陸自はドールズフロントライン、海自は艦これとアズールレーン、空自はアッシュアームズ三つの世界でバラバラになりながらでも生き残る 作:ゴーストライターとかした、素人小説書き
艦これ·アズールレーン·ドールズフロントライン·アッシュアームズ
大丈夫な方は楽しんで見ていってね!
第19話 友は銃よりも勝る
午前十時二十九分。
S09基地、中央大窓通路。
アザミの拳銃が上がる。
蓮は、銃口が自分へ重なるより先に右へ踏み出した。
乾いた銃声が二度続く。
一発目が、蓮のいた床へ当たる。
二発目は強化ガラスを叩き、白い傷を残した。
蓮は窓枠を支える太い柱の陰へ滑り込む。
89式小銃を肩へ戻し、アザミが隠れた柱へ三発。
銃弾が柱の角を削る。
アザミは撃ち返さない。
その代わり、キキョウが動いた。
蓮の銃口がアザミへ向いていた短い時間。
キキョウは一つ手前の柱から、通路中央の扉の窪みへ移る。
刀はまだ抜いていない。
走った距離は、三メートルにも満たない。
蓮が銃口を戻した時には、キキョウの身体は壁の陰へ収まっていた。
弾丸を見てから避けたのではない。
引き金を引く指を読んだわけでもない。
アザミへ銃口を向ければ、自分は撃たれない。
その当然の時間だけを使った。
蓮は柱へ背を預けた。
キキョウまで、十八メートル。
アザミまで、二十二メートル。
二人が同じ射線へ並ぶことはない。
片方を狙えば、もう片方が動ける位置を維持している。
アザミ「返答は聞いた」
蓮「なら、もう話すことはないな」
キキョウ「残念だ」
声は、扉の窪みから聞こえた。
キキョウ「同じ血を引く者を斬るのは、いつになっても気分の良いものではない」
蓮「金を受け取って殺しに来た奴が、今さら同胞面するな」
蓮は小銃を柱の右側へ出す。
アザミの拳銃が、すぐに一発撃った。
柱へ戻す。
続けて、身体だけを左側へ低く出す。
アザミの視線が、まだ右に残っている。
蓮は二発撃った。
一発がアザミの柱へ当たる。
もう一発が、引き戻された右腕の服を裂いた。
アザミ「っ……」
血が細く飛ぶ。
弾丸は上腕の外側を掠めただけだった。
それでも、アザミの拳銃が一度下がる。
蓮はすぐにキキョウへ銃口を戻した。
遅かった。
キキョウは、次の柱へ移っている。
距離、十三メートル。
アザミは傷を確かめない。
左手で上腕を押さえながら、右手だけで拳銃を構え直した。
アザミ「浅い。続行する」
キキョウ「無理はするな」
アザミ「仕事中に言う台詞ではない」
アザミが三発撃つ。
狙いは蓮の身体ではなかった。
柱の左側。
右側。
最後に床。
蓮がどちらへ出ても射線へ入るよう、動ける範囲を削っていく。
その間に、キキョウがまた一つ距離を詰める。
十メートル。
蓮はアザミへ撃ち返さない。
今度は、キキョウだけを待った。
扉の窪みから黒い肩が見える。
蓮が引き金を絞る。
一発。
キキョウは飛び出さず、すぐに身体を戻した。
銃弾が壁へ当たる。
反応して避けたのではない。
蓮が射撃できる状態だと確かめ、進むことを止めた。
キキョウ「焦らぬか」
蓮「俺を何だと思ってる」
キキョウ「傷だらけの獣だと思っていた」
蓮「それは昔の話だ」
アザミが腰の袋から小さな円筒を取り出す。
床へ転がした。
蓮は円筒へ発砲しない。
弾薬か、閃光か、煙か。
中身の分からない物へ銃弾を当てれば、何が起きるか予測できない。
円筒が通路中央で止まる。
灰色の煙が、床を這うように広がり始めた。
火炎は出ない。
刺激臭も弱い。
視界だけを奪う遮蔽煙。
蓮は柱から離れ、後方の防火扉へ五歩下がる。
煙の中へ向けて撃たない。
キキョウは、それを待っている。
発砲すれば、炎と銃声で位置を教えることになる。
銃床を肩へ押し付ける。
呼吸を止めない。
耳を使う。
右。
革靴が床を擦る、ごく小さな音。
蓮は右へ一発撃った。
直後、左側から鞘の先が突き出される。
囮だった。
蓮は小銃を引き戻す。
煙を割って、キキョウが左から入ってくる。
距離、五メートル。
刀が鞘から抜かれる。
刃が赤い非常灯を一瞬だけ反射した。
蓮は引き金を引かない。
銃口はまだキキョウの身体へ向いていない。
この距離で無理に撃てば、小銃を払われる。
銃床を前へ出す。
キキョウの刀が、89式小銃の銃身ではなく、前部の樹脂製被筒へ当たった。
刃と金属部品が擦れ、火花が散る。
被筒へ深い傷が入る。
だが、小銃は切断されない。
蓮は刀の力へ逆らわず、小銃を回した。
刃を外へ流す。
そのまま銃床をキキョウの面頬へ叩き込む。
キキョウは鞘を立て、銃床を受けた。
鈍い音。
衝撃で二人の腕が離れる。
蓮は後ろへ下がる。
キキョウも追わない。
煙の向こうにいるアザミの射線へ、蓮を押し出すことができなかったからだ。
キキョウ「良い判断だ」
蓮「採点を頼んだ覚えはねぇよ」
蓮が小銃を構え直す。
被筒は割れている。
負い紐も半分切れていた。
照準器は生きている。
作動にも問題はない。
残弾は十分にある。
だが、キキョウはすでに七メートルの位置へ下がっていた。
蓮が撃てる距離へ戻ると同時に、柱へ半身を隠している。
剣術だけではない。
銃に対して、いつ刀を使わないかを知っている。
それが、この男の本当の強さだった。
◇
防火扉の反対側。
416は非常開放装置の外板を外していた。
内部の手動レバーを引く。
動かない。
電磁錠だけでなく、扉上部の固定爪が機械的に噛み合っている。
416「アザミが閉じたの?」
AK-12『保守回線から閉鎖命令を入れたあと、駆動装置へ逆方向の電流を流している。通常の開放操作では外れないわ』
416「説明はいい。開け方を教えて」
AK-12『相変わらずせっかちね』
416「扉の向こうに蓮がいるのよ」
416の声は低い。
怒鳴ってはいない。
その分だけ、AK-12は冗談を続けなかった。
AK-12『固定爪を一度上へ戻す必要がある。主電源を復旧させても、侵入者の保守鍵が残っている限り、また閉じられる』
G11『今、その鍵を探してる……正規の測定器に見せかけて、別の識別番号を重ねてる』
ポーン01『識別番号をこちらへ送ってください』
地下医療区画。
ポーン01は、警備人形の監視下で隔離端末を操作していた。
G11から送られた文字列を、レッドカンパニーの旧工事記録と照合する。
ポーン01「見つけました。この番号は、三年前に廃止された地域本部の保守鍵です」
UMP45「廃止された鍵が、どうして基地の設備へ入れたの?」
ポーン01「工事会社側の名簿からは消えています。しかし、基地の復旧用端末に旧認証を受け付ける互換機能が残されていたのでしょう」
G11『古い設備を動かすための裏口……便利だから消せなかった』
UMP45「そして敵に使われた。よくある最悪ね」
ハルは作戦室から、そのやり取りを聞いている。
ハル「ポーン01。旧保守鍵だけを無効化できる?」
ポーン01「可能です。ただし、基地内の復旧設備が一部停止します」
ハル「人命に関わる設備は?」
G11『医療区画と防護設備は別。止まるのは工事用の照明、昇降機、仮設空調……それと、西側の排水ポンプ』
ハル「排水ポンプを先に現地操作へ切り替えて。終わり次第、鍵を切る」
G11『了解……四十秒』
416「四十秒も待てない」
AN-94「私が押し上げます」
証拠ケースを第二保管場所へ引き渡したAN-94が、扉の前へ戻ってきた。
416の隣へ膝をつく。
外板の奥へ腕を入れ、手動レバーを握った。
AN-94「固定爪が解除された瞬間、私が扉を支えます。416は蓮を確認してください」
416「あなた一人で、この扉を?」
AN-94「完全に持ち上げる必要はありません。人が通れる幅を作ります」
416「分かった。お願い」
AN-94が頷く。
416は弾倉を確認し、銃を肩へ当てた。
扉が開いても、すぐには飛び込まない。
向こう側に蓮がいる。
敵の位置を確認せずに撃てば、救出する相手を自分で撃つことになる。
◇
作戦室。
AK-12が基地平面図へ三つの光点を表示した。
正確な位置ではない。
銃声を拾った音響感知器。
煙を検出した火災感知器。
大窓通路の床振動。
そこから推定した範囲だった。
AK-12『蓮からの接触信号は届いている。その後も床振動が続いているから、少なくとも立って動いているわ』
VSK『負傷の有無は?』
AK-12『分からない』
VSK『なら、確認できる位置へ移動します』
ハル「VSK、今の位置を維持して」
VSK『指揮官』
ハル「キキョウとアザミは、逃走経路まで用意している。中へ全員入れば、外から止める人がいなくなる」
VSK『……』
ハル「蓮さんを助けるのは、扉の前にいる二人と、監視室の二人。あなたには、二人が外へ出た時に止めてもらう」
VSKはすぐには返事をしなかった。
大窓通路まで、自分の位置からは見えない。
蓮が撃たれても。
斬られても。
駆けつけることはできない。
それでも、ここで命令を破れば、相手が準備した逃走路を空けることになる。
VSK『了解。西門を維持します』
ハル「NTWは?」
NTW-20『北側排水路を監視中。動きなし』
ハル「二人とも、そのまま。外へ出た場合は、投降を呼びかけたあと、武装したままなら射撃を許可します」
VSK『了解しました』
NTW-20『了解』
地下医療区画から、キングの声が入る。
キング『逃走車両は、侵入に使った貨物車だけではありません』
ハル「分かるの?」
キング『彼らが過去に使った手口です。正規車両を捨てたあと、工事中の排水路か、崩れた外壁を使って警戒線の外へ出る。そこで別の車両へ乗り換えます』
クイーン13『南西の復旧区画。前回の襲撃で外壁基礎が損傷しています』
ポーン01『古い雨水管が一本あります。現在の基地図では閉鎖扱いですが、レッドの偵察記録では、二週間前まで通行可能でした』
基地平面図へ、新しい線が加わる。
西側配電区画から、資材倉庫の地下を通り、南西斜面へ抜ける雨水管。
キキョウとアザミが武器を隠した時期と一致する。
G3『こちらは三人の警護を継続します』
ブレン『追跡に人員が必要でも、我々は動かない。敵が戻ってきた場合は、ここで止める』
UMP45『それでいいわ。二人が逃走へ移ったと見せかけて、別働役を残していない保証はないもの』
ハルは、地下医療区画の守備を減らさなかった。
逃げる敵を捕らえることより、まだ見えていない危険から標的を守ることを優先する。
ハル「VSK、南西斜面が見える位置へ移れる?」
VSK『現在地から百二十メートル。西門への射線はNTWと一部重なります』
NTW-20『私が西門まで広げる。VSKは南西を見て』
ハル「移動を許可。二人だけで追い込まないで。出口を確認したら位置を送って」
VSK『了解』
VSKが観測位置を変える。
中へ向かうのではない。
蓮たちが追い出す敵を、外で待つために。
◇
大窓通路。
煙は、天井の排気口へ少しずつ吸い込まれている。
視界が戻り始めた。
蓮は柱を一つ挟み、キキョウと向き合っている。
アザミは、そのさらに後方。
右腕の傷から流れた血が、指先まで伝っていた。
それでも拳銃は揺れていない。
アザミ「この区画に留まれる時間、残り二分」
キキョウ「十分だ」
蓮「随分と余裕だな」
キキョウ「お主一人ならな」
蓮は返事をしない。
耳の奥で、場違いなほど軽い声がした。
レン『ねえ。代わろうか?』
蓮の視界は変わらない。
身体の感覚も、自分のものだった。
声だけが、意識の奥から響いてくる。
蓮(引っ込んでろ)
レン『二対一だよ? しかも片方は、君より近接戦が上手い』
蓮(見れば分かる)
レン『僕なら、もう少し楽しく殺れるけど』
蓮(任せない)
短く答える。
以前なら、意識の奥から出てくる存在そのものを拒絶していた。
今は違う。
存在を認めたうえで、主導権を渡さない。
レン『信用ないなぁ』
蓮(当たり前だ)
レン『じゃあ、観客席から一つだけ。女は六発撃った。今の弾倉なら、まだ半分以上残ってる』
蓮(数えてたのか)
レン『君と同じ目で見てるからね』
蓮(なら、そのまま数えてろ。勝手に出るな)
レン『はいはい。今日は助言だけにしてあげる』
声が少し遠ざかる。
完全には消えない。
蓮は柱の角へ視線を戻す。
キキョウが、刀の切っ先を下げている。
構えを解いたのではない。
銃口を向けられた時、刃へ力を入れずに動ける位置へ置いている。
キキョウ「お主は、銃へ頼りすぎる」
蓮「戦場で刀を持って説教する奴に言われたくねぇな」
キキョウ「銃は弾が尽きれば終わる。壊れれば捨てるほかない」
蓮「刀も折れれば同じだろ」
キキョウ「最後に頼れるのは、己の技だけだ」
蓮「これは決闘じゃない」
蓮が、閉じた防火扉を背にする。
蓮「お前たちは基地へ侵入した暗殺者。俺は、仲間が来るまで時間を稼ぐ。それだけだ」
キキョウ「仲間、か」
キキョウの目が、僅かに笑う。
キキョウ「閉じた鉄扉の向こうにいる者を、まだ当てにするのか?」
蓮「するさ」
キキョウ「扉は開かぬ」
蓮「お前より、あいつらの方を知ってるんでね」
アザミが動く。
今度は柱から出ない。
拳銃だけを低い位置から突き出し、蓮の足元へ二発撃った。
蓮が柱の反対側へ移る。
キキョウが同時に踏み込む。
刀は上段に振り上げない。
狭い通路で大きく振れば、壁や天井へ当たる。
身体の中心へ沿わせ、短い軌道で蓮の左腕を狙う。
蓮は小銃の先を下げ、刃の腹へ被筒を当てた。
受け止めない。
横へ押す。
刀の軌道が逸れる。
キキョウの鞘が、蓮の右手首を下から打った。
指が痺れる。
小銃の銃口が上がる。
キキョウは刃を返し、負い紐を切った。
89式小銃が蓮の胸元から外れる。
蓮は落とさない。
左手だけで握り、銃床をキキョウの腹へ突き出す。
キキョウが半歩引く。
その隙に、蓮は小銃を床へ滑らせた。
使えないのではない。
負い紐が切れ、片手の感覚が鈍った状態で抱え続ければ、次の抜刀へ間に合わない。
腰のP226を抜く。
キキョウは銃口の前へ出ない。
鞘を持った左腕を引き、柱の裏へ身体を戻す。
蓮が一発撃つ。
銃弾は面頬を狙わず、キキョウの足元へ当たった。
破片が脛へ飛ぶ。
キキョウの動きが一瞬止まる。
蓮は二発目をアザミへ向けた。
アザミが柱へ戻る。
そのまま後退する。
防火扉まで、残り四メートル。
右手の痺れは取れない。
左腕で拳銃を支える。
キキョウの脛から、僅かに血が流れていた。
致命傷ではない。
だが、無傷でもない。
キキョウ「刀を相手に、銃を捨てたか」
蓮「必要なら後で拾う」
キキョウ「拾う時間があればよいが」
アザミが柱の陰から、蓮の上半身へ二発撃つ。
蓮は防火扉脇の操作盤へ身体を寄せた。
一発が操作盤へ当たる。
火花が散る。
もう一発が、蓮の胸へ命中した。
防弾板が弾丸を止める。
衝撃までは消えない。
息が詰まり、背中が扉へ当たる。
キキョウが、その瞬間だけを使う。
刀の間合いへ入る。
蓮はP226を上げる。
鞘が手首へ打ち下ろされた。
拳銃が床へ落ちる。
キキョウの刃が、蓮の左肩から腕へ走った。
プレートキャリアの肩帯が切れる。
戦闘服も裂ける。
刃先が皮膚を浅く開いた。
熱い痛み。
血が腕を伝う。
だが、筋肉にも骨にも届いていない。
キキョウは深追いしない。
蓮が腰の銃剣へ手を伸ばしたことに気づき、刀を引いた。
距離、二メートル。
蓮の小銃は六メートル先。
P226は足元。
後ろは開かない防火扉。
アザミの銃口が、柱の陰から蓮の腹へ向いている。
キキョウが刀を正面へ置く。
キキョウ「終わりだ」
意識の奥で、レンが囁く。
レン『今なら、まだ代われるよ』
蓮(必要ない)
レン『強情だね。僕なら、一人でも勝てたかもしれないのに』
蓮は、キキョウではなく扉の向こうを一瞬だけ見た。
蓮(もう来る)
キキョウが踏み込む。
その瞬間。
赤かった非常灯が、一斉に消えた。
次いで、天井の作業灯が最大出力で点灯する。
暗闇へ順応していた三人の視界が、白く染まった。
蓮だけが、点灯の直前に目を伏せていた。
端末へ届いた振動。
AK-12が事前に送った、三回の短い通知。
点灯の合図だった。
防火扉の固定爪が外れる。
金属が跳ねる音。
AN-94「開きます!」
AN-94が手動レバーを押し上げる。
重い扉が、床から十五センチ浮いた。
416が隙間へ両手を入れる。
二人で扉をさらに持ち上げる。
人一人が伏せて通れる幅が開いた。
416「蓮、伏せて!」
蓮は迷わず床へ身体を落とした。
416の射撃が、その頭上を通る。
三発。
狙いはキキョウの身体ではない。
刀を持つ右側の床と、後退先の柱。
キキョウは攻撃を中断し、柱の陰へ戻る。
アザミが416へ撃ち返そうとする。
扉の隙間から、AN-94の銃口が現れた。
アザミの柱へ短い射撃。
コンクリート片が飛ぶ。
アザミは顔を引っ込めた。
蓮が足元のP226を拾う。
床を転がり、扉の横へ移る。
416が隙間を抜けて通路へ入った。
蓮の前へ出ない。
横へ並び、アザミの柱を狙う。
416「遅くなったわ」
蓮「ちょうどいい」
416「嘘。血が出てる」
蓮「浅い」
416「それは後で私が判断する」
416は銃口を維持したまま、足元に落ちていた手動レバーの固定ピンを拾った。
開放装置へ差し込み、レバーが戻らないよう固定する。
AN-94が扉から力を抜く。
扉は十五センチほど下がったところで止まった。
人形一体が伏せて通る幅は残っている。
AN-94も扉を潜る。
扉は完全には開かない。
だが、三人が同じ通路へ揃った。
蓮が中央。
416が窓側。
AN-94が扉側。
三方向の銃口が、キキョウとアザミの隠れる柱を捉える。
キキョウ一人へ集中しない。
アザミ一人も追わない。
二人が互いを援護できないよう、別々の射線で押さえる。
先ほどまで蓮へ向けられていた形が、そのまま反転していた。
アザミ「時間切れだ」
キキョウ「そのようだ」
キキョウが、刀を鞘へ戻す。
勝負を諦めたからではない。
片手を空け、退路を走るためだった。
キキョウ「良き友を持ったな、渡邉蓮」
蓮「今さら気づいたか」
キキョウ「ならば次は、その友ごと越えるとしよう」
416「次があると思ってるの?」
416が銃口を僅かに上げる。
アザミ「ある」
アザミが最後の煙幕筒を床へ落とした。
同時に後方へ走る。
煙が広がるより先に、蓮たちは撃った。
キキョウとアザミの進路へ、短く区切った射撃を送る。
人影が柱から柱へ移る。
姿が見えない間は撃たない。
煙の中へ弾をばら撒かない。
逃走方向は西。
旧保守通路。
AK-12が予測した経路と一致する。
蓮「追いすぎるな。出口はVSKとNTWが見てる」
416「あなたは?」
蓮「行ける」
416「その言葉を信用した結果が、今の血なんだけど」
AN-94「出血量は少量。左肩の運動に大きな異常は確認できません」
416「AN-94まで蓮の味方をするの?」
AN-94「観測結果を報告しました」
蓮「副官みたいなことを言うな」
通信へ、VSKの声が入る。
VSK『聞こえています、ボス』
蓮が一瞬だけ目を閉じる。
蓮「今日はよく聞かれてるな」
VSK『南西斜面へ移動完了。旧雨水管の出口を確認しました』
蓮「侵入者二名が西保守通路へ逃走。そちらへ出る可能性が高い」
VSK『了解。こちらで待ちます』
蓮は、落とした89式小銃を拾う。
作動を確認する。
被筒と負い紐は損傷しているが、射撃はできる。
追跡は一人で始めない。
416とAN-94が並ぶまで待ち、三人で煙の向こうへ進んだ。
◇
西側旧保守通路。
キキョウとアザミは、並んで走らない。
アザミが先行し、曲がり角を確認する。
キキョウは十メートル後ろから、追跡してくる蓮たちを警戒する。
アザミの右腕から血が落ちる。
キキョウの左脛にも、コンクリート片で裂けた傷がある。
どちらも走れなくなるほど深くはない。
だが、侵入時と同じ速度では動けない。
アザミ「記録媒体の回収に失敗。対象四名も健在」
キキョウ「完全な失敗だな」
アザミ「楽しそうに言うな」
キキョウ「楽しくはない」
キキョウが後方へ一発撃つ。
角から出ようとした416が身体を戻す。
弾丸は命中しない。
追跡を数秒遅らせるための射撃だった。
キキョウ「ただ、得るものがなかったわけではない」
アザミ「依頼主へ、渡邉蓮の評価書でも提出するつもりか?」
キキョウ「勧誘は断られたと書く」
アザミ「頼んでいないことをして、断られたと報告するのか」
キキョウ「正直は美徳だ」
アザミは答えず、保守通路の壁へ埋め込まれた端末を開く。
逃走経路を示す表示は消えていた。
旧保守鍵が無効化されている。
防火扉も照明も、もうアザミの命令を受け付けない。
アザミ「保守回線を奪い返された」
キキョウ「どれを使う?」
アザミ「雨水管。予定どおり南西へ抜ける」
キキョウ「外には狙撃手が二人いる」
アザミ「それも予定どおりだ」
アザミが、作業服の内側から小型送信機を取り出す。
ボタンを一度押した。
◇
基地西側配電区画。
無人の貨物車でエンジンが始動した。
前照灯が点灯する。
車両はゆっくりと動き出し、西門へ向かう。
運転席には誰もいない。
施設警備人形が停止を命じる。
貨物車は速度を上げた。
西門前の車止めへ向かって進む。
NTW-20『無人車両が西門へ接近。遠隔操作と判断』
ハル『停止できる?』
NTW-20『できる』
ハル『周囲の人員は退避済み。車両への射撃を許可』
南の給水塔から、一発の銃声が響く。
大口径弾が、貨物車の前部へ斜めに入った。
エンジン区画と前輪を支える部材を貫通する。
貨物車の前輪が大きく傾いた。
車体が道路を外れ、土嚢へ乗り上げて止まる。
燃料へは引火しない。
爆発も起きない。
西門を塞ぐ前に、車両だけが動けなくなった。
NTW-20『遠隔車両、停止』
AK-12『注意を西門へ引くための囮ね。本命は南西よ』
ハル「外周班は配置を変えないで。警備人形だけで車両を確認」
敵が作った異常へ、全員を動かさない。
キングが予測した誘導を、ハルは最後まで拒否した。
◇
南西斜面。
VSKは、崩れた擁壁の裏へ伏せていた。
視線の先。
斜面下部の藪へ、古い雨水管の出口がある。
直径は一メートルを少し超える程度。
人間なら、身体を低くして通れる。
出口を塞いでいた鉄格子は、外見だけ元へ戻されていた。
固定具は内側から切断されている。
VSKは銃口を鉄格子へ合わせたまま、動かない。
西門から大口径銃の音が聞こえた。
貨物車が止められたことも、回線を通して分かっている。
だが、そちらを見ない。
自分の任された出口だけを見る。
鉄格子が僅かに動く。
暗い雨水管の中から、黒い布が出てきた。
人間の肩に見える。
VSKは撃たなかった。
照準の中で、布が不自然に揺れている。
棒の先へ外套を掛けただけの囮。
布がさらに押し出される。
VSK「武器を捨てて、両手を見せてください」
返事はない。
VSK「こちらから、あなた方の出口は見えています。投降してください」
雨水管の奥で、小さな発射音がした。
VSKは発射音より前に、鉄格子の右側へ見えた拳銃の輪郭を捉えていた。
擁壁の裏へ身体を落とす。
消音された弾丸が、頭のあった場所を通過する。
すぐには撃ち返さない。
相手は管の奥。
正確な位置が見えない。
外套だけを撃たせて、狙撃位置を確かめようとしている。
VSKは左へ移る。
同じ場所から二度顔を出さない。
擁壁の割れ目から、雨水管を再び見る。
鉄格子が内側から倒された。
煙幕筒が二本転がり出る。
濃い煙が、斜面へ沿って広がった。
VSKの視界から出口が消える。
VSK『対象二名、雨水管出口。煙幕を使用』
NTW-20『こちらからは斜面上部だけ見える。出口は死角』
ハル『追って管の前へ出ないで。相手に狙われている』
VSK『了解』
VSKは煙の中へ入らない。
雨水管から南へ向かうなら、必ず斜面上部の切れ目を横切る。
そこへ照準を移す。
十秒。
二十秒。
煙だけが流れる。
先に出たのはアザミだった。
地面すれすれまで身体を低くし、斜面の窪みへ走る。
VSKは撃つ。
弾丸が、アザミの前方の土を跳ね上げた。
警告射撃ではない。
走る方向を変えさせ、後続と離すための射撃。
アザミが反射的に北へ寄る。
キキョウが煙から出る。
二人の間が、三メートル開いた。
VSKは二発目をキキョウへ向ける。
キキョウは刀を抜かない。
銃弾を切ることも、飛んでから避けることもできない。
VSKの銃口が自分へ向いたのを見て、走る方向を変えようとした。
だが、斜面では踏み替えが遅れる。
銃声。
弾丸が、キキョウの左上腕を貫いた。
キキョウ「ぐっ……!」
刀の鞘が手から落ちる。
キキョウは右手で拾わない。
アザミへ向かって走る。
アザミが拳銃をVSKへ向け、三発撃った。
VSKは再び擁壁へ隠れる。
その間に、キキョウとアザミは南側の工事用資材へ入った。
NTW-20『二名を確認。南へ移動中』
給水塔から見える位置へ出た。
NTW-20が照準する。
だが、二人は鉄骨とコンクリート管の間を通っている。
大口径弾を使えば、弾体と破片が工事区画の向こうまで飛ぶ。
外周警備人形も接近している。
確実な射線がない。
NTW-20『撃てない。背後に味方が入った』
ハル『無理に撃たないで。警備班は射線から外れて、南側を封鎖』
アザミが資材の陰へ到達する。
地面に積まれた古いコンクリート管の一つを押す。
管の下に、さらに細い排水路が隠されていた。
現在の基地図にも、レッドカンパニーの偵察記録にも残っていない。
二週間前に武器を隠した際、二人が自分たちで見つけた出口だった。
アザミ「先に入れ」
キキョウ「お主が先だ」
アザミ「腕を撃たれた者が最後尾を守れるか」
キキョウ「右腕は動く」
アザミは言い返す時間を使わなかった。
細い排水路へ身体を入れる。
キキョウが続く。
VSKが煙の外へ出た時、二人の足がコンクリート管の向こうへ消えるところだった。
VSK「停止してください!」
返事の代わりに、小さな爆発音がした。
火柱は上がらない。
排水路の入口を支えていた、傷んだコンクリートだけが崩れる。
土砂と破片が入口を塞いだ。
VSKは足を止める。
崩れた箇所へ近づかない。
二度目の爆薬が残されている可能性がある。
VSK『対象、未記載の排水路へ逃走。入口を爆破されました』
ハル『追跡を中止。工兵が安全を確認するまで近づかないで』
VSK『ですが、まだ遠くへは――』
ハル『VSK』
名前だけで、VSKは言葉を止める。
ハル『二人の任務は失敗しました。標的も証拠も無事です。ここで追って、あなたまで罠へ入る必要はありません』
VSKは、崩れた排水路を見る。
地面には血痕。
キキョウが落とした鞘。
アザミの測定器から外れた通信部品。
二人は逃げた。
だが、何も達成していない。
無傷でも、手ぶらでもなかった。
VSK『……了解。現場を確保します』
VSKは追わない。
落ちた鞘にも、すぐには触れない。
銃口を排水路へ向けたまま、工兵と警備班の到着を待った。
◇
基地外、南西の森林地帯。
細い排水路は、斜面の下を百五十メートルほど続いていた。
出口は、倒木と茂みに隠されている。
先に出たアザミが周囲を確認する。
追跡者はいない。
キキョウが続く。
左腕は上がらない。
服の袖が血で濡れている。
アザミは自分の上腕へ巻いていた止血帯を外し、キキョウの傷より上へ巻いた。
キキョウ「お主の傷が開くぞ」
アザミ「私のは掠り傷だ。お前のは貫通している」
止血帯を締める。
キキョウが僅かに顔を歪めた。
アザミは携帯端末を確認する。
待機させていた車両から応答がない。
基地側が周辺回線を遮断したため、遠隔起動できなくなっている。
アザミ「回収車両まで徒歩で四キロ」
キキョウ「歩ける」
アザミ「刀の鞘を失った」
キキョウ「刀はある」
抜き身の刀は、布を巻いて背中へ固定している。
誇れる姿ではない。
だが、捨ててはいなかった。
アザミ「次もあると言ったな」
キキョウ「言った」
アザミ「依頼は失敗した。こちらの顔も手口も知られた。次は、今日より難しい」
キキョウ「望むところだ」
アザミ「私は望んでいない」
アザミが先に歩き始める。
キキョウは、基地の方角を一度振り返った。
キキョウ「銃に負けたのではない」
アザミ「慰めか?」
キキョウ「事実だ。あの男一人なら、仕留められた」
アザミ「こちらも二人だった」
キキョウ「だからこそだ」
キキョウは、撃たれた左腕を見る。
キキョウ「あの男は、一人で我ら二人に勝とうとしなかった。生き残る時間を稼ぎ、友を呼び、我らの退路まで別の友へ任せた」
アザミ「それが指揮官というものだ」
キキョウ「なるほど」
キキョウが小さく笑う。
キキョウ「ならば私は、剣士ではなく指揮官に敗れたらしい」
アザミ「分析は歩きながらにしろ。出血が増えている」
キキョウ「承知した」
二人は林の奥へ消える。
依頼主へ持ち帰れるものは、失敗の報告だけだった。
◇
午前十一時十分。
S09基地、第二解析室。
基地内の警戒態勢は、まだ解除されていない。
キキョウとアザミが使用した保守端末。
通信妨害装置。
雨水管へ残された爆薬の一部。
キキョウが落とした刀の鞘。
すべてが、爆発物処理班の確認を受けたあと、別々の容器へ収められていた。
証拠原本は、中央地下の第二保管場所へ移送済み。
キング、クイーン13、ポーン01も無事だった。
負傷者は三名。
最初に襲われた施設警備人形。
駆動索と通信端子を損傷したが、コアと記憶領域に異常はない。
蓮。
左肩の切創と、胸部への被弾による打撲。
そして、宿泊所で薬を飲まされた本来の作業員二名。
作業員はすでに意識を取り戻し、医療施設で経過観察を受けている。
死亡者はいない。
それが、今回の襲撃で守り切れた最も大きな結果だった。
G11「保守端末の記録……ほとんど消されてる」
AK-12「ほとんど、ね」
AK-12が、復元された短い通信記録を表示する。
送信先は残っていない。
本文も暗号化されている。
だが、接続時刻と中継に使われた認証番号の一部が残っていた。
ポーン01「この番号は、政治連絡室が使用していた外部交換局と一致します」
UMP45「暗殺を直接命じた証拠になる?」
ポーン01「これだけでは不十分です。しかし、キングが持ち出した送金記録と組み合わせれば、同じ中継先が二度使われたことを示せます」
キング「少なくとも、偶然と言い張るのは難しくなる」
キング、クイーン13、ポーン01は、警備人形を挟んだ席へ座っている。
保護下に入ったとはいえ、解析資料へ自由に触れることは許されていない。
それでも、三人がいなければ、古い保守鍵も逃走路も特定できなかった。
ハル「三人の情報で、侵入者の動きを二度先回りできました。ありがとう」
クイーン13「我々を守るためでもありました」
ハル「それでも、助けられたことに変わりはないよ」
クイーン13は返事をしなかった。
代わりに、僅かに頭を下げる。
キング「これで、我々を受け入れたことを後悔しましたか?」
ハル「昨日も聞かれたね」
キング「状況が変わりましたので」
ハル「暗殺者に狙われるくらい重要な情報を持ってきた。昨日より、受け入れた意味は大きくなったと思ってる」
キング「前向きですね」
ハル「指揮官が先に後悔した顔をしたら、守っている人たちが不安になるでしょう?」
キングが、小さく息を吐く。
キング「やはり、私が知る指揮官とは随分違う」
ハル「悪い意味で?」
キング「今のところは、良い意味で」
ハルは頷き、AK-12へ向き直る。
ハル「依頼主まで辿れる?」
AK-12「今すぐ名前を出すのは無理ね。でも、相手は自分たちで一つ接点を増やした。消したかった記録を消せず、新しい記録まで置いていった」
UMP45「高い報酬になったわね。依頼主にとっては」
G11「次に同じ鍵は使えない……基地の互換機能も修正した」
ハル「ほかの復旧業者も再確認して。正規の業者を全部敵扱いにはしないで、名簿と作業内容を一件ずつ照合する」
AK-12「了解」
警戒を強める。
だが、基地を閉じ切って復旧を止めることはしない。
敵が本物の書類を使ったからといって、本物の作業員まで疑いだけで排除すれば、基地機能そのものが立ち行かなくなる。
ハルは、守ることと怯えることを混同しなかった。
◇
同時刻。
S09基地、医務室。
蓮は診察台へ座り、左肩の処置を受けていた。
傷は七センチほど。
深さは浅い。
洗浄したあと数針縫えば、それ以上の処置は必要ない。
胸部にも骨折はない。
防弾板へ当たった衝撃で、しばらく痛みは残る。
それでも、長期入院へ逆戻りするような負傷ではなかった。
衛生人形「本日は安静。左腕へ強い負荷を掛けなければ、明日から通常勤務へ戻れます」
蓮「戦闘は?」
衛生人形「四十八時間は禁止します」
蓮「長くないか?」
416「短いくらいよ」
診察台の横で、416が腕を組んでいる。
扉の近くにはVSK。
AN-94とAK-12も、負傷報告のため残っていた。
衛生人形「異論がある場合は、ハル指揮官へ申し立ててください」
蓮「却下される未来しか見えない」
AK-12「学習できて偉いわね」
蓮「今日はよく褒められる日だな」
AN-94「戦闘中の判断は適切でした。単独で敵を追わず、証拠移送を優先し、接触信号を送っています」
416「でも、最後は一人で残った」
蓮「好きで残ったわけじゃない。扉を閉められた」
416「分かってる」
416は短く答える。
責めたいのではない。
自分が扉の反対側へ残されたことを、まだ納得できていないだけだった。
VSK「私も、ボスが命令を無視したとは考えていません」
蓮「そう言ってもらえると助かる」
VSK「ですが、二十四メートルの通路で人間二名に包囲され、左肩を斬られ、胸部へ一発被弾しました」
蓮「事実を細かく並べなくていい」
VSK「観測結果の報告です」
蓮「やっぱり副官だな」
VSKの表情は変わらない。
だが、蓮が長期入院を必要としないと聞いてから、肩の力は僅かに抜けていた。
AN-94「キキョウはVSKの射撃で左上腕を負傷。アザミも、蓮の射撃により右上腕を負傷しています」
AK-12「二人を相手にして、両方へ傷を残した。悪くない成績よ」
蓮「勝ってない」
AK-12「標的は全員生存。証拠も無事。侵入者は任務を達成できず、装備と逃走車両を失った。こちらの勝ちでいいと思うけれど?」
蓮「俺一人なら、あそこで死んでた」
416「一人じゃなかったでしょう」
416が即座に返す。
蓮は416を見る。
416「扉が閉じたくらいで、勝手に一人になったことにしないで」
VSK「同意します」
AN-94「私も同意します」
AK-12「三対一ね。諦めた方がよさそう」
蓮「分かったよ」
蓮は右手を上げる。
左肩の縫合中であることを忘れたわけではない。
蓮「訂正する。俺たちの勝ちだ」
416が、ようやく腕を解いた。
416「それでいいの」
処置が終わる。
白い保護材が左肩を覆う。
衛生人形が、損傷したプレートキャリアと89式小銃を別の整備台へ運んだ。
小銃は被筒と負い紐を交換すれば、再使用できる。
防弾板も交換が必要だが、蓮の身体は残った。
武器は直せる。
傷も治る。
失えば戻らないものを、今回は一つも失わずに済んだ。
◇
意識の奥。
光のない、静かな場所。
蓮は椅子へ座っていた。
向かい側には、同じ顔をした男がいる。
金色の目。
口元には、いつもの軽い笑み。
だが、今日は奇妙な服も、ふざけた仕草もなかった。
戦闘服姿のまま、椅子の背へ両腕を乗せている。
レン「お疲れさま」
蓮「まだ起きてたのか」
レン「同じ頭の中にいるんだから、寝る場所も一緒だよ」
蓮「助言は役に立った」
レンが目を丸くする。
レン「えっ、今お礼を言った?」
蓮「調子に乗るなら取り消す」
レン「待って待って。大事に保存するから」
レンが胸元へ両手を当て、大げさに守る仕草をする。
蓮は息を吐いた。
レン「でもさ」
レンの声から、少しだけ笑いが消える。
レン「僕なら、一人でも勝てたかもしれないよ?」
蓮「だから何だ」
レン「悔しくないの? 自分一人じゃ勝てなかったって、あっさり認めちゃって」
蓮「事実だ」
レン「昔の君なら、死んでも認めなかった」
蓮「昔の俺なら、あの二人を見た時点で前へ出てた。キキョウだけ追って、アザミに横から撃たれて終わりだ」
レン「僕へ身体を渡せば、その先も戦えた」
蓮「そうかもな」
蓮は否定しない。
レンの方が痛みへ強い。
予測できない動きもする。
キキョウとアザミを混乱させ、一人で傷を増やせた可能性はある。
だが、味方の射線も、退路も、守るべき証拠も忘れた戦いになる。
勝ったとしても、何を失うか分からない。
蓮「俺はもう、一人で勝つ必要なんかない」
レンの笑みが止まる。
蓮「416が扉を開ける。AN-94が支える。AK-12とG11が回線を取り戻す。ポーン01が鍵を見つける。キングとクイーン13が逃走路を読む。G3とブレンが標的を守る。VSKとNTWが逃げ道を潰す。UMP45が情報を繋ぎ、ハルが全員を動かす」
蓮は、自分と同じ顔を正面から見る。
蓮「それで勝てるなら、それが一番いい」
レン「僕は、その中に入ってないの?」
蓮「勝手に身体を取らず、数を教えた」
レン「うん」
蓮「今日は役に立った」
レンが、今度は大げさに笑わなかった。
僅かに目を伏せる。
レン「そっか」
短い返事だった。
レン「じゃあ次も、呼ばれたら助言だけにするよ」
蓮「呼んでない時は出てくるな」
レン「そこは今後の協議事項ということで」
蓮「おい」
レンが椅子ごと暗闇へ下がっていく。
レン「またね、もう一人の僕」
声が遠ざかる。
蓮は追わない。
拒絶もしなかった。
◇
医務室の前。
蓮が扉を開ける。
廊下には、VSK、G3、ブレン、NTW-20が待っていた。
416とAN-94、AK-12も後ろから続く。
臨時特別小隊の全員が揃っている。
ブレン「二日間、戦闘禁止らしいな」
蓮「誰から聞いた」
NTW-20「基地の共有予定表。明日の訓練責任者から、あなたの名前が消えていたわ」
G3「その間の小隊指揮はVSKが引き継ぎます」
VSK「すでにハル指揮官から命令を受けています」
蓮「仕事が早いな」
VSK「ボスが休むことを拒否する前に、正式命令へしました」
蓮「信用がない」
416「実績に基づく評価よ」
全員が当然のように頷く。
蓮は言い返す言葉を探し、諦めた。
蓮「分かった。二日だけ任せる」
VSK「了解しました」
蓮「ただし、キキョウとアザミの装備分析には参加する。現場で見た動きを記録へ残したい」
VSK「座って行うのであれば許可します」
ブレン「副隊長ではなく、もう看護人だな」
VSK「必要な役割です」
NTW-20「否定できないわね」
廊下の先で、ハルが手を上げる。
ハル「全員いるね。状況報告を始めます」
蓮たちは、作戦室へ向かって歩き始めた。
一人が先へ出ない。
一人を後ろへ置かない。
武器を失っても、扉で分けられても、呼べば応える者がいる。
銃は強い。
よく研がれた刃も、人を殺すには十分だった。
だが、持つ者が一人なら、見られる方向も一つしかない。
友は、その死角へ立ってくれる。
だから蓮は、もう一人で勝つ必要がなかった。
はいどうもお久しぶりです~
やっと、戦闘がオワタ…チカレタ…
蓮の人格はどんな奴か楽しみですねぇ~
次回は…その後みたいな感じですぅ~
コメントとお気に入りお待ちしてます~
あ、あと統計調査的な意味でここすきをお願いします
※2026年8月31日リメイク完了
ヒロイン
-
416
-
VSK-94
-
大鳳A
-
蒼龍C
-
雷電
-
スカイレイダー