陸自はドールズフロントライン、海自は艦これとアズールレーン、空自はアッシュアームズ三つの世界でバラバラになりながらでも生き残る 作:ゴーストライターとかした、素人小説書き
この小説は、シリアスとギャグが少し入っています。
それがいやな方は、上にある矢印ボタンでブラウザバックを推奨します。
もし、この作品の元ネタアッシュアームズが分からない方は、ぜひブラウザバックの後。
グーグル先生にお聞きください。
それでも、大丈夫な方はご覧ください。
Act.2 二人の身体と、この世界の現状。そしてスカウト
病院の屋上でCityを見せられてから、およそ二時間後。
渡邉勇翔と小貝高虎は、病院内にある特別応接室へ案内された。
病室ほど無機質な場所ではない。
壁には落ち着いた色の布が張られ、窓際には観葉植物が置かれている。
中央には低い卓と、それを挟むように配置されたソファ。
部屋の隅には医療機器も用意されているが、患者を診察する場所というより、重要な面会に使われる部屋らしかった。
勇翔は、引き続き車椅子へ座っている。
腰部には幅の広い固定帯。
右腕には点滴。
小貝も左腕を固定したまま、勇翔の隣へ腰を下ろしていた。
代理人は二人の正面にある執務机へ向かい、大きな椅子へ座った。
深く腰を下ろした途端、小柄な身体が机の向こうへ沈む。
銀色のバイザーと頭の上半分だけが、机越しに見えていた。
勇翔は黙って視線を逸らした。
隣では、小貝の口元が僅かに動いている。
代理人「……今、笑いましたか?」
小貝「笑っていない」
代理人「では、なぜ口元が緩んでいるんです?」
小貝「気のせいだ」
勇翔「小貝さん。顔に出ていますよ」
小貝「お前も目を逸らしているだろう」
勇翔「僕は何も見ていません」
代理人「二人とも、覚えておいてくださいね」
代理人は椅子から降りると、応接用に置かれていた背の低い椅子へ座り直した。
今度は、卓を挟んで互いの顔が見える。
僅かな笑いが消えると、代理人の声からも柔らかさが薄れた。
代理人「ここへ来てもらったのは、二人に知らせなければならないことがあるからです」
代理人の隣には、勇翔たちを診察した医師が座っている。
その手には、複数の検査記録を収めた端末があった。
代理人「最初に、二人の身体について説明します」
勇翔「腰の症状以外にも、何か見つかったんですか?」
代理人「負傷についてではありません。二人が、現在使っている身体そのものについてです」
勇翔が僅かに首を傾げる。
小貝は代理人から医師へ視線を移した。
小貝「回りくどい言い方だな。俺たちの身体に何が起きている?」
代理人は、すぐには答えなかった。
一度だけ医師と視線を交わし、言葉を選ぶように口を開く。
代理人「二人が極東重鋼学連の中央区画で発見された時、すでに生命活動は停止していました」
室内から音が消えた。
勇翔は代理人の言葉を理解しようとするように、数秒間動かなかった。
勇翔「……停止していた?」
医師「呼吸、心拍、脳活動。そのすべてが確認できない状態でした」
小貝「待て」
小貝が身を乗り出しかける。
左腕の固定具が僅かに軋み、付き添っていた医療要員が動こうとする。
小貝は無事な右手を上げ、それを制した。
小貝「俺たちは今、ここにいる。意識も記憶もある。死亡していたという診断の方が間違っていたんじゃないのか?」
医師「死亡判定の誤りではありません」
小貝「なら、どうやって生き返らせた?」
医師ではなく、代理人が答えた。
代理人「TARDISを使用しました」
勇翔「……ターディス?」
代理人「Traversable Acausal Retrograde Domain in Space-time――灰燼教会が管理しているシステムです。正式名称が長いため、通常はTARDISと呼んでいます」
代理人が卓上へ薄い端末を置く。
端末の上に、人間の身体を模した半透明の立体像が現れた。
骨格。
筋肉。
血管。
神経系。
それらが層ごとに分けられ、ゆっくりと回転している。
代理人「TARDISは、DOLLSの素体を構築するために使用されています。身体情報だけでなく、人格、記憶、運動経験に相当する情報も扱うことができます」
勇翔「それを使って、僕たちの身体を治したんですか?」
代理人は首を横へ振った。
代理人「治療ではありません」
立体像の一部が崩れ、光の粒子へ変わる。
その隣では、同じ形を持つ新たな身体が組み上げられていく。
代理人「損傷した身体を修復したのではなく、新しい身体を構築し、回収できた人格情報を定着させました」
勇翔は自分の右手を見る。
指を開く。
閉じる。
皮膚の感触も、関節の動きも、事故以前と何も変わらない。
勇翔「つまり、この身体は……事故に遭う前まで使っていた身体ではない?」
代理人「はい」
代理人は曖昧にせず答えた。
小貝の表情が険しくなる。
小貝「元の身体はどうなった?」
代理人「灰燼教会が管理する施設で保管されています」
小貝「俺たちに確認させることはできるか?」
代理人「今すぐ直接というわけにはいきません。ただし、回収時の映像と検査記録は開示できます」
小貝「損傷状況を聞かせろ」
代理人が医師を見る。
医師は端末に表示された記録を確認した。
医師「小貝少佐は両下肢に致命的な損傷がありました。顔面および上半身にも広範囲の熱傷。胸部と腹部の臓器も、生命を維持できる状態ではありませんでした」
小貝は、自分の両脚へ目を向ける。
病院から貸与された服の下にあるのは、傷一つない脚だった。
足先を動かす。
床を踏む感覚もある。
続いて右手を衣服の胸元へ差し入れた。
左胸の下。
かつて銃弾を受け、長く残っていた傷痕の位置を指で探る。
何度触れても、皮膚の隆起は見つからなかった。
小貝「……ない」
勇翔「何がですか?」
小貝「昔の傷だ。胸を撃たれた時の傷痕が消えている」
小貝は衣服から手を抜いた。
驚きよりも、理解できないものに対する警戒が表情に現れている。
小貝「古傷は再現されなかったのか?」
代理人「身体機能に必要のない損傷は、構築時に除外されたと考えられています」
小貝「考えられている?」
代理人「TARDISの動作原理を、僕たちが完全に理解しているわけではありません」
小貝の眉が動く。
小貝「理解していないものを、俺たちに使ったのか?」
代理人「使わなければ、二人が目を覚ます可能性はありませんでした」
代理人は、小貝の視線を正面から受け止めた。
代理人「本人の同意を得ずに行ったことは認めます。謝罪もします。ただ、判断できる本人がすでに死亡していた以上、事前に意思を確認する方法はありませんでした」
小貝は反論しなかった。
納得したわけではない。
それでも、あの状況で代理人たちが選べた手段が多くなかったことは理解していた。
勇翔が医師を見る。
勇翔「僕の身体は、どんな状態だったんですか?」
医師「聞く必要がありますか?」
勇翔「自分のことですから」
勇翔の口調は穏やかなままだった。
だが、目を逸らす様子はない。
医師は一度だけ息をつき、記録を読み上げた。
医師「航空機の構造材と思われる金属片が、背部から胸部へ貫通していました。脊髄、肺、心臓に致命的な損傷。頭部にも強い衝撃を受けており、脳組織の一部が損傷していました」
勇翔は黙った。
腰へ右手を添える。
そこには固定帯しかない。
金属が身体を貫いた傷もなければ、手術痕もなかった。
勇翔「それで、腰が痛かったんですね」
医師「現在の腰部に、貫通損傷は存在しません」
勇翔「でも、神経が強く反応していると言っていましたよね?」
医師「はい。再構築された神経系が、死亡直前に受けた損傷の情報を再現していると考えられます」
立体画像が切り替わる。
腰部周辺の神経と筋肉が、赤い光で表示された。
医師「実際には存在しない傷に対し、神経が痛みを伝え続けています。その刺激によって筋肉が強く収縮し、一時的な炎症も起きました」
勇翔「身体は治っているのに、神経だけが怪我を覚えているんですか?」
医師「簡単に表現するなら、そうなります」
勇翔「ずいぶん律儀な身体ですね……」
勇翔は困ったように笑った。
だが、腰へ添えた右手は離れない。
医師「薬で症状は抑えられます。身体と人格情報の同調が進めば、痛みも軽減すると予想しています」
勇翔「予想、ですか」
医師「あなた方のような例は、これまでにありません」
医師は小貝の左腕へ目を向けた。
医師「小貝少佐の左腕も同様です。骨格や筋組織に損傷はありませんが、神経信号と身体動作の間に僅かなずれがあります。過度に動かすと痙攣や炎症を起こすため、現在は固定しています」
小貝「腕そのものが壊れているわけではないんだな?」
医師「はい。無理をしなければ、同調が進むにつれて改善する可能性が高いでしょう」
小貝「なら、しばらくは従う」
勇翔「小貝さんが素直ですね」
小貝「お前よりはな」
勇翔は反論しかけたが、先ほど勝手に起き上がろうとして腰を痛めたことを思い出し、口を閉じた。
小貝「DOLLSを造る技術だと言ったな」
代理人「はい」
小貝「では、俺たちもDOLLSなのか?」
代理人は少しだけ考えた。
代理人「身体の構築方法だけを見れば、DOLLSに近い存在です」
小貝「近い?」
代理人「これまでTARDISによって構築されたDOLLSは、すべて女性型でした。別の世界から来た成人男性の人格が、そのまま定着した例は確認されていません」
勇翔「僕たちが最初なんですね」
代理人「少なくとも、灰燼教会が保有している記録の中では」
小貝「人間なのか、DOLLSなのか。それすら決まっていないということか」
代理人「現在は、DOLLSに準じる未分類存在として扱われています」
小貝「未分類存在か」
小貝の声が低くなる。
代理人が僅かに姿勢を正した。
代理人「教会内部で管理上必要となる、便宜的な分類です。二人を物として扱うための呼び方ではありません」
小貝「そうであることを願う」
短い沈黙が流れる。
勇翔は、自分の手を見つめていた。
掌の線。
指先の感覚。
握った時に生じる皮膚の皺。
事故以前の身体と違う部分を探しても、何も見つからない。
勇翔「代理人さん」
代理人「はい」
勇翔「僕たちの意識も、TARDISが作ったものなんですか?」
代理人は、すぐには答えなかった。
勇翔「事故に遭う前の僕を、そっくり写しただけなら……今ここで話している僕は、本当に僕なんでしょうか」
小貝「勇翔」
勇翔「大丈夫です。ただ、そこは知っておきたいです」
勇翔は自分の手を見たまま続けた。
勇翔「僕の記憶を持って、僕と同じように考える別の誰かを作っただけなのか。それとも、事故に遭った僕が、この身体で目を覚ましたのか」
代理人「分かりません」
代理人の答えは短かった。
代理人「TARDISの記録上、二人の人格情報は、事故が発生した時点から現在の身体へ途切れることなく定着しています。二人の感覚としても、事故の直後にここで目を覚ましたように感じているはずです」
勇翔「はい」
代理人「しかし、それが意識そのものの移動なのか、完全な複製なのかを証明する方法はありません」
勇翔が僅かに目を伏せる。
代理人「僕が断言できるのは、今ここにいる二人が、回収された二人と同じ記憶、人格、技能を持っているということだけです」
小貝「肝心なところは、本人たちで決めろということか」
代理人「無責任に聞こえるかもしれません。ですが、僕が二人の存在を勝手に定義することもできません」
勇翔は、もう一度右手を握った。
手の中に、確かな感触がある。
小貝がいる。
蓮と隼人を覚えている。
事故以前まで歩んできた時間も、失った仲間たちの顔も覚えている。
それが複製された情報だったとしても、今の勇翔にとっては、自分自身が歩んできた記憶だった。
勇翔「……すぐには答えが出そうにないですね」
代理人「急いで決める必要はありません」
勇翔「分かりました。今は、僕が僕だと思っておきます」
小貝「それでいい」
小貝が即座に答えた。
小貝「少なくとも、俺が知っている渡邉勇翔は目の前にいる」
勇翔は小貝を見る。
それから、僅かに笑った。
勇翔「ありがとうございます」
小貝は何も答えず、視線を代理人へ戻した。
小貝「ほかにも確認したい。この身体は死なないのか?」
代理人「いいえ」
代理人は明確に否定した。
代理人「病気には強く、老化も一般的な人間より遅いと予想されています。しかし、負傷すれば血も流れます。痛みも感じます。身体や人格情報の中枢が完全に破壊されれば、再構築できる保証はありません」
小貝「何度でも生き返るわけではない、と」
代理人「はい。TARDISを使えば必ず元に戻れるというものでもありません。失われた記憶や人格まで、完全に復元できるとは限りません」
勇翔「不死身になったわけじゃないんですね」
代理人「決して、そう考えないでください。無茶をすれば、今度こそ戻れない可能性があります」
勇翔「分かりました。そこは勘違いしないようにします」
小貝「こいつには、繰り返し言っておいた方がいい」
勇翔「小貝さんにだけは言われたくないです」
小貝が僅かに眉を上げる。
代理人の口元にも、小さな笑みが浮かんだ。
*
説明は一度中断された。
医師が勇翔と小貝の状態を確認し、点滴の量と固定具を調整する。
身体に大きな構造上の異常はない。
だが、二人とも再構築された神経と身体の同調が安定していなかった。
長時間の歩行。
急激な運動。
強い精神的負荷。
そのすべてを、当面は禁止された。
医師が退室して間もなく、応接室の扉が静かに叩かれた。
雷電「代理人、失礼します。零式さんから、お茶を預かってきました」
代理人「どうぞ」
扉が開く。
茶器を載せた盆を持った女性が、穏やかな足取りで入ってきた。
濃紺の制帽。
焦げ茶色から、毛先に向かって黄褐色へ変わる長い髪。
赤紫色の瞳。
濃紺を基調とした制服には、複数のベルトと装具が取り付けられている。
柔らかな顔立ちと静かな微笑みは、初めて見る者にも警戒心を抱かせない。
勇翔たちを監視する警備員とは違い、彼女は武器を持っていなかった。
それでも、小貝は彼女の動きを目で追っている。
足音が小さい。
盆の上に並ぶ茶器も、歩いている間ほとんど揺れていない。
腕や足の運びにも無駄がなかった。
そして、その顔を見た瞬間。
勇翔の呼吸が止まった。
目の前にいる女性の輪郭が、記憶の中にいる一人の女性と重なる。
凜。
かつて勇翔が愛し、その目の前で命を失った女性。
同じ顔ではない。
髪も瞳の色も、着ている服も違う。
それでも、柔らかな目元や穏やかな声には、勇翔の記憶を揺さぶるほど似たものがあった。
小貝も雷電を見たまま、動かなかった。
彼も気づいている。
雷電は盆を卓へ置こうとしたところで、二人の視線に気づいた。
雷電「お二人とも、どうかされましたか?」
その声にあるのは警戒ではなく、純粋な心配だった。
雷電「顔色が優れないようですが……医療の方をお呼びしましょうか?」
勇翔は我に返り、視線を伏せた。
勇翔「……いえ。大丈夫です。すみません」
雷電は勇翔の様子を確かめるように、少しだけ身を屈める。
雷電「腰を痛めていると伺いました。無理はなさらないでくださいね」
勇翔「ありがとうございます」
雷電「初めてお会いしますね。私は、極東重鋼学連所属の雷電です」
勇翔「渡邉勇翔です。こちらは小貝高虎さんです」
小貝「よろしく頼む」
雷電「はい。よろしくお願いします」
雷電が穏やかに微笑む。
勇翔はその顔を見返したが、先ほどのように長く見つめることはしなかった。
似ている。
だが、目の前にいる女性は凜ではない。
雷電という名を持つ、別の一人の女性だった。
雷電「……私の顔に、何かありましたか?」
勇翔「すみません。以前知っていた人に、少し似ていたので」
雷電「知っていた方に?」
勇翔「はい。でも、人違いです。雷電さんは、その人ではありません」
勇翔の声は僅かに掠れていた。
雷電は一瞬だけ驚いたあと、表情をさらに柔らかくした。
雷電「そうだったんですね。驚かせてしまったのなら、すみません」
勇翔「いえ。雷電さんが謝ることではありません」
雷電「その方は、勇翔さんにとって大切な方だったんですね」
勇翔は、すぐには答えられなかった。
勇翔「……はい。とても大切な人でした」
雷電「でしたら、無理にお話ししなくて大丈夫です」
雷電は、それ以上尋ねなかった。
茶器を一つずつ卓へ並べる。
取っ手を二人が掴みやすい方向へ向け、勇翔の前に置く物だけは、車椅子から無理なく届く位置へ寄せる。
添えられた焼き菓子も、二人の手元へ同じ数ずつ分けられた。
雷電「零式さんが、お二人にも食べやすい物を選んだそうです。医師からも許可をいただいています」
勇翔「お気遣い、ありがとうございます」
小貝「いただこう」
代理人「雷電も一緒に食べていけば?」
雷電「ありがとうございます。でも、このあとは飛行訓練がありますので」
代理人「今日も行くんですか?」
雷電「はい。昨日の射撃記録に、少し気になるところがありました。次の出撃までに修正しておきたいんです」
雷電の口調は穏やかだった。
失敗を悔しがっている様子も、自分を追い込んでいる様子もない。
自分の不足を確かめ、次の鍛錬で修正する。
それを特別なこととは考えていないようだった。
雷電「代理人も、お二人へ一度に説明しすぎないでくださいね。目を覚ましたばかりなのですから」
代理人「分かっています」
雷電「本当ですか?」
代理人「……気をつけます」
雷電は満足したように頷いた。
雷電「それでは、私は訓練へ戻ります。お二人とも、何か必要な物があれば遠慮なく呼んでください」
勇翔「ありがとうございます、雷電さん」
小貝「訓練、気をつけてな」
雷電「はい。ありがとうございます」
雷電が一礼し、応接室を出ていく。
扉は音を立てないよう、静かに閉じられた。
足音が遠ざかる。
勇翔は、しばらく閉じた扉を見ていた。
小貝「勇翔」
勇翔「大丈夫です」
小貝「そうは見えん」
勇翔「驚いただけです。あれほど似ている人がいるとは思わなかったので」
小貝「凜に、か」
勇翔「はい」
勇翔は卓上の茶器へ視線を落とす。
勇翔「でも、雷電さんは凜ではありません」
小貝「分かっているならいい」
勇翔「雷電さんには、雷電さんの人生があります。それを僕の記憶と重ねて、同じ人として扱うわけにはいきません」
小貝は、それ以上何も言わなかった。
勇翔が自分に言い聞かせていることも、理解していた。
代理人も勇翔の過去について尋ねず、閉じた扉へ視線を向ける。
小貝「随分と穏やかな女性だな」
代理人「ええ。誰に対しても親切で、困っている人を放っておけない性格です」
小貝「だが、ただ世話好きなだけではなさそうだ」
代理人「分かりましたか?」
小貝「歩き方と物の扱い方を見ればな。周囲への注意も切らしていなかった」
代理人が端末を操作する。
そこへ、一つの航空戦闘記録が表示された。
代理人「雷電は、極東重鋼学連所属の空戦型DOLLSです」
勇翔「空戦型……」
代理人「飛行訓練と射撃訓練を欠かさず、実戦でも安定した戦果を上げています」
画面には、複数の敵性反応と、その中心を突き抜ける一つの飛行経路が示されていた。
左右から射撃を受けても進路を維持し、敵編隊の内側へ入り込んでいる。
小貝「随分と大胆な進入だな」
代理人「同じ部隊のDOLLSからも、大胆不敵だと評価されています」
勇翔「危険を承知で突っ込んでいるんですか?」
代理人「無謀に突撃しているわけではありません。敵の射線、速度、回避できる空間を事前に見極めています。その判断を支えているのが、毎日の訓練と記録の確認です」
小貝「恐怖で判断が遅れないのか」
代理人「雷電本人は、自分が勇敢だとは考えていません。ほかのDOLLSより感受性が低く、恐怖に鈍感なだけだと考えています」
勇翔は、閉じた扉を見る。
先ほどまで雷電は勇翔の顔色を心配し、茶器の向きまで整えていた。
本人が語る鈍感さと、他人へ向ける細やかな気遣い。
二つは、簡単には結びつかない。
小貝「恐怖を感じにくい者ほど、自分の限界を見誤ることがある」
代理人「だからこそ、雷電は感覚だけで飛びません。記録を確認し、自分の判断を修正し続けています」
小貝は表示された飛行経路を見つめた。
敵弾へ身を晒しているように見えて、その実、最も被弾しにくい僅かな空間を選び続けている。
小貝「相当な腕だ」
代理人「はい。信頼できるDOLLSです」
凜に似ているという事実だけでは、雷電という存在を説明できない。
彼女には、彼女自身の性格がある。
積み重ねてきた鍛錬がある。
共に戦い、その背中を見てきた仲間たちもいる。
勇翔は、ようやく卓上の焼き菓子へ手を伸ばした。
一口だけ食べる。
控えめな甘さだった。
勇翔「……おいしいですね」
代理人「零式が選んだ物ですから」
小貝「雷電が運んできたことは関係ないのか?」
代理人「運んでくれたことも大切です」
短いやり取りによって、室内に残っていた重さが僅かに和らいだ。
*
休憩を終えると、代理人は端末を操作した。
今度は、Cityとその外側を示す地図が表示される。
巨大な円。
その内側を、五つの区域が分けていた。
代理人「二人の身体について理解してもらうためには、この世界の状況も説明しなければなりません」
円の内側へ、人口と施設を示す無数の光点が現れる。
代理人「ここはCity。直径およそ四百キロメートルに及ぶ防衛圏に囲まれた要塞都市です。現在確認されている人類の大部分、およそ一億人が、この内側で暮らしています」
小貝「外側は?」
円の外へ、無数の赤い反応が表示された。
代理人「災獣――リセッターに占領されています」
表示が切り替わる。
鉱石と機械を組み合わせたような、異形の存在が映し出された。
人型に近いもの。
多脚のもの。
航空機を思わせる翼を持つもの。
大きさも形状も統一されていない。
代理人「リセッターが出現したのは、およそ二百年前です。目的も、発生した原因も分かっていません。分かっているのは、人類とその文明を攻撃するということだけです」
勇翔「通常の兵器は効かないんですか?」
代理人「絶縁層が残っている間は、ほとんど効きません」
リセッターの周囲へ、薄い層が表示される。
代理人「リセッターは、絶縁層と呼ばれる防護機構を持っています。大口径砲や誘導弾であっても、この層によって威力の大部分を無力化されます」
小貝「絶縁層を破壊する手段は?」
代理人「DOLLSが装備するARMSです。特殊な干渉によって、絶縁層を減衰、あるいは破壊できます」
勇翔「防御を消したあとなら、普通の砲弾や爆弾も通用する?」
代理人「はい。ただし、絶縁層は時間が経てば再生します。その前に本体を撃破しなければなりません」
小貝「DOLLSが防御を崩し、そこへ火力を集中する」
代理人「そのとおりです」
地図上の五つの区域が、それぞれ異なる色で表示された。
代理人「Cityの防衛と失地回復は、五つの学連が担当しています」
代理人は、一つずつ区域を示す。
代理人「星屑連邦学連。王立白薔薇学連。黒十字帝国学連。赤色十月同盟学連。そして、極東重鋼学連です」
東側の区域が拡大される。
代理人「二人が発見されたのは、この極東重鋼学連の管理区域でした」
勇翔「それで、日本語と同じ表示が多かったんですね」
代理人「学連ごとに使われる言語や文化、兵器体系が異なります。City内部で複数の言語が使われているのも、そのためです」
小貝「灰燼教会は、その五つをまとめる組織か?」
代理人「正確には、City全体の統治とTARDISの管理、対リセッター戦争の基本方針を定める組織です」
小貝「そして、お前がその教会の代理人」
代理人「はい。DOLLSの部隊運用と、学連間の調整を任されています」
勇翔「一人で全部やっているんですか?」
代理人「僕一人ではありません。各学連と教会の人員が補佐しています」
勇翔「それでも、大変そうですね」
代理人「……否定はしません」
代理人は僅かに肩を落とした。
それまで黙って表示を見ていた小貝が、地図上の極東重鋼学連を指す。
小貝「もう一つ聞く。俺たちは、なぜこの世界へ来た?」
代理人「分かりません」
小貝「TARDISが関係しているんじゃないのか?」
代理人「その可能性は高いと考えています」
端末へ、勇翔たちが発見された場所の画像が表示される。
地面の一部は黒く焼け、中心部には円を描くような痕跡が残されていた。
代理人「二人が出現する直前、極東重鋼学連の観測設備が異常な空間反応を検知しました。その反応は、TARDISの稼働時に観測されるものと似ています」
勇翔「灰燼教会が、僕たちを呼んだんじゃないんですか?」
代理人「教会が管理するTARDISを使い、二人の身体を再構築したのは事実です」
代理人は、そこで一度言葉を切る。
代理人「ですが、二人をこの世界へ移動させたのは僕たちではありません。当時、教会側のTARDISに稼働記録はありませんでした」
小貝「記録が残っていないだけでは?」
代理人「疑うのは当然です。ただ、現時点で僕が閲覧できる記録には、二人を対象とした操作はありません」
小貝「閲覧できる記録、か」
代理人「僕にも知らされていない情報が存在する可能性までは否定できません」
代理人は、自分の組織を無条件には擁護しなかった。
小貝は、その返答を聞いて僅かに目を細める。
勇翔「蓮兄さんと隼人兄さんも、別の場所へ飛ばされた可能性はありますか?」
代理人は慎重に答えた。
代理人「否定できません」
勇翔「Cityの中ではなく?」
代理人「今回の現象が別の世界から人を移動させたものなら、全員が同じ場所へ到着したとは限りません」
勇翔の表情に、僅かな希望が戻る。
代理人「ただし、それは二人の生存が確認されたという意味ではありません」
勇翔「分かっています」
代理人「現地の捜索は続けます。並行して、異常反応の記録とTARDISの稼働履歴も調査します」
勇翔「ありがとうございます」
勇翔は身体を動かさず、言葉だけで礼を伝えた。
今度は医師の指示を守っている。
小貝「俺たちの記憶についても聞かせろ」
代理人「記憶について、ですか?」
小貝「TARDISは、人格と記憶を新しい身体へ定着させたと言った。なら、教会は俺たちの記憶を見たのか?」
小貝の声は静かだった。
それでも、代理人を見る目には明確な警戒がある。
代理人「すべてを閲覧したわけではありません」
小貝「一部は見たということか」
代理人「人格を定着させる過程で、氏名、言語、職業、基本的な身体操作に関係する表層情報が記録されました」
小貝「どこまで知っている?」
代理人「二人が日本という国の軍事組織に所属していたこと。航空機の操縦資格を持っていること。階級と、おおまかな経歴です」
勇翔「それ以上の、個人的な記憶は?」
代理人「僕は閲覧していません」
勇翔「閲覧できない、ではなく?」
代理人「適切な権限と処理を使えば、より深い記憶へ接触できる可能性はあります」
勇翔の表情から、柔らかさが消えた。
代理人「ですが、深い領域への接触には、人格情報を損傷する危険があります。本人の同意なく実施することも認められていません」
小貝「規則を破る者がいない保証は?」
代理人「ありません」
代理人は即答した。
代理人「だからこそ、二人の人格情報へ接触した記録は、二人自身にも確認できるようにします。不正な閲覧が行われた場合にも、必ず記録が残るようにします」
小貝「俺たちにも監視させるということか」
代理人「信用を求めるなら、確認する手段も渡すべきです」
小貝は、しばらく代理人を見ていた。
小貝「分かった。今は、その説明を受け入れる」
代理人「ありがとうございます」
小貝「信用したとは言っていない」
代理人「それも分かっています」
代理人は端末の表示を消した。
卓上から光が消え、室内の照明だけが残る。
代理人「ここからは、僕個人の提案です」
小貝が僅かに姿勢を変える。
勇翔も代理人へ向き直った。
代理人「二人を、灰燼教会の協力者として迎えたいと思っています」
小貝「協力者?」
代理人「二人には、現在のCityには存在しない航空技術と戦術の知識があります」
小貝「それで、俺たちを戦力として使いたいのか?」
代理人「将来的には、その可能性もあります」
代理人は隠さなかった。
代理人「二人の新しい身体から、ARMSへの適合反応が確認されています」
勇翔「僕たちも、DOLLSと同じ兵装を使えるんですか?」
代理人「まだ分かりません。これまで存在しなかった男性型の身体です。実際に接続できるのか。接続できたとして、安全に運用できるのか。すべて検査が必要です」
小貝「適合した場合は?」
代理人「二人の希望と教会側の条件が一致すれば、航空戦力としての運用を検討します」
勇翔「今すぐ戦場に行け、という話ではないんですね」
代理人「今の二人を戦場へ出せば、敵と接触する前に倒れます」
勇翔「そこまではっきり言わなくても……」
代理人「勇翔大尉は、自分の状態を軽く考える傾向があると医師から聞いています」
勇翔「まだ一度しか起き上がろうとしていませんよ」
代理人「その一度で、十分に判断されたようです」
勇翔は困ったように笑い、反論を諦めた。
小貝「断った場合は?」
代理人「治療と保護は続けます。ただし、監視も継続します」
勇翔「監視もですか」
代理人「二人には身元を保証する記録がなく、TARDISと同種の異常現象によって現れました。その上、未知の男性型DOLLSに近い身体を持っています。無条件でCity内を自由に行動させることはできません」
勇翔「……まあ、それはそうですよね」
代理人「ただし、協力を断ったことを理由に処分したり、身体を廃棄したりすることはありません」
小貝「当然だ」
代理人「ええ。当然でなければならないことです」
代理人は二人を正面から見た。
代理人「僕が提案しているのは、取引です」
卓上へ、二人分の薄い資料が置かれる。
代理人「灰燼教会は二人の身分を暫定的に保証し、治療と生活の場所を用意する。二人の兄たちと、元の世界へ戻る方法の調査も続ける」
小貝「こちらは、航空技術と戦闘経験を提供する」
代理人「はい。最初は聞き取りと資料作成だけでも構いません。戦闘任務へ参加する場合は、その前に指揮系統、権限、待遇、任務内容を説明します」
小貝「兄たちの捜索は、俺たちが断っても続けるのか?」
代理人「続けます。二人の協力と、行方不明者の捜索は別の問題です」
小貝は数秒間、代理人を見つめた。
嘘を見抜こうとしているようだった。
やがて、ソファの背へ身体を預ける。
小貝「即答はできない」
代理人「構いません」
小貝「身体のことも、この世界のことも、まだ聞いたばかりだ。装備も部隊も見ていない状態では判断できん」
代理人「もっともな意見です」
勇翔も小貝の言葉に頷く。
勇翔「僕も、今すぐ入隊しますとは言えません」
代理人は静かに待った。
勇翔「でも、話を聞くことには同意します」
代理人「理由を聞いても?」
勇翔「僕たちを助けてくれたことには感謝しています。それに、この身体や兄たちのことを調べるには、教会の協力が必要です」
勇翔は窓の向こうを見る。
遠くには、Cityを囲む巨大な防壁の一部が見えていた。
勇翔「外で本当に大勢の人が戦っているなら、僕たちにできることもあるかもしれません」
小貝「勇翔」
勇翔「分かっています。助けてもらった恩だけで、命を預けるつもりはありません」
勇翔は小貝へ、柔らかく笑いかけた。
勇翔「だから、まず自分たちの目で確かめましょう。ここがどんな場所で、誰が何のために戦っているのか」
小貝は僅かに息を吐いた。
小貝「そうだな」
小貝が代理人を見る。
小貝「当面の検査と事情聴取には協力する。その間に、そちらの部隊と指揮系統を確認させてもらう」
代理人「分かりました」
小貝「正式な返答は、そのあとだ」
代理人「それで十分です」
代理人が右手を差し出した。
勇翔は、その手を見る。
先ほどまで、自分が人間なのか、複製なのかさえ分からなかった。
兄たちの所在も分からない。
元の世界へ戻れる保証もない。
目の前にいる代理人を、完全に信用できたわけでもなかった。
それでも、ここで何もせずに待っているだけでは、答えには近づけない。
勇翔は右手を伸ばした。
勇翔「では、しばらくお世話になります。代理人さん」
代理人の小さな手を握る。
代理人「こちらこそ。渡邉勇翔大尉」
続いて小貝も、無事な右手を差し出した。
小貝「まだ部下になったわけではないからな」
代理人「分かっています、小貝高虎少佐」
小貝「それならいい」
三人の手が離れる。
これは、入隊の誓約ではない。
戦場へ立つことを決めたわけでもない。
互いに何者なのかを確かめるための、暫定的な合意にすぎなかった。
窓の外。
Cityの上空を、一つの小さな機影が横切った。
航空機の輪郭に似ている。
だが、主翼の中央にいるのは一人の少女だった。
少女は巨大な兵装を身にまとい、防壁の外側へ向かって飛んでいく。
その姿を、勇翔と小貝は無言で目で追った。
未知の身体。
未知の組織。
未知の敵。
そして、二人がこれまで飛んだことのない空。
それでも、二人の視線は自然と同じ方向を向いていた。
はい。
なんか、かっこよくできた気がします。
しかし、こうゆうのは初めて書きましたがうまくいきませんね...
次回もがんばります!
お気に入り評価お願いします!
コメントもモチベーションアップのため書いてくださいお願いします...
※2026年8月26日リメイク完了
好きな子がいたら適当に投票どうぞ!
-
HK416
-
VSK-94
-
AK-12
-
AR-15
-
アズールレーン 赤城
-
アズールレーン 加賀
-
艦これ 赤城
-
艦これ 加賀
-
雷電
-
スカイレイダー
-
シュバァルベ
-
渡邉 蓮
-
渡邉 隼人
-
渡邉 勇翔
-
小貝 高虎