陸自はドールズフロントライン、海自は艦これとアズールレーン、空自はアッシュアームズ三つの世界でバラバラになりながらでも生き残る   作:ゴーストライターとかした、素人小説書き

33 / 74
注意

この小説は、シリアスとギャグが少し入っています。
それがいやな方は、上にある矢印ボタンでブラウザバックを推奨します。
それでも、大丈夫な方はご覧ください。


第12話 力と知はすべてを解決する。

第12話 力と知はすべてを解決する。

 

 S09基地、北西整備管理棟。

 

 三階へ続く扉が開く。

 

 最初に入ったM16A1が、銃口を階段の下へ向けた。

 

 トンプソンは踊り場の死角を確認する。

 

M16A1「三階、正面異常なし」

 

トンプソン「右もいない」

 

 非常灯だけが点いていた。

 

 天井から垂れた配線が揺れ、遠くで鳴る銃声に合わせて埃が落ちてくる。

 

 壁には弾痕がある。

 

 だが、新しい血痕も、倒れている者の姿もなかった。

 

M4A1「前進します。全員、間隔を空けすぎないでください」

 

 M16A1とトンプソンが先頭。

 

 その後ろにM4A1と、右肩を借りて歩く蓮。

 

 SOPⅡ、M9、衛生要員。

 

 副操縦士と若い搭乗員が続き、AR-15が最後尾を守る。

 

 蓮は左脚を床へつくたび、腿の奥へ走る痛みを堪えなければならなかった。

 

 呼吸を深くすれば、胸部の傷も痛む。

 

 それでも、屋上へ留まるよりはましだった。

 

 屋外では黒煙が位置を知らせる。

 

 建物の中なら、少なくとも壁と天井がある。

 

搭乗員「ぐっ……」

 

 後ろで小さな声が上がった。

 

 若い搭乗員が手すりへ掴まっている。

 

 右足を床へついた瞬間、表情が歪んだ。

 

副操縦士「どうした?」

 

搭乗員「屋上へ降りた時に捻ったようです。歩けます」

 

衛生要員「見せてください」

 

 衛生要員が短く確認する。

 

 靴の上からでも分かるほど、足首が腫れ始めていた。

 

衛生要員「骨折の可能性は低いですが、走らせることはできません」

 

搭乗員「拳銃は使えます」

 

 腰のホルスターを叩く。

 

 副操縦士も同じように、自分の拳銃を確認した。

 

蓮「撃てることと、前へ出ていいことは別です」

 

搭乗員「ですが――」

 

蓮「機長が最後に命じたでしょう。乗客を屋内へ誘導しろ、と」

 

 若い搭乗員は言葉を失う。

 

蓮「その命令は、まだ終わっていません。生きて航空隊へ戻り、何が起きたか伝えてください」

 

副操縦士「聞こえたな。ここから先は、俺が肩を貸す」

 

搭乗員「……了解」

 

 屋上で命を落とした機長の話を、誰も長く続けなかった。

 

 今は、その死を悼む時間ではない。

 

 その死によって得た時間を、無駄にしないために動く時間だった。

 

     ◇

 

 三階の廊下を半分ほど進んだところで、M16A1が拳を上げた。

 

 全員が止まる。

 

 右側の事務室。

 

 僅かに開いた扉の向こうから、何かが擦れる音がした。

 

M16A1「中にいる者へ告ぐ。こちらはグリフィン。武器を床へ置き、両手を見える位置へ出せ」

 

 返事はない。

 

 代わりに、弱い声が聞こえた。

 

「撃たないで……負傷者がいる」

 

 M4A1が所属識別を送る。

 

 数秒後、扉の隙間から女性職員が顔を出した。

 

 制服の左袖が血で濡れている。

 

「本当に、グリフィンなの?」

 

M4A1「AR小隊、M4A1です。ほかに何人いますか?」

 

「三人。歩けない人が一人いる」

 

 室内には整備員が二人と、通信担当者が一人いた。

 

 机と書類棚で扉を塞ぎ、襲撃が通り過ぎるのを待っていたらしい。

 

 重傷者はいない。

 

 衛生要員が負傷箇所を確認している間、M4A1は通信担当者へ尋ねた。

 

M4A1「基地司令部と連絡できますか?」

 

通信担当者「無線は妨害されています。内線も、二階東側の交換盤が落ちてから使えません」

 

AR-15「交換盤を直せば、地下回線へ繋がる?」

 

通信担当者「回線そのものが切られていなければ」

 

 南東外周の派手な攻撃。

 

 北西側に潜んでいた対空班。

 

 通信塔と誘導信号の遮断。

 

 それぞれが、別々の偶然であるはずがなかった。

 

蓮「交換盤を狙って壊した可能性がある」

 

通信担当者「場所を知っている人間でなければ、真っ先には狙えません」

 

M4A1「敵は基地の配置情報を持っています」

 

 地域警備契約の航空写真。

 

 補助着陸地。

 

 基地内の施設配置。

 

 レッドカンパニーがS09の警備へ関わっていたなら、敵が知っていても不思議ではない。

 

 問題は、どこまで知られているかだった。

 

 その時。

 

 階下から長い連射音が響いた。

 

 一定の間隔で、短く途切れる。

 

 軽機関銃。

 

 それへ複数の小銃が応射する。

 

 戦闘は二階の東側で起きていた。

 

M4A1「交換盤と同じ方向……」

 

蓮「なら、先にいる味方が守っている」

 

M4A1「負傷者をここへ残すことはできません。全員で二階まで移動し、友軍と合流します」

 

 通信担当者が壁の避難案内図を外す。

 

 二階東側。

 

 交換盤室へ続く廊下の手前に、資材搬送用の広い通路がある。

 

 敵がそこを機関銃で押さえているなら、正面から進むのは難しい。

 

M4A1「M16姉さん、先導を。AR-15は後方警戒。蓮さんは歩けますか?」

 

蓮「歩ける」

 

衛生要員「歩かせたくはありません」

 

蓮「多数決なら負けだな」

 

 廊下の端に、資材運搬用の低い台車が置かれている。

 

 M16A1がそれを引き寄せた。

 

M16A1「なら、これに乗れ」

 

蓮「怪我人の扱いじゃないだろ」

 

トンプソン「弾薬箱より丁寧に運んでやるよ」

 

 蓮は反論しようとした。

 

 その前にM4A1とSOPⅡに両側から支えられ、台車へ座らされる。

 

 折り畳んだ防炎布が背中へ当てられ、衛生要員が簡易の固定帯を掛けた。

 

SOPⅡ「これなら、僕でも押せるよ」

 

蓮「本当に荷物になったな……」

 

M4A1「荷物は勝手に歩こうとしません」

 

 正論だった。

 

     ◇

 

 二階、東側搬送通路。

 

 FALは、倒した保管棚の陰へ身を伏せていた。

 

 その左右にFive-sevenとFNC。

 

 M14は後方の扉を守っている。

 

 扉の向こうには、整備員と通信要員、それに基地衛生班を合わせて十一人。

 

 うち四人は、自力で移動できない。

 

 避難中にこの通路で敵と遭遇し、動けなくなっていた。

 

FAL「残弾は?」

 

Five-seven「三割を切ったわ」

 

FNC「私は弾倉一つと、今入っている分だけ!」

 

M14「こちらも同じです!」

 

 通路の反対側。

 

 横倒しにした鋼製台車の後ろから、傭兵の機関銃が射撃を続けている。

 

 その前方には、鉄血のガードが三体。

 

 銃弾へ晒されても前進できる無人兵器を盾にして、少しずつ距離を詰めていた。

 

FAL「ここを抜かれたら、後ろの負傷者が撃たれる! 絶対に通さないわよ!」

 

Five-seven「分かってる。でも、機関銃を止めないと顔も出せないわ」

 

FNC「ガード、あと二十メートル!」

 

 M14が銃剣へ手を伸ばす。

 

 射撃で止められなければ、最後は扉の前で受け止めるしかない。

 

 その時。

 

 敵の背後で、小さな金属音がした。

 

 床を跳ねた円筒が、鋼製台車の横へ転がる。

 

UMP9「目を閉じて!」

 

 白い閃光。

 

 爆音。

 

 傭兵の射撃が止まった。

 

UMP45「今よ」

 

 西側のサービス通路から、三つの銃口が火を噴く。

 

 UMP45が機関銃手を牽制する。

 

 UMP9は前へ出ていたガードの脚部を狙う。

 

 G11が二体目のセンサーを撃ち抜いた。

 

 残る一体が振り返る。

 

 だが、その時には遅かった。

 

 手すりへ小銃を預けていた416が、右手で擲弾発射器の引き金を引く。

 

 低い発射音。

 

 四十ミリ擲弾が、ガードと機関銃陣地の間へ落ちた。

 

 爆発。

 

 破片と衝撃に遮られ、敵の連携が切れる。

 

416「ここから先へは通さない。指揮官も、後ろにいる皆も、誰一人殺させない」

 

FAL「反撃!」

 

 FALたちが遮蔽物から一斉に身を乗り出す。

 

 前からFAL小隊。

 

 後ろから404小隊。

 

 挟まれた傭兵たちは、機関銃を回収することもできない。

 

 数人が西側の分岐へ逃げようとした。

 

 そこへ、上階から降りてきたM16A1とトンプソンが現れる。

 

M16A1「止まれ! 武器を捨てろ!」

 

 先頭の傭兵が銃口を上げる。

 

 M16A1とトンプソンが同時に発砲した。

 

 二人目は足を止める。

 

 小銃を床へ置き、両手を頭の上へ上げた。

 

傭兵「降伏する! 撃たないでくれ!」

 

トンプソン「銃から離れろ。膝をつけ」

 

 傭兵が命令へ従う。

 

 M4A1は角から状況を確認してから、残る者たちを通路へ進めた。

 

 FALが振り返る。

 

FAL「M4A1!? あなたたち、戻ってきたの?」

 

M4A1「ただいま戻りました。説明は後です。負傷者の状態は?」

 

FAL「四人が動けない。ほかは何とか歩けるわ」

 

 FALが、西側通路にいる四人へ視線を移す。

 

FAL「404小隊まで……西外周へ出ていたんじゃなかったの?」

 

UMP45「浸透してきた別動隊を追って、戻ったところよ。416は司令区画へ続く階段で拾ったわ」

 

416「拾われた覚えはないわ」

 

UMP9「でも、一緒に来たよね?」

 

416「戦力を合流させただけよ」

 

 衛生要員がすぐに扉の奥へ入る。

 

 副操縦士と若い搭乗員も続いた。

 

 搭乗員は足を引きずっていたが、運べる医療品を手にしている。

 

 屋上で受けた命令を、最後まで果たすつもりだった。

 

 蓮は台車の上から、通路の向こうを見る。

 

 頭部へ包帯。

 

 固定された左腕。

 

 それでも小銃を手放していない人形が、こちらを見ていた。

 

416「……蓮」

 

蓮「約束どおり戻ったぞ」

 

416「ヘリを一機失って、担架の代わりに台車へ乗って?」

 

蓮「帰ったことに違いはない」

 

416「そういうところが腹立たしいのよ」

 

 怒っている。

 

 だが、その声の奥に安堵があることも分かった。

 

 416はすぐに蓮の前へ来なかった。

 

 先に擲弾発射器の安全を確認し、残る敵を警戒する。

 

 任務を終える前に感情を優先しない。

 

 自然公園から戻った時とは違う。

 

 無茶をしなくなったわけではない。

 

 無茶をする場所を選ぶようになっていた。

 

UMP9「わあ、本当に緑の人だ」

 

UMP45「見世物じゃないわよ、9」

 

G11「眠い……でも、今寝たら怒られる……」

 

FNC「この状況で眠いの?」

 

G11「いつでも眠い」

 

 緊張の残る通路へ、僅かに日常の声が戻った。

 

     ◇

 

 交換盤室は、戦闘が起きた場所から十数メートル先にあった。

 

 扉の錠は撃ち壊されている。

 

 内部の機器も破壊され、一部の配線が引き抜かれていた。

 

 無差別に壊したのではない。

 

 外部回線と司令部へ繋がる回線だけが、正確に切断されている。

 

AR-15「基地の通信系統を知っている」

 

UMP45「敵の案内役は、まだ基地の中にいるかもしれないわね」

 

 G11が交換盤の下へ潜り込む。

 

 眠そうだった目が、露出した端子を見ると僅かに開いた。

 

G11「全部は無理。地下回線を一本だけなら、直結できる」

 

通信担当者「手伝います」

 

 負傷した通信担当者が、使える線を選ぶ。

 

 G11が被覆を剥ぎ、端子を繋ぐ。

 

 FNCから受け取った工具で仮固定。

 

 数分後。

 

 壁際の電話機へ、小さな発信音が戻った。

 

M4A1「こちらAR小隊、M4A1。S09司令部、応答してください」

 

 雑音。

 

 次いで、聞き覚えのある声。

 

指揮官『M4A1? 無事なの!?』

 

M4A1「はい。レスキュー12は北西からの攻撃で墜落。機長一名が死亡しました。残る搭乗者は管理棟内へ退避しています」

 

 通信の向こうで、短い沈黙が生まれる。

 

指揮官『……確認したわ。救助に向かわせたいけれど、南東外周と情報区画で戦闘が続いている』

 

蓮「地上車列は?」

 

指揮官『外周道路東端で最後の短時間通信を受けたあと、連絡が途絶えている。監視兵と資料原本は、まだ基地へ到着していない』

 

 夢の中で描かれた、もう一本の線。

 

 そちらでも、戦闘が始まっている可能性が高い。

 

M4A1「情報区画の連絡将校は?」

 

指揮官『地下房へ移してある。現在は安全よ。ただし、敵の別動隊が北西管理区へ侵入している』

 

 M4A1が周囲を見る。

 

 自分たちがいる場所だった。

 

指揮官『伝えていなかったことがあるわ。ベレゾヴィッチ・クルーガー社長が、基地防衛会議のため昨日からS09に滞在している』

 

FAL「社長が!?」

 

指揮官『襲撃開始後、護衛のAK-15と一緒に北西管理区の補助指揮シェルターへ避難させた。直前まで連絡は取れていたけれど、交換盤が落ちてから状況を確認できない』

 

UMP45「敵もその情報を知っている、と?」

 

指揮官『その可能性が高い。生け捕りにすれば、連絡将校との交換材料になる。グリフィンの内部情報を奪うこともできる』

 

 基地を完全に制圧する必要はない。

 

 連絡将校を奪う。

 

 証拠を積んだ車列を止める。

 

 そして、グリフィンの最高責任者を捕らえる。

 

 敵は最初から、必要なものだけを盤面から取り除くつもりだった。

 

蓮「シェルターまでの経路は?」

 

指揮官『一階の屋内市街戦訓練区画。その最深部よ』

 

M4A1「こちらで確認します」

 

指揮官『無理はしないで。情報区画からも応援を――』

 

 大きな雑音。

 

 仮接続した端子から火花が散る。

 

 通話が途切れた。

 

G11「もう一度繋ぐには、少し時間がいる」

 

UMP45「その時間はなさそうね」

 

 捕らえた傭兵の無線機から、音声が聞こえていた。

 

『第一破砕班、配置完了。目標扉へ成形炸薬を設置する』

 

『対象は生存状態で確保しろ。護衛人形は破壊して構わない』

 

 シェルターへの攻撃が始まろうとしている。

 

M4A1「負傷者と航空要員は、FALたちが確保した部屋へ移してください」

 

FAL「ここは任せなさい。交換盤も守るわ」

 

副操縦士「俺たちは、回線が戻ったら航空隊へ報告する」

 

搭乗員「負傷者の運搬も手伝います」

 

 若い搭乗員は、まだ自分の足で立っていた。

 

 それを確認して、M4A1が頷く。

 

M4A1「404小隊は?」

 

UMP45「私と9、G11は西側通路から情報区画へ向かう。ここへ来るまでに、敵が二班そちらへ移動するのを見たわ」

 

416「私は残る」

 

UMP45「左腕が使えないでしょう?」

 

416「シェルターまでの構造を知っている。それに、蓮へ返すものがある」

 

蓮「ようやく返す気になったか」

 

416「本人だと確認してからよ。口答えできるなら、まだ余裕はありそうね」

 

 UMP45は一瞬だけ416を見る。

 

 無理に止めても聞かないと判断したらしい。

 

UMP45「分かった。ただし、M4A1の指揮に従いなさい」

 

416「了解」

 

M4A1「シェルターへ向かうのは、AR小隊、トンプソン、M9、416、蓮さん、衛生要員です。敵との接触を避け、社長の安全確認を優先します」

 

M16A1「接触を避けられなかったら?」

 

M4A1「目的達成に必要な分だけ戦います」

 

蓮「皆殺しにする必要はない」

 

 誰も異論を挟まなかった。

 

     ◇

 

 一階、屋内市街戦訓練区画。

 

 巨大な訓練棟の内部には、古い欧州都市を模した街路が造られていた。

 

 煉瓦造りの建物。

 

 崩れた路面電車の模型。

 

 土嚢を積んだ交差点。

 

 砲塔を失った戦車の実物大標的。

 

 現在の訓練設定は、一九四五年のベルリン市街戦。

 

 もちろん、本物の街ではない。

 

 建物の奥行きは数メートルしかなく、窓の向こうには観測用の通路がある。

 

 壁の一部は可動式で、訓練内容に合わせて街路の形を変えられる。

 

蓮「随分と金の掛かった訓練場だな」

 

M16A1「うちの社長は歴史好きでね」

 

416「今は観光している場合じゃないわ」

 

 M4A1が携帯端末へ施設図を表示する。

 

 シェルターは、模擬市庁舎の奥。

 

 正面の街路には敵影が八。

 

 鉄血のガードが二体。

 

 傭兵六人。

 

 二人が成形炸薬を扉へ取り付けている。

 

 残りは周囲を警戒し、軽機関銃一挺が街路を正面から押さえていた。

 

 M16A1が双眼鏡を下ろす。

 

M16A1「正面突破はできる。だが、扉の前で撃ち合えば中の社長まで巻き込む」

 

AR-15「炸薬を撃って止めるのも危険ね」

 

SOPⅡ「裏から回れないの?」

 

416「シェルターには非常脱出口がある。でも、内側からしか開けられない。外部通信が切れているから、AK-15へ合図を送ることもできない」

 

 蓮は街路ではなく、天井近くへ視線を向けた。

 

 観測窓。

 

 監視カメラ。

 

 可動壁の走行溝。

 

 模擬煙を出す装置。

 

蓮「訓練設備の制御室は?」

 

M4A1「北側の観測階です。非常電源が生きていれば、設備は動かせます」

 

蓮「敵は基地の通信設備を知っていても、訓練装置まで止めてはいない」

 

 敵が見ているのは、シェルターの扉。

 

 背後にある街全体を、ただの作り物だと思っている。

 

蓮「なら、この街そのものを使う」

 

     ◇

 

 観測階の制御室には、幸い誰もいなかった。

 

 主電源は落ちている。

 

 だが、非常用蓄電池は残っていた。

 

 M4A1が認証カードを通す。

 

 画面へ訓練区画の平面図が表示された。

 

 可動隔壁。

 

 模擬煙。

 

 照明。

 

 音響装置。

 

 標的人形。

 

 全てを個別に操作できる。

 

 さらに、シェルターとの保守用信号線も生きていた。

 

416「音声は送れない。でも、扉の状態確認信号なら出せる」

 

蓮「決められた回数で送れば、味方の合図にできる」

 

M4A1「三回、間隔を空けて二回。グリフィンの緊急識別に使う組み合わせです」

 

 416が信号を送る。

 

 三回。

 

 二回。

 

 少し待つ。

 

 シェルター側から、同じ信号が返ってきた。

 

M4A1「中は生きています」

 

 蓮は監視画面の敵配置を見る。

 

 正面の軽機関銃。

 

 扉の前に破砕班二人。

 

 右側の路地へ警戒二人。

 

 ガード二体は、扉と街路の中間。

 

 全員を一度に相手にする必要はない。

 

蓮「隔壁を三枚使う。機関銃、破砕班、後衛を分断する」

 

M4A1「隔壁が動けば、すぐ罠だと気づきます」

 

蓮「先に照明を落として模擬煙を出す。音響装置で南側に銃声を流せ。敵がそちらへ意識を向けた瞬間に閉じる」

 

416「非常脱出口の前にも隔壁がある。そこだけ開ければ、AK-15を外へ出せる」

 

M4A1「合図は?」

 

蓮「同じ識別信号のあとに一回。三、二、一だ」

 

 M4A1は数秒だけ考える。

 

 それから、各員へ命令を出した。

 

M4A1「M16姉さんとAR-15は観測階から機関銃を制圧。トンプソンとSOPⅡは地上西側。M9は衛生要員と蓮さんを守ってください。416は私と制御を担当します」

 

蓮「俺も銃は使えるぞ」

 

M4A1「目と頭を使う役目です。銃は最後にしてください」

 

蓮「了解」

 

 指揮官はM4A1。

 

 その判断に従う。

 

 蓮は監視画面へ集中した。

 

     ◇

 

傭兵下士官「設置を急げ! 増援が来る前に扉を破る!」

 

傭兵「あと一分!」

 

 破砕班が炸薬の導線を繋ぐ。

 

 観測階で、416が最後の識別信号を送る。

 

 三回。

 

 二回。

 

 一回。

 

 その時、訓練区画の南側で銃声が響いた。

 

 傭兵たちが一斉に顔を向ける。

 

傭兵下士官「南を確認しろ!」

 

 二人が動いた瞬間、照明が消えた。

 

 街路へ白い模擬煙が噴き出す。

 

傭兵「何だ!?」

 

 床の走行溝から、鋼製隔壁が立ち上がる。

 

 一枚目が軽機関銃手を分断。

 

 二枚目が破砕班と後衛の間を塞ぐ。

 

 三枚目がガード一体を狭い路地へ閉じ込めた。

 

 敵の八つの戦力は、一つではなくなった。

 

 監視画面の中で、シェルター側から非常脱出口が開かれ、表示が緑へ変わる。

 

M4A1「今です!」

 

 模擬建物の裏側で、金属扉が開いた。

 

 最初に現れたのは、筋肉質で背の高い銀髪の人形だった。

 

 AK-15。

 

 彼女は煙の中へ迷わず踏み込む。

 

 破砕班の一人が振り向き、拳銃を向けた。

 

 AK-15は銃を持つ手首を掴む。

 

 捻る。

 

 拳銃が床へ落ちた。

 

 その身体を、取り付け途中の炸薬から離れた壁へ叩きつける。

 

 もう一人が起爆器へ手を伸ばす。

 

 AK-15の蹴りが、起爆器ごと腕を弾いた。

 

 同時に、観測階からM16A1とAR-15が射撃する。

 

 軽機関銃手は、隔壁の切れ目から一度も正確な照準を得られないまま倒れた。

 

 西側では、トンプソンとSOPⅡが後衛を押さえる。

 

SOPⅡ「武器を捨てて!」

 

 傭兵一人が小銃を投げた。

 

 もう一人も、それに続く。

 

 鉄血のガードが隔壁へ銃撃を加える。

 

 薄い鋼板が内側へ膨らんだ。

 

 破られるまで長くはない。

 

416「右路地の隔壁、限界よ」

 

蓮「隔壁を半分だけ開けた方がいい」

 

M4A1「開けたら、ガードが街路へ出ます」

 

蓮「閉じ込めたまま破られれば、出る方向を選べない。こちらで出口を決める」

 

 M4A1が進行方向を確認する。

 

 隔壁の正面には、AK-15がいる。

 

M4A1「分かりました。こちらで出口を限定します」

 

M4A1「AK-15、ガードを一体出します!」

 

AK-15「了解」

 

 隔壁が半分だけ下がる。

 

 ガードが銃口を出した。

 

 AK-15は銃身を横から掴み、射線を天井へ逸らす。

 

 発砲。

 

 弾丸が照明を砕く。

 

 AK-15はそのままガードを隔壁へ引き寄せた。

 

 肩から衝突。

 

 装甲が軋む。

 

 二度目の打撃で、ガードの胴体が可動壁と床の間へ倒れた。

 

 M4A1が隔壁を再び上げる。

 

 機体は腰部を挟まれ、動きを止めた。

 

 残る一体は、M16A1とAR-15の交差射撃でセンサーと関節を破壊される。

 

 戦闘は、一分も掛からなかった。

 

 煙が薄くなる。

 

 床には武器を捨てた傭兵が二人。

 

 AK-15に制圧された破砕要員が一人。

 

 残りは動かない。

 

M4A1「全員、その場から動かないでください!」

 

 M4A1たちが地上へ降りる。

 

 トンプソンが投降者の武器を遠ざける。

 

 SOPⅡが一人ずつ手を拘束した。

 

 蓮は衛生要員とM9に台車を押され、最後に街路へ入った。

 

 その視線が、扉の前で止まる。

 

 気絶していたはずの破砕要員。

 

 右手の指先が、床を探っている。

 

 少し先に、落とされた起爆器があった。

 

蓮「AK-15、足元!」

 

 AK-15が即座に反応する。

 

 起爆器を踏み、破砕要員の手を床へ押さえつけた。

 

AK-15「抵抗を確認」

 

傭兵「ぐっ……!」

 

AK-15「手を失いたくなければ、動くな」

 

 それで、指先の動きは止まった。

 

 蓮は息を吐く。

 

 昔なら、降伏した敵をその場で撃っていたかもしれない。

 

 偽装降伏。

 

 自爆。

 

 背後からの発砲。

 

 それらを一度でも経験すれば、捕虜を生かすこと自体が危険に見えてくる。

 

 実際に、上官の命令で撃ったこともある。

 

 自分の判断で引き金を引いたこともある。

 

 それでも、危険を見抜くことと、無抵抗の相手を殺すことは同じではない。

 

M4A1「蓮さん?」

 

蓮「何でもない。拘束したあと、起爆器から先に調べろ。ほかにも予備を持っている可能性がある」

 

M4A1「分かりました」

 

 M4A1は投降者を生かしたまま、武器と装備を検査させる。

 

 証言を取るため。

 

 情報を得るため。

 

 そして、降伏した者を殺さないという一線を守るためだった。

 

     ◇

 

 シェルター正面の炸薬が解除される。

 

 保守線から安全確認の信号を送ると、重い扉が内側へ開いた。

 

 数人の職員。

 

 負傷した警備人形。

 

 その中央から、大柄な男が歩いてくる。

 

 熊を思わせる体格。

 

 肩へ掛けたコート。

 

 厳つい顔には、戦闘が終わったことへの安堵より、周囲を観察する冷静さが残っている。

 

クルーガー「救援に感謝する。私はグリフィン&クルーガーの代表、ベレゾヴィッチ・クルーガーだ」

 

M4A1「AR小隊、M4A1です。ご無事で何よりです」

 

クルーガー「君たちのことは報告で知っている。予定より随分と派手な帰還になったようだな」

 

 クルーガーの視線が、台車へ座る蓮へ移る。

 

クルーガー「そして、君が渡邉蓮か」

 

蓮「噂になっているらしいな」

 

クルーガー「緑色の制服を着た日本人。市役所から多数の人形を脱出させ、AR小隊とともに帰還した正体不明の軍人。噂にならない方が難しい」

 

蓮「正体については、落ち着いてから話す」

 

クルーガー「ああ。今は互いに、落ち着いて話せる状況ではない」

 

 遠くで再び爆発音が響く。

 

 S09を巡る戦闘は続いている。

 

クルーガー「だが、先に一つだけ聞こう。この作戦を考えたのは君か?」

 

蓮「原案を出しただけだ。採用して指揮したのはM4A1。設備を動かしたのは416とM4A1。実際に戦ったのは全員だ」

 

 クルーガーの口元が僅かに上がる。

 

クルーガー「自分一人の功績にはしないか」

 

蓮「一人では、台車から降りることすらできん」

 

M16A1「よく分かってるじゃないか」

 

 小さな笑いが起きる。

 

 緊張が緩んだ、その時。

 

 AK-15が蓮の前へ立った。

 

 銀色の髪。

 

 鍛えられた長身。

 

 近くで見ると、戦闘中よりも遥かに大きく見える。

 

AK-15「身元未確認者の武器を確認します」

 

蓮「おい、待――」

 

 AK-15の手が89式の被筒を掴む。

 

 蓮は反射的に右手を動かした。

 

 銃を奪われないよう、銃床を身体へ引き寄せる。

 

 次の瞬間。

 

 AK-15は銃口を安全な方向へ固定し、蓮の右手首を台車の荷台へ押さえつけていた。

 

蓮「ぐっ……!」

 

 傷へ響く。

 

 だが、AK-15は関節を壊す寸前で力を止めている。

 

M4A1「AK-15! 蓮さんは味方です!」

 

416「その銃も確認済みよ。離しなさい」

 

 AK-15は二人を見る。

 

 それから、ゆっくり手を離した。

 

AK-15「確認しました」

 

蓮「随分と力の強い挨拶だな」

 

AK-15「身元未確認の武装した人間が、保護対象の前にいます。必要な確認です」

 

蓮「先に名前を聞く程度の礼儀はないのか?」

 

AK-15「非効率です」

 

蓮「そうかよ。俺は渡邉蓮だ」

 

AK-15「AK-15」

 

蓮「それは見れば分かる」

 

AK-15「では、聞く必要はありませんでした」

 

蓮「本当に話が合わんな……」

 

クルーガー「派手な挨拶になって済まない。通信識別が破壊された今、彼女の警戒自体は正しい」

 

蓮「分かっている。俺が同じ立場でも、先に武器を取り上げる」

 

AK-15「なら、問題ありません」

 

蓮「問題しかない」

 

 416が蓮の前へ来る。

 

 右手に、二枚の認識票と小さな手帳を持っていた。

 

416「これは返すわ」

 

 自然公園で、蓮が416へ預けたもの。

 

 二枚の認識票。

 

 そして、過去の記録が残る手帳。

 

 蓮は無言で受け取った。

 

 指先で金属の縁を確かめる。

 

416「本人であることは確認できた。約束も、一応は守ったようだから」

 

蓮「ありがとう」

 

416「次に私を置いていったら、今度は返さない」

 

蓮「気をつける」

 

416「信用できないわね」

 

 それでも、416の表情は僅かに柔らかくなっていた。

 

 クルーガーが破壊された街路と、拘束された傭兵を見渡す。

 

クルーガー「力がなければ、敵は止められない」

 

 次に、観測階の制御室を見る。

 

クルーガー「だが、力をぶつける場所を知恵で選ばなければ、守るべきものまで壊す。今日ここを救ったのは、どちらか一方ではない」

 

M4A1「基地司令部との回線を回復させます。情報区画と地上車列の状況も確認しなければなりません」

 

 クルーガーが、訓練区画の戦術表示盤へ目を向ける。

 

 北西管理区にあった自分たちの記号には、安全を示す青い印が付いていた。

 

 だが、戦場にはまだ二つの赤い印が残っている。

 

 一つは、レッドカンパニーの連絡将校を収容している基地中央部。

 

 もう一つは、監視兵と資料原本を載せたまま連絡を絶った、東側外周道路の護送車列。

 

 クルーガーを救出したことで、北西の危機は取り除かれた。

 

 しかし、S09基地を巡る戦いそのものが終わったわけではない。

 

M4A1「残る優先目標を確認します。第一、基地中央部の主司令部および連絡将校の安全確保。第二、東側外周道路の護送車列救出です」

 

蓮「敵も同じ二つを狙っている。次は、先に届いた方が勝つ」

 

クルーガー「私も司令部へ戻る。AK-15、負傷者の移送を手伝え」

 

AK-15「了解」

 

 AK-15が、蓮の乗る台車の後ろへ回る。

 

蓮「待て。俺は負傷者扱いなのか?」

 

衛生要員「何だと思っていたのですか?」

 

 返答する前に、台車が動いた。

 

 SOPⅡが押した時より、遥かに速い。

 

蓮「速い! もう少し加減しろ!」

 

AK-15「この速度が最も効率的です」

 

蓮「曲がり角では落とせ!」

 

AK-15「善処します」

 

 絶対に善処しない声だった。

 

 蓮は前を向いたまま、先ほど間近で見たAK-15の顔を思い出す。

 

 無表情。

 

 融通が利かない。

 

 人の手首を片手で押さえ込む怪力。

 

 性格は、恐ろしく合わないだろう。

 

 それでも。

 

蓮「……顔は、かなり好みなんだよな」

 

AK-15「何か言いましたか?」

 

蓮「何も言ってない。前を見て押せ」

 

 少し前を歩いていた416が振り返る。

 

416「聞こえているわよ」

 

蓮「忘れろ」

 

SOPⅡ「僕も聞こえた!」

 

M16A1「元気そうで安心したよ」

 

 戦闘の続く基地内に、短い笑い声が生まれた。

 

 力だけでは、守れない。

 

 知恵だけでは、止められない。

 

 だが、正しく組み合わせれば、閉ざされた道を開くことはできる。

 

 一行は、再び基地司令部へ向かって進み始めた。

 

 その頃。

 

 S09へ向かっていた地上車列は、基地東側の外周道路で停止していた。

 

 先頭の装甲車の前には、破壊された橋。

 

 後方には、接近する複数の車両音。

 

 捕虜と資料を乗せた一両は、逃げ道を失いつつあった。




はい。

自分的には主人公は必ずしも正しい人とは限りません。

戦争を経験した人ならなおさらです。

わざわざ条約に従って自分の命を捨てるののが正しいのでしょうか?

条約に従わず自分の命を守るために降伏した敵兵を殺すのは悪でしょうか?

その問いかけが意味があるのか…

まぁ、自分ただの大学生なんですけどね!!

ワハハハハハ!!!

はい。

そんな感じで次回はお話回です。

さいならー

あっ、後タグも追加しますね!

コメントお気に入り評価お願いします!

※2026年8月29日リメイク完了

好きな子がいたら適当に投票どうぞ!

  • HK416
  • VSK-94
  • AK-12
  • AR-15
  • アズールレーン 赤城
  • アズールレーン 加賀
  • 艦これ 赤城
  • 艦これ 加賀
  • 雷電
  • スカイレイダー
  • シュバァルベ
  • 渡邉 蓮
  • 渡邉 隼人
  • 渡邉 勇翔
  • 小貝 高虎
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。