陸自はドールズフロントライン、海自は艦これとアズールレーン、空自はアッシュアームズ三つの世界でバラバラになりながらでも生き残る   作:ゴーストライターとかした、素人小説書き

29 / 74
注意

この小説は、シリアスとギャグが少し入っています。
それがいやな方は、上にある矢印ボタンでブラウザバックを推奨します。

もし、この作品の元ネタアッシュアームズが分からない方は、ぜひブラウザバックの後。
グーグル先生にお聞きください。

それでも、大丈夫な方はご覧ください。



Act.8 短いお休み

Act.8 短いお休み

 

 午前十時二十分。

 

 飛行船ツェッペリン。

 

 前部観測区画。

 

 巨大な船体は、黒十字帝国学連の管理区域へ向けて西進していた。

 

 窓の下には、Cityの街並みが広がっている。

 

 赤褐色の煉瓦を積んだ集合住宅。

 

 古い時計塔。

 

 細い水路へ架けられた石造りの橋。

 

 防壁に囲まれた世界であっても、人々は建物の壁へ花を飾り、広場へ露店を並べていた。

 

 上空から見れば、その一つ一つは小さな色の点にしか見えない。

 

 それでも、そこに生活があることは分かった。

 

 勇翔は車椅子へ座り、窓越しに街を見下ろしていた。

 

 左手首には、昨夜受け取った携帯翻訳端末が装着されている。

 

 通路の案内表示。

 

 窓枠へ刻まれた注意書き。

 

 遠くの電光掲示板。

 

 異なる文字が、勇翔に理解できる言葉へ置き換わっていく。

 

 痛みはない。

 

 ただ、視界へ入る文字を無意識に読めることには、まだ慣れなかった。

 

 勇翔が腕輪へ触れる。

 

 隣の長椅子へ座っていた雷電が、その動きに気づいた。

 

雷電「違和感がありますか?」

 

勇翔「身体にではありません。昨日まで読めなかった文字が、今日は最初から知っていたように読める。それが、少し不思議で」

 

雷電「翻訳された内容は、表示灯を消せば見えなくできます」

 

勇翔「いえ。必要な物ですから、慣れます」

 

 勇翔は腕輪から手を離す。

 

 再び、窓の外を見る。

 

勇翔「綺麗な街ですね」

 

雷電「黒十字帝国学連との境に近い居住区です」

 

勇翔「建物の造りが、東部とは随分違う」

 

雷電「Cityへ避難してきた人々が、失った故郷の街並みを再現したそうです」

 

 雷電も窓の外を見る。

 

雷電「同じ物を、完全に取り戻すことはできません。それでも、思い出せる場所が欲しかったのでしょうね」

 

勇翔「故郷を作り直す、か」

 

雷電「壁に囲まれていても、毎日を戦争だけにはしたくない人がいます」

 

 中央広場では、布製の天幕が幾つも開かれている。

 

 その間を、小さな人影が行き交っていた。

 

 荷物を運ぶ者。

 

 立ち話をする者。

 

 子供の手を引く者。

 

 誰も、上空を進む巨大な飛行船だけを見て生きてはいない。

 

勇翔「楽しそうに生きる方法を、皆は知っているんですね」

 

 雷電が、勇翔へ視線を戻す。

 

雷電「勇翔さんは、知らないのですか?」

 

勇翔「分かりません」

 

 勇翔は、窓へ映る自分の顔を見る。

 

勇翔「子供の頃から、父に戦うための訓練を受けました。学校へ通っていた時期もあります。友人と遊んだ記憶も、何もないわけではありません」

 

 だが、それより鮮明に覚えているものがある。

 

 射撃姿勢。

 

 格闘訓練。

 

 地図の読み方。

 

 敵の見つけ方。

 

 味方を死なせないための判断。

 

勇翔「普通の生活を覚える前に、戦争が始まりました」

 

 第三次世界大戦。

 

 日本国内戦。

 

 その後も、任務は終わらなかった。

 

勇翔「戦場では、自分が何をするべきか分かります。敵を見つける。脅威を評価する。必要なら撃つ。仲間を帰す」

 

 勇翔は自分の両手を見る。

 

勇翔「でも、何も起きていない日に、何をして過ごせばいいのかは分からない」

 

雷電「だから、昨夜も飛行記録を見ていたのですね」

 

勇翔「何かしていないと、落ち着かないんです」

 

 任務がなければ、次の任務へ備える。

 

 整備。

 

 訓練。

 

 記録の確認。

 

 それ以外の時間を、勇翔は持て余していた。

 

勇翔「戦争でしか生きられない身体になった、と言えば大げさですけどね」

 

 自嘲するように笑う。

 

 雷電は笑わなかった。

 

雷電「私も、普通の生活を知っているとは言えません」

 

 勇翔が顔を上げる。

 

雷電「私は、戦うためのDOLLSとして目を覚ましました。飛ぶこと。撃つこと。戻って、次の出撃へ備えること。それが、最初から私の中にありました」

 

勇翔「雷電さんも……」

 

雷電「はい」

 

 雷電は、自分の両手を膝の上で重ねる。

 

雷電「ですから、普通とは何か、私にもよく分かりません」

 

 その言葉に、慰めるための嘘はなかった。

 

 雷電は、勇翔より正しい生き方を知っているわけではない。

 

 同じように戦うために存在し、戦わない時間の使い方を学んでいる途中だった。

 

雷電「ですが、今朝、食堂で焼いた魚がおいしいと思いました」

 

勇翔「はい」

 

雷電「勇翔さんと朝食を取ることを、昨日から楽しみにしていました」

 

勇翔「……はい」

 

雷電「今は、この街を一緒に見られてよかったと思っています」

 

 雷電は窓の外へ目を向ける。

 

雷電「それも、楽しく生きることの一部ではありませんか?」

 

 勇翔は、すぐには答えられなかった。

 

 戦果でもない。

 

 任務達成にも繋がらない。

 

 それでも、雷電と食事をした時間は、無駄だったとは思わなかった。

 

 夢の話を聞いてもらったことも。

 

 こうして街を眺めていることも。

 

勇翔「楽しむというものは、もっと特別なことだと思っていました」

 

雷電「特別なことも、あるのでしょうね」

 

 雷電が僅かに首を傾ける。

 

雷電「でも、最初から特別でなくてもよいと思います」

 

勇翔「最初から?」

 

雷電「何をすれば楽しいのか分からないなら、まず、苦しくないことを一緒に探しましょう」

 

 勇翔の胸に、その言葉が静かに残る。

 

 つらい時は頼ればよい。

 

 何もできない時は、誰かの隣にいればよい。

 

 言葉にすれば簡単だった。

 

 それを実際に行うことが、勇翔には難しい。

 

勇翔「頼るのは、あまり得意ではありません」

 

雷電「知っています」

 

勇翔「まだ、二日しか会っていませんよ?」

 

雷電「その二日で、何度も一人で無理をしようとしていました」

 

 反論できなかった。

 

雷電「頼られたくない時は、私が断ります」

 

勇翔「雷電さんが?」

 

雷電「はい。ですから、断られる前から遠慮しないでください」

 

 雷電は、自分の意思で助ける。

 

 勇翔も、自分の意思で頼る。

 

 一方だけが支える関係ではない。

 

勇翔「では、一つお願いがあります」

 

雷電「何でしょう?」

 

勇翔「この休憩時間が終わるまで、もう少しここにいてください」

 

 雷電は穏やかに微笑む。

 

雷電「喜んで」

 

 それ以上の会話は必要なかった。

 

 二人は並んで、地上の街を眺めた。

 

     *

 

 同時刻。

 

 ツェッペリン、飛行管制区画。

 

 西側空域を監視していた管制員が、一つの反応を捉えた。

 

「西方より航空型、一。識別信号を受信!」

 

 直ちに、信号が照合される。

 

 黒十字帝国学連。

 

 第一迎撃隊。

 

 Me262A-1a。

 

 敵性反応ではない。

 

『こちらシュヴァルベ。ツェッペリン管制、応答せよ』

 

「こちらツェッペリン管制。識別信号を確認しました」

 

シュヴァルベ『黒十字帝国学連より、先導および技術連絡のため派遣された。着艦許可を求める』

 

「シュヴァルベ、着艦を許可します。進入方位二七〇。速度を落とし、誘導信号に従ってください」

 

シュヴァルベ『了解した』

 

 ツェッペリンの後部飛行甲板が開く。

 

 強い風が発着区画へ流れ込んだ。

 

 遠方に、銀灰色の機影が見える。

 

 二つのジェット噴流。

 

 後退角を持つ主翼。

 

 Me262A-1aのARMSを展開したシュヴァルベが、ツェッペリンとの速度差を慎重に減らしていく。

 

 進入経路は安定していた。

 

 余分な動きはない。

 

 発着区画へ接地すると同時に減速。

 

 誘導員の指示へ従い、停止線の手前で完全に止まった。

 

 外扉が閉じる。

 

 区画内の気流が落ち着いたところで、シュヴァルベはARMSとの接続を解除した。

 

 濃い灰色の制服。

 

 鋭い目。

 

 損傷箇所の補修跡が残る装着具。

 

 代理人が、出迎えのため発着区画へ入る。

 

代理人「お疲れ様です、シュヴァルベ」

 

シュヴァルベ「代理人。任務を引き継ぐ」

 

 シュヴァルベは小さな記録端末を差し出す。

 

シュヴァルベ「試験飛行場までの航路。黒十字側の管制周波数。入域後の行動規則だ」

 

代理人「確認します」

 

 代理人が記録を受け取る。

 

シュヴァルベ「例の二人は?」

 

代理人「勇翔大尉は医療休憩中。小貝少佐は格納庫で、機体の検査記録を確認しています」

 

シュヴァルベ「休憩を優先してくれ。先に機体を確認したい」

 

代理人「本人の許可なく、機体や記録へ触れることはできません」

 

シュヴァルベ「承知している。見るだけで構わない」

 

 代理人は数秒考え、警備員へ入室手続きを行うよう指示した。

 

代理人「では、隔離格納庫へご案内します」

 

     *

 

 ツェッペリン、下部航空格納庫。

 

 F-3とA-10は、昨夜と同じ位置へ固定されていた。

 

 輸送中の振動に備え、主脚と胴体へ複数の固定具が追加されている。

 

 兵装管制装置は遮断。

 

 封印記録も異常なし。

 

 機体の周囲には規制線が張られ、許可を持つ技術要員だけが出入りしていた。

 

 A-10の近くでは、小貝が検査記録を読んでいる。

 

 整備作業を行っているわけではない。

 

 医療区と代理人から認められたのは、技術要員が収集した情報へ目を通し、不明点を説明することだけだった。

 

 その隣では、スカイレイダーが主翼下の構造を見上げている。

 

スカイレイダー「十一か所も搭載位置があるんだ」

 

小貝「左右の端は空対空兵装にも使う。任務に合わせて組み替える」

 

スカイレイダー「全部に爆弾を載せるの?」

 

小貝「載せられることと、載せる必要があることは別だ」

 

スカイレイダー「また、それ」

 

小貝「大事なことだからな」

 

 スカイレイダーは楽しそうに笑う。

 

 昨夜の約束どおり、小貝はA-10について話していた。

 

 機体の性能だけではない。

 

 近接航空支援で最も重要なのは、地上部隊との識別と意思疎通であること。

 

 攻撃目標より先に、味方の位置を確認すること。

 

 火力を使い切るのではなく、必要な時に必要な量だけ使うこと。

 

 スカイレイダーは口を挟まず、一つずつ聞いていた。

 

 格納庫の扉が開く。

 

 代理人とシュヴァルベが入ってきた。

 

 小貝が記録板から顔を上げる。

 

シュヴァルベ「小貝高虎少佐だな」

 

小貝「そうだ。あんたは?」

 

シュヴァルベ「Me262A-1a、シュヴァルベ。黒十字帝国学連から、先導と技術連絡のため派遣された」

 

小貝「昨日、同じ空にいたな」

 

シュヴァルベ「覚えていたか」

 

小貝「帰投順を指示した相手の名は覚えている」

 

 シュヴァルベは小さく頷く。

 

シュヴァルベ「機体を見ても?」

 

小貝「規制線の外からなら構わん。触る時は俺と技術要員の立ち会いが必要だ」

 

シュヴァルベ「異論はない」

 

 シュヴァルベは、まずF-3を見る。

 

 鋭い機首。

 

 主翼と胴体の境界を滑らかに繋いだ形状。

 

 二枚の垂直尾翼。

 

 外部へ武装をほとんど露出しない構造。

 

 シュヴァルベ自身も、ジェット推進を使う航空DOLLSだった。

 

 だが、目の前の機体に用いられている設計思想は、彼女の知るものと大きく異なる。

 

シュヴァルベ「昨日、あの高度と速度で戦闘を続けていた理由が、少し分かった」

 

小貝「見ただけで分かるのか?」

 

シュヴァルベ「空気抵抗を減らし、敵の探知を避けるための形だろう。正確な性能までは分からない」

 

小貝「大筋では合っている」

 

 シュヴァルベの視線が、F-3の機首へ描かれたノーズアートで止まる。

 

 桜の花弁に囲まれた、女性の横顔。

 

シュヴァルベ「この人物は?」

 

小貝「勇翔の大切な人だ」

 

シュヴァルベ「それ以上は?」

 

小貝「俺から話すことではない。本人に尋ねて、話したくないと言われたら終わりだ」

 

シュヴァルベ「分かった」

 

 シュヴァルベは追及しなかった。

 

 続いて、A-10へ移る。

 

 F-3とは対照的な外形。

 

 太い直線翼。

 

 胴体後部へ配置された二基のエンジン。

 

 大きく張り出した尾翼。

 

 そして、機首下へ僅かに見える機関砲口。

 

シュヴァルベ「昨日、地上の大型リセッターを破壊した砲か?」

 

小貝「ああ。GAU-8/A。三〇ミリ、七砲身の回転式機関砲だ」

 

シュヴァルベ「弾種は?」

 

小貝「元の世界では、PGU-14/B徹甲焼夷弾を使う。弾芯は劣化ウラン合金だ」

 

 シュヴァルベの表情が僅かに変わる。

 

小貝「ただし、この世界で再構築された弾薬が、同じ組成かは確認できていない。分析が終わるまで、同一物として扱うべきではない」

 

シュヴァルベ「未知の弾薬を、断定しないのか」

 

小貝「外見と記録が同じでも、中身まで同じ保証はないからな」

 

 シュヴァルベは、封印された給弾系統を見る。

 

シュヴァルベ「それだけの火力があれば、地上目標を一方的に破壊できる」

 

小貝「条件が揃えばな」

 

シュヴァルベ「昨日は、まだ弾薬が残っていた。それでも追撃を止めた」

 

小貝「敵航空部隊が戻りつつあった。地上の味方も退避できた。戦闘を続ける理由がなくなっただけだ」

 

シュヴァルベ「武器を使えることと、使うべきことは違う、と?」

 

小貝「そうだ」

 

 シュヴァルベは、小貝を見る。

 

 未知の機体。

 

 未知の兵器。

 

 未知の男性型身体。

 

 そのどれも、黒十字帝国学連にとって警戒すべき要素だった。

 

 だが、兵器の威力だけで操縦者の意図を決めることはできない。

 

シュヴァルベ「今の説明は、黒十字側の記録にも残す」

 

小貝「好きにしろ。ただし、全文を俺にも見せろ」

 

シュヴァルベ「その条件でよい」

 

 スカイレイダーが、二人の間へ顔を覗かせる。

 

スカイレイダー「シュヴァルベが、こんなに長く誰かと話すの、珍しいね」

 

シュヴァルベ「必要な確認をしているだけだ」

 

スカイレイダー「興味もあるでしょ?」

 

シュヴァルベ「否定はしない」

 

 シュヴァルベはF-3とA-10を交互に見る。

 

シュヴァルベ「同じジェット推進を使う存在として、知りたいことは多い」

 

小貝「なら、黒十字へ着いてから、必要な範囲で話す」

 

シュヴァルベ「助かる」

 

 スカイレイダーは、上着のポケットから小さな包みを取り出した。

 

スカイレイダー「話がまとまったところで、これ」

 

 小貝へ、果物味のグミが入った袋を渡す。

 

小貝「何だ?」

 

スカイレイダー「休憩用。食堂で見つけたから」

 

小貝「ありがとう」

 

スカイレイダー「今夜の分も残しておいてね」

 

小貝「そこまで持つかは分からん」

 

スカイレイダー「全部食べたら、また用意するよ」

 

 小貝は袋を上着のポケットへ入れる。

 

 シュヴァルベが、そのやり取りを見ていた。

 

シュヴァルベ「二人は、以前からの知り合いか?」

 

スカイレイダー「昨日から」

 

シュヴァルベ「昨日?」

 

小貝「任務上の関係と、個人的な関係は分けている」

 

スカイレイダー「今夜、もっと知り合う予定」

 

シュヴァルベ「……そうか」

 

 シュヴァルベは、それ以上尋ねなかった。

 

 理解したのか、判断を保留したのかは、表情から読み取れなかった。

 

     *

 

 午前十一時十分。

 

 ツェッペリン、第二会議室。

 

 勇翔と小貝は、代理人からの呼び出しを受けていた。

 

 雷電とスカイレイダーも、同行担当として同席している。

 

 シュヴァルベは、黒十字帝国学連側の連絡員として代理人の隣へ座っていた。

 

 卓上には、二人分の検査結果と、滞在中の行動予定が表示されている。

 

代理人「まず、健康状態から説明します」

 

 小貝が、ポケットからグミの袋を取り出しかける。

 

 代理人が無言で見る。

 

小貝「食べない」

 

 袋を戻した。

 

勇翔「今、何を出そうとしたんです?」

 

小貝「非常食だ」

 

スカイレイダー「私があげたグミ」

 

小貝「黙っていろ」

 

 代理人は一度だけ息を吐き、説明を続ける。

 

代理人「小貝少佐は、生体数値に大きな異常なし。昨日の飛行による疲労も、許容範囲まで低下しています」

 

小貝「飛行許可は?」

 

代理人「地上試験の結果に問題がなく、黒十字側の医療要員も承認すれば、限定空域での試験飛行を許可します」

 

小貝「分かった」

 

代理人「勇翔大尉は、腰部の神経接続に改善が見られます。ただし、急激な加速度、射出座席の作動、長時間の着座に耐えられる状態ではありません」

 

勇翔「実機飛行は不許可」

 

代理人「はい」

 

 勇翔は、予想していたように頷く。

 

代理人「黒十字到着後、まず全身固定式の操縦訓練装置で、視覚情報と操縦入力に対する反応を確認します。身体へ負荷を掛ける試験は、その後です」

 

勇翔「操縦訓練装置なら、参加できますか?」

 

代理人「医療要員が隣で監視することを条件に」

 

雷電「私も同席します」

 

代理人「護衛担当として認めます」

 

 雷電が頷く。

 

代理人「次に、黒十字帝国学連でのお二人の扱いです」

 

 画面が切り替わる。

 

 暫定協力者。

 

 灰燼教会保護対象。

 

 機体試験への技術協力者。

 

 いずれも、正式な黒十字所属を意味するものではない。

 

代理人「黒十字へ配属するわけではありません。滞在期間中、試験施設を借りるだけです」

 

小貝「期間は?」

 

代理人「最短で十日。検査結果によっては延長します」

 

勇翔「案内役は、シュヴァルベさんですか?」

 

シュヴァルベ「そうだ」

 

 シュヴァルベが答える。

 

シュヴァルベ「施設内の行動規則、飛行場の管制手順、黒十字側の技術班との連絡を担当する」

 

小貝「飛び方を教える教官ではない?」

 

シュヴァルベ「二人へ、基本操縦を教える必要があるとは思っていない」

 

 前日の戦闘を見た者としての評価だった。

 

シュヴァルベ「ただし、この世界の空域規則と、ARMS運用は別だ。知らないことは、私から説明する」

 

小貝「十分だ」

 

代理人「雷電とスカイレイダーは、予定どおり護衛兼試験協力。僕も全期間ではありませんが、重要な検査には立ち会います」

 

 代理人が、卓の下から二つの小さな箱を取り出す。

 

代理人「それから、二人へ渡す物があります」

 

 箱が、勇翔と小貝の前へ一つずつ置かれた。

 

 勇翔が蓋を開く。

 

 中に入っていたのは、布製の部隊章だった。

 

 翼を広げたコブラ。

 

 背には、死角を見逃さないことを示す目が描かれている。

 

 飛行教導群。

 

 勇翔と小貝が、かつて所属した部隊の意匠だった。

 

勇翔「アグレッサーの部隊章……」

 

小貝「よく再現したな」

 

代理人「F-3とA-10の記録に残っていた画像を基に、技術班が作りました」

 

勇翔「なぜ、これを?」

 

代理人「黒十字側から、試験参加者を識別する部隊章が必要だと言われました」

 

 代理人は二人を見る。

 

代理人「こちらで勝手に新しい印を与えるより、二人が自分で選んだ過去の印を使う方がよいと思いました」

 

小貝「今の俺たちは、飛行教導群所属ではない」

 

代理人「はい。ですから、正式な所属章ではありません。試験期間中の識別章として使うかどうかは、二人が決めてください」

 

 小貝は部隊章を手に取る。

 

 指先で縁を確かめた。

 

小貝「勇翔。入りたての頃を覚えているか?」

 

勇翔「忘れるわけがないでしょう。何度、小貝さんに撃墜判定を取られたと思っているんです?」

 

小貝「数えていない」

 

勇翔「僕は数えています」

 

小貝「今でも、同じ機体へ乗れば落とせるぞ」

 

勇翔「今の小貝さんが、F-3のシステムへ適応できればの話ですね」

 

小貝「言うようになったな」

 

勇翔「元教官が優秀でしたから」

 

 小貝が僅かに笑う。

 

 部隊章は、失った世界そのものではない。

 

 それでも、自分たちが何者だったのかを思い出させるには十分だった。

 

勇翔「使わせてください」

 

小貝「俺もだ」

 

代理人「分かりました。着用位置は、黒十字側の制服規則と調整します」

 

 代理人が、最後の資料を開く。

 

代理人「話は、もう一つあります」

 

小貝「まだあるのか?」

 

代理人「試験飛行場の使用許可に、追加の要望が付いていました」

 

 画面へ、黒十字帝国学連から届いた文書が表示される。

 

 技術評価委員会。

 

 飛行場司令部。

 

 航空戦術研究班。

 

 複数の部署が、F-3とA-10の能力実証を求めている。

 

勇翔「飛行特性の展示ですか?」

 

代理人「はい。原文には『可能であれば、到着時に両機による曲技飛行を実施されたし』とあります」

 

 勇翔と小貝が、同時に黙る。

 

小貝「可能だ」

 

勇翔「不可能です」

 

 二人の声が重なった。

 

小貝「何が不可能だ?」

 

勇翔「僕は飛行禁止。A-10は曲技飛行を見せるための機体ではありません」

 

小貝「できないとは言っていない」

 

勇翔「できることと、やる必要があることは別でしょう?」

 

 小貝が言葉を止める。

 

 スカイレイダーが、笑いを堪えきれず顔を背けた。

 

シュヴァルベ「勇翔大尉が正しい」

 

 シュヴァルベが、平然と付け加える。

 

シュヴァルベ「試験飛行は、見世物ではない。機体を失う危険を増やす要望は、黒十字側であっても認めるべきではない」

 

小貝「二対一か」

 

代理人「僕も反対です」

 

雷電「私もです」

 

スカイレイダー「私は少し見たいけど、反対」

 

小貝「五対一になった」

 

代理人「ですので、要望はそのまま受け入れていません」

 

 代理人が、回答案を表示する。

 

代理人「勇翔大尉は、高機動操縦訓練装置による模擬飛行。小貝少佐は、地上試験と医療確認を通過した場合のみ、限定空域で低速特性と旋回性能を実証します」

 

小貝「兵装は?」

 

代理人「封印したまま。射撃は別の日です」

 

勇翔「妥当です」

 

代理人「また、到着時はツェッペリンへ搭載したままです。今日すぐに飛んでもらうことはありません」

 

 勇翔と小貝は、同時に息を吐いた。

 

代理人「黒十字側へ、こちらの条件を送ります。拒否された場合は、灰燼教会側の施設へ引き返します」

 

小貝「そこまで強く出てよいのか?」

 

代理人「安全条件を曲げて得た試験結果に、価値はありません」

 

 代理人の声は穏やかだった。

 

 だが、譲歩する意思はなかった。

 

 シュヴァルベも異論を示さない。

 

 黒十字帝国学連の要望を、その所属者が無条件に擁護することはなかった。

 

代理人「回答が来るまで、あと四十分ほどあります」

 

勇翔「その間は?」

 

代理人「休んでください」

 

小貝「また休めと?」

 

代理人「昨日、戦闘から戻ったばかりです。むしろ、今まで休ませられなかった方がおかしいんです」

 

小貝「機体の記録を――」

 

代理人「技術要員が確認しています」

 

勇翔「黒十字の資料を――」

 

シュヴァルベ「到着後に説明する」

 

 退路を塞がれ、二人は黙った。

 

スカイレイダー「じゃあ、小貝。グミを食べながら休もうよ」

 

小貝「お前は、それを食べさせたいだけだろう」

 

スカイレイダー「半分はね」

 

雷電「勇翔さんは、先ほどの観測区画へ戻りますか?」

 

勇翔「はい。お願いしても?」

 

雷電「もちろんです」

 

 代理人が会議終了を告げる。

 

 二人の軍人へ与えられた次の命令は、戦闘でも訓練でもなかった。

 

 四十分、何もしないこと。

 

 それが今の二人にとって、最も難しい任務だった。

 

     *

 

 午前十一時三十分。

 

 前部観測区画。

 

 勇翔は、再び窓の前へ戻っていた。

 

 雷電が隣に座る。

 

 今度は、温かい茶の入った紙杯が二つ置かれている。

 

 少し離れた卓では、小貝とスカイレイダーが一つのグミの袋を分けていた。

 

勇翔「小貝さん」

 

小貝「何だ?」

 

勇翔「一つください」

 

小貝「自分で取れ」

 

 小貝が袋を勇翔へ差し出しかける。

 

 だが、勇翔の車椅子からは少し遠い。

 

 スカイレイダーが袋を受け取り、勇翔の手が届く位置へ持っていく。

 

スカイレイダー「どうぞ」

 

勇翔「ありがとうございます」

 

小貝「俺のグミだぞ」

 

スカイレイダー「私があげたグミだから、私が分けてもいいでしょ?」

 

小貝「それは、俺にあげた時点で俺の物では?」

 

スカイレイダー「細かいなぁ」

 

 勇翔が一つ口へ入れる。

 

 甘酸っぱい果物の味がした。

 

勇翔「おいしいですよ」

 

小貝「そういう問題ではない」

 

 雷電が、声を立てずに笑う。

 

 シュヴァルベは窓際に立ち、外の空域を確認していた。

 

 彼女の端末へ、黒十字帝国学連から返信が届く。

 

 内容を読む。

 

シュヴァルベ「こちらの条件が受理された」

 

 室内の全員が、シュヴァルベを見る。

 

シュヴァルベ「曲技飛行の要望は撤回。模擬飛行と、条件付きの試験飛行でよい」

 

小貝「残念だ」

 

勇翔「安心しました」

 

代理人『こちら管制室。前方に黒十字帝国学連の試験飛行場を確認しました』

 

 天井の通信装置から、代理人の声が流れる。

 

 窓の外。

 

 煉瓦造りの街並みの先に、広大な飛行場が見え始めていた。

 

 長い滑走路。

 

 半地下式の格納庫。

 

 複数の試験施設。

 

 周囲を旋回する黒十字帝国学連の航空DOLLS。

 

 その中の一機が、ツェッペリンの前方へ出る。

 

 到着まで、あと僅かだった。

 

雷電「短いお休みでしたね」

 

勇翔「ええ」

 

雷電「少しは、楽しかったですか?」

 

 勇翔は、窓の外だけを見て答えなかった。

 

 温かい茶。

 

 果物味のグミ。

 

 小貝の不満そうな顔。

 

 スカイレイダーの笑い声。

 

 そして、隣にいる雷電。

 

 戦果にはならない。

 

 報告書へ書く必要もない。

 

 それでも、失いたくないと思える四十分だった。

 

勇翔「はい」

 

 勇翔は、今度は迷わず答えた。

 

勇翔「もう少し長くてもよかったと思います」

 

 雷電が微笑む。

 

雷電「では、次のお休みも一緒に過ごしましょう」

 

勇翔「約束です」

 

 休憩終了を知らせる放送が流れる。

 

 ツェッペリンは高度を下げ、黒十字帝国学連の試験飛行場へ進入を開始した。




はいどうも~

おひさしぶりです素人小説書きです。

大学の勉強で少し遅れ…いや、だいぶ遅れてしまいましたね…

申し訳ないです…

次回はできるだけ早く投稿したいと思います!

それでは、さようなら~

質問などあれば気軽にコメントなどください。

ちなみに、好きなキャラを入れてもらえるとそのキャラの作品で出やすくなります!

※2026年8月29日リメイク完了

好きな子がいたら適当に投票どうぞ!

  • HK416
  • VSK-94
  • AK-12
  • AR-15
  • アズールレーン 赤城
  • アズールレーン 加賀
  • 艦これ 赤城
  • 艦これ 加賀
  • 雷電
  • スカイレイダー
  • シュバァルベ
  • 渡邉 蓮
  • 渡邉 隼人
  • 渡邉 勇翔
  • 小貝 高虎
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。