陸自はドールズフロントライン、海自は艦これとアズールレーン、空自はアッシュアームズ三つの世界でバラバラになりながらでも生き残る 作:ゴーストライターとかした、素人小説書き
艦これ·アズールレーン·ドールズフロントライン·アッシュアームズ
大丈夫な方は楽しんで見ていってね!
第20話 シリアス? いいえ、ギャグです
どこまでも暗い場所だった。
床も、壁も、天井も見えない。
その中央にだけ、古びた木の卓が置かれている。
卓の上には一升瓶が二本。
徳利が三本。
盃が三つ。
蓮とレンは、卓を挟んで座っていた。
蓮は一升瓶を持ち上げる。
酒を盃へ注がず、そのまま口へ運んだ。
レン「それ、僕が出した酒なんだけど」
蓮「俺の頭の中だろ。つまり俺の酒だ」
レン「心の共有財産という概念はないの?」
蓮「ない」
蓮が一升瓶を傾ける。
酒は確かに喉を通っている。
味もある。
だが、腹へ溜まる感覚はなく、酔いも回らない。
そもそも、ここにある酒が本物なのかも分からない。
レン「反省会なのに、もう反省する態度じゃないね」
蓮「反省はしてる」
レン「どの辺を?」
蓮「最初の五秒で、キキョウを斬る奴、アザミを撃つ奴と分けて考えたところだ」
蓮は卓の上へ指を二本立てる。
蓮「違った。あの二人は一組だ。片方へ銃口を向ければ、もう片方が動く。キキョウだけ見ればアザミに撃たれる。アザミだけ見れば、キキョウが間合いへ入る」
レン「うん。二人で一つの武器だった」
蓮「刀の奴が目立ちすぎるんだよ」
レン「君、派手なものを見ると追いかける癖があるもんね」
蓮「犬みたいに言うな」
レン「怪しい人影を見つけると、仲間を置いて走っていく」
蓮「……」
レン「銃声がすると、もっと速くなる」
蓮「……否定しづらいな」
レンが大きな盃へ酒を注ぐ。
水面へ、中央大窓通路での戦闘が映った。
柱から柱へ移るキキョウ。
その移動を射撃で支えるアザミ。
キキョウの刀が、蓮の小銃の被筒と負い紐を傷つけた瞬間。
映像が揺れる。
レン「それにしても、あの仮面の人は強かったね」
蓮「ああ。あの踏み込みと刀の重さは普通じゃない」
レン「でも、銃弾を斬ったわけじゃない」
蓮「飛んできた弾を見て避けたわけでもない。撃たれる前に隠れて、俺が撃てない時だけ前へ出た」
レン「刀が強いというより、刀を届かせるまでの作り方が上手い」
蓮「そこが一番厄介だな」
蓮は盃の中の映像を指で消した。
蓮「近接戦闘は鍛え直す。銃剣だけじゃ足りん。武器を壊された時と、左手を使えない時の動きも必要だ」
レン「四十八時間の戦闘禁止が明けてからね」
蓮「分かってる」
レン「今の間、少し長くなかった?」
蓮「分かってると言った」
レン「まあ、ゆっくりでいいんじゃない? 鍛錬は一晩で強くなる魔法じゃないし」
蓮「それも分かってる」
レン「素直だね。頭でも打った?」
蓮「酒瓶で打ってやろうか」
レン「まだ瓶は二本しかないから、大切にしよう」
レンが両腕で一升瓶を守る。
蓮は鼻で笑い、残っていた徳利を取った。
卓の上には、使われていない三つ目の盃がある。
蓮は、それを一度だけ見た。
レンがわざわざ三人分を用意した理由は聞かない。
聞けば、また曖昧な答えが返ってくる。
そう思っていたのだが。
レン「あ、そうだ」
レンが盃を置く。
レン「真面目な反省会はここまでにして、もっと重要な話をしよう」
蓮「キキョウとアザミの逃走先か?」
レン「VSKと416のこと」
蓮「どこが重要なんだ」
レン「君の今後の生存率に関わる」
蓮「戦闘能力の話か?」
レン「恋愛の話」
蓮「反省会に戻るぞ」
レン「逃げた」
蓮「逃げてない」
レン「じゃあ、どっちが好き?」
質問が速かった。
蓮は徳利を傾けたまま止まる。
蓮「仲間としては、どっちも大事だ」
レン「模範解答」
蓮「それ以上は考えてない」
レン「赤点」
蓮「何でだよ」
レン「二人とも、君が負傷したと聞いた瞬間の反応がすごかったよ。416は扉を素手で持ち上げようとしたし、VSKは狙撃位置から走って戻ろうとした」
蓮「任務を優先しただろ」
レン「した。二人とも立派だった。だから、任務が終わった今が危ない」
蓮「何が危ない」
レン「君が起きた時」
レンが指を二本立てる。
レン「片方は怒る」
一本目を折る。
レン「もう片方も怒る」
二本目も折る。
蓮「同じじゃねえか」
レン「怒り方が違う。416は言葉で逃げ道を塞ぐ。VSKは本当に出口を塞ぐ」
蓮「……妙に想像できるな」
レン「しかも二人とも、君の夕食を別々に頼んでる」
蓮「何で知ってる?」
レン「身体の耳から、外の音が少し漏れてくるんだよ。君が寝てる間、結構にぎやかだった」
蓮「起こせよ」
レン「せっかく二人で飲んでるのに?」
蓮「現実の飯の方が大事だ」
レン「食欲に負けた……」
レンが胸を押さえ、大げさに卓へ伏せる。
蓮「それで、何を頼んだんだ?」
レン「416は高蛋白、低脂肪、塩分控えめ。VSKは高熱量で、温かくて、食べやすいもの」
蓮「どっちも普通じゃないか」
レン「食堂側が別々の注文として受理した」
蓮「……二食出るのか?」
レン「それに君の通常食」
蓮「三食か」
レン「AN-94が栄養補助食を追加した」
蓮「四食」
レン「愛されてるね」
蓮「食料配給計画の不備だ」
レン「恋愛地雷原の中央に天幕を張って、補給の話を始める男は初めて見たよ」
蓮「俺は誰とも付き合ってない」
レン「だから怖いんだって」
蓮「何が」
レン「君は無意識に優しくして、相手が本気になった頃に『仲間として大切だ』って言う」
蓮「それの何が悪い」
レン「勘違い女製造機」
徳利が飛んだ。
レンの額へ真っすぐ当たる。
レン「痛っ!」
蓮「人聞きの悪い名前を付けるな」
レン「じゃあ、二人へ同じ返事をして、成り行きに任せるという案は――」
今度は盃が飛んだ。
レンは両手で受け止める。
レン「危ないなあ」
蓮「味方同士の射撃戦を誘発する助言は却下だ」
レン「やっぱり戦術の話にするんだ」
蓮「それより、さっきから気になってる」
蓮は卓の端を指す。
三つ目の盃。
まだ、一滴も注がれていない。
蓮「誰の分だ?」
レンの笑顔が僅かに止まる。
レン「さあ?」
蓮「前に言った、もう一人か」
レン「本人が来た時に聞けばいいよ」
蓮「いつ来る」
レン「それは僕にも分からない」
蓮「どんな奴だ」
レン「面白くない奴」
蓮「前は面白い奴って言っただろ」
レン「僕にとって面白い奴。本人は全然面白くない」
蓮「意味が分からん」
レン「会えば分かるよ。たぶんね」
遠くから、金属を叩く音が響いた。
一度。
二度。
三度。
卓の上の酒が揺れる。
暗闇の天井に、細い光が走った。
レン「ああ、時間みたいだ」
蓮「今度は床が割れないんだな」
レン「毎回同じ演出だと飽きるでしょう?」
金属音が、さらに大きくなる。
誰かが、現実のベッド脇に置かれた器具を動かしている。
蓮「じゃあ、またな」
レン「うん。またね」
蓮の輪郭が光へ溶けていく。
消える寸前、レンが呼び止めた。
レン「蓮」
蓮「何だ」
レン「起きたら、ちゃんと謝った方がいいよ」
蓮「誰に?」
レン「全員に」
答える前に、暗闇が消えた。
◇
午後四時十二分。
S09基地、医務室。
蓮は目を開けた。
白い天井。
消毒薬の匂い。
小さく作動する空調の音。
左肩には、縫合部を保護する白い被覆材が残っている。
胸には、防弾板越しに銃弾を受けた痣。
痛みはある。
だが、腕も指も動いた。
当然だった。
腕は失っていない。
蓮は左手をゆっくり開閉する。
肩を上げようとしたところで、傷が引きつった。
蓮「痛っ……」
動きを止める。
枕元の表示板に、衛生人形が残した指示が並んでいた。
左腕で二キログラム以上の物を持たないこと。
本日中は安静。
四十八時間、戦闘行為を禁止。
離床する場合は、呼出ボタンを使用すること。
臨時特別小隊の指揮は、VSKへ移管済み。
最後の一文だけ、表示色が赤い。
その下には、追記がある。
――無断で医務室を離れた場合、戦闘禁止時間を延長する。
蓮「信用がないな」
否定する材料はなかった。
蓮は上体を起こす。
眩暈はない。
足を床へ下ろす。
立っても、身体は安定していた。
廊下へ出るだけなら、左肩へ負担は掛からない。
そう判断した時。
腹が鳴った。
静かな医務室へ、思った以上に大きな音が響く。
蓮「……まず飯だな」
枕元には呼出ボタンがある。
蓮は一度、それを見る。
見ただけだった。
上着を羽織る。
左袖へ腕を通す時だけ、ゆっくり動かす。
医務室の扉を開けた。
◇
同時刻。
S09基地、第一会議室。
長机の中央へ、襲撃後の状況報告が投影されていた。
死者、ゼロ。
負傷者、三名。
施設警備人形一体は修復可能。
証拠原本および複製資料、損失なし。
侵入者二名は負傷した状態で逃走。
逃走用に用意されていた貨物車、装備保管箱、通信端末を押収。
その隣には、別の文書が表示されている。
レッドカンパニー本社が、襲撃から二時間後に発表した声明だった。
キング、クイーン13、ポーン01の三名は、グリフィンに拉致された。
持ち出された情報は、グリフィンが作成した偽造資料である。
S09基地は不法に社員と財産を拘束している。
根拠のない主張が、整った文章だけを与えられて並んでいる。
机の一方には、ドブルイニャ・ハル。
その隣にAK-12とUMP45。
反対側には、キング、クイーン13、ポーン01が警備人形を挟んで座っていた。
壁際にはG36C。
正面の大型画面には、グリフィン本部から参加するクルーガーの姿が映っている。
クルーガー『現状は理解した』
低い声が、会議室へ響く。
クルーガー『まず、S09基地の防衛に参加した全員へ感謝する。人的損失を出さず、保護対象と証拠を守った。判断も適切だった』
ハル「ありがとうございます」
クルーガー『だが、これで終わりではない』
クルーガーの視線が、キングたちへ移る。
クルーガー『レッドカンパニーは、三名の引き渡しを要求している。復興事業を管轄する議員事務所も、地域保安局へS09の査察を要請した』
ハル「襲撃を仕掛けて失敗した直後に、被害者の顔で査察ですか」
キング「彼ららしい手順です。銃で奪えなければ、書類で奪う」
UMP45「書類の方が、撃った人間の顔を隠せるものね」
ポーン01「議員事務所が公開した要請書を確認しました。作成時刻は、襲撃が失敗したと判断されるより四十分前です」
画面へ時刻が二つ表示される。
要請書の作成。
キキョウとアザミの撤退。
順番が逆だった。
クイーン13「暗殺が成功しても失敗しても、査察を送り込む予定だったのでしょう」
AK-12「成功していれば証拠の回収。失敗していれば、基地の不正を騒いでこちらの手を縛る」
ハル「随分と準備がいいね」
キング「準備だけは、いつも良い会社でした」
自嘲でも、未練でもない。
キングは事実として言った。
クルーガー『三名をレッドカンパニーへ引き渡すことはない』
クイーン13の肩から、僅かに力が抜ける。
ポーン01は表情を変えない。
だが、卓の下で握っていた手を開いた。
クルーガー『ただし、直ちに正式なグリフィン社員として登録することもできない。供述と資料の検証には時間が必要だ』
キング「承知しています」
クルーガー『それまでは、三名を保護下にある協力証人として扱う。行動制限は継続。情報への接触も、担当者の監督下に限る』
キング「異存ありません」
クルーガー『S09にいる他のレッドカンパニー捕虜についても、同じ基準で個別に調査する。襲撃や民間人への犯罪へ直接関与した者は、証拠と共に司法機関へ移送する。関与が確認できない者には、第三者機関を介した退職と保護の選択肢を与える』
ハル「本社へ一括で返すことは?」
クルーガー『しない。返した先で口を塞がれる可能性がある』
キング「妥当です」
短い返答だった。
かつての部下を、無条件で自分の側へ置けとは言わない。
それぞれが自分で選べるようにする。
キングが第七検査所で出した最後の命令と、同じだった。
ハル「証拠は?」
クルーガー『消さない』
クルーガーは迷わなかった。
クルーガー『原本は別施設へ移す。S09には検証に必要な複製だけを残す。入手経路は秘匿するが、政治家と企業幹部へ繋がる記録そのものは保全する』
キング「我々が交渉で求めた条件どおりですね」
ハル「捕虜の安全と、情報を持ち出した三人の記録抹消。証拠そのものを消す約束はしていないからね」
クイーン13「本社は、我々の社員記録をすでに抹消しています」
ポーン01「正確には、死亡扱いです。時刻は本日午前九時。襲撃開始より前に処理されています」
会議室が静かになる。
暗殺者が到着する前から、三人は会社の記録上で死んでいた。
任務が成功すれば、そのまま現実にする。
失敗しても、存在しない社員が拉致されたと発表し、都合に応じて記録を書き換える。
命も名前も、会社の帳簿では同じ一行だった。
ハル「……腹が立つな」
クルーガー『分かるが、机は叩くな』
ハルが上げかけた右手を止める。
ハル「まだ何もしてません」
クルーガー『顔を見れば分かる』
AK-12「ふふっ」
ハル「AK-12。何がおかしいの?」
AK-12「いえ、よく見ているなと思って」
ハル「あなたも回転椅子で遊ぶのをやめなさい」
AK-12の椅子が、ゆっくり一回転して止まる。
AK-12「これは集中するための動作よ」
G36C「先ほどから九周しています」
AK-12「数えてたの?」
G36C「警備中ですので」
クルーガーが咳払いする。
僅かに崩れた空気が戻った。
クルーガー『レッドカンパニーへは、契約違反と不当な武力行使に対する正式な抗議を出す。襲撃に関与した下請け企業と資金経路も凍結させる』
ハル「銃で殴ってきた相手を、帳簿で殴り返すんですね」
クルーガー『その表現は報告書に書くな』
ハル「分かりました」
UMP45「でも、意味は合ってるわね」
キング「社長は、銃撃より数字を失う方を嫌います」
クルーガー『ならば、効果はあるだろう』
会議は、次の議題へ移る。
押収した通信端末。
暗殺者へ発行された旧保守鍵。
政治連絡室が使った外部交換局。
G11が復元した接続履歴と、ポーン01が持ち出した契約番号を照合する。
偶然では説明できない重なりが、少しずつ増えていた。
その最中。
AK-12の手元で、小さな通知音が鳴った。
AK-12が端末を見る。
目を細めた。
AK-12「あら」
ハル「何?」
AK-12「蓮が起きたわ」
クルーガー『渡邉蓮か』
ハル「衛生人形から連絡は来てないけど」
AK-12「呼出ボタンを押してないもの」
ハル「……どこへ行ったの?」
AK-12が表示を切り替える。
医務室前の廊下。
左肩を庇いながら歩く蓮の後ろ姿が映る。
G36C「無断離床ですね」
ハル「警備映像へ勝手に入ったの?」
AK-12「今は正式に監視権限を借りているわ。侵入者が別経路を残していないか確認するために」
UMP45「その権限で、医務室から出た人間を追跡してるの?」
AK-12「重要人物の生存確認」
ハル「行き先は?」
AK-12「食堂」
会議室の空気が止まった。
ハルが額へ手を当てる。
ハル「また?」
クルーガー『また、とは何だ』
G36C「何か問題が?」
ハル「渡邉蓮という人間には、過去二十八日間で、救護室の無断離床、訓練場への無断侵入、それから食堂の臨時食料消費報告が出ています」
キング「最後だけ性質が違いませんか?」
ハル「私もそう思いたいんだけどね」
AK-12の端末へ、さらに通知が届く。
AK-12「食堂から照会。渡邉蓮名義の特別食が四件、重複しているそうよ」
ハル「四件?」
AK-12「通常食。416の回復食。VSKの高熱量食。AN-94の栄養補助食」
G36C「すべて提供するのですか?」
AK-12「本人が食堂へ到着したわ」
端末から、食堂の職員が送った短い文章が表示される。
――本人、全量を食べると主張。
ハル「止めて」
AK-12「誰を?」
ハル「蓮を」
AK-12「416とVSKには、もう通知したわ」
ハル「何で一番危ない二人を同時に呼んだの!?」
AK-12「一人だと止められないかもしれないでしょう?」
会議室の全員が、AK-12を見る。
AK-12は微笑んだ。
AK-12「基地の危機よ」
クルーガー『会議を五分休止する』
クルーガーが即座に告げた。
ハル「本気ですか?」
クルーガー『状況を確認しろ。私も、この報告だけでは理解できん』
キング「私も同行してよろしいですか?」
クイーン13「キング」
キング「この基地の指揮系統を知るためだ」
UMP45「その言い訳、無理があるわよ」
真剣な会議は、そこで中断された。
◇
S09基地、食堂。
蓮が到着した時、夕食の提供開始までは四十分ほど残っていた。
それでも厨房は動いている。
襲撃後の警戒勤務に入った人員へ、時間をずらして食事を出しているためだった。
蓮は配膳口へ立つ。
中にいたS.A.T.8が、蓮の顔と左肩を交互に見た。
S.A.T.8「医務室へいるはずじゃなかった?」
蓮「歩ける患者は、飯を食っちゃいけないのか?」
S.A.T.8「呼べば運んだのに」
蓮「自分で歩いた方が早い」
S.A.T.8「その考えで、何回怒られた?」
蓮「数えてない」
厨房の奥から、スプリングフィールドが顔を出す。
スプリングフィールド「渡邉さん。お食事でしたら、すでに用意していますよ」
蓮「話が早くて助かる」
スプリングフィールド「ただ、少し問題がありまして」
彼女が横へ退く。
調理台の上に、四つの盆が並んでいた。
一つ目。
鶏肉、卵、豆類、野菜、薄味のスープ。
二つ目。
肉と根菜の煮込み、黒パン、温かい粥。
三つ目。
基地の通常食。
四つ目。
栄養補助飲料、果物、ゼリー、錠剤を収めた小袋。
蓮「豪華だな」
S.A.T.8「感想はそれだけ?」
蓮「全部俺のか?」
スプリングフィールド「登録上は、すべて渡邉さんのお名前です」
蓮「なら食う」
S.A.T.8「迷わないんだ」
近くの席で、AA-12が菓子袋から手を止めた。
AA-12「噂は本当だったか」
その向かいに座るMDRも、端末から顔を上げる。
MDR「何の噂?」
AA-12「食堂の献立表に名前が載った人間がいるって話」
蓮「献立じゃない。臨時配膳表だ」
AA-12「本人が知ってる」
MDR「えっ、この人が『渡邉蓮対応表』の渡邉蓮?」
蓮「対応表って何だ」
S.A.T.8が配膳口の内側へ貼られた紙を裏返す。
そこには、太い文字で注意事項が書かれていた。
一度に提供する量は、最大二食分。
追加は十分間隔。
早食いをさせない。
飲料を先に渡す。
負傷時は、衛生担当者へ確認する。
蓮「俺、猛獣か何かだと思われてない?」
S.A.T.8「猛獣は注文票を四枚も出さないよ」
蓮「俺が出したのは一枚もない」
スプリングフィールド「今回は、ですね」
蓮「今回はって付けるな」
MDRが端末を持って近づく。
MDR「一枚いい?」
蓮「何に使う」
MDR「基地内掲示板。『重傷者、医務室を脱走して四人前へ挑む』」
蓮「重傷じゃない」
MDR「じゃあ、『軽傷者、四人前へ挑む』」
蓮「挑んでもいない。食うだけだ」
MDR「もう見出しみたいな返しじゃん。写真映えするから、盆を全部持って」
蓮「左手で二キロ以上持つなって言われてる」
MDR「そこだけ医者の言うことを聞くの?」
AA-12「医務室を抜け出した時点で、説得力ないだろ」
蓮は反論せず、盆を二つだけ席へ運んだ。
左手は使わない。
残りはS.A.T.8が運ぶ。
S.A.T.8「一気に詰め込まないで。ゆっくり食べること」
蓮「了解」
蓮は両手を合わせる。
蓮「いただきます」
最初にスープを飲む。
それから鶏肉を切る。
左腕は卓の上へ置かず、身体の近くに保つ。
食べる速度は速い。
だが、皿から皿へ無秩序に手を伸ばすことはない。
一品ずつ口へ運び、飲み込んでから次を取る。
AA-12「思ったより普通だな」
蓮「何を期待してた」
AA-12「皿まで食うのかと」
蓮「食わねえよ」
MDR「机は?」
蓮「お前らは俺を何だと思ってるんだ」
スプリングフィールド「食欲があるのは良いことです」
スプリングフィールドが微笑む。
蓮は黒パンをちぎり、煮込みへ浸した。
蓮「うまい」
スプリングフィールド「ありがとうございます」
蓮「これを頼んだのは?」
スプリングフィールド「VSKさんです。温かくて、なるべく身体へ負担が少ないものを、と」
蓮が隣の盆を見る。
蓮「こっちは416か」
S.A.T.8「よく分かったね」
蓮「塩分と脂を削って、蛋白質を増やしてる。あいつはこういう時だけ細かい」
MDR「へえ」
MDRの端末が蓮へ近づく。
MDR「詳しく」
蓮「何でだ」
MDR「二人の女性が同じ男性へ別々に食事を用意した経緯について」
蓮「負傷者へ飯を頼んだだけだろ」
MDR「当事者だけが何も分かってない型だ」
AA-12「面倒な奴だな」
蓮「初対面に近い奴らへ言われる筋合いはない」
AA-12「初対面に近くても分かる」
食堂の入口で、扉が開いた。
規則正しい足音が近づく。
蓮は振り返らない。
誰が来たのか、見なくても分かった。
416「見つけた」
食堂の空気が、僅かに冷えた。
416は走らない。
蓮の左肩へ傷があることを知っている。
そのため、ゆっくり歩いてくる。
ゆっくりであることが、かえって怖かった。
蓮は黒パンを置く。
蓮「よう」
416「『よう』じゃない」
蓮「元気そうだな」
416「誰のせいで疲れたと思ってるの?」
蓮「キキョウとアザミ」
416「半分正解。残り半分はあなたよ」
416は蓮の前へ立つ。
怒っている。
目元には、戦闘直後から休んでいない疲労が残っていた。
それでも、蓮の顔を見た瞬間だけ、張り詰めていたものが僅かに緩んだ。
蓮は見逃さなかった。
だが、それを口にすれば本当に撃たれかねないので黙っている。
416「どうして医務室を出たの?」
蓮「腹が減った」
416「呼出ボタンは?」
蓮「押してない」
416「どうして?」
蓮「歩けたから」
416の眉が動く。
MDR「すごい。全部、悪手を選んでる」
AA-12「才能だな」
416「あなたたち、少し黙ってて」
MDR「はい」
AA-12「怖っ」
416は蓮へ向き直る。
416「傷が開いたらどうするの?」
蓮「開いてない」
416「開いてからじゃ遅いでしょう!」
声が食堂へ響く。
蓮は言い返そうとして、やめた。
レンの言葉を思い出したためだった。
起きたら、全員へ謝れ。
蓮「……悪かった」
416が止まる。
416「何?」
蓮「一人で残って、心配掛けた。医務室から勝手に出たことも謝る」
416「……」
蓮「聞こえなかったなら、もう一度――」
416「聞こえた」
416は顔を僅かに逸らす。
416「聞こえたから、それ以上言わなくていい」
耳が赤くなっている。
MDRの端末が持ち上がる。
416は見ずに言った。
416「撮ったら、その端末を分解する」
MDR「まだ撮ってないよ」
416「『まだ』?」
MDR「今後も撮りません」
再び、入口の扉が開いた。
今度の足音は速い。
VSK「ボス!」
VSKが食堂へ入ってくる。
蓮を見つける。
一歩目で駆け出しかけた。
二歩目で、蓮の左肩にある白い被覆材を見た。
急停止する。
床へ靴底が擦れる音がした。
VSK「……」
蓮「今、飛びつこうとしただろ」
VSK「していません」
蓮「嘘つけ」
VSK「負傷者へ、そのようなことはしません」
416「止まらなかったら撃とうと思ったわ」
VSK「416さんは黙っていてください」
VSKは呼吸を整える。
それから蓮の前へ進んだ。
仮の小隊指揮官として、姿勢を正す。
VSK「渡邉蓮小隊長」
蓮「今の小隊長はお前だろ」
VSK「では、隊員へ命令します。直ちに医務室へ戻ってください」
蓮「飯を食い終わってからでいいか?」
VSK「医務室で食べられます」
蓮「ここまで運んだ料理を、また戻すのか?」
VSKが四つの盆を見る。
その中に、自分が頼んだ煮込みを見つける。
隣には、416の回復食。
さらに通常食と栄養補助食。
VSK「……なぜ、こんなに?」
416「あなたも頼んだの?」
VSK「『も』?」
416とVSKの視線が交わる。
蓮は残った煮込みへ手を伸ばす。
416「蓮」
VSK「ボス」
両側から同時に呼ばれ、手を止める。
蓮「はい」
MDR「返事が良い」
AA-12「さっきまでと別人だな」
416「高熱量すぎるでしょう。負傷直後なのよ」
VSK「蛋白質だけでは身体が冷えます。温かい食事が必要です」
416「スープが付いてる」
VSK「量が少ないです」
416「多ければいいわけじゃない」
VSK「ボスは食べます」
416「知ってるわよ」
VSK「では問題ありません」
416「栄養の配分の話をしてるの!」
蓮が二人の間へ右手を上げる。
蓮「どっちもうまい。それでいいだろ」
416「あなたは黙って食べてて」
VSK「今は我々が話しています」
蓮「俺の飯の話だよな?」
二人は答えない。
MDRがAA-12へ囁く。
MDR「記事の題名、決まった」
AA-12「何?」
MDR「『代理指揮官、配給計画を発端に包囲される』」
蓮「聞こえてるぞ」
MDR「元代理指揮官?」
蓮「そこじゃない」
食堂の入口から、三度目の足音が聞こえた。
AN-94、G11、G3、ブレン、NTW-20。
その後ろにUMP45とAK-12。
さらにハル、G36C。
最後に、警備人形を伴ったキング、クイーン13、ポーン01まで入ってくる。
蓮は食事の手を完全に止めた。
蓮「何でこんなに来るんだ」
AK-12「基地の危機だから」
ハル「その言い方はやめなさい」
AN-94「薬を持ってきました」
AN-94が小袋を卓へ置く。
AN-94「鎮痛剤と抗生物質です。食後に服用してください」
蓮「助かる」
AN-94「ただし、四人前すべてを食べた後という意味ではありません」
蓮「分かってる」
G11「絶対、分かってない……」
G3「医務室から出たと聞いて、また戦いに行ったのかと思いました」
蓮「俺はそこまで馬鹿じゃない」
ブレン「皆、そこを信用していないから集まったんだ」
NTW-20「実績に基づく判断ね」
蓮「その言い回し、今日何回目だ?」
VSK「必要な回数です」
キングが、卓の上を観察する。
四つの盆。
蓮の左右に立つ416とVSK。
背後を塞ぐ臨時特別小隊。
正面にはハル。
キング「中央大窓通路より、退路がありませんね」
蓮「見れば分かるだろ」
キング「キキョウとアザミを相手にした時より、不利に見えます」
蓮「否定できん」
クイーン13がキングを見る。
クイーン13「楽しそうですね」
キング「興味深いだけだ」
UMP45「それを楽しんでるって言うのよ」
ハルが卓の端へ立つ。
蓮の左肩を見る。
ハル「傷は?」
蓮「開いてない。痛みも許容範囲」
ハル「衛生人形を呼ばなかった理由は?」
蓮「歩けたから」
ハル「さっき聞いた答えと同じだね」
蓮「事実だからな」
ハル「治療担当の許可を取らずに歩く理由にはならないよ」
蓮「……悪かった」
ハルが少しだけ目を見開く。
AK-12「今日は素直ね」
蓮「さっきから、そればかり言われる」
ハル「では、処分を伝えます」
蓮「処分?」
ハル「戦闘禁止四十八時間は、そのまま。無断離床による延長はしません」
蓮「助かる」
ハル「ただし、本日中は単独行動禁止。医務室へ戻るまで、VSKと416の監視下に置きます」
蓮「監視役が二人も必要か?」
ハル「一人だと、言いくるめるでしょう?」
蓮「二人だと意見が割れる」
416「割れない」
VSK「今回に限り、同意します」
両側から同時に返事が来る。
蓮はハルを見る。
蓮「人選を変えてくれ」
ハル「却下」
AK-12「全会一致ね」
蓮「俺が反対してる」
AK-12「対象者に投票権はないわ」
食堂の壁面端末が点灯する。
休止中だったクルーガーが、会議回線から接続してきた。
クルーガー『状況は確認できたか』
ハル「はい。食料庫は無事です」
クルーガー『私は負傷者の状況を聞いた』
蓮「渡邉蓮です。軽傷。明日から通常勤務へ戻れます」
クルーガー『渡邉蓮。報告どおり、負傷しても大人しくしていられんらしいな』
蓮「腹が減っただけです」
クルーガー『そういうことにしておこう。基地一つを守った当日に、食堂で新しい警報を発生させるな』
蓮「俺は警報を出してません」
その場にいる全員の視線が、AK-12へ集まる。
AK-12「比喩よ」
ハル「あなたが『基地の危機』と通知したんでしょう」
AK-12「迅速に人を集めるには、分かりやすい表現が必要でしょう?」
G36C「通知記録には、『食料備蓄、四十八時間以内に重大な影響の可能性』とあります」
AK-12「可能性とは書いたわ」
S.A.T.8「ありません」
厨房から即答が飛ぶ。
スプリングフィールド「倉庫の在庫は正常です。四食分を提供しても問題ありません」
AK-12「だそうよ」
ハル「後で始末書」
AK-12「ええー」
クルーガー『書かせろ』
AK-12「はーい」
会議室で保たれていた真剣さは、完全に消えていた。
キングが小さく咳払いする。
キング「渡邉蓮」
蓮「何だ」
キング「先ほどの戦闘について、まだ礼を述べていませんでした」
食堂のざわめきが僅かに遠のく。
キング「我々三名が生きているのは、あなたと部隊が時間を稼いだからです。感謝します」
クイーン13とポーン01も頭を下げる。
蓮は右手に持っていたフォークを置いた。
蓮「あんたたちが保守鍵と逃走路を教えたから、皆が間に合った。俺一人で守ったわけじゃない」
キング「友は銃よりも勝る、ですか」
蓮「誰から聞いた?」
AK-12「私」
蓮「勝手に広めるな」
キング「良い言葉だと思いますよ」
蓮「俺が言った言葉じゃない」
416「でも、あなたが証明した」
VSK「同意します」
蓮は左右を見る。
416。
VSK。
その後ろに、共に戦った者たちがいる。
否定する必要はなかった。
蓮「まあ、そういうことにしておく」
深刻な話は、そこで終わった。
MDR「じゃあ記念写真を――」
UMP45「駄目」
MDR「まだ何も言ってない!」
UMP45「端末を構えた時点で分かるわよ」
UMP45がMDRの背後へ回る。
保存前の撮影画面を閉じる。
MDR「私の報道の自由が!」
UMP45「この基地の位置を推測できる情報を、外へ出す自由はないの」
MDR「基地内掲示板だけ!」
UMP45「題名は?」
MDR「『二人の美少女に同時配膳された男の末路』」
416「消して」
VSK「完全に消してください」
MDR「まだ保存してないってば!」
AA-12が菓子を口へ入れる。
AA-12「命拾いしたな」
MDR「誰のせいで取材対象が増えたと思ってるの?」
AA-12「勝手に増やしたのはお前だ」
その横で、G11が空いている椅子へ座る。
G11「騒ぎが終わったなら、私も何か食べたい……」
S.A.T.8「夕食は四十分後」
G11「今、四人前ある」
蓮「俺のだ」
G11「一人で全部食べるの?」
蓮「残したら作った奴に悪い」
416「二食分は医務室へ持っていく」
VSK「ここでは一食分だけにしてください」
蓮「もう一食半くらい食ったぞ」
416とVSKが、同時に盆を見る。
鶏肉の皿は空。
煮込みも半分近く減っている。
会話をしている間も、蓮は止まっていなかった。
VSK「いつの間に……」
416「目を離した隙に食べないで!」
蓮「食堂で飯を食って、何が悪い!」
その日、S09基地で最も大きな声が響いたのは、銃撃を受けた中央通路ではなかった。
夕方の食堂だった。
◇
十五分後。
蓮は医務室へ戻る廊下を歩いていた。
左には416。
右にはVSK。
二人とも、蓮の腕を掴んではいない。
左肩へ負担を掛けないためだった。
代わりに、逃げられる方向を完全に塞いでいる。
後ろからAN-94が薬と栄養補助食を持って続く。
さらに後ろでは、G3とブレンが残った食事の盆を運んでいた。
蓮「捕虜を護送した時より厳重じゃないか?」
ブレン「捕虜は、ここまで脱走を繰り返さない」
G3「蓮さんは、止められても理由を付けて出ますから」
蓮「今回は腹が減ったという正当な理由がある」
416「呼べば食事は届いた」
VSK「反論は認めません」
蓮「臨時指揮官になって、厳しくなったな」
VSK「ボスが命令を聞かないからです」
AN-94「VSKの判断は正しいです」
蓮「三対一か」
意識の奥から、笑い声が聞こえた。
レン『モテ期だね』
蓮(黙れ)
レン『両側を美人に固められて、後ろにも一人。羨ましいなあ』
蓮(代わるか?)
レン『今回は遠慮しておくよ』
蓮(賢明だ)
医務室へ着く。
扉の前で、衛生人形が待っていた。
笑顔だった。
目だけが笑っていない。
衛生人形「渡邉さん」
蓮「はい」
衛生人形「呼出ボタンは、故障していましたか?」
蓮「いいえ」
衛生人形「表示板の文字は、読めませんでしたか?」
蓮「読めました」
衛生人形「では、無断離床ですね」
蓮「結果としては」
衛生人形「戦闘禁止は四十八時間のままです。ただし、本日中の単独歩行許可を取り消します。移動には必ず付き添いを付けてください」
蓮「ハル指揮官の命令と同じじゃないか」
衛生人形「同じ命令を、治療上の制限としても記録します。これで、どちらか一方だけを都合よく解釈することはできません」
蓮がハルを探すように廊下を見る。
ハルはいない。
食堂で会議を再開すると言い、先に戻っていた。
蓮「やられた」
416「当然よ」
VSK「妥当です」
AN-94「異論はありません」
衛生人形が扉を開ける。
衛生人形「食事後に服薬。三十分後に傷を確認します。それまではベッドから動かないでください」
蓮「了解」
衛生人形「本当に?」
蓮「今度は本当に」
蓮はベッドへ戻った。
横の机へ、残った食事が並べられる。
416は窓側の椅子。
VSKは扉側の椅子。
AN-94は薬の時刻を確認している。
出口は一つ。
窓は開かない。
蓮は匙を持ち、煮込みを一口食べた。
蓮「うまい」
VSK「そうでしょう」
416「私が頼んだ方も残さないで」
蓮「食うよ。全部食う」
AN-94「急がず、よく噛んでください」
蓮「はいはい」
三人の視線が同時に向く。
蓮「……了解しました」
午前中には、暗殺者が基地へ侵入した。
午後には、企業と政治家を相手にした交渉が始まった。
夕方には、一人の負傷者をベッドへ戻すため、臨時特別小隊の半数が動いた。
シリアスなのかと問われれば、確かにシリアスだった。
少なくとも、食堂へ着くまでは。
それ以降については。
蓮が逃げられないよう扉の前へ椅子を置くVSKと、食事の速度を監視する416と、服薬時刻を秒単位で測るAN-94を見れば、答えは明らかだった。
いいえ。
ギャグです。
次回はウマ娘書くから遅れます
コメントとお気に入りよろしくです
今回はバイトが長くなりそうだからさっさとキリを付けるために早足で打ちまくったのでが字があっても悪しからず
※2026年8月31日リメイク完了
ヒロイン
-
416
-
VSK-94
-
大鳳A
-
蒼龍C
-
雷電
-
スカイレイダー