陸自はドールズフロントライン、海自は艦これとアズールレーン、空自はアッシュアームズ三つの世界でバラバラになりながらでも生き残る   作:ゴーストライターとかした、素人小説書き

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艦これはCアズレンはAと表記させていただきますのでお願いします。

クロスオーバーなので悪しからず

それではどうぞ


4-2 才能ある者の成長

4-2

 

才能ある者の成長

 

 天城の私邸を訪ねた、翌日の午後。

 

 呉鎮守府の工廠に隣接する倉庫では、明石が入口の立札を裏返していた。

 

 使用中。

 

 その三文字の下に、白い紙が一枚貼られている。

 

 実弾持込禁止。

 

瑞鶴(KAN-SEN)「キルハウス、ねえ」

 

 瑞鶴は立札を眺め、開いた扉の向こうを覗いた。

 

 床に引かれた線。人の背より高い木の仕切り。蝶番を取り付けた簡素な扉。

 

 外から見れば、昨日まで資材置場だった倉庫である。

 

 中へ入ると、その一角だけが、小さな建物のようになっていた。

 

瑞鶴(KAN-SEN)「名前の割に、ずいぶん普通じゃない?」

 

明石(艦娘)「まだ仮設ですから。それでも、中へ入ると見え方が変わりますよ」

 

翔鶴(KAN-SEN)「ここで、隼人さんの訓練を?」

 

明石(艦娘)「今日は試用です。使いにくいところを見てもらって、そのあと皆さんで稽古をする予定になっています」

 

 明石が持つ予定表には、開始と終了の時刻が書かれていた。

 

 昨夜のうちに話を通したのは、隼人だった。

 

 見学から試験、試験から訓練と、その場の思いつきで延ばさないように。

 

 明石にも、夕方から別の仕事がある。

 

瑞鶴(KAN-SEN)「約束した本人は?」

 

隼人「ここにいますよ」

 

 倉庫の奥から、隼人が戻ってきた。

 

 両手に抱えているのは、稽古用具の入った箱だった。

 

 歩調は軽く、入口近くの台へ箱を置く動作にも、ためらいはない。以前のように左肩を庇うこともなく、空いた手で袖をまくっている。

 

瑞鶴(KAN-SEN)「本当に、もう治ったのね」

 

隼人「ええ。お待たせしました」

 

瑞鶴(KAN-SEN)「待ったわよ。あれから、どれだけ経ったと思っているの」

 

翔鶴(KAN-SEN)「三週間ほどね」

 

瑞鶴(KAN-SEN)「姉さん、そういう返事が欲しいんじゃなくて」

 

 隼人は笑い、箱の蓋を外した。

 

 中には防具と、表面を柔らかい素材で覆った稽古刀が収められている。

 

隼人「先に施設を見ます。そのあと、以前のお約束を。お二人とも、それでよろしいですか?」

 

瑞鶴(KAN-SEN)「もちろん」

 

翔鶴(KAN-SEN)「ええ。私も、お邪魔にならなければ」

 

隼人「むしろ、違う見方をしてくださる方がいると助かります」

 

 隼人が明石へ向き直る。

 

 明石は壁際に立ててあった、木製の模擬銃を手渡した。

 

 20式を参考に形を作ったものだが、可動する部分はない。重さも重心も本物とは違う。

 

 隼人は両手で持ち替え、長さを確かめた。

 

隼人「今日は、これで十分です」

 

明石(艦娘)「本物を使わなくて、いいんですか?」

 

隼人「扉や通路の広さを確かめるには使えます。射撃の評価は、射撃のできる場所で行いましょう」

 

 20式もSFP9も、保管場所へ預けてある。

 

 《みらい》も持ち込んでいない。

 

 動きを確かめるための最初の試験に、大型の装備まで加える必要はなかった。

 

 明石は頷くと、仕切りの外へ歩いた。

 

 観察用に残した開口部から、内部を見通せる場所である。

 

 翔鶴と瑞鶴も、その隣へ並んだ。

 

 

 

 キルハウス。

 

 隼人のいた世界では、建物内での行動を訓練する施設を、そう呼んでいた。

 

 ただし、ここに用意されたのは、銃弾を受け止める設備を備えた建物ではない。

 

 倉庫へ仕切りを入れ、人と人が動くための空間を作ったものだ。

 

 明石が昨日のうちに立てた人型の板には、銃を持つ姿もあれば、両手を上げる姿もある。工具箱を抱えたものや、床へ倒れているものも置かれていた。

 

 何が見え、何が見えないか。

 

 隼人が確かめたかったのは、まず、そのことだった。

 

明石(艦娘)「準備、よろしいですか?」

 

隼人「はい。お願いします」

 

 短く、笛が鳴る。

 

 隼人が入口を通った。

 

 速い。

 

 そう思った直後、瑞鶴は僅かに眉を動かした。

 

 走ってはいない。

 

 足音も大きくない。

 

 入口で一度、動きが止まり、それから身体が部屋の中へ収まる。模擬銃が壁へ当たることも、靴が扉の下を引っ掛けることもなかった。

 

 人型の板へ、銃口が向く。

 

 隼人はそこを確かめてから、別の方向へ目を移した。

 

 次の部屋で、また止まる。

 

 工具箱を抱えた人型の前だった。

 

 模擬銃は、その人物へ向かなかった。

 

瑞鶴(KAN-SEN)「あれは、撃たないんだ」

 

翔鶴(KAN-SEN)「撃つ相手ではないのでしょう」

 

瑞鶴(KAN-SEN)「それは、見れば分かるけど……」

 

 自分なら、まず全部の標的を探しただろう。

 

 隼人の動きには、人型を見つけてから考え直すような大きな揺れがなかった。

 

 姿を確かめることが、初めから動きの中へ入っている。

 

 途中、隼人の姿が仕切りの向こうへ消えた。

 

 明石が時計を見る。

 

 次の開口部へ現れるまでに、思ったより時間が掛かった。

 

明石(艦娘)「……あれ?」

 

 隼人が出口に姿を見せる。

 

 模擬銃を下ろし、明石へ片手を上げた。

 

隼人「終わりました」

 

明石(艦娘)「お疲れ様です。途中、何かありました?」

 

隼人「二つ目の扉です。下の角が、床へ引っ掛かります」

 

明石(艦娘)「えっ。昨日、開けた時は……」

 

隼人「途中までは開きます。大きく開こうとすると、止まりました」

 

 明石は時計を置き、隼人と一緒に中へ入った。

 

 翔鶴と瑞鶴も、あとに続く。

 

 隼人が扉を動かすと、半ばを過ぎたところで、下端が床を擦った。

 

明石(艦娘)「……本当だ」

 

瑞鶴(KAN-SEN)「思い切って押せば、開くんじゃない?」

 

隼人「おそらく。ですが、それをすると、次に使う人が扉ごと外すかもしれません」

 

 明石が、蝶番へ視線を落とした。

 

明石(艦娘)「やめてくださいね。まだ、替えは作っていませんから」

 

隼人「ですから、押していません」

 

 瑞鶴は、扉を指先で少し動かした。

 

 自分なら、引っ掛かったことにも気づかず、そのまま通れたかもしれない。

 

 それでは、次に使う人へ何も伝わらない。

 

 明石が手帳へ書き込むのを見て、瑞鶴も扉から手を離した。

 

翔鶴(KAN-SEN)「ほかには?」

 

隼人「この奥ですね。倒れている人型を運び出すとすると、机を少し動かす必要があります」

 

明石(艦娘)「狭かったですか?」

 

隼人「狭い場所があるのは構いません。ただ、机を固定してしまうと、現場にある物を動かす練習ができなくなります」

 

 明石は、床へ留めた机の脚を見た。

 

 安定させようとして、しっかり固定してある。

 

明石(艦娘)「全部、動かないようにするのがいいと思っていました」

 

隼人「倒れては困る仕切りと、動かして使う物を分けましょう。ここは、使いながら変えていけると助かります」

 

瑞鶴(KAN-SEN)「標的も、もっと隠した方がいいんじゃない? さっきは、すぐ見つけていたでしょう」

 

 瑞鶴が、銃を持った人型の板を指す。

 

 隼人はそれを見てから、部屋の入口を振り返った。

 

隼人「配置を変えるのは、必要ですね。ただ、初めて使う人にも、私と同じ配置でやってもらうとは限りません」

 

瑞鶴(KAN-SEN)「簡単な方から?」

 

隼人「ええ。何に困ったのか、自分で分かるところからです。一度に全部難しくすると、終わったあとに、ただ駄目だったという感想しか残りません」

 

 明石の鉛筆が止まった。

 

明石(艦娘)「隼人さんが使うので、次はもっと難しくしないと、と思っていたんですけど」

 

隼人「私しか使えない施設にするつもりはありませんよ」

 

 人型の板の傍らへ、隼人が模擬銃を立てる。

 

隼人「最初は、一人が通る。それから二人。運ぶ物があれば、その大きさでも変わる。試してみたいことは、沢山あります」

 

翔鶴(KAN-SEN)「使う人たちにも、意見を聞く必要がありますね」

 

明石(艦娘)「はい。図面だけでは、分からなかったです」

 

 明石は手帳の余白へ、もう一行書き加えた。

 

 利用者の記録を残すこと。

 

 隼人はそれを見て、頷いた。

 

 

 

 試用を終え、四人は仕切りのない区画へ移った。

 

 運動用の敷物を敷いた、四角い場所である。

 

 瑞鶴は防具を着けながら、隼人の方を見た。

 

瑞鶴(KAN-SEN)「それじゃ、今度こそ相手をしてもらうわよ」

 

隼人「はい」

 

瑞鶴(KAN-SEN)「さっきみたいに、見るだけで終わりじゃないでしょうね?」

 

隼人「見ることは、やめませんけれど」

 

 隼人が稽古刀を手に取る。

 

 瑞鶴も、同じものを選んだ。

 

 艤装は外してある。

 

 強く打ち抜くための稽古ではない。防具を着けた胴と腕への、有効な接触を取る。

 

 始める前にそう確かめると、瑞鶴は短く頷いた。

 

瑞鶴(KAN-SEN)「三本、お願い」

 

隼人「承知しました」

 

 互いに礼をする。

 

 明石は記録板を抱え、翔鶴の隣へ座った。

 

 始め、と声が掛かる。

 

 先に動いたのは、瑞鶴だった。

 

 昨日までの隼人の周囲にあった、賑やかな騒動とは違う。

 

 正面へ立ってみると、彼女の目は静かだった。

 

 肩が動いたと思う間もなく、柔らかな剣身が近づいてくる。

 

 隼人が身体をずらした。

 

 瑞鶴も止まらない。

 

 一度かわされたところから、すぐに剣を戻す。

 

 軽い音がした。

 

 隼人の稽古刀が、瑞鶴の前腕の防具へ触れていた。

 

翔鶴(KAN-SEN)「一本」

 

瑞鶴(KAN-SEN)「……速いわね」

 

隼人「そちらも」

 

 隼人は一度、距離を取り直した。

 

 瑞鶴の身体能力に合わせて、いつもの相手と同じ感覚で動けば、間に合わない。

 

 相手の動きが始まる前から、よく見る必要があった。

 

 二本目。

 

 瑞鶴は、最初と同じようには踏み込まなかった。

 

 隼人の剣先を見て、動くのを待つ。

 

 今度は隼人から近づいた。

 

 瑞鶴が応じたところで、二本の稽古刀が触れ合う。

 

 短いやり取りの末、隼人の剣が胴の防具へ届いた。

 

 瑞鶴は息を吐き、目を閉じずにその位置を見た。

 

瑞鶴(KAN-SEN)「……なるほど」

 

 悔しそうではある。

 

 だが、何が起きたか分からないという顔ではなかった。

 

 三本目が始まる。

 

 瑞鶴は、先ほどと似た姿勢で立った。

 

 隼人は近づきかけて、足を止める。

 

 待っているように見えた相手が、もう動いていた。

 

 受けた剣が、思ったより早く離れる。

 

 隼人は胴を守った。

 

 その外側で、腕の防具へ軽い衝撃が伝わった。

 

翔鶴(KAN-SEN)「瑞鶴、一本」

 

 瑞鶴が、大きく息を吐く。

 

 隼人は自分の腕を見下ろし、それから相手へ向き直った。

 

隼人「参りました」

 

瑞鶴(KAN-SEN)「三本のうち一本だけでしょう。全部勝ったみたいに言わないで」

 

隼人「今の一本は、そちらのものです」

 

 瑞鶴は口を開きかけ、閉じた。

 

 隼人が礼をする。

 

 彼女も背を伸ばし、礼を返した。

 

 その顔が、少しだけ明るくなっていた。

 

明石(艦娘)「隼人さんでも、取られるんですね」

 

隼人「取られますよ」

 

瑞鶴(KAN-SEN)「どういう意味よ、それ」

 

明石(艦娘)「いえ、その。最初の二本が、あまりに……」

 

翔鶴(KAN-SEN)「三本とも、同じことをしたわけではありませんから」

 

 翔鶴は瑞鶴を見る。

 

 瑞鶴は汗を拭き、姉の視線へ少しだけ顎を上げた。

 

隼人「二本目で、何か気づきましたか?」

 

瑞鶴(KAN-SEN)「あなたが動くのを待っているつもりで、こっちが動かされていた。合わせようとすると、その先まで決められてしまう」

 

隼人「それで、途中から変えた」

 

瑞鶴(KAN-SEN)「変えなければ、また同じように取られるじゃない」

 

 当然でしょう、と言いたげだった。

 

 隼人は防具の留め具を確かめ、短く笑った。

 

 同じことを繰り返していると気づいても、目の前で直せるとは限らない。

 

 瑞鶴は、それを一本の間に変えた。

 

 当てる速さよりも、そのことが印象に残った。

 

 

 

 休憩を挟み、今度は翔鶴も敷物の上へ立った。

 

 稽古刀を手に取り、軽く持ち直している。

 

翔鶴(KAN-SEN)「私は、瑞鶴ほど剣には慣れていませんよ」

 

隼人「分かりました。無理に同じ動きをしなくても構いません」

 

 翔鶴とは、短いやり取りを何度か重ねた。

 

 瑞鶴のように、自分から間合いを詰め続けるわけではない。

 

 隼人が離れると追わず、次に近づいてくる場所を見ている。

 

 一度触れられたところへ、続けて同じ形では入ってこなかった。

 

 剣を扱うことに慣れていなくても、人の動きを見ることには慣れている。

 

 その違いは、向かい合っているとよく分かった。

 

 ひと区切りついたところで、隼人が稽古刀を下ろす。

 

隼人「少し、試してみたいことがあります」

 

瑞鶴(KAN-SEN)「何?」

 

隼人「次は、お二人で来てもらえますか」

 

 瑞鶴が、翔鶴を見た。

 

 翔鶴も、妹へ目を向ける。

 

瑞鶴(KAN-SEN)「二人で、あなたを相手にするの?」

 

隼人「はい。ここでの動き方を、見せてください」

 

瑞鶴(KAN-SEN)「……随分、自信があるのね」

 

隼人「勝つつもりではいます」

 

翔鶴(KAN-SEN)「では、こちらも、そのつもりで」

 

 翔鶴が柔らかく答えた。

 

 瑞鶴は、姉の顔を見て笑う。

 

 明石が記録板へ、新しい線を引いた。

 

 場所は敷物の内側。

 

 二人のどちらかが有効打を受けたら、そこで仕切り直す。

 

 隼人へ先に一本取れば、二人の勝ちとなる。

 

 短く条件を確かめてから、三人が構えた。

 

 合図。

 

 瑞鶴が先に動く。

 

 翔鶴は、その少しあとから続いた。

 

 姉妹で動くことなど、珍しくもない。

 

 海の上でも、空へ飛ばした航空隊を扱う時でも、互いが何をしようとしているかは分かっている。

 

 それなのに。

 

瑞鶴(KAN-SEN)「……っ」

 

 翔鶴の前へ、瑞鶴の背中が入った。

 

 姉の剣が止まる。

 

 隼人はその間に位置を変えていた。

 

 瑞鶴が振り向こうとしたところで、腕へ触れられる。

 

 終わり、と明石が声を掛けた。

 

瑞鶴(KAN-SEN)「今のは、もう一度」

 

隼人「少し待ってください。何がありました?」

 

瑞鶴(KAN-SEN)「私が、姉さんの邪魔をした」

 

翔鶴(KAN-SEN)「私も、瑞鶴が前へ出ると思って、同じところへ寄ってしまいました」

 

 翔鶴が、先ほど自分のいた場所を見る。

 

 数歩しか離れていない。

 

 だが、その数歩の中に、二人分の身体と剣があった。

 

瑞鶴(KAN-SEN)「もっと広ければ……」

 

 言ってから、瑞鶴は口を閉じた。

 

 隣には、狭い通路を作ったばかりの施設がある。

 

 自分の都合で、場所を広げられるとは限らない。

 

隼人「同じ相手を見ているので、同じところが空いて見えることはあります。次は、お二人で相談してからどうぞ」

 

 隼人は敷物の端へ下がった。

 

 明石が、そっと近づく。

 

明石(艦娘)「二人とも、十分強いと思いますけど」

 

隼人「ええ。ですから、すぐに変わると思います」

 

明石(艦娘)「本当に、勝たれてしまうかもしれませんよ?」

 

隼人「その時は、私が困りますね」

 

 顔は困っていなかった。

 

 明石は、何となく理由が分かった気がした。

 

 自分も、図面どおりに動かなかった物を直して、次はどうなるか試す時には、似た気分になる。

 

 向こうで、瑞鶴が何かを言った。

 

 翔鶴が頷き、短く言葉を返している。

 

 隼人は水を飲みながら、その相談が終わるのを待った。

 

 

 

 二度目は、最初から違った。

 

 瑞鶴が近づいても、翔鶴はすぐに続かない。

 

 隼人が位置を変えると、今度は翔鶴が前へ出る。

 

 瑞鶴は姉の背を追わず、別の場所で動きを待った。

 

 剣が触れ合う。

 

 隼人が応じた、そのあとへ瑞鶴が入ってくる。

 

 先ほどのように、一人の陰へもう一人が隠れることはなかった。

 

 瑞鶴の剣先が、隼人の腕へ届いた。

 

瑞鶴(KAN-SEN)「取っ――」

 

 言いかけた声が止まる。

 

 隼人の稽古刀は、翔鶴の胴へ触れていた。

 

 明石が、三人を順に見た。

 

明石(艦娘)「これは……」

 

翔鶴(KAN-SEN)「私が、先ですね」

 

 翔鶴が答えた。

 

 隼人も、頷く。

 

瑞鶴(KAN-SEN)「ほとんど同時だったじゃない」

 

翔鶴(KAN-SEN)「でも、先よ」

 

 姉の声は、静かだった。

 

 瑞鶴は悔しそうに息を吐き、それから剣を下ろした。

 

 隼人も構えを解く。

 

隼人「今度は、お互いの邪魔をしませんでしたね」

 

瑞鶴(KAN-SEN)「でも、姉さんが取られた」

 

翔鶴(KAN-SEN)「瑞鶴が来るまで、私が引いてはいけないと思ってしまいました」

 

 翔鶴は防具へ触れた。

 

 隼人の剣が届くことに、気づいていなかったわけではない。

 

 もう少し待てば、妹の剣が届く。

 

 そう思った分だけ、動くのが遅れた。

 

隼人「お二人の狙いは、こちらにも伝わりました。続ければ瑞鶴さんに取られることも、分かっていました」

 

翔鶴(KAN-SEN)「それでも、私へ?」

 

隼人「はい。今回の条件なら、先に一人へ届けばよいので」

 

 翔鶴は少し考え、頷いた。

 

 自分が何をさせたいか。

 

 そればかり見て、相手にも選べるものがあることを、途中から忘れていた。

 

 隼人は、昨日の将棋盤を思い出していた。

 

 取れる駒を見つけ、取りたくなった。

 

 天城は、その先で待っていた。

 

 ただし、今の二人は、盤の上で決められた動きしかできない駒ではない。

 

 自分たちで、途中から変えられる。

 

瑞鶴(KAN-SEN)「姉さん」

 

 瑞鶴が、翔鶴へ向き直った。

 

瑞鶴(KAN-SEN)「私が間に合わなかったら、待たなくていい。そこから、もう一度やろう」

 

翔鶴(KAN-SEN)「……ええ」

 

瑞鶴(KAN-SEN)「私も、当てることばかり考えてた。姉さんが下がれるかどうか、見てなかった」

 

 翔鶴は、妹の顔を見た。

 

 今度はすぐに構えず、二人で少し話をする。

 

 隼人は、その間へ入らなかった。

 

 明石も、時計を確認してから待った。

 

 

 

 三度目。

 

 最初に前へ出たのは、翔鶴だった。

 

 隼人は、前と同じ形になるのを待たなかった。

 

 先に近づき、翔鶴の動きを止めようとする。

 

 翔鶴は応じかけ、途中で離れた。

 

 無理に留まらない。

 

 瑞鶴も、そのあとへ慌てて飛び込まなかった。

 

 姉が戻ってくる場所を空け、自分の前に現れた隼人を見る。

 

 隼人は、僅かに眉を動かした。

 

 瑞鶴の剣が近づく。

 

 受ければ、翔鶴が動く。

 

 そちらへ向けば、瑞鶴が追ってくる。

 

 どちらかが見えなくなるわけではない。

 

 見えていても、二人の動きへ同時には応じられない。

 

 隼人の靴が、敷物の端近くへ下がった。

 

 明石は、記録板から目を上げたままになっている。

 

 隼人が場所を変えようとする。

 

 翔鶴も向きを変えた。

 

 その腕が、一瞬空いて見えた。

 

 隼人の剣が伸びる。

 

 瑞鶴が、自分の剣でそれを受けた。

 

 当てに来ると思っていた相手が、姉のために動いた。

 

 隼人は剣を引き戻したが、翔鶴はすでに退いた位置から身体の向きを変えていた。

 

 胴の防具へ、軽い音がする。

 

 翔鶴の剣先だった。

 

 明石が声を上げる。

 

明石(艦娘)「一本!」

 

 三人の動きが止まった。

 

 瑞鶴が、姉を見る。

 

 翔鶴は自分の剣先を確かめ、それから隼人へ目を戻した。

 

隼人「参りました」

 

 今度は、二人へ向けて言った。

 

瑞鶴(KAN-SEN)「……取れた」

 

翔鶴(KAN-SEN)「ええ」

 

 翔鶴の頬が、少し緩む。

 

 瑞鶴は剣を下ろし、空いた手を持ち上げかけた。

 

 途中で止めて、先に礼をする。

 

 隼人も礼を返す。

 

 それが済んでから、瑞鶴は姉へ向き直った。

 

瑞鶴(KAN-SEN)「やったね、姉さん」

 

翔鶴(KAN-SEN)「助けてもらったわ」

 

瑞鶴(KAN-SEN)「そっちも、ちゃんと取ってくれたでしょう」

 

 二人の手が、軽く触れ合った。

 

 明石は記録板へ結果を書き、顔を上げる。

 

明石(艦娘)「隼人さん。手加減は……」

 

隼人「当てる強さは、三人とも控えています。今の一本は、取られました」

 

 隼人は防具を外し、額の汗を拭いた。

 

 息も少し上がっている。

 

 瑞鶴は、それを見て、ようやく満足したように笑った。

 

瑞鶴(KAN-SEN)「何でも涼しい顔で済ませる人じゃなくて、安心したわ」

 

隼人「二人で追い回しておいて、その感想ですか」

 

瑞鶴(KAN-SEN)「自分から言ったんでしょう?」

 

隼人「ええ。言いましたね」

 

 否定できない。

 

 隼人は、もう一度汗を拭いた。

 

 

 

 休憩用の長椅子へ座ると、明石が冷やしておいたラムネを持ってきた。

 

 栓を押し込む音が、続けて鳴る。

 

 瑞鶴は一口飲み、それから自分の腕を軽く回した。

 

瑞鶴(KAN-SEN)「最初から、今みたいにできればよかったのに」

 

翔鶴(KAN-SEN)「最初は、何ができていないのか、分からなかったでしょう」

 

瑞鶴(KAN-SEN)「分かってる」

 

 瑞鶴は瓶を膝へ置き、隼人を見る。

 

瑞鶴(KAN-SEN)「でも、次は同じように動いたって、取らせてくれないでしょう?」

 

隼人「できるだけ、そうしたいですね」

 

瑞鶴(KAN-SEN)「やっぱり」

 

 それを聞いても、落胆した様子はなかった。

 

 むしろ、次に何をするか考え始めている。

 

翔鶴(KAN-SEN)「最後、私の腕が空いたのは、わざとではありませんでした」

 

隼人「そうでしたか」

 

翔鶴(KAN-SEN)「下がったあとに、持ち直すのが遅れたんです。瑞鶴が動いてくれなければ、また私が取られていました」

 

瑞鶴(KAN-SEN)「私からは、見えたから」

 

 瑞鶴は、隼人へ向けていた視線を姉へ戻した。

 

瑞鶴(KAN-SEN)「二回目は、自分がいつ行くかばかり考えていた。でも、今のは姉さんも見えた。それだけよ」

 

 隼人は頷いた。

 

 打ち合わせた形が崩れた時に、最初からやり直そうとして固まらなかった。

 

 目の前で起きたことを見て、二人とも自分の動きを変えた。

 

 一本を取ったことより、その変化の方が、教える側には嬉しかった。

 

隼人「お二人とも、直すのが早いですね」

 

瑞鶴(KAN-SEN)「そのくらいできなければ、困るもの」

 

隼人「できなかったところを認めるのは、案外難しいですよ」

 

翔鶴(KAN-SEN)「隼人さんにも?」

 

 隼人は、ラムネの瓶を持つ手を止めた。

 

隼人「……あります」

 

 昨日、天城の盤の前で、何手も前へ戻りたくなった。

 

 取りたい駒へ手を伸ばしたのは、自分である。

 

 相手のせいにしても、次は変わらない。

 

瑞鶴(KAN-SEN)「今の間、何かあったわね?」

 

隼人「昨日、将棋に負けました」

 

翔鶴(KAN-SEN)「天城さんに?」

 

隼人「ええ」

 

瑞鶴(KAN-SEN)「ああ。それは……」

 

 瑞鶴は、妙に納得した顔をした。

 

隼人「皆さん、相手の名前を聞くと、同じ顔になりますね」

 

翔鶴(KAN-SEN)「分かっていても、選んでしまうんです。あの方が置いてくださる方を」

 

隼人「今なら、よく分かります」

 

 隼人が瓶を傾ける。

 

 中の玉が、ころりと鳴った。

 

 瑞鶴も笑って、残りのラムネを飲む。

 

 隣で明石は、記録板へ何かを書き足していた。

 

隼人「どうしました?」

 

明石(艦娘)「二回目と三回目、終わるまでの時間は、三回目の方が長かったんです」

 

 隼人が紙を見る。

 

 時刻の下に、結果と、その時に起きたことが短く記されている。

 

明石(艦娘)「最初は、速ければいい記録だと思っていたんですけど。さっきのを見ていると、時計だけでは分からないですね」

 

隼人「ええ。何をして、その時間になったかが大事です」

 

明石(艦娘)「こちらの施設でも、書けるようにします。時間の横へ、困ったところと、次に変えたところを」

 

 明石は、試用の記録用紙を裏返した。

 

 さっきまで空いていた余白へ、鉛筆で線を引いていく。

 

 瑞鶴が、身を乗り出した。

 

瑞鶴(KAN-SEN)「私たちの分も、残しておいてくれる?」

 

明石(艦娘)「もちろんです」

 

瑞鶴(KAN-SEN)「次に来た時、同じことを言われたくないから」

 

翔鶴(KAN-SEN)「そのためなら、私たちも覚えておかないとね」

 

 明石が顔を上げ、笑った。

 

 隼人は、自分の瓶を長椅子の脇へ置く。

 

 相手をするたびに、こちらが知っている二人とは、少し違っていた。

 

 次の稽古で同じつもりで向かい合えば、今日より早く一本取られるかもしれない。

 

 隼人は、腕へ当たった時の感触を思い出した。

 

 それなら、こちらにも直すところがある。

 

 

 

 終了時刻になると、隼人は稽古を切り上げた。

 

 瑞鶴は、もう一本と言いかけたが、明石が時計を見たことで口を閉じる。

 

 防具を拭き、稽古刀を箱へ戻す。

 

 翔鶴は使った敷物の端を直し、明石は模擬銃と記録板を片づけた。

 

瑞鶴(KAN-SEN)「ねえ、隼人さん」

 

隼人「はい」

 

瑞鶴(KAN-SEN)「次は、どこでどう来るか分からない稽古もできる?」

 

 隼人は箱を閉じる手を止めた。

 

隼人「この施設の中で、役割を決めてなら。準備してからにしましょう」

 

瑞鶴(KAN-SEN)「急に後ろから来られたら、どうするのかなって」

 

隼人「仕事の途中で試すのは、やめてくださいね」

 

翔鶴(KAN-SEN)「廊下も、宿舎も駄目よ、瑞鶴」

 

瑞鶴(KAN-SEN)「まだ、そんなこと言ってないでしょう!」

 

隼人「では、今のうちに約束しておきましょう」

 

 瑞鶴は二人を順に見て、少し口を尖らせた。

 

瑞鶴(KAN-SEN)「……分かった。ちゃんと、ここで」

 

明石(艦娘)「扉の修理が終わってからですよ」

 

瑞鶴(KAN-SEN)「分かってるってば」

 

 明石は使用中の札を外し、代わりに調整中の札を掛けた。

 

 今日の結果をもとに手を入れ、次に誰かが来た時には、また確かめる。

 

 昨日作った場所が、ようやく訓練施設として動き始めた気がした。

 

 隼人は用具の箱を棚へ載せると、三人へ礼を言った。

 

隼人「ありがとうございました。また、お願いします」

 

瑞鶴(KAN-SEN)「こちらこそ。次は、一対一でも二本取るから」

 

隼人「では、次も三本ですね」

 

瑞鶴(KAN-SEN)「そういうところ、余裕があるように見えるのよ」

 

隼人「予定を決めているだけですが」

 

翔鶴(KAN-SEN)「今度は、私も一本取れるようにしておきます」

 

 穏やかな声で、もう一人からも言われた。

 

 隼人は二人を見て、小さく頷いた。

 

隼人「楽しみにしています」

 

 社交辞令ではなかった。

 

 

 

 更衣を済ませ、隼人が廊下へ戻ると、窓から少し傾いた陽が差していた。

 

 稽古着は袋へ収め、手には巡回用の薄い書類挟みを持っている。

 

 今日は休暇ではない。

 

 午後の予定には、もう一つだけ、施設の使用状況を確かめる仕事が残っていた。

 

 歩き出したところで、廊下の向こうから声がする。

 

蒼龍(艦娘)「隼人さん」

 

隼人「こんにちは、蒼龍さん」

 

 蒼龍は、抱えていた書類を持ち直した。

 

 いつものように近づいてきてから、隼人の顔を一度見る。

 

蒼龍(艦娘)「訓練でした?」

 

隼人「ええ。施設の試用と、約束していた稽古を」

 

蒼龍(艦娘)「瑞鶴さんたちですね。さっき、とても楽しそうに歩いていました」

 

隼人「そうでしたか」

 

蒼龍(艦娘)「一本取った、って」

 

隼人「正確には、別々の稽古で二度ほど」

 

 蒼龍が笑った。

 

蒼龍(艦娘)「負けた回数まで、ご自分で教えてくれるんですね」

 

隼人「隠しても、本人たちが教えるでしょう」

 

蒼龍(艦娘)「確かに」

 

 二人は、窓際へ少し寄った。

 

 台車を押した職員が通り過ぎるのを待ってから、蒼龍が声を落とす。

 

蒼龍(艦娘)「それと、昨日は大丈夫でしたか?」

 

隼人「昨日?」

 

蒼龍(艦娘)「天城さんのお宅で……その、襖が」

 

隼人「ああ。怪我人は出ませんでした。襖は、修理することになりましたが」

 

 蒼龍の肩が少し下がった。

 

隼人「ご存じだったのですね」

 

蒼龍(艦娘)「今日、聞きました。赤城さんたちが、揃って修理の相談をしていたので」

 

隼人「本人の希望を聞いた方がよいと、提案された方がいたそうですが」

 

 蒼龍が、隼人を見た。

 

 一度、目を逸らす。

 

蒼龍(艦娘)「……私です」

 

隼人「ええ。提督から伺いました」

 

蒼龍(艦娘)「知っていて、聞いたんですか?」

 

隼人「どのようなお話だったのか、気になりまして」

 

 蒼龍は少し困った顔をし、それから小さく息を吐いた。

 

蒼龍(艦娘)「隼人さんのいないところで、どなたと暮らすか決めるのは違うと思ったんです。それで、まずご本人に、と」

 

隼人「それは、私も同じ考えです」

 

蒼龍(艦娘)「でも、あんな勢いで探しに行くとは思わなくて。お茶の時間まで邪魔してしまいました」

 

隼人「蒼龍さんが、襖を外したわけではありませんから」

 

 蒼龍は、その言い方に少し笑った。

 

蒼龍(艦娘)「ありがとうございます」

 

 短い間ができる。

 

 窓の外では、干された布が風に揺れていた。

 

 隼人が書類挟みを持ち直すと、蒼龍がその手元を見る。

 

蒼龍(艦娘)「これから、お仕事ですか?」

 

隼人「巡回を一回り。それで、今日の予定は終わりです」

 

蒼龍(艦娘)「では、そのあとに、お茶はいかがですか」

 

隼人「お茶?」

 

蒼龍(艦娘)「間宮さんのところが開いているんです。今日は、お饅頭もあるそうですよ」

 

 隼人は、時計を見た。

 

 巡回を終えても、夕食までは時間がある。

 

 蒼龍は、その返事を急かさずに待った。

 

隼人「いいですね。ご一緒させてください」

 

 蒼龍の表情が、ふっと明るくなる。

 

蒼龍(艦娘)「よかった。では、私もこの書類を届けてきます」

 

隼人「終わったら、店の前で」

 

蒼龍(艦娘)「はい」

 

 二人は、廊下の分かれ道で別れた。

 

 

 

 巡回を終え、記録を当直へ渡す。

 

 隼人が甘味処の前へ着くと、蒼龍はまだ来ていなかった。

 

 軒先に立ち、入口の品書きを眺める。

 

 饅頭。

 

 羊羹。

 

 白玉。

 

 どれも、今の気分にはよく合っていた。

 

蒼龍(艦娘)「お待たせしました」

 

 振り返ると、蒼龍が小走りに近づいてくるところだった。

 

 隼人の前で足を緩め、呼吸を整える。

 

蒼龍(艦娘)「隼人さんの方が、先でしたね」

 

隼人「私も、今来たところです」

 

蒼龍(艦娘)「何を食べるか、決まりました?」

 

隼人「まだ、迷っています」

 

 蒼龍は品書きを見上げ、それから隼人を見る。

 

蒼龍(艦娘)「では、別のものを頼んで、少しずつ分けませんか?」

 

隼人「それなら、二つ選べますね」

 

蒼龍(艦娘)「ええ」

 

 暖簾が、風に揺れた。

 

 蒼龍がその下へ入ろうとして、隼人の袖へ軽く指を添える。

 

 以前、海辺を歩いた時には、彼の身体を支えるために手を貸した。

 

 今は、必要がない。

 

 隼人も、足元を気にせず、彼女と同じ歩調で入口へ向かった。

 

蒼龍(艦娘)「今日の訓練のお話、聞かせてもらってもいいですか?」

 

隼人「私が負けた話ですか?」

 

蒼龍(艦娘)「それも、少し」

 

 隼人は笑った。

 

隼人「ええ。次までに考えておかなければならないことが、増えました」

 

 扉を開けると、茶と蒸した生地の匂いがした。

 

 今から図面を広げたり、記録を読み返したりするつもりはない。

 

 けれど、今日の三人の顔を思い出して話すくらいなら、お茶にも合いそうだった。

 

 隼人は蒼龍のあとから、甘味処へ入った。

 

 




はーい、どうも素人小説書きですぅ~

また、時間かけちゃいましたね

かなり文章のネタが浮かばなくって時間かかっちゃった…

次回は…ライバルがいない中鎮守府内をデートする隼人と蒼龍です

じゃあ、また次回

bye~

2026年9月18日リメイク完了

ヒロイン

  • 416
  • VSK-94
  • 大鳳A
  • 蒼龍C
  • 雷電
  • スカイレイダー
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