陸自はドールズフロントライン、海自は艦これとアズールレーン、空自はアッシュアームズ三つの世界でバラバラになりながらでも生き残る   作:ゴーストライターとかした、素人小説書き

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この小説は四つのクロスオーバーが含まれています。

艦これ·アズールレーン·ドールズフロントライン·アッシュアームズ

大丈夫な方は楽しんで見ていってね!


第16話 感動の再会は銃声と爆風の中で…

第16話 感動の再会は銃声と爆風の中で……

 

 S09基地襲撃から、二十八日後。

 

 基地の外壁には、まだ新しい補修材の色が残っていた。

 

 焼け落ちた通信塔の代わりに仮設アンテナが立ち、中央管理棟では割れた窓を塞ぐ作業が続いている。

 

 それでも、滑走路には輸送機が戻り、演習場からは規則正しい銃声が聞こえるようになっていた。

 

 基地は、傷跡を残したまま動き始めている。

 

     ◇

 

 医療区画、運動機能検査室。

 

衛生要員「もう一度。今度は走らず、同じ速度で往復してください」

 

蓮「さっきから走ってない」

 

衛生要員「あなたの『歩く』は、ほかの患者の小走りです」

 

 蓮は床に引かれた白線の端で向きを変えた。

 

 胸部を撃ち抜いた傷は閉じている。

 

 左腿の傷も、歩行時に僅かな張りを感じる程度まで回復した。

 

 損傷した筋肉と深い銃創が二十八日でここまで治るのは、医療班の常識から外れているらしい。

 

 検査のたびに採血量が増えている気がしたが、蓮は深く考えないことにした。

 

 今は、車椅子も杖も必要ない。

 

 白線を往復し、診察台の前へ戻る。

 

衛生要員「痛みは?」

 

蓮「ない」

 

VSK「今朝、階段を上った時に左脚を一度押さえていました」

 

蓮「何で見てるんだよ」

 

VSK「副官ですので」

 

 壁際に立つVSKは、悪びれた様子もない。

 

 彼女の手には、蓮の検査記録が表示された端末まである。

 

衛生要員「では、長い階段と長距離走では違和感が出る、と」

 

蓮「密告者がいる……」

 

VSK「観測結果の報告です」

 

衛生要員「報告は重要です。渡邉さんは、都合の悪い症状を『誤差』として扱う傾向がありますから」

 

蓮「信用がないな」

 

VSK「過去の実績に基づく評価です」

 

 返す言葉がなかった。

 

 衛生要員は端末へ検査結果を入力し、最後に蓮の瞳孔と胸部の傷を確認した。

 

衛生要員「通常歩行、短距離の走行、携行火器の使用に問題なし。戦闘任務への条件付き復帰を認めます」

 

蓮「条件は?」

 

衛生要員「連続した全力疾走、重量物の単独運搬、長時間の強行軍は禁止。痛みや呼吸困難が出た場合は、任務中でも副隊長の判断で離脱させます」

 

蓮「俺の判断は?」

 

衛生要員「信用していません」

 

VSK「私もです」

 

蓮「息が合ってきたな、お前ら」

 

 衛生要員が復帰許可証をVSKへ送信する。

 

 本人ではなく副隊長へ送るあたり、最後まで徹底していた。

 

VSK「おめでとうございます、ボス」

 

蓮「ああ。ようやく病人役から降りられる」

 

VSK「病人役ではなく、病人でした」

 

蓮「もう違う」

 

VSK「はい」

 

 短い返事だった。

 

 それでも、VSKの表情は二十八日前より明らかに柔らかい。

 

VSK「お帰りなさい、ボス」

 

 その言葉に、蓮は一瞬だけ目を止めた。

 

蓮「……ただいま」

 

     ◇

 

 復帰許可が出てから、三時間後。

 

 蓮はS09基地の作戦室にいた。

 

 正面の表示盤の前には、一人の女性が立っている。

 

 グリフィンの灰色の指揮官用上着。

 

 髪は任務の邪魔にならないよう、首の後ろで一つに束ねている。

 

 腰の拳銃嚢には、二十八日前の防衛戦で付いた擦過痕が残っていた。

 

 襟元まで整えてはいるが、右袖には補修作業で付いたらしい白い粉が残っていた。

 

 基地襲撃からの二十八日間、彼女は司令室に籠もらず、修復中の区画と負傷者の収容施設を毎日歩いていた。

 

 話す時に声を荒らげることは少ない。

 

 人間の職員にも戦術人形にも名前で声を掛け、報告の途中で口を挟まず、最後まで聞く。

 

 だが、人命、捕虜、証拠のいずれを優先するか決める時、その命令が曖昧になったことはなかった。

 

 S09基地指揮官――ドブルイニャ・ハル。

 

 蓮が前に彼女と顔を合わせたのは、主司令部へ傭兵が雪崩れ込んでいる最中だった。

 

 名乗り合う余裕など、どちらにもなかった。

 

ハル「そういえば、きちんと自己紹介をしていなかったね」

 

 女性指揮官が蓮へ右手を差し出す。

 

ハル「ドブルイニャ・ハル。S09基地の指揮官をしています」

 

蓮「渡邉蓮。そちらは、もう知ってるか」

 

ハル「救護室の脱走未遂記録、臨時小隊の命令記録、食堂の食料消費報告。二十八日で三種類も名前を覚える機会があったよ」

 

蓮「最後のは俺の責任なのか?」

 

VSK「おそらく、ほぼボスの責任です」

 

 ハルが小さく笑う。

 

 それから、差し出した手を蓮が握ったことを確認し、表情を仕事のものへ戻した。

 

 大型表示盤には、基地から北東へ四十二キロメートル離れた工業地帯の地図が映っている。

 

 旧ベルカ第七码頭工業区。

 

 二十年以上前に閉鎖された貨物集積所と製鋼工場が並び、現在はグリフィンの無人監視網の外縁に位置している。

 

 表示盤の中央で、三つの監視点が赤く点滅していた。

 

ハル「本題に入るね。昨夜二時十三分から、工業区へ置いていた観測器が順番に沈黙したの」

 

 ハルが、一番南の印を指す。

 

ハル「最初が南門。四分後に貨物駅。さらに六分後、製鋼工場の屋上。通信障害じゃない。全部、物理的に破壊されている」

 

G3「鉄血ですか?」

 

M4A1「可能性は高いです。最後の観測器が停止する直前、鉄血工造の識別信号を受信しました」

 

 M4A1が記録を開く。

 

 わずか二秒の受信データ。

 

 発信元は製鋼工場の内部。

 

 個体識別番号は欠落し、所属階級を示す部分だけが残っている。

 

NTW-20「上級人形の信号ね」

 

M4A1「はい。ただし、正規の形式ではありません。周波数も出力も、こちらに発見させることを意図した設定です」

 

ブレン「罠だと名乗っているようなものだな」

 

蓮「名乗ってるんじゃない。呼んでるんだろう」

 

 全員の視線が蓮へ向く。

 

蓮「観測器を壊すだけなら、信号を残す必要はない。しかも最後の一台だけ、壊す前に二秒待っている。敵は、俺たちが受信記録を見るところまで考えてる」

 

ハル「誰を呼んでいると思う?」

 

蓮「そこまでは分からん。グリフィンなら誰でもいいのかもしれないし、特定の誰かを待っているのかもしれない」

 

VSK「後者である可能性を考えておくべきですね」

 

蓮「ああ」

 

 ハルは工業区の地図を一度縮小し、より広い地域図へ切り替えた。

 

 S09基地の北東から北へ、赤と青の印が散っている。

 

 赤はレッドカンパニー。

 

 青は鉄血工造。

 

ハル「その前に、今の敵情を共有しておきます」

 

 S09襲撃に投入されたレッドカンパニーの二個分遣隊は、過半数を失っていた。

 

 死亡、投降、拘束。

 

 基地外周まで撤退できた者もいるが、車両と重火器の多くを放棄している。

 

 さらに、連絡将校と監視兵が捕らえられ、鉄血との取引を示す資料原本もグリフィン側へ渡った。

 

 襲撃失敗から一週間以内に、レッドカンパニーは周辺の補給所を二つ放棄。

 

 無線呼出符号を変更し、部隊単位の行動をやめ、小規模な班へ分散している。

 

G3「では、周辺のレッドカンパニーは壊滅したのでしょうか?」

 

ハル「いいえ。大人数で正面から攻める力を失っただけ。表から消えて、見つけにくくなったと考えるべきだよ」

 

 ハルは、赤い印のいくつかを消す。

 

 撃破したという意味ではない。

 

 拠点を捨て、所在が分からなくなった印だった。

 

M4A1「鉄血の主力も、襲撃失敗後に北へ移動しています。基地内に取り残された通常機は失われましたが、上級人形の損失は確認できていません」

 

ブレン「人間側を置いて逃げたのか?」

 

M4A1「共同通信網は、撤退開始とほぼ同時に切断されています。ただし、それが同盟の解消を意味するかは分かりません」

 

ハル「仲違いしたと思い込むのは危険ね。通信網を分け、次の失敗で共倒れにならないよう距離を取っただけかもしれない」

 

蓮「レッドカンパニーは地下へ。鉄血は戦力を温存して北へ。手を切った証拠はない、か」

 

ハル「それが、現時点で最も正確な見方です」

 

 勝利したから、敵が消えたわけではない。

 

 レッドカンパニーは姿を変えた。

 

 鉄血は距離を変えた。

 

 そして、両者を結んでいた利害は、まだ残っている可能性が高い。

 

 ハルが再び工業区を拡大する。

 

 製鋼工場を中心に、貨物駅、資材置き場、変電設備、排水路が表示された。

 

ハル「任務は、敵戦力の確認と信号源の回収。大規模部隊を確認した場合は交戦を避けて帰還。小規模なら、現場判断で排除して構わない」

 

蓮「初任務から、分かりやすい罠の調査か」

 

ハル「嫌なら、復帰初日は書類整理に変えられるよ?」

 

蓮「罠の方で頼む」

 

ハル「即答なんだ……」

 

ブレン「書類より銃弾の方がましらしい」

 

NTW-20「理解できなくはないわ」

 

G3「私は書類の方が安全だと思います」

 

蓮「正しい。G3はその感覚を大事にしろ」

 

G3「小隊長も見習ってください」

 

 ハルが小さく笑い、それから表情を戻す。

 

ハル「臨時特別小隊、正式編成後の初任務になります。現場指揮は蓮さん。VSKは副隊長として、彼が判断できない場合に指揮を引き継いで」

 

VSK「了解しました」

 

ハル「全員、必ず帰ってきて。信号源より、そっちが優先です」

 

蓮「了解」

 

 表示盤が消える。

 

 五人が装備を取り、作戦室を出ようとした時だった。

 

M4A1「蓮さん」

 

 蓮だけが足を止める。

 

M4A1「上級人形だった場合、単独で追わないでください」

 

蓮「俺が信用されてないのは、もう医療区画でよく分かった」

 

M4A1「信用しているから言っています。あなたは、追う理由がある時ほど止まらない人です」

 

 蓮は、少しだけ黙った。

 

 自然公園で交わした約束。

 

 S09基地へ戻る直前、SOPⅡから聞いた過去。

 

 そして、あの大剣を持った鉄血人形。

 

蓮「今回は一人じゃない」

 

 先に廊下へ出た四人を見る。

 

蓮「だから、勝手には追わんよ」

 

     ◇

 

 旧ベルカ第七码頭工業区。

 

 午後四時四十一分。

 

 灰色の雲が空を覆い、海から吹く風が錆と油の臭いを運んでいる。

 

 崩れた外壁の向こうには、何本もの煙突と鉄塔が立っていた。

 

 どれも煙を吐かなくなって久しい。

 

 レールの上には貨車が放置され、赤錆びた車輪の周囲を雑草が覆っている。

 

 装甲輸送車を南門から二キロメートル離れた倉庫へ残し、小隊は徒歩で工業区へ入った。

 

 先頭はG3。

 

 二十メートル後方に蓮とVSK。

 

 さらに後ろをブレンが警戒し、NTW-20は別経路から廃クレーンの高所へ向かっている。

 

 全員の視界には、互いの位置と射界が簡略表示されていた。

 

 蓮の耳元で、NTW-20の声がする。

 

NTW-20『観測位置へ到着。工場正面、資材置き場、東側道路まで見える』

 

蓮「逃走経路は?」

 

NTW-20『北側の配管群だけ死角。大型目標が通れば音で分かる』

 

蓮「了解。撃つのは合図してからだ」

 

NTW-20『初弾を我慢できるか、私を試している?』

 

蓮「お前の弾は高いと聞いた」

 

NTW-20『正解。評価を一つ上げるわ』

 

蓮「まだ続いてたのか、それ」

 

 G3が左拳を上げた。

 

 全員が止まる。

 

 線路脇に、鉄血のリッパーが一体倒れていた。

 

 胸部装甲には、内側から押し開かれたような亀裂がある。

 

 蓮はG3の隣へ進み、死骸の前へ片膝をついた。

 

VSK「自爆でしょうか?」

 

G3「爆薬の痕跡はありません。中枢記録装置だけが抜かれています」

 

 周囲の地面には、引きずった跡も戦闘の痕跡もない。

 

 死骸だけが、南門から見える位置へ置かれている。

 

蓮「道標だな」

 

ブレン「ずいぶん趣味の悪い案内板だ」

 

 G3がリッパーの右手を見る。

 

 折れた指の間に、細い金属片が挟まっていた。

 

 グリフィンの観測器に使われていた外装部品。

 

 その先端が、工業区の奥を向いている。

 

G3「本当に、案内しているようです」

 

蓮「なら、案内どおりには歩くな。G3は線路を外れて西側へ。ブレンは中央を維持。VSK、右の建物を見てくれ」

 

VSK「了解」

 

 小隊は死骸を中心に広がった。

 

 誘導された道を避け、互いに援護できる距離を保ちながら進む。

 

 百メートル先には、二つ目の残骸。

 

 その次は、開いたままの資材搬入口。

 

 敵は一貫して、製鋼工場の中央建屋へ誘導していた。

 

VSK「ボス。右手、二階の窓」

 

 割れた窓枠に、小さな赤い光が見えた。

 

 蓮が双眼鏡を向ける。

 

 監視カメラ。

 

 こちらを隠れて見るつもりはないらしい。

 

蓮「見られてるな」

 

ブレン「壊すか?」

 

蓮「いや。見せてやろう」

 

 蓮はカメラへ向け、片手を上げた。

 

 挨拶ではない。

 

 中指だけを立てる。

 

VSK「ボス」

 

蓮「通信できないからな。旧式の意思表示だ」

 

G3「意味は分かりますが、品位はありません」

 

 カメラの赤い光が、一度だけ点滅した。

 

 笑われたように見えた。

 

     ◇

 

 製鋼工場、中央圧延棟。

 

 巨大な建屋の中には、停止した圧延機と搬送ローラーが列を作っていた。

 

 天井までの高さは四十メートル近い。

 

 頭上には保守用の通路が何層も走り、床には冷却水を流していた深い溝が残っている。

 

 信号源は、建屋中央の制御室から発信されていた。

 

 だが、正面扉へ続く床には新しい足跡が多すぎる。

 

 鉄血のものが十数体。

 

 大型の足跡が一つ。

 

 どれも、入った跡しかなかった。

 

蓮「ここで止まる」

 

 小隊が機械の陰へ入る。

 

蓮「VSK。東側通路を使って二階へ。制御室と俺たちの両方が見える位置を取れ」

 

VSK「ボスは?」

 

蓮「G3と中央。ブレンは西側から射線を交差させる。NTW-20は外のまま、北壁と屋根を見ろ」

 

VSK「了解しました。三分で配置へ入ります」

 

蓮「二分半でやれ」

 

VSK「では、二分で」

 

 VSKがわずかに笑い、階段へ消える。

 

ブレン「副隊長の扱いが分かってきたようだな」

 

蓮「張り合うところを間違えてるだけだ」

 

G3「小隊長に似たのでは?」

 

蓮「それは本人の前で言うなよ」

 

VSK『聞こえています』

 

 通信回線に、静かな声が入る。

 

 ブレンが喉の奥で笑った。

 

 二分後。

 

 全員が配置へ入る。

 

 蓮は圧延機の陰から制御室を確認した。

 

 防弾ガラスは割れている。

 

 室内の端末だけが、暗い工場の中で青白く光っていた。

 

蓮「NTW。外に動きは?」

 

NTW-20『なし。ただし、北壁の外側に爆薬らしい熱源が六つ。遠隔起爆装置までは見えない』

 

蓮「逃げ道を自分で作る気か」

 

G3「敵は、まだ中にいるのでしょうか」

 

蓮「いる。俺たちが席に着くのを待ってる」

 

 その瞬間。

 

 建屋中の照明が、一斉に点灯した。

 

 長く放置されていた水銀灯が、白い光と低い唸りを放つ。

 

 天井のスピーカーから拍手が流れた。

 

 一人分。

 

 ゆっくりと、馬鹿にするような拍手だった。

 

エクスキューショナー『いいねぇ。前に会った時より、少しは慎重になったじゃねぇか』

 

 忘れようのない声だった。

 

 G3の銃口が、二階の通路へ上がる。

 

 ブレンが軽機関銃の二脚を鉄材へ固定する。

 

 VSKは何も言わない。

 

 ただ、蓮の視界に表示された彼女の照準方向が、声の発信源へ向いた。

 

蓮「……お前か」

 

エクスキューショナー『何だよ、その反応。もっと喜べよ』

 

 制御室の屋根へ、大柄な人影が降り立つ。

 

 黒い衣装。

 

 肩へ担いだ巨大な刃。

 

 赤い瞳が、真っすぐ蓮を捉えている。

 

エクスキューショナー「死んだと思ってた相手が、こうして会いに来てやったんだぜ?」

 

 彼女は両腕を広げた。

 

エクスキューショナー「感動の再会だろ?」

 

蓮「見舞いの品は?」

 

エクスキューショナー「弾丸なら、好きなだけくれてやるよ」

 

 刃の根元に組み込まれた火器が、蓮へ向く。

 

蓮「返品する」

 

 銃声と同時に、蓮とG3が左右へ飛んだ。

 

 大口径弾が圧延機の外装を貫き、奥の配管を破裂させる。

 

 白い蒸気が噴き出した。

 

蓮「交戦開始! ブレン、二階の随伴機を抑えろ! G3は中央から出すな!」

 

ブレン『了解!』

 

 軽機関銃が短く、鋭く吠えた。

 

 二階通路の暗がりから姿を見せたヴェスピドが、手すりごと撃ち抜かれて落下する。

 

 続く二体は床へ伏せ、ブレンの射線から逃れた。

 

エクスキューショナー「おいおい、挨拶の途中だぜ!」

 

 エクスキューショナーが制御室の屋根を蹴る。

 

 一足で通路を越え、G3の前へ降りた。

 

 大剣が横薙ぎに走る。

 

 G3は後退しながら三点射。

 

 弾丸が胸部装甲で火花を散らす。

 

 刃はG3の銃口へ触れる寸前で軌道を変えた。

 

 乾いた銃声。

 

 VSKの一弾が、大剣を握る右手の関節へ命中していた。

 

エクスキューショナー「チッ!」

 

G3「助かりました、VSK!」

 

VSK『そのまま三歩下がってください。左は私が見ています』

 

 G3が指示どおり後退する。

 

 エクスキューショナーが追おうとした先へ、蓮が二発撃ち込んだ。

 

 倒すための射撃ではない。

 

 右へ進ませないための射撃。

 

 彼女は刃を盾にし、左側の搬送路へ跳ぶ。

 

 そこへブレンの射線が重なった。

 

 エクスキューショナーの足が初めて止まる。

 

エクスキューショナー「へぇ……」

 

 赤い瞳が、工場内に散った四人を順に見る。

 

エクスキューショナー「前は一人で突っ込んできたくせに、今日は随分と後ろが賑やかじゃねぇか」

 

蓮「就職したんでね」

 

エクスキューショナー「そいつら、足手まといじゃねぇの?」

 

VSK『訂正してください』

 

 VSKの二発目が、エクスキューショナーの頬を掠める。

 

 黒い髪が数本、宙を舞った。

 

エクスキューショナー「怖ぇ副官だな!」

 

蓮「俺も今知った」

 

VSK『ボスも訂正してください』

 

蓮「戦闘中だぞ」

 

VSK『ですから、短くお願いしています』

 

 エクスキューショナーが笑った。

 

 その笑いと同時に、圧延機の下から低い駆動音が響く。

 

 伏せていた小型のダイナーゲートが、一斉に飛び出した。

 

 六体。

 

 蓮とG3の足元を狙い、左右から接近する。

 

蓮「G3、下がるな! 正面二!」

 

G3「了解!」

 

 G3が正面の二体を撃ち倒す。

 

 蓮は右から来た一体を短い連射で止め、足元へ滑り込んだ別の一体を蹴り返した。

 

 胸部の傷は痛まない。

 

 左脚も、体重を受け止める。

 

 蹴り返されたダイナーゲートを、ブレンの一弾が空中で砕いた。

 

 残る二体が機械の裏へ回る。

 

VSK『左奥へ二体。G3、床の溝を越えてきます』

 

G3「見えました!」

 

 G3が冷却溝の縁へ銃口を向ける。

 

 姿を出した二体が、順に撃ち抜かれた。

 

エクスキューショナー「動けるじゃねぇか、人間。あれだけ穴を開けられて、もう治ったのか?」

 

蓮「おかげさまでな。次は請求書を送る」

 

エクスキューショナー「送り先を教えた覚えはねぇよ!」

 

 彼女が床を蹴り、圧延機の上へ跳ぶ。

 

 同時に、大剣の火器がVSKのいる二階通路へ向いた。

 

蓮「VSK、伏せろ!」

 

 轟音。

 

 弾丸は手すりを粉砕し、鋼材の破片を撒き散らした。

 

 VSKの位置表示が、射線から素早く離れる。

 

 無事だ。

 

 だが、エクスキューショナーは射撃の反動まで利用して向きを変え、蓮へ飛び降りてきた。

 

 大剣が振り下ろされる。

 

 蓮は後ろへ逃げず、半歩だけ前へ出た。

 

 刃が最も速くなる外側を避け、柄に近い位置へ潜り込む。

 

 小銃を斜めに構え、剣を受け流す。

 

 衝撃で両腕が痺れた。

 

 長く組み合えば、力で押し切られる。

 

蓮「G3!」

 

G3「はい!」

 

 G3の銃床が、エクスキューショナーの脇腹を打つ。

 

 蓮は同時に足を払い、二人で彼女の姿勢を崩した。

 

 一瞬だけ膝が落ちる。

 

 そこへ撃ち込まず、蓮とG3は左右へ離れた。

 

 直後、エクスキューショナーが大剣を一回転させる。

 

 残っていれば、二人とも胴を裂かれていた。

 

エクスキューショナー「いい連携じゃねぇか!」

 

G3「褒められても嬉しくありません!」

 

エクスキューショナー「そりゃ残念!」

 

 頭上から銃声が二つ重なる。

 

 VSKが右肩。

 

 ブレンが左脚。

 

 エクスキューショナーは大剣を床へ突き立て、その陰へ身体を滑らせた。

 

 跳弾が白い火花を散らす。

 

蓮「ブレン、弾を使いすぎるな。随伴機は?」

 

ブレン『二階に残り四。西側から下へ回ろうとしている』

 

蓮「二十秒だけ止めろ。その後、南の階段まで後退」

 

ブレン『分かった』

 

蓮「VSK、制御室へ入れるか?」

 

VSK『北側の連絡橋から行けます。ただし、ボスたちへの射線が切れます』

 

蓮「信号源を回収しろ。こいつの目的は俺だ」

 

VSK『一人にするなと命令されています』

 

蓮「一人じゃない。G3がいる。ブレンも二十秒で来る」

 

 わずかな間。

 

VSK『……了解。四十秒で戻ります』

 

蓮「三十秒でやれ」

 

VSK『では、二十五秒で』

 

 VSKの位置表示が、制御室へ向かって動き出す。

 

 エクスキューショナーが大剣の陰から顔を出した。

 

エクスキューショナー「自分を餌にして、女を目的地へ走らせるか。相変わらず性格が悪ぃな」

 

蓮「招待状を死骸で作る奴に言われたくない」

 

エクスキューショナー「あれ、分かりやすかっただろ?」

 

蓮「ああ。お前にしては親切だった」

 

 エクスキューショナーの笑みが、僅かに深くなる。

 

 その反応で、蓮は確信した。

 

 これは、グリフィンの部隊を壊滅させるための待ち伏せではない。

 

 本気で殺すなら、工場へ入った時点で北壁の爆薬を起爆すればよかった。

 

 退路を断ち、射界の狭い通路へ追い込むこともできた。

 

 だが、彼女は姿を見せ、言葉を交わし、正面から斬りかかってきた。

 

 随伴機も少ない。

 

 火力も足りない。

 

蓮「お前、俺を見に来たな」

 

 エクスキューショナーの動きが止まる。

 

蓮「俺が生きてるか。まだ戦えるか。前と同じように、一人でお前へ向かってくるか。それを確かめに来た」

 

エクスキューショナー「自意識過剰じゃねぇか?」

 

蓮「なら、何で俺の傷を知ってる」

 

 返事の代わりに、大剣が動いた。

 

 エクスキューショナーが床を蹴る。

 

蓮「G3、右へ追い込め!」

 

 蓮とG3が同時に射撃する。

 

 狙うのは頭部でも胸部でもない。

 

 左側の床と、背後の機械。

 

 弾道で進路を限定し、東側の搬送ローラーへ向かわせる。

 

 エクスキューショナーは銃弾を刃で逸らしながら、二人の間へ突っ込もうとした。

 

 そこへブレンが戻る。

 

ブレン「二十秒だ!」

 

 横から加わった制圧射撃が、彼女の進路を塞ぐ。

 

 三方向からの射線。

 

 エクスキューショナーは身を低くし、搬送ローラーの陰へ飛び込んだ。

 

 蓮が小銃の照準器で黄色い支柱を捉え、共有視界へ目標印を送る。

 

蓮「NTW、北壁じゃない! 天井クレーンの左レール、今送った黄色い支柱を撃て!」

 

NTW-20『彼女の八メートル前ね』

 

蓮「そうだ。逃げ道を塞げ!」

 

NTW-20『了解』

 

 工場の外から、重い銃声が響いた。

 

 対物弾が薄い外壁を貫き、天井クレーンを支える接合部へ命中する。

 

 黄色い支柱が折れた。

 

 傾いたレールから、停止していたクレーンの台車が滑り出す。

 

 何十トンもの鋼鉄が、耳を刺す摩擦音とともに落下した。

 

エクスキューショナー「なっ――!」

 

 床が揺れる。

 

 落ちた台車が搬送路を塞ぎ、エクスキューショナーと北壁の間へ巨大な障害物を作った。

 

 彼女が初めて、明確に退路を失う。

 

蓮「G3は左! ブレン、随伴機を下ろすな! VSK、状況は!」

 

VSK『信号源を確保。小型中継器です。記録領域も残っています』

 

蓮「持って出ろ! 南口へ後退する!」

 

エクスキューショナー「もう帰るのかよ!」

 

 倒れた台車の向こうから、大剣が鋼板へ叩きつけられる。

 

 一撃で鋼板が歪む。

 

 二撃目で亀裂が走った。

 

 足止めできる時間は長くない。

 

蓮「欲しい物は取った。お前と遊ぶのは任務じゃない」

 

エクスキューショナー「つれねぇな、人間!」

 

蓮「部下ができたんでね。帰る時間を守らないと怒られる」

 

VSK『すでに三分超過しています』

 

蓮「ほらな」

 

 VSKが制御室から飛び出す。

 

 手のひらほどの中継器を胸元の収納具へ押し込み、SV-98を肩へ当てる。

 

 二階の随伴機を撃ち、ブレンの上から回ろうとした一体を落とした。

 

 小隊は南側の階段へ向けて、順に後退を始める。

 

 G3が先頭。

 

 中継器を持つVSKが続く。

 

 蓮とブレンが交互に射撃し、最後尾を守る。

 

 その時、NTW-20の声が鋭くなった。

 

NTW-20『北壁の熱源が変化。起爆信号!』

 

蓮「全員、伏せろ!」

 

 六つの爆薬が連続して炸裂した。

 

 北壁が外側へ吹き飛ぶ。

 

 爆風が工場内を駆け抜け、錆と粉塵とガラス片を巻き上げた。

 

 蓮は床へ伏せ、片腕で頭を覆う。

 

 重い破片がすぐ横へ落ちた。

 

 耳鳴りの中で、さらに金属が砕ける音がする。

 

 爆破でクレーン台車の下に生じた隙間を、エクスキューショナーが大剣でこじ開けたのだ。

 

 崩れた北壁の向こうへ、彼女の姿が見える。

 

 頬の人工皮膚は裂け、右腕の装甲も損傷していた。

 

 それでも、赤い瞳は楽しそうに輝いている。

 

エクスキューショナー「今日はここまでだ!」

 

 彼女が瓦礫の上へ立ち、大剣を肩へ戻す。

 

エクスキューショナー「次は、もっと二人きりになれる場所を選んでやるよ!」

 

蓮「断る。予約は副官を通せ」

 

VSK「すべてお断りします」

 

エクスキューショナー「ハハッ! やっぱり怖ぇな、その女!」

 

 北側の配管群から煙幕が噴き出した。

 

 NTW-20が一発撃つ。

 

 だが、対物弾は配管を砕いただけだった。

 

 エクスキューショナーの識別信号が、煙の中を高速で北へ離れていく。

 

NTW-20『追撃できる』

 

 蓮は一秒だけ考えた。

 

 追えば、射程には収められる。

 

 だが、北側にはまだ爆薬が残っている可能性がある。

 

 敵の増援も確認できていない。

 

 こちらは目的物を確保した。

 

蓮「撃つな。任務終了だ。全員、南口へ」

 

NTW-20『……了解』

 

 対物銃の照準表示が下がる。

 

 誰も異議を唱えなかった。

 

     ◇

 

 旧ベルカ工業区から北へ十八キロメートル。

 

 廃棄された冷蔵倉庫の地下に、レッドカンパニーの前進指揮所が置かれていた。

 

 入口に社章はない。

 

 地上へ停められた車両からも、所属を示す塗装は消されている。

 

 倉庫の奥では、負傷者を乗せたトラックが一両ずつ別方向へ出発していた。

 

 弾薬箱は民間企業の工具箱へ詰め替えられ、軍服と腕章はドラム缶の中で燃えている。

 

 S09基地を正面から襲った部隊の面影は、もうどこにもなかった。

 

 作戦卓の上には、放棄が決まった補給所と、連絡の途絶えた小隊を示す札が並んでいる。

 

 キングは、その札を一つずつ裏返していた。

 

クイーン13「南東補給所の撤収が完了。残存車両は四両。負傷者は三か所の民間診療所へ分散させました」

 

キング「診療所同士を連絡させるな。治療費は別々の名義で払え」

 

クイーン13「地域本部から、S09への報復計画を提出するよう催促されています」

 

キング「却下だ」

 

 キングは迷わなかった。

 

キング「我々は二個分遣隊の過半数と、車両、重火器、共同通信網を失った。連絡将校と監視兵は捕虜。何より、グリフィンがどこまで証拠を解析したか分からん」

 

クイーン13「だからこそ、証拠を処分しろと」

 

キング「今S09へ手を伸ばせば、残った腕まで掴まれる」

 

 作戦卓から、大部隊を示す札が消える。

 

 代わりにキングが置いたのは、番号だけを記した小さな札だった。

 

キング「中隊編成を解く。六名以下の班へ分けろ。班同士の直接通信は禁止。運送会社、警備会社、解体業者に偽装し、次の命令までは監視と輸送路の再構築に徹する」

 

クイーン13「レッドカンパニーは、撤退するのですか?」

 

キング「姿を消すだけだ」

 

 キングが最後の大きな札を裏返す。

 

キング「旗が見えなければ、敵は勝ったと思う。勝ったと思わせている間に、こちらは失った目と耳を作り直す」

 

 S09の敗北で、レッドカンパニーの現地戦力は折れた。

 

 だが、組織そのものが消えたわけではない。

 

 正面から基地を襲う軍隊の形を捨て、地域へ潜る工作組織へ戻ろうとしている。

 

 その時、壁際の通信端末が警告音を鳴らした。

 

 鉄血との共同回線。

 

 S09襲撃の失敗以降、ほとんど使われなくなった回線だった。

 

 クイーン13が接続すると、荒れた映像の中にエクスキューショナーの顔が映る。

 

 頬の人工皮膚が裂け、右腕の装甲には新しい弾痕が残っていた。

 

エクスキューショナー『よう。そっちは相変わらず、引っ越しで忙しそうだな』

 

キング「おかげさまでね。こちらが提供した工業区の監視周波数は役に立ったようだな。中継器と、連れていった随伴戦闘人形九体は?」

 

エクスキューショナー『中継器はあいつらが持って帰った。二体は北へ戻したが、残りは壊されたよ』

 

クイーン13「記録領域には、鉄血部隊の移動情報が残っています」

 

キング「七十二時間前までの情報だ。記録された三個小隊は、すでに指定区域を通過している。現在位置へは繋がらん」

 

エクスキューショナー『餌に本物を少し混ぜる。お前が言った通り、食いつきは良かったぜ』

 

キング「食いついたのは何人だ?」

 

エクスキューショナー『例の人間と、人形が四体。狙撃手が二体、前衛が一体、機関銃手が一体だ』

 

 クイーン13が情報を記録する。

 

 部隊規模。

 

 火力構成。

 

 現場到着までの時間。

 

 誰が命令し、誰がそれへ従うのか。

 

 エクスキューショナーが個人的な興味で始めた狩りを、キングはグリフィンの新部隊を測る偵察へ変えていた。

 

キング「渡邉蓮は?」

 

エクスキューショナー『生きてたよ。傷も治ってやがった』

 

キング「戦い方は?」

 

 エクスキューショナーの笑みが深くなる。

 

エクスキューショナー『前より面白くなった。一人で斬り込まず、あたしの逃げ道まで部下に潰させやがった』

 

キング「それは、こちらにとっては面白くないな」

 

エクスキューショナー『知るかよ』

 

 キングは机上の地域図へ目を落とす。

 

 鉄血の主力を示す青い札は、すべて北側へ移されていた。

 

 S09襲撃から撤退する時、鉄血は共同回線を一方的に切り、残されたレッドカンパニーの部隊へ退路さえ伝えなかった。

 

キング「一つ確認しておこう。鉄血は、今後も我々との協力を続けるのか?」

 

エクスキューショナー『そいつは、あんたらがまだ使えるか次第だろ』

 

クイーン13「私たちを置いて撤退したことは、協力と呼べません」

 

エクスキューショナー『目的の捕虜と証拠を奪い返せなくなった時点で、あの作戦は終わりだ。あんたらの失敗に、こっちの主力まで付き合わせる理由はねぇよ』

 

キング「裏切ったつもりはない、と?」

 

エクスキューショナー『最初から仲間になった覚えもねぇ』

 

 鉄血とレッドカンパニーを結んでいるものは、友情でも忠誠でもない。

 

 情報。

 

 物資。

 

 互いの敵を排除するための戦力。

 

 それぞれが、相手を利用できる間だけ続く関係だった。

 

キング「結構。なら、こちらも同じ基準で判断しよう」

 

エクスキューショナー『話が早くて助かるぜ』

 

キング「次に彼を誘い出す時は、事前に知らせてくれ。今回の観測記録は有益だった」

 

エクスキューショナー『次は邪魔すんな。あいつとは、もっと近くでやり合う』

 

キング「善処しよう」

 

エクスキューショナー『信用できねぇ返事だな』

 

キング「お互い様だ」

 

 エクスキューショナーが笑い、通信を切る。

 

 暗くなった画面へ、キングとクイーン13の姿が映った。

 

クイーン13「鉄血を、まだ使うのですか?」

 

キング「信用はしない。だが、グリフィンへ同時に二つの敵を見せられる」

 

 キングは、S09基地と旧ベルカ工業区の間へ新しい札を置いた。

 

キング「我々が立て直すまで、あの怪物たちには目立ってもらおう」

 

 通信が切れてから、十秒も経たなかった。

 

 作戦卓の反対側に置かれた黒い端末が、低い警告音を三度鳴らす。

 

 鉄血との共同回線ではない。

 

 レッドカンパニー本社と地域本部だけが使用する、最高優先度の秘匿回線だった。

 

 地下指揮所の奥から、一人の要員が足早に入ってくる。

 

 暗号通信と作戦記録の管理を任されているポーン01。

 

 手には、携帯端末と封印された記録媒体が握られていた。

 

ポーン01「本社から緊急通達です。地域本部作戦部、社長室、それから復興事業を管轄する議員事務所。三者の要求が一つの命令書へまとめられています」

 

クイーン13「政治家が作戦命令へ口を出すのですか?」

 

ポーン01「S09で押収された資料に、自分たちへ繋がる契約番号が含まれている可能性があるそうです」

 

 キングは端末へ手を伸ばした。

 

 認証を済ませると、最初に地域本部作戦部の命令が表示される。

 

 現地戦力の再編を中止。

 

 九十六時間以内にS09基地へ潜入し、拘束された連絡将校および監視要員を奪還。

 

 奪還不能の場合は、捕虜が保持する情報ごと抹消。

 

 押収された文書、記録媒体、複製データも、所在を問わず完全に破棄すること。

 

 こちらの残存兵力も、S09の警備態勢も考慮されていない。

 

クイーン13「部隊を立て直す時間さえ与えず、もう一度S09へ入れと?」

 

キング「成功を求めている命令ではない」

 

 次に表示されたのは、ある議員の秘書を名乗る人物からの音声記録だった。

 

議員秘書『我々とレッドカンパニーの関係を示す資料が公になれば、多くの復興事業が止まります。議会だけの問題ではありません。現地で働く人々の生活にも関わるのです』

 

 穏やかな口調だった。

 

 だが、その直後に続いた要求は明瞭だった。

 

議員秘書『捕虜も資料も残さないでください。費用については、これまでどおり処理します』

 

 自分たちの署名を消すために、人間を帳簿の一項目と同じように消せと言っている。

 

 キングは何も答えず、最後の映像記録を開いた。

 

 レッドカンパニーの社長が、広い執務室の机に座っていた。

 

 背後には社旗。

 

 机上には、S09襲撃以前に送られた作戦計画書が置かれている。

 

社長『キング。君には失望したよ』

 

 挨拶も、損害への言及もなかった。

 

社長『君を現地指揮官に置いたのは、結果を出せる人間だと思っていたからだ。ところが君は二個分遣隊を失い、捕虜と証拠を敵へ渡し、鉄血との共同作戦まで崩壊させた』

 

キング「作戦中止を決めたのは鉄血です。本部から約束された増援も到着しなかった」

 

 記録映像へ返事は届かない。

 

 それでもキングは、映像の中の男へ事実を告げた。

 

社長『言い訳を聞くつもりはない。捕虜と資料を消せ。君なら、責任の取り方くらい分かるはずだ』

 

 一拍置いて、社長の視線が僅かに動く。

 

社長『クイーン13とポーン01にも、本社から事情を聞く。任務が終わり次第、三名揃って出頭したまえ』

 

 映像はそこで終わった。

 

 地下指揮所に、発電機の振動だけが残る。

 

クイーン13「事情聴取……ですか」

 

キング「そう呼んでいるだけだ」

 

ポーン01「本社から迎えの部隊が出ています。護送部門ではなく、内部保安部の第六処理班です」

 

 クイーン13の表情が変わる。

 

 第六処理班。

 

 契約違反者、離脱者、会社に損害を与えた者を処分するための部隊だった。

 

クイーン13「私たちを帰還させるつもりはないのですね」

 

キング「捕虜を殺し、証拠を消し、事情を知る現地指揮官も消す。そうすれば、S09で何が起きたか説明できる人間はいなくなる」

 

ポーン01「命令に従っても、従わなくても、結末は同じです」

 

キング「そのようだな」

 

 キングは、作戦卓に残っていた三枚の大きな札を見た。

 

 キング。

 

 クイーン。

 

 そして、ポーン。

 

 会社の命令系統では、すべて交換可能な駒にすぎない。

 

 だが、盤上から捨てられると分かっていながら、最後まで命令どおりに動く理由はなかった。

 

キング「ポーン01。S09基地の指揮官について調べろ」

 

ポーン01「ドブルイニャ・ハル。今回の捕虜と押収資料を管理している人物です」

 

キング「性格ではない。権限を知りたい。捕虜の処遇、証拠の管理、外部との交渉。その人物が自分の判断で、どこまで動かせるのかを調べろ」

 

クイーン13「接触するつもりですか?」

 

 キングは、すぐには答えなかった。

 

 本社から届いた命令書を閉じ、代わりにS09基地の配置図を表示する。

 

 赤い目標としてではない。

 

 まだ名前の付いていない、一つの出口として。

 

キング「まず、話を聞く価値のある指揮官か確かめる」

 

ポーン01「回線の準備は?」

 

キング「追跡されない一度限りのものを用意しろ。こちらの居場所も、三人の名前も、まだ明かすな」

 

ポーン01「了解しました」

 

 ポーン01が端末を抱え、通信区画へ戻っていく。

 

 クイーン13はその背中を見送り、声を落とした。

 

クイーン13「キング。これは会社への背反です」

 

キング「違う」

 

 キングは、社長の映像が残る記録媒体を端末から抜いた。

 

キング「会社が先に、我々を切り捨てた」

 

 レッドカンパニーは傷つき、地下へ潜った。

 

 鉄血は主力を温存し、北へ退いた。

 

 両者の間に信頼はない。

 

 それでも、共通の敵がいる限り、切れかけた糸はまだ繋がっていた。

 

     ◇

 

 工業区南側、旧管理棟。

 

 小隊は周囲の安全を確認したあと、回収した中継器を簡易解析装置へ接続した。

 

 中継器には、鉄血の短距離通信記録と複数の移動座標が残っていた。

 

 大部分は消去されている。

 

 だが、直近七十二時間の記録だけは復元できた。

 

VSK「北東へ移動する鉄血部隊が三つ。いずれも小隊規模です」

 

G3「この工業区へ集結していた部隊ではありませんね。通過記録だけです」

 

VSK「記録が古いため、現在位置の特定には使えません。ただし、部隊識別番号と移動経路は残っています。ハル指揮官の情報と照合できます」

 

蓮「十分だ。餌を食わせたつもりで、歯形まで残したな」

 

ブレン「なら、あいつは部隊から外れて一人で待っていたのか」

 

NTW-20「随伴機は九体。上級人形の護衛としては少なすぎる。蓮の推測どおり、私たちを壊滅させる編成ではなかったのでしょう」

 

 VSKが別の記録を開く。

 

 暗号化された通信先。

 

 送信されたのは、S09基地襲撃の二日後から始まる捜索命令だった。

 

 対象名は記載されていない。

 

 代わりに、破損した監視映像から切り出した一枚の画像が添付されている。

 

 炎上するS09基地。

 

 瓦礫の間を、VSKに肩を貸されて歩く蓮の姿。

 

G3「本当に、小隊長を捜していたのですね」

 

蓮「人気者になった覚えはないんだがな」

 

ブレン「お前の知り合いは、全員爆薬を持って挨拶に来るのか?」

 

蓮「失礼な。まともな知り合いもいる」

 

NTW-20「誰?」

 

蓮「……今すぐ名前が出てこないだけだ」

 

G3「いないのでは?」

 

蓮「兄弟はまともだ。多分」

 

VSK「最後に『多分』が付きました」

 

 戦闘の緊張が、少しだけ緩む。

 

 蓮は壁へ背を預けず、自分の足で立ったまま全員を見る。

 

 G3の左腕に浅い切断痕。

 

 ブレンの外装に跳弾の跡。

 

 VSKの頬には、手すりの破片で付いた細い傷。

 

 NTW-20は無傷。

 

 全員、行動に支障はない。

 

蓮「負傷報告」

 

G3「左腕外装に軽微な損傷。自己修復で対応できます」

 

ブレン「問題なし」

 

NTW-20「異常なし」

 

VSK「軽傷です」

 

 VSKが答えたあと、蓮の左脚へ目を向ける。

 

VSK「ボスは?」

 

蓮「異常なし。痛みもない」

 

VSK「虚偽報告では?」

 

蓮「今回は本当だ」

 

 VSKは歩き方と呼吸を数秒観察し、ようやく頷いた。

 

VSK「確認しました」

 

蓮「俺の報告だけ監査が厳しくないか?」

 

ブレン「信用は積み重ねだ、小隊長」

 

NTW-20「まだ初任務よ」

 

G3「これから頑張りましょう」

 

蓮「部下から更生を勧められてる気分だ」

 

 通信端末が鳴る。

 

 S09基地との暗号回線が回復していた。

 

ハル『こちらS09。状況を報告して』

 

蓮「鉄血上級人形一体と交戦。敵は北へ離脱。追撃はしていない。信号源を確保し、敵三個小隊の移動記録を回収した」

 

ハル『味方の損害は?』

 

蓮「軽傷二。全員、自力で帰れる」

 

 回線の向こうで、ハルが息を吐く。

 

ハル『了解。任務成功です。帰投してください』

 

蓮「了解」

 

ハル『それと、その上級人形は?』

 

 蓮は、崩れた工場の北側を見る。

 

 もう識別信号は捉えられない。

 

 残っているのは、爆発で立ち上った黒煙だけだった。

 

蓮「以前に会ったことがある。エクスキューショナーだ」

 

 回線が一瞬、静かになる。

 

ハル『……感動の再会だった?』

 

蓮「銃声と爆風がなければ、もう少し感動できたかもしれん」

 

VSK「見舞いの品が弾丸でした」

 

ハル『それは返品して正解だね』

 

蓮「ああ。受取拒否しておいた」

 

 通信を終え、小隊は装甲輸送車へ向かう。

 

 先頭を歩くG3が周囲を警戒する。

 

 ブレンは回収した中継器を保持し、NTW-20は遠くのクレーンから合流地点へ下りてくる。

 

 VSKは蓮の半歩後ろ。

 

 誰も、蓮の前へ出すぎない。

 

 誰も、後ろへ置いていかれない。

 

 以前の蓮なら、エクスキューショナーを追っていたかもしれない。

 

 敵の意図を暴くため。

 

 次の脅威を残さないため。

 

 あるいは、自分一人なら失っても構わないという、間違った計算のために。

 

 だが、今は違う。

 

 帰るべき場所がある。

 

 帰すべき部下がいる。

 

 蓮は前を歩く四人を見て、89式小銃の負い紐を直した。

 

VSK「どうしましたか、ボス?」

 

蓮「いや。初任務にしちゃ、随分派手だったと思ってな」

 

VSK「次は静かな任務を希望しますか?」

 

蓮「そうだな。銃声も爆発もなく、時間どおり帰れる奴がいい」

 

NTW-20『その条件なら、書類整理ね』

 

 離れた場所から通信を聞いていたNTW-20が、即座に答えた。

 

蓮「……次も現場で頼む」

 

 四人の笑い声が、短く回線へ重なった。

 

 感動には、ほど遠い再会だった。

 

 それでも、あの銃声と爆風の中で、蓮は一つだけ確かめていた。

 

 エクスキューショナーは、まだ自分を狙っている。

 

 そして次に会う時も、自分はもう一人ではない。




はい。

感動の再会だぁ

後、自分は416が好きです(突然のカミングアウト)

次回はまぁ…ラスボスでも出そうかな

取りあえずコメントが欲しいですはい。

お気に入りもお願いします。

※2026年8月31日リメイク完了

ヒロイン

  • 416
  • VSK-94
  • 大鳳A
  • 蒼龍C
  • 雷電
  • スカイレイダー
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