陸自はドールズフロントライン、海自は艦これとアズールレーン、空自はアッシュアームズ三つの世界でバラバラになりながらでも生き残る   作:ゴーストライターとかした、素人小説書き

53 / 74
艦これはCアズレンはAと表記させていただきますのでお願いします。

クロスオーバーなので悪しからず

それではどうぞ


4-1 そのお部屋にいるのは世界最強と天才だ

4-1

 

そのお部屋にいるのは世界最強と天才だ

 

 呉鎮守府近海海戦から、三週間後。

 

 鎮守府から少し離れた、天城の私邸。

 

 開け放たれた障子の向こうで、桜の葉が揺れていた。庭の池には薄い雲が映り、生垣の切れ目からは、陽を受けた海が細く見えている。

 

 工廠の槌音も、ここまでは遠い。

 

 部屋の中では、それよりずっと小さな音が続いていた。

 

 ぱちり。

 

 盤へ置かれた駒から、白い指が離れる。

 

天城(KAN-SEN)「どうぞ」

 

隼人「……少々、お待ちください」

 

 隼人は盤面を見つめたまま答えた。

 

 手元の湯呑みには、半分ほどの茶が残っている。茶菓子には、まだ手をつけていない。

 

 対する天城は、ひと口だけ茶を含んだ。

 

 隼人が攻めれば受け、手を変えれば、それに合わせて形を変える。無理な攻めは一度もない。それでいて気づけば、動かしたい駒の前へ、天城の駒が利いていた。

 

 隼人が銀を進める。

 

 天城はすぐに応じず、少し考えてから駒を取った。

 

 その間が、かえって厄介だった。

 

隼人「赤城さんから、お強いとは聞いていましたが」

 

天城(KAN-SEN)「買いかぶっていらっしゃいますよ。長く遊んでいるだけです」

 

隼人「以前、娯楽室で加賀さんが苦しんでいた理由が分かりました」

 

天城(KAN-SEN)「あの子は、取りたい駒をよく見ますから」

 

隼人「私は?」

 

天城(KAN-SEN)「指し終わってから、お教えします」

 

 柔らかくかわされた。

 

 今日は、朝から仕事の予定を入れていない。

 

 墜落と海戦で負った裂傷や打撲は治り、治療も投薬も終わっていた。左肩を動かしても痛みや引っ掛かりはなく、歩くことも、走ることも、荷物の持ち運びも難なく行える。

 

 すでに通常の勤務と訓練へ復帰しており、今日はその合間に取った休暇だった。

 

 せっかくなら、以前から気になっていた相手と一局。

 

 そう考えて対局を申し込むと、天城は自宅へ来るよう誘ってくれた。その結果が、これだった。

 

天城(KAN-SEN)「こちらの暮らしには、少し慣れましたか?」

 

隼人「和文タイプライターには、随分慣れました。欲しい文字を探す時間も短くなりましたし」

 

天城(KAN-SEN)「お仕事のことが、一番に出てくるのですね」

 

隼人「……食堂の場所も覚えました」

 

天城(KAN-SEN)「それは何よりです」

 

 天城の口元が緩む。

 

 隼人は飛車の位置を確かめ、別の駒へ手を伸ばした。

 

隼人「王手です」

 

天城(KAN-SEN)「はい」

 

 慌てることなく、天城が受ける。

 

 隼人は、取れる駒を見た。

 

 取れば、攻めを続けられる。

 

 だが、そこまで順調なことの方が気に掛かった。

 

天城(KAN-SEN)「以前いらした部隊でも、将棋は?」

 

隼人「たまに。相手によっては、途中から将棋ではなくなりましたが」

 

天城(KAN-SEN)「と、仰いますと?」

 

隼人「負けそうになると、駒の動かし方について独自の解釈を始める者がいまして」

 

天城(KAN-SEN)「まあ」

 

隼人「最終的には、盤を片づけるところまでが対局でした」

 

 取り上げた将棋盤の向こうで文句を言う、よく知った顔が浮かぶ。

 

 隼人は、その顔を追いかける前に駒を置いた。

 

天城(KAN-SEN)「特殊作戦群、でしたね」

 

隼人「ええ。最後に所属していたのは、その第5小隊です」

 

 任用の際に伝えた経歴は、天城も承知している。

 

 ただ、書類に並んだ部隊名だけで、その中の暮らしまで分かるわけではなかった。

 

天城(KAN-SEN)「海の軍人でありながら、陸でも戦う。随分、幅の広いお役目に思えます」

 

隼人「海から入ることも、空から入ることもありました。山で動くことも、市街地で動くことも。必要に応じて装備と編成を変える部隊です」

 

天城(KAN-SEN)「何でもできる方を、集めていたのですか?」

 

隼人「皆、何でもできる顔はしていましたね」

 

 隼人は、少しだけ笑った。

 

隼人「ですが、得意なことは違います。誰が先へ出て、誰が支え、誰が最後まで残るか。それを分かっているから、難しい仕事も引き受けられた」

 

天城(KAN-SEN)「信頼していらしたのですね」

 

隼人「はい」

 

 今度は、返事に間がなかった。

 

 天城は、その短い答えを聞いてから駒を進める。

 

天城(KAN-SEN)「そのような部隊が、必要な世の中だったのですね」

 

 隼人の指が止まった。

 

 庭で、葉擦れの音がする。

 

隼人「世界大戦がありました。そのあとに、日本でも内戦が起きた」

 

 作戦の場所も、相手の名前も口にはしない。

 

 天城も、それを求めなかった。

 

隼人「大きな戦争が終われば、全部片づくわけではありません。武器も、恨みも、戦うことをやめられない人間も残ります」

 

天城(KAN-SEN)「貴方たちは、そのあとも?」

 

隼人「ええ。必要とされました。必要だと、言われました」

 

 二度目の言葉は、僅かに低かった。

 

 天城は相槌を挟まず、待っている。

 

隼人「こちらへ来て、最初は奇妙に思いました。人間同士で争うより先に、海の向こうへ向き合わなければならない。それだけは、皆が承知しているように見えたので」

 

 隼人の知る世界では、戦争が終わる前から、次の敵を探し始めていた。

 

 国連は崩れ、NATOという枠組みも失われた。昨日までの協力相手が、今日には通せない海域を増やし、明日の脅威として報告書へ載る。

 

 日本も、その外にはいられなかった。

 

隼人「少なくとも、協力する理由が残っている。こちらの方が、まだ――」

 

 言いかけて、止める。

 

 海戦で戻らなかった搭乗員たちの顔を、自分は全員知っているわけではない。

 

 天城の家へ来る途中にも、焼けたままの建物があった。

 

隼人「……失礼しました。どちらがましかなどと、私が決められる話ではありませんね」

 

天城(KAN-SEN)「見えるものが変われば、考えも変わります。今、お気づきになったのでしょう?」

 

隼人「はい」

 

 天城が一手、指す。

 

 隼人は盤面へ目を戻した。

 

 取った駒は増えている。

 

 しかし、自陣が窮屈だった。

 

 攻めを継ごうとすれば受けが足りず、受けへ戻れば、進めた駒が取り残される。

 

天城(KAN-SEN)「向こうへ残してきたものが、気になりますか」

 

隼人「気にならないと言えば、嘘になります」

 

 蓮、勇翔、小貝。

 

 思い出せない女性。

 

 誰が、どこにいるのか。

 

 自分がここへ来たあと、元の世界はどうなったのか。

 

 どれにも答えは出ていない。

 

隼人「ですが、今日は将棋を指しに来ました」

 

 隼人は、手にしていた駒を置く。

 

隼人「以前、少し休むよう言われましたので。言われたことを、全く聞かないわけでもありません」

 

天城(KAN-SEN)「それは、お誘いしてよかったです」

 

隼人「ここで負け続ければ、休養になるかは怪しいところですが」

 

天城(KAN-SEN)「では、そちらのお茶が冷めたことにも、お気づきですか?」

 

 隼人が湯呑みを見る。

 

 天城は、声を立てずに笑った。

 

 

 

 終盤へ入ると、隼人は口数を減らした。

 

 天城も話しかけない。

 

 一手戻りたい場所は、分かっている。

 

 だが、戻れない。

 

 隼人は盤全体を見直し、残された手を探した。

 

 右から逃れる。

 

 持ち駒で受ける。

 

 いずれも、続かない。

 

天城(KAN-SEN)「王手です」

 

 ぱちり、と音がした。

 

 隼人はすぐには頭を下げなかった。王を動かす場所を確かめ、攻め駒を取れる手を探し、それもないと確認してから、両手を膝へ戻した。

 

隼人「参りました」

 

天城(KAN-SEN)「ありがとうございました」

 

 二人が、盤を挟んで礼をする。

 

 隼人は顔を上げると、取られた駒の並ぶ駒台へ目を向けた。

 

隼人「途中まで、こちらから攻めているつもりでした」

 

天城(KAN-SEN)「ええ。攻めていらっしゃいましたよ」

 

隼人「続きませんでしたが」

 

天城(KAN-SEN)「続けていただきたかったのです」

 

 天城が、中盤で隼人の銀があった場所を指す。

 

天城(KAN-SEN)「こちらを取ってくだされば、守りの駒が一枚離れます。そのあとも攻めを続けていただけば、戻す手がなくなりますから」

 

隼人「それで、取りやすいところへ駒を置いた」

 

天城(KAN-SEN)「取ってくださるとは、限りませんでしたけれど」

 

 隼人は数手前を並べ直した。

 

 見えていなかった道が、今は見える。

 

隼人「……なるほど」

 

天城(KAN-SEN)「隼人さんは、こちらへ迷わせる手をよく指します。ですから私も、選んでほしい方を少し魅力的にしてみました」

 

隼人「心まで読まれた気分ですね」

 

天城(KAN-SEN)「本当に読めたら、こんなに考えなくても済みますのに」

 

 天城は茶を淹れ直す。

 

 隼人は湯気を見て、ようやく茶菓子へ手を伸ばした。

 

隼人「次は、同じ手には乗りません」

 

天城(KAN-SEN)「では、次もお越しくださるのですね」

 

 菓子を割る指が止まる。

 

 以前、蒼龍にも似たような言葉で約束を取られたことを思い出した。

 

隼人「……今のも、選ばせたのですか?」

 

天城(KAN-SEN)「さて、どうでしょう」

 

 隼人が小さく息を吐いた、その時だった。

 

 玄関の方で、複数の声が重なった。

 

「少々お待ちください、ただいまお取次ぎを――」

 

赤城(KAN-SEN)「姉様のお部屋でしたら存じておりますわ!」

 

大鳳(KAN-SEN)「先に抜け駆けをするおつもりですの?」

 

愛宕(KAN-SEN)「あらあら。廊下では、そんなに急がない方が――」

 

隼鷹(KAN-SEN)「隼人、いるんでしょう? 話があるの!」

 

 畳を踏む音が近づく。

 

 隼人は廊下側の襖を見た。

 

 すぐ前には、茶の載った盆がある。

 

隼人「天城さん。お盆を」

 

天城(KAN-SEN)「あら」

 

 天城が盆を引く。

 

 隼人も立ち上がり、襖の正面を空けた。

 

 次の瞬間、襖が開く。

 

赤城(KAN-SEN)「隼人様のお部屋へ入るのは、この赤城が――」

 

大鳳(KAN-SEN)「私を差し置いて、何を――」

 

 二人が同時に敷居を越えようとした。

 

 その肩がぶつかる。

 

 後ろの隼鷹が止まりきれず、愛宕が支えようと手を伸ばした。

 

 がたん。

 

 外れかけた襖へ、四人分の重みが掛かる。

 

 隼人は天城の右手を取り、素早く盤の脇へ導いた。

 

 ぱきり。

 

 嫌な音がした。

 

 横へ倒れた襖の陰から、狐の尾と黒い髪がはみ出していた。

 

 池へ落ちたのは、敷居で脱ぎ損ねた隼鷹の片方のスリッパだけだった。

 

 小さな水音が、妙にはっきり聞こえた。

 

隼人「……皆さん、怪我は?」

 

愛宕(KAN-SEN)「私は大丈夫よ。赤城ちゃん、少し足をどけてくれる?」

 

赤城(KAN-SEN)「大鳳が、先に押したのですわ」

 

大鳳(KAN-SEN)「赤城さんが、入口を塞ぐからです」

 

隼鷹(KAN-SEN)「スリッパが……」

 

天城(KAN-SEN)「そう。皆さん、お元気なのですね」

 

 四人の動きが止まった。

 

 天城は隼人の手から静かに指を離し、倒れた襖を見る。

 

 裂けた紙。

 

 折れた骨組み。

 

 その上に載った、妹たち。

 

天城(KAN-SEN)「まず、襖から降りてくださいな」

 

 声は、先ほどと少しも変わらない。

 

 四人はすぐに従った。

 

天城(KAN-SEN)「それから、そちらへお座りください」

 

 四人が並ぶ。

 

 誰も座布団を求めなかった。

 

 隼人は、盤面より難しい状況になったことを理解した。

 

剣子「すみません! 四人とも、こちらへ来ていませんか――」

 

 少し遅れて顔を出した剣子は、入口で足を止めた。

 

 襖だったもの。

 

 正座する四人。

 

 背筋の伸びた天城。

 

剣子「……失礼しました」

 

天城(KAN-SEN)「指揮官様も、どうぞ」

 

剣子「はい」

 

 剣子は、四人の横へ座ろうとした。

 

天城(KAN-SEN)「そちらではなく、こちらです。まず、お話を伺います」

 

剣子「ですよね! 私、何も壊していませんからね!」

 

隼人「なぜ、最初からそちらへ?」

 

剣子「身体が勝手に……」

 

 隼人は、それ以上聞かなかった。

 

 天城の前へ座り直した剣子が、抱えていた書類袋を開く。

 

剣子「隼人さんへ割り当てる予定の部屋が、今日から使えるようになったんです。それをお知らせしようと思いまして」

 

隼人「修理が終わったのですか」

 

剣子「はい。今の仮宿舎から移れます」

 

 剣子は、部屋割りの図面を広げた。

 

 司令部に近い居住棟の一角。

 

 二人用の居室に、寝台と机が二組。中央には、寝る場所を分けるための引戸が入っている。手前の小さな居間と玄関は共用だった。

 

 空襲による損傷の修理が済み、窓と出入口の錠も新しくなっている。

 

剣子「ここなら執務室にも会議棟にも近いです。ただ、二人部屋なので、もう一人をどうするか相談していたんです」

 

隼人「私のために、一人分を空けておく必要はありませんよ」

 

剣子「それは、私も同じ考えです。でも、誰でもよいとはいかないでしょう?」

 

 隼人の身分審査は終わっていない。

 

 身の回りには、この世界に存在しなかった装備もある。

 

 資料と兵器は別に保管していても、生活を共にする相手を決めるには、少し考える必要があった。

 

剣子「そこで話していたら、こちらの四人が来まして」

 

赤城(KAN-SEN)「赤城でしたら、身の回りのお世話から夜の――」

 

天城(KAN-SEN)「赤城」

 

赤城(KAN-SEN)「……お茶の支度まで」

 

隼人「今、予定が変更されませんでしたか?」

 

大鳳(KAN-SEN)「隼人様。私は、先にお約束したことを忘れておりませんわ」

 

 大鳳が、膝の上で両手を重ねる。

 

大鳳(KAN-SEN)「急がず、お互いを知ること。そのためにも、同じところで暮らせればと……」

 

隼人「まず、廊下でも急がないところからお願いします」

 

大鳳(KAN-SEN)「……はい」

 

 その隣で、愛宕が笑いを堪えた。

 

天城(KAN-SEN)「愛宕さんも、です」

 

愛宕(KAN-SEN)「はぁい」

 

剣子「そこへ、書類を届けに蒼龍さんが来たんです。艦娘の方の」

 

 隼人が、顔を上げた。

 

剣子「『隼人さん本人の希望を、先に聞いた方がいいのでは』って。それで、この四人が一斉にいなくなりまして……」

 

隼人「希望を聞くために、襖を突破したのですか」

 

隼鷹(KAN-SEN)「早い方がいいと思って」

 

隼人「今の説明では、早い必要はありませんでしたが」

 

 隼鷹が視線を落とす。

 

 天城は一度、四人を見渡した。

 

天城(KAN-SEN)「お話は分かりました。では、皆さん。先ほどから何か、言い忘れていませんか?」

 

 赤城が、倒れた襖を見る。

 

 続いて、大鳳も。

 

赤城(KAN-SEN)「姉様。申し訳ありませんでした」

 

大鳳(KAN-SEN)「私も、お詫びいたします」

 

愛宕(KAN-SEN)「ごめんなさい。止めるつもりが、一緒になってしまって」

 

隼鷹(KAN-SEN)「ごめんなさい……」

 

天城(KAN-SEN)「はい。お詫びは受け取りました」

 

 四人の肩が、少しだけ下がる。

 

天城(KAN-SEN)「では、片づけましょう。修理の手配もお願いしますね」

 

 今度は、誰の肩も下がらなかった。

 

剣子「……天城さんには、勝てませんね」

 

 剣子が小声で囁く。

 

隼人「私も、先ほど負けました」

 

剣子「えっ。隼人さんが?」

 

隼人「将棋です」

 

剣子「それでもです。だって、何を頼んでもできるじゃないですか」

 

隼人「私が負けないと思っているなら、認識を改めてください。勝てない相手は、大勢います」

 

 隼人は、折れた骨組みを持って立ち上がる赤城を見る。

 

隼人「目の前にも、お一人」

 

剣子「ですよねえ……」

 

 その声が聞こえたのか、天城が二人へ微笑んだ。

 

 二人とも、背筋を伸ばした。

 

 

 

 片づけが一段落した頃、玄関から今度は落ち着いた声が届いた。

 

三笠(KAN-SEN)「天城。入っても構わないか?」

 

天城(KAN-SEN)「ええ、どうぞ」

 

 取次ぎを待ってから、三笠が廊下へ姿を見せる。

 

 部屋の入口まで来たところで、足を止めた。

 

三笠(KAN-SEN)「随分、風通しがよくなったな」

 

天城(KAN-SEN)「皆さんのご厚意です」

 

 庭でスリッパを干していた隼鷹が、そっと顔を逸らした。

 

三笠(KAN-SEN)「なるほど。今日は、先客が多いようだ」

 

隼人「お邪魔しています。将棋のお相手でしたら、ちょうど一局終えたところです」

 

三笠(KAN-SEN)「その顔では、君が相手でも手加減はなかったと見える」

 

 互いに一礼する。

 

 三笠は天城から座布団を勧められ、剣子の隣へ腰を下ろした。

 

三笠(KAN-SEN)「居室の相談か?」

 

剣子「はい。隼人さんのお部屋が使えるようになったのですが、もう一人をどうするかで」

 

 剣子が図面を寄せる。

 

 三笠は部屋の位置を確かめてから、少し考えた。

 

三笠(KAN-SEN)「それなら、武蔵はどうだ」

 

 剣子の指が止まった。

 

剣子「……武蔵さん、ですか?」

 

三笠(KAN-SEN)「艦娘の方だ。着任してから、まだ仮の部屋を使っているのだろう」

 

天城(KAN-SEN)「大本営から扱いの指定がある方です。簡単には決められませんよ」

 

 天城の声が、僅かに変わった。

 

 隼人は、庭と廊下を一度見た。

 

 赤城たちは片づけを終え、隣室で待っている。開いたままの入口から、話を聞こうと思えば聞ける距離だった。

 

隼人「詳しいお話でしたら、ここでは」

 

三笠(KAN-SEN)「そうだな。すまない。機密に触れる話は、司令部でしよう」

 

 三笠は声を落とし、図面の上だけを指した。

 

三笠(KAN-SEN)「少なくとも、この部屋なら二人とも司令部の近くへ置ける。寝る場所も分かれている。今ある居室の中では、都合がよいと思う」

 

剣子「場所については、確かにそうですけれど……」

 

隼人「私を選ぶ理由は?」

 

三笠(KAN-SEN)「今、話を止めたからだ」

 

 隼人が、三笠を見る。

 

三笠(KAN-SEN)「知らない相手の事情へ、面白がって踏み込まない。立派な戦果より、一緒に暮らすならそちらの方が頼りになる」

 

隼人「一度見ただけでは、分かりませんよ」

 

三笠(KAN-SEN)「だから、まずは話をしてもらう。合わなければ、それから考えるさ」

 

剣子「三笠さんが、そこまで仰るとは」

 

三笠(KAN-SEN)「年長者の勘も、少しは当てにしてくれ」

 

隼人「最後は、勘なのですね」

 

三笠(KAN-SEN)「全部が勘なら、ここまで理由は挙げんよ」

 

 悪戯っぽく笑う。

 

 剣子は図面を見直した。

 

 空襲のあと、使える居室は足りていない。傷のある者には医療所の近くを、夜勤の者には昼間眠れる場所を回す。それを済ませてから、残る空きを埋めている。

 

 武蔵へ一人部屋を用意する見通しも、まだ立っていなかった。

 

剣子「分かりました。大淀さんと指定条件を確認して、武蔵さんにも話します。隼人さんは、それでどうですか?」

 

隼人「相手の方が構わないのであれば。私からお願いしたいことは、部屋へ入る前に声を掛けてもらうことと、装備へ触れないことくらいです」

 

天城(KAN-SEN)「襖を壊さないことは?」

 

隼人「それも、加えておいてください」

 

 隣室で、誰かが小さく咳払いをした。

 

三笠(KAN-SEN)「では、第6艦隊旗艦として、私からも提案しておこう」

 

隼人「命令ではなく?」

 

三笠(KAN-SEN)「部屋の割り当ては、ここの提督が決めることだ。私が寝台を持ってきて、勝手に置くわけにはいかんだろう」

 

剣子「やりかねないから、怖いんですよ」

 

三笠(KAN-SEN)「寝台が必要なら、運ぶくらいはできるぞ」

 

剣子「そういう意味ではありません!」

 

 ようやく、剣子の声に張りが戻った。

 

 隼人は残りの茶を飲み、湯呑みを置いた。

 

隼人「では、私は戻ります。ご馳走様でした。将棋も、またお願いします」

 

天城(KAN-SEN)「ええ。次は、お茶が温かいうちに飲んでくださいね」

 

 隼人が立ち上がると、隣室の四人がこちらを見た。

 

 大鳳は隼人の前まで進むと、改めて頭を下げた。

 

大鳳(KAN-SEN)「……先ほどは、お茶の時間を邪魔して申し訳ありませんでした。次は落ち着いて、お話しさせていただきますわ」

 

隼人「お待ちしています。次は、足元にもお気をつけて」

 

 大鳳は僅かに唇を尖らせ、それから頷いた。

 

 剣子も書類を片づけ、隼人とともに玄関へ向かう。

 

 その背後で、赤城がそろそろと立ち上がった。

 

天城(KAN-SEN)「赤城。修理のお話が、まだ終わっていませんよ」

 

赤城(KAN-SEN)「……はい、姉様」

 

三笠(KAN-SEN)「私は、お茶をいただこうかな」

 

天城(KAN-SEN)「ええ。ゆっくりしていってください」

 

 隼人は玄関で靴を履きながら、庭を振り返った。

 

 池の水面は、もう静かになっていた。

 

 

 

 呉鎮守府、正門。

 

 剣子は途中から、公用車で先に戻っている。

 

 隼人は足取り軽く正門へ向かった。午後の風に吹かれながら、天城との対局を頭の中で並べ直していた。

 

 門柱の脇に、銃を保持した歩哨が立っていた。その内側の詰所では、女性憲兵が出入記録を確認している。

 

隼人「お疲れ様です」

 

憲兵「お帰りなさいませ、副司令殿。身分証をお願いします」

 

隼人「どうぞ」

 

 隼人が、手帳型の身分証を開いて渡す。

 

 憲兵は顔写真と本人を見比べ、外出簿の記載を確かめた。

 

 何度顔を合わせていても、省かない。

 

 隼人も、急かさずに待った。

 

憲兵「お荷物を確認します。携帯端末も、登録どおりでお間違いありませんか」

 

隼人「はい。持ち出した物から変更はありません」

 

 袋の口を開く。

 

 中から現れたのは、天城に持たされた茶菓子の包みだった。

 

 憲兵の目が、僅かに動く。

 

隼人「……変更が、一つありました」

 

憲兵「頂き物ですね。中身を確認させていただきます」

 

 憲兵は笑わずに答えた。

 

 隼人も、真顔で頷く。

 

 憲兵が菓子の包みを戻し、身分証を返す。

 

憲兵「確認終了です。ご協力、ありがとうございました」

 

隼人「どうも。異常はありませんか?」

 

憲兵「ありません。先ほど提督にも、同じご質問をいただきました」

 

隼人「そうですか」

 

 隼人の口元が、少し緩む。

 

 身分証をしまい、憲兵へ軽く会釈すると、隼人は居住棟へ続く道へ進んだ。

 

 今日は、定例の見回りも当番へ任せてある。

 

 戻った足で仕事を増やしては、休暇を取った意味が薄れる。

 

 ひとまず荷物を置き、そのあとで夕食まで何をするか考えよう。

 

 そう決めたところで、中庭から笑い声が聞こえてきた。

 

 

 

 木陰へ置かれた卓に、四人の航空戦艦が集まっていた。

 

 伊勢と日向。

 

 艦娘とKAN-SENで、二人ずつ。

 

 卓上には、台湾から持ち帰ったという酒瓶と、握り飯の載った皿。遠征を終えたKAN-SENの二人を迎え、非番の姉妹も一緒になっているらしい。

 

伊勢(KAN-SEN)「ふう……やっぱり陸で落ち着いて飲むと、うまいねえ」

 

伊勢(艦娘)「土産をもらう側としても、大変ありがたいねえ」

 

日向(艦娘)「姉さん。もう少し食べながら飲め」

 

日向(KAN-SEN)「それで、その副提督というのは、どんな男なのだ? 帰投してから、何度も名前を聞いたが」

 

伊勢(艦娘)「どんな、と言われてもねえ。頭が切れて、仕事が速くて、強くて、おまけに顔がいい」

 

伊勢(KAN-SEN)「盛りすぎだろう、それは」

 

日向(艦娘)「誇張が混じっているのは確かだな」

 

伊勢(艦娘)「どの辺が?」

 

日向(艦娘)「本人へ聞けば分かる」

 

 日向が、卓の向こうへ顎を向けた。

 

 伊勢が振り返る。

 

 隼人は、少し手前の道で立ち止まっていた。

 

隼人「随分、都合のよい人物になっているようですね。私は先ほど、将棋に負けてきたところですが」

 

伊勢(KAN-SEN)「おっと。噂をすれば、ご本人か」

 

 伊勢が、片手に持っていた盃を下ろす。

 

 日向(KAN-SEN)も座り直した。

 

日向(KAN-SEN)「失礼した。こちらには気づかなかった」

 

隼人「楽しそうでしたので、声を掛ける間を探していました」

 

伊勢(KAN-SEN)「聞いていた、とは言わないんだね」

 

隼人「かなり、よく聞こえました」

 

 伊勢(艦娘)が、隠す気もなく笑った。

 

 隼人は、初めて顔を合わせる二人へ一礼する。

 

隼人「呉鎮守府臨時副司令、渡邉隼人です。お二人の帰投報告は拝見しました。遠征、お疲れ様でした」

 

伊勢(KAN-SEN)「航空戦艦、伊勢。第4護衛艦隊の旗艦を務めているよ。こっちは妹の日向」

 

日向(KAN-SEN)「日向だ。先日の海戦では、力になれなかった」

 

隼人「別の任務に就いていたのでしょう。護衛した船団が、無事に着いたと聞いています」

 

伊勢(KAN-SEN)「ああ。荷も船も、揃って届けた」

 

隼人「それなら、何よりです。こちらも、物資を待っている場所ばかりですから」

 

 日向は隼人を見て、短く頷いた。

 

日向(KAN-SEN)「次も任せてくれ」

 

伊勢(KAN-SEN)「とりあえず、座って一杯どうだい?」

 

隼人「今日は、お茶でお願いします。あとで部屋の荷物をまとめたいので」

 

伊勢(KAN-SEN)「せっかくの休みなのに、引っ越しかい?」

 

アイ『新しい居室への移動準備です』

 

 胸元の端末から声がした。

 

 伊勢は盃を差し出しかけたまま、目を丸くする。

 

伊勢(KAN-SEN)「……今のは?」

 

隼人「装備の支援をするアイです。最近は、私の行動にも助言を」

 

アイ『携行品の一覧は、すでに作成済みです』

 

日向(KAN-SEN)「手際がいいな。姉さん、茶を出してやれ」

 

伊勢(KAN-SEN)「はいはい。じゃあ、お茶にしよう」

 

 卓の端へ、新しい湯呑みが置かれた。

 

 隼人は勧められた席へ座り、持っていた包みを卓へ載せる。

 

隼人「お茶請けなら、こちらを。天城さんからいただきました」

 

伊勢(艦娘)「おお、ちょうど甘い物が欲しかったところだよ」

 

日向(艦娘)「姉さん。まず、握り飯を食べろと言っただろう」

 

 隼人も皿を勧められ、小ぶりな握り飯を一つ取った。

 

 海苔を巻き、口へ運ぶ。

 

 塩気のあとに、米の甘さが広がった。

 

伊勢(KAN-SEN)「へえ。食べているところは、普通なんだな」

 

隼人「どんな食べ方を、想像されていたのですか」

 

伊勢(KAN-SEN)「いや。食べながら、何か組み立てたりとか」

 

隼人「しません」

 

アイ『以前、食事中に整備記録を――』

 

隼人「今は、していない」

 

 四人が一斉に笑った。

 

 日向(KAN-SEN)も、盃を口元へ運びながら、僅かに肩を揺らしている。

 

 隼人は握り飯の残りを食べ、黙って茶を飲んだ。

 

 

 

明石(艦娘)「あっ、隼人さん。こちらでしたか」

 

 中庭の入口から、明石が手を上げた。

 

 手には図面を挟んだ板を持っている。

 

隼人「明石さん。何かありましたか?」

 

明石(艦娘)「いえ、緊急ではありません。お休みでしたよね。明日でも大丈夫です」

 

隼人「ここまで来たのですから、用件だけでも」

 

 明石は卓の酒瓶を見て、少し迷った。

 

 隼人が、自分の湯呑みを持ち上げてみせる。

 

隼人「私はこちらです」

 

明石(艦娘)「あ、それなら。昨日相談された、ええと……キルハウスでしたよね。あの訓練施設の仮設部分ができました」

 

隼人「もうですか?」

 

明石(艦娘)「空いていた倉庫へ、仕切りを入れたんです。最初から建てたわけではありませんよ」

 

 明石が、図面を少し広げる。

 

 倉庫の中に、幾つかの小部屋と通路が描かれていた。

 

伊勢(艦娘)「何をする場所なんだい?」

 

隼人「建物の中で、味方同士の動きを確かめる場所です。誰がどこにいるか、声が届くか。そうしたことを、実際の広さで確認します」

 

伊勢(KAN-SEN)「家の中で撃ち合う訓練か」

 

隼人「そのための施設にもなりますが、今の段階では撃ちません」

 

明石(艦娘)「ええ。今回は木の仕切りです。実弾を使えるようにするには、別の工事が必要ですから」

 

 明石が、倉庫の位置を示す。

 

 修理場に隣接しているが、資材を運ぶ動線からは外れた棟だった。

 

隼人「どのくらいの人数で作業しました?」

 

明石(艦娘)「建物担当から、手の空いた二人に半日だけ。あとは私が」

 

隼人「艦の修理は?」

 

明石(艦娘)「止めていません。そこは、夕張さんとも確認しています」

 

 隼人は頷いた。

 

明石(艦娘)「むしろ、難しいのは弾薬の方です。五・五六、十二・七、それに百二十七ミリ。同じ口径なら作れる、という話ではありませんから」

 

隼人「承知しています。こちらの明石さんたちにも、急がないよう伝えてください。使えるという確認が済むまで、装備へは入れません」

 

明石(艦娘)「そう言っていただけると助かります。向こうの明石さんも、今ある弾を見ては、うーんって唸ってますから」

 

 明石は図面を閉じかけた。

 

明石(艦娘)「施設の確認は、明日にしますか?」

 

 隼人は倉庫の方を見た。

 

 自分の提案したものが、形になった。

 

 見たい、という気持ちはあった。

 

隼人「……短時間、見せてもらえますか。場所だけでも確認しておきたい」

 

アイ『本日は休暇です』

 

隼人「見学だ」

 

日向(艦娘)「見学で、終わるのか?」

 

 隼人は、少し考えた。

 

隼人「終わらせます」

 

明石(艦娘)「では、入口から見るだけにしましょう。細かい打ち合わせは、私も明日にしたいので」

 

隼人「分かりました。それでお願いします」

 

 明石は、今度は安心した顔で笑った。

 

 隼人は湯呑みを空け、席を立つ。

 

隼人「ご馳走様でした。お菓子は、皆さんでどうぞ」

 

伊勢(KAN-SEN)「ありがとよ。またゆっくり話そうじゃないか」

 

日向(KAN-SEN)「引っ越しが済んだら、また来るといい。茶でも酒でも、付き合う」

 

隼人「楽しみにしています」

 

 隼人は明石と並び、工廠の方へ歩いていった。

 

 その姿が木々の向こうへ消えてから、伊勢(KAN-SEN)が盃を持ち上げる。

 

伊勢(KAN-SEN)「なるほどねえ。いい男じゃないか」

 

伊勢(艦娘)「だから、そう言っただろう?」

 

伊勢(KAN-SEN)「でも、話が違うところもあったな」

 

日向(艦娘)「どこだ?」

 

伊勢(KAN-SEN)「思ったより、周りから言い返される」

 

日向(艦娘)「そうでなければ、長くは働けないさ」

 

 日向(KAN-SEN)が、卓の菓子へ手を伸ばした。

 

 伊勢(KAN-SEN)が、その手元を覗き込む。

 

伊勢(KAN-SEN)「茶でも酒でも付き合う、ねえ」

 

日向(KAN-SEN)「何だ」

 

伊勢(KAN-SEN)「いや。随分、愛想がよかったじゃないか」

 

 日向は、姉の前へ握り飯の皿を寄せた。

 

日向(KAN-SEN)「口が空いているぞ、姉さん」

 

伊勢(KAN-SEN)「塞げ、と?」

 

日向(KAN-SEN)「よく分かったな」

 

 向かい側で、伊勢(艦娘)が吹き出した。

 

 日向(艦娘)は、空になった徳利をそっと卓の端へ移す。

 

 まだ、夕方にもなっていなかった。

 

 

 

 訓練用に区切られた倉庫は、木の匂いがした。

 

 入口には、未使用の立札。

 

 その向こうに、新しい仕切りが並んでいる。

 

 隼人は入口から中を見渡し、明石が指した非常口へ目を向けた。

 

隼人「図面で見るより、広く感じますね」

 

明石(艦娘)「物を片づけたら、随分空きました。寸法も、昨日のお話に合わせてあります」

 

隼人「助かります。この通路なら――」

 

 言いかけて、止める。

 

 明石は、何も言わずに待っていた。

 

 隼人は口を閉じ、入口から一歩下がる。

 

隼人「続きは、明日にしましょう」

 

明石(艦娘)「はい。明日、お待ちしています」

 

 明石が、倉庫へ鍵を掛ける。

 

 隼人はそれを手伝おうとせず、自分の荷物だけを持ち直した。

 

 何かを増やすより先に、今日の仕事を終えさせる。

 

 それくらいなら、休みの日にもできるはずだった。

 

 

 

 同じ頃。

 

 呉鎮守府、提督執務室。

 

 剣子は、机の上へ二本の鍵を置いた。

 

 向かいの椅子には、眼鏡を掛けた褐色の女性が座っている。

 

 武蔵。

 

 大きな身体を窮屈そうに丸めることもなく、背を伸ばしたまま、説明を聞いていた。

 

武蔵(艦娘)「つまり、その渡邉という男と、同じ部屋を使うわけか」

 

剣子「はい。真ん中で寝る場所を分けられます。図面のとおりです」

 

 武蔵は、紙の上へ視線を落とす。

 

 寝台は二つ。

 

 机も二つ。

 

 入口は一つ。

 

武蔵(艦娘)「三笠の案だそうだな」

 

剣子「きっかけは、そうです。でも、大淀さんと条件を確認して、私もここがよいと判断しました」

 

 剣子は、図面の脇へ一通の書類を伏せて置いた。

 

 大本営から届いた、武蔵の扱いに関するものだった。

 

剣子「司令部の近くで、出入りを把握できること。調査の資料は別に保管すること。この居室なら、指定されている条件を満たせます」

 

武蔵(艦娘)「男と同室にしろ、とも書いてあるのか?」

 

剣子「そこまでは、書いてありません」

 

 剣子は正直に答えた。

 

剣子「使える部屋が足りないのは、こちらの事情です。無理なら、今の仮宿舎を続けて使えます。落ち着かないとは思いますが」

 

武蔵(艦娘)「……人の部屋へ布団を広げるのも、そろそろ気が引けていたところだ」

 

 武蔵は眼鏡の位置を直す。

 

 世話になっている相手から、邪魔だと言われたことはない。

 

 だが、眠る時間も起きる時間も違う。朝、まだ寝ている相手を起こさないよう荷をまとめるたび、自分の居場所を借りているのだと感じた。

 

 図面には、今度は自分の机があった。

 

武蔵(艦娘)「男の方は、承知しているのか」

 

剣子「武蔵さんがよければ、と。それと、入る前に声を掛けてほしい、装備へは触れないでほしい、襖は壊さないでほしい、だそうです」

 

 武蔵が、顔を上げた。

 

武蔵(艦娘)「最後の一つは、私を何だと思っている」

 

剣子「武蔵さんへの評価ではありません。今日、壊した人がいたんです」

 

武蔵(艦娘)「……なるほど」

 

 事情を察したのか、武蔵の口元が少し動いた。

 

武蔵(艦娘)「噂は聞いている。未来の兵器を扱い、敵艦隊を退け、今は司令部で山のような書類を片づけている男だと」

 

剣子「書類は、私たちも片づけています」

 

武蔵(艦娘)「そうだったな」

 

剣子「それに、敵を一人で全部倒したわけでもありません。あの時、隼人さんが作ってくれた時間を使って、皆で帰ってきたんです」

 

 剣子は机の端にある戦闘詳報へ、一度だけ目を向けた。

 

武蔵(艦娘)「分かっている。噂どおりの男か、聞いているんだ」

 

剣子「何でも知っている人、ではありませんよ。こちらへ来てから、覚えてもらったことも沢山あります」

 

武蔵(艦娘)「それでも、天才だの、化物だのと」

 

剣子「天才でも、将棋には負けるそうです」

 

武蔵(艦娘)「将棋?」

 

剣子「今日、天城さんに。それから、お茶を飲んで帰ってきました」

 

 武蔵は、しばらく黙っていた。

 

 どんな戦いをしたか、という話ばかり聞いていた。

 

 将棋に負けて、茶を飲んで帰ってくる。

 

 そんな話は、初めてだった。

 

武蔵(艦娘)「……普通の話も、あるんだな」

 

剣子「ありますよ。話してみると、意外と意地が悪いところも」

 

武蔵(艦娘)「今度は、不安にさせたいのか?」

 

剣子「違いますって。私が仕事から逃げようとすると、先回りしてくるんです」

 

武蔵(艦娘)「それは、お前が悪い」

 

剣子「武蔵さんまで……」

 

 武蔵は図面をもう一度見た。

 

 自分へ向けられてきた呼び名と、まだ会わない男の評判を並べて、軽く鼻を鳴らす。

 

武蔵(艦娘)「世界最強だの、天才だの。随分と大げさな部屋になるな」

 

剣子「広さは、普通の二人部屋ですけれど」

 

武蔵(艦娘)「そういう話ではない」

 

 今度は剣子が笑った。

 

 武蔵は、机の上の鍵へ手を伸ばした。

 

武蔵(艦娘)「分かった。使わせてもらおう。細かいことは、その男と話す」

 

剣子「はい。隼人さんには、私から伝えておきます」

 

 指へ掛けた鍵は、思ったより小さかった。

 

 武蔵はそれを掌へ包み、椅子から立ち上がる。

 

武蔵(艦娘)「あと、一つ」

 

剣子「はい?」

 

武蔵(艦娘)「私の荷物は、自分で運ぶと伝えておいてくれ。初対面の相手を、いきなり荷運びに使うつもりはない」

 

剣子「……助かります。放っておくと、運ぶと言い出しかねませんから」

 

 武蔵は短く頷き、執務室を出た。

 

 廊下へ出ると、窓から西日が差していた。

 

 遠くで、人の呼び合う声がする。

 

 まだ落ち着かない鎮守府の、その一角に、自分の寝台が用意された。

 

 隣へ来るのは、噂ばかりが先を歩く男だ。

 

 武蔵は、掌の鍵を見下ろした。

 

武蔵(艦娘)「男と、同じ部屋か……」

 

 戦場で並ぶことなら、何も難しくはない。

 

 同じ玄関を使い、夜には隣で眠るとなると、何から話せばよいのか、少し考えた。

 

 まずは、名前だろう。

 

 それから――将棋のことでも、聞いてみるか。

 

 武蔵は鍵をしまい、仮宿舎へ荷物を取りに向かった。

 

 




ハイどうもお久しぶりです

素人小説書きです

いやぁ~…久しぶりに書いたけどなかなか難しいですねぇ~…

しばらく別の作品でリハビリしようかな?

ッと、そんな冗談は置いといてと…

次回は…う~ん…訓練風景かな?

お楽しみに~


2026年9月18日リメイク完了

ヒロイン

  • 416
  • VSK-94
  • 大鳳A
  • 蒼龍C
  • 雷電
  • スカイレイダー
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。