陸自はドールズフロントライン、海自は艦これとアズールレーン、空自はアッシュアームズ三つの世界でバラバラになりながらでも生き残る   作:ゴーストライターとかした、素人小説書き

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もし、この作品の元ネタアッシュアームズが分からない方は、ぜひブラウザバックの後。
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それでも、大丈夫な方はご覧ください。


Act.10 あり得ぬ存在との空戦

Act.10 あり得ぬ存在との空戦

 

 午前九時十二分。

 

 黒十字帝国学連、西部試験空域。

 

 通信機から、砂を噛むような雑音が流れていた。

 

勇翔「こちらスカイ1。試験管制、応答願います」

 

 返事はない。

 

 周波数を切り替える。

 

勇翔「スカイ1より試験管制。通信状態を確認されたし」

 

 やはり、雑音だけだった。

 

 F-3とA-10を結ぶ近距離回線にも、断続的な妨害が入り始めている。

 

小貝『……ルト2より……カイ1。聞こえ……か?』

 

勇翔「こちらスカイ1。途切れていますが聞こえます」

 

小貝『地上とは?』

 

勇翔「繋がりません」

 

 勇翔は操縦席正面の表示を確認する。

 

 F-3のレーダーには、西北西から接近する四つの反応が映っていた。

 

 距離、七十二キロメートル。

 

 高度、約五千五百メートル。

 

 速度は、既に音速付近まで落ちている。

 

 先ほどまでマッハ二前後で接近していた機体が、こちらを捕捉するため減速したと考えれば辻褄が合う。

 

 四機のうち一機は、正面から捉えた時だけ反応が極端に弱い。

 

 残る三機は、強い反射を示していた。

 

勇翔「未確認機四。識別信号への応答なし」

 

小貝『俺の警戒装置にも入った。十一時方向』

 

勇翔「緊急周波数で呼び掛けます」

 

 勇翔は、通信機を国際緊急周波数へ合わせた。

 

勇翔「西北西から接近中の航空機へ。こちら黒十字帝国学連の試験機。貴機を識別できない。針路を維持し、所属と飛行目的を通報せよ」

 

 同じ警告を、国際航空用の英語、ロシア語、Cityの共通語でも繰り返す。

 

 応答はなかった。

 

 四つの機影が、二機ずつ左右へ広がり始める。

 

 進路の変更は小さい。

 

 だが、偶然にすれ違う航空機の動きではない。

 

 F-3とA-10を挟み込むための展開だった。

 

勇翔「ボルト2。相手はこちらを基準に散開しています」

 

小貝『見れば分かる。嫌な動きだ』

 

 勇翔の脅威警報装置が作動した。

 

 正面表示へ、敵レーダーによる捜索を示す記号が現れる。

 

 一つ。

 

 二つ。

 

 断続的だった照射が、連続した追尾へ変わった。

 

勇翔「レーダー追尾を受けています」

 

小貝『こっちもだ』

 

勇翔「未確認機へ警告する。直ちに追尾を停止せよ。従わない場合、敵対行動と判断する」

 

 返答はない。

 

 代わりに、四機のうち二機から小さな反応が分離した。

 

 高速で接近する、新たな四つの点。

 

 ミサイルだった。

 

小貝『発射を確認!』

 

勇翔「右へブレイク! チャフ散布! 高度を下げろ!」

 

 F-3とA-10が、同時に編隊を解いた。

 

 勇翔は右へ旋回しながら降下する。

 

 チャフを散布。

 

 電子妨害装置を作動させる。

 

 真正面から向き合っていた敵レーダーに対し、機体を横へ向ける。

 

 相対速度を抑え、地表から返る雑多な反射へ紛れ込むための回避だった。

 

 A-10も、F-3より大きな旋回半径を取りながら高度を下げていく。

 

 二発のミサイルが、F-3を追う。

 

 残る二発は、A-10へ向かっていた。

 

勇翔「ボルト2、ミサイル二!」

 

小貝『確認している!』

 

 小貝はA-10をさらに降下させた。

 

 速度を保ったまま、西部試験空域に連なる丘陵地へ向かう。

 

 レーダー誘導弾と地表との間へ、稜線を挟むためだった。

 

 一発目が、A-10の後方へ迫る。

 

 警報音が連続音へ変わった。

 

小貝『今だ!』

 

 A-10が稜線の陰へ入る。

 

 追尾に必要な反射を失ったミサイルは、機体が消えた方向へ進んだ。

 

 丘の上を越えた直後、近接信管が作動する。

 

 爆発。

 

 破片が土煙を巻き上げた。

 

 二発目も稜線を越えたが、A-10は既に進路を変えている。

 

 小貝が散布したチャフへ引かれ、斜面へ突き刺さった。

 

 一方、勇翔は二発のミサイルを引きつけたまま、右旋回を続けていた。

 

 身体へ掛かる荷重は、三・二G。

 

 許可範囲内。

 

 さらに旋回を強めれば、三・五Gを越える。

 

 勇翔は操縦桿を必要以上に引かなかった。

 

 一発目の誘導が、電子妨害とチャフの影響で揺らぐ。

 

 F-3の後方を外れ、遠方で自爆した。

 

 だが、二発目は追尾を続けている。

 

 距離表示が急速に減っていく。

 

勇翔「フレア、チャフ連続散布」

 

 勇翔は機首を下げ、速度を増した。

 

 ミサイルが再び接近する。

 

 直前。

 

 F-3は推力偏向を使い、左下へ機首を振った。

 

 急激な方向変化に追従しきれなかったミサイルが、右主翼の外側を通過する。

 

 背後で爆発。

 

 衝撃が機体を揺らした。

 

 警告表示はない。

 

 機体に致命的な損傷も認められなかった。

 

勇翔「スカイ1、回避成功」

 

小貝『ボルト2も無事だ』

 

 通信は途切れながらも、辛うじて届いている。

 

 先に撃ったのは相手だった。

 

 敵対行動は、疑いようがない。

 

勇翔「敵性航空機と判断。自衛戦闘へ移行します」

 

小貝『了解』

 

 兵装選択装置が、安全位置から解除される。

 

 地上管制の許可を待つ余裕はない。

 

 代理人から受けた命令にも、自衛のために避けられない場合は兵装使用を認めると明記されていた。

 

 四機は、最初の攻撃を終えて旋回している。

 

 その外形が、F-3の光学装置へ映った。

 

 双発。

 

 大きく張り出した主翼。

 

 垂直尾翼。

 

 正面反射の小さい一機。

 

 勇翔は、そこにあるはずのない機体名を口にした。

 

勇翔「Su-57、一機……Su-35、三機」

 

小貝『見間違いではないな』

 

勇翔「ええ。ロシア空軍で運用されていた機種と同型です」

 

 敵機の垂直尾翼には、見覚えのある色の標識が描かれていた。

 

 この世界には、ロシアという国家が存在しない。

 

 少なくとも、勇翔たちが知る形では存在していない。

 

 それでも、目の前にいるのは間違いなく、元の世界に存在した戦闘機だった。

 

 考える時間はない。

 

 Su-57とSu-35一機が、F-3へ向きを変える。

 

 残るSu-35二機は、低空へ降りたA-10を追い始めた。

 

勇翔「二機ずつに分かれます。ボルト2は南西へ。居住区から離れてください」

 

小貝『そっちはSu-57か?』

 

勇翔「こちらで引き受けます」

 

小貝『無理なら呼べ。俺も同じだ』

 

勇翔「了解」

 

 白いF-3と灰色のA-10が、別方向へ進路を取る。

 

 四対二の空戦が、二つに分かれた。

 

     *

 

 同時刻。

 

 第二試験飛行場、管制室。

 

 監視装置の表示は、強い妨害によって乱れていた。

 

 機影が現れては消える。

 

 音声通信は、完全に途絶している。

 

 F-3から送られていた勇翔の医療情報も、数秒前の数値を最後に更新されていない。

 

雷電「勇翔さんの情報が止まりました」

 

スカイレイダー「小貝も応答しない」

 

 代理人は、予備回線へ切り替えるよう指示する。

 

代理人「有線で西部監視所へ連絡。観測結果を音声で送らせてください」

 

「了解!」

 

シュヴァルベ「迎撃隊の発進準備は完了している」

 

代理人「到達まで?」

 

シュヴァルベ「最短で八分」

 

 未確認機は、既に二人と接触している可能性が高い。

 

 八分は、空戦では長すぎる。

 

 それでも、発進を止める理由はなかった。

 

代理人「迎撃隊を上げてください。救難隊も待機。居住区上空へ敵機を入れないことを最優先に」

 

シュヴァルベ「了解した」

 

 シュヴァルベが発進命令を伝える。

 

 雷電は、更新されない医療表示から目を離さなかった。

 

雷電「一人で無理をしないと、約束しました」

 

 その声は、届かない。

 

 だが、勇翔が約束を忘れていないことを信じるしかなかった。

 

     *

 

 高度四千八百メートル。

 

 勇翔はSu-57の後方へ入ろうとしていた。

 

 Su-35が、そのさらに外側からF-3を牽制する。

 

 一対二。

 

 単純に先頭機だけを追えば、護衛のSu-35に背後を取られる。

 

 Su-35へ向けば、Su-57が射撃位置へ入る。

 

 二機は互いの死角を補っていた。

 

勇翔「連携を理解している……」

 

 単純な自動操縦ではない。

 

 二機は互いのセンサー情報を共有し、射線と死角を補い合っている。

 

 機動を始める時刻まで、異様なほど正確に揃っていた。

 

 人間同士の連携というより、一つの判断を二つの機体が同時に実行しているように見える。

 

勇翔「戦術AI……まさか、無人機なのか?」

 

 Su-35が機首を向ける。

 

 勇翔は攻撃線を外すため、浅く降下した。

 

 機関砲弾が、F-3の上方を通過する。

 

 その一瞬、Su-57との間隔が開く。

 

 勇翔は追尾目標をSu-35へ切り替えたように見せ、機首を右へ向ける。

 

 Su-35が防御へ回る。

 

 Su-57は、その隙にF-3の後方へ入ろうと旋回した。

 

 勇翔が狙っていたのは、その動きだった。

 

 機首を戻す。

 

 推力を上げる。

 

 Su-57の右後方へ、短時間だけ射線が開いた。

 

 距離、四・八キロメートル。

 

 勇翔は04式空対空誘導弾を選択する。

 

 赤外線画像による捕捉表示。

 

 目標は、まだ大きく旋回している。

 

 完全な後方位置ではない。

 

 だが、発射条件には入った。

 

勇翔「スカイ1、フォックス・ツー」

 

 F-3の兵装庫が開く。

 

 一発目の04式空対空誘導弾が放たれた。

 

 白い煙を引き、Su-57へ向かう。

 

 Su-57は直ちにフレアを散布。

 

 同時に機首を太陽の方向へ向け、強い電子妨害を発した。

 

 誘導弾は目標を追い続けようとしたが、急激に変化した赤外線像と妨害の中で照準点を外す。

 

 Su-57の後方を通過し、離れた空域で自爆した。

 

勇翔「回避された」

 

 残弾は、一発。

 

 Su-57は、誘導弾を避けた勢いのまま急減速へ入った。

 

 機首を大きく持ち上げ、高迎角の姿勢を取る。

 

 速度が急激に落ちた。

 

 通常の追跡機なら、そのまま前へ押し出される。

 

勇翔「オーバーシュートを狙っている……!」

 

 勇翔はスロットルを絞るだけではなく、F-3を上方へ逃がした。

 

 推力偏向を使い、左へロールしながらSu-57の上を越える。

 

 完全なオーバーシュートは避けた。

 

 それでもSu-57は、F-3の下方から機首を向ける。

 

 短距離誘導弾が一発、発射された。

 

 警報音。

 

 距離が近い。

 

 勇翔はフレアを散布し、F-3を右へ反転させた。

 

 荷重が一気に増える。

 

 三・八G。

 

 許可された上限を越えた。

 

 胸元の医療監視装置が、黄色い警報を表示する。

 

 腰の奥へ、鋭い痛みが走った。

 

勇翔「くっ……!」

 

 誘導弾が、フレアの熱源へ引かれる。

 

 F-3の後方を通過し、爆発した。

 

 勇翔は呼吸を整える。

 

 右脚の感覚が、僅かに鈍い。

 

 約束を思い出す。

 

 一人で無理をしない。

 

勇翔「ボルト2。こちらスカイ1。医療警報、黄色。戦闘継続は可能」

 

 激しい雑音の向こうから、小貝の声が返る。

 

小貝『……了解。無理に旋回で……張り合うな。短く終わらせろ』

 

勇翔「了解」

 

 勇翔はSu-57との旋回戦を続けなかった。

 

 速度を回復し、一度距離を取る。

 

 Su-57が追う。

 

 Su-35も、外側から接近してくる。

 

 二機が再び連携を整える前に、片方を戦闘から外さなければならない。

 

 勇翔は上昇を始めた。

 

 急角度ではない。

 

 F-3の加速力を使い、Su-57との距離を一定に保つ。

 

 Su-57が追従。

 

 Su-35は、少し遅れて後方へ付く。

 

 高度五千六百メートル。

 

 許可上限まで、四百メートル。

 

 勇翔は機首を左へ向け、緩い上昇旋回へ移った。

 

 Su-57が内側へ入ろうとする。

 

 その瞬間、勇翔は出力を落とし、機首を下げた。

 

 上昇で失った速度を、降下へ変える。

 

 F-3がSu-57の旋回円の内側へ滑り込む。

 

 操縦桿へ掛ける力は必要最小限。

 

 荷重、三・四G。

 

 警報は黄色のまま、悪化していない。

 

 Su-57の後方が、照準表示へ入る。

 

 距離、七百メートル。

 

 勇翔は誘導弾を使わない。

 

 機関砲を選択。

 

 照準点を、操縦席ではなく機体後部へ合わせる。

 

勇翔「ガンズ」

 

 短い射撃。

 

 二〇ミリ機関砲弾が、Su-57の左エンジン周辺へ命中する。

 

 金属片が飛ぶ。

 

 左側の排気が乱れ、黒煙へ変わった。

 

 勇翔は射撃を止めない。

 

 照準を僅かに右へ移し、二度目の短射を行う。

 

 右エンジン後部にも着弾。

 

 一瞬、炎が噴き出す。

 

 直後、二基の排気が急速に弱まった。

 

 Su-57の速度が落ちる。

 

 機首が下がった。

 

勇翔「敵一番機、両エンジン推力喪失」

 

 Su-57は爆発しなかった。

 

 操縦翼面は動いている。

 

 機上AIは損傷を検知すると、直ちに飛行制御を戦闘機動から緊急滑空へ切り替えた。

 

 機体自身が水平姿勢へ戻り、降下率を抑えようとしている。

 

 推力を失いながらも、機体は滑空を続けている。

 

勇翔「Su-57、戦闘能力喪失。滑空状態へ移行」

 

 追撃すれば、完全に破壊できる。

 

 だが、既にSu-57は射撃位置を維持できない。

 

 脱出の兆候は一切ない。

 

 両エンジンを破壊されても、機体は人間の生存ではなく、機体そのものを残すための最適な操作を続けていた。

 

 勇翔は追加射撃を行わなかった。

 

 撃墜判定としては十分だった。

 

 そして、機体とAI制御系が残れば、このあり得ない空戦の理由を調べられる可能性がある。

 

 勇翔はSu-57の位置を記録する。

 

 その時、左後方から機関砲弾が飛来した。

 

 護衛のSu-35だった。

 

 勇翔は機体を右へ傾ける。

 

 数発がF-3の左主翼後方を掠めた。

 

 外板へ警告表示。

 

 飛行制御に異常はない。

 

勇翔「残り一機」

 

 Su-35は攻撃を終え、そのまま上昇する。

 

 勇翔は追いすがらない。

 

 相手の旋回方向と速度を見て、先回りする進路を選ぶ。

 

 Su-35が上昇から反転。

 

 F-3へ正面を向ける。

 

 互いに機首を向け合う形になった。

 

 距離、六キロメートル。

 

 Su-35が機関砲射撃へ入る前に、勇翔は僅かに右へ針路をずらす。

 

 相手も追って機首を動かす。

 

 そのため、Su-35の旋回開始が遅れた。

 

 勇翔は、すれ違う直前に左へ反転。

 

 F-3の推力偏向を、短時間だけ使う。

 

 荷重、三・六G。

 

 医療警報が赤へ変わった。

 

 右脚から、力が抜ける感覚がした。

 

 だが、Su-35の後方は照準範囲へ入っている。

 

 距離、一・九キロメートル。

 

 残された04式空対空誘導弾を選択。

 

 捕捉。

 

勇翔「フォックス・ツー」

 

 二発目が放たれる。

 

 Su-35はフレアを連続して散布し、右へ急旋回する。

 

 04式空対空誘導弾は、複数の熱源を比較しながら追尾を継続した。

 

 フレアではなく、機体後部の像へ照準を戻す。

 

 Su-35の左エンジン付近へ命中。

 

 尾部が炎に包まれた。

 

 機体が大きく傾く。

 

 それでも、脱出の兆候は一切ない。

 

 炎に包まれた機体は、墜落の直前まで姿勢を立て直そうと操縦翼面を動かし続けた。

 

 Su-35は回転しながら、無人の試験区域へ落下していった。

 

勇翔「敵二番機、撃墜。射出なし……やはり無人機か」

 

 F-3の操縦席へ、連続した医療警報が鳴る。

 

 勇翔は追撃姿勢を解いた。

 

勇翔「スカイ1、敵二機を戦闘から排除。医療警報、赤。これよりボルト2との合流を優先する」

 

 呼吸を整える。

 

 腰部の痛みは増している。

 

 右脚の感覚も、完全ではない。

 

 それでも、F-3の操縦装置は正常だった。

 

     *

 

 南西試験区域。

 

 高度、四百メートル。

 

 小貝は二機のSu-35を後方へ引きつけていた。

 

 A-10が速度で逃げ切ることはできない。

 

 高高度へ逃げても、上昇力と加速力の差で追いつかれる。

 

 小貝が選んだのは、試験区域西端の丘陵地だった。

 

 居住区も、補給路もない。

 

 射撃訓練に使われる無人区域で、低い尾根と浅い谷が連なっている。

 

小貝「速さで勝てないなら、速さを使わせなければいい」

 

 先頭のSu-35が、A-10へ機首を向ける。

 

 赤外線誘導弾が発射された。

 

 警報音。

 

 小貝はフレアを散布し、谷へ沿って左へ曲がる。

 

 速度を落とし過ぎない。

 

 失速させない。

 

 それでも、谷の曲線へ機体を収めるため、限界に近い旋回を続ける。

 

 誘導弾はA-10を追って谷へ入った。

 

 小貝が二度目のフレアを散布する。

 

 同時に、尾根の裏側へ機体を隠した。

 

 誘導弾がフレアへ引かれ、岩肌へ命中する。

 

 爆風が谷を走った。

 

 後続のSu-35二機が、左右へ分かれる。

 

 一機は谷に沿って追跡。

 

 もう一機は高度を取り、A-10の進路を先読みしようとしている。

 

小貝「頭は使っている。だが、こっちが何に乗っているかまでは分かっていないな」

 

 谷へ入ったSu-35は、A-10との距離を急速に縮めていた。

 

 速度差が大きい。

 

 機関砲を撃つためには、Su-35も速度を落とさなければならない。

 

 小貝は空力ブレーキを開く。

 

 A-10がさらに減速。

 

 Su-35は射線を合わせようとするが、機首がA-10の旋回に追いつかない。

 

 谷の中で大きく外へ膨らんだ。

 

小貝「一度目は、譲ってやる」

 

 Su-35がA-10の上方を追い越す。

 

 小貝は、すぐには撃たない。

 

 空力ブレーキを閉じ、残った速度を使って機首を持ち上げる。

 

 A-10の外側パイロンに搭載された短距離空対空誘導弾を選択。

 

 敵機の後方へ照準を合わせる。

 

 距離、一・三キロメートル。

 

 Su-35が加速を始める。

 

小貝「ボルト2、フォックス・ツー」

 

 誘導弾が発射される。

 

 Su-35はフレアを散布しながら右へ旋回。

 

 だが、低速から加速へ移った直後で、十分な回避運動を取れない。

 

 誘導弾は右エンジンと尾翼の間へ命中した。

 

 爆発。

 

 右垂直尾翼が失われる。

 

 Su-35は制御を失い、谷の外側へ流れた。

 

 風防が外れることも、射出装置が働くこともなかった。

 

 機体は自動制御で姿勢を戻そうとしたが、そのまま無人の斜面へ激突した。

 

小貝「一機撃墜。射出なし」

 

 人間が乗っていれば、既に脱出を選んでいる損傷だった。

 

 それでも機体は、撃墜される瞬間まで回避命令を実行し続けていた。

 

小貝「こいつら、最初から誰も乗っていないのか……?」

 

 残るSu-35は、高度を保ったまま旋回している。

 

 小貝は谷を抜け、開けた射撃試験区域へ出た。

 

 背後から、機関砲弾が降ってくる。

 

 小貝はA-10を右へ傾けた。

 

 最初の弾列が左側を通過する。

 

 二度目。

 

 数発が、右主翼外側へ命中した。

 

 激しい振動。

 

 警告灯が点灯する。

 

小貝「右主翼被弾。油圧第一系統、低下」

 

 操縦桿の応答が僅かに重くなる。

 

 燃料圧力は正常。

 

 エンジンにも異常はない。

 

 第二油圧系統は生きている。

 

 飛行は続けられる。

 

 しかし、同じ攻撃をもう一度受ければ、保証はなかった。

 

 Su-35はA-10を追い越し、高度を取る。

 

 すぐに反転し、次の射撃進入へ入る。

 

 小貝は残された誘導弾を使わない。

 

 相手が正面から接近している状態では、発射条件を作りにくい。

 

 そして、一発は帰投時の自衛用として残しておく必要がある。

 

小貝「次で決める」

 

 A-10の機首を、Su-35の接近方向から僅かに外す。

 

 逃げようとしているように見せる。

 

 Su-35が降下角を深くした。

 

 距離、二・八キロメートル。

 

 機関砲射撃へ入るため、さらに接近してくる。

 

 小貝は空力ブレーキを開いた。

 

 速度が落ちる。

 

 同時に左へ旋回。

 

 Su-35はA-10の後方へ付こうと機首を動かす。

 

 だが、高速のまま降下している機体は、低速で小さく回るA-10の旋回円へ収まらない。

 

 Su-35が外側へ膨らむ。

 

 両機の進路が、一瞬だけ交差する。

 

 小貝は、その位置を待っていた。

 

 A-10の機首を、Su-35が通過する少し先へ向ける。

 

 GAU-8/Aを選択。

 

 射線の先に、地上施設も人員もいないことを確認。

 

小貝「ガンズ、ガンズ、ガンズ」

 

 引き金を引く。

 

 七本の砲身が回転。

 

 短い射撃音と共に、三〇ミリ機関砲弾が放たれた。

 

 連続射撃は、一秒にも満たない。

 

 Su-35は弾道へ飛び込んだ。

 

 数発が、左主翼の付け根とエンジン吸気口周辺へ命中する。

 

 外板が剥がれた。

 

 左エンジンから炎が伸びる。

 

 Su-35は上昇しようとしたが、左へ大きく傾いた。

 

 制御翼面は墜落回避のために動き続ける。

 

 だが、今回も脱出の兆候は一切なかった。

 

 機体は炎を引きながら、射撃試験区域へ落下した。

 

小貝「二機目、撃墜」

 

 小貝はGAU-8/Aの射撃を止め、周囲を確認する。

 

 敵影なし。

 

 ミサイル警報なし。

 

 A-10の右主翼では、被弾箇所から細い白煙が流れている。

 

 第二油圧系統は正常。

 

 帰投は可能だった。

 

小貝「ボルト2、敵二機を排除。右主翼被弾。第二油圧系統で飛行継続中」

 

 通信妨害の向こうへ、報告を繰り返す。

 

 数秒後。

 

 雑音が、僅かに弱まった。

 

     *

 

 西部試験空域。

 

 Su-57は、二基のエンジンを失ったまま西へ滑空していた。

 

 高度を少しずつ失っている。

 

 それでも、姿勢は安定していた。

 

 墜落しているのではない。

 

 機上AIが地形を走査し、着陸可能な場所を選んでいる。

 

 両エンジンを失った機体は、残された高度と速度から到達可能範囲を計算し、自律的に滑空経路を修正していた。

 

 機体から発せられていた強い妨害電波が弱まる。

 

 F-3の通信機へ、地上からの声が戻ってきた。

 

代理人『……カイ1、ボルト2! 応答せよ!』

 

勇翔「こちらスカイ1。感度不安定ながら受信」

 

代理人『スカイ1、状況を報告!』

 

勇翔「敵機はSu-57一、Su-35三。四機すべてを戦闘から排除しました」

 

代理人『四機すべて?』

 

勇翔「スカイ1が二機。ボルト2が二機です」

 

小貝『こちらボルト2。確認する。Su-35二機を撃墜した』

 

 小貝の声も戻る。

 

 勇翔は、僚機が生きていることへ安堵した。

 

勇翔「ボルト2、損傷状態は?」

 

小貝『右主翼に被弾。油圧第一系統が低下している。エンジンと第二系統は正常。自力帰投可能だ』

 

小貝『そっちは?』

 

勇翔「左主翼に軽微な損傷。機体の操縦に異常なし。ただし、医療警報が赤です」

 

小貝『それを先に言え!』

 

代理人『スカイ1は直ちに帰投。ボルト2も損傷機として帰投してください。迎撃隊がそちらへ向かっています』

 

勇翔「了解」

 

 勇翔はSu-57の反応へ視線を向ける。

 

勇翔「Su-57は両エンジンを破壊。現在も滑空中です。機上AIによる自律制御を継続していると推定します」

 

代理人『AI? 無人機ということですか?』

 

勇翔「断定はできません。ただし、敵機は通信へ一度も応答せず、致命傷を受けた三機も射出を行いませんでした。四機の連携も、人間の反応速度ではありません」

 

代理人『追撃は不要。位置情報を送ってください。地上回収隊を向かわせます』

 

勇翔「了解。最終確認位置を転送します」

 

 F-3に記録された座標と進路が、回復した通信回線を通じて地上へ送られる。

 

 Su-57が再び攻撃へ戻る可能性はない。

 

 救難と回収は、地上部隊へ任せるべきだった。

 

 勇翔は機首を東へ向ける。

 

 遠方から、黒十字帝国学連の迎撃隊が近づいてくる。

 

 到着したシュヴァルベたちが、F-3とA-10の周囲へ展開した。

 

シュヴァルベ『スカイ1、ボルト2。こちらシュヴァルベ。護衛を引き継ぐ』

 

勇翔「助かります」

 

小貝『来るのが八分遅いぞ』

 

シュヴァルベ『無事なら、帰投後に聞く』

 

小貝『冗談だよ』

 

 シュヴァルベは答えなかった。

 

 だが、声には僅かな安堵が混じっていた。

 

     *

 

 帰投経路。

 

 勇翔はF-3の自動操縦装置を使い、機体姿勢を安定させていた。

 

 完全に操縦を任せることはできない。

 

 それでも、細かな修正を機体側へ預けることで身体への負担を減らせる。

 

 右脚の感覚は残っている。

 

 だが、力を入れると腰部へ痛みが走った。

 

雷電『勇翔さん、聞こえますか?』

 

勇翔「聞こえています」

 

雷電『医療数値を受信しました。飛行を続けられますか?』

 

勇翔「自動操縦を使用しています。意識は清明。両手の操作にも問題ありません」

 

雷電『右脚は?』

 

勇翔「感覚が少し鈍いです」

 

 勇翔は、隠さずに答えた。

 

雷電『分かりました。着陸後、すぐに医療班へ引き渡します』

 

勇翔「お願いします」

 

雷電『……約束は、守りましたね』

 

勇翔「一人では無理でした。機体にも、小貝さんにも頼りました」

 

雷電『はい』

 

 短い返事だった。

 

 責める声ではない。

 

 帰ってくることを確認できた者の声だった。

 

 別の回線では、スカイレイダーが小貝の損傷状況を聞いている。

 

スカイレイダー『右主翼、本当に落ちない?』

 

小貝「第二油圧系統は生きている。操縦もできる。見た目ほど悪くない」

 

スカイレイダー『見た目を、私はまだ見ていないんだけど』

 

小貝「なら、見たら驚くかもしれない」

 

スカイレイダー『小貝』

 

小貝「悪かった。着陸に集中する」

 

 小貝の軽口が止まる。

 

 A-10は速度を抑え、F-3の後方を飛んでいた。

 

     *

 

 第二試験飛行場。

 

 滑走路周辺には、消防車両と救急車両が待機していた。

 

 先に着陸するのは、勇翔のF-3。

 

 機体損傷は軽い。

 

 だが、操縦者の身体状態を優先しなければならない。

 

管制『スカイ1、滑走路二七、着陸を許可。救難車両は待機済み』

 

勇翔「スカイ1、着陸する」

 

 降着装置を展開。

 

 フラップを着陸位置へ。

 

 自動操縦を解除する。

 

 勇翔は右脚へ掛ける力を最小限にし、手元の操縦を中心に進入を整える。

 

 滑走路の中心線が、正面へ伸びる。

 

 降下率、正常。

 

 速度、正常。

 

 F-3の主脚が接地した。

 

 続いて前輪。

 

 勇翔は制動を掛け、機体を減速させる。

 

勇翔「スカイ1、着陸」

 

 滑走路から誘導路へ出る。

 

 待機していた牽引車が接近した。

 

 勇翔は自走を続けず、その場でエンジンを停止する。

 

 昇降台と医療班が、直ちにF-3へ向かった。

 

 雷電も、その後ろを走っている。

 

 勇翔は風防を開け、酸素マスクを外す。

 

 冷たい外気が顔へ当たった。

 

雷電「勇翔さん!」

 

勇翔「ただいま戻りました」

 

雷電「おかえりなさい」

 

 それ以上を話す前に、医療員が勇翔の状態を確認する。

 

 腰部固定。

 

 神経反応の検査。

 

 勇翔は、自分の身体を医療班へ預けた。

 

 約束したとおりだった。

 

 続いて、A-10が最終進入へ入る。

 

 右主翼には複数の被弾痕。

 

 それでも、降着装置は正常に展開している。

 

管制『ボルト2、滑走路二七、着陸を許可。横風は二メートル』

 

小貝「ボルト2、着陸する」

 

 小貝は、損傷した右主翼を僅かに風上へ向ける。

 

 速度を落とし過ぎず、左右の揚力差を抑える。

 

 A-10の主脚が滑走路へ触れた。

 

 一度、小さく跳ねる。

 

 小貝は無理に押さえ込まず、機体が再び沈むのを待った。

 

 主脚が接地。

 

 前輪が降りる。

 

 減速。

 

小貝「ボルト2、着陸完了」

 

 A-10は滑走路端まで進まず、最初の誘導路へ入った。

 

 地上員の指示で停止。

 

 エンジンを切る。

 

 風防を開くと、スカイレイダーが規制線の外側で待っていた。

 

小貝「このとおり、帰ってきたぞ」

 

スカイレイダー「知ってる。ずっと見てたから」

 

 笑顔だった。

 

 だが、その目には涙が滲んでいる。

 

小貝「今夜の約束も、これで守れる」

 

スカイレイダー「まず検査。それから機体の報告。その後でね」

 

小貝「了解した」

 

 小貝は、素直に従った。

 

     *

 

 午前十時二分。

 

 第二試験飛行場、作戦室。

 

 壁面表示へ、戦闘記録が並べられていた。

 

 敵機、四。

 

 Su-57、一機。

 

 Su-35、三機。

 

 Su-57は、勇翔の機関砲射撃により両エンジンを喪失。

 

 機上AIの自律制御によって西部荒地へ滑空後、乾燥した平地へ胴体着陸したことが確認された。

 

 機体は大破していない。

 

 推力喪失による強制着陸のため、撃墜判定は勇翔へ記録された。

 

 Su-35一機は、勇翔の空対空誘導弾により撃墜。

 

 残る二機は、小貝の空対空誘導弾とGAU-8/Aにより撃墜。

 

 黒十字帝国学連の迎撃隊が到着する前に、四機すべての撃墜判定が勇翔と小貝の二人によって確定していた。

 

 さらに、墜落したSu-35三機の遠隔走査では、人体を示す反応が一つも検出されていない。

 

 射出記録も、救難信号もない。

 

 三機とも操縦区画の内部には座席の代わりに、高密度の演算装置と自律飛行制御装置が組み込まれていた。

 

 三機のSu-35がAI制御の完全無人戦闘機であることは、既に疑いようがなかった。

 

 同一の連携網で行動していたSu-57も、同じ無人型である可能性が極めて高い。

 

 代理人は、報告を無言で読む。

 

 シュヴァルベが隣に立っていた。

 

シュヴァルベ「二機で、四機を撃墜した」

 

代理人「そうだね」

 

シュヴァルベ「それも、一機は対地攻撃機だ」

 

代理人「操縦していたのが、小貝少佐でなければ結果は違ったと思う」

 

 勝利は、機体性能だけで得られたものではない。

 

 相手の速度。

 

 地形。

 

 兵装。

 

 僚機の位置。

 

 その全てを、短時間で判断した結果だった。

 

 だが、代理人が見ているのは戦果だけではない。

 

 勇翔は医療区で検査中。

 

 腰部神経反応が、一時的に悪化している。

 

 小貝に大きな負傷はないが、A-10は右主翼と油圧系統の修理が必要だった。

 

 最初の試験飛行としては、あまりにも大きな代償だった。

 

 作戦室の電話が鳴る。

 

 代理人が受話器を取った。

 

代理人「こちら第二試験飛行場」

 

『西部回収隊です。Su-57へ到着しました』

 

代理人「機体内部の状態は?」

 

『生命反応はありません。風防は閉じたままですが、操縦席に人影も座席もありません。代わりに、操縦区画全体を占める電子装置が現在も稼働しています』

 

 代理人とシュヴァルベが、同時に壁面表示を見る。

 

 あり得ない機体。

 

 この世界には存在しないはずの、ロシア空軍機を再現した無人戦闘機。

 

 そして、人間の代わりに収められた正体不明の戦術AI。

 

 これで敵四機すべてが、AI制御の完全無人戦闘機であると確認された。

 

代理人「無理に開けないでください。機体との有線接続も無線接続も禁止。武装解除と電波遮断を優先し、電子戦班と警備要員が揃うまで接触は禁止です」

 

『了解しました』

 

 受話器を置く。

 

シュヴァルベ「二人と同じ場所から来たと思うか?」

 

代理人「分からない」

 

 代理人は、勇翔が語った夢を思い出す。

 

 三つの流れ。

 

 それらが集まる場所。

 

代理人「ただ、偶然で片づけるには、共通点が多すぎる」

 

 Su-57の回収映像が、作戦室へ届く。

 

 損傷した二基のエンジン。

 

 人間の座席を持たない操縦区画。

 

 見覚えのない識別番号。

 

 風防の向こうで、AI中枢の表示灯が一定の間隔で明滅している。

 

 停止したはずの機体の光学センサーが、回収隊の動きを追うように僅かに向きを変えた。

 

 四機との空戦は終わった。

 

 だが、あり得ぬ存在が現れた理由は、まだ何一つ分かっていなかった。




はい。

いや~…

これ書くのめちゃくちゃむずいっすよ…

意外に航空戦って三次元の戦いだからどうやってその緊張感を呼んでいる人に伝えるのか…物凄く難しいですね…

もし、次に航空戦を書くことになったらうまくなっているよう願いたいですね…

次回はウマ娘を書いたら陸自の方を書きますので少々お待ちください。

それでは!

お気に入りコメントお待ちしてます!



今更だけど60話+お気に入り60人突破!!

皆様応援していただきありがとうございます!!

これからも頑張ります!

※2026年8月29日リメイク完了

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