陸自はドールズフロントライン、海自は艦これとアズールレーン、空自はアッシュアームズ三つの世界でバラバラになりながらでも生き残る   作:ゴーストライターとかした、素人小説書き

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第11話 あなたの夢は恐ろしいかもしれない…でもそれは、救いの為なの…

第11話 あなたの夢は恐ろしいかもしれない……でも、それは救いの為なの……

 

 光のない場所だった。

 

 上下も、左右も分からない。

 

 遠くで鳴っていたはずの回転翼の音は消え、代わりに冷たい風だけが頬を撫でている。

 

 蓮は仰向けになったまま、目を閉じていた。

 

???「オイ」

 

 声が聞こえる。

 

???「オキロ、オレ」

 

蓮「……うるせぇな」

 

 久しぶりに眠れたのだ。

 

 痛みも、銃声も、誰かを急かす声もない。

 

 もう少しくらい、このままでいたかった。

 

???「ヨク、コンナトコロデ、ネテイラレルナ」

 

蓮「寝かせろ。俺は今日だけで何回死にかけたと思って――」

 

 蓮は目を開けた。

 

 そして、自分を覗き込んでいる顔を見る。

 

 傷の位置。

 

 短く切った髪。

 

 目つき。

 

 どれも自分と同じだった。

 

 ただし、両目だけは暗闇の中で金色に光っている。

 

蓮「……何で、またお前がいるんだ」

 

レン「ヒヒッ。マタ、アエタナ。オレハ、ウレシイゾ」

 

蓮「俺は嬉しくねぇよ」

 

 蓮は起き上がり、頭を掻こうとした。

 

 指先は髪へ触れる前に止まる。

 

 自分が横たわっていた場所が、黒い空間へ浮かぶ一枚のガラスだと気づいたからだ。

 

 床の下には何もない。

 

 遥か下まで光の届かない暗闇が続いている。

 

 ガラスの内部を流れる白い光だけが、二人の姿を下から照らしていた。

 

蓮「ここは、前にも来た場所か?」

 

レン「チガウ。ココハ、オマエノ、ココロノオクダ」

 

蓮「心の中にしちゃ、随分と足場が悪いな」

 

レン「オマエノ、ココロダカラナ」

 

蓮「どういう意味だ」

 

レン「ソノママノ、イミダ」

 

 レンが笑う。

 

 蓮はガラスの端へ近づきかけ、すぐに足を止めた。

 

 覗き込んでも底は見えない。

 

 落ちれば、どこまで沈むのかも分からなかった。

 

蓮「夢なのか?」

 

レン「夢であって、夢じゃない」

 

 先ほどまで途切れていたレンの言葉が、急に滑らかになる。

 

 声も、蓮自身のものへ近づいていた。

 

蓮「また喋り方が変わったな」

 

レン「お前と話すたび、俺も言葉を思い出しているのさ」

 

蓮「俺の頭の中にいるくせに、忘れるのか?」

 

レン「頭じゃない。もっと深いところだ」

 

 レンは自分の胸を指で叩く。

 

レン「記憶より下。理屈より前。お前が人間の言葉を覚えるより先から持っていたものが、俺だ」

 

蓮「野性の勘とか言っていた、あれか」

 

レン「それも俺の一部だ」

 

 金色の瞳が細められる。

 

レン「お前がこの世界へ来る前は、身体も心も死に近づかなければ、ここまで上がってこられなかった」

 

蓮「今は違うのか?」

 

レン「ああ。お前は一度、完全に死んだ」

 

 その言葉だけは、冗談に聞こえなかった。

 

レン「だが、死がお前を受け取る前に、別の力が引き戻した。生と死の境目が、一度裂けたんだ。だから俺も、前より簡単にお前の前へ出られる」

 

蓮「やっぱり、俺は死んだのか」

 

レン「そうだ」

 

蓮「悪運だけは強いらしいな」

 

レン「それはない」

 

蓮「少しくらい否定しろよ」

 

 蓮は大きく息を吐く。

 

 自分自身と話しているはずなのに、どうしてここまで腹が立つのか分からなかった。

 

蓮「それで? 今日は何の用だ」

 

レン「警告だ」

 

 笑っていたレンの表情が消える。

 

レン「お前たちが向かっている基地で、戦いが始まる」

 

 蓮も表情を変えた。

 

蓮「根拠は?」

 

レン「勘だ」

 

蓮「それだけで部隊は動かせん」

 

レン「なら、理屈もつけてやる」

 

 レンがガラスの上へしゃがみ、指先で二本の線を描く。

 

 一つは基地へ。

 

 もう一つは、その外側を走る道路へ。

 

レン「お前たちは、敵のスポンサーに繋がる人間を二人確保した」

 

 S09基地の情報区画にいるレッドカンパニーの連絡将校。

 

 そして、資料原本とともに地上車両で運ばれている監視兵。

 

レン「証言だけじゃない。共同で動いていた記録まで持ち帰ろうとしている」

 

蓮「口封じか、奪回」

 

レン「両方だろうな」

 

蓮「基地、車列、航空機……三つに分けた俺たちを、それぞれ止めるつもりか」

 

レン「そこまで分かっているなら、俺が細かく話す必要はない」

 

 レンの指が、基地へ伸びる線を弾いた。

 

レン「基地へ着く前に起きろ。空を飛んでいるから安全だと思うな」

 

蓮「敵が対空兵器まで用意していると?」

 

レン「分からない。俺が感じるのは、獣が待ち伏せしている匂いだけだ」

 

蓮「便利なようで、肝心なところは役に立たんな」

 

レン「未来を全部知りたければ、占い師にでも頼め」

 

蓮「この世界にいるなら紹介してくれ」

 

レン「残念。売り切れだ」

 

蓮「何がだよ」

 

 レンが再び笑う。

 

 だが、話が終わった様子はなかった。

 

蓮「まだ何かあるんだろ?」

 

レン「もう一つ。いずれ、お前にはこれが必要になる」

 

蓮「これ?」

 

 蓮は周囲を見る。

 

 暗闇とガラスの床以外、何もない。

 

レン「今から出す。少し離れていろ」

 

蓮「先にそれを言うなら――」

 

 レンが右腕を振り下ろした。

 

 頭上の暗闇が歪む。

 

 次の瞬間。

 

 巨大な物体が落下した。

 

 轟音。

 

 ガラスの床が揺れる。

 

 蓮の爪先から数センチの場所へ、灰色の石棺が突き刺さっていた。

 

蓮「殺す気か、この野郎!」

 

レン「久しぶりに呼び出したから、少しずれた」

 

蓮「少しで済む距離じゃねぇ!」

 

レン「当たってないからいいだろ?」

 

蓮「次やったら、お前ごと蓋を閉めるぞ」

 

 蓮は悪態を吐きながら、石棺を見上げる。

 

 人一人を納めるには大きすぎた。

 

 表面には焼け焦げたような黒い筋が走り、何重もの鎖が巻き付けられている。

 

 錆びた南京錠。

 

 絡み合う鉄条網。

 

 古い護符に似た紙片。

 

 どれも中身を守るためではない。

 

 内側から何かが出ることを恐れているように見えた。

 

蓮「……これを、俺が使うのか?」

 

レン「いつかはな」

 

蓮「覚えがない」

 

 石棺の正面には、金属製の銘板が埋め込まれている。

 

 蓮は表面へ付着した黒い汚れを拭った。

 

 その下に、赤い文字が現れる。

 

 乾いていない血で書かれたように、一文字ずつ濡れた光を帯びていた。

 

 緋色の鳥は、大きな卵を地に落とした。

 

 卵から溢れた呪いは、大地へ根を張り、人と街と未来を喰らった。

 

 その呪いを、神ならざる者へ与えるな。

 

蓮「……趣味の悪い文章だ」

 

 読み終えた瞬間、胸の奥が強く縮んだ。

 

 知らないはずの言葉。

 

 見たことのない石棺。

 

 それでも身体だけが、中にあるものを知っている。

 

 喉が渇く。

 

 指先が冷える。

 

 南京錠へ手を伸ばしてはいけないと、理屈より先に全身が拒んでいた。

 

蓮「中身は何だ」

 

レン「今は知らない方がいい」

 

蓮「俺の中にあるものなら、俺には知る権利がある」

 

レン「権利はある。だが、覚悟がない」

 

 レンは石棺へ手を置く。

 

レン「こいつは、お前を救うための力じゃない」

 

蓮「では、何のためにある」

 

レン「お前が、誰かを救うために使うものだ」

 

 金色の瞳が蓮を見る。

 

レン「だから恐ろしい。救う相手を選ぶたび、救わないものも選ぶことになる」

 

蓮「……」

 

レン「失った記憶が戻り、お前が自分の過去を直視できた時、この蓋が何のために閉じられているのか分かる」

 

蓮「随分と遠回しだな」

 

レン「今のお前に答えだけ渡せば、また自分一人で全部を背負う」

 

 蓮は反論できなかった。

 

 市役所を出てから、何度も同じことを言われている。

 

 一人で決めるな。

 

 一人で戦うな。

 

 助けられることを拒むな。

 

 それでも、危険なものを自分の中へ抱え込む癖だけは、簡単に消えなかった。

 

 ガラスの下を流れていた光が弱くなる。

 

 足元から、小さな音がした。

 

 ひびが一本、床を走っている。

 

蓮「おい」

 

レン「時間だ」

 

 ひびは枝分かれし、二人の間を通って広がっていく。

 

蓮「毎回、もう少しましな帰し方はできないのか?」

 

レン「起きられれば何でも同じだろ」

 

蓮「落とされる側の気持ちを考えろ」

 

レン「俺もお前だ。だから知ってる」

 

蓮「知っていてやるな!」

 

 床が砕けた。

 

 石棺も、レンも、その場に残る。

 

 蓮の身体だけが暗闇へ落ちていく。

 

レン「蓮!」

 

 遠ざかる声が、最後に一度だけ真剣なものへ変わった。

 

レン「今すぐ起きろ!」

 

      ◇

 

蓮「――ッ!」

 

 蓮は目を開けた。

 

 身体を起こそうとした瞬間、胸と左腿へ痛みが走る。

 

蓮「ぐっ……」

 

SOPⅡ「蓮!?」

 

 すぐ近くにいたSOPⅡが、蓮の肩を押さえる。

 

SOPⅡ「急に起きたら駄目だよ! まだ担架に固定されているんだから!」

 

 回転翼の音。

 

 機体の振動。

 

 薄暗いUH-60の機内。

 

 蓮は数度瞬きをして、ようやく自分が現実へ戻ったことを理解した。

 

 胸部の固定具。

 

 左腿の包帯。

 

 担架を床へ繋ぐ金具。

 

 全て、眠る前と同じだった。

 

蓮「……まだ飛んでいるのか」

 

SOPⅡ「うん。基地までもう少しだよ」

 

 SOPⅡは眠っていなかった。

 

 蓮の隣へ座り、窓の外と機内を交互に見ている。

 

 M4A1とM9は目を閉じていたが、武器は手の届く場所へ置かれている。

 

 M16A1は壁へ頭を預け、口を僅かに開けて眠っていた。

 

 トンプソンも腕を組んだまま動かない。

 

 AR-15だけは起きており、蓮の89式を膝へ載せて機体前方を見ていた。

 

 若い搭乗員は、機内後部で装備の固定を確認している。

 

SOPⅡ「怖い夢でも見たの?」

 

蓮「怖いというより、腹の立つ夢だ」

 

SOPⅡ「誰かに怒られた?」

 

蓮「俺に起こされた」

 

SOPⅡ「……まだ寝ぼけてる?」

 

蓮「そうだといいんだがな」

 

 蓮は呼吸を整える。

 

 夢の内容は鮮明に残っていた。

 

 金色の目。

 

 襲撃の警告。

 

 鎖で封じられた石棺。

 

 そして、今すぐ起きろという最後の声。

 

蓮「S09まで、あとどれくらいだ?」

 

 若い搭乗員が腕時計を見る。

 

搭乗員「八分ほどです。到着三分前に、基地へ確認通信を入れます」

 

 偶然と言い切るには、時間が合いすぎている。

 

 蓮は機内用回線を操作し、操縦席へ繋いだ。

 

蓮「機長。基地の誘導信号は入っていますか?」

 

機長『地形の影響で、まだ受信範囲の外だ。予定どおり、到着三分前に一度だけ呼びかける』

 

蓮「それまでに高度を下げ、接近経路を変えてください」

 

機長『理由は?』

 

 夢で、もう一人の自分に警告された。

 

 そのまま話して信じてもらえるとは思えない。

 

蓮「敵は俺たちの帰還先を追っていました。基地の連絡将校、地上車列の捕虜、俺たちの端末にある資料。三つとも狙うなら、基地へ先回りするのが一番早い」

 

M4A1「……蓮さん?」

 

 声で目を覚ましたM4A1が顔を上げる。

 

 蓮は続けた。

 

蓮「基地へ近づくまで送信を控える判断は正しい。ただ、ここまで来れば敵も進路を読んでいる可能性がある。誘導信号が死んでいた場合、予定どおりの高度と針路で接近するのは危険です」

 

 短い沈黙。

 

機長『分かった。送信時刻は変えない。だが、それまで低高度を飛ぶ。対空警戒も始める』

 

 機長はUH-60を僅かに左へ傾けた。

 

 機体が降下を始める。

 

 山林と荒れ地が近づいてくる。

 

 高い場所から見通される時間を減らし、地形の陰を使うためだった。

 

 M4A1が完全に目を覚ます。

 

M4A1「全員、起きてください」

 

 AR-15がM16A1の肩を叩く。

 

 SOPⅡはM9とトンプソンを起こす。

 

 眠気の残っていた機内が、一瞬で帰投前の警戒状態へ変わった。

 

M16A1「何だ。もう着いたのか?」

 

AR-15「敵の待ち伏せを警戒する。装備と固定具を確認して」

 

 M16A1の表情から眠気が消える。

 

 操縦席で警戒装置が操作される。

 

機長『全員、固定具を確認。武器と装備は身体へ固定しろ。搭乗員、側面監視』

 

搭乗員「了解!」

 

 搭乗員が両側の窓を確認する。

 

 SOPⅡも外へ目を凝らした。

 

SOPⅡ「もし鉄血も来ているなら……エクスキューショナーも」

 

 SOPⅡの手が、自分の小銃を強く握る。

 

 その表情を見て、蓮は第八話の戦闘を思い出した。

 

 エクスキューショナーを見た時だけ、SOPⅡの声から普段の明るさが消えていた。

 

蓮「SOPⅡ」

 

SOPⅡ「なに?」

 

蓮「エクスキューショナーを見た時、お前は明らかに様子が違った。以前にも戦ったことがあるのか?」

 

 SOPⅡはすぐに答えなかった。

 

 視線を窓の外へ戻す。

 

SOPⅡ「数年前、僕たちが使っていた基地が鉄血に襲われたんだ」

 

M4A1「SOPⅡ……」

 

SOPⅡ「大丈夫。話せるよ」

 

 SOPⅡは自分の小銃へ目を落とした。

 

SOPⅡ「最初に来たのは、難民の列だった。怪我をした人や、家族とはぐれたって言う人間に混じって、鉄血の小型人形と工作員が入っていた」

 

蓮「検問を内側から壊したのか」

 

SOPⅡ「うん。門が開いたあとで、エクスキューショナーが攻撃部隊を率いて入ってきた。あいつ自身が難民に化けていたわけじゃない」

 

 大柄で目立つエクスキューショナーが、難民に紛れて基地へ入ったわけではない。

 

 彼女は潜入班が門を開けたあと、正面から守備隊を破壊する役を担っていた。

 

SOPⅡ「基地の主力は、その三日前から別の区域へ掃討支援に出ていた。僕もM4たちと一緒に外にいた。残っていたのは警備隊と、訓練を終えていない子たちだけだった」

 

 SOPⅡの声が低くなる。

 

SOPⅡ「戻った時には、もう終わっていた。指揮官も、整備員も、訓練生も……みんな死んでた」

 

 機内の誰も口を挟まない。

 

SOPⅡ「だから、次に会ったら僕が壊す。あいつが何を言っても、誰に止められても」

 

蓮「復讐するなとは言わん」

 

 SOPⅡが蓮を見る。

 

蓮「俺には、それを言えるほど綺麗な過去がない。ただし、一人で行くな」

 

SOPⅡ「……」

 

蓮「殺したいほど憎い相手なら、なおさらだ。怒りで周りが見えなくなった時に、引き戻す奴をそばへ置け」

 

 M4A1がSOPⅡの肩へ手を置く。

 

M4A1「私たちがいます」

 

 SOPⅡは握っていた手を僅かに緩める。

 

SOPⅡ「うん」

 

 短い返事だった。

 

 警戒を続けたまま、数分が過ぎる。

 

副操縦士『S09まで三分。確認通信を開始する』

 

 予定していた時刻だった。

 

副操縦士『S09管制、こちらレスキュー12。北西より接近中。着陸許可を求む』

 

 雑音だけが返る。

 

副操縦士『S09管制、レスキュー12。応答せよ』

 

 二度目にも返答はなかった。

 

機長『予定を変更する。基地へ直接入らず、北西の補助着陸地へ向かう』

 

蓮「待ってください。代替地点も知られている可能性があります」

 

機長『燃料に余裕はない。空中で待つことも、別の基地へ回ることもできない』

 

蓮「敵が地域警備の資料を持っているなら、正規の進入路と代替着陸地は両方待ち伏せできます。どちらにも正面から入らないでください」

 

 機長はすぐに補助着陸地へ機首を向けなかった。

 

 低高度のまま針路を変え、基地と補助着陸地の双方を正面から外す。

 

 SOPⅡが右側の窓へ目を凝らした。

 

SOPⅡ「……煙」

 

 指差した先。

 

 低い稜線の向こうから、黒い煙が複数上がっている。

 

 位置は、S09基地と重なっていた。

 

 AR-15が小型双眼鏡を蓮へ渡す。

 

 蓮は上半身を無理に起こさず、窓越しに煙の根元を探した。

 

 通信塔の近く。

 

 南東の外周。

 

 格納庫側からも、薄い灰色の煙が伸びている。

 

蓮「基地で戦闘が起きている」

 

SOPⅡ「そんな……」

 

 その直後。

 

 機内へ鋭い警報音が響いた。

 

副操縦士『飛翔体接近! 右後方!』

 

機長『フレア、チャフ!』

 

 機体後部から、熱源弾と金属片が連続して放たれる。

 

 UH-60が左へ傾く。

 

 固定具が全員の身体を座席と床へ押しつけた。

 

 蓮は担架の取っ手を握る。

 

 右側の窓を白い煙が横切った。

 

 SOPⅡの瞳が、飛翔体を追う。

 

SOPⅡ「曲がってくる! フレアを見てない!」

 

副操縦士『レーダー照射なし。赤外線でもない!』

 

 機長が稜線の陰へ機体を押し下げる。

 

 ミサイルは、散布された欺瞞目標へ向かわなかった。

 

 地上の射手が光学照準で機体を追い、飛翔体へ修正指令を送り続けている。

 

 SOPⅡの強化視覚が、ミサイルの後方から光を反射する細い線を捉えた。

 

SOPⅡ「後ろに線がある!」

 

蓮「有線指令誘導だ! 熱源も電波も関係ない! 射手との間へ地形を入れろ!」

 

機長『やっている!』

 

 UH-60は地表すれすれまで高度を落とした。

 

 前方に、S09北西部の施設群が見える。

 

 低い整備棟。

 

 資材倉庫。

 

 外周柵。

 

 機長は整備棟の背後へ機体を滑り込ませる。

 

 ミサイルと射手の間から、機体が一度消えた。

 

 だが、距離が近すぎた。

 

 飛翔体は最後に与えられた修正方向を保ったまま、建物の角を越える。

 

 機体後部で爆発が起きた。

 

 轟音。

 

 UH-60が激しく右へ振られる。

 

 機内の照明が消え、赤い非常灯へ切り替わった。

 

 金属片が内壁を叩く。

 

M9「きゃあっ!」

 

 回転翼の音へ、不規則な振動が混じる。

 

副操縦士『尾部被弾! ヨー制御不能、テールローター駆動喪失!』

 

機長『速度を落とすな! 前進速度を保て!』

 

 尾部回転翼を失っても、前へ進んでいる間は垂直尾翼が機体の向きをある程度保つ。

 

 だが、速度を落とせば主回転翼の反動を抑えられず、機体は激しく回転する。

 

 油圧系統の警報も点灯した。

 

副操縦士『第二油圧、圧力低下! 第一系統は維持!』

 

機長『エンジンは二基とも生きている。基地内へ入れる』

 

 機長は操縦桿とペダルを細かく動かし、機体の横滑りを抑えている。

 

 UH-60は真っ直ぐ飛んでいるのではない。

 

 前進速度を保って垂直尾翼へ風を当て、主回転翼の出力を微調整しながら、崩れようとする姿勢を辛うじて繋ぎ止めていた。

 

副操縦士『レスキュー12より全局。メーデー、メーデー、メーデー。S09北西、尾部回転翼駆動喪失。基地内へ緊急進入する』

 

 妨害電波の中へ救難信号を繰り返す。

 

 返答はない。

 

 それでも送信記録だけは残る。

 

 機長が前方の建物を見た。

 

 S09北西端の整備管理棟。

 

 三階建て。

 

 建物の長辺は百五十メートル近くある。

 

 屋上は平坦で、給水塔以外に大きな障害物はない。

 

機長『あの屋上へ降ろす』

 

副操縦士『完全着陸は無理です! 速度を落とした瞬間に回ります!』

 

機長『屋上の長辺へ車輪を接地させ、速度を残したまま転がす。人員を降ろしたら、縁へ達する前に機体を建物から離す』

 

搭乗員「機内、聞こえたな! 固定具を外すのは接地後! 武器を身体へ固定しろ!」

 

 全員が動く。

 

 AR-15が89式を蓮の胸元へ戻し、スリングを固定する。

 

 弾倉は入っていない。

 

 暴れた機内で暴発させないためだった。

 

 M4A1たちは自分の武器を保持し、固定具の解除金具へ手を置く。

 

 衛生要員は蓮の担架を床へ繋ぐ四つの固定点を確認する。

 

 若い搭乗員が側面扉を開いた。

 

 風が機内へ吹き込む。

 

 眼下を、整備棟の屋上が高速で近づいてくる。

 

機長『一度しかできない。接地後、二十秒で全員降りろ』

 

 UH-60の機首が僅かに上がる。

 

 速度を殺し切らないまま降下。

 

 主脚と尾輪が屋上へ触れた。

 

 ゴムが擦れる音。

 

 機体が右へ向きを変えようとする。

 

 機長はコレクティブを絞り、主回転翼から機体へ返る反動を抑え込む。

 

 それでも機体は停止せず、屋上の長辺を低速で転がり続けた。

 

搭乗員「接地! 降りろ!」

 

 最初にM16A1とトンプソンが飛び降りた。

 

 二人は左右へ分かれ、屋上の出入口と周囲を警戒する。

 

 続いてAR-15とM9。

 

 SOPⅡは扉の脇へ残った。

 

SOPⅡ「蓮を!」

 

 衛生要員と搭乗員が担架の固定を外す。

 

 だが、担架ごと狭い扉から出せば時間が掛かる。

 

 M4A1が蓮の胸部固定を解除した。

 

M4A1「痛みますが、我慢してください!」

 

蓮「やれ!」

 

 M4A1とSOPⅡが、蓮の身体を左右から抱える。

 

 左脚へ荷重を掛けないよう持ち上げ、そのまま機外へ運び出した。

 

 屋上までの高さは、一メートルもない。

 

 先に降りたM16A1とトンプソンが受け取る。

 

 蓮の左腿へ痛みが走った。

 

 声を抑え、歯を食いしばる。

 

 衛生要員が救急鞄を抱えて降りる。

 

 M4A1とSOPⅡも続いた。

 

 機体が大きく震えた。

 

副操縦士『機長、限界です!』

 

機長『降りろ』

 

副操縦士『しかし――』

 

機長『機長命令だ。操縦は一人で足りる。重量を減らせ!』

 

 副操縦士は一瞬だけ機長を見る。

 

 それから操縦席を離れ、屋上へ飛び降りた。

 

 最後に若い搭乗員が扉の前へ立つ。

 

 それでも外へ出ようとしない。

 

搭乗員「自分が残ります! 後部の損傷を監視します!」

 

機長『必要ない。降りろ』

 

搭乗員「最後までお供します!」

 

機長『死ぬのは一人で十分だ』

 

 機体の向きが、さらに右へずれる。

 

 主回転翼の先端が、給水塔へ近づく。

 

機長『お前は若い。ここで一緒に死ねば、向こうで俺が先輩たちに殴られる』

 

搭乗員「でも!」

 

機長『乗客を屋内まで誘導しろ。それがお前の任務だ!』

 

 若い搭乗員の表情が歪む。

 

 それでも、命令には逆らわなかった。

 

搭乗員「……了解!」

 

 屋上へ飛び降りる。

 

 M16A1が腕を掴み、機体から離した。

 

 全員が降りたことを確認した機長は、UH-60の出力を上げる。

 

 主輪が屋上から離れた。

 

 尾部回転翼を失った機体が、右へ回り始める。

 

 それでも機長は、回り始めた機体そのものを前方へ押し出した。

 

 屋上。

 

 格納庫。

 

 地上で戦っている味方。

 

 そのどこにも墜とさないため、機首が振られても進行方向だけは基地北側の空き地へ向け続ける。

 

M16A1「……なあ、機長」

 

 開いた側面扉の向こうへ、M16A1が叫ぶ。

 

M16A1「ヴァルハラで会ったら、酒を奢る!」

 

機長『楽しみにしてる』

 

 短い返事。

 

 UH-60の尾部から、金属片が飛ぶ。

 

 機体は整備棟を越えた。

 

 その直後、尾部が大きく折れ曲がる。

 

 回転を抑えられなくなった機体が、北側の資材置き場へ落ちていく。

 

 地面へ接触。

 

 主回転翼が砕ける。

 

 機体が横倒しになり、土と破片を巻き上げながら滑った。

 

 数秒後。

 

 燃料へ火が移り、低い爆発が起きた。

 

 黒煙が上がる。

 

 屋上にいた誰も、すぐには動けなかった。

 

 若い搭乗員が膝をつく。

 

 副操縦士は、燃える機体へ顔を向けたまま拳を握っている。

 

 蓮はM4A1に支えられながら上半身を起こした。

 

 右手を額へ上げる。

 

 痛みで腕が震えていた。

 

 それでも敬礼だけは崩さなかった。

 

蓮「……感謝する」

 

 M4A1たちも、短い黙祷を捧げる。

 

 長く立ち止まることはできない。

 

 基地南東から、連続した機関銃射撃が聞こえた。

 

 南東外周では、敵の装輪装甲車と基地の固定火器が撃ち合っている。

 

 通信塔の一部が炎を上げ、外周柵の向こうでは電子妨害車両のアンテナが回転している。

 

 敵は基地全体を奪うために来たのではない。

 

 守備隊を南東へ引きつけ、その間に別動隊を情報区画へ入れようとしている。

 

 夢の中でレンが描いた線と、現実の戦場が重なっていた。

 

蓮「……当たりやがった」

 

M4A1「何がですか?」

 

蓮「さっき見た、腹の立つ夢だ」

 

 M4A1は理由を尋ねなかった。

 

 代わりに、屋上の全員を見渡す。

 

M4A1「まず、この建物を確保します。負傷者を遮蔽物のない屋上へ残すことはできません」

 

 屋上出入口へ、M16A1とトンプソンが銃口を向ける。

 

 扉は閉じている。

 

 施錠されているか、内側に誰かがいるかは分からない。

 

M4A1「M16姉さんとトンプソンが先頭。AR-15は屋上から南東と北西を監視。SOPⅡとM9は衛生要員を守ってください」

 

SOPⅡ「蓮は?」

 

M4A1「私と一緒に中央です」

 

蓮「また中央か」

 

M16A1「今度こそ理由は分かるだろ?」

 

蓮「嫌というほどな」

 

 副操縦士が若い搭乗員の肩を叩く。

 

副操縦士「俺たちも行く。基地の航空隊へ状況を伝えなければならない」

 

M4A1「武器は?」

 

副操縦士「拳銃だけだ」

 

搭乗員「自分も同じです」

 

M4A1「二人は衛生要員と行動してください。戦闘は私たちが引き受けます」

 

 AR-15が蓮へ89式を渡す。

 

AR-15「弾倉は別にしてある」

 

 蓮は受け取り、薬室が空であることを確認する。

 

 弾倉を差し込む。

 

 槓桿を引き、初弾を装填。

 

 安全装置は掛けたまま。

 

 左脚は満足に動かない。

 

 胸部も、呼吸するたびに痛む。

 

 それでも、目と耳と頭は使える。

 

蓮「敵の目的は情報区画の連絡将校だ。地上車列も狙われている可能性が高い」

 

M4A1「通信を回復させ、指揮官へ知らせます」

 

蓮「無線は妨害されている。建物内の有線電話か、地下回線を探せ」

 

AR-15「屋上から見える範囲では、南東外周が主攻に見える。でも、北西側にも対空班がいた」

 

蓮「陽動と別動隊だ。正面だけを見るな」

 

 M4A1が頷く。

 

M4A1「建物を確保した後、基地司令部との連絡を回復。情報区画の防衛状況を確認します。それまでは、全員で行動します」

 

トンプソン「敵を全部倒すことが目的じゃない、か?」

 

 蓮は第十話で自分が口にした言葉を思い出す。

 

 明日のために、銃を持って逃げる。

 

 だが今度は、帰る場所そのものが攻撃されている。

 

蓮「そうだ。敵を追い回すな。基地の仲間と合流し、守るべきものを守る」

 

 SOPⅡが小銃を構える。

 

SOPⅡ「今度も、みんなで帰る?」

 

蓮「ああ」

 

 蓮は、燃えるUH-60を一度だけ見る。

 

 全員ではない。

 

 一人の命が、自分たちをここまで運んだ。

 

 その犠牲を軽い言葉で塗り潰すことはできない。

 

蓮「帰れる奴は、これ以上一人も置いていかない」

 

 M4A1が屋上扉を指す。

 

M4A1「作戦開始。M16姉さん、開けてください」

 

M16A1「了解」

 

 M16A1が取っ手へ手を掛ける。

 

 トンプソンが反対側から銃口を向ける。

 

 三。

 

 二。

 

 一。

 

 扉が開く。

 

 薄暗い階段。

 

 下の階から、銃声と誰かの叫びが聞こえた。

 

 先頭の二人が内部へ入る。

 

 M4A1が蓮の右腕を肩へ回した。

 

 SOPⅡとM9が衛生要員たちを囲む。

 

 最後にAR-15が屋上を離れ、扉を閉めた。

 

 夢は恐ろしかった。

 

 鎖で封じられた石棺も、その中に眠るものも、蓮にはまだ理解できない。

 

 だが、夢の警告がなければ、大半が眠ったまま攻撃を受けていた。

 

 固定具を締め直す時間も。

 

 高度を下げる時間も。

 

 屋上へ降りる準備も、なかった。

 

 恐ろしいものが、必ずしも破滅だけを運ぶとは限らない。

 

 誰かを救うために使うのなら、それは救いになり得る。

 

 ただし、その代価を誰が払うのか。

 

 蓮は燃える機体の音を背中で聞きながら、暗い階段を一段ずつ下りていった。

 

 S09基地を巡る、新たな戦闘が始まった。




はい。

最近寒すぎて布団から出たくない病が発生しているせいで大学に遅刻しそうになっている素人小説書きです。

いやー、三兄弟見て改めて良く女性に手を出さないなって思いましたねうん…

え?一人セックスしてたって?あれ、三兄弟じゃなくてお友達の方だから(震え声)

そんな改めて自分の小説を読んだ素人小説書きでした。

次回は、戦闘回です。

それでは。

※2026年8月29日リメイク完了

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