陸自はドールズフロントライン、海自は艦これとアズールレーン、空自はアッシュアームズ三つの世界でバラバラになりながらでも生き残る   作:ゴーストライターとかした、素人小説書き

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楽しく気軽に逃げましょう


第23話 運命はまた訪れるものである…それが人ならなおの事である

第23話 運命はまた訪れるものである…それが人ならなおの事である

 森へ入ると、屋敷の銃声は木々の向こうへ遠ざかった。

 聞こえなくなったわけではない。

 ときどき短い連射が続き、それが途切れると、足元の枝を踏む音が戻ってきた。

スコーピオン「……重い」

 背に負った男を、少しだけ持ち上げ直す。

 腕を撃たれた敵指揮官は、まだ目を覚ましていなかった。巻いた布の外へ、新しい血が広がっている様子はない。

 VSKは、その腕と男の顔を順に確かめた。

VSK「少し、交代しますか」

スコーピオン「交代する前に、いったん置きたい。肩が、なんか変な形になりそう」

VSK「そこで。支えます」

 倒木の陰で、二人が足を止めた。

 VSKが頭と肩を受け、スコーピオンが膝をつく。

 男の体を、落とさず地面へ下ろした。

スコーピオン「よし」

VSK「まだ、よしではありません。腕が下に入っています」

スコーピオン「……はいはい」

 腕の位置を直すと、VSKはもう一度、男の呼吸を確かめた。

 胸が、ゆっくり上下している。

 スコーピオンは自分の肩を回した。

スコーピオン「こいつ、起きて歩いてくれないかな」

VSK「いま起きて暴れられる方が、困ります」

スコーピオン「そっか。……じゃ、寝てていいや」

 返事のない顔へ言ってから、腰の水筒へ手を伸ばした。

 その時だった。

 森の奥で、誰かが叫んだ。

 短機関銃の連射が、すぐ後に重なる。

 VSKが、手を上げた。

 スコーピオンも水筒から手を離し、倒木の下へ身を伏せる。

 こちらへ来る足音は、なかった。

 叫びは、もう一度聞こえた。

 先ほどよりも、短かった。

VSK「ここを見ていてください」

スコーピオン「了解」

 VSKは、木の間へ移った。

 斜面の下に、細い道がある。

 そこを走る兵士が、二人、見えた。

 一人が振り返って撃つ。

 もう一人は、何度も背後を見ながら走っていた。

 その後ろに、人影が続いていた。

 最初は、追っている兵士かと思った。

 だが、腕の振り方も、首の向きも、おかしかった。

 道から外れた一体が、木へ体をぶつける。

 それでも止まらず、幹の横を擦りながら進んだ。

VSK(……E.L.I.D.)

 目を、さらに奥へ向けた。

 木と木の間にも、同じ影がある。

 数えようとしたが、先頭の後ろに、また別の列が現れた。

 十や二十ではなかった。

 見えている範囲だけでも、数百に届きそうだった。

 後ろが、どこで終わっているのか分からない。

 列の奥には、周囲の頭を大きく越える影もあった。

 木の陰へ入ると、その姿は見えなくなった。

 この周辺に、汚染区域の記録はない。

 少なくとも、出撃前に確認した地図にはなかった。

 それが、いま、道を埋めていた。

「来るな! 来るなって――!」

 兵士の銃声が、途切れた。

 VSKは、そこから目を外した。

 群れの進む方角を、地図と重ねる。

 屋敷だった。

 蓮とスプリングが、まだ中にいる。

 AK-12たちも、同じ場所だ。

VSK『ボス。こちらVSK。森にE.L.I.D.の大群がいます。屋敷へ向かっています』

 受信音の間に、雑音が割り込んだ。

VSK『聞こえますか。通常の撤収経路が――』

 返事は、なかった。

 通信表示だけが、一度、点滅した。

 届いたのかどうかも、分からない。

 倒木の方で、布が擦れた。

 スコーピオンが、男を負い直そうとしていた。

 足元の枝が、折れる。

 VSKのすぐ下を通っていた一体が、顔を上げた。

 止まった。

 次の一体も、止まる。

スコーピオン「……見た?」

VSK「見ました。出ます」

 銃を上げた。

 斜面へ向かってきた先頭が、倒れる。

 後ろの一体が足を取られ、その横を回ろうとした別の影が、木へぶつかった。

 ほんの少し、列が乱れた。

 その隙に、VSKはスコーピオンの肩へ手を貸した。

 男を、背へ収める。

VSK「走れますか」

スコーピオン「走るしかないんでしょ!」

 返事を聞きながら、VSKが先へ出た。

 道へは戻らない。

 木の間を抜け、着陸地点へ向かう。

 後ろで、低い声が重なった。

 倒れた影の幾つかが、もう起き上がっていた。

スコーピオン「あと、どのくらい!」

VSK「二キロほどです」

スコーピオン「嘘でしょ!」

VSK「近道が安全かどうか、確かめる余裕はありません」

スコーピオン「そういう正しい返事、いまは要らない!」

 それでも、足は止めなかった。

 背の男がずり落ちないよう、もう一度、腕を回す。

 VSKは短く振り返った。

 こちらへ追ってきた数体の向こうで、群れの大部分は、まだ屋敷へ向かっていた。

     *

 屋敷の廊下では、眼鏡を掛けた副分隊長が、時計を見ていた。

 交戦を始めてから、三十分近い。

 もう、仲間が庭を渡るだけの時間は稼いだ。

 問題は、自分が渡れるかどうかだった。

「……給料分、働いたと思うんですけどね」

 窓へ目を向ける。

 その手前の壁に、弾が当たった。

「ああ、そうですか。まだ、帰しませんか」

 身を引き、空になった弾倉を足元へ落とす。

 柱の向こうでは、AN-94が、銃を握り直していた。

 AK-12のこめかみには、ガーゼが当てられている。

 その白い端へ、また少し、赤い液が滲んだ。

AN-94「……まだ、撃ってきますね」

AK-12「そうね」

AN-94「こちらが下がれば、追ってくるかもしれません」

AK-12「その可能性はある。でも、ここへ留まり続ける理由にはならないわ」

 AK-12は、表示を切り替えた。

 深度演算は、止めたままだ。

 手元には、最後に受けた捕縛完了の連絡と、合流予定の通路が残っている。

AK-12「目的の相手は、もう確保されてる。私たちの仕事も、ここまでよ」

AK-15「後退するか」

AK-12「ええ。蓮たちと合流して帰る」

 AN-94が、廊下の奥へ目を戻した。

 RPK-16が、その横顔を見る。

RPK-16「まだ、気になります?」

AN-94「後退の指示は、聞いています」

RPK-16「はい。銃口も聞いてくれると、助かりますね」

 AN-94の銃は、敵の隠れた柱を向いたままだった。

 AK-15が、短く言う。

AK-15「追わせなければいい。追う必要はない」

AN-94「……分かっています」

 AN-94は、ようやく半歩、下がった。

 AK-12は、彼女の肩へ指を置いた。

AK-12「私、まだ歩けるわよ」

AN-94「それと、撃たれたことは別です」

AK-12「その話は、帰ってからにしましょう」

 RPK-16が、廊下へ短く撃った。

 その間に、二人が後ろの扉へ向かう。

 副分隊長は、足音が遠ざかるのを聞いていた。

 だが、機関銃は、まだこちらを押さえている。

 逃げるなら、その銃口を伏せさせる必要があった。

「最後に、もう一仕事かよ」

 柱の陰から、手榴弾が飛んだ。

 床で跳ね、四人の方へ転がる。

RPK-16「手榴弾!」

 AN-94が、動いた。

 飛び込んだ彼女の手がそれを拾い、廊下の奥へ投げ返す。

 AK-15が、AN-94の背を引いた。

 四人が、壁の陰へ入る。

 爆発が、廊下を走った。

 窓が砕けた。

 天井で、鈍い音がした。

 銃撃のたびに粉を落としていた化粧板が、まとめて剥がれる。

 その奥の傷んだ木材も、折れた。

 廊下の一部が、埃の中へ落ちてくる。

「……うわ。そっちも落ちるのか」

 副分隊長は、肩へ降ってきた欠片を払った。

 四人の銃口は、見えなくなっていた。

 大きな板と崩れた梁が、間へ重なっている。

 いつまで塞いでくれるかは、分からない。

 それで、十分だった。

「退勤。異論は、受け付けません」

 眼鏡を押し上げ、窓へ走った。

     *

AK-12「……けほ。みんな、動ける?」

AK-15「問題ない」

RPK-16「こちらも。AN?」

AN-94「大丈夫です」

 白い埃が、髪と肩へ積もっていた。

 AN-94は、銃を確かめてから、AK-12の顔を見る。

 AK-12も、自分のガーゼへ軽く触れた。

AK-12「こっちも、増えてないわ」

 埃の向こうで、窓の割れた音がした。

 AK-15が、瓦礫の上から奥を見る。

AK-15「逃げた」

RPK-16「では、こちらも帰りましょうか」

 AK-12は、うなずきかけた。

 途中で、目が止まる。

 外周の監視映像が、一つ、更新されていた。

 停電後も残っていた予備系統の映像だ。

 暗い裏庭を、影が横切っている。

 人影が多い。

 多すぎる。

 柵のそばで数体が倒れ、その上を別の影が越えた。

 銃を持った兵士も、後ろから押されるように走っている。

AK-12「……急いだ方が、よさそうね」

AN-94「何が、見えましたか」

AK-12「E.L.I.D.。屋敷の外へ入ってきてる」

 次の映像へ切り替える。

 裏庭の奥を、周囲よりも大きな影が通った。

 低い位置のカメラでは、頭まで収まっていない。

AK-12「大型も混じってる。数も、いまの映像だけでは分からないわ」

AN-94「この付近に、汚染区域はなかったはずです」

AK-12「どうして来たのかは、あとで考える」

 蓮を呼ぶ。

 返ってきたのは、途中で切れた音声だった。

 声らしいものは入っていたが、言葉にならない。

AK-12『外にE.L.I.D.。裏庭側から入ってきてる。聞こえたら、位置を知らせて』

 応答を待ちながら、後ろの扉へ目を向けた。

 その扉の前にも、長い梁が斜めに落ちていた。

 本来使うはずだった廊下は、落ちた梁で塞がれている。

 そこを片づけている時間はない。

AK-12「別の道を使う。庭へは出ないわ」

AK-15「了解」

 AN-94は、最後に一度、瓦礫の奥を見た。

 男の姿は、もうなかった。

 銃を持ち直し、AK-12の後ろへついた。

     *

 広い場所へ出る手前で、スプリングが足を止めた。

 壁の案内板を見て、手元の図と比べる。

スプリング「ここが、中央ロビーです。その先を曲がれば、東側の廊下へ――」

 蓮の受信機が、雑音を吐いた。

 短い声が、その中へ混じる。

 森。

 大群。

 それだけが、聞き取れた。

蓮『VSK。もう一度、送ってくれ』

 返事は、途切れた。

 蓮は壁を見た。

 この場所まで来れば届くと思っていた回線も、安定しない。

蓮「外で、何かあった」

スプリング「VSKさんの声でしたか」

蓮「ああ。先を急ごう」

 ロビーの天井から、消えたシャンデリアが下がっていた。

 予備灯の細い光が、金具の端だけを照らしている。

 柱のそばには、長椅子が並んでいた。

蓮「……灯りがついてたら、さぞ立派だったろうな」

スプリング「床も、随分磨かれていますね」

蓮「足を取られないように。ケースは?」

スプリング「留め具は、大丈夫です。記録もあります」

 背の帯へ、手を当てる。

 損傷した盾のケースと、回収記録を入れた袋が、そこにある。

 先ほどから、階段や角を通るたびに、同じ確認をしていた。

 蓮は、うなずいた。

 その直後、目を上げた。

 別の廊下から、足音が来る。

 走っていた。

蓮「隠れよう」

 柱と長椅子の陰へ、二人が入る。

 スプリングは、背のケースを壁へぶつけないよう、体の向きを変えた。

 蓮は、その前へ銃を出す。

「……何で、あいつらが、ここに」

「知らないわ。先に、司令部へ――」

 男と女だった。

 制服は、先ほど会った兵士たちに似ている。

 だが、どちらも銃を持っていなかった。

 男が、何度も後ろを見る。

 女は、その腕を引きながら進んでいた。

 蓮が、スプリングを見る。

 彼女はうなずき、反対側の柱へ移った。

蓮「動くな」

 女の足が、止まる。

 腰へ伸びた手が、ナイフの柄を掴んだ。

スプリング「そちらの手も、そのまま」

 横から向けられたM1903を見て、女は、ゆっくり手を離した。

「テム……」

「落ち着いて、ロミア。いまは、言われた通りに」

 ナイフが、床へ落ちる。

 蓮は二人を柱の側へ移し、手を拘束した。

 スプリングが、通ってきた廊下と外の扉を交互に見る。

蓮「名前と、所属の班を」

テム「テム・ナイチンゲール。第一小隊、警備分隊長」

ロミア「ロミア・エルサ。……同じ、警備分隊です」

 蓮は、女の顔を見た。

 初めて会ったはずだった。

 それなのに、名前を聞いた瞬間、別の場所で同じ声を聞いたような気がした。

 思い出そうとすると、何も出てこない。

 いま、追いかける話でもなかった。

蓮「武器は」

テム「裏庭に。拾い直せる状況じゃなかった」

蓮「何から、逃げてきた」

 ロミアの目が、廊下へ向いた。

ロミア「E.L.I.D.……です」

 VSKの、切れた声が頭へ戻った。

 森。大群。

 この二人は、その群れを見ていた。

蓮「どのくらい」

テム「分からない。裏庭を通ろうとしたら、向こうから来た。巡回の班が撃ったけど、後ろから、どんどん……」

 言葉が止まった。

 スプリングが、外の扉へ目を向けていた。

スプリング「渡邉さん。窓の向こうに」

 蓮は、柱から半歩だけ出た。

 外灯の切れた庭に、影が動いている。

 窓の近くまで来ていた。

 その後ろに、肩の高い一体がいた。

 周囲の影を、頭一つどころではなく越えている。

 三メートルは、ありそうだった。

 顔が、ロビーの方へ向いた。

 低い声が、窓を震わせた。

 ロミアが、柱へ背をぶつけた。

 スプリングの指が、銃床を握り直す。

 次の瞬間、窓へ何かが当たった。

 一度ではなかった。

 扉でも、同じ音が始まる。

蓮「……ここには、長くいられんな」

テム「だから、逃げてきたんです」

蓮「分かった。スプリング、拘束を解いてくれ」

 スプリングが、蓮を見る。

 その間にも、窓が鳴った。

蓮「ここで殺し合ってる場合じゃない。そうだろう?」

 テムは、窓を見た。

 それから、蓮へ目を戻す。

テム「……ええ。あれに囲まれるのは、お互いに嫌でしょうから」

蓮「だったら、外へ出るまで、一緒に動く」

 スプリングが、二人の拘束を外した。

 テムは、手首を押さえながらロミアを見る。

 彼は、その場から動けなくなっていた。

 窓の亀裂を、じっと見ている。

ロミア「また……来る」

蓮「ロミア」

 返事が、なかった。

蓮「ロミア。こっちを見ろ」

 男の目が、ようやく動く。

蓮「俺の背中の銃。外して、持ってくれ」

ロミア「銃……?」

蓮「ああ。落とさず持つ。まず、それだけでいい」

 ロミアが、ベネリM4の負い革へ手を伸ばした。

 一度、指が滑る。

 蓮は肩の位置を低くし、彼が受け取るのを待った。

 銃が、背中から離れた。

 続けて、ポーチに残る散弾を渡す。

 十五発ほどあった。

蓮「予備の弾だ。これも、持っていく」

 ロミアは、言われた通りポケットへ入れた。

 少なくとも、いまは両手が仕事をしていた。

蓮「スプリング。彼と前へ。東側の通路が通れるか、見てくれ」

スプリング「はい。渡邉さんは?」

蓮「少し、ここを押さえる。通れる場所が見つかったら、声を」

 スプリングの目が、左肩へ向いた。

 蓮は、先に言った。

蓮「痛みはある。銃は使えるが、長くはやらない」

スプリング「……分かりました。呼んだら、来てください」

蓮「行くよ」

 スプリングは、ロミアへ顔を向けた。

スプリング「私の後ろへ。角では、勝手に先へ出ないでください」

ロミア「は、はい」

 背のケースを柱から離し、彼女が歩き出した。

 ロミアも、その後ろへ続く。

 蓮は、腰のP226を外した。

 予備の弾倉と一緒に、テムへ渡す。

蓮「こちらは、俺と殿だ。拳銃は?」

テム「使えます」

 短い返事の後、手元を確かめる。

 指の動きに、迷いはなかった。

蓮「随分、慣れてるな」

テム「訓練は、していましたから」

蓮「いいね。無事に帰ったら、ヘッドハンティングでも――」

テム「それは、帰ってから聞きます」

 窓が、割れた。

 蓮は、言葉を切った。

 林の中で投げ、拾い直して鞘へ戻していた銃剣を抜く。

 89式小銃へ着けた。

 扉の留め具が、引き抜かれるような音を立てる。

 柱の陰で、二人が銃を上げた。

     *

 最初に入ってきた一体が、ガラスの上へ倒れた。

 蓮の射撃だった。

 その脇から、次の影が出る。

 テムが撃った。

 一体を止めても、窓の外には、まだ次がいた。

 扉が、内側へ傾く。

 床へ当たった音の後、幾つもの足が、ロビーへ入ってきた。

蓮「もう少し下がるぞ」

テム「はい」

 柱を、一本、後ろへ移る。

 蓮は、左肩を壁へぶつけないようにした。

 胸の奥へ、鈍い痛みが来る。

 息を吐いて、銃を上げ直す。

 すぐ近くまで来た影へ、銃剣を突き出した。

 大きく振り回す余裕はなかった。

 相手の体がずれたところへ、テムの銃声が重なる。

 影が床へ落ちた。

 蓮は、その後ろへ身を引く。

テム「肩が」

蓮「さっきから、文句は聞いてる」

 言いながら、壁に背をつけた。

 テムは、返事をせず、次の一体へ銃を向けた。

 彼女は、銃声のたびに同じ場所へ留まらなかった。

 少しだけ位置をずらし、蓮が撃つ間に下がる。

 蓮も、彼女が下がる間を受け持った。

 見ず知らずの相手だった。

 それでも、いま何をするべきかは、互いに分かった。

 スプリングの声が、奥から来た。

スプリング「こちらは通れます! 渡邉さん、来てください!」

蓮「行く。テム、後退だ」

 最後に短く撃ち、蓮は廊下へ身を入れた。

 テムが、続く。

 ロビーの床を、足音が追ってきた。

 同じ時、庭から低い声が響いた。

 蓮は、廊下の入口で足を止めた。

 振り返ると、倒れた扉の向こうへ、あの大型が出てきていた。

 庭の通路に立っている。

 その高さなら、扉の枠も、肩で崩せそうだった。

テム「止まっていたら、追いつかれます」

蓮「分かってる。横のやつを、頼む」

 蓮は、壁の出っ張りへ銃を支えた。

 肩だけで、抱え続けるのをやめる。

 庭の外灯の柱と、扉の枠の間に、頭が見えた。

 撃った。

 大型の上体が、揺れる。

 もう一度、撃つ。

 身を屈めたように、頭が下がった。

 窓の向こうで、地面へ何かが落ちる音がした。

 だが、前の群れは止まらなかった。

テム「倒れたんですか」

蓮「確かめに行く気はない。行こう」

 銃を支えから離した。

 左腕の感覚が、一瞬だけ遅れる。

 右手へ重さを移し、走り出す。

 テムが、すぐ横へ来た。

テム「それで、まだ走るんですね」

蓮「そっちも、ついてきてるだろ」

 奥で、スプリングの銃声がした。

 まだ、出口へ着いたわけではなかった。

 蓮は歩幅を上げた。

 背中へ聞こえてくる足音は、減っていなかった。

     *

 着陸地点の端で、VSKが銃を下げた。

 追ってきた最後の一体が、草の中へ倒れている。

 ほかの影は、いまは見えなかった。

VSK「こちらへ。長くは、止まれません」

スコーピオン「……やっと、着いた」

 声だけで、肩の力を抜いた。

 体は、まだ男を支えている。

 VSKが手を貸し、地面へ広げた布の上へ下ろした。

 背中が空になると、スコーピオンは膝へ手をついた。

スコーピオン「いまなら、誰を背負っても軽く感じそう」

VSK「次は、担架で運べます」

スコーピオン「次がある言い方、やめて」

 VSKは、男の腕の布を確かめた。

 呼吸は続いていた。

 頭の位置を直し、顔へ掛かっていた襟を外す。

 それから、受信機へ目を向けた。

 蓮の呼出符号は、返事をしていない。

 スコーピオンが、屋敷の方を見る。

スコーピオン「……気になる?」

VSK「はい」

スコーピオン「ボス、ああ見えて、しぶといよ」

VSK「知っています」

 前の襲撃でも、そうだった。

 大丈夫だと言い、そのまま行ってしまう。

 戻ってきた時には、血が出ていた。

 今回も大丈夫だと、返事を聞く前から決めておくことはできなかった。

VSK「でも、しぶといことと、迎えが要らないことは別です」

 スコーピオンは、何も言わなかった。

 遠くで、ローターの音がした。

 VSKが、顔を上げる。

 木々の上に、機影が現れた。

 ブラックホークだった。

 着陸地点の確認灯を出し、二人は男のそばへ戻る。

 風が、草を伏せた。

 スコーピオンが、布の端を足で押さえる。

 機体が降り、扉が開いた。

 最初に、416が下りてきた。

416「桜が散る時」

VSK「希望が生まれる」

 返事を聞くと、416は二人と、その間の男を見た。

 続いて、89式が地面へ下りる。

 彼女も、周囲へ目を向けた。

 VSKは、短く報告した。

VSK「捕虜は確保しています。腕の負傷と、意識喪失。呼吸はあります。森でE.L.I.D.の大群と接触しました」

416「E.L.I.D.?」

VSK「出現元は、分かりません。大部分が、屋敷へ向かっています」

 416の視線が、森へ向いた。

 ヘリの音に隠れて、屋敷の銃声は聞こえなかった。

416「数は」

VSK「数百以上。木の向こうにも続いていました。正確には、数えられません」

416「中の六人は?」

VSK「最後に確認したのは、蓮さんとスプリングがAK-12たちへ向かった時です。その後は、通信が途切れていて……警告が届いたかどうかも、分かりません」

 言い終えると、VSKは一度、口を閉じた。

 分かっていることは、そこまでだった。

 416は、男のそばへ膝をつく。

 機内の搭乗員を呼び、担架を下ろしてもらった。

416「先に、この人を乗せる。負傷箇所と、止血した時刻を伝えて」

VSK「はい」

スコーピオン「よし。もう、背負わなくていいんだね」

 担架の端を持った。

 VSKも反対側へつき、男を移す。

 機内へ収めると、搭乗員が呼吸と腕を確認した。

 捕虜の拘束は残したまま、傷へ触れていた部分だけを直す。

 スコーピオンは、それを見届けてから外へ下りた。

スコーピオン「……軽い。肩が、自分のものに戻った」

416「その肩で、次は補給を運んで」

スコーピオン「ほら、次がある」

 89式が、機内から弾薬の袋を渡した。

89式「こっちは、弾薬です。持てる分を、分けましょう」

スコーピオン「はいはい。今度は、文句言わない荷物だし」

416「時間は?」

89式「地上回収班との合流予定まで、三十分ほどです。現在位置は、更新を待っています」

 416は、受信機を取った。

416『S09。こちら救援班。捕虜は機内へ収容。屋敷周辺にE.L.I.D.の大群を確認しました。残る六名の現在位置は未確認。予定の陸路回収へ切り替えます』

 機内の中継を通して、ハルの声が返った。

ハル『了解。地上回収班は、すでに向かっています。指定地点の状況が変わったら、早めに知らせて。無理に同じ場所へ集めなくていいから』

416『了解。私と89式、VSK、スコーピオンの四名で、屋敷内の班と合流します』

ハル『分かった。捕虜の受入準備はこちらで行う。……六人の確認を、頼むね』

 416は、短く返事をした。

 受信機を戻す。

 89式が、彼女の隣へ来た。

89式「蓮さんたちは、どこから出るでしょうか」

416「勝手に当てて、行き違うのは避けたいわね」

 VSKへ目を向ける。

416「最後の位置と、そこまで使った道を教えて」

VSK「はい。私たちは門から。AK-12たちは、裏の搬入口から入りました。捕縛地点から、お二人は北側の廊下へ向かいました。AK-12たちとの合流予定です」

 地図を開いた。

 VSKの指が、通ってきた場所を辿る。

 416は、屋敷の中央で指が止まるのを見た。

 蓮は、四人を残して帰るつもりがない。

 前の任務でも、そうだった。

 だからといって、その先まで見えるわけではない。

416「そこから先は、行って確かめる。通信も、呼び続けて」

89式「了解です」

 機内の補給を、四人へ分けた。

 VSKは、対戦車ロケットのパックにも手を伸ばす。

 パンツァーファウスト3だった。

 その脇には、破障用の小さな装備包が置かれている。

スコーピオン「……それも?」

VSK「群れの中に、大きな影が見えました。銃だけで道を開けられるとは、限りません」

 416が、手元を見た。

416「じゃあ、弾薬の一部はこっちへ。持ったまま動けなくなるのは、困る」

VSK「……分かりました」

 スコーピオンが、VSKの袋から予備弾薬を受け取った。

 89式も、装備包の一つを自分の鞄へ収める。

 四人は、肩の帯と銃の位置を確かめた。

 416は、機内の男へ最後に目を向けた。

 男は、まだ目を閉じていた。

 搭乗員が、その隣についている。

416「搬送を、お願いします。容体が変わったら、すぐS09へ」

「了解。そちらも、連絡を切らさないでください」

 416が、うなずいた。

 扉が閉まる。

 四人が機体から離れると、ローターの音が変わった。

 ブラックホークが浮き上がる。

 森の上へ出て、S09の方へ向きを変えた。

 捕虜は、帰っていく。

 屋敷に残った仲間は、まだ帰れていなかった。

 VSKが、その屋敷へ体を向けた。

VSK「行きましょう」

 416も、銃を持ち直した。

416「ええ。……あの暴走列車を、迎えに行くわよ」

89式「列車、ですか」

416「一人で終点まで走らせると、ろくなことにならないから」

スコーピオン「じゃ、途中で捕まえて、みんなで帰ろう」

 返事の代わりに、416が先へ出た。

 VSKが、入ってきた道を示す。

 89式とスコーピオンが、後ろへ続いた。

 ローターの音が、遠ざかっていく。

 その向こうから、屋敷の銃声が、また聞こえ始めた。

 四人は、そちらへ足を速めた。

 




ハァイ…

どうも素人小説書きです

かなり長く空いてしまいましたね

申し訳ないっす…

出来るだけ早く投稿したいですが中々暇がないです…

次回もできるだけ早く出しますが…

出来たら首を長ーーーーーーーーーーーーーーーーーーく待ってくれると嬉しいです!

2026年10月6日リメイク完了






お気に入りコメントよろしくお願いします

ヒロイン

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