陸自はドールズフロントライン、海自は艦これとアズールレーン、空自はアッシュアームズ三つの世界でバラバラになりながらでも生き残る   作:ゴーストライターとかした、素人小説書き

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注意

この小説は、シリアスとギャグが少し入っています。
それが、いやな方は、上にある矢印ボタンでブラウザバックを推奨します。
この世界はアズールレーンと艦これが入っているため人物が分かりやすいようにアズールレーンはA 艦これはCと表記します。
それでも、大丈夫な方はご覧ください。


3-3 美しき赤色の女性が牙を付けた獲物は快楽を与える蛇である

3-3 美しき赤色の女性が牙を付けた獲物は快楽を与える蛇である

 

 呉鎮守府近海海戦から、七日後。

 

 呉鎮守府、娯楽室。

 

 広い室内には、将棋盤や囲碁盤、本棚、蓄音機、映像受像機などが置かれている。

 

 負傷者や非番の者も利用できるよう、奥には畳敷きの休憩室が設けられていた。

 

 娯楽室の入口で、隼人は足を止めた。

 

 一週間前には身体の各所へ巻かれていた包帯も、すでに大半が外されている。

 

 左肩の固定帯も、今朝の診察で不要と判断された。

 

 墜落と対艦誘導弾発射によって負った傷は、骨折や内臓損傷には至っていなかった。裂傷は塞がり、強く残っていた打撲と筋肉の炎症も、日常動作を妨げないところまで治っている。

 

 長く歩いた時や左腕を大きく動かした時には、まだ僅かな痛みが走る。

 

 それでも、車椅子と救護所での生活は、今日で終わった。

 

 執務と鎮守府内の移動は通常どおり。

 

 軽い運動も許可された。

 

 ただし、本格的な格闘訓練と《みらい》の装着、重量物の運搬だけは、次回の診察まで禁止されている。

 

アイ『隼人。軍医から受けた制限事項を、再度読み上げますか?』

 

隼人「必要ない。すべて覚えている」

 

アイ『記憶していることと、遵守することは同義ではありません』

 

隼人「今日は休憩しに来ただけだ」

 

アイ『記録しました』

 

剣子「アイさん、完全に隼人さんの扱いを覚えましたね」

 

隼人「誰のせいだと思っているのです?」

 

剣子「せっかくですから、私も一緒に休みます!」

 

隼人「提督は執務中では?」

 

剣子「昼休みです。大淀さんにも確認してきました!」

 

隼人「先回りして確認するようになったのですね」

 

剣子「私だって成長しますよ!」

 

 先日約束した大鳳(KAN-SEN)との待ち合わせまでは、まだ二十分ほどある。

 

 隼人は、その間だけ娯楽室で休むつもりだった。

 

 その時、天井近くの拡声器から短い音が鳴った。

 

『間もなく、間宮販売所にて特製ラムネの販売を開始します。購入を希望する方は、売り切れにご注意ください』

 

 放送が終わる。

 

 剣子の目が輝いた。

 

剣子「ラムネ!」

 

隼人「お好きなのですか?」

 

剣子「間宮さんの特製ですよ! 月に何度かしか販売されないんです!」

 

 剣子は、廊下の先にある販売所の方を見る。

 

 続いて隼人を見る。

 

 そして、もう一度、廊下の先を見る。

 

剣子「隼人さん。少しだけ、ここで待っていてもらえますか?」

 

隼人「まだ何も答えていません。それと、廊下は走らないでください」

 

 前へ傾いていた剣子が、ゆっくり姿勢を戻す。

 

隼人「私の分も一本、お願いします」

 

剣子「任せてください! 必ず確保してきます!」

 

 まるで重要任務を与えられたような顔で、剣子が娯楽室を出ていく。

 

 今度は走らず、速足だった。

 

隼人「そこまで貴重な物なのですか?」

 

アイ『販売数が限られているため、販売開始前から列が形成されています』

 

隼人「なるほど」

 

 隼人は室内を見渡す。

 

 将棋盤の置かれた卓では、天城(KAN-SEN)と加賀(KAN-SEN)が向かい合っていた。

 

天城(KAN-SEN)「王手です」

 

加賀(KAN-SEN)「……待った」

 

天城(KAN-SEN)「待ったは、なしですよ」

 

加賀(KAN-SEN)「まだ指していない」

 

赤城(KAN-SEN)「加賀。駒から指を離していましたわ」

 

加賀(KAN-SEN)「赤城は、どちらの味方なの?」

 

赤城(KAN-SEN)「面白い方ですわ」

 

 天城(KAN-SEN)が、袖で口元を隠して笑っている。

 

 その周囲では、対局を見ていた者たちが小さくざわめいていた。

 

隼人「見学しても?」

 

アイ『本日の目的は休憩です』

 

隼人「見ているだけだ」

 

アイ『隼人が盤面を見た時の視線は、休憩中のものではありません』

 

 隼人は、もう一度だけ将棋盤を見る。

 

 加賀(KAN-SEN)の王将は、盤の端へ追い詰められていた。

 

 どう見ても、あと数手で詰む。

 

隼人「……休憩室へ行きます」

 

アイ『適切な判断です』

 

 隼人は将棋盤に背を向け、奥の休憩室へ入る。

 

 室内には畳の香りが残っていた。

 

 壁際へ布団が畳まれ、中央には低い卓が一つだけ置かれている。

 

隼人「少しだけ、横になるか」

 

 隼人は自分で布団を一組敷くと、左肩を庇いながら仰向けになった。

 

 身体は動く。

 

 しかし、救護所を出た初日から午前中いっぱい執務を続けたため、思っていた以上に疲労が残っていた。

 

アイ『二十分後に起床を促します』

 

隼人「頼む」

 

 隼人は襖を半分開けたまま、目を閉じた。

 

 娯楽室から、将棋の駒を置く音が聞こえてくる。

 

 ぱちり。

 

 ぱちり。

 

 それ以外は静かだった。

 

 眠るつもりはなかった。

 

 ほんの数分、身体の力を抜くだけのつもりだった。

 

 しかし、畳の香りと遠くの話し声が、記憶の奥へ沈んでいく。

 

     ◇

 

 木刀が風を切った。

 

蓮「せやあっ!」

 

 庭へ踏み込んだ蓮が、木刀を横へ振る。

 

 竜は半歩だけ身体を退き、その手首を取った。

 

渡邉竜「力が入りすぎじゃ」

 

蓮「なっ――」

 

 竜が僅かに腰を落とす。

 

 次の瞬間、蓮の身体が宙へ浮いた。

 

蓮「うおっ!?」

 

 庭の土へ、背中から落ちる。

 

 竜は木刀を持ったまま、楽しそうに笑った。

 

渡邉竜「まだまだじゃのう」

 

蓮「手首を掴んだだけだろ! 何で身体まで動かなくなるんだよ!」

 

渡邉竜「自分で動けなくしたんじゃ。腕だけで勝とうとするから、足も腰も死んでおる」

 

蓮「くそっ……もう一回!」

 

隼人「兄上。先ほどから同じ入り方をしています」

 

 自分の声が聞こえた。

 

 隼人は、縁側へ座って庭を見ている。

 

 身体が小さい。

 

 手も、足も。

 

 着ているのは、幼い頃に使っていた稽古着だった。

 

蓮「見ているだけの奴は、好きに言えるんだよ!」

 

隼人「三回とも同じところを取られているのですから、四回目も同じです」

 

蓮「じゃあ、お前がやってみろ!」

 

隼人「私は先ほど終わりました」

 

渡邉竜「隼人は、投げられる前に降参しおった」

 

蓮「ずるいぞ!」

 

隼人「勝てないと分かっている相手へ、同じ方法で挑み続ける方がおかしいでしょう」

 

蓮「こいつ……!」

 

 蓮が起き上がり、縁側へ近づいてくる。

 

 だが、腹の鳴る音が先に響いた。

 

蓮「……腹減った」

 

渡邉竜「儂もじゃ」

 

隼人「お師匠様まで……」

 

 台所の方から、食器の触れ合う音が聞こえる。

 

咲「皆さん。お昼ができましたよ」

 

 母の声だった。

 

 隼人が振り返る。

 

 渡邉咲が、縁側の奥から顔を覗かせている。

 

 記憶の中と変わらない、穏やかな笑顔。

 

蓮「やった! 今日、何?」

 

咲「唐揚げと、おにぎりです」

 

蓮「行くぞ、隼人!」

 

 蓮が、隼人の襟を掴む。

 

隼人「ちょっと、引っ張らないでください! 伸びます!」

 

蓮「急がないと、勇翔と■■■■に全部食われるぞ!」

 

 ザザッ――。

 

 蓮の声へ、突然ひどい雑音が重なった。

 

 耳で聞く音ではない。

 

 頭の内側を、硬い物で擦られたような不快な響き。

 

隼人「……誰ですか?」

 

蓮「誰って、■■■■だよ」

 

 ザッ――ザザザッ。

 

 また、名前だけが消える。

 

蓮「おい。どうした?」

 

隼人「今、何と言いました?」

 

蓮「だから、早くしないと――」

 

 蓮が口を動かす。

 

 だが、その部分だけ何も聞こえない。

 

 庭の色が、一瞬だけ薄くなる。

 

 竜も、咲も、異変に気づいていなかった。

 

 隼人は蓮に引かれ、家の中へ入る。

 

     ◇

 

 食卓には、山盛りの唐揚げが置かれていた。

 

 大皿を囲むように、いくつもの料理が並んでいる。

 

勇翔「兄上、隼人兄さん。遅いですよ」

 

 エプロンを着た勇翔が、炊きたての米を運んでくる。

 

蓮「お前が作ったのか?」

 

勇翔「母上の手伝いをしただけです。唐揚げには触っていません」

 

蓮「じゃあ安心だな」

 

勇翔「どういう意味ですか?」

 

 蓮は席へ座ると、唐揚げの横に置かれたレモンへ手を伸ばす。

 

隼人「兄上」

 

蓮「何だよ」

 

隼人「大皿へかけたら、怒りますよ」

 

蓮「うまいだろ、レモン」

 

隼人「自分の皿だけにしてください」

 

蓮「細かい奴だな」

 

勇翔「僕は、どちらでも構いませんけどね」

 

隼人・蓮「お前は黙っていろ」

 

勇翔「なぜですか!?」

 

 食卓へ、懐かしい笑い声が広がる。

 

 その時。

 

 隼人の背後から、女性の声が聞こえた。

 

■■■■「隼人君のおにぎり、これでよかった?」

 

 ザザッ。

 

 声の最初へ、再び雑音が混じる。

 

 隼人は、ゆっくり振り返った。

 

 長い黒髪。

 

 細い指。

 

 自分より少しだけ年上に見える女性。

 

 両手には、丸く握られたおにぎりが載っている。

 

 その姿を見た瞬間、胸の奥へ懐かしさが込み上げた。

 

 知っている。

 

 この人を、自分は知っている。

 

 それなのに、顔の中心だけが見えなかった。

 

 目を凝らすほど、細かな砂嵐のようなものが表情を覆っていく。

 

隼人「貴方は……」

 

■■■■「どうしたの?」

 

 優しい声。

 

 その声まで、途中から雑音に飲まれる。

 

隼人「名前を……教えてください」

 

■■■■「名前?」

 

 女性が、少し困ったように首を傾げる。

 

■■■■「隼人君は、知っているでしょう?」

 

隼人「分かりません」

 

■■■■「忘れたの?」

 

 忘れた。

 

 その言葉が、胸へ深く刺さった。

 

 隼人は立ち上がろうとする。

 

 だが、足が動かない。

 

 手を伸ばしても、女性との距離が縮まらない。

 

 蓮と勇翔は、何事もないように唐揚げを取り合っている。

 

 咲は味噌汁を運び、竜はそれを待っている。

 

 誰も、隼人の異変に気づかない。

 

隼人「待ってください。貴方は、誰なのですか?」

 

 女性は、答えなかった。

 

 手にしていたおにぎりを、隼人の前へ置く。

 

■■■■「また、一人で全部できるふりをしているの?」

 

隼人「え……?」

 

■■■■「誰かを守ることと、誰にも頼らないことは、同じじゃないよ」

 

 幼い記憶の中にあるはずのない言葉だった。

 

 今の隼人へ向けられた言葉。

 

 女性の指が、隼人の頬へ近づく。

 

■■■■「一番でなくても、役に立てない日があっても――」

 

 ザザザザッ――。

 

 最も大切な部分を、激しい雑音が奪っていく。

 

隼人「聞こえません!」

 

 隼人は、動かない右手を無理に伸ばした。

 

■■■■「――帰ってきてね、隼人君」

 

 女性の指先が、頬へ触れる。

 

 その瞬間、食卓も、家族も、女性の姿も暗闇へ沈んだ。

 

隼人「待ってくれ!」

 

     ◇

 

 隼人の右手が、何かを掴んだ。

 

大鳳(KAN-SEN)「……隼人様?」

 

 目を開ける。

 

 畳敷きの休憩室。

 

 見慣れない天井。

 

 すぐ近くには、大鳳(KAN-SEN)がいた。

 

 隼人の右手は、彼女の手首を強く掴んでいる。

 

 大鳳(KAN-SEN)は身を乗り出した姿勢で止まり、驚いた顔をしていた。

 

隼人「……大鳳さん?」

 

大鳳(KAN-SEN)「はい」

 

 意識が、急速に現実へ戻ってくる。

 

 隼人は手を離した。

 

隼人「申し訳ありません。痛くありませんでしたか?」

 

大鳳(KAN-SEN)「この程度では、痛みませんわ」

 

 大鳳(KAN-SEN)が掴まれていた手首を撫でる。

 

大鳳(KAN-SEN)「ですが、少し驚きました。眠っていらした隼人様へ触れてもよいか、声を掛けようとしたところでしたから」

 

隼人「触れる前だったのですね」

 

大鳳(KAN-SEN)「ええ。お顔が、とても苦しそうでしたので」

 

大鳳(KAN-SEN)「約束の時刻に参りましたら、襖が開いたままでしたので、外から何度かお呼びしました。ですが、お目覚めにならなくて……」

 

隼人「それで、様子を確かめようとしたのですね」

 

大鳳(KAN-SEN)「はい」

 

アイ『心拍数の上昇を確認しました。現在は低下傾向にあります。身体各部に新たな異常はありません』

 

隼人「夢を見ただけだ」

 

 隼人は両手を畳につき、自分で上体を起こした。

 

 左肩に僅かな張りを感じたが、動きを止めるほどではない。

 

 壁へ背を預け、乱れた呼吸を整える。

 

大鳳(KAN-SEN)「本当に、もうお身体はよろしいのですか?」

 

隼人「はい。少なくとも、起き上がるのに手を借りる必要はありません」

 

大鳳(KAN-SEN)「少し残念ですわ。お支えするつもりでしたのに」

 

隼人「別の機会にお願いします」

 

 大鳳(KAN-SEN)は、隼人の正面へ静かに座った。

 

大鳳(KAN-SEN)「先日は、お身体が良くなってから改めて、と仰ってくださいましたわね」

 

隼人「約束しましたから」

 

大鳳(KAN-SEN)「きちんと覚えていてくださったのですね♡」

 

大鳳(KAN-SEN)「先ほどの夢は、ご家族の夢ですか?」

 

隼人「どうして分かったのです?」

 

大鳳(KAN-SEN)「眠りながら、兄上と呼んでいらっしゃいました。それから、お師匠様とも」

 

隼人「そうですか」

 

 隼人は、夢の内容を思い出そうとする。

 

 庭。

 

 祖父の竜。

 

 母の咲。

 

 蓮と勇翔。

 

 山盛りの唐揚げ。

 

 そして、黒髪の女性。

 

大鳳(KAN-SEN)「もう一人、誰かを呼ぼうとしていましたわ」

 

隼人「名前を言っていましたか?」

 

大鳳(KAN-SEN)「いいえ。何度か口を動かしていましたが、声にはなっていませんでした」

 

 隼人は右手を見つめる。

 

 夢の中で、あの女性へ伸ばした手。

 

 現実では、大鳳(KAN-SEN)の手首を掴んでいた。

 

大鳳(KAN-SEN)「大切な方ですの?」

 

隼人「分かりません」

 

大鳳(KAN-SEN)「分からない?」

 

隼人「姿を見た時、知っていると思いました。あの食卓にいることも、声を掛けられることも、当たり前のように感じた」

 

 隼人は、途切れた記憶を言葉にしていく。

 

隼人「ですが、名前だけが聞こえない。顔も見えない。思い出そうとするたびに、ひどい雑音が入る」

 

大鳳(KAN-SEN)「夢だから、ではなくて?」

 

隼人「それならよいのですが」

 

 夢で見た女性の言葉は、あまりにも明瞭だった。

 

 幼い日の記憶へ、現在の自分に向けた言葉が混じっていた。

 

 ただの思い出ではない。

 

 そう感じても、それを証明するものはない。

 

アイ『睡眠中の音声記録を確認しました』

 

隼人「何か残っていたか?」

 

アイ『蓮、勇翔、母上、お師匠様という発話を確認しています。それ以外に、同一の呼び掛けを三回試みていますが、音声として成立していません』

 

隼人「復元できるか?」

 

アイ『現時点では不可能です』

 

 隼人は目を閉じる。

 

 顔も、名前も思い出せない。

 

 それでも、最後の言葉だけは残っている。

 

 帰ってきてね、隼人君。

 

大鳳(KAN-SEN)「……少し、妬いてしまいますわ」

 

隼人「誰かも分からない相手に?」

 

大鳳(KAN-SEN)「誰かも分からないのに、隼人様をそれほど苦しませる方ですもの」

 

 大鳳(KAN-SEN)は微笑んでいる。

 

 だが、その瞳には冗談だけではない感情があった。

 

大鳳(KAN-SEN)「その方を思い出した時、隼人様は私を見てくださらなくなるのではありません?」

 

隼人「それは分かりません」

 

大鳳(KAN-SEN)「そこで、安心させることを仰ってくださらないのですね」

 

隼人「できない約束をしても、安心にはならないでしょう」

 

大鳳(KAN-SEN)「本当に、正直なお方……」

 

 大鳳(KAN-SEN)が、隼人との距離を僅かに縮める。

 

 畳へ手をつき、視線の高さを合わせた。

 

 赤い衣装。

 

 白い肌。

 

 艶やかな黒髪。

 

 柔らかな笑みの奥で、獲物を見つけた獣のような熱が揺れている。

 

大鳳(KAN-SEN)「では、今の隼人様は、私をどう見ていらっしゃいますの?」

 

隼人「出会ってまだ七日で、私へ強い関心を向けているKAN-SENです」

 

大鳳(KAN-SEN)「それだけ?」

 

隼人「美しい女性だとも思っています」

 

 大鳳(KAN-SEN)の目が、僅かに見開かれる。

 

 すぐに、唇へ嬉しそうな笑みが浮かんだ。

 

大鳳(KAN-SEN)「まあ……♡」

 

隼人「ただし、私は呉鎮守府の臨時副司令です。貴方は、その指揮系統に属している」

 

大鳳(KAN-SEN)「突然、難しいお話になりましたわね」

 

隼人「必要な話です」

 

 隼人は、大鳳(KAN-SEN)の目から視線を逸らさない。

 

隼人「私の立場を使って、貴方へ関係を求めるつもりはありません。反対に、個人的な好意を理由に任務や評価を変えることもできない」

 

大鳳(KAN-SEN)「私は、命令されてここへ来たのではありませんわ」

 

隼人「分かっています。だからこそ、急がない方がよい」

 

大鳳(KAN-SEN)「隼人様は、私をお嫌いですか?」

 

隼人「嫌いなら、ここまで話していません」

 

大鳳(KAN-SEN)「では、お好き?」

 

隼人「まだ、貴方を知っている途中です」

 

大鳳(KAN-SEN)「ずるいお答えですわ」

 

隼人「正直な答えです」

 

 大鳳(KAN-SEN)の顔が、さらに近づく。

 

 互いの呼吸が分かる距離。

 

 それでも彼女は、隼人の身体へ触れなかった。

 

大鳳(KAN-SEN)「では……口づけをしてもよろしいですか?」

 

 先ほどまでの甘い声とは違う。

 

 答えを待つ、真剣な問いだった。

 

 隼人は数秒考える。

 

 それから、首を横へ振った。

 

隼人「今は、駄目です」

 

 大鳳(KAN-SEN)の眉が下がる。

 

大鳳(KAN-SEN)「理由を伺っても?」

 

隼人「私はまだ、貴方の気持ちへ同じ言葉を返せないからです」

 

 大鳳(KAN-SEN)の笑みが消える。

 

 拒絶された怒りではない。

 

 隼人の言葉を、受け止めようとしている表情だった。

 

隼人「その状態で唇を受け取れば、期待だけを与えることになります」

 

大鳳(KAN-SEN)「隼人様は、どなたにも同じように慎重なのですか?」

 

隼人「恐らく」

 

大鳳(KAN-SEN)「では、いつか私以外の方へ惹かれることも?」

 

隼人「ないとは約束できません」

 

 大鳳(KAN-SEN)の瞳が細くなる。

 

大鳳(KAN-SEN)「私は、隼人様に私だけを見ていただきたいのですけれど……」

 

隼人「それを望むことは、否定しません」

 

大鳳(KAN-SEN)「叶えては、いただけませんの?」

 

隼人「今の私には、誰か一人だけを見るという約束もできません。行方の分からない家族と仲間がいる。思い出せない女性まで現れた。貴方への気持ちも、まだ名前を付けられない」

 

 隼人は、言葉を選びながら続ける。

 

隼人「それでも、私を知りたいと思うなら、止めません」

 

 大鳳(KAN-SEN)は、隼人の顔をじっと見つめていた。

 

 やがて、再び笑う。

 

 今度の笑みは、先ほどよりも静かだった。

 

大鳳(KAN-SEN)「簡単に手に入らない方ほど、欲しくなるものですわ」

 

隼人「私は獲物ですか?」

 

大鳳(KAN-SEN)「ええ。とても魅力的な獲物です♡」

 

隼人「牙を立てる時は、相手をよく確認した方がよい」

 

大鳳(KAN-SEN)「まあ。なぜですの?」

 

 隼人は、右手を大鳳(KAN-SEN)の前へ差し出した。

 

隼人「獲物のふりをした蛇かもしれません」

 

 大鳳(KAN-SEN)が、差し出された手を見る。

 

大鳳(KAN-SEN)「これは?」

 

隼人「唇は、まだ渡せません。その代わり、手を取ることならできます」

 

 大鳳(KAN-SEN)は、すぐには触れなかった。

 

大鳳(KAN-SEN)「触れても、よろしいのですね?」

 

隼人「はい」

 

 大鳳(KAN-SEN)の両手が、隼人の右手を包む。

 

 白い指先から、穏やかな温かさが伝わってきた。

 

 彼女は隼人の手を引き寄せ、手の甲へ自分の額をそっと預ける。

 

大鳳(KAN-SEN)「今は、これで我慢いたしますわ」

 

隼人「意外と素直ですね」

 

大鳳(KAN-SEN)「隼人様が、ご褒美をくださったからです♡」

 

隼人「手を差し出しただけですが」

 

大鳳(KAN-SEN)「私にとっては、十分に甘いものですわ」

 

 赤い女性は、獲物へ牙を届かせることができなかった。

 

 代わりに差し出されたのは、拒絶ではないと伝えるための、僅かな温もり。

 

 追う側だったはずの大鳳(KAN-SEN)は、それだけで先ほどより満たされた表情を見せている。

 

 獲物だと思った男は、ただ食べられるのを待つ者ではなかった。

 

 相手を傷つけず、期待だけを煽ることもなく、それでも次を望ませる距離を選ぶ。

 

 甘い毒を与える蛇のように。

 

 襖の外から、足音が近づいてくる。

 

剣子「隼人さん、お待たせしました! ラムネ、買えましたよ――」

 

 剣子が、半分開いていた襖から顔を覗かせる。

 

 大鳳(KAN-SEN)は、隼人の手を両手で包み、その上へ額を預けている。

 

 隼人は壁へ背を預けたまま、彼女を見下ろしていた。

 

剣子「……私、何分いませんでした?」

 

アイ『三十一分二十七秒です』

 

剣子「三十分ちょっとで、何があったんですか!?」

 

隼人「夢を見て、起きたところに大鳳さんがいました」

 

剣子「そこから、この状態になるまでが抜けています!」

 

大鳳(KAN-SEN)「隼人様から、ご褒美をいただきましたの♡」

 

剣子「ご褒美!?」

 

隼人「手を差し出しただけです」

 

剣子「その説明で、余計に分からなくなりました!」

 

 大鳳(KAN-SEN)が、名残惜しそうに隼人の手を離す。

 

大鳳(KAN-SEN)「本日は、ここまでですわね」

 

剣子「せっかく買ってきたラムネは?」

 

隼人「ここでいただきましょう」

 

剣子「絶対ですよ! 一本しか確保できなかったんですから!」

 

隼人「提督の分は?」

 

剣子「それが最後の一本でした……」

 

隼人「では、提督が飲んでください」

 

剣子「駄目です。隼人さんに頼まれて買ったものですから」

 

隼人「半分ずつにしますか?」

 

剣子「ラムネを半分……」

 

隼人「コップを二つ借りればよいでしょう」

 

剣子「あっ、そうですね!」

 

 剣子は大切そうに硝子瓶を抱え、娯楽室に置かれたコップを取りに向かった。

 

大鳳(KAN-SEN)「まあ。指揮官も、隼人様から甘いものをいただくのですね」

 

剣子「今、ものすごく誤解される言い方をしませんでした!?」

 

 休憩室へ、久しぶりに穏やかな笑い声が広がる。

 

 隼人も、僅かに口元を緩めた。

 

 しかし、胸の奥には夢の感触が残っている。

 

 家族の食卓。

 

 黒髪の女性。

 

 思い出せない名前。

 

 雑音に奪われた言葉。

 

 誰かを守ることと、誰にも頼らないことは、同じではない。

 

 そして――帰ってきてね、隼人君。

 

 あの女性が、過去の記憶なのか。

 

 失われた誰かなのか。

 

 それとも、まだ出会っていない誰かなのか。

 

 今の隼人には、分からない。

 

 ただ一つ。

 

 夢から覚めた時、伸ばした手は空を掴まなかった。

 

 そこには、隼人の答えを待ちながら、自分の意思で手を取った大鳳(KAN-SEN)がいた。

 

 思い出せない誰かの言葉を、すぐに理解することはできない。

 

 それでも、一人で抱え込まないという選択は、もう始めることができる。

 

 隼人は畳へ右手をつき、自分の力で立ち上がった。

 

 左肩には僅かな痛みが残っている。

 

 だが、その足で好きな場所へ行き、必要な相手に会い、自分の手で何かを選ぶことができる。

 

 もう、誰かに運んでもらわなければ動けない身体ではなかった。

 

 その右手にはまだ、大鳳(KAN-SEN)の温もりが残っていた。




はい。

隼人は基本どの人でも愛せるバイセクシャルという性格です。

何でそんな性格になったか…いずれ書こうかな…

後、新しい小説書こうかなと考えていますね。

とりあえず、初めては大鳳ですね…可愛いね!

次回は…鎮守府生活の一日書こうかな。

それでは!

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後、R17.9のタグ追加しますね…

※2026年8月30日リメイク完了

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