陸自はドールズフロントライン、海自は艦これとアズールレーン、空自はアッシュアームズ三つの世界でバラバラになりながらでも生き残る 作:ゴーストライターとかした、素人小説書き
この小説は、シリアスとギャグが少し入っています。
それが、いやな方は、上にある矢印ボタンでブラウザバックを推奨します。
この世界はアズールレーンと艦これが入っているため人物が分かりやすいようにアズールレーンはA 艦これはCと表記します。
それでも、大丈夫な方はご覧ください。
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2-5 副提督が鎮守府に着任しました。
即応連合艦隊旗艦・赤城。
前部居住区、休養室。
衛生員が車椅子を止めた。
開いた扉の向こうには、簡素な寝台が四つ並んでいる。
そのうち三つは空いていた。
窓に近い寝台に、一人の若い航空要員が腰掛けている。
左前腕には包帯。
膝の上には、少し焼け焦げた飛行帽が置かれていた。
青年が顔を上げる。
隼人は、何も言えなくなった。
家族写真の中で見た顔より若い。
髪も、目元も、まだ老いを知らない。
それでも間違えようがなかった。
渡邉竜。
隼人の祖父が、八十三年前の姿で生きている。
渡邉竜「海上自衛官の、渡邉さんですか?」
隼人「……はい」
声を出すまでに、僅かな時間が必要だった。
渡邉竜「どうぞ。狭い場所ですが」
隼人「失礼します」
衛生員が車椅子を室内へ押す。
赤城(艦娘)と赤城(KAN-SEN)は、廊下に残った。
赤城(艦娘)「私たちは外で待っています」
赤城(KAN-SEN)「何かございましたら、すぐにお呼びくださいまし」
隼人「ありがとう」
扉が完全には閉じられず、細い隙間だけを残す。
医療上の監視と、二人だけで話すための距離。
竜が右手を差し出した。
渡邉竜「渡邉竜です。蒼龍航空隊で、艦上爆撃機に乗っています」
隼人「渡邉隼人です。海上自衛隊に所属しています」
隼人も右手を差し出す。
握手は短かった。
だが、離れた手には確かな温度が残っていた。
写真でも、夢でもない。
生きている人間の手だった。
渡邉竜「同じ渡邉ですね」
隼人「ええ。珍しいこともあるものです」
隼人は平静を装った。
竜は気づいていない。
目の前の負傷者が、自分の孫であることを。
それでいい。
少なくとも今は、知らせるべきではない。
渡邉竜「赤城さんから、先日の戦闘について話を聞きたいと伺いました」
隼人「はい。疲れているところ、申し訳ありません」
渡邉竜「気にしないでください。眠ろうとしても、まだ機銃の音が聞こえます」
竜は、膝の飛行帽へ視線を落とした。
渡邉竜「誰かと話していた方が、今は楽です」
隼人「……分かりました」
隼人は、戦闘詳報を取る時と同じ順序で質問を始めた。
発艦時の天候。
敵機と接触した方位。
最初に受けた攻撃。
味方編隊が崩れた時刻。
竜は一つずつ答える。
記憶が曖昧な箇所では、曖昧だとはっきり述べた。
見ていないことを、見たとは言わない。
推測と事実を分ける。
それは、隼人が祖父から教えられた報告の仕方と同じだった。
隼人「損傷後も、すぐには編隊から離れなかったそうですね」
渡邉竜「二番機の操縦系統も傷んでいました。あちらを先に帰投針路へ乗せる必要があったんです」
隼人「自分の機体も、燃料漏れを起こしていた」
渡邉竜「はい」
隼人「二機とも失う危険がありました」
渡邉竜「それでも、一機ずつ帰るよりはましでした」
竜は、ごく当然のことを説明するように答えた。
渡邉竜「一人だと、海へ落ちた時に誰も位置を伝えられませんから」
隼人「恐ろしくはなかったのですか?」
渡邉竜「恐ろしかったですよ」
即答だった。
渡邉竜「死にたくないと思いました。皆も、同じだったと思います」
勇敢だったから残ったのではない。
恐怖がなかったからでもない。
自分も仲間も、生きて帰るために残った。
隼人が知る祖父は、昔からそういう人だった。
隼人「その判断を、誰かに教わったのですか?」
渡邉竜「父から、でしょうか。あとは弟です」
隼人の指が、車椅子の肘掛けを僅かに掴む。
隼人「弟さんが?」
渡邉竜「陸軍にいる弟です。昔から、無茶をするくせに一人で抱え込む奴でして」
竜が苦笑する。
渡邉竜「放っておくと、自分だけ残って他人を逃がそうとする。だから、私まで同じことをしたら止める者がいなくなると思いまして」
記録にあった弟。
隼人の知る家族の話と一致している。
もはや、疑うための材料を探す方が難しかった。
渡邉竜「それに、生きて帰らなければ弟に叱られます」
隼人「兄を叱る弟なのですか?」
渡邉竜「遠慮のない弟なんです」
竜は飛行帽を持ち上げる。
形を崩さないよう、鍔の端へ指を添えて被り直した。
隼人が何度も見てきた仕草。
幼い頃、自分も同じように直された仕草。
隼人は、思わず笑っていた。
渡邉竜「何か、おかしかったですか?」
隼人「いえ。私の祖父も、帽子の扱いにうるさい人でした」
渡邉竜「そうなのですか」
隼人「片手で上から押さえるな。鍔に指を添え、形を崩さず直せと」
渡邉竜「それは正しい教えです。帽子は大切にしなければ」
竜は真面目な顔で頷いた。
隼人の笑みが、僅かに深くなる。
渡邉竜「そのお祖父様は、お元気なのですか?」
問いに、隼人はすぐ答えられなかった。
八十三年。
どれほど願っても、埋めることのできない時間だった。
隼人「……もう、会うことはできません」
渡邉竜「そうでしたか。余計なことを聞きました」
隼人「いいえ」
会えないはずだった。
だが、今は目の前にいる。
その事実を口に出せないことが、これほど苦しいとは思わなかった。
渡邉竜「渡邉さん」
隼人「はい」
渡邉竜「先ほどから、私ではない誰かを見ていませんか?」
隼人の呼吸が止まる。
竜は責めるような口調ではなかった。
渡邉竜「顔も、仕草も、よく似ているのでしょう。貴方のお祖父様と」
隼人「……よく、分かりましたね」
渡邉竜「貴方も、見ていないことを見たとは言わない方だからです」
今度は、竜が小さく笑った。
渡邉竜「先ほどの質問は戦闘を確認するものでした。ですが、弟の話を聞いた時から、目が変わった」
隼人「軍人を相手に、隠し事は難しいですね」
渡邉竜「家族の話に限れば、です」
竜は、それ以上を追及しなかった。
隼人がどこから来たのか。
なぜ海上自衛隊という聞き慣れない組織にいるのか。
なぜ自分を祖父と重ねるのか。
聞こうと思えば、いくらでも聞けたはずだった。
渡邉竜「お祖父様へ、何か言い残したことがあるのですか?」
隼人「言い残したというより……謝りたいことが、あります」
渡邉竜「何を?」
隼人「教えられたことを、守れなかった」
隼人は右手を見る。
仲間を救えなかった手。
死者へ届かなかった手。
隼人「生きて帰れと言われていたのに、多くの者を帰せなかった。自分だけが残った」
夢の中で、何度も口にしようとした言葉だった。
兄を止められなかった。
部下を守れなかった。
父と母へ、仲間へ、謝ることすらできなかった。
渡邉竜「それは、お祖父様が貴方へ謝らせるために教えたことですか?」
隼人「……違うと思います」
渡邉竜「では、貴方を生きて帰すためでしょう」
竜の声は穏やかだった。
渡邉竜「帰せなかった人を忘れろとは言いません。忘れてはいけないこともある」
包帯の巻かれた左腕へ、右手を添える。
渡邉竜「ですが、死んだ人へ謝るために、生きている人まで置いていくのは違うと思います」
隼人は答えられない。
渡邉竜「少なくとも、私なら孫にそうしてほしくありません」
偶然に選ばれた言葉だった。
竜は何も知らない。
それでも、その一言は隼人の奥深くへ届いた。
隼人「……そうですか」
渡邉竜「はい」
廊下から、衛生員が控えめに扉を叩いた。
衛生員「予定のお時間です。慰霊式の準備も始まります」
隼人「分かりました」
面会時間は終わった。
隼人は、まだ聞きたいことがいくつもあった。
祖父の両親。
陸軍へ進んだ弟。
戦争が始まる前の渡邉家。
だが、今すべてを聞く必要はない。
竜は生きている。
次に話す機会を作ることができる。
隼人「渡邉さん」
渡邉竜「はい」
隼人「負傷が治ったら、また話を聞かせていただけますか?」
渡邉竜「もちろんです。次は、貴方のお祖父様のことも聞かせてください」
隼人「……話せる範囲で」
渡邉竜「秘密の多い方ですね」
竜が右手を差し出す。
隼人は、もう一度その手を握った。
隼人「生きていてくれて、ありがとうございます」
渡邉竜「え?」
隼人「先日の戦闘を生きて帰ったことへの、感謝です」
隼人は言葉を補った。
竜は少し不思議そうにしながらも、やがて頷いた。
渡邉竜「はい。貴方も、生きて帰ってください」
◇
同日、夕刻。
赤城、飛行甲板。
西へ傾いた陽が、修復途中の甲板を赤く染めている。
艦首側に設けられた祭壇には、白い花と、戦死者の名を記した板が並んでいた。
赤城航空隊。
加賀航空隊。
蒼龍航空隊。
飛龍航空隊。
そして、各艦の戦闘で失われた者たち。
記された名前は、一枚の板に収まらない。
艦娘とKAN-SEN。
生還した航空要員。
整備員。
救護班。
誰も話さず、海へ向かって並んでいる。
飛行甲板の後方には、軍医の指示どおり車椅子に座る隼人がいた。
左肩は固定されたまま。
膝の上には、海上自衛隊の略帽が置かれている。
若い渡邉竜も、江草隊の生存者とともに列へ加わっていた。
包帯の巻かれた腕を動かさず、海を見ている。
鐘が一度、鳴らされた。
戦死者の名が読み上げられていく。
一人。
また一人。
返事はない。
あるのは、呉の海へ消えていく声だけだった。
赤城(艦娘)が祭壇へ花を供える。
続いて、赤城(KAN-SEN)。
加賀、蒼龍、飛龍、雲龍。
生還者が順に前へ出る。
隼人の番が来た。
衛生員「このままでも構いません」
隼人「花を置く間だけ、立たせてください」
軍医が隼人を見る。
軍医「三十秒です。痛みが増えたら、すぐに座ること」
隼人「了解」
衛生員が右側から支える。
隼人は、右足へゆっくりと力を入れた。
左肩を動かさず、立ち上がる。
一歩。
もう一歩。
祭壇の前へ進み、右手で白い菊を置いた。
そして、略帽を被る。
右手を鍔へ添えた。
海上自衛官としての敬礼。
その姿を、若い竜が列の中から見ていた。
竜も、動かせる右腕で敬礼する。
隼人は死者へ謝らなかった。
忘れないと、心の中で告げた。
そして、生き残った者を置いていかないと誓った。
軍医「時間です」
隼人は素直に右手を下ろした。
衛生員の助けを借り、車椅子へ戻る。
無理に立ち続けることはしなかった。
鐘が、もう一度鳴る。
参列者全員が海へ向けて黙禱した。
風が、祭壇の白い花を僅かに揺らした。
◇
慰霊式の終了後。
赤城から鎮守府側へ渡る仮設舷梯の前で、衛生員が車椅子を止める。
隼人が移動の準備をしていると、大淀が岸壁側から乗艦してくる。
大淀「渡邉さん」
隼人「大淀さん。どうしました?」
大淀「鎮守府司令部が、正式な面会を求めています」
隼人「事情聴取の続きですか?」
大淀「いいえ」
大淀は、手にしていた書類入れを抱え直した。
大淀「今後の貴方の立場についてです」
◇
呉鎮守府、臨時司令室。
先日の空襲で本来の司令施設が損傷したため、会議棟の一室が代わりに使われている。
壁には補強材。
窓には飛散防止用の板。
中央には、大きな海図台が置かれていた。
隼人は車椅子のまま、その手前に止まる。
すぐ横には衛生員が、壁際には軍医が待機している。
海図台の正面には、一人の女性が立っていた。
机の端には、ほとんど口をつけられていない茶と、処理済みの報告書が積まれている。
目元には疲労が残り、右手の指には乾いた墨が付いていた。
それでも、隼人を迎える姿勢に緩みはない。
その後ろに、長門(艦娘)、大淀、天城(KAN-SEN)が並ぶ。
赤城(艦娘)と赤城(KAN-SEN)も、今回の作戦における証言者として同席していた。
剣子「慰霊式の直後に呼び出して、ごめんなさい」
隼人「構いません。用件を聞かせてください」
剣子「その前に、ちゃんと名乗らせてください」
女性は、海図台の前から隼人の正面へ移動した。
剣子「初めまして……と言うべきかな。助けてもらった時は、自己紹介できる状態じゃなかったから」
その言葉で、隼人は彼女が誰なのかを理解した。
この世界へ来た直後。
戦場で救助した、呉鎮守府の指揮官。
隼人「貴方が、あの時の」
剣子「うん。好美剣子――よしみ・つるこ。呉鎮守府の提督を務めています。階級は少佐です」
剣子は、軍帽へ右手を添えて敬礼した。
剣子「遅くなったけど、あの時は助けてくれて、本当にありがとうございました」
隼人も座ったまま右手を上げ、答礼する。
隼人「海上自衛隊、渡邉隼人です。あの状況で可能なことをしたまでです」
剣子「それでも、私が生きているのは渡邉さんのおかげです」
剣子は敬礼を解く。
表情には柔らかさが戻ったが、その目は真剣なままだった。
剣子「改めて、よろしくお願いします。ここからは呉鎮守府の提督として、お話しします」
隼人「承知しました、好美提督」
剣子が、大淀へ目を向ける。
大淀は、一冊の薄い書類を隼人の前へ置いた。
表紙には、こう記されている。
呉鎮守府臨時副司令任用覚書。
隼人「臨時副司令?」
剣子「私たちの慣用では、副提督とも呼ぶ役目です」
隼人「役目であって、階級ではないと?」
大淀「はい。貴方の世界における階級を否定するものでも、こちらの海軍階級へ自動的に編入するものでもありません」
隼人は、表紙を開く。
最初に、任用の目的が書かれていた。
艦娘、KAN-SEN、通常艦艇および陸上部隊の間における情報統合。
防衛作戦の立案補助。
部隊再建と訓練計画の監督。
未知の敵技術に対する戦術研究。
隼人「私を選ぶ理由を、聞かせていただけますか?」
剣子「先日の戦果だけではありません」
剣子の答えは明確だった。
長門(艦娘)「貴殿は呉へ救難情報を届け、混乱していた艦隊の通信をつなぎ直した。無人偵察機で敵艦隊を確認し、妨害源を特定した」
大淀「さらに、手元にある戦力と損傷状況から、敵を全滅させるのではなく、追撃を止めるための攻撃を立案しました」
天城(KAN-SEN)「三つの妨害中枢へ損害を与えたことで、私たちは通信と電探を一時的に回復できました。その時間がなければ、損傷艦を守りながら帰投することは困難だったでしょう」
天城(KAN-SEN)は、海図台へ置かれた戦闘詳報へ触れる。
天城(KAN-SEN)「貴方の力は、兵器の性能だけではありません。異なる部隊から届く情報を一つの状況図へまとめ、何を守るべきかを決められることです」
赤城(艦娘)「そして、必要でなければ戦闘を避けようとする」
赤城(KAN-SEN)「艦内へ侵入した端末に対しても、情報を得られると判断した時点で破壊を止めましたわ」
剣子「今の呉には、その判断ができる人が必要です」
隼人は書類へ視線を戻す。
称賛だけで役目を受けるつもりはない。
権限が曖昧なまま責任だけを負えば、現場が混乱する。
逆に、過大な権限を受け取れば、この世界の指揮系統を壊す。
隼人「確認したいことがあります」
剣子「どうぞ」
隼人「これは軍籍への正式な編入ですか。それとも、期間を限った作戦協力ですか?」
大淀「現時点では、後者です」
大淀が、覚書の二頁目を開く。
大淀「貴方の身元は、確認できる部分が限られています。海上自衛隊という組織も、こちらの制度には存在しません。したがって、正式な軍籍と階級の付与は保留します」
隼人「期間は?」
大淀「三十日。十日ごとに、双方で任用の継続と権限範囲を見直します」
隼人「双方で?」
天城(KAN-SEN)「鎮守府だけが、一方的に貴方を拘束する契約ではありません。貴方からも終了を申し出ることができます」
隼人「戦闘中でも?」
剣子「交戦中に指揮を放棄することまでは認められません。ですが、任務終了後に辞任を申し出る権利は保証します」
隼人「妥当です」
隼人は、次の項目へ進む。
隼人「指揮権は?」
大淀「作戦立案、情報分析、防衛配置、訓練、補給優先順位の調整について、各担当部署へ指示できます」
隼人「出撃命令は?」
大淀「単独では出せません。艦隊の大規模な出撃と攻勢作戦は、鎮守府司令部の承認を必要とします」
剣子「ただし、鎮守府が攻撃を受け、私や上級司令部との連絡が途絶した場合は別です。その時は、事前に定めた範囲で緊急指揮権を委任します」
隼人「通常艦艇と人間の部隊は?」
大淀「原則として、直接指揮の対象外です。連絡将校を介して調整します。緊急時のみ、明示された部隊に限って指揮権が移ります」
隼人「指揮権を持たない部隊の損失まで、私の責任にされることは?」
剣子「ありません」
剣子は、間を置かず答えた。
剣子「指揮権を渡さず、責任だけを負わせるつもりもありません。渡邉さんが指揮した範囲については、判断の記録を残し、任命した私も責任を負います」
隼人は、剣子の目を見る。
言葉だけなら、いくらでも整えられる。
だが、彼女は隼人を利用するために焦っているようには見えなかった。
むしろ、未知の人間へ権限を与える危険を理解した上で、必要な線を探している。
隼人「拒否権については?」
天城(KAN-SEN)「国際法、人道、または現場の能力に照らして実行不能と判断した命令について、理由を記録した上で異議を申し立てられます」
隼人「異議が退けられた場合は?」
剣子「違法な命令には従わなくて構いません。単なる作戦上の意見相違であれば、最終的な決定は提督である私が下します。渡邉さんの異論と、その根拠も記録へ残します」
隼人「そこは曖昧にしないでください」
大淀「覚書へ追記します」
大淀が鉛筆で余白へ印をつける。
隼人は、さらに頁をめくった。
《みらい》と回収装備に関する項目。
隼人「私の装備を、鎮守府の兵器として接収するのですか?」
大淀「いいえ。所有関係が確認できないため、現在は鎮守府が保護保管しています」
天城(KAN-SEN)「調査、分解、複製には、貴方の同意を必要とします。身体に関する情報も同じです」
隼人「兵器の使用許可は?」
剣子「安全確認と作戦承認を必要とします。渡邉さんの判断だけで未来兵器を使うことも、私たちが貴方の同意なく使わせることも認めません」
隼人「その条件で構いません」
装備を好きに使えないことは不便だった。
しかし、性能も危険性も理解されていない兵器を、無制限に運用できる方が異常である。
次の項目には、隼人への支援が記されていた。
宿舎。
食事。
医療。
身分証明。
《みらい》の修復協力。
そして――所在不明者の捜索。
隼人「この捜索対象は、どこまで含まれますか?」
大淀「貴方と同じ事故に遭った可能性がある者です。ご兄弟二名と、同行者一名。現時点で確認できている情報を基に、海域、救護施設、他鎮守府への照会を行います」
隼人「氏名と特徴は、私から改めて提出します」
大淀「お願いします」
隼人「彼らが敵対勢力に収容されていた場合は?」
剣子「所在を確認し、救出または交渉の可能性を検討します。ただし、確認のないまま艦隊を動かす約束はできません」
隼人「それで十分です」
無条件の救出を約束される方が、信用できない。
この鎮守府にも、守るべき者がいる。
隼人の家族だけを理由に、無謀な作戦を行うことは許されない。
覚書の最後には、医療上の制限があった。
隼人「治療命令は、作戦権限より優先する」
隼人が読み上げる。
軍医「当然です」
壁際から声が返ってきた。
隼人は、衛生員の後方に立つ軍医を見る。
隼人「医療条項まで、あなたが書かせたのですか?」
軍医「貴方が無理をしないか監視するためです」
隼人「任用覚書にまで書く必要がありますか?」
軍医「あります」
赤城(艦娘)「あります」
赤城(KAN-SEN)「ございますわ」
アイ『必要です』
耳元の端末からも声が加わった。
隼人「……四対一か」
長門(艦娘)「五対一だ」
大淀「六対一です」
天城(KAN-SEN)「七対一ですわね」
剣子「八対一だね」
隼人「提督まで加わるのですか?」
剣子「任命する側が、一番に守らせないといけないからね」
隼人「……分かりました。従います」
軍医は、満足そうに頷いた。
隼人は覚書を閉じない。
まだ、最も重要な確認が残っていた。
隼人「私の知る未来についてです」
室内から、僅かな緩みが消える。
隼人「私は、この世界に似た歴史を知っています。ですが、ここには艦娘もKAN-SENも、深海棲艦もセイレーンも存在する」
海図台の上には、この世界でしか成立しない戦況が広がっている。
隼人「私の記憶を予言として扱わないでください。知っている歴史どおりに行動すれば勝てるとは限らない」
天城(KAN-SEN)「承知しています」
隼人「未来の技術についても同じです。名称を知っているからといって、今の設備で作れるとは限らない。中途半端な再現は、味方を殺します」
大淀「貴方の情報は、他の情報源と照合した上で評価します」
剣子「渡邉さんを、神託を告げる人として迎えるつもりはありません」
隼人「では、何として迎えるのです?」
剣子「軍人としてです」
剣子の言葉は短かった。
剣子「間違える可能性を理解し、それでも判断して、結果から学び直せる軍人として迎えます」
隼人は、すぐには答えなかった。
覚書の最終頁を見る。
受諾者の署名欄は、まだ空白だった。
ここへ名を書けば、再び指揮する側へ戻る。
部下を持つ。
命令を出す。
その結果として、誰かが帰らなくなるかもしれない。
護衛艦「あたご」。
四〇三大隊。
失った仲間の顔が、次々と浮かぶ。
自分に、再び人を率いる資格があるのか。
夢の中では、死者の手に引かれるまま沈もうとした。
だが、その後に会った若い祖父は言った。
死んだ人へ謝るために、生きている人まで置いていくのは違う。
天城(KAN-SEN)「隼人様」
天城(KAN-SEN)が、静かに口を開く。
天城(KAN-SEN)「私たちは、貴方一人に世界を救ってほしいとは申しません」
先ほど読み上げられた戦死者の名が、隼人の耳に残っている。
天城(KAN-SEN)「今日を生き延びた者を、明日も同じように使い潰さないための仕組みを、ともに作っていただきたいのです」
隼人「私の判断で、また誰かが死ぬかもしれない」
剣子「私たちも同じです」
剣子は、責任から目を逸らさなかった。
剣子「だから、一人で決めさせません。一人で背負わせません。そのための副司令です」
隼人は、覚書をもう一度開いた。
任務。
権限。
制限。
責任。
支援。
不足している箇所には、質問のたびに追記が加えられている。
少なくとも、白紙の委任状ではない。
美しい理想だけを並べた勧誘でもない。
隼人「一つ、条件を加えてください」
大淀「何でしょう?」
隼人「航空隊の再建が完了するまで、戦果を得るためだけの攻勢には使わないこと」
赤城(艦娘)が、僅かに目を見開く。
隼人「今いる生還者を、穴埋めとして連続出撃させない。防空、偵察、救難を優先する。練度の不足した部隊を、数合わせで前線へ出さない」
天城(KAN-SEN)「それが、着任後の最初の方針ですか?」
隼人「まだ着任していません」
隼人は、大淀から万年筆を受け取った。
隼人「契約へ入れていただけるなら、着任します」
剣子「認めます」
大淀が条項を書き加える。
長門(艦娘)と天城(KAN-SEN)が内容を確認する。
剣子が任命権者の欄へ署名し、鎮守府の公印を押した。
最後に、書類が隼人の前へ戻される。
隼人は万年筆を握った。
渡邉隼人。
一文字ずつ、署名する。
書き終えたところで、ペンを置いた。
隼人「勝利は約束できません」
剣子が隼人を見る。
隼人「誰も死なせないとも約束できない。それでも、与えられた権限の中で、帰れる者を一人でも多く帰します」
剣子「それで十分です」
大淀が覚書を受け取り、正式な文書入れへ収める。
剣子「本日付で、渡邉隼人さんを呉鎮守府臨時副司令へ任命します」
大淀は、僅かに姿勢を正した。
大淀「通称、副提督」
隼人も、椅子に座ったまま背筋を伸ばす。
隼人「臨時副司令、渡邉隼人。着任します」
◇
手続きが終わると、大淀が別の箱を机へ置いた。
中には、救助時に回収され、確認のため司令部が保管していた私物が入っている。
身分証。
小型の手帳。
そして、認識票。
大淀「照合に必要な記録は取りました。お返しします」
隼人「ありがとうございます」
隼人は認識票を右手で持ち上げる。
刻まれた名前を指で確かめ、首へ掛けた。
胸元へ金属板の重みが戻る。
自分が何者であるかを示す、元の世界の数少ない証拠だった。
隼人「ところで、一つ現実的な確認が」
大淀「はい」
隼人「報酬はありますか?」
大淀は、覚書の付属書類を開いた。
大淀「臨時副司令相当の手当、宿舎、食事、被服、医療が支給されます。階級換算が未確定ですので、手当額は十日後の審査で調整します」
隼人「少なくとも、無給ではないのですね」
大淀「働かせておいて無給にするほど、呉鎮守府は困窮していません」
赤城(KAN-SEN)「お食事でしたら、私がお作りいたしますわ」
赤城(艦娘)「重桜の赤城。副提督の食事を理由に、食糧庫へ自由に出入りしないでください」
赤城(KAN-SEN)「まあ。信用がございませんのね」
赤城(艦娘)「先ほど、夕食用の菓子を持ち出していたでしょう」
赤城(KAN-SEN)「あれは隼人様の快気祝いですわ」
隼人「まだ快復していない」
張り詰めていた室内へ、僅かな笑いが生まれた。
その直後。
軍医が、隼人の前へ回り込んだ。
軍医「では、副提督。本日の勤務は終了です」
隼人「着任したばかりですが」
軍医「覚書の医療条項は、着任直後から有効です」
大淀が、明日以降に確認する予定の書類を持ち上げる。
航空隊再建案。
呉防空計画。
通信妨害対策。
艦内保安体制の見直し。
所在不明者の捜索資料。
積み上げれば、隼人の胸元まで届きそうな量だった。
隼人「少なくとも、一冊だけでも――」
軍医「明日です」
アイ『明日を推奨します』
隼人は、書類の山を見る。
続いて、自分が座っている車椅子を見る。
以前の自分なら、痛みを隠して徹夜を選んでいた。
だが、それは今日決めた最初の方針に反する。
生還者を使い潰さない。
そこには、自分も含まれていなければならない。
隼人「分かりました。明日にします」
軍医が僅かに驚いた顔をする。
赤城(艦娘)「本当に、今日は素直ですね」
隼人「同じことを繰り返すな」
衛生員が、車椅子の向きを扉へ変える。
長門(艦娘)が、海図台の上へ一枚の命令書を置いた。
呉鎮守府臨時副司令、渡邉隼人。
任期、三十日。
最初に与えられた仕事は、敵を撃つことではない。
損害を確かめること。
生き残った者を休ませること。
次に戦わなければならない時、同じ犠牲を繰り返さない仕組みを作ること。
隼人は、右手で認識票へ触れた。
蓮。
勇翔。
そして、行方の分からない仲間。
彼らを探すためにも、自分はここで生きなければならない。
戦争へ戻るためではない。
戦場から帰れる者を増やすために。
こうして、未来から来た一人の軍人が、呉鎮守府へ着任した。
役職は、臨時副司令。
通称――副提督。
はい。
コロナワクチンを入れて腕が動かない小説素人書きです。
かっこいいすねぇ...(自画自賛)
海自編は一時止まってウマ娘の方を書きます。
空自は少しおまちください!
それでは!
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※2026年8月29日リメイク完了
好きな子がいたら適当に投票どうぞ!
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HK416
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VSK-94
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AK-12
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AR-15
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アズールレーン 赤城
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アズールレーン 加賀
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艦これ 赤城
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艦これ 加賀
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雷電
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スカイレイダー
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シュバァルベ
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渡邉 蓮
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渡邉 隼人
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渡邉 勇翔
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小貝 高虎