陸自はドールズフロントライン、海自は艦これとアズールレーン、空自はアッシュアームズ三つの世界でバラバラになりながらでも生き残る   作:ゴーストライターとかした、素人小説書き

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注意

この小説は、シリアスとギャグが少し入っています。
それが、いやな方は、上にある矢印ボタンでブラウザバックを推奨します。
この世界はアズールレーンと艦これが入っているため人物が分かりやすいようにアズールレーンはA 艦これはCと表記します。
それでも、大丈夫な方はご覧ください。



※UA10000突破!!みんなありがとう!!これからも応援してくれよな!!


2-5 副提督が鎮守府に着任しました。

2-5 副提督が鎮守府に着任しました。

 

 即応連合艦隊旗艦・赤城。

 

 前部居住区、休養室。

 

 衛生員が車椅子を止めた。

 

 開いた扉の向こうには、簡素な寝台が四つ並んでいる。

 

 そのうち三つは空いていた。

 

 窓に近い寝台に、一人の若い航空要員が腰掛けている。

 

 左前腕には包帯。

 

 膝の上には、少し焼け焦げた飛行帽が置かれていた。

 

 青年が顔を上げる。

 

 隼人は、何も言えなくなった。

 

 家族写真の中で見た顔より若い。

 

 髪も、目元も、まだ老いを知らない。

 

 それでも間違えようがなかった。

 

 渡邉竜。

 

 隼人の祖父が、八十三年前の姿で生きている。

 

渡邉竜「海上自衛官の、渡邉さんですか?」

 

隼人「……はい」

 

 声を出すまでに、僅かな時間が必要だった。

 

渡邉竜「どうぞ。狭い場所ですが」

 

隼人「失礼します」

 

 衛生員が車椅子を室内へ押す。

 

 赤城(艦娘)と赤城(KAN-SEN)は、廊下に残った。

 

赤城(艦娘)「私たちは外で待っています」

 

赤城(KAN-SEN)「何かございましたら、すぐにお呼びくださいまし」

 

隼人「ありがとう」

 

 扉が完全には閉じられず、細い隙間だけを残す。

 

 医療上の監視と、二人だけで話すための距離。

 

 竜が右手を差し出した。

 

渡邉竜「渡邉竜です。蒼龍航空隊で、艦上爆撃機に乗っています」

 

隼人「渡邉隼人です。海上自衛隊に所属しています」

 

 隼人も右手を差し出す。

 

 握手は短かった。

 

 だが、離れた手には確かな温度が残っていた。

 

 写真でも、夢でもない。

 

 生きている人間の手だった。

 

渡邉竜「同じ渡邉ですね」

 

隼人「ええ。珍しいこともあるものです」

 

 隼人は平静を装った。

 

 竜は気づいていない。

 

 目の前の負傷者が、自分の孫であることを。

 

 それでいい。

 

 少なくとも今は、知らせるべきではない。

 

渡邉竜「赤城さんから、先日の戦闘について話を聞きたいと伺いました」

 

隼人「はい。疲れているところ、申し訳ありません」

 

渡邉竜「気にしないでください。眠ろうとしても、まだ機銃の音が聞こえます」

 

 竜は、膝の飛行帽へ視線を落とした。

 

渡邉竜「誰かと話していた方が、今は楽です」

 

隼人「……分かりました」

 

 隼人は、戦闘詳報を取る時と同じ順序で質問を始めた。

 

 発艦時の天候。

 

 敵機と接触した方位。

 

 最初に受けた攻撃。

 

 味方編隊が崩れた時刻。

 

 竜は一つずつ答える。

 

 記憶が曖昧な箇所では、曖昧だとはっきり述べた。

 

 見ていないことを、見たとは言わない。

 

 推測と事実を分ける。

 

 それは、隼人が祖父から教えられた報告の仕方と同じだった。

 

隼人「損傷後も、すぐには編隊から離れなかったそうですね」

 

渡邉竜「二番機の操縦系統も傷んでいました。あちらを先に帰投針路へ乗せる必要があったんです」

 

隼人「自分の機体も、燃料漏れを起こしていた」

 

渡邉竜「はい」

 

隼人「二機とも失う危険がありました」

 

渡邉竜「それでも、一機ずつ帰るよりはましでした」

 

 竜は、ごく当然のことを説明するように答えた。

 

渡邉竜「一人だと、海へ落ちた時に誰も位置を伝えられませんから」

 

隼人「恐ろしくはなかったのですか?」

 

渡邉竜「恐ろしかったですよ」

 

 即答だった。

 

渡邉竜「死にたくないと思いました。皆も、同じだったと思います」

 

 勇敢だったから残ったのではない。

 

 恐怖がなかったからでもない。

 

 自分も仲間も、生きて帰るために残った。

 

 隼人が知る祖父は、昔からそういう人だった。

 

隼人「その判断を、誰かに教わったのですか?」

 

渡邉竜「父から、でしょうか。あとは弟です」

 

 隼人の指が、車椅子の肘掛けを僅かに掴む。

 

隼人「弟さんが?」

 

渡邉竜「陸軍にいる弟です。昔から、無茶をするくせに一人で抱え込む奴でして」

 

 竜が苦笑する。

 

渡邉竜「放っておくと、自分だけ残って他人を逃がそうとする。だから、私まで同じことをしたら止める者がいなくなると思いまして」

 

 記録にあった弟。

 

 隼人の知る家族の話と一致している。

 

 もはや、疑うための材料を探す方が難しかった。

 

渡邉竜「それに、生きて帰らなければ弟に叱られます」

 

隼人「兄を叱る弟なのですか?」

 

渡邉竜「遠慮のない弟なんです」

 

 竜は飛行帽を持ち上げる。

 

 形を崩さないよう、鍔の端へ指を添えて被り直した。

 

 隼人が何度も見てきた仕草。

 

 幼い頃、自分も同じように直された仕草。

 

 隼人は、思わず笑っていた。

 

渡邉竜「何か、おかしかったですか?」

 

隼人「いえ。私の祖父も、帽子の扱いにうるさい人でした」

 

渡邉竜「そうなのですか」

 

隼人「片手で上から押さえるな。鍔に指を添え、形を崩さず直せと」

 

渡邉竜「それは正しい教えです。帽子は大切にしなければ」

 

 竜は真面目な顔で頷いた。

 

 隼人の笑みが、僅かに深くなる。

 

渡邉竜「そのお祖父様は、お元気なのですか?」

 

 問いに、隼人はすぐ答えられなかった。

 

 八十三年。

 

 どれほど願っても、埋めることのできない時間だった。

 

隼人「……もう、会うことはできません」

 

渡邉竜「そうでしたか。余計なことを聞きました」

 

隼人「いいえ」

 

 会えないはずだった。

 

 だが、今は目の前にいる。

 

 その事実を口に出せないことが、これほど苦しいとは思わなかった。

 

渡邉竜「渡邉さん」

 

隼人「はい」

 

渡邉竜「先ほどから、私ではない誰かを見ていませんか?」

 

 隼人の呼吸が止まる。

 

 竜は責めるような口調ではなかった。

 

渡邉竜「顔も、仕草も、よく似ているのでしょう。貴方のお祖父様と」

 

隼人「……よく、分かりましたね」

 

渡邉竜「貴方も、見ていないことを見たとは言わない方だからです」

 

 今度は、竜が小さく笑った。

 

渡邉竜「先ほどの質問は戦闘を確認するものでした。ですが、弟の話を聞いた時から、目が変わった」

 

隼人「軍人を相手に、隠し事は難しいですね」

 

渡邉竜「家族の話に限れば、です」

 

 竜は、それ以上を追及しなかった。

 

 隼人がどこから来たのか。

 

 なぜ海上自衛隊という聞き慣れない組織にいるのか。

 

 なぜ自分を祖父と重ねるのか。

 

 聞こうと思えば、いくらでも聞けたはずだった。

 

渡邉竜「お祖父様へ、何か言い残したことがあるのですか?」

 

隼人「言い残したというより……謝りたいことが、あります」

 

渡邉竜「何を?」

 

隼人「教えられたことを、守れなかった」

 

 隼人は右手を見る。

 

 仲間を救えなかった手。

 

 死者へ届かなかった手。

 

隼人「生きて帰れと言われていたのに、多くの者を帰せなかった。自分だけが残った」

 

 夢の中で、何度も口にしようとした言葉だった。

 

 兄を止められなかった。

 

 部下を守れなかった。

 

 父と母へ、仲間へ、謝ることすらできなかった。

 

渡邉竜「それは、お祖父様が貴方へ謝らせるために教えたことですか?」

 

隼人「……違うと思います」

 

渡邉竜「では、貴方を生きて帰すためでしょう」

 

 竜の声は穏やかだった。

 

渡邉竜「帰せなかった人を忘れろとは言いません。忘れてはいけないこともある」

 

 包帯の巻かれた左腕へ、右手を添える。

 

渡邉竜「ですが、死んだ人へ謝るために、生きている人まで置いていくのは違うと思います」

 

 隼人は答えられない。

 

渡邉竜「少なくとも、私なら孫にそうしてほしくありません」

 

 偶然に選ばれた言葉だった。

 

 竜は何も知らない。

 

 それでも、その一言は隼人の奥深くへ届いた。

 

隼人「……そうですか」

 

渡邉竜「はい」

 

 廊下から、衛生員が控えめに扉を叩いた。

 

衛生員「予定のお時間です。慰霊式の準備も始まります」

 

隼人「分かりました」

 

 面会時間は終わった。

 

 隼人は、まだ聞きたいことがいくつもあった。

 

 祖父の両親。

 

 陸軍へ進んだ弟。

 

 戦争が始まる前の渡邉家。

 

 だが、今すべてを聞く必要はない。

 

 竜は生きている。

 

 次に話す機会を作ることができる。

 

隼人「渡邉さん」

 

渡邉竜「はい」

 

隼人「負傷が治ったら、また話を聞かせていただけますか?」

 

渡邉竜「もちろんです。次は、貴方のお祖父様のことも聞かせてください」

 

隼人「……話せる範囲で」

 

渡邉竜「秘密の多い方ですね」

 

 竜が右手を差し出す。

 

 隼人は、もう一度その手を握った。

 

隼人「生きていてくれて、ありがとうございます」

 

渡邉竜「え?」

 

隼人「先日の戦闘を生きて帰ったことへの、感謝です」

 

 隼人は言葉を補った。

 

 竜は少し不思議そうにしながらも、やがて頷いた。

 

渡邉竜「はい。貴方も、生きて帰ってください」

 

     ◇

 

 同日、夕刻。

 

 赤城、飛行甲板。

 

 西へ傾いた陽が、修復途中の甲板を赤く染めている。

 

 艦首側に設けられた祭壇には、白い花と、戦死者の名を記した板が並んでいた。

 

 赤城航空隊。

 

 加賀航空隊。

 

 蒼龍航空隊。

 

 飛龍航空隊。

 

 そして、各艦の戦闘で失われた者たち。

 

 記された名前は、一枚の板に収まらない。

 

 艦娘とKAN-SEN。

 

 生還した航空要員。

 

 整備員。

 

 救護班。

 

 誰も話さず、海へ向かって並んでいる。

 

 飛行甲板の後方には、軍医の指示どおり車椅子に座る隼人がいた。

 

 左肩は固定されたまま。

 

 膝の上には、海上自衛隊の略帽が置かれている。

 

 若い渡邉竜も、江草隊の生存者とともに列へ加わっていた。

 

 包帯の巻かれた腕を動かさず、海を見ている。

 

 鐘が一度、鳴らされた。

 

 戦死者の名が読み上げられていく。

 

 一人。

 

 また一人。

 

 返事はない。

 

 あるのは、呉の海へ消えていく声だけだった。

 

 赤城(艦娘)が祭壇へ花を供える。

 

 続いて、赤城(KAN-SEN)。

 

 加賀、蒼龍、飛龍、雲龍。

 

 生還者が順に前へ出る。

 

 隼人の番が来た。

 

衛生員「このままでも構いません」

 

隼人「花を置く間だけ、立たせてください」

 

 軍医が隼人を見る。

 

軍医「三十秒です。痛みが増えたら、すぐに座ること」

 

隼人「了解」

 

 衛生員が右側から支える。

 

 隼人は、右足へゆっくりと力を入れた。

 

 左肩を動かさず、立ち上がる。

 

 一歩。

 

 もう一歩。

 

 祭壇の前へ進み、右手で白い菊を置いた。

 

 そして、略帽を被る。

 

 右手を鍔へ添えた。

 

 海上自衛官としての敬礼。

 

 その姿を、若い竜が列の中から見ていた。

 

 竜も、動かせる右腕で敬礼する。

 

 隼人は死者へ謝らなかった。

 

 忘れないと、心の中で告げた。

 

 そして、生き残った者を置いていかないと誓った。

 

軍医「時間です」

 

 隼人は素直に右手を下ろした。

 

 衛生員の助けを借り、車椅子へ戻る。

 

 無理に立ち続けることはしなかった。

 

 鐘が、もう一度鳴る。

 

 参列者全員が海へ向けて黙禱した。

 

 風が、祭壇の白い花を僅かに揺らした。

 

     ◇

 

 慰霊式の終了後。

 

 赤城から鎮守府側へ渡る仮設舷梯の前で、衛生員が車椅子を止める。

 

 隼人が移動の準備をしていると、大淀が岸壁側から乗艦してくる。

 

大淀「渡邉さん」

 

隼人「大淀さん。どうしました?」

 

大淀「鎮守府司令部が、正式な面会を求めています」

 

隼人「事情聴取の続きですか?」

 

大淀「いいえ」

 

 大淀は、手にしていた書類入れを抱え直した。

 

大淀「今後の貴方の立場についてです」

 

     ◇

 

 呉鎮守府、臨時司令室。

 

 先日の空襲で本来の司令施設が損傷したため、会議棟の一室が代わりに使われている。

 

 壁には補強材。

 

 窓には飛散防止用の板。

 

 中央には、大きな海図台が置かれていた。

 

 隼人は車椅子のまま、その手前に止まる。

 

 すぐ横には衛生員が、壁際には軍医が待機している。

 

 海図台の正面には、一人の女性が立っていた。

 

 机の端には、ほとんど口をつけられていない茶と、処理済みの報告書が積まれている。

 

 目元には疲労が残り、右手の指には乾いた墨が付いていた。

 

 それでも、隼人を迎える姿勢に緩みはない。

 

 その後ろに、長門(艦娘)、大淀、天城(KAN-SEN)が並ぶ。

 

 赤城(艦娘)と赤城(KAN-SEN)も、今回の作戦における証言者として同席していた。

 

剣子「慰霊式の直後に呼び出して、ごめんなさい」

 

隼人「構いません。用件を聞かせてください」

 

剣子「その前に、ちゃんと名乗らせてください」

 

 女性は、海図台の前から隼人の正面へ移動した。

 

剣子「初めまして……と言うべきかな。助けてもらった時は、自己紹介できる状態じゃなかったから」

 

 その言葉で、隼人は彼女が誰なのかを理解した。

 

 この世界へ来た直後。

 

 戦場で救助した、呉鎮守府の指揮官。

 

隼人「貴方が、あの時の」

 

剣子「うん。好美剣子――よしみ・つるこ。呉鎮守府の提督を務めています。階級は少佐です」

 

 剣子は、軍帽へ右手を添えて敬礼した。

 

剣子「遅くなったけど、あの時は助けてくれて、本当にありがとうございました」

 

 隼人も座ったまま右手を上げ、答礼する。

 

隼人「海上自衛隊、渡邉隼人です。あの状況で可能なことをしたまでです」

 

剣子「それでも、私が生きているのは渡邉さんのおかげです」

 

 剣子は敬礼を解く。

 

 表情には柔らかさが戻ったが、その目は真剣なままだった。

 

剣子「改めて、よろしくお願いします。ここからは呉鎮守府の提督として、お話しします」

 

隼人「承知しました、好美提督」

 

 剣子が、大淀へ目を向ける。

 

 大淀は、一冊の薄い書類を隼人の前へ置いた。

 

 表紙には、こう記されている。

 

 呉鎮守府臨時副司令任用覚書。

 

隼人「臨時副司令?」

 

剣子「私たちの慣用では、副提督とも呼ぶ役目です」

 

隼人「役目であって、階級ではないと?」

 

大淀「はい。貴方の世界における階級を否定するものでも、こちらの海軍階級へ自動的に編入するものでもありません」

 

 隼人は、表紙を開く。

 

 最初に、任用の目的が書かれていた。

 

 艦娘、KAN-SEN、通常艦艇および陸上部隊の間における情報統合。

 

 防衛作戦の立案補助。

 

 部隊再建と訓練計画の監督。

 

 未知の敵技術に対する戦術研究。

 

隼人「私を選ぶ理由を、聞かせていただけますか?」

 

剣子「先日の戦果だけではありません」

 

 剣子の答えは明確だった。

 

長門(艦娘)「貴殿は呉へ救難情報を届け、混乱していた艦隊の通信をつなぎ直した。無人偵察機で敵艦隊を確認し、妨害源を特定した」

 

大淀「さらに、手元にある戦力と損傷状況から、敵を全滅させるのではなく、追撃を止めるための攻撃を立案しました」

 

天城(KAN-SEN)「三つの妨害中枢へ損害を与えたことで、私たちは通信と電探を一時的に回復できました。その時間がなければ、損傷艦を守りながら帰投することは困難だったでしょう」

 

 天城(KAN-SEN)は、海図台へ置かれた戦闘詳報へ触れる。

 

天城(KAN-SEN)「貴方の力は、兵器の性能だけではありません。異なる部隊から届く情報を一つの状況図へまとめ、何を守るべきかを決められることです」

 

赤城(艦娘)「そして、必要でなければ戦闘を避けようとする」

 

赤城(KAN-SEN)「艦内へ侵入した端末に対しても、情報を得られると判断した時点で破壊を止めましたわ」

 

剣子「今の呉には、その判断ができる人が必要です」

 

 隼人は書類へ視線を戻す。

 

 称賛だけで役目を受けるつもりはない。

 

 権限が曖昧なまま責任だけを負えば、現場が混乱する。

 

 逆に、過大な権限を受け取れば、この世界の指揮系統を壊す。

 

隼人「確認したいことがあります」

 

剣子「どうぞ」

 

隼人「これは軍籍への正式な編入ですか。それとも、期間を限った作戦協力ですか?」

 

大淀「現時点では、後者です」

 

 大淀が、覚書の二頁目を開く。

 

大淀「貴方の身元は、確認できる部分が限られています。海上自衛隊という組織も、こちらの制度には存在しません。したがって、正式な軍籍と階級の付与は保留します」

 

隼人「期間は?」

 

大淀「三十日。十日ごとに、双方で任用の継続と権限範囲を見直します」

 

隼人「双方で?」

 

天城(KAN-SEN)「鎮守府だけが、一方的に貴方を拘束する契約ではありません。貴方からも終了を申し出ることができます」

 

隼人「戦闘中でも?」

 

剣子「交戦中に指揮を放棄することまでは認められません。ですが、任務終了後に辞任を申し出る権利は保証します」

 

隼人「妥当です」

 

 隼人は、次の項目へ進む。

 

隼人「指揮権は?」

 

大淀「作戦立案、情報分析、防衛配置、訓練、補給優先順位の調整について、各担当部署へ指示できます」

 

隼人「出撃命令は?」

 

大淀「単独では出せません。艦隊の大規模な出撃と攻勢作戦は、鎮守府司令部の承認を必要とします」

 

剣子「ただし、鎮守府が攻撃を受け、私や上級司令部との連絡が途絶した場合は別です。その時は、事前に定めた範囲で緊急指揮権を委任します」

 

隼人「通常艦艇と人間の部隊は?」

 

大淀「原則として、直接指揮の対象外です。連絡将校を介して調整します。緊急時のみ、明示された部隊に限って指揮権が移ります」

 

隼人「指揮権を持たない部隊の損失まで、私の責任にされることは?」

 

剣子「ありません」

 

 剣子は、間を置かず答えた。

 

剣子「指揮権を渡さず、責任だけを負わせるつもりもありません。渡邉さんが指揮した範囲については、判断の記録を残し、任命した私も責任を負います」

 

 隼人は、剣子の目を見る。

 

 言葉だけなら、いくらでも整えられる。

 

 だが、彼女は隼人を利用するために焦っているようには見えなかった。

 

 むしろ、未知の人間へ権限を与える危険を理解した上で、必要な線を探している。

 

隼人「拒否権については?」

 

天城(KAN-SEN)「国際法、人道、または現場の能力に照らして実行不能と判断した命令について、理由を記録した上で異議を申し立てられます」

 

隼人「異議が退けられた場合は?」

 

剣子「違法な命令には従わなくて構いません。単なる作戦上の意見相違であれば、最終的な決定は提督である私が下します。渡邉さんの異論と、その根拠も記録へ残します」

 

隼人「そこは曖昧にしないでください」

 

大淀「覚書へ追記します」

 

 大淀が鉛筆で余白へ印をつける。

 

 隼人は、さらに頁をめくった。

 

 《みらい》と回収装備に関する項目。

 

隼人「私の装備を、鎮守府の兵器として接収するのですか?」

 

大淀「いいえ。所有関係が確認できないため、現在は鎮守府が保護保管しています」

 

天城(KAN-SEN)「調査、分解、複製には、貴方の同意を必要とします。身体に関する情報も同じです」

 

隼人「兵器の使用許可は?」

 

剣子「安全確認と作戦承認を必要とします。渡邉さんの判断だけで未来兵器を使うことも、私たちが貴方の同意なく使わせることも認めません」

 

隼人「その条件で構いません」

 

 装備を好きに使えないことは不便だった。

 

 しかし、性能も危険性も理解されていない兵器を、無制限に運用できる方が異常である。

 

 次の項目には、隼人への支援が記されていた。

 

 宿舎。

 

 食事。

 

 医療。

 

 身分証明。

 

 《みらい》の修復協力。

 

 そして――所在不明者の捜索。

 

隼人「この捜索対象は、どこまで含まれますか?」

 

大淀「貴方と同じ事故に遭った可能性がある者です。ご兄弟二名と、同行者一名。現時点で確認できている情報を基に、海域、救護施設、他鎮守府への照会を行います」

 

隼人「氏名と特徴は、私から改めて提出します」

 

大淀「お願いします」

 

隼人「彼らが敵対勢力に収容されていた場合は?」

 

剣子「所在を確認し、救出または交渉の可能性を検討します。ただし、確認のないまま艦隊を動かす約束はできません」

 

隼人「それで十分です」

 

 無条件の救出を約束される方が、信用できない。

 

 この鎮守府にも、守るべき者がいる。

 

 隼人の家族だけを理由に、無謀な作戦を行うことは許されない。

 

 覚書の最後には、医療上の制限があった。

 

隼人「治療命令は、作戦権限より優先する」

 

 隼人が読み上げる。

 

軍医「当然です」

 

 壁際から声が返ってきた。

 

 隼人は、衛生員の後方に立つ軍医を見る。

 

隼人「医療条項まで、あなたが書かせたのですか?」

 

軍医「貴方が無理をしないか監視するためです」

 

隼人「任用覚書にまで書く必要がありますか?」

 

軍医「あります」

 

赤城(艦娘)「あります」

 

赤城(KAN-SEN)「ございますわ」

 

アイ『必要です』

 

 耳元の端末からも声が加わった。

 

隼人「……四対一か」

 

長門(艦娘)「五対一だ」

 

大淀「六対一です」

 

天城(KAN-SEN)「七対一ですわね」

 

剣子「八対一だね」

 

隼人「提督まで加わるのですか?」

 

剣子「任命する側が、一番に守らせないといけないからね」

 

隼人「……分かりました。従います」

 

 軍医は、満足そうに頷いた。

 

 隼人は覚書を閉じない。

 

 まだ、最も重要な確認が残っていた。

 

隼人「私の知る未来についてです」

 

 室内から、僅かな緩みが消える。

 

隼人「私は、この世界に似た歴史を知っています。ですが、ここには艦娘もKAN-SENも、深海棲艦もセイレーンも存在する」

 

 海図台の上には、この世界でしか成立しない戦況が広がっている。

 

隼人「私の記憶を予言として扱わないでください。知っている歴史どおりに行動すれば勝てるとは限らない」

 

天城(KAN-SEN)「承知しています」

 

隼人「未来の技術についても同じです。名称を知っているからといって、今の設備で作れるとは限らない。中途半端な再現は、味方を殺します」

 

大淀「貴方の情報は、他の情報源と照合した上で評価します」

 

剣子「渡邉さんを、神託を告げる人として迎えるつもりはありません」

 

隼人「では、何として迎えるのです?」

 

剣子「軍人としてです」

 

 剣子の言葉は短かった。

 

剣子「間違える可能性を理解し、それでも判断して、結果から学び直せる軍人として迎えます」

 

 隼人は、すぐには答えなかった。

 

 覚書の最終頁を見る。

 

 受諾者の署名欄は、まだ空白だった。

 

 ここへ名を書けば、再び指揮する側へ戻る。

 

 部下を持つ。

 

 命令を出す。

 

 その結果として、誰かが帰らなくなるかもしれない。

 

 護衛艦「あたご」。

 

 四〇三大隊。

 

 失った仲間の顔が、次々と浮かぶ。

 

 自分に、再び人を率いる資格があるのか。

 

 夢の中では、死者の手に引かれるまま沈もうとした。

 

 だが、その後に会った若い祖父は言った。

 

 死んだ人へ謝るために、生きている人まで置いていくのは違う。

 

天城(KAN-SEN)「隼人様」

 

 天城(KAN-SEN)が、静かに口を開く。

 

天城(KAN-SEN)「私たちは、貴方一人に世界を救ってほしいとは申しません」

 

 先ほど読み上げられた戦死者の名が、隼人の耳に残っている。

 

天城(KAN-SEN)「今日を生き延びた者を、明日も同じように使い潰さないための仕組みを、ともに作っていただきたいのです」

 

隼人「私の判断で、また誰かが死ぬかもしれない」

 

剣子「私たちも同じです」

 

 剣子は、責任から目を逸らさなかった。

 

剣子「だから、一人で決めさせません。一人で背負わせません。そのための副司令です」

 

 隼人は、覚書をもう一度開いた。

 

 任務。

 

 権限。

 

 制限。

 

 責任。

 

 支援。

 

 不足している箇所には、質問のたびに追記が加えられている。

 

 少なくとも、白紙の委任状ではない。

 

 美しい理想だけを並べた勧誘でもない。

 

隼人「一つ、条件を加えてください」

 

大淀「何でしょう?」

 

隼人「航空隊の再建が完了するまで、戦果を得るためだけの攻勢には使わないこと」

 

 赤城(艦娘)が、僅かに目を見開く。

 

隼人「今いる生還者を、穴埋めとして連続出撃させない。防空、偵察、救難を優先する。練度の不足した部隊を、数合わせで前線へ出さない」

 

天城(KAN-SEN)「それが、着任後の最初の方針ですか?」

 

隼人「まだ着任していません」

 

 隼人は、大淀から万年筆を受け取った。

 

隼人「契約へ入れていただけるなら、着任します」

 

剣子「認めます」

 

 大淀が条項を書き加える。

 

 長門(艦娘)と天城(KAN-SEN)が内容を確認する。

 

 剣子が任命権者の欄へ署名し、鎮守府の公印を押した。

 

 最後に、書類が隼人の前へ戻される。

 

 隼人は万年筆を握った。

 

 渡邉隼人。

 

 一文字ずつ、署名する。

 

 書き終えたところで、ペンを置いた。

 

隼人「勝利は約束できません」

 

 剣子が隼人を見る。

 

隼人「誰も死なせないとも約束できない。それでも、与えられた権限の中で、帰れる者を一人でも多く帰します」

 

剣子「それで十分です」

 

 大淀が覚書を受け取り、正式な文書入れへ収める。

 

剣子「本日付で、渡邉隼人さんを呉鎮守府臨時副司令へ任命します」

 

 大淀は、僅かに姿勢を正した。

 

大淀「通称、副提督」

 

 隼人も、椅子に座ったまま背筋を伸ばす。

 

隼人「臨時副司令、渡邉隼人。着任します」

 

     ◇

 

 手続きが終わると、大淀が別の箱を机へ置いた。

 

 中には、救助時に回収され、確認のため司令部が保管していた私物が入っている。

 

 身分証。

 

 小型の手帳。

 

 そして、認識票。

 

大淀「照合に必要な記録は取りました。お返しします」

 

隼人「ありがとうございます」

 

 隼人は認識票を右手で持ち上げる。

 

 刻まれた名前を指で確かめ、首へ掛けた。

 

 胸元へ金属板の重みが戻る。

 

 自分が何者であるかを示す、元の世界の数少ない証拠だった。

 

隼人「ところで、一つ現実的な確認が」

 

大淀「はい」

 

隼人「報酬はありますか?」

 

 大淀は、覚書の付属書類を開いた。

 

大淀「臨時副司令相当の手当、宿舎、食事、被服、医療が支給されます。階級換算が未確定ですので、手当額は十日後の審査で調整します」

 

隼人「少なくとも、無給ではないのですね」

 

大淀「働かせておいて無給にするほど、呉鎮守府は困窮していません」

 

赤城(KAN-SEN)「お食事でしたら、私がお作りいたしますわ」

 

赤城(艦娘)「重桜の赤城。副提督の食事を理由に、食糧庫へ自由に出入りしないでください」

 

赤城(KAN-SEN)「まあ。信用がございませんのね」

 

赤城(艦娘)「先ほど、夕食用の菓子を持ち出していたでしょう」

 

赤城(KAN-SEN)「あれは隼人様の快気祝いですわ」

 

隼人「まだ快復していない」

 

 張り詰めていた室内へ、僅かな笑いが生まれた。

 

 その直後。

 

 軍医が、隼人の前へ回り込んだ。

 

軍医「では、副提督。本日の勤務は終了です」

 

隼人「着任したばかりですが」

 

軍医「覚書の医療条項は、着任直後から有効です」

 

 大淀が、明日以降に確認する予定の書類を持ち上げる。

 

 航空隊再建案。

 

 呉防空計画。

 

 通信妨害対策。

 

 艦内保安体制の見直し。

 

 所在不明者の捜索資料。

 

 積み上げれば、隼人の胸元まで届きそうな量だった。

 

隼人「少なくとも、一冊だけでも――」

 

軍医「明日です」

 

アイ『明日を推奨します』

 

 隼人は、書類の山を見る。

 

 続いて、自分が座っている車椅子を見る。

 

 以前の自分なら、痛みを隠して徹夜を選んでいた。

 

 だが、それは今日決めた最初の方針に反する。

 

 生還者を使い潰さない。

 

 そこには、自分も含まれていなければならない。

 

隼人「分かりました。明日にします」

 

 軍医が僅かに驚いた顔をする。

 

赤城(艦娘)「本当に、今日は素直ですね」

 

隼人「同じことを繰り返すな」

 

 衛生員が、車椅子の向きを扉へ変える。

 

 長門(艦娘)が、海図台の上へ一枚の命令書を置いた。

 

 呉鎮守府臨時副司令、渡邉隼人。

 

 任期、三十日。

 

 最初に与えられた仕事は、敵を撃つことではない。

 

 損害を確かめること。

 

 生き残った者を休ませること。

 

 次に戦わなければならない時、同じ犠牲を繰り返さない仕組みを作ること。

 

 隼人は、右手で認識票へ触れた。

 

 蓮。

 

 勇翔。

 

 そして、行方の分からない仲間。

 

 彼らを探すためにも、自分はここで生きなければならない。

 

 戦争へ戻るためではない。

 

 戦場から帰れる者を増やすために。

 

 こうして、未来から来た一人の軍人が、呉鎮守府へ着任した。

 

 役職は、臨時副司令。

 

 通称――副提督。




はい。

コロナワクチンを入れて腕が動かない小説素人書きです。

かっこいいすねぇ...(自画自賛)

海自編は一時止まってウマ娘の方を書きます。

空自は少しおまちください!

それでは!

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※2026年8月29日リメイク完了

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