陸自はドールズフロントライン、海自は艦これとアズールレーン、空自はアッシュアームズ三つの世界でバラバラになりながらでも生き残る 作:ゴーストライターとかした、素人小説書き
第21話 三か月のブランクはどう?
目を開けると、白い天井があった。
蓮は、しばらくそのまま天井を見ていた。
灯りが見当たらない。それなのに、部屋の隅まで明るかった。
身体を起こす。
白い壁。白い床。
窓も、換気口も、扉もない。
蓮「……驚きの白さ」
声は、ほとんど響かなかった。
首の後ろへ手をやる。古傷を掻こうとして、指が止まった。
皮膚が、滑らかだった。
蓮「嫌だねぇ。こういう部屋は」
立ち上がっても、足音がしない。
壁へ触れる前に、背後から声がした。
「誰か……」
振り向く。
さっきまで何もなかった隅に、一人の自衛官がいた。
膝を抱え、顔を伏せている。肩には、中尉の階級章。
「助けて……お願い……」
その声を、蓮は知っていた。
何度も聞いた。
耳を塞いでも、眠っても、遠い国まで逃げても、追いついてくる声だった。
蓮「……改めて見ると、辛いな」
「一人は、もう嫌だよ……」
中尉が顔を上げた。
中尉だった頃の、蓮自身の顔だった。
捕らえられた場所で、誰かを呼び続けていた自分。
忘れようとしても、眠るたびに思い出してしまう。
右手に、重みが生じる。
P226。
握っている指も、掌も、今と同じだった。
あの頃より増えた傷だけが、なかった。
「誰か、お願い、誰か――」
蓮「お静かに」
銃声が、白い部屋を満たした。
中尉の身体が、横へ崩れた。
蓮は、その顔を見下ろしていた。
蓮「よかったな。殺してくれる人がいて」
返事はなかった。
静かになったはずの部屋で、別の声が聞こえた。
「ボス」
白い壁の向こう。
「ボス、聞こえますか」
蓮は、手の中の銃を見た。
蓮「……お迎えかな」
次の銃声が聞こえる前に、肩を掴まれた。
*
VSK「ボス!」
S09基地への襲撃から、七日後。
山間にある、屋敷の近傍。
冷たい空気が、肺へ入った。
目の前に、VSKがいた。
白い天井はない。低く張られた擬装網の向こうに、黒い枝が重なっている。
背中の下には、湿った土。
蓮は、息を吐いた。
蓮「……あれ。寝てたか」
VSK「交代の時刻です。呼んでも起きなかったので」
蓮「すまん。ずいぶん、深く寝てたらしい」
浅い待機壕の中で、身体を伸ばす。
肩へ掛けられていた布が落ちた。VSKが拾い、畳む。
VSK「よく、この中で眠れますね」
蓮「泥水が入ってくる塹壕よりは、ずっといい」
立とうとして、左肩が引きつった。
蓮はすぐに動きを止め、右手を壕の縁へ掛けた。
肩の縫合跡は塞がっている。胸の痣も、薄くなっていた。
四十八時間の戦闘禁止を終え、再診を受けてから、今回の任務へ戻った。
傷を気にせず動けるところまでは、戻っていなかった。
VSK「左肩ですか」
蓮「寝てる間、少し縮こまってたらしい」
VSK「痛みが増えたら、知らせてください」
蓮「分かってる。今は、引きつっただけだ」
蓮は右手で身体を支え、壕から出た。
VSKが89式を渡す。
前の戦闘で傷ついた被筒と、切られた負い紐は、交換されていた。
ベネリM4は背へ回す。腰のP226を確かめた時、夢の中の白い床が、少しだけ視界へ戻った。
蓮は、手袋を引き直した。
VSK「……嫌な夢でしたか」
蓮「大したことじゃない」
言ってから、彼女を見る。
VSKは、答えを急かさなかった。
蓮「帰ってからにするよ。今は、寝坊した分を取り戻さないとな」
VSK「了解しました」
VSKは、壕の脇へ置いていた平たいケースを持ち上げた。
人形用の、試作防弾シールド。
この先の狭い通路を通る時に備え、基地から借りてきた装備だった。
蓮が受け取ろうとすると、VSKは持ち手を渡さなかった。
VSK「こちらは、私が運びます」
蓮「まだ、臨時指揮官のつもりか?」
VSK「指揮は返しました。負傷部位の確認は、引き続き行います」
蓮「権限、そこだけ残してるのかよ」
VSK「副官の仕事です」
蓮は言い返さず、山の下へ目を向けた。
山の下には、古い屋敷があった。
昼間の偵察では、武装した警備員が五十人以上。塀の内側を、戦闘ドローンが巡回している。
押収した保守端末と、外部交換局の接続履歴。
キングが持ち出した送金記録と、ポーン01が持ち出した契約番号。
証拠の複製を使ってAK-12たちが照合を続けた結果、同じ連絡網へ繋がる拠点として、この屋敷が浮かんだ。
レッドカンパニーに関係する武装要員と、機材の出入りも確認されている。
ただ、外を歩く警備員の徽章は、全員が同じものではなかった。別の契約で集められた者が混じっているのか、そこまでは分からない。
ただし、ここから暗殺の指示が出たとまでは、分かっていなかった。
今回の仕事は、施設の役割を確かめ、記録を回収すること。
責任者が残っていると確認できれば、身柄の確保を優先する。
屋敷の制圧を続ける必要はない。
ハルが決めた任務範囲だった。
キングたちは、引き続きS09の保護下にいた。証拠原本は本部が指定した別施設へ移され、こちらへ持ち込んだのは調査に必要な複製だけだった。
建物を占領し続ける人数は、連れてきていない。
蓮、VSK、スプリング、スコーピオン。
もう一組は、AK-12、AN-94、AK-15、RPK-16。
AK-15とRPK-16も今回の共同任務に合流し、AK-12の側で動く。
スプリングは、厨房を含む後方勤務を続けていたところへ、前線復帰の希望を出した。
スコーピオンが、その偵察と周辺警戒を支える。
臨時特別小隊の全員を、この山へ集めたわけではなかった。
八人で、入って、帰る。
そのための下見を、スコーピオンが終えているはずだった。
蓮「まずは、監視壕へ」
VSKが頷き、後ろへ付いた。
意識の奥で、声がした。
レン『……ひどい夢だね』
蓮は、足を止めなかった。
蓮(ああ)
レン『まだ、あの部屋へ戻るんだ』
蓮(勝手に戻される。お前が来たんじゃないだろうな)
レン『今日は何もしてないよ。起こしてくれたのは、VSK』
蓮は、すぐ後ろを歩く彼女を見る。
蓮(なら、今いる方を見て歩く)
レン『それがいいね』
声は、そこで静かになった。
*
屋敷の二階には、灯りの消えていない窓があった。
スプリングは、その窓を照準器越しに見ていた。
人影が横切る。
時刻を記録する。
門を巡るドローンは、さっきと同じ間隔で戻ってきた。
見えているものは、整理できている。
そう思って顔を上げた時、後ろの茂みが鳴った。
スプリング「……!」
スコーピオン「待って待って! 私、私!」
スプリングは、慌てて上げたM1903の銃口を戻した。
スプリング「スコーピオンちゃん……」
スコーピオン「帰ってきたよ。いやぁ、塀の外も結構、歩かされた」
スプリング「お疲れ様です。こちらへ」
壕の脇へ座ったスコーピオンに、水筒を渡す。
蓋へ注いだ紅茶から、細い湯気が上がった。
スコーピオン「ありがと。……ああ、温まる」
スプリング「屋敷の様子は?」
スコーピオン「表より裏の方が、機械だらけ。発電機なんか、外から丸見えでさ。隠す気がないのか、近づけないと思ってるのか――」
金属が、小さく触れ合った。
「動くな」
スコーピオンの背へ、銃口が当たっていた。
スプリングが振り向こうとする。
「お前もだ。銃を置け」
別の男が、彼女の肩越しに銃を向けていた。
足音を、聞いていなかった。
スコーピオンが戻った時の物音へ、紛れたのだろうか。
考えながら、スプリングはM1903を地面へ置いた。
男が短く呼ぶと、茂みからもう二人が出てきた。
四人。
全員、黒い装備を身に着けている。屋敷の警備員と同じ服装だった。
スコーピオン「……そこにもいたの?」
「黙れ。仲間はどこだ」
スコーピオン「知らねぇよ、バーカ」
銃口が、背を押した。
スプリングは、男の顔を見た。
スプリング「私も、お答えできません」
「二人だけで、こんな所まで来るわけがないだろう」
最初の男が、無線へ手を伸ばした。
スコーピオンの顔から、笑いが消える。
蓮「おっと。それは困るな」
男の後ろに、緑の袖が現れた。
無線を持ち上げる腕が止まる。蓮の銃剣が、男をその場へ沈ませた。
「なっ――」
スプリングへ銃を向けていた男が、振り返った。
蓮の右手が動く。
投じられた銃剣が男へ届くのと、銃が地面へ落ちるのは、ほぼ同時だった。
「緑の悪魔……!」
残った二人が、茂みへ飛び込もうとした。
その先から、抑えられた銃声が二度、聞こえた。
VSKが、木の陰から姿を見せる。
VSK「周辺に、ほかの反応はありません」
蓮は四人の位置を見てから、落ちていた無線を拾った。
呼びかけは、まだ入っていない。
蓮「間に合ったか。ナイスショット、VSK。また腕上げた?」
VSK「ボスの指導の成果です」
蓮「嬉しいこと言うねぇ。帰ったら、ビール奢っちゃうぞ」
VSK「覚えておきます。……お二人とも、お怪我は?」
スコーピオン「大丈夫。いやぁ、二人とも相変わらず、化け物みたいに強いね」
VSKの手を借り、スコーピオンが立った。
スプリングは、自分で銃を拾った。
銃床へ付いた土を拭く。指先が、いつもより硬く感じられた。
スプリング「すみません。警戒を怠りました」
蓮「三か月のブランクは、どう?」
顔を上げられなかった。
スプリング「……こんなに、鈍っているとは思いませんでした」
前線を離れた三か月の間にも、銃を扱っていた。
狙った場所へ弾を届けることは、できる。
けれど、照準器から目を離す時に何を確かめていたのか。仲間が戻った時に、どちらへ耳を向けていたのか。
さっきまで、できているつもりだった。
蓮「俺も、後ろの四人を見つけるのが遅れた。お前一人の失敗にはしない」
スプリング「でも――」
蓮「反省は、家に帰ってからもできる。今は、次に同じことをさせない方を考えよう」
蓮が、少し屈んだ。
蓮「ほら。顔、上げな」
スプリングが、ゆっくり顔を上げる。
蓮「うん。顔面偏差値一億点。せっかくの美人が、土ばっかり見てちゃ勿体ない」
VSK「ボス」
袖を、引かれた。
VSK「その間に、標的が移動します」
蓮「……はい。大変、失礼しました」
スコーピオンが、口元を押さえていた。
スプリングも、小さく息を吐く。
胸の奥の強張りは、まだ消えない。
けれど、銃を抱え直すことはできた。
*
蓮「敵の動きは?」
スプリング「屋敷の巡回は変わっていません。二階の奥に、人の出入りが集中しています」
蓮「ドローンは?」
スプリング「門と、東側の通路を巡回中です。格納庫へ戻る機体も確認しました」
蓮が、屋敷を見る。
山林の中に立つ建物としては、大きい。
古い外壁へ、新しい電線や通信設備が、無遠慮に付け足されていた。
蓮「ちび助。ほかには」
スコーピオン「誰がちび助だ!」
声を抑えて怒鳴ってから、指で屋敷の裏を示す。
スコーピオン「外の発電機は、あの倉庫の横。裏口は資材の搬入口になってる。見えた警備員の銃は古いけど、機械だけは新しい」
蓮「人も、そこから出入りする?」
スコーピオン「する。外へ車を出すより、建物の中を走り回ってる感じ」
蓮は、VSKと目を合わせた。
機材の量に対して、出入口が少ない。
巡回の一部が戻らないことに気づかれれば、警備は変わる。
待ち続けても、有利にはならなかった。
蓮『こちら01。02、聞こえるか』
AK-12『はいはい。よく聞こえているわよ』
山の北北東から、返事が届いた。
蓮『外の巡回四名と接触した。こちらに損害なし。向こうが気づく前に動きたい』
AK-12『五十人のところへ、正面から乗り込む相談?』
蓮『八人で、五十人の相手をする相談じゃない。目と、連絡手段を借りたい』
AK-12『あら。私向きの話ね』
蓮は、スコーピオンが見た機材の配置を伝えた。
AK-12は、途中から相槌を止めた。
少し間が空く。
AK-12『巡回機の制御に、こちらから干渉できるわ。ただ、ずっと止めておく保証はできない』
蓮『長居はしない。照明の電源は、こちらで止める』
AK-12『停電しても、飛んでいる機体は動くわよ』
蓮『だから、お前に頼んでる』
AK-12『……いいわ。敵の機材と通信だけを相手にする。こちらの回線が通じるうちに、入りなさい』
VSKが、待機するスプリングを見る。
スプリングは、頷いた。
蓮は、任せる場所を順に伝えた。
自分とVSKは門から。
AK-12の四人は、裏の搬入口から。
スプリングは外から進入を支え、スコーピオンが周囲を見張る。
屋敷の中で警備の中心を確認したら、そこで次の判断をする。
蓮『帰りの場所は、変更なし。通路を失った組は、無理に進まず合流する』
今回の指揮と合流の手順は、出発前に八人で合わせていた。
屋内で声しか届かなくなった時の、識別の言葉も。
桜が散る時。
希望が生まれる。
回収を担当する基地側にも、同じ組み合わせを伝えてある。
AK-15とRPK-16の同行は、この共同任務のためだった。G3、ブレン、NTW-20は基地に残り、そちらの任務を続けている。
AK-12『貸しにしておいてあげる』
蓮『帳簿、随分たまってそうだな』
AK-12『気づいた?』
通信が終わる。
山の向こうでは、AK-12が笑みを浮かべていた。
AN-94「何か、ありましたか」
AK-12「四人とも無事。こちらは、予定より少し仕事が増えたわ」
RPK-16「お給料も増えますかねぇ」
AK-15「まずは帰ってから言え」
AK-12「珍しく、同意見ね。……行くわよ」
四人が、屋敷の裏へ動いた。
AK-12は、途中で立ち止まる。
まだ、巡回ドローンが近い。
その機体が戻っていくのを、四人は茂みの中で待った。
*
塀の外へ露出していた電源設備を、VSKが処置した。
屋敷へ通じる線を確認してから、蓮が合図を送る。
発電機の音が、途切れた。
外灯が消える。
屋敷の窓も、一斉に暗くなった。
闇の中で、門の警備員が振り向いた。
「おい。何が起きた」
「また、電源か?」
二階の一角に、遅れて予備の灯りが点いた。
門の上では、ドローンがまだ浮いている。
その機体が急に傾き、塀の内側へ下がった。
ほかの機体も、巡回を外れる。
無線へ怒鳴っていた警備員が、応答のない受話器を叩いた。
スプリングは、その手が銃へ戻るのを見た。
照準器を覗き直す。
さっき、自分を助けた二人が、門の近くまで進んでいた。
スプリング『門前、二名。こちらから見えています』
蓮『任せる』
短い返事だった。
スプリングは、息を整えた。
一人目が倒れる。
もう一人が、銃を上げる。
次の射撃で、その動きも止まった。
スプリング『二名、排除』
蓮『上出来だ』
VSKが門を開け、蓮が先へ入った。
VSK『スコーピオンさん。周辺の警戒をお願いします』
スコーピオン『分かってる。今度は、ちゃんと後ろも見るよ』
スコーピオンは、スプリングのすぐ横へ残らなかった。
壕の後方を見渡せる場所へ移り、銃を抱えて座る。
スプリングが再び照準器へ目を戻した時には、背後から、小さな確認の声が届いていた。
スコーピオン「後ろ、異常なし」
スプリング「はい」
今度は、その声に安心して、周囲を忘れることはなかった。
*
「復旧は、いつだ」
司令部の机に、小さな予備灯が置かれていた。
その薄い明かりの向こうで、男が報告を待っていた。
上着の胸に、警備員たちとは違う徽章がある。
「五分は掛かると……」
「昨日も、同じことを言っていたぞ」
「今回は、故障ではありません。外の設備が、損傷しています」
男の指が、机を叩くのを止めた。
「外の巡回は」
「西側の一組が、戻っていません」
「……ドローンを出せ」
報告に来た兵士が、口を閉じた。
「どうした」
「制御が、受け付けられません。格納庫からも、異常の報告が――」
*
格納庫の天井で、銃火が弾けた。
「伏せろ!」
作業台へ身を投げた整備員の上を、破片が飛ぶ。
宙へ浮いたドローンが、棚へ機銃を向けていた。
ほかの機体は動かない。床へ降りたまま、同じ警告音を繰り返している。
「電源を切れ! そいつだけでも!」
「操作が、通らないんだよ!」
入口の警備員が、銃を上げた。
その横の暗がりから、蓮が現れる。
警備員が蓮へ振り向くより早く、89式が火を噴いた。
奥から飛び出してきた、もう一人の銃口をVSKが押さえる。
格納庫の入口は、すぐに静かになった。
蓮は中へ踏み込まず、棚を撃っているドローンを見た。
蓮『02。格納庫、一機が暴走。ほかは停止してる』
AK-12『動かせたのは、その一機だけ。長くは保たないわ』
蓮『十分だ。こっちまで撃たせるなよ』
AK-12『近づかなければ大丈夫。今のうちに、離れなさい』
格納庫の中では、整備員が作業台の陰で怒鳴り合っていた。
停電を直す者も、ドローンを戻す者も、同じ場所へ集まっている。
屋敷へ向かう通路には、誰も出てこなかった。
蓮とVSKは、その脇を抜けた。
*
「無線は」
「雑音だけです。こちらからの呼び出しにも、応答がありません」
司令部の男が立った。
「停電だけじゃない。妨害を受けている」
部下たちの顔を、順に見る。
「中央廊下を塞げ。機関銃を移せ。外にいる者を呼び戻せ」
「正門からですか」
「正門も、裏口もだ。敵が入っていないと思うな」
一人が、室内の機材を指した。
「記録は、どうします」
「持ち出せるものをまとめろ。残りは、処分の準備」
兵士たちが、部屋を出る。
男は、机の引き出しを開けた。
取り出した物を掌へ隠し、残る手で煙草を一本、抜く。
火を点ける動きは、落ち着いていた。
*
裏口から入った四人は、資材置場を抜けていた。
途中で、中央から来た伝令が警備員へ指示を出すのを聞いた。
責任者は、司令部に残る。持ち出す記録を、中央へ集めろ。
伝令は、それだけ告げて引き返していた。
暗い廊下に、煙草の先だけが見えた。
「おい。戻ってこいってよ」
「どこへだ」
「中央だ。無線が使えないから、伝令が――」
AK-12「その伝令なら、もう見たわ」
男が銃を上げようとした。
AK-12の射撃が、その動きを止める。
もう一人は、AK-15に壁へ押さえられていた。
AK-15「司令部は、どこだ」
「知るか、このクソ人形ども――」
男が、懐へ手を入れた。
AK-15がその腕を押さえる。
短い争いのあと、男は床へ崩れた。手から、拳銃が離れる。
AK-12「口が動くうちに、何か聞きたかったのだけれど」
AK-15「聞かれる気が、なかったようです」
RPK-16「代わりに、置いていってくれましたよ」
RPK-16が、倒れた男の胸から記録板を取った。
男が携帯していた、屋敷の配置図だった。
AN-94が廊下の先を警戒する間に、AK-12が目を通す。
中央棟の二階。
そこへ、司令部と書かれていた。
壁際の監視端末には、まだ電源が入っていた。AK-12は通信機材の記録と照合し、予備電源で動いているカメラの映像を一部だけ確保する。
外周と、裏棟の廊下。中央棟の内部までは映らない。
AK-12「これも、借りておきましょう」
AN-94「その間は、こちらで見ています」
端末から離れたAK-12が、配置図を折り畳んだ。
AK-12『01。奥の部屋、当たりよ。配置図と、伝令の指示が一致した』
蓮『二階の窓か』
AK-12『ええ。責任者がまだ残っている。記録も、集めているらしいわ』
配置図の写しが、蓮の端末へ届いた。
蓮『なら、優先を変える。責任者の所在は取れた。幹部を生きたまま連れて帰る』
VSKが、蓮を見た。
蓮は、通路の先へ目を向けたまま続けた。
蓮『五十人を追い回すより、何をしていた場所か知ってる奴を捕まえる。取れる記録も回収。建物を守る仕事は、向こうに任せよう』
AK-12『ようやく、帰る相談ね』
蓮『今も、ずっとしてる』
AK-12『こちらは、司令部へ集まる増援を止めるわ。ただし、いつまでもは待てない』
蓮『了解。片づいたら、呼ぶ』
通信を終えたAK-12の前で、廊下の奥に明かりが揺れた。
兵士が走ってくる。
RPK-16が姿勢を低くし、機関銃を構えた。
RPK-16「帰る前に、少しだけ残業ですね」
AK-15「右へ回る」
AN-94「左は、私が」
AK-12「……私、電子戦が専門なんだけど」
AN-94「その話は、帰ってから伺います」
AK-12の瞼が、ゆっくり開いた。
紫の瞳へ、廊下の光が映る。
AK-12「深度演算、起動」
笑みが、消えた。
AK-12「増援を、司令部へ通さない」
四人が、それぞれの位置から銃を向けた。
*
蓮は、階段の踊り場へ戻った。
頭を出した壁の角が、銃弾で削られていた。
向こうの廊下では、機関銃が二つ、こちらを向いている。
窓の外へ目を向けても、山林は見えない。
厚い内壁が、スプリングのいる方角を塞いでいた。
蓮「重機関銃まで、引っ張ってきたか」
VSK「Kordと、M2。ほかにも、軽機関銃があります」
VSKが、肩へ付いた粉塵を払った。
奥に司令部の扉が見える。
そこまでの廊下を、一人で走ることはできなかった。
蓮『スプリング。正面からは、もう支援できない。位置を変えたい』
スプリング『こちらも、屋敷の中は見えません』
蓮『門まで入れるか』
少し間が空いた。
スコーピオン『門の外、増えてない。巡回機も戻ってこない。今なら、入れるよ』
蓮『二人で、こっちへ。VSKが通った経路を送る。中央階段の下で待ってくれ』
スプリング『了解しました』
蓮は、階段の下を見る。
そこまでは、自分たちが通ってきた。
けれど、何も来ないと決めつけてはいけない。
蓮『スコーピオン。前のめりになるな。途中で変わっていたら、止まって知らせろ』
スコーピオン『分かってるって。……スプリング、行こう』
返事が途切れた。
蓮はVSKへ向き直る。
蓮「二人が来るまでに、この通路を開ける」
VSK「盾を、使うおつもりですか」
壁へ置いていたケースを、蓮が見る。
VSKが留め具を外し、透明の防護面を広げた。
盾だけでなく、後ろへ伸びる支持枠もある。
銃を支える時とは違う力が、持つ者の身体へ掛かる装備だった。
蓮「持てるか?」
VSK「はい。私が前へ出ます」
蓮は、前の戦闘を思い出した。
銃を落とし、左肩を斬られ、防火扉へ追い詰められた時。
扉の向こうにいる者を頼ると決めて、生き残った。
今日は、最初から横にいる。
蓮「……頼む。俺が、射点を押さえる」
VSK「止まれと言ったら、止まってください。私も、ボスの合図に合わせます」
蓮「二人とも帰る、だな」
VSK「はい」
煙が、廊下へ流れた。
向こうで怒鳴り声がする。
VSKは銃を負い紐へ戻し、盾を持ち上げた。
蓮は、その後ろへ入る。
左肩を引き上げすぎないよう、小銃の構えを確かめた。
普段よりも、肘の位置が低い。
その分を、立つ位置で補った。
蓮「……前進」
VSKが、一歩出る。
蓮も、同じ距離だけ進んだ。
正面から、照明が向けられた。
「いたぞ!」
「撃て!」
盾が、打たれた。
耳の近くで、金属の響きが続く。
VSKの靴が、床を滑った。
支持枠が、硬い音を立てる。
彼女は踏み直し、進む距離を短くした。
蓮「VSK、無理に進むな」
透明な面に、白い傷が増えていく。
向こうの銃口炎が、滲んだ。
透明な面は弾を止めている。
それでも、枠と、握っている腕へ伝わる衝撃は消えなかった。
一歩、進む。
次の一歩は、出さなかった。
VSK「ここで、支えます」
VSKが支持枠を床へ下ろす。
蓮は、壁際へ射線を探した。
煙の切れ目に、軽機関銃の銃口が見えた。
短く撃つ。
正面の銃火が一つ、消えた。
蓮「右、止めた」
VSK「確認しました」
「緑の悪魔だ!」
「黙って撃て! 見えてるだろうが!」
残った重機関銃が、盾へ弾を集中させる。
蓮は、89式の銃口を戻した。
左肩の縫合跡が、引きつった。
胸へ当たる装備の圧迫も、さっきより強く感じる。
小銃を抱えたまま、少し姿勢を下げる。
VSK「肩ですか」
蓮「ああ。支え続けると、まだ痛む。少し下げる」
VSK「了解しました」
彼女は、盾の位置を確かめた。
床へ重みを預けたまま、持ち手から片手を離す。
もう一方で銃を取り、二人はその内側へ身を寄せた。
蓮の意識の奥で、レンが口を開いた。
レン『左からも、来ようとしてる』
蓮(見えてる。VSKに任せる)
蓮が、左の通路をVSKへ示す。
銃口を出そうとした兵士は、彼女の射撃で引き返した。
透明な板は、もう向こうを見通せないほど傷ついていた。
このまま同じ負荷を掛け続ければ、板か、支持枠のどちらかが先に保たなくなる。
蓮は、さらに歩いて距離を詰めることを選ばなかった。
残る射点は、二つ。
銃火が切り替わる間を、二人で待つ。
片方が止まる。
そこへVSKが撃ち、次に銃口を出した相手を蓮が押さえた。
廊下の向こうで、弾帯を寄越せ、と叫ぶ声がした。
最後の重機関銃が、途切れる。
二人は、互いの位置を確かめて撃った。
重機関銃が、再び鳴ることはなかった。
別の兵士が廊下の奥へ下がる。
蓮がその動きを押さえる間に、VSKは盾を壁の陰へ寄せた。
折り畳もうとした枠が、途中で止まった。
VSKは無理に曲げず、傷んだ部分を確かめる。
留め具を外して、ケースへ戻した。
蓮「……止めてはくれたな」
VSK「無傷ではありません。連続して使える装備ではないと思います」
蓮「報告書に、そう書いといてくれ」
VSKは返事の代わりに、蓮の顔を見た。
蓮は小銃を右手へ持ち替え、左腕を下ろした。
銃を構える短い時間と、構え続ける時間では、肩へ掛かる負荷が違った。
VSK「前の戦闘から、まだ七日です。復帰の許可が出たことと、痛みがなくなったことは、同じではありません」
蓮「……俺も、戻ったつもりになってたか」
VSK「知らせてくださったので、こちらも動けました」
蓮が、口を閉じる。
廊下の奥で、何かを引きずる音がした。
司令部の扉が、内側から押さえられている。
蓮「……小隊を率いる以上、ここで止めたままにはできない」
VSK「一人で動かなければいけないとは、言われていません」
蓮は、彼女を見た。
それから、階段の下へ目を戻した。
蓮「二人を、待とう」
VSK「はい」
*
スプリングとスコーピオンは、門の内側を通った。
さっきまで、照準器の中にあった道だった。
地面に降りたドローンが、動かずにいる。
格納庫の奥からは、人の声が聞こえた。
スコーピオンが、そちらを確かめる。
スプリングは、建物へ入る前に振り向いた。
山林の監視壕は、もう見えない。
そこへ座り続けていても、奥の二人は助けられなかった。
スコーピオン「ここ。VSKが言ってた扉」
スプリング「分かりました」
廊下へ入る。
屋敷の中は、外より暖かかった。
足音が響く。暗い場所と、予備灯の届く場所が交互に続く。
スプリングは角の手前で止まり、スコーピオンを待った。
追い越した彼女が、銃を向けて先を見る。
スコーピオン「異常なし。……階段、あった」
上から、VSKの声がした。
VSK「こちらです」
踊り場へ上がると、二人がいた。
蓮は、壁へ背を預けている。
その足元には、シールドを収めたケースがあった。VSKが閉じかけていた蓋の内側に、傷だらけの透明な板が見える。
スプリング「渡邉さん、その盾……」
蓮「VSKに、仕事してもらった。俺の肩も、まだ本調子じゃなかった」
スコーピオン「盾も、肩も、帰ってから診てもらわないとね」
蓮「別々のところにな。……それより、来てくれて助かった」
VSKが蓋を閉じ、ケースの留め具を確かめた。
スプリングは、ケースの持ち手を取った。
スプリング「こちらは、私が運びます」
VSK「助かります。枠が傷んでいますので、ケースは閉じたままで」
スプリング「はい」
蓮が、司令部の扉を示した。
奥からの銃声は、止まっている。
だが、扉の向こうに何人いるのかは、まだ分からなかった。
蓮「スプリング。入る時、俺とVSKの後ろを見てほしい」
スプリング「……はい」
蓮「相手の手も。銃以外に、何を持ってるか」
スプリングが、扉を見る。
今度は、どこを見ればいいか分かっていた。
M1903を抱え直す。
スコーピオンは階段側へ目を向け、後ろを警戒した。
蓮『02。司令部前、四人揃った。これから入る』
AK-12『こちらも、四人とも無事。廊下の増援は止めているけれど、外へ回った連中までは追っていない』
蓮『追うな。こっちが終わったら、引き上げる』
AK-12『待ってるわ』
蓮は、背の89式を外し、スコーピオンへ預けた。
ベネリM4を前へ回す。
右手は、銃を支える動きへ合わせた。
いつもより、少し時間を取る。
VSKが、その間を待った。
扉を塞いでいる物が、内側で動く。
蓮は顔を上げた。
蓮「行くぞ」
スプリングはケースを廊下の壁際へ置き、M1903を構えた。
散弾銃が、二度響いた。
傷んだ扉が、枠から外れる。
VSKが先へ入り、蓮が続いた。
すぐ後ろへ、スプリングも入る。
*
煙草の匂いがした。
奥の椅子に、男が座っていた。
机の上には、書類と、持ち出すためにまとめた機材。
部屋にいた兵士たちは、もう残っていなかった。
男が、煙を吐く。
「随分、早かったな」
蓮「待たせる趣味はないんでね」
銃口を向けたまま、蓮は机の陰を見た。
男の片手が、そこへ隠れている。
VSKも、見ていた。
VSK「手を、見せてください」
「そう、慌てるな」
男が、掌の中の物を上げる。
小さなスイッチだった。
「ここへ入ってきたからには、覚悟くらい、しているだろう」
蓮の目が、部屋の端へ動く。
壁際の箱から、配線が出ていた。
窓の下にも、同じ箱がある。
「最後の一服くらい、静かにさせてもらいたかったんだが」
蓮「……部屋ごとか」
「持ち出せないものを、渡す気はない」
男が、わずかに笑った。
親指が動く。
蓮が口を開くより先に、後ろで一発、銃声がした。
男の腕が、跳ねた。
スイッチが、床へ落ちる。
「っ、ああああっ!」
VSKが、男を机から離した。
蓮は、彼のもう片方の手を押さえる。
スプリングは、銃口を下げなかった。
肩越しに見えた手。
押される前に止めなければならない指。
その先だけを、見ていた。
蓮「いい腕だ、スプリング」
言われてから、自分の呼吸の速さに気づいた。
スプリング「……正直、外したらどうしようと」
蓮「思った?」
スプリング「はい」
蓮「それでも、撃ってくれた。俺たちが見てないところを、見てた」
スプリングは、撃たれた男の手を見る。
次に、床のスイッチを見る。
誰の指も、触れていない。
蓮「もう少し、自信を持て。スプリングフィールド」
胸の奥に残っていた、監視壕での失敗が消えるわけではなかった。
それでも、自分の射撃で間に合った。
頼まれた場所を、見落とさなかった。
スプリング「……はい」
今度は、顔を上げたまま答えられた。
*
VSK「ボス、ここを離れます」
VSKは、男の負傷した腕へ手当てをしていた。
男は抵抗しようとしたが、立ち上がることもできない。
蓮が、その顔を見る。
蓮「ほかにも、爆発する仕掛けはあるか」
「……知るか」
蓮「自分も一緒に歩くんだ。今のうちに、考え直しとけ」
返事を待ち続ける余裕はなかった。
起爆装置へ誰も触れないよう距離を取り、四人は男を部屋の外へ出した。
VSKが支え、スコーピオンが後ろから見張る。
司令部には、まだ爆薬らしい箱が残っている。
押す手を止めただけで、危険がなくなったとは言えなかった。
蓮は、机へまとめられていた記録と機材を持ち出した。
全部は、持てない。
スプリングが、残る一包みを受け取った。
廊下へ戻ってから、それを背の袋へ収める。
壁際へ置いていたシールドのケースも、忘れず持ち上げた。持ち運び用の帯を肩へ回し、ケースが背中で動かない位置へ直す。
M1903を、両手で持ち直せた。
蓮『02。責任者、確保した。記録も回収。司令部に爆発物がある。近づかず、撤収する』
雑音が、返事の頭へ重なった。
AK-12『……了解。こちらは、まだ増援が来ている。今の廊下から、すぐには動けないわ』
蓮『俺とスプリングが、そっちへ合流する。VSKとスコーピオンは、捕虜を連れて先に回収地点へ』
VSKが、顔を上げた。
蓮は、先に答える。
蓮「四人を迎えたら、回収地点へ向かう。通れなければ、最後に合わせた場所へ戻る」
VSK「肩の痛みが増えたら、必ず知らせてください」
蓮「分かった」
蓮はスコーピオンから89式を受け取り、ベネリM4を背へ戻した。
スコーピオンが、基地へ連絡を入れる。
スコーピオン『こちら01。責任者の身柄を確保。回収機をお願いします。予定のLZへ、先に二名と捕虜一名が向かいます』
少し待ってから、ハルの声が返った。
ハル『了解。回収班を出す。残る六名は?』
蓮が、送話器へ顔を寄せる。
蓮『屋敷内。増援を止めている四人へ、俺とスプリングが合流する。捕虜は負傷している。受け入れも頼む』
ハル『分かった。先に着いた組は、LZの状況を送って。迎えが来るまで安全とは思わないでね』
蓮『了解』
ハル『回収班にも識別の言葉を伝える。声だけで味方だと決めつけないこと』
返事が、雑音へ溶けた。
スコーピオンは送話器を下ろし、蓮へ頷いた。
スコーピオン「手配してくれるって。……そっちも、遅れないでよ」
蓮「一番遅かった奴が、皿洗いな」
スコーピオン「捕虜運んでるこっち、不利じゃん!」
蓮「じゃ、こっちの二人でやる。行け」
スプリングが、思わず蓮を見た。
蓮「俺だけに、させないでね」
スプリング「……まず、帰らないとですね」
蓮「その通り」
VSKの口元が、僅かに緩んだ。
だが、男を立たせようとした時には、もう笑っていなかった。
支えていた腕へ、体重が掛かる。
男の頭が前へ落ちた。
VSK「意識を失っています」
呼びかけにも、答えがない。
VSKは呼吸と、手当てした腕を確かめた。スコーピオンが、男を支え直す。
蓮「運べるか」
VSK「はい。搬送を急ぎます。こちらの状況は、基地へ続けて送ります」
捕虜を連れて、撃ち合っている廊下を通る必要はなかった。
階段から門へ。そこから先は、スコーピオンが下見をした林の道になる。
蓮は、二人へ道を任せた。
VSK「ボス。ご自分の状態も、隠さないでください」
蓮「さっきは、言っただろ」
VSK「これからのお話です」
言い返そうとして、やめた。
蓮「……分かった。会ったら、また確認してくれ」
VSK「はい」
スコーピオンは銃を背へ回し、男を背負った。
VSKが足元を確かめ、先に階段を下りる。
スコーピオンは男の重さへ顔をしかめながら、それに続いた。
スコーピオン「うわ、これ、道中ずっとか……」
VSK「途中で持ち替えます。今は、足元を見てください」
声が、階下へ遠ざかっていった。
蓮は、二人の背中が見えなくなるまで待った。
それから、スプリングへ向き直る。
蓮「俺たちは、あっちだ」
北側の廊下を示す。
AK-12から送られた配置図では、渡り廊下を一つ越える。曲がり角も、いくつかあった。
外から見た屋敷の大きさより、歩かなければならない距離は長かった。
*
増援を止めている四人の前には、まだ兵士がいた。
RPK-16が撃つと、先頭の男が柱の陰へ戻る。
別の男が、廊下を横切った。
AK-15の銃口が、そちらを追った。
AK-15「まだ来る」
AK-12「司令部へは通さない。こちらから追いかける必要もないわ」
AN-94が、撃つ手を止めずに問う。
AN-94「蓮さんたちは?」
AK-12「捕縛は成功。二人がこちらへ来るそうよ」
通信機には、短い雑音が残っている。
中央棟の壁が厚い。蓮が位置を変えるたび、声の届き方も変わっていた。
AK-12「最後に伝えた廊下を保持する。見えていない場所の話は、あとで」
RPK-16「了解。もう少し、残業ですね」
四人が、持ち場へ目を戻した。
AK-12の紫の瞳は、まだ開いていた。
*
中央棟を離れると、銃声は少し遠くなった。
蓮は足を止め、左腕を下ろした。
スプリングも、止まる。
スプリング「肩ですか」
蓮「ああ。構え続けると、まだな」
掌を開き、閉じる。
指は、思った通りに動く。
それでも、左肩から胸へ残る痛みまで、同じように消せるわけではなかった。
スプリング「こちらの記録も、私へ」
蓮が肩へ掛けていた包みを、彼女が見る。
蓮「もう、盾まで背負ってるだろ」
スプリング「渡邉さんは、前を見てください。重くなったら、私も言います」
さっき、VSKへ答えたのと同じ話だった。
蓮は包みを外し、スプリングへ渡した。
彼女が袋へ収め、帯を締め直すのを待つ。
蓮「……頼む」
スプリング「はい」
M1903が、再び彼女の手へ戻った。
その手は、監視壕で銃を拾った時ほど強張っていなかった。
スプリング「私、戻ったつもりになっていたんだと思います」
蓮は、先の角を見ていた。
スプリング「撃てるから、大丈夫だと。周りを見ることも、同じようにできると」
蓮「分かったなら、次に確かめればいい」
スプリング「……はい」
蓮「俺も、七日経ったら前と同じだと思ってた。人のブランクばっかり、笑えんね」
スプリングが顔を上げる。
蓮は、少しだけ笑った。
蓮「帰ったら、練習に混ぜてくれ。肩を診てもらってからになるけど」
スプリング「もちろんです。……その時は、お茶も」
蓮「皿洗いの報酬に?」
スプリング「その前でも、お出しします」
返事をしてから、彼女は後ろへ目を向けた。
誰も来ていない。
蓮も、前を見直す。
白い部屋で聞いた声は、まだ覚えていた。
誰か、と呼び続けていた自分の声。
いまは、返事をしてくれる者が隣にいた。別の廊下には、こちらを待つ四人がいる。
銃声が、壁の向こうから聞こえた。
蓮「スプリング。後ろを任せる」
スプリング「はい。渡邉さん」
蓮は、89式を抱え直した。
二人は、まだ戦闘の続く廊下へ歩き出した。
はい、どうも素人小説書きです!
お久しぶりですねぇ~
3か月ぐらいですねぇ~
いや~久々に小説書いたので疲れましたねぇ~
次回はうまく書けるようにリハビリしてみたいですねぇ~
それではまた~
コメントやお気に入りお願いします~
2026年10月6日リメイク完了
ヒロイン
-
416
-
VSK-94
-
大鳳A
-
蒼龍C
-
雷電
-
スカイレイダー