
偵察機のすぐ横を通過する。
だが、命中はしなかった。
アイ『敵機、無人偵察機の上空を通過』
隼人「敵機の進路は?」
アイ『南東へ通過。上昇へ移行しています』
速度を落とせない高速機は、一度の攻撃で偵察機を捉えられなかった。
海面近くから機首を引き起こし、大きな弧を描いて上昇していく。
再攻撃に入るまで、短い時間が生まれた。
隼人「再接近まで?」
アイ『推定五十秒です』
隼人「その間に敵艦隊を撮る。高度百二十まで上げろ。画像を三秒ごとに送信」
アイ『了解しました』
偵察機が再び上昇する。
連続した映像は送らない。
光学装置が捉えた画面を静止画へ変換し、短時間だけ通信を行う。
一枚。
二枚。
三枚。
粗い画像が操作端末へ届く。
隼人は画像を拡大し、敵艦隊の配置を確認する。
中央に、大型航空母艦級。
その左右にも、飛行甲板を持つ複数の艦影。
前方には戦艦級。
周囲を巡洋艦級と駆逐艦級が取り囲んでいる。
敵空母から、次の攻撃隊が発艦を始めていた。
隼人「アイ。空母級だけを抽出しろ」
アイ『画像解析を開始します』
複数の画像が重ねられる。
煙や艦載機の影に隠れていた艦影が、輪郭として表示されていく。
アイ『航空母艦級と推定される大型艦八隻を確認しました』
夕張(艦娘)「八隻も……」
明石(KAN-SEN)「それが全部、航空機を出しているのかにゃ?」
アイ『少なくとも六隻の飛行甲板上で、航空機の発艦または発艦準備を確認しています。残る二隻については、煙と妨害により判定できません』
八隻すべてが同じ能力を持つとは限らない。
損傷艦。
航空機を使い果たした艦。
航空母艦に似せた別種の艦。
その可能性も残っている。
だが、即応連合艦隊を圧倒するだけの航空戦力が存在することは間違いなかった。
隼人「戦艦級と護衛艦艇は?」
アイ『戦艦級一。巡洋艦級四以上。駆逐艦級九以上。複数の艦影が重なっているため、実際の数はさらに多い可能性があります』
敵は空母だけで構成された艦隊ではない。
空母級を守るための水上戦闘艦を伴い、対空、対艦、電子戦の役割を分担している。
即応連合艦隊を待ち伏せし、逃がさないために編成された艦隊だった。
隼人「妨害源の位置は?」
アイ『中央の大型航空母艦級一隻。さらに巡洋艦級二隻からも強い電波放射を確認しました』
操作端末の海図上へ、三つの目標が表示される。
一隻だけを破壊しても、妨害は完全には止まらない。
だが、中央の大型艦が主たる指揮と電子戦を担っているなら、それを失うことで敵艦隊全体の連携が乱れる可能性がある。
隼人「大淀へ送れ。敵空母級八。うち六隻以上が航空機を運用中。戦艦級一。巡洋艦級四以上、駆逐艦級九以上」
夕張が野戦電話へ向かう。
夕張(艦娘)「敵艦隊の内訳を確認! 空母級八、うち六隻以上が航空機を運用中! 戦艦級一、巡洋艦級四以上、駆逐艦級九以上!」
大淀『……確認しました。妨害電波の発信源は?』
隼人「中央の大型空母級一隻と、巡洋艦級二隻。中央の空母級が最も強い」
夕張(艦娘)「中央の空母級が主要な妨害源と推定! 巡洋艦級二隻も妨害電波を放射しています!」
司令部側が沈黙する。
呉鎮守府に、これだけの敵艦隊と正面から戦える無傷の戦力は残されていない。
出撃可能な艦娘とKAN-SENを集めても、到着までには時間が掛かる。
その前に次の航空攻撃が始まれば、即応連合艦隊は耐えられない可能性が高かった。
アイ『敵高速機が再度接近しています』
隼人「偵察機を下げろ」
アイ『間に合いません。敵機との距離、一・四キロメートル』
偵察機から、最後の静止画が送られる。
画面いっぱいに、銀灰色の高速機が映っていた。
その機首が光る。
直後。
操作端末の表示が激しく乱れた。
アイ『小型無人偵察機、被弾』
高度表示が急速に下がる。
機体姿勢を示す数値が大きく変動する。
隼人「損傷箇所は?」
アイ『左主翼および推進装置。姿勢維持不能』
隼人「通信中継器は?」
アイ『応答あり。ただし、電力供給が不安定です』
隼人「最後の情報を全部送らせろ。映像、敵位置、進路、速度。帰還は放棄する」
アイ『了解しました』
偵察機が蓄積していた情報を、一つの通信へまとめる。
送信を開始。
敵艦隊の配置。
各艦の推定艦種。
妨害源の位置。
味方艦隊の進路。
現在までに記録した映像。
残された電力のすべてが、情報の送信へ使われる。
アイ『情報転送、七十パーセント』
偵察機は高度を失い続ける。
アイ『八十五パーセント』
光学装置が海面を捉える。
傾いた水平線。
近づいてくる波。
アイ『情報転送、完了』
次の瞬間。
操作端末から飛行情報が消えた。
映像も途切れる。
アイ『小型無人偵察機との通信を喪失しました』
夕張が画面を見る。
夕張(艦娘)「墜落したのですか?」
隼人「ああ」
明石(KAN-SEN)「回収は……」
隼人「できない。敵艦隊の近くだ」
明石の耳が伏せられる。
人間の搭乗者はいない。
それでも、正常に飛行していた機体が失われたことに変わりはなかった。
アイ『小型無人偵察機は、与えられた偵察および通信中継任務を完了しました』
隼人「分かっている」
隼人は操作端末へ残された最後の画像を開いた。
八隻の空母級を中心とする敵艦隊。
その前方には、損傷しながら北東へ逃れようとする即応連合艦隊。
両者の距離は、少しずつ縮まっている。
敵空母からは、次の攻撃隊が発艦し始めていた。
大淀『渡邉さん』
隼人「聞いている」
大淀『呉から直ちに出撃できる航空隊では、敵の第二次攻撃隊を止められません』
隼人「水上部隊は?」
大淀『出撃可能な艦を集めています。しかし、即応連合艦隊への合流には、早くても一時間近く掛かります』
隼人「それでは間に合わない」
大淀『……はい』
即応連合艦隊が必要としているのは、敵艦隊を壊滅させる戦力ではない。
追撃を止める時間。
航空攻撃の規模を減らすこと。
通信と電探を回復させること。
その三つがあれば、損傷艦を守りながら呉へ戻れる可能性が生まれる。
隼人は作業台へ並べられた回収装備を見渡した。
灰色の箱。
弾薬容器。
まだ確認されていない大型の収納架。
その中に、細長い発射筒を収めた対艦攻撃用の装備があった。
隼人「夕張。《みらい》と一緒に回収された大型モジュールは、全部ここにあるか?」
夕張(艦娘)「すべて技術班が保管しています。まだ内部を開けていない物もありますが……」
隼人「対艦誘導弾と表示された収納架があるはずだ」
夕張が技術要員へ確認する。
「北側の保管庫にあります! 《みらい》の背部へ接続されていた大型装備です!」
隼人「損傷状態は?」
「外側に擦過痕があります。内部は確認できていません!」
隼人「ここへ運んでくれ」
技術要員が北側の保管庫へ走る。
夕張が隼人を見る。
夕張(艦娘)「対艦誘導弾……敵艦を攻撃する武器ですか?」
隼人「ああ」
明石(KAN-SEN)「呉から、あの敵艦隊まで届くのかにゃ?」
隼人「届く」
夕張(艦娘)「それなら、八隻の空母をすべて攻撃できるのですか?」
隼人「無理だ」
隼人は即座に答えた。
隼人「弾数も、目標情報も足りない。現在位置は分かったが、敵艦隊は移動している。偵察機も失った。発射してから命中するまで、目標を追跡し続けられる保証もない」
明石(KAN-SEN)「では、何を狙うのかにゃ?」
隼人は操作端末へ表示された三つの妨害源を指した。
隼人「敵艦隊の目と耳だ」
中央の大型空母級。
その両側を進む巡洋艦級。
妨害電波を放ち、敵航空隊と水上部隊を結びつけている三隻。
隼人「妨害中枢を潰す。完全に沈める必要はない。送信設備と指揮能力を止めればいい」
夕張(艦娘)「通信と電探が戻れば、赤城さんたちは戦える……」
隼人「敵航空隊の統制も乱れる。少なくとも、今よりは逃げやすくなる」
大淀にも会話が聞こえていた。
大淀『対艦誘導弾を使用するには、《みらい》を装着する必要がありますか?』
隼人「ああ。発射装置の制御と反動の処理は、《みらい》の駆動系統を前提としている」
大淀『あなたは、装備の使用を禁止されているはずです』
隼人「だから、まだ使用許可を求めてはいない」
大淀『では、なぜ運ばせるのですか?』
隼人「使えるかどうかも分からない兵器を前提に、作戦を立てることはできない。まず点検する」
隼人は作業台の《みらい》を見る。
左肩部は変形し、駆動装置も切り離されている。
自分の傷も、先ほどより痛みを増していた。
対艦誘導弾モジュールが無事だったとしても、《みらい》へ装着できるとは限らない。
装着できたとしても、発射に耐えられる保証はない。
それでも、即応連合艦隊が次の航空攻撃を受けるまで、残された時間は僅かだった。
保管庫の扉が開く。
複数の技術要員が台車を押してくる。
その上には、長い発射筒を収めた大型の兵装モジュールが固定されていた。
隼人が、その外装を見つめる。
隼人「アイ。対艦攻撃モジュールの診断を開始しろ」
アイ『了解しました』
《みらい》の表示灯が青白く明滅する。
アイ『対艦攻撃モジュールとの接続を試行します』
数秒後。
アイ『対艦攻撃モジュールとの接続を確認しました』
大型モジュールの側面で、複数の表示灯が点灯する。
赤。
橙。
最後に青白い光へ変わった。
アイ『診断を開始します』
発射筒内部の温度。
誘導装置。
電源系統。
機体との接続回路。
安全装置。
弾体に内蔵された自己診断機能が、順番に呼び出されていく。
夕張と明石は外装へ触れず、表示灯の変化を見守っていた。
台車に載せられたモジュールには、上下二段に分けて八本の発射筒が収められている。
発射筒の一つ一つに、小型の対艦誘導弾が格納されていた。
《みらい》へ装着可能な重量へ抑えるため、通常の艦艇が使用する対艦誘導弾より弾体は小さい。
その分、弾頭も小さく、敵大型艦を一発で撃沈できるほどの威力はなかった。
だが、上部構造物や飛行甲板、電探、通信設備を破壊するには十分な威力を持っている。
明石(KAN-SEN)「この筒が、全部武器なのかにゃ……」
隼人「ああ。中に一発ずつ入っている」
夕張(艦娘)「八発……敵空母と同じ数ですね」
隼人「だからといって、一隻へ一発ずつ撃つわけにはいかない」
艦艇の規模。
装甲。
防御能力。
損傷状態。
敵空母級の詳細は、何一つ分かっていない。
一発ずつ命中させても、すべてが戦闘を継続する可能性さえある。
アイ『対艦誘導弾一番から四番。誘導装置、正常。発射回路、正常』
表示灯が四つ、順番に青へ変わる。
アイ『五番。発射筒外部に変形を確認』
隼人「内部の弾体は?」
アイ『弾体外装および誘導装置に異常なし。ただし、発射筒の固定具が正常に解除されない可能性があります』
隼人「使用順位を最後へ回せ」
アイ『了解しました』
残る弾体の診断が続く。
アイ『六番から八番。誘導装置、発射回路ともに正常』
夕張(艦娘)「使えるのは七発ですか?」
隼人「確実に使えるのが七発。五番も発射できる可能性はあるが、最初から戦力へ数えない」
アイ『発射筒五番の使用は推奨しません。固定具が解除されない状態で推進装置が作動した場合、対艦攻撃モジュールおよび《みらい》本体が損傷する可能性があります』
明石(KAN-SEN)「筒の中で火がついたら、ここごと吹き飛ぶにゃ……」
隼人「主推進装置は、発射筒から離れたあとに点火する。だが、弾体が途中で引っ掛かれば安全とは言えない」
この対艦誘導弾は、圧縮ガスによって発射筒から押し出される。
弾体が《みらい》から十分に離れてから、主推進装置が作動する構造だった。
発射炎を直接浴びる危険は少ない。
それでも、数十キログラムの弾体を短時間で連続して射出すれば、機体の重心は急激に変化する。
損傷した左肩部を抱えた状態で、射撃姿勢を維持できるかは別の問題だった。
アイ『対艦攻撃モジュールの診断を完了しました』
隼人「《みらい》へ接続した場合の稼働予測を出せ」
アイ『計算を開始します』
隼人は操作端末へ残された敵艦隊の位置を開く。
最後に確認された針路。
推定速力。
旗艦赤城との距離。
通信を失ってから経過した時間。
目標位置の誤差は、時間とともに広がっていく。
誘導弾は発射後、設定された航路を慣性航法で飛行する。
目標海域へ接近してから、弾体自身の捜索装置を作動させる。
だが、捜索範囲へ敵艦が入っていなければ、何も見つけられない。
広すぎる範囲を捜させれば、味方艦艇を誤って捉える危険も高まる。
夕張(艦娘)「味方の赤城さんたちは、敵艦隊と呉の間にいるのですよね?」
隼人「ああ。ここから真っ直ぐ撃てば、誘導弾は先に味方艦隊へ近づく」
明石(KAN-SEN)「それは危険にゃ。もし敵と間違えたら……」
隼人「だから直線では飛ばさない」
隼人は海図上へ、新しい航路を引いた。
呉から南西へ向かう直線ではない。
一度、即応連合艦隊の東側へ大きく迂回。
味方艦隊から十分な距離を取った地点で南へ変針。
敵艦隊の側面から接近させる。
終末段階へ入るまで、誘導弾自身の捜索装置は作動させない。
最後に確認された敵艦隊の位置と進路から、妨害電波を放つ三隻が存在する可能性の高い海域を限定する。
隼人「この経路なら、味方艦隊の近くで捜索装置を作動させずに済む」
夕張(艦娘)「敵艦隊の右側から攻撃するのですね」
隼人「正面から撃てば、戦艦級と護衛艦艇が先に迎撃する。側面へ回せば、少なくとも防御を分散させられる」
明石(KAN-SEN)「でも、敵も動いているにゃ」
隼人「分かっている」
最後の位置情報から、すでに数分が経過している。
敵が速度や進路を変えれば、予測位置は外れる。
そのため、敵が発する妨害電波を追加の手掛かりとして利用する。
《みらい》は、現在も南西方向から届く強い電波を捉えていた。
正確な距離は分からない。
だが、最後に無人偵察機が確認した位置と、電波が届く方向を組み合わせれば、予測海域をさらに絞り込める。
隼人「アイ。敵の妨害電波を追跡できるか?」
アイ『継続中です。小型無人偵察機が取得した位置情報との照合により、主要妨害源の予測範囲を更新できます』
隼人「誘導弾の終末捜索へ使えるか?」
アイ『対艦誘導弾の受動探知装置は、電波放射源を捜索情報として利用できます。ただし、妨害源が送信を停止した場合は使用できません』
隼人「その場合は、通常の捜索装置へ切り替える」
アイ『可能です』
敵が妨害を続ければ、その電波が誘導弾を引き寄せる。
妨害を止めれば、赤城たちの通信と電探が回復する。
どちらを選んでも、即応連合艦隊には有利に働く。
隼人「目標配分を設定する」
隼人は三つの目標へ印を付けた。
第一目標。
敵艦隊中央の大型空母級。
主要な妨害電波を放ち、敵艦隊の中核に位置している。
第二目標と第三目標。
中央艦の左右を進み、補助的な妨害電波を発している巡洋艦級。
隼人「中央の空母級へ三発。巡洋艦級へ二発ずつ」
夕張(艦娘)「合計七発……」
隼人「ああ。正常に使える分を全部使う」
明石(KAN-SEN)「予備は残さないのかにゃ?」
隼人「一発だけ残しても、次に目標情報を得られる保証がない。それに、この攻撃で妨害を止められなければ、赤城たちが帰れない」
一隻を撃沈するための配分ではない。
中央艦へ三方向から接近させ、敵の対空火力を分散させる。
巡洋艦級にも二発ずつ送り、少なくとも一発を上部構造物へ到達させる。
敵が迎撃に成功すれば、全弾が失われる可能性もある。
目標位置が外れれば、一隻にも命中しない。
それでも、現在の呉から即座に敵水上部隊へ届く攻撃手段は、これしかなかった。
アイ『《みらい》へ対艦攻撃モジュールを接続した場合の稼働予測を完了しました』
隼人「結果は?」
アイ『左肩部駆動装置を停止した状態でも、背部接続部および脚部駆動装置による重量支持は可能です』
夕張が僅かに安堵する。
だが、アイの報告は終わっていなかった。
アイ『ただし、対艦攻撃モジュール装着時の総重量は、現在の限定運用状態における推奨値を超過します』
隼人「立っていられるか?」
アイ『平坦な地面で静止する場合は可能です。歩行速度を制限し、急旋回および跳躍を禁止します』
隼人「発射は?」
アイ『一発ごとの射出による姿勢変化を脚部および腰部駆動装置で補正可能です。ただし、連続発射は推奨しません』
隼人「何秒空ければいい?」
アイ『最低八秒。姿勢安定を確認できない場合、次弾の発射を自動的に停止します』
隼人「それでいい」
アイ『装着者への負荷について警告します』
隼人は黙って続きを待った。
アイ『対艦攻撃モジュールの重量により、装着者の胸部、腰部および左肩周辺へ追加の圧力が加わります。渡邉隼人の負傷状態を考慮した場合、症状悪化の可能性があります』
隼人「発射だけなら、どれくらい掛かる?」
アイ『装着、移動、射撃準備を除き、発射開始から全弾射出まで一分三十秒以上と推定します』
隼人「十分だ」
アイ『医学的な安全性を意味する回答ではありません』
隼人「分かっている」
技術班区画の入口から、速い足音が聞こえた。
先ほどの軍医が、二人の衛生員を伴って入ってくる。
隼人の前に置かれた対艦攻撃モジュールを見る。
続いて、《みらい》と車椅子の隼人へ視線を向けた。
軍医「まさか、それを装着するつもりではありませんよね」
隼人「使えるか確認しているだけだ」
軍医「その確認は終わったのでしょう?」
アイ『対艦攻撃モジュールは、制限付きで使用可能です』
軍医「あなたは、どちらの味方なのですか」
アイ『所属陣営ではなく、事実を報告しました』
軍医「そういう意味ではありません!」
軍医が隼人の前へ立つ。
軍医「渡邉さん。装着は認めません」
隼人「次の敵航空隊が、即応連合艦隊へ向かっている」
軍医「だからといって、負傷者を兵器へ入れることはできません」
隼人「このまま何もしなければ、もっと多くの負傷者が出る」
軍医「あなたが倒れることを、仕方のない損害として扱えと言うのですか?」
隼人「そうは言っていない」
軍医「同じことです」
軍医は一歩も退かない。
隼人も、その判断が医師として正しいことは理解している。
左肩の縫合部。
頭部の打撲。
海へ飛び込んだことによる体温低下。
直前には、損傷した《みらい》を装着して対空戦闘まで行っている。
再び重装備を使用すれば、傷が開く可能性は高い。
それでも、敵艦隊は待ってくれない。
大淀『渡邉さん』
野戦電話から大淀の声が聞こえる。
大淀『即応連合艦隊から、新たな救難信号を受信しました』
隼人「内容は?」
大淀『敵第二次攻撃隊が接近中。残存直掩機では阻止困難。航行不能艦を曳航しているため、艦隊速力を上げられないとのことです』
技術班区画が静まり返る。
救援部隊の到着まで、約一時間。
敵攻撃隊の到達まで、それより遥かに短い。
隼人「対艦誘導弾が敵艦隊へ届くまでの時間は?」
アイ『設定した迂回航路を使用した場合、発射から約六分です』
隼人「第二次攻撃隊が赤城へ到達するまで?」
アイ『敵空母からの発艦時刻と推定速度から、十八分から二十二分と予測します』
対艦誘導弾が間に合う可能性はある。
だが、もう時間を掛けて議論する余裕はなかった。
隼人「大淀。対艦誘導弾の使用許可を求める」
大淀『目標は、先ほど報告された三隻ですか?』
隼人「ああ。中央の空母級へ三発。妨害電波を出している巡洋艦級へ二発ずつ。目的は撃沈ではなく、電子戦能力と指揮機能の破壊だ」
大淀『味方艦隊への誤射の可能性は?』
隼人「東側へ迂回させる。味方艦隊の近くでは捜索装置を作動させない。最終接近は敵艦隊の側面から行う」
大淀『目標情報は、どこまで信頼できますか?』
隼人「無人偵察機が得た最後の位置と進路。それに、現在も続いている妨害電波を使う。命中を保証することはできない」
大淀『失敗する可能性があるのですね』
隼人「ある」
隼人は断言した。
隼人「全弾を迎撃される可能性も、目標を見失う可能性もある。それでも、今ある手段の中では成功する可能性が最も高い」
電話の向こうで、紙を捲る音と複数の声が聞こえる。
大淀は、一人で決断しているわけではない。
司令部要員。
海上部隊の指揮担当。
防空指揮所。
それぞれの情報と意見を確認している。
数秒の沈黙が、異様に長く感じられた。
大淀『渡邉隼人さん』
隼人「聞いている」
大淀『対艦誘導弾の使用を許可します』
夕張と明石が隼人を見る。
軍医は目を閉じ、深く息を吐いた。
大淀『目標は、妨害電波を放射する敵艦三隻に限定。即応連合艦隊から十分に離れた航路を使用してください。識別に確信を持てない場合は、攻撃を中止してください』
隼人「了解した」
大淀『それから、渡邉さん自身の状態を最優先してください。装着後に意識障害、強い目眩、呼吸困難が現れた場合、軍医の判断で中止します』
隼人「承知した」
軍医「傷が開いた場合も即時中止です」
隼人「ああ」
軍医「返事が軽いです」
隼人「従う」
軍医はまだ納得していなかった。
それでも、使用そのものを止めることはできないと判断したらしい。
隼人の左肩へ手を当て、包帯と縫合部の状態を確認する。
軍医「左腕は動かさないでください。《みらい》の内部でも完全に固定します」
隼人「分かった」
軍医「痛みを隠さないこと。気分が悪くなった場合も、すぐ申告してください」
隼人「従う」
軍医は衛生員へ追加の包帯と固定具を持ってくるよう指示した。
夕張と明石は、《みらい》の背部接続部を開く。
技術要員が対艦攻撃モジュールを台車ごと移動させ、装着作業の準備へ入った。
アイ『対艦攻撃任務を登録します』
隼人「優先順位を確認」
アイ『第一、味方艦艇への誤射防止。第二、主要妨害源の無力化。第三、補助妨害源の無力化』
隼人「それでいい」
隼人は車椅子の肘掛けを右手で掴んだ。
ゆっくりと立ち上がる。
左肩へ痛みが走ったが、足元は揺れなかった。
目の前で、《みらい》の胸部装甲が開いていく。
その背後には、八本の発射筒を収めた対艦攻撃モジュール。
正常に使用できる誘導弾は七発。
救出すべき艦隊は、妨害電波の向こうにいる。
隼人「装着を始める」
アイ『了解しました』
隼人は《みらい》の内部へ身体を収めた。
脚部。
腰部。
胸部。
右腕。
最後に、負傷した左腕が固定具へ収められる。
軍医が左肩の位置を確認し、装甲と傷口の間へ厚く重ねた滅菌ガーゼを差し込んだ。
軍医「痛みは?」
隼人「ある。だが、先ほどと変わらない」
軍医「強くなったら、すぐに言ってください」
隼人「分かった」
左腕を覆う装甲が閉じる。
ただし、左肩部の駆動装置は起動しない。
腕は胸部の前へ寄せた状態で固定され、自力では動かせなくなった。
残る装甲が順番に閉じていく。
アイ『装着者との接続を確認しました』
《みらい》の表示灯が点灯する。
アイ『左肩部駆動装置、停止状態を維持。左腕操作を禁止します』
隼人「駆動出力は?」
アイ『対艦攻撃モジュール装着前の状態で四十パーセント。接続後、脚部および腰部のみ一時的に六十パーセントへ上昇させます』
隼人「了解」
隼人が右脚を作業台から下ろす。
続いて左脚。
《みらい》がゆっくりと立ち上がった。
軍医が隼人の顔を確認する。
軍医「目眩は?」
隼人「ない」
軍医「吐き気は?」
隼人「ない」
軍医「左肩は?」
隼人「痛むが、耐えられる」
軍医「耐えられるかどうかではなく、先ほどより強くなったかを聞いています」
隼人「僅かに強くなった」
軍医は不満そうな表情を見せた。
それでも中止は命じなかった。
軍医「これ以上強くなったら止めます」
隼人「ああ」
技術要員が、対艦攻撃モジュールを載せた台車を《みらい》の背後へ移動させる。
夕張と明石が左右へ分かれ、接続位置を確認する。
夕張(艦娘)「背部接続部と高さを合わせます」
明石(KAN-SEN)「台車を少し上げるにゃ。ゆっくりにゃ!」
手動昇降機が操作される。
八本の発射筒を収めたモジュールが持ち上がり、《みらい》の背部へ近づいていく。
重量のある装備だった。
台車の車輪が僅かに軋む。
夕張(艦娘)「接続位置まで、あと十センチ」
明石(KAN-SEN)「そのまま前にゃ」
モジュールの固定部が、《みらい》の背部接続部へ重なった。
金属同士が噛み合う。
ガコンッ――
低い音が技術班区画へ響いた。
アイ『対艦攻撃モジュールの物理接続を確認』
複数の固定具が自動的に閉じる。
電力線。
制御線。
情報伝達線。
それぞれが《みらい》の主制御装置へ接続された。
アイ『固定具、全箇所正常。電力供給を開始します』
背部のモジュールへ電力が流れる。
八本の発射筒に取り付けられた表示灯が、順番に点灯した。
五番発射筒だけが橙色。
残る七本は青白く光っている。
アイ『対艦攻撃形態への移行を完了しました』
モジュールの重量が、《みらい》の背部へ加わる。
隼人の身体が僅かに後ろへ引かれた。
すぐに腰部と脚部の人工筋肉が収縮し、姿勢を補正する。
両脚が床を強く踏み締めた。
アイ『姿勢安定。装着者の心拍数上昇を確認』
隼人「許容範囲だ」
アイ『継続監視します』
技術班区画の扉が開かれる。
射撃場所として選ばれたのは、技術班区画から南側へ張り出した試験岸壁だった。
周囲に弾薬庫や燃料施設はない。
正面には湾内へ続く海面が開けている。
発射された誘導弾は一度高度を取り、島と沿岸施設を避けて湾外へ出る。
その後、海面近くまで降下し、設定された迂回航路へ入る。
警備員が岸壁までの通路を封鎖する。
「射撃経路上、退避完了!」
「岸壁周辺に人員なし!」
隼人は歩幅を小さく保ち、技術班区画から外へ出た。
一歩ごとに、背部の重量が腰と脚へ掛かる。
《みらい》が大半を支えている。
それでも、胸部固定具を通じて伝わる圧力までは消せない。
アイ『歩行速度を制限します』
隼人「構わない」
夕張と明石が左右から同行する。
軍医と衛生員も、その後ろを離れずについてきた。
岸壁へ到達する。
海上には、味方艦艇も民間船も見えない。
対岸の人員も、すでに建物の陰へ退避している。
隼人は岸壁の中央で足を止めた。
右脚を半歩後ろへ。
両脚の間隔を広げる。
背部の発射筒が、斜め上方へ持ち上がった。
アイ『射撃姿勢へ移行します』
脚部駆動装置が固定される。
足裏の保持装置が作動し、《みらい》の重量をコンクリートへ伝える。
腰部が僅かに前傾し、背部モジュールとの均衡を取った。
隼人「目標情報を更新」
アイ『主要妨害源の電波放射を継続して探知しています』
隼人の視界へ、三つの扇形が表示される。
正確な点ではない。
妨害源が存在すると推定される範囲だった。
その中心は、無人偵察機が最後に確認した敵艦隊の予測位置と重なっている。
アイ『敵艦隊は北東方向への移動を継続していると推定。主要妨害源の位置誤差、東西約二・八キロメートル。南北約三・四キロメートル』
隼人「捜索範囲へ収まるか?」
アイ『現在の進路を維持している場合は収まります』
隼人「進路を変えていた場合は?」
アイ『目標を捕捉できない可能性があります』
隼人「承知した」
成功は保証されていない。
最後に確認した位置。
推定速力。
妨害電波の方向。
限られた情報を重ね、最も可能性の高い海域へ誘導弾を送る。
隼人「迂回航路を確認」
視界上へ、七本の航跡が表示される。
発射後、湾外まで上昇。
海岸線と島を避けて南東へ進む。
即応連合艦隊の東側へ大きく回り込んだあと、南西へ変針。
敵艦隊の右舷側から接近する。
誘導弾同士も僅かに異なる航路と高度を取る。
一方向からまとまって接近し、同じ対空射撃で全弾を失うことを避けるためだった。
隼人「味方艦隊との最接近距離は?」
アイ『約九・六キロメートル。通常捜索装置は停止状態を維持します』
隼人「受動探知装置は?」
アイ『妨害電波のみを追跡対象として設定。呉鎮守府および即応連合艦隊が使用する周波数帯を除外します』
隼人「よし」
野戦電話を持った夕張が、大淀へ最終確認を求める。
夕張(艦娘)「こちら試験岸壁。対艦誘導弾、発射準備完了です」
大淀『こちら司令部。味方艦隊へ、東側から誘導兵器が接近する可能性を警告します』
隼人「短い電文を繰り返せ。受信確認が取れなくても構わない」
大淀『すでに送信を始めています』
敵の妨害電波が続く以上、赤城から返答が届く可能性は低い。
それでも、警告しない理由にはならない。
大淀『渡邉さん。射撃直前の目標確認をお願いします』
隼人「第一目標。敵艦隊中央、主要妨害源の大型空母級」
アイ『第一目標を確認。対艦誘導弾一番、二番、三番を割り当てます』
隼人「第二目標。中央艦左側、補助妨害源の巡洋艦級」
アイ『第二目標を確認。四番、六番を割り当てます』
隼人「第三目標。中央艦右側、補助妨害源の巡洋艦級」
アイ『第三目標を確認。七番、八番を割り当てます』
隼人「五番発射筒は閉鎖状態を維持」
アイ『了解しました。発射回路を物理的に遮断します』
五番発射筒の表示灯が消える。
残る七本が発射可能状態へ移行した。
アイ『全誘導弾、飛行経路入力完了。味方艦艇の排除区域を設定。目標識別条件を登録しました』
隼人は一度だけ深く息を吸った。
左肩が脈打つように痛む。
視界に異常はない。
呼吸も保てている。
隼人「状態を報告する。意識明瞭。目眩なし。呼吸異常なし。左肩の痛みは増えているが、急激な変化はない」
軍医が隼人の顔と姿勢を確認する。
軍医「……継続を許可します」
隼人「大淀。最終許可を」
短い沈黙。
大淀『対艦攻撃を許可します』
隼人「了解」
隼人の右手が、射撃操作へ移る。
隼人「アイ。一番発射筒、安全装置解除」
アイ『一番発射筒、安全装置解除』
背部で固定具が外れる。
アイ『射出可能です』
隼人「一番、発射」
ボシュッ――!
圧縮ガスが放出され、一本目の誘導弾が発射筒から押し出された。
弾体は《みらい》の背部から斜め上方へ飛び出す。
一瞬遅れて、主推進装置が点火した。
ゴォォォォッ!!
白煙と炎を引き、誘導弾が海上へ向かって加速する。
《みらい》の重心が僅かに変化した。
脚部と腰部が即座に補正する。
アイ『一番弾、正常飛行。第一経由地点へ向かっています』
八秒。
姿勢安定を確認。
隼人「二番、発射」
ボシュッ――!
二本目が発射筒を離れる。
主推進装置が点火。
一番弾とは異なる角度へ上昇していく。
アイ『二番弾、正常飛行』
さらに八秒。
隼人「三番、発射」
三本目が空へ飛び出した。
第一目標へ割り当てられた三発が、それぞれ異なる航路へ入る。
四番。
六番。
七番。
誘導弾が一発ずつ、間隔を空けて発射される。
発射するたびに、背部の重量と重心が変わる。
《みらい》は両脚を固定したまま、腰部の角度を少しずつ修正していく。
アイ『装着者の心拍数上昇。左肩周辺の圧力増加を確認』
軍医「渡邉さん、状態は?」
隼人「意識明瞭。呼吸異常なし。続ける」
最後の八番発射筒。
アイ『姿勢安定を確認』
隼人「八番、発射」
ボシュッ――!
七発目の誘導弾が発射筒を離れた。
主推進装置が点火する。
白い航跡を残しながら、先行する六発を追って湾外へ向かう。
アイ『全使用可能弾の発射を完了しました』
隼人「発射筒を安全状態へ」
アイ『了解。全発射回路を遮断します』
背部の表示灯が消える。
七本の誘導弾は、すでに肉眼では見えない。
《みらい》から送られてくる飛行情報だけが、各弾は位置と機体状態に加え、終末段階では捜索装置の映像を断続的に《みらい》へ送信していた。
七つの光点が湾外へ出る。
高度を下げる。
海面近くへ降り、複数の航路へ分かれていく。
アイ『全弾、第一経由地点を通過。味方艦艇への接近なし』
隼人は射撃姿勢を崩さなかった。
まだ終わっていない。
発射しただけでは、敵へ何の影響も与えていない。
七発が敵艦隊へ到達し、目標を捕捉するまで見届けなければならなかった。
呉鎮守府南西沖。
即応連合艦隊の上空へ、敵第二次攻撃隊が近づいていた。
大型爆撃機。
艦上攻撃機。
その前方と上空には、銀灰色の高速機。
残存する直掩隊は、敵攻撃隊の三分の一にも満たない。
旗艦赤城の艦橋では、通信員が雑音に覆われた受信機へ耳を当てていた。
「呉からと思われる信号です! 内容は断片的ですが、東側、誘導兵器、接近するなと繰り返しています!」
赤城(艦娘)「東側から……?」
赤城は海図を見る。
艦隊の東側は、呉へ続く航路から外れている。
味方航空隊の増援が来る方向でもない。
先ほど上空を飛んでいた小型の無人偵察機。
それを送り込んだ渡邉隼人の装備。
赤城は、通信の意味を理解した。
赤城(艦娘)「全艦へ伝達。東側へ変針しないでください。現在の北東針路を維持します」
「了解!」
旗流信号が掲げられる。
近距離通信が届く艦へ、同じ命令が送られる。
赤城(KAN-SEN)『何か来ますの?』
赤城(艦娘)「呉からの援護だと思われます」
赤城(KAN-SEN)『思われる、ですか』
赤城(艦娘)「詳細は分かりません。ですが、今は信じます」
敵第二次攻撃隊との距離が縮まる。
赤城たちに、東の海面を監視する余裕はなかった。
赤城(艦娘)「残存直掩隊、敵爆撃機へ向かってください。高速機を追う必要はありません」
赤城(KAN-SEN)『こちらも残った戦闘機を上げますわ。次の一撃だけは、何としても止めます』
両航空母艦から、残存する戦闘機が発艦する。
損傷した飛行甲板。
不足する燃料。
残り少ない弾薬。
それでも、飛べる機体を一機ずつ空へ送り出していく。
艦隊外周では、秋月が展開する駆逐艦が対空砲を上空へ向けていた。
秋月(艦娘)『敵第二次攻撃隊を確認! 全対空火器、射撃準備!』
海防艦を援護していた二隻の駆逐艦も、曳航を続けながら対空砲を旋回させる。
艦隊は逃げながら、次の攻撃を迎え撃つ態勢へ入った。
その東側。
海面すれすれを、七つの小さな影が通過していく。
即応連合艦隊から約十キロ離れた位置。
通常捜索装置は、まだ停止したまま。
味方艦艇へ反応することなく、七発の誘導弾が南西へ変針する。
その先には、敵艦隊がいた。
アイ『全弾、第二経由地点を通過しました』
呉の岸壁。
隼人の視界上で、七つの光点が敵艦隊の予測海域へ近づいていく。
アイ『主要妨害源からの電波放射を継続して探知』
隼人「受動探知へ移行」
アイ『了解。全弾、受動探知装置を作動します』
七つの光点が、それぞれ僅かに進路を変える。
敵が発している妨害電波を捉えた。
主要な発信源。
補助的な二つの発信源。
設定された配分に従い、三つの集団へ分かれていく。
アイ『第一目標を捕捉。三発追尾中』
アイ『第二目標を捕捉。二発追尾中』
アイ『第三目標を捕捉。二発追尾中』
隼人「通常捜索装置も作動。目標形状を確認しろ」
アイ『了解』
誘導弾の機首にある捜索装置が、海面上の物体を捉える。
味方艦隊ではない。
大型空母級。
巡洋艦級。
無人偵察機が記録した艦影と照合される。
アイ『三目標とも識別条件に合致』
隼人「攻撃継続」
アイ『了解しました』
敵艦隊。
中央の大型空母級で、警報が鳴り響いた。
東側から接近する複数の小型高速目標。
敵艦隊の対空砲が、一斉に旋回する。
護衛の駆逐艦級と巡洋艦級が、誘導弾の進路へ砲火を集中させた。
無数の曳光弾が、海面近くを飛ぶ弾体へ向かう。
一発目が弾幕へ入った。
至近距離で砲弾が炸裂する。
弾体が破片を浴び、海面へ突き刺さった。
高い水柱が上がる。
アイ『第一目標へ向かう誘導弾一、反応消失』
別の誘導弾へ、銀灰色の高速機が急降下する。
機銃弾が弾体の後部へ命中した。
推進装置が砕け、誘導弾が海面を跳ねながら崩壊する。
アイ『第二目標へ向かう誘導弾一、反応消失』
残る五発が、敵艦隊の対空砲火を避けるように進路を分ける。
第三目標へ向かっていた一発の前方へ、敵巡洋艦級が大量の金属片と煙を放出した。
捜索装置の画面が、無数の反応で埋め尽くされる。
誘導弾が本来の目標から外れる。
煙幕の中へ突入。
そのまま海面へ落下した。
アイ『第三目標へ向かう誘導弾一、目標を喪失』
七発のうち、三発が失われた。
残る四発。
第一目標へ二発。
第二目標へ一発。
第三目標へ一発。
敵艦隊の対空砲が、さらに激しく火を噴く。
第一目標へ向かう一発が、海面から僅かに高度を上げた。
空母級の飛行甲板前部へ向かう。
至近距離から至近弾の破片を浴び、弾体の外装が剝がれる。
それでも進路は変わらない。
飛行甲板の右舷前部へ命中した。
ドガァァァンッ!!
爆炎が飛行甲板を横切る。
発艦準備をしていた航空機が吹き飛ばされ、燃料と弾薬へ火が移った。
飛行甲板上に黒煙が噴き上がる。
続く二発目は、空母級の艦橋後方へ回り込んだ。
妨害電波を放っていた大型のアンテナ群。
通信設備。
電探。
その基部へ弾体が突き刺さる。
爆発。
艦橋後部が炎と破片に包まれた。
林立していたアンテナが折れ、海面へ落下する。
アイ『第一目標への命中を二発確認』
第二目標。
巡洋艦級が回避のため、右へ急旋回する。
だが、誘導弾は電波放射を追い続けていた。
艦橋正面を外れ、前部マストの基部へ命中する。
爆炎が上部構造物を包む。
妨害用のアンテナと通信設備が吹き飛んだ。
アイ『第二目標への命中を一発確認』
第三目標へ向かう最後の一発。
敵巡洋艦級の対空砲が、正面から射撃を続ける。
弾体の左側へ複数の破片が命中した。
誘導弾が僅かに傾く。
それでも飛行を続ける。
目標の艦尾近くへ接近。
後部上構と、そこに設置された電波放射設備へ命中した。
爆発によって後部マストが崩れ、甲板上へ倒れ込む。
アイ『第三目標への命中を一発確認』
四発が命中。
三発が失われた。
沈没を確認できる艦はない。
中央の空母級も、炎を上げながら航行を続けている。
だが、飛行甲板前部では火災が拡大し、艦橋後方の通信設備は原形を失っていた。
左右の巡洋艦級も、上部構造物から黒煙を噴き上げている。
数秒後。
敵艦隊から放射されていた妨害電波が、大きく乱れた。
主要な一波が消える。
続いて、左側から届いていた補助波も途切れる。
右側の妨害波だけが断続的に残った。
アイ『主要妨害源の停止を確認』
隼人「残る発信源は?」
アイ『補助妨害源一。出力が大幅に低下しています』
隼人「了解した…」
射撃姿勢を解除し、背部モジュールの重量を支持台へ預けた。
隼人の左耳へ、これまで雑音に埋もれていた複数の無線通信が流れ込んでくる。
呉鎮守府。
沿岸監視所。
出撃準備中の救援艦隊。
そして、南西海域の即応連合艦隊。
赤城(艦娘)『こちら即応連合艦隊旗艦、赤城! 呉鎮守府、応答してください!』
明瞭な声だった。
完全ではない。
所々に雑音が混じる。
それでも、互いの言葉を聞き取れる。
大淀『こちら呉鎮守府! 赤城、聞こえています!』
赤城(艦娘)『通信および電探が回復しました! 敵艦隊中央部で複数の爆発を確認!』
大淀『こちらから対艦誘導弾七発を発射しました。妨害艦三隻へ四発の命中を確認しています』
赤城(艦娘)『七発……』
赤城の声が、一瞬だけ止まる。
だが、敵第二次攻撃隊はすでに目前へ迫っている。
驚いている時間はなかった。
大淀『救援艦隊が出撃準備中です。到着まで持ちこたえてください!』
赤城(艦娘)『了解しました。ここからは、こちらで戦います』
即応連合艦隊の各艦で、停止していた電探画面に反応が戻る。
味方艦。
敵艦。
上空から接近する第二次攻撃隊。
近距離通信しか使えなかった艦隊が、再び一つの指揮系統へつながっていく。
赤城(艦娘)『全艦へ。通信を回復しました』
赤城の声が、艦隊全体へ届く。
赤城(艦娘)『敵攻撃隊は正面、高度四千五百。高速機は左右へ分かれています。対空砲火を正面の爆撃機へ集中してください』
秋月(艦娘)『了解! 対空射撃を正面へ集中します!』
赤城(KAN-SEN)『私の戦闘機隊を右側へ回しますわ。そちらの直掩隊は左から敵爆撃機を崩してください』
赤城(艦娘)『お願いします』
敵の高速機は、対艦誘導弾の迎撃へ一部を割かれていた。
残る機体も、妨害中枢の損傷によって統一された誘導を失っている。
二機は爆撃隊の前方。
三機は右側。
別の機体は、損傷した空母級の上空へ戻ろうとしていた。
これまでのように、同じ時刻、同じ方向から艦戦隊へ襲いかかる態勢ではない。
第二次攻撃隊そのものは健在。
数でも即応連合艦隊を上回っている。
だが、完璧に連携した一つの編隊ではなくなっていた。
赤城(艦娘)「今なら、止められます」
赤城は受話器を強く握る。
赤城(艦娘)『全艦、対空戦闘用意!』
艦隊の各所で、高角砲と機関砲が上空へ向けられる。
残存する艦戦隊が、敵爆撃機の正面へ上昇していく。
通信を取り戻した即応連合艦隊が、初めて一つの艦隊として敵第二次攻撃隊を迎え撃とうとしていた。
敵第二次攻撃隊が、即応連合艦隊の対空射程へ入った。
赤城(艦娘)『距離一万二千! 正面の大型爆撃機を優先してください!』
艦隊各艦の高角砲が、ほぼ同時に砲撃を開始する。
ズドンッ!
ズドンッ!
砲弾が敵編隊の前方へ向かって上昇する。
数秒後。
敵大型爆撃機の周囲に、黒い爆煙が次々と開いた。
最初の斉射は遠い。
赤城の艦橋で、電探員が敵編隊の進路と速度を読み上げる。
「敵大型機、針路変わらず! 高度四千三百へ降下!」
赤城(艦娘)「照準修正。二百メートル下へ!」
修正された射撃諸元が、通信を通じて各艦へ送られる。
次の斉射。
今度は敵編隊の中央へ、複数の爆煙が開いた。
一機の大型爆撃機が、右主翼付近で爆発を受ける。
機体が傾いた。
編隊を離れ、黒煙を引きながら高度を落としていく。
その間を、両方の赤城が送り出した残存艦戦隊が上昇した。
赤城(艦娘)『左側の爆撃機編隊へ。攻撃は一度だけ。護衛機が来る前に離脱してください』
赤城(KAN-SEN)『こちらは低空の攻撃機を止めますわ。魚雷を落とされる前に叩きなさい』
二つの艦戦隊が上下へ分かれる。
艦娘側の艦戦隊は、大型爆撃機の左前方へ回り込む。
重桜側の艦戦隊は高度を下げ、海面近くを接近する攻撃機へ向かった。
敵高速機が反応する。
二機が艦娘側の艦戦隊へ。
三機が重桜側へ進路を変えた。
だが、妨害中枢が損傷したことで、敵機の動きには僅かなずれが生じていた。
二機はすぐに降下した。
残る機体は一度上昇し、異なる角度から接近しようとしている。
同じ時刻に、一つの射撃位置へ入る動きではない。
数秒のずれ。
それだけでも、月光や艦戦では追いつけない高速機を避ける余裕が生まれる。
赤城(艦娘)『敵高速機二、左上方から接近! 攻撃を中止して散開してください!』
警告を受けた艦戦隊が、爆撃機へ射撃を加える前に左右へ分かれる。
直後。
銀灰色の高速機が、上空から編隊の間を通過した。
機銃が火を噴く。
一機の艦戦が主翼を撃ち抜かれ、海面へ向かって落下する。
別の一機も胴体から煙を上げた。
しかし、艦戦隊全体を射線へ捉えることはできなかった。
高速機はそのまま降下する。
大きく旋回しなければ、次の攻撃へ移れない。
赤城(艦娘)『残存機、爆撃機へ戻ってください!』
散開した艦戦が、再び敵大型機へ機首を向ける。
先ほどの回避で隊形を崩した爆撃機編隊。
その外側にいる一機へ射撃が集中した。
機銃弾が左側エンジンと操縦席周辺へ命中する。
エンジンから炎が噴き出した。
爆撃機は高度を維持できず、編隊から離れていく。
一方、低空。
敵艦上攻撃機が、即応連合艦隊の右側へ回り込んでいた。
機体下部には魚雷。
重桜の艦戦隊が、その正面から接近する。
赤城(KAN-SEN)『先頭ではなく、中央を狙いなさい。攻撃隊を二つに分けますわ』
重桜の艦戦隊が機銃を発射する。
先頭機ではない。
編隊中央を飛ぶ二機へ弾丸を集中させた。
一機が魚雷を抱えたまま炎上する。
もう一機は機首を上げ、隣の機体との衝突を避けた。
後続する攻撃機も、炎上した機体を避けるため左右へ散る。
密集していた雷撃隊が、三つに分かれた。
そこへ、敵高速機が突入する。
重桜の艦戦一機が機銃弾を受け、空中で爆発した。
続く二機が被弾。
それでも、高速機は分散したすべての艦戦を同時に追うことはできない。
残った重桜艦戦隊は、敵攻撃機へ食らいついた。
赤城(KAN-SEN)『深追いする必要はありません。魚雷を捨てさせれば十分ですわ』
攻撃機二機が、回避するため魚雷を海へ投棄した。
別の一機も上昇へ転じる。
だが、残る攻撃機は進路を維持した。
数では、依然として敵が優勢だった。
「敵雷撃機、右舷から接近!」
赤城(艦娘)『航行可能艦、面舵! 曳航隊は現針路を維持! 雷撃回避!』
命令が、艦隊全体へ伝わる。
航行可能な艦艇が一斉に右へ舵を切った。
損傷艦を曳航している駆逐艦は、通常の速力で旋回できない。
周囲の巡洋艦と駆逐艦が、その外側へ移動する。
敵攻撃機が魚雷を投下した。
複数の白い航跡が、海面へ伸びる。
秋月(艦娘)『右舷雷撃機へ射撃を集中します!』
秋月の十センチ高角砲が、低い角度へ向けられる。
砲撃。
先頭の攻撃機近くで砲弾が炸裂した。
機体が破片を浴び、海面へ墜落する。
続く二十五ミリ機銃が、別の一機へ射撃を集中させた。
右翼が砕ける。
攻撃機は姿勢を崩し、投下直後の魚雷へ衝突するように海へ消えた。
残る魚雷が艦隊へ迫る。
高速で旋回できる艦は、その進路から外れた。
だが、航行不能の海防艦三号と、それを曳航する駆逐艦二隻は間に合わない。
「海防艦三号へ魚雷接近!」
護衛についていた巡洋艦が、曳航中の三隻と魚雷の間へ入る。
高角砲と機関砲を魚雷の航跡へ。
海面へ弾丸が集中する。
一発の魚雷が途中で爆発した。
高い水柱が上がる。
残る二発。
一発は海防艦の船尾を僅かに外れた。
もう一発が、護衛に入った巡洋艦の左舷中央部へ命中する。
ドガァァァンッ!!
船体側面から、海水と金属片が吹き上がった。
巡洋艦が大きく傾く。
『こちら能代! 左舷中央部に被雷!』
KAN-SENの能代が展開する巡洋艦だった。
船体内部へ海水が流れ込む。
左舷側の機関出力が低下した。
赤城(KAN-SEN)『能代、状態を報告なさい!』
能代(KAN-SEN)『左舷に浸水! ですが、機関は一基生きています!』
赤城(艦娘)『後退できますか?』
能代(KAN-SEN)『速力は落ちますが、動けます! 海防艦の護衛を継続します!』
被雷した能代は、左舷へ傾きながらも進路を維持した。
対空砲も射撃を続けている。
魚雷攻撃は終わった。
だが、上空から大型爆撃機が接近している。
「敵爆撃機、爆撃針路へ!」
赤城(艦娘)「来ます!」
残存直掩隊が敵爆撃機へ攻撃を加える。
対空砲火が、その周囲へ集中する。
一機。
さらに一機。
損傷した爆撃機が編隊から遅れる。
それでも十機以上が、即応連合艦隊の上空へ到達した。
爆弾倉が開く。
赤城(艦娘)『全艦、各個回避!』
大型爆撃機から、複数の爆弾が切り離された。
黒い点が次第に大きくなる。
艦隊上空へ、広い範囲にわたって落下してくる。
最初の爆弾が海面へ着弾した。
巨大な水柱。
続いて二発目。
三発目。
巡洋艦と駆逐艦の間で爆発が続く。
至近弾の爆圧が、海防艦三号の上部構造物をさらに破壊した。
人間の乗員たちが甲板へ伏せる。
別の爆弾が、駆逐艦一隻の艦首へ命中する。
爆炎が前部甲板を包んだ。
主砲塔の一基が沈黙する。
それでも艦は曳航索を切らなかった。
旗艦赤城の飛行甲板にも、爆弾が迫る。
一発が右舷近くへ落下した。
水柱が飛行甲板より高く立ち上がる。
海水と破片が甲板へ降り注ぐ。
二発目。
飛行甲板後部へ向かってくる。
赤城が取舵を切った。旋回に伴い、巨体がゆっくりと傾く。
爆弾は飛行甲板の端を掠め、海面へ落下する。
至近距離で爆発。
後部飛行甲板の外板がめくれ上がり、待機していた航空機一機が海へ押し流された。
「飛行甲板後部、損傷!」
「着艦区域の一部が使用不能!」
赤城(艦娘)「火災は?」
「ありません!」
赤城(艦娘)「なら、まだ動けます!」
爆撃機群が艦隊上空を通過する。
機銃と高角砲が、離脱する敵機を追って射撃を続けた。
敵高速機も、一度だけ艦隊へ機銃掃射を加える。
巡洋艦の上部構造物。
駆逐艦の対空砲座。
海防艦の甲板。
各所から火花と破片が飛び散った。
しかし、通信を回復した艦隊は、敵機の接近方向を互いに伝え続けている。
高速機が現れるたび、付近の艦艇が対空砲火を一方向へ集中させた。
一機の銀灰色機が、駆逐艦へ機銃掃射を加えたあと上昇する。
その進路上へ、秋月の高角砲弾が炸裂した。
機体右側へ破片が突き刺さる。
高速機は黒煙を引きながら艦隊上空を離れ、敵艦隊方向へ戻っていった。
敵第二次攻撃隊が離脱を始める。
撃墜された機体。
損傷して高度を落とす機体。
魚雷や爆弾を投棄した機体。
依然として多数が残っている。
だが、一度の攻撃で即応連合艦隊を壊滅させることには失敗した。
「敵攻撃隊、南西へ離脱!」
「高速機も後退します!」
赤城は艦橋から艦隊全体を確認する。
被雷した能代。
艦首を損傷した駆逐艦。
航行不能の海防艦三号。
そのほかにも、至近弾と機銃掃射による損傷艦が複数。
無傷の艦は一隻もない。
それでも、沈没した艦はなかった。
赤城(艦娘)『全艦、被害を報告してください。航行可能艦は北東針路を維持。損傷艦を艦隊中央へ移します』
各艦から、次々と返答が届く。
通信は途切れない。
誰が動けるのか。
誰が曳航を必要としているのか。
負傷者をどの艦へ移すのか。
情報が旗艦へ集まり、再び艦隊全体へ指示として返される。
敵の妨害によって失われていたものが、ようやく戻っていた。
赤城(KAN-SEN)『敵水上部隊の動きが変わりましたわ』
重桜の赤城から報告が入る。
回復した電探上。
追撃していた敵艦隊が、僅かに速度を落としている。
中央の大型空母級は火災を起こしたまま。
二隻の巡洋艦級も、艦隊から遅れ始めている。
護衛艦艇の一部が、損傷した三隻の周囲へ集まっていた。
先頭の戦艦級だけは追撃を続けようとしている。
だが、ほかの艦との間隔が広がり始めていた。
赤城(艦娘)「敵も、隊形を維持できなくなっている……」
赤城(KAN-SEN)『このまま追えば、あちらも護衛から離れますわ』
赤城(艦娘)「それに、私たちの位置は呉へ伝わっています」
敵は、電探と通信を封じたまま、一方的に追撃することはできない。
呉鎮守府は、敵艦隊のおおよその位置と進路を把握している。
救援艦隊も向かっている。
追撃を続ければ、今度は敵側が呉の増援と即応連合艦隊の間へ入ることになる。
数分後。
敵戦艦級が最後の主砲射撃を行った。
砲弾が艦隊後方へ落下する。
水柱が上がる。
命中はない。
敵戦艦級はそのまま左へ舵を切り、損傷した空母級の方向へ戻り始めた。
「敵艦隊、針路を南西へ変更!」
「追撃を中止した模様!」
艦橋内に、安堵の気配が広がりかける。
赤城はすぐにそれを抑えた。
赤城(艦娘)「まだ終わっていません。敵艦隊が見えなくなるまで警戒を続けてください」
敵には、呉の誘導弾が七発で打ち止めになったとは分からない。第二射がない保証もなかった。
「了解!」
赤城(艦娘)「救援艦隊との合流を優先。損傷艦を一隻も残さず、呉へ戻ります」
即応連合艦隊は、速度を落としたまま北東へ進み続ける。
航行不能の海防艦を曳航し。
被雷した能代を隊形の中央へ入れ。
損傷した駆逐艦を、動ける艦艇が左右から守る。
敵を撃滅したわけではない。
敵空母級八隻のうち、沈没を確認できた艦は一隻もない。
それでも、連合艦隊を包囲していた追撃は止まった。
帰るための航路が、ようやく開かれた。
呉鎮守府、試験岸壁。
アイ『敵主要妨害源の停止状態が継続しています』
隼人「即応連合艦隊は?」
アイ『通信を維持。敵第二次攻撃隊の離脱を確認しました』
隼人は視界上へ表示される味方の通信を聞いていた。
損傷報告。
負傷者の数。
曳航索の状態。
救援艦隊との予想到達時刻。
声が届いている。
それだけで、艦隊がまだ存在していることが分かる。
大淀『渡邉さん。敵水上部隊が追撃を中止しました』
隼人「確認した」
大淀『即応連合艦隊は、救援艦隊との合流を目指して北東へ航行中です』
隼人「そうか」
短く答えた直後。
左肩へ鋭い痛みが走った。
隼人「……ッ」
《みらい》の身体が僅かに揺れる。
右脚を動かそうとしたが、足元へ力が伝わるまで一瞬遅れた。
アイ『装着者の姿勢変化を確認』
軍医「渡邉さん!」
軍医が隼人の正面へ回り込む。
軍医「状態を報告してください!」
隼人「意識はある。目眩もない。左肩が、急に痛んだだけだ」
軍医「即時中止です。装備を解除してください」
隼人「任務は終わった」
アイ『対艦攻撃任務の終了を確認しました』
隼人「発射装置を停止。技術班区画へ戻る」
アイ『了解。対艦攻撃モジュールを完全安全状態へ移行します』
発射筒の電源が遮断される。
隼人は歩き出そうとした。
だが、軍医が右手を上げて止める。
軍医「歩かないでください」
隼人「区画まで、すぐそこだ」
軍医「歩かないでください」
同じ言葉が、今度はさらに強い口調で繰り返された。
技術要員が急いで台車と支持具を運んでくる。
《みらい》をその場で支え、対艦攻撃モジュールを取り外す準備を始めた。
隼人は反論しなかった。
敵の追撃は止まった。
即応連合艦隊との通信も回復している。
ここで自分が立ち続ける理由は、もうなかった。
隼人「アイ。軍医の指示に従う」
アイ『了解しました』
軍医「ようやく素直になりましたね」
隼人「必要なことが終わったからな」
軍医「次は、治療が必要なことです」
夕張と明石が背部モジュールの固定具を外す。
重量が支持台へ移される。
《みらい》の背中から、八本の発射筒がゆっくりと離れていった。
続いて胸部装甲が開く。
固定具が解除される。
技術要員と衛生員が、隼人の身体を支えながら装備の外へ出した。
左肩の包帯には、新しい血が僅かに滲んでいた。
軍医の表情が険しくなる。
軍医「傷が開きかけています。すぐに救護所へ戻します」
隼人「歩ける」
軍医「車椅子です」
隼人「……分かった」
用意されていた車椅子へ、隼人が腰を下ろす。
夕張が、空になった七本の発射筒を見る。
夕張(艦娘)「沈めた艦は、一隻もないのですよね」
隼人「ああ」
夕張(艦娘)「それでも、艦隊を救えた……」
隼人「救ったのは、自分たちで第二次攻撃を防いだ赤城たちだ。こちらは敵の妨害を止めただけだ」
明石(KAN-SEN)「でも、それがなかったら戦えなかったにゃ」
隼人「なら、役には立った」
隼人の車椅子が、技術班区画へ向けて動き始める。
その左耳へ、再び通信が届いた。
赤城(艦娘)『呉鎮守府。こちら即応連合艦隊旗艦、赤城』
大淀『こちら呉鎮守府。どうぞ』
赤城(艦娘)『敵艦隊の追撃停止を確認しました。救援艦隊との合流まで、残り二十五分です』
大淀『了解しました。救援艦隊にも位置を送ります』
短い間。
赤城(艦娘)『それから、渡邉隼人さんは、そちらにいらっしゃいますか?』
大淀が回答する前に、隼人が通信へ接続する。
隼人「聞いている」
赤城(艦娘)『渡邉さん……先ほどの攻撃は、あなたが?』
隼人「呉鎮守府の許可を受け、《みらい》から誘導弾を発射した」
赤城(艦娘)『おかげで通信と電探を取り戻せました』
隼人「そちらが持ちこたえたから間に合った」
赤城(艦娘)『それでも、あなたが見つけてくれなければ、私たちは今も妨害電波の中にいました』
赤城の声の奥では、復旧作業を命じる声や負傷者を運ぶ足音が続いている。
戦闘は終わっても、艦隊には多くの仕事が残されていた。
赤城(艦娘)『必ず全員で帰ります』
隼人「分かった。呉で待っている」
赤城(艦娘)『はい』
通信が切れる。
隼人は左耳の端末から手を離した。
そのまま背もたれへ身体を預ける。
アイ『渡邉隼人。心拍数は依然として高い状態です』
隼人「救護所へ着くまでには下がる」
アイ『根拠を確認できません』
隼人「そうか」
アイ『安静を要求します』
隼人「今から戻るところだ」
アイ『了解しました』
車椅子が技術班区画の中へ入る。
背後では、《みらい》が支持台へ固定され、停止処理へ移行していた。
使用可能な対艦誘導弾は、すべて撃ち尽くした。
小型無人偵察機も失われた。
隼人の負傷も悪化している。
それでも、即応連合艦隊へ通じる無線は、途切れず技術班区画へ流れ続けていた。
誰も置き去りにはなっていない。
少なくとも今は、それで十分だった。
はい。
合計6日かかりました(半ギレ)
中々セリフの構成が決まらなかったため長引きました。
申し訳ないです。
次回は少しウマ娘の方に行きますので少々時間がかかります。
後、モチベーションアップのためコメントをお願いします...
お気に入りコメントお願いいします。
※2026年8月26日リメイク完了
好きな子がいたら適当に投票どうぞ!
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HK416
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VSK-94
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AK-12
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AR-15
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アズールレーン 赤城
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アズールレーン 加賀
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艦これ 赤城
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艦これ 加賀
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雷電
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スカイレイダー
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シュバァルベ
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渡邉 蓮
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渡邉 隼人
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渡邉 勇翔
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小貝 高虎