陸自はドールズフロントライン、海自は艦これとアズールレーン、空自はアッシュアームズ三つの世界でバラバラになりながらでも生き残る   作:ゴーストライターとかした、素人小説書き

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注意

この小説は、シリアスとギャグが少し入っています。
それが、いやな方は、上にある矢印ボタンでブラウザバックを推奨します。
この世界はアズールレーンと艦これが入っているため人物が分かりやすいようにアズールレーンはA 艦これはCと表記します。
それでも、大丈夫な方はご覧ください。



2-4 食後の隼人と雫の軽い運動

2-4 食後の軽い運動

 

 即応連合艦隊旗艦・赤城。

 

 飛行甲板下、士官公室の和室。

 

 赤城(艦娘)が、二皿目の海軍カレーを食べ終える。

 

 匙が皿の上へ置かれた。

 

 空になった皿には、米粒一つ残っていない。

 

赤城(KAN-SEN)「三皿目もお持ちしましょうか?」

 

赤城(艦娘)「……お願いします」

 

 即答しかけた赤城(艦娘)が、途中で言葉を止める。

 

 壁の時計を見る。

 

 続いて、机の上に積まれた戦闘詳報へ目を向けた。

 

赤城(艦娘)「いえ。午後の打ち合わせがあります。今日はここまでにします」

 

赤城(KAN-SEN)「まあ。珍しいこともありますのね」

 

赤城(艦娘)「私を何だと思っているのですか?」

 

赤城(KAN-SEN)「食べ盛りの航空母艦ですわ」

 

 赤城(艦娘)は反論しなかった。

 

 隼人も、自分の皿を空にしている。

 

 救護所へ運ばれてから、初めて満腹と呼べる感覚を覚えた。

 

 身体の内側へ、ようやく熱が戻ったように感じる。

 

 赤城(KAN-SEN)が、三人分の湯呑みへ茶を注いだ。

 

赤城(KAN-SEN)「隼人様。おかわりは、よろしかったのですか?」

 

隼人「ああ。十分だ」

 

赤城(KAN-SEN)「お口に合わなかったのではなくて?」

 

隼人「二皿食べた人間へ聞くことではないな」

 

赤城(KAN-SEN)「それもそうですわね」

 

 彼女の狐耳が満足そうに動く。

 

 食事が終わっても、机の脇には一通の封筒が残されていた。

 

 軍歴照会回答。

 

 表には、渡邉竜と書かれている。

 

 隼人は湯呑みへ手を伸ばしかけ、途中で止めた。

 

隼人「開けてもいいか?」

 

赤城(艦娘)「そのために取り寄せた記録です」

 

 赤城(艦娘)が封筒を差し出す。

 

 隼人は右手で受け取った。

 

 左肩は、先ほど巻き直された固定帯で動かないようにされている。

 

 封を切るため、赤城(KAN-SEN)が小さな紙製の刃を作った。

 

赤城(KAN-SEN)「お使いになります?」

 

隼人「借りる」

 

 紙の刃を封筒の端へ滑らせる。

 

 中には、二枚の書類が入っていた。

 

 一枚目は、現在の所属と戦傷記録。

 

 二枚目は、本人確認のため軍が保有している身上記録の抜粋だった。

 

 隼人は一枚目を読む。

 

 渡邉竜。

 

 蒼龍航空隊所属。

 

 江草隊。

 

 鎮守府近海海戦において、損傷機を操縦して帰還。

 

 左前腕部に軽度の火傷。

 

 飛行勤務は一時停止。

 

 生命に別状なし。

 

 そこまでは、先ほど見た記録帳と大きく変わらない。

 

 隼人は二枚目へ移る。

 

 出身地。

 

 家族構成。

 

 入隊以前の略歴。

 

 記載された地名は、隼人が知っている祖父の出身地と同じだった。

 

 家族欄には、弟が一人。

 

 その弟は、陸軍へ進んでいる。

 

 隼人は、同じ一行を何度も読み返した。

 

赤城(艦娘)「渡邉さん?」

 

隼人「祖父だ」

 

 先ほどまでとは違い、否定するための言葉が出なかった。

 

隼人「少なくとも、私が知っている祖父と同じ名、同じ出身地、同じ家族構成を持っている。所属した航空隊も同じだ」

 

赤城(KAN-SEN)「では、本当に八十三年前のお祖父様が……」

 

隼人「同じ世界の過去だとは、まだ断言できない」

 

 隼人は書類を机へ置く。

 

隼人「だが、別人だと考える方が難しくなった」

 

 右手が、書類の端を強く押さえていた。

 

 紙が僅かに曲がる。

 

 隼人はそれに気づき、指の力を抜いた。

 

赤城(艦娘)「会いに行きますか?」

 

隼人「ああ」

 

 隼人は立ち上がろうとする。

 

 右手を畳へつき、腰を浮かせた。

 

 直後。

 

 左肩に鋭い痛みが走った。

 

隼人「……ッ」

 

 身体が傾く。

 

 赤城(KAN-SEN)が右腕を支え、赤城(艦娘)が背中へ手を添えた。

 

赤城(艦娘)「座ってください」

 

隼人「今のは、少し力の掛け方を間違えただけだ」

 

赤城(KAN-SEN)「それを、怪我が悪化していると申しますのよ」

 

隼人「歩くことはできる」

 

アイ『歩行能力と、長時間の移動に耐えられることは同義ではありません』

 

隼人「分かっている」

 

アイ『理解している者の行動とは一致しません』

 

 襖の向こうから、紙の羽ばたく音が聞こえた。

 

 赤城(KAN-SEN)の式神が一体、和室へ入ってくる。

 

 小さな身体で、短い伝言書を抱えていた。

 

赤城(KAN-SEN)「軍医からですわ」

 

 伝言書を開く。

 

赤城(KAN-SEN)「『渡邉隼人さんが慰霊式への参列を希望する場合、事前に歩行および直立保持の確認を行う。検査までは安静を維持すること』」

 

隼人「検査はいつだ?」

 

赤城(KAN-SEN)「『食後、四十五分以上空けてから』」

 

 隼人は時計を見る。

 

 四十五分。

 

 その時間を待ってから検査を受け、問題がなければ祖父のもとへ向かう。

 

 今すぐ会いに行くより遅くなる。

 

 だが、ここで無理をして倒れれば、面会そのものが取り消される。

 

 書類に書かれた渡邉竜は、生きている。

 

 急いで追わなければ消えてしまう夢の中の人間ではない。

 

隼人「分かった。四十五分待つ」

 

 赤城(艦娘)が、僅かに目を見開く。

 

赤城(艦娘)「今日は、ずいぶん素直ですね」

 

隼人「同じことを繰り返すな」

 

アイ『医療指示への服従を記録します』

 

隼人「お前も記録しなくていい」

 

     ◇

 

 四十五分後。

 

 赤城、飛行甲板。

 

 艦は呉鎮守府第一船渠に係留されたまま、修復作業を続けている。

 

 海戦で損傷した飛行甲板には、新しい鋼板が何枚も当てられていた。

 

 艦尾側では、工作班が焼けた甲板材を取り外している。

 

 艦首側には、夕刻の合同慰霊式に使う祭壇と、戦死者の名を記した板が準備されていた。

 

 その中間。

 

 作業の妨げにならない場所へ、長さ二十メートルほどの通路が確保されている。

 

 隼人は航空機用の昇降機を使い、飛行甲板へ上がった。

 

 階段は使っていない。

 

 左腕は固定帯の中。

 

 右側には衛生員。

 

 後ろには軍医。

 

 二人の赤城も、少し離れた位置から見守っている。

 

 さらに、先ほどの潜入端末を受け、飛行甲板の出入口には保安班が配置されていた。

 

軍医「最初に確認します。これは鍛錬でも、戦闘訓練でもありません」

 

隼人「分かっている」

 

軍医「走らない。跳ばない。急に向きを変えない。左腕を動かさない」

 

隼人「了解」

 

軍医「痛みが増えた場合は、その時点で終了します」

 

隼人「……了解」

 

軍医「返事の前に間がありましたね」

 

隼人「気のせいだ」

 

アイ『〇・八秒の遅延を確認しています』

 

隼人「細かい」

 

 軍医が、飛行甲板へ引かれた白い線を指す。

 

軍医「まず、あの印まで歩いてください。十メートルです。そこで向きを変え、こちらへ戻ります」

 

隼人「それだけか?」

 

軍医「それが問題なくできれば、次へ進みます」

 

 隼人は、白線の先を見る。

 

 十メートル。

 

 健康な時なら、意識することすらない距離だった。

 

 だが、現在は左肩だけではなく、対艦誘導弾を発射した際の負担が腰と胸部にも残っている。

 

 先ほど補助配電室で急に身体を動かしたため、固定していた筋肉も強く張っていた。

 

隼人「始める」

 

 右足を前へ出す。

 

 続いて、左足。

 

 歩幅は普段の半分ほどに抑える。

 

 揺れる艦上を歩くことには慣れている。

 

 しかし、係留中の赤城はほとんど動かない。

 

 その静けさが、かえって一歩ごとの身体の違和感を明確にした。

 

アイ『歩行周期、安定。右脚への荷重が通常より九パーセント増加しています』

 

隼人「左肩を庇っているからだ」

 

アイ『肯定。骨盤部の傾きは許容範囲内です』

 

 五メートル。

 

 七メートル。

 

 十メートル。

 

 隼人は白い印の前で止まる。

 

 急に回らず、右足を軸に小さく数歩使って向きを変えた。

 

 元の位置へ戻る。

 

軍医「痛みは?」

 

隼人「変化なし」

 

アイ『左肩部の疼痛反応に軽度の上昇を確認』

 

隼人「お前は、私より先に答えるな」

 

軍医「では、軽く増えたということですね」

 

隼人「軽くだ」

 

軍医「次は、五分間その場に立ちます。痛みが増えれば中止です」

 

隼人「了解」

 

 隼人は、両足を肩幅より僅かに狭く開く。

 

 左肩へ余計な力が入らないよう、右腕も自然に下ろした。

 

 潮風が、略帽の鍔を揺らす。

 

 飛行甲板の向こうには、呉の山々が見える。

 

 岸壁では、補給車両と修理資材を載せた台車が行き交っていた。

 

 自分が知っている呉と、似ている。

 

 艦艇も、建物も、人々の服装も違う。

 

 それでも、海と山に囲まれた地形は変わらない。

 

赤城(艦娘)「渡邉さん」

 

隼人「何だ?」

 

赤城(艦娘)「先ほどの戦いで、迷いなく消火設備と防火扉を使っていましたね」

 

隼人「それがどうした?」

 

赤城(艦娘)「海上自衛官は、全員があのように艦内戦闘へ慣れているのですか?」

 

隼人「まさか」

 

 隼人は、正面を向いたまま答える。

 

隼人「本来、私の仕事は艦内へ侵入した敵と斧で戦うことではない」

 

赤城(KAN-SEN)「では、どこで覚えられたのです?」

 

 隼人は少し考える。

 

 自分の軍歴を最初から説明すれば長くなる。

 

 隼人の軍歴は、海上勤務だけでも、陸上部隊での勤務だけでも説明できない。

 

隼人「最初に大規模な陸上戦を経験したのは、統合部隊の第403大隊だ。第一小隊の副小隊長を務めていた」

 

赤城(艦娘)「副小隊長……」

 

隼人「その後、護衛艦《あたご》で副艦長と戦闘指揮所長を兼務した。艦長が指揮できない間は、臨時に艦を預かったこともある」

 

 赤城(艦娘)の表情が変わる。

 

 艦を率いる責任の重さを、彼女は知っている。

 

隼人「それから水陸歩兵科第2大隊、特殊作戦群第四小隊の副小隊長を経て、海上自衛隊へ戻った」

 

赤城(KAN-SEN)「海だけでなく、陸上でも長く戦っていらしたのですね」

 

隼人「ああ。だが、格闘だけを専門にしていたわけではない」

 

赤城(艦娘)「最も得意なのは?」

 

隼人「指揮だ」

 

 答えに迷いはなかった。

 

隼人「自分で十人倒すより、十人を生きて帰すために全体を見る。その方が、私には向いている」

 

 補助配電室でも同じだった。

 

 自分一人で敵端末を壊したわけではない。

 

 アイが発信源を見つけた。

 

 赤城が艦内構造を示した。

 

 保安班が消火ホースと防火扉を動かした。

 

 工作班が、残った危険を処理した。

 

 隼人が行ったのは、それぞれの力を一つの方向へ向けることだった。

 

赤城(艦娘)「それでも、最後はご自分で斧を振りました」

 

隼人「そこは反省している」

 

アイ『反省を示す発言を記録しました』

 

隼人「記録するな」

 

 赤城(KAN-SEN)が、袖で口元を隠す。

 

 笑いを堪えているらしい。

 

 軍医が時計を見る。

 

軍医「二分経過。姿勢に大きな変化はありません」

 

 赤城(KAN-SEN)が、隼人の足元を見る。

 

赤城(KAN-SEN)「先ほどから気になっていたのですが、隼人様の足音は、お身体の大きさに比べて重く聞こえますわ」

 

 隼人は答える前に、軍医を見る。

 

 自分の身体に関する情報を、どこまで話すべきか。

 

 すでに《みらい》を調べている技術班と軍医は、通常の人間とは異なる身体構造があることを知っている。

 

 二人の赤城も、隼人の治療と装備の使用許可へ関わっている。

 

 隠し続ける意味は少なかった。

 

隼人「骨格の大部分が、通常の骨ではない」

 

赤城(艦娘)「どういう意味ですか?」

 

隼人「15式強化外骨格へ適合するため、全身の骨格を金属化する手術を受けた」

 

 二人の赤城が、同時に隼人を見る。

 

赤城(KAN-SEN)「全身を……?」

 

隼人「ああ」

 

赤城(艦娘)「それは、身体を強くするための手術なのですか?」

 

隼人「結果だけを見れば、重い物へ耐えられるようになった。通常より大きな力も出せる。だが、強くなったという言葉だけでは足りない」

 

 隼人は、固定された左肩へ視線を落とす。

 

隼人「筋肉、腱、血管、内臓まで金属になったわけではない。骨が折れにくくても、関節は傷つく。弾丸を受ければ肉は裂ける。痛みも消えない」

 

赤城(KAN-SEN)「補助配電室で、あれほど痛んでいたのも……」

 

隼人「中身は人間のままだ。無理をすれば壊れる」

 

軍医「ご自分で理解しているのでしたら、行動にも反映してください」

 

隼人「……努力する」

 

軍医「約束してください」

 

隼人「約束する」

 

 今度は、間を空けなかった。

 

 潮風が、飛行甲板を横切る。

 

 遠くで金槌の音がする。

 

 立っているだけの時間は、戦っている時よりも長く感じた。

 

 隼人は、幼い頃の訓練を思い出す。

 

 父の信と、祖父の竜。

 

 二人とも、渡邉三兄弟と第一小隊の者たちを鍛えた教官だった。

 

 教えられたのは、敵の倒し方だけではない。

 

 朝、身体を動かした時に感じた僅かな違和感を見逃さないこと。

 

 昨日できた動きが、今日も同じようにできると思い込まないこと。

 

 疲労と負傷を隠すことは、勇敢さではないこと。

 

 休むべき時に休む判断も、訓練の一部であること。

 

 当時の隼人は、休むことを訓練と呼ぶ父の言葉を理解できなかった。

 

 戦争が始まってから、嫌というほど意味を知った。

 

 無理をして前へ出た一人が倒れ、その救助のために二人、三人と危険へ入る。

 

 自分の限界を正しく報告しないことは、仲間へ危険を押しつける行為だった。

 

 分かっていた。

 

 それでも隼人は、自分だけを例外にし続けてきた。

 

アイ『隼人。左肩部の疼痛反応が、試験開始時から十二パーセント上昇しています』

 

 残り時間は、まだ一分近くある。

 

 立ち続けることはできる。

 

 耐えようと思えば、十分に耐えられる痛みだった。

 

 隼人は、父の教えを思い出す。

 

 ここで痛みを隠して慰霊式へ出ても、途中で倒れれば式を止めることになる。

 

 祖父との面会も遠のく。

 

隼人「軍医」

 

軍医「はい」

 

隼人「痛みが増えた。ここで止める」

 

 軍医は時計を止めた。

 

軍医「試験開始から、四分十二秒です」

 

 隼人のために、衛生員が折り畳み椅子を開く。

 

 隼人は逆らわず腰を下ろした。

 

 赤城(艦娘)が、その様子を見ている。

 

赤城(艦娘)「最後まで立てた、と言い張ると思っていました」

 

隼人「父に怒られる」

 

赤城(KAN-SEN)「お父様に?」

 

隼人「ああ。無理を隠す者は、仲間の命を預かる資格がないと教えられた」

 

 自分が、その教えをどれほど守れていたか。

 

 胸を張れる答えではない。

 

 それでも、今から守り直すことはできる。

 

軍医「慰霊式については、全時間の立位参列を許可できません」

 

 隼人は黙って続きを待つ。

 

軍医「開始までは車椅子で移動。式中も着席。献花と敬礼の時だけ立つこと。衛生員を一名つけます」

 

隼人「参列はできるのか?」

 

軍医「条件を守るのであれば」

 

隼人「守る」

 

軍医「アイさん。記録をお願いします」

 

アイ『条件付き参列への同意を記録しました』

 

隼人「今回は記録していい」

 

     ◇

 

 検査を終えても、隼人はすぐには艦内へ戻らなかった。

 

 飛行甲板の風が、食後の熱をゆっくりと冷ましていく。

 

 軍医の許可を得て、椅子に座ったまま数分だけ休むことになった。

 

 二人の赤城も、隼人の近くに残っている。

 

 赤城(艦娘)が、甲板の白線を見る。

 

赤城(艦娘)「あれだけで、軽い運動と呼べるのでしょうか?」

 

隼人「負傷者には十分な運動だ」

 

赤城(艦娘)「補助配電室では、もっと動いていました」

 

隼人「あれは運動ではない。緊急事態だ」

 

赤城(KAN-SEN)「身体にとっては、どちらも同じではなくて?」

 

隼人「……否定はできない」

 

 赤城(艦娘)は、少し考えてから尋ねる。

 

赤城(艦娘)「傷が治ったあとで、私たちにも近接戦闘を教えてもらえますか?」

 

隼人「私から?」

 

赤城(艦娘)「艤装や艦載機を使えない距離へ入られた場合、先ほどのような戦いが必要になります」

 

赤城(KAN-SEN)「それに、隼人様がどのような鍛錬をなさってきたのか、少し興味がありますわ」

 

 赤城(KAN-SEN)は柔らかく微笑んでいる。

 

 だが、視線は真剣だった。

 

隼人「幼い頃、父と祖父から剣道と柔道の基礎を教わった。軍へ入ってからは、任務に必要な格闘訓練を受けている」

 

赤城(艦娘)「流派は?」

 

隼人「一つの流派を極めたわけではない。実戦で使ったのは、相手を倒すためというより、武器を使える距離から離れるための動きだ」

 

赤城(艦娘)「敵を倒さないのですか?」

 

隼人「倒す必要がなければ、倒さない」

 

 隼人は、はっきりと答えた。

 

隼人「戦意を失った者まで殺す理由はない。捕らえられるなら捕らえる。退かせられるなら退かせる。戦闘そのものを避けられるなら、それが一番いい」

 

赤城(KAN-SEN)「ずいぶんお優しい戦い方ですのね」

 

隼人「優しさだけではない」

 

 捕虜は情報を持つ。

 

 降伏を受け入れると知られれば、敵も最後まで抵抗する必要がなくなる。

 

 不要な戦闘を避ければ、味方の弾薬と体力も残る。

 

 敵を殺さない判断は、感情だけではなく、次の戦いまで考えた選択でもある。

 

隼人「殺せば戻らない。生かしておけば、選択肢が残る。それだけだ」

 

 赤城(艦娘)は、鎮守府の海へ目を向ける。

 

赤城(艦娘)「では、稽古でも勝敗より、逃げることを教えるのですか?」

 

隼人「最初に教えるのは、自分と相手の間合いだ。届く距離と、届かない距離を知らなければ、攻めることも退くこともできない」

 

 隼人は右手を上げ、飛行甲板の白線を指す。

 

隼人「相手が二歩で届くのか、一歩で届くのか。長い武器を持っているのか。後ろに退く場所があるのか。それを見る」

 

赤城(艦娘)「その次は?」

 

隼人「傷が治ってからだ」

 

 赤城(艦娘)は、僅かに口元を緩める。

 

赤城(艦娘)「約束ですね」

 

隼人「ああ。軍医が許可したらな」

 

赤城(KAN-SEN)「私もご一緒してよろしいでしょう?」

 

隼人「構わない」

 

赤城(KAN-SEN)「では、木剣を二本用意いたしますわ」

 

隼人「最初から打ち合うつもりか?」

 

赤城(KAN-SEN)「稽古と伺いましたので」

 

隼人「最初は歩き方からだ」

 

赤城(艦娘)「今日の渡邉さんと同じですね」

 

隼人「……そうなるな」

 

 教える側になるはずの自分が、十メートルの歩行からやり直している。

 

 皮肉ではある。

 

 しかし、基礎へ戻ることを恥じる必要はなかった。

 

     ◇

 

 短い沈黙のあと、赤城(KAN-SEN)が隼人を見る。

 

赤城(KAN-SEN)「一つ、伺ってもよろしいでしょうか?」

 

隼人「何だ?」

 

赤城(KAN-SEN)「先ほどの潜入端末についてですわ」

 

 彼女の狐耳が、僅かに伏せられる。

 

赤城(KAN-SEN)「私が護符を黙ってお付けしたこともありました。隼人様は、私が貴方を試すために敵を見逃したとは、お考えになりませんでした?」

 

隼人「考えていない」

 

 答えは早かった。

 

赤城(KAN-SEN)「なぜ?」

 

隼人「君は、私を監視するために護符を貼ることはできても、自分の艦と仲間を危険へ晒すことはしない」

 

 赤城(KAN-SEN)は、隼人の言葉を黙って聞いている。

 

隼人「もし敵を意図的に艦内へ入れ、誰かが傷つく可能性を承知で私を試したのなら、その時点で味方とは考えない」

 

赤城(KAN-SEN)「……そうですわね」

 

隼人「だが、君はしなかった」

 

赤城(KAN-SEN)「信じてくださるのですか?」

 

隼人「何もかも信じているとは言わない」

 

 赤城(KAN-SEN)の表情が、僅かに曇る。

 

隼人「会って四日だ。互いに知らないことの方が多い。信用は、一度の言葉で完成するものではない」

 

 隼人は、自分の略帽へ触れる。

 

 内側には、彼女の護符が貼られている。

 

隼人「それでも、今日は君の護符をつけたまま歩いた。補助配電室では、背後を任せた」

 

 赤城(KAN-SEN)の狐耳が、ゆっくりと起き上がる。

 

隼人「今は、それで十分だ」

 

赤城(KAN-SEN)「はい」

 

 短い返事だった。

 

 その声には、先ほどまでの不安がなかった。

 

 赤城(艦娘)は、二人のやり取りを聞きながら腕を組んでいる。

 

赤城(艦娘)「重桜の赤城」

 

赤城(KAN-SEN)「何でしょう?」

 

赤城(艦娘)「次に護符をつける時も、必ず本人へ説明してください」

 

赤城(KAN-SEN)「もういたしませんわ」

 

隼人「護符そのものは役に立った。説明さえあれば、必要な時は使う」

 

赤城(KAN-SEN)「まあ」

 

 九本の尾が、再び嬉しそうに揺れる。

 

赤城(艦娘)「甘やかしすぎでは?」

 

隼人「使える物を捨てる理由はない」

 

赤城(KAN-SEN)「うふふ。そういうことにしておきますわ」

 

 その時、艦内へ続く昇降機の方から、一体の式神が飛んできた。

 

 隼人の前まで来ると、空中で静止する。

 

 小さな紙片を差し出した。

 

 赤城(KAN-SEN)が受け取り、内容を読む。

 

赤城(KAN-SEN)「江草隊の渡邉竜さんが、面会を了承なさいました」

 

 隼人の表情から、僅かに力が抜ける。

 

赤城(KAN-SEN)「現在は前部居住区の休養室にいらっしゃいます。慰霊式の準備が始まるまででしたら、お話しできるそうですわ」

 

隼人「こちらのことは、どこまで伝えた?」

 

赤城(艦娘)「未来から来たことも、血縁の可能性も伝えていません。『鎮守府近海海戦について話を聞きたい海上自衛官がいる』とだけ」

 

隼人「それでいい」

 

軍医「面会場所までは、車椅子で移動してください」

 

隼人「分かった」

 

軍医「途中で立ち上がらないこと」

 

隼人「分かった」

 

軍医「話が長くなりすぎないこと」

 

隼人「努力する」

 

軍医「約束を」

 

隼人「約束する」

 

 衛生員が車椅子を用意する。

 

 隼人は右手だけで身体を支え、ゆっくりと椅子から移った。

 

 今度は、痛みを隠さない。

 

 左肩へ負担が掛かる前に、衛生員の助けを借りる。

 

 父と祖父から教わったことを、八十三年前の祖父へ会う直前になって、ようやく守っている。

 

 隼人は、その事実に小さな苦笑を浮かべた。

 

赤城(艦娘)「どうしました?」

 

隼人「何でもない」

 

 車椅子が昇降機へ向けて動き始める。

 

 隼人は、飛行甲板から見える呉の海をもう一度振り返った。

 

 蓮。

 

 勇翔。

 

 そして、同じ事故で行方の分からなくなった仲間。

 

 彼らが、どこにいるのかはまだ分からない。

 

 生きている保証もない。

 

 それでも、八十三年前の祖父は生きていた。

 

 会うことができる場所にいる。

 

 夢の中で死者へ引かれていた隼人に、過去から一つの命が差し出されている。

 

 ならば、今度は自分が生きている者を探し続けなければならない。

 

 食後の軽い運動は終わった。

 

 その先で待っているのは、若き日の祖父との初めての対面だった。




はい。

どもども

今回の戦闘はその場であったもの物で稽古するという中々見ないものを書きました。

辛い...

次回も頑張って書きます...

それでは...

※2026年8月29日リメイク完了

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