陸自はドールズフロントライン、海自は艦これとアズールレーン、空自はアッシュアームズ三つの世界でバラバラになりながらでも生き残る   作:ゴーストライターとかした、素人小説書き

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もし、この作品の元ネタアッシュアームズが分からない方は、ぜひブラウザバックの後。
グーグル先生にお聞きください。

それでも、大丈夫な方はご覧ください。


Act.6 お酒もほどほどに

Act.6 お酒もほどほどに

 

 時刻、二十一時。

 

 飛行船ツェッペリン。

 

 下部航空格納庫。

 

 City東部航空基地での検査と戦闘報告を終えたF-3とA-10は、係留中のツェッペリンへ戻されていた。

 

 二機とも、帰投直後の点検を受けている。

 

 外板。

 

 操縦系統。

 

 兵装管制装置。

 

 ARMSに似た素材で再構築された機体が、初めての実戦飛行によってどのような負荷を受けたのか。

 

 技術要員たちは機体各部へ検査装置を接続し、記録を集めていた。

 

 F-3の操縦席にも、複数の配線が延びている。

 

 勇翔は射出座席へ身体を預けたまま、正面表示器へ流れる数値を確認していた。

 

 腰部の生体監視装置は装着したまま。

 

 医療要員から許可されたのは、操縦席へ座って二十分間、飛行記録を確認することだけだった。

 

 整備作業を手伝うことも、機体の設定を変更することも認められていない。

 

 それでも、元整備員でもある勇翔にとって、自分の機体を他人へ任せたまま休むことは難しかった。

 

勇翔「左側推力偏向装置、最大作動時の応答が〇・二秒遅い……」

 

 記録を一つ開く。

 

 今日の空戦で、高空の敵集団を分断した時のものだった。

 

 急上昇。

 

 旋回。

 

 推力低下。

 

 再加速。

 

 操縦入力と機体応答の間に、ごく小さな遅れがある。

 

 通常の飛行であれば問題にならない。

 

 だが、次も同じ相手と戦うなら確認しておく必要があった。

 

 勇翔は記録へ印をつける。

 

 その時。

 

 操縦席の外板が、二度叩かれた。

 

小貝「おい、勇翔」

 

 勇翔が左側を見る。

 

 整備用足場に、小貝が立っていた。

 

 片手で手すりを掴み、もう片方の手で腕時計を示している。

 

小貝「二十分は、とっくに過ぎているぞ」

 

勇翔「もう、そんな時間ですか?」

 

小貝「許可時間を十二分超過だ」

 

勇翔「細かいですね」

 

小貝「医療要員へ報告する時も、同じことを言ってやる」

 

勇翔「それは困ります」

 

小貝「なら降りろ」

 

 勇翔は正面表示器を見る。

 

 飛行記録の解析は、まだ終わっていない。

 

勇翔「あと少しです。記録の統合が終わったら降ります」

 

小貝「所要時間は?」

 

 表示器の隅に、残り時間が示される。

 

 およそ三十分。

 

勇翔「……三十分」

 

小貝「待つな。処理だけ続けて、お前は休め」

 

勇翔「分かっています」

 

小貝「本当か?」

 

勇翔「小貝さんこそ、どこへ行くんです?」

 

 小貝は、借り受けた制服の上着を軽く直す。

 

小貝「スカイレイダーとの約束を果たしに行く」

 

勇翔「飲み物を奢ってもらう約束ですか?」

 

小貝「ああ。代理人からも、一杯だけなら許可が出た」

 

勇翔「新しい身体で、酒に酔うかも分からないのに?」

 

小貝「だから一杯だけだ。水と食事も取れと言われている」

 

勇翔「医療要員の話は、素直に聞くんですね」

 

小貝「お前よりはな」

 

 小貝は足場から降りようとする。

 

小貝「先に行く。解析が終わるまで操縦席で寝ようとするなよ」

 

勇翔「しませんよ」

 

小貝「即答が遅い」

 

勇翔「気のせいです」

 

小貝「二十二時までに居住区へ戻れ。明朝も検査だ」

 

勇翔「了解しました、小貝少佐」

 

小貝「そういう時だけ階級で呼ぶな」

 

 小貝が整備用足場を降りる。

 

 格納庫の出入口へ向かう途中、彼は一度だけ振り返った。

 

小貝「勇翔」

 

勇翔「何です?」

 

小貝「今日は全員を帰した。もう戦闘は終わっている」

 

 勇翔は、開いたままの飛行記録を見る。

 

小貝「今夜まで戦い続ける必要はない」

 

勇翔「……はい」

 

 小貝はそれ以上言わず、格納庫を出ていった。

 

 残された勇翔は、処理中の記録へもう一度目を向ける。

 

 解析終了まで、二十八分。

 

 小貝の言うとおり、ここに居続ける理由はなかった。

 

 処理は自動で進む。

 

 異常が見つかれば、技術要員から報告が来る。

 

 勇翔は主電源を待機状態へ移そうとした。

 

 格納庫の扉が開く。

 

 軽い足音が近づいてきた。

 

勇翔「小貝さん。忘れ物ですか?」

 

 返事はない。

 

 勇翔が操縦席から顔を出す。

 

 F-3の横に立っていたのは、小貝ではなかった。

 

 長い黒髪。

 

 落ち着いた表情。

 

 航空迎撃隊の制服。

 

 雷電一一型。

 

 彼女が勇翔を見上げている。

 

雷電「こんばんは、勇翔さん」

 

勇翔「……こんばんは、雷電さん」

 

 凜と同じ顔。

 

 初めて会った時には、それしか見えなかった。

 

 だが、今は違う。

 

 言葉を選ぶ前に僅かに首を傾ける癖。

 

 ゆっくりとした話し方。

 

 戦闘中、仲間を守る時だけ鋭く変わる目。

 

 そのどれも、勇翔の知る凜とは異なっていた。

 

雷電「まだ、お休みになっていなかったのですね」

 

勇翔「飛行記録を確認していました。もう終わります」

 

雷電「代理人さんから、二十分だけと聞きました」

 

勇翔「皆さん、よく知っていますね」

 

雷電「勇翔さんが約束を守っているか、少し心配だったそうです」

 

勇翔「信用がないな……」

 

雷電「先ほど、医療要員の方にも同じことを言われていましたね」

 

 雷電が小さく笑う。

 

 勇翔は反論できなかった。

 

勇翔「雷電さんは、どうしてここへ?」

 

雷電「二つ、用事があります」

 

 雷電が腰の小さな収納具から、薄い銀色の腕輪を取り出した。

 

雷電「一つ目は、これをお渡しするためです」

 

勇翔「腕輪?」

 

雷電「携帯翻訳端末です。作戦中の通信には翻訳機能がありますが、艦内では共通端末がない場所もありますので」

 

 勇翔が操縦席から降りようとする。

 

 足場へ右足を置いたところで、雷電が手を伸ばしかけた。

 

 だが、勝手に身体へ触れることはせず、勇翔へ尋ねる。

 

雷電「お手伝いしても、よろしいですか?」

 

勇翔「お願いします」

 

 雷電が勇翔の右腕を支える。

 

 下では、待機していた技術要員が車椅子を固定していた。

 

 勇翔は足掛けを一段ずつ降りる。

 

 最後に腰を支えられ、車椅子へ座った。

 

勇翔「ありがとうございます」

 

雷電「どういたしまして」

 

 雷電が腕輪を差し出す。

 

 勇翔は右手で受け取り、手首へ装着した。

 

 小さな表示灯が点灯する。

 

『使用者登録を開始します』

 

 機械音声の直後、見慣れない文字が日本語へ置き換わった。

 

勇翔「これで、艦内の言葉や文字も読めるのですか?」

 

雷電「はい。DOLLSや人間の話す言葉だけではなく、Cityで使われる主要な言語にも対応しています」

 

勇翔「助かります。今までは代理人さんか、通信端末が必要でしたから」

 

雷電「よくお似合いです」

 

勇翔「翻訳端末に、似合うも似合わないもあります?」

 

雷電「ありますよ」

 

 雷電は穏やかな表情のまま言い切った。

 

 勇翔は腕輪を見直したが、特別な意匠は見つけられなかった。

 

勇翔「それで、もう一つの用事は?」

 

雷電「今日のお礼です」

 

 雷電は勇翔の正面へ立つ。

 

雷電「高空の敵を分断していただいたおかげで、私たちは中高度の防衛線を維持できました」

 

勇翔「雷電さんたちが敵を抑えてくれたから、僕は高空へ行けたんです」

 

雷電「それでも、ありがとうございました」

 

勇翔「こちらこそ」

 

 互いに頭を下げる。

 

 その後、会話が一度途切れた。

 

 格納庫には、検査装置の作動音が続いている。

 

 雷電は帰ろうとしなかった。

 

 勇翔も、理由を尋ねられなかった。

 

 雷電の視線が、F-3の機首へ移る。

 

 そこには、桜の花弁に囲まれた女性の横顔が描かれている。

 

雷電「あの方は、どなたですか?」

 

 いずれ、聞かれると思っていた。

 

 雷電と凜が似ていることを知る者なら、誰でも同じ疑問を持つ。

 

 勇翔は、ノーズアートを見上げた。

 

勇翔「凜という人です」

 

雷電「大切な方なのですね」

 

勇翔「はい」

 

 否定する理由はなかった。

 

勇翔「僕がいた世界で、一番大切だった人です」

 

雷電「だった……」

 

勇翔「亡くなりました」

 

 雷電の表情が僅かに曇る。

 

雷電「申し訳ありません。知らずに聞いてしまいました」

 

勇翔「謝らないでください。隠しておくつもりはありませんから」

 

 勇翔は、雷電の顔を見る。

 

 同じ輪郭。

 

 似た目元。

 

 だが、今、そこに浮かんでいる悲しみ方は凜とは違う。

 

勇翔「雷電さんは、彼女によく似ています」

 

雷電「やはり、そうなのですね」

 

勇翔「気づいていたのですか?」

 

雷電「初めてお会いした時から、勇翔さんは私ではない誰かを見ていました」

 

 責める声ではなかった。

 

 だからこそ、勇翔は言い訳をしてはいけないと思った。

 

勇翔「……そのとおりです」

 

雷電「今もですか?」

 

 勇翔は、すぐに答えなかった。

 

 似ていないと言えば嘘になる。

 

 凜を思い出さないと言っても、嘘になる。

 

 だが、それだけではなかった。

 

勇翔「今は、雷電さんを見ています」

 

 雷電が瞬きをする。

 

勇翔「顔は似ています。でも、話し方も、考え方も違う。今日の空で、仲間を守ろうとしていた貴方も、戦闘が終わると眠そうにしている貴方も、凜ではありません」

 

雷電「眠そうに見えますか?」

 

勇翔「少し」

 

雷電「それは……少しだけ、眠いです」

 

 雷電が小さく欠伸をする。

 

 勇翔は思わず笑った。

 

勇翔「やはり」

 

雷電「ですが、二つの用事を終えるまでは、眠らないと決めていました」

 

勇翔「もう、どちらも終わりましたね」

 

雷電「いいえ。お礼は言えましたが、まだ勇翔さんのお返事を聞いていません」

 

勇翔「返事?」

 

雷電「私を見ている、という言葉の意味です」

 

 今度は、勇翔が言葉に詰まった。

 

 雷電は急かさない。

 

 静かに答えを待っている。

 

 勇翔は、自分の右手を見る。

 

 凜を失ったあと、二度と同じ感情を持つことはないと思っていた。

 

 似た顔を見つけたから、失ったものを取り戻そうとしているだけではないのか。

 

 その疑いは、まだ完全には消えていない。

 

 だからこそ、曖昧なまま近づいてはいけなかった。

 

勇翔「最初は、凜に似ているから目を離せませんでした」

 

雷電「はい」

 

勇翔「ですが、今は貴方自身のことを知りたいと思っています」

 

 勇翔は雷電の目を見る。

 

勇翔「まだ、恋だとは言い切れません。凜の代わりを求めていないと、自分で証明できていないからです」

 

雷電「正直なのですね」

 

勇翔「ここで嘘を言えば、貴方にも凜にも失礼です」

 

 雷電は、しばらく勇翔を見つめていた。

 

 やがて、僅かに微笑む。

 

雷電「では、私のことを知ってください」

 

勇翔「いいのですか?」

 

雷電「はい。私も、勇翔さんのことを知りたいです」

 

 雷電はF-3のノーズアートを見る。

 

雷電「凜さんのお話も、話せる時に聞かせてください。大切だった方を消してほしいとは思いません」

 

 勇翔の胸の奥で、固くなっていた何かが僅かに緩む。

 

勇翔「ありがとうございます」

 

雷電「ただし、一つだけお願いがあります」

 

勇翔「何でしょう?」

 

雷電「私を呼ぶ時は、必ず雷電と呼んでください」

 

勇翔「約束します」

 

 雷電が右手を差し出す。

 

 勇翔も右手を伸ばす。

 

 握手。

 

 戦闘前の契約でも、任務上の確認でもない。

 

 これから互いを知っていくための約束だった。

 

雷電「それでは、三つ目の用事を思いつきました」

 

勇翔「二つではなかったのですか?」

 

雷電「今、増えました」

 

勇翔「何です?」

 

雷電「勇翔さんを居住区までお送りします」

 

勇翔「一人で戻れますよ」

 

雷電「二十二時までに戻るよう、小貝さんから言われていましたね」

 

勇翔「聞いていたんですか?」

 

雷電「格納庫へ入った時に、少しだけ」

 

 雷電が車椅子の後ろへ回る。

 

 だが、すぐには押さない。

 

雷電「お手伝いしても?」

 

勇翔「お願いします」

 

 雷電が取っ手を握る。

 

 車椅子が静かに動き始めた。

 

 F-3の横を通る。

 

 ノーズアートの凜が、二人を見送っている。

 

 勇翔は一度だけ振り返った。

 

 それから、前を向く。

 

雷電「明日の朝は、何を召し上がりますか?」

 

勇翔「まだ、この世界の料理をほとんど知りません」

 

雷電「でしたら、食堂をご案内します」

 

勇翔「明日も会ってくれるのですか?」

 

雷電「互いを知る約束をしましたから」

 

勇翔「そうでしたね」

 

 勇翔の手首で、翻訳端末の表示灯が淡く光っている。

 

 言葉を理解するための道具。

 

 だが、相手を理解するには、言葉を訳すだけでは足りない。

 

 その続きを、二人は明日の朝から始めることにした。

 

     *

 

 同時刻。

 

 ツェッペリン、居住区画。

 

 艦内酒保に併設された小さなバー。

 

 照明は落とされ、磨かれた木製の卓上だけが暖色の光を受けている。

 

 壁には、古い航空機の写真。

 

 棚には、形の異なる瓶が並ぶ。

 

 客は多くない。

 

 任務を終えた整備員が二人、離れた卓で静かに食事をしているだけだった。

 

 小貝が扉を開く。

 

 鈴が小さく鳴った。

 

マスター「いらっしゃいませ」

 

 卓上を拭いていた店主が顔を上げる。

 

 その声より先に、カウンター席から明るい声が飛んできた。

 

スカイレイダー「小貝!」

 

 AD-1スカイレイダーが、大きく手を振っている。

 

 戦闘時のARMSは外されていた。

 

 明るい青の髪を後ろでまとめ、軍用ジャケットを肩へ掛けている。

 

 彼女の前には、水の入ったグラスと、料理の皿が置かれていた。

 

小貝「待たせたか?」

 

スカイレイダー「今来たところ――って、一度言ってみたかったんだよね」

 

小貝「実際は?」

 

スカイレイダー「十五分前」

 

小貝「待たせたな」

 

スカイレイダー「飛行記録を確認してたんでしょ? なら気にしないよ」

 

 小貝が隣の席へ座る。

 

 スカイレイダーは、薄い銀色の腕輪をカウンターへ置いた。

 

スカイレイダー「その前に、これ。代理人から預かってきたよ」

 

小貝「勇翔へ渡された物と同じか?」

 

スカイレイダー「携帯翻訳端末。これがないと、艦内放送や注文票を読むのも大変でしょ?」

 

小貝「助かる」

 

 小貝は腕輪を装着する。

 

 使用者登録を終えると、棚の表示と手元の献立表が読める文字へ変わった。

 

小貝「便利なものだな」

 

スカイレイダー「作戦回線を使わずに、私とも話せるよ」

 

小貝「今までも話は通じていただろう」

 

スカイレイダー「そうじゃなくてさ」

 

 スカイレイダーが、少しだけ身を寄せる。

 

スカイレイダー「二人だけで話せるってこと」

 

 小貝は彼女を見る。

 

小貝「なるほど。それは重要だ」

 

スカイレイダー「分かってるじゃん」

 

 彼女は満足そうに笑った。

 

 マスターが、カウンターの内側から二人へ声を掛ける。

 

マスター「代理人および医療区から、注文の上限を伺っています」

 

小貝「一杯だけだろう?」

 

マスター「はい。お二人とも一杯。先に食事を取り、同量以上の水を飲むこと。追加の酒類は提供できません」

 

スカイレイダー「信用されてないなぁ」

 

小貝「初対面に近い二人が、戦闘直後に飲もうとしている。妥当な判断だ」

 

スカイレイダー「小貝まで固いことを言う」

 

小貝「飛行機乗りが酒で判断を誤ったら、洒落にならん」

 

マスター「ご理解いただけて何よりです」

 

 マスターは、二人の前へ軽い食事を置いた。

 

 温かい煮込み料理。

 

 薄く切られたパン。

 

 続いて、小さめのグラスへ淡い琥珀色のビールを注ぐ。

 

 泡が縁まで上がり、ゆっくりと落ち着いた。

 

スカイレイダー「それじゃあ、改めて」

 

 彼女がグラスを持ち上げる。

 

スカイレイダー「小貝高虎とA-10の初出撃。それから、全員の無事な帰還に」

 

小貝「AD-1と地上部隊の働きにも」

 

スカイレイダー「乾杯!」

 

小貝「乾杯」

 

 グラスが軽く触れ合う。

 

 小貝は一口だけ飲んだ。

 

 冷えた苦みと、炭酸。

 

 懐かしい感覚だった。

 

 戦争が始まる前。

 

 飛行訓練を終え、仲間と飲んだ夜。

 

 失われた日常の一部が、舌の上へ戻ってくる。

 

小貝「……うまいな」

 

スカイレイダー「でしょ?」

 

 スカイレイダーも一口飲む。

 

 以前のように、一気には飲まない。

 

 先に料理を口へ運び、水も飲む。

 

小貝「慣れているな」

 

スカイレイダー「お酒に?」

 

小貝「制限されることにだ」

 

スカイレイダー「あはは。昔、二回くらい怒られたことがあってね」

 

小貝「二回で済んだのか?」

 

スカイレイダー「細かいことは忘れたよ」

 

小貝「都合のいい記憶だ」

 

 会話は途切れなかった。

 

 A-10とAD-1の低空性能。

 

 地上部隊と連携する時に、上空から何が見えるのか。

 

 使い切らずに帰投した兵装。

 

 次に同じ編成で飛ぶ場合の通信方法。

 

 最初は、戦闘の話だった。

 

 だが、二人が一杯の半分を飲む頃には、話題は少しずつ変わっていた。

 

スカイレイダー「小貝って、昔からA-10に乗ってたの?」

 

小貝「ああ。正確には、A-10を基にした近接航空支援機だ」

 

スカイレイダー「ずっと攻撃機乗り?」

 

小貝「途中で別の部隊へ移った。教官もやった」

 

スカイレイダー「勇翔の?」

 

小貝「最初はな。今は対等な僚機だ」

 

スカイレイダー「いい関係だね」

 

小貝「長すぎて、腐れ縁になっている」

 

スカイレイダー「でも、勇翔が無理をしないように、わざわざ格納庫まで迎えに行ったんでしょ?」

 

小貝「放っておくと、本当に操縦席で朝を迎えるからな」

 

スカイレイダー「心配なんだ」

 

小貝「教え子を先に死なせる趣味はない」

 

スカイレイダー「やっぱり、優しいよね」

 

小貝「今日会ったばかりの人間を、簡単に評価するな」

 

スカイレイダー「今日会ったばかりだから、第一印象を言ってるの」

 

 スカイレイダーは頬杖をつく。

 

 少しだけ顔が赤い。

 

 酔いというより、酒によって身体が温まった程度だった。

 

スカイレイダー「私の第一印象は?」

 

小貝「聞きたいか?」

 

スカイレイダー「聞かせて」

 

小貝「明るい。火力がある。少し撃ちたがり。命令を聞かないように見えて、理由を説明すれば聞く」

 

スカイレイダー「最後の方、戦闘評価じゃん」

 

小貝「戦場で会ったからな」

 

スカイレイダー「ほかには?」

 

 彼女は笑っている。

 

 だが、返事を待つ目は真剣だった。

 

小貝「美人だと思った」

 

 小貝は、酒を飲む前と同じ声で答えた。

 

 スカイレイダーの動きが止まる。

 

スカイレイダー「……それ、今も?」

 

小貝「ああ」

 

スカイレイダー「酔ってるからじゃなくて?」

 

小貝「最初に会った時から言っている」

 

 旧市街地で出会った時。

 

 小貝は、彼女を美人だと言った。

 

 あの時は、戦闘の勢いで出た冗談だと思われていた。

 

 だが、小貝は冗談として言ったのではない。

 

スカイレイダー「本気だったんだ」

 

小貝「こういうことで、嘘を言う趣味はない」

 

 スカイレイダーは視線をグラスへ落とした。

 

 いつもの勢いが、少しだけ弱くなる。

 

スカイレイダー「私、あまりそういうふうに言われたことがないんだ」

 

小貝「美人だと?」

 

スカイレイダー「うん」

 

 彼女は、自分の指でグラスの縁をなぞる。

 

スカイレイダー「AD-1は速くない。新しくもない。飛び方は地味で、エンジン音は大きい。たくさん積めて、長く飛べるから便利だって言われる」

 

 便利な攻撃機。

 

 壊れにくい兵器。

 

 多くの弾薬を運べる存在。

 

 戦場で求められる評価は、それだった。

 

スカイレイダー「嫌いじゃないよ。私はAD-1であることを誇りに思ってる。でも、一人の女性として見られることには、あまり慣れてない」

 

 小貝は、すぐには答えなかった。

 

 DOLLSを兵器の名前で呼びながら、兵器としてだけ扱う。

 

 それは簡単だった。

 

 だが、目の前にいる彼女は、自分で考え、自分で迷い、自分の言葉で話している。

 

 戦場で同じ空を飛んだ仲間であり、感情と意思を持つ一人の女性だった。

 

小貝「俺は、あんたを便利な兵器だと思ったことはない」

 

スカイレイダー「最初から?」

 

小貝「ああ。最初は、戦場に取り残されたパイロットだと思った」

 

スカイレイダー「DOLLSじゃなくて?」

 

小貝「DOLLSだと知ったあとも変わらん。同じ空で戦った者を、機体の性能だけでは見ない」

 

 小貝は、自分のグラスを置く。

 

小貝「今日のあんたは、地上の味方を巻き込まないために撃つのを待った。俺の指示へ納得して、自分で選んだ。それが俺の見たスカイレイダーだ」

 

 彼女の目が、小貝へ戻る。

 

小貝「そのうえで、美人だと思っている」

 

スカイレイダー「……それ、ずるいなぁ」

 

小貝「何がだ?」

 

スカイレイダー「私が喜ぶこと、全部言うから」

 

小貝「聞かれたから答えた」

 

スカイレイダー「そういうところも、いいね」

 

 スカイレイダーが、残っていたビールを口へ運ぶ。

 

 だが、途中で止めた。

 

 グラスを卓上へ戻し、代わりに水を飲む。

 

小貝「どうした?」

 

スカイレイダー「このまま飲んだら、全部お酒のせいにしたくなりそうだから」

 

小貝「何をだ?」

 

スカイレイダー「これから言うこと」

 

 彼女は、深く息を吸う。

 

スカイレイダー「私、小貝のことが気になってる」

 

 小貝は黙って聞いた。

 

スカイレイダー「命を助けてもらったからだけじゃない。戦い方を見て、話してみたいと思った。実際に話したら、もっと知りたくなった」

 

小貝「知り合って一日も経っていないぞ」

 

スカイレイダー「空で相手を見る時は、もっと短い時間で判断するでしょ?」

 

小貝「恋愛と空戦を一緒にするな」

 

スカイレイダー「違う?」

 

小貝「共通するところはある」

 

スカイレイダー「あるんだ」

 

 スカイレイダーが笑う。

 

小貝「俺も、あんたが気になっている」

 

 今度は彼女が黙った。

 

小貝「だから、今夜の酒だけで続きを決めたくない」

 

スカイレイダー「……小貝」

 

小貝「明日、互いに素面で、それでも同じことを言えるか確かめる」

 

スカイレイダー「言えたら?」

 

小貝「その時は、改めて誘ってくれ」

 

スカイレイダー「私から誘うの?」

 

小貝「俺から誘ってもいい」

 

スカイレイダー「じゃあ、先に予約しておく」

 

小貝「何をだ?」

 

スカイレイダー「明日の夜。私の部屋で、今日の続き」

 

 小貝は彼女の表情を見る。

 

 冗談で逃げようとしている様子はない。

 

 酔いに任せた勢いだけでもない。

 

小貝「何の続きをするつもりだ?」

 

スカイレイダー「飛行記録を見せる。好きな音楽も聞かせる。それから、もっと話す」

 

小貝「それだけか?」

 

スカイレイダー「その先は、明日の私たちが決める」

 

 小貝は僅かに笑った。

 

小貝「いい答えだ」

 

スカイレイダー「予約は?」

 

小貝「受ける。明日の夜だ」

 

スカイレイダー「よし!」

 

 スカイレイダーは嬉しそうに右手を差し出した。

 

 小貝も握ろうとする。

 

 だが、彼女は手を横へ向けたまま動かさない。

 

スカイレイダー「部屋へ戻るまで、手をつないでもいい?」

 

小貝「わざわざ聞くのか?」

 

スカイレイダー「確認は大事なんでしょ?」

 

 戦場で、小貝が何度も口にした言葉だった。

 

 味方の位置。

 

 攻撃方向。

 

 相手の意思。

 

 確認せずに進めば、取り返しのつかないことになる。

 

小貝「ああ。構わない」

 

 小貝は、彼女の手を握った。

 

 温かい。

 

 戦闘時のARMSを介した接触とは異なる、生身の手の感触だった。

 

マスター「お帰りになる前に、お二人とも残りの水を飲んでください」

 

 静かに見守っていたマスターが、水差しを持ち上げる。

 

スカイレイダー「今、いいところだったのに」

 

マスター「飲酒後の水分補給も、お約束ですので」

 

小貝「従え。約束を破れば、明日はないぞ」

 

スカイレイダー「分かったよ」

 

 二人は手を離さないまま、空いた方の手で水のグラスを持った。

 

 酒は一杯。

 

 それ以上は飲まない。

 

 伝えた言葉を、酔いのせいにしないために。

 

     *

 

 二十二時前。

 

 代理人の自室。

 

 代理人は、その日の戦闘報告へ最後の署名を加えた。

 

 敵地上部隊の撃退。

 

 航空型リセッターの指揮系統を一時的に分断。

 

 味方DOLLS、全員帰還。

 

 F-3およびA-10の機体点検、継続中。

 

 戦術上の問題は、明日改めて検討する。

 

 その下には、二件の短い生活記録が表示されていた。

 

 携帯翻訳端末、二名への引き渡し完了。

 

 酒保での酒類提供、規定量内。

 

 健康上の警告、なし。

 

 それ以上の情報はない。

 

 誰と何を話したのか。

 

 どこまで互いへ近づいたのか。

 

 それは、安全管理を理由に覗いてよいものではなかった。

 

代理人「二人とも、ちゃんと休んでくれるといいけど」

 

 代理人は端末を閉じる。

 

 その時、医療区から一件の連絡が届いた。

 

『勇翔大尉、雷電一一型の同行により居住区へ帰室』

 

 続いて、酒保からも会計記録が届く。

 

『小貝少佐、AD-1スカイレイダーと退店。酒類追加なし』

 

代理人「よし。問題なし」

 

 代理人は灯りを落とした。

 

 戦闘を終えた夜。

 

 勇翔は、失った人と同じ顔を持つ誰かではなく、雷電本人と明日の約束をした。

 

 小貝は、酒の勢いで一夜を決めず、スカイレイダーと次の夜を約束した。

 

 どちらも、まだ恋と呼ぶには始まったばかりだった。

 

 それでも。

 

 明日も会いたいと思った時点で、その始まりには十分だった。




はい。

お分かりかと思いますが恋愛回です正直この世界って早々簡単に戦闘が起きない世界なのでこんな恋愛や日常回が多い章となります。

他の世界と比べて物凄い平和なのでこんな恋愛や日常もの恋愛が多いかと思います。

勿論戦闘などがありますがそれもバンバンと出るわけではないのですね。

多分作者が一番ほっこりしながら書ける章かと思いますね。

それでは、またお会いしましょうさよなら~

※2026年8月29日リメイク完了

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