陸自はドールズフロントライン、海自は艦これとアズールレーン、空自はアッシュアームズ三つの世界でバラバラになりながらでも生き残る   作:ゴーストライターとかした、素人小説書き

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注意

この小説は、シリアスとギャグが少し入っています。
それがいやな方は、上にある矢印ボタンでブラウザバックを推奨します。

もし、この作品の元ネタアッシュアームズが分からない方は、ぜひブラウザバックの後。
グーグル先生にお聞きください。

それでも、大丈夫な方はご覧ください。


Act.9 大空に飛ぶ白の鷹と灰色の鷲

Act.9 大空に飛ぶ白の鷹と灰色の鷲

 

 黒十字帝国学連へ到着してから、九日目。

 

 午前八時十分。

 

 黒十字帝国学連、第二試験飛行場。

 

 隔離格納庫。

 

 巨大な防爆扉の内側に、二機の航空機が並んでいた。

 

 白を基調としたF-3。

 

 灰色の機体へ、二基のターボファンエンジンを背負ったA-10。

 

 ツェッペリンから搬出されて以来、二機は一度も空を飛んでいない。

 

 機体表面の検査。

 

 燃料系統の分析。

 

 操縦翼面と降着装置の作動確認。

 

 電子装置が黒十字帝国学連の観測機器へ悪影響を及ぼさないかを調べる電磁適合試験。

 

 兵装の組成分析と安全装置の確認。

 

 九日間を掛けて、一つずつ試験が進められてきた。

 

 機体を分解して技術を取り出すことは認められていない。

 

 操縦者の許可なく、飛行記録や個人情報へ接触することも禁止されている。

 

 黒十字側の技術者が扱えるのは、勇翔と小貝が開示に同意した範囲だけだった。

 

 その条件を守りながら、ようやく二機を飛ばせるところまで来た。

 

 格納庫の中央では、小貝がA-10の左主翼下を歩いていた。

 

 手には点検表。

 

 黄色い確認札が付いた箇所へ視線を向け、黒十字側の整備員と照合していく。

 

小貝「左主脚、油圧漏れなし。パイロン固定部、異常なし」

 

「確認しました」

 

小貝「機関砲口、異物なし。給弾系統、安全位置」

 

「確認。射撃試験区域へ到達するまでは、地上管制と操縦席の二重安全を維持します」

 

小貝「それでいい」

 

 元の世界と同じ外見をしていても、完全に同じ機体とは限らない。

 

 そのことを、小貝は繰り返し自分へ言い聞かせていた。

 

 A-10は自分の愛機である。

 

 だが、既知であるという思い込みほど、試験飛行で危険なものはない。

 

 小貝は機首側へ回り、空気取入口や機関砲口へ異物がないことを確認する。

 

 最後に、機首装甲へ軽く手を当てた。

 

小貝「九日も待たせたな、お嬢ちゃん」

 

 返事はない。

 

 それでも、小貝には機体が空へ出たがっているように思えた。

 

 少し離れた場所では、F-3の点検が行われている。

 

 勇翔は操縦席へ上がらず、機体の横へ置かれた端末を操作していた。

 

 腰部を支える補助具。

 

 耐G服。

 

 胸元には、心拍、血圧、神経反応を送信する医療センサー。

 

 短時間であれば自力歩行も可能になっていたが、長く立ち続けることは、まだ許可されていない。

 

 勇翔は簡易椅子へ腰掛けたまま、操縦翼面の作動試験を進めていた。

 

勇翔「右水平尾翼、応答正常。左も正常」

 

 技術員が外部電源装置を操作する。

 

 F-3の尾部で、推力偏向ノズルがゆっくりと上下左右へ動いた。

 

 異音はない。

 

 動作角度も、左右で一致している。

 

勇翔「推力偏向機構、作動範囲に異常なし。初期位置へ戻してください」

 

「了解しました」

 

 ノズルが正位置へ戻る。

 

 勇翔は端末へ試験結果を入力した。

 

小貝「そっちは終わりそうか?」

 

 A-10の点検を終えた小貝が近づいてくる。

 

勇翔「あと、飛行制御装置の自己診断だけです」

 

小貝「思ったより早いな」

 

勇翔「ここまで来るのに九日掛かっていますからね」

 

小貝「九日で済んだ、とも言える」

 

 二人の機体は、この世界にとって未知の技術の塊だった。

 

 燃料の規格一つを合わせるだけでも、本来なら数か月を要しておかしくない。

 

 それを可能にしたのは、機体と共に再構築された予備部品と整備記録。

 

 そして、二人の記憶を補助する機体側の診断装置だった。

 

 勇翔の端末へ、自己診断完了の表示が出る。

 

勇翔「飛行制御装置、異常なし。こちらも機体点検終了です」

 

小貝「なら、残る問題は操縦者の方か」

 

 小貝が勇翔の腰部補助具を見る。

 

勇翔「医療試験は通過しています」

 

小貝「制限付きでな」

 

勇翔「飛べることには変わりありません」

 

 勇翔へ与えられた飛行許可には、複数の条件が付いていた。

 

 飛行時間、最大四十五分。

 

 通常時の荷重制限、三・五G。

 

 高度上限、六千メートル。

 

 医療監視装置から警報が出た場合は、試験を中止して直ちに帰投。

 

 高機動、失速特性、最大速度の確認は禁止。

 

 今回行うのは、離着陸と基本的な操縦応答を確かめるための限定飛行だった。

 

 小貝にも、無制限の飛行許可が出たわけではない。

 

 A-10は最高速度を試さず、急降下と急旋回を避ける。

 

 まず低速域の安定性を確認し、その後、指定された射撃試験区域へ移動する。

 

 兵装を使えるのは、地上から明確な許可が出た場合だけだった。

 

小貝「初日に無理をして、また九日寝かされるのは御免だぞ」

 

勇翔「分かっていますよ」

 

小貝「本当に?」

 

勇翔「小貝さんにだけは言われたくありません」

 

 小貝は笑う。

 

 その身体には、黒十字側が調整した耐G飛行服がよく馴染んでいた。

 

勇翔「それにしても、随分似合っていますね」

 

小貝「当然だろう。素材がいいからな」

 

勇翔「服の方ですか?」

 

小貝「俺の方に決まっている。あまりの美しさに、格納庫が狭く見えるだろう?」

 

勇翔「狭いのは、小貝さんの視野です」

 

小貝「相変わらず冷たいな」

 

 軽口を交わしながらも、二人の手は止まらない。

 

 ヘルメット。

 

 酸素マスク。

 

 緊急脱出装置。

 

 携帯翻訳端末。

 

 生存装備。

 

 一つずつ確認する。

 

 格納庫の扉が開いた。

 

 代理人、雷電、スカイレイダー、シュヴァルベが入ってくる。

 

 代理人の手には、最終飛行許可書があった。

 

代理人「二人とも、準備はどうだい?」

 

小貝「機体も操縦者も、いつでも出せる」

 

勇翔「こちらも、点検終了です」

 

代理人「結構。黒十字側の飛行場司令と医療班、それから灰燼教会の担当医。全員の承認が揃いました」

 

 代理人が許可書を二人へ見せる。

 

代理人「本日午前九時より、F-3とA-10の有人試験飛行を許可します」

 

 待ち続けた言葉だった。

 

 小貝はA-10を見上げる。

 

 勇翔は、白いF-3へ目を向けた。

 

 喜びはある。

 

 それ以上に、二人の表情へ軍人としての緊張が戻っていた。

 

代理人「ただし、許可条件は先ほど確認したとおり。曲技飛行は禁止。試験項目にない機動も禁止。勝手に競争を始めるのも禁止だ」

 

小貝「最後のは誰へ言っている?」

 

勇翔「小貝さんでしょう」

 

代理人「二人へ言っている」

 

 代理人は真顔だった。

 

シュヴァルベ「飛行経路を確認する」

 

 シュヴァルベが携帯端末へ飛行場周辺の地図を表示する。

 

シュヴァルベ「離陸後、南西の待機点アルファで合流。高度二千五百メートルを維持して、西部試験空域へ向かう」

 

 地図上へ、一本の経路が描かれる。

 

シュヴァルベ「試験空域の北側は居住区。南側には補給路がある。緊急時を除き、双方の上空へ入るな」

 

小貝「射撃区域は?」

 

シュヴァルベ「さらに西だ。基本飛行試験が完了した後、管制の許可を受けて進入する」

 

勇翔「警戒空域との距離は?」

 

シュヴァルベ「壁の外縁まで、最短で百二十キロメートル。通常のリセッター航空戦力が、短時間で到達できる距離ではない」

 

 勇翔は、その言い方を聞き逃さなかった。

 

勇翔「通常の、ですか?」

 

シュヴァルベ「先日の戦闘で、既存の想定が通用しない相手を見ただろう」

 

 シュヴァルベはF-3とA-10を見る。

 

シュヴァルベ「未知の存在が、二人だけとは限らない」

 

 格納庫の空気が僅かに変わる。

 

 警戒を怠る理由はなかった。

 

 そのため、二機には最小限の実弾兵装が搭載されている。

 

 F-3には、短距離空対空誘導弾二発と機関砲弾。

 

 A-10には、外側パイロンの短距離空対空誘導弾二発と、組成分析を終えた機関砲弾。

 

 いずれも、試験区域へ到達するまでは兵装選択装置を安全位置に固定する。

 

 使用が認められるのは、射撃試験、または自衛のために避けられない場合だけだった。

 

代理人「これは戦闘任務ではない。何か見つけても、まず管制へ報告すること。追跡も、僕たちの許可を待ってからだ」

 

勇翔「了解しました」

 

小貝「了解」

 

代理人「無線呼称は、F-3が《スカイ1》。A-10が《ボルト2》だ」

 

小貝「別々の呼称なのか?」

 

代理人「機体性能も試験項目も違うからね。管制が識別しやすいよう、個別に設定した」

 

勇翔「スカイ1、了解」

 

小貝「ボルト2、了解だ」

 

 スカイレイダーが、小貝の前へ立つ。

 

スカイレイダー「約束、覚えてる?」

 

小貝「今夜の話なら覚えている」

 

スカイレイダー「そっちも大事だけど、今は無事に帰ってくる方」

 

小貝「その約束も、忘れていない」

 

スカイレイダー「無茶はしない?」

 

小貝「必要のない無茶はしない」

 

スカイレイダー「必要だと思ったら、するんだね」

 

小貝「軍人だからな」

 

 スカイレイダーは呆れたように息を吐く。

 

 だが、小貝が軽い気持ちで答えたのではないことは分かっていた。

 

スカイレイダー「だったら、帰るために使って」

 

 スカイレイダーは、小貝の飛行服に付けられた部隊章へ触れる。

 

 翼を広げたコブラ。

 

 背に描かれた目。

 

 飛行教導群の意匠。

 

スカイレイダー「教官だった人なら、帰り方も知っているでしょう?」

 

小貝「もちろんだ」

 

 勇翔の方へは、雷電が近づく。

 

 雷電は、勇翔の医療センサーを一度確認した。

 

雷電「異常はありません」

 

勇翔「ありがとうございます」

 

雷電「飛びたいですか?」

 

勇翔「はい」

 

 迷いのない返事だった。

 

勇翔「怖くないと言えば嘘になります。身体が耐えられるのか。機体が、以前と同じように応えてくれるのか」

 

 勇翔は白いF-3を見る。

 

勇翔「それでも、もう一度飛びたい」

 

雷電「止めません」

 

 雷電は、勇翔の腕を両手で包んだ。

 

雷電「その代わり、戻ってきてください」

 

勇翔「必ず」

 

雷電「苦しくなったら、機体にも、地上にも頼ってください」

 

 前部観測区画で交わした言葉だった。

 

 勇翔は頷く。

 

勇翔「一人で無理をしない。約束します」

 

 雷電が手を離す。

 

 勇翔は、F-3へ搭乗するための昇降台へ移った。

 

     *

 

 午前八時四十分。

 

 第二試験飛行場、管制室。

 

 複数の監視卓へ、F-3とA-10の情報が表示されている。

 

 機体位置。

 

 燃料残量。

 

 操縦装置の状態。

 

 操縦者の心拍数と血圧。

 

 飛行場の気象は、晴れ。

 

 地上気温、二十四度。

 

 風は西北西から毎秒三メートル。

 

 視程、二十キロメートル以上。

 

 滑走路は乾燥。

 

 試験飛行を妨げる気象条件はなかった。

 

 代理人は中央卓へ座り、黒十字側の管制官と並んでいる。

 

 シュヴァルベは、その後方で西側空域の監視を担当していた。

 

 雷電とスカイレイダーは、医療要員と共に別卓へ座る。

 

 スカイレイダーが窓越しに、格納庫前の二機を見る。

 

スカイレイダー「私たちは、付いていかなくてよかったのかな」

 

シュヴァルベ「本日は二機の飛行特性を確認する。異なる航空DOLLSが加われば、観測条件が増える」

 

雷電「それに、勇翔さんの医療監視も必要です」

 

 雷電の画面には、勇翔の生体情報が表示されている。

 

 平常時より、心拍数が僅かに高い。

 

 恐怖だけではない。

 

 九日ぶりに愛機へ乗れる興奮が、数値に表れていた。

 

代理人「地上班、始動を許可します。先にボルト2。その後、スカイ1」

 

     *

 

 A-10の操縦席。

 

 小貝は座席へ身体を固定し、点検表を操縦席脇へ置いた。

 

 補助動力装置を始動。

 

 計器へ電力が入り、警告灯が一斉に点灯する。

 

 その後、自己診断の進行に合わせて、一つずつ消えていった。

 

小貝「ボルト2、電源投入。火災警報試験、正常」

 

管制『確認しました。右エンジン始動を許可』

 

小貝「右エンジン、始動」

 

 圧縮機が回り始める。

 

 回転数が上昇。

 

 燃料が供給され、右側のターボファンエンジンが安定した音を立てた。

 

 続いて、左エンジン。

 

 二基の回転数と温度が、規定値へ収まる。

 

小貝「左右エンジン、安定。油圧、発電機、正常」

 

管制『ボルト2、始動正常を確認』

 

 小貝は、操縦席周辺を見渡した。

 

 計器の配置。

 

 操縦桿の重さ。

 

 エンジンの振動。

 

 身体が覚えている感覚と、一つずつ照合していく。

 

小貝「うん。今日も機嫌がいいな」

 

 計器盤の端を、指先で軽く叩く。

 

 無線へ、勇翔の声が入った。

 

勇翔『こちらスカイ1。無線確認、ボルト2応答せよ』

 

小貝「こちらボルト2。感度良好」

 

勇翔『確認しました』

 

 F-3側でも、二基のエンジンが始動する。

 

 格納庫前へ、低く鋭い作動音が響いた。

 

小貝「久しぶりだな、この呼び方」

 

勇翔『臨時呼称ですけどね』

 

小貝「空で呼び合えるなら、何でもいいさ」

 

 勇翔が小さく笑う。

 

勇翔『そうですね』

 

小貝「黒十字帝国学連。声に出すと、やっぱり妙に格好いいな」

 

勇翔『まだ言っているんですか?』

 

小貝「心が若い証拠だ」

 

勇翔『中学生みたいなことを』

 

小貝「お前は十四の頃、格好いい別名を考えたことはなかったのか?」

 

勇翔『僕が十四の頃……』

 

 無線の向こうで、声が止まった。

 

 勇翔は記憶を探す。

 

 その年代に何をしていたのか。

 

 誰といたのか。

 

 何を好きだったのか。

 

 思い出そうとすると、射撃場と訓練施設の輪郭ばかりが浮かんだ。

 

勇翔『……よく、覚えていません』

 

 小貝は、すぐに話題を変えた。

 

小貝「なら、今から考えればいい」

 

勇翔『今から?』

 

小貝「心が若いのに、年齢制限はないからな」

 

 以前なら、冗談として笑って終わっただろう。

 

 今の勇翔には、少し違って聞こえた。

 

 過去に持てなかった時間を、今から作る。

 

 雷電と話した、普通の生活と同じだった。

 

勇翔『考えておきます』

 

小貝「よし。その話は帰ってからだ」

 

 小貝は酸素マスクを装着し、風防を閉じる。

 

 外の音が遠ざかった。

 

     *

 

 午前八時五十五分。

 

 二機は誘導員の指示を受け、格納庫前から移動を始めた。

 

 先行するのは、A-10。

 

 その後方を、F-3が十分な間隔を空けて進む。

 

 黒十字側の技術員が見守る中、異なる時代の二機が誘導路へ入った。

 

 A-10は、太い主翼と高い位置にある二基のエンジンを揺らしながら進む。

 

 F-3は、白い機首を滑走路へ向けた。

 

管制『ボルト2、滑走路二七手前で待機』

 

小貝「ボルト2、滑走路二七手前で待機」

 

管制『スカイ1、ボルト2の後方で待機』

 

勇翔「スカイ1、後方待機」

 

 小貝は、滑走路左右と最終進入経路を確認する。

 

 進入機なし。

 

 滑走路上に障害物なし。

 

 風向も許容範囲。

 

管制『ボルト2、滑走路二七へ進入。離陸位置で待機』

 

小貝「滑走路二七へ進入。待機」

 

 A-10が滑走路へ出る。

 

 機首を方位二七〇へ合わせ、停止。

 

 小貝はブレーキを保持しながら、左右エンジンの出力を上げた。

 

 計器は安定。

 

 警告灯なし。

 

 飛行場管制塔から、最後の許可が届く。

 

管制『ボルト2、風二九〇度、三メートル。滑走路二七、離陸を許可』

 

小貝「ボルト2、離陸する」

 

 小貝がブレーキを解除する。

 

 二基のエンジンが吼えた。

 

 灰色のA-10が、滑走路上を加速していく。

 

 速度計の針が上がる。

 

 操縦桿へ、翼が揚力を得始めた感触が伝わった。

 

小貝「速度、良し……引き起こす」

 

 前輪が地面を離れる。

 

 続いて、主脚。

 

 重い機体が、地上の拘束から解き放たれた。

 

小貝「ボルト2、離陸。脚上げ」

 

 降着装置を格納。

 

 小貝は急上昇せず、定められた上昇率を守った。

 

 嬉しくないわけではない。

 

 叫びたいほどだった。

 

 だが、今日は自分だけの空ではない。

 

 地上では、スカイレイダーが帰りを待っている。

 

 後ろには、九日ぶりに飛ぶ勇翔がいる。

 

 自由とは、好き勝手に飛ぶことではない。

 

 帰る場所を失わずに、自分で進路を選べることだった。

 

小貝「こちらボルト2。待機点アルファへ向かう」

 

管制『了解。高度二千五百メートルを上限とせよ』

 

小貝「高度制限、了解」

 

 灰色の機体は緩やかに左へ旋回し、青空へ上っていった。

 

     *

 

 滑走路手前。

 

 勇翔は、A-10が上昇していく姿を見送った。

 

 医療監視装置は正常。

 

 腰部に痛みはない。

 

 両脚の感覚も維持されている。

 

管制『スカイ1、滑走路二七へ進入。離陸位置で待機』

 

勇翔「スカイ1、滑走路二七へ進入。待機」

 

 F-3が誘導路から滑走路へ出る。

 

 長い直線が、機首の先へ伸びていた。

 

 勇翔は機体を中央線へ合わせる。

 

 停止。

 

 ブレーキ保持。

 

 エンジン出力を上げる。

 

 二基のエンジンが生む振動が、座席から身体へ伝わった。

 

 勇翔は息を整える。

 

勇翔「スカイ1、離陸準備完了」

 

管制『医療監視、異常なし』

 

雷電『勇翔さん』

 

 管制周波数とは別の回線から、雷電の声が届いた。

 

勇翔「聞こえています」

 

雷電『行ってらっしゃい』

 

 勇翔は、一瞬だけ目を閉じた。

 

 これまで、出撃前に掛けられる言葉は決まっていた。

 

 武運を。

 

 任務を達成せよ。

 

 必ず敵を排除しろ。

 

 行ってらっしゃい。

 

 それは、帰ることを前提にした言葉だった。

 

勇翔「行ってきます」

 

 目を開く。

 

管制『スカイ1、風二九〇度、三メートル。滑走路二七、離陸を許可』

 

勇翔「スカイ1、離陸する」

 

 ブレーキを解除。

 

 スロットルを前へ進める。

 

 白いF-3が走り始めた。

 

 加速に合わせ、身体が座席へ押しつけられる。

 

 医療監視表示は緑のまま。

 

 速度が上がる。

 

 操縦桿を僅かに引く。

 

 機首が上がった。

 

 主脚が滑走路を離れる。

 

 地面が、静かに遠ざかっていく。

 

勇翔「スカイ1、離陸」

 

 降着装置を格納。

 

 F-3は、暖かな朝の光へ機首を向けた。

 

 胸の奥へ、言葉にできない感覚が込み上げる。

 

 恐怖。

 

 安堵。

 

 懐かしさ。

 

 そして、喜び。

 

 勇翔は叫ばなかった。

 

 ただ、酸素マスクの下で笑った。

 

勇翔「帰ってきた……」

 

 空へ。

 

 自分が最も長く生きてきた場所へ。

 

管制『スカイ1、状態を報告せよ』

 

勇翔「操縦応答、正常。機関、正常。身体にも異常なし」

 

雷電『医療数値も正常です』

 

管制『了解。待機点アルファでボルト2と合流せよ』

 

勇翔「了解」

 

 勇翔は旋回角を抑え、F-3を南西へ向ける。

 

 眼下で、黒十字帝国学連の建物が小さくなっていった。

 

     *

 

 待機点アルファ。

 

 先に到着していたA-10が、緩やかな円を描いている。

 

 F-3は速度を落とし、その右後方へ入った。

 

小貝『遅かったな、スカイ1』

 

勇翔「離陸順を決めたのは地上でしょう」

 

小貝『空へ戻った感想は?』

 

 勇翔は、右手側を飛ぶ灰色の機体を見る。

 

勇翔「悪くありません」

 

小貝『それだけか?』

 

勇翔「最高ですよ」

 

 小貝の笑い声が無線へ入る。

 

小貝『そうでなくてはな』

 

 白いF-3。

 

 灰色のA-10。

 

 速度も、役割も、飛び方も違う二機が、同じ空で編隊を組む。

 

 白の鷹と、灰色の鷲。

 

 失われた世界から来た二人の軍人が、再び翼を並べていた。

 

勇翔「スカイ1、編隊位置に入った」

 

小貝『ボルト2、確認』

 

管制『スカイ1、ボルト2。西部試験空域への進入を許可する。方位二五五、高度二千五百メートルを維持』

 

勇翔「スカイ1、了解」

 

小貝『ボルト2、了解』

 

 小貝が先行し、勇翔が速度を合わせる。

 

 二機は、指定された試験空域へ向けて進み始めた。

 

 最初の試験項目は、直線飛行での操縦安定性。

 

 続いて、浅い旋回。

 

 上昇と降下。

 

 編隊間の通信確認。

 

 曲技飛行はない。

 

 競争もない。

 

 それでも、二人にとっては十分だった。

 

 命令に追われるためではない。

 

 敵を殺すためでもない。

 

 自分の意思で空を飛び、帰るための飛行だった。

 

     *

 

 同時刻。

 

 第二試験飛行場、管制室。

 

 雷電は、画面上の二つの機影を見ていた。

 

 勇翔の医療数値は安定している。

 

 スカイレイダーも、A-10の飛行情報を追っていた。

 

スカイレイダー「二人とも、ちゃんと大人しく飛んでる」

 

代理人「失礼な言い方だけど、僕も少し安心したよ」

 

シュヴァルベ「試験は始まったばかりだ」

 

 シュヴァルベは西側監視卓から目を離さない。

 

 黒十字側の長距離警戒装置は、飛行場から数百キロメートル先まで監視している。

 

 壁の外側。

 

 雲の高度。

 

 既知のリセッター航空戦力が侵入する可能性のある経路。

 

 今のところ、異常はない。

 

 管制員の一人が、観測装置の表示へ顔を近づける。

 

「……反応?」

 

 西北西の遠方。

 

 画面の端へ、一つの点が現れた。

 

 続いて、二つ。

 

 三つ。

 

 四つ。

 

 いずれも、黒十字帝国学連の識別信号へ応答していない。

 

「西北西より未確認反応、四!」

 

 管制室の空気が変わる。

 

シュヴァルベ「距離と速度」

 

「距離百八十キロメートル。接近中。速度を再計算します」

 

 観測装置が、複数回の測定結果を照合する。

 

 一度目。

 

 二度目。

 

 三度目。

 

 誤差が縮まっていく。

 

「推定速度、マッハ一・九から二・二」

 

代理人「その速度を出せるリセッターは?」

 

シュヴァルベ「記録にはない」

 

 四つの反応は、一直線に飛行場へ向かっているわけではない。

 

 進路上にいるのは、試験空域へ向かう二機だった。

 

 白いF-3。

 

 灰色のA-10。

 

 代理人は直ちに通信回線を開く。

 

代理人「スカイ1、ボルト2。こちら試験管制。未確認機四機が接近中。方位――」

 

 その瞬間。

 

 監視卓へ、強い雑音が走った。

 

 西側空域から発せられた電波が、通信回線と観測装置へ同時に重なる。

 

 画面が一度、大きく乱れた。

 

雷電「勇翔さん?」

 

 応答はない。

 

スカイレイダー「小貝?」

 

 こちらにも、返事はなかった。

 

 四つの未確認反応は、速度を落とさない。

 

 管制との通信を失ったまま、白の鷹と灰色の鷲は、その接近方向へ飛び続けていた。




はい。

今回は、発射に力を注いでいるのでとても短いです。

次回は、いろんな意味で飛びます。

頑張りますね!

コメントなどお待ちしてます!

評価や、ここ好きもお待ちしてます!

それでは!

※2026年8月29日リメイク完了

好きな子がいたら適当に投票どうぞ!

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