陸自はドールズフロントライン、海自は艦これとアズールレーン、空自はアッシュアームズ三つの世界でバラバラになりながらでも生き残る   作:ゴーストライターとかした、素人小説書き

44 / 74
注意

この小説は、シリアスとギャグが少し入っています。
それがいやな方は、上にある矢印ボタンでブラウザバックを推奨します。

もし、この作品の元ネタアッシュアームズが分からない方は、ぜひブラウザバックの後。
グーグル先生にお聞きください。

それでも、大丈夫な方はご覧ください。


Act.13 機械いじりが好きな故に…

Act.13 機械いじりが好きな故に……

 

 翌朝、午前六時四十分。

 

 黒十字帝国学連、第二試験飛行場。

 

 士官居住区、三〇七号室。

 

 勇翔が目を覚ますと、仕切りの向こうから湯の沸く音が聞こえていた。

 

 腰部を支える固定具。

 

 右脚へ取り付けられた神経反応センサー。

 

 胸元の医療監視装置。

 

 表示灯はいずれも緑色を保っている。

 

 夜中に強い痛みが出た記憶もなかった。

 

勇翔「……朝か」

 

Hs129「おはよう、勇翔。起きてる?」

 

 入口側の仕切りから、Hs129の声がする。

 

勇翔「今、起きました」

 

Hs129「身体は?」

 

勇翔「右脚に少し痺れがあります。昨日より悪くはありません」

 

雷電「では、立ち上がる前に医療区へ連絡しましょう」

 

 中央の寝台にいた雷電も、既に目を覚ましていた。

 

 勇翔は身体を動かさず、胸元の監視装置へ目を落とした。

 

勇翔「お願いします。許可が出るまでは、このまま待ちます」

 

Hs129「了解。医療区へ連絡してくるね」

 

勇翔「ありがとうございます」

 

 Hs129が医療区へ電話を掛ける。

 

 症状と監視装置の数値を伝え、寝台から車椅子へ移る許可を得た。

 

 仕切りを開ける。

 

 雷電が勇翔の右側へ立ち、Hs129が車椅子を寝台へ寄せる。

 

雷電「右脚へ体重を掛けないでください」

 

勇翔「はい」

 

Hs129「急がなくていいよ」

 

 勇翔は二人の肩を借り、ゆっくりと身体を移した。

 

 自分一人なら、もっと早く動ける。

 

 そう考えかけて、口には出さない。

 

 助けが必要な時は、必要だと言うこと。

 

 昨夜、三人で決めた最初の規則だった。

 

勇翔「ありがとうございます」

 

雷電「どういたしまして」

 

Hs129「移動完了。痛みは増えてない?」

 

勇翔「大丈夫です」

 

     *

 

 午前六時五十分。

 

 三〇七号室の卓上へ、簡単な朝食が並べられた。

 

 黒パン。

 

 薄く切った燻製肉。

 

 茹でた卵。

 

 温かい野菜のスープ。

 

 そして、Hs129が淹れたコーヒー。

 

 勇翔は砂糖を入れない。

 

 Hs129は二つ。

 

 雷電は一つ入れてから口を付け、少し考えて、もう一つ加えた。

 

勇翔「昨日より増えましたね」

 

雷電「今日の豆は、昨日より苦いので」

 

Hs129「同じ豆なんだけどなあ」

 

雷電「昨日より、苦く感じるのです」

 

 雷電は二つ目の角砂糖が溶けるまで、ゆっくりと匙を回した。

 

 旧い模型について話した昨夜とは違い、朝の部屋には穏やかな生活音がある。

 

 Hs129が黒パンを千切りながら、勇翔へ尋ねた。

 

Hs129「昨日話してた模型、一人で作ったの?」

 

勇翔「ほとんどは一人です。ただ、最初は兄に手伝ってもらいました」

 

Hs129「兄弟がいるんだ」

 

勇翔「兄が二人います」

 

雷電「凜さんのお話は伺いましたが、ご家族のことはまだ聞いていませんでしたね」

 

勇翔「話す機会がありませんでしたから」

 

Hs129「どんな人?」

 

 勇翔はコーヒーを置く。

 

 最初に思い浮かんだのは、模型の小さなプロペラを指先で回す隼人の姿だった。

 

 接着剤が軸へ入り込み、動かなくなった部品。

 

 幼い勇翔が諦めかけている横で、隼人は細い工具を使って固まった部分を少しずつ削った。

 

 完成した時、自分の手柄のようには語らなかった。

 

 ただ、動くようになったプロペラを見て、静かに笑っていた。

 

勇翔「隼人兄さんは、よく周囲を見ている人でした」

 

Hs129「周囲を?」

 

勇翔「誰かが困っていても、助けを求められないことがあります。隼人兄さんは、そういう人を見つけるのが早かった」

 

雷電「優しい方なのですね」

 

勇翔「ええ。ただ、怒らせると怖いです」

 

Hs129「勇翔より?」

 

勇翔「怒り方が違います。僕は、怒る前に理由を考えます。隼人兄さんは、守るべき相手が傷つけられた時には迷いません」

 

 その姿が、海の上で働く道へ進んだことは不思議ではなかった。

 

Hs129「もう一人は?」

 

勇翔「蓮兄さんです」

 

 蓮について説明する言葉は、すぐには見つからない。

 

 粗い口調。

 

 容赦のない訓練。

 

 誰より先に危険へ踏み込みながら、部下を帰すための経路は必ず残す指揮。

 

 兄弟三人で挑んでも、一度として完全には勝てなかった格闘と射撃。

 

勇翔「三人の中では、一番強い人です」

 

Hs129「どのくらい?」

 

勇翔「僕と隼人兄さんが二人で挑んでも、最後には蓮兄さんが立っているくらいです」

 

Hs129「それは、かなり強いね」

 

勇翔「本人は、勝つことよりも、生き残ることの方が重要だと言っていました」

 

雷電「今、お二人がどこにいるかは……」

 

 雷電の声が僅かに低くなる。

 

勇翔「分かりません」

 

 勇翔は窓の外を見る。

 

 F-3とA-10だけが、この世界へ来たのではない。

 

 墜落する直前まで、同じUH-60JAに蓮と隼人も乗っていた。

 

 自分と小貝が異なる場所へ流れ着いたのなら、二人も別の岸へ辿り着いている可能性はある。

 

 確証はない。

 

 だからといって、死んだと決める理由もなかった。

 

勇翔「生きていると考えています」

 

Hs129「探すんだね」

 

勇翔「はい。そのためにも、まず自分の身体を戻します」

 

 無理に立とうとはしない。

 

 飛行禁止を破らない。

 

 それも、再び兄弟へ会うために必要な行動だった。

 

     *

 

 Hs129が、しばらく考え込む。

 

Hs129「さっき、海の上で働く道って言ったよね」

 

勇翔「言いました」

 

Hs129「それに、蓮という人は部下を指揮していた。勇翔は空を飛ぶ。三人とも、別の軍隊にいたの?」

 

勇翔「正確には、軍隊という呼称ではありません」

 

Hs129「じゃあ、何?」

 

 勇翔は雷電を見る。

 

 雷電は黙って頷いた。

 

 代理人と医療班には、既に自分たちの身元を説明している。

 

 Hs129も、生活補助と緊急連絡を担当する以上、勇翔が通常のDOLLSではないことは知らされている。

 

 ただし、元の世界で何をしていたのかまでは共有されていなかった。

 

勇翔「僕たちは、日本という国の自衛隊に所属していました」

 

Hs129「自衛隊……」

 

勇翔「蓮兄さんは陸上自衛隊。隼人兄さんは海上自衛隊。僕と小貝少佐は航空自衛隊です」

 

Hs129「航空自衛隊が、勇翔たちの部隊名?」

 

勇翔「国の空を守る組織です。僕は戦闘機操縦者。小貝少佐は、僕の教官であり、長く同じ編隊を組んできた僚機です」

 

Hs129「それじゃ、勇翔と小貝は……最初からDOLLSだったわけじゃない?」

 

勇翔「違います」

 

 勇翔は自分の手を見る。

 

 姿も、指紋も、古い傷痕も、記憶にある自分の身体と変わらない。

 

 それでも、今の身体はTARDISによって再構築されたものだった。

 

勇翔「元の世界では、人間でした。この世界へ来た時、僕たちの身体はDOLLSに近い方法で作り直されたそうです」

 

Hs129「人間だった、ということは……一度、死んだの?」

 

勇翔「墜落の瞬間に何が起きたのかは、僕にも分かりません。ただ、前世という言い方は違います」

 

Hs129「違う?」

 

勇翔「記憶も人格も、墜落する直前から続いています。別の人生として生まれ直した感覚はありません」

 

雷電「身体の構築方法はDOLLSに近くても、勇翔さん自身が別人になったわけではない、ということですね」

 

勇翔「はい」

 

 Hs129は、驚いたまま勇翔を見る。

 

 警戒されても不思議ではない。

 

 沈黙が長くなり、勇翔は先に口を開こうとする。

 

Hs129「だから、僕のことを最初から兵器だけでは見なかったの?」

 

勇翔「それは、僕の出身とは関係ありません」

 

Hs129「関係ないの?」

 

勇翔「貴方が考えて話している。それだけで十分です」

 

 Hs129の驚きが、少しずつ笑みに変わる。

 

Hs129「じゃあ、僕も同じにする」

 

勇翔「同じ?」

 

Hs129「勇翔の身体が人間なのかDOLLSなのか決まっていなくても、今ここで考えて話しているのは勇翔でしょう?」

 

勇翔「……ええ」

 

Hs129「それなら、僕が知りたい相手は変わらないよ」

 

 雷電が、穏やかに二人を見る。

 

 過去の姿。

 

 現在の身体。

 

 兵器の名称。

 

 それだけで、相手の全ては決まらない。

 

 三人の間で、その認識だけは同じだった。

 

     *

 

 午前七時二十分。

 

 壁際に設置された有線放送機から、ニュースの開始を知らせる音が鳴った。

 

『黒十字帝国学連、飛行場管制部より発表します』

 

 三人が放送へ耳を向ける。

 

『昨日午前、帝都西方空域へ未確認高速航空機四機が侵入しました』

 

 勇翔の表情から、朝の柔らかさが消える。

 

『黒十字帝国学連迎撃隊および外部協力機二機が交戦。未確認機三機を撃墜、一機を西部荒地へ強制着陸させました』

 

『墜落地点はいずれも居住区と主要補給路の外です。民間人および地上施設の被害は確認されていません』

 

『回収作業は継続中です。未確認機の残骸および規制区域へ近づかないでください』

 

『外部協力機と搭乗者の情報は、安全上の理由により公表を控えます』

 

 発表は、それだけだった。

 

 勇翔たちを黒十字所属の最新DOLLSだとは言わない。

 

 四機全てを黒十字だけで倒したとも言わない。

 

 確認されている被害も、戦果も、事実の範囲に留められていた。

 

Hs129「名前が出ないこと、不満?」

 

勇翔「いいえ」

 

 勇翔は即答する。

 

勇翔「僕たちの正体が未分類のまま公表されれば、飛行場の警備と調査に余計な負担が掛かります」

 

雷電「それだけですか?」

 

勇翔「民間人の死傷者がなかった。それが正しく伝われば十分です」

 

 撃墜数は、報告書へ残る。

 

 誰が何機を落としたかも、軍の記録には必要だ。

 

 だが、勇翔にとって公に称賛されることは、任務の目的ではなかった。

 

 守るべき場所へ、一発も落とさせなかった。

 

 その結果の方が重要だった。

 

Hs129「そっか」

 

 Hs129は短く答え、冷めかけたコーヒーを飲んだ。

 

     *

 

 午前七時三十五分。

 

 士官居住区、二一四号室。

 

 小貝は三つある寝台の一つへ腰掛け、靴紐を結んでいた。

 

 昨夜、午後八時からの約束どおり、スカイレイダーと食事をした。

 

 A-10とAD-1。

 

 二つの攻撃機が、どのように地上部隊を支えるために生まれたのか。

 

 戦闘の話だけではなく、好きな食べ物や、飛ばない日に何をして過ごすのか。

 

 日付が変わる前には部屋へ戻り、それぞれの寝台で眠った。

 

 互いを知る時間は、一晩で終わるものではなかった。

 

 窓際では、スカイレイダーが小さな袋へ朝食用のパンを詰めている。

 

 入口側の寝台では、ハっちゃんが毛布を畳んでいた。

 

 黒十字側の生活連絡員。

 

 灰燼教会側の同行担当。

 

 そして、未分類存在である小貝。

 

 二一四号室も、三〇七号室と同じ理由で三人部屋になっていた。

 

 寝台と収納は別々で、仕切りもある。

 

 三人とも、昨夜の入室前に共同生活の規則を確認し、この部屋割りへ同意していた。

 

スカイレイダー「痛いところは?」

 

小貝「背中が少し張っている。昨日と変わらん」

 

スカイレイダー「頭痛は?」

 

小貝「ない」

 

スカイレイダー「吐き気、目眩、手の痺れ」

 

小貝「全部ない」

 

ハっちゃん「嘘をついてたら、医療区で分かるよ」

 

小貝「二人して疑いすぎだ」

 

スカイレイダー「昨日、飛行禁止中なのに、二十時まで機体の前から離れなかった人だから」

 

小貝「結局、工具には触らなかっただろ」

 

ハっちゃん「触らないことと、離れないことは別」

 

小貝「必要な仕事だ」

 

スカイレイダー「だから今日は、ハっちゃんが医療区まで案内するの」

 

小貝「一人で行ける」

 

ハっちゃん「昨日、部屋と反対の通路へ曲がろうとした」

 

小貝「あれは格納庫の配置を見ていただけだ」

 

ハっちゃん「その後も二回、違う階段へ行った」

 

小貝「……飛行場が広すぎるんだよ」

 

 スカイレイダーが笑いながら、パンの袋を小貝へ渡した。

 

スカイレイダー「検査が終わったら食べてね」

 

小貝「今食べては駄目なのか?」

 

スカイレイダー「採血があるから、それまでは駄目」

 

小貝「分かったよ」

 

 小貝が袋を受け取る。

 

 ハっちゃんは部屋の鍵と構内図を確認し、扉を開けた。

 

ハっちゃん「行こ。予約は八時」

 

小貝「了解、案内人殿」

 

     *

 

 居住区から医療区までは、歩いて十五分ほどだった。

 

 ハっちゃんは、小貝よりも歩幅が狭い。

 

 それでも、遅れてはいなかった。

 

 曲がり角へ近づくたび、先に進路を確かめる。

 

 立入制限の表示。

 

 運搬車両が通る時刻。

 

 修理中の通路。

 

 案内役として必要な情報を、全て頭へ入れている。

 

 小貝は、ハっちゃんの歩調へ合わせて進んだ。

 

ハっちゃん「小貝」

 

小貝「何だ?」

 

ハっちゃん「もっと速く歩けるでしょう?」

 

小貝「急ぐ理由がない」

 

ハっちゃん「私に合わせてる?」

 

小貝「案内する相手を置いていったら、俺が迷う」

 

ハっちゃん「それだけ?」

 

小貝「それで十分だろ」

 

 ハっちゃんは前を向く。

 

 横顔が、少しだけ嬉しそうに見えた。

 

 整備区画へ続く連絡通路へ差し掛かる。

 

 開いた防音扉の向こうから、駆動試験の音が聞こえてきた。

 

 低い電動機の唸り。

 

 回転数が上がる。

 

 一定の間隔で、硬い金属同士が触れる音。

 

 ――カン。

 

 数秒。

 

 ――カン。

 

 小貝の足が止まった。

 

ハっちゃん「医療区は、反対」

 

小貝「分かっている」

 

 再び、金属音。

 

 音の間隔が僅かに短くなっている。

 

 駆動系の回転数と連動していた。

 

小貝「今、試験しているARMSは?」

 

ハっちゃん「ティーガー。昨日の任務で左側の駆動部を損傷してる」

 

小貝「試験を止めた方がいい」

 

ハっちゃん「どうして?」

 

小貝「同じ位置で音が出ている。制御装置じゃない。回転部品だ」

 

 ハっちゃんも防音扉の向こうへ耳を向ける。

 

 DOLLSとしての聴覚が、音の変化を拾う。

 

ハっちゃん「……確かに、周期が同じ」

 

小貝「このまま回転数を上げたら、欠けた部品が別の場所まで壊すかもしれん」

 

 ハっちゃんは腕時計を見る。

 

 午前七時四十九分。

 

 そのまま医療区へ向かえば、予約には十分間に合う。

 

 整備区画へ寄れば、遅れる可能性がある。

 

ハっちゃん「ここで待ってて」

 

 ハっちゃんは壁際の有線電話を取り、医療区へ連絡した。

 

 続いて、整備区画の監督室へ繋ぐ。

 

ハっちゃん「通路で異音を確認。ティーガーの左駆動試験を、一度止めて」

 

『誰の判断?』

 

ハっちゃん「私と小貝。周期音が回転数に追従してる」

 

 数秒後。

 

 扉の向こうの駆動音が低くなり、完全に止まった。

 

ハっちゃん「医療区から、二十分までの遅れなら許可が出た」

 

小貝「仕事が早いな」

 

ハっちゃん「案内役だから」

 

小貝「その言葉、便利だな」

 

     *

 

 整備区画。

 

 大型ARMS用の作業架へ、ティーガーの装備が固定されていた。

 

 左側の履帯は浮かされ、駆動輪の周囲へ複数の測定器が取り付けられている。

 

 外板には、昨日受けた攻撃の擦過痕。

 

 整備要員が試験装置を停止し、各部の温度と回転数を確認していた。

 

 作業台の横には、ティーガー本人が立っている。

 

 少し離れた場所には、ヤークトティーガー。

 

 二人の正面で、技術士官のグレーテルが記録端末を操作していた。

 

グレーテル「異音を報告したのは?」

 

ハっちゃん「私と小貝」

 

小貝「最初に足を止めたのは俺だ」

 

 グレーテルが小貝を見る。

 

グレーテル「昨日、A-10を飛ばしていた小貝高虎少佐か」

 

小貝「そうだ」

 

グレーテル「航空機操縦者が、重戦車型ARMSの異音を聞き分けた?」

 

小貝「断定はしていない。回転数に追従する周期音だった。制御信号の乱れより、減速機か軸受周辺を疑っただけだ」

 

 グレーテルが試験記録を戻す。

 

 回転数が上がるたび、振動計の一つへ等間隔の波形が出ていた。

 

グレーテル「こちらでは、損傷した制御装置による同期ずれと見ていた」

 

小貝「同期ずれなら、負荷と指令値で周期が変わるはずだ。今の音は、回転軸の同じ位置で出ていた」

 

ティーガー「深刻な損傷なのですか?」

 

小貝「まだ分からない」

 

 小貝は作業架へ近づこうとして、規制線の手前で止まった。

 

小貝「グレーテル技術士官。俺は、このARMSの資格を持っていない。外から見る許可は?」

 

グレーテル「規制線の手前までなら」

 

小貝「ティーガー。貴方も、それで構わないか?」

 

ティーガー「私にも確認するのですか?」

 

小貝「貴方のARMSだろう」

 

 ティーガーは一度、自分の装備を見る。

 

ティーガー「ええ。お願いしますわ」

 

小貝「ありがとう」

 

 許可を得てから、小貝は規制線ぎりぎりまで近づいた。

 

 履帯。

 

 転輪。

 

 駆動輪。

 

 減速機の外装。

 

 油の漏れは見えない。

 

 外側から確認できる亀裂もない。

 

小貝「停止前、音が出る時に何か感じたか?」

 

ティーガー「左脚の奥へ、軽く叩かれるような感覚がありました。痛みと呼ぶほどではありません」

 

小貝「速度を上げるほど、間隔が短くなった?」

 

ティーガー「はい」

 

小貝「振動の強さは?」

 

ティーガー「変わりませんでした」

 

 小貝がグレーテルを見る。

 

小貝「歯車そのものが大きく欠けているなら、負荷が増えるほど衝撃も強くなる。軸受を固定する部品か、歯車の位置を保つ部品が緩んでいる可能性がある」

 

グレーテル「保持具の亀裂か」

 

小貝「あるいは取付部の変形だ。俺の知る機械と内部構造が同じとは限らん。開けるかどうかは、そちらで判断してくれ」

 

 自分の知識を、正解だとは決めつけない。

 

 目の前のARMSは、A-10でも、自衛隊の車両でもない。

 

 似ている部分があっても、同じ構造とは限らなかった。

 

 グレーテルは数秒考え、整備要員へ指示する。

 

グレーテル「温度が下がり次第、左最終減速機の点検口を開放。内部へ工具を入れる前に撮影しろ」

 

「了解」

 

 冷却装置が運び込まれる。

 

 小貝は規制線から一歩下がった。

 

ヤークトティーガー「自分で開けないの?」

 

小貝「開ける資格がない」

 

ヤークトティーガー「直したくはない?」

 

小貝「直したいさ」

 

 小貝は即答する。

 

小貝「機械を見れば中を知りたくなる。異音がすれば原因を探したくなる。だが、好きだから勝手に触っていいことにはならん」

 

 ヤークトティーガーは、小貝の手を見る。

 

 工具を持っていない。

 

 規制線も越えていない。

 

 知識を示すために、整備要員から仕事を奪おうともしていなかった。

 

ヤークトティーガー「変わった操縦者」

 

小貝「よく言われる」

 

ハっちゃん「勇翔も、昨日同じことを言ってた」

 

小貝「あいつと一緒にするな」

 

ハっちゃん「似てるよ」

 

小貝「どこが?」

 

ハっちゃん「無理をするところ」

 

 小貝は聞こえなかったふりをした。

 

     *

 

 十分後。

 

 点検口の温度が安全域まで下がる。

 

 整備要員が固定具を外し、内部を撮影した。

 

 照明が差し込む。

 

 潤滑油の表面に、細かな金属粉が浮いている。

 

 内視鏡が奥へ入る。

 

 軸受を固定する環状保持具。

 

 その一部へ、髪の毛ほど細い亀裂が走っていた。

 

「保持具に亀裂を確認!」

 

 さらに拡大する。

 

 亀裂の周囲には、僅かな摩耗痕が残っている。

 

 回転するたび、軸が本来の位置から外れ、隣接する部品へ触れていた。

 

グレーテル「試験を続けていたら?」

 

「保持具が破断し、軸と減速歯車が接触していた可能性があります。最悪の場合、左駆動系全体を交換です」

 

 ティーガーの表情が固まる。

 

ティーガー「交換部品は?」

 

グレーテル「完全な一式はない。別の損傷機から使える部品を集めることになる」

 

 小さな亀裂。

 

 通路まで届いた金属音。

 

 そのまま試験を続けていれば、修復可能な損傷が、長期離脱を必要とする破壊へ変わっていた。

 

ティーガー「小貝少佐」

 

小貝「小貝でいい」

 

ティーガー「では、小貝。助かりましたわ」

 

小貝「礼なら、音を出して教えたARMSへ言ってくれ。俺は聞いただけだ」

 

ティーガー「機械が、教えた?」

 

小貝「機械は喋らないが、黙って壊れもしない。音、熱、振動、臭い。壊れる前には、大抵どこかで合図を出す」

 

 小貝は、亀裂の映った画面を見る。

 

小貝「人間が気づかないだけだ」

 

 グレーテルが記録端末へ診断経緯を入力する。

 

グレーテル「航空機の整備資格を持っているのか?」

 

小貝「正式な整備員ではない。長く飛んでいる間に、列線整備員と機付長から教わった。戦場では、部品も人手も足りなかったからな」

 

グレーテル「戦車は?」

 

小貝「専門外だ。だから、構造ではなく音の規則だけを見た」

 

グレーテル「専門外であることを、先に認められる技術者は貴重だ」

 

小貝「俺は技術者じゃない。機械いじりが好きな操縦者だ」

 

ヤークトティーガー「なら、私のARMSの音も聞いてほしい」

 

 ヤークトティーガーが一歩前へ出る。

 

ヤークトティーガー「昨日から、右の駆動部へ負荷を掛けた時だけ反応が遅れる」

 

小貝「今すぐは無理だ」

 

ヤークトティーガー「なぜ?」

 

 ハっちゃんが腕時計を小貝の前へ突き出す。

 

 午前八時七分。

 

小貝「これから医療区で検査だ。それに、貴方の担当整備班とグレーテルの許可が先になる」

 

ヤークトティーガー「私が頼んでも?」

 

小貝「貴方の許可は必要だ。だが、それだけで十分ではない」

 

 小貝はヤークトティーガーを見る。

 

小貝「俺が分からない部分を、分かる者と一緒に見る。それでいいなら、検査が終わった後に聞く」

 

ヤークトティーガー「……分かった。待っている」

 

 無表情に近い顔のまま、ヤークトティーガーが小さく頷く。

 

 その返事を聞き、ハっちゃんが小貝の袖を引いた。

 

ハっちゃん「今度こそ、医療区」

 

小貝「分かった。引っ張るな」

 

グレーテル「検査結果が問題なければ、午後に技術助言者として入室許可を出す」

 

小貝「俺を働かせる気か?」

 

グレーテル「機械いじりが好きなのだろう?」

 

小貝「否定はしない」

 

 小貝は笑い、ハっちゃんと整備区画を出ていった。

 

     *

 

 午前八時十五分。

 

 医療区。

 

 予定より十五分遅れて到着した小貝を、スカイレイダーが腕を組んで待っていた。

 

スカイレイダー「遅かったね」

 

小貝「理由がある」

 

ハっちゃん「ティーガーの故障を見つけた」

 

スカイレイダー「ハっちゃんまで寄り道を許したの?」

 

ハっちゃん「医療区へ連絡して、遅れる許可を取った。グレーテルからも報告が来る」

 

 スカイレイダーは小貝を見る。

 

スカイレイダー「工具は?」

 

小貝「触っていない」

 

スカイレイダー「重い物は?」

 

小貝「持っていない」

 

スカイレイダー「規制線は?」

 

小貝「越えていない」

 

 スカイレイダーの表情が、少しだけ緩む。

 

スカイレイダー「それなら、怒らない」

 

小貝「信用がないな」

 

スカイレイダー「心配してるの」

 

小貝「……分かっている」

 

 医療員が診察室の扉を開ける。

 

「小貝高虎少佐、検査を始めます」

 

小貝「はいはい。今行く」

 

スカイレイダー「返事は一回」

 

小貝「はい」

 

 小貝は素直に診察室へ入った。

 

 ハっちゃんが、その背中を見送る。

 

スカイレイダー「機械の音を聞いたら、止まれない人でしょう?」

 

ハっちゃん「うん」

 

スカイレイダー「だから、止めるだけじゃ駄目なんだと思う」

 

ハっちゃん「どうするの?」

 

スカイレイダー「安全に立ち止まれる場所を作る」

 

 好きなものから引き離せば、小貝は別の方法で近づこうとする。

 

 ならば、規則と監督の中で関われる場所を用意する。

 

 それが、小貝の性格を変えずに守る方法だった。

 

ハっちゃん「スカイレイダーは、小貝のことをよく見てる」

 

スカイレイダー「昨日から、少しずつね」

 

 スカイレイダーは、診察室の扉へ目を向けた。

 

     *

 

 午前八時四十分。

 

 三〇七号室。

 

 朝食を終えた勇翔は、窓際で小型端末を読んでいた。

 

 表示されているのは、代理人から送られた公開可能な事故報告。

 

 未確認機四機の航跡。

 

 自分と小貝の射撃位置。

 

 墜落地点。

 

 地上被害なし。

 

 戦果の数字は、記憶と一致している。

 

 推測と確認済みの事実も、明確に分けられていた。

 

 勇翔は報告を閉じる。

 

Hs129「間違ってなかった?」

 

勇翔「はい。少なくとも、公開範囲の記述に虚偽はありません」

 

Hs129「安心した?」

 

勇翔「少し」

 

 勇翔は、報告書の黒く塗り潰された箇所を思い出す。

 

 強制着陸したSu-57型無人機。

 

 鉄血工廠という、存在しない製造者。

 

 F-3とA-10を、交戦前から優先追跡対象としていた記録。

 

 公開できない理由は理解できる。

 

 だが、隠されているものが何かを知らなければ、次の攻撃へ備えることもできない。

 

雷電「今度は、何を一人で考えていますか?」

 

勇翔「顔に出ていましたか?」

 

雷電「少しだけ」

 

勇翔「敵が、僕たちを探していた理由です」

 

Hs129「答えは出た?」

 

勇翔「いいえ」

 

Hs129「じゃあ、今は休んでいいんじゃない?」

 

勇翔「何も分からないまま休むのは、落ち着きません」

 

Hs129「分からない時に身体を壊しても、分かることは増えないよ」

 

 勇翔がHs129を見る。

 

 昨夜、模型の名を持つ少女として出会った。

 

 今朝、自分が人間だったことを話した。

 

 それでもHs129の態度は変わっていない。

 

 勇翔の身体ではなく、勇翔自身へ話している。

 

勇翔「……そうですね」

 

Hs129「素直だ」

 

勇翔「今朝だけです」

 

雷電「明日も続けてください」

 

勇翔「続けます」

 

Hs129「うん。それなら明日も大丈夫そうだね」

 

勇翔「出来ることを、続けます」

 

 三人の間に、小さな笑いが生まれた。

 

 兄たちの行方は分からない。

 

 敵の目的も分からない。

 

 それでも、分からないものを全て一人で抱える必要はなかった。

 

     *

 

 午前九時五分。

 

 医療区前。

 

 小貝の再検査は、異常なしで終わった。

 

 飛行禁止は、規定どおり正午まで継続。

 

 重量物の運搬と、長時間の整備作業も禁止。

 

 ただし、椅子へ座った状態での技術助言は許可された。

 

 診察室を出た小貝へ、ハっちゃんが朝食の袋を渡す。

 

ハっちゃん「採血、終わったから食べていいよ」

 

小貝「待ってました」

 

 小貝は袋からパンを一つ取り出すと、自分から廊下の長椅子へ腰を下ろした。

 

小貝「歩きながら食べると、二人に同じ顔で怒られそうだからな」

 

スカイレイダー「学習が早くて助かるよ」

 

ハっちゃん「食べ終わったら、代理人へ報告」

 

小貝「了解」

 

 小貝がパンを食べ終えるまで、二人は急かさなかった。

 

 機械の異音を聞けば、足を止める男。

 

 その男自身が出す異変には、二人が気づかなければならない。

 

 食事を終え、小貝が立ち上がる。

 

小貝「よし。今度こそ整備区画へ――」

 

ハっちゃん「先に代理人へ報告」

 

小貝「それが終わったら?」

 

スカイレイダー「一時間だけ」

 

小貝「十分だ」

 

 三人が歩き始める。

 

 連絡通路へ差し掛かったところで、遠くから別のエンジン音が聞こえた。

 

 小貝が反射的に顔を向ける。

 

 ハっちゃんが、その袖を掴んだ。

 

ハっちゃん「今の音は正常」

 

小貝「分かるのか?」

 

ハっちゃん「毎日聞いてるから」

 

小貝「それなら問題ないな」

 

 小貝は進路を戻す。

 

ハっちゃん「機械の音がするたびに曲がってたら、いつまでも着かないよ」

 

小貝「悪い。昔からの癖だ」

 

スカイレイダー「知ってる」

 

小貝「昨日会ったばかりだろ」

 

スカイレイダー「昨日から、少しずつ知ってるの」

 

 小貝は何か言い返そうとして、やめた。

 

 前を歩くハっちゃん。

 

 隣を歩くスカイレイダー。

 

 その歩調に合わせ、小貝も通路を進む。

 

 整備区画では、交換前の保持具が作業台へ置かれていた。

 

 ティーガーのARMSは、大きな破損へ至る前に試験を止められた。

 

 ヤークトティーガーは、自分の駆動試験記録を準備して、小貝が来るのを待っている。

 

 好きだから、知りたくなる。

 

 知りたいから、僅かな違いを見逃さない。

 

 だが、機械を大切にすることは、勝手に触れることではない。

 

 それを使う者と、守る者の声を聞きながら、壊れる前の合図を拾うことだった。

 

 機械いじりが好きな故に、小貝はまた一つ、この世界で自分にできることを見つけた。

 

 その日の正午。

 

 再検査を終えた小貝の飛行禁止は、予定どおり解除された。

 

 ただし、小貝はすぐに操縦席へ乗り込もうとはしなかった。

 

 修理中のA-10について、整備班と一緒に交換部品、油圧系統、右補助翼の作動記録を確認する。

 

 自分が飛べることと、機体を飛ばしてよいことは別だった。

 

 翌朝。

 

 勇翔は医療員の監督下で歩行訓練を再開した。

 

 最初の一歩は短かった。

 

 二歩目で右脚の反応を確かめ、痺れが強くなる前に自分から止まった。

 

 倒れず、止められず、隠さない。

 

 訓練は、それで十分だった。

 

 さらに翌日、腰部の固定具と神経反応センサーが外された。

 

 勇翔の歩行制限は解除され、小貝も飛行勤務へ復帰するための検査を終えた。

 

 二人を地上へ縛っていた時間は、そこで終わった。




はい。

R18書こうか悩んでいる素人小説書きです。

一回作ってみようかな……

あっ、次回は戦闘回かも

それでは…

コメントお気に入りお願いします!

一応、アンケートの期限は明日です。

※2026年8月30日リメイク完了

好きな子がいたら適当に投票どうぞ!

  • HK416
  • VSK-94
  • AK-12
  • AR-15
  • アズールレーン 赤城
  • アズールレーン 加賀
  • 艦これ 赤城
  • 艦これ 加賀
  • 雷電
  • スカイレイダー
  • シュバァルベ
  • 渡邉 蓮
  • 渡邉 隼人
  • 渡邉 勇翔
  • 小貝 高虎
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。