陸自はドールズフロントライン、海自は艦これとアズールレーン、空自はアッシュアームズ三つの世界でバラバラになりながらでも生き残る   作:ゴーストライターとかした、素人小説書き

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第14話 その小隊、精鋭四名狂人一名の集団につき

第14話 その小隊、精鋭四名狂人一名の集団につき

 

 S09基地、北西管理区。

 

 臨時指揮所に隣接する避難者用食堂。

 

 先行救援隊の出発まで、残り八分。

 

 暗渠の保守台車と装備を準備している間、衛生要員は蓮へ食事を取らせていた。

 

 出発後も、蓮は臨時指揮所から無線指揮を続けながら食べる予定だった。

 

 目の前にある料理を、八分ですべて食べ切ろうとしているわけではない。

 

 その切迫した状況には、あまりにも似つかわしくない音が響いていた。

 

 ズゾッ。

 

 モグモグ。

 

 カチャ、カチャ。

 

 ゴクッ。

 

 再び、モグモグ。

 

AK-12「……私、お腹いっぱい食べていいとは言ったけれど」

 

 AK-12が、長机の向こうに積み上がった空の食器を見る。

 

AK-12「限度まで食べていいとは言ってないのよ?」

 

 簡易寝台へ背中を起こした蓮は、答える代わりにハンバーグを一口で半分ほど食べた。

 

蓮「モグモグ……何か言ったか?」

 

AK-12「飲み込んでから話しなさい」

 

 食堂には、襲撃前に職員用として作られていた料理が残っていた。

 

 パスタ。

 

 ハンバーグ。

 

 ステーキ。

 

 シチュー。

 

 カレーと炒飯。

 

 担々麺と醤油ラーメン。

 

 おにぎりが五つ。

 

 大きなピザ。

 

 ハンバーガー。

 

 さらに、封を切られた高栄養価の野戦糧食が三袋。

 

 それらが次々と蓮の胃へ消えていく。

 

 数日まともに食事を取れず、負傷と戦闘で体力を消耗している。

 

 衛生要員からも、可能な範囲で栄養を取るよう命じられていた。

 

 だから、腹が減っていること自体は不思議ではない。

 

 問題は、その量だった。

 

AK-12「それ、何人分だと思う?」

 

蓮「知らん。置いてあるから食ってる」

 

AK-12「少なくとも六人分よ。野戦糧食を含めれば、もっと」

 

蓮「そうか」

 

 蓮は気にした様子もなく、カレーの皿へ手を伸ばす。

 

AK-12「そうか、で済ませるのね……」

 

 食べる速度は速い。

 

 だが、慌てて喉へ詰め込んでいるわけではなかった。

 

 手は一定の間隔で動き、呼吸も乱れない。

 

 腹部が苦しそうに張る様子もない。

 

 どれだけ食べ進めても、手を動かす速度が落ちる気配はなかった。

 

 もっとも、それを不自然だと口にする者はいない。

 

 食事を取れなかった反動。

 

 極度の疲労。

 

 今は、その程度に考えられていた。

 

AK-12「あとでクルーガーへ請求しておくわ」

 

蓮「臨時協力中の負傷者から食費を取るな」

 

AK-12「私が奢るって言ったのよ。だから、会社へ回すの」

 

蓮「いい職場だな」

 

VSK「ボス。口元にソースが付いています」

 

 VSKが布を取り、蓮の口元を拭う。

 

蓮「自分でできる」

 

VSK「左手でお皿、右手で地図を持っていますよ?」

 

蓮「……助かる」

 

AK-12「あらあら」

 

蓮「何だ、その顔は」

 

AK-12「別に?」

 

 食堂の長机には、料理だけでなく基地周辺の地図も広げられていた。

 

 破壊された第二水路橋。

 

 停止した護送車列。

 

 後方から接近する敵車両。

 

 そして、現在の基地図から消された整備用暗渠。

 

 食事をしながら、蓮はそれらを見比べている。

 

 咀嚼が止まったのは、M4A1が新しい資料を置いた時だけだった。

 

M4A1「旧整備記録を確認しました。暗渠は完全には埋められていません」

 

蓮「出口は?」

 

M4A1「橋の南側、護送車列から約百二十メートル。外側の保守扉は閉じていますが、内側から手動で解放できます」

 

蓮「人は通れるな?」

 

M4A1「屈めば通れます。車両は無理です」

 

 蓮はハンバーガーを一口食べ、地図へ指を置く。

 

蓮「なら、車両は捨てる」

 

VSK「資料車もですか?」

 

蓮「ああ。守るべきなのは車両じゃない。乗員、捕虜、資料原本だ」

 

 護送車列は三両。

 

 先頭と最後尾は装甲車。

 

 中央が、監視兵と証拠資料を積んだ護送車両。

 

 その中央車両は走行装置を損傷している。

 

 無理に修理する時間はない。

 

M4A1「乗員を暗渠へ退避させ、徒歩で基地内へ収容するのですね」

 

蓮「負傷者は暗渠の点検台車で運ぶ。資料は防水容器へ移す。捕虜は拘束を維持したまま、歩けるなら歩かせる」

 

AK-12「敵が黙って見送ってくれると思う?」

 

蓮「思わん。だから、追ってくる車両を止める」

 

 蓮の指が、外周道路の緩い曲線をなぞる。

 

 道路の片側は排水路。

 

 反対側は盛り土。

 

 二台が横へ並ぶだけの幅はない。

 

蓮「NTW-20に先頭車両を止めさせる。後続はそこで詰まる」

 

M4A1「装甲車両を一発で止められますか?」

 

蓮「撃つ場所を選べばな。運転席を狙う必要はない。前輪、操向装置、吸気口。車種を見てNTW-20に決めさせる」

 

VSK「ブレンが下車した歩兵を制圧。私とG3が車列へ到達して、退避を誘導します」

 

蓮「ああ。お前は副隊長だ。現場では自分の目を優先しろ。こっちの地図と実際の地形が違ったら、お前の判断で変えていい」

 

VSK「了解しました、ボス」

 

 VSKは嬉しそうに答えた。

 

蓮「何でそこで嬉しそうなんだ?」

 

VSK「初めて、副隊長として直接命令をいただきましたから」

 

蓮「責任も増えたんだぞ」

 

VSK「ボスと一緒なら問題ありません」

 

AK-12「それ、問題が二倍になるという意味じゃない?」

 

蓮「お前はどっちの味方だ」

 

     ◇

 

 東側整備棟、地下保守区画。

 

 低い天井の下へ、細い点検用レールが延びていた。

 

 その上には、バッテリーで動く小型の保守台車が一両。

 

 VSK、G3、ブレン、NTW-20が装備を確認している。

 

 全員が、蓮の臨時特別小隊を示す仮識別票を付けていた。

 

 正式な部隊章はまだない。

 

 それでも、五人はすでに一つの小隊だった。

 

 VSKが通信機を調整する。

 

VSK「こちら臨時小隊、通信確認」

 

蓮『こちら蓮。感度良好』

 

 無線の向こうから、食器の触れ合う音がした。

 

VSK「ボス、まだ食べているのですか?」

 

蓮『腹が減ってるんだよ』

 

ブレン「戦闘中に食事とは、随分と余裕のある小隊長だな」

 

蓮『違う。食事中に戦闘が始まったんだ』

 

NTW-20「始まる前から襲撃されていたはずだ」

 

蓮『細かいことを気にするな』

 

NTW-20「評価を一つ戻した」

 

蓮『早くない?』

 

 G3が笑いを堪えながら、自分の脚部状態を端末へ表示する。

 

G3「出力、接続、姿勢制御。すべて正常です」

 

VSK「痛みや違和感は?」

 

G3「ありません。ただし、医療班から連続全力走行は三分以内と言われています」

 

蓮『守れ。異常が出たらすぐに報告しろ』

 

G3「了解しました、ボス」

 

 ブレンは予備弾薬箱を保守台車へ固定した。

 

ブレン「通常弾帯が四。徹甲弾帯が一。銃身交換部品もある。持続射撃は短連射を守れば十分以上」

 

蓮『撃ち続ける必要はない。敵の頭を下げさせて、味方が動く時間を作れ』

 

ブレン「分かっている」

 

 NTW-20は大型の対物ライフルと、用途の異なる弾薬を確認する。

 

NTW-20「装甲車両用が三。通常弾が五。距離が千以下なら、選べる」

 

蓮『一発目で止めろ。二発目以降は歩兵か増援に残せ』

 

NTW-20「簡単に言う」

 

蓮『できないか?』

 

NTW-20「誰に言っている」

 

 NTW-20の口元が、僅かに上がった。

 

 保守台車の後部には、さらに二人が乗る。

 

 AK-12。

 

 AN-94。

 

 二人は臨時特別小隊の所属ではない。

 

 今回の作戦に限り、電子情報支援と護衛を担当する反逆小隊からの協力要員だった。

 

AK-12「敵の短距離通信は、こちらで拾うわ。通信内容と送信間隔から指揮車両を絞り込む」

 

AN-94「AK-12の護衛は私が行います」

 

VSK「こちらの指揮系統は理解していますか?」

 

AK-12「もちろん。作戦全体はM4A1。臨時特別小隊は蓮。現場では副隊長のあなた。私とAN-94は支援要員」

 

AN-94「指揮系統に異議はありません」

 

 VSKが頷く。

 

 同じ部隊へ編入するのではなく、互いの役割を明確にした上で協力する。

 

 それなら、現場で命令が衝突することもない。

 

M4A1『全員、準備は?』

 

VSK「臨時小隊、準備完了」

 

AK-12「反逆小隊、支援準備完了」

 

M4A1『作戦を開始します。人命の救助を最優先。捕虜と資料は、可能な限り確保。維持できない場合も、回収のために味方の命を捨てることは禁止します』

 

VSK「了解」

 

 保守台車の電動機が起動する。

 

 小さな車輪がレールを噛み、暗渠の闇へ走り始めた。

 

     ◇

 

 S09基地東側、第二水路橋。

 

 破壊された橋の手前で、護送車列が停止している。

 

 装甲車二両が前後を守り、その間に動けない資料車が挟まれていた。

 

 後方の道路には、四両の敵車両。

 

 先頭は軽装甲車。

 

 その後ろに、武装した多用途車両が三両。

 

 さらに、鉄血のガードが数体、車両の陰を進んでくる。

 

 敵は機関銃を撃っていた。

 

 だが、資料車へ直接当てることを避けている。

 

 弾丸は護衛装甲車と道路脇へ集中していた。

 

護送隊長「頭を下げろ! 撃ち返せ!」

 

 最後尾の装甲車が短い連射を返す。

 

 敵の歩兵が伏せる。

 

 しかし、弾薬は残り少ない。

 

 負傷者が二名。

 

 資料車の内部には、拘束されたレッドカンパニーの監視兵がいる。

 

監視兵「助けは来ないぞ」

 

護送兵「黙ってろ」

 

監視兵「橋は落ちた。後ろは塞がれた。お前たちが守っている物を渡せば、まだ交渉できる」

 

護送兵「お前の会社が、約束を守るとでも?」

 

 監視兵は答えない。

 

 その沈黙だけで十分だった。

 

 車列の無線機が、一度だけ振動する。

 

『護送三。こちら救援隊。応答は一秒以内、送信一回のみ』

 

 VSKの声。

 

 護送隊長が送信機を押す。

 

護送隊長「護送三。聞こえる」

 

VSK『南側排水路へ、赤色煙幕を二。三十秒後に展開。乗員は資料と負傷者を移送準備。車両は放棄します』

 

護送隊長「了解」

 

 通信を切る。

 

 詳しい説明を求める時間はない。

 

 護送隊長は部下へ命令を出した。

 

護送隊長「証拠資料を防水箱へ! 捕虜を立たせろ! 負傷者は担架へ移せ!」

 

     ◇

 

 暗渠出口まで、残り二百メートル。

 

 保守台車が速度を落とす。

 

 前方の手動隔壁は、完全には閉じていなかった。

 

 金属板が変形し、僅かな隙間ができている。

 

VSK「止めて」

 

 台車が停止する。

 

 VSKとG3が隔壁へ近づく。

 

 手動開放ハンドルへ力を掛けるが、錆び付いて動かない。

 

G3「固着しています」

 

蓮『状況は?』

 

VSK「最後の隔壁が固着。開口は二十センチほどです」

 

蓮『蝶番は見えるか?』

 

VSK「こちら側に二つ」

 

蓮『ブレン。固定軸だけを短く撃て。跳弾に注意』

 

ブレン「了解」

 

 全員が壁の陰へ下がる。

 

 ブレンが床へ伏せ、軽機関銃を二脚へ預けた。

 

 照準を蝶番の固定軸へ合わせる。

 

 短い連射。

 

 火花。

 

 一つ目の固定軸が歪む。

 

 二度目の連射で、下側の蝶番が外れた。

 

VSK「G3、一緒に」

 

G3「はい」

 

 二人が隔壁へ肩を当てる。

 

 金属板が、軋みながら外側へ倒れた。

 

 冷たい外気が暗渠へ流れ込む。

 

 同時に、銃声がはっきりと聞こえるようになった。

 

VSK「出口確保。小隊、展開」

 

     ◇

 

 最初に外へ出たのはNTW-20だった。

 

 排水路の斜面を上り、道路を見下ろせる盛り土へ伏せる。

 

 距離、七百四十。

 

 横風、弱い。

 

 敵の先頭車両は低速で前進している。

 

 装甲化された車体。

 

 前輪は車体の外へ一部露出。

 

 吸気口は右前方。

 

 運転手を撃つ必要はない。

 

 車両を止めればいい。

 

NTW-20「先頭車両を確認。右前輪と操向部を狙う」

 

蓮『任せる』

 

NTW-20「短い命令だ」

 

蓮『撃つのはお前だ。俺が余計なことを言う必要はない』

 

 NTW-20が呼吸を止める。

 

 照準が、車輪の内側へ重なった。

 

 発砲。

 

 対物弾が操向部を貫く。

 

 軽装甲車の右前輪が大きく傾いた。

 

 車体が道路脇へ流れ、盛り土へ斜めに突っ込む。

 

 後続車両が急停止した。

 

 狭い道路で、四両が一列に詰まる。

 

NTW-20「先頭車両、停止」

 

蓮『よくやった』

 

NTW-20「評価を戻す」

 

蓮『俺の評価なのかよ』

 

 敵歩兵が車両から降りる。

 

 その頭上を、ブレンの射撃が走った。

 

 短い連射。

 

 一度止める。

 

 敵が顔を上げた瞬間、別の位置へ再び撃つ。

 

 撃ち倒すことより、前へ出さないことを優先した射撃だった。

 

ブレン「制圧開始。敵歩兵、前進停止」

 

VSK「G3、行きます」

 

G3「了解」

 

 二人が排水路を走る。

 

 G3は全力を出さない。

 

 脚部へ負荷を掛けすぎない歩幅を守り、それでもVSKから遅れず進んでいる。

 

 資料車まで、百二十メートル。

 

 護送隊が赤色煙幕を投げた。

 

 濃い煙が道路と排水路の間を覆う。

 

 敵から車列が見えなくなる。

 

 同時に、救援側からも敵が見えにくくなった。

 

 だが、NTW-20とブレンは煙幕の外側から敵を押さえている。

 

 VSKとG3は、その内側を進んだ。

 

     ◇

 

 臨時指揮所。

 

 蓮は地図を見ながら、最後のおにぎりを食べていた。

 

M16A1「お前、まだ食べてるのか?」

 

蓮「これで最後だ」

 

AK-12「ピザの箱の下に、もう一袋あるわよ」

 

蓮「じゃあ、それも最後」

 

M16A1「見てるこっちが胸焼けしてきたぞ……」

 

 AK-12は現場の受信情報を、臨時指揮所にも共有していた。

 

 敵の短距離通信。

 

 車両ごとの送信頻度。

 

 移動中のため信号は不安定だが、一両だけ送信回数が多い。

 

AK-12『指揮車両は三両目の可能性が高い。断定はできないけれど、送信の七割がそこから出ているわ』

 

蓮「NTWへ送れ。撃つのはまだだ」

 

AK-12『どうして?』

 

蓮「指揮車両が通信を続ければ、敵の動きが分かる。目と耳を今潰す必要はない」

 

M4A1「敵の指揮を残したまま、通信を利用するのですね」

 

蓮「こちらが退避を終えるまではな」

 

 蓮が新しい野戦糧食の封を切る。

 

M16A1「本当に食うのか……」

 

 その時、敵通信の内容が変わった。

 

AK-12『敵指揮車から命令。二個分隊を南側排水路へ回す。暗渠の存在に気づかれた』

 

蓮「気づくのが早いな」

 

M4A1「VSK、南側から敵分隊が接近します。退避を急いでください」

 

VSK『了解。現在、車列へ到達しました』

 

     ◇

 

 赤い煙の中。

 

 VSKとG3が資料車へ駆け込む。

 

護送隊長「救援隊か!」

 

VSK「臨時特別小隊副隊長、VSKです。状況を報告してください」

 

護送隊長「負傷者二。歩行不能が一、補助があれば歩ける者が一。資料は防水箱二つ。捕虜は健在」

 

 拘束された監視兵が、VSKを見る。

 

監視兵「たった二体で救援か?」

 

G3「小隊は全員来ています」

 

監視兵「見えないだけか」

 

VSK「あなたは歩けますね?」

 

監視兵「拒否したら?」

 

VSK「担いで運びます。ただし、あなたの快適さは保証できません」

 

監視兵「……歩く」

 

 VSKが護送隊長へ指示する。

 

VSK「歩行不能者と資料箱を先に暗渠へ。G3が誘導します。残りは護衛しながら後退」

 

G3「私が負傷者を運びます」

 

VSK「脚の制限を忘れないで」

 

G3「担架を一人で持つのではなく、点検台車まで護送兵と運びます。負荷は許容範囲です」

 

VSK「分かりました。異常が出たら交代」

 

G3「了解」

 

 G3は自分の状態を隠さなかった。

 

 VSKも、彼女を必要以上に外さない。

 

 確認し、できる範囲で役目を任せる。

 

 小隊として初めて交わす判断だった。

 

 資料箱が車外へ出される。

 

 担架が続く。

 

 煙の向こうで、鉄血のガードが姿を現した。

 

護送兵「敵!」

 

 VSKが先に発砲する。

 

 ガードの武器腕へ二発。

 

 射線が地面へ逸れる。

 

 G3が反対側から胴体の駆動部へ連射した。

 

 ガードが倒れる。

 

 二体目が煙から飛び出す。

 

 VSKは射撃せず、車体の陰へ下がった。

 

 ガードが追う。

 

 その側面をG3が撃つ。

 

VSK「二体、停止」

 

蓮『南から歩兵も来る。接触まで一分を切る』

 

VSK「退避を続けます」

 

     ◇

 

 排水路南側。

 

 敵の二個分隊が、煙幕を避けて斜面を下りようとしていた。

 

 その前方へ、AN-94が移動する。

 

AN-94「AK-12。敵分隊を確認しました」

 

AK-12「ここからは任せるわ」

 

AN-94「了解」

 

 AN-94が射撃する。

 

 一人目の武器を弾く。

 

 二人目の足元へ撃ち込み、前進を止める。

 

 敵が散開しようとした瞬間、別方向からブレンの弾丸が道路を削った。

 

 逃げ場を狭める交差射撃。

 

 反逆小隊と臨時小隊。

 

 所属は違う。

 

 だが、AK-12が見つけた敵の位置をAN-94が止め、ブレンが逃げ道を塞ぐ連携に無駄はなかった。

 

AK-12「南側分隊、停止。けれど敵の指揮車が新しい命令を送ろうとしている」

 

蓮『内容は?』

 

AK-12「増援要請。東へ退避路があると報告するつもりね」

 

蓮『今度は止めろ』

 

AK-12「通信そのものを?」

 

蓮『ああ。送信機を壊せるか、NTWに聞け』

 

 AK-12が指揮車両の推定位置をNTW-20へ送る。

 

AK-12「三両目。屋根の後部に短距離通信アンテナ。距離八百十」

 

NTW-20「見えている」

 

 NTW-20の照準器に、多用途車両の屋根が映る。

 

 細いアンテナ。

 

 その基部に、通信装置を収めた箱がある。

 

NTW-20「通信装置だけなら一発」

 

蓮『撃て』

 

 発砲。

 

 対物弾がアンテナ基部を破壊する。

 

 指揮車両から火花が散った。

 

 直後、AK-12の受信画面から強い信号が消える。

 

AK-12「敵指揮車、送信停止」

 

NTW-20「二発目、命中」

 

蓮『評価は?』

 

NTW-20「小隊長としては、もう一つ上げる」

 

蓮『まだ途中か』

 

NTW-20「人間としての評価は下がったままだ」

 

蓮『食事くらいで厳しくない?』

 

     ◇

 

 暗渠入口。

 

 最初の負傷者が点検台車へ載せられる。

 

 資料箱二つ。

 

 拘束された監視兵。

 

 護送兵が次々と暗渠へ入る。

 

 G3が最後の担架を押し込んだ時、右脚の警告表示が黄色へ変わった。

 

G3「右脚部、温度上昇。出力低下はありません」

 

VSK「G3、ここから点検台車へ乗って」

 

G3「まだ動けます」

 

VSK「動けるかではありません。報告を受けた副隊長として命令します」

 

 G3は一瞬だけ迷った。

 

G3「……了解しました」

 

 無理を隠さず、命令に従う。

 

 それは臆病ではない。

 

 次の戦闘にも生きて参加するための判断だった。

 

 G3が台車へ乗る。

 

 残るのはVSK、ブレン、NTW-20。

 

 そして支援のAK-12とAN-94。

 

護送隊長「全員、暗渠へ入った!」

 

VSK「ブレン、後退。NTW-20も狙撃位置を離れて」

 

ブレン「了解」

 

NTW-20「移動する」

 

 敵歩兵は、まだ車両の陰へ伏せている。

 

 だが、制圧射撃が止まれば再び前へ出る。

 

VSK「AK-12、あと何秒抑えられますか?」

 

AK-12「通信を壊しただけよ。敵の足は止めていない。三十秒もあれば動き始めるわ」

 

蓮『なら、空の車列に最後の仕事をさせる』

 

VSK「何をするつもりですか?」

 

蓮『最後尾の装甲車は動くな?』

 

護送隊長「走れる。だが、運転手はもう暗渠だ」

 

蓮『遠隔操作は?』

 

護送隊長「直進と停止だけなら、整備用制御から可能だ」

 

 蓮が地図上の道路幅を確認する。

 

蓮『全員が退避したあと、最後尾車を前進させて資料車へ斜めに当てろ。道路を完全に塞ぐ』

 

M4A1「無人車両二両を障害物にするのですね」

 

蓮『敵は資料車が空だと知らない。最初は強引に壊せない。確認に時間を使わせる』

 

AK-12「中身を無傷で取り戻せという命令が、今度は邪魔になる」

 

蓮『そういうことだ』

 

VSK「全員、暗渠へ。護送隊長、遠隔操作を」

 

 最後の人員が暗渠へ入る。

 

 護送隊長が携帯端末から装甲車を動かした。

 

 無人の装甲車が前進する。

 

 資料車の後部へ、斜めから接触。

 

 二両の車体が道路を塞ぐ形で止まった。

 

 その向こうでは、操向装置を破壊された敵軽装甲車も道を塞いでいる。

 

 狭い外周道路は、両側から車両で閉じられた。

 

 敵歩兵が車列へ到達する頃には、救援隊の姿は消えていた。

 

     ◇

 

 暗渠内。

 

 保守台車が基地側へ走る。

 

 歩ける者たちは、その後ろを急いで進んでいた。

 

 監視兵は両手を身体の前で拘束され、二人の護送兵に挟まれている。

 

 資料箱は無事。

 

 負傷者の容体も安定している。

 

VSK「こちら臨時小隊。護送隊全員を暗渠へ収容。資料原本二箱、捕虜一名を確保。基地へ帰投します」

 

M4A1『了解。東側整備棟で医療班と警備班を待機させます』

 

蓮『小隊の損害は?』

 

VSK「ありません。G3の右脚部に温度警告。現在は点検台車で移動中です」

 

G3「申し訳ありません、ボス」

 

蓮『謝るな。報告して命令に従った。それでいい』

 

G3「……はい」

 

蓮『VSK』

 

VSK「はい」

 

蓮『よく全員連れて帰った』

 

 短い沈黙。

 

VSK「当然です。ボスからの最初の命令でしたから」

 

 その声には、隠しきれない喜びがあった。

 

ブレン「甘やかすと、次からもっと張り切るぞ」

 

VSK「ブレン?」

 

NTW-20「すでに十分張り切っている」

 

AK-12「いい小隊になりそうね」

 

AN-94「構成人員のうち、四名は優秀です」

 

 無線の向こうで、蓮が何かを噛む音がした。

 

AK-12「残る一名は?」

 

AN-94「評価を保留します」

 

NTW-20「私は保留しない」

 

蓮『おい。誰が何を言いたいのか、聞こえてるぞ』

 

AK-12「精鋭四名に、狂人一名」

 

蓮『待て。狂人って俺か?』

 

ブレン「他に誰がいる」

 

蓮『失礼な小隊だな!』

 

 暗渠の中へ、初めて小隊全員の笑い声が響いた。

 

     ◇

 

 七分後。

 

 東側整備棟へ、護送隊の全員が収容された。

 

 負傷者は医療班へ。

 

 監視兵は警備班へ。

 

 資料原本は、M4A1と基地情報担当者の立ち会いで封印状態を確認される。

 

 回収時の記録。

 

 運搬者。

 

 開封の有無。

 

 すべてが記録され、証拠の連続性が保たれた。

 

M4A1「護送三の救援、完了。死亡者なし。資料と捕虜も確保しました」

 

指揮官『確認したわ。よくやってくれました』

 

 臨時指揮所で、その報告を聞いた蓮が息を吐く。

 

 食堂の長机には、食べ終えた皿と包装が山のように積まれていた。

 

 空の皿。

 

 空の丼。

 

 空の野戦糧食袋。

 

 それだけ食べたにもかかわらず、蓮は苦しそうな様子を見せていない。

 

 むしろ、先ほどより顔色が良くなっていた。

 

M16A1「本当に全部食ったのか……」

 

蓮「久しぶりに満腹になった」

 

 VSKたちが帰投したという連絡が入ると、蓮は最後に残っていた水を飲んだ。

 

蓮「よし。迎えに行くか」

 

衛生要員「行きません」

 

蓮「まだ何も――」

 

衛生要員「寝台から降りるつもりでしょう?」

 

蓮「……よく分かったな」

 

衛生要員「同じ会話は二度目です」

 

 食堂の扉が開く。

 

 最初に入ってきたのはVSKだった。

 

 その後ろに、G3、ブレン、NTW-20。

 

 さらに、支援を終えたAK-12とAN-94が続く。

 

 小隊の四人とも負傷していない。

 

 G3だけは右脚部へ冷却材を巻いているが、自分の足で歩いていた。

 

VSK「ただいま戻りました、ボス」

 

蓮「お帰り。全員、無事だな」

 

VSK「はい。命令どおり、誰一人置いてきていません」

 

 VSKが蓮の前へ立つ。

 

 報告を終えたあとも、その場を離れない。

 

蓮「どうした?」

 

VSK「小隊として最初の任務ですから。ボスから直接、評価をいただきたいです」

 

蓮「そうだな……」

 

 蓮は四人を見る。

 

 VSKの判断。

 

 G3の前衛と救助。

 

 ブレンの制圧射撃。

 

 NTW-20の二度の狙撃。

 

 どれか一つ欠けても、全員を連れ帰ることはできなかった。

 

蓮「文句なしだ。四人とも、俺にはもったいないくらいの精鋭だよ」

 

 VSKの表情が明るくなる。

 

G3「ありがとうございます」

 

ブレン「初回としては上出来だな」

 

NTW-20「小隊長の評価も、もう一つ上げておく」

 

蓮「全部でいくつあるんだ、その評価」

 

NTW-20「教えない」

 

AK-12「四人の評価は決まったわね」

 

 そこでAK-12は、長机へ積まれた空の食器を改めて見た。

 

 閉じていた瞼が、ほんの僅かに開く。

 

 だが、その理由については何も言わなかった。

 

蓮「嫌な予感がするから、俺の評価は言わなくていいぞ」

 

AK-12「戦闘能力、判断力、責任感。どれも問題なし」

 

蓮「お、意外と――」

 

AK-12「食欲だけは問題しかないわ」

 

 AK-12が空の皿の山を指す。

 

 四人の視線が、一斉に食器へ向いた。

 

VSK「……ボス。これを全部?」

 

蓮「そうだけど?」

 

G3「六人分以上ありますよ?」

 

蓮「腹が減ってたからな」

 

ブレン「やはり狂人は一人で合っているらしい」

 

蓮「食事の量だけで狂人にするな!」

 

 新しく編成された小隊。

 

 精鋭四名。

 

 そして、狂人一名。

 

 彼らの最初の任務は、誰一人欠けることなく終わった。

 

 長机の端に置かれた空の野戦糧食袋が、空調の風で小さく揺れる。

 

 その時、臨時指揮所の警報が鳴った。

 

G11『中央管理棟から緊急短文……主司令部へ敵残存部隊が集中。中央階段の一つが突破された』

 

 護送隊を追っていた敵車両から降りた傭兵。

 

 基地内で退路を失った鉄血の残存機。

 

 それらが、レッドカンパニーの連絡将校を収容している主司令部へ向かっていた。

 

 M4A1が、戦術表示盤に残された最後の赤い印を見る。

 

M4A1「護送隊の救援は完了しました。残る目標は、中央管理棟の主司令部です」

 

 VSKが蓮の隣へ立つ。

 

VSK「次の命令を、ボス」

 

 新小隊の初任務は成功した。

 

 しかし、S09基地を巡る戦いは、まだ終わっていなかった。




はい。

次回は、指揮官救助ですね。

戦闘シーンは次回が本格的になりますね。

ちなみに、AK-12達はサブキャラです。(悲報)

それではまた。

モチベアップのため、コメントなどもお願いします。

※2026年8月29日リメイク完了

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