陸自はドールズフロントライン、海自は艦これとアズールレーン、空自はアッシュアームズ三つの世界でバラバラになりながらでも生き残る   作:ゴーストライターとかした、素人小説書き

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注意

この小説は、シリアスとギャグが少し入っています。
それが、いやな方は、上にある矢印ボタンでブラウザバックを推奨します。
この世界はアズールレーンと艦これが入っているため人物が分かりやすいようにアズールレーンはA 艦これはCと表記します。
それでも、大丈夫な方はご覧ください。




アンケートありがとうございました!

これからも、またよろしく願いします!


2-3 食事前の運動

2-3 食事前の運動

 

 即応連合艦隊旗艦・赤城。

 

 飛行甲板下、士官公室前通路。

 

 戦闘詳報の確認を終えた隼人は、蒼龍(KAN-SEN)から借りた記録帳を右手に持ち、和室を出た。

 

 そこには、若き日の祖父かもしれない人物の名が記されている。

 

 渡邉竜。

 

 江草隊所属。

 

 左腕に軽い火傷。

 

 生存。

 

 たった数行の記録が、手にした紙の重さを変えていた。

 

 隼人はもう一度、その名を確かめようとする。

 

 しかし、背後から廊下へ出てきた赤城(艦娘)が、記録帳をそっと閉じた。

 

赤城(艦娘)「詳しい軍歴は、いま照会させています」

 

隼人「分かっている」

 

赤城(艦娘)「結果が届くまで、何度読み返しても書かれていることは変わりません」

 

隼人「……それも分かっている」

 

 返事とは裏腹に、隼人の右手は記録帳から離れない。

 

 赤城(艦娘)は、それ以上取り上げようとはしなかった。

 

 代わりに、隼人の腹部から低い音が鳴る。

 

 静かな通路では、隠しようのない音だった。

 

隼人「……」

 

赤城(艦娘)「……」

 

 少し遅れて、もう一つ。

 

 今度は赤城(艦娘)の腹部から、先ほどよりも大きな音が鳴った。

 

赤城(艦娘)「……聞かなかったことにしてください」

 

隼人「先に黙ってくれた礼として、そうする」

 

 後ろから廊下へ出てきた赤城(KAN-SEN)が、口元へ手を添える。

 

赤城(KAN-SEN)「お二人とも、ずいぶん仲のよろしいことで」

 

赤城(艦娘)「誤解です」

 

隼人「同感だ」

 

 返事が同時に重なる。

 

 赤城(KAN-SEN)の狐耳が楽しそうに動いた。

 

赤城(KAN-SEN)「では、改めて。隼人様、お昼をご一緒していただけます?」

 

 隼人は壁に掛けられた時計を見る。

 

 正午を少し過ぎている。

 

 今朝、救護所で口にしたのは、薄い粥と白湯だけだった。

 

 会議が始まってからも、茶を二杯飲んだだけである。

 

隼人「お願いする。さすがに腹が減った」

 

赤城(KAN-SEN)「まあ」

 

 赤城(KAN-SEN)の九本の尾が、一斉に持ち上がる。

 

赤城(KAN-SEN)「すぐにご用意いたしますわ。献立は海軍カレーでよろしいでしょうか?」

 

隼人「ああ。久しぶりに食べたい」

 

赤城(艦娘)「私も同じ物を」

 

赤城(KAN-SEN)「赤城さんは、つい一時間ほど前に大盛りを二皿召し上がったばかりでは?」

 

赤城(艦娘)「あれは会議前の補給です」

 

赤城(KAN-SEN)「では、これは?」

 

赤城(艦娘)「昼食です」

 

 迷いのない答えだった。

 

 隼人は、赤城(艦娘)の細い身体を見る。

 

 大盛り二皿を収めたようには見えない。

 

隼人「空母は燃費が悪いらしい」

 

赤城(艦娘)「そういうことです」

 

赤城(KAN-SEN)「隼人様まで甘やかしてはいけませんわ」

 

 そう言いながらも、赤城(KAN-SEN)は嬉しそうだった。

 

 隼人との食事そのものを楽しみにしているらしい。

 

赤城(KAN-SEN)「食堂へ話を通して参ります。お二人は士官公室でお待ちくださいませ」

 

赤城(艦娘)「私は司令部へ照会文を送ります。すぐに戻ります」

 

隼人「なら、私は先に部屋へ――」

 

 言いかけた時だった。

 

 略帽の内側で、紙が擦れる音がした。

 

 赤城(KAN-SEN)が貼った護符が、僅かに震えている。

 

 風はない。

 

 隼人は略帽を脱ぎ、内側を見る。

 

 白かった式神の縁が、薄い青色へ変わっていた。

 

赤城(KAN-SEN)「……あら?」

 

隼人「こうなるように作ったのか?」

 

赤城(KAN-SEN)「いいえ。私の式神が、勝手に色を変えることはありませんわ」

 

 赤城(KAN-SEN)の表情から笑みが消える。

 

 彼女が指先を式神へ近づける。

 

 触れる直前、式神が身体の向きを変えた。

 

 紙でできた小さな腕が、通路の後方を指す。

 

 艦尾側。

 

 そして、下方。

 

アイ『隼人』

 

隼人「聞こえている」

 

アイ『艦内電源に由来しない電磁放射を検出しました』

 

赤城(艦娘)「電磁放射?」

 

隼人「いつからだ?」

 

アイ『二十六秒前です。短い送信を四回確認。発信源は現在位置から艦尾方向、二層から三層下と推定します』

 

 隼人は、先ほどまで会議を行っていた和室を見る。

 

 敵艦隊の損害。

 

 呉の防空体制。

 

 未来の兵器。

 

 隼人自身の出自。

 

 外へ漏れれば価値を持つ話を、少なからず交わしていた。

 

隼人「会議中にも送信はあったか?」

 

アイ『確認できません。発信源は、先ほど起動した可能性があります』

 

赤城(艦娘)「艦内の無線機ではないのですね?」

 

アイ『既知の艦内通信規格とは一致しません』

 

 赤城(艦娘)は迷わなかった。

 

赤城(艦娘)「重桜の赤城。食堂へ行くのは中止してください」

 

赤城(KAN-SEN)「ええ」

 

 赤城(KAN-SEN)が袖から式神を二体出す。

 

 一体は艦橋へ。

 

 もう一体は、艦内保安班の詰所へ向けて飛んでいく。

 

赤城(艦娘)「総員へ知らせるのですか?」

 

赤城(KAN-SEN)「いいえ。発信源に気づかれないよう、当直士官と保安班にだけ伝えますわ」

 

隼人「修理要員の点呼も取った方がいい。誰かが襲われている可能性がある」

 

赤城(艦娘)「そのように伝えてください」

 

赤城(KAN-SEN)「承知しました」

 

 赤城(KAN-SEN)の式神が、途中で二手へ分かれた。

 

 隼人は、式神の指す方角を見る。

 

隼人「発信源の近くには、何がある?」

 

赤城(艦娘)「第二格納庫の後部です。その下には補助配電室と、艦尾側の消火主管があります」

 

隼人「弾薬庫や航空燃料槽との距離は?」

 

赤城(艦娘)「直接隣接してはいません。しかし、補助配電室を破壊されれば、後部格納庫の消火設備と排煙装置が止まります」

 

 戦闘で傷ついた艦。

 

 格納庫には、修理中の航空機と燃料を抜いた機体が並んでいる。

 

 復旧作業のため、一部の防火区画は開放されたままだ。

 

 そこへ火を放たれれば、赤城は海戦を生き延びながら呉で失われる。

 

隼人「破壊工作か、内部構造の偵察だな」

 

赤城(KAN-SEN)「隼人様は、士官公室へお戻りくださいませ」

 

隼人「アイが発信源を追っている」

 

赤城(KAN-SEN)「位置を私たちへ伝えてくだされば十分です」

 

隼人「艦内の隔壁を挟むと、方向の誤差が大きくなる。近づかなければ正確な場所を絞れない」

 

赤城(艦娘)「ですが、渡邉さんは負傷者です」

 

隼人「戦うつもりはない。案内だけだ」

 

アイ『過去の行動記録から、その発言の信頼度は低いと判定します』

 

隼人「今は黙っていろ」

 

赤城(KAN-SEN)「アイさんのおっしゃるとおりですわ」

 

 隼人は反論しようとした。

 

 その前に、赤城(艦娘)が条件を示す。

 

赤城(艦娘)「私の右側から離れないこと。階段では必ず手摺を使うこと。敵を発見しても、保安班より先へ出ないこと」

 

隼人「分かった」

 

赤城(艦娘)「すべて守れますか?」

 

隼人「努力する」

 

赤城(艦娘)「戻っていてください」

 

隼人「守る」

 

赤城(艦娘)「最初から、そう答えてください」

 

     ◇

 

 数分後。

 

 隼人たちは、艦尾側の艦内通路を下っていた。

 

 先頭を進むのは、短機関銃を持った保安班員二名。

 

 その後ろに、赤城(艦娘)。

 

 隼人は彼女の右側を歩き、最後尾を赤城(KAN-SEN)と別の保安班員が守っている。

 

 さらに後方では、第二班が通路を封鎖していた。

 

 大きな警報は鳴らしていない。

 

 敵が送信を続けている以上、こちらが存在へ気づいたことを悟らせるべきではなかった。

 

 艦内では、修理作業が続けられている。

 

 鋼板を叩く音。

 

 配管を締め直す工具の音。

 

 台車の車輪が甲板を転がる音。

 

 それらが、保安班の足音を覆い隠していた。

 

アイ『発信源との距離、約五十八メートル』

 

隼人「下か?」

 

アイ『同一階層へ近づいています。方位、右前方』

 

 赤城(艦娘)が、小声で艦内配置を説明する。

 

赤城(艦娘)「この先を右へ曲がると、第二格納庫の後部作業区画です。補助配電室へ続く昇降口もあります」

 

隼人「人員は?」

 

赤城(KAN-SEN)「点呼では、電工員一名の所在が確認できておりません」

 

隼人「最後に確認された場所は?」

 

赤城(KAN-SEN)「補助配電室です」

 

 全員の表情が固くなる。

 

 先頭の班員が停止の合図を出した。

 

 床に、工具箱が倒れている。

 

 絶縁手袋。

 

 回路図。

 

 金属製のレンチ。

 

 どれも、急に手から落としたように散らばっていた。

 

 その先には、一人の電工員が倒れている。

 

 保安班員が近づき、首筋へ指を当てた。

 

保安班員「脈あり。呼吸もしています」

 

 外傷は見当たらない。

 

 ただし、右手の手袋が焦げ、指先に薄い火傷がある。

 

隼人「感電か?」

 

アイ『断定できません。周辺に、既知の電源設備とは異なる残留電荷を検出しています』

 

 赤城(KAN-SEN)の式神が、倒れた電工員の周囲を一周する。

 

 床の隅で止まった。

 

 そこには、黒い砂のような物が残されていた。

 

 砂は一粒ずつ動き、配管の隙間へ入り込もうとしている。

 

赤城(KAN-SEN)「これは……セイレーンの反応ですわ」

 

赤城(艦娘)「どこから侵入したのですか?」

 

 隼人は、黒い砂の筋を目で追う。

 

 筋は壁際を通り、修理中の外板近くまで続いていた。

 

 戦闘で生じた亀裂へ、応急の鋼板が当てられている。

 

 その継ぎ目だけが、不自然に黒い。

 

隼人「海戦中に撃ち込まれたか、敵機の破片へ偽装して外板に残った」

 

赤城(艦娘)「呉へ戻ってから、動き始めたということですか?」

 

隼人「ああ。入港を待っていたんだ」

 

 敵の目的が赤城一隻だけなら、戦場で起爆すればよかった。

 

 そうしなかった。

 

 呉の内部まで運ばせた。

 

 艦の構造を調べるため。

 

 修理状況を送るため。

 

 あるいは、鎮守府そのものへ侵入する足場を作るため。

 

隼人「電工員を後ろへ運べ。黒い砂には素手で触れるな」

 

 班員二名が、倒れている電工員を担架へ移す。

 

 その時。

 

 隼人の耳に、短い雑音が入った。

 

アイ『通信品質が低下しています』

 

隼人「局所妨害か」

 

アイ『肯定。発信源との距離、二十一メートル』

 

 赤城(KAN-SEN)の式神から、淡い炎が消えた。

 

 最後尾の班員が無線機を確認する。

 

保安班員「後方班との通信、途絶しました」

 

隼人「予定どおりだ。二分連絡がなければ、後方班が艦橋へ報告する」

 

 発信源へ近づけば、無線も式神も使えなくなる可能性がある。

 

 そのため、突入前に報告時刻を決めていた。

 

 こちらが戻らなくても、艦全体へ異常は伝わる。

 

赤城(艦娘)「補助配電室まで、あと一つ隔壁を越えます」

 

隼人「扉を開ける前に、反対側の通路を閉鎖できるか?」

 

赤城(艦娘)「後部防火扉なら閉じられます。ただし、手動操作が必要です」

 

隼人「後方班へ頼んである。敵が逃げれば、そこで挟む」

 

赤城(KAN-SEN)「いつの間に?」

 

隼人「通信が切れる前だ」

 

 保安班員が、補助配電室へ続く扉の両側へつく。

 

 一人が短機関銃を構える。

 

 もう一人が、扉の取っ手へ手を掛けた。

 

隼人「待て」

 

 隼人は空気の匂いを確かめる。

 

 焦げた絶縁材。

 

 油。

 

 そして、ごく薄い航空燃料の匂い。

 

 修理作業で、配管から抜いた燃料の残りが気化している。

 

隼人「中で不用意に撃つな。燃料蒸気が残っている」

 

保安班員「しかし、敵が武装していた場合は?」

 

隼人「先に消火管を使う。視界と姿勢を崩したあと、必要なら関節を狙え」

 

赤城(艦娘)「消火ホースは、左の格納箱です」

 

 二人の班員が、壁際の格納箱を開く。

 

 折り畳まれていた太いホースを取り出し、接続口へ固定した。

 

 別の班員が元栓を開く。

 

 ホースが圧力を受け、蛇のように膨らむ。

 

 隼人は、壁に収められた非常用の手斧を見つけた。

 

 右手で取り出す。

 

赤城(KAN-SEN)「戦わないお約束では?」

 

隼人「扉や配線を切るためだ」

 

アイ『その説明の信頼度は――』

 

隼人「計算しなくていい」

 

 赤城(艦娘)が、隼人の前へ出る。

 

赤城(艦娘)「渡邉さんは最後尾です」

 

隼人「分かっている」

 

 今度は、言葉どおり後ろへ下がった。

 

 先頭の班員が、指を三本立てる。

 

 三。

 

 二。

 

 一。

 

 扉が開かれた。

 

     ◇

 

 補助配電室の照明は、すべて消えていた。

 

 非常灯だけが、床の近くを赤く照らしている。

 

 部屋の中央に、見慣れない黒い装置があった。

 

 人間の胴ほどの大きさをした球体。

 

 外板の応急修理箇所から伸びた黒い物質が集まり、その形を作っている。

 

 球体から生えた細い線が、補助配電盤と艦内電話の回線へ食い込んでいた。

 

 その前に、人の姿を模した二体の影が立っている。

 

 一体は細身で、両腕から複数の線を伸ばしている。

 

 もう一体は、上半身を厚い装甲で覆い、右腕に砲身を備えていた。

 

 赤城(KAN-SEN)が、低い声で告げる。

 

赤城(KAN-SEN)「コンダクター型と、スマッシャー型……ですが、本体ではありませんわ」

 

隼人「端末か?」

 

赤城(KAN-SEN)「ええ。黒い物質から作られた、簡易の身体です」

 

 細身の端末――コンダクターが、ゆっくりと振り向く。

 

コンダクター「侵入検知。情報収集率、七十二パーセント」

 

 室内へ、水面を叩いたような波紋が広がる。

 

 黒い球体の上に、半透明の女性が映し出された。

 

 白い肌。

 

 長い髪。

 

 人間を観察することそのものを楽しむような笑み。

 

オブザーバー「思ったより早かったわね」

 

 赤城(KAN-SEN)の目が細くなる。

 

赤城(KAN-SEN)「オブザーバー」

 

オブザーバー「久しぶり、赤城。それとも、四日ぶりと言うべきかしら?」

 

赤城(艦娘)「この艦へ、何をしたのですか?」

 

オブザーバー「少し見せてもらっただけよ。配電、消火、通信、格納庫。あなたたちが、どこまで壊れているのかもね」

 

 映像の視線が、隼人へ移る。

 

オブザーバー「そして、一番興味深いものまで来てくれた」

 

隼人「私を知っているのか?」

 

オブザーバー「もちろん。空も飛ばず、海にも浮かばず、それでも遠く離れた艦隊へ八本の牙を届かせた男」

 

 妨害中枢へ向けた対艦誘導弾。

 

 敵は、発射地点まで把握していた。

 

オブザーバー「ねえ。あなたは、どこから来たの?」

 

隼人「答えると思うか?」

 

オブザーバー「答えなくても構わないわ。人は、質問された時の目や呼吸だけでも多くを話してくれるもの」

 

隼人「なら、私も一つ聞こう」

 

オブザーバー「どうぞ?」

 

隼人「この端末を、どうやって赤城へ取りつかせた?」

 

オブザーバー「もう気づいているのでしょう?」

 

 オブザーバーが、応急修理された外板へ視線を向ける。

 

オブザーバー「戦場から帰る者は、敵の破片まで故郷へ連れて帰る。沈まなかったことを喜び、身体に残った小さな傷を見落とす」

 

隼人「海戦中、外板へ食い込ませたのか」

 

オブザーバー「正解」

 

 隼人は、会話を続けながら黒い球体を観察する。

 

 配電盤へ伸びる線は七本。

 

 電話回線へ二本。

 

 床を通り、スマッシャーへつながる太い線が一本。

 

 二体の端末は、黒い球体から形と力を与えられている。

 

 球体を破壊すれば、端末も止まる可能性が高い。

 

 だが、内部に蓄えられたエネルギー量が分からない。

 

 不用意に撃てば、補助配電室そのものを失う。

 

アイ『隼人。球体内部の温度が上昇しています』

 

 アイの音声は、雑音に埋もれかけていた。

 

隼人「送信が終われば、自壊させるつもりか?」

 

オブザーバー「あら。そこまで分かるのね」

 

隼人「情報収集率は?」

 

コンダクター「七十六パーセント」

 

 オブザーバーの笑みが、一瞬だけ止まる。

 

 隼人が端末へ質問するとは思っていなかったらしい。

 

 四パーセント。

 

 先ほどの報告から増えるまで、約三十秒。

 

 完全な送信まで、残り三分ほど。

 

 隼人は、右手の指を僅かに動かす。

 

 床。

 

 太い線。

 

 消火ホース。

 

 赤城(艦娘)が、その合図を見る。

 

 保安班員へ視線だけで伝えた。

 

オブザーバー「作戦を考えている顔ね」

 

隼人「三分も話し相手をしてくれるのならな」

 

オブザーバー「私を退屈させずにいられるかしら?」

 

隼人「試してみろ」

 

 オブザーバーが笑う。

 

 その瞬間。

 

赤城(艦娘)「放水!」

 

 二本の消火ホースから、一斉に水が放たれた。

 

 狙いは黒い球体ではない。

 

 コンダクターとスマッシャーの足元。

 

 高い圧力を受けた水流が、二体の姿勢を崩す。

 

 コンダクターの細い身体が配電盤へ叩きつけられた。

 

 スマッシャーは両脚を踏ん張る。

 

 右腕の砲身が持ち上がった。

 

保安班員「撃ちます!」

 

隼人「まだだ!」

 

 スマッシャーの足元には、黒い球体へ続く太い線がある。

 

 水流が、その線を床から浮かせていた。

 

隼人「右へ流せ!」

 

 ホースの向きが変わる。

 

 水流を脚へ受けたスマッシャーが、一歩だけ横へ動いた。

 

 太い線が張りつめる。

 

隼人「赤城!」

 

赤城(艦娘)「はい!」

 

 赤城(艦娘)が、壁際の手動レバーを引く。

 

 天井から防火扉が落ち始めた。

 

 スマッシャーは、開いたままの出入口へ砲身を向ける。

 

 発砲。

 

 金属音が、狭い室内へ炸裂した。

 

 弾丸は、降下した防火扉へ食い込む。

 

 火花が散った。

 

 しかし、通路側までは届かない。

 

 扉が完全に閉じる直前、赤城(艦娘)と保安班員が部屋から下がる。

 

 隼人だけが、扉の手前へ残った。

 

赤城(KAN-SEN)「隼人様!」

 

 防火扉の下には、スマッシャーへ続く太い線が挟まっている。

 

 完全には閉じていない。

 

 数センチの隙間。

 

 そこから、黒い線が激しく蠢いている。

 

 隼人は右膝をついた。

 

 左肩を動かさないよう身体を傾け、手斧を右手だけで振り下ろす。

 

 斧の刃が、黒い線へ食い込む。

 

 一度では切れない。

 

 線の内側から、青白い光が漏れた。

 

アイ『敵端末の照準が隼人へ移動』

 

 防火扉の向こうで、スマッシャーが砲身を下げる。

 

 狙っているのは、扉の下の隙間。

 

赤城(艦娘)「下がって!」

 

隼人「あと一回だ!」

 

 隼人は、もう一度斧を振り上げる。

 

 固定された左肩に、鋭い痛みが走った。

 

 それでも、右手は止めない。

 

 刃を同じ場所へ落とす。

 

 黒い線が切れた。

 

 同時に、防火扉が最後まで落ちる。

 

 砲声。

 

 扉の反対側が大きく膨らみ、隼人の頬を金属片が掠めた。

 

 赤城(KAN-SEN)が、隼人の襟を掴んで後方へ引く。

 

 隼人の身体が甲板を滑った。

 

隼人「ぐっ……!」

 

 左肩へ、息が止まるほどの痛みが走る。

 

赤城(KAN-SEN)「お約束を守るとおっしゃったでしょう!」

 

隼人「扉の外にはいた」

 

赤城(KAN-SEN)「そういう意味ではありません!」

 

 扉の向こうから、重い物が倒れる音がする。

 

 太い線を失ったスマッシャーが、動力を失ったらしい。

 

 しかし、妨害は続いている。

 

 黒い球体とコンダクターは、まだ生きている。

 

コンダクター「情報収集率、八十一パーセント」

 

 扉越しに、機械音声が聞こえた。

 

隼人「送信速度が落ちた」

 

赤城(艦娘)「ですが、止まってはいません」

 

隼人「もう一本ある。艦内電話へつながっている線が送信用だ」

 

赤城(KAN-SEN)「扉を開けば、また撃たれますわ」

 

隼人「スマッシャーは止まった。コンダクターの武装は?」

 

赤城(KAN-SEN)「戦闘用ではありません。ですが、接触されれば身体へ干渉される可能性があります」

 

 赤城(艦娘)が、保安班員へ合図する。

 

赤城(艦娘)「扉を三十センチだけ上げます。コンダクターの位置を確認したら、消火剤を投入してください」

 

保安班員「了解」

 

 別の班員が、粉末消火器を構える。

 

 防火扉が、ゆっくりと上がる。

 

 十センチ。

 

 二十センチ。

 

 三十センチ。

 

 床へ倒れたスマッシャーの腕が見える。

 

 動いていない。

 

 その奥で、コンダクターが黒い球体へ手を伸ばしている。

 

 切り離しを始めていた。

 

隼人「逃がすな!」

 

 粉末消火器が噴射される。

 

 白い粉末が、扉の隙間から室内へ広がった。

 

 コンダクターの姿が消える。

 

 直後、室内から細い影が飛び出した。

 

 白い粉末に覆われたコンダクター。

 

 視覚装置を塞がれ、両腕を前へ伸ばしている。

 

 赤城(艦娘)が、その腕を横から掴んだ。

 

 人間の身体では止められない速度だった。

 

 しかし、彼女は一歩も下がらない。

 

赤城(艦娘)「こちらは、私の艦です」

 

 掴んだ腕を捻り、コンダクターの身体を隔壁へ叩きつける。

 

 鈍い音。

 

 細い腕が、肩から外れた。

 

 保安班員二名が左右から飛びかかり、脚と残った腕を鋼索で拘束する。

 

 コンダクターはなおも動こうとする。

 

 赤城(KAN-SEN)の式神が、その胸部へ貼りついた。

 

 青い炎が走る。

 

 コンダクターの身体から力が抜けた。

 

 同時に、隼人の通信端末から雑音が消える。

 

アイ『局所妨害の停止を確認』

 

隼人「送信は?」

 

アイ『継続中。ただし、出力は先ほどの十八パーセントまで低下しています』

 

 黒い球体だけが残っている。

 

 その上では、オブザーバーの映像がまだ笑っていた。

 

オブザーバー「素晴らしいわ」

 

 白い粉末の向こうで、彼女が拍手する。

 

オブザーバー「新しい兵器を見せてくれると思っていたのに、使ったのは消火用の水と扉と斧。あなた、本当に面白いのね」

 

隼人「艦にある物を使っただけだ」

 

オブザーバー「道具ではなく、使い方の話をしているのよ」

 

 黒い球体が、内側から赤く光り始める。

 

アイ『警告。球体内部の温度が急上昇』

 

隼人「全員、隔壁の外へ!」

 

 保安班員が、倒れたコンダクターを引きずる。

 

 赤城(KAN-SEN)が隼人を立たせようとする。

 

 隼人は右手を借り、左肩を庇いながら後退した。

 

オブザーバー「今日のところは、これで十分よ」

 

赤城(KAN-SEN)「お待ちなさい!」

 

オブザーバー「次は、もう少し静かな場所でお話ししましょう。未来の軍人さん」

 

 映像が消える。

 

 球体の表面へ、赤い亀裂が走った。

 

 防火扉が閉じられる。

 

 一秒。

 

 二秒。

 

 三秒。

 

 爆発音はしなかった。

 

 代わりに、鉄板の上へ大量の水を落としたような音が響く。

 

 隙間から、白い蒸気が流れ出した。

 

アイ『急激な熱反応の終息を確認。爆発性反応は検出されません』

 

隼人「自分で焼いたか」

 

赤城(艦娘)「証拠を残さないために……」

 

 その時、通路へ引き出されていたコンダクターの輪郭が崩れた。

 

 拘束していた鋼索の間から、黒い砂が流れ落ちる。

 

 砂は床へ触れたそばから青白い炎を上げ、灰すら残さず消えていった。

 

 防火扉の向こうからも、硬い物が細かく砕ける音が聞こえる。

 

 スマッシャーも、同じように形を失っているらしい。

 

 敵が残したのは、配電盤に焼きついた黒い線と、床へ飛び散った僅かな破片だけだった。

 

隼人「完全には消えない。冷えるまで区画を閉鎖しろ。空気と床に残った物も、全部採取する」

 

 後方から、複数の足音が近づいてくる。

 

 連絡時刻を過ぎたため、増援の保安班と工作班が到着したのだ。

 

 赤城(艦娘)は、状況を簡潔に伝える。

 

赤城(艦娘)「敵潜入端末二体を無力化。発信装置は自壊しました。負傷者一名。火災なし。補助配電室は封鎖を継続してください」

 

工作班員「了解しました!」

 

赤城(艦娘)「同型の装置が残っている可能性があります。応急修理箇所、回収した敵機の破片、海戦後に搬入した資材をすべて再検査します」

 

 命令を受けた者たちが動き始める。

 

 隼人は壁へ右手をつき、呼吸を整えた。

 

 冷たい汗が、額を流れている。

 

 左肩の奥では、脈に合わせて痛みが続いていた。

 

アイ『左肩部の再負傷が疑われます。直ちに救護所へ戻ってください』

 

隼人「分かっている」

 

アイ『過去の応答記録から、実行の確率は――』

 

隼人「今回は戻る」

 

 赤城(艦娘)と赤城(KAN-SEN)が、同時に隼人を見る。

 

隼人「何だ?」

 

赤城(艦娘)「素直すぎて、かえって不安になりました」

 

赤城(KAN-SEN)「何か隠していらっしゃいません?」

 

隼人「腹が減った。治療が終わったら、食事にしたい」

 

 その時。

 

 赤城(艦娘)の腹部から、再び低い音が鳴った。

 

 緊張の残る通路へ、妙に大きく響く。

 

 工作班員たちは、聞こえなかったふりをして作業を続けた。

 

赤城(艦娘)「……救護所へ急ぎましょう」

 

隼人「ああ」

 

     ◇

 

 二十分後。

 

 赤城艦内、士官公室の和室。

 

 隼人は、先ほどと同じ座布団へ座っていた。

 

 左肩の固定帯は巻き直されている。

 

 頬の浅い傷には、小さなガーゼが貼られていた。

 

 軍医からは、夕刻の慰霊式へ参列するなら、それまで一切動き回らないよう厳命されている。

 

 隼人の正面には、大きな皿に盛られた海軍カレー。

 

 湯気とともに、香辛料と炒めた玉葱の匂いが立ち上っている。

 

 右隣には赤城(艦娘)。

 

 左隣には赤城(KAN-SEN)。

 

 二人の前にも、同じカレーが置かれていた。

 

 ただし、赤城(艦娘)の皿だけは、明らかに大きい。

 

赤城(KAN-SEN)「本当は、もう少し落ち着いた昼食になるはずでしたのに」

 

隼人「食事前の運動にしては、少し重かったな」

 

赤城(艦娘)「運動で済ませないでください。補助配電室を失いかけたのですよ」

 

隼人「失わずに済んだ」

 

赤城(艦娘)「渡邉さんの左肩は、もう少しで再び処置室へ送られるところでした」

 

隼人「それも、ぎりぎりで済んだ」

 

赤城(KAN-SEN)「反省していらっしゃいませんわね?」

 

隼人「している」

 

アイ『反省を示す生理反応は確認できません』

 

隼人「お前は、どちらの味方なんだ?」

 

アイ『隼人の生命を維持する側です』

 

 赤城(艦娘)が、小さく笑う。

 

赤城(艦娘)「では、私たちと同じですね」

 

 隼人は返事をしなかった。

 

 代わりに、右手で匙を取る。

 

 カレーを一口食べた。

 

 甘みが先に広がる。

 

 そのあとから、ゆっくりと辛味が追ってきた。

 

 救護所の食事とは違う。

 

 戦闘糧食とも違う。

 

 温かく、味が濃く、今ここで食べる者のために作られた料理だった。

 

赤城(KAN-SEN)「いかがです?」

 

隼人「うまい」

 

赤城(KAN-SEN)「本当に?」

 

隼人「ああ。もう一皿食べられる」

 

 赤城(KAN-SEN)の尾が大きく揺れる。

 

赤城(艦娘)「私も、おかわりをお願いします」

 

赤城(KAN-SEN)「赤城さんは、まず目の前の一皿を召し上がってくださいませ」

 

 赤城(艦娘)の皿を見る。

 

 すでに半分がなくなっていた。

 

隼人「速いな」

 

赤城(艦娘)「冷める前にいただいているだけです」

 

赤城(KAN-SEN)「隼人様。真似をしてはいけませんわ」

 

隼人「するつもりはない」

 

 三人の間に、ようやく穏やかな空気が戻る。

 

 だが、先ほど見た物を忘れたわけではない。

 

 海戦中に艦体へ付着し、呉への帰投後に起動した潜入端末。

 

 補助配電室と艦内通信から抜き取られた情報。

 

 そして、隼人の存在を知っていたオブザーバー。

 

赤城(艦娘)「敵へ送られた情報は、どの程度だと思いますか?」

 

隼人「補助配電室周辺の構造と、修理状況の一部。艦内電話から、何件かの通話も拾われた可能性がある」

 

赤城(KAN-SEN)「先ほどの会議内容は?」

 

隼人「和室に盗聴器がなければ、直接は聞かれていない。だが、誰が集まっていたかは知られたかもしれない」

 

赤城(艦娘)「渡邉さんが、この艦にいることも」

 

隼人「ああ」

 

 オブザーバーは、未来の軍人と呼んだ。

 

 会議の内容を聞いていなければ、海戦時の観測から推測したことになる。

 

 どちらであっても、敵が隼人を一つの目標として認識した事実は変わらない。

 

赤城(KAN-SEN)「今後は、お一人で艦内を歩かせるわけにはまいりませんわね」

 

隼人「今回も一人ではなかった」

 

赤城(KAN-SEN)「そういう意味ではございません」

 

赤城(艦娘)「救護所と司令部にも伝えます。渡邉さんだけではなく、《みらい》の保管区画にも警備を増やします」

 

隼人「技術班には、敵の破片を不用意に持ち込まないよう伝えてくれ。回収品は、艦や施設から離れた場所で隔離する」

 

赤城(艦娘)「すでに命令しました」

 

隼人「早いな」

 

赤城(艦娘)「こちらは、私の鎮守府ですから」

 

 補助配電室で告げた言葉と、よく似ている。

 

 自分の艦。

 

 自分の鎮守府。

 

 守るべき場所を明確に持つ者の言葉だった。

 

 隼人は、もう一口カレーを食べる。

 

 自分にとって、守るべき場所はどこなのか。

 

 元の世界か。

 

 行方の分からない兄弟と仲間か。

 

 それとも、まだ来て四日しか経っていない、この呉なのか。

 

 答えは出ない。

 

 だが、補助配電室で身体が動いた理由だけは分かっている。

 

 目の前で誰かの居場所が壊されようとしていた。

 

 それを見過ごせなかった。

 

 軍人としての習慣なのか。

 

 罪悪感なのか。

 

 あるいは、まだ自分の中に残っている別の何かなのか。

 

 隼人自身にも、まだ判断できなかった。

 

 襖の向こうから、紙の羽ばたく音がする。

 

 一体の式神が、封筒を抱えて和室へ入ってきた。

 

 赤城(艦娘)の前へ降り立つ。

 

 封筒の表には、軍歴照会回答と書かれている。

 

 隼人の匙が止まった。

 

赤城(艦娘)「渡邉竜さんの記録です」

 

 赤城(艦娘)は封筒を持ち上げる。

 

 隼人へ差し出そうとして、手を止めた。

 

赤城(艦娘)「いま、お読みになりますか?」

 

 隼人は、封筒を見る。

 

 確認したかった名前。

 

 出身地。

 

 生年月日。

 

 家族構成。

 

 中にある数行を読めば、江草隊の渡邉竜が本当に祖父なのか、答えへ近づける。

 

 今すぐ開きたい。

 

 そう思う。

 

 同時に、目の前のカレーから湯気が立っていることにも気づいた。

 

 夢の中で、隼人は死者の側へ引かれた。

 

 生きている者の声に呼び戻された。

 

 今は、温かい食事が目の前にある。

 

 ともに食べる者もいる。

 

隼人「食べ終わってから読む」

 

 赤城(艦娘)は、僅かに目を見開く。

 

 やがて、静かに頷いた。

 

赤城(艦娘)「分かりました」

 

 封筒は、隼人の記録帳の上へ置かれる。

 

 逃げることも、消えることもない。

 

 隼人は匙を動かし、冷める前のカレーを口へ運ぶ。

 

 赤城(KAN-SEN)が、空になりかけた隼人の水杯へ水を注いだ。

 

 赤城(艦娘)は、すでに二皿目へ進んでいる。

 

隼人「……本当に速いな」

 

赤城(艦娘)「午後の補給です」

 

赤城(KAN-SEN)「先ほどは昼食とおっしゃっていたでしょう?」

 

 戦いの傷が消えたわけではない。

 

 敵の脅威も、祖父をめぐる疑問も残っている。

 

 それでも三人は、短い昼食の時間だけ、湯気の向こうにある今日を生きていた。




はい

コニチワー!

初めてのオリキャラの登場がこれでいいのか困惑している素人小説書きです。

今回のルートは皆様の選んだ1のルート赤城達と一緒に食すルートで決まりました。

パチパチ

投票してくださった方ありがとうございます!

次回もよろしくお願いします!

お気に入りやここ好き、コメントなどお願いします!



後、遅れましたがコメント数が100超えました!ありがとうございます!

※2026年8月29日リメイク完了

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