陸自はドールズフロントライン、海自は艦これとアズールレーン、空自はアッシュアームズ三つの世界でバラバラになりながらでも生き残る   作:ゴーストライターとかした、素人小説書き

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この作品はアッシュアームズを元ネタに構成されています(例外あり)

もし、元ネタを知らない方は
Google先生にアッシュアームズをぶち込んで検索するように。

もう知っている方はどうぞ。

検索して一応なんとなくわかった方もご視聴ください。



今回もコラボ回の為タイトルに星を付けていただきます

それでは、お楽しみください…


Act.20★ 少佐という者

Act.20★ 悪魔と呼ばれる者

 赤色十月同盟学連、受入基地。

 到着の翌朝。

 格納庫の扉が開くと、床に溜まっていた暖気が流れ出した。

 小貝は外套の襟を立て、作業灯に照らされたA-10を見上げた。昨日は雪と煤で分からなかった下面の傷が、いまはよく見える。取り外された部品の脇には、以前の修理記録まで並べられていた。

小貝「空じゃ、何ともなかったんだがな」

「飛べたことと、次も飛ばしてよいことは別です。燃料系統の作業もありますので、今日はお預かりします」

小貝「……丸一日か」

「少なくとも。結果を見てから判断させてください」

 小貝は少し黙ったあと、頷いた。

小貝「分かった。急かした挙句に、空で戻ってこられなくなるのは御免だ。頼む」

 隣では、勇翔も同じ説明を受けていた。

 F-3に被弾の穴はない。それでも、前日の飛行記録を確認する整備員の手は止まらなかった。開いた点検口から引き出された線が、機体と計器の間を繋いでいる。

勇翔「記録のことで、確認したいことがあれば」

「こちらから伺います。いまは休んでください」

小貝「二人そろって、邪魔になる前に出ていけってよ」

勇翔「そこまでは言われていません」

 奥で、工具箱の蓋が閉じた。

モス「中佐。こちらも、置いていってください」

 黄色いダチュラの下に、ライカがいた。

 片手には記録板。もう片方には、まだ工具が残っている。

 彼女は開いた点検口を指し、記録板の一行をモスへ見せた。

モス「はい。その項目も引き継いでいます」

 指が、次の行へ移る。

モス「そちらもです」

 ライカは整備員を見た。整備員は受け取った記録を上げ、頷いた。

 それでも工具を置かないため、モスは彼女の前へ回った。

モス「昨夜、何時までこちらにいらしたんですか」

 ライカが時計を見る。

モス「今日の時刻ではありません。昨夜のお話です」

 小貝が勇翔の隣で、口元を隠した。

小貝「……捕まってるな」

勇翔「聞こえますよ」

小貝「もう聞こえてる」

 ライカの目が、こちらへ向いた。

 小貝は片手を上げた。

モス「整備責任者とも話をしています。午前中は休んでください。追加で確認したいことがあれば、私たちから伺います」

 ようやく、工具が箱へ戻った。

 ライカは手袋を外し、点検口をもう一度見た。そばの整備員が、先程より少し強く頷く。

「お預かりします、中佐」

 彼女も小さく頷いた。

 出口へ歩き出してから、一度だけ振り向く。モスがその場で見ていることを確かめると、今度は戻らずに出ていった。

     *

 受入窓口には、朝から書類が積まれていた。

 マリーナは二機の整備予定を手元へ寄せ、勇翔と小貝に向き直った。

マリーナ「北方への移動は、機体の確認が終わってからになります。観測資料については午後に説明しますので、それまでは休息を取っていただいて構いません」

小貝「近くの街へ出るのは?」

マリーナ「できます。行き先と、帰着予定を残してください」

 小貝は用紙に書き込み、机越しに差し出した。

 マリーナの指が、ペンを持ったまま止まる。

マリーナ「そちらへ置いていただけますか」

小貝「ああ」

 机へ置き、一歩戻る。

 マリーナはそれから用紙を取り、記入された時刻を確かめた。

 隣の八九式が、案内図を広げてくれる。

八九式「この通りでしたら、食品のお店が揃っています。茶葉を扱うお店は、こちらです」

勇翔「茶葉も買えるんですね」

小貝「そこだけ反応が早えな」

勇翔「せっかくですから」

 八九式は小さく笑った。

 机の端で呼出灯が点く。笑みを残したまま受話器を取り、用紙を一枚、手元へ引いた。

八九式「私もご案内できればよかったのですが、今日は各所との確認が立て込んでいまして」

マリーナ「私も同行はできません。道順は出発前に確認しましょう」

 勇翔が案内図を受け取った時、扉が三回、軽く叩かれた。

 外套を羽織ったライカが立っていた。

 整備用の手袋はない。代わりに、鍵を提げている。

 机の地図を見てから、廊下の先を親指で示した。

小貝「……乗せてくれるのか?」

 頷く。

 折り畳んだ紙を取り出し、案内図の一角を指した。商店の並ぶ通りから一本、脇へ入った場所だった。

八九式「中佐も、買い物に?」

 もう一度、頷いた。

 マリーナの肩から、わずかに力が抜ける。

マリーナ「それでしたら、道の心配はありませんね」

 ライカへ向けた視線が少し長く残った。

 八九式が受話器を置き、返答を待つ書類をそっと机へ出す。

八九式「大尉。こちらも、午前中です」

マリーナ「……分かっています」

 マリーナはペンを取り、最後に二人を見た。

マリーナ「戻られたら窓口へ一報を。お気をつけて」

     *

 車両置場で、小貝が足を止めた。

小貝「買い物、だよな?」

 ライカが振り向く。

 その背後には、長いハーフトラックがあった。

 前輪の後ろに履帯が続いている。幌を張った荷台の奥には、布で覆った砲が一門、収まっていた。

小貝「茶と菓子を買うんだぞ。店ごと持って帰るわけじゃねえぞ」

 ライカは鍵を見せ、空いている席を指した。

勇翔「荷物は積めそうですね」

小貝「そういう問題か?」

 ライカの口元が、わずかに動いた。

 傷の残る両端は、それ以上には開かなかった。

 彼女は二人の足元から木箱をどかし、幌の留め具を確かめてから運転席へ戻った。

 エンジンが低く唸る。

 建物の前では、モスがこちらを見ていた。

モス「お帰りは、こちらの入口からお願いします。格納庫へ直行なさらないように」

 ライカが上げた手が、一瞬止まった。

小貝「行き先まで読まれてるぞ、中佐」

 運転席が正面へ向き直る。

 車両はゆっくり、門を抜けた。

 除雪した道の両側に、白い壁が続いていた。

 幌の隙間からは、煙突の煙と、人の歩く姿が見える。厚い手袋で荷車を押す男。店先に薪を運び込む人。昨日は一瞬で通り過ぎた景色の中に、細い道が何本もあった。

 勇翔は、頭上に見える山の稜線へ目を上げた。

 その向こうに何がいるかを考えず、山を眺めていられるのは、少し久しぶりだった。

小貝「運転は丁寧なんだな」

 鏡の中で、ライカの目がこちらを向いた。

小貝「昨日の飛び方を見たあとだからよ。もっと振り回されるかと」

 前方で、荷を積んだ橇が道を横切った。

 ライカは手前で速度を落とし、相手が渡り終えるまで待った。

 男が帽子を上げると、ハンドルの上で指を少し上げる。

 それから、車両を進めた。

勇翔「空でも、最初からこうなら」

小貝「だろ?」

 運転席から片手が上がった。

 分かった、とでも言うような手だった。

 二人は、それ以上蒸し返さなかった。

     *

 商店街の手前にある広場へ停めると、ライカは助手席へ手を伸ばした。

 そこに置いていたAVT-40を持ち出す。

 負い革を肩へ通し、銃を背に回してから地面へ下りた。

小貝「それも持って歩くのか」

 頷く。

 小貝は銃と彼女の顔を見比べ、自分も荷台から下りた。

 勇翔が続くと、焼けたパンの匂いがした。

 店先では男が雪を掻いている。紙袋を抱えた女性が、三人の横を通り過ぎた。聞こえてくる声に、無線の雑音は混じっていなかった。

 ライカは時計を示し、それから案内図を指した。

 茶葉の店。菓子の店。そして、彼女が印をつけていた店。

小貝「一緒に回るか。迷って迎えに来てもらうのも面倒だ」

 ライカは二人が揃うのを待ち、歩き出した。

「贈り物かい。それとも、自分で飲むもの?」

 茶葉の店には、大小の缶が並んでいた。

 店主が蓋を開けるたび、違う香りがした。

勇翔「……一緒に飲むつもりです」

 隣で小貝が口を開きかけた。

 勇翔が先に見る。

小貝「何も言ってねえだろ」

勇翔「言う顔でした」

 店主が笑い、別の缶を手前へ置いた。

「なら、これも試してみなさい。香りが強すぎないし、菓子にも合わせやすい」

 淹れてもらった茶を、勇翔は少し冷ましてから飲んだ。

 口へ運ぶ前の香りと、飲み込んだあとの味が違う。

 雷電なら、どちらを先に言葉にするだろう。

 しばらく考え、帰って一緒に飲めば分かる、と思った。

勇翔「これをお願いします」

 量を訊かれ、いちばん小さい袋より一つ大きいものを選ぶ。

小貝「一回分にしないところが、お前らしいな」

勇翔「何度か飲みたいですから」

 小貝は、それには何も返さなかった。

 店主が袋の口を折り、茶の名前を書き添える。

 扉の脇で待っていたライカへ袋を見せると、軽く頷きが返ってきた。

 小貝の買い物は、もう少し賑やかだった。

小貝「こっちは何だ」

「蜂蜜を使った焼き菓子。そちらは、中にジャムが入っているよ」

小貝「日持ちするのは?」

「長く持たせるなら、こっちの堅い方だね」

 説明を聞くたび、小貝の指す先が変わった。

 自分の分。留守番をしている連中の分。それから、今日の整備班へ渡すもの。

 紙袋が三つになった。

勇翔「結構買いますね」

小貝「顔だけ出して、土産の一つもねえと、あとで何言われるか分からんからな」

勇翔「スカイレイダーさんに?」

小貝「誰とは言ってねえだろ」

 勇翔が笑う。

 小貝は返事の代わりに、小さな袋を押しつけた。

小貝「これは、いま食う分」

 ライカにも差し出す。

 彼女は袋を見てから、小貝を見た。

小貝「運賃。……そんな顔すんな。菓子くらい貰っとけ」

 片手が出た。

 受け取った菓子は、外套のポケットへしまわれる。

 小貝は残りの袋を抱え、財布を閉じた。

小貝「で。中佐の番だな」

 ライカが、通りの奥を指した。

     *

 猟具店の扉を押すと、小さな鈴が鳴った。

 茶葉と砂糖の匂いが、油と古い木の匂いに変わる。

 窓際には銃床が並び、壁には革の手袋と丈夫そうな鞄が掛けられていた。

「いらっしゃい」

 ライカは折り畳んだ紙をカウンターへ置いた。

 店主がそれを開き、背負われた銃へ目をやる。

「この銃に使う弾を、六十発だね」

 頷く。

 店主は棚から箱を出し、表示と数量を確かめながら揃えていった。

 ライカも箱を見て、最後にもう一度頷いた。

小貝「……会話、ちゃんと成立するんだな」

 小貝が勇翔へ顔を寄せる。

勇翔「相手の話は、ずっと聞いていますから」

小貝「俺たちが喋りすぎなのかね」

 ライカが振り向き、頷いた。

小貝「そこは返事が早えな」

 勇翔は視線を床へ落とした。笑いを隠すためだった。

 ライカは小さく肩をすくめ、伝票へ向き直る。

 支払いを済ませたあと、小貝が背の銃を見た。

小貝「そいつを猟銃代わりにしてるのか」

 頷く。

勇翔「このあたりでも、狩りを?」

 ライカは店主からペンを借り、紙の余白へ短く書いた。

 ――場所は、これから。

小貝「じゃあ、まず場所を確かめるところからだな」

 彼女は紙を畳み、包みを受け取った。

 負い革を軽く引き直し、店主へ頭を下げる。

 昨日、大型誘導弾を撃っていた人が、今日は自分の銃に使う弾を買っている。

 勇翔は、その横顔を見た。

 任務と整備以外にも、この人には、この人の用事があるのだった。

 車両へ戻ると、ライカは銃を背から下ろし、助手席へ動かないように収めた。弾薬の包みも、その脇へ置く。

 勇翔が茶葉を膝へ置こうとすると、小さな空き箱が差し出された。

 中に布を敷き、崩れやすい菓子の袋も一緒に入れるよう示される。

勇翔「ありがとうございます」

 ライカは頷き、箱を安定した場所へ収めた。

 それから、ポケットの菓子を一つ取り出した。

 運転席へ座る前に包みを開き、少しずつ口へ運ぶ。

小貝「どうだ」

 少し間があった。

 ライカは親指を立てた。

小貝「だろ」

 自分で作ったわけでもないのに、小貝は少し得意そうだった。

     *

 帰りも、車体は穏やかに揺れた。

 小貝は目を閉じていたが、道が少し荒れると、菓子の箱へ手を添えた。

 勇翔は幌の端から雪山を見た。

 午後には、その向こうに残る反応について話を聞く。

 いまは、買ったものを潰さず基地へ運んでいた。

 門を抜けると、格納庫へ続く曲がり角が近づいた。

 車両は、そのまま通り過ぎた。

小貝「よく我慢したな」

 鏡の中の目が、少し細くなった。

 ライカは車両置場へ停め、二人の荷物を下ろすのを手伝った。

 最後に助手席から銃を取り出して背負い、弾薬の包みを持つ。

 二人へ軽く手を振り、宿舎の方へ歩いていった。工具箱を取りに戻る様子はなかった。

 窓口では、八九式が電話を切ったところだった。

八九式「お帰りなさい。整備班からも連絡がありました。引き続き、予定どおり作業しています」

小貝「こっちは、予定どおり買ってきた」

 帰着の記入を済ませ、菓子の袋を机の端へ置く。

小貝「差し入れ。休める時に食ってくれ。整備班の分も、回してもらえるか」

八九式「よろしいんですか」

小貝「こっちばかり、世話になってるからな」

 八九式の表情が緩む。

 奥の机から、マリーナも顔を上げた。

マリーナ「ありがとうございます。あとで、いただきます」

 小貝が机越しに片手を上げると、短い会釈が返った。

 勇翔は、茶葉の包みを示した。

勇翔「こちらを預かっていただけますか。調査には、持ち出さないつもりです」

八九式「はい。お二人の荷物として、分かるようにしておきます」

 小貝も土産用の袋を並べた。

 名前と中身を記した札が、それぞれに添えられる。

 勇翔は自分の名を書いた。

 受け取りに戻るものが、一つ増えた。

     *

 午後のブリーフィングルームには、朝より多くの資料が揃っていた。

 八九式が地図を広げる。モスは新しい観測記録を端へ重ね、マリーナが整備予定を二人の前へ置いた。

マリーナ「北方前進拠点への出発は、明日以降の確認待ちです。本日は、移動経路と調査範囲をご説明します」

 指が、山脈へ向かう線を辿った。

 昨日撃破した大型三体とは別に、奥地にはまだ反応がある。

 何が、どれだけいるのか。地図の余白には、まだ空欄が多かった。

マリーナ「優先するのは、発生源と活動状況の確認です。交戦が必要かどうかは、観測結果を見て判断します」

小貝「見つけて、写真を持って帰る。そういうことだな」

マリーナ「はい。独断で調査範囲を広げないようにお願いします」

 モスが、中継できる空域と連絡点を示す。

 勇翔は時刻を書き込み、小貝は帰路に使える谷を確かめた。

 機体が飛べるようになっても、いきなり向かえばよい場所ではなかった。

 説明が一区切りつくと、マリーナは基地の見取図を出した。

マリーナ「滞在中、こちらの倉庫区画には入らないでください。現在、押収品を保管しています」

小貝「何を押収したんだ」

マリーナ「密輸組織から、弾薬と軍用の資材を。捜査は継続中です」

 地図の端に、搬入口と格納庫裏の通路が見える。

 その先にある倉庫が、丸で囲まれていた。

勇翔「外出した通りとは、別ですね」

マリーナ「ええ。市街地への道は開いています。こちらは警備の指示に従ってください」

 勇翔は頷き、資料を閉じた。

 帰路を書き込んだ紙を、ポケットへ収める。

 今日は、まだその線を飛ばない。

 二機は格納庫に残ったまま、夕方になった。

     *

 夕食のあと、勇翔は宿舎の机で端末を開いた。

 受入基地から送った連絡に、雷電の返事が届いていた。

 無事でよかった。

 戻ったら、お茶を飲みましょう。

 短い文を、もう一度読む。

 茶葉を買ったことは伝えてある。店主が書いてくれた名前も、そのまま送った。

 勇翔は返信を打ちかけ、窓の外へ目をやった。

 雪は止んでいたが、風が屋根の端から細かい雪をさらっていた。

小貝「明日、出られそうか?」

 隣の椅子から、声がした。

勇翔「整備が終われば。そのあと確認もありますから」

小貝「まあ、そうだな」

 小貝は資料を畳み、机へ置いた。

 出発を急かすつもりはないらしい。それでも、機体のある方へ何度か目が向いた。

 勇翔が返信の続きを打ち始めた時、外で乾いた音がした。

 間を置いて、もう二度。

 二人が顔を上げた。

小貝「……あれ、何の音だ」

 窓の向こうで光が弾けた。

 次の瞬間、警報が鳴り始めた。

     *

 廊下へ出ると、基地の放送が行き先を繰り返していた。

 整備員は指定の退避場所へ。警備要員は持ち場へ。

 勇翔と小貝は外套を掴み、窓口へ向かった。

 受入業務の机は、すでに通信機と見取図に覆われている。

八九式「西側の搬入口で交戦しています。格納庫の作業も中断させています」

小貝「俺たちの機体は?」

マリーナ「動かせません。飛行準備を始められる状態ではありません」

 マリーナの言葉は短かった。

 奥の通信機から、警備隊長の声がする。外周の柵が一部破られ、車両が接近中だという。

 八九式が、昼に見た搬入口へ印をつけた。

 そこから格納庫裏を通れば、押収品の倉庫へ出る。

小貝「取り返しに来たってことか」

マリーナ「その可能性があります。倉庫側の警備も増やしています」

勇翔「こちらで手伝えることは」

 マリーナは二人を見てから、通信機を取った。

マリーナ「飛行隊の二名がいます。格納庫周辺の警備と退避の補助に回せますか」

 返答を聞き、二人へ集合場所を告げる。

マリーナ「現場では警備隊の指示に従ってください。単独で外周へ出ないように」

小貝「ああ。地面で走り回るのは専門外だ」

 返事をしたところで、扉が三回叩かれた。

 ライカとモスが立っていた。

 ライカの肩には、昼と同じAVT-40が掛かっている。外套の下には複数の弾倉を収めた袋。腰にも小さな装備袋があった。

 袋の口からは、さらに弾倉や弾をまとめたクリップが覗いていた。かなりの量を持っているように見えた。

 モスは飛行用のARMSを外し、野戦通信機を背負っている。胸の前には護身用のPPSh-41があった。

モス「中佐と、外縁の資材置場まで出ます。搬入口へ向かう車両を確認します」

 ライカは見取図へ指を置いた。

 西側の柵の外に、古い資材置場がある。

 警備隊長と確認を終えると、マリーナが頷いた。

マリーナ「位置を知らせながら動いてください。こちらで警備隊との連絡を保ちます」

モス「承知しました」

 ライカが二人を見た。

 格納庫の方を指し、それから勇翔と小貝へ目を戻す。

小貝「分かってる。こっちは任せとけ」

 頷きが返った。

 その時も、ライカは何も言わなかった。

     *

 外へ出ると、寒さより先に音が届いた。

 銃声。車両のエンジン。風に擦れる何かの金属音。

 格納庫前では、作業灯が一つずつ消されていた。明るかった機体の下面が闇へ沈んでいく。

 警備隊員が二人へ装備を渡し、まず勇翔へ通路を示した。

「渡邉大尉は、こちらの班と格納庫裏へ」

 次に、小貝へ向き直る。

「小貝少佐は観測と連絡をお願いします。整備員の退避も、まだ終わっていません」

小貝「砲の使い方を、今から教えるって話じゃなくて助かったよ」

「砲には砲員がついています」

小貝「上等だ。何がどこにいるかは、見て伝える」

 勇翔は小銃の重さを確かめ、班の後ろへついた。

 格納庫の裏は、上空から見るより狭かった。壁の角を一つ曲がると、先の車両も、隣の班も見えなくなる。

 空では、互いの位置を画面で追っていた。

 ここでは人の肩と手振りを見て、立ち止まる場所を合わせる必要があった。

 車両置場で、幌が外されていた。

 昼のハーフトラックだった。

 荷台の覆布が引かれ、三十七ミリ砲の輪郭が現れる。三人で座った場所へ砲員が入り、菓子の箱を置いた足元に弾薬が運ばれていた。

小貝「……買い物だけじゃ、済まなかったな」

 昼にライカが寄せた木箱を、小貝が邪魔にならない場所へ移す。

 次に渡された箱は、ずっと重かった。

 砲員の手元へ運ぶと、受け取った男が短く礼を言った。

     *

 基地の外では、雪が地面を横へ流れていた。

 ライカが止まる。

 モスも、少し後ろの壁へ身体を寄せた。

 資材置場には、崩れた木枠と鉄骨が積まれていた。その向こうに、人が動く。

 銃口が上がった。

 ライカの単発射撃が先に響き、影が引っ込んだ。

 返ってきた弾が鉄骨を叩く。

 モスは短機関銃を向けながら、手元のマイクを取った。

モス『外縁部より。資材置場に武装した人員がいます。中佐と私は、柵の外側です』

マリーナ『確認しました。格納庫側の警備へ伝えます』

 ライカが片手を上げた。

 前方の暗がりへ、次の人影が入ってくる。

 今度は二人だった。

 彼女の射撃は長く続かなかった。数発で止まり、銃口が別の場所へ移る。

 モスはその背を追う。

 途中で足元の木材に引っ掛かりかけると、ライカの手が腕を支えた。自分の後ろへ引き寄せ、崩れた壁の陰へ入れる。

 直後、さっきまで立っていた場所で雪が弾けた。

モス「ありがとうございます」

 ライカは前を見たまま、手だけを離した。

 モスも姿勢を低くし、通信を続ける。

モス『車両の音が近づいています。搬入口の外側です。こちらから確認します』

 暗がりの奥から、大きな車体が出た。

 トラックに鉄板を継ぎ足している。窓の代わりに細い隙間があり、車体には色の違う鋼板と、粗い溶接の跡が残っていた。

 荷台の銃口が、基地へ向く。

 その後ろから、もう一台。

 こちらには長い砲身があった。

モス『即席装甲車を確認。後続にも、砲を載せた車両がいます』

 砲口が光った。

 搬入口のそばで、壁の一部が吹き飛んだ。

 遅れて届く轟音が、胸を押した。

     *

 格納庫裏でも、床が揺れた。

 勇翔の頭上から細かい埃が落ちる。

 昼は何とも思わなかった倉庫の距離が、ひどく近かった。

「八十五ミリだ。外周の砲座、応射準備!」

 警備隊の声が飛ぶ。

 基地側の高射砲が向きを変え、夜の低い位置へ砲口を向けた。

 発射の光が土塁の向こうに上がる。

 勇翔は反射的に見上げかけ、前へ視線を戻した。

 守る通路は、まだ暗い。

 小貝は観測用の位置から、搬入口の向こうを見ていた。

 銃口炎のそばで、最初の装甲車が進む。砲搭載車は資材の山に一部を隠し、基地の砲座と撃ち合っていた。

小貝『装甲車が搬入口へ向かってる。後ろの砲搭載車は、まだ外だ。二台を混ぜるなよ』

 マリーナが復唱した。

 八九式の声が、退避状況を告げる。

八九式『整備員の移動が続いています。格納庫裏の通路を使いますので、そちらを空けてください』

 勇翔が、班の隊員へ伝える。

 工具袋を抱えた整備員が出てきた。後ろには、作業中だった記録を脇に挟んだ男がいる。

勇翔「機体はあとです。先にこちらへ」

「点検口が、まだ開いていて」

勇翔「戻れます。そのために、いま離れてください」

 男が唇を結び、走り出した。

 勇翔はその背を見送り、通路の角へ戻った。

     *

 資材置場で、ライカが弾倉を替えた。

 空いたものは捨てず、袋へ戻す。

 モスはその間に後方を見た。基地側の砲が発砲するたび、柵と二人の影が一瞬浮かんだ。

 敵の砲搭載車が、向きを少し変える。

 ライカがモスの肩を押し、壁の内側へ下げた。

 次の一発が、資材置場を叩いた。

 木材と雪が崩れ落ちた。

 飛んだ破片の一つが、ライカの顔の横を掠めた。

 彼女の頭がわずかに振れる。

 外套の襟へ、赤いものが落ちた。

 モスが息を呑んだ。

 治りかけていた口の両端が、再び裂けていた。

 ライカは倒れなかった。銃を持ち直し、前方へ目を戻している。

 モスは医療品の入った袋を引き寄せ、マイクの送信を入れた。

モス『外縁部、負傷者が出ています。手当てを──』

 呼びかけたまま、ライカへ手を伸ばす。

モス「動かないでください。止血します、口の傷が……!」

 ライカの手が、その腕を押し留めた。

 射撃の来た方へ顔を向けたまま、口を開く。

ライカ「丁度、喋りにくかったところなんだよ、ありがとうね」

 低い声だった。

 声を張ってはいなかった。それでも、モスの手元にあるマイクは、言葉をはっきり拾った。

     *

 小貝が、受信機へ顔を向けた。

小貝「……誰だ、いまの声」

 勇翔も、銃を持ったまま耳を澄ました。

 モスの回線だった。

 外にいる誰かが負傷した。それ以外には、まだ何も分からない。

 低く、腹の底に響く声の持ち主が、頭に浮かばなかった。

モス『中佐! 話せるからといって、動いていいわけではありません!』

 小貝が勇翔を見た。

 勇翔も、小貝を見た。

小貝「……あの人か?」

勇翔「中佐、と」

ライカ『聞こえているよ。ここを離れよう』

 続いた声にも、聞き違える余地はなかった。

 午前中、紙を出して弾を買った人。

 菓子の袋をポケットへしまい、橇が通り過ぎるのを待っていた人。

 その人が、いまモスの無線を通して喋っていた。

 通路の先で、動く影があった。

 勇翔は視線を戻し、警備隊員へ知らせた。

 驚いている間も、持ち場を空けるわけにはいかなかった。

     *

 ライカはモスを壁の切れ目へ導いた。

 口元に当てられた布を短く押さえ、銃を上げる。

 血は止まっていなかった。痛みのせいで動きが鈍る様子はなかったが、モスは襟の色が変わるのを見ていた。

モス「このまま続けるおつもりですか」

ライカ「敵はこちらを待ちやしない」

 砲搭載車が、再び砲口を基地へ向けた。

 そのそばで、歩兵がこちらを探している。

 ライカは短く撃ち、相手を資材の向こうへ下げた。

ライカ「モス。歩けるね」

モス「はい。ですが、中佐も帰っていただきます」

ライカ「帰るよ」

 返事をしてから、腰の袋へ手を伸ばした。

 RPG-43対戦車手榴弾を取り出し、手で準備を済ませる。

 モスは後ろを警戒し、通路へ出ようとした人影へ短機関銃を向けた。射撃が響くと、その影は引っ込んだ。

 ライカが前へ進んだ。

 砲搭載車の車体が、雪明かりの中に浮かんでいた。

 継ぎ足した鉄板の奥で、エンジンが回っている。

 ライカの腕から、手榴弾が離れた。

 暗がりへ消えたあと、車体のそばで強い光が弾けた。

 車両が揺れ、荷台から火が上がった。

 砲口が、下へ落ちる。

 ライカはすぐに戻り、モスと一緒に崩れた壁の陰へ入った。

 続いて起きた爆発が、さっきまでいた場所へ破片を散らした。

 モスの肩へ木片が落ちる。ライカが払いのけた。

ライカ「どこか当たった?」

モス「ありません。中佐は」

ライカ「増えてはいない」

モス「それを、無事とは言いません」

 ライカは答えず、前を見た。

 車体の向こうから、人が出てくる。

 AVT-40を短く連射、相手の銃火が途切れる。

 モスは通信機へ顔を寄せた。

モス『外縁部より。砲搭載車は停止しました。火災が起きています。人員はまだ残っていますので、警戒を続けてください』

 モスが送信を終える直前、前方で誰かが叫んだ。

「砲がやられた! 車を戻せ!」

「あの女だ! 悪魔がいる!」

 風が一瞬弱まり、別の声が続いた。

「ファム・スールだ……!」

 モスの送信中のマイクへ、その声が混じった。

     *

小貝「……ファム・スール?」

 受信機から目を上げる。

 隣の警備隊員も聞いていた。

小貝「中佐のことか」

「ええ。そう呼ぶ連中がいます」

勇翔「敵が?」

「こちらにも」

 警備隊員はそれだけ言い、通路へ向き直った。

 小貝は、昼のライカの背中を思い出した。

 外套の上から銃を背負い、角を曲がる前には、二人が来ているか確かめていた。

 その人を、双方が同じ名で呼んでいる。

 搬入口で、エンジンの音が上がった。

 最初の即席装甲車は、まだ動いていた。

 外縁部の砲搭載車が止まっても、こちらの危険まで消えたわけではない。

 車両は破れた柵を押し、格納庫裏の通路へ入ろうとしていた。

小貝『格納庫側の装甲車、まだ来るぞ。整備員は通路を渡り切ったか』

八九式『最後の班が移動中です』

 勇翔が後ろを見る。

 一人の整備員が、脚を引きずっていた。転んだ時に傷めたらしい。支える男の腕には、重い工具袋が掛かっている。

勇翔「袋をこちらへ」

 返事を待たずに受け取り、通路の内側へ寄せた。

 小貝が走ってきて、反対側から整備員の肩を支える。

小貝「歩ける分だけでいい。急に踏ん張るな」

 機銃の弾が、外の壁を叩いた。

 勇翔と警備隊員が前方を押さえる間に、小貝たちは扉の内側へ入った。

 八九式へ移動完了を伝える。

小貝『通路、空いた。最後の二人も入れた』

 ハーフトラックの砲員へ、合図が届いた。

 三十七ミリ砲が、短く連続して撃った。

 荷台が揺れ、発射の光が幌のなくなった車体を照らす。

 装甲車の継ぎ足した鉄板が剥がれ、車体が通路の入口で止まった。

 勇翔は壁の角から離れず、残る人影を追った。

 降りた者へ警備隊の声が飛ぶ。

「武器を置け! その場を動くな!」

 小貝は受信機を握り、車両が止まったことを伝えた。

 荷台で次の弾薬を求める声がする。

 走り戻り、箱を両手で運んだ。

 空にいる時なら、引き金ひとつで済むことが、ここでは何人もの手を通っていた。

 砲員へ箱を渡した時、ようやく自分の息が上がっているのに気づいた。

     *

 資材置場の火が、雪を赤く照らしていた。

 砲搭載車から離れた人影が、基地と反対の方へ動く。

 そのうちの一人が振り向き、銃を上げた。

 ライカが撃つ。

 影は資材の陰へ倒れ込み、それ以上の銃火は返らなかった。

モス『敵の一部が外側へ退いています。私たちは資材置場の東端です』

 基地側の砲声が止まった。

 少し間を置いて、警備隊の返答が届く。周辺を確保しに来るという。

 ライカはマイクへ顔を寄せた。

ライカ『こちら二人、撃つ前に位置を確認しておくれ』

 返答を聞いてから、モスへ渡す。

 身を起こそうとしたところを、モスが肩で止めた。

モス「今度は、動かないでください」

ライカ「まだ、向こうにいる」

モス「警備隊が来ます。中佐は、ここで手当てを受けてください」

 ライカが前方を見る。

 基地の方から近づく足音がした。合図に応じ、警備隊員が壁の陰へ入ってくる。

 モスは負傷を伝え、周囲の警戒を引き継いだ。

 ライカの手が、ようやく銃から離れた。

 モスは清潔な布を当て直し、口元を見た。

 血で濡れた襟には触れない。ここでできることを終えたら、すぐに医務室へ連れていくつもりだった。

ライカ「……珍しいな」

モス「いつになったら本当に珍しくさせてくれるんですか?」

 ライカは少し黙った。

 手袋の甲についた血を見てから、モスへ目を戻す。

ライカ「……分かった。任せる」

 モスは短く頷いた。

 その返事を、聞き直すことはしなかった。

     *

 格納庫側では、警備隊員が車両から降りた者を囲んでいた。

 武器を置いた者は、一人ずつ別の場所へ移される。

 小貝は持ち場を離れず、まだ動く車両がないか見ていた。

八九式『格納庫側、整備員の退避を確認しました。負傷者は救護へ送っています』

マリーナ『外周も確保が進んでいます。終了の指示があるまで、警備を続けてください』

 勇翔が小銃を持ち直した。

 肩に力が入り続けていたことに、いまさら気づく。

 小貝は壁へ背を預け、息を整えた。

小貝「……飛べない夜って、長えな」

勇翔「飛べても、長いでしょう」

小貝「それでも、何を見りゃいいかは分かる」

 搬入口の向こうを、もう一度確かめる。

 機体の計器を見る時のようにはいかない。見落としていないか、見えている影が本当に味方なのか。確かめるたびに、人へ訊く必要があった。

 それでも、空いた通路の先では、整備員たちが生きて動いていた。

 運んだ箱は、砲員の足元で空になっている。

勇翔「見て、伝えてくれたじゃないですか」

小貝「お前も、戻れますなんて簡単に言いやがって」

勇翔「戻ってもらわないと、困りますから」

 小貝は鼻から息を抜いた。

小貝「違いねえ」

 受信機から、モスの声がした。

モス『中佐と帰投します。負傷していますので、そのまま医務室へ向かいます』

 勇翔は基地の入口へ目を向けた。

 しばらくして、二人が照明の下へ入ってきた。

 ライカは自分の足で歩いていた。

 モスが腕のすぐそばにつき、歩調を合わせている。

 声を聞いている間は見えなかったものが、そこで見えた。

 口の両端に当てられた布。

 赤黒く濡れた外套の襟。

 昼にもあった傷が、いまは違う形で顔に残っている。

 勇翔が口を開きかけた。

ライカ「格納庫は?」

 先に訊かれた。

 近くで聞いても、無線の声と同じだった。

勇翔「守れています。中佐は、医務室へ」

ライカ「……歳は取りたくないものだな」

 小貝が、扉までの道を空ける。

小貝「こっちは無事だ。あんたも、そうなってくれ」

 ライカの目が、小貝へ向いた。

 何か言いかけたが、モスが先に歩き出す。

モス「お話は、処置が終わってからです」

ライカ「……そうね」

 その言い方まで、声のない時と繋がった気がした。

 小貝は二人を見送り、もう一度持ち場へ戻った。

     *

 警備の交代が来た頃には、搬入口の火は小さくなっていた。

 外の雪に、踏み荒らされた跡が幾重にも残っている。

 地面へ置かれた覆布は、片側が濡れたまま凍り始めていた。

 勇翔と小貝が窓口へ戻ると、八九式は人数を確認していた。

 退避した整備員。救護へ送った者。警備を続ける班。

 名を読み、返事を聞き、札へ印をつける。

 昼に荷物を預かったのと同じ机で、いまは人の行き先が記録されていた。

マリーナ「お二人とも、怪我は」

小貝「ない。腕が、明日うるさそうだけどな」

勇翔「私もありません」

 マリーナは二人の名へ印をつけた。

マリーナ「確認しました。格納庫と機体への新たな被害も、いまのところ報告されていません。整備員の皆さんも、退避できています」

 小貝の肩が下がった。

 近くの椅子に腰を下ろすと、外套の袖から細かい雪が落ちた。

小貝「押収品は、持ってかれてないな」

マリーナ「倉庫は確保しています。残った武装者の拘束と、外周の確認は警備隊が行っています」

 八九式が、湯の入ったカップを置いた。

 小貝は両手で包み、すぐには飲まなかった。

勇翔「中佐は?」

八九式「処置を受けています。モスさんも一緒です」

 マリーナは医務室へ続く廊下を見た。

 呼出灯が点くと、すぐに机へ向き直る。

 受話器を取る指は、まだ少し強く曲がっていた。

 八九式が隣へ立ち、届いた報告を一枚ずつ揃えた。

 勇翔はカップを持ち上げた。

 試飲した茶の香りは、もう口の中には残っていない。

 ただ、温かい湯が喉を通った。

 それを飲み込んで初めて、ずっと渇いていたことが分かった。

     *

 医務室の扉が開いた。

 ライカは椅子へ座らされ、襟元の濡れた外套を脱いでいた。

 口元には処置の跡があり、血のついていない布が添えられている。

 机の脇には、モスの通信機が置かれていた。

 銃は二人とも、別の場所へ預けてある。

 勇翔と小貝が覗くと、ライカが目を上げた。

ライカ「無事そうで何より」

小貝「こっちの台詞だ」

ライカ「……見ての通りさ」

 返事をすると、そばの医療担当者に目で注意される。

 ライカは口の動きを小さくし、少し低い声で続けた。

ライカ「……回廊の確保、ありがとう」

勇翔「こちらには、警備隊がいましたから。皆さん、よく動いていました」

ライカ「それが私の……数少ない自慢の一つ」

 小貝は椅子を引き、少し離れて座った。

小貝「声、初めて聞いたぞ」

ライカ「そうだった」

小貝「誰かと思った。あの回線に、もう一人いたのかと」

 ライカがモスを見る。

 モスは通信機の記録を閉じ、顔を上げた。

モス「中佐のお声を、まだ聞いていらっしゃらなかったんです。私が呼ぶまで、分からなかったそうですよ」

ライカ「それは悪いことをした。もう少し楽に口が動けば良かったのだが」

小貝「いま言われてもなあ」

 彼女の口元が動きかける。

 モスの視線を受け、笑う代わりに肩をすくめた。

勇翔「傷が、喋りにくかったんですね」

ライカ「引き攣ってしまって。短い用なら、手の方が早かった」

モス「それで通じる相手ばかりではありません」

ライカ「はいはい」

モス「返事は、一度で結構です」

 ライカが小さく頭を下げる。

 小貝は、朝の格納庫で見た姿を思い出した。

 工具箱から手を引く時も、こんなふうに少しだけ間があった。

小貝「……悪魔も、妹には勝てねえか」

 モスの手が止まった。

 ライカは、小貝を見る。

ライカ「聞こえちゃったか」

小貝「ああ。ファム・スールって方もな。敵だけが呼んでるわけじゃないんだって?」

ライカ「そう呼ぶ者もいるよ」

 否定はしなかった。

 誇るような顔もしなかった。

 勇翔は、身じろぎせずにその顔を見た。

 昨日、空で背後を取られた時には、操縦者の姿すら見えなかった。

 今日は、同じ車両に乗った。茶葉を選ぶ間、待ってもらった。

 夜には、無線でその声を聞いた。

 分かることが増えても、この人の全てが分かったわけではない。

 通称を聞いたからといって、昼に見た仕草が消えるわけでもなかった。

 モスが記録を脇へ寄せた。

モス「呼び名のお話は、そこまでにしましょう。中佐は、今夜こそ休んでいただきます」

ライカ「損害の確認だけ──」

モス「済んでいます」

ライカ「そう」

 ライカはそれ以上、続けなかった。

 医療担当者の指示を聞き、頷く。

 小貝は立ち上がった。

小貝「じゃあ、俺たちも寝る。整備の邪魔をしない程度にな」

ライカ「それがいい。翌朝に飛べませんでは困るし」

 小貝は、弾薬箱を運んだ腕をさすった。

小貝「もう、なりかけてる」

 今度はライカも、ほんの少しだけ目を細めた。

 膝に手を置き、身体を起こしかける。

ライカ「さて、たまには本業に戻って事務でもするかな」

小貝「本業? 飛ぶ方じゃなくてか?」

 ライカの目が、二人へ向いた。

ライカ「改めてようこそ、私の庭へ」

モス「報告の取りまとめは、こちらで進めます。中佐が書類をご覧になるのは、お休みになってからです」

 ライカはモスを見た。

 隣の医療担当者も頷いている。

ライカ「……分かったよ」

 膝から手を離し、椅子の背へ戻った。

     *

 窓口の棚には、預けた紙袋が並んでいた。

 茶葉。持ち帰る菓子。

 それぞれの札に書いた名前も、そのままだった。

 八九式が、二人の足音に顔を上げた。

八九式「お荷物も無事です。まだこちらでお預かりしますね」

勇翔「ありがとうございます」

小貝「差し入れの方は、食えたか?」

八九式「少しだけ。残りは、交代した皆さんにもお渡しします」

小貝「そうしてくれ。余らせるもんじゃねえからな」

 奥でマリーナが電話を置いた。

マリーナ「北方への移動については、朝に改めてお知らせします。今夜の報告をまとめ、基地と機体の確認を終えてからです」

勇翔「了解しました」

 勇翔は茶葉の札を、もう一度見た。

 受け取りに戻るものは、ちゃんと残っていた。

 格納庫には、飛ぶための機体がある。

 その周りには、戻って作業を続ける人がいる。

 二人は窓口へ礼を言い、宿舎へ向かった。

 外では、東の空がわずかに薄くなっていた。

 基地の端で、雪を踏む足音が続いている。残った火を確かめる人。壊れた柵に仮の標識を立てる人。

 小貝は足を止めず、息を白く吐いた。

小貝「茶葉、買っといてよかったな」

勇翔「どうしてですか」

小貝「帰ったらやることが、決まってる」

 勇翔は少し笑った。

勇翔「あなたも、土産を渡さないと」

小貝「そうだよ。せっかく買ったんだ。あいつらに食わせねえとな」

 宿舎へ入ると、暖気が頬に触れた。

 勇翔は部屋へ戻り、机の端末を開いた。

 打ちかけの返信が、まだ残っていた。

 その文を消し、今夜のことを短く書く。

 基地で戦闘があった。

 小貝も自分も無事だ。

 機体も、買った茶葉も無事だった。

 戻ったら、約束どおり一緒に飲みたい。

 送信を終えると、勇翔は椅子から立った。

 廊下の向こうで、扉を三回叩く音がした。

モス「中佐。お休みになれますか」

 少し間があった。

ライカ「寝るよ。もう工具もペンも持っていない」

モス「はい。おやすみなさい」

ライカ「おやすみ、モス」

 扉の閉まる音がした。

 勇翔も端末を閉じ、明かりを落とした。

 今度は、誰の声だったのかを考える必要はなかった。




はい、皆様どうも初めての方は初めまして
それ以外の方はこんにちわかこんばんわ

素人小説書きです

今回もコラボで、イエローケーキ兵器設計局様のご協力させていただきました。

ありがとうございます。


さて、皆様

今回は実はご報告がありまして…

私素人小説書きは3か月活動を一旦停止させていただく事をここに報告いたします。

理由は、陸上自衛隊の訓練に行くためです。

というわけで、しばらくは投稿が無い事をご了承ください

あ、言っておきますがそのまま失踪という事は、ございませんので安心してください。



では…

来年会いましょう

2026年10月6日リメイク完了

ヒロイン

  • 416
  • VSK-94
  • 大鳳A
  • 蒼龍C
  • 雷電
  • スカイレイダー
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