陸自はドールズフロントライン、海自は艦これとアズールレーン、空自はアッシュアームズ三つの世界でバラバラになりながらでも生き残る   作:ゴーストライターとかした、素人小説書き

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注意

この小説は、シリアスとギャグが少し入っています。
それが、いやな方は、上にある矢印ボタンでブラウザバックを推奨します。
この世界はアズールレーンと艦これが入っているため人物が分かりやすいようにアズールレーンはA 艦これはCと表記します。
それでも、大丈夫な方はご覧ください。


3-2 万能なる才能

3-2 万能なる才能

 

 朝食を終えた隼人たちは、食堂をあとにした。

 

 廊下へ出ると、衛生員が車椅子の取っ手を握り直す。

 

剣子「最初は、副司令用の執務室です。そのあと通信指揮所へ行って、今日の案内は終わりです!」

 

衛生員「『今日は終わり』の部分を忘れないでください」

 

剣子「もちろんです!」

 

隼人「私ではなく、提督へ念を押すのですか?」

 

衛生員「お二人ともです」

 

 迷いのない返答だった。

 

 剣子が苦笑し、隼人は黙って頷く。

 

 昨日の歩行試験は、四分十二秒で中止された。

 

 左肩は固定されたまま。胸部と腰部にも、対艦誘導弾を発射した時の痛みが残っている。

 

 今日許可されたのは、車椅子での移動と短時間の執務だけだった。

 

     ◇

 

 提督執務室と同じ庁舎の一角。

 

 扉の横へ、新しい木札が掛けられていた。

 

『呉鎮守府 臨時副司令室』

 

 文字の下には、まだ乾き切っていない墨の跡が残っている。

 

隼人「用意が早いですね」

 

剣子「昨夜、任用が決まってから作ってもらいました!」

 

隼人「昨夜?」

 

剣子「はい!」

 

衛生員「工廠の方を、夜中まで働かせたのですか?」

 

剣子「ち、違いますよ! 当直の方が、ついでに作ってくださったんです!」

 

 衛生員の視線が厳しくなる。

 

剣子「本当です! あとで勤務記録も見せますから!」

 

隼人「最初の仕事は、提督の弁明を確認することになりそうですね」

 

剣子「隼人さんまで!?」

 

 剣子が扉を開ける。

 

 室内は、提督執務室よりも小さい。

 

 執務机が一つ。

 

 来客用の椅子が二脚。

 

 壁には呉周辺の海図と、鎮守府施設の配置図。

 

 奥には、鍵の掛かる書類棚と野戦電話が置かれている。

 

 机の上には、すでにいくつもの書類箱が積まれていた。

 

 その横で、大淀(艦娘)が待っている。

 

大淀(艦娘)「おはようございます、副提督」

 

隼人「おはようございます、大淀さん」

 

大淀(艦娘)「こちらが、任期中に使用していただく執務室です。狭くて申し訳ありませんが、提督執務室、通信指揮所、作戦会議室のいずれにも近い場所を選びました」

 

隼人「十分です。むしろ、動けない今は助かります」

 

 衛生員が車椅子を机の前へ運ぶ。

 

 隼人は、積まれた書類箱へ目を向けた。

 

隼人「これは?」

 

大淀(艦娘)「最初の十日間で確認していただく予定の資料です」

 

剣子「全部で?」

 

大淀(艦娘)「全部です」

 

 箱の背には、それぞれ異なる札が付いている。

 

 人員配置。

 

 艦隊編成。

 

 損傷艦の修復予定。

 

 航空隊の再編案。

 

 燃料、弾薬、食糧、医薬品の備蓄。

 

 沿岸監視所と哨戒部隊の報告。

 

 昨日の海戦で生じた戦死者、負傷者、行方不明者の記録。

 

 最後の箱にだけ、赤い札が付いていた。

 

『未確認敵艦隊・再来襲時対処案』

 

隼人「少ないくらいです」

 

剣子「これで!?」

 

大淀(艦娘)「副提督。確認は、あくまで十日間で行う予定です」

 

隼人「分かっています。今日中に読むとは言っていません」

 

衛生員「昼までに一箱、という意味でもありません」

 

隼人「……分かっています」

 

 衛生員は、まだ信用していない顔をしていた。

 

 大淀(艦娘)が、一番上の薄い書類箱を机へ下ろす。

 

大淀(艦娘)「本日は部屋の確認だけの予定でしたが、署名が必要な文書が三点あります」

 

隼人「見せてください」

 

 箱の中から、三冊の書類が取り出される。

 

 一冊目は、臨時副司令室で取り扱える機密区分の確認書。

 

 二冊目は、野戦電話と伝令を使用する際の連絡順位表。

 

 三冊目は、大本営へ送った暫定報告へ追加する、航空隊損害の詳細集計だった。

 

 隼人は右手で頁をめくる。

 

 左腕を使えないため、紙を押さえるだけでも時間が掛かる。

 

 大淀(艦娘)が文鎮を置いた。

 

隼人「ありがとうございます」

 

 最初の二冊を確認し、署名する。

 

 三冊目で、隼人の手が止まった。

 

隼人「大淀さん」

 

大淀(艦娘)「はい」

 

隼人「この『帰還』は、どの時点を指していますか?」

 

大淀(艦娘)「どの時点、とは?」

 

隼人「母艦へ着艦した時点。海上へ不時着した搭乗員を救助した時点。それとも、呉へ帰投して点呼を終えた時点ですか?」

 

 大淀(艦娘)が、集計表を覗き込む。

 

大淀(艦娘)「部隊ごとの報告書式に従っています。こちらの赤城航空隊は母艦への帰還時点。もう一方は、呉での点呼終了時点です」

 

隼人「基準が違う数字を、同じ欄で合計しています」

 

剣子「数字が間違っているんですか?」

 

隼人「数字そのものが間違っているとは限りません。ただ、このままでは意味を取り違えます」

 

 隼人は二つの報告欄を右手の指で示した。

 

隼人「ここには『赤城航空隊』としか書かれていない。艦娘の赤城さんと、KAN-SENの赤城さんのどちらかも分かりません」

 

大淀(艦娘)「作成者には通じますが、別の部署へ回った時に混同する可能性がありますね」

 

隼人「加賀さんの報告も同じです。さらに、帰還後に損傷廃棄となった機体と、修復可能な機体が同じ『帰還機』へ含まれている」

 

 隼人は鉛筆を取り、集計表の余白へ短く書き込んでいく。

 

 所属区分。

 

 報告時刻。

 

 確認場所。

 

 機体の状態。

 

 搭乗員の状態。

 

 情報源。

 

 そして、未確認情報には確度を記す欄。

 

隼人「これを分けてください。『帰還した機体』と『帰還した搭乗員』も別です。機体を失っても搭乗員が救助された例と、機体が回収されても搭乗員を救えなかった例を一つの数字にしてはいけない」

 

 部屋の空気が静かになる。

 

 昨日の空から帰らなかった者たち。

 

 その安否は、単なる機数では表せない。

 

大淀(艦娘)「……仰るとおりです」

 

 大淀(艦娘)は、隼人の書き加えた項目を確認する。

 

大淀(艦娘)「集計表を差し戻します。以後の報告書式にも反映させましょう」

 

隼人「いきなり全軍へ広げる必要はありません。まず呉で試してください。現場の記入量が増えすぎれば、報告そのものが遅れます」

 

大淀(艦娘)「試験運用にして、十日後の見直しで評価する、と」

 

隼人「はい」

 

剣子「ちょっと見ただけで、よく気づきましたね……」

 

隼人「私が特別なのではありません。異なる組織の報告を、途中から読む人間だから気づけただけです」

 

大淀(艦娘)「内部の者ほど、慣れた書式を疑いませんからね」

 

 大淀(艦娘)は新しい用紙を取り出し、修正点を書き写し始めた。

 

隼人「それと、敵空母級八隻は『確認撃沈数』ではありません。観測された推定数です。昨日の報告と同じ表現へ統一してください」

 

剣子「大本営へ送った暫定報告には、そう書いてありますよ」

 

隼人「外向けの報告が正しくても、内部資料で断定へ変われば、次の作戦で誤認の原因になります」

 

大淀(艦娘)「敵空母級八隻を健在と想定。損害程度不明。再出現の可能性あり――ですね」

 

隼人「お願いします」

 

 隼人が署名を終える。

 

 その時、アイの声が小さく響いた。

 

アイ『隼人。着席状態が二十分を超えました。胸部疼痛反応が軽度上昇しています』

 

衛生員「五分休憩します」

 

隼人「通信指揮所まで、車椅子で移動するだけです」

 

衛生員「移動を休憩とは呼びません」

 

剣子「隼人さん。副提督が初日から医療命令違反をすると、私の監督責任になります」

 

隼人「提督がそれを言いますか?」

 

剣子「どういう意味ですか!?」

 

大淀(艦娘)「昨夜の木札については、あとで勤務記録を提出してください」

 

剣子「まだ疑っているんですか!?」

 

 隼人は小さく息を吐き、背もたれへ身体を預けた。

 

隼人「五分休みます」

 

衛生員「はい。それで結構です」

 

     ◇

 

 休憩後。

 

 隼人たちは、通信指揮所へ移動した。

 

 そこは、昨日の戦闘で呉鎮守府と即応連合艦隊をつないだ場所だった。

 

 室内には、複数の無線機と交換台、海図台が並んでいる。

 

 壁際では、通信員たちが受信記録を整理していた。

 

 復旧したばかりの機器には、仮設の配線が残されている。

 

 海図台の前にいた夕張(艦娘)と明石(KAN-SEN)が、隼人たちへ振り向いた。

 

夕張(艦娘)「おはようございます、副提督!」

 

明石(KAN-SEN)「おはようございますにゃ。もう仕事を始めているのかにゃ?」

 

隼人「部屋を見に来ただけです」

 

衛生員「本当に、その予定です」

 

夕張(艦娘)「予定……?」

 

明石(KAN-SEN)「その言い方だと、もう何か見つけた顔にゃ」

 

剣子「報告書の書式を一つ、直すことになりました」

 

明石(KAN-SEN)「やっぱりにゃ」

 

 夕張(艦娘)が、海図台の上へ並ぶ紙をまとめる。

 

夕張(艦娘)「こちらでは、昨日の妨害電波と通信回復の経過を再現しています」

 

隼人「小型無人偵察機から送られた記録ですか?」

 

夕張(艦娘)「はい。偵察機本体は失われましたが、最後の一括送信は保存できています」

 

 隼人は海図を見る。

 

 敵艦隊の推定位置。

 

 妨害電波の強度。

 

 即応連合艦隊から届いた断続的な通信。

 

 呉の沿岸監視所が記録した方位線。

 

 それぞれが、異なる色の線で記されている。

 

明石(KAN-SEN)「問題は、次も同じ方法が使えるとは限らないことにゃ」

 

夕張(艦娘)「敵が妨害方法を変えれば、小型偵察機を中継へ使っても、こちらまで情報が届かない可能性があります」

 

隼人「昨日は、敵の位置を探す通信と、味方を救助する通信と、指揮命令を同じ経路へ集めすぎました」

 

夕張(艦娘)「でも、使える通信設備が限られていましたから……」

 

隼人「現場の判断を責めているのではありません。昨日は、そうするしかなかった」

 

 隼人は海図台の三か所を指す。

 

隼人「次に備えるなら、目的を分けます。艦隊指揮。敵情通報。救難信号。この三つを、最初から別の連絡系統へ置く」

 

明石(KAN-SEN)「無線機を三倍にするのかにゃ?」

 

隼人「同じ性能の無線機を三倍にしても、同じ妨害を受ければ終わりです」

 

 隼人は、沿岸監視所の印から呉まで、鉛筆で短い線を引いた。

 

隼人「電波だけに頼らない。沿岸監視所からの有線。視認できる距離では発光信号。短距離なら伝令艇。航空機には、通信不能時の定時報告地点を決めておく」

 

夕張(艦娘)「使えるものを全部つなぐ……」

 

隼人「つなぐのは機械ではなく、報告の形式です」

 

 隼人は、先ほど修正した集計表と同じ項目を海図の余白へ書く。

 

 時刻。

 

 位置。

 

 方位。

 

 目標種別。

 

 情報源。

 

 確度。

 

隼人「どの手段で届いても、この六項目が揃えば、一枚の海図へ重ねられます。逆に、最新の機械があっても、時刻と観測位置がなければ使えない」

 

 夕張(艦娘)が、書き込まれた項目を見つめる。

 

夕張(艦娘)「艦娘側とKAN-SEN側で、通信機の規格が違っていても?」

 

隼人「最終的に同じ内容を読めればいい。無理に一台へ直接接続する必要はありません」

 

明石(KAN-SEN)「人が間に入って写すのかにゃ?」

 

隼人「当面は。それで実際に遅れる時間を測り、機械化する価値がある場所から置き換える」

 

夕張(艦娘)「最初から全部を自動化しようとしていました……」

 

明石(KAN-SEN)「規格の違う機械を直接つないで、昨日から三回も安全装置を落としたにゃ」

 

剣子「三回も!?」

 

夕張(艦娘)「大丈夫です! 火は出ていません!」

 

明石(KAN-SEN)「二回目は少し煙が出たにゃ」

 

夕張(艦娘)「明石さん!」

 

 剣子が額へ手を当てる。

 

隼人「接続試験は、保護回路を挟んで続けてください。ただし、指揮所の実働設備とは分離する。復旧した通信を、試験で再び止めるわけにはいきません」

 

夕張(艦娘)「はい」

 

明石(KAN-SEN)「了解にゃ」

 

隼人「今の案も、実際に機能するかは分かりません。まず小規模な通信訓練を行い、到達時間と誤報の数を記録してください」

 

剣子「昨日あれだけのことをして、今朝はもう新しい仕組みを作って……」

 

 剣子は、感心したように隼人を見る。

 

剣子「隼人さんって、もしかして何でもできる人ですか?」

 

隼人「いいえ」

 

 即答だった。

 

隼人「無線機は作れません。破損した回路も直せない。艦娘とKAN-SENの艤装についても、知らないことばかりです」

 

夕張(艦娘)「でも、私たちが何を作ればいいかは整理してくれました」

 

隼人「私にできるのは、必要なものを決めるところまでです。形にできるのは、夕張さんと明石さんでしょう」

 

明石(KAN-SEN)「全部を自分でやるのが、指揮官じゃないということかにゃ」

 

隼人「全部を自分でやろうとする指揮官は、最初に倒れます」

 

衛生員「よく理解していらっしゃいますね」

 

 隼人と衛生員の視線が合う。

 

隼人「……何が言いたいのですか?」

 

衛生員「理解を、ご自身の勤務時間にも反映していただきたいだけです」

 

 夕張(艦娘)が、笑いを堪えるように口元を押さえた。

 

 明石(KAN-SEN)の耳も、楽しそうに動いている。

 

アイ『隼人。通信指揮所への入室から、二十七分が経過しました』

 

衛生員「本日の案内は、ここまでです」

 

隼人「あと一つだけ」

 

衛生員「内容によります」

 

隼人「昨日の小型無人偵察機が送った記録を、複製してください。帰還後、救護所で確認します」

 

大淀(艦娘)「機密資料です。救護所への持ち出しは許可できません」

 

 いつの間にか、修正書式を持った大淀(艦娘)が指揮所へ入っていた。

 

隼人「では、副司令室へ保管してください。次の勤務時間に確認します」

 

大淀(艦娘)「承知しました」

 

衛生員「それなら問題ありません。戻ります」

 

隼人「分かりました」

 

 今度は、すぐに従った。

 

夕張(艦娘)「副提督」

 

 車椅子が動き出す直前、夕張(艦娘)が呼び止める。

 

夕張(艦娘)「失われた偵察機のこと、残念ですか?」

 

隼人「残念です」

 

 隼人は、海図へ残る最後の飛行経路を見る。

 

隼人「人は乗っていませんでした。それでも、戻せるなら戻したかった」

 

夕張(艦娘)「……はい」

 

隼人「ですが、あの機体が残した情報は、次の機体と人員を帰すために使えます。失った事実まで、無駄にする必要はありません」

 

夕張(艦娘)「分かりました。通信訓練の案ができたら、最初にお持ちします」

 

隼人「お願いします」

 

     ◇

 

 通信指揮所から救護所へ戻る途中。

 

 開いた窓の向こうから、弦の鳴る乾いた音が聞こえた。

 

 続いて、矢が的へ突き立つ音。

 

 廊下の先には、弓道場へ続く渡り廊下がある。

 

 静かに弓を引いているのは、赤城(艦娘)と加賀(艦娘)だった。

 

 二人の目には、昨日からの疲労が残っている。

 

 鍛錬というより、乱れた心を整えるため、僅かな時間だけ弓と向き合っているように見えた。

 

 赤城(艦娘)が放った矢が、的の中央近くへ刺さる。

 

 加賀(艦娘)は一度だけそれを見てから、静かに次の矢をつがえた。

 

剣子「せっかくですし、少しだけ見ていきますか?」

 

衛生員「本日の見学予定にはありません」

 

剣子「廊下から見るだけでも?」

 

衛生員「止まらずに見るだけなら」

 

 車椅子は速度を落とさず、渡り廊下の前を通る。

 

 赤城(艦娘)が、こちらへ気づいた。

 

赤城(艦娘)「渡邉さん。弓に興味がおありですか?」

 

隼人「扱った経験はあります」

 

 加賀(艦娘)の指が止まる。

 

加賀(艦娘)「洋弓ですか。それとも和弓を?」

 

隼人「両方を少し。ただし、人に教えられるほどではありません」

 

赤城(艦娘)「では、お怪我が治った頃に、一度お見せください」

 

隼人「軍医の許可が出れば」

 

衛生員「今のお言葉、覚えておきます」

 

剣子「完全に監視されていますね……」

 

隼人「必要なことです」

 

衛生員「本当に理解していらっしゃるのでしょうか」

 

 赤城(艦娘)が小さく笑う。

 

赤城(艦娘)「では、楽しみにしています」

 

加賀(艦娘)「まずは治療に専念してください」

 

隼人「はい」

 

 弓を借りることも、稽古場へ入ることもない。

 

 車椅子は、そのまま廊下を進んだ。

 

 さらに角を曲がったところで、二人のKAN-SENとすれ違う。

 

 瑞鶴(KAN-SEN)と翔鶴(KAN-SEN)だった。

 

翔鶴(KAN-SEN)「指揮官。それに、副提督」

 

剣子「おはようございます、翔鶴さん、瑞鶴さん!」

 

瑞鶴(KAN-SEN)「おはよう。あなたが、昨日の男の人ね」

 

 瑞鶴(KAN-SEN)は、隼人の顔から固定された左肩へ視線を移す。

 

瑞鶴(KAN-SEN)「思っていたより、ずいぶんひどい怪我じゃない」

 

隼人「見た目ほどではありません」

 

衛生員「見た目どおりです」

 

瑞鶴(KAN-SEN)「どちらが本当?」

 

翔鶴(KAN-SEN)「衛生員さんでしょうね」

 

隼人「否定はしません」

 

瑞鶴(KAN-SEN)「昨日は、空も海も大騒ぎだったからね。どれほどの人なのか、一度直接会ってみたかったの」

 

隼人「期待されるような者ではありません。昨日も、私一人で戦ったわけではない」

 

瑞鶴(KAN-SEN)「そういう答え方をするんだ」

 

 瑞鶴(KAN-SEN)が、背負っていた稽古用の木刀へ手を触れる。

 

瑞鶴(KAN-SEN)「剣も使えるって噂を聞いたけど?」

 

隼人「誰から聞いたのですか?」

 

瑞鶴(KAN-SEN)「噂は噂よ」

 

隼人「経験はあります。ただ、今の状態では相手になりません」

 

瑞鶴(KAN-SEN)「なら、治ってから一度どう?」

 

翔鶴(KAN-SEN)「瑞鶴。初対面の負傷者へ、いきなり試合を申し込まないの」

 

瑞鶴(KAN-SEN)「今すぐとは言ってないわよ!」

 

隼人「正式な訓練で、提督と軍医の許可があるなら」

 

瑞鶴(KAN-SEN)「決まりね!」

 

衛生員「まだ許可は出ていません」

 

瑞鶴(KAN-SEN)「分かっているってば……」

 

 翔鶴(KAN-SEN)が、困ったように微笑む。

 

翔鶴(KAN-SEN)「申し訳ありません、副提督」

 

隼人「いえ。回復後の予定が一つ増えただけです」

 

瑞鶴(KAN-SEN)「その言葉、忘れないでよ」

 

隼人「覚えておきます」

 

 隼人たちは、二人と別れて救護所へ向かった。

 

     ◇

 

 救護所へ戻ると、大鳳(KAN-SEN)が待っていた。

 

 面会用の小部屋。

 

 卓上には、二人分の茶が用意されている。

 

 その近くには軍医が立ち、壁際では衛生員が時間を記録していた。

 

大鳳(KAN-SEN)「お帰りなさいませ、隼人様♡」

 

隼人「お待たせしました」

 

大鳳(KAN-SEN)「いいえ。こうして来てくださっただけで、十分ですわ」

 

 衛生員が車椅子を卓の前へ止める。

 

軍医「面会は十五分です。痛みが増えた場合は、その前でも終了します」

 

大鳳(KAN-SEN)「まあ。二人きりにはしていただけませんの?」

 

軍医「患者ですので」

 

大鳳(KAN-SEN)「残念ですわ……」

 

隼人「私は構いません」

 

大鳳(KAN-SEN)「隼人様は、もう少し残念がってくださってもよろしいのですよ?」

 

隼人「では、身体が治った時に改めて」

 

大鳳(KAN-SEN)「まあ……♡」

 

 大鳳(KAN-SEN)の表情が、目に見えて明るくなった。

 

 隼人は右手で湯呑みを持つ。

 

隼人「それで、お話とは?」

 

大鳳(KAN-SEN)「隼人様のことを、もっと知りたかったのです」

 

隼人「私の?」

 

大鳳(KAN-SEN)「ええ。昨日は空から現れ、敵機を退け、遠くの敵艦隊へ攻撃を届かせました。今朝は副提督として挨拶し、そのまま執務へ向かわれた」

 

 大鳳(KAN-SEN)は、湯呑みへ口をつけず、隼人だけを見ている。

 

大鳳(KAN-SEN)「皆様は、隼人様なら何でもできるのではないかと噂していますわ」

 

隼人「先ほど、提督にも似たことを言われました」

 

大鳳(KAN-SEN)「本当は、どうなのです?」

 

隼人「できないことの方が多い」

 

 答えに迷いはなかった。

 

隼人「昨日の偵察機を回収することもできませんでした。敵艦隊を止められた理由も、こちらがすべて把握したわけではない。兄たちがどこにいるかも分からない」

 

 大鳳(KAN-SEN)の笑みが、僅かに静まる。

 

大鳳(KAN-SEN)「ご兄弟を捜していらっしゃるのですね」

 

隼人「はい。兄と弟、それから同行者が一人。全員、私と同じ事故へ巻き込まれました」

 

大鳳(KAN-SEN)「その方々を捜すために、副提督へ?」

 

隼人「それも理由の一つです。鎮守府の捜索網を使わせてもらう以上、私も働かなければならない」

 

大鳳(KAN-SEN)「取り引きのように仰るのですね」

 

隼人「取り引きです。ですが、それだけでもありません」

 

 隼人は、湯呑みの水面を見る。

 

隼人「昨日、私の指示を信じて動いた人がいる。帰るために、最後まで戦った人がいる。知らない世界だからといって、その後を放り出すことはできません」

 

大鳳(KAN-SEN)「ご自身も、まだ治っていないのに?」

 

隼人「治っていないから、できる仕事を選びます」

 

 大鳳(KAN-SEN)は、しばらく何も言わなかった。

 

 やがて、その顔へ柔らかな笑みが戻る。

 

大鳳(KAN-SEN)「やはり、とても素晴らしいお方ですわ」

 

隼人「買いかぶりです」

 

大鳳(KAN-SEN)「いいえ。何でもできるからではありません」

 

 大鳳(KAN-SEN)が、卓の上へ置かれた隼人の右手へ、自分の指先をそっと近づける。

 

 触れる直前で止め、問いかけるように隼人を見る。

 

 隼人は、その手を退けなかった。

 

 大鳳(KAN-SEN)の指先が、隼人の手の甲へ静かに重なる。

 

大鳳(KAN-SEN)「できないことを知りながら、できることを探し続ける。そのお姿が、私にはとても魅力的に見えますの」

 

隼人「そういうものですか」

 

大鳳(KAN-SEN)「そういうものですわ♡」

 

 軍医が時計を見る。

 

軍医「十五分です」

 

大鳳(KAN-SEN)「もう?」

 

軍医「もう、です」

 

 大鳳(KAN-SEN)は名残惜しそうに手を離した。

 

大鳳(KAN-SEN)「それでは隼人様。次のお話は、お身体が少し良くなってから」

 

隼人「約束します」

 

大鳳(KAN-SEN)「ふふ。今度は、もう少し長くお時間をいただきますわ」

 

 大鳳(KAN-SEN)が立ち上がり、部屋を出ていく。

 

 扉が閉じたあと、軍医が隼人を見る。

 

軍医「本日の予定は、すべて終了です」

 

隼人「承知しました」

 

衛生員「ずいぶん素直ですね」

 

隼人「執務室と通信指揮所を見ました。大鳳さんとの約束も果たした。これ以上、今日中に行う理由はありません」

 

軍医「でしたら、休んでください」

 

隼人「その前に、一つだけ」

 

衛生員「やはり素直ではありませんね」

 

隼人「大淀さんへ、修正した報告書式を今日中に各部署へ回さないよう伝えてください。試験運用の担当者を決めてからです」

 

衛生員「伝言だけですね?」

 

隼人「はい」

 

衛生員「伝えておきます」

 

 隼人は、ようやく背もたれへ身体を預けた。

 

 戦うこと。

 

 通信をつなぐこと。

 

 書類を読み、異なる部隊の情報を一つへまとめること。

 

 弓も、剣も扱えるという噂まで、すでに鎮守府内へ広がっている。

 

 昨日から今日までの働きを見聞きした者は、隼人を万能だと言うかもしれない。

 

 だが、本人は知っていた。

 

 一人でできることなど、僅かしかない。

 

 だからこそ、自分にできないことを知り、それをできる者へ託す。

 

 異なる力をつなぎ、同じ目的へ向ける。

 

 それが、呉鎮守府臨時副司令となった渡邉隼人に、本当に求められている才能だった。




はい。

流石に、何もなく大鳳に会うのは違和感があるので少々幕間のようなものを入れました。

剣術とか動画で見てみたけどあれほどの動きをどうしたら出来るのか不思議な感じしますね…

次回は、大鳳との会話です。

それではまた。

コメントとマイリス、投票お願いします。

※2026年8月30日リメイク完了

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