陸自はドールズフロントライン、海自は艦これとアズールレーン、空自はアッシュアームズ三つの世界でバラバラになりながらでも生き残る   作:ゴーストライターとかした、素人小説書き

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この小説は四つのクロスオーバーが含まれています。

艦これ·アズールレーン·ドールズフロントライン·アッシュアームズ

大丈夫な方は楽しんで見ていってね!


第17話 初めまして親愛なる指揮官様

第17話 初めまして親愛なる指揮官様

 

 旧ベルカ工業区から臨時特別小隊が帰投して、五十二分後。

 

 回収された鉄血の通信中継器は、S09基地地下の電子解析室へ運び込まれていた。

 

 厚い防護扉の内側。

 

 電波を遮断する金属製の検査箱へ中継器を収め、外部回線から切り離した解析端末だけを接続している。

 

 端末の前に座るUMP45が、復元された通信記録を一つずつ確認していた。

 

 その隣ではG11が椅子の背へ身体を預け、半分閉じた目で数字の羅列を追っている。

 

G11「七十二時間前までの移動記録……識別番号……鉄血の定時通信……あとは、ほとんど壊れてる」

 

UMP45「壊れているというより、意図的に消されているわね。私たちへ渡しても困らない部分だけ残したみたい」

 

G11「餌?」

 

UMP45「ええ。少しだけ本物を混ぜた、食いつきのいい餌」

 

 解析室の後方には、ドブルイニャ・ハルが立っていた。

 

 帰投報告を終えた蓮とVSKも残っている。

 

 蓮の装具には工業区の粉塵が付き、VSKの頬には細い切創を覆う保護材が貼られていた。

 

ハル「現在位置の特定には使えない。でも、鉄血が北へ戦力を移していることは確認できた。回収した価値は十分にあるね」

 

蓮「向こうも、それを承知で持ち帰らせた」

 

ハル「私たちの反応を見るために?」

 

蓮「ああ。エクスキューショナーだけじゃない。別の誰かが、あの工業区を使って俺たちの人数と動きを調べていた」

 

UMP45「たぶん、その誰かさんから置き土産があるわよ」

 

 UMP45が、画面の隅に表示された小さな異常値を指した。

 

 記録領域の末尾。

 

 通常の解析では表示されない未割当区画が、一定の間隔で容量を変化させている。

 

G11「さっきまで、なかった」

 

UMP45「外から書き換えられたのよ。この検査箱は電波を遮断しているけど、完全じゃない。極端に弱い信号を、こちらの端末が拾ってる」

 

VSK「発信位置は?」

 

UMP45「無理。短い信号を複数の民間中継局へ反射させている。追跡を始める頃には送信を終えてるわ」

 

蓮「切れるか?」

 

UMP45「いつでも。でも、宛名を見てからでも遅くないと思う」

 

 UMP45が未割当区画を、文字列として表示する。

 

 画面中央に、一行だけ文章が現れた。

 

『ドブルイニャ・ハル指揮官との対話を希望する』

 

 解析室の空気が変わった。

 

 VSKが小銃の負い紐へ指を掛ける。

 

 蓮は画面ではなく、通信中継器そのものへ目を向けた。

 

ハル「私の名前を知っているんだ」

 

UMP45「捕虜の尋問記録か、基地内部の通信を拾ったか。どちらにしても、いい気分ではないわね」

 

G11「返事、するの?」

 

 ハルは、表示された一行を見た。

 

 相手は自分の素性を明かしていない。

 

 通信経路も隠している。

 

 対話を求めながら、こちらにだけ危険を負わせる接触だった。

 

ハル「相手の身元を確認できる?」

 

UMP45「こちらから質問を一つ送れる。返答が正しければ、少なくともレッドカンパニーの内部情報へ触れられる人物だと分かる」

 

ハル「では、S09襲撃時に使われた共同通信網の管理責任者を聞いて」

 

 UMP45が短い質問を入力する。

 

 送信。

 

 十七秒後、未割当区画が再び変化した。

 

『管理責任者はクイーン13。暗号表の作成および更新はポーン01。最終承認者はキング』

 

 続けて、新しい文章が表示される。

 

『初めまして、ドブルイニャ・ハル指揮官。ようやくお話しできますね――親愛なる指揮官様』

 

蓮「キングか」

 

ハル「知っているの?」

 

蓮「市役所で捕虜を管理していたレッドカンパニーの現地指揮官だ。直接顔を合わせてはいないが、回収した書類に名前が残っていた」

 

VSK「信用できる相手ではありません」

 

ハル「うん。だから、何を差し出せば信用されると考えているのか聞いてみよう」

 

 UMP45がハルを見る。

 

UMP45「音声回線を開くなら、最大で三分。逆探知を防ぐため、こちらからも複数の中継局を使う。途中で不審な通信が入ったら、私の判断で切るわよ」

 

ハル「任せます」

 

 G11が眠そうな目を擦りながら、別の端末へ向き直る。

 

G11「侵入監視、こっちで見る」

 

蓮「俺たちは?」

 

ハル「ここにいて。相手がキングなら、蓮さんについて話す可能性がある」

 

VSK「ボスを交渉材料にした場合は?」

 

ハル「その時は、私が断るよ」

 

 短い言葉だった。

 

 VSKはハルの横顔を見たあと、負い紐から手を離した。

 

 UMP45が回線を開く。

 

 雑音。

 

 複数の中継局を経由した遅延のあと、落ち着いた男の声が届いた。

 

キング『改めまして、初めまして。キングと申します』

 

ハル「ドブルイニャ・ハルです。あなたのことは、部下と押収資料から聞いています」

 

キング『あまり良い紹介ではなさそうですね』

 

ハル「基地を襲った部隊の指揮官について、良い話を聞く機会は少ないからね」

 

 回線の向こうで、キングが僅かに息を吐いた。

 

キング『もっともです。では、時間がありませんので本題へ入りましょう。こちらは、あなた方が拘束している捕虜と、押収した情報の抹消を求めます』

 

 蓮の目が細くなる。

 

 VSKの表情から、僅かに残っていた柔らかさが消えた。

 

ハル「捕虜を殺せという意味なら、交渉はここで終わりです」

 

キング『いいえ』

 

 キングは即座に否定した。

 

キング『彼らを死者にしていただきたい。書類の上でだけ』

 

 ハルは答えなかった。

 

キング『レッドカンパニー本社は、捕虜となった連絡将校と監視要員の抹消を命じました。奪還できなければ殺害し、押収資料と複製データを破棄しろと』

 

ハル「それは、こちらでも予測していました」

 

キング『命令を受けたのは私です。そして任務終了後、私、クイーン13、ポーン01も本社へ出頭するよう命じられた』

 

蓮「事情聴取か?」

 

キング『表向きは』

 

 蓮の声が入っても、キングは驚かなかった。

 

キング『渡邉蓮。やはり、そこにいましたか』

 

蓮「俺の話は後だ。続きを話せ」

 

キング『本社が迎えとして寄越したのは、内部保安部の処理班です。我々も捕虜も、最初から生かして帰すつもりはないのでしょう』

 

ハル「だからグリフィンへ逃げ込みたい?」

 

キング『端的に申し上げれば』

 

ハル「その代わりに、捕虜の記録とあなたたちに関する情報を消してほしい」

 

キング『外部から確認できる記録だけです。あなた方が内部で証拠を保管することには異議を申しません。ただし、レッドカンパニーと議員事務所には、捕虜も我々三名も死亡したと信じさせる必要がある』

 

ハル「情報を渡す代わりに、すべての罪をなかったことにしてほしい、という要求には応じられません」

 

キング『無罪にしてほしいとは言っていません』

 

ハル「では、こちらの条件を先に伝えます」

 

 ハルは机へ両手を置いた。

 

ハル「捕虜は殺さない。解放もしない。全員を個別に審査し、犯罪行為へ関与した者は相応の手続きに掛けます。証拠も破棄しない。原本と複製を保全し、必要なら上級司令部へ提出します」

 

キング『厳しいですね』

 

ハル「あなたの部下が私の基地を襲ったことを、忘れたふりはできないからね」

 

 声は穏やかだった。

 

 だが、一つも譲ってはいなかった。

 

ハル「その代わり、捕虜の生存と収容場所を外部へ漏らしません。協力する意思があり、重大犯罪へ関与していない者には、保護と新しい身分を与えられるよう上へ掛け合います。あなたたち三人についても同じです」

 

キング『我々を信用すると?』

 

ハル「いいえ。まだ全く」

 

 キングが黙る。

 

ハル「信用は、取引を始めるための条件ではありません。これから何をするか、その積み重ねで決めます」

 

 UMP45が指を三本立てた。

 

 残り三十秒。

 

キング『こちらが提供できるものは、レッドカンパニーの暗号鍵、隠し拠点、資金経路、契約記録。復興事業を仲介した政治家と企業の一覧。鉄血との交信記録。そして、現在も周辺地域へ潜伏している各班への停止命令です』

 

ハル「確認用の情報を一つ送ってください」

 

キング『本社の第六処理班が、装甲車二両と民間車両一両で南下中です。明朝四時までに旧ベルカ工業区へ到着する。車両番号と移動経路を送ります』

 

 G11の端末へ、暗号化された小さなデータが届く。

 

UMP45「時間よ」

 

ハル「最後に一つ。どうして、直接話す必要があるのですか?」

 

キング『この回線は、次の接続で本社に気づかれます。亡命の条件と、持ち出す情報の範囲を決めるには短すぎる』

 

ハル「対面を希望すると?」

 

キング『ええ。もちろん、武器を置いて伺います』

 

 ハルは数秒だけ考えた。

 

ハル「一時間後、旧国境貨物線の第七検査所。あなたたち三人だけで来てください。接近経路はこちらから指定します」

 

VSK「指揮官」

 

 VSKが制止する。

 

 ハルは小さく首を横へ振った。

 

ハル「こちらの条件を一つでも破れば、交渉は中止。身柄を拘束します」

 

キング『承知しました』

 

ハル「では、一時間後に」

 

キング『お会いできることを楽しみにしています。親愛なる指揮官様』

 

 回線が切れる。

 

 未割当区画に残っていた通信プログラムが、自動的に消去された。

 

 G11が侵入監視の結果を確認する。

 

G11「外へ出た情報はない。たぶん」

 

UMP45「最後の一言が余計なのよ」

 

G11「百パーセントって言うと、あとで怒られるから」

 

 UMP45が受信した車両情報を照合する。

 

 数秒後、周辺道路を監視している無人観測器の記録に、同じ番号の装甲車が映った。

 

UMP45「処理班の情報は本物。二十三分前、南部幹線道路を北上している」

 

蓮「信用を買うために、味方の位置を売ったか」

 

ハル「もう味方ではないのかもしれない」

 

VSK「罠の可能性は残っています」

 

ハル「もちろん。だから全員で備えるよ」

 

 ハルが壁の地域図を開く。

 

 第七検査所。

 

 戦前、国境を越える貨物列車の積荷を調べていた施設で、現在は線路も電力も失われている。

 

 周囲五百メートルに高い建物は少ない。

 

 北側には乾いた排水路。

 

 南側には崩れた貨物倉庫。

 

 車両の接近経路を限定でき、遠距離からも監視しやすい。

 

ハル「NTW-20を南の給水塔。VSKは検査所東側。416は私の近接警護。蓮さんも中へ入って」

 

蓮「交渉役じゃないぞ」

 

ハル「キングはあなたを知っている。嘘をついた時、反応を見てほしいの」

 

 ハルは続けて配置を決める。

 

ハル「G3とブレンは西側の退路を確保。UMP45とG11は指揮車から通信監視。基地には警戒態勢を出します。ただし、捕虜区画へ増員を集めすぎないで。相手にこちらの動きを読まれる」

 

UMP45「ずいぶん本気で会うつもりね」

 

ハル「もし本当に残存部隊へ停止命令を出せるなら、次の戦闘を一つ減らせる。捕虜の命も守れる」

 

416「相手は、その捕虜を殺せと命じられた人間よ」

 

 解析室の入口から、HK416が入ってきた。

 

 装具を整え、すでに小銃を携えている。

 

ハル「だから、殺さない選択をするなら直接確かめたい」

 

416「あなたが前へ出る必要は?」

 

ハル「私の権限でしか約束できないことがあるからね」

 

 416は納得していなかった。

 

 だが、反対を続ける代わりに小銃の装填状態を確認する。

 

416「分かったわ。けれど、私が危険だと判断したら交渉中でもあなたを連れ出す」

 

ハル「お願いします」

 

蓮「俺もそれでいい」

 

 ハルが二人を見る。

 

ハル「二人とも、私の許可より先に決めてない?」

 

416「護衛の判断よ」

 

蓮「現場の判断だ」

 

 ほとんど同時だった。

 

 ハルは小さく息を吐く。

 

ハル「頼もしいけど、少しだけ不安になってきたよ」

 

     ◇

 

 廃冷蔵倉庫の地下。

 

 ポーン01が、最後の記録媒体を耐衝撃ケースへ収めた。

 

 レッドカンパニーの契約台帳。

 

 送金記録。

 

 偽装会社の名簿。

 

 鉄血との共同暗号表。

 

 本社から届いた捕虜と証拠の抹消命令。

 

 どれか一つでも外へ出れば、地域本部だけでは済まない。

 

 レッドカンパニーと結びついていた政治家、企業、行政官まで追及を受ける。

 

ポーン01「複製は完了しました。原本の一部もケースへ入れています」

 

クイーン13「残した端末は?」

 

ポーン01「予定どおりです。私たちが東へ逃走したように、断片的な通信記録を残しました」

 

 クイーン13は、小銃から弾倉を抜いた。

 

 薬室を確認する。

 

 抜き取った弾薬と拳銃を、床に置かれた兵器箱へ収めた。

 

クイーン13「本当に丸腰で行くのですか?」

 

キング「武器を持った三人が基地指揮官との面会を求めても、亡命ではなく襲撃と判断される」

 

クイーン13「グリフィンが約束を破れば、抵抗できません」

 

キング「その場合、武器が三丁増えたところで結果は変わらない」

 

 キングも拳銃を抜き、弾倉と一緒に箱へ置いた。

 

 腰に残したのは空のホルスターだけだった。

 

ポーン01「残存班への命令は、まだ送信していません」

 

キング「交渉が成立してからだ。今送れば、我々が本社と鉄血の両方を敵に回したことだけが先に知られる」

 

クイーン13「部下全員を連れていかなくていいのですか?」

 

キング「全員を動かせば、グリフィンは攻撃部隊と判断する。それに、彼ら自身が選ぶべきだ」

 

 キングは、裏返された部隊札を見た。

 

キング「我々が会社を捨てるからといって、全員へ同じ決断を強制することはできない。停戦に従う者、投降する者、武器を置いて故郷へ戻る者。それぞれに出口を示す」

 

ポーン01「拒否する班も出ます」

 

キング「その時は、敵として位置をグリフィンへ渡す」

 

 クイーン13がキングを見る。

 

クイーン13「迷いませんね」

 

キング「迷う時間を、社長が九十六時間に制限してくれたのでね」

 

 冗談のような口調だった。

 

 だが、誰も笑わなかった。

 

 地上の監視員から、短い報告が届く。

 

『南部道路で所属不明車両を確認。推定到着まで二時間四十分』

 

 第六処理班。

 

 予定より早い。

 

クイーン13「本社は、私たちが命令に従うか確かめるつもりさえないようです」

 

キング「期待されなくなった指揮官とは、その程度の扱いなのだろう」

 

 キングが作戦卓から、自分の札を取る。

 

 続いて、クイーン13とポーン01の札も重ねた。

 

キング「行こう。我々が駒であることに変わりはない。ならば、せめて盤を選ぶ」

 

 ポーン01が耐衝撃ケースを持ち上げる。

 

 クイーン13は兵器箱の蓋を閉じた。

 

 三人は、レッドカンパニーの社章も階級章も付けず、地下指揮所を出た。

 

     ◇

 

 旧国境貨物線、第七検査所。

 

 日没から一時間が経過していた。

 

 屋根の一部を失った検査棟へ、乾いた風が吹き込んでいる。

 

 床には二本の線路が残り、その間へ古い検査台が設置されていた。

 

 照明は使わない。

 

 壁際へ置いた二つの小型灯だけが、検査台の周囲を淡く照らしている。

 

 ハルは検査台の西側に立っていた。

 

 右後方に416。

 

 左後方には蓮。

 

 二人とも銃口を下げているが、安全装置へ指が届く位置から手を動かしていない。

 

 東側の崩れた信号所にはVSK。

 

 南の給水塔にはNTW-20。

 

 検査所へ通じる道路と排水路のすべてが、二人の射界へ入っている。

 

UMP45『指定時刻まで二分。周辺の通信量に変化なし』

 

G11『西側道路、車両一。指定された小型車と一致』

 

 線路脇の道路へ、古い民間車両が現れる。

 

 前照灯を二度点滅。

 

 一度消灯し、五秒後に再点灯。

 

 事前に指定した識別信号だった。

 

VSK『車内に三名。ほかの熱源は確認できません』

 

NTW-20『後続車両なし。北側も異常なし』

 

ハル「進入を許可します」

 

 車両が低速で検査所へ入る。

 

 線路の手前で停止。

 

 運転席からポーン01。

 

 助手席からクイーン13。

 

 最後に、後部座席からキングが降りた。

 

 三人とも戦闘服を着ているが、装具は外している。

 

 キングの腰には空の拳銃嚢。

 

 クイーン13も、両手を見える位置に置いていた。

 

 ポーン01だけが黒い耐衝撃ケースを持っている。

 

416「そこで止まって。三人とも、両手を頭の後ろへ」

 

 クイーン13の視線が416へ向く。

 

 一瞬だけ、不快感が表情へ出た。

 

 それでも命令どおり両手を上げる。

 

 キングとポーン01も従った。

 

 G3とブレンが西側の遮蔽物から出て、三人の身体と車内を確認する。

 

 隠し武器。

 

 爆発物。

 

 発信器。

 

 いずれも見つからなかった。

 

G3「携行品は記録媒体、医療用品、予備電池。武器はありません」

 

ブレン「車両も確認した。燃料と工具だけだ」

 

416「ケースを床へ置いて、三歩下がって」

 

ポーン01「落とすと記録媒体が破損する可能性があります。静かに置いても?」

 

416「許可するわ」

 

 ポーン01が腰を落とし、ケースを検査台の上へ置いた。

 

 指示どおり三歩下がる。

 

 安全確認が終わってから、ハルが前へ出た。

 

 キングも一歩だけ進む。

 

 銃声はない。

 

 爆発もない。

 

 二人の指揮官は、古い検査台を挟んで初めて顔を合わせた。

 

キング「初めまして、ドブルイニャ・ハル指揮官」

 

 キングが僅かに頭を下げる。

 

キング「通信越しより、ずっとお若く見える。親愛なる指揮官様」

 

ハル「初対面の相手を親愛なる人と呼ぶのが、レッドカンパニーの礼儀なの?」

 

キング「交渉相手へ敬意を示しているつもりです」

 

ハル「では、その敬意が本物か、中身を確認させてもらいます」

 

 ハルが耐衝撃ケースを見る。

 

 ポーン01が鍵を二つ取り出した。

 

 片方をハルへ差し出し、もう片方を自分で使う。

 

 二人が同時に回すと、ケースの封印が外れた。

 

 内部には記録媒体が六つ。

 

 紙の契約書が三冊。

 

 暗号鍵を保管する独立端末。

 

 そして、レッドカンパニー本社から送られた命令書の原本が収められていた。

 

ポーン01「電子記録には確認用の目録を付けています。最初の記録媒体に、S09襲撃以前から現在までの地域本部との通信。二番目に資金経路。三番目に偽装会社と補給拠点。四番目に鉄血との共同作戦記録。残る二つは、政治家と行政官を介した契約です」

 

ハル「原本まで持ち出したの?」

 

ポーン01「複製だけでは、改竄だと主張される可能性があります」

 

UMP45『ケース内部から発信なし。記録媒体の一つを接続して』

 

 ハルが頷く。

 

 G3が一番目の記録媒体を受け取り、回線を切った検査端末へ接続する。

 

 目録。

 

 日付。

 

 送信元。

 

 捕虜から回収した書類と同じ管理番号が並んでいる。

 

UMP45『署名形式は一致。暗号鍵も、押収資料の未解読部分へ使える可能性が高い。少なくとも、急いで作った偽物ではないわ』

 

ハル「取引材料は確認しました。では、条件を詰めましょう」

 

キング「まず、我々三名の身柄をグリフィンの保護下へ置いていただきたい。レッドカンパニー、関係する政治家、鉄血のいずれにも引き渡さないこと」

 

ハル「暫定的な保護は約束します。ただし、尋問と身体検査、持ち込んだ情報の検証を受けてもらいます。基地内での行動も制限します」

 

キング「受け入れましょう」

 

ハル「次に、あなたたちの身分。正式なグリフィン所属にするには、私だけでは決められません。上級司令部の承認が必要です」

 

キング「その間に本社から引き渡し要求が来た場合は?」

 

ハル「保護対象者として拒否します。少なくとも、調査が終わるまで三人を外へ出しません」

 

クイーン13「私たちが元敵兵でも?」

 

ハル「元敵兵だからです。事情を調べず、要求されたまま返すことはできません」

 

 クイーン13は、ハルの答えを無言で受け止めた。

 

キング「捕虜については?」

 

ハル「全員、生存しています」

 

 キングの表情は変わらない。

 

 だが、その隣でクイーン13が僅かに息を吐いた。

 

ハル「会社の命令へ従わない意思を示した者は、別区画へ移します。本人が希望し、審査を通過した場合は、保護証人として扱えるよう申請します」

 

キング「捕虜になった事実は?」

 

ハル「グリフィン内部の記録からは消しません」

 

キング「本社が、その記録へ辿り着けば彼らだけでなく家族も狙われる」

 

ハル「だから、外部へ見せる記録を分けます」

 

 ハルが検査台の上へ、白紙の記録票を置いた。

 

ハル「公式な戦闘報告では、身元を特定できなかった死亡者と行方不明者として処理する。生存記録と供述は、限られた担当者しか開けない保全記録へ移します。家族の情報も同じです」

 

キング「我々三人も?」

 

ハル「生存を秘匿する。ただし、死亡したという偽情報をレッドカンパニーへ流すかは、上級司令部と相談します。こちらが仕掛けた偽装だと見抜かれれば、逆に危険だからね」

 

キング「証拠の抹消は?」

 

ハル「しません」

 

 明確な拒否だった。

 

ハル「入手経路と協力者の名前は隠せます。政治家やレッドカンパニーを追及する時も、別の証拠から辿り着いたように見せることはできる。でも、あなたたちが渡した証拠そのものは消さない」

 

キング「随分と都合の悪い証人を抱えることになりますよ」

 

ハル「だからといって、都合の悪い証拠を燃やしたら、あなたの社長と同じでしょう?」

 

 キングの口元から、薄い笑みが消えた。

 

 検査所に風が通り抜ける。

 

 錆びた標識が小さく揺れた。

 

ハル「それから、免責は約束できません。あなたたち三人も、捕虜も同じです。民間人への犯罪、捕虜の虐待、命令では説明できない行為が確認された場合は、相応の責任を負ってもらいます」

 

クイーン13「それで、寝返れと?」

 

ハル「寝返れば過去が消える、なんて嘘をつくより誠実だと思うよ」

 

 クイーン13の視線が鋭くなる。

 

 416が僅かに重心を前へ移す。

 

 蓮は動かなかった。

 

 キングが右手を上げ、クイーン13を制する。

 

キング「ハル指揮官。あなたは交渉が不得意ですね」

 

ハル「よく言われます」

 

キング「亡命者へ、保護より先に処罰の可能性を説明するとは」

 

ハル「後から条件を増やすよりいいでしょう?」

 

 短い沈黙。

 

 やがて、キングが小さく笑った。

 

キング「なるほど。少なくとも、契約書の小さな文字で我々を殺す方ではないらしい」

 

ハル「大きな文字で、できないことを書いておきます」

 

 キングは検査台の白紙を見た。

 

キング「もう一つ。残存班へ投降を命じた場合、彼らにも同じ選択肢を?」

 

ハル「武器を置き、指定場所へ出頭した者は攻撃しません。負傷者は治療します。その後は個別審査です」

 

キング「拒否した者は?」

 

ハル「武装したまま活動を続ければ敵です」

 

キング「結構」

 

 キングがポーン01へ目を向ける。

 

 ポーン01はケースから小型端末を取り出し、地域図を表示した。

 

ポーン01「現在活動中の班は十一。うち六班は、キングの停止命令へ従う可能性が高い。三班は地域本部の直轄要員が混在しています。残る二班は鉄血との連絡を独自に続けています」

 

ハル「位置は分かる?」

 

ポーン01「最後に確認された場所と、補給先を記録しています。停止を拒否した場合は、最新位置を送ります」

 

 蓮が初めて検査台へ近づいた。

 

蓮「一つ聞く」

 

キング「どうぞ」

 

蓮「会社は、捕虜を殺せと命じた。見捨てれば、三人だけで逃げるのはもっと簡単だったはずだ。なぜ交渉条件へ入れた?」

 

 キングは、少しだけ視線を落とした。

 

キング「彼らは私の命令でS09へ向かった」

 

蓮「それだけか?」

 

キング「指揮官が、自分の失敗を隠すために部下を殺したら、その瞬間から指揮官ではなくなる。それだけで十分では?」

 

 蓮はキングの表情を見る。

 

 声の揺れ。

 

 呼吸。

 

 言葉を選ぶまでの間。

 

 少なくとも、その答えに嘘は感じなかった。

 

蓮「今のところはな」

 

キング「評価が厳しい」

 

蓮「ハル指揮官よりは甘いだろ」

 

ハル「私を基準にしないでほしいな」

 

 蓮が半歩下がる。

 

 その時、416の通信機からUMP45の声が入った。

 

UMP45『交渉中に悪い知らせよ。第六処理班が進路を変更した』

 

ハル「こちらへ向かっている?」

 

UMP45『いいえ。廃冷蔵倉庫へ直行してる。あと三十五分で到着。別動車両が二両、東側の道路を封鎖し始めたわ』

 

ポーン01「偽の逃走記録を疑われました」

 

クイーン13「基地へ戻れば、私たちがいないことも、記録媒体が持ち出されたことも分かる」

 

キング「決断を長引かせる時間はないようですね」

 

 ハルは検査台の記録媒体を見た。

 

 次に、武器を持たず立っている三人を見る。

 

ハル「キング。クイーン13。ポーン01」

 

 三人がハルへ向き直る。

 

ハル「最終確認です。レッドカンパニーから離脱し、保有する情報と指揮権をグリフィンへ提供する。その後、調査と審査を受け、承認された場合はグリフィンの指揮下で勤務する。この条件に同意しますか?」

 

キング「同意します」

 

クイーン13「キングが行くなら、私も」

 

ハル「クイーン13。これは、あなた自身の意思で決めてください」

 

 クイーン13が眉を僅かに動かす。

 

ハル「キングへの忠誠だけでグリフィンへ来るなら、いつか彼と私の命令が衝突した時に困ります」

 

クイーン13「……では、言い直します」

 

 クイーン13はハルを正面から見た。

 

クイーン13「私自身の意思で、レッドカンパニーを離脱します。会社は部下を道具として処分しようとした。もう従う理由はありません」

 

ハル「受け入れます」

 

 ハルの視線がポーン01へ移る。

 

ポーン01「私は、会社の命令と作戦を記録してきました。記録を消す側ではなく、残す側に立ちたい。グリフィンへの協力を希望します」

 

ハル「受け入れます」

 

 最後にキング。

 

キング「私は、部下を守るために会社を利用してきたつもりでした。ですが、最後には会社から部下を守ることになった」

 

 キングは腰の空の拳銃嚢を外した。

 

 レッドカンパニーの管理番号が刻まれている。

 

 それを検査台へ置く。

 

キング「本日この時刻をもって、レッドカンパニーの指揮権を放棄します。残存部隊へ戦闘停止を命じ、私の知るすべてを提供する」

 

ハル「その申し出を、S09基地指揮官ドブルイニャ・ハルの権限で暫定的に受理します」

 

 ハルは右手を差し出した。

 

 キングが、その手を見る。

 

キング「手錠ではないのですか?」

 

ハル「必要なら、基地へ着いてから付けます」

 

キング「正直な方だ」

 

 キングがハルの手を握る。

 

 握手は短かった。

 

 友情でも、赦しでもない。

 

 敵対関係を終え、互いの条件を受け入れたという確認だった。

 

ハル「初めまして、キング。今日から三人は、私たちの保護下に入ります」

 

キング「よろしくお願いいたします――親愛なる指揮官様」

 

ハル「それ、これからも続けるの?」

 

キング「お気に召しませんか?」

 

ハル「慣れるまで、少し時間が掛かりそうだね」

 

     ◇

 

 三人は、グリフィンの装甲輸送車へ分乗した。

 

 キングとクイーン13は別々の車両。

 

 ポーン01はUMP45の監視下で、持ち出した端末を操作する。

 

 まだ仲間として扱われているわけではない。

 

 武器は渡されず、車内でも両手の位置を見張られている。

 

 それでも、第六処理班へ引き渡される護送とは違った。

 

 車列が第七検査所を離れる前に、ポーン01が残存班との一斉通信を準備する。

 

ポーン01「暗号回線、接続可能です」

 

 キングの前へ送信機が置かれた。

 

 ハルは向かいの座席にいる。

 

 蓮と416が、その両側を固めていた。

 

キング「録音と位置記録を」

 

UMP45『すべて残しているわ。余計な暗号を入れたら、その場で切る』

 

キング「承知しました」

 

 十一の回線が開く。

 

 すぐに応答した班。

 

 沈黙した班。

 

 接続した直後に切った班。

 

 反応は分かれていた。

 

 キングは、全回線へ同じ命令を送る。

 

キング「こちらキング。全レッドカンパニー現地班へ通達する。本時刻をもって、私は現地指揮権を放棄した」

 

 車内に、複数の雑音が重なる。

 

キング「S09基地およびグリフィン部隊に対する攻撃を中止。重火器を放棄し、班ごとに指定された地点へ移動せよ。投降を希望する者の安全と負傷者の治療は、グリフィン側と合意している」

 

『本部の命令はどうなる!』

 

 怒鳴り声が一つ入る。

 

キング「本部は、S09で捕虜となった者を抹消し、我々現地要員も処分する命令を出した。命令書はすでにグリフィンへ提出している」

 

『裏切るのか、キング!』

 

キング「会社が先に諸君を切り捨てた」

 

 廃冷蔵倉庫の地下で、クイーン13へ告げたのと同じ言葉だった。

 

キング「投降を強制はしない。だが、以後も武装を維持し、グリフィンまたは民間人へ攻撃を行う班は、敵として位置情報を引き渡す。これは最後の命令だ。生き残れ」

 

 送信を終える。

 

 一つ目の班が、投降地点の確認を求めた。

 

 二つ目の班から、負傷者を運ぶ車両の通行保証を求める通信。

 

 三つ目は沈黙。

 

 四つ目は、明確に命令を拒否した。

 

 ポーン01が、各班の反応を記録していく。

 

ポーン01「六班が停止命令を受領。うち四班が投降を希望。二班は協議中。三班は応答なし。二班が拒否しました」

 

ハル「投降地点を四か所に分けます。部隊同士を接触させないで。負傷者を乗せた車両は、入口で武器を預かってから医療班へ」

 

UMP45『基地へ伝えるわ。拒否した二班は?』

 

 キングがポーン01を見る。

 

 ポーン01は二つの座標を表示した。

 

キング「提供します」

 

 ハルは、その座標を受け取った。

 

 寝返りを口で宣言するだけなら簡単だった。

 

 キングは今、自分が組み直した部隊の位置をグリフィンへ渡した。

 

 元の場所へ戻れなくなる、最初の行動だった。

 

     ◇

 

 深夜。

 

 S09基地の正門へ、三台の車両が入る。

 

 先頭は警護車両。

 

 二台目にキング。

 

 三台目にクイーン13とポーン01。

 

 門の内側では、警備人形が二列に分かれて待機していた。

 

 歓迎のためではない。

 

 武装解除された元敵兵を、確実に収容するためだった。

 

 キングが車両を降りる。

 

 正面には、二十八日前に攻撃を命じた基地がある。

 

 修復された外壁。

 

 新しく取り付けられた監視装置。

 

 防衛戦の痕跡が残る建物。

 

 そのすべてが、自分たちの襲撃が失敗したことを示していた。

 

 クイーン13とポーン01も降車する。

 

 ハルが三人の前へ立つ。

 

ハル「これから身体検査、医療検査、個別聴取を行います。三人の部屋は分けます。互いに連絡できるのは、最初の供述が終わってからです」

 

キング「徹底していますね」

 

ハル「信用は積み重ねだと言ったでしょう?」

 

 少し離れた場所で、蓮がその言葉を聞いていた。

 

 昼間、部下から自分へ返されたものと同じ言葉だった。

 

蓮「今日はよく聞く言葉だな」

 

VSK「ボスに必要な言葉だからでは?」

 

蓮「俺の話はしてないだろ」

 

VSK「信用の話です」

 

 蓮が何か言い返そうとする。

 

 だが、その前にハルが三枚の仮身分証を取り出した。

 

 名前と顔写真はない。

 

 記されているのは、一時保護対象者を示す番号だけ。

 

ハル「正式な所属証ではありません。今夜、この基地で三人の身柄を守るための証明です」

 

 キングが一枚を受け取る。

 

 クイーン13とポーン01も続いた。

 

ハル「明日から、持ち出した情報の確認を始めます。正式にグリフィンへ加わるかは、その結果と三人の意思を確認してから決めます」

 

キング「ええ。ですが、こちらの意思はすでに決まっています」

 

 キングは、レッドカンパニーの社章が消えた自分の胸元を見る。

 

キング「次に所属を記すなら、グリフィンでお願いします」

 

クイーン13「私も異存ありません」

 

ポーン01「同じく」

 

 ハルは三人を見渡した。

 

ハル「分かりました。では、その希望を正式な記録へ残します」

 

 基地の奥で、防護扉が開く。

 

 三人はそれぞれ別の担当者に付き添われ、内部へ入っていく。

 

 キングだけが、扉の前で一度振り返った。

 

キング「ハル指揮官」

 

ハル「何?」

 

キング「我々を受け入れたことを、後悔するかもしれませんよ」

 

ハル「その時は、受け入れた私が責任を取ります」

 

キング「部下のせいにはしない?」

 

ハル「指揮官だからね」

 

 キングが僅かに目を細める。

 

 それから、今度は冗談ではなく丁寧に頭を下げた。

 

キング「初めまして、親愛なる指揮官様。今後とも、よろしくお願いいたします」

 

 防護扉が閉じる。

 

 その夜。

 

 レッドカンパニーは、一人のキングと、一人のクイーンと、一人のポーンを失った。

 

 グリフィンは、三人の亡命者と、組織の奥深くへ続く鍵を手に入れた。

 

 それが救いになるのか、新しい火種になるのかは、まだ誰にも分からない。

 

 ただ一つ確かなことは、三人が自分の意思で盤を降り、新しい側へ歩き始めたことだった。




はい

もう一人の自分(変質者)の勘は当たるのですかねぇ?

それに2人の関係はどうなるか…

今後の展開が楽しみですね。

次回は…シェルターまで撤退ですね

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※2026年8月31日リメイク完了

ヒロイン

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  • 雷電
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