陸自はドールズフロントライン、海自は艦これとアズールレーン、空自はアッシュアームズ三つの世界でバラバラになりながらでも生き残る 作:ゴーストライターとかした、素人小説書き
この小説は、シリアスとギャグが少し入っています。
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それでも、大丈夫な方はご覧ください。
第10話 明日の為に、銃を持って逃げましょう
廃貨物駅から西へ、約五百メートル。
線路沿いに残された保線小屋の中で、一行は短い停止を取っていた。
休憩ではない。
負傷者の包帯を締め直し、弾薬を分け、次の移動に必要な通信を試みるための停止だった。
窓は板で塞がれ、外から灯りは見えない。
M16A1とトンプソンが、それぞれ東西の出入口を警戒している。
拘束した監視兵は、部屋の中央にある支柱へ座らされていた。
両手は身体の前で縛られ、M9がその傍らについている。
小屋の奥。
蓮は木箱を椅子代わりにして、布の上へ分解された89式を並べていた。
被筒。
遊底。
復座ばね。
弾倉。
AR-15が先に取り除いた粉塵を、蓮が残り時間の中でもう一度確認している。
そのすぐ隣に、SOPⅡがしゃがみ込んでいた。
SOPⅡ「……」
蓮が遊底を持ち上げる。
SOPⅡの顔も一緒に上がる。
遊底を置く。
今度は顔が下がる。
蓮「面白いか?」
SOPⅡ「うん。バラバラだったのが、また銃に戻るところ」
蓮「戻らなかったら困るんだがな」
蓮は薬室へ光を当て、異物が残っていないことを確認する。
変形していた一発は、すでに弾倉から抜かれていた。
交換しなければならない部品は見当たらない。
粉塵による作動不良だった可能性が高い。
それでも、実弾を撃たなければ完全に直ったとは言い切れなかった。
蓮は復座ばねを戻し、機関部へ遊底を収める。
無理に叩き込むことはしない。
抵抗の変化を指先で確かめながら、一つずつ組み直していく。
SOPⅡ「中の形、私が持っている銃と少し違うね」
蓮「形は違っても、撃つまでに必要なことは大体同じだ。弾を送り、薬室を閉じ、撃ったあとの薬莢を出す」
SOPⅡ「蓮は、私たちの銃も直せる?」
蓮「見たことのない構造まで直せるとは言えない。簡単な不具合なら、一緒に原因を探すくらいはできる」
SOPⅡ「じゃあ、今度壊れたら頼むね!」
蓮「壊さないのが一番だぞ」
SOPⅡ「それは難しいかも」
迷いのない返事だった。
蓮は僅かに笑い、機関部を閉じて固定ピンを戻す。
それから、手を止めた。
蓮「SOPⅡ」
SOPⅡ「なに?」
蓮「最初に会った時のことだ」
SOPⅡが首を傾げる。
蓮「首を絞めて、気を失わせただろ。悪かった」
SOPⅡ「ああ、あれ?」
SOPⅡは自分の首へ手を当てた。
SOPⅡ「でも、そのあと私も蓮の脚を刺したよ」
蓮「だからといって、謝らなくていい理由にはならない」
SOPⅡ「じゃあ、私もごめんなさい」
蓮「……それで手打ちにするか」
SOPⅡ「うん!」
SOPⅡは笑い、右手を差し出す。
蓮もその手を握った。
見た目は少女の手だった。
だが、握り返す力は人間より遥かに強い。
蓮「痛い、痛い。もう少し弱く」
SOPⅡ「あっ、ごめん!」
SOPⅡが慌てて手を離す。
蓮は指を開いたり閉じたりしてから、89式を持ち上げた。
弾倉は入れない。
薬室が空であることを目と指で確認し、槓桿を引く。
遊底が最後まで後退する。
手を離すと、鋭い金属音とともに前進した。
安全装置。
引き金。
再び槓桿。
機能点検の範囲では、異常はない。
蓮「少なくとも、動くところまでは戻った」
SOPⅡ「そんなに大切な銃なの?」
蓮が89式を見る。
長く使われた銃には、新品のような美しさはない。
被筒には細かな傷があり、金属部の塗装もところどころ薄くなっている。
蓮「これは、もともと親父が使っていた銃だ」
SOPⅡ「蓮のお父さんも兵士だったの?」
蓮「ああ。正確には、親父の私物じゃない。国から部隊へ渡され、親父に貸与されていた武器だ」
蓮は銃の機関部へ刻まれた番号を指でなぞる。
蓮「戦争が始まって、部隊も補給も滅茶苦茶になった。回収されたこいつが、巡り巡って俺のところへ来た。それだけだ」
SOPⅡ「同じ銃だって、番号で分かったの?」
蓮「ああ。親父が装備点検の記録を残していたからな」
SOPⅡ「じゃあ、家族からもらった物なんだ」
蓮「国の物を勝手にもらったとは言えないな。今も借りているだけだ」
SOPⅡ「誰から?」
蓮は少し考える。
蓮「国と、親父からだ」
小屋の外で、風が枯れ草を擦る。
SOPⅡ「蓮の家族って、みんな兵士なの?」
蓮「そういう家だった。日露戦争の頃の軍服を着た写真まで残っていたよ」
SOPⅡ「すごく長いね!」
蓮「長すぎるんだ」
蓮の脳裏に、父の声が蘇る。
『自衛隊には入るな』
『弱いお前には、危険な場所だ』
その先に続いた言葉を、蓮は思い出そうとしなかった。
蓮「……弱い、か」
SOPⅡ「蓮?」
蓮は顔を上げる。
蓮「何でもない。それより、お前の照準器はどうだった?」
SOPⅡ「これ?」
SOPⅡが自分の小銃を持ち上げる。
その上には、蓮が民家で位置を調整したホログラフィック照準器が取り付けられている。
蓮「取り付け位置を少し後ろへ下げた。見え方に問題はなかったか?」
SOPⅡ「前より見やすかった! すぐに狙えるよ」
蓮「なら、そのまま使え。俺には合わなかった物だ」
SOPⅡ「本当にもらっていいの?」
蓮「使える奴が使うのが一番だ。道具は飾るためにあるんじゃない」
SOPⅡ「ありがとう。大事に使うね!」
蓮「できれば、爆発に巻き込むなよ」
SOPⅡ「努力する!」
蓮「努力か……」
不安の残る答えだった。
その時、部屋の反対側で短い電子音が鳴る。
AR-15「M4。応答が来た」
全員の視線が、AR-15の前に置かれた通信機へ向いた。
貨物駅の監視班から奪った送受信機。
外された高利得アンテナ。
AR-15はそれを自分たちの通信端末へ仮接続し、グリフィンの緊急周波数で短い認証信号を送り続けていた。
長く送れば、敵にも方角を掴まれる。
送信は一秒以内。
停止。
周波数を変更。
再び一秒だけ送る。
その繰り返しに、ようやく返信が届いた。
M4A1「こちらAR小隊、M4A1。認証符号を送ります」
指揮官『確認したわ。M4A1、聞こえる?』
M4A1「聞こえます」
M9が立ち上がりかける。
トンプソンが無言で肩を押さえ、座らせた。
全員、喜ぶのはまだ早いと分かっていた。
指揮官『現在位置は?』
M4A1「廃貨物駅から西へ約五百メートル。廃保線小屋です。AR小隊四名、M9、トンプソン、保護対象一名。それからレッドカンパニーの捕虜一名。負傷者は三名です」
指揮官側で、僅かな沈黙が生まれる。
指揮官『捕虜は生存していますか?』
M4A1「はい。自力歩行可能です。共同警備指示書と供述記録も確保しています」
指揮官『了解。自然公園から先に収容したレッドカンパニーの連絡将校は、現在も基地情報部の管理下にあるわ。新しい捕虜と資料が揃えば、供述を相互に照合できる』
レッドカンパニーの人間が、すでにS09で拘束されている。
それを聞いた監視兵が、初めて顔を上げた。
だが、何も言わなかった。
指揮官『保護対象の氏名は?』
M4A1「渡邉蓮。日本人です」
今度は、通信の向こうで椅子が動く音がした。
416『蓮?』
蓮が顔を上げる。
蓮「416か?」
416『生きているのね』
蓮「ああ。約束しただろ」
416『認識票も手帳も、私が持っているわ。あなたが何者かは、基地で説明してもらう』
蓮「返してくれる気はあるんだな?」
416『本人だと確認できたらね』
蓮「厳しいな」
416『置いていった人に言われたくないわ』
通信越しでも、416が怒っていることは分かった。
それ以上の会話を、指揮官が引き取る。
指揮官『会話は基地へ戻ってからにして。救出部隊は、すでに西側の外周道路まで進出しているわ』
M4A1「こちらとの距離は?」
指揮官『直線で約六・四キロ。ただし、市街地内の道路が寸断されている。航空収容地点を、旧農業試験場の資材集積地へ変更する』
AR-15が地図を開く。
保線小屋から、さらに西へ二・七キロメートル。
市街地と平原の境にある、長方形の空き地。
周囲に高い建物はなく、UH-60が降着できる広さがある。
M16A1「全員が健常でも四十分近い。今の隊なら、その倍を見た方がいいな」
指揮官『機動部隊を先行させる。装甲車二両と衛生車一両。到着予定は三十五分後』
指揮官『部隊は旧農業試験場を経由し、東へ向かわせる。あなたたちは可能な範囲で西進して。三十分後に認証信号を一度だけ送れば、救出部隊が方角を測って接近するわ』
M4A1「航空機は?」
指揮官『一機だけ、応急点検が終わった。ただし、再び市街地内へ入れる状態ではない。地上部隊が着陸地点を確保したあとに発進させる』
着陸地点が安全だと確認されなければ、機体は来ない。
来たとしても、地上へ留まれるのは僅かな時間だけだった。
M4A1「了解しました。三十五分後を基準に移動します」
指揮官『敵に傍受される可能性がある。これ以降の長い通信は禁止。到着前に、認証信号を一度だけ送って』
M4A1「了解」
指揮官『それから、M4A1』
M4A1「はい」
指揮官『全員を連れて帰ってきて』
M4A1「必ず」
通信が切れる。
小屋の空気が、僅かに変わった。
まだ救出されたわけではない。
それでも、帰る場所と、そこまでの距離が分かった。
M4A1とAR-15が地図へ経路を書き込む間、トンプソンは短機関銃から円形弾倉を外した。
残弾を確かめ、予備の弾倉と入れ替える。
蓮「その銃と円形弾倉で、よくここまで生き残れたな」
トンプソン「古い銃だからって、勝手に殺すな。経験と運、それから人との繋がりがあれば、案外どうにかなる」
蓮「人との繋がり、か」
トンプソン「お前にはなかったのか?」
蓮「ないわけじゃない。だが、人を集めるのは下の二人の方が上手かった。俺は、気づけば先に一人で歩いている」
トンプソン「弟が二人いるのか」
蓮「ああ。次男と三男だ」
トンプソン「いつか会ってみたいな」
蓮は、すぐに返事をしなかった。
自分がどこにいるのか。
二人が同じ世界にいるのか。
それすら、まだ分からない。
蓮「機会があれば、会わせてやるよ」
トンプソン「楽しみにしておく」
トンプソンは新しい円形弾倉を差し込み、確実に固定されたことを確かめた。
蓮も89式を抱え直す。
経験。
運。
人との繋がり。
最後の一つだけは、この街へ来た時より少し増えていた。
◇
S09基地、作戦室。
指揮官が通信端末から手を離す。
地図上で、廃貨物駅の西へ新しい標識が置かれる。
七人。
捕虜一人。
そこから旧農業試験場まで、二・七キロメートル。
416は標識を見つめていた。
416「私も救出部隊へ合流する」
指揮官「許可できないわ」
416「もう動ける」
指揮官「動けることと、戦えることは違う。あなたは頭部と左腕を負傷している」
416「蓮だって負傷している」
指揮官「だからこそ、救出される人数を増やさないで」
416は反論しかけ、口を閉じる。
つい先ほど、自分でも理解したことだった。
負傷した身体で飛び出せば、助けられる側が増えるだけだ。
指揮官「あなたには、こちらでしてもらうことがある」
416「何?」
指揮官「敵の通信を見て。救出部隊の進路が読まれていないか、確認してほしい」
指揮官が傍受記録と市街地図を416へ渡す。
市役所から出る無線は、先ほどから急激に減っている。
416「無線を捨てて、有線へ切り替えている」
指揮官「そう見ているわ。有線の内容も、どこで使われているかも、ここからは確認できない」
416は貨物駅から旧農業試験場までの経路を指で辿る。
北は線路。
南は排水路。
最短は西の整備道。
その中間には、道路と周辺の畑を見下ろせる旧教会がある。
416「私が追う側なら、北と南へ監視を置く。西だけを空けて、進ませる」
指揮官「その先の旧教会から狙う」
416「ええ。敵がいない道ほど危険よ。救出部隊へ伝えて。旧教会と西の整備道には、監視か狙撃手がいる前提で動いて」
指揮官が警告文を短い暗号文へまとめ、救出部隊へ送る。
通信を終えると、作戦卓の西端へ視線を戻した。
S09から出たのは、装甲車二両と衛生車一両。
基地の即応車両と衛生要員の大半が、いま市街地との間にいる。
格納庫では、自然公園から帰投した二機のUH-60のうち、一機が飛行不能のまま残されていた。もう一機も、応急点検を終えたばかりだった。
416「救出隊を出した分、基地の外周は薄くなっている」
指揮官「薄くはなった。でも、無防備ではないわ。常設警備隊は残してある。固定火器も動く」
416「情報部の連絡将校は?」
指揮官「地下区画へ移した。警備を二名増やしている」
指揮官が基地西側の監視所を順に呼び出す。
第一監視所。
異常なし。
第二監視所。
異常なし。
最も外側にある第三監視所からも、規定の応答が返ってきた。
416「敵が航空機を追っていたら、帰る方向も見られている」
指揮官「警戒区分を一段階上げる。外周監視所の定時連絡を、十五分間隔から五分間隔へ変更。格納庫と情報部にも戦闘配置を命じるわ」
416「それでも来ると思う?」
指揮官「来ないと決めつける理由がない」
警報はまだ鳴らない。
基地の外にも、異常は見つかっていない。
それでも、救出のために外へ伸ばした腕が長いほど、守るべき胴体は薄くなる。
S09は、帰還者を待ちながら防御態勢へ移り始めた。
◇
市役所、臨時司令室。
ポーン01が、西側区画に置かれた標識を動かしている。
貨物駅から延びる三つの退路。
北の線路には監視班。
地下排水路の出口にも、別の監視班。
西の整備道だけは、入口を空けてある。
キング「動いたか?」
ポーン01「はい。目標は西へ進みました」
クイーン13「予定どおり、空けた道を選んだわけか」
ポーン01「ただし、道上をそのまま進んでいません。貨物支線と平行する保線区域へ入り、短い停止を取っています」
キング「こちらの意図に気づいたと思うか?」
ポーン01「可能性はあります」
ポーン01は、先ほど傍受した極めて短い電波を記録へ加える。
内容は読めなかった。
方角も広い範囲でしか絞れない。
だが、グリフィン側の認証信号と似た特徴があった。
ポーン01「保線区域から西へ向け、複数回の短い送信を確認しました。外部の部隊と接触した可能性があります」
クイーン13「救出を呼んだか」
クイーン13は、市役所よりさらに西へ置かれた別の標識を見る。
レッドカンパニーの機動予備隊。
自然公園から二機の回転翼機が西へ離脱した時点で、後方の契約拠点から移動を始めさせていた部隊だった。
市役所周辺で消耗した私兵や鉄血部隊とは違う。
装輪装甲車。
電子妨害車両。
外周施設を破壊するための工兵班。
まだ一発も撃っていない、新しい戦力だった。
クイーン13「予備隊は第一待機線へ到着している。進出方向さえ決まれば動かせる」
キング「まだ動かすな」
クイーン13「回転翼機が向かった先を確かめるまで?」
キング「ああ。帰る場所を見つける前に追えば、相手は別の穴へ逃げ込む。まず、帰らせろ」
ポーン01「断定はできません。しかし、西側には回転翼機が降りられる場所が二つあります」
旧運動場。
旧農業試験場。
ポーン01は両方を地図へ示す。
キング「兵を二つに分けるな」
ポーン01「はい」
キング「どちらか一方を勘で選べば、外した時に何も残らない。今いる連中を追い、向かう先を見せてもらえ」
ポーン01「西の旧教会へイェーガー一体。整備道の南北へリーパーを分散させます。発砲は、全員が誘導区間へ入るまで禁止します」
クイーン13「人間の捕虜が一人増えている。緑色と一緒に確保できれば、市役所で起きたことも分かる」
キング「無理に生け捕りを狙って、また監視班を失うな。優先順位は位置の把握、次に進路、最後に捕獲だ」
ポーン01「了解しました」
ポーン01が、旧教会へ小さな標識を置く。
狙撃手。
射撃は敵を全滅させるためではない。
進みたくない方向から撃ち、進ませたい方向だけを空ける。
敵に選ばせたように見せながら、その選択肢を一つにする。
盤面は、静かに狭められていた。
◇
廃保線小屋。
M4A1は地図を床へ広げる。
M4A1「航空収容地点は、ここから西へ二・七キロ。地上救出部隊との接触予定まで、約三十分です。私たちだけで試験場まで到達する必要はありません」
M16A1「西の整備道を使えば一番早い」
AR-15「だからこそ、使わせたいのでしょうね」
AR-15が、拘束した監視兵から回収した地図を重ねる。
北の線路には、監視地点を示す記号。
南の排水路にも、同じ記号。
西の道だけには何も書かれていない。
トンプソン「露骨すぎるな」
監視兵「俺が持っていたのは、更新前の地図だ。今どこに誰がいるかは知らん」
M16A1「嘘には聞こえないな」
蓮「西へ行くしかないことも、向こうは分かっている」
M4A1「ええ。ですが、最短路を最後まで歩く必要はありません」
M4A1が、整備道と並行して延びる古い灌漑水路を指す。
途中で暗渠へ入り、旧教会の南側を迂回する。
航空収容地点までの距離は四百メートルほど増える。
だが、道路上から姿を見られる時間は減る。
M4A1「最初の六百メートルだけ整備道を進みます。敵が見ているなら、私たちが誘導へ従ったと思わせます」
AR-15「そのあと、道路脇の暗渠へ入る」
M4A1「はい」
M9「敵を騙すの?」
M16A1「騙せれば上出来だ。少なくとも、真っ直ぐ罠へ入るよりはいい」
SOPⅡ「途中で見つかったら?」
M4A1「戦って倒すことを目的にはしません。煙と制圧射撃で離脱します」
M4A1は全員を見る。
M4A1「私とM16姉さんが先頭。中央に蓮さん、M9、捕虜。捕虜の管理はトンプソンにお願いします」
トンプソン「任せろ」
M4A1「AR-15とSOPⅡは後衛。後方から接近する敵を確認してください」
蓮「俺も後ろへ回れる」
M4A1「許可しません」
蓮「即答か」
M4A1「脚を負傷し、歩行速度も落ちています。中央から周囲を見て、必要な情報を伝えてください」
蓮「後方の警戒くらいはできる」
M4A1「中央からでもできます」
M16A1「ついさっき、命令に従うと言ったばかりだろ?」
蓮「……了解した」
M4A1が監視兵を見る。
M4A1「あなたも歩いてください。逃走を試みた場合は、拘束を強くします」
監視兵「俺を連れていけば、全員が遅くなるぞ」
M4A1「置いていけば、追跡部隊に回収されます」
監視兵「人形に守られる日が来るとはな」
M4A1「守るのは、あなたの証言です」
監視兵は何も答えなかった。
蓮は89式へ弾倉を入れる。
槓桿を引き、手を離す。
遊底は最後まで前進した。
安全装置を掛ける。
負い紐を肩へ回した時、装備の下に残る古傷が微かに痒んだ。
蓮は掻こうとした手を止める。
蓮「……またか」
SOPⅡ「どうしたの?」
蓮「古傷が痒いだけだ。気にするな」
試射はしていない。
次に引き金を引く時、正常に動く保証はまだなかった。
SOPⅡ「直ってるといいね」
蓮「ああ。だが、これだけに頼るつもりはない」
腰にはP226。
胸元には、残された手榴弾。
使える道具と、使えないかもしれない道具を区別する。
願いだけで武器は動かない。
M4A1が時刻を確認する。
M4A1「出発します」
◇
西側整備道。
霧の中へ、八人の影が一列になって進む。
先頭のM4A1とM16A1は、道路の中央を避けて北側の法面沿いを歩いている。
二人の間隔は約十メートル。
後ろに蓮。
その右側へM9と監視兵。
トンプソンは捕虜のすぐ後ろを歩き、拘束へ繋いだ短い綱を持っている。
最後尾はAR-15とSOPⅡ。
道路には、新しい足跡がない。
放置車両の陰にも、建物の窓にも、動くものは見えなかった。
静かすぎる。
遠くで金属板が風に揺れ、一定の間隔で壁へ当たっている。
その音以外、何も聞こえない。
SOPⅡ「本当に誰もいないね」
AR-15「小声で」
SOPⅡ「……うん」
蓮は路面を見る。
道の両端へ伸びた雑草。
泥へ残る、細い溝。
何かを引きずった跡ではない。
軽い車輪が、つい先ほど通った跡だった。
蓮「M4。止まるな。そのまま聞いてくれ」
M4A1「どうしました?」
蓮「北側の路肩に、細い車輪跡がある。人間が運ぶ有線機材かもしれない」
M16A1「無線を使わない監視班か」
蓮「可能性はある。俺たちの位置を話さずに送れる」
M4A1は歩調を変えない。
M4A1「予定どおり、暗渠へ向かいます」
六百メートル先。
整備道の下へ、灌漑水路が潜っている。
入口は崩れたコンクリート板と背の高い草に隠れていた。
M16A1が先に法面を下りる。
内部へ銃口を向け、数秒間確認する。
M16A1「中は空だ。水も膝下までしかない」
M4A1「順番に入ってください」
M4A1。
蓮。
M9と監視兵。
トンプソン。
SOPⅡ。
AR-15が最後に入る。
全員が暗渠へ消えたあと、AR-15は入口の草を元へ戻した。
◇
整備道から北へ百五十メートル。
崩れた倉庫の地下に、レッドカンパニーの監視員がいた。
窓から道路は見ない。
路肩へ設置した小型の振動感知器と、細い有線だけが目と耳だった。
八人分の足音が、感知範囲を通過する。
西へ。
予定どおり。
監視員は壁に取り付けられた野戦電話の送話器を取る。
監視員「監視西二。目標通過。人数八。西進を継続」
報告を終え、送話器を戻す。
数分後。
二つ目の感知器が反応するはずだった。
だが、針は動かない。
一分。
二分。
道路を進んだなら、すでに通過していなければならない。
監視員は再び送話器を取る。
監視員「監視西二。目標、第二感知線へ到達せず。道路外へ逸れた可能性あり」
◇
暗渠の中は狭かった。
大人が立てる高さはない。
蓮は腰を屈め、左脚を庇いながら進む。
水へ足を入れるたび、包帯の下で傷が脈打った。
M16A1「あと三百」
先頭から、抑えた声が届く。
暗渠を抜ければ、旧教会の南側へ出る。
そこから農業試験場までは、迂回分を含めて約二・二キロメートル。
予定時刻まで、十二分。
監視兵が足を滑らせ、膝をついた。
M9「大丈夫?」
監視兵「人形に心配されるほど落ちぶれていない」
トンプソン「だったら自分で立て」
監視兵は濡れた壁へ手をつき、自力で立ち上がる。
その時、暗渠の奥から微かな光が見えた。
出口。
M16A1が速度を落とす。
銃口だけを先に出さず、出口手前の陰から外を確認する。
M16A1「正面に教会。距離二百。右側に墓地。左は崩れた住宅だ」
AR-15「塔は見える?」
M16A1「見える。上部の窓は三つ」
蓮が小型双眼鏡を取り出す。
暗渠の中からは角度が足りない。
蓮「外へ出て、南側の壁まで行けば塔を確認できる」
M4A1「先に私が出ます」
M4A1が暗渠を抜け、崩れた住宅の壁へ移る。
数秒後、手信号が返る。
異常なし。
一人ずつ外へ出る。
蓮が法面を上がろうとした時、左脚へ力が入らなかった。
身体が後ろへ傾く。
M16A1が腕を掴み、引き上げた。
M16A1「中央へ置いた理由が分かったか?」
蓮「嫌というほどな」
全員が住宅の陰へ入る。
教会までは約二百メートル。
塔の高さは三十メートルほど。
窓の奥は暗く、肉眼では何も見えない。
蓮は壁の角から身体を出さず、割れた鏡を地面へ置く。
反射を使い、教会塔を確認する。
最初の窓。
異常なし。
二つ目。
割れた鐘が見える。
三つ目。
一瞬だけ、円形の光が返った。
蓮「塔、最上段右。光学照準器らしき反射」
AR-15が蓮の隣へ伏せる。
銃口を壁から突き出さない。
AR-15「確実?」
蓮「一度だけだ。位置は窓の右下」
AR-15「見てみる」
AR-15は壁から一メートル以上離れた場所で姿勢を作る。
狭い隙間を通して、照準器へ教会塔を捉える。
窓の右下。
暗闇の中に、人の形をした輪郭がある。
長い銃身。
僅かに覗く光学照準器。
AR-15「イェーガーを確認」
M4A1「こちらに気づいていますか?」
AR-15「分からない。でも、道路を見ていない」
照準器の向きは、整備道ではなく南側へ動いていた。
暗渠を使う可能性まで読まれている。
M16A1「迂回するか?」
M4A1が時計を見る。
合流予定まで九分。
別の経路を選べば、少なくとも二十分は増える。
救出部隊を開けた場所で待たせることになる。
M4A1「狙撃手の射界を切りながら、墓地の南側を進みます」
AR-15「私が監視する」
蓮「撃てるなら、先に止めた方がいい」
AR-15「窓枠と鐘楼の柱が重なっている。頭部は数秒に一度しか見えない」
蓮「撃ち返された時、次の遮蔽物まで四十メートルある」
M4A1「先制射撃は許可します。ただし、一発撃ったら全員移動します」
AR-15が呼吸を整える。
照準器の中で、イェーガーの頭部が柱から僅かに出る。
同時に、その銃口がこちらへ向いた。
AR-15「見つかった!」
銃声が二つ、ほとんど同時に響いた。
AR-15の弾丸が、教会塔の窓へ吸い込まれる。
イェーガーの顔面で火花が散り、その姿が窓の奥へ消えた。
敵の弾丸は、崩れた壁を貫いた。
煉瓦の破片が飛ぶ。
蓮の身体へ、硬い衝撃が走った。
蓮「ぐっ……!」
蓮が仰向けに倒れる。
SOPⅡ「蓮!」
SOPⅡが駆け寄ろうとする。
M4A1「頭を上げないで!」
M4A1が煙幕手榴弾を壁の外へ投げる。
白い煙が墓地との間へ広がる。
M16A1が蓮の装備を掴み、壁の奥へ引きずった。
胸の中央。
プレートキャリアの表面に、銃弾の跡が残っている。
硬質防弾板は貫通していない。
だが、表面には亀裂が走り、蓮は呼吸を詰まらせていた。
M9「息はできる?」
蓮「……できる。少し、待て」
M9が防弾板の周囲を確認する。
出血はない。
胸郭に明らかな変形も見えない。
それでも、肋骨を損傷した可能性は残る。
M9「もう戦っちゃ駄目なの」
蓮「さっきも似たようなことを言われたな」
M9「今度は、もっと駄目なの!」
AR-15は教会塔を照準し続けている。
イェーガーは姿を見せない。
AR-15「命中はした。でも、撃破した保証はない」
その直後。
整備道の方角から、自動小銃の連射が聞こえた。
道路を進んできたリーパーが、墓地の北側へ入り始めている。
煙の切れ目から、その一体が上半身を出した。
蓮は地面へ伏せたまま、89式の被筒を崩れた煉瓦へ預ける。
M9「撃っちゃ駄目って言ったの!」
蓮「二発だけだ」
引き金を絞る。
一発目。
空薬莢が右へ飛ぶ。
遊底が後退し、次弾を薬室へ送る。
二発目。
弾丸がリーパーの肩と石壁へ命中し、その上体を陰へ押し戻した。
89式は止まらなかった。
蓮「……直った」
M9「喜んでる場合じゃないなの!」
M16A1「狙撃は足止めだ。後ろから追い込むつもりだぞ」
南側の住宅地からも、別の銃声が響く。
進路を塞ぐためではない。
墓地の西側だけを空けるように、東と南から撃っている。
M4A1「西へ誘導されています」
トンプソン「だが、行き先はこっちも西だ」
M4A1「誘導を受けたまま進めば、次の射撃位置へ入ります」
M4A1が地図を見る。
墓地の西側には、幅の狭い石壁と、畑へ続く下り坂がある。
その正面へ進めば、敵が待つ可能性が高い。
南西には、倒壊した納屋と用水池。
足場は悪い。
だが、車両もまとまった部隊も入りにくい。
M4A1「南西の用水池へ向かいます。敵の空けた西側は使いません」
M16A1「蓮は?」
M4A1「私とM16姉さんで運びます」
蓮「歩ける」
M16A1「立ってから言え」
蓮は肘をつき、身体を起こそうとする。
胸へ痛みが走り、途中で止まった。
蓮「……前言撤回だ」
M16A1が蓮の右腕を肩へ回す。
M4A1は反対側につく。
人間一人の体重は、二人にとって大きな負担ではない。
問題は、運びながら小銃を自由に使えなくなることだった。
M4A1「AR-15、SOPⅡ。後方を抑えてください」
AR-15「了解」
SOPⅡ「任せて!」
M4A1「トンプソンは捕虜とM9を先に」
トンプソン「行くぞ」
トンプソンが監視兵の拘束を引く。
監視兵「俺を置いていけば、もっと速く逃げられる」
トンプソン「何度も言わせるな。歩ける荷物は自分で歩け」
白煙が広がる。
視界が切れた数秒の間に、一行は墓地の南側へ動き始めた。
AR-15が短い射撃を行う。
先頭のリーパーが石壁の陰へ入る。
SOPⅡは小銃の下へ取り付けた擲弾発射器を開く。
装填したのは、破片効果を持つ低速榴弾だった。
SOPⅡ「どこへ撃つ?」
AR-15「墓地の入口。敵そのものではなく、石門の手前」
SOPⅡ「分かった!」
SOPⅡが発射する。
低い発射音。
榴弾が石門の前へ落ち、爆発する。
土と石片が跳ね上がる。
リーパーの隊列が止まった。
AR-15「今よ。下がる!」
二人も、順番に後退する。
撃ち続けない。
一つの射撃位置へ留まれば、教会塔のイェーガーに捉えられる。
十メートル移動。
数発。
再び移動。
敵を倒すためではなく、顔を上げさせないための射撃だった。
◇
市役所、臨時司令室。
有線電話の呼出音が鳴る。
ポーン01が受話器を取る。
監視員『目標、暗渠から旧教会南側へ出現。イェーガーが交戦。現在、墓地南西へ移動中』
ポーン01「西側の誘導区間から外れています」
地図上で、八つの標識が南西へずれる。
クイーン13「読まれたな」
ポーン01「はい」
キング「それで?」
ポーン01「南側のリーパーを用水池へ回します。ですが、地形が狭く、一度に投入できるのは二体までです」
キング「なら二体でいい。無理に押し込むな」
ポーン01「しかし、このままでは西側の平原へ抜けられます」
キング「こちらは、すでに三つの情報を得た」
キングが地図へ指を置く。
キング「奴らは西へ向かっている。外部へ通信した。負傷者と捕虜を抱えている。それでも追撃へ反撃できる戦力が残っている」
クイーン13「そして、狙撃手を見つける目もある」
キング「部隊を失ってまで、全部を一度に取る必要はない」
キングはポーン01を見る。
キング「君の仕事は、失敗しないことではない。外れた時に、次の手へ残すものを決めることだ」
ポーン01は一度、地図へ視線を落とす。
ポーン01「……追撃部隊へ、距離を維持するよう命じます。接触は続けますが、開けた平原へは出しません」
キング「それでいい」
クイーン13「救出部隊が来るなら、その規模と進入方向を確認できる」
ポーン01「監視を優先します」
クイーン13「西の予備隊には?」
ポーン01「無線封止を維持させます。こちらからは民間回線へ偽装した有線経路で、目標の移動方向だけを送ります」
キング「攻撃命令はまだ出すな。救出部隊だけを見て判断すれば、前線拠点と中継地点を取り違える」
ポーン01「回転翼機が離陸した時点で、進路を照合します」
ポーン01が命令を書き換える。
捕獲から、監視へ。
勝ち方を変える。
敵が逃げるなら、その逃げた先を記録する。
◇
用水池南側。
壊れた農業倉庫の間を、八人が進む。
M4A1とM16A1に支えられた蓮は、足を動かしてはいる。
だが、自分の体重を十分に支えられていない。
胸へ息を吸うたび、鈍い痛みが走る。
左脚の包帯は水を吸い、赤黒く変色していた。
蓮「M4。俺を降ろせ」
M4A1「却下します」
蓮「二人の銃が使えない」
M16A1「だから、後ろの二人が撃ってる」
蓮「このままじゃ、全員が遅くなる」
M4A1「蓮さん」
M4A1は歩みを止めない。
M4A1「私たちは、あなたを置いて速くなるために来たのではありません」
蓮は答えられなかった。
後方で、AR-15の射撃音が響く。
続いてSOPⅡ。
敵の弾丸が倉庫の外壁へ命中し、錆びた鉄板を貫く。
遮蔽物として長くは使えない。
AR-15が通信端末の時刻を見る。
予定した送信時刻を過ぎていた。
AR-15「M4。認証信号を送る」
M4A1「一度だけ。送ったら、すぐに位置を変えてください」
AR-15が送信操作を行う。
一秒に満たない信号が、西へ向けて放たれた。
返信は待たない。
端末を閉じ、全員が次の倉庫へ移る。
その数分後。
M9「前に車の音!」
全員の動きが止まりかける。
西側の霧の中から、複数のエンジン音が近づいていた。
敵か。
救出部隊か。
目視できるまで判断できない。
M4A1「全員、倉庫の陰へ!」
トンプソンが監視兵を壁際へ伏せさせる。
AR-15とSOPⅡも後退し、銃口を西へ向けた。
霧の中から、低い車体が現れる。
先頭は装甲車。
その後ろに、二両目。
さらに、背の高い衛生車が続いている。
砲塔の側面へ、グリフィンの識別標識が描かれている。
M9「味方なの!」
装甲車の上から、発光信号が送られる。
AR-15が同じ順序で返す。
そこで初めて、車両が速度を上げた。
救出隊長『AR小隊、聞こえるか! こちらS09救出隊!』
M4A1「こちらM4A1。負傷者三、うち一名は歩行困難。捕虜一。後方から敵が接近しています!」
救出隊長『確認した! 煙の内側へ入れ!』
二両の装甲車が、倉庫の南北へ分かれる。
発煙弾が射出され、東側へ濃い煙の壁を作った。
車載火器が、追撃してきたリーパーの進路へ向く。
すぐには撃たない。
AR-15とSOPⅡが射界から外れるのを待つ。
AR-15「後衛、離脱する!」
AR-15が最後の短い連射を行う。
SOPⅡも続く。
二人が装甲車の後方へ入った瞬間、救出隊長が手を下ろす。
救出隊長『撃て!』
車載機関銃が火を噴いた。
人が持つ小銃とは異なる、低く連続した発射音。
弾丸が畑の畦と墓地へ続く石壁を削る。
先頭にいたリーパーが被弾し、地面へ倒れた。
後続は煙の向こうへ退く。
救出部隊は追わない。
目的は敵の撃破ではなく、八人を離脱させることだった。
救出隊長「負傷者を衛生車へ! 捕虜は二人で引き取れ!」
車両から降りた隊員が、監視兵の拘束を確認する。
別の衛生要員が蓮へ近づいた。
衛生要員「胸部へ被弾したのは、この人?」
M9「防弾板で止まったけど、息をすると痛いって!」
蓮「本人の前で全部言うんだな」
衛生要員「話せるなら意識は清明。だが、歩くのはここまでだ」
蓮は衛生車の後部へ乗せられる。
湿った包帯が外され、左腿の傷も確認された。
再出血している。
胸部には、銃弾が止まった位置を中心に紫色の痣が広がり始めていた。
衛生要員「胸部打撲。肋骨損傷の可能性。腿は止血をやり直す。航空搬送中も監視が必要だ」
別の衛生要員がM9とトンプソンの傷も確認する。
二人とも自力行動は可能だが、基地へ戻り次第、改めて治療を受ける必要があった。
蓮「まだ89式の試射が――」
AR-15「今はあなたの点検が先よ」
AR-15が、蓮の胸元から89式を外す。
蓮「勝手に持っていくなよ」
AR-15「借りるだけ。国と、お父さんから借りている銃なんでしょう?」
蓮が僅かに目を見開く。
離れた場所で聞いていたSOPⅡが、得意そうに胸を張る。
SOPⅡ「私が教えた!」
蓮「秘密にするよう言わなかった俺が悪いな……」
M4A1が救出隊長へ、回収した資料と録音端末を渡す。
M4A1「市役所とレッドカンパニー、それから鉄血の共同運用を示す資料です。捕虜二名の供述記録も入っています」
AR-15「録音と文書の識別番号は、こちらにも複製してあります。原本を失っても、照合は可能です」
救出隊長「分かった。基地情報部には、自然公園から運んだ連絡将校がいる。この捕虜と資料が届けば、同じ組織の供述を突き合わせられる」
救出隊長「受領した。捕虜は車両で基地へ運ぶ。君たちは旧農業試験場まで車両に乗れ」
M4A1「ヘリは?」
救出隊長「着陸地点の確認が済み次第、発進する。ここから四分だ」
東側の煙の向こうから、散発的な銃声が続いている。
車載機関銃が短く応射する。
長く留まる理由はない。
全員が車両へ乗り込む。
監視兵と資料原本、それを護衛する隊員を乗せた一両は、外周道路を経てS09へ向かう。
もう一両と衛生車は、旧農業試験場へ進路を取った。
捕虜と証拠。
負傷者とAR小隊。
救出部隊は、そこで二つに分かれた。
◇
市役所、臨時司令室。
ポーン01の前へ、新しい報告が届く。
監視員『西側平原でグリフィンの装甲車を確認。少なくとも三両。車載火器あり。目標は車両へ収容されました』
ポーン01「回転翼機は?」
監視員『まだ確認していません』
ポーン01は地図上へ、三つの青い標識を置く。
西から来た車両。
さらに西へ向かう一両。
旧農業試験場へ向かう二両。
クイーン13「目的地は決まったな」
ポーン01「航空収容地点は旧農業試験場です。ただし、西へ向かった一両は別行動を取っています」
キング「捕虜と回収物を先に運んだ可能性が高い」
クイーン13「負傷者は航空機。証人と証拠は地上。分けたか」
キング「追撃は?」
ポーン01「停止させました。開けた平原へリーパーを出せば、車載火器の射界に入ります」
キング「正しい」
ポーン01「ですが、目標を逃がします」
キング「逃がしたことと、何も得なかったことは同じではない」
キングは、西へ向かう車両の標識を見る。
キング「一台を追えば航空機を見失い、試験場へ急げば地上の車両を見失う。相手はこちらの監視を分けようとしている」
クイーン13「こちらも分ける?」
キング「部隊は分けない。目だけを分ける」
ポーン01「西へ向かう車両は、街道監視員へ引き継ぎます。旧農業試験場は二か所から観測。市街地の追撃部隊は停止を維持します」
キング「航空機が来るまで待て。試験場は帰る場所ではない。乗り換える場所だ」
ポーン01が頷く。
二つに分かれた標識を、それぞれ異なる監視線が追い始める。
まだ攻撃はしない。
帰還者が自ら帰る場所を示すまで、敵は盤面の外で待っていた。
◇
旧農業試験場、資材集積地。
低い格納庫と、崩れた温室が並んでいる。
中央には、長さ百メートルを超える空き地があった。
救出隊員が周囲を確認し、着陸を妨げる金属片と資材を移動させている。
装甲車は空き地の東側へ位置し、車載火器を市街地方向へ向けた。
衛生車は西側へ置かれている。
風向きを確かめた隊員が、橙色の発煙筒を地面へ置く。
煙が東へ流れる。
救出隊長「周辺異常なし。航空隊へ送れ」
通信員「LZ確保。進入方向、西から東。地上風、弱。橙色煙を確認標識とする」
短い送信。
数分後。
遠くから、低い回転音が聞こえ始めた。
次第に大きくなる。
霧の向こうから、黒い機影が現れる。
一機のUH-60。
操縦席には機長と副操縦士。
機内には、搭乗者と機体を管理する若い搭乗員が一名乗っている。
機体側面には、応急補修された跡が残っている。
最初から平原で待っていたわけではない。
地上部隊が場所を確保し、安全を報告したからこそ、ここまで来ることができた。
UH-60は空き地の上空で一度旋回する。
地上の配置。
煙の流れ。
障害物。
すべてを確認してから、ゆっくり高度を下げる。
回転翼の風が草と土を巻き上げる。
車輪が地面へ着く。
応急補修を受けた機体を、この場所まで運んできた機長は、回転翼の回転数を維持したまま地上班へ手順を伝える。
機長『搭乗後は北西回廊を使用し、S09へ直接進入しない。到着三分前に基地の誘導信号を確認する。応答がなければ、基地北西の補助着陸地へ変更する』
救出隊長「了解。飛行時間は?」
機長『迂回して約十二分。補助着陸地へ移る燃料はある。ただし、それより遠い別基地までは持たない』
無理にS09へ降りる必要はない。
だが、何かが起きた時に選べる退避先も、一つしかなかった。
搭乗員「搭乗開始! 地上待機は四十秒!」
側面扉が開く。
先にM9とトンプソン。
続いてSOPⅡ、M16A1、M4A1。
AR-15は蓮の89式を抱えたまま乗り込む。
最後に、担架へ固定された蓮が衛生要員とともに運び込まれた。
搭乗員が担架を床の固定金具へ繋ぎ、四点式の拘束具を締める。
蓮「担架までは必要ない」
衛生要員「機内で倒れられる方が困る」
蓮「はい」
素直な返事に、M16A1が笑う。
M16A1「やっと聞き分けがよくなったな」
蓮「今日は、何度も同じことを言われたからな」
扉が閉じられる。
搭乗員は全員の拘束を目で確認してから、操縦席へ親指を立てた。
地上の救出隊長が、搭乗員へ離陸の合図を送る。
UH-60が再び浮き上がった。
装甲車と衛生車が小さくなる。
霧に覆われた市街地が、少しずつ遠ざかっていく。
◇
市役所、臨時司令室。
監視員『旧農業試験場へ回転翼機一。目標を収容後、北西へ離脱しました』
ポーン01が、地図へ新しい線を引く。
自然公園から離脱した二機の進路。
旧農業試験場から飛び立った一機の進路。
捕虜を乗せたと推定される車両が進む外周道路。
三本の線は、同じ地域へ収束していた。
ポーン01「西北西、旧飛行場周辺。地域記録にあるグリフィンS09基地の位置と一致します」
クイーン13「前の二機だけでは範囲が広すぎた。これで確定か」
ポーン01「はい。地上車両も同じ方面へ向かっています」
クイーン13が、盤面の外に置かれていた機動予備隊の標識へ手を伸ばす。
クイーン13「予備隊の先遣班は、S09南東の待機線まで五・五キロ。主力も後方八キロまで進出している」
キング「先遣班へ、通信線と誘導電波の遮断を命じろ。主力は、妨害開始と同時に外周へ圧力を掛ける」
ポーン01「基地の完全制圧を目指しますか?」
キング「違う。守備隊を基地へ縛り、帰還する者を三つに割る」
キングが、地図上の標識を順に指す。
S09基地。
捕虜と証拠を運ぶ車両。
北西から帰投する回転翼機。
キング「情報区画の連絡将校を奪回する。困難なら、供述できない状態にする。地上車両は基地へ入る前に止めろ」
クイーン13「回転翼機は?」
キング「基地へ向かう間は撃つな。進入経路を確定させる」
ポーン01「S09が応答しなければ、機体は北西の補助着陸地へ向かう可能性があります」
レッドカンパニーが地域警備契約のために作成した航空写真には、基地北西の平坦地が代替着陸場所として記録されている。
キング「なら、基地と補助着陸地の間へ対空班を置け。発砲は、妨害が始まったあとだ」
ポーン01「了解しました」
市街地で追っていた部隊は、動かない。
代わりに、一時間近く前から西へ移動していた新しい部隊が、最後の待機線を越える。
追跡ではない。
敵が帰る場所を見せるまで待ち、その帰路を三つに切り分けるための作戦だった。
◇
UH-60、機内。
回転翼とエンジンの音が、会話を押し潰している。
全員が座席へ身体を固定している。
戦術人形たちは、短距離通信を機内用の共通回線へ切り替えていた。
蓮にも航空用ヘッドセットが渡され、その回線へ接続されている。
衛生要員は蓮の呼吸と意識を確認し、胸部へ触れないよう装備を緩めている。
左腿の包帯は、新しいものへ交換されていた。
出血は止まっている。
機長の声が共通回線へ入る。
機長『S09まで、予定どおり北西へ迂回する。基地への確認通信は、到着三分前に一度だけ行う。それまでは送信しない』
若い搭乗員が機内を見渡し、全員の固定具と装備が緩んでいないことを確認する。
搭乗員「眠れる人は、今のうちに眠ってください。基地へ着くまでは、こちらが運びます」
蓮「それなら、遠慮なく任せる」
AR-15が、弾倉を抜いた89式を蓮へ見せる。
AR-15「教会で撃った二発は、どちらも正常に発射された」
蓮「ああ」
AR-15「排莢にも異常なし。さらに次の弾も薬室へ入っていた。今度こそ、直ったと考えてよさそうね」
蓮「よかった」
SOPⅡ「やっぱり大切なんだね」
蓮「借り物は、借りた時の状態で返すものだ」
M16A1「それを言うなら、お前自身も無傷で返った方がいいんじゃないか?」
蓮「耳が痛いな」
衛生要員「胸と脚も痛いはずだ」
蓮「それも痛い」
機内に、僅かな笑いが生まれる。
緊張が完全に消えたわけではない。
敵は追跡を諦めていない。
監視兵と資料原本は、別の車両で運ばれている。
S09には、すでにレッドカンパニーの連絡将校が拘束されている。
同じ組織に属する二人の証言と、別々に回収された記録。
それらが揃えば、市役所と鉄血が共同で動いていた事実を、単なる現場の偶然として切り捨てることは難しくなる。
蓮「捕虜が二人。資料まで持ち帰るとなれば、向こうは面白くないだろうな」
M4A1「だから、救出隊は車列と航空機を分けました。どちらか一方を失っても、証言と記録のすべては失われません」
AR-15「私たちの端末にも複製がある。敵が証拠を消したいなら、三つを同時に止める必要があるわ」
蓮「それができる戦力を、向こうが持っていなければいいが」
答える者はいなかった。
基地へ着けば、蓮は身元も、目的も、これまで何をしてきたのかも説明しなければならない。
それでも、今この瞬間だけは銃声が聞こえなかった。
トンプソン「基地へ着いたら、最初にシャワーだな」
M9「私もなの!」
SOPⅡ「基地が見えたら、起こしてね」
M4A1「眠るの?」
SOPⅡ「ううん。ちゃんと皆が待っているところを、自分の目で見たいだけ」
普段より静かな声だった。
M4A1は理由を聞かなかった。
M4A1「分かりました。着く前に知らせます」
M16A1「その前に、一杯――」
M4A1「治療と報告が先です」
M16A1「まだ何も出してないだろ」
M4A1「出そうとしました」
M16A1が上着の内側へ入れかけた手を戻す。
SOPⅡ「M4、見てたんだ」
M4A1「見ています」
AR-15が蓮を見る。
AR-15「ねえ、蓮」
蓮「何だ?」
AR-15「市役所から、ずっと仲間を助けてくれた。ありがとう」
蓮「俺一人で助けたわけじゃない」
AR-15「それでもよ」
蓮は少しだけ考える。
蓮「なら、どういたしまして」
AR-15が僅かに目を見開く。
蓮「礼を受け取らないのも、失礼なんだろ?」
AR-15「少しは分かってきたじゃない」
蓮「今日だけで、色々教えられたからな」
蓮の声から、少しずつ力が抜けていく。
薬の効果と、張り詰めていた緊張が切れ始めていた。
蓮「俺は、敵を全部倒して帰ることが勝ちだと思っていた」
M4A1「今は違うのですか?」
蓮「ああ」
蓮は機内にいる六人を見る。
誰一人、欠けていない。
蓮「銃は、前へ進むためだけに持つものじゃない」
遠ざかる市街地が、側面の窓越しに見える。
蓮「明日のために、銃を持って逃げる。そういう勝ち方もあるらしい」
M4A1「逃げたのではありません。帰る途中です」
蓮「そうか。なら、帰ろう」
蓮が目を閉じる。
衛生要員が意識状態を確認し、問題がないことを確かめる。
呼吸は規則的だった。
89式は、安全な状態でAR-15の膝へ置かれている。
その隣でSOPⅡが、もらった照準器へ手を添えていた。
銃は残った。
仲間も残った。
明日も、まだ残っていた。
UH-60は敵の監視を避けるため北西へ大きく迂回し、S09基地へ向かって飛び続ける。
その進路の先で、S09の外周監視所が次の定時連絡を待っていた。
地上では、捕虜と資料を乗せた装甲車が外周道路を西へ進んでいた。
さらにその外側を、通信を止めたレッドカンパニーの予備部隊が動いていた。
三つの場所にいる味方は、そのすべてへ同時に敵が動き始めたことを知らない。
蓮の意識から、回転翼の音が少しずつ遠ざかる。
担架の感触も消える。
代わりに、背中へ触れたのは、冷たく平らな何かだった。
光のない場所で、聞き覚えのある声が彼を待っていた。
はい。
やっと、戦闘が終わった...
長かったな~
少し駆け足気味でしたが、一旦終わらせました!
次回は、ウマ娘の方を書きますので少々お待ち下さるとうれしいです!
お気に入り評価ここ好き、お願いします...
コメントもモチベーションアップのためお願いします...
※2026年8月28日リメイク完了
好きな子がいたら適当に投票どうぞ!
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HK416
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VSK-94
-
AK-12
-
AR-15
-
アズールレーン 赤城
-
アズールレーン 加賀
-
艦これ 赤城
-
艦これ 加賀
-
雷電
-
スカイレイダー
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シュバァルベ
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渡邉 蓮
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渡邉 隼人
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渡邉 勇翔
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小貝 高虎