陸自はドールズフロントライン、海自は艦これとアズールレーン、空自はアッシュアームズ三つの世界でバラバラになりながらでも生き残る 作:ゴーストライターとかした、素人小説書き
この小説は、シリアスとギャグが少し入っています。
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グーグル先生にお聞きください。
それでも、大丈夫な方はご覧ください。
Act.13 機械いじりが好きな故に……
翌朝、午前六時四十分。
黒十字帝国学連、第二試験飛行場。
士官居住区、三〇七号室。
勇翔が目を覚ますと、仕切りの向こうから湯の沸く音が聞こえていた。
腰部を支える固定具。
右脚へ取り付けられた神経反応センサー。
胸元の医療監視装置。
表示灯はいずれも緑色を保っている。
夜中に強い痛みが出た記憶もなかった。
勇翔「……朝か」
Hs129「おはよう、勇翔。起きてる?」
入口側の仕切りから、Hs129の声がする。
勇翔「今、起きました」
Hs129「身体は?」
勇翔「右脚に少し痺れがあります。昨日より悪くはありません」
雷電「では、立ち上がる前に医療区へ連絡しましょう」
中央の寝台にいた雷電も、既に目を覚ましていた。
勇翔は身体を動かさず、胸元の監視装置へ目を落とした。
勇翔「お願いします。許可が出るまでは、このまま待ちます」
Hs129「了解。医療区へ連絡してくるね」
勇翔「ありがとうございます」
Hs129が医療区へ電話を掛ける。
症状と監視装置の数値を伝え、寝台から車椅子へ移る許可を得た。
仕切りを開ける。
雷電が勇翔の右側へ立ち、Hs129が車椅子を寝台へ寄せる。
雷電「右脚へ体重を掛けないでください」
勇翔「はい」
Hs129「急がなくていいよ」
勇翔は二人の肩を借り、ゆっくりと身体を移した。
自分一人なら、もっと早く動ける。
そう考えかけて、口には出さない。
助けが必要な時は、必要だと言うこと。
昨夜、三人で決めた最初の規則だった。
勇翔「ありがとうございます」
雷電「どういたしまして」
Hs129「移動完了。痛みは増えてない?」
勇翔「大丈夫です」
*
午前六時五十分。
三〇七号室の卓上へ、簡単な朝食が並べられた。
黒パン。
薄く切った燻製肉。
茹でた卵。
温かい野菜のスープ。
そして、Hs129が淹れたコーヒー。
勇翔は砂糖を入れない。
Hs129は二つ。
雷電は一つ入れてから口を付け、少し考えて、もう一つ加えた。
勇翔「昨日より増えましたね」
雷電「今日の豆は、昨日より苦いので」
Hs129「同じ豆なんだけどなあ」
雷電「昨日より、苦く感じるのです」
雷電は二つ目の角砂糖が溶けるまで、ゆっくりと匙を回した。
旧い模型について話した昨夜とは違い、朝の部屋には穏やかな生活音がある。
Hs129が黒パンを千切りながら、勇翔へ尋ねた。
Hs129「昨日話してた模型、一人で作ったの?」
勇翔「ほとんどは一人です。ただ、最初は兄に手伝ってもらいました」
Hs129「兄弟がいるんだ」
勇翔「兄が二人います」
雷電「凜さんのお話は伺いましたが、ご家族のことはまだ聞いていませんでしたね」
勇翔「話す機会がありませんでしたから」
Hs129「どんな人?」
勇翔はコーヒーを置く。
最初に思い浮かんだのは、模型の小さなプロペラを指先で回す隼人の姿だった。
接着剤が軸へ入り込み、動かなくなった部品。
幼い勇翔が諦めかけている横で、隼人は細い工具を使って固まった部分を少しずつ削った。
完成した時、自分の手柄のようには語らなかった。
ただ、動くようになったプロペラを見て、静かに笑っていた。
勇翔「隼人兄さんは、よく周囲を見ている人でした」
Hs129「周囲を?」
勇翔「誰かが困っていても、助けを求められないことがあります。隼人兄さんは、そういう人を見つけるのが早かった」
雷電「優しい方なのですね」
勇翔「ええ。ただ、怒らせると怖いです」
Hs129「勇翔より?」
勇翔「怒り方が違います。僕は、怒る前に理由を考えます。隼人兄さんは、守るべき相手が傷つけられた時には迷いません」
その姿が、海の上で働く道へ進んだことは不思議ではなかった。
Hs129「もう一人は?」
勇翔「蓮兄さんです」
蓮について説明する言葉は、すぐには見つからない。
粗い口調。
容赦のない訓練。
誰より先に危険へ踏み込みながら、部下を帰すための経路は必ず残す指揮。
兄弟三人で挑んでも、一度として完全には勝てなかった格闘と射撃。
勇翔「三人の中では、一番強い人です」
Hs129「どのくらい?」
勇翔「僕と隼人兄さんが二人で挑んでも、最後には蓮兄さんが立っているくらいです」
Hs129「それは、かなり強いね」
勇翔「本人は、勝つことよりも、生き残ることの方が重要だと言っていました」
雷電「今、お二人がどこにいるかは……」
雷電の声が僅かに低くなる。
勇翔「分かりません」
勇翔は窓の外を見る。
F-3とA-10だけが、この世界へ来たのではない。
墜落する直前まで、同じUH-60JAに蓮と隼人も乗っていた。
自分と小貝が異なる場所へ流れ着いたのなら、二人も別の岸へ辿り着いている可能性はある。
確証はない。
だからといって、死んだと決める理由もなかった。
勇翔「生きていると考えています」
Hs129「探すんだね」
勇翔「はい。そのためにも、まず自分の身体を戻します」
無理に立とうとはしない。
飛行禁止を破らない。
それも、再び兄弟へ会うために必要な行動だった。
*
Hs129が、しばらく考え込む。
Hs129「さっき、海の上で働く道って言ったよね」
勇翔「言いました」
Hs129「それに、蓮という人は部下を指揮していた。勇翔は空を飛ぶ。三人とも、別の軍隊にいたの?」
勇翔「正確には、軍隊という呼称ではありません」
Hs129「じゃあ、何?」
勇翔は雷電を見る。
雷電は黙って頷いた。
代理人と医療班には、既に自分たちの身元を説明している。
Hs129も、生活補助と緊急連絡を担当する以上、勇翔が通常のDOLLSではないことは知らされている。
ただし、元の世界で何をしていたのかまでは共有されていなかった。
勇翔「僕たちは、日本という国の自衛隊に所属していました」
Hs129「自衛隊……」
勇翔「蓮兄さんは陸上自衛隊。隼人兄さんは海上自衛隊。僕と小貝少佐は航空自衛隊です」
Hs129「航空自衛隊が、勇翔たちの部隊名?」
勇翔「国の空を守る組織です。僕は戦闘機操縦者。小貝少佐は、僕の教官であり、長く同じ編隊を組んできた僚機です」
Hs129「それじゃ、勇翔と小貝は……最初からDOLLSだったわけじゃない?」
勇翔「違います」
勇翔は自分の手を見る。
姿も、指紋も、古い傷痕も、記憶にある自分の身体と変わらない。
それでも、今の身体はTARDISによって再構築されたものだった。
勇翔「元の世界では、人間でした。この世界へ来た時、僕たちの身体はDOLLSに近い方法で作り直されたそうです」
Hs129「人間だった、ということは……一度、死んだの?」
勇翔「墜落の瞬間に何が起きたのかは、僕にも分かりません。ただ、前世という言い方は違います」
Hs129「違う?」
勇翔「記憶も人格も、墜落する直前から続いています。別の人生として生まれ直した感覚はありません」
雷電「身体の構築方法はDOLLSに近くても、勇翔さん自身が別人になったわけではない、ということですね」
勇翔「はい」
Hs129は、驚いたまま勇翔を見る。
警戒されても不思議ではない。
沈黙が長くなり、勇翔は先に口を開こうとする。
Hs129「だから、僕のことを最初から兵器だけでは見なかったの?」
勇翔「それは、僕の出身とは関係ありません」
Hs129「関係ないの?」
勇翔「貴方が考えて話している。それだけで十分です」
Hs129の驚きが、少しずつ笑みに変わる。
Hs129「じゃあ、僕も同じにする」
勇翔「同じ?」
Hs129「勇翔の身体が人間なのかDOLLSなのか決まっていなくても、今ここで考えて話しているのは勇翔でしょう?」
勇翔「……ええ」
Hs129「それなら、僕が知りたい相手は変わらないよ」
雷電が、穏やかに二人を見る。
過去の姿。
現在の身体。
兵器の名称。
それだけで、相手の全ては決まらない。
三人の間で、その認識だけは同じだった。
*
午前七時二十分。
壁際に設置された有線放送機から、ニュースの開始を知らせる音が鳴った。
『黒十字帝国学連、飛行場管制部より発表します』
三人が放送へ耳を向ける。
『昨日午前、帝都西方空域へ未確認高速航空機四機が侵入しました』
勇翔の表情から、朝の柔らかさが消える。
『黒十字帝国学連迎撃隊および外部協力機二機が交戦。未確認機三機を撃墜、一機を西部荒地へ強制着陸させました』
『墜落地点はいずれも居住区と主要補給路の外です。民間人および地上施設の被害は確認されていません』
『回収作業は継続中です。未確認機の残骸および規制区域へ近づかないでください』
『外部協力機と搭乗者の情報は、安全上の理由により公表を控えます』
発表は、それだけだった。
勇翔たちを黒十字所属の最新DOLLSだとは言わない。
四機全てを黒十字だけで倒したとも言わない。
確認されている被害も、戦果も、事実の範囲に留められていた。
Hs129「名前が出ないこと、不満?」
勇翔「いいえ」
勇翔は即答する。
勇翔「僕たちの正体が未分類のまま公表されれば、飛行場の警備と調査に余計な負担が掛かります」
雷電「それだけですか?」
勇翔「民間人の死傷者がなかった。それが正しく伝われば十分です」
撃墜数は、報告書へ残る。
誰が何機を落としたかも、軍の記録には必要だ。
だが、勇翔にとって公に称賛されることは、任務の目的ではなかった。
守るべき場所へ、一発も落とさせなかった。
その結果の方が重要だった。
Hs129「そっか」
Hs129は短く答え、冷めかけたコーヒーを飲んだ。
*
午前七時三十五分。
士官居住区、二一四号室。
小貝は三つある寝台の一つへ腰掛け、靴紐を結んでいた。
昨夜、午後八時からの約束どおり、スカイレイダーと食事をした。
A-10とAD-1。
二つの攻撃機が、どのように地上部隊を支えるために生まれたのか。
戦闘の話だけではなく、好きな食べ物や、飛ばない日に何をして過ごすのか。
日付が変わる前には部屋へ戻り、それぞれの寝台で眠った。
互いを知る時間は、一晩で終わるものではなかった。
窓際では、スカイレイダーが小さな袋へ朝食用のパンを詰めている。
入口側の寝台では、ハっちゃんが毛布を畳んでいた。
黒十字側の生活連絡員。
灰燼教会側の同行担当。
そして、未分類存在である小貝。
二一四号室も、三〇七号室と同じ理由で三人部屋になっていた。
寝台と収納は別々で、仕切りもある。
三人とも、昨夜の入室前に共同生活の規則を確認し、この部屋割りへ同意していた。
スカイレイダー「痛いところは?」
小貝「背中が少し張っている。昨日と変わらん」
スカイレイダー「頭痛は?」
小貝「ない」
スカイレイダー「吐き気、目眩、手の痺れ」
小貝「全部ない」
ハっちゃん「嘘をついてたら、医療区で分かるよ」
小貝「二人して疑いすぎだ」
スカイレイダー「昨日、飛行禁止中なのに、二十時まで機体の前から離れなかった人だから」
小貝「結局、工具には触らなかっただろ」
ハっちゃん「触らないことと、離れないことは別」
小貝「必要な仕事だ」
スカイレイダー「だから今日は、ハっちゃんが医療区まで案内するの」
小貝「一人で行ける」
ハっちゃん「昨日、部屋と反対の通路へ曲がろうとした」
小貝「あれは格納庫の配置を見ていただけだ」
ハっちゃん「その後も二回、違う階段へ行った」
小貝「……飛行場が広すぎるんだよ」
スカイレイダーが笑いながら、パンの袋を小貝へ渡した。
スカイレイダー「検査が終わったら食べてね」
小貝「今食べては駄目なのか?」
スカイレイダー「採血があるから、それまでは駄目」
小貝「分かったよ」
小貝が袋を受け取る。
ハっちゃんは部屋の鍵と構内図を確認し、扉を開けた。
ハっちゃん「行こ。予約は八時」
小貝「了解、案内人殿」
*
居住区から医療区までは、歩いて十五分ほどだった。
ハっちゃんは、小貝よりも歩幅が狭い。
それでも、遅れてはいなかった。
曲がり角へ近づくたび、先に進路を確かめる。
立入制限の表示。
運搬車両が通る時刻。
修理中の通路。
案内役として必要な情報を、全て頭へ入れている。
小貝は、ハっちゃんの歩調へ合わせて進んだ。
ハっちゃん「小貝」
小貝「何だ?」
ハっちゃん「もっと速く歩けるでしょう?」
小貝「急ぐ理由がない」
ハっちゃん「私に合わせてる?」
小貝「案内する相手を置いていったら、俺が迷う」
ハっちゃん「それだけ?」
小貝「それで十分だろ」
ハっちゃんは前を向く。
横顔が、少しだけ嬉しそうに見えた。
整備区画へ続く連絡通路へ差し掛かる。
開いた防音扉の向こうから、駆動試験の音が聞こえてきた。
低い電動機の唸り。
回転数が上がる。
一定の間隔で、硬い金属同士が触れる音。
――カン。
数秒。
――カン。
小貝の足が止まった。
ハっちゃん「医療区は、反対」
小貝「分かっている」
再び、金属音。
音の間隔が僅かに短くなっている。
駆動系の回転数と連動していた。
小貝「今、試験しているARMSは?」
ハっちゃん「ティーガー。昨日の任務で左側の駆動部を損傷してる」
小貝「試験を止めた方がいい」
ハっちゃん「どうして?」
小貝「同じ位置で音が出ている。制御装置じゃない。回転部品だ」
ハっちゃんも防音扉の向こうへ耳を向ける。
DOLLSとしての聴覚が、音の変化を拾う。
ハっちゃん「……確かに、周期が同じ」
小貝「このまま回転数を上げたら、欠けた部品が別の場所まで壊すかもしれん」
ハっちゃんは腕時計を見る。
午前七時四十九分。
そのまま医療区へ向かえば、予約には十分間に合う。
整備区画へ寄れば、遅れる可能性がある。
ハっちゃん「ここで待ってて」
ハっちゃんは壁際の有線電話を取り、医療区へ連絡した。
続いて、整備区画の監督室へ繋ぐ。
ハっちゃん「通路で異音を確認。ティーガーの左駆動試験を、一度止めて」
『誰の判断?』
ハっちゃん「私と小貝。周期音が回転数に追従してる」
数秒後。
扉の向こうの駆動音が低くなり、完全に止まった。
ハっちゃん「医療区から、二十分までの遅れなら許可が出た」
小貝「仕事が早いな」
ハっちゃん「案内役だから」
小貝「その言葉、便利だな」
*
整備区画。
大型ARMS用の作業架へ、ティーガーの装備が固定されていた。
左側の履帯は浮かされ、駆動輪の周囲へ複数の測定器が取り付けられている。
外板には、昨日受けた攻撃の擦過痕。
整備要員が試験装置を停止し、各部の温度と回転数を確認していた。
作業台の横には、ティーガー本人が立っている。
少し離れた場所には、ヤークトティーガー。
二人の正面で、技術士官のグレーテルが記録端末を操作していた。
グレーテル「異音を報告したのは?」
ハっちゃん「私と小貝」
小貝「最初に足を止めたのは俺だ」
グレーテルが小貝を見る。
グレーテル「昨日、A-10を飛ばしていた小貝高虎少佐か」
小貝「そうだ」
グレーテル「航空機操縦者が、重戦車型ARMSの異音を聞き分けた?」
小貝「断定はしていない。回転数に追従する周期音だった。制御信号の乱れより、減速機か軸受周辺を疑っただけだ」
グレーテルが試験記録を戻す。
回転数が上がるたび、振動計の一つへ等間隔の波形が出ていた。
グレーテル「こちらでは、損傷した制御装置による同期ずれと見ていた」
小貝「同期ずれなら、負荷と指令値で周期が変わるはずだ。今の音は、回転軸の同じ位置で出ていた」
ティーガー「深刻な損傷なのですか?」
小貝「まだ分からない」
小貝は作業架へ近づこうとして、規制線の手前で止まった。
小貝「グレーテル技術士官。俺は、このARMSの資格を持っていない。外から見る許可は?」
グレーテル「規制線の手前までなら」
小貝「ティーガー。貴方も、それで構わないか?」
ティーガー「私にも確認するのですか?」
小貝「貴方のARMSだろう」
ティーガーは一度、自分の装備を見る。
ティーガー「ええ。お願いしますわ」
小貝「ありがとう」
許可を得てから、小貝は規制線ぎりぎりまで近づいた。
履帯。
転輪。
駆動輪。
減速機の外装。
油の漏れは見えない。
外側から確認できる亀裂もない。
小貝「停止前、音が出る時に何か感じたか?」
ティーガー「左脚の奥へ、軽く叩かれるような感覚がありました。痛みと呼ぶほどではありません」
小貝「速度を上げるほど、間隔が短くなった?」
ティーガー「はい」
小貝「振動の強さは?」
ティーガー「変わりませんでした」
小貝がグレーテルを見る。
小貝「歯車そのものが大きく欠けているなら、負荷が増えるほど衝撃も強くなる。軸受を固定する部品か、歯車の位置を保つ部品が緩んでいる可能性がある」
グレーテル「保持具の亀裂か」
小貝「あるいは取付部の変形だ。俺の知る機械と内部構造が同じとは限らん。開けるかどうかは、そちらで判断してくれ」
自分の知識を、正解だとは決めつけない。
目の前のARMSは、A-10でも、自衛隊の車両でもない。
似ている部分があっても、同じ構造とは限らなかった。
グレーテルは数秒考え、整備要員へ指示する。
グレーテル「温度が下がり次第、左最終減速機の点検口を開放。内部へ工具を入れる前に撮影しろ」
「了解」
冷却装置が運び込まれる。
小貝は規制線から一歩下がった。
ヤークトティーガー「自分で開けないの?」
小貝「開ける資格がない」
ヤークトティーガー「直したくはない?」
小貝「直したいさ」
小貝は即答する。
小貝「機械を見れば中を知りたくなる。異音がすれば原因を探したくなる。だが、好きだから勝手に触っていいことにはならん」
ヤークトティーガーは、小貝の手を見る。
工具を持っていない。
規制線も越えていない。
知識を示すために、整備要員から仕事を奪おうともしていなかった。
ヤークトティーガー「変わった操縦者」
小貝「よく言われる」
ハっちゃん「勇翔も、昨日同じことを言ってた」
小貝「あいつと一緒にするな」
ハっちゃん「似てるよ」
小貝「どこが?」
ハっちゃん「無理をするところ」
小貝は聞こえなかったふりをした。
*
十分後。
点検口の温度が安全域まで下がる。
整備要員が固定具を外し、内部を撮影した。
照明が差し込む。
潤滑油の表面に、細かな金属粉が浮いている。
内視鏡が奥へ入る。
軸受を固定する環状保持具。
その一部へ、髪の毛ほど細い亀裂が走っていた。
「保持具に亀裂を確認!」
さらに拡大する。
亀裂の周囲には、僅かな摩耗痕が残っている。
回転するたび、軸が本来の位置から外れ、隣接する部品へ触れていた。
グレーテル「試験を続けていたら?」
「保持具が破断し、軸と減速歯車が接触していた可能性があります。最悪の場合、左駆動系全体を交換です」
ティーガーの表情が固まる。
ティーガー「交換部品は?」
グレーテル「完全な一式はない。別の損傷機から使える部品を集めることになる」
小さな亀裂。
通路まで届いた金属音。
そのまま試験を続けていれば、修復可能な損傷が、長期離脱を必要とする破壊へ変わっていた。
ティーガー「小貝少佐」
小貝「小貝でいい」
ティーガー「では、小貝。助かりましたわ」
小貝「礼なら、音を出して教えたARMSへ言ってくれ。俺は聞いただけだ」
ティーガー「機械が、教えた?」
小貝「機械は喋らないが、黙って壊れもしない。音、熱、振動、臭い。壊れる前には、大抵どこかで合図を出す」
小貝は、亀裂の映った画面を見る。
小貝「人間が気づかないだけだ」
グレーテルが記録端末へ診断経緯を入力する。
グレーテル「航空機の整備資格を持っているのか?」
小貝「正式な整備員ではない。長く飛んでいる間に、列線整備員と機付長から教わった。戦場では、部品も人手も足りなかったからな」
グレーテル「戦車は?」
小貝「専門外だ。だから、構造ではなく音の規則だけを見た」
グレーテル「専門外であることを、先に認められる技術者は貴重だ」
小貝「俺は技術者じゃない。機械いじりが好きな操縦者だ」
ヤークトティーガー「なら、私のARMSの音も聞いてほしい」
ヤークトティーガーが一歩前へ出る。
ヤークトティーガー「昨日から、右の駆動部へ負荷を掛けた時だけ反応が遅れる」
小貝「今すぐは無理だ」
ヤークトティーガー「なぜ?」
ハっちゃんが腕時計を小貝の前へ突き出す。
午前八時七分。
小貝「これから医療区で検査だ。それに、貴方の担当整備班とグレーテルの許可が先になる」
ヤークトティーガー「私が頼んでも?」
小貝「貴方の許可は必要だ。だが、それだけで十分ではない」
小貝はヤークトティーガーを見る。
小貝「俺が分からない部分を、分かる者と一緒に見る。それでいいなら、検査が終わった後に聞く」
ヤークトティーガー「……分かった。待っている」
無表情に近い顔のまま、ヤークトティーガーが小さく頷く。
その返事を聞き、ハっちゃんが小貝の袖を引いた。
ハっちゃん「今度こそ、医療区」
小貝「分かった。引っ張るな」
グレーテル「検査結果が問題なければ、午後に技術助言者として入室許可を出す」
小貝「俺を働かせる気か?」
グレーテル「機械いじりが好きなのだろう?」
小貝「否定はしない」
小貝は笑い、ハっちゃんと整備区画を出ていった。
*
午前八時十五分。
医療区。
予定より十五分遅れて到着した小貝を、スカイレイダーが腕を組んで待っていた。
スカイレイダー「遅かったね」
小貝「理由がある」
ハっちゃん「ティーガーの故障を見つけた」
スカイレイダー「ハっちゃんまで寄り道を許したの?」
ハっちゃん「医療区へ連絡して、遅れる許可を取った。グレーテルからも報告が来る」
スカイレイダーは小貝を見る。
スカイレイダー「工具は?」
小貝「触っていない」
スカイレイダー「重い物は?」
小貝「持っていない」
スカイレイダー「規制線は?」
小貝「越えていない」
スカイレイダーの表情が、少しだけ緩む。
スカイレイダー「それなら、怒らない」
小貝「信用がないな」
スカイレイダー「心配してるの」
小貝「……分かっている」
医療員が診察室の扉を開ける。
「小貝高虎少佐、検査を始めます」
小貝「はいはい。今行く」
スカイレイダー「返事は一回」
小貝「はい」
小貝は素直に診察室へ入った。
ハっちゃんが、その背中を見送る。
スカイレイダー「機械の音を聞いたら、止まれない人でしょう?」
ハっちゃん「うん」
スカイレイダー「だから、止めるだけじゃ駄目なんだと思う」
ハっちゃん「どうするの?」
スカイレイダー「安全に立ち止まれる場所を作る」
好きなものから引き離せば、小貝は別の方法で近づこうとする。
ならば、規則と監督の中で関われる場所を用意する。
それが、小貝の性格を変えずに守る方法だった。
ハっちゃん「スカイレイダーは、小貝のことをよく見てる」
スカイレイダー「昨日から、少しずつね」
スカイレイダーは、診察室の扉へ目を向けた。
*
午前八時四十分。
三〇七号室。
朝食を終えた勇翔は、窓際で小型端末を読んでいた。
表示されているのは、代理人から送られた公開可能な事故報告。
未確認機四機の航跡。
自分と小貝の射撃位置。
墜落地点。
地上被害なし。
戦果の数字は、記憶と一致している。
推測と確認済みの事実も、明確に分けられていた。
勇翔は報告を閉じる。
Hs129「間違ってなかった?」
勇翔「はい。少なくとも、公開範囲の記述に虚偽はありません」
Hs129「安心した?」
勇翔「少し」
勇翔は、報告書の黒く塗り潰された箇所を思い出す。
強制着陸したSu-57型無人機。
鉄血工廠という、存在しない製造者。
F-3とA-10を、交戦前から優先追跡対象としていた記録。
公開できない理由は理解できる。
だが、隠されているものが何かを知らなければ、次の攻撃へ備えることもできない。
雷電「今度は、何を一人で考えていますか?」
勇翔「顔に出ていましたか?」
雷電「少しだけ」
勇翔「敵が、僕たちを探していた理由です」
Hs129「答えは出た?」
勇翔「いいえ」
Hs129「じゃあ、今は休んでいいんじゃない?」
勇翔「何も分からないまま休むのは、落ち着きません」
Hs129「分からない時に身体を壊しても、分かることは増えないよ」
勇翔がHs129を見る。
昨夜、模型の名を持つ少女として出会った。
今朝、自分が人間だったことを話した。
それでもHs129の態度は変わっていない。
勇翔の身体ではなく、勇翔自身へ話している。
勇翔「……そうですね」
Hs129「素直だ」
勇翔「今朝だけです」
雷電「明日も続けてください」
勇翔「続けます」
Hs129「うん。それなら明日も大丈夫そうだね」
勇翔「出来ることを、続けます」
三人の間に、小さな笑いが生まれた。
兄たちの行方は分からない。
敵の目的も分からない。
それでも、分からないものを全て一人で抱える必要はなかった。
*
午前九時五分。
医療区前。
小貝の再検査は、異常なしで終わった。
飛行禁止は、規定どおり正午まで継続。
重量物の運搬と、長時間の整備作業も禁止。
ただし、椅子へ座った状態での技術助言は許可された。
診察室を出た小貝へ、ハっちゃんが朝食の袋を渡す。
ハっちゃん「採血、終わったから食べていいよ」
小貝「待ってました」
小貝は袋からパンを一つ取り出すと、自分から廊下の長椅子へ腰を下ろした。
小貝「歩きながら食べると、二人に同じ顔で怒られそうだからな」
スカイレイダー「学習が早くて助かるよ」
ハっちゃん「食べ終わったら、代理人へ報告」
小貝「了解」
小貝がパンを食べ終えるまで、二人は急かさなかった。
機械の異音を聞けば、足を止める男。
その男自身が出す異変には、二人が気づかなければならない。
食事を終え、小貝が立ち上がる。
小貝「よし。今度こそ整備区画へ――」
ハっちゃん「先に代理人へ報告」
小貝「それが終わったら?」
スカイレイダー「一時間だけ」
小貝「十分だ」
三人が歩き始める。
連絡通路へ差し掛かったところで、遠くから別のエンジン音が聞こえた。
小貝が反射的に顔を向ける。
ハっちゃんが、その袖を掴んだ。
ハっちゃん「今の音は正常」
小貝「分かるのか?」
ハっちゃん「毎日聞いてるから」
小貝「それなら問題ないな」
小貝は進路を戻す。
ハっちゃん「機械の音がするたびに曲がってたら、いつまでも着かないよ」
小貝「悪い。昔からの癖だ」
スカイレイダー「知ってる」
小貝「昨日会ったばかりだろ」
スカイレイダー「昨日から、少しずつ知ってるの」
小貝は何か言い返そうとして、やめた。
前を歩くハっちゃん。
隣を歩くスカイレイダー。
その歩調に合わせ、小貝も通路を進む。
整備区画では、交換前の保持具が作業台へ置かれていた。
ティーガーのARMSは、大きな破損へ至る前に試験を止められた。
ヤークトティーガーは、自分の駆動試験記録を準備して、小貝が来るのを待っている。
好きだから、知りたくなる。
知りたいから、僅かな違いを見逃さない。
だが、機械を大切にすることは、勝手に触れることではない。
それを使う者と、守る者の声を聞きながら、壊れる前の合図を拾うことだった。
機械いじりが好きな故に、小貝はまた一つ、この世界で自分にできることを見つけた。
その日の正午。
再検査を終えた小貝の飛行禁止は、予定どおり解除された。
ただし、小貝はすぐに操縦席へ乗り込もうとはしなかった。
修理中のA-10について、整備班と一緒に交換部品、油圧系統、右補助翼の作動記録を確認する。
自分が飛べることと、機体を飛ばしてよいことは別だった。
翌朝。
勇翔は医療員の監督下で歩行訓練を再開した。
最初の一歩は短かった。
二歩目で右脚の反応を確かめ、痺れが強くなる前に自分から止まった。
倒れず、止められず、隠さない。
訓練は、それで十分だった。
さらに翌日、腰部の固定具と神経反応センサーが外された。
勇翔の歩行制限は解除され、小貝も飛行勤務へ復帰するための検査を終えた。
二人を地上へ縛っていた時間は、そこで終わった。
はい。
R18書こうか悩んでいる素人小説書きです。
一回作ってみようかな……
あっ、次回は戦闘回かも
それでは…
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一応、アンケートの期限は明日です。
※2026年8月30日リメイク完了
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艦これ 加賀
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小貝 高虎