陸自はドールズフロントライン、海自は艦これとアズールレーン、空自はアッシュアームズ三つの世界でバラバラになりながらでも生き残る   作:ゴーストライターとかした、素人小説書き

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注意

この小説は、シリアスとギャグが少し入っています。
それがいやな方は、上にある矢印ボタンでブラウザバックを推奨します。
それでも、大丈夫な方はご覧ください...

その前に一言...
今回の話は、かなりグロと言いますか...残酷な物です。
この話を見ていて気分が悪くなりましたら、直ちにブラウザバックして好きな小説、ゲームなどして気分を落ち着かせて下さい。

それでは、ご覧ください。


第9話 正義は悪、悪は正義。

第9話 正義は悪、悪は正義。

 

 市街地北西部、廃貨物駅。

 

 霧の向こうに、錆びた信号機と崩れかけた駅舎が浮かんでいる。

 

 何本もの側線には、長いあいだ動かされていない貨車が並んでいた。

 

 その南側にある排水口から、M4A1がゆっくりと顔を出す。

 

 駅構内へ動く影はない。

 

 風に揺れる草と、どこかで軋む鉄板の音だけが聞こえている。

 

M4A1「正面、異常なし。次、M9」

 

M9「了解なの」

 

 M9が排水口から出て、すぐ右側の壁へ身を寄せる。

 

 続いてトンプソン、AR-15、SOPⅡ。

 

 最後に、M16A1が蓮の右腕を自分の肩へ回したまま姿を現した。

 

蓮「もう離してくれていいぞ」

 

M16A1「貨物駅へ着くまで、何回それを言うつもりだ?」

 

蓮「自分で歩けるようになるまでだな」

 

M16A1「なら、まだ先は長そうだ」

 

 左腿へ巻かれた包帯には、新しい血が滲んでいる。

 

 痛みを隠して歩ける状態ではなかった。

 

 七人は貨車の影へ入り、構内を見渡す。

 

トンプソン「ここが予備の集合地点だ。俺の部隊が先に着いていれば、駅舎の北側へ印を残しているはずなんだが……」

 

 トンプソンが駅舎を見る。

 

 指定された窓にも、扉にも、味方を示す印はない。

 

M4A1「まだ到着していないのでしょうか?」

 

トンプソン「そう願いたいところだな」

 

 AR-15が、貨物ホームの向こうへ視線を向ける。

 

 閉鎖された信号扱所。

 

 二階の窓は割れていたが、その一か所だけが黒い布で塞がれている。

 

AR-15「止まって」

 

 全員の足が止まる。

 

AR-15「信号扱所の二階。窓の右端に光学機器の反射が見えた」

 

M16A1「先客か」

 

トンプソン「俺の仲間なら、あんな場所から入口を覗いたりしねぇ」

 

 M4A1が片手を上げる。

 

 全員がそれ以上の会話を止めた。

 

 彼女は周囲の貨車、駅舎、信号扱所の位置を確認する。

 

M4A1「監視者は、こちらに気づいている可能性があります。交戦は避け、退路を確保します」

 

 M4A1が手信号を送る。

 

 AR-15は貨車の連結部を抜け、信号扱所を見通せる位置へ。

 

 トンプソンとM16A1は左右へ分かれる。

 

 SOPⅡはM9とともに、排水口へ戻る道を押さえた。

 

 蓮は貨車の車輪へ背中を預け、89式の弾倉を確認する。

 

 残弾は十分ではない。

 

 それでも、援護に数発使う程度なら足りる。

 

 蓮が槓桿を僅かに引いた。

 

 途中で、硬い抵抗が返ってくる。

 

蓮「……閉鎖不良か」

 

 無理に動かさず、弾倉を抜く。

 

 瓦礫の中で使い続けたため、機関部へ細かな粉塵が入り込んでいた。

 

 この場で原因を確かめる時間はない。

 

 蓮は89式を安全な状態にして背負い、P226を抜いた。

 

蓮「M4。89式が止まった。しばらく拳銃だけになる」

 

M4A1「了解しました。蓮さんはその位置から動かないでください」

 

蓮「了解」

 

 信号扱所、二階。

 

 レッドカンパニーの監視兵が、双眼鏡を窓から離した。

 

監視兵「七人。報告と一致する。緑色の男もいる」

 

 隣にいる若い通信兵が、小型無線機を手に取る。

 

通信兵「定時報告まで、まだ六分あります」

 

監視兵「構わん。キングが欲しがっている獲物だ。先に送れ」

 

 通信兵が送信操作を始める。

 

 その瞬間。

 

 窓際から突き出していたアンテナが、乾いた音とともに折れた。

 

通信兵「ッ!」

 

 続く一発が、机の上の無線機を弾き飛ばす。

 

監視兵「見つかった! 裏から出るぞ!」

 

 二人が階段へ向かう。

 

 だが、一階の裏口を開けた先には、すでにトンプソンがいた。

 

トンプソン「遅かったな」

 

 トンプソン短機関銃が火を噴く。

 

 銃弾が扉の枠を削り、二人を建物の中へ押し戻した。

 

 監視兵が正面口へ向かう。

 

 外へ飛び出した途端、M16A1の三点射が足元へ突き刺さった。

 

M16A1「次は当てるぞ!」

 

 監視兵は柱の陰へ転がり込む。

 

 通信兵は割れた窓から貨物ホームへ飛び降りた。

 

SOPⅡ「あっちから一人出た!」

 

M4A1「M9、追わないで! 退路を守って!」

 

M9「でも、逃げちゃうなの!」

 

M4A1「二人とも追えば、駅舎が空きます!」

 

 通信兵は貨車の間を縫い、北側の線路へ走る。

 

 AR-15が照準を合わせた。

 

 だが、引き金は引かない。

 

AR-15「貨車が重なっている。確実な射線が取れない」

 

 通信兵の姿が霧の中へ消えた。

 

 一方、信号扱所に残された監視兵は、柱の陰から小銃だけを出して撃ち続けている。

 

 蓮のいる貨車へ、数発が命中した。

 

 厚い鉄板が弾丸を受け止める。

 

蓮「右側を見ている。左から詰められるぞ」

 

M4A1「M16姉さん、トンプソン。制圧を継続。SOPⅡ、左側から接近してください」

 

SOPⅡ「了解!」

 

 SOPⅡが貨車の下を潜り、信号扱所の死角へ入る。

 

 M16A1とトンプソンが交互に射撃し、監視兵の顔を上げさせない。

 

 SOPⅡは壁際まで近づくと、正面口から閃光手榴弾を投げ入れた。

 

 白い閃光。

 

 短い爆発音。

 

監視兵「ぐあっ!」

 

 監視兵の射撃が止まる。

 

 M16A1とトンプソンが同時に踏み込んだ。

 

M16A1「武器を捨てろ!」

 

 床へ倒れた監視兵は、それでも腰の拳銃へ手を伸ばした。

 

 トンプソンがその手首を踏み、拳銃を蹴り飛ばす。

 

トンプソン「聞こえなかったのか?」

 

 監視兵は歯を食いしばったあと、両手を床へ置いた。

 

     ◇

 

 貨物駅から北へ五百メートル。

 

 逃げた通信兵が、崩れた倉庫の陰へ滑り込む。

 

 息を整える暇もなく、予備の通信端末を取り出した。

 

通信兵「監視二〇三より司令部! 目標を貨物駅で確認! 七名、緑色の男を含む! 監視二〇二は――」

 

 背後で、小石を踏む音がした。

 

 通信兵が振り向く。

 

 霧の中に、二人の少女が立っていた。

 

 一人は、目を閉じたような微笑みを浮かべている。

 

 もう一人は、その半歩後ろで通信兵へ銃口を向けていた。

 

AK-12「報告は、そこまでにしてもらえる?」

 

通信兵「なっ――」

 

 通信兵が小銃へ手を伸ばすより早く、AN-94が距離を詰める。

 

 銃床が手首を打ち、落ちた小銃が地面を滑った。

 

AN-94「AK-12。送信は途中まで通っています」

 

AK-12「ええ。七人と貨物駅までは、向こうに届いたでしょうね」

 

 AK-12が、通信兵の落とした端末を拾う。

 

AK-12「でも、これは使えるわ」

 

通信兵「お前たちは……グリフィンか?」

 

AK-12「今は、質問する側と答える側。それだけ分かれば十分よ」

 

 AN-94が通信兵の両手を拘束する。

 

AN-94「時間がありません」

 

AK-12「分かってるわ。だから、必要なことだけ聞きましょう」

 

 AK-12は端末の履歴を開く。

 

 そこには、市役所から北側へ配置された監視班の識別番号と、短い定時報告が残っていた。

 

AK-12「貨物駅を監視するよう命じたのは誰?」

 

通信兵「……何も話さない」

 

AK-12「そう。なら、記録から確かめるわ」

 

 AK-12の微笑みは変わらない。

 

 だが、通信兵はその表情を見て、僅かに身体を強張らせた。

 

     ◇

 

 廃貨物駅、駅務室。

 

 拘束された監視兵が、壁際の椅子へ座らされている。

 

 両手は背中ではなく、身体の前で縛られていた。

 

 逃走を防ぎながら、負傷した場合に処置できる形だった。

 

 M4A1は、監視兵から回収した所持品を机へ並べる。

 

 拳銃。

 

 予備弾倉。

 

 レッドカンパニーの身分証。

 

 折り畳まれた市街地図。

 

 監視地点と報告時刻が記された手帳。

 

 そして、企業名を伏せたまま発行された共同警備指示書。

 

M4A1「この書類に記された契約番号は、市役所から回収した資料と一致しています」

 

AR-15「こちらには、鉄血部隊との識別信号も書かれている。偶然同じ場所にいた、という言い訳はできないわね」

 

トンプソン「なら、もう十分じゃねぇのか?」

 

M4A1「共同運用が行われていた証拠にはなります。でも、誰が何を命じ、どこまで企業が関与していたのかは分かりません」

 

M16A1「こいつが素直に話すとも思えないがな」

 

 監視兵が笑う。

 

監視兵「そういうことだ。紙切れ一枚で、何が証明できる?」

 

M4A1「あなたの氏名、所属、任務、命令を出した人物を確認します」

 

監視兵「断る」

 

M4A1「捕虜として扱います。負傷があれば処置し、必要な水と食料も渡します。ただし、解放を約束することはできません」

 

監視兵「人形が捕虜の権利を語るのか?」

 

 M4A1の表情は変わらない。

 

M4A1「もう一度聞きます。あなたの所属と任務は?」

 

監視兵「商品が人間の真似をするな」

 

 SOPⅡが一歩前へ出る。

 

SOPⅡ「こいつ……!」

 

M4A1「SOPⅡ、下がってください」

 

 SOPⅡは監視兵を睨みながらも、M4A1の隣へ戻る。

 

 蓮は少し離れた壁へ寄り、やり取りを聞いていた。

 

 M9が蓮の89式を見ている。

 

M9「その銃、本当に壊れちゃったなの?」

 

蓮「まだ分からん。動かないからと無理に引けば、本当に壊す。落ち着いてから調べるよ」

 

AR-15「あとで私も見るわ」

 

蓮「助かる」

 

 監視兵が、蓮の方へ視線を向ける。

 

監視兵「お前が例の日本人か」

 

蓮「そう呼ばれているらしいな」

 

監視兵「市役所から商品を盗み出し、仲間を何人も殺した。正義の味方にでもなったつもりか?」

 

蓮「正義を名乗った覚えはない」

 

監視兵「俺たちは契約を守った。会社の命令で施設を守り、逃げた商品を取り戻そうとしただけだ。お前たちと何が違う?」

 

蓮「契約なら、何をしても許されるのか?」

 

監視兵「持ち主が、自分の物をどう扱おうと勝手だろう」

 

 薄暗い地下収容区。

 

 鎖へ繋がれていたVSK。

 

 椅子へ固定され、意識を失っていたG3。

 

 蓮の記憶に、その光景が戻る。

 

蓮「……物、か」

 

監視兵「ああ。お前が助けた連中も、人間の形をした兵器だ。壊れたなら交換すればいい」

 

 蓮が壁から離れた。

 

 AR-15が、その足音へ視線を向ける。

 

AR-15「蓮?」

 

 蓮は監視兵の前で止まる。

 

 机の上へ携帯端末を置き、録音を始めた。

 

蓮「所属と任務を話せ」

 

監視兵「断ると言ったはずだ」

 

蓮「市役所の捕虜に、何をした?」

 

監視兵「さあな。俺の担当じゃない」

 

蓮「知っていたのか、と聞いている」

 

監視兵「知っていたら、何だ?」

 

 次の瞬間、蓮の拳が監視兵の頬を打った。

 

 椅子が横へ倒れ、監視兵の口元から血が流れる。

 

M4A1「蓮さん!」

 

 蓮は監視兵の襟を掴み、椅子ごと起こした。

 

蓮「もう一度聞く。誰が命じた?」

 

監視兵「……その程度で、話すと思うか?」

 

 監視兵は血を吐き、笑った。

 

監視兵「やってみろよ、正義の味方」

 

 蓮の表情から、怒りが消えた。

 

 代わりに、何の感情も読み取れない静けさが浮かぶ。

 

M16A1「おい。そいつから離れろ」

 

蓮「話せる状態にはしておく」

 

 蓮は監視兵の拘束を確認すると、駅務室の奥へ引いていく。

 

 そこには保線作業員が使っていた工具室があった。

 

M4A1「待ってください。何をするつもりですか?」

 

蓮「時間がない。逃げた一人が報告すれば、ここは包囲される」

 

M4A1「だからといって――」

 

蓮「知っているんだ。人間が、どこまで耐えられるか」

 

 その言葉に、M16A1の顔から軽さが消える。

 

 蓮は工具室の扉を開き、監視兵を中へ入れた。

 

 棚から黒い覆いと、古い電動工具を取り出す。

 

 スイッチを押すと、鈍い回転音が狭い室内へ響いた。

 

 監視兵の笑みが消える。

 

監視兵「……脅しのつもりか?」

 

蓮「これが脅しで終わるかは、お前が決める」

 

 蓮は工具を作業台へ置き、腰からナイフを抜いた。

 

 監視兵の手を台の上へ押さえつける。

 

 刃先が、指の間へ置かれた。

 

M4A1「やめてください!」

 

蓮「M4。外へ出ていろ」

 

M4A1「これは命令です。捕虜から離れてください!」

 

 蓮の手は止まらない。

 

 ナイフの刃が僅かに傾く。

 

 その手首を、横からAR-15が掴んだ。

 

蓮「離せ」

 

AR-15「嫌よ」

 

蓮「こいつは知っていた」

 

AR-15「だから何?」

 

蓮「地下で、あいつらが何をされていたか知りながら――」

 

AR-15「だから、あなたも同じことをするの?」

 

 蓮がAR-15を見る。

 

 掴まれた手首は、僅かにも動かせない。

 

 負傷した人間と戦術人形の力の差は、比べるまでもなかった。

 

AR-15「苦痛を止めるためなら、人はあなたが望む答えを何でも言う。そんなものは証拠にならない」

 

蓮「時間がない」

 

AR-15「情報が欲しいんじゃないでしょう」

 

 AR-15の声が低くなる。

 

AR-15「今のあなたは、こいつを傷つける理由が欲しいだけよ」

 

 工具の回転音だけが続く。

 

 蓮の指から、少しずつ力が抜けていく。

 

 ナイフが作業台へ落ちた。

 

蓮「……そうかもしれない」

 

 AR-15が工具のスイッチを切る。

 

 室内が静かになった。

 

 監視兵が荒い息を吐く。

 

監視兵「はっ……正義の味方が、聞いて呆れる」

 

 蓮は監視兵を見た。

 

蓮「何度も言わせるな。俺は正義じゃない」

 

監視兵「なら、俺たちと同じだ」

 

蓮「今のままならな」

 

 蓮は工具室から出る。

 

 誰とも目を合わせなかった。

 

     ◇

 

 駅務室。

 

 M4A1は監視兵を別の椅子へ座らせ、口元の傷を処置した。

 

 監視兵は驚いたようにM4A1を見る。

 

監視兵「……俺を殴った仲間の後始末か?」

 

M4A1「彼がしたことは、彼の責任です。あなたを捕虜として扱うことは、私たちの責任です」

 

 M4A1が新しい録音を開始する。

 

M4A1「先ほどの録音は、尋問記録として使用しません」

 

監視兵「せっかく怖い思いをさせたのにな」

 

M4A1「恐怖から出た答えに、価値はありません」

 

 机の上へ、監視兵の手帳と共同警備指示書を置く。

 

M4A1「こちらは、あなたが所持していた資料です。市役所から回収した契約書と、同じ管理番号が記されています」

 

AR-15「監視地点、報告時刻、鉄血側の識別信号。あなたが話さなくても、共同運用が行われていたことは分かるわ」

 

M16A1「足りないのは、命令系統だけだ」

 

 M16A1が、手帳の記述を指で叩く。

 

M16A1「北側監視網の更新時刻は、午前十一時三十分。共同部隊との合流地点は、旧変電所。そうだな?」

 

監視兵「違う」

 

 監視兵は反射的に答えた。

 

 口にしてから、僅かに表情を変える。

 

M16A1「何が違う?」

 

監視兵「……」

 

M16A1「書類には変電所とある。黙っていても、私たちはそこへ行くぞ」

 

監視兵「そこは昨日までの合流地点だ」

 

AR-15「今日は?」

 

監視兵「……操車場の給水塔だ」

 

 M4A1は答えを急がせない。

 

M4A1「命令を更新した人物は?」

 

監視兵「通信担当の若い奴だ。上から送られてきた内容を書き写していた」

 

M4A1「上とは、誰ですか?」

 

監視兵「市役所の司令室。キングと呼ばれている男だ」

 

 監視兵は一度目を閉じる。

 

監視兵「現場の契約を管理しているのは、レッドカンパニーだ。企業側から警備と捕虜回収の仕事を受け、鉄血の部隊と区域を分担していた」

 

M4A1「企業と鉄血は、直接契約していたのですか?」

 

監視兵「そこまでは知らん。俺たちへの命令は、全部レッドカンパニーを通っていた。鉄血とは識別信号と担当区域を共有しただけだ」

 

M4A1「知らないことを、知っているように話す必要はありません」

 

監視兵「……本当に、それだけだ」

 

 録音は続いている。

 

 氏名。

 

 所属。

 

 監視任務を受けた時刻。

 

 命令の発信元。

 

 共同警備指示書を受領した場所。

 

 M4A1は同じ内容を、順序と表現を変えながら確認する。

 

 監視兵の答えに、大きな食い違いはなかった。

 

     ◇

 

 工具室の奥に、小さな洗面台があった。

 

 蓮は蛇口を捻り、冷たい水を両手へ流す。

 

 監視兵を殴った右手の皮膚が裂け、指の付け根から血が滲んでいる。

 

 鏡の中には、疲れ切った男が映っていた。

 

 汚れた緑色の戦闘服。

 

 青ざめた顔。

 

 焦点の合わない目。

 

蓮「……馬鹿が」

 

 自分へ向けて吐き捨てる。

 

 鏡の中の口元が、僅かに遅れて動いたように見えた。

 

『ケダモノハ、オマエダ』

 

 途切れた声が聞こえる。

 

 蓮は両手で洗面台の縁を掴んだ。

 

蓮「黙れ。お前は病気だ」

 

『ホントウニ? ゼンニンシャクン』

 

 非常灯の明滅に合わせて、鏡の中の瞳が金色に濁る。

 

 蓮の右手が、無意識にP226のグリップへ触れた。

 

 だが、抜かなかった。

 

蓮「……消えろ」

 

『マタ、アオウ』

 

 目眩が走る。

 

 蓮が目を閉じ、深く息を吐く。

 

 再び目を開けた時、鏡にいるのは自分だけだった。

 

AR-15「誰と話していたの?」

 

 入口から声がした。

 

 AR-15が、分解した89式を布の上へ載せて持っている。

 

蓮「昔の知り合いだ」

 

AR-15「鏡の中にいるの?」

 

蓮「できれば、二度と会いたくない相手だ」

 

 AR-15は、それ以上問い詰めなかった。

 

 洗面台の横へ89式を置く。

 

AR-15「薬室と機関部へ粉塵が入っていた。変形した弾も一発あったわ。見える範囲に破損はないけれど、試射するまでは使わないで」

 

蓮「壊れてはいないのか?」

 

AR-15「たぶんね。無理に槓桿を引かなかったのは正解よ」

 

蓮「……よかった」

 

 蓮は89式へ手を触れる。

 

 それから、AR-15を見る。

 

蓮「さっきは、悪かった」

 

AR-15「私に謝ることじゃない」

 

蓮「止めてくれて助かった」

 

AR-15「私がいなかったら、やっていた?」

 

 蓮はすぐには答えなかった。

 

蓮「昔なら、やっていた」

 

AR-15「今のあなたは?」

 

蓮「分からない。だから怖い」

 

AR-15「なら、分からなくなった時は一人で決めないで」

 

蓮「また止めてくれるのか?」

 

AR-15「必要なら、今度はもっと早くね」

 

 AR-15は淡々と言った。

 

 慰めるでも、突き放すでもない。

 

 蓮を危険な化け物としてではなく、判断を誤りかけた一人の人間として見ていた。

 

蓮「頼む」

 

AR-15「ええ」

 

     ◇

 

 貨物駅北側、廃倉庫。

 

 AN-94が、拘束した通信兵の供述を記録していた。

 

AN-94「契約番号、警備指示書の発行元、鉄血との合流地点。先ほどの回答と一致しています」

 

AK-12「端末に残っている輸送記録とも合うわね」

 

 AK-12は通信兵の端末から、必要な情報だけを複製する。

 

 レッドカンパニーへ支払いを行う企業側の管理番号。

 

 鉄血部隊へ物資を引き渡した日時。

 

 市役所の収容区へ搬入された拘束具と医療物資。

 

 現場で双方が協力していたことを示すには、十分な記録だった。

 

AN-94「彼らへ渡すのですか?」

 

AK-12「全部は渡さないわ。私たちの任務まで知られるもの」

 

AN-94「では、なぜ一部を?」

 

AK-12「同じ盤面を見ている相手が、どの手を選ぶのか知りたいから」

 

 AK-12が短い情報束を作る。

 

 契約番号。

 

 輸送記録の一部。

 

 通信兵の供述音声。

 

 発信元を示す情報は削除した。

 

AK-12「それに、あの日本人。面白いところで止まったでしょう?」

 

AN-94「止められただけです」

 

AK-12「一人で止まれないなら、止めてくれる仲間を持つ。それも能力よ」

 

 AK-12が送信操作を行う。

 

 送信元を伏せた短いデータ通信が、貨物駅へ向けて放たれた。

 

     ◇

 

 駅務室の通信端末が反応する。

 

AR-15「待って。正体不明の通信を受信した」

 

M4A1「敵からですか?」

 

AR-15「分からない。こちらの呼出符号を使っていない。でも、内容は――」

 

 AR-15が受信した情報を開く。

 

 監視兵の所持品と同じ契約番号。

 

 鉄血部隊への物資引き渡し記録。

 

 そして、逃げた通信兵の声。

 

通信兵『監視命令は市役所から受けた。企業側の管理番号は共同警備指示書に記載されている。鉄血とは、レッドカンパニーを通して区域と識別信号を共有していた』

 

 部屋の全員が、拘束された監視兵を見る。

 

 監視兵は顔を伏せた。

 

M4A1「二人の供述と、別々に回収された記録が一致しました」

 

M16A1「送り主は気になるが、少なくともこいつ一人の作り話じゃない」

 

トンプソン「これで、企業と鉄血の繋がりを持ち帰れるわけだ」

 

M4A1「現場で共同作戦が行われていた証拠としては、十分です。ただし、企業上層部がどこまで関与していたかは、さらに調べる必要があります」

 

 M4A1は録音端末を止める。

 

 それから、工具室から戻ってきた蓮を見る。

 

M4A1「この情報は、あなたが捕虜を傷つけようとしたから得られたものではありません」

 

蓮「ああ」

 

M4A1「あなたが止まり、私たちが質問をやり直したから得られました」

 

蓮「分かっている」

 

M4A1「本当に?」

 

 蓮はM4A1の視線を受け止める。

 

蓮「俺がやろうとしたことは、尋問じゃない。報復だ」

 

 部屋が静かになる。

 

蓮「捕虜を撃つ趣味はないと言った。そのくせ、殺さなければ何をしてもいいと考えかけた」

 

M9「蓮……」

 

蓮「怖がっていい。信用できないなら、武器を預ける」

 

 蓮はP226へ手を伸ばす。

 

 M16A1が、その手を止めた。

 

M16A1「勝手に話を終わらせるな」

 

蓮「だが――」

 

M16A1「次に同じことをしたら、私が殴って止める。それで終わりだ」

 

SOPⅡ「私も止める!」

 

M9「わ、私もなの!」

 

トンプソン「じゃあ、俺は逃げないように足を払ってやる」

 

AR-15「全員でやれば、今度はもっと早く止められるわね」

 

 蓮は、何も言えずに六人を見る。

 

M4A1「あなたを放っておけば、また一人で決めようとします」

 

 M4A1が地図を畳む。

 

M4A1「だから、一緒に来てください。ただし、次からは私の命令に従ってもらいます」

 

蓮「……了解した」

 

 AR-15が、受信端末の時刻を見る。

 

AR-15「安心するのはまだ早いわ。逃げた一人は、最初の報告を途中まで送っている」

 

M4A1「敵は七人と貨物駅を把握したと考えます。十分以内に移動を開始します」

 

M16A1「捕虜はどうする?」

 

M4A1「連れていきます。証言者をここへ残すことはできません」

 

トンプソン「また荷物が増えたな」

 

監視兵「荷物扱いとは、人形も言うじゃないか」

 

トンプソン「自分で歩ける荷物なら、まだましだ」

 

 監視兵の拘束を短く調整し、自力で歩けるようにする。

 

 M9とSOPⅡが携行品をまとめる。

 

 M16A1は駅舎の北側を確認し、次の退路を選ぶ。

 

 AR-15は89式を蓮へ返した。

 

AR-15「背負うだけよ。まだ撃たないで」

 

蓮「分かった」

 

 蓮は89式を受け取り、肩へ掛ける。

 

 壊れかけた武器。

 

 負傷した脚。

 

 敵に知られた現在地。

 

 連れていかなければならない捕虜。

 

 そして、完全には信用を取り戻せていない自分自身。

 

 何一つ、軽くはなっていない。

 

 それでも今度は、一人ではなかった。

 

     ◇

 

 市役所、臨時司令室。

 

 ポーン01が、途中で途切れた通信を再生する。

 

通信兵『目標を貨物駅で確認! 七名、緑色の男を含む! 監視二〇二は――』

 

 その先は雑音だけだった。

 

クイーン13「監視班との再接続は?」

 

ポーン01「応答ありません。二人とも行動不能、あるいは拘束された可能性があります」

 

キング「だが、場所は分かった」

 

 キングが、地図上の貨物駅へ七つの標識を移す。

 

ポーン01「すぐに部隊を送りますか?」

 

キング「いや。報告から時間が経ちすぎている。今から向かっても、空の駅舎を見るだけだ」

 

クイーン13「では、北側の出口を押さえる」

 

ポーン01「貨物駅から使える退路は三つです。北の線路、西の整備道、地下の排水路。既存の巡察班を移動させれば、二つまでは監視できます」

 

キング「残りの一つは?」

 

ポーン01「意図的に空けます」

 

 ポーン01が、西の整備道を指した。

 

ポーン01「三方向を塞げば、相手は包囲を疑って動かなくなります。一つだけ安全に見える道を残せば、次の進路を選ばせられます」

 

 キングが僅かに笑う。

 

キング「いい判断だ」

 

クイーン13「だが、同じ手を読まれる可能性もある」

 

ポーン01「はい。ですから、監視班には接触を禁じます。報告も有線区間を優先し、無線は必要な時だけにします」

 

キング「そのまま続けろ。今度は、駒を取られるなよ」

 

ポーン01「了解しました」

 

 貨物駅から西へ、一本の道が延びている。

 

 敵が用意した、開かれた退路。

 

 それが逃げ道なのか、次の罠なのか。

 

 地図を見ただけでは、まだ誰にも分からなかった。

 

     ◇

 

 貨物駅北側の廃倉庫。

 

 AK-12は、市役所から流れてくる新しい命令を聞いていた。

 

AN-94「彼らは、再び追跡されます」

 

AK-12「ええ。でも、今度は追われていると知っているわ」

 

AN-94「助けないのですか?」

 

AK-12「必要ならね。今は、もう少し見せてもらいましょう」

 

 AN-94が、貨物駅から離れていく一団の方角を見る。

 

AN-94「彼らは、正義なのでしょうか。それとも悪なのでしょうか」

 

 AK-12は、閉じた瞳のまま微笑む。

 

AK-12「正義が悪になり、悪が正義を名乗る。戦場では、珍しいことじゃないわ」

 

AN-94「では、何を見ればいいのですか?」

 

AK-12「次に、どこで止まるか」

 

 AK-12が踵を返す。

 

AK-12「止まれなくなった時、誰が止めるのか。それを見ればいい」

 

 二人は拘束した通信兵を連れ、霧の中へ消えていった。




はい。

やばいですね、うん。
グロイように書いたけど、うん...慣れない

そう思いました...

次回は、脱出です。

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それでは...

※2026年8月28日リメイク完了

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