陸自はドールズフロントライン、海自は艦これとアズールレーン、空自はアッシュアームズ三つの世界でバラバラになりながらでも生き残る   作:ゴーストライターとかした、素人小説書き

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注意

この小説は、シリアスとギャグが少し入っています。
それがいやな方は、上にある矢印ボタンでブラウザバックを推奨します。

もし、この作品の元ネタアッシュアームズが分からない方は、ぜひブラウザバックの後。
グーグル先生にお聞きください。

それでも、大丈夫な方はご覧ください。



Act.3 自分達の愛機 F-3 A-10

Act.3 自分たちの愛機――F-3・A-10

 

 それから三日後。

 

 City中央医療区。

 

「ふんふふ~ん♪」

 

 白い軍服の裾を揺らしながら、代理人が病院の廊下を歩いていた。

 

 足取りは妙に軽い。

 

 その後ろを、勇翔と小貝が医療要員に付き添われながら進んでいる。

 

 再構築された身体と神経系の同調は、少しずつ安定し始めていた。

 

 小貝は左腕の固定具を外され、自力で歩く許可も出ている。

 

 勇翔も短い距離なら歩けるようになった。

 

 だが、腰部の神経反応が完全に収まったわけではない。

 

 長距離の移動では車椅子を使い、立ち上がる際には医療要員の補助を受けるよう命じられていた。

 

 現在も勇翔は車椅子へ座り、その後ろを医療要員が押している。

 

勇翔「あの、代理人さん」

 

代理人「何ですか?」

 

勇翔「僕たちは、どこへ向かっているんですか?」

 

代理人「着いてからのお楽しみです」

 

勇翔「それ、病院を出る前にも聞きましたよ」

 

代理人「何度聞かれても、答えは同じです」

 

 代理人は機嫌よく答える。

 

 勇翔は隣を歩く小貝を見る。

 

小貝「俺に聞くな。こいつは何も説明しなかった」

 

代理人「こいつではなく、代理人です」

 

小貝「なら、代理人。目的地を教えろ」

 

代理人「もうすぐ見えますよ」

 

 代理人が廊下の先を指す。

 

 建物の出口を抜けると、正面に巨大な係留塔が見えた。

 

 その上部から複数の索が伸び、一隻の巨大な飛行船を固定している。

 

 流線形の船体。

 

 下部へ設けられた船室。

 

 側面には灰燼教会の紋章。

 

 船体下部には、貨物と人員を収容するための複数の区画が並んでいた。

 

 勇翔は車椅子から身を乗り出すように、飛行船を見上げた。

 

勇翔「これに乗るんですか?」

 

代理人「はい。飛行船ツェッペリン。灰燼教会が使用している移動指揮所の一つです」

 

小貝「移動指揮所?」

 

代理人「壁外の調査、DOLLS部隊の輸送、作戦指揮、負傷者の収容。長期間の任務にも対応できます」

 

 小貝が巨大な船体を見上げる。

 

小貝「念のため聞くが、浮揚用の気体は水素じゃないだろうな」

 

代理人「水素?」

 

小貝「飛行船と火は、俺たちの世界では相性が悪い」

 

代理人「ああ、そういうことですか。浮揚にはヘリウムを使用しています。気嚢も複数に分割されているため、一部を損傷しただけでは墜落しません」

 

小貝「なら、少しは安心できる」

 

勇翔「少しだけなんですね」

 

小貝「航空機乗りが、初めて見る巨大飛行船を無条件で信用できるか」

 

勇翔「それは、まあ……確かに」

 

代理人「乗る前から不安になるような話をしないでください」

 

 係留塔と飛行船をつなぐ通路は、外気から遮断された可動式の連絡橋になっていた。

 

 入口には武装警備員が立っている。

 

 代理人が身分証を提示すると、警備員は敬礼して扉を開いた。

 

 三人は医療要員と共に、飛行船の内部へ入った。

 

     *

 

 飛行船ツェッペリン。

 

 船内は、勇翔が外から想像していた以上に広かった。

 

 左右へ伸びる通路。

 

 人員用の昇降機。

 

 壁面へ配置された通信設備。

 

 至るところを、灰燼教会の職員とDOLLSが行き交っている。

 

 大勢が動いているにもかかわらず、通路に混乱はない。

 

 床には移動方向を示す線が引かれ、人員用と貨物用の経路も分離されていた。

 

 代理人は通路を迷うことなく進み、一つの扉の前で止まる。

 

代理人「二人の服は、この中に用意しています」

 

勇翔「服ですか?」

 

代理人「病院の服のまま、船内を歩き回るわけにもいかないでしょう?」

 

 勇翔は自分の格好を見る。

 

 薄い上衣。

 

 身体を締め付けないように作られた、幅の広いズボン。

 

 病院内で過ごす分には困らない。

 

 だが、外部の施設を見学する服装ではなかった。

 

勇翔「できれば、もう少し早く教えてほしかったです」

 

代理人「驚かせたかったので」

 

小貝「それで余計な混乱を増やすのが、お前の趣味か?」

 

代理人「違います」

 

小貝「本当か?」

 

代理人「……少しだけです」

 

 代理人が扉を開く。

 

 中は二人用の更衣区画だった。

 

 壁際には縦長の収納棚。

 

 中央には長椅子。

 

 反対側には、着替えを終えたあとに身体の状態を確認するための検査装置も設置されている。

 

 代理人は収納棚の一つを指した。

 

代理人「二人が着ていた元の衣服は、検査のため教会の管理施設へ送っています。ここにあるのは、暫定協力者用として用意した制服です」

 

勇翔「暫定協力者用なんて、最初からあるんですね」

 

代理人「ありませんでした。三日間で仕立ててもらいました」

 

小貝「随分と仕事が早いな」

 

代理人「寸法は医療記録にあります。二人とも、身体を締め付けないよう調整してあります」

 

 代理人は二人へ、小型の通信端末を一つずつ手渡した。

 

代理人「着替えが終わったら、これで連絡してください。僕は外で待っています」

 

小貝「勝手にどこかへ行くなよ」

 

代理人「ここまで案内したのは僕なんですけど?」

 

勇翔「小貝さん。さすがに代理人さんも、自分が使っている船では迷いませんよ」

 

代理人「その言い方だと、ほかの場所では迷うように聞こえます」

 

勇翔「そんなつもりは……少ししかありません」

 

代理人「勇翔大尉まで!」

 

 代理人は不満そうに頬を膨らませ、更衣区画を出ていった。

 

 扉が閉まる。

 

 小貝が収納棚を開いた。

 

 中には二人分の制服が掛けられている。

 

 白と薄い灰色を基調とした上衣。

 

 濃い色のズボン。

 

 肩には短い外套。

 

 腰部には、小型通信機器や応急用品を収める収納具が取り付けられている。

 

 装飾は少ない。

 

 灰燼教会における階級も与えられていないため、階級章は付けられていなかった。

 

 勇翔は医療要員の補助を受け、車椅子から立ち上がる。

 

 腰へ力を入れる。

 

 以前のような激痛はない。

 

 それでも、身体の奥には薄い違和感が残っていた。

 

医療要員「着替えの途中で痛みや痺れが出たら、すぐに呼んでください」

 

勇翔「分かりました」

 

 医療要員が区画の外へ出る。

 

 二人だけになると、小貝は制服へ着替えながら扉へ視線を向けた。

 

 廊下の足音が離れたことを確かめ、声を抑える。

 

小貝「雷電のことだ」

 

 勇翔の手が、一瞬だけ止まった。

 

勇翔「……やっぱり、聞きますか」

 

小貝「あれだけ顔に出ていればな」

 

勇翔「そんなに分かりやすかったですか?」

 

小貝「俺が気づく程度には」

 

 勇翔は上衣の留め具を一つずつ締める。

 

 視線は手元へ向けたままだった。

 

小貝「凜に似ていた」

 

勇翔「……はい」

 

小貝「昨日から、考えは変わったか?」

 

勇翔「いいえ。雷電さんは雷電さんです」

 

 勇翔は迷わず答えた。

 

勇翔「極東重鋼学連の空戦型DOLLSで、毎日訓練を続けて、仲間と一緒に戦ってきた人です。凜に似ているからといって、その人生まで同じものとして扱うことはできません」

 

小貝「ならいい」

 

勇翔「ただ……」

 

 勇翔の手が止まる。

 

勇翔「最初に顔を見た瞬間だけは、凜が生き返ったのかと思いました」

 

 雷電の顔。

 

 穏やかな声。

 

 勇翔の体調を気遣い、無理に過去を尋ねなかった優しさ。

 

 記憶の中にいる凜と、あまりにも多くのものが重なっていた。

 

勇翔「もし、本当に凜だったら……僕のことを許すと思いますか?」

 

小貝「勇翔」

 

勇翔「凜が、あの時の記憶を持っていたら」

 

 勇翔の脳裏へ、古い光景が蘇る。

 

 銃声。

 

 炎。

 

 味方同士で交わされた怒号。

 

 制止を聞かず、武器を向けた兄。

 

 倒れていく仲間。

 

 その中にいた、一人の女性。

 

 自分は止めようとした。

 

 だが、止められなかった。

 

 手が届かなかった。

 

 結果として、凜は帰ってこなかった。

 

勇翔「僕は、止められませんでした」

 

小貝「お前一人で止められる状況ではなかった」

 

勇翔「それでも、もっと早く気づいていれば。もっと強引にでも兄さんを止めていれば、助かった人がいたかもしれません」

 

 勇翔の右手が、収納棚の縁を掴む。

 

 指へ力が入る。

 

 金属板が、小さな音を立てた。

 

 勇翔は驚いて手を離す。

 

 二人の視線が、僅かにへこんだ収納棚へ向けられた。

 

勇翔「……今、そんなに力を入れたつもりはなかったんですけど」

 

小貝「新しい身体の出力も、まだ把握できていないらしいな」

 

 小貝は勇翔の右手を確認する。

 

 皮膚に傷はない。

 

 痛めた様子もなかった。

 

小貝「だから、感情に任せて力を入れるのはやめておけ。次は収納棚では済まんかもしれん」

 

勇翔「壊すつもりはありませんでした」

 

小貝「お前にそのつもりがなくても、今の身体はそうではないらしい」

 

 小貝は制服の留め具を締め終え、勇翔の正面へ立った。

 

小貝「凜の死を忘れろとは言わん」

 

勇翔「……はい」

 

小貝「だが、雷電に凜の記憶も、お前の罪悪感も背負わせるな」

 

勇翔「分かっています」

 

小貝「雷電を見て凜を思い出すことと、雷電を凜の代わりにすることは違う」

 

 勇翔は小貝を見る。

 

 それから、静かに頷いた。

 

勇翔「雷電さんを、誰かの代わりにはしません」

 

小貝「なら、次に会った時も雷電として接しろ」

 

勇翔「そうします」

 

 勇翔は歪ませてしまった収納棚へ目を向けた。

 

勇翔「ところで、これはどうしましょう」

 

小貝「正直に謝れ」

 

勇翔「ですよね……」

 

 小貝が扉を開き、代理人を呼ぶ。

 

 事情を聞いた代理人は、歪んだ収納棚と勇翔の右手を交互に見た。

 

代理人「怪我は?」

 

勇翔「ありません」

 

代理人「痺れや、力が抜ける感覚は?」

 

勇翔「それもありません」

 

代理人「収納棚ではなく、勇翔大尉の身体について聞いていますからね?」

 

勇翔「分かっています」

 

代理人「本当ですか?」

 

勇翔「……今は分かっています」

 

 代理人は通信端末で医療要員を呼び、勇翔の右手と神経反応を確認させた。

 

 異常がないと分かってから、改めて収納棚を見る。

 

代理人「修理費は記録しておきます」

 

勇翔「すみません……」

 

代理人「身体能力の検査項目も増やします。今後は、物を掴む時にも気をつけてください」

 

勇翔「はい」

 

小貝「やはり、今日中に航空機へ乗せるのは無理だな」

 

勇翔「小貝さんまで、何を言っているんですか」

 

 代理人は、その言葉を聞いて僅かに笑った。

 

代理人「乗るかどうかは別として、見てもらう物はあります」

 

勇翔「見てもらう物?」

 

代理人「二人をここへ連れてきた、本当の理由です」

 

     *

 

 代理人の案内で、二人は飛行船下部へ向かった。

 

 医療要員も同行する。

 

 途中から人員用通路と貨物用通路が分かれ、警備も一段と厳しくなった。

 

 複数の隔壁。

 

 武装警備員。

 

 生体情報を用いた認証装置。

 

 代理人が三度目の認証を終えると、正面の巨大な扉が左右へ開いた。

 

 その先にあったのは、飛行船内部とは思えないほど広い格納庫だった。

 

 天井には大型起重機。

 

 左右の壁面には整備用の足場。

 

 床には、航空機を固定するための複数の装置が並んでいる。

 

 数十人の技術要員が、中央に置かれた二つの巨大な構造物を取り囲んでいた。

 

 二機の航空機。

 

 勇翔の呼吸が止まる。

 

 右側に置かれているのは、鋭い機首と傾斜した双垂直尾翼を持つ戦闘機。

 

 灰色の機体表面。

 

 胴体内部へ兵装を収容するための兵器倉。

 

 主翼の角度。

 

 空気取入口。

 

 操縦席周辺の細かな形状。

 

 そのすべてが、勇翔の知る機体と一致していた。

 

勇翔「……F-3」

 

 日本が開発した次世代戦闘機。

 

 F-3〈心神〉。

 

 特殊作戦部隊へ配属される以前から、勇翔が乗り続けてきた機体だった。

 

 勇翔の視線が、機首側面で止まる。

 

 一人の女性の横顔。

 

 その周囲を舞う桜の花弁。

 

 勇翔のために描かれたノーズアート。

 

 花弁の一枚だけ、塗装が僅かに欠けていた部分まで再現されている。

 

勇翔「僕の機体だ……」

 

 勇翔は車椅子の肘掛けへ手を置く。

 

 立ち上がろうとして、医療要員に肩を押さえられた。

 

医療要員「一人で立たないでください」

 

勇翔「少し近くで見るだけです」

 

医療要員「それでも補助します」

 

 勇翔は腰を支えられながら立ち上がった。

 

 一歩ずつ、F-3へ近づく。

 

 機体表面は、新品のように見えた。

 

 損傷も、飛行による汚れもない。

 

 それでも、細部には勇翔しか知らないはずの特徴が残されている。

 

 操縦席へ上がるための足掛け。

 

 整備員が取り付けた小さな識別記号。

 

 ノーズアートに残る僅かな塗りむら。

 

 勇翔は機体へ触れる直前で、手を止めた。

 

勇翔「触ってもいいですか?」

 

代理人「外装だけなら。ただし、操縦席にはまだ入らないでください」

 

勇翔「分かりました」

 

 勇翔の指先が、F-3の外板へ触れる。

 

 冷たい。

 

 金属に近い感触。

 

 だが、勇翔が知る機体の外板よりも僅かに滑らかだった。

 

 格納庫の反対側。

 

 小貝も、もう一機の前で立ち止まっていた。

 

 太く、長い直線翼。

 

 胴体後部へ高く配置された二基のエンジン。

 

 機首下部には、機体の中心線から僅かにずらして搭載された大型機関砲。

 

 細身の戦闘機とは対照的な、重厚な機体。

 

小貝「A-10……」

 

 A-10〈サンダーボルトⅡ〉。

 

 機体は灰色。

 

 主翼と胴体の一部には、低視認性塗装の日の丸が残されている。

 

 右の垂直尾翼には風神。

 

 左の垂直尾翼には雷神。

 

 小貝の機体に描かれていたものと同じ図柄だった。

 

 小貝は、しばらく二枚の尾翼を見上げていた。

 

小貝「撃墜記号は再現されていないか」

 

代理人「現在確認できている範囲にはありません」

 

小貝「現在確認できている範囲?」

 

代理人「二機とも、完成した航空機がそのままこの世界へ運ばれてきたわけではありません」

 

 代理人が二人の間へ立つ。

 

 勇翔がF-3から手を離した。

 

勇翔「どういうことですか?」

 

代理人「二機は、二人の身体が再構築された際、それぞれ別のTARDIS区画で構築されました」

 

小貝「俺たちと一緒に転移してきた機体ではないのか?」

 

代理人「二人が発見された広場には、航空機の残骸も、機体が存在した痕跡もありませんでした」

 

 代理人が技術要員へ合図する。

 

 格納庫の大型表示器に、二機の検査結果が映し出された。

 

代理人「外形と内部構造の多くは、二人の記憶に存在する航空機と一致しています。ただし、使用されている素材と内部のエネルギー反応には、ARMSと共通する性質があります」

 

勇翔「航空機の形をしたARMS……」

 

代理人「現時点では、その可能性が最も高いと考えています」

 

小貝「俺たちの記憶を読んで、TARDISが再現したのか?」

 

代理人「TARDISが二人の記憶を構築情報として参照した可能性はあります。ただし、教会の人員がその記憶を閲覧した記録はありません」

 

勇翔「僕たちの記憶を、機械だけが使った?」

 

代理人「断定はできません。構築処理の詳細そのものが、記録に残っていないからです」

 

小貝「また、分からないことが増えたな」

 

代理人「僕も同じ気持ちです」

 

 表示が切り替わる。

 

 機体内部の複数の系統が、赤い色で示された。

 

代理人「エンジンは未始動。燃料は搭載していません。兵装も取り外しています。火器管制装置と飛行制御系統は、外部から遮断しています」

 

小貝「それで、俺たちに見せた理由は?」

 

代理人「教会の技術要員では、二機の主要系統を起動できなかったからです」

 

 表示器へ、複数の警告表示が並ぶ。

 

代理人「操縦席へ接触しても、搭乗者として認識されない。外部電源を接続しても、飛行制御系統が反応しない。一方で、二人がツェッペリンへ入った直後から、補助電源に相当する微弱な反応が発生しています」

 

勇翔「僕たちが近くにいることを認識している?」

 

代理人「そう考えています」

 

小貝「だから、愛機との再会を用意したわけか」

 

代理人「驚きましたか?」

 

小貝「驚いたどころではない」

 

 小貝はA-10の機首を見る。

 

 かつて何度も見てきた形。

 

 操縦席の位置。

 

 翼下の懸架装置。

 

 そのすべてが、記憶の中にある機体と一致していた。

 

小貝「だが、今日飛ばすつもりはないんだな?」

 

代理人「もちろんです」

 

勇翔「操縦席を確認するだけでも……」

 

代理人「駄目です」

 

勇翔「まだ最後まで言っていませんよ」

 

代理人「言わなくても分かります」

 

勇翔「座るだけです」

 

代理人「駄目です」

 

勇翔「計器を見るだけでも」

 

代理人「駄目です」

 

小貝「諦めろ。今のお前が射出座席へ座れば、それだけで腰を痛める」

 

勇翔「射出はしませんよ」

 

小貝「そういう問題ではない」

 

 勇翔は名残惜しそうに、F-3を見上げた。

 

代理人「医師と技術班の許可が出れば、正式な適合試験を行います」

 

勇翔「いつ頃ですか?」

 

代理人「検査結果次第です」

 

勇翔「その答え、病院でも何度か聞きました」

 

代理人「便利な言葉ですから」

 

勇翔「認めてしまうんですね……」

 

 代理人が小さく笑う。

 

 その時。

 

 格納庫全体へ、低い警報音が響いた。

 

 赤い警告灯が回転を始める。

 

 それまで二機を取り囲んでいた技術要員が、一斉に動いた。

 

『警戒警報。東部外縁監視線において、リセッター航空型を確認』

 

 格納庫内の表示器が、自動的に広域地図へ切り替わる。

 

『敵性反応、二十四。City東部防壁へ接近中』

 

 代理人の表情が変わった。

 

 先ほどまで残っていた幼さが消える。

 

 通信端末を取り出し、即座に回線を開いた。

 

代理人「こちら代理人。東部迎撃部隊の状況を報告してください」

 

『第一迎撃隊、発進準備中。第二迎撃隊は兵装搭載を継続しています』

 

代理人「壁上対空部隊へ警戒態勢を発令。住民区画への警報は待機。敵の進路が変わらない場合、段階を引き上げます」

 

『了解しました』

 

 代理人が技術要員へ向き直る。

 

代理人「F-3、A-10の全系統を遮断。固定具を追加してください。格納庫の防火隔壁も閉鎖します」

 

「了解!」

 

 二機の周囲へ、整備用の固定具が追加される。

 

 兵装系統の接続口には封印が施された。

 

 勇翔と小貝のそばへ、二人の警備員が近づく。

 

代理人「二人は退避区画へ移動してください」

 

小貝「敵の高度と速度は?」

 

代理人「まだ暫定協力者でしかない二人へ、詳細な情報は渡せません」

 

小貝「なら、観測だけでもさせろ。航空型なら、飛び方を見れば戦術の一部を判断できる」

 

 代理人は一瞬だけ考える。

 

代理人「戦闘指揮所へは入れられません。ただし、非機密の観測映像を見ることができる区画なら用意できます」

 

小貝「それでいい」

 

勇翔「僕も行きます」

 

代理人「車椅子から立たないと約束できますか?」

 

勇翔「約束します」

 

代理人「F-3の操縦席へ向かわないとも?」

 

勇翔「それも約束します」

 

小貝「今の間は何だ」

 

勇翔「何もありません」

 

 格納庫の反対側にある隔壁が開いた。

 

 複数のDOLLSが、技術要員と共に入ってくる。

 

 装着用の器材。

 

 弾薬。

 

 それぞれのARMS。

 

 迎撃準備が始まる。

 

 その中に、見覚えのある長い髪があった。

 

 濃紺の制帽。

 

 焦げ茶色から黄褐色へ変わる髪。

 

 赤紫色の瞳。

 

 雷電だった。

 

 応接室で見せた穏やかな表情は変わらない。

 

 だが、動きには一切の迷いがなかった。

 

 技術要員から渡された記録板へ目を通す。

 

 弾薬数。

 

 推進剤の搭載量。

 

 通信周波数。

 

 ARMSとの接続状態。

 

 一つずつ、自分の目で確認していく。

 

雷電「雷電、ARMSとの接続を確認しました。主兵装、予備兵装ともに異常ありません」

 

「飛行制御系統、正常!」

 

雷電「第一迎撃隊との通信は?」

 

「回線を接続します!」

 

 雷電が装着具を締める。

 

 その横顔には、恐怖も興奮もない。

 

 ただ、与えられた任務を確実に果たすための集中があった。

 

 雷電が顔を上げる。

 

 格納庫の奥にいる勇翔たちへ気づいた。

 

 僅かに目を見開いたあと、二人へ穏やかな笑みを向ける。

 

雷電「勇翔さん、小貝さん」

 

勇翔「雷電さん」

 

雷電「警報で驚かせてしまいましたね」

 

小貝「俺たちのことは気にするな。任務に集中しろ」

 

雷電「はい」

 

 雷電は素直に頷いた。

 

雷電「それでは、行ってきます」

 

勇翔「気をつけてください」

 

小貝「必ず戻れ」

 

雷電「ありがとうございます。必ず戻ります」

 

 雷電は二人へ一礼すると、発進区画へ向かった。

 

 複数のARMSが淡い光を放ち、雷電の周囲へ展開していく。

 

 穏やかな女性の姿が、空戦を担うDOLLSのものへ変わる。

 

 格納庫外壁の一部が開き、その先へ青空が現れた。

 

 強い風が発進区画へ流れ込む。

 

 雷電は風の中でも姿勢を崩さない。

 

 射出装置へ足を固定し、前方を見据える。

 

『第一迎撃隊、発進許可』

 

雷電「雷電、発進します」

 

 射出装置が作動した。

 

 雷電の身体が、淡い光を引きながらツェッペリンの外へ飛び出す。

 

 一度だけ高度を落とす。

 

 直後、ARMSが推力を増し、雷電は飛行船の横を駆け上がった。

 

 後続のDOLLSも、次々と発進していく。

 

 勇翔と小貝は、その光景を見つめていた。

 

 目の前には、まだ動かないF-3とA-10。

 

 外の空では、雷電たちが戦場へ向かっている。

 

 今すぐ操縦席へ入りたいという衝動が、勇翔の胸へ浮かぶ。

 

 だが、約束どおり動かなかった。

 

 今の自分たちは、この世界の敵も、味方の戦い方も知らない。

 

 新しい身体の限界さえ、正確には理解していない。

 

 焦って飛べば、雷電たちを助けるどころか、余計な負担を増やすだけだった。

 

 勇翔は、F-3の機首へ目を向ける。

 

 桜の花弁に囲まれた女性の横顔。

 

 その向こうには、青い空が広がっている。

 

勇翔「……もう少しだけ、待っていてくれ」

 

 愛機へ向けて、静かに告げる。

 

 そして、戦場へ向かった雷電の姿を探すように、空を見上げた。

 

勇翔「無事に帰ってきてください。雷電さん」

 

 その二つの言葉を、勇翔は決して混同しなかった。

 




はい。
戦闘準備編でした。
かなり、短いですね...反省です...
次回もがんばります。

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※2026年8月26日リメイク完了

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