陸自はドールズフロントライン、海自は艦これとアズールレーン、空自はアッシュアームズ三つの世界でバラバラになりながらでも生き残る 作:ゴーストライターとかした、素人小説書き
この小説は、シリアスとギャグが少し入っています。
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第8話 力の差は歴然でも、貴方は絶対勝てるもの
市役所、臨時司令室。
破壊された主電源は、まだ戻っていない。
壁際へ並ぶ監視装置の大半は沈黙し、室内を照らしているのは赤い非常灯と、机へ置かれた携帯照明だけだった。
その光の下に、市街地の地図が広げられている。
中央の市役所。
西側の自然公園。
南東部の住宅区画。
地図上には、現在位置の判明している部隊と、所在不明者を示す標識が置かれていた。
机の前に立つキングが、火をつけていない煙草を指先で転がしている。
その右側にはクイーン13。
机を挟んだ向かい側には、腕章を着けた若い通信兵が立っていた。
ポーン01。
数時間前まで、固有のコールサインすら持っていなかった男だった。
ポーン01「市役所内部の非常電源は、地下と上層司令区画を優先して復旧しました。短距離通信も使用できます。ただし、通信塔は基部と給電設備の損傷が大きく、長距離回線は安定していません」
クイーン13「残存戦力は?」
ポーン01「市役所内へ再集結させています。ですが、捕虜の捜索、外周警備、設備復旧へ人員を分けたため、どの区画も定数を満たしていません」
ポーン01が報告書をめくる。
指先は強張っている。
それでも、声にあった震えは以前より小さくなっていた。
ポーン01「地下収容区の捕虜は、全員が脱出。連絡将校一名も行方不明です。自然公園から二機の回転翼機が離脱したことを、外周部隊が確認しています」
クイーン13「連絡将校は、連中と一緒に運び出されたと考えるべきだな」
キング「ええ。自力で逃げたのなら、こちらへ戻らない理由がありません」
キングは自然公園へ置かれた標識を、市街地の外へ動かした。
キング「捕虜、連絡将校、救出に来たグリフィンの人形。空へ逃げた者は、今の我々には追えない」
続いて、南東部の住宅区画へ緑色の標識を置く。
キング「だが、一人だけ地上へ残った」
ポーン01「緑色の戦闘服を着た男。日本製と思われる小銃を所持。自然公園から東へ戻る姿を見た者がいます」
クイーン13「追跡部隊は西の森を捜していたはずだ」
ポーン01「男が西へ足跡を残したためです。ですが、森へ続く足跡は途中で途切れていました。排水路を使い、反対方向へ戻った可能性があります」
クイーン13の視線が、初めてポーン01へ向く。
クイーン13「よく気づいたな」
ポーン01「追跡班から上がった記録を、地図と照合しました」
キング「だから言ったでしょう。頭が回る人間は好きだ、と」
キングが僅かに笑う。
褒められたポーン01は、どう返すべきか分からず姿勢を正した。
キング「それで、君ならどうする?」
ポーン01「全戦力を使った捜索は行いません」
クイーン13「理由は?」
ポーン01「市役所の守りが薄くなります。それに、一人を追って大部隊を動かせば、こちらの捜索線を見て逃げられます」
ポーン01は南東部の区画を指した。
ポーン01「大通りで短距離通信が二度使用されています。発信源は、この区画内。誤差は大きいですが、狙撃が行われた方向とも重なります」
クイーン13「緑色の男が、グリフィンの残存部隊と接触したと?」
ポーン01「断定はできません。ただ、別々だったとしても、同じ区画にいる可能性はあります」
キング「敵が一人なのか。複数なのか。まず、それを確かめる必要がある」
キングは緑色の標識の周囲へ、三つの小さな標識を置いた。
キング「エクスキューショナーを先頭に、リーパー三体。レッドカンパニーから七人。無線を扱える者を一人つけろ」
クイーン13「その程度で足りますか?」
キング「戦争を始めるわけではない。敵に戦わせ、人数と装備と逃走方向を吐き出させる。足りなければ、その時に増やせばいい」
キングがポーン01を見る。
キング「部隊の選定と誘導は君がやれ。市役所の防備を崩さず、必要な駒だけを動かせ」
ポーン01「了解しました」
キング「緑色の男は生け捕りだ。死体から所属は聞き出せないからな」
クイーン13「グリフィン側は?」
キング「抵抗するなら排除して構わん。ただし、使える個体なら残せ。失った連絡将校と捕虜について知っている可能性がある」
ポーン01が命令を記録する。
キング「それから、ポーン01」
ポーン01「はい」
キング「君に渡した小隊は、使い捨ての玩具ではない。誰をどこへ動かし、何を持ち帰らせるのか。それを考え続けろ」
ポーン01「……必ず、情報を持ち帰らせます」
キング「よろしい」
キングは南東部へ置いた標識を見つめる。
市役所の損傷。
失った捕虜。
連れ去られた連絡将校。
正体不明の日本人。
個々の出来事は、すでに一本の線で結ばれ始めていた。
キング「盤面を見失うな。敵が一つ動けば、こちらも一つ動かす。それだけだ」
◇
S09基地、作戦室。
基地西側の格納庫には、二機のUH-60が収容されていた。
一機は機体側面を開放され、整備員が被弾箇所を確認している。もう一機も、外板へ残った弾痕の周囲を応急材で覆われていた。
二機とも、自然公園から救出者を乗せて帰投した機体だった。
救出者たちは医療区画へ運ばれ、拘束した連絡将校は警備付きで情報部へ引き渡されている。
基地の作戦室では、市街地とS09を含む広域地図が卓上へ広げられていた。
地図の西端にあるS09基地には、帰投した二機と救出者を示す青い標識。
自然公園には、使用済みの着陸地点を示す斜線と、蓮を最後に確認した位置を示す緑色の標識。
そこに、UH-60を示す標識はない。
南東部の住宅区画には、消息を絶ったAR小隊を示す四つの白い標識が、不確定範囲を表す円の中へ置かれていた。
416は椅子へ座り、その地図を見ていた。
頭部と左腕には治療が施されている。
右手には、二枚の認識票が握られていた。
指揮官「救出者は全員、基地へ収容したわ。G3は重傷だけれど、容体は安定している。VSK、ブレン、スコーピオンも医療区画で治療を受けているわ」
416「捕らえた連絡将校は?」
指揮官「武装解除の上、情報部へ移送した。身元と所属、それから市役所に残っていた部隊について確認を始めている」
416「蓮の捜索は?」
指揮官は、自然公園へ置かれた緑色の標識を見る。
指揮官「あなたが機内から送った緊急報告は受け取っている。けれど、自然公園は脱出時に一度使っただけのLZよ。二機が離脱したあと、敵部隊が再び周辺へ入った」
416「ヘリを戻せないなら、地上部隊を出して」
指揮官「もう準備させているわ」
指揮官が、S09基地から市街地西側へ延びる進入路を指でなぞる。
指揮官「ただし、二機とも被弾している。一機は飛行不能。もう一機も、応急点検を終えずに敵支配地域へ戻すことはできない」
416「地上からなら?」
指揮官「S09から市街地へ入るまでに時間が掛かる。市役所周辺には敵が再集結している。進入路を決めずに動かせば、救出部隊まで包囲されるわ」
416「だから待てと言うの?」
指揮官「何もせずに待つつもりはないわ」
指揮官が、傍受記録を地図の横へ置く。
指揮官「市街地で敵の短距離通信を拾った。緑色の戦闘服を着て、日本製の小銃を持つ男を、生け捕りにするよう命令が出ている」
416の目が細くなる。
指揮官「命令が繰り返されたのは、つい先ほどよ。少なくとも、その時点で敵は彼の身柄も死体も確保していない」
416「敵が捜しているなら、まだ捕まっていない」
指揮官「その可能性は高いわ」
416は握っていた認識票を、机へ置く。
416「なら、手掛かりはある」
自然公園の東側から、市街地南東部へ向かって敵の捜索通信が移動している。
蓮が西へ逃げたのなら、そうはならない。
416「蓮は市街地へ戻ったのね」
指揮官「そう判断している。けれど、問題は彼だけではないわ」
指揮官が、南東部の円の中へ置かれた四つの白い標識を指す。
指揮官「M4A1、M16A1、AR-15、SOPⅡとの通信も、この区画で途絶えている」
416「AR小隊まで?」
指揮官「最後の報告では、市街地の偵察と孤立した味方の捜索を行っていた。その後、複数の銃声と短い通信を確認したけれど、内容までは取れていない」
地図の上で、四つの白い標識と一つの緑色の標識が、同じ不確定範囲へ入っている。
実際に接触した証拠はない。
互いを敵と判断している可能性もある。
それでも、別々だった二つの捜索範囲は重なり始めていた。
416「捜索目標を統合して。AR小隊と、渡邉蓮。どちらか一方の信号を掴めば、もう一方の手掛かりになるかもしれない」
指揮官「そのつもりよ。周辺部隊へ情報を共有する。電波傍受も南東部へ集中させるわ」
416「救出部隊は?」
指揮官「基地の機動部隊から編成中。車両と衛生要員をつける。ただし、敵の配置と安全な進入路が判明するまでは、基地を出せない」
416「……分かったわ」
不満が消えたわけではない。
今すぐ自分で戻りたい気持ちも変わらない。
それでも、負傷した身体で基地を飛び出せば、救出される側が一人増えるだけだ。
416は地図の南東部へ視線を落とす。
VSK「416さん」
治療を終えたVSKが、作戦室の入口に立っていた。
服は替えられ、額と両腕へ包帯が巻かれている。
VSK「蓮さんは、帰ると約束しました」
416「ええ」
416は二枚の認識票を手に取る。
416「だから、帰る場所をこちらで消すわけにはいかない」
指揮官が、S09基地から市街地西側へ延びる経路上に、新しい青色の標識を置いた。
救出部隊。
まだ基地を出てはいない。
だが、敵と味方の双方が、同じ南東部の区画へ視線を向け始めていた。
◇
民家、一階。
勝手口の扉が開く。
最初に入ってきたのはM4A1だった。
小銃を構えたまま室内を確認し、続いてM9、最後にM16A1が入る。
SOPⅡ「M4! M16!」
SOPⅡが駆け寄ろうとする。
AR-15「待ちなさい。まだ罠の解除が終わっていないわ」
SOPⅡ「あっ、そうだった」
AR-15が勝手口へ仕掛けられていた警報用のワイヤーを外す。
それを確認してから、SOPⅡは二人のもとへ駆け寄った。
SOPⅡ「二人とも無事だったんだね!」
M4A1「ええ。AR-15の援護がなければ、危なかったです」
M16A1「まさか、あの距離から小銃で当ててくるとはな」
M16A1の視線が、部屋の奥へ向く。
椅子へ腰を下ろした蓮が、負傷した左脚を伸ばしていた。
巻き直された包帯には、新しい血が僅かに滲んでいる。
M16A1「それで、そいつがもう一人の狙撃手か?」
蓮「俺は見ていただけだ。撃ったのはAR-15だよ」
AR-15「標的を選んだのは蓮よ。撤退経路も彼が決めた」
AR-15の言葉を聞き、M4A1が蓮の前へ立つ。
M4A1「仲間を助けていただき、ありがとうございました」
蓮「礼ならAR-15に言ってくれ。俺は、撃つ順番を少し考えただけだ」
M4A1「それでも、あなたがいなければ私たちは戻れませんでした」
蓮「なら、お互い生きて帰れた。それで十分だ」
M4A1は蓮の顔を見つめる。
見慣れない緑色の戦闘服。
日の丸と《JAPAN》の標識。
AR-15から事情を聞かなければ、レッドカンパニーに雇われた兵士だと疑っていたかもしれない。
M16A1「AR-15。こいつの身元は確認したのか?」
AR-15「確認できる証拠はないわ。ただ、416たちの名前と、市役所から救出した人たちの状態を知っていた」
M4A1「416たちを救出したのも、あなたなのですか?」
蓮「俺一人じゃない。協力した連中がいた。それに、全員を安全な場所まで送り届けたわけでもない」
M16A1「随分と歯切れが悪いな」
蓮「手帳も認識票も、416に預けたままなんでな。今の俺には、自分が何者か証明するものがない」
M16A1「だったら、しばらくは監視つきだ」
蓮「当然だな」
蓮は反論しなかった。
M16A1も、それ以上は追及しない。
その隣で、M9だけが落ち着かない様子で勝手口を見ていた。
M4A1「どうしました?」
M9「トンプソンが、まだ戻っていないの」
M16A1「お前と同じ部隊の仲間だったな」
M9「うん。私を逃がすために、途中で鉄血を引きつけてくれたの。それから連絡が取れなくなって……」
M9が俯く。
蓮は何も言わなかった。
無責任に大丈夫だとは言えない。
捜しに行くと言える脚でもなかった。
その時。
勝手口の外で、空き缶が転がる音がした。
全員の動きが止まる。
AR-15とM16A1が扉へ銃口を向けた。
M4A1はM9を背後へ下がらせる。
SOPⅡが壁際へ寄り、扉の死角へ回った。
???「待て……撃つな」
扉の向こうから、掠れた声が聞こえる。
M9「その声……」
M9が目を見開く。
M9「トンプソン!」
AR-15「まだ出ないで」
AR-15が扉を僅かに開く。
外を確認してから、身体一つ分だけ隙間を広げた。
黒い帽子を被った少女が、壁へ肩を預けて立っている。
服の各所が裂け、額から流れた血が頬まで乾いていた。
手にした短機関銃の銃口は、地面へ向けられている。
トンプソン「よう……M9は、ここにいるか?」
M9「いるよ!」
M9がAR-15の脇を抜け、トンプソンへ抱きつく。
トンプソン「おっと……」
トンプソンの身体が大きく揺れる。
M9「よかった……生きてた……!」
トンプソン「ああ。随分と手間を掛けさせやがって」
M9「それはこっちの台詞だよ!」
怒っているような声だった。
だが、M9の両腕はトンプソンから離れない。
トンプソンもM9の背中へ腕を回し、その小さな身体を強く抱き締めた。
トンプソン「悪かった。もう置いていかねぇよ」
M4A1「どうやって、ここまで?」
トンプソン「大通りの銃声を聞いた。戦闘が終わってから、埃に残った三人分の足跡を辿ったんだ。途中までは上手くいったんだが、南の通りで鉄血に見つかった」
トンプソンが額の傷へ触れる。
トンプソン「追手は撒いたつもりだ。だが、完全に切れた保証はない」
再会を喜ぶ二人を見ながら、蓮が椅子から立とうとする。
左脚へ力を掛けた瞬間、傷へ痛みが走った。
AR-15「動かないで」
蓮「怪我人が一人増えたんだ。座る場所くらい空ける」
AR-15「あなたも怪我人よ」
M16A1「そいつの言うとおりだ。そこから動くな」
M16A1が別の椅子を引き寄せ、トンプソンを座らせる。
蓮は救急用品を手元へ寄せた。
蓮「頭を見せてくれ。傷を洗う」
トンプソン「お前は?」
蓮「渡邉蓮。ここの住人じゃないが、今のところ敵でもない」
M16A1「今のところ、な」
トンプソン「怪しい奴だな」
蓮「よく言われる」
トンプソンが帽子を取る。
額の傷は深くない。
弾丸か破片が掠めたらしく、出血の量に比べれば損傷は小さかった。
蓮は傷を洗い、清潔なガーゼを当てる。
トンプソンが僅かに顔を顰めた。
蓮「痛むか?」
トンプソン「このくらい、どうってことねぇ」
蓮「痛くないとは聞いていない」
トンプソン「……少しな」
蓮「なら、少し我慢してくれ」
蓮は包帯を巻き、ずれないよう固定する。
トンプソンが再び帽子を被ろうとした。
蓮「今はやめておけ。傷へ当たる」
トンプソン「こいつがないと落ち着かねぇんだよ」
M9「駄目。治るまで私が持ってる」
M9が帽子を取り上げ、自分の胸へ抱える。
トンプソン「おい」
M9「駄目ったら駄目」
トンプソンは何か言い返そうとしたが、諦めたように息を吐いた。
トンプソン「分かったよ」
室内へ、僅かな安堵が戻る。
だが、トンプソンの表情はすぐに険しくなった。
トンプソン「そうだ。喜んでいる場合じゃねぇ」
M4A1「何かありましたか?」
トンプソン「ここへ来る途中、南の大通りで鉄血の部隊を見た。私兵が七、リーパーが三。それを率いていたのは、でかい剣を持った人形だ」
AR-15「エクスキューショナー……」
トンプソン「知っているのか?」
AR-15「鉄血の上位人形よ。私たちだけで正面から戦える相手ではないわ」
トンプソン「あいつら、この辺りを一軒ずつ調べていた。俺も見つかって、追手を撒く間にこれを食らった」
トンプソンが額の包帯へ触れる。
M4A1「この隠れ家を探しているのでしょうか?」
AR-15「正確な場所までは分かっていないはず。でも、大通りで使った通信を拾われた可能性がある」
M16A1「狙撃方向も調べれば、区画までは絞れる」
AR-15が窓の隙間から外を見る。
南側の通り。
薄い霧の中で、複数の影が建物の間を移動している。
その中央に、ほかよりも一回り大きな影があった。
AR-15「確認したわ。距離、約四百。こちらへ向かっている」
SOPⅡ「だったら、ここで迎え撃とうよ」
AR-15「駄目。家の構造は知られていなくても、こちらには負傷者が三人いる」
M9。
トンプソン。
そして蓮。
全員、自力で動ける。
だが、追跡を振り切れる速度ではない。
M16A1「北へ三ブロック行けば、古い排水路がある。中へ入れば、地上からは追いにくい」
M4A1「問題は、そこまでに広い交差点を一つ通ることです」
AR-15「今から全員で動けば、渡り切る前に追いつかれる」
室内が静かになる。
蓮は窓の外を見た。
この民家。
北へ続く路地。
隣にある、半壊した集合住宅。
その二階から道路へ突き出した渡り廊下。
外壁は砲撃を受け、支柱の一部が折れている。
蓮「一つ、案がある」
全員の視線が蓮へ集まる。
M4A1「聞かせてください」
蓮「全員で敵を倒そうとする必要はない。俺たちの勝ちを、排水路へ入ることに決める」
M16A1「敵を倒すんじゃなく、追いつけない場所まで逃げる。それが勝利条件か」
蓮「ああ。そのために、敵の足を止める」
蓮は机に広げられていた周辺図へ、指を置く。
蓮「エクスキューショナー以外は、路地で分断できる。M16A1が私兵を抑え、M4A1が全体を動かす。SOPⅡは、この集合住宅を使って追撃路を塞げるか?」
SOPⅡ「建物ごと全部は無理。でも、壊れかけている渡り廊下なら落とせると思う」
蓮「それで十分だ。敵を潰す必要はない。道路を瓦礫で塞ぎ、数分稼げればいい」
M4A1「エクスキューショナーを、その真下へ誘導する役が必要です」
蓮「奴が捜しているのは、緑色の戦闘服を着た日本人だろ?」
トンプソンが顔を上げる。
トンプソン「そういえば、私兵が『緑色の男は殺すな』と叫んでいた」
AR-15「まさか、自分を囮にするつもり?」
蓮「囮じゃない。誘導だ」
AR-15「言い換えただけでしょう」
蓮「俺が姿を見せれば、少なくともエクスキューショナーはこっちへ来る。三十秒だけ引きつける」
AR-15「その脚で?」
蓮「走るつもりはない。曲がり角と建物を使う」
AR-15「相手が、あなたの思ったとおりに動く保証はないわ」
蓮「ない。だから、お前の援護が必要だ」
AR-15が黙る。
蓮「俺一人で戦う気はない。俺が誘い、AR-15が動きを止める。M16A1とトンプソンが横から進路を限定する。SOPⅡが道を塞ぐ。最後にM4A1が全員を退かせる」
M4A1「M9は私と先に交差点を渡ります。排水路の入口を確保したあと、通信で撤退を指示します」
M9「私も戦えるよ」
M4A1「知っています。でも、今は入口を守る人も必要です」
M9は不満そうに口を結んだ。
やがて、トンプソンの帽子を抱えたまま頷く。
M9「……分かった。絶対、みんなで来てね」
M16A1「もちろんだ」
M4A1は図面と窓の外を交互に見る。
敵との距離。
準備に必要な時間。
負傷者の移動速度。
蓮の案には危険がある。
だが、ここへ籠もれば全員が包囲される。
M4A1「この案でいきます。ただし、条件があります」
蓮「何だ?」
M4A1「誰も一人では残りません。三十秒を過ぎたら、敵の状態に関係なく撤退します」
蓮「了解した」
AR-15「もう一つ。私の射線から勝手に出ないで」
蓮「善処する」
AR-15「守ると言いなさい」
蓮「……守る」
M16A1「随分と尻に敷かれているな」
AR-15「監視しているだけよ」
蓮「そういうことにしておこう」
短い会話のあと、全員が動き始めた。
残された時間は、十分もなかった。
M4A1とM9が、先に民家の裏口から出る。
二人は建物の影を使い、北側の交差点へ向かった。
SOPⅡは隠れ家に残されていた道具を持ち、半壊した集合住宅へ入る。
M16A1とトンプソンは、南から続く二本の路地へそれぞれ射撃位置を取った。
AR-15は三か所の狙撃位置を決め、どこからでも集合住宅の吹き抜けを見通せることを確認する。
最後に、蓮へ小型の通信機を渡した。
AR-15「通信は必要な時だけ。位置を知られる前に終わらせるわよ」
蓮「了解」
AR-15「それから、床に引かれた白線より奥へは下がらないで。渡り廊下を落とした時、そこまで瓦礫が届く可能性がある」
蓮「白線の手前だな」
AR-15「間違えないでよ」
蓮「命に関わる指示は守るさ」
AR-15「それ以外も守りなさい」
AR-15はそう言い残し、向かいの建物へ移った。
◇
エクスキューショナーは、南側の通りを歩いていた。
大剣の切っ先が、ひび割れた舗装を擦る。
その後ろを、レッドカンパニーの私兵と三体のリーパーが続いていた。
私兵「狙撃地点は、この区画で間違いありません」
エクスキューショナー「そんなことは見れば分かる」
エクスキューショナーが、弾痕の残る壁を見る。
狙撃された大通りから延びる射線。
建物の高さ。
M4A1たちが逃げ込んだ路地。
それらを辿れば、使われた建物は数軒まで絞れる。
エクスキューショナー「相手は逃げ方を知ってる。だったら、隠れ方も少しはましだろうな」
私兵「各建物を捜索させます」
エクスキューショナー「好きにしろ。ただし、緑色の男は殺すな。キングが欲しがっている」
私兵「抵抗した場合は?」
エクスキューショナー「脚を撃て。それでも抵抗するなら、腕を一本くらい落としても構わねぇ」
私兵たちが左右へ分かれる。
リーパーが先行し、建物の入口を確認していく。
その一体が民家の勝手口へ近づいた時、短い銃声が響いた。
リーパーの肩が弾かれる。
続く銃弾が、後方にいた私兵の無線機を砕いた。
私兵「敵襲!」
私兵たちが一斉に遮蔽物へ入る。
射撃は、民家ではなく北側の廃店舗から行われていた。
M16A1「悪いが、ここから先は通行止めだ!」
M16A1が、窓の奥から短い連射を送る。
私兵たちは前へ出られない。
エクスキューショナー「そっちは囮だ! 二人は裏へ回れ!」
すぐに命令が飛ぶ。
私兵二人とリーパー一体が、建物の間へ入ろうとする。
別方向から銃撃が加えられた。
トンプソンの短機関銃だった。
弾丸が路地の壁を削り、回り込もうとした私兵たちを押し戻す。
トンプソン「そっちも行き止まりだ!」
エクスキューショナー「挟撃か。少しは考えてやがる」
エクスキューショナーは腰から大型拳銃を抜いた。
M16A1がいる廃店舗へ向け、片手で撃つ。
轟音。
窓枠ごと壁の一部が砕け、室内へ破片が飛び散った。
M16A1「冗談だろ……!」
M16A1は事前に決めていた次の位置へ移る。
エクスキューショナーは、その姿を追おうともしなかった。
通常の私兵なら、今の銃撃だけで足を止められる。
だが、彼女は違う。
複数方向から弾丸が飛ぶ中を、大剣で頭部を庇いながら前進する。
身体へ命中した弾丸が火花を散らす。
装甲へ浅い傷を残すだけで、歩みは止まらない。
AR-15「小銃弾では止まらない……」
離れた建物の二階から、AR-15が照準器越しにエクスキューショナーを見る。
胴体は狙わない。
歩行に合わせて動く膝。
大剣を保持する手首。
装甲の継ぎ目だけを追う。
引き金を絞る。
一発。
弾丸が右膝の外側へ命中した。
エクスキューショナーの脚が僅かに揺れる。
だが、倒れない。
エクスキューショナー「そこか!」
エクスキューショナーが大型拳銃を上へ向ける。
AR-15「っ!」
AR-15は射撃を待たず、床を蹴って窓から離れた。
直後、壁が内側へ弾ける。
破片が部屋を横切り、反対側の壁へ突き刺さった。
AR-15「蓮。予想以上よ。膝へ当てても、ほとんど止まらない」
蓮『分かった。予定どおり、誘導へ移る』
AR-15「待って。次の射撃位置へ移るまで五秒」
蓮『五秒後に出る』
短い通信が切れる。
エクスキューショナーは、AR-15がいた建物へ向かおうとした。
その足元へ、二発の小銃弾が着弾する。
緑色の戦闘服を着た男が、路地の奥に立っていた。
蓮「捜しているのは、俺だろ?」
エクスキューショナーの口元が吊り上がる。
エクスキューショナー「やっと見つけたぞ、緑色」
蓮「随分と物騒な迎えだな」
エクスキューショナー「安心しろ。殺すなとは言われてる」
大剣を肩へ担ぐ。
エクスキューショナー「生きていれば、手足の数までは問われてねぇけどな!」
エクスキューショナーが地面を蹴った。
速い。
蓮が想定していた速度を、明らかに上回っている。
蓮は応射せず、すぐに路地の角へ身体を隠した。
左脚へ鋭い痛みが走る。
走れない。
壁へ手をつき、決めていた経路を進む。
背後から、金属が空気を切る音が迫る。
蓮は横へ倒れ込んだ。
大剣が路地の角を薙ぎ払い、煉瓦の壁を大きく削る。
エクスキューショナー「よく避けたな!」
蓮「二度は無理そうだ!」
蓮は地面へ肩を打ちつけながらも、89式の引き金を絞った。
短い連射。
弾丸がエクスキューショナーの胸と肩へ命中する。
僅かに上体が揺れただけだった。
エクスキューショナーが大剣を振り上げる。
その手首へ、AR-15の銃弾が命中した。
切っ先が数センチ逸れ、蓮の傍らへ突き刺さる。
AR-15『立って! 次は止められない!』
蓮「助かった!」
蓮は89式を杖代わりにはせず、壁へ手をついて立ち上がる。
銃身を曲げれば、残された武器まで失う。
エクスキューショナーが大剣を引き抜く間に、半壊した集合住宅へ入った。
吹き抜けた一階。
天井には、道路へ突き出した渡り廊下が残っている。
床には瓦礫が散らばり、まっすぐ走ることはできない。
蓮は倒れた棚と壁の隙間を抜け、奥へ進む。
エクスキューショナーは迂回しなかった。
大剣を横へ振り、棚ごと障害物を砕く。
エクスキューショナー「もう逃げ場はないぞ!」
蓮の背中が、崩れた壁へ当たる。
足元には、SOPⅡが引いた白線がある。
蓮は、その手前で止まっていた。
その先は塞がれている。
右にも左にも、すぐに入れる通路はない。
エクスキューショナーが足を止めた。
エクスキューショナー「人間にしちゃあ、よくやった。だが、力の差は分かっただろ?」
蓮「ああ。正面からなら、絶対に勝てないな」
エクスキューショナー「だったら、大人しく――」
蓮「俺一人なら、だ」
蓮はP226を抜き、エクスキューショナーではなく、天井へ一発撃った。
乾いた銃声が、合図となって建物へ響く。
エクスキューショナーの背後へ、小さな円筒形の物体が転がった。
エクスキューショナー「あ?」
閃光と爆音が、吹き抜けを満たす。
エクスキューショナーが反射的に顔を庇う。
左側の開口部から、M16A1が射撃を加えた。
反対側からは、トンプソンの短機関銃が火を噴く。
装甲へ弾丸が集中する。
致命傷にはならない。
それでも、エクスキューショナーは大剣を盾にするため、渡り廊下の真下へ一歩下がった。
SOPⅡ「そこ!」
離れた場所で、SOPⅡが起爆装置を作動させる。
鈍い爆発音。
ひび割れていた支柱が折れ、渡り廊下が大きく傾いた。
コンクリートと鉄骨が、エクスキューショナーの頭上へ落ちる。
エクスキューショナー「こんなもので!」
彼女が瓦礫の下から飛び出そうと、右脚を踏み込む。
その膝には、先ほどAR-15がつけた傷が残っていた。
AR-15「見えているわ」
別の建物へ移っていたAR-15が、二発目を同じ箇所へ撃ち込む。
右膝から火花が弾けた。
エクスキューショナーの姿勢が崩れる。
直後、渡り廊下が落下した。
轟音とともに、吹き抜けが粉塵で埋まる。
大剣が床へ叩きつけられ、折れた鉄骨の間へ挟まる。
エクスキューショナーの片脚と剣を持つ腕が、瓦礫の下へ押さえ込まれた。
SOPⅡ『成功! でも、長くは持たないよ!』
M4A1『全員撤退! 残り時間はありません!』
蓮は粉塵の中から出口へ向かう。
瓦礫の奥で、エクスキューショナーが大剣を引き抜こうとしていた。
鉄骨が軋み、コンクリート片が少しずつ持ち上がる。
エクスキューショナー「待て……!」
蓮が一度だけ振り返る。
エクスキューショナー「勝ったつもりか!」
蓮「ああ」
蓮は89式を肩へ掛け直した。
蓮「俺たちは、全員で帰る。お前はここへ残る。今回は、俺たちの勝ちだ」
エクスキューショナーが目を見開く。
次の瞬間、その表情が笑みへ変わった。
エクスキューショナー「いいねぇ……次は、逃がさねぇぞ!」
蓮「次も、同じ勝ち方をするさ」
蓮は背を向けた。
エクスキューショナーを破壊する必要はない。
捕らえようとすれば、動けるようになるまでの時間を与えてしまう。
今、果たすべきことは一つだけだった。
仲間と一緒に、この区画から離れること。
◇
北側の交差点。
蓮が路地から出た時、M16A1が待っていた。
M16A1「遅いぞ!」
蓮「三十秒は、まだ――」
M16A1「とっくに過ぎてる!」
M16A1が蓮の腕を自分の肩へ回す。
蓮「一人で行ける」
M16A1「その台詞は、走れる奴が言うもんだ」
反対側からSOPⅡが蓮の身体を支える。
SOPⅡ「レン、急ぐよ!」
蓮は二人に支えられ、交差点を渡る。
後方ではAR-15とトンプソンが、追ってくる私兵へ交互に射撃を加えていた。
一人が撃つ間に、もう一人が下がる。
射撃位置を残さず、少しずつ北へ移動する。
AR-15「M16、蓮を連れて先へ!」
M16A1「言われなくてもそうする!」
最後にAR-15が路地へ数発撃ち、遮蔽物から出ようとした私兵の足を止める。
それからトンプソンとともに交差点を渡った。
七人が排水路の入口へ入る。
M4A1が一人ずつ確認する。
M4A1「M9」
M9「いるよ!」
M4A1「トンプソン」
トンプソン「ここだ」
M4A1「SOPⅡ、M16姉さん」
SOPⅡ「いる!」
M16A1「問題なし」
M4A1「AR-15」
AR-15「いるわ」
M4A1が最後に蓮を見る。
蓮「俺もいる」
M4A1「全員、揃っています」
その言葉を聞いて、張り詰めていた空気が僅かに緩む。
M9が抱えていた帽子を、トンプソンへ返す。
M9「もう被っていいよ。でも、傷に当てないでね」
トンプソン「器用な注文だな」
トンプソンは帽子を斜めに被り、包帯へ触れない位置へずらした。
SOPⅡが満足そうに頷く。
SOPⅡ「似合ってる!」
トンプソン「当たり前だ」
蓮は排水路の壁へ背中を預け、その場へ座り込んだ。
左腿の包帯には、再び血が滲んでいる。
AR-15「見せて」
蓮「少し休めば大丈夫だ」
AR-15「その言葉を信じないって、さっき言ったでしょう」
AR-15が蓮の前へ片膝をつく。
包帯の状態を確認し、圧迫が緩んでいないことを確かめる。
AR-15「傷口は大きく開いていない。でも、しばらく歩かない方がいいわ」
蓮「ここに住むわけにもいかないだろ」
M16A1「次の移動は、私が担いでやる」
蓮「それだけは勘弁してくれ」
M16A1「選べる立場か?」
蓮は返事をしなかった。
AR-15が小さく息を吐く。
AR-15「正面から戦っていたら、あなたは絶対に勝てなかった」
蓮「ああ。力の差は歴然だったな」
AR-15「怖くなかったの?」
蓮「怖かったさ。最初の一撃で、やめておけばよかったと思った」
AR-15「それでも、引きつけた」
蓮「お前たちが見ていると分かっていたからな」
AR-15は、蓮の顔を見る。
民家で出会った時、蓮は一人だった。
身元を証明するものも、戻る部隊もなく、敵の占領地へ取り残されていた。
それでも今は、誰かへ背中を預けることを選んだ。
AR-15「……だったら、次も勝てるわ」
蓮「随分と買ってくれるな」
AR-15「力の差は歴然でも、貴方は絶対に勝てるもの」
蓮「どうして、そう言い切れる?」
AR-15「貴方が、自分一人の力で勝とうとしなかったからよ」
蓮は僅かに目を見開く。
やがて、静かに笑った。
蓮「一つ訂正していいか?」
AR-15「何?」
蓮「勝ったのは、俺じゃない。俺たちだ」
AR-15は数秒黙ったあと、小さく頷く。
AR-15「……ええ。そうね」
排水路の入口で、M4A1が周辺図を開く。
M4A1「この隠れ家には戻れません。次の拠点を探す必要があります」
トンプソン「それなら、心当たりがある」
トンプソンが図面の北西を指した。
トンプソン「ここから二キロほど先に、使われていない貨物駅がある。俺の部隊は、そこを予備の集合地点にしていた」
M9「みんながいるかもしれないの?」
トンプソン「可能性はある。少なくとも、雨風は防げるし、この場所よりはましだ」
M4A1「では、排水路を使って貨物駅へ向かいます」
全員が頷く。
帰る場所を一つ失った。
それでも、誰一人欠けてはいない。
M16A1とSOPⅡが蓮を立たせる。
今度は、蓮も二人の肩を拒まなかった。
七人は排水路の奥へ進んでいく。
◇
半壊した集合住宅。
積み重なった瓦礫が、内側から僅かに動いた。
鉄骨が曲がり、コンクリート片が転がり落ちる。
その下から、エクスキューショナーが大剣を引き抜いた。
右膝から火花が散っている。
剣を持つ腕の装甲も、一部が砕けていた。
それでも、致命的な損傷ではない。
追いついた私兵が、瓦礫の向こうから声を掛ける。
私兵「エクスキューショナー! ご無事ですか!」
エクスキューショナー「これが無事に見えるか?」
私兵「も、申し訳ありません!」
エクスキューショナーは大剣を肩へ担ぐ。
北へ続く路地を見る。
標的の姿は、もうなかった。
普通なら、怒りに任せて追跡を命じていたかもしれない。
だが、エクスキューショナーは笑っていた。
エクスキューショナー「緑色の男を見つけたと、キングへ伝えろ」
私兵「能力と装備については、どのように?」
エクスキューショナーは、自分の右膝に残された二つの弾痕を見る。
男一人の銃弾ではない。
狙撃。
挟撃。
誘導。
爆破。
誰か一人でも役目を誤れば、成立しなかった罠だった。
エクスキューショナー「人間一人だ。力も速さも、俺には遠く及ばねぇ」
私兵「では、脅威度は低いと?」
エクスキューショナー「馬鹿。逆だ」
エクスキューショナーの笑みが深くなる。
エクスキューショナー「あいつを、二度と一人だと思うな」
◇
市役所、臨時司令室。
短距離無線から、ポーン01がエクスキューショナーの報告を受けていた。
ポーン01「了解。交戦を中止し、負傷者と損傷個体を回収してください。追跡は行わず、敵の移動方向だけを確認。以後は通信を最小限に」
通信を切る。
ポーン01は、記録した内容を持って地図の前へ移動した。
キングとクイーン13が待っている。
クイーン13「結果は?」
ポーン01「エクスキューショナーは行動可能。ただし、右膝と剣を保持する腕を損傷しています。随伴部隊にも複数の負傷者。標的は北へ離脱しました」
キング「敵の数は?」
ポーン01「緑色の男を含めて、少なくとも七人。AR小隊と見られる四人、別部隊の二人が同行しています」
クイーン13「一人を捕らえるために出した部隊が、七人をまとめて逃がしたか」
ポーン01「……申し訳ありません」
キング「君が謝る必要はない」
キングは南東部へ置かれていた緑色の標識を持ち上げる。
その隣へ、六つの標識を並べた。
キング「我々は部隊を失ってはいない。代わりに、敵が一人ではないことを知った」
クイーン13「しかし、エクスキューショナーまで足止めされました」
キング「だからこそ価値がある。あれを止めるために、敵は狙撃、挟撃、誘導、爆破を組み合わせた。偶然集まっただけの連中なら、そこまで短時間で役割を合わせられない」
キングが標識の集まりを、地図の北側へ動かす。
キング「緑色の男は、グリフィンの人形を従えているわけではない。互いの能力を認め、必要な役目を任せている」
ポーン01「次の捜索部隊を出しますか?」
キング「いや」
キングは即座に否定した。
キング「負傷者を抱えた七人だ。追い立てれば散る。散れば、また一人ずつ捜し直すことになる」
クイーン13「ならば、行かせると?」
キング「行き先を選ばせる」
北側の地図には、廃線となった鉄道と、複数の排水路が記されている。
人目を避け、負傷者を休ませられる場所は多くない。
キング「排水路の出口、廃倉庫、貨物駅。すぐに包囲はするな。監視だけを置け」
ポーン01「標的が拠点を決めたあと、戦力を集中するのですね」
キング「そうだ。逃げた直後の人間は、追手ばかりを見る。追われていないと分かった時、初めて帰る場所を選ぶ」
ポーン01は命令を書き留める。
クイーン13「監視部隊を動かせば、市役所の防備に穴が開きます」
ポーン01「外周部隊は動かしません。復旧した受信設備と、すでに北側へいる巡察班を使います。不足する監視点だけ、二人一組で補います」
クイーン13がポーン01を見る。
先ほどまで命令を受けるだけだった若い兵士は、もう地図上の人員と時間を計算し始めている。
クイーン13「……それでいい。だが、市役所の警戒を一段階上げろ。敵がこちらの捜索へ気づき、逆に戻ってくる可能性も捨てるな」
ポーン01「了解しました」
キング「ポーン01。追跡の指揮は引き続き君に任せる」
ポーン01「私に、ですか?」
キング「エクスキューショナーを負かした相手だ。次に必要なのは、力比べをしたがる者ではない。盤面を見られる者だ」
キングは火をつけていない煙草を胸ポケットへ戻した。
キング「敵は勝った。少なくとも、今はそう思っている」
地図の南東部から北西へ、七つの標識が移される。
その行く先には、まだ誰の標識も置かれていない貨物駅があった。
キング「ならば次は、その勝利で得た一歩を、どこへ置くのか見せてもらおう」
はい。
1万文字とか頭壊れそう。
以外にエクスキューショナの戦闘あっけなかったですね...
以外に戦闘ってこんな感じかな?と思いました!
次回こそエグイ事書きます...
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