陸自はドールズフロントライン、海自は艦これとアズールレーン、空自はアッシュアームズ三つの世界でバラバラになりながらでも生き残る 作:ゴーストライターとかした、素人小説書き
この小説は、シリアスとギャグが少し入っています。
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グーグル先生にお聞きください。
それでも、大丈夫な方はご覧ください。
Act.15 意外なネタバラシ
午前十時三十二分。
黒十字帝国学連、医療区。
診察室の扉を開けた勇翔は、最初に小貝の右肩へ巻かれた冷却帯を見た。
次に、長椅子の端へ置かれた飛行装具。
最後に、紙コップのコーヒーを飲んでいる本人を見る。
勇翔「生きていますか?」
小貝「十分前まで同じ作戦室にいただろ」
勇翔「医療区へ入ると、急に重病人の顔をする人がいるので念のためです」
小貝「誰のことだ?」
スカイレイダー「さっき『右腕が上がらないからコーヒーを取ってくれ』って言ってた人」
小貝「あれは正当な負傷者の権利だ」
スカイレイダー「左手で取れる位置にあったよ」
小貝「……試しに頼んでみた」
勇翔「元気そうで安心しました」
勇翔の後ろから、雷電とHs129が入ってくる。
Hs129は両腕で紙袋を抱えていた。
Hs129「お見舞いを持ってきたよ!」
小貝「ありがたい。中身は?」
Hs129「黒パン、腸詰め、林檎、チーズ。それからビール」
診察室の奥で記録を書いていた医療員が顔を上げる。
「飲酒は禁止です」
Hs129「まだ袋から出してないのに」
「貴方は前回、患者より先に飲み始めました」
Hs129「よく覚えてるね」
「忘れられません」
Hs129が、名残惜しそうに瓶を紙袋の底へ戻す。
小貝「俺の見舞いじゃなかったのか?」
Hs129「半分は僕の分」
雷電「残りの半分も、最終的にはHs129が飲むつもりだったと思います」
Hs129「細かいことを気にすると、大きくなれないよ」
勇翔「飲酒量だけは十分大きいでしょう」
小貝が吹き出しかけ、右肩を押さえる。
小貝「っ……笑わせるな。肩に響く」
スカイレイダー「笑ったのは自分でしょ」
勇翔「診断はどうでした?」
小貝「右肩の打撲だけ。骨も神経も異常なし。今夜までは冷やして、明日の朝にもう一度診てもらう」
雷電「飛行は?」
小貝「機体が先に休暇へ入った。俺が飛べても意味がない」
スカイレイダー「本人も今日は休み」
小貝「地上勤務くらいは――」
スカイレイダーが、小貝の紙コップを持ち上げる。
小貝「俺のコーヒー」
スカイレイダー「『今日は休み』は?」
小貝「今日は休みです」
紙コップが返される。
Hs129「今の、すごく自然だった」
勇翔「何がです?」
Hs129「飼い主と大型犬」
小貝「誰が犬だ」
スカイレイダー「私は飼い主でもいいよ」
小貝「よくない。少なくとも、もう少し強そうな動物にしてくれ」
雷電「熊では?」
勇翔「熊ですね」
Hs129「じゃあ、コーヒーを欲しがる熊」
小貝「段々弱くなってないか?」
診察室へ、久しぶりに任務と関係のない笑い声が広がる。
医療員も止めなかった。
ただし、笑うたびに小貝が肩を押さえるので、冷却帯だけは巻き直された。
*
医療区の廊下。
診察を終えた小貝たちが歩いていると、通り過ぎた整備員二人の会話が聞こえた。
「A-10、右の翼が半分なくなったらしいぞ」
「それで着陸したのか?」
「あの機体なら飛べるらしい」
小貝が足を止める。
小貝「待て待て待て」
整備員たちが振り返る。
小貝「誰だ、半分なくなったと言い始めたのは」
「違うのですか?」
小貝「右外翼の外板と兵装架だ。主桁は生きてるし、油圧も二系統とも残ってた。半分なくなってたら、今頃俺は雲の上で反省会だ」
Hs129「でも、三時間後には『片翼だけで帰ってきた』になりそう」
雷電「夕方には『翼がなくても飛べる』ですね」
勇翔「明日の朝には、機体がなくても小貝だけで飛んだことになります」
小貝「その頃には俺は何になってるんだ?」
スカイレイダー「コーヒーを欲しがる空飛ぶ熊」
整備員二人が、堪えきれず笑う。
小貝「笑ってないで訂正してくれ。A-10が頑丈なのは本当だが、何をされても落ちない魔法の機体じゃない」
「分かりました。右外翼の損傷、と伝えます」
小貝「頼む。整備班が三日で直したところを、半分消えたの一言で片づけたら怒られるぞ」
整備員たちが去っていく。
勇翔は隣の小貝を見る。
勇翔「意外ですね」
小貝「何が?」
勇翔「昔なら、少しくらい話を盛ったでしょう」
小貝「失礼な。俺はいつだって正確な男だ」
勇翔「上海で、単機で敵戦闘機十二機を追い払ったと話していましたね」
小貝「追い払ったのは事実だ」
勇翔「実際に交戦したのは三機。残りは燃料不足で帰投」
小貝「俺がそこにいたから安心して帰れなかったんだ。広い意味では俺の戦果だ」
雷電「正確な男?」
Hs129「広い意味でね」
小貝は答えず、残っていたコーヒーを飲み干した。
*
午後六時四十分。
士官居住区、二一四号室。
窓の外では、夕日を受けた雲が淡い橙色へ染まっている。
小貝の部屋には、普段より一つ多く椅子が運び込まれていた。
卓上には、Hs129が持ってきた黒パンと腸詰め。
スカイレイダーが食堂から借りてきた大きな鍋。
雷電が切り分けた林檎。
勇翔が淹れたコーヒー。
ビールだけは、医療員に没収されたままだった。
Hs129「納得できない」
小貝「まだ言ってるのか」
Hs129「小貝の肩と、僕の肝臓は別の問題だよ」
雷電「前回潰れた方が言っても、説得力はありません」
Hs129「今日は潰れない量にするつもりだったのに」
勇翔「その量は?」
Hs129「潰れる一本前まで」
小貝「誰が、その一本を見分けるんだ?」
Hs129「飲んでみないと分からない」
スカイレイダー「没収されて正解だね」
鍋の蓋が開く。
豆と野菜、厚切りの燻製肉を煮込んだスープの匂いが部屋へ広がった。
小貝「いい匂いだな」
スカイレイダー「食堂の人に教えてもらったの。味見は三回した」
勇翔「慎重ですね」
スカイレイダー「一回目は薄かった。二回目は胡椒を入れすぎた。三回目で諦めた」
小貝「最後だけ不穏だぞ」
スカイレイダー「大丈夫。食べられるところまでは戻したから」
全員へ器が配られる。
小貝が最初に一口飲む。
四人の視線が集まった。
小貝「……うまい」
スカイレイダー「間が長い」
小貝「熱かっただけだ」
Hs129「本当に?」
小貝「本当にうまい。胡椒は少し強いが、寒い日ならこれくらいでいい」
スカイレイダー「今日は暖かかったけどね」
小貝「そうだったな」
小貝が二口目を飲む。
スカイレイダーは満足そうに自分の器を取った。
食事が始まる。
最初の話題は、黒十字帝国学連の食堂で一番信用できる料理。
次は、Hs129が寝言で物騒なことを口走る理由。
その次は、雷電が高高度へ上がる時、どの辺りから寒さを感じるか。
誰かが話し終える前に、別の誰かが横から口を挟む。
話は結論へ向かわず、何度も別の方向へ逸れていった。
Hs129「寝言は覚えてないから、僕に聞かれても困るよ」
勇翔「『今日もいっぱい殺してやる』とはっきり言っていました」
Hs129「勇翔の夢じゃない?」
雷電「私も聞きました」
Hs129「二対一だ。小貝、助けて」
小貝「俺はその場にいない。証言できん」
スカイレイダー「普段の言動から考えると、有罪かな」
Hs129「四面楚歌だ」
小貝「一人は中立だ」
Hs129「中立は味方じゃないんだよ」
Hs129が黒パンを千切り、スープへ浸す。
その横で、雷電が勇翔の器を見る。
雷電「勇翔、燻製肉を避けています?」
勇翔「脂身の多い部分を最後に残しているだけです」
雷電「苦手なら、私がいただきますよ」
勇翔「苦手ではありません」
雷電「では、交換しませんか? 私は豆を少し持て余しています」
勇翔「それなら」
二人は互いの器を近づける。
勇翔が雷電の豆を受け取り、雷電が燻製肉を一切れ取った。
小貝「随分自然だな」
勇翔「何がです?」
小貝「いや、何でもない」
スカイレイダー「絶対、何でもなくない顔だね」
小貝「弟子の成長を見守る教官の顔だ」
勇翔「飛行と関係のないところで教官面をしないでください」
雷電「やはり、小貝は勇翔の教官だったのですね」
Hs129「前に少し聞いたけど、ちゃんとした話はまだだよね。二人はどうやって会ったの?」
小貝「聞かない方がいいぞ。長いし、暗いし、飯が冷める」
スカイレイダー「そう言われると、聞きたくなるなあ」
雷電「私も気になります」
勇翔「小貝が話したくないなら、無理に聞くことではありません」
小貝「俺に振るのか」
勇翔「当事者ですから」
小貝「お前も当事者だろ」
勇翔「僕から話すと、僕に都合のよい形になるかもしれません」
小貝「そういうところだけ妙に律儀だな」
小貝は器を置く。
少し考え、勇翔を見る。
小貝「話していいか?」
勇翔「はい」
小貝「なら話す。ただし、途中で飯が冷めても俺は責任を取らん」
Hs129「鍋に戻して温めるから大丈夫」
小貝「お前は本当に雰囲気を壊すのがうまいな」
Hs129「褒められた」
雷電「たぶん違います」
*
第三次世界大戦後期。
北京包囲戦が始まる少し前。
河北省、臨時飛行場。
補給のために立ち寄った勇翔たちの部隊は、格納庫代わりの防水天幕で輸送を待っていた。
遠くでは、帰投した航空機のエンジンが一基ずつ止まっていく。
飛行服を腰まで脱いだ男が、天幕の入口から中を覗く。
髪は雨と汗で乱れ、右手には整備員から借りたらしい工具箱を持っている。
工具箱の側面には、本人のものではない部隊名が書かれていた。
小貝「お前が渡邉勇翔か」
勇翔「はい。そちらは?」
小貝「小貝高虎。航空隊で飛んでる。斎藤の兄だ」
勇翔は、男の顔を見直す。
斎藤から、血の繋がった兄がいることは聞いていた。
家庭の事情で姓が違うこと。
幼い頃から離れて暮らし、まだ一度も直接会ったことがないこと。
それでも、手紙だけは何度か交わしていること。
勇翔「斎藤から聞いています。小貝中尉ですね」
小貝「弟の手紙に、お前の名前が何度も出てきた」
勇翔「どのように聞いています?」
小貝「壊れた装備を見ると、敵が近くにいても分解したがる変人だってな」
勇翔「訂正してください。敵が近くにいる時は、持ち帰ってから分解します」
小貝が笑う。
小貝「弟から聞いたとおりだな」
勇翔「斎藤には、いつも助けられています」
小貝「そうか。まだ顔も合わせてない兄より、お前の方が弟を知ってるわけだ」
軽い調子だった。
だが、その言葉の奥にある寂しさを、勇翔は聞き逃さなかった。
勇翔「この戦争が終わったら、会うつもりだと言っていました」
小貝「ああ。俺もそのつもりだ」
遠くから、勇翔を呼ぶ声がする。
小貝「引き止めて悪かった。弟が世話になってるな」
勇翔「こちらこそ。渡邉勇翔です」
握手は短かった。
勇翔「呼ばれていますので、失礼します」
勇翔が天幕を出る。
小貝はその背中を、姿が見えなくなるまで眺めていた。
これが、勇翔と小貝の最初の出会いだった。
言葉を交わした時間は、五分にも満たない。
次に二人が会った時、斎藤はもういなかった。
*
第三次世界大戦終結後。
日本国内、共同墓地。
雨の中で、戦没者を送る斉射が響いていた。
遺族。
帰還した隊員。
空の棺を見送る者。
それぞれの礼服を着ていても、立っている理由は一人ずつ違っていた。
勇翔は斎藤の名が刻まれた墓標の前に立つ。
遺体は戻らなかった。
埋葬されているのは、形見と認識票の片方だけだった。
小貝「来たのか」
雨の向こうから、小貝が歩いてくる。
臨時飛行場で会った時とは、別人のような目をしていた。
勇翔「斎藤の最期を、お伝えするために来ました」
小貝「聞けば、何か変わるのか?」
勇翔「変わりません」
小貝「なら、聞きたくない」
勇翔「分かりました」
勇翔は引き止めなかった。
小貝も、その場を去らなかった。
二度目の斉射が響く。
雨が、礼服の肩を濃く染めていく。
小貝「……弟は、苦しんだか?」
勇翔「いいえ」
小貝「本当か?」
勇翔「撤退中、背後から撃たれました。声を上げる間もありませんでした」
慰めになる答えではなかった。
だが、勇翔は事実を別の形へ変えなかった。
小貝「最後に、何か言わなかったのか?」
勇翔「何も」
小貝「嘘でもいい。俺に伝えたかったことがあったとか、帰りたがっていたとか――何かあるだろ」
勇翔「嘘は言えません」
小貝が勇翔の胸倉を掴む。
勇翔は抵抗しなかった。
小貝「弟が死んで、お前が帰ってきた」
勇翔「はい」
小貝「お前の兄たちが起こしたことも聞いた。お前たちの部隊が、仲間へ銃を向けたことも」
勇翔「はい」
小貝「俺は今、お前を殴りたい」
勇翔「止めません」
小貝「止めろよ」
勇翔が、僅かに目を上げる。
小貝「殴られて済むと思うな。お前が弟を連れて帰れなかったことも、お前だけが帰ってきたことも、殴ったところで何一つ変わらん」
小貝は胸倉から手を離す。
小貝「だから、一発で楽になろうとするな」
勇翔は濡れた礼服を整えなかった。
勇翔「……申し訳ありません」
小貝「その言葉も嫌いだ」
勇翔「ほかに言える言葉がありません」
小貝「それでも、作れ。生きて帰ったなら、弟のことを『すみません』だけで終わらせるな」
三度目の斉射。
小貝は墓標へ向き直り、敬礼する。
勇翔も隣へ立つ。
互いに許してはいない。
理解もしていない。
ただ、同じ名前へ敬礼した。
その日、二人は別々の方向へ帰った。
*
戦後、日本。
航空自衛隊、小松基地。
勇翔が整備科から操縦課程へ進み、第六航空団へ配属された初日。
教室の前へ現れた助教を見て、勇翔は立ち上がったまま固まった。
小貝も、名簿と勇翔の顔を三度見比べた。
小貝「……帰れ」
勇翔「着任手続きは終わっています」
小貝「知ってる。俺が言ったのは心情だ」
勇翔「僕も、出来れば別の教官がよかったです」
小貝「言うようになったな」
勇翔「墓地で、言葉を作れと言われましたので」
教室の空気が凍る。
周囲の学生たちは、初日から何が始まったのか分からず二人を見ていた。
小貝「いいだろう。俺が教える」
勇翔「私情を持ち込むつもりですか?」
小貝「持ち込む。弟の話を抜きにしても、俺はお前が嫌いだ」
勇翔「正直ですね」
小貝「その代わり、評価には一切入れない。お前が規定を満たせば通す。満たさなければ落とす。ほかの学生と同じだ」
勇翔「それなら、問題ありません」
小貝「問題はこれから作るんだよ」
最初の数週間、小貝は勇翔へ容赦しなかった。
手順を飛ばせば、最初からやり直し。
説明が曖昧なら、根拠を言えるまで先へ進ませない。
模擬飛行で味方機を見失えば、何が見えていなかったのかを一つずつ書かせた。
勇翔も引かなかった。
納得できない指示には理由を求めた。
間違いを指摘されれば直したが、教官の説明が間違っている時には黙らなかった。
ある日の模擬空戦後。
小貝「何で、そこで上へ逃げた?」
勇翔「相手が僕の後ろを取ることより、僚機から引き離すことを優先していたからです」
小貝「根拠は?」
勇翔「三回とも、僕が僚機へ近づくと攻撃を中断しました。狙いが撃墜なら、あの距離で止めません」
小貝「偶然とは?」
勇翔「一回なら。三回なら意図です」
小貝は記録を巻き戻す。
勇翔の言葉どおりだった。
小貝「……気づいていたのか」
勇翔「はい」
小貝「先に言え」
勇翔「聞かれませんでした」
小貝「お前、教官を腹立たせる才能があるな」
勇翔「よく言われます」
その日から、小貝の教え方が少し変わった。
答えを先に与えず、勇翔が何を見つけるかを待つ。
勇翔も、小貝が何を試しているのかを読むようになった。
嫌いだから、よく見た。
よく見たから、相手が何を考えているのか分かるようになった。
分かるようになっても、すぐに好きにはならなかった。
ただ、飛ぶ時だけは互いの判断を信用した。
教官と学生。
やがて同じ部隊の操縦者。
長年の僚機。
墓地で殴り合うことすらできなかった二人は、空の上でなら背中を預けられるようになった。
*
二一四号室。
小貝が話し終えた時、鍋から上がっていた湯気は薄くなっていた。
Hs129は、手に持った黒パンを食べることも忘れている。
雷電は勇翔を見ていた。
スカイレイダーは、小貝の隣で静かに器を置く。
Hs129「……本当に暗かった」
小貝「先に言っただろ」
Hs129「でも、最後はちょっと変だった」
小貝「どこが?」
Hs129「嫌いだから見てたら、誰より分かるようになったんでしょ?」
小貝「要約すると気持ち悪いな」
雷電「ですが、間違ってはいません」
勇翔「僕まで含めないでください」
スカイレイダー「お互い嫌いって言いながら、十年以上一緒に飛んでるんだよね?」
小貝「仕事だからな」
勇翔「小貝が別の部隊へ移っても、何故か数年後には同じ任務へ入っていました」
小貝「お前もな」
Hs129「腐れ縁ってやつ?」
雷電「戦友でもあり、師弟でもあり、家族に近い部分もあるのでしょうね」
小貝「家族は言いすぎだ」
勇翔「僕もそう思います」
返事が、ほとんど同時に重なる。
四人が二人を見る。
小貝「見るな」
勇翔「偶然です」
Hs129「息ぴったり」
小貝「長く飛んでれば、返事くらい重なる」
スカイレイダー「それを息ぴったりって言うんじゃない?」
小貝は冷めかけたスープを飲む。
スカイレイダーが、少しだけ声を落とす。
スカイレイダー「斎藤のこと、今でも勇翔を恨んでる?」
小貝「恨んでない、と言い切れば嘘になる」
小貝は、すぐに続きを話す。
小貝「だが、それは勇翔を傷つけたいという意味じゃない。弟が死んだことへの行き場のない怒りが、たまに昔の形へ戻るだけだ」
勇翔「それで十分です」
小貝「お前は、すぐ十分と言うな」
勇翔「では、足りない分は今後も返します」
小貝「何で返す?」
勇翔「飛ぶ時に」
小貝「それなら、利子を付けろ」
勇翔「高利貸しですか」
重くなりかけた空気が、少しだけ緩む。
Hs129が黒パンを鍋へ入れ直した。
Hs129「温め直そう」
小貝「鍋へ戻すのか?」
Hs129「僕の分だけ」
スカイレイダー「それ、たぶん崩れるよ」
Hs129「パン粥になるから問題ない」
雷電「最初から別の料理へ逃げましたね」
話題が、再び食事へ戻る。
しばらくして、今度は小貝が勇翔と雷電を見る。
小貝「そういえば、お前たちは結局どういう関係なんだ?」
勇翔「急に話を変えましたね」
小貝「暗い話をした後は、明るい話が必要だろ」
Hs129「僕も聞きたい」
勇翔「Hs129まで」
雷電「どういう関係、と言われましても」
雷電は少し考え、勇翔を見る。
雷電「私は勇翔に好意があります」
勇翔「――はい?」
Hs129「思ったより真っ直ぐ行った!」
小貝「いいぞ、雷電。続けろ」
勇翔「小貝は黙っていてください」
雷電「一緒にいると安心しますし、もっと知りたいと思っています。ですが、交際を申し込んだ覚えも、受けてもらった覚えもありません」
スカイレイダー「じゃあ、まだ彼女じゃないんだ?」
雷電「はい。今のところは」
最後の一言だけ、少し楽しそうだった。
勇翔「今のところ、を付けるのですか」
雷電「付けてはいけませんか?」
勇翔「いけないとは言っていません」
Hs129「勇翔、耳が赤いよ」
勇翔「スープが熱いだけです」
小貝「もう冷めてるぞ」
勇翔「教官、少し黙ってください」
小貝「都合が悪い時だけ教官呼びするな」
スカイレイダーが笑いながら、小貝の脇腹を軽く肘で突く。
スカイレイダー「小貝は恋愛に詳しいの?」
小貝「まあ、人並みには」
勇翔「人並み以上でしょう」
小貝「そうか?」
勇翔「結婚を二度経験した人は、少なくとも僕より詳しいはずです」
部屋が静かになる。
鍋の中で、豆が一つ弾けた。
スカイレイダー「……二度?」
小貝「勇翔」
勇翔「はい」
小貝「味方を撃つな」
勇翔「事実を伝えただけです」
Hs129「今日一番の直撃だ」
雷電「結婚を二度、ですか?」
小貝「正確には、結婚して、離婚して、もう一度結婚して、もう一度離婚した」
Hs129「すごい。分かりやすい」
小貝「分かりやすく言ったからな」
スカイレイダー「それ、いつ話すつもりだったの?」
小貝「次か、その次の食事くらいで」
スカイレイダー「何で食事の回数で決めてるの?」
小貝「早すぎると重い。遅すぎると隠してたみたいになる。三回目くらいが妥当かなと」
雷電「妙なところで計画的ですね」
勇翔「二回の経験から学んだのでしょう」
小貝「お前、今日だけで随分言うようになったな」
勇翔「墓地で言葉を作れと言ったのは小貝です」
小貝「そんな昔の指示を律儀に守るな」
スカイレイダーは怒っていなかった。
驚いてはいる。
だが、小貝から距離を取ることもない。
スカイレイダー「二回結婚できたなら、人を好きになるのは下手じゃないんだね」
小貝「たぶんな」
スカイレイダー「二回終わったなら、続ける方は下手?」
小貝「そこは否定しづらい」
Hs129「綺麗に刺さった」
小貝「今日は味方から撃たれすぎだろ」
スカイレイダー「詳しい話は、次の食事で聞くよ」
小貝「それでも、次があるのか?」
スカイレイダー「過去を聞いたくらいで、今の約束まで消えないでしょ」
小貝「……そうか」
スカイレイダー「ただし、今度は私が店を選ぶ」
小貝「条件はそれだけ?」
スカイレイダー「今はね」
小貝「今は、か」
雷電「先ほどの私と同じですね」
Hs129「今日は『今のところ』が流行ってるの?」
勇翔「将来を勝手に確定しないための、大切な言葉です」
小貝「お前が言うと妙に固いな」
雷電「ですが、勇翔らしいと思います」
勇翔は返事に困り、コーヒーへ手を伸ばす。
空だった。
雷電が自分のポットから、勇翔のカップへ少し注ぐ。
勇翔「ありがとうございます」
雷電「どういたしまして」
小貝「やっぱり自然だな」
勇翔「まだ言いますか」
今度は全員が笑った。
*
午後七時二十分。
第一作戦室。
代理人は机へ頬杖をつき、グレーテルが持ってきた解析報告を読んでいた。
代理人「もう一度確認するけど、Su-57を飛べるように直したわけじゃないんだね?」
グレーテル「直していない。隔離状態も解除していない」
代理人「よかった。『一晩で敵機を修理しました』と言われたら、君の技術より先に安全管理を疑うところだった」
グレーテル「私も同感だ。復元できたのは、演算装置の記録領域の一部だけだ」
グレーテルが端末を操作する。
画面へ、短い文字列が表示された。
複数の欠損。
読み取れない記号。
その中に、一つだけ明確な単語が残っている。
SCHWARZBRAUT。
代理人「《シュバルツブラウト》……今日付けた仮称と同じだ」
グレーテル「つまり、あの人型個体は今日生まれたわけではない。無人機を送り込んだ側は、以前から存在と呼称を把握していた」
代理人「こちらが名前を付ける前から、向こうでは役割のある個体だった」
グレーテル「そうなる」
代理人が椅子の背へ身体を預ける。
代理人「勇翔君たちを探していた無人機。その無人機が知っていた黒い花嫁。段々、一本の線になってきたね」
グレーテル「まだ断片だ。線に見えるからと、都合よく繋ぐなよ」
代理人「分かってる。君は本当に、いいところで冷水を掛けるね」
グレーテル「頭が熱くなっている者には必要だ」
代理人は報告書を閉じる。
代理人「A-10の修理見込みは?」
グレーテル「交換部材が足りない。三日では無理だ。右外翼の主構造を検査してから、代替部品を作る。最短でも一週間は見てほしい」
代理人「小貝君は嫌がるだろうなあ」
グレーテル「今日の彼なら、検査を飛ばしてまで急げとは言わないだろう」
代理人「そうだね。二人とも、随分こちらへ馴染んだ」
グレーテル「馴染んだのではない。元々持っていたものを、こちらでも出せるようになっただけだ」
代理人「そういう言い方、嫌いじゃないよ」
グレーテルが、もう一枚の書類を机へ置く。
代理人「まだあるの?」
グレーテル「ああ。公爵から連絡があった」
代理人「……聞かなかったことにしていい?」
グレーテル「三日後、視察へ来る」
代理人「黒い花嫁より逃げられない相手だ」
グレーテル「粗相のないように」
代理人「その一言だけ残して帰るつもり?」
グレーテル「そのつもりだ」
グレーテルが作戦室を出ていく。
扉が閉まる直前、代理人が机へ突っ伏した。
代理人「今日一番聞きたくなかったネタバラシだよ……」
返事はない。
廊下の向こうから、グレーテルの小さな笑い声だけが聞こえた。
はい。
過去バラシ回ですねこれ、うん。
とは言え、これで3週目終わりですね…
記念としてキャラ紹介でもしましょうかね。
それでは、コメントとお気に入りをお待ちしています。
それでは。
※2026年8月30日リメイク完了
好きな子がいたら適当に投票どうぞ!
-
HK416
-
VSK-94
-
AK-12
-
AR-15
-
アズールレーン 赤城
-
アズールレーン 加賀
-
艦これ 赤城
-
艦これ 加賀
-
雷電
-
スカイレイダー
-
シュバァルベ
-
渡邉 蓮
-
渡邉 隼人
-
渡邉 勇翔
-
小貝 高虎