陸自はドールズフロントライン、海自は艦これとアズールレーン、空自はアッシュアームズ三つの世界でバラバラになりながらでも生き残る 作:ゴーストライターとかした、素人小説書き
この小説は、シリアスとギャグが少し入っています。
それが、いやな方は、上にある矢印ボタンでブラウザバックを推奨します。
この世界はアズールレーンと艦これが入っているため人物が分かりやすいようにアズールレーンはA 艦これはCと表記します。
それでも、大丈夫な方はご覧ください。
2-2 未来の軍人
即応連合艦隊旗艦・赤城。
飛行甲板下、士官公室の和室。
先ほどまで茶を囲んでいた机の上へ、複数の報告書が並べられていた。
参加者は、艦娘とKAN-SENの赤城。
同じく、二人の蒼龍と二人の飛龍。
そして、壁際の座布団へ座る渡邉隼人。
雲龍は、自らが展開した航空母艦の修理状況を確かめるため、すでに部屋を出ている。
二人の加賀も、この場にはいない。
夕刻に行われる合同慰霊式に先立ち、戦死者と行方不明者の遺品を確認していた。
彼女たちの代理として、損害報告だけが赤城へ届いている。
茶の香りは、まだ室内に残っていた。
だが、先ほどまでの穏やかな空気は消えている。
赤城(艦娘)が机の正面へ座り、全員を見渡した。
赤城(艦娘)「それでは、鎮守府近海海戦の戦闘詳報を確認します」
旗艦として艦隊を指揮した者の声だった。
赤城(艦娘)「本来であれば、二人の加賀と雲龍にも出席してもらう予定でした。しかし、慰霊準備と修理確認を優先させます。質問がある場合は記録へ残し、後ほど本人たちに確認してください」
「了解しました」
四人の蒼龍と飛龍が答える。
隼人は報告を聞くために同席を求められていた。
敵艦隊の位置と編成を確認し、妨害中枢への攻撃を行った当事者。
さらに、敵高速機に関する情報を、この艦隊の誰よりも多く持つ可能性がある者。
正式な所属が決まっていないため、発言権も指揮権もない。
それでも、報告内容へ事実誤認があれば指摘することを求められている。
赤城(KAN-SEN)が懐へ手を入れ、折り畳まれた白い紙を取り出した。
指先から淡い炎が灯る。
紙は小さな式神へ変わり、机の上へ降り立った。
続いて二体。
三体。
合計六体の式神が、報告書を持ち上げて机の上へ並べていく。
別の一体は、壁際へ置かれた黒板の前に立った。
自分の身体ほどもあるチョークを両腕で抱えている。
隼人「……便利だな」
赤城(KAN-SEN)「お気に召しました?」
隼人「記録、運搬、通信。使える範囲が広い」
赤城(KAN-SEN)「これでも、戦闘以外の仕事にも慣れておりますのよ」
赤城(KAN-SEN)が微笑む。
その時、隼人の略帽の後ろから白い紙片が覗いていることに、赤城(艦娘)が気づいた。
赤城(艦娘)「渡邉さん。その帽子に貼られている物は?」
隼人は略帽を脱ぎ、裏側に貼られた小さな式神を剥がす。
机の上へ置いた。
隼人「私も聞きたいところだ」
赤城(KAN-SEN)の狐耳が、僅かに伏せられる。
赤城(艦娘)「重桜の赤城?」
赤城(KAN-SEN)「……護符ですわ」
隼人「何のための?」
赤城(KAN-SEN)「隼人様の位置と、お身体に大きな異変がないかを知らせるためのものです。救護所の外へ出られたばかりでしたから、念のために」
隼人「なぜ黙って貼った?」
赤城(KAN-SEN)「お話しすれば、断られると思いましたので」
隼人「断られると分かっている物を、黙ってつけるな」
厳しい声だった。
赤城(KAN-SEN)の尾から、僅かに力が抜ける。
赤城(KAN-SEN)「……申し訳ありません」
隼人は、机へ置いた護符を見る。
隼人「必要なら、先に用途を説明しろ。危険がないと確認できれば、協力はする」
赤城(KAN-SEN)「では、改めてお願いしても?」
隼人「アイ。危険性は?」
アイ『これまでに観測された範囲では、人体への有害反応は確認されていません』
隼人「分かった。ただし、外す時は自分で外す」
赤城(KAN-SEN)「承知しましたわ」
赤城(KAN-SEN)は護符を受け取り、今度は隼人の目の前で略帽の内側へ貼り直した。
隼人も、それを確認してから帽子を被る。
赤城(艦娘)「話は終わりましたか?」
隼人「ああ」
赤城(KAN-SEN)「お騒がせしました」
赤城(艦娘)は小さく息を吐き、報告書へ視線を戻した。
赤城(艦娘)「では、始めます」
◇
最初に机へ置かれたのは、一航戦の損害をまとめた報告書だった。
赤城(KAN-SEN)が手を動かす。
黒板の前にいる式神が、大きなチョークを引きずりながら文字を書き始めた。
一航戦。
加賀航空隊。
帰還機、四。
海上救助者あり。
戦死確認多数。
未帰還者多数。
航空隊としての継続戦闘、不能。
白い文字が、一行ずつ黒板へ並ぶ。
赤城(艦娘)「二人の加賀が運用した航空隊は、出撃機の大半を失いました。飛行可能な状態で着艦または帰投できた機体は、合計四機です」
室内の誰も、声を上げなかった。
すでに概要は聞いている。
それでも、確定した数字として示されると重さが違った。
赤城(艦娘)「海上へ不時着し、救助された搭乗員もいます。しかし、戦死が確認された者と、現在も行方が分からない者が多数を占めます」
飛龍(艦娘)「捜索は、まだ続いているのですね?」
赤城(艦娘)「はい。敵艦隊が撤退した海域まで捜索範囲を広げています。ただし、漂流物だけが発見された機体も少なくありません」
飛龍(KAN-SEN)「帰還した四機は?」
赤城(KAN-SEN)「全機が被弾しておりますわ。うち二機は、着艦後に飛行不能と判定されました。残る二機も、直ちに再出撃できる状態ではありません」
蒼龍(艦娘)「では、二人の加賀が無事でも……」
赤城(艦娘)「空母としての戦闘能力は、事実上失われています」
空母本体が浮いているだけでは、航空母艦として戦えない。
機体。
搭乗員。
整備員。
弾薬と燃料。
それらを運用する指揮系統。
どれか一つを失っても、航空戦力は成立しない。
隼人「帰還した搭乗員を、すぐに補充部隊へ回すつもりはあるか?」
赤城(艦娘)「いいえ。負傷の治療と、心理状態の確認を優先します」
隼人「それでいい」
隼人は黒板を見る。
隼人「四人を、四機分の戦力として扱うな。生き残った者は、失った者の分まで飛ぼうとする」
先ほど、格納庫で壊れた機体へ乗ろうとしていた搭乗員。
自分だけが戻ったことへ耐えられず、酒を飲み、僚機を探しに行こうとした。
隼人には、その衝動を他人事として切り捨てることができなかった。
赤城(KAN-SEN)「先ほどの搭乗員も、加賀航空隊の生存者です」
蒼龍(艦娘)「……だから、飛ぼうとしたのですね」
赤城(KAN-SEN)「ええ。自分だけが休むことはできないと、繰り返していました」
隼人「今飛ばせば、次はその者も失う」
赤城(艦娘)「分かっています。二人の加賀には、航空隊の再編が完了するまで出撃停止を命じるよう、司令部へ具申します」
式神が、黒板へ追記する。
――一航戦・加賀。出撃停止。
――生存者の治療および休養を優先。
続いて、二人の赤城が運用した航空隊の報告へ移る。
赤城(艦娘)「私たちの航空隊は、戦闘機、爆撃機、雷撃機を合わせて六十六機が出撃しました」
赤城(KAN-SEN)の式神が、新しい数字を書く。
出撃、六十六。
帰還、八。
損失、五十八。
赤城(艦娘)「飛行可能な状態で帰還した機体は八機。撃墜、海上不時着、未帰還を合わせた損失は五十八機です」
蒼龍(KAN-SEN)「第一波で、半数近くを失ったと聞いております」
赤城(艦娘)「はい。敵高速機による迎撃です。こちらが敵爆撃隊へ到達する前に、高度と速度の差を使って護衛隊から切り崩されました」
赤城(KAN-SEN)「残る多くは、敵水上部隊への攻撃中に失いました。戦艦級と巡洋艦級の対空射撃だけではありません」
赤城(KAN-SEN)が、一枚の報告写真を机へ置く。
黒い大型航空機が、機首をこちらへ向けている。
翼と胴体の複数箇所から、発砲炎が伸びていた。
赤城(KAN-SEN)「爆撃機と判断していた大型機が、攻撃隊へ向けて積極的な迎撃を行いました」
飛龍(KAN-SEN)「爆弾を落とすだけの機体じゃなかった。護衛機が離れたあとも、自分でこっちを追ってきたんだ」
隼人「爆撃機という分類だけで、動きを決めつけたのか?」
飛龍(KAN-SEN)「……ああ」
隼人「敵は、こちらの常識に従う義務はない」
責めるための言葉ではなかった。
次に同じ誤りを繰り返さないための確認だった。
飛龍(KAN-SEN)「分かってる。次は、機種名じゃなくて武装と動きを見る」
隼人「ああ。それでいい」
赤城(艦娘)が報告を続ける。
赤城(艦娘)「二人の赤城も、当面は大規模な航空作戦を実施できません。帰還機はすべて修理中です。補充機を受け取ったとしても、搭乗員の再編と訓練が必要です」
黒板へ、二つ目の結論が書かれる。
――一航戦・赤城。攻勢任務、実施不能。
――残存航空要員を再編。防空任務を優先。
次は、二航戦。
蒼龍(KAN-SEN)「私たち蒼龍航空隊は、江草隊の中核と、護衛戦闘機の一部が帰還しました」
蒼龍(艦娘)「ですが、それ以外の攻撃隊は壊滅しています。江草隊にも負傷者が多く、現在の戦力だけで再出撃することはできません」
赤城(艦娘)「江草隊の攻撃命中率が高かったことは確認しています。しかし、それを理由に連続出撃を求めることはしません」
蒼龍(艦娘)「ありがとうございます」
飛龍(艦娘)「飛龍航空隊は、友永隊の一部と護衛戦闘機が帰還しました。残る爆撃隊と雷撃隊は、戦死または未帰還です」
飛龍(KAN-SEN)「帰ってきた連中も、機体と身体の両方が傷だらけだ。飛ばせるとしても、しばらく先になる」
蒼龍と飛龍の名の下にも、同じ文言が加えられる。
攻勢任務、実施不能。
航空隊再編。
搭乗員の治療と休養。
赤城(KAN-SEN)「最後に雲龍さんですが、飛行可能な状態で帰還した機体は十三機です。本人から提出された報告書によれば、残存機は直掩と救難捜索に使用したため、弾薬と燃料をほぼ使い切っています」
飛龍(KAN-SEN)「本人は、自分の艦へ戻って寝るって言ってたけどな」
赤城(KAN-SEN)「その前に、修理区画へ顔を出すと仰っていましたわ」
飛龍(KAN-SEN)「半分寝ながら歩いてたぞ」
赤城(KAN-SEN)「あとで寝台までお送りする必要がありそうですわね……」
赤城(KAN-SEN)が額へ手を当てる。
黒板の前では、二体の式神が同じ場所へ文字を書こうとしていた。
互いに気づかないまま下がり、頭をぶつける。
コツン。
二体はその場へ尻餅をついた。
少しの間、向かい合う。
それから同時に立ち上がり、互いへ何度も頭を下げた。
隼人「……」
隼人は、式神のやり取りを見ていた。
赤城(KAN-SEN)「何か?」
隼人「いや。よくできていると思っただけだ」
赤城(KAN-SEN)が黒板を見る。
二体の式神は、何事もなかったように作業へ戻っていた。
赤城(KAN-SEN)「少し不器用な子もおりますけれど」
隼人「そこも含めてだ」
僅かな笑いが生まれる。
すぐに消えた。
黒板には、各航空隊の損害が埋め尽くされている。
一航戦。
二航戦。
雲龍航空隊。
いずれも、戦闘前の姿を保っていない。
今回の戦闘で失われたのは、機体だけではなかった。
長い訓練を受けた搭乗員。
部隊をまとめる分隊長。
空中で互いの癖まで理解していた僚機。
機体は、工場で造り直せる。
だが、同じ経験を持つ人間を短期間で補充することはできない。
赤城(艦娘)「結論を確認します」
赤城(艦娘)は、黒板に並ぶ損害を見つめる。
赤城(艦娘)「第一航空戦隊および第二航空戦隊は、攻勢戦力として一時的に機能を失いました。残存航空隊は呉周辺の防空、救難捜索、偵察へ限定して運用します」
蒼龍(KAN-SEN)「五航戦と、後から編成された航空隊だけで前線を支えるのですか?」
赤城(艦娘)「いいえ。練度の整わない部隊を、代わりに前線へ投入するつもりはありません」
飛龍(KAN-SEN)「じゃあ、しばらく攻めることはできないな」
赤城(艦娘)「はい。少なくとも、敵の航空戦力と妨害能力を再評価するまでは」
全員の視線が、隼人へ向いた。
敵艦隊を最後に観測したのは、失われた小型無人偵察機。
その情報を解析し、妨害源を選定したのは隼人とアイだった。
赤城(艦娘)「渡邉さん。敵艦隊の損害を、どの程度と見ていますか?」
隼人「分からない」
即答だった。
飛龍(KAN-SEN)「分からない?」
隼人「確認できていないことを、確認したとは言えない」
隼人は机の上に置かれた敵艦隊の配置図を、自分の前へ引き寄せる。
中央の大型空母級。
その左右にいた二隻の巡洋艦級。
三つの目標には、赤い印がついている。
隼人「《みらい》から発射した対艦誘導弾は、この三隻へ向かった」
中央の大型空母級へ四発。
左右の巡洋艦級へ二発ずつ。
合計八発。
隼人「目的は撃沈ではない。通信設備、電探、妨害装置を止めることだった」
赤城(KAN-SEN)「では、八隻の空母を沈めたわけでは……」
隼人「一隻も撃沈を確認していない」
室内の空気が僅かに重くなる。
隼人「敵空母級は八隻。うち六隻以上が航空機を運用していた。三隻へ損傷を与えたとしても、残る戦力は大きい」
赤城(艦娘)「ですが、敵は追撃を中止しました」
隼人「妨害と指揮系統を失い、こちらの通信と電探が回復した。さらに、呉から長距離攻撃を受ける可能性があると知られた。追撃を続ける危険が、得られる戦果を上回ったと判断した可能性が高い」
蒼龍(KAN-SEN)「つまり、敵にも相応の打撃を与えたのでは?」
隼人「その可能性はある。だが、期待を事実として作戦を立てれば、次は負ける」
隼人は、赤い印のついていない五隻の空母級を指す。
隼人「こちらが得たのは勝利ではない」
指先を、即応連合艦隊の帰投経路へ移す。
隼人「損傷艦と負傷者を呉へ戻す時間だ」
赤城(艦娘)「……はい」
隼人「その時間を使って、敵が次に来る前の準備をする。敵が壊滅したと考えて休むための時間ではない」
赤城(艦娘)は、その言葉を記録するよう式神へ合図した。
黒板の下部へ、新しい一文が書かれる。
――敵航空母艦八隻。撃沈確認なし。
――妨害中枢三隻へ損害。程度不明。
――敵航空戦力、依然健在と想定。
◇
飛龍(艦娘)「渡邉さん」
隼人「何だ?」
飛龍(艦娘)「敵高速機へ対抗できる新しい航空機を、未来の知識で造ることはできませんか?」
問いかけに、ほかの者も隼人を見る。
未来から来た軍人。
未知の装甲服。
人工知能。
無人偵察機。
長距離対艦誘導弾。
その技術を知る者なら、敵を上回る航空機も生み出せるのではないか。
そう考えるのは不自然ではなかった。
隼人「無理だ」
だが、隼人の答えは変わらない。
飛龍(KAN-SEN)「また即答かよ」
隼人「私は航空機設計者でも、エンジン技術者でもない。完成した兵器の運用方法を知っていても、材料の配合や工作機械の作り方までは分からない」
蒼龍(艦娘)「《みらい》の修理を指示していたではありませんか」
隼人「自分の装備だから、交換手順と点検方法を知っているだけだ。部品そのものを一から製造できるわけではない」
赤城(KAN-SEN)「では、未来の知識があっても……」
隼人「未来は、完成した答えを記憶している場所ではない」
隼人は敵高速機の写真を手に取る。
隼人「自分の専門外なら、分からないことの方が多い。分からないのに知っているふりをすれば、技術班も搭乗員も殺す」
写真を机へ戻す。
隼人「ただし、何を目標にするべきかは提案できる」
赤城(艦娘)「聞かせてください」
隼人は右手で、敵高速機の飛行経路をなぞる。
隼人「最初に変えるべきは、機体ではなく警戒と迎撃の方法だ」
飛龍(KAN-SEN)「戦い方を?」
隼人「ああ。速度で劣る機体が、後ろから高速機を追っても追いつけない。敵が来てから発艦し、見つけた機体が個別に追うやり方では、何度やっても同じ結果になる」
海図上へ、敵の進入方向を示す線を引く。
隼人「遠方で敵を見つける」
呉と艦隊の外側へ、監視点を置く。
隼人「進路と高度を予測し、敵の正面または上方へ先に迎撃機を置く」
敵の経路を挟むよう、二つの迎撃隊を描く。
隼人「一隊が攻撃したら、追い続けない。次の隊へ敵を渡す。帰投する機体と、攻撃を続ける機体を分ける」
蒼龍(KAN-SEN)「ですが、妨害電波で電探と通信を止められれば?」
隼人「一つの手段に依存しない」
隼人は、黒板に書かれた『通信』の文字を指す。
隼人「無線が駄目なら、発光信号、旗流信号、事前に定めた時間と針路を使う。電探が駄目なら、見張所、哨戒機、艦艇を中継点にする」
赤城(艦娘)「即応連合艦隊が行った方法ですね」
隼人「あれは、追い詰められてから急いで組み直した。次は、妨害されることを前提に最初から用意する」
飛龍(艦娘)「機体性能の差は、どうするのですか?」
隼人「なくならない」
隼人は、明確に答える。
隼人「新しい航空機の開発は必要だ。高出力の発動機。高速域で機体を制御する構造。高高度で性能を維持する過給機。将来的には、螺旋推進に依存しない機体も必要になる」
赤城(KAN-SEN)「敵と同じ噴式機を?」
隼人「目標の一つにはなる。だが、図面も試験設備もない状態で、明日から造れる物ではない」
隼人は、指を三本立てる。
隼人「今すぐ始められるのは三つだ」
一つ。
隼人「残った熟練搭乗員を、穴埋めのために使い潰さない。教官と隊長として残し、新しい部隊へ経験を渡す」
二つ。
隼人「敵の映像、音、速度、高度、攻撃方向を、各艦で別々に持たない。呉へ集め、同じ資料を全員へ配る」
三つ。
隼人「電探、通信、対空火器、迎撃機を別々に動かさず、一つの防空指揮へまとめる」
式神が、隼人の言葉を黒板へ書き取っていく。
熟練者の保全。
敵情報の統合。
防空指揮の一元化。
蒼龍(艦娘)「新兵器ではなく、まず組織を変えるのですね」
隼人「新兵器を持っても、見つけられず、連絡できず、別々に戦えば負ける」
飛龍(KAN-SEN)「未来では、そうやって戦っていたのか?」
隼人「ああ。そして、それでも失敗した」
室内が静かになる。
隼人の声に、自慢する響きはなかった。
隼人「装備が新しければ死なないわけではない。情報が多ければ判断を誤らないわけでもない。私たちの世界も、それを覚えるまで多くの人間を失った」
赤城(艦娘)「あなたのいた二〇二一年は、平和な時代ではなかったのですか?」
前話で、隼人が未来から来たことは聞いた。
だが、その未来がどのような時代だったのかまでは、誰も知らない。
隼人は、僅かに目を伏せる。
隼人「平和ではなかった」
答えは短い。
しかし、そこで終わらせなかった。
隼人「二〇一一年、第三次世界大戦が始まった」
聞いていた全員の表情が変わる。
飛龍(艦娘)「世界大戦が、三度も……?」
隼人「大国だけの戦争では終わらなかった。国家の統治機能が崩れ、正規軍、民兵、企業軍、武装集団が入り乱れた」
隼人の脳裏に、上海、南京、北京、重慶の光景が浮かぶ。
崩れた建物。
補給の途絶えた道路。
敵と味方の境界すら失われた市街地。
隼人「世界規模の戦闘が収まったあとも、日本では内戦が続いた。組織としての平穏を取り戻したのは、二〇一八年だ」
赤城(KAN-SEN)「この世界へ来る、僅か三年前……」
隼人「ああ」
蒼龍(KAN-SEN)「未来なら、戦争はなくなっているものだと思っていました」
隼人「兵器が新しくなっても、人間が争う理由までは消えない」
黒板に書かれた未来の対策。
そのどれもが、平和な時代の机上で生まれた知識ではない。
戦場で失敗し、死者を出し、そのたびに作り直された仕組みだった。
彼女たちが見ていたのは、未来を知る学者ではない。
未来の戦争を生き残った軍人だった。
飛龍(KAN-SEN)「じゃあ、これからこの世界で起きることも分かるのか?」
隼人「分からない」
飛龍(KAN-SEN)「でも、昭和十三年なんだろ?」
隼人「年号が同じでも、この世界には艦娘、KAN-SEN、深海棲艦、セイレーンが存在する。自分が知る歴史と、すでに条件が違いすぎる」
赤城(艦娘)「それでも、似た出来事が起きる可能性は?」
隼人「ある。だからこそ、私が知っている歴史を予言として扱うべきではない」
隼人は全員を見る。
隼人「未来を避けようとして、別の破滅を選ぶ可能性がある。確認できる事実と、私の世界の記録は分けて扱ってくれ」
赤城(艦娘)「分かりました。未来の歴史については、司令部の許可なく作戦判断へ使用しません」
隼人「それがいい」
◇
報告は、隼人自身に関する確認へ移った。
赤城(艦娘)は新しい書類を開く。
赤城(艦娘)「渡邉さん。答えたくない質問には、答えなくて構いません」
隼人「分かった」
赤城(艦娘)「あなたの世界では、男性が軍人になることは一般的なのですか?」
隼人「ああ。人口は男女でほぼ同数だ。軍人になることも、学校へ通うことも、職業を選ぶことも、性別だけで決められるものではない」
四人の蒼龍と飛龍が、互いの顔を見る。
蒼龍(KAN-SEN)「男女が、ほぼ同じ数……」
飛龍(KAN-SEN)「それなら、街中を男が普通に歩いているのか?」
隼人「普通にいる。男であることを理由に、外出を珍しがられることもない」
飛龍(KAN-SEN)「想像できないな……」
隼人「こちらでは、そこまで違うのか?」
赤城(KAN-SEN)が答える。
赤城(KAN-SEN)「国と地域によって差はありますが、成人では男性二に対し、女性八ほどと言われていますわ」
隼人「二対八……」
隼人は、地下救護所や艦内で向けられた視線を思い出す。
少ないという予想はしていた。
だが、想像以上の偏りだった。
隼人「出生数そのものが違うのか。それとも、戦争による損失か?」
赤城(艦娘)「両方です。もともと男性の出生数が少ないうえ、以前の戦争でも多くを失いました」
蒼龍(艦娘)「そのため、多くの国で男性を前線任務から遠ざける制度があります。軍に所属する場合も、技術、通信、医療、艦艇乗員などが中心です」
隼人「だから、《みらい》を装着して戦う私が目立つのか」
赤城(艦娘)「はい」
隼人「男性の生活まで制限されているのか?」
赤城(KAN-SEN)「一律ではありませんわ。学校へ通い、職業を持つ男性もおります。ただ、古い家柄では婚姻相手が決まるまで外出や交友を厳しく制限されることがあります」
蒼龍(KAN-SEN)「地方では、危険を避けるという理由で、家業の外へ出さない家庭もあります」
飛龍(艦娘)「守っているつもりでも、本人にとっては閉じ込められているのと変わらない場合がありますね」
隼人「……そうだな」
隼人は、すぐに善悪を決めなかった。
自分が知っている社会の基準を、そのまま別世界へ押しつけることはできない。
しかし、保護という言葉で自由を奪う危険は、どの時代にもある。
隼人「少なくとも、私は自分の意思で軍へ入った。今も、自分で戦うかどうかを決める」
赤城(KAN-SEN)「承知しておりますわ」
先ほど護符を黙って貼ったことへの答えでもあった。
赤城(KAN-SEN)は、今度こそ真剣な表情で頷いた。
蒼龍(KAN-SEN)が、隼人の顔を見ている。
前話から残っていた既視感を、まだ確かめようとしているようだった。
隼人「先ほどから、どうした?」
蒼龍(KAN-SEN)「申し訳ありません。やはり、どこかで拝見したお顔なのです」
隼人「私ではないと分かっているだろう」
蒼龍(KAN-SEN)「はい。ですから、別の方です」
蒼龍(KAN-SEN)は目を閉じ、自分の記憶を辿る。
隼人が略帽の鍔へ右手を掛け、少しだけ被り直した。
その動きを見た瞬間。
蒼龍(KAN-SEN)「……江草隊」
隼人「何?」
蒼龍(KAN-SEN)「思い出しました」
蒼龍(KAN-SEN)が立ち上がる。
蒼龍(KAN-SEN)「江草隊の人員記録です。新しく配属された航空要員の中に、渡邉さんとよく似た方がいました」
蒼龍(艦娘)「名前は?」
蒼龍(KAN-SEN)「少し待ってください」
蒼龍(KAN-SEN)は、自分の艤装から小さな記録帳を取り出す。
戦闘前に受け取った共同航空隊の名簿。
負傷者と未帰還者を照合するため、何度も確認したものだった。
ページをめくる指が、一か所で止まる。
蒼龍(KAN-SEN)「ありました」
記録帳が、隼人の前へ置かれる。
江草隊。
生存確認者。
そこに、一人の名が書かれていた。
渡邉竜。
隼人の呼吸が止まる。
隼人「……竜?」
蒼龍(KAN-SEN)「はい。渡邉竜さんです」
隼人は、記録帳へ右手を伸ばす。
指先が名前へ触れる直前で止まった。
同じ姓。
同じ名。
江草隊。
顔が似ている。
帽子を被り直す時の癖まで同じ。
偶然で片づけるには、重なりが多すぎた。
隼人「その者の所属は、本当に江草隊なのか?」
蒼龍(KAN-SEN)「間違いありません。今回の戦闘では、損傷した機体を最後まで飛ばし、味方機とともに帰投しています」
隼人「生きているのか?」
蒼龍(KAN-SEN)「はい。左腕に軽い火傷を負っていますが、命に別状はありません」
隼人の右手が、僅かに震える。
夢の中でさえ、仲間へ届かなかった手だった。
今は、紙の上に書かれた一つの名前へ触れようとしている。
赤城(艦娘)「渡邉さん。ご存じの方なのですか?」
隼人は、すぐに答えられなかった。
家族の詳細は伏せる。
そう決めたのは、自分だった。
だが、この名前だけは、他人のものとして聞き流せない。
隼人「私の祖父と、同じ名前だ」
室内が静まり返る。
隼人「祖父の名は、渡邉竜。海軍航空隊に所属し、江草隊で戦ったと家族の記録に残っている」
飛龍(KAN-SEN)「祖父って……」
隼人「祖父には弟が一人いた。兄の竜は海軍へ。弟は陸軍へ進んだ。渡邉家に残っている記録では、そうなっている」
蒼龍(艦娘)「では、この渡邉竜さんは……」
隼人「まだ、私の祖父だと決まったわけではない」
隼人は、自分へ言い聞かせるように答えた。
隼人「ここは私が知っている昭和十三年ではない。同じ名と経歴を持つ、別人の可能性もある」
赤城(KAN-SEN)「ですが、お顔まで似ているのでしょう?」
蒼龍(KAN-SEN)「はい。目元と、帽子へ手を掛ける時の動きがよく似ています」
隼人は略帽の鍔から手を離す。
その癖を教えたのは、祖父だった。
子供の頃、帽子は片手で乱暴に押さえるなと何度も注意された。
形を崩さず、鍔へ指を添え、位置だけを直す。
気づけば、隼人も同じ動きをするようになっていた。
隼人「本人へ会うことはできるか?」
蒼龍(KAN-SEN)「夕刻の慰霊式には、江草隊の生存者として出席する予定です」
隼人「その前に、軍歴を確認したい。出身地、家族構成、生年月日。記録に残っている範囲で構わない」
赤城(艦娘)「手配します」
隼人「それから、本人には私との関係を話さないでくれ」
飛龍(艦娘)「会わないのですか?」
隼人「会う」
隼人の答えに迷いはなかった。
隼人「だが、いきなり未来から来た孫だと名乗るつもりはない。同一人物か確認できていない。それに、未来の血縁を名乗ることで、本人の判断を変える可能性がある」
蒼龍(艦娘)「ご自分の祖父かもしれない方を前にしても、未来へ影響を与えることを警戒するのですね」
隼人「影響が起きるかどうかも分からない。分からないから、慎重にする」
先ほど敵艦隊の損害を問われた時と、同じ考え方だった。
確認できないことを、確認したと思い込まない。
期待を、事実へ置き換えない。
未来の知識を、予言として扱わない。
家族が関わることであっても、その原則を変えない。
それが、隼人の身を守り、多くの仲間を生かしてきた方法だった。
だが、記録帳の上へ置かれた右手の震えだけは、完全には止まっていない。
赤城(KAN-SEN)「隼人様」
隼人「何だ?」
赤城(KAN-SEN)「その方が本当にお祖父様であったとしても、今すぐ何もかもお話しする必要はありませんわ」
隼人「……ああ」
赤城(KAN-SEN)「まずは、お顔を見て、お声を聞くだけでもよろしいのではなくて?」
隼人は、記録帳へ書かれた名前を見る。
渡邉竜。
未来の家族写真でしか知らない、若い頃の祖父。
その人物が、同じ艦内にいる。
生きている。
夢の中にいた者ではない。
手を伸ばしても、土の下へ消えるわけではない。
隼人「そうだな」
右手の震えが、僅かに収まる。
◇
赤城(艦娘)が、最後の報告書を閉じた。
赤城(艦娘)「本日の確認事項は以上です」
黒板には、航空隊の損害と今後の方針が残されている。
攻勢任務の停止。
生存者の治療と保全。
敵航空戦力の再評価。
妨害を前提とした指揮通信系統の再構築。
未来兵器を安易に再現するのではなく、現在可能な対策から始めること。
赤城(KAN-SEN)が式神へ指を向ける。
式神たちは、黒板の内容を紙へ書き写し始めた。
先ほど頭をぶつけた二体が、一枚の紙を両側から持ち上げる。
今度は互いの動きを確かめながら、机の端まで運んでいった。
赤城(艦娘)「渡邉さんから出された提案は、司令部と防空担当へ提出します。ただし、正式な採用には技術班と各航空隊による検討が必要です」
隼人「それで構わない。私の言葉だけで決めるな」
飛龍(KAN-SEN)「未来の軍人が言ったことでもか?」
隼人「未来の軍人でも、間違える」
隼人は立ち上がろうとした。
左肩を庇いながら右手を床へつく。
赤城(KAN-SEN)が、すぐ隣へ移動する。
今度は勝手に触れず、右手を差し出した。
赤城(KAN-SEN)「お手伝いしても?」
隼人「ああ。頼む」
隼人は、その手を取って立ち上がる。
赤城(KAN-SEN)の狐耳が、僅かに動いた。
赤城(KAN-SEN)「もう正午ですわ。このあと、ご一緒に昼食はいかがでしょう?」
隼人は壁の時計を見る。
救護所へ戻るまで、まだ少し時間がある。
祖父かもしれない人物の記録も確認したい。
江草隊の生存者から、戦闘の詳細も聞く必要がある。
夕刻には、戦死者と行方不明者の弔いが行われる。
隼人「食事の前に、頼みがある」
赤城(艦娘)「渡邉竜さんの記録ですね」
隼人「ああ。それから、慰霊式への参列許可を取りたい」
赤城(艦娘)「負傷者としての参列になります。途中で体調が悪化した場合は、すぐに退出すること。それが条件です」
隼人「分かった」
赤城(KAN-SEN)「軍医の許可も必要ですわね」
隼人「説得する」
赤城(艦娘)「指示に従う、と伝えてください」
隼人「それでは説得にならない」
飛龍(KAN-SEN)「これまで何回、軍医から逃げたんだ?」
アイ『医療従事者の制止に反して行動を継続した記録は――』
隼人「数えなくていい」
室内へ、小さな笑いが広がる。
黒板に並ぶ死者と未帰還者の数は消えない。
失われた航空隊も、すぐには戻らない。
敵艦隊が再び現れる危険も残されている。
それでも、次に同じ損害を出さないための仕事は始まっていた。
未来の知識だけで、すべてを救うことはできない。
隼人自身が、それを誰よりも知っている。
だからこそ、分からないことを分からないままにせず、一つずつ確かめる。
敵の損害。
味方の残存戦力。
この世界の制度。
そして、八十三年前の記録に現れた祖父の名。
隼人は蒼龍(KAN-SEN)から記録帳を借り、もう一度その一行を見る。
渡邉竜――生存。
未来から来た軍人は、過去を変えるためではなく、過去に生きる一人の家族へ会うため、静かに和室をあとにした。
はい。
どうもどうも
素人小説書きです。
今回は、5つのルート的な物があります。
一は、そのまま赤城達と一緒に食事をするか。
二は、死んだ仲間を弔っている加賀さん達の元に向かうか。
三は、蒼龍たちの元に向かい祖父に会うか。
四は、飛龍達のところに向かってお話しするか。
五は、不思議な雰囲気を醸し出している雲龍に会いに行くか。
この選択肢となります。
ちなみに、バットエンドとかそう言うのは関係ないので深く考えないでいいです。
後、このここ好き機能もぜひお使いください。
それでは、また次回。
※2026年8月28日リメイク完了
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