陸自はドールズフロントライン、海自は艦これとアズールレーン、空自はアッシュアームズ三つの世界でバラバラになりながらでも生き残る   作:ゴーストライターとかした、素人小説書き

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それでも、大丈夫な方はご覧ください。



Act.4 エースパイロットは、冷静で効率的であれ。

Act.4 エースパイロットは、冷静で効率的であれ。

 

 雷電たちが発進してから、間もなく十分が経過した。

 

 飛行船ツェッペリン。

 

 非機密観測区画。

 

 正面の大型表示器には、City東部防壁周辺の空域が映し出されている。

 

 青い光点が四つ。

 

 赤い光点が二十四。

 

 青は、先ほど発進した空戦型DOLLS。

 

 赤は、Cityへ接近する飛行型リセッター。

 

 数だけを比べれば、六倍の差がある。

 

 だが、雷電たちは敵の正面へ一直線に突入してはいなかった。

 

 高度を変え、互いの射線が重ならない間隔を保ち、接近してくる敵集団の外側から少しずつ削っている。

 

 前へ出ているのは、雷電とP-51Aマスタング。

 

 その後方を、Me262A-1aシュヴァルベとミーティアF Mk.Ⅰが支えていた。

 

 勇翔と小貝は、観測映像と簡略化された航空図を見つめている。

 

 勇翔は車椅子から立たなかった。

 

 操縦席へ向かわないという約束も守っている。

 

 それでも、表示器へ向ける目は、すでに戦闘機乗りのものへ変わっていた。

 

小貝「先頭の十六体は、速度を落とし始めたな」

 

勇翔「はい。でも、後方の八体は高度を上げ続けています」

 

 前方の敵集団は、雷電たちと交戦を始めている。

 

 その一方で、後方の八体は戦闘へ加わろうとしていなかった。

 

 高度を上げ、前方の味方を迂回するように北へ進路を変えている。

 

代理人「防壁を直接狙っていると思いますか?」

 

勇翔「まだ断定はできません」

 

 勇翔は即答しなかった。

 

 敵の速度。

 

 高度。

 

 個体同士の間隔。

 

 進路を変更した時機。

 

 表示されている情報を一つずつ確認する。

 

勇翔「前の十六体は、動きが大きすぎます。こちらへ存在を見せつけるように飛んでいる」

 

小貝「囮か」

 

勇翔「その可能性があります。後方の八体を通すために、迎撃隊を正面へ引きつけているのかもしれません」

 

代理人「ですが、後方の敵から強い攻撃反応は確認されていません」

 

勇翔「攻撃する必要がないのかもしれません」

 

 勇翔が、東部防壁の後方に表示された複数の施設を指す。

 

勇翔「監視塔。通信施設。壁上の対空陣地。敵がこちらの防空能力を調べに来たのなら、観測して帰るだけでも目的を達成できます」

 

小貝「あるいは、次の大規模攻撃に備えた経路確認だな」

 

 代理人の表情から、僅かに柔らかさが消えた。

 

代理人「後方の八体を優先するべきだと?」

 

勇翔「前の敵も放置できません。ですが、四人全員を正面へ残す必要はありません」

 

 勇翔は青い光点のうち、二つを指した。

 

勇翔「雷電さんとマスタングさんが前方の敵を拘束。その間に、シュヴァルベさんとミーティアさんを上昇させます。撃破できなくても、後方の八体へ進路変更を強要できれば十分です」

 

代理人「撃破しなくても?」

 

勇翔「敵の目的を潰すことが先です。全滅させる必要はありません」

 

 代理人は数秒だけ考えた。

 

 勇翔と小貝は正式な指揮要員ではない。

 

 それでも、二人が空戦に関する経験を持っていることは確認されている。

 

 代理人は提案を採用し、指揮回線を開いた。

 

代理人「こちら代理人。第一迎撃隊へ。後方高空を進む八体を警戒してください。シュヴァルベ、ミーティアは上昇。雷電とマスタングは現空域を維持してください」

 

雷電『了解しました』

 

シュヴァルベ『後方集団を確認した。これより上昇する』

 

ミーティア『承知しましたわ。シュヴァルベさんに続きます』

 

マスタング『閣下、こっちは二人で十六体を相手にするの?』

 

代理人「撃破ではなく拘束してください。深追いは禁止します」

 

マスタング『了解。だったら、せいぜい派手に引きつけてあげる!』

 

 四つの青い光点が二組に分かれた。

 

 シュヴァルベとミーティアが高度を上げる。

 

 その動きを察知した後方の八体が、進路を変え始めた。

 

 だが、前方の敵も黙ってはいない。

 

 六体が雷電たちから離れ、上昇中の二人へ向かった。

 

 観測映像が切り替わる。

 

 黒い外殻。

 

 昆虫に似た複数の翅。

 

 腹部へ並ぶ発光器官。

 

 飛行型リセッターが、シュヴァルベとミーティアへ攻撃を始めた。

 

 無数の光弾が空を埋める。

 

 シュヴァルベは身体を捻り、射線の隙間を通過する。

 

 ミーティアも後方へ続く。

 

 しかし、敵の攻撃は次第に二人の進路を狭めていった。

 

代理人「ミーティア、右へ離脱してください!」

 

ミーティア『右側にも敵がいますわ。現在の進路を維持します』

 

 その直後。

 

 一つの青い光点が、前方の交戦空域から急速に離れた。

 

 雷電。

 

 十体近い敵の間を抜け、シュヴァルベたちへ向かっている。

 

代理人「雷電、突出しすぎです!」

 

雷電『このままでは、ミーティアさんの離脱経路が塞がれます』

 

代理人「ですが、その進路には敵の射線が――」

 

 複数の光弾が雷電へ集中する。

 

 観測映像の中で、雷電は慌てる様子を見せなかった。

 

 上昇。

 

 横転。

 

 降下。

 

 最小限の動きで、次々と射線を外していく。

 

 それでも、すべてを避けられるわけではない。

 

 一発の光弾が雷電の左側を掠めた。

 

 主翼型ARMSの一部から、装甲片が飛び散る。

 

勇翔「……違う」

 

代理人「何がですか?」

 

勇翔「無理に飛び込んだんじゃありません。敵の射撃周期を読んでいます」

 

 敵の攻撃には、僅かな周期があった。

 

 すべての個体が同時に撃っているわけではない。

 

 前列が発射した直後、後列が照準を修正するまでに短い空白が生まれる。

 

 雷電は、その空白を通っていた。

 

 光弾の雨へ無防備に飛び込んだのではない。

 

 敵弾が最も少なくなる瞬間と場所を選んでいる。

 

 雷電が主翼型ARMSを展開する。

 

 短い射撃。

 

 先頭の飛行型リセッターの絶縁層が揺らぎ、続く弾丸が外殻を砕いた。

 

 敵が姿勢を崩す。

 

 雷電は撃破を確認することなく、その横を通過した。

 

雷電『ミーティアさん。右下方へ抜けてください』

 

ミーティア『助かりますわ、雷電さん』

 

雷電『シュヴァルベさんは、そのまま上昇を。後方の敵をお願いします』

 

シュヴァルベ『了解した。ここは任せる』

 

 ミーティアが高度を下げる。

 

 追おうとした敵の前へ、雷電が割り込んだ。

 

 自分へ敵の注意を集めながら、味方の離脱経路を確保する。

 

小貝「大胆だな」

 

勇翔「はい。でも、無謀ではありません」

 

 敵の射撃位置。

 

 味方の速度。

 

 自分が割り込む角度。

 

 すべてを、飛び込む前に見極めている。

 

 それを、恐怖を感じさせない穏やかな顔で実行していた。

 

 シュヴァルベとミーティアが後方集団へ接近する。

 

 八体のリセッターは、Cityへ向かう進路を維持できなくなった。

 

 二体が迎撃へ反転。

 

 残る六体も散開する。

 

 その時点で、高空集団は偵察部隊としての機能を失っていた。

 

 戦闘は、それから七分間続いた。

 

 撃破された敵は九体。

 

 三体が損傷。

 

 残る十二体は東へ退いた。

 

 City側にも損害は出た。

 

 雷電の左主翼型ARMSが損傷。

 

 ミーティアも右側の装甲板を失っている。

 

 だが、四人全員が帰還した。

 

 東部防壁にも被害はなかった。

 

     *

 

 発進区画へ、雷電が戻ってくる。

 

 着地と同時に技術要員が駆け寄り、損傷したARMSを固定した。

 

 雷電は自分の身体より先に、装備の状態を確認する。

 

雷電「左側の昇降翼が反応しません。内部の接続も確認してもらえますか?」

 

「分かりました。雷電さん自身に痛みは?」

 

雷電「左腕に少し痺れがあります。でも、動かせます」

 

「すぐに検査します」

 

 雷電は医療要員の指示に従い、ARMSとの接続を解除した。

 

 その近くでは、マスタングが腰へ手を当てている。

 

マスタング「まったく。あんな弾幕の中へ平然と入っていくなんて、どうかしてるわよ」

 

雷電「敵の射撃が途切れる場所はありましたよ」

 

マスタング「ほんの一瞬しかなかったでしょう?」

 

雷電「一瞬あれば通れますから」

 

マスタング「そういうところを言ってるの!」

 

 雷電は、なぜ注意されているのか分からないように首を傾げた。

 

 勇翔と小貝が、医療要員と共に発進区画へ入る。

 

 雷電は二人に気づくと、穏やかに笑った。

 

雷電「ただいま戻りました」

 

勇翔「お帰りなさい。左腕は大丈夫ですか?」

 

雷電「少し痺れているだけです。心配を掛けてしまいましたね」

 

勇翔「かなり心配しました」

 

雷電「すみません」

 

マスタング「もっと言ってあげて。雷電、自分がどれだけ危ないことをしたか分かってないから」

 

雷電「そこまで危険だったでしょうか?」

 

小貝「危険ではあった。だが、敵の射撃周期を読んでいたな」

 

 雷電が小貝を見る。

 

雷電「はい。前列の発射から、後列が照準を合わせるまでに僅かな間がありました。ミーティアさんの離脱に使えると思ったので」

 

勇翔「怖くはなかったんですか?」

 

 勇翔の問いに、雷電は少しだけ考えた。

 

雷電「……よく分かりません」

 

勇翔「分からない?」

 

雷電「私は、ほかの方より怖さを感じるのが遅いようです。あの時も、怖いと思うより先に、間に合うかどうかを考えていました」

 

 雷電は、自慢するようには言わなかった。

 

 勇敢であると誇ることもない。

 

 ただ、自分が感じたことをそのまま言葉にしている。

 

雷電「もしかすると、私は鈍いだけなのかもしれません」

 

小貝「本当に鈍い人間は、敵の射撃間隔まで数えない」

 

雷電「そうでしょうか?」

 

小貝「ああ。少なくとも、訓練していなければできん」

 

 雷電は僅かに目を伏せた。

 

 それから、照れたように笑う。

 

雷電「毎日続けていて、よかったです」

 

 勇翔は、その言葉を聞きながら雷電を見る。

 

 凜に似た顔。

 

 凜に似た声。

 

 だが、先ほど空を飛んでいたのは、勇翔の記憶の中にいる女性ではない。

 

 極東重鋼学連の空戦型DOLLS。

 

 訓練を積み重ね、仲間を守り、戦果を持ち帰った雷電だった。

 

代理人「雷電。話はそこまでです。検査室へ行ってください」

 

雷電「はい、代理人」

 

代理人「異常がなくても休むこと。今日の再出撃は禁止します」

 

雷電「分かりました」

 

 雷電は素直に頷く。

 

 医療要員に付き添われながら歩き出し、途中で勇翔たちへ振り返った。

 

雷電「勇翔さん、小貝さん。またあとで」

 

勇翔「はい。またあとで」

 

 雷電が発進区画を出る。

 

 勇翔は、その後ろ姿が扉の向こうへ消えるまで見送った。

 

代理人「どうでしたか?」

 

勇翔「何がですか?」

 

代理人「この世界の空戦です」

 

 勇翔は、観測区画で見た戦闘を思い返す。

 

勇翔「分からないことばかりです」

 

代理人「弱いと思いましたか?」

 

勇翔「いいえ」

 

 勇翔は即座に否定した。

 

勇翔「僕たちの世界とは、装備も敵の性質も違います。でも、雷電さんたちは状況を見て、互いを守りながら戦っていました」

 

小貝「不足しているのは技量ではない。情報と戦力だ」

 

代理人「それを、二人が補えると思いますか?」

 

小貝「まだ分からん」

 

 小貝が、格納庫の奥に置かれたF-3とA-10へ顔を向ける。

 

小貝「だから、確かめるんだろう?」

 

 代理人も二機を見る。

 

代理人「明日から、適合試験を始めます」

 

 勇翔が顔を上げた。

 

代理人「医師の許可が出た範囲で、ですが」

 

勇翔「操縦席には入れますか?」

 

代理人「最初は、座るだけです」

 

勇翔「それで十分です」

 

小貝「顔が笑っているぞ」

 

勇翔「小貝さんもですよ」

 

     *

 

 八日後。

 

 City東部航空基地。

 

 格納庫の扉が開く。

 

 朝の光を受けながら、二機の航空機が駐機場へ引き出された。

 

 F-3〈心神〉。

 

 A-10〈サンダーボルトⅡ〉。

 

 二機は、飛行船ツェッペリンから東部航空基地へ移されていた。

 

 この八日間、機体と搭乗者に対する検査が段階的に続けられた。

 

 初日は、操縦席への着座。

 

 勇翔が座った瞬間、それまで沈黙していたF-3の補助電源が起動した。

 

 小貝のA-10も同様だった。

 

 二日目は、外部電源を使用した計器と飛行制御系統の試験。

 

 三日目には、地上でエンジンを始動。

 

 四日目は、低速での地上走行と制動試験。

 

 五日目。

 

 二機は、City防衛圏内で初めて滑走路を離れた。

 

 着陸装置を下ろしたまま、低高度で周回。

 

 機体と搭乗者の双方に異常がないことを確認し、短時間で着陸した。

 

 六日目には、通常高度まで上昇。

 

 旋回、上昇、降下、失速からの回復、緊急操作を確認した。

 

 七日目は、DOLLSとの通信接続と模擬迎撃。

 

 段階ごとに医師と技術要員が記録を確認し、異常が一つでも見つかれば、その日の試験は中止された。

 

 二人は毎日、医療検査と身体訓練も受けている。

 

 再構築された身体は、以前より高い筋力を持っていた。

 

 だが、出力が増したからといって、以前と同じ感覚で航空機を操縦できるわけではない。

 

 操縦桿へ加える力。

 

 スイッチを押す指。

 

 首を動かす速度。

 

 呼吸。

 

 耐加速度動作。

 

 そのすべてを、新しい身体に合わせ直す必要があった。

 

 勇翔の腰部に残っていた神経反応は、投薬と訓練によって安定している。

 

 それでも、完全に消えたわけではない。

 

 身体へ異常が出た場合、操縦席へ警告が表示されるよう、生体監視装置が追加されていた。

 

 機体そのものにも、多くの不明点が残されている。

 

 エンジンは、勇翔たちの記憶にある航空燃料で稼働した。

 

 だが、機体を構成する素材の一部には、DOLLSが使用するARMSに近い性質がある。

 

 機体と搭乗者の間にも、通常の通信装置だけでは説明できない情報のやり取りが発生していた。

 

 通常の航空機ではない。

 

 かといって、DOLLSが身にまとうARMSとも異なる。

 

 人間が操縦する航空機の形を取った、未知のARMS。

 

 現時点では、そのように分類されていた。

 

 兵装にも改修が施された。

 

 機関砲弾と誘導弾には、ARMS用兵装から転用された干渉素材が組み込まれている。

 

 着弾直前に対象の絶縁層へ干渉し、防護を減衰させた直後に弾頭を作動させる構造だった。

 

 回収された絶縁層発生器を用いた地上試験では、通常弾よりも明確に高い効果が確認されている。

 

 だが、実際に飛行するリセッターへ命中させた記録はない。

 

 実戦で同じ結果を得られる保証はなかった。

 

 今日の予定は、本来ならDOLLSとの編隊飛行と模擬戦闘だった。

 

 しかし、夜明け前。

 

 City東部から約百二十キロメートル離れた開拓区域で、大規模なリセッター集団が確認された。

 

 航空型二十四。

 

 地上型三十六。

 

 合計六十。

 

 先日、東部防壁を偵察した集団よりも大きい。

 

 迎撃へ出られるDOLLSは十一人。

 

 空戦部隊。

 

 Me262A-1aシュヴァルベ。

 

 ミーティアF Mk.Ⅰ。

 

 雷電一一型。

 

 P-51Aマスタング。

 

 対地攻撃部隊。

 

 IL-2M。

 

 AD-1スカイレイダー。

 

 地上部隊。

 

 Ⅲ号戦車。

 

 M4シャーマン。

 

 Ⅷ号戦車マウス。

 

 センチュリオン。

 

 M18ヘルキャット。

 

 F-3とA-10を加えても、十三。

 

 数の上では、依然として大きな差があった。

 

 格納庫脇の作戦説明室。

 

 大型表示器には、開拓区域の地形と敵味方の配置が映されている。

 

 代理人が勇翔と小貝を見る。

 

代理人「二人には、出撃を断る権利があります」

 

小貝「機体と身体の検査結果は?」

 

代理人「規定上は、飛行可能と判定されています。通常飛行と模擬戦闘にも問題はありませんでした。ただし、実戦での安全を保証するものではありません」

 

小貝「保証のある実戦など存在しない」

 

代理人「それでも、二人にとっては、この身体と機体で行う最初の実戦です」

 

勇翔「兵装も、実際のリセッターへ使用したことはありません」

 

代理人「はい」

 

 代理人は、安易に出撃を促さなかった。

 

 敵が来ているから。

 

 戦力が足りないから。

 

 助けた恩があるから。

 

 そのような理由で、二人へ選択を強いることはしない。

 

代理人「無理だと判断した場合は、ここに残ってください。その結果については、僕が責任を負います」

 

 小貝が勇翔を見る。

 

小貝「どうする?」

 

 階級では、小貝が上官だった。

 

 戦闘へ参加する場合、現地部隊の戦術指揮も小貝が担当することになる。

 

 それでも、小貝は勇翔へ命令しなかった。

 

 この身体で初めて実戦へ出るかどうか。

 

 それだけは、本人が決めなければならない。

 

 勇翔は表示器を見る。

 

 航空型リセッターの進路。

 

 地上型リセッターの配置。

 

 すでに迎撃へ向かっている雷電たち。

 

 味方航空隊の支援を受けられなければ、地上部隊は上空と地上の双方から攻撃を受ける。

 

 敵航空部隊をすべて撃破する必要はない。

 

 対地攻撃隊が行動できる空間と時間を作ればいい。

 

勇翔「飛びます」

 

 迷いはなかった。

 

勇翔「ただし、敵の全滅は約束できません」

 

代理人「必要なのは撃破数ではありません」

 

 代理人が二人を正面から見る。

 

代理人「全員を、生きて帰してください」

 

 小貝の口元が僅かに緩む。

 

小貝「その命令なら分かりやすい」

 

勇翔「僕も同感です」

 

 代理人が卓上へ二枚の資料を置く。

 

 今回の作戦に限った戦闘協力承認書。

 

 灰燼教会の正式な所属となるものではない。

 

 二人が自らの意思で作戦へ参加し、与えられた範囲の指揮権限を行使することを認めるものだった。

 

 二人が内容を確認し、署名する。

 

代理人「現地における戦術指揮は、小貝少佐へ委任します。航空戦闘と空域管制に関する判断は、渡邉大尉へ委任します」

 

小貝「了解した」

 

勇翔「了解しました」

 

 表示器へ、二人の任務が示される。

 

 F-3は高空へ進出し、敵航空部隊の探知と迎撃。

 

 A-10は後方で待機。

 

 航空脅威が抑えられた時点で、IL-2MとAD-1スカイレイダーを伴い、地上部隊の支援へ移る。

 

 F-3とA-10では、速度も高度も役割も異なる。

 

 常に互いの翼を並べることはできない。

 

 それでも、二人が僚機であることは変わらなかった。

 

 勇翔が空を開き、小貝が地上への道を作る。

 

 そのための分担だった。

 

     *

 

 F-3〈心神〉。

 

 操縦席。

 

 勇翔は射出座席へ身体を収め、拘束具を確認した。

 

 肩。

 

 腰。

 

 脚。

 

 締め付けは正常。

 

 腰部にも痛みはない。

 

 酸素供給装置を接続。

 

 飛行服へ組み込まれた生体監視装置も作動している。

 

 勇翔はヘルメットを被り、通信端子を接続した。

 

 バイザーへ、機体の状態が表示される。

 

 外部電源、接続。

 

 主電源、待機。

 

 燃料搭載量、正常。

 

 兵装安全装置、作動中。

 

勇翔「RED 1。始動前点検を開始します」

 

『了解。地上電源、異常なし』

 

 整備員の声が、雑音のない状態で聞こえる。

 

 通常の無線と異なり、相手の声が頭のすぐ近くから伝わってくるようだった。

 

 機体とARMS技術を接続した通信系統。

 

 七日間の試験で聞き慣れ始めているが、元の世界の無線とは明確に異なる。

 

 勇翔は補助動力装置を起動した。

 

 低い駆動音。

 

 電源が安定する。

 

 表示器が一斉に点灯し、飛行制御装置の自己診断が始まった。

 

 右エンジン。

 

 始動。

 

 回転数上昇。

 

 油圧、正常。

 

 排気温度、正常。

 

 左エンジン。

 

 始動。

 

 二基のエンジン音が重なり、操縦席へ細かな振動が伝わる。

 

 懐かしい。

 

 だが、記憶の中にあるF-3と完全に同じではない。

 

 計器の配置は同じ。

 

 操縦桿の感触も同じ。

 

 それでも、機体の状態が手足の先から直接伝わってくるような感覚がある。

 

 自分の身体と航空機の境界が、僅かに薄くなっていた。

 

勇翔「飛行制御系統、自己診断」

 

 バイザーへ、主翼と尾翼の状態が表示される。

 

 勇翔が操縦桿とペダルを動かす。

 

 補助翼。

 

 昇降舵。

 

 方向舵。

 

 地上の整備員が実際の動作を目視し、一つずつ合図を返す。

 

『全舵面、正常』

 

勇翔「了解。航法装置、同期開始」

 

 慣性航法装置の整合。

 

 元の世界の衛星航法は利用できない。

 

 機体はCity側の地上基準局と接続し、自身の位置を修正する。

 

 現在位置。

 

 方位。

 

 高度。

 

 すべて正常。

 

 火器管制装置を試験状態へ切り替える。

 

 搭載兵装。

 

 中距離空対空誘導弾四発。

 

 短距離空対空誘導弾二発。

 

 二〇ミリ機関砲。

 

 誘導弾と砲弾には、絶縁層への干渉機能を持つ特殊弾頭と弾芯が使用されている。

 

 兵装そのものの操作方法は、勇翔が知るものと変わらない。

 

 だが、実戦でどこまで通用するかは分からなかった。

 

 勇翔は、兵装表示を確認するだけに留める。

 

 隣の駐機位置。

 

 A-10の二基のエンジンも始動した。

 

 小貝の声が回線へ入る。

 

小貝『BLUE 2。始動完了。通信感度は?』

 

勇翔「RED 1。感度良好です。そちらの生体監視は?」

 

小貝『問題なし。お前は?』

 

勇翔「腰部反応、基準値内。飛べます」

 

小貝『そうか』

 

 僅かな間。

 

小貝『勇翔』

 

勇翔「はい」

 

小貝『エースパイロットは、どうあるべきだ?』

 

 小松基地で訓練を受けていた頃。

 

 教官席にいた小貝が、何度も勇翔へ問い掛けた言葉だった。

 

 速く飛ぶこと。

 

 派手な機動を見せること。

 

 撃墜数を増やすこと。

 

 そのどれも、答えではない。

 

勇翔「冷静で、効率的であれ」

 

小貝『覚えていたか』

 

勇翔「忘れるわけないでしょう。何度も聞かされましたから」

 

小貝『なら、初実戦だからと浮かれるな』

 

勇翔「それは小貝さんもですよ」

 

小貝『俺は常に冷静だ』

 

勇翔「昨日、A-10のエンジン音を聞きながら笑っていましたよね?」

 

小貝『通信終了』

 

勇翔「都合が悪くなると切らないでください」

 

 返事はなかった。

 

 だが、別回線から小貝の小さな笑い声が聞こえた。

 

     *

 

 二機が誘導路へ入る。

 

 滑走路の左右には、複数の対空陣地が配置されていた。

 

 遠くに、Cityを取り囲む防壁が見える。

 

 空を切り取る巨大な壁。

 

 その一部に設けられた航空用開口部が、ゆっくりと開いていく。

 

 外の世界へ続く空。

 

 青く見えても、その先は人類の支配する領域ではない。

 

『RED 1、滑走路進入を許可。離陸後、方位〇八五。高度六千まで上昇してください』

 

勇翔「RED 1、了解」

 

 F-3が滑走路へ入る。

 

 機首を進行方向へ合わせる。

 

 制動。

 

 エンジン回転数上昇。

 

 計器を最終確認。

 

 異常なし。

 

『RED 1、離陸を許可します』

 

勇翔「RED 1、離陸」

 

 制動を解除。

 

 二基のエンジンが推力を増す。

 

 F-3が滑走を始めた。

 

 加速。

 

 速度計の数値が上がる。

 

 勇翔は操縦桿を僅かに引いた。

 

 前脚が滑走路を離れる。

 

 続いて、主脚。

 

 機体が空へ上がった。

 

 着陸装置を格納。

 

 上昇へ移行。

 

 身体へ加速度が掛かる。

 

 腰部の警告は出ない。

 

 視界も安定している。

 

勇翔「RED 1、離陸。機体、生体監視ともに異常なし」

 

 勇翔は短く息を吐いた。

 

 新しい身体。

 

 記憶から作られた愛機。

 

 そして、この世界で初めて向かう実戦の空。

 

 胸へ押し寄せるものはあった。

 

 だが、それを味わうのは帰還してからでいい。

 

 今は任務中だった。

 

 後方でA-10が離陸する。

 

 F-3より長く滑走路を使い、ゆっくりと高度を上げた。

 

小貝『BLUE 2、離陸。機体異常なし』

 

勇翔「RED 1、確認しました」

 

小貝『航空戦闘は任せる。俺は指示があるまで後方で待機する』

 

勇翔「了解。空を開けます」

 

小貝『急ぐ必要はない。確実にやれ』

 

勇翔「了解しました」

 

 F-3が上昇する。

 

 A-10との距離が開いていく。

 

 同じ速度で飛ぶ必要はない。

 

 互いが自分の役割を果たせばいい。

 

 勇翔はレーダーの走査範囲を広げた。

 

 City側の観測情報。

 

 雷電たちのARMSが送る敵位置。

 

 F-3自身のレーダー。

 

 複数の情報が統合され、バイザーへ表示される。

 

 赤い反応。

 

 二十四。

 

 そのうち、十六体が中高度。

 

 八体が高空。

 

 さらに地上には、三十六体の反応。

 

 敵航空部隊は、一つの集団ではなかった。

 

 中高度の十六体が味方迎撃隊を拘束。

 

 高空の八体が、その後方から戦況を観測している。

 

 先日の偵察と同じ構成。

 

 だが、今回は地上部隊も伴っている。

 

勇翔「RED 1よりツェッペリン管制。敵航空部隊を捕捉。中高度十六、高空八。高空集団に強い電波反応があります」

 

代理人『こちらツェッペリン管制。City側の観測結果と一致します』

 

勇翔「高空集団が指揮、または情報中継を担っている可能性があります。先に高空を分断します」

 

代理人『判断を許可します。ただし、単独で敵集団の中央へ入らないでください』

 

勇翔「了解しました」

 

 勇翔は速度を上げた。

 

 飛行制御装置が、操縦入力へ即座に反応する。

 

 機体は安定している。

 

 以前のF-3より、僅かに応答が速い。

 

 だが、過敏ではない。

 

 勇翔が考えた進路へ、自然に機首が向いていく。

 

 戦闘空域まで、残り四十キロメートル。

 

 雷電の声が戦術回線へ入った。

 

雷電『こちら雷電。RED 1、聞こえますか?』

 

勇翔「聞こえています。そちらの状況は?」

 

雷電『中高度で交戦中です。敵は、シュヴァルベさんとミーティアさんを高空へ上げないようにしています』

 

 レーダー上で、四つの味方反応が複数の敵に囲まれている。

 

 雷電たちは崩れてはいない。

 

 それでも、数の差によって行動範囲を狭められていた。

 

勇翔「高空の敵は僕が引き受けます。雷電さんたちは、現在の敵を拘束してください」

 

雷電『一人で大丈夫ですか?』

 

勇翔「全員を倒すつもりはありません。上にいる敵を、指揮できない状態にします」

 

雷電『分かりました。後方には行かせません』

 

勇翔「お願いします」

 

 雷電との通信を終える。

 

 勇翔は高空集団へ向けて上昇を続けた。

 

 敵との距離、三十一キロメートル。

 

 F-3のレーダーが、八体のうち三体から異なる反応を捉える。

 

 中央の一体。

 

 その左右を進む二体。

 

 互いに一定の距離を保ち、強い電波を放っている。

 

 残る五体は、その三体の前方に位置していた。

 

 護衛。

 

 あるいは、迎撃役。

 

 勇翔は、最も近い敵へ照準を向けなかった。

 

 前にいる敵を一体ずつ相手にすれば、後方の三体が地上部隊へ情報を送り続ける。

 

 必要なのは撃墜数ではない。

 

 敵の連携を切ること。

 

勇翔「ツェッペリン管制。高空集団中央の三体を、指揮個体候補として指定します」

 

代理人『指定を確認しました』

 

勇翔「中距離誘導弾二発を使用します」

 

代理人『発射を許可します』

 

 敵との距離、二十四キロメートル。

 

 射程内。

 

 だが、勇翔はまだ撃たない。

 

 誘導弾が届く距離と、敵が回避しきれない距離は異なる。

 

 この距離で敵が反転すれば、誘導弾の推進力が尽きる可能性がある。

 

 勇翔は速度と高度を維持し、さらに距離を詰めた。

 

 二十。

 

 十八。

 

 敵の護衛役が、F-3へ向けて進路を変える。

 

 警戒表示。

 

 敵の照準反応。

 

 勇翔は動かなかった。

 

 まだ回避する段階ではない。

 

 十六キロメートル。

 

 中央の指揮個体候補と、その右側の個体を指定。

 

 兵装選択。

 

 中距離空対空誘導弾。

 

 捕捉。

 

 射撃条件、成立。

 

勇翔「RED 1、FOX THREE。二発」

 

 F-3の内部兵器倉が開く。

 

 誘導弾が二発、連続して投下された。

 

 機体から離れた直後、推進装置が点火。

 

 二つの光が、高空集団へ向かう。

 

 敵の護衛五体が散開した。

 

 指揮個体候補も進路を変える。

 

 だが、発射の確認が遅い。

 

 一発目が、中央の敵へ接近する。

 

 敵の周囲へ、複数の発光体が放出された。

 

 誘導弾の進路が僅かに揺れる。

 

 発光体へ引き寄せられ、敵の左側を通過した。

 

 外れた。

 

 二発目は、右側の個体を追い続ける。

 

 敵が急降下。

 

 誘導弾も進路を変える。

 

 着弾直前。

 

 弾頭内の干渉素材が青白く発光した。

 

 敵を覆っていた絶縁層が揺らぎ、その一部が薄くなる。

 

 光点が重なった。

 

 空中で爆発が起きる。

 

 爆圧と破片が絶縁層を貫き、指揮個体候補の外殻を砕いた。

 

 複数の翅が飛散する。

 

 敵は炎を引きながら、高度を落としていった。

 

勇翔「一体撃破。一発外れ」

 

代理人『撃破を確認しました。干渉弾頭も正常に作動しています』

 

 勇翔は戦果へ意識を留めなかった。

 

 残る敵の動きを見る。

 

 中央の指揮個体が電波放射を止めた。

 

 左側の一体も、護衛の後方へ退こうとしている。

 

 高空集団の隊形が崩れた。

 

 中高度で交戦している敵にも変化が現れる。

 

 同時に動いていた複数の個体が、それぞれ異なる方向へ進路を変えた。

 

 連携が切れ始めている。

 

勇翔「雷電さん。敵中高度集団の動きは?」

 

雷電『先ほどより揃っていません。こちらを追わず、地上へ向かおうとしている敵もいます』

 

勇翔「情報中継役の一体を撃破しました。残る二体も後退させます」

 

雷電『こちらから一人向かわせます』

 

勇翔「いいえ。今は中高度を維持してください」

 

 雷電たちを高空へ呼べば、中高度の敵が地上攻撃隊へ向かう。

 

 自分の負担を減らすために、味方の防衛線へ穴を開けるわけにはいかない。

 

勇翔「そちらは、IL-2さんとスカイレイダーさんの進路を守ってください。高空は、まだ僕一人で対応できます」

 

雷電『……分かりました。ただし、危険になったら呼んでください』

 

勇翔「はい。その時はお願いします」

 

 敵護衛五体が接近する。

 

 距離、八キロメートル。

 

 F-3へ正面から攻撃を開始。

 

 複数の光弾が飛来する。

 

 勇翔は機首を下げ、速度を維持したまま左へ旋回した。

 

 大きく避けない。

 

 必要な分だけ進路を変える。

 

 光弾が機体の右側を通過する。

 

 さらに二体が左右へ分かれ、F-3を挟もうとした。

 

 勇翔は上昇へ転じる。

 

 右側の敵が追従。

 

 左側の敵は僅かに遅れる。

 

 敵集団を一つのまま相手にせず、速度差と高度差で分離する。

 

 警報。

 

 一体が後方へ回った。

 

 勇翔はレーダーだけに頼らず、バイザーへ表示された光学情報を確認する。

 

 後方の敵は、F-3の進路を追い切れていない。

 

 旋回半径が大きい。

 

 速度を上げれば、そのまま離脱できる。

 

 だが、逃げれば敵は高空へ残る。

 

 勇翔はスロットルを僅かに絞った。

 

 旋回を続ける。

 

 敵との距離が縮まる。

 

 近すぎれば、誘導弾を使いにくくなる。

 

 それは相手も同じだった。

 

 勇翔は旋回方向を反転させた。

 

 ロール。

 

 降下。

 

 敵の下へ潜り込む。

 

 視界の上を、飛行型リセッターが通過する。

 

 勇翔は機首を引き起こした。

 

 短距離誘導弾へ切り替え。

 

 バイザー上の照準が敵へ重なる。

 

 捕捉音。

 

 味方反応が射線上にないことを確認。

 

勇翔「RED 1、FOX TWO」

 

 短距離誘導弾が発射された。

 

 敵が旋回する。

 

 誘導弾も追従。

 

 着弾直前に青白い光が走る。

 

 絶縁層が減衰。

 

 弾頭が、飛行型リセッターの腹部へ直撃した。

 

 爆発。

 

 敵の外殻が二つに割れる。

 

 F-3が破片の横を通過した。

 

 勇翔の身体へ加速度が掛かる。

 

 六・二G。

 

 呼吸を止めない。

 

 腹部と脚へ力を入れ、脳への血流を維持する。

 

 腰部の生体表示が黄色へ変わった。

 

 痛みはない。

 

 だが、神経反応が基準値を超え始めている。

 

 勇翔は追撃へ移らず、機体を水平へ戻した。

 

 身体の状態を確認。

 

 呼吸。

 

 視界。

 

 手足。

 

 すべて正常に動く。

 

 数秒後。

 

 腰部の表示が黄色から緑へ戻った。

 

 まだ戦える。

 

 だが、同じ機動を繰り返すべきではない。

 

勇翔「RED 1。生体監視、一時警戒。現在は正常へ復帰」

 

代理人『確認しました。次に同じ反応が出た場合、離脱を命じる可能性があります』

 

勇翔「了解しました」

 

 残る護衛四体が、一度距離を取った。

 

 F-3の速度と誘導弾を警戒している。

 

 勇翔は追わない。

 

 高空の指揮個体候補を見る。

 

 一体撃破。

 

 一体後退。

 

 残る一体は高度を下げ、中高度集団へ合流しようとしている。

 

 その個体を攻撃すれば、敵の情報中継をさらに弱められる。

 

 だが、その前方には雷電たちがいた。

 

 中距離誘導弾を撃てば、味方の交戦空域へ飛び込む。

 

勇翔「射撃不可……」

 

 撃とうと思えば撃てる。

 

 だが、撃たない。

 

 命中する可能性と、味方を危険へ巻き込む可能性。

 

 両方を比べれば、判断は明確だった。

 

 勇翔はレーダー上で目標を追いながら、戦術回線を開く。

 

勇翔「雷電さん。高空から一体、そちらへ降下しています。方位三一〇、高度差二千」

 

雷電『確認しました』

 

勇翔「僕からは撃てません。数秒後、味方の後方へ入ります」

 

雷電『では、こちらで対応します』

 

 雷電が現在の交戦を切り上げ、上昇する。

 

 指揮個体候補は、雷電へ攻撃を始めた。

 

 光弾が連続して放たれる。

 

 雷電は大きく進路を変えない。

 

 左右へ僅かに身体を移し、射線の間を抜けていく。

 

 勇翔には、その動きの意味が見えた。

 

 敵が照準を修正する直前。

 

 発射器官が、次の攻撃へ移る直前。

 

 雷電は、必ず位置を変えている。

 

 恐怖を知らないから飛び込めるのではない。

 

 毎日の訓練によって、敵弾の中にも通れる道を見つけている。

 

雷電『射程へ入りました』

 

 雷電の主兵装が火を噴く。

 

 短く、制御された射撃。

 

 弾丸が指揮個体候補の正面へ集中する。

 

 絶縁層が薄れる。

 

 続く弾丸が正面装甲を削り、外殻へ亀裂を走らせた。

 

 雷電は射撃を止めない。

 

 二度目の斉射。

 

 発光器官が破裂する。

 

 敵は姿勢を崩し、錐揉み状態で落下した。

 

雷電『敵一体、撃破しました』

 

勇翔「確認しました。ありがとうございます」

 

雷電『勇翔さんが位置を教えてくれたからです』

 

 中高度集団の動きが、さらに乱れた。

 

 統制を失った敵が、個別に雷電たちを追い始める。

 

 数では、依然として敵が多い。

 

 だが、同じ目標へ攻撃を集中できなくなっている。

 

 シュヴァルベが一体を引き離す。

 

 ミーティアが、その進路上へ火力を集中。

 

 敵の絶縁層と装甲が砕ける。

 

 マスタングは二体を引きつけながら旋回し、雷電の射線へ誘導する。

 

 雷電が一体を撃破。

 

 残る一体は攻撃を中止し、東へ離脱した。

 

 勇翔は高度を保ち、戦場全体を見渡す。

 

 誘導弾残数。

 

 中距離二。

 

 短距離一。

 

 機関砲、未使用。

 

 燃料、作戦継続可能。

 

 敵航空反応。

 

 撃破七。

 

 損傷五。

 

 残る十二体のうち、八体が東へ進路を変えている。

 

 四体は、地上部隊上空へ残っている。

 

 航空優勢を完全に得たわけではない。

 

 だが、対地攻撃隊を通すための空間は作れる。

 

 時間は長くない。

 

 敵が再集結するまで、推定六分。

 

勇翔「BLUE 2、こちらRED 1」

 

小貝『BLUE 2。聞こえている』

 

勇翔「敵航空部隊の指揮系統を分断。地上目標までの進入経路を確保しました」

 

小貝『維持できる時間は?』

 

勇翔「推定六分。安全を見れば五分です」

 

小貝『十分だ』

 

勇翔「IL-2さんとスカイレイダーさんを同行させてください。残存する航空型四体は、こちらで抑えます」

 

小貝『了解した。地上部隊との連携は俺が引き受ける』

 

勇翔「お願いします」

 

小貝『勇翔』

 

勇翔「はい」

 

小貝『初戦にしては悪くない』

 

勇翔「小貝さんの教え方がよかったんですよ」

 

小貝『当然だ』

 

勇翔「そこは否定しないんですね」

 

小貝『BLUE 2。これより攻撃進路へ入る』

 

勇翔「RED 1。上空援護へ移行します。気をつけて」

 

小貝『お前もな』

 

 通信が切れる。

 

 低空。

 

 A-10が主翼を僅かに傾け、敵地上部隊へ向けて進路を変えた。

 

 その後方へ、IL-2MとAD-1スカイレイダーが続く。

 

 さらに地上では、五人のDOLLSが前進を再開していた。

 

 勇翔は戦果表示を閉じた。

 

 自分が何体を撃破したか。

 

 それを数えるのは、帰還してからでいい。

 

 現在必要なのは、残る四体の位置。

 

 味方攻撃隊の進路。

 

 残された燃料と兵装。

 

 そして、全員が帰るための空路だった。

 

 勇翔はF-3を旋回させ、A-10の上空へ入る。

 

 以前、小貝から何度も聞かされた言葉が、頭の中に残っている。

 

 エースパイロットは、冷静で効率的であれ。

 

 派手に飛ぶ必要はない。

 

 一人で敵を全滅させる必要もない。

 

 必要な敵を排除する。

 

 味方が戦える状況を作る。

 

 そして、全員を帰す。

 

 それが、今の勇翔へ与えられた任務だった。

 

 眼下で、A-10の機首が地上の敵へ向けられる。

 

小貝『BLUE 2。目標を確認』

 

 勇翔は周囲の空域を確認する。

 

 敵航空型の再接近は、まだない。

 

勇翔「RED 1。進入経路上、航空脅威なし。五分間は維持します」

 

小貝『了解した』

 

 A-10が高度を下げる。

 

 太い直線翼が、灰色の大地を横切った。

 

 その機首下部で、七本の砲身が回転を始める。

 

小貝『さて――仕事の時間だ』

 

 次の瞬間。

 

 開拓区域の空へ、低く重い発射音が響き渡った。

 




はい。
眠い...編集時3:53分
頭と目が...死にそうです...
とりあえずは、戦闘シーンその1でした。
じかいは、小貝です。
後、アンケートありがとうございました!
いずれ、何か入れます!
ちなみに、次のアンケートは、視聴者がどこのジャンルで来たのかアンケート取ります...
ちなみに、戦闘準備とかかなり適当ですので指摘ありましたらお書きください。

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※2026年8月26日リメイク完了

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