陸自はドールズフロントライン、海自は艦これとアズールレーン、空自はアッシュアームズ三つの世界でバラバラになりながらでも生き残る 作:ゴーストライターとかした、素人小説書き
艦これ·アズールレーン·ドールズフロントライン·アッシュアームズ
大丈夫な方は楽しんで見ていってね!
第18話 一瞬の剣術で決まる事
翌日、午前九時二十分。
S09基地地下、第二解析室。
キングたちが持ち込んだ記録媒体は、すべて外部回線から切り離された端末で複製されていた。
原本は耐火保管庫。
解析用の複製は、用途ごとに六台の端末へ分割。
どの端末にも単独で全体を復元できるだけの情報は入っていない。
レッドカンパニーの内部暗号を知るポーン01が一台。
UMP45とG11が二台。
残る三台を、基地の情報処理班が担当している。
ポーン01の両手には拘束具がない。
だが、椅子から離れるには、背後に立つ警備人形の許可が必要だった。
キングとクイーン13も別室で個別聴取を受けている。
三人の最初の供述は、すでに照合されていた。
日時。
命令系統。
S09襲撃に投入された部隊。
鉄血との共同作戦。
細部に記憶の差はあったが、意図的な矛盾は確認されていない。
UMP45「少なくとも、三人で相談して作った綺麗な物語ではなさそうね」
ポーン01「信じていただけましたか?」
UMP45「嘘が一つ減っただけ。信用の残高は、まだほとんど空よ」
ポーン01「承知しています」
G11「でも、暗号鍵は本物……昨日まで開かなかったところが、全部読める」
G11の画面には、レッドカンパニーが使用していた複数の偽装会社が表示されている。
運送会社。
警備会社。
復興資材を扱う商社。
自治体へ人材を派遣する請負企業。
表向きの業務は合法でも、裏側では武器、資金、人員の移動へ使われていた。
UMP45「政治家側の帳簿は?」
ポーン01「第五記録媒体です。契約番号を照合中ですが……」
ポーン01の声が止まった。
画面の下部。
複数の送金記録に混じって、用途を示さない支払いが三件並んでいる。
金額は、いずれも通常の警備契約より一桁大きい。
受取先は別々の法人。
だが、最終的な送金先を辿ると、同じ識別符号へ行き着いた。
ERK―2。
ポーン01「この符号は……」
UMP45「知ってる?」
ポーン01「キングを呼んでください。私より詳しいはずです」
UMP45はすぐに回線を開かなかった。
警備人形へ合図し、ハルへ状況を伝える。
十分後。
第二解析室の壁面画面へ、別室にいるキングの映像が表示された。
左右には監視役の人形。
机の上には何も置かれていない。
キング『ERK―2で間違いないのですか?』
ポーン01「三件とも同じです。最初の送金は、S09襲撃失敗の翌日。二件目が三日前。最後が、私たちへ出頭命令が出された直後です」
キング『依頼内容は?』
G11「暗号化されてる。鍵は、今の資料にない」
キング『当然でしょう。レッドカンパニーの暗号ではありません』
解析室には、ハル、蓮、VSK、416も集まっていた。
ハル「何の符号なの?」
キング『エリカの血族。日本系の民間情報組織が保有する、二人一組の実働班です』
蓮「企業か?」
キング『企業として登記された名称は別にあります。要人警護、企業調査、行方不明者の捜索。表向きは、その程度の会社です』
416「裏では暗殺を請け負う」
キング『証拠を残さない範囲で』
キングが送金記録を見つめる。
キング『レッドカンパニーが直接雇ったのではない。仲介した議員か、その後援企業が依頼したのでしょう。本社さえ信用されなくなったらしい』
ハル「二人の名前は?」
キング『キキョウとアザミ』
画面が分割される。
ポーン01が、別の資料から二枚の不鮮明な写真を抽出した。
一枚目。
黒い外套の下へスーツを着た男。
長い運搬ケースを持ち、顔の下半分を暗い面頬で覆っている。
二枚目。
同じく黒いスーツを着た女。
短い髪。
肩から下げた鞄には、通信装置と複数の工具が収められている。
どちらの写真も、撮影から数秒後には監視装置そのものが破壊されていた。
キング『キキョウは近接戦闘と侵入。アザミは通信、監視、退路の構築。二人が同時に動いた任務で、対象が生き残った記録はほとんどありません』
VSK「戦術人形ですか?」
キング『人間です』
蓮の視線が、男の写真へ止まる。
顔立ちの大半は面頬で隠れている。
それでも、黒い髪と、ケースへ結ばれた古い日本式の守り札が見えた。
蓮「日本人か」
キング『二人とも。少なくとも、記録上はそうなっています』
ハル「戦い方は?」
キング『キキョウは刀を使います』
蓮「銃を持たずに?」
キング『拳銃も携行します。ですが、彼が刀を抜く状況では、すでに射線、照明、障害物、相手の退路までアザミが整えている』
キングは、画面に映るキキョウの立ち位置を指した。
キング『あの男の剣術は、一瞬で勝負を決めるのではない。一瞬しか勝負をしなくて済むよう、そこへ至るまでを組み立てるのです』
蓮は写真から周囲へ目を移す。
キキョウ本人ではなく、写真の背景を見る。
狭い通路。
片側に大きな窓。
反対側には閉じた扉。
相手が左右へ逃げられない場所を選んでいる。
蓮「剣士というより、猟師だな」
キング『同感です』
ハル「標的を特定できる?」
ポーン01「最後の送金に、暗号化されていない管理用断片があります。対象は五つ」
ポーン01が文字列を復元する。
K。
Q13。
P01。
HAL。
ARCHIVE。
キング。
クイーン13。
ポーン01。
ハル。
そして、持ち出された記録一式。
ハル「私まで入っているんだ」
キング『証拠管理の責任者を殺し、混乱の間に資料を焼く。合理的です』
416「他人事みたいに言わないで」
キング『慌てれば送金記録が消えるのであれば、そうしますが』
416「本当に可愛げがないわね」
キングは答えず、画面から蓮へ視線を向けた。
キング『もう一つ、注意すべきことがあります』
蓮「何だ?」
キング『キキョウは、戦闘技術を持つ日本人へ強い関心を示す。過去に何人かを、自分たちの側へ勧誘しています』
蓮「断った奴は?」
キング『少なくとも二人は死亡。一人は消息不明です』
VSK「ボスを単独にしないでください」
ハルではなく、室内全員へ向けた言葉だった。
蓮「俺は標的に入っていない」
VSK「名前がないから安全とは限りません」
416「今回はVSKに賛成。向こうが生け捕りを考えるなら、殺害対象より面倒よ」
蓮「二対一を望んで受ける気はない」
以前なら、一人で十分だと答えていたかもしれない。
だが、旧ベルカ工業区での戦闘から、まだ一日も経っていない。
目的より敵を追う危険。
部下を置いて単独で動く危険。
蓮自身が、それを認めたばかりだった。
ハル「では、単独行動は禁止。それから、三人と証拠を別の区画へ移します」
キング『移動経路を監視されれば、逆に場所を教えることになります』
ハル「だから、偽の移送を同時に二つ出すよ」
ハルが基地平面図を表示する。
キング、クイーン13、ポーン01は地下医療区画へ。
証拠原本は、そのさらに下にある旧発電機室へ移す。
地上では、三人を乗せたように見せた装甲輸送車を二方向へ出す。
基地内部でも、移動先を知る者を限定する。
ハル「G3とブレンは三人の警護。UMP45、G11、ポーン01は侵入監視。VSKとNTW-20は基地外周。蓮さんと416は、私と証拠区画の間を動ける位置にいて」
蓮「了解」
ハル「それから、今朝到着した二人にも手伝ってもらいます」
解析室の扉が開く。
先に入ってきたのは、目を閉じたまま微笑んでいる銀髪の人形だった。
その半歩後ろを、同じ白い髪を持つ人形が無表情で歩いてくる。
AK-12「緊急の電子戦支援と聞いたけれど、随分と面白そうな相手ね」
AN-94「AK-12。面白さは任務評価へ含まれません」
AK-12「でも、退屈よりはいいでしょう?」
AN-94「AK-12がそう判断するなら」
AK-12が笑みを深くする。
AN-94はそれだけで僅かに姿勢を正した。
ハル「AK-12は基地内の監視網。AN-94は予備対応班として、侵入位置が分かり次第動いて」
AK-12「了解。相手が監視を消すなら、消した場所そのものを足跡にしてみるわ」
AN-94「私はAK-12の指示に従います」
416「それだけ?」
AN-94「ハル指揮官の指示にも従います」
AK-12「あら、よくできました」
AK-12に肩を軽く叩かれ、AN-94の視線が僅かに下がる。
蓮は二人を見る。
戦力が増えたこと自体は助かる。
だが、侵入者が本当にキキョウとアザミなら、人数だけで守り切れる相手ではない。
守る対象。
守る場所。
指揮系統。
それらを相手より早く整えなければ、刀が抜かれる前に負ける。
ハル「警戒態勢を第二段階へ。基地機能は止めません。普段どおりに見せたまま、相手を中へ入れないで」
各員が動き始める。
画面の中のキングが、最後にハルを呼び止めた。
キング『親愛なる指揮官様』
ハル「何?」
キング『彼らが来ると決まったわけではありません』
ハル「うん」
キング『ですが、来ると考えて準備してください。依頼を受けた二人が、支払いだけ受け取って帰った例はありません』
ハル「覚えておきます」
回線が閉じる。
ハルは、画面に残された五つの標的符号を見た。
四人の命。
一つの証拠。
敵が消したいものは明確だった。
◇
S09基地から南西へ十一キロメートル。
復興資材を積んだ小型貨物車が、検問所の手前で速度を落とした。
運転席には作業服姿の女。
助手席には、同じ会社の上着を着た男が座っている。
荷台に積まれているのは、配線用の管材と変圧器。
その下へ、通信妨害装置と、武器を回収するための細長い空ケースが隠されていた。
女――アザミが、前方の検問所を観察する。
アザミ「警備が増えている」
男――キキョウは、膝の上へ置いた作業予定表から目を上げなかった。
キキョウ「我らの来訪に気づいたか?」
アザミ「まだ判断できない。基地襲撃後なら、この程度の警備増強は不自然ではない」
アザミが車内端末へ触れる。
表示されたのは、基地外周で使われている復旧業者の認証票。
実在する会社。
実在する車両番号。
本来その車両へ乗っている二人は、南へ二十キロ離れた宿泊所で眠っている。
殺してはいない。
予定より長く眠るよう、飲み物へ薬を入れただけだった。
キキョウ「期限は?」
アザミ「本日二十時まで。キング、クイーン13、ポーン01、ドブルイニャ・ハルを排除。記録媒体は回収、困難なら焼却」
キキョウ「随分と欲張りな依頼だ」
アザミ「報酬も相応だ」
キキョウ「金の話ではない」
キキョウが予定表を閉じる。
キキョウ「四人の人間と、場所も分からぬ証拠。そのすべてを、警戒中の基地から一度に消せと言う。依頼主は、我らを便利な妖術使いと勘違いしているらしい」
アザミ「断るか?」
キキョウ「受けた仕事は果たす」
貨物車が検問所へ近づく。
キキョウは外套の内側へ手を入れ、古い守り札の位置を直した。
キキョウ「ただし、手順はこちらで決める。首を四つ並べるより、証拠を焼き、残る者を疑心暗鬼にした方が依頼人の望みには近かろう」
アザミ「優先順位は記録媒体。次にキングたち。ハルは可能なら」
キキョウ「もう一人、噂の日本人がいる」
アザミ「契約対象ではない」
キキョウ「分かっている」
返事はした。
だが、キキョウの指は、守り札からすぐには離れなかった。
検問所の警備人形が、貨物車へ停止を命じる。
アザミは穏やかな作業員の顔を作り、窓を下ろした。
警備人形「復旧作業者証と、車両通行証を提示してください」
アザミ「はい。西側配電区画の定期検査です」
アザミが二枚の認証票と作業端末を差し出す。
警備人形は、表示された顔写真だけでは判断しなかった。
認証票の電子署名。
車両番号。
工事会社から提出された作業者名簿。
基地施設課に登録されている作業命令書。
そのすべてを一つずつ照合する。
結果は、すべて正常。
作業命令が登録されたのは六日前だった。
キングたちが離反を決めるより前。
依頼主は、必要になってから入口を作ったのではない。
必要になる可能性を考え、先に入口を用意していた。
警備人形「荷台を開けてください。車外へ出て、身体検査を受けていただきます」
アザミ「分かりました」
二人は指示へ素直に従った。
荷台の扉が開かれる。
管材の内部。
工具箱の底。
変圧器の外装。
警備人形と基地施設課員が、携帯検査器を使って調べる。
銃器も、爆発物も見つからない。
通信妨害装置は、配線検査に使う測定器と同じ筐体へ収められていた。
電源を入れない限り、通常の検査器と区別することは難しい。
細長いケースの中にも、絶縁棒と巻き尺しか入っていなかった。
キキョウの刀も、二人の拳銃も、この車両にはない。
武器は二週間前。
別の復旧業者が西側配電区画へ入った際、使われていない配線溝の中へ隠されていた。
誰が運び込んだのか。
その作業員自身も知らない。
指定された工具箱を、指定された場所へ置いただけだった。
警備人形「検査終了。作業区域は西側配電区画に限定されています。基地内では案内担当の指示に従ってください」
貨物車の助手席へ、一体の施設警備人形が乗り込む。
検問を通過したからといって、自由に行動できるわけではない。
車両は指定された経路を進み、指定された場所に停車する。
作業中も警備人形が立ち会う。
アザミは何も不満を言わず、貨物車を発進させた。
キキョウも、窓の外に並ぶ銃座へ視線を向けない。
基地の門が、二人の後ろで閉じた。
それでも二人は、まだ一度も嘘を見破られていなかった。
正しい書類。
正しい車両。
正しい作業予定。
正しいものだけを並べて作られた偽装は、単純な嘘より見抜きにくい。
午前十時十八分。
貨物車は、西側配電区画へ到着した。
アザミが荷台から測定器を下ろす。
キキョウは管材を運びながら、配電室へ続く扉の蝶番、監視カメラの向き、天井の感知器を確認した。
視線を止めない。
作業員が初めて来た場所を見回す程度にしか見えない。
施設警備人形「作業命令書では、第三給電線の絶縁測定となっています」
アザミ「先月交換した区間ですね。測定中、隣接する設備へ警報が出る可能性があります」
施設警備人形「給電停止が必要な場合は、こちらから管制へ申請します。無断操作は禁止です」
アザミ「承知しています」
配電室の扉が開く。
内部には、復旧後も使われていない配線溝が残されていた。
キキョウが工具を広げる。
アザミは測定器を端子へ接続した。
画面に表示されたのは、給電線の抵抗値。
同時に、測定器内部の別回路が、施設保守用の通信網へ接続を試みる。
軍用の指揮回線ではない。
照明。
空調。
工事区画の監視装置。
防火扉。
それらを管理する、基地の末端回線だった。
認証には、正規業者へ発行された保守鍵が使われた。
接続は許可される。
アザミの作業端末へ、配電区画周辺の設備情報が静かに流れ込んだ。
施設警備人形は、端末に表示される検査手順を確認している。
不正な画面は一つも見えない。
アザミが小さく咳払いする。
それが合図だった。
キキョウは絶縁手袋を取るふりをして、床際の配線蓋へ指を掛けた。
固定ねじは、すでに一つだけ短いものへ交換されている。
蓋を数センチ持ち上げる。
暗い隙間の中に、油紙で包まれた細長い物があった。
キキョウはそれを工具用の空ケースへ滑り込ませる。
一秒にも満たない動作。
施設警備人形が振り返った時には、配線蓋は元へ戻っていた。
アザミの足元にも、小さな金属箱が置かれている。
内部には拳銃二丁と弾倉。
彼女は測定器の背面を開き、金属箱の中身を空いた収納部へ移した。
侵入の第一段階が終わる。
刀を抜く必要は、まだなかった。
同時刻。
S09基地、臨時監視室。
AK-12は、壁一面へ並んだ監視映像を目を閉じたまま聞いていた。
映像を見るだけではない。
各カメラが送る時刻情報。
圧縮率。
通信の間隔。
保守回線へ接続された端末の数。
基地内を流れる小さな変化を、一つの音楽のように並べている。
AN-94「西側配電区画の作業者は、検問を通過しました」
AK-12「ええ。書類も身体検査も問題なし。とても模範的ね」
AN-94「疑わしいのですか?」
AK-12「疑う理由は、まだないわ」
AK-12が一つの映像を拡大する。
西側配電室前。
作業員二人と施設警備人形。
映像は途切れていない。
三人の動きにも不自然なところはなかった。
だが、画面右下の時刻表示が、一度だけ戻っている。
一・二秒。
十時十八分四十七秒の次に、十時十八分四十六秒が表示されていた。
AK-12「今の映像、同じ一秒を二度見せてくれた」
AN-94「通信遅延では?」
AK-12「遅延なら時刻は戻らない。古い映像を挟んだのよ」
AK-12が保守回線の接続履歴を開く。
正規の測定器が一台。
認証された作業端末が一台。
数は合っている。
接続元の識別情報も合っている。
あまりに綺麗だった。
AK-12は、ポーン01へ限定回線を開く。
AK-12「そちらで、今日の復旧工事を手配した会社を調べられる?」
ポーン01『会社名を送ってください』
数秒後。
地下医療区画の監視室で、ポーン01が帳簿の複製を検索する。
会社そのものは、レッドカンパニーの偽装企業ではない。
だが、工事を仲介した人材会社の名が、一つ前の画面に残っていた。
S09襲撃前。
レッドカンパニーが基地周辺へ物資を運び込むため、二度だけ利用した会社。
ポーン01『直接の系列ではありません。ただし、仲介業者がレッドの輸送網と接触しています』
UMP45『偶然で済ませるには、少し出来すぎてるわね』
G11『待って……同じ作業者証が、外でも接続されてる』
G11が別の通報記録を開いた。
南方の宿泊所から、復旧会社の緊急連絡先へ通話が入っている。
部屋で意識を失っていた作業員二人が発見された。
一人が装着していた健康管理端末が異常を検出し、宿泊所の管理人へ警報を送ったのだ。
命に別状はない。
所持品から、S09基地の作業者証と車両鍵が失われている。
同じ番号の作業者証が、今まさに基地内で使われていた。
AN-94「侵入者と断定します」
AK-12が目を開く。
薄い笑みは消えていない。
だが、その目から眠そうな気配がなくなっていた。
AK-12「ハル指揮官へ。対象二名、基地内への侵入を確認。現在位置、西側配電区画」
警報は鳴らなかった。
基地全体へ避難放送も流れない。
ハルは作戦室で報告を聞き、通常業務を続けさせた。
ハル「第二警戒のまま。西側の扉を、一枚ずつ静かに閉じて。相手に包囲を気づかせないで」
AK-12『了解』
ハル「証拠原本を第二保管場所へ移動。蓮さん、416。旧発電機室へ向かって」
蓮『了解』
416『すぐに動くわ』
ハル「AN-94は西階段の上で待機。AK-12が位置を確定するまで入らないで」
AN-94『了解しました』
ハル「VSK、NTW。車両と外周の監視を継続。中へ戻らないで」
VSK『ですが、ボスが――』
ハル「中へ全員集めれば、退路を空けることになる。蓮さんには416がいる」
短い沈黙。
VSK『了解。西門と南側斜面を監視します』
NTW-20『北側排水路は私が見る』
地下医療区画では、G3とブレンが防護扉の前へ移動する。
キング、クイーン13、ポーン01は、窓のない処置室へ集められた。
クイーン13が壁へ掛けられた基地平面図を見る。
クイーン13「西側配電区画から旧発電機室へ行くなら、二つの経路があります」
G3「座っていて。あなたたちを守るのが、今の私たちの仕事よ」
クイーン13「守られるだけでは、役に立たない」
ブレン「なら、知っていることを話せ。それが一番役に立つ」
キングが平面図へ近づく。
拘束はされていない。
だが、床へ引かれた黄色い線より先へは出ない。
キング「キキョウは、標的へ最短で向かいません」
G3「どういう意味?」
キング「最短経路は、守る側も最初に塞ぐ。彼らが欲しいのは、標的の場所ではなく、標的を守る者の動きです」
ポーン01「警備部隊を動かして、空いた経路を使う」
キング「そして、二つの標的へ同時に危険を作る。指揮官と証拠。どちらか一方しか守れないように見せるでしょう」
ブレンが回線を開く。
ブレン「ハル指揮官。キングから予測。敵は最短経路を避け、指揮所と証拠保管場所へ同時に危険を作る可能性が高い」
ハル『了解。作戦室の警備は動かさない。証拠移送を優先する』
クイーン13は、平面図の一点を指した。
クイーン13「西側から中央区画へ抜ける古い保守通路があります。前回の襲撃で崩れ、閉鎖されたと聞いていますが」
ポーン01「完全には埋まっていません。レッドの旧資料では、小型人形一体が通れる幅を確認しています」
G3「人間なら通れる?」
キング「装備を外せば」
情報がAK-12へ送られる。
監視画面上の候補経路が、一つ増えた。
その頃。
西側配電室では、施設警備人形が入口へ立ったまま、管制からの返答を待っていた。
廊下の防火扉が、遠くから順番に閉じ始める。
一枚。
二枚。
三枚。
目立たないよう、通常の区画点検を装っている。
だが、アザミは測定器へ流れる応答時間の変化を見逃さなかった。
アザミ「露見した」
作業員の声ではなくなっていた。
施設警備人形が銃へ手を伸ばす。
キキョウは、工具ケースを足元へ倒した。
蓋が開く。
油紙に包まれていた刀が、床を滑る。
施設警備人形が銃口を向けるより先に、アザミが測定器の側面を押した。
配電室の照明が消える。
同時に、測定器の前面から強い閃光が放たれた。
警備人形の視覚装置が白く飽和し、通信装置へ激しい雑音が走る。
軍用回線そのものを奪ったのではない。
狭い室内だけで、見ることと外へ知らせることを一瞬妨げたのだ。
警備人形は射撃しなかった。
味方と侵入者を識別できない状態で、発砲を止める安全機構が働いた。
暗闇の中で、キキョウが距離を詰める。
金属同士が一度だけぶつかった。
照明が非常灯へ切り替わる。
施設警備人形は床へ伏せていた。
首は繋がっている。
だが、銃を持つ右腕の駆動索と、通信装置へ繋がる外部端子が切断されていた。
致命部を外し、追跡能力だけを奪っている。
キキョウが刀についた潤滑液を布で拭う。
キキョウ「まだ、殺さずに済む」
アザミ「次からは保証できない」
アザミが保守回線へ短い命令を送る。
西側配電区画の遮断器が落ちた。
基地全体ではない。
西側から中央へ続く二本の通路。
旧発電機室へ向かう昇降機。
作戦室前の防火扉。
そこだけが、数秒遅れて非常電源へ切り替わる。
照明が消え、扉が安全位置へ閉じる。
基地内の警備部隊へ、三つの異常が同時に表示された。
指揮所。
証拠保管区画。
地下医療区画へ繋がる西通路。
守る側が、どこへ人員を送るか。
アザミはその反応を監視しようとした。
だが、端末に表示された人員配置は変わらない。
作戦室の警備は、その場に残った。
地下医療区画の守備も動かない。
旧発電機室へ向かったのは、最初から移送任務を与えられていた二人だけだった。
アザミが僅かに眉を動かす。
アザミ「誘いに乗らない」
キキョウ「良い指揮官だ」
アザミ「感心している場合か?」
キキョウ「良き獲物は、良き備えをする」
キキョウが配線溝の奥にある保守扉を開く。
通常の人員配置図には載っていない、崩落した通路へ続く扉だった。
二人は作業服の上着を脱ぐ。
その下から黒い服が現れた。
アザミが先に狭い通路へ入り、キキョウが刀を収めた鞘を持って続く。
残された測定器が、最後に一度だけ偽の映像を送信した。
監視画面の中では、二人の作業員が配電室に立ち続けている。
AK-12は、その映像を三秒見た。
AK-12「もうそこにはいない」
AN-94「根拠は?」
AK-12「女の瞬きが、十二秒前と同じ。使い回しが雑になったわ」
AK-12が閉鎖された保守通路へ印をつける。
AK-12「AN-94、西階段から一階へ。中央の大窓通路を塞いで」
AN-94「侵入者を挟撃します」
AK-12「いいえ。追い込まれていると思わせないで。アザミは、私たちが見ている経路を捨てさせるために別の異常を作るはずよ」
AN-94「では、私は何を?」
AK-12「蓮と416が証拠を運び出すまで、出口を一つ残す。その後で閉じて」
AN-94「了解しました」
AN-94が階段を下りる。
飛び降りる必要はない。
一段ずつ、可能な限り音を立てずに進む。
相手の位置が不明な状況で速さだけを求めれば、待ち伏せへ自分から飛び込むことになる。
AK-12は、監視映像から二人の姿を失っていた。
代わりに、姿が見えないことから進路を絞っていく。
開かなかったはずの点検扉。
一瞬だけ下がった通路内の圧力。
埃を検知した火災感知器。
崩れた保守通路を、二人分の身体が通過している。
その先は、旧発電機室と中央区画の間へ繋がっていた。
午前十時二十七分。
旧発電機室。
蓮と416が到着した時、情報処理班は三つの耐衝撃ケースを運搬台へ載せ終えていた。
原本の記録媒体。
暗号鍵を保存した独立端末。
供述と照合するための複製記録。
敵が求めるものは、この三つのケースへ分けられている。
416「第二保管場所は?」
情報処理班員「中央地下の弾薬保管区画です。ここから東階段へ運びます」
蓮「エレベーターは使うな。停止させられた」
416「二人は先頭。私と蓮が後ろにつく」
情報処理班員二名が運搬台を押す。
416が前方。
蓮が最後尾。
旧発電機室を出る前に、蓮は扉の外へ小型鏡を出した。
左右を確認する。
誰もいない。
床へ新しい足跡もない。
それでも、すぐには出なかった。
天井灯が、一定の間隔で僅かに明滅している。
非常電源へ切り替わった直後から続いていた。
蓮「照明の点滅、故障か?」
416「規則的すぎる。誰かが触ってる」
蓮が携帯端末を見る。
AK-12から、崩落通路を示す簡略図が届く。
侵入者推定位置。
旧発電機室の西。
距離は、百メートルを切っていた。
蓮「予定経路を捨てる。南側の機械室から迂回する」
416「了解。情報処理班、向きを変えて」
運搬台が反転する。
その直後。
東通路の奥で、何かが床へ落ちた。
金属製の小さな筒。
蓮が銃口を向ける。
筒から煙が噴き出した。
白リンではない。
視界を奪うための、通常の遮蔽煙だった。
だが、煙の向こうから一発だけ銃声が響く。
弾丸は人間を狙わず、天井の照明を破壊した。
通路の東側が暗闇へ沈む。
416「接触!」
416が撃ち返さない。
煙の向こうに誰がいるか確認できない。
情報処理班員を巻き込む危険がある。
蓮は後退しながら、旧発電機室の扉を閉めた。
蓮「南へ行け。止まるな」
四人が機械室側へ走る。
運搬台の車輪が床の継ぎ目で跳ねる。
背後で、閉めた扉の取っ手が一度だけ下がった。
追ってきている。
蓮は89式小銃を肩へ当て、後ろ向きに距離を取る。
416が情報処理班員と並び、角を一つずつ確認する。
二人は離れていない。
運搬台も捨てていない。
単独で敵へ向かう者はいなかった。
南機械室を抜けると、大きな窓のある長い通路へ出る。
片側は、中庭へ面した強化ガラス。
反対側には、会議室と資材庫の扉が並んでいる。
通路の先には、中央地下へ続く防火扉。
その向こうへ入れば、AN-94の待機位置に近い。
416「あと三十メートル!」
情報処理班員が運搬台を押し、防火扉へ近づく。
扉は開いている。
蓮の端末へ、AK-12から短い文字列が表示された。
――そのまま通過。扉の先に味方。
蓮が416の肩を二度叩く。
合図を受け、416が速度を上げた。
最初の情報処理班員が扉を越える。
運搬台の前半分が続く。
その瞬間。
通路の照明がすべて消えた。
赤い非常灯だけが、床近くで点灯する。
防火扉が閉まり始めた。
416「急いで!」
416と情報処理班員が、運搬台を向こう側へ引く。
後輪が扉の下を越える。
蓮は最後尾から走った。
だが、通路後方。
煙の中から人影が現れる。
黒い服。
手には拳銃。
蓮は足を止め、89式小銃を向けた。
人影も、窓際の柱へ身体を隠す。
互いに発砲しない。
蓮が背を向けて扉へ走れば、撃たれる。
このまま狙い続ければ、扉が閉じる。
416「蓮!」
蓮「証拠を運べ!」
416「一緒に来なさい!」
蓮「扉の向こうにAN-94がいる。俺は追撃を止める!」
防火扉の隙間が、人一人分まで狭まる。
416は一歩戻ろうとした。
情報処理班員だけでは、三つのケースを載せた運搬台をすぐに動かせない。
ここで止まれば、証拠も守れない。
蓮は銃口を逸らさず、左手だけで扉の閉鎖を促した。
蓮「任せた、416」
416が歯を食いしばる。
416「必ず持ちこたえて」
蓮「ああ」
防火扉が閉じる。
重い金属音が、二人の間を遮った。
扉の反対側で、416がすぐに非常開放装置へ手を掛ける。
だが、表示は赤いまま変わらない。
電源が切られ、機械式の固定爪まで落ちていた。
416「AN-94! 証拠を引き継いで! 私は扉を開ける!」
AN-94『了解』
416は蓮を置いて逃げたのではない。
蓮も、一人で戦うために残ったのではない。
守るべきものを次の仲間へ渡し、閉じた扉を挟んで、それぞれの役割を続けている。
蓮は、そのことを理解していた。
だから、閉まった扉を振り返らない。
長い通路の向こうを見る。
柱の陰から出てきたのは、短い髪の女だった。
アザミ。
拳銃は下へ向けている。
撃つ必要がないと判断している構えだった。
そのさらに後ろ。
煙の中から、もう一人が歩いてくる。
黒い外套。
顔の下半分を覆う面頬。
左手には鞘。
右手は、刀の柄へ触れていない。
キキョウだった。
蓮は89式小銃の照準を、キキョウの胸へ合わせる。
距離、二十四メートル。
小銃が有利な距離。
だが、通路の照明は落ちている。
赤い非常灯が、一定の間隔で二人の輪郭を途切れさせる。
右側の扉は、すべて施錠。
左側は強化ガラス。
後方の防火扉も閉じた。
蓮が移動できる方向は、前後だけ。
キングが言っていた状況が、すでに作られている。
射線。
照明。
障害物。
退路。
キキョウは刀を抜く前に、必要なものを揃えていた。
だが、完全ではない。
蓮は防火扉が閉じる直前、端末の側面を一度押していた。
音声ではない。
事前に決めた、接触を知らせる短い信号。
妨害電波で内容が欠けても、発信した事実だけはAK-12へ届く。
一人にされた。
それでも、一人で戦っているわけではない。
キキョウが足を止める。
アザミは窓側へ半歩ずれ、蓮の銃口と重ならない位置へ立った。
二人とも、蓮が引き金を引けば柱の陰へ入れる。
蓮がキキョウへ狙いを移せば、アザミが撃つ。
アザミへ移せば、キキョウが距離を詰める。
無理に発砲させ、残弾を減らす必要すらない。
キキョウが、蓮の銃口ではなく顔を見る。
キキョウ「お主、名は?」
日本語だった。
古めかしい響きはあるが、発音に迷いがない。
蓮「渡邉蓮」
キキョウの目が僅かに細くなる。
キキョウ「やはり、噂の男か」
蓮「俺の噂まで売ってるのか、レッドカンパニーは」
アザミ「我々はレッドの社員ではない」
蓮「金を受け取って人を消しに来た。その違いに興味はない」
キキョウは怒らなかった。
むしろ、蓮の立ち方を観察している。
負傷した右脚を庇っていない。
銃床は肩へ密着。
指は引き金へ掛けず、その手前で止めている。
相手の言葉へ反応して、狙いを乱さない。
キキョウ「良い」
蓮「何がだ」
キキョウ「その圧。その目。戦場へ長く身を置いた者の立ち方だ」
キキョウが、鞘を持った左手を僅かに下げる。
抜刀の動作ではない。
蓮の反応を見るための、小さな変化。
蓮は銃口を動かさなかった。
キキョウ「ここで殺すには惜しい」
アザミ「キキョウ」
キキョウ「時間は取らせぬ」
キキョウが再び蓮を見る。
キキョウ「渡邉蓮。我らの側へ来ぬか?」
その言葉だけが、通路の空気を変えた。
蓮の中で、古い記憶が開く。
命令。
裏切り。
自分の手で仲間へ向けた銃口。
帰る場所を失った日々。
仲間を捨てて生き残ることを、選択肢の一つであるように差し出される。
キキョウに、蓮の過去を知る理由はない。
だからこそ、その誘いは無邪気なほど正確に、蓮が最も嫌う場所を撃ち抜いた。
蓮「誰を裏切れと言ってる」
キキョウ「裏切りとは人聞きが悪い。我らの主は、使える者を正当に遇する。腐った政治家や、兵を消耗品としか見ぬ企業よりはな」
蓮「グリフィンを捨てろって意味だろ」
キキョウ「組織は器に過ぎぬ。強き者が、相応しい場所へ移ることに何の罪がある?」
蓮の背後には、閉じた防火扉がある。
その向こうで416が扉を開けようとしている。
さらに先では、AN-94が証拠を運び、AK-12が二人の位置を追っている。
外周では、VSKとNTW-20が退路を塞ぐ。
地下では、G3とブレンがキングたちを守る。
ハルは、その全員を動かしている。
器に過ぎないという言葉で切り捨てられるものではない。
蓮がここへ戻れたのは、組織の名があったからではなかった。
その中に、待っている者がいたからだ。
蓮「消えろ」
安全装置を外す小さな音がした。
アザミの拳銃が上がる。
キキョウの右手が、初めて刀の柄へ触れた。
刀は、まだ鞘の中にある。
それでも戦いは、その一瞬より先に始まっていた。
はい
スーツ姿で刀とクナイを扱う日本人ってかっこいいよね!
次回は少し遅くなりますね
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それでは
※2026年8月31日リメイク完了
ヒロイン
-
416
-
VSK-94
-
大鳳A
-
蒼龍C
-
雷電
-
スカイレイダー