陸自はドールズフロントライン、海自は艦これとアズールレーン、空自はアッシュアームズ三つの世界でバラバラになりながらでも生き残る   作:ゴーストライターとかした、素人小説書き

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注意

この小説は、シリアスとギャグが少し入っています。
それが、いやな方は、上にある矢印ボタンでブラウザバックを推奨します。
この世界はアズールレーンと艦これが入っているため人物が分かりやすいようにアズールレーンはA 艦これはCと表記します。
それでも、大丈夫な方はご覧ください。


3-4 配属初日に早速関係を持った副提督の一日 午前

3-4 噂の中心になった副司令の一日 午前

 

 呉鎮守府近海海戦から、八日後。

 

 午前七時十分。

 

 呉鎮守府、副司令執務室前廊下。

 

能代(KAN-SEN)「はっ、はっ、はっ……!」

 

 能代(KAN-SEN)が、書類鞄を胸へ抱えて廊下を急いでいた。

 

 始業時刻は、午前七時。

 

 すでに十分の遅刻だった。

 

能代(KAN-SEN)「まさか、初めての秘書官当番で寝坊するなんて……!」

 

 昨夜、隼人が提出した呉鎮守府近海海戦の報告書を読み始めたことが原因だった。

 

 未来から現れた人間が、あの戦場で何を見て、何を考えていたのか。

 

 少しだけ確認するつもりが、気づけば日付が変わっていた。

 

 それでも、目覚ましを止めたのは自分である。

 

 誰かのせいにはできなかった。

 

綾波(艦娘)「あっ、能代さん。おはようございます」

 

 曲がり角の先から、二人の綾波が歩いてくる。

 

能代(KAN-SEN)「おはようございます! 申し訳ありません、今は急いでいますので!」

 

綾波(艦娘)「廊下を走ると危ないですよ!」

 

綾波(KAN-SEN)「ですが、その速度では遅刻時間が増えるです」

 

綾波(艦娘)「応援する前に、走らないよう注意しましょう!?」

 

綾波(KAN-SEN)「能代、がんばるです」

 

能代(KAN-SEN)「ありがとうございます!」

 

綾波(艦娘)「やっぱり応援してる……」

 

 二人の声を背中で聞きながら、能代(KAN-SEN)は廊下の終端を見る。

 

 副司令執務室。

 

 見慣れない真新しい表札が、扉の横へ取り付けられている。

 

能代(KAN-SEN)「着いた……!」

 

 扉の前で足を止める。

 

 乱れた呼吸を整え、制服の襟と髪を直す。

 

 深く息を吸い、扉を叩こうとした瞬間。

 

 内側から扉が開いた。

 

隼人「お疲れ様です」

 

能代(KAN-SEN)「えっ?」

 

 迷彩服姿の隼人が、畳んだ手拭いと水の入ったコップを差し出していた。

 

隼人「廊下の向こうから、足音が聞こえていました。まずは呼吸を整えてください」

 

能代(KAN-SEN)「あ、ありがとうございます……」

 

 能代(KAN-SEN)は手拭いを受け取り、額の汗を拭う。

 

 続いて水へ口をつけたが、急いで飲みすぎて咳き込んだ。

 

能代(KAN-SEN)「けほっ、けほっ……!」

 

隼人「ゆっくりで構いません。遅刻時間が一分増えたところで、状況は変わりません」

 

能代(KAN-SEN)「申し訳ありません、副司令!」

 

隼人「謝罪と事情の確認は、中で行いましょう」

 

 隼人が身体を横へずらし、執務室へ入るよう促した。

 

     ◇

 

 午前七時二十分。

 

 副司令執務室。

 

 机の上には、本日の予定表と三つの書類箱が置かれていた。

 

 壁際の衣装掛けには、海軍式の制服ではなく、予備の迷彩服が掛けられている。

 

 隼人の右腕には、臨時副司令であることを示す腕章が巻かれていた。

 

 大本営による身分と階級の審査が終わっていないため、正式な海軍将校の制服を着用することはできない。

 

 今の隼人は、自衛官としてこの世界へ持ち込んだ迷彩服に、呉鎮守府が発行した身分証と腕章を加えて勤務していた。

 

能代(KAN-SEN)「改めまして、本日の副司令秘書官を務めます、重桜所属の軽巡洋艦・能代です」

 

 能代(KAN-SEN)が背筋を伸ばし、頭を下げる。

 

能代(KAN-SEN)「初日から遅刻してしまい、申し訳ありません」

 

隼人「理由を聞かせてください」

 

能代(KAN-SEN)「昨夜、副司令の戦闘報告書を読んでいました。途中で止められず、就寝が遅くなりました」

 

隼人「当番に備えた情報収集ですか?」

 

能代(KAN-SEN)「最初は、そのつもりでした」

 

隼人「途中からは?」

 

能代(KAN-SEN)「……個人的な興味です」

 

 能代(KAN-SEN)は、正直に答えた。

 

隼人「分かりました。遅刻十分。理由は自己管理不足として記録します」

 

能代(KAN-SEN)「はい」

 

隼人「ただし、隠さず報告した点と、当番に必要な情報を自発的に確認した点は別に評価します。次からは、睡眠時間を削る前に切り上げてください」

 

能代(KAN-SEN)「処分は……?」

 

隼人「必要ありません。同じことが続けば、当番の変更を提督へ提案します」

 

能代(KAN-SEN)「続けません!」

 

 即答だった。

 

隼人「では、この件は終わりです」

 

 隼人は机の上から本日の予定表を取り、能代(KAN-SEN)へ渡した。

 

 午前七時三十分、技術工房。

 

 午前八時二十分、空襲被害区画の復旧状況確認。

 

 午前十時、提督執務室で合同事務。

 

 正午、午前勤務終了。

 

能代(KAN-SEN)「副司令は、朝食を済ませましたか?」

 

隼人「六時半に食べました。能代さんは?」

 

能代(KAN-SEN)「部屋を出る前に、携行食を一つだけ……」

 

隼人「昼食までもたない可能性がありますね」

 

 隼人は机の引き出しから、個包装された乾パンを取り出した。

 

隼人「移動中に食べてください。空腹のまま復旧現場へ入られる方が困ります」

 

能代(KAN-SEN)「ありがとうございます。ですが、遅刻した上にいただくわけには……」

 

隼人「これは褒美ではなく、勤務を続けるための補給です」

 

能代(KAN-SEN)「補給……」

 

隼人「艦も人も、燃料なしでは動けないでしょう」

 

 能代(KAN-SEN)は乾パンを受け取った。

 

 厳しいのか、優しいのか。

 

 おそらく、そのどちらでもある。

 

 必要な線を引きながら、動ける状態を作る。

 

 報告書から受けた印象と、目の前の隼人の姿が、少しだけ重なった。

 

能代(KAN-SEN)「副司令」

 

隼人「何でしょう?」

 

能代(KAN-SEN)「本日は、よろしくお願いします」

 

 能代(KAN-SEN)が右手を差し出す。

 

隼人「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 隼人も右手を差し出し、その手を握った。

 

 こうして、能代(KAN-SEN)にとって初めての副司令秘書官当番が始まった。

 

     ◇

 

 午前七時三十分。

 

 呉鎮守府、技術工房。

 

 扉を開けると、金属と油、僅かに焦げた絶縁材の匂いが鼻へ届いた。

 

 作業台には、《みらい》から取り外された装甲板、制御装置、空になった弾薬容器が並べられている。

 

 左肩部の駆動装置は、分解された状態で固定台へ載せられていた。

 

明石(KAN-SEN)「おはようだにゃ……」

 

 明石(KAN-SEN)が、作業台へ突っ伏したまま片手を上げる。

 

隼人「おはようございます。眠れていないのですか?」

 

明石(KAN-SEN)「寝たにゃ。机の上で二時間ほど」

 

能代(KAN-SEN)「それは睡眠ではなく、気絶に近いのでは?」

 

明石(KAN-SEN)「新しい物を調べている時は、こうなるものだにゃ」

 

 隣の開発区画から、別の声が飛んでくる。

 

明石(艦娘)『私は三時間寝ましたよ!』

 

明石(KAN-SEN)「一時間しか変わらないにゃ!」

 

明石(艦娘)『一・五倍です!』

 

 どちらも胸を張れる話ではなかった。

 

隼人「明石さん」

 

明石(KAN-SEN)「何かにゃ?」

 

明石(艦娘)『はい、何でしょう?』

 

 工房の両側から同時に返事が来る。

 

 能代(KAN-SEN)が、困ったように隼人を見る。

 

隼人「KAN-SENの明石さんへ、《みらい》の状態を伺います。その後、艦娘の明石さんにも弾薬分析について確認します」

 

明石(KAN-SEN)「最初からそう呼んでほしいにゃ」

 

明石(艦娘)『私も賛成です!』

 

 隼人と能代(KAN-SEN)は、作業台の前へ移動した。

 

明石(KAN-SEN)「まず《みらい》だけど、左肩の変形部分は切り離したにゃ。基礎骨格と制御系は起動できる。ただ、負荷試験はまだしていないにゃ」

 

隼人「装着可能という意味ではありませんね」

 

明石(KAN-SEN)「そのとおりにゃ。人が中へ入った状態で試す段階ではないにゃ」

 

アイ『現在、《みらい》の装着は医療上の理由からも禁止されています』

 

隼人「分かっている」

 

アイ『確認しました』

 

明石(KAN-SEN)「アイがいると話が早くて助かるにゃ」

 

 隼人は、装備を直ちに使うことを諦め、弾薬容器へ視線を移した。

 

隼人「弾薬の解析結果は?」

 

 隣の開発区画から、白い作業着姿の明石(艦娘)が書類の束を抱えて現れる。

 

明石(艦娘)「結論から言うと、同じ物の製造はできません」

 

能代(KAN-SEN)「口径が同じでも、ですか?」

 

明石(艦娘)「口径は入口にすぎません。薬莢、装薬、弾体、信管まで全部そろって、初めて同じ弾薬になります」

 

 明石(艦娘)が、一枚目の図面を作業台へ置く。

 

 《みらい》が使用する百二十七ミリ砲弾。

 

 外形寸法の測定結果と、信管部分の透視画像が記されていた。

 

明石(艦娘)「砲弾本体と同じ大きさの容器を作ることは可能です。しかし、電子制御式の信管と、発射時の衝撃に耐える内部部品を再現できません」

 

明石(KAN-SEN)「二十ミリ弾も同じだにゃ。似た寸法の弾を入れるだけならできるかもしれない。でも、薬室圧力も弾道も違う。砲身か機関部を壊す可能性が高いにゃ」

 

隼人「既存弾薬の流用は?」

 

明石(艦娘)「安全を保証できません。撃てたとしても、本来の性能は出ないでしょう」

 

隼人「では、実弾での試験は禁止してください」

 

明石(KAN-SEN)「試さなくていいのかにゃ?」

 

隼人「残弾も砲身も交換できない。可能性を調べるために、現物を失うわけにはいきません」

 

 明石(KAN-SEN)が頷き、注意書きを記録へ加える。

 

隼人「誘導弾は?」

 

明石(艦娘)「対艦誘導弾は、先日の戦闘で全弾使用されています」

 

明石(KAN-SEN)「対空誘導弾は残っている分だけだにゃ。誘導装置、推進薬、操舵機構、制御用の部品。そのどれか一つが欠けても、同じ物にはならないにゃ」

 

明石(艦娘)「この工房だけの問題ではありません。材料、精密加工、電子部品、製造設備まで含めた産業全体の差です」

 

 未来兵器を一つ入手したからといって、その時代の工業力まで手に入るわけではない。

 

 分解して形を知ることと、同じ性能の物を量産することは別の話だった。

 

隼人「残存する対空誘導弾と専用弾薬は、すべて緊急用として封印してください。訓練では使用しない」

 

明石(KAN-SEN)「了解だにゃ」

 

明石(艦娘)「保管条件も、アイさんの記録を基に見直します」

 

能代(KAN-SEN)「ということは、副司令の装備は、使うたびに戦力が減っていくのですね」

 

隼人「今のところは、そう考えるべきです」

 

 《みらい》は、戦局を一方的に変え続けられる万能兵器ではない。

 

 失った部品は戻らない。

 

 消費した弾薬も補充できない。

 

 だからこそ、使う目標と時機を選ばなければならなかった。

 

明石(艦娘)「もう一つ、確認していただきたい物があります」

 

 明石(艦娘)は、工房奥の隔離区画へ二人を案内した。

 

 そこには、回収されたヘリコプターの胴体部分が固定されている。

 

 焼け、裂け、海水に濡れた機体。

 

 それでも、内部骨格の一部は原形を保っていた。

 

明石(艦娘)「胴体側面を透視したところ、座席後方に密閉区画が見つかりました。無理に開ける前に、所有者の確認を取ることにしたんです」

 

 隼人は、変形した側壁へ近づいた。

 

 表面の汚れを布で拭うと、手動解錠装置の蓋が現れる。

 

隼人「搭乗員用の装備収納区画です」

 

明石(KAN-SEN)「中身は分かるかにゃ?」

 

隼人「事故の直前に積まれていた物が変わっていなければ」

 

 隼人は明石(艦娘)から工具を借り、変形した保護蓋だけを外した。

 

 続いて、露出した機械式解錠装置へ番号を入力する。

 

 鈍い音がして、内部の固定具が外れた。

 

 明石(KAN-SEN)と明石(艦娘)が用意していた小型の巻き上げ機で、歪んだ側壁が慎重に開かれる。

 

 密閉区画の中には、三つの銃器用容器と複数の弾薬箱が固定されていた。

 

能代(KAN-SEN)「小銃と、拳銃……こちらの大きな物も銃ですか?」

 

隼人「二〇式小銃、九ミリ拳銃のP226、それからM95対物狙撃銃です」

 

 隼人は一つずつ固定を解除し、外側の状態を確認する。

 

 小銃の容器には海水が入り込んだ痕跡がある。

 

 拳銃は油紙と袋に守られ、比較的状態がよい。

 

 M95の容器は密閉を保っていたが、照準器の確認が必要だった。

 

明石(KAN-SEN)「二〇式は、小さな弾を使うんだにゃ」

 

隼人「五・五六ミリ弾です。正確には、五・五六ミリ×四十五」

 

能代(KAN-SEN)「大きな弾の方が、強いのではないのですか?」

 

隼人「一発ごとの威力だけで決まるものではありません。反動、携行できる弾数、命中させやすさ、想定する交戦距離を含めて選びます」

 

明石(艦娘)「拳銃は九ミリ。対物狙撃銃は、十二・七ミリですね。似た口径の弾薬なら、こちらにも存在します」

 

隼人「似ているだけでは使用できません」

 

明石(艦娘)「はい。薬莢寸法、弾頭、装薬量、雷管、許容圧力を確認するまでは、互換性があるとは判断しません」

 

明石(KAN-SEN)「既存の弾を切ったり削ったりして、無理に合わせるのも禁止だにゃ」

 

隼人「当然です。射手と銃の両方を失います」

 

 明石(KAN-SEN)が少し残念そうに耳を伏せた。

 

隼人「外観撮影、寸法測定、海水除去、通常分解による整備を許可します。機能部品や実弾を切断する破壊検査は、私へ目的を説明してからにしてください」

 

明石(艦娘)「承知しました。保管装備調査の同意書へ追記します」

 

 隼人は書類を確認し、署名する。

 

 自分の装備だからといって、工房へ命令だけを残すことはしない。

 

 反対に、未来の物だからと秘密にして、必要な整備まで妨げることもしない。

 

 どこまで調べ、何を残し、何を使わないのか。

 

 その境界を明確にすることも、所有者であり副司令でもある隼人の仕事だった。

 

能代(KAN-SEN)「副司令。復旧現場へ向かう時刻です」

 

隼人「分かりました。明石さんたち、無理に作業を続けず、交代で休んでください」

 

明石(KAN-SEN)「善処するにゃ」

 

明石(艦娘)「KAN-SENの明石さんが先に休んだら、私も休みます」

 

明石(KAN-SEN)「艦娘の明石が先だにゃ」

 

隼人「能代さん」

 

能代(KAN-SEN)「はい。交代時刻を決めて、大淀さんから工房へ通達してもらいます」

 

隼人「お願いします」

 

明石(KAN-SEN)「にゃっ!?」

 

明石(艦娘)「ええっ!?」

 

 互いに譲り合って休まない二人を残し、隼人と能代(KAN-SEN)は工房を出た。

 

     ◇

 

 午前八時二十分。

 

 空襲被害区画。

 

 隼人と能代(KAN-SEN)は、保護帽と手袋を着けて現場へ入った。

 

 道路の一部は爆弾で抉られ、周囲の建物も壁と骨組みだけを残している。

 

 崩れた煉瓦。

 

 折れ曲がった鉄骨。

 

 焼けた木材。

 

 重機の数が足りないため、艦娘とKAN-SENの力を借りながら撤去が進められていた。

 

剣子「隼人さん、能代さん。おはようございます!」

 

隼人「おはようございます、提督」

 

能代(KAN-SEN)「おはようございます」

 

 剣子は作業配置図を手に、複数の班へ指示を出していた。

 

剣子「工房の確認は終わりましたか?」

 

隼人「はい。《みらい》は試験前。弾薬の完全な再製造は困難。残存弾薬は緊急用に封印します」

 

剣子「やっぱり、簡単には増やせませんか……」

 

隼人「形を真似るだけでは、兵器として使えません」

 

剣子「分かりました。詳しい報告は、あとで執務室で聞きます」

 

 剣子が、被害区画の中央を指す。

 

剣子「今は、あの鉄骨で作業が止まっています」

 

 一本の太い鉄骨が、斜めに地面へ突き刺さっていた。

 

 周囲では作業員が土砂を取り除き、引き抜くための綱を掛けようとしている。

 

 鉄骨の先端は、半壊した建物の壁へ接していた。

 

能代(KAN-SEN)「私が引き抜きましょうか?」

 

 能代(KAN-SEN)が鉄骨へ近づこうとする。

 

隼人「待ってください」

 

 隼人は、鉄骨そのものではなく、接触している壁と周囲の亀裂を見た。

 

隼人「これは、地面に刺さっているだけですか?」

 

剣子「え?」

 

隼人「鉄骨の上側が、残った壁を支えているように見えます。先に引けば、壁がこちらへ倒れる可能性があります」

 

 その言葉を聞いた技術班員が、壁の反対側を確認する。

 

 亀裂へ測定具を当て、鉄骨との接触部分を調べた。

 

「副司令の指摘どおりです! 鉄骨を抜くと、壁の一部が崩れる可能性があります!」

 

剣子「危なっ……。このまま力任せに抜かなくてよかった……」

 

隼人「私は建築の専門家ではありません。具体的な除去手順は、技術班の判断を優先してください」

 

 隼人は配置図を地面へ広げる。

 

隼人「ただ、先に壁を支えること。倒壊範囲から人を出すこと。鉄骨を引く者と合図を出す者を分けること。この三つは必要です」

 

 技術班が検討し、撤去手順を組み直した。

 

 半壊した壁を木材と鋼材で仮支えする。

 

 周囲へ立入禁止線を張る。

 

 鉄骨の重心に吊り具を掛け、二基の巻き上げ機で向きを制御する。

 

 艦娘とKAN-SENは、合図があるまで力を加えない。

 

 能代(KAN-SEN)が鉄骨に最も近い位置で、作業班の合図を受け持つ。

 

 隼人は安全区域から、壁の亀裂と吊り具の位置を確認する役へ回った。

 

能代(KAN-SEN)「副司令は、手を出さないでくださいね」

 

隼人「分かっています」

 

能代(KAN-SEN)「《みらい》も使わないでください」

 

隼人「工房に分解されたままです」

 

能代(KAN-SEN)「重量物も持たないでください」

 

隼人「秘書官というより、軍医の代理ですね」

 

能代(KAN-SEN)「本日の予定表に、『医療上の制限を守らせること』と書かれていました」

 

 剣子が、そっと視線を逸らした。

 

隼人「提督が加えたのですか?」

 

剣子「必要な仕事だと思いまして……」

 

隼人「否定はしません」

 

剣子「よかった……」

 

 準備が整う。

 

 能代(KAN-SEN)が片手を上げた。

 

能代(KAN-SEN)「巻き上げ開始。低速!」

 

 二基の巻き上げ機が動く。

 

 鉄骨へ張られた綱が軋み、土の中に埋まった先端が僅かに動いた。

 

 半壊した壁の亀裂を、隼人と技術班員が確認する。

 

隼人「壁面、変化なし」

 

「吊り具、異常なし!」

 

能代(KAN-SEN)「そのまま継続!」

 

 鉄骨が少しずつ地面から抜けていく。

 

 一度に引き抜くのではなく、向きを変え、土を除き、再び引く。

 

 時間は掛かった。

 

 だが、壁を倒すことも、周囲の者を危険へ晒すこともない。

 

 やがて鉄骨は完全に地面から離れ、空いた場所へ静かに横たえられた。

 

剣子「撤去完了!」

 

 現場にいた者たちから、安堵の声が上がる。

 

 隼人は鉄骨ではなく、支えられた壁と周囲の人員を見る。

 

隼人「負傷者は?」

 

能代(KAN-SEN)「いません。設備の損傷もありません」

 

隼人「それなら、成功です」

 

 今の隼人は、未来装備を使って鉄骨を引き抜くことはできない。

 

 今の隼人には、その装備を使う許可もない。

 

 だが、誰が何をできるかを見極め、危険を減らし、力を一つの目的へ向けることはできる。

 

 それこそが、隼人自身が見つけ始めた副司令としての役割だった。

 

     ◇

 

 午前十時五分。

 

 提督執務室。

 

剣子「予定より五分遅れましたね」

 

能代(KAN-SEN)「安全確認に必要な時間です」

 

隼人「遅れた分は、休憩時間ではなく予定の優先順位を変えて調整します」

 

剣子「休憩を削る、と言わなくなっただけでも進歩ですね」

 

アイ『同意します』

 

隼人「二人とも、私を何だと思っているのです?」

 

 剣子が執務室の扉を開ける。

 

剣子「お待たせしました、大鳳さん!」

 

大鳳(KAN-SEN)「お帰りなさいませ、指揮官様」

 

 大鳳(KAN-SEN)が、机の横で書類を整えていた。

 

 本日の提督秘書官は、大鳳(KAN-SEN)。

 

 副司令秘書官の能代(KAN-SEN)とは担当する机も書類も異なる。

 

 大鳳(KAN-SEN)は剣子へ一礼し、続いて隼人を見る。

 

大鳳(KAN-SEN)「隼人様も、お疲れ様でした♡」

 

隼人「ありがとうございます。大鳳さんも、準備をしていただき助かります」

 

 昨日よりは離れた距離。

 

 それでも、互いの右手へ一瞬だけ視線が向いた。

 

 休憩室で重ねた手の温もりを、二人とも覚えている。

 

能代(KAN-SEN)「……」

 

 能代(KAN-SEN)は、その短いやり取りを見逃さなかった。

 

剣子「あっ、そうだ。能代さんは、昨日のことを知らないんですよね」

 

隼人「提督」

 

能代(KAN-SEN)「昨日、何かあったのですか?」

 

剣子「私が娯楽室へ戻ったら、休憩室で大鳳さんが隼人さんの手を両手で包んで、その上に額を乗せていたんです!」

 

能代(KAN-SEN)「休憩室で、二人きりで……?」

 

隼人「襖は開いていました」

 

剣子「しかも、大鳳さんは『ご褒美をいただきました』って!」

 

能代(KAN-SEN)「ご褒美……」

 

隼人「手を差し出しただけです」

 

能代(KAN-SEN)「副司令。その説明では、誤解が深まります」

 

大鳳(KAN-SEN)「隼人様から、触れてもよいと許可をいただいたのですわ♡」

 

能代(KAN-SEN)「許可……」

 

隼人「大鳳さんも、言葉を選んでください」

 

大鳳(KAN-SEN)「事実しか申し上げておりませんわ」

 

 能代(KAN-SEN)の視線が、隼人と大鳳(KAN-SEN)の間を往復する。

 

能代(KAN-SEN)「つまり、お二人は……お付き合いを?」

 

隼人「していません」

 

大鳳(KAN-SEN)「まだ、ですわ」

 

隼人「大鳳さん」

 

大鳳(KAN-SEN)「ふふ……♡」

 

 答えが揃っていなかった。

 

 扉が叩かれる。

 

赤城(KAN-SEN)「失礼いたします」

 

 赤城(KAN-SEN)が、補給部門からの書類を持って入ってきた。

 

 机の横にいる大鳳(KAN-SEN)を見ると、穏やかな笑みを浮かべる。

 

赤城(KAN-SEN)「昨日は、随分と楽しそうでしたわね、大鳳」

 

大鳳(KAN-SEN)「まあ。将棋盤の前から、見ていらしたの?」

 

赤城(KAN-SEN)「休憩室へ入っていくところだけです。戻られた時のお顔を見れば、何かよいことがあったとは分かりますわ」

 

大鳳(KAN-SEN)「ええ。隼人様との距離が、少しだけ近づきましたの♡」

 

赤城(KAN-SEN)「それは、おめでとうございます」

 

 言葉は丁寧だった。

 

 だが、赤城(KAN-SEN)の微笑みは、少しだけ鋭い。

 

赤城(KAN-SEN)「もっとも、まだ特別な関係ではないのでしょう?」

 

大鳳(KAN-SEN)「始まったばかりですもの。これからですわ」

 

 大鳳(KAN-SEN)も笑みを崩さない。

 

 二人の間に、目には見えない火花が散る。

 

剣子「あの、そろそろ書類を……」

 

赤城(KAN-SEN)「指揮官は、少しお待ちくださいませ」

 

剣子「私の執務室なのに!?」

 

隼人「赤城さん、大鳳さん」

 

 二人の視線が、同時に隼人へ向く。

 

隼人「誰が先かを競うつもりでしたら、私を賞品のように扱わないでください」

 

 赤城(KAN-SEN)の耳が僅かに下がる。

 

 大鳳(KAN-SEN)も、笑みを静めた。

 

隼人「私は、好意を向けられること自体を拒みません。ただし、誰との関係をどこまで進めるかは、私を含めた当人同士で決めます」

 

大鳳(KAN-SEN)「……承知しておりますわ」

 

赤城(KAN-SEN)「申し訳ございません、隼人様」

 

隼人「理解していただければ、それで構いません」

 

 赤城(KAN-SEN)は補給書類を剣子へ渡し、大鳳(KAN-SEN)へ向き直る。

 

赤城(KAN-SEN)「それでも、遠慮するつもりはありませんわ」

 

大鳳(KAN-SEN)「もちろん。正面からいらしてくださいな」

 

 先ほどまでとは違う。

 

 敵意ではなく、互いを競争相手として認める言葉だった。

 

剣子「今度こそ、仕事を始めてもいいですか?」

 

隼人「始めましょう」

 

能代(KAN-SEN)「賛成です」

 

大鳳(KAN-SEN)「お待たせしました、指揮官様」

 

赤城(KAN-SEN)「私は補給部へ戻ります。失礼いたします」

 

 赤城(KAN-SEN)が退室し、四人はそれぞれの席へ着いた。

 

     ◇

 

 机の上へ、午前中に処理すべき書類が並べられる。

 

 空襲被害区画の復旧計画。

 

 帰投した即応連合艦隊の修理順位。

 

 航空機と弾薬の損耗一覧。

 

 戦死者、負傷者、未帰還者に関する追加報告。

 

 未来装備の保管と調査範囲。

 

 どれも、署名だけで終わる書類ではなかった。

 

能代(KAN-SEN)「こちらが、呉鎮守府で使用している修理優先度の区分です。艦種ではなく、任務への復帰に必要な日数と、代替可能性を基準にします」

 

隼人「この二隻は損傷の程度が近いのに、順位が違うのは?」

 

能代(KAN-SEN)「一隻は同型艦で代替できます。もう一隻は、現在の護衛編成に必要な対空能力を持っています」

 

隼人「理解しました。では、この順位で異議はありません」

 

 能代(KAN-SEN)が現行制度と艦隊事情を説明する。

 

 隼人は、分からない箇所を飛ばさず確認する。

 

 大鳳(KAN-SEN)は、剣子が決裁すべき書類と、副司令側で整理できる資料を分けていく。

 

 剣子は最終判断が必要な案件を読み、二人の意見を聞いた上で署名する。

 

 隼人が一人で全てを処理することはない。

 

 この世界の艦隊運用は、能代(KAN-SEN)と大鳳(KAN-SEN)の方が詳しい。

 

 呉鎮守府全体の責任は、提督である剣子が負う。

 

 隼人は、異なる部署から届いた情報を照合し、判断に必要な不足部分を見つけていく。

 

隼人「この復旧計画には、工房が必要とする電力が入っていません」

 

剣子「工房の電力は、施設維持費から出しているはずです」

 

大鳳(KAN-SEN)「ですが、未来装備の保管設備を追加したため、通常時より消費が増えていますわ」

 

能代(KAN-SEN)「このまま大型艦の修理を同時に始めると、夜間に供給限界を超える可能性があります」

 

隼人「修理開始時刻をずらしましょう。未来装備の保管設備は止められません」

 

剣子「大淀さんと工廠へ確認して、夜間工程を組み直します」

 

 次の書類へ進む。

 

 一つ終われば、また新しい問題が見つかる。

 

 正午までに、すべての書類が消えることはなかった。

 

 それでも、優先順位の不明な山は、担当者と期限が記された仕事へ変わっていく。

 

     ◇

 

 午前十一時五十八分。

 

 能代(KAN-SEN)が、最後の書類へ確認印を押した。

 

能代(KAN-SEN)「午前中の処理予定分、完了しました」

 

剣子「終わった……!」

 

 剣子が机へ突っ伏そうとする。

 

 その直前、大鳳(KAN-SEN)が未処理の書類箱を静かに横へ置いた。

 

大鳳(KAN-SEN)「午後の分ですわ、指揮官様♡」

 

剣子「見なかったことにして、お昼へ行きませんか?」

 

隼人「午後の開始時刻まで見なければ、問題ありません」

 

剣子「隼人さんが味方をしてくれた!」

 

能代(KAN-SEN)「昼休みを守るという意味です」

 

剣子「それでも十分です!」

 

 能代(KAN-SEN)が予定表へ、午前勤務終了と記入する。

 

 遅刻から始まった初めての秘書官当番。

 

 未来装備が抱える補給の限界。

 

 力任せでは解決できない復旧現場。

 

 そして、昨日から続く大鳳(KAN-SEN)との噂。

 

 午前だけでも、隼人を待つ問題は尽きなかった。

 

 それでも、朝の時点では別々だった者たちは、それぞれの役割を知り、一つの机を囲んで仕事を終えた。

 

 副司令として隼人が築き始めているのは、誰か一人を所有するような関係ではない。

 

 提督、秘書官、技術者、復旧班。

 

 異なる力を持つ者たちが、互いの判断と限界を理解した上で働ける関係だった。

 

 恋愛については、まだ始まりかけたばかりである。

 

 少なくとも、鎮守府内へ広まりつつある噂ほど、話は進んでいなかった。




はい。

一日丸ごと書こうと思ったがこれ以上書くと脳が焼き切れるので二部構成にいたします。

はいそこ、キリがいいから予定変更したとか言わない!

まぁ、とは言え自分まだまだ素人なところもあるので未熟ですかね…

とりあえず、午後の部は次回になりますのでよろしく!

コメントマイリスお願いします!

それでは!

※2026年8月30日リメイク完了

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