陸自はドールズフロントライン、海自は艦これとアズールレーン、空自はアッシュアームズ三つの世界でバラバラになりながらでも生き残る 作:ゴーストライターとかした、素人小説書き
この小説は、シリアスとギャグが少し入っています。
それがいやな方は、上にある矢印ボタンでブラウザバックを推奨します。
もし、この作品の元ネタアッシュアームズが分からない方は、ぜひブラウザバックの後。
グーグル先生にお聞きください。
それでも、大丈夫な方はご覧ください。
Act.14 天から振り落とす雷の道具は、たとえ半分消えても生き残る
無人機との空戦から三日後。
午前五時五十分。
黒十字帝国学連、第二試験飛行場。
士官居住区から飛行場へ続く階段を、勇翔は自分の足で下りていた。
腰部の固定具はない。
右脚の神経反応センサーも外されている。
一段ごとに足の位置を確かめる必要はなくなり、手すりへ触れずとも歩調は乱れない。
医療班による四十八時間後の再検査。
歩行訓練。
低負荷の模擬操縦。
前日に行われた短時間の試験飛行。
その全てで異常が認められず、今朝、飛行勤務への復帰が正式に許可された。
先を歩く小貝が、階段の下で振り返る。
小貝「右脚は?」
勇翔「問題ありません」
小貝「腰は?」
勇翔「問題ありません」
小貝「なら、聞くのはここまでだ」
勇翔「随分あっさりしていますね」
小貝「医療班が数字を見て、本人が身体を確かめた。その両方が問題ないなら、俺が患者扱いを続ける理由はない」
小貝も、既に飛行禁止を解除されている。
軽い打撲は消え、頬にあった擦過傷も薄い痕を残すだけだった。
二人は並んで飛行場へ向かう。
誰かに支えられることも、誰かに歩みを止められることもない。
ただし、急いではいなかった。
今日飛ぶために必要なのは、元気であることを証明する速さではない。
決められた時刻までに、確実に辿り着くことだった。
*
午前六時。
第二試験飛行場、第一格納庫。
修理を終えたF-3とA-10が、開かれた格納扉の内側へ並んでいる。
F-3の左主翼後方には、新しい外板が取り付けられていた。
飛行制御装置と推力偏向機構に異常はない。
A-10の右主翼も、貫通した外板と油圧配管が交換されている。
右補助翼の作動試験。
二系統ある油圧装置の加圧試験。
地上滑走。
無兵装での試験飛行。
修理後に必要な確認は、前日までに全て終わっていた。
それでも小貝は、A-10の右主翼下へ入り、交換された配管の周囲を見上げる。
小貝「漏れはなし。固定具のずれもなし」
スカイレイダー「昨日の試験飛行でも、圧力は安定していたよ」
A-10の反対側から、スカイレイダーが顔を出す。
彼女の手には、整備記録と小さな水筒があった。
小貝「分かってる。最後に自分の目でも見ておきたかっただけだ」
スカイレイダー「うん。それならいいの」
止めるための言葉ではない。
確かめた理由を聞き、その答えを受け取るための言葉だった。
スカイレイダーが水筒を差し出す。
スカイレイダー「コーヒー。任務が終わる頃には冷めてるかもしれないけど」
小貝「冷めていても飲むよ」
スカイレイダー「帰ってきてからね」
小貝「了解」
小貝は水筒を飛行装具の収納部へ入れる。
少し離れた場所では、雷電とHs129がF-3の横にいた。
雷電は飛行前点検表を持ち、Hs129は前脚付近の外板を覗き込んでいる。
Hs129「修理したところ、前より綺麗になってる」
勇翔「外板の色が僅かに違いますね」
雷電「不満ですか?」
勇翔「いいえ。直した跡が分かる方が、忘れずに済みます」
勇翔は左主翼へ手を触れず、その境目を見る。
傷が消えたわけではない。
損傷した部分を取り除き、必要な部品を交換し、飛べる状態へ戻した。
身体も機体も同じだった。
元の状態へ時間を巻き戻したのではない。
起きたことを残したまま、次へ進める状態を作ったのだ。
格納庫の有線放送が鳴る。
代理人『勇翔君、小貝君。機体確認が終わったら、第一作戦室へ来てくれ。予定していた復帰確認は、実任務へ変更になった』
格納庫内の空気が変わる。
勇翔「状況は?」
代理人『黒十字帝国学連の西部防衛線へ、リセッターの大集団が接近している。市街地までの距離は、およそ六十キロメートルだ』
小貝「復帰初日から随分重いな」
代理人『だからこそ、二人には断る権利がある。医療上は復帰していても、予定外の実戦だからね』
勇翔と小貝が互いを見る。
無理に立ち上がる理由は、もうない。
今は立っている。
判断に必要な身体と時間も与えられている。
勇翔「まず、状況を確認します。そのうえで決めます」
小貝「俺も同じだ。敵の数と、味方の準備を見てから返事をする」
代理人『了解。作戦室で待っている』
放送が切れる。
小貝はスカイレイダーを見る。
小貝「行ってくる」
スカイレイダー「まだ出撃じゃないよ」
小貝「分かってる。話を聞きに行ってくる」
スカイレイダー「うん。ちゃんと聞いて、ちゃんと決めてきて」
*
午前六時十五分。
第一作戦室。
壁面の大型地図には、黒十字帝国学連西部の防衛区域が表示されていた。
市街地。
第二試験飛行場。
三本の幹線道路。
乾いた河床に沿って築かれた、二つの防衛線。
その西側へ、無数の赤い記号が集まっている。
作戦室には、代理人とグレーテル。
ティーガー。
ヤークトパンター。
ヤークトティーガー。
Ⅲ号。
偵察任務から戻ったFi156とBv194。
さらに、航空隊を代表してシュヴァルベが集まっていた。
勇翔と小貝が入室すると、代理人が地図の前へ立つ。
代理人「二人とも来たね。先に結論を言う。敵の目的は、市街地そのものではない可能性がある」
小貝「接近しているのに?」
グレーテル「進路が不自然なんだ」
グレーテルが地図へ三本の線を引く。
リセッターの群れは、西から一直線に市街地へ向かっているわけではない。
一部は北へ回り込み、一部は南側の高地へ進んでいる。
その三つの進路は、第二試験飛行場を包囲する形で狭まりつつあった。
勇翔「狙いは、飛行場ですか」
代理人「断定はできない。ただ、三日前に現れた無人機がF-3とA-10を優先追跡対象にしていたことを考えると、無視はできない」
Fi156が撮影した航空写真を机へ並べる。
小型の遊猟種。
装甲を持つ防衛種。
対空砲のような結晶体を背負う個体。
数は、写真へ収まりきらない。
Bv194が別の写真を指す。
Bv194「大型個体を三体確認した。一体は乾いた河床の中央で停止している。周囲の小型個体へ信号を送っているように見えた」
ティーガー「指揮個体ですの?」
Bv194「分からない。ただ、あれが動くたびに周囲の隊形も変わった」
次の写真。
ぼやけた黒い人影が、岩場の上に立っている。
長い衣装。
頭部を覆う薄布。
人間の女性にも見える。
だが、その足元には、複数のリセッターが攻撃せずに集まっていた。
小貝「こいつは?」
Fi156「一度しか見えなかった。近づこうとしたら、対空射撃を受けたから離脱したの」
グレーテル「現時点では正体不明だ。人型リセッターである可能性と、何者かが戦場へいる可能性の両方を残している」
勇翔「交戦規定は?」
代理人「人型であるという理由だけでは攻撃しない。リセッターを直接統制する、または味方へ攻撃する行為を確認した場合に限り、敵性目標として扱う」
小貝「それでいい。写真だけを理由に撃つわけにはいかないからな」
代理人が次の地図へ切り替える。
代理人「地上部隊は、河床沿いの第一防衛線で敵を受け止める。ティーガーとヤークトティーガーは中央。ヤークトパンターは南側高地から長距離射撃。Ⅲ号は北側観測所から敵の進路と着弾を確認する」
Ⅲ号「了解しました」
声は小さい。
それでも返答は明瞭だった。
代理人「航空隊はシュヴァルベ隊が局地的な航空優勢を確保。Bf109隊とFw190隊が、確認済みの対空個体を抑える」
シュヴァルベ「了解した」
代理人「問題は、河床中央の大型個体だ。射程が長く、地上部隊が正面から近づけば被害が出る」
地図上へ、赤い円が表示される。
推定射程。
第一防衛線の一部が、その内側へ入っている。
小貝「固定目標なら、A-10からGPS誘導爆弾を使える」
グレーテル「投下後も狙い続ける必要は?」
小貝「ない。JDAMは、事前に入力した座標へ慣性航法で向かう。俺たちの世界なら衛星測位で途中の誤差を補正できるが、この世界ではその補正を使えない。動き回る相手には向かないし、固定目標でも誤差は大きくなる」
勇翔「だから、座標は一系統だけで決めません。Fi156の写真測量。Ⅲ号の地上観測。F-3の合成開口レーダー。その三つを作戦区域の基準点へ合わせ、投下直前にA-10の慣性情報も補正します」
Ⅲ号「私が、爆撃の観測を?」
勇翔「お願いします。ただし、目標へ近づく必要はありません。観測所から見える範囲だけで十分です」
Ⅲ号「……はい。やります」
代理人が二人を見る。
代理人「ここまで聞いたうえで、出られるかい?」
勇翔は地図を見る。
敵の数。
対空脅威。
味方の配置。
逃げ道。
F-3の役割は、敵を一機で壊滅させることではない。
空から全体を見て、A-10と地上部隊を結び、想定外が起きた時に退路を確保すること。
勇翔「出ます。F-3は高空警戒と情報中継。敵航空戦力が現れない限り、兵装は使用しません」
小貝「A-10も出る。最初のJDAM投下後は、地上部隊から要請があった時だけ近接航空支援を行う。単独で敵を追わない」
代理人「二人とも、それで頼む」
スカイレイダーが手を挙げる。
スカイレイダー「私も航空支援へ入るよ。A-10と同じ高度では飛ばない。前線の後方で待機して、煙幕とロケット弾で離脱路を作る」
小貝「危険だぞ」
スカイレイダー「小貝だけに言われたくないな」
冗談めいた口調だった。
だが、彼女の目は作戦図から外れていない。
小貝も、感情だけで止めようとはしなかった。
小貝「対空個体が残っていたら、射程へ入るな。俺が突っ込んでも、追って来るな」
スカイレイダー「その代わり、小貝も私の警告を聞くこと」
小貝「了解した」
*
午前七時二十分。
第二試験飛行場、滑走路。
F-3が先に離陸する。
白い機体が滑走路を離れ、朝の空へ高度を上げていく。
続いて、修理を終えたA-10が動き始める。
右主翼の油圧値は正常。
左右の補助翼に応答差はない。
エンジン回転数も安定している。
小貝「ボルト2、離陸する」
速度が上がる。
操縦桿へ僅かな力を加える。
前脚が浮き、主脚が滑走路から離れた。
機体は右へ傾かない。
修理箇所から警報も出ない。
小貝「ボルト2、離陸完了。全系統正常」
勇翔『スカイ1、確認しました。高度六千八百まで上がってください。航路上の対空脅威は、現在なし』
小貝「了解」
さらに後方から、AD-1のARMSを展開したスカイレイダーが離陸する。
速度も高度も違う三機は、同じ場所へ固まらない。
F-3は高空。
A-10はその下。
スカイレイダーは前線後方の待機空域へ。
互いの視界と通信を繋ぎながら、別々の役割を持って西へ進む。
*
午前七時四十八分。
第一作戦区域、北側観測所。
Ⅲ号は崩れた岩壁の陰へARMSを伏せ、観測装置だけを外へ出していた。
乾いた河床の中央。
大型防衛種が、地面へ六本の脚を食い込ませている。
カブトムシの外殻と、芋虫の節を繋いだような巨体。
背面では、結晶状の発光器官が一定の間隔で明滅していた。
そのたびに、周囲の小型リセッターが進行方向を変える。
Ⅲ号「こちらルーク3。大型個体は停止したままです。基準点から東へ四百八十、南へ百二十。周囲に味方はいません」
勇翔『スカイ1、受信。観測を続けてください。位置は変えなくて構いません』
高空のF-3が、地上の輪郭を電波で描く。
河床。
岩場。
停止している大型個体。
先に得た航空写真と、Ⅲ号が伝えた方位と距離を重ねる。
勇翔『三系統の座標が一致。誤差、許容範囲内。ボルト2、目標座標を送ります』
小貝『受信した。兵装諸元へ入力。照合する』
A-10の表示装置へ、作戦区域内の座標と標高情報が入る。
小貝は一桁ずつ確認する。
F-3から受け取った数字。
任務前に配られた予備座標。
機上装置が算出した投下可能範囲。
急ぐ必要はない。
投下するまで爆弾は翼下にある。
少しでも一致しなければ、持ち帰ればいい。
小貝「座標一致。目標は静止。投下経路へ入る」
勇翔『スカイ1、了解。シュヴァルベ隊、上空異常なし。対空制圧隊からも、投下経路上の発光停止を確認』
シュヴァルベ『こちらシュヴァルベ1。空域は確保している』
Ⅲ号『ルーク3、友軍が目標から離れていることを確認しました』
小貝「ボルト2、投下する」
A-10の中央下に搭載された、二千ポンド級のGBU-31 JDAMが切り離される。
機体が僅かに軽くなる。
爆弾は、投下時に与えられた速度と機体から受け取った慣性情報を使い、尾部の操舵翼で落下経路を修正する。
衛星からの補正はない。
それでも、三系統の観測で位置を絞った巨体なら、許容できる誤差の中へ収められる。
小貝は目標へ照準を合わせ続けない。
投下後、直ちに緩やかに旋回し、確認済みの離脱経路へ入る。
小貝「兵装分離、正常。ボルト2は東へ離脱」
勇翔『着弾まで十二秒』
Ⅲ号は観測装置の倍率を上げる。
大型個体の背面が強く光る。
空へ向けて何かを撃とうとしている。
Ⅲ号「目標、発光を開始!」
勇翔『対空射撃が来ます。ボルト2、現在の針路を維持。回避余地はあります』
光の筋が、A-10の後方を通過する。
狙われた時には、小貝は投下地点から離れていた。
その直後。
GBU-31が大型個体の背面へ突入する。
閃光。
乾いた河床から、黒い土と結晶片が円形に吹き上がった。
遅れて届く爆発音が、観測所の岩壁を震わせる。
大型個体の外殻が中央から裂け、六本の脚が地面から外れた。
背面の発光器官が消える。
周囲の小型リセッターが、一斉に動きを止めた。
Ⅲ号「着弾を確認! 大型個体、背面と中央部が崩壊。発光停止!」
小貝『ボルト2、了解。撃破判定は地上へ任せる』
小貝は自分の目で爆発を見ても、敵を完全に破壊したとは報告しなかった。
煙の下に何が残っているかは、地上から確認しなければ分からない。
代理人『大型個体の停止を確認。第一防衛線、射撃開始』
*
午前八時三分。
第一防衛線。
大型個体を失ったリセッターの群れは、完全には止まらなかった。
隊形を崩したまま、乾いた河床へ雪崩れ込んでくる。
ティーガー「中央正面、距離二千。徹甲弾、装填!」
ティーガーのARMSが砲撃する。
先頭の防衛種へ砲弾が命中し、外殻が内側から割れた。
ヤークトティーガー「次、右側大型個体。射線を空けろ」
さらに重い砲声。
長距離から放たれた砲弾が、岩場を越えようとした個体を貫く。
南側高地からは、ヤークトパンターが接近経路を狭めている。
敵は多い。
だが、三十対一という一つの数字で戦場を捉える必要はなかった。
狭い河床へ進路を限定する。
大型個体を先に止める。
長射程の火力を重ねる。
一度に戦う数を減らせば、全体の数がそのまま力になるわけではない。
それでも、北側の岩場を回り込んだ遊猟種が防衛線の側面へ迫る。
Ⅲ号「北側から小型個体、二十以上! 第一防衛線の死角へ入ります!」
勇翔『スカイ1、確認。地上部隊だけでは射線を作れません。ルール1、航空支援は必要ですか?』
ヤークトパンター『こちらルール1。必要です。北側回廊、基準線より西。友軍は東側へ退避させます』
勇翔「ボルト2、近接航空支援要請。目標は北側回廊を東進する小型群。友軍退避の確認まで攻撃禁止」
小貝『受信した。攻撃待機位置へ移る』
A-10が高度を下げる。
だが、すぐには機首を敵へ向けない。
F-3から送られる地図上で、味方の青い記号が回廊の東へ移動していく。
地上では、履帯を損傷したパンターがレオパルドを援護しながら後退していた。
パンター「左の履帯が切れた! でも砲塔は動く!」
レオパルド「牽引する。射撃を続けて」
パンター「了解!」
パンターが撃つ。
レオパルドが牽引索を固定する。
動けない者を置き去りにせず、射線の外へ下がる。
ヤークトパンター『ルール1よりスカイ1。北側回廊の友軍退避完了』
Ⅲ号「ルーク3からも確認しました。目標と友軍の間、六百以上!」
勇翔「ボルト2、攻撃を許可。進入は西から東。基準線を越える前に射撃を止めてください」
小貝『了解。西から東。基準線の手前で射撃終了』
A-10が攻撃針路へ入る。
小貝の表示装置へ、地上群の輪郭が映る。
一つの塊へ見えていた反応が、接近するにつれて別々の個体へ分かれる。
機首のGAU-8/A、三十ミリ機関砲。
発射時間を長くすれば、広く当たるわけではない。
狙うのは、群れの中央ではなく、後続が必ず通る狭い岩間だった。
小貝「射撃する」
短い引き金。
低く重い連続音が、河床へ落ちる。
弾丸が岩間を進む遊猟種の先頭から奥へ抜け、硬い外殻と地面を連続して砕いた。
小貝は基準線へ近づく前に射撃を止める。
機体を上昇させ、味方の頭上を通らず南へ抜けた。
Ⅲ号「先頭群、停止! 後続が岩間で詰まっています!」
ヤークトパンター『十分です。こちらで処理します』
高地から砲撃が加えられる。
動きを止めた敵へ、地上部隊の射線が集中する。
A-10一機が、戦場を全て消し去ったわけではない。
ただ、地上部隊が撃てる数へ敵を減らし、撃てる場所へ押し込んだ。
それが近接航空支援だった。
*
午前八時十七分。
戦線北側。
防衛線を迂回しようとした別の小型群が、低い丘を越える。
スカイレイダー『こちらレイダー1。北側の後退路へ敵が近づいてる。煙幕を張るね』
勇翔「スカイ1、許可します。対空個体は西へ三キロ。射程外を維持してください」
スカイレイダー『了解』
AD-1のARMSから煙幕弾が投下される。
白い煙が丘の裾へ広がり、損傷したパンターとレオパルドの姿を敵から隠す。
続けて、スカイレイダーが丘の西側へロケット弾を放つ。
敵を全滅させるためではない。
進路を変えさせ、後退する二人から引き離すための攻撃だった。
小貝『レイダー1、敵が北西へ逸れた。十分だ。深追いするな』
スカイレイダー『分かってる。待機空域へ戻るよ』
小貝『了解。いい仕事だった』
一瞬、無線が静かになる。
スカイレイダー『帰ったら、もう一回言ってね』
小貝『覚えていたらな』
スカイレイダー『絶対覚えてて』
緊張の中へ、僅かな温度が戻る。
だが、勇翔は地上の反応から目を離さない。
大型個体を破壊された後、リセッターの進攻速度は明らかに落ちている。
一部は西へ向きを変え始めた。
勇翔「代理人。敵前列が後退へ移行しています」
代理人『こちらでも確認した。地上部隊には、第一防衛線を越えて追わないよう命じる』
勇翔「賛成です。敵の全容が分からない以上、退路へ入るべきではありません」
小貝のA-10も、弾薬を半分近く残している。
使い切る理由はなかった。
敵が退くなら、防衛任務は達成される。
その時。
F-3の赤外線捜索装置が、爆撃地点の近くで細い熱源を捉えた。
大型個体の残骸。
立ち上る煙。
その中央に、人の形をした何かが立っている。
勇翔「全機、警戒。爆撃地点に人型反応」
Ⅲ号「こちらからも見えます。黒い服の……女性?」
Ⅲ号が観測装置を向ける。
写真に映っていた黒い人影。
長い衣装の裾は、煙の中でも汚れていない。
薄い頭布の奥から、白い顔が空を見上げている。
その周囲へ集まっていた小型リセッターが、同時に動きを止めた。
人影が右手を上げる。
止まっていた群れが、一斉に西へ進路を変える。
Ⅲ号「敵を動かしました! 人型が、リセッターを統制しています!」
勇翔「敵性行動を確認。人型目標を敵性個体と判定します。全機、距離を取ってください」
黒い人影が、ゆっくりと笑う。
衣装の背後から、細長い尾のような器官が伸びる。
先端の結晶が、A-10へ向いた。
F-3の警戒装置に、電波照射の反応はない。
だが、赤外線映像では結晶の温度が急速に上がっている。
勇翔「ボルト2、右へ離脱! 人型個体が発光!」
小貝『見えた!』
A-10が右へ機体を傾ける。
次の瞬間、地上から白い光条が空を貫いた。
光はA-10の左後方を通り、雲の一部を切り裂く。
小貝『一発目、回避。警報なし。目視か熱源でしか分からないぞ』
勇翔「全機、発光器官を監視。撃たれてからでは遅い」
人型個体が、もう一度尾を向ける。
今度はスカイレイダーの待機空域だった。
小貝『レイダー1、北へ逃げろ!』
スカイレイダー『了解!』
AD-1が高度を下げ、丘の陰へ退避する。
光条が、その直前までいた空間を通過した。
黒い人型は追わない。
代わりに尾を地上へ下げ、後退中のパンターたちへ向ける。
Ⅲ号「地上部隊が狙われています!」
小貝はA-10を反転させる。
怒りに任せた動きではない。
人型個体と地上部隊の間へ、最短で射線を通せる位置を取るためだった。
小貝「スカイ1。地上を撃たせれば、後退中の二人が持たない。一回だけ攻撃する」
勇翔「単独では許可できません。僕が発光を監視します。レイダー1は退避を継続。ボルト2は西から東へ一回だけ進入。撃破できなくても、地上への照準を外した時点で離脱してください」
小貝『了解。一回で終える』
F-3が人型個体の斜め上へ位置を変える。
高空から赤外線と光学映像を重ね、尾の動きを追う。
A-10が攻撃針路へ入る。
人型個体が顔を上げる。
柔らかな笑みは消えていない。
尾の先がA-10へ動く。
勇翔「まだです。発光なし」
距離が縮まる。
小貝の照準環へ、黒い人影が入る。
その周囲に味方はいない。
小貝「射撃する」
GAU-8/Aが短く吠える。
最初の数発が地面を砕く。
続く弾丸が黒い人型の左側へ集中した。
外衣。
左腕。
腰から下の一部。
人の形を作っていた黒い物質が、結晶片となって吹き飛ぶ。
身体の半分近くを失いながら、人型個体は倒れなかった。
残った右半身だけで尾を持ち上げる。
勇翔「発光開始! ボルト2、離脱!」
小貝は引き金を戻し、A-10を左へ捻る。
白い光条が追いすがる。
完全には外れない。
光の端がA-10の右外翼を掠めた。
衝撃。
右端の兵装架と外板が弾け、警報灯が赤く点く。
小貝『ボルト2、被弾! 右外翼、外板損傷。油圧は二系統とも維持。操縦可能!』
勇翔「残存兵装を投棄できますか?」
小貝『安全区域を確認――投棄する』
損傷した兵装架へ残っていたロケット弾ポッドが切り離され、無人の岩場へ落下する。
左右の重量差が減り、A-10の傾きが小さくなる。
小貝『機体安定。燃料漏れなし。帰投可能』
勇翔「ボルト2は帰投。僕が後方を警戒します。二度目の進入は禁止です」
一拍だけ、無線が静かになる。
以前の小貝なら、もう一度機首を返したかもしれない。
自分を撃った敵を残し、背を向けることを嫌ったかもしれない。
小貝『了解。ボルト2、帰投する』
A-10は東へ向く。
人型個体から、次の光条は来ない。
Ⅲ号の観測映像では、半身を失ったはずの黒い身体へ、周囲の結晶片が引き寄せられている。
左腕の形。
腰。
長い衣装。
欠けた部分が、遅い速度で組み直されていく。
Ⅲ号「再生しています……あれだけ壊れたのに」
人型個体は、再生を終える前に西へ退く。
その動きに合わせ、残存するリセッターも戦場から離れていった。
代理人『地上部隊、追撃禁止。全員、第一防衛線を維持。人型個体の映像と残留物の回収を優先する』
防衛戦は終わった。
だが、誰も敵を壊滅させたとは考えなかった。
*
午前八時五十八分。
第二試験飛行場。
損傷したA-10が、滑走路への最終進入へ入る。
右外翼の一部は焼け、端の兵装架が失われている。
それでも主翼の主要構造は保たれていた。
エンジンは二基とも正常。
油圧も失われていない。
小貝「ボルト2、最終進入。緊急車両の待機を確認」
勇翔『スカイ1、後方にいます。横風、右から三。滑走路上に障害なし』
小貝は右主翼を必要以上に持ち上げない。
修理後の試験飛行で確認した操作量を思い出し、速度を僅かに高く保つ。
主脚が接地する。
一度、小さく跳ねる。
すぐに姿勢が安定する。
前脚が降り、A-10は滑走路上を真っ直ぐ進んだ。
小貝「ボルト2、着陸完了」
管制塔と地上班から、同時に返答が届く。
小貝は指定位置まで自力で機体を移動させ、エンジンを停止する。
キャノピーを開ける。
最初に見えたのは、規制線の外で待つスカイレイダーだった。
彼女は走ってこない。
整備班と救護班が安全を確認するまで、その場で待っている。
小貝も急いで飛び降りない。
手順どおりに電源を落とし、救護員の合図を待ってから昇降梯子へ足を掛ける。
地上へ降りると、スカイレイダーが近づいてきた。
スカイレイダー「怪我は?」
小貝「右肩を少し打った。隠すほどじゃないから、これから検査を受ける」
スカイレイダー「機体は?」
小貝「また右主翼だ。せっかく直してもらったのにな」
スカイレイダー「帰ってきたなら、また直せるよ」
小貝「そうだな」
スカイレイダーは、彼を抱き締めようとはしなかった。
小貝も、軽口で不安を消そうとはしない。
ただ、飛行装具から小さな水筒を取り出し、彼女へ見せる。
小貝「約束どおり、帰ってから飲む」
スカイレイダー「冷めてるよ」
小貝「知ってる」
スカイレイダー「それでも?」
小貝「それでも飲む」
スカイレイダーが笑う。
小貝も笑い、水筒の蓋を開けた。
少し遅れてF-3が着陸する。
勇翔は通常の手順で機体を停止させ、自分の足で格納庫へ入ってきた。
雷電「お帰りなさい、勇翔」
Hs129「身体は?」
勇翔「異常ありません。飛行記録にも、医療警報は一度も出ていません」
Hs129「じゃあ、今日はそれで終わり」
勇翔「いいえ。これから作戦報告があります」
Hs129「あ、本当に普通に仕事へ戻った」
雷電「それでよいのです。休む必要がある時は休み、戻れる時に戻れば」
勇翔は頷く。
立てることを証明するためではない。
任務を続けるために歩く。
それだけでよかった。
*
午前十時十分。
第一作戦室。
防衛戦の記録が、壁面へ並べられている。
市街地への侵入個体、なし。
DOLLSの喪失、なし。
負傷者は複数。
ARMSの損傷は七基。
敵大型個体一体を停止。
小型個体は多数を破壊したが、残存群の多くは西へ撤退した。
そして、正体不明の人型個体。
グレーテルがⅢ号の観測映像を停止する。
画面には、身体の左半分を失った黒衣の女性が映っている。
グレーテル「便宜上、この個体を《シュバルツブラウト》――黒い花嫁と呼ぶ」
代理人「小貝君の攻撃は、どの程度効いていた?」
グレーテル「破壊そのものは成立している。弾丸が当たった部分は確実に失われた。ただし、周囲のリセッターか残骸から物質を集め、欠損部を再構成したように見える」
勇翔「再生に使える物質が近くになければ、同じ結果にはならない可能性があります」
小貝「逆に言えば、群れの中にいる限り、いくら壊しても周囲から補えるってことか」
グレーテル「現時点では、そう考えるのが妥当だ」
別の映像。
シュバルツブラウトが尾を動かすと、小型リセッターの進路が一斉に変わる。
それまで不規則だった群れが、一つの命令を受けたように動いている。
代理人「指揮個体だと?」
勇翔「少なくとも、戦場で他個体へ命令を伝える能力があります。大型防衛種が中継し、あの人型が全体を統制していたのかもしれません」
小貝「最初のJDAMで中継役を潰したから、前線が乱れた。あいつが姿を現したのは、立て直すためか」
筋は通る。
だが、もう一つ疑問が残る。
シュバルツブラウトは、最初からA-10を狙った。
地上部隊より先に。
近くにいたスカイレイダーより先に。
三日前の無人機も、F-3とA-10を優先追跡対象にしていた。
代理人「偶然だと思う?」
勇翔「思いません」
小貝「俺もだ。あいつはA-10を見ていた。初めて見る兵器を警戒したってだけじゃない。どこへ逃げるかまで知っているような撃ち方だった」
グレーテル「回収した結晶片を調べる。無人機に残されていた三本線の記号と繋がる情報があるかもしれない」
会議が終わる。
小貝は席から立ち、右肩を回そうとしてやめた。
痛みがあることは、既に医療班へ伝えている。
診察の予約も取った。
無理を隠して動く必要はない。
勇翔も立ち上がる。
右脚は、床を確実に踏んでいた。
小貝「医療区へ行った後、A-10の損傷を見る。付き合うか?」
勇翔「先に自分の飛行記録を提出します。その後で行きます」
小貝「了解。格納庫で待ってる」
作戦室を出た二人は、途中の分岐で別れる。
もう、負傷した身体を押して立ち上がる必要はなかった。
誰かに止められて、ようやく大人しくなる必要もない。
自分の状態を確かめ、自分で次の行動を選ぶ。
その先に、まだ正体の分からない敵がいる。
半身を失っても立ち続けた、黒い花嫁。
そして、右主翼を焼かれても帰ってきた、灰色の攻撃機。
天から振り落とされた雷は、敵を砕いた。
だが、その雷を受けても生き残るものがいる。
次に戦う時は、壊すだけでは足りない。
何が敵を生かしているのか。
その答えを見つけなければならなかった。
はい。
お久しぶりです。
休日は少し家族がらみのことがあって小説が進みませんでしたのでここまで蛇足になりました…
今回は、ボスみたいな物と戦ってみた内容でした。
次回は、勇翔の方に視点を移します。
それでは…コメントマイリスお願いします!
お気に入り80を突破!!評価も100になりました!!みんなありがとう!!
※2026年8月30日リメイク完了
好きな子がいたら適当に投票どうぞ!
-
HK416
-
VSK-94
-
AK-12
-
AR-15
-
アズールレーン 赤城
-
アズールレーン 加賀
-
艦これ 赤城
-
艦これ 加賀
-
雷電
-
スカイレイダー
-
シュバァルベ
-
渡邉 蓮
-
渡邉 隼人
-
渡邉 勇翔
-
小貝 高虎